(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363560
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】パイプの曲げ方法及び曲げ装置
(51)【国際特許分類】
B21D 7/024 20060101AFI20180712BHJP
【FI】
B21D7/024 G
B21D7/024 A
B21D7/024 M
B21D7/024 S
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-118775(P2015-118775)
(22)【出願日】2015年6月12日
(65)【公開番号】特開2017-1066(P2017-1066A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年4月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094547
【弁理士】
【氏名又は名称】岩根 正敏
(72)【発明者】
【氏名】蘭 光平
【審査官】
塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭55−126322(JP,A)
【文献】
特開平7−314049(JP,A)
【文献】
特開2011−251331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 7/00−9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持装置でパイプの一部を挟持した状態で、周縁に溝が刻設された一対の曲げロールでパイプの他の部分を挟持し、上記一対の曲げロールのいずれか一方の曲げロールの周りで他方の曲げロールを相対的に公転させることによりパイプを曲げる方法において、上記一対の曲げロールが共通の移動可能な枠体に保持され、上記相対的な公転を、上記枠体を回動させる回動運動と、上記枠体を上記パイプの長手方向(X軸方向)に対して直角方向(Y軸方向)に移動させる横方向運動とを同期させた同期運動で実現し、この際、上記Y軸方向の移動が、当該一方の曲げロールの中心軸のY軸方向の位置を保持するような枠体のY軸方向の移動であり、且つ上記回動運動の回動中心点のX軸方向の位置が変わらないことを特徴とする、パイプの曲げ方法。
【請求項2】
上記把持装置が送り装置を備え、上記同期運動の際、上記枠体の回動角θ(弧度法)に当該一方の曲げロールの半径Rを乗じた長さから上記半径Rに該回動角の正弦値sinθを乗じた長さを減じた長さ〔R(θ―sinθ)〕だけ、パイプを上記送り装置が送ることを特徴とする、請求項1に記載のパイプの曲げ方法。
【請求項3】
パイプを右方向又は左方向に曲げる曲げ工程の後に、上記一対の曲げロールの一方又は両方を開いて、上記枠体を回動させる回動運動と上記枠体をY軸方向に移動させる横方向運動により、上記枠体を所望の回動角の位置に設定する回動角調整工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載のパイプの曲げ方法。
【請求項4】
パイプを右方向又は左方向に所望の角度だけ曲げる曲げ工程と、当該曲げ工程の後にパイプを所望の長さだけ送る送り工程とを所望の順序で繰り返すことを特徴とする、請求項3に記載のパイプの曲げ方法。
【請求項5】
上記送り装置を備える把持装置が、パイプをそれの軸心周りに回転させる回転装置をさらに備え、パイプを右方向又は左方向に曲げる曲げ工程の後に、回動角調整工程を用いて両曲げロールの中心軸を結ぶ線の方向が上記Y軸方向になるように上記枠体の回動角とY軸方向の位置を調整し、さらに上記回転装置を用いてパイプをそれの軸心周りに回転させる回転工程とを、所望の順序で繰り返すことを特徴とする、請求項3に記載のパイプの曲げ方法。
【請求項6】
パイプの一部を挟持する把持装置と、パイプの他の部分を挟持するように円周方向に溝が刻設された一対の曲げロールとを備え、上記一対の曲げロールのいずれか一方の曲げロールの周りで他方の曲げロールを相対的に公転させることによりパイプを曲げる装置において、上記一対の曲げロールの各中心軸を保持する枠体と、上記パイプの長手方向(X軸方向)に対して直角方向(Y軸方向)に移動できる枠体移動装置と、該枠体移動装置に対して上記枠体を回動させる枠体回動装置とを備え、上記枠体移動装置が上記回動運動の回動中心点のX軸方向の位置を保ちながら上記枠体を回動させ、且つ一方の曲げロールの中心軸のY軸方向の位置を変えないように枠体をY軸方向に移動させ、上記枠体の回動角と上記枠体の横方向運動の量を同期して与えられたプログラムに従って制御する制御部とをさらに備えることを特徴とする、パイプの曲げ装置。
【請求項7】
上記把持装置が送り装置と、パイプの軸心周りにパイプを回転させる回転装置を備えることと、上記制御部が、上記送り装置による送り量と上記回転装置による回転量をも制御することを特徴とする、請求項6に記載のパイプを曲げ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプを左右方向、或いは左右上下方向に立体的に引き続いて曲げる方法及び曲げる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パイプの曲げ加工装置としては、パイプを挟持する挟持手段と、該挟持手段によって挟持されたパイプの自由端側でパイプを曲げる一対の曲げ型とを備え、一方の曲げ型を中心にして他方の曲げ型を公転させることによって、パイプを曲げ加工するものがある(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
特許文献1に開示されたパイプの曲げ加工装置は、パイプを挟持する挟持手段と、該挟持手段によって挟持されたパイプの自由端側でパイプを曲げる一対の曲げ型とを備え、一方の曲げ型の中心軸を中心にして他方の曲げ型を公転させることによって、パイプを曲げ加工する装置において、曲げようとする方向に応じて曲げ型の一方を固定し他方を公転させるために、一方の曲げ型の中心軸に合わせるように駆動モータを移動させてそれぞれの曲げ型を回転駆動するように構成されている。この場合、駆動モータを、一対の曲げ型の間において移動させる機構が必要であるという問題点がある。
【0004】
特許文献2に開示されたパイプの曲げ加工装置は、曲げ型の一方の曲げ型を中心として他方の曲げ型を公転させて曲げ加工する曲げ加工機において、駆動モータとその曲げ型の間に間歇歯車機構を介在させ、それを正転させるか逆転させるかによって、一対の曲げ型のいずれかの曲げ型を中心として公転させ、パイプを左右方向に曲げることができるように構成されている。この場合には、駆動モータと一対の曲げ型の間に介在させる間歇歯車機構の構成が、複雑となるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−30266号公報
【特許文献2】特開2014−94393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図9は、従来技術によるこの種の装置の一対の曲げロールの一例を示した概念的な平面図である。把持装置101が、パイプWの一端を固定し、他端は一対の略円筒形の曲げロール102,103に挟持されている。
図9の実線の状態では、曲げロール102と103のそれぞれの中心軸102aと103aは、パイプWの長手方向に対して垂直な方向に位置している。
【0007】
図9の従来技術によるとき、一対の曲げロール102,103がパイプWを挟持した状態で、一方の曲げロールの中心軸102a又は103aを中心として、他方の曲げロール103又は102をその周りで公転させる。例えば、
図9に示したように、パイプWを右に(5/12)・π(=75度)だけ曲げる場合には、曲げロール103を実線で示した位置から、曲げロール102の中心軸102aを中心として破線で示した曲げロール103の位置まで(5/12)・π(=75度)公転させる。
【0008】
図9の場合、一対の曲げロール102,103の回転中心点は、曲げロール102の中心軸102aにあるので、右方向にしか曲げられないという問題点がある。左右両方向に曲げることを可能にするためには、駆動モータを曲げロール102と103にそれぞれに設けたり、特許文献1に開示されているように一つの駆動モータを移動させる機構を設けたり、或いは特許文献2に開示されているように一つの駆動モータの動力を間歇歯車機構を介して各曲げロールに伝達したりすることが必要となる。しかし、このような構成とする場合、それぞれ上記した問題点がある。これらの例から分かるように、把持装置でパイプの一部を挟持した状態で、一方の曲げロールの周りで他方の曲げロールを相対的に公転させることにより、パイプを曲げる方法或いは曲げる装置においては、左右いずれかの方向に曲げた後、引き続いて反対の方向に曲げることを一つの駆動モータで実現することは、容易なことではない。
【0009】
本発明は、上述した背景技術が有する問題点に鑑みなされたものであって、把持装置でパイプを挟持した状態で、一対の略円筒形の曲げロールを用い、いずれか一方の曲げロールの周りで他方の曲げロールを相対的に公転させることによりパイプを曲げる方法において、左右いずれかの方向にパイプを曲げた後、引き続いて反対の方向にも曲げることを、一つの駆動モータの動力で、且つ比較的簡単に実現できる方法を提案することを第1の課題とし、その方法を実現する装置を提案することを第2の課題とする。また、さらに引き続いて上下方向にも曲げることを可能とする方法を提案することを第3の課題とし、さらにその方法を実現する装置を提案することを第4の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するため、本発明は、次の(1)〜(7)に記載したパイプの曲げ方法及び曲げ装置とした。
(1)把持装置でパイプの一部を挟持した状態で、周縁に溝が刻設された一対の曲げロールでパイプの他の部分を挟持し、上記一対の曲げロールのいずれか一方の曲げロールの周りで他方の曲げロールを相対的に公転させることによりパイプを曲げる方法において、両曲げロールが共通の移動可能な枠体に保持され、上記相対的な公転を、上記枠体を回動させる回動運動と、上記枠体を上記パイプの長手方向(X軸方向)に対して直角方向(Y軸方向)に移動させる横方向運動とを同期させた同期運動で実現し、この際、上記Y軸方向の移動が、当該一方の曲げロールの中心軸のY軸方向の位置を保持するような枠体のY軸方向の移動であり、且つ上記回動運動の回動中心点のX軸方向の位置が変わらないことを特徴とする、パイプの曲げ方法。
(2)上記把持装置が送り装置を備え、上記同期運動の際、上記枠体の回動角θ(弧度法)に当該一方の曲げロールの半径Rを乗じた長さから上記半径Rに該回動角の正弦値sinθを乗じた長さを減じた長さ〔R(θ―sinθ)〕だけ、パイプを上記送り装置が送ることを特徴とする、上記(1)に記載のパイプの曲げ方法。
(3)パイプを右方向又は左方向に曲げる曲げ工程の後に、上記一対の曲げロールの一方又は両方を開いて、上記枠体を回動させる回動運動と上記枠体をY軸方向に移動させる横方向運動により、上記枠体を所望の回動角の位置に設定する回動角調整工程を含むことを特徴とする、上記(1)に記載のパイプの曲げ方法。
(4)パイプを右方向又は左方向に所望の角度だけ曲げる曲げ工程と、当該曲げ工程の後にパイプを所望の長さだけ送る送り工程とを所望の順序で繰り返すことを特徴とする、上記(3)に記載のパイプの曲げ方法。
(5)上記送り装置を備える把持装置が、パイプをそれの軸心周りに回転させる回転装置をさらに備え、パイプを右方向又は左方向に曲げる曲げ工程の後に、回動角調整工程を用いて両曲げロールの中心軸を結ぶ線の方向が上記Y軸方向になるように上記枠体の回動角とY軸方向の位置を調整し、さらに上記回転装置を用いてパイプをそれの軸心周りに回転させる回転工程とを、所望の順序で繰り返すことを特徴とする、上記(3)に記載のパイプの曲げ方法。
(6)パイプの一部を挟持する把持装置と、パイプの他の部分を挟持するように円周方向に溝が刻設された一対の曲げロールとを備え、上記曲げロールの一方の曲げロールの周りで他方の曲げロールを相対的に公転させることによりパイプを曲げる装置において、上記一対の曲げロールの各中心軸を保持する枠体と、上記パイプの長手方向(X軸方向)に対して直角方向(Y軸方向)に移動できる枠体移動装置と、該枠体移動装置に対して上記枠体を回動させる枠体回動装置とを備え、上記枠体移動装置が上記回動運動の回動中心点のX軸方向の位置を保ちながら上記枠体を回動させ、且つ一方の曲げロールの中心軸のY軸方向の位置を変えないように枠体をY軸方向に移動させ、上記枠体の回動角と上記枠体の横方向運動の量を同期して与えられたプログラムに従って制御する制御部とをさらに備えることを特徴とする、パイプの曲げ装置。
(7)上記把持装置が送り装置と、パイプの軸心周りにパイプを回転させる回転装置を備えることと、上記制御部が上記送り装置による送り量と上記回転装置による回転量をも制御することを特徴とする、上記(6)に記載のパイプを曲げ装置。
【発明の効果】
【0011】
上記した本発明に係るパイプの曲げ方法及び曲げ装置によれば、左右方向に引き続いてパイプを曲げること、更には上下方向にも引き続いてパイプを曲げることが、単一の駆動モータを用い、且つ比較的簡単な構造で実現することができる。それに従って、製造コスト、維持コストも廉価になる。また、左右上下に引き続いて曲げることができるので、これまで曲げ加工では不可能或いは困難であった形状も曲げ加工で実現することができる。さらに、コンピュータ制御で右曲げ、左曲げ、パイプの送り、曲げロールの位置制御、上曲げ、下曲げ等の個別の工程の制御をサブルーチン化しておくことにより、加工の段取りが簡単に且つ短時間ででき、また段取りの変更も簡単に且つ短時間できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るパイプの曲げ方法を実施する装置の一例の概念的な側面図である。
【
図3】
図1の装置における一対の曲げロールの概念的な構成図である。
【
図4】一対の曲げロールの回動だけを行い、一対の曲げロールのY軸方向の移動を行わない仮想的な場合であり、一対の曲げロールの回動角と一対の曲げロールのY軸方向移動量と、パイプの送り量をどのように連動して制御するかを説明するための説明図である。
【
図5】本発明に従い一対の曲げロールの回動とY軸方向の移動を同期して行う場合であり、一対の曲げロールの回動角と一対の曲げロールのY軸方向移動量と、パイプの送り量をどのように連動して制御するかを説明するための説明図である。
【
図6】パイプを右に曲げる工程を模式的に示した図である。
【
図7】パイプを右に曲げた後に左に曲げる工程の一部を模式的に示した図である。
【
図8】パイプを左に曲げる工程の一部を模式的に示した図である。
【
図9】従来技術による曲げ加工装置の一対の曲げロールの一例の概念的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るパイプの曲げ方法及び曲げ装置の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係る方法及び装置においては、パイプは把持装置によって、把持され、送られ、回転させられる。このため把持装置は開閉可能であり、開いた状態でパイプを着脱し、閉じた状態でパイプに曲げ加工等を施す。また、送り装置によってパイプをそれの長手方向に送る。さらに回転装置によってパイプを軸心周りに回転させることもある。
なお、本実施形態における把持装置の開閉機構、送り装置の送り機構、回転装置の回転機構の具体的構成は、当業者には公知の技術であり、またこの明細書によって設計でき、さらにそれは本発明の本質ではないので、それらの具体的な構成の説明は省略する。
【0015】
図1から
図3に、本発明に係る方法を実施する装置の一実施形態が概念的に示されている。この装置1は、パイプWを把持する把持装置2、回転装置3、送り装置4を備えている。
図1,2は、それらの配置等を示したものではなく、種々の変形が可能である。すなわち、この配置は発明の技術的範囲を限定するものではなく、パイプを把持でき、送ることができ、且つ回転できる装置の配置であれば良い。そのように設計することは、この業界の技術者の日常的設計行為の範疇に属する。
【0016】
図1,2に示すように、パイプWはその一部、例えばその一端近傍を把持装置2に把持され、他の部分、例えばそれの他端近傍を一対の曲げロール5によって挟持されている。一対の曲げロールは第1のロール6と第2のロール7とからなり、第1と第2のロール6,7は枠体8に取り付けられている。把持装置2と第1と第2のロール6,7の中間の位置において、パイプWを保持する中間保持装置9が設けられている。
【0017】
図3は、パイプWが第1と第2のロール6,7のそれぞれの溝6b,7bに挟持されている状態を示す。すなわち第1と第2のロール6,7が閉じられている状態を示す。第1と第2のロール6,7は、それらの間にパイプWを着脱するために開かれる必要があり、そのための曲げロール開閉機構を備える。曲げロール開閉機構は、通常行われているようにそれらの中心軸6aと7aの平行性を保ちながら中心軸6aと7aの距離を変化させることにより実現できる。しかし、別の方式、例えば特許文献1に開示されているような方式で曲げロール開閉機構を実現することもできる。どのような方式の開閉機構を採用するかは、当業者の日常的設計行為の範疇に属する。曲げロール6,7は、上記ロール開閉機構を介して枠対8に取り付けられている。
【0018】
枠体8は、
図1,2に示すように、パイプWの長手方向(以下、X軸方向という場合もある)に直角方向(以下、Y軸方向という場合もある)で往復運動をする枠体移動装置10の上に据えられており、さらに枠体8は枠体移動装置10に対して回動可能に構成されている。すなわち、Y軸方向に延在するY軸ガイド11に沿って枠体移動装置10が移動し、該枠体移動装置10に対して枠体8が回動する。枠体移動装置10に対して枠体8を回動させるために、枠体移動装置10と枠体8の間に枠体回動装置12が配置されている。枠体8の回動の中心は、一対の曲げロール6,7が接する点Oとすることが好ましい。しかし、それらの中心軸6a,7aを結ぶ線上の点、或いは枠体8上の他の点であってもよいが、その場合は制御の計算式は少し面倒になる。なお、曲げロール6,7が接する点Oとは、必ずしも曲げロール6,7同士が接しているとは限らず、パイプWを挟持する点であり、間接的に接している場合も含む。
【0019】
本発明においては、枠体移動装置10の往復運動の移動量と、枠体回動装置12による回動運動の回動角と、送り装置4によるパイプWの送り量とは、以下に説明するように連動しており、これらは図示しない制御部によって制御される。その制御について、以下に
図4と
図5を用いて説明する
【0020】
図4の実線は、曲げロール6と7のそれぞれの中心軸6aと7aとが、パイプWの長手方向(X軸方向)に対して直角の方向(Y軸方向)を向くように位置している状態で、パイプWを挟持している一対の曲げロール6,7を概念的に示している。この状態では、パイプWは曲げロール6,7の共通接線となっている。以下において説明を明確にするために、X軸の正方向を把持装置2から曲げロール6,7に向かう方向とし、Y軸の正方向を
図4の実線の中心軸6aから中心軸7aに向かう方向であると定義する。また曲げロール6,7の半径をRとする。
【0021】
図4の破線は、上記中心軸6aと7aを結ぶ線上の曲げロール6と7が接する点Oの位置を固定した状態で、パイプWを挟持したまま、一対の曲げロール6,7を角度θ(弧度法)だけ点Oを中心として回動させた仮想的状態を示している。この場合、曲げロール6の中心軸6aは
図4のA点に移動している。点Oの周りで角度θの回動による中心軸6aの位置の移動量は、X方向成分とY方向成分に分けて分析することができる。中心軸6aの位置変化のX方向成分ΔX、Y方向成分ΔYは、それぞれ次の通りである。
ΔX=Rsinθ
ΔY=R(1−cosθ)
【0022】
本実施形態においては、回動中心点OのX軸方向の位置は固定した状態で枠体8を枠体回動装置12により回動させることにより、回動中心点Oの周りで一対の曲げロール6,7を回動させる。その回動中心点Oは、
図5の実線の配置では、上記中心軸6aと7aを結ぶ線上の曲げロール6と7が接する点である。この回動運動と同時に、一対の曲げロール6,7をY軸の正の方向に移動させる。この一対の曲げロール6,7の移動は、曲げロール6の中心軸6aのY軸方向への移動を相殺するためのものである。このような運動は、把持装置に対するX軸方向の相対的位置が固定されているY軸ガイド11に沿ってY軸方向に移動可能な枠体移動装置10をY軸方向に移動させ、該枠体移動装置10の上に設けた枠体回動装置12で一対の曲げロール6,7を取り付けた枠体8を回動中心点Oの周りで回動できるように構成することにより実現できる。このような、枠体移動装置10のY軸方向の運動により、曲げロール6の中心軸6aのY軸方向の回動による移動を相殺できる。
【0023】
図5は、このような回動と移動を行う前(実線)と行った後(破線)の状態を示す。
図5の実線は、
図4の実線と同じで、曲げロール6と7のそれぞれの中心軸6aと7aとが、パイプWの長手方向(X軸方向)に対して直角の方向(Y軸方向)に位置している状態で、パイプWを挟持している一対の曲げロール6,7を概念的に示している。この状態では、パイプWは曲げロール6,7の共通接線となっている。
【0024】
図5の破線は、パイプWを挟持したまま、一対の曲げロール6,7を角度θ(弧度法)だけ、回動中心点Oを中心として回動させ、且つ、その回動による曲げロール6の中心軸6aのY軸方向の移動量を相殺するように、一対の曲げロール6,7をY軸の正方向にΔY〔=R(1−cosθ)〕移動させた状態を示している。回動中心点Oは、
図5の点Oに移動している。このY軸方向の一対の曲げロール6,7の移動により、中心軸6aと7aの位置の移動量をX方向成分とY方向成分に分けて分析すると、中心軸6aの位置変化のX方向成分Δx、Y方向成分Δyは、それぞれ次の通りである。
Δx=Rsinθ
Δy=R(1−cosθ)−R(1−cosθ)=0
【0025】
図5の実線の配置と破線の配置を較べると、一対の曲げロール6,7の回動中心点OのY軸方向の位置は変化するが、曲げロール6の中心軸6aのY軸方向の位置は変化していない。これは常に曲げロール6がパイプWと接していることを意味する。この接点はQで示されている。また一対の曲げロール6,7は回動中心点Oを中心として回動させたのであるから、常に曲げロール6と曲げロール7は回動中心点Oで接しており、その共通接線方向にパイプWが曲げられている。回動中心点Oとこの接点Qの間の曲げロール周縁に沿った長さはRθである。
【0026】
破線の位置の曲げロール6の中心軸6aのX軸方向の位置は、実線の位置の曲げロール6の中心軸6aのX軸方向の位置に比較すると、回動中心点Oに対してRsinθだけ負方向に移動している。すなわち実線の回動中心点Oの位置と破線の接点Qの位置の間のX軸方向の距離はRsinθである。そして、破線の接点Qの位置から実線の回動中心点Oまでの曲げロール6の周縁に沿った長さはRθである。回動中心点OのX軸方向の位置が固定されているとき、送り装置4からその差ΔL、すなわちΔL=Rθ―Rsinθ=R(θ―sinθ)だけパイプを送り出す。
【0027】
本発明に係るパイプの曲げ方法及び装置においては、
図5の実線の状態から破線の状態への変化を、一対の曲げロール6,7を取り付けた枠体8を回動させる回動角θと、枠体8をY軸方向に移動させる移動量ΔYと、送り装置4からパイプを送りだす送り量ΔLを上記のように調節することにより行い、その制御は、図示しないコンピュータを用いた制御により実現できる。
【0028】
図5は、パイプWを右に曲げる場合を示したもので、枠体8を一対の曲げロール6,7の接点である点Oを中心として時計まわりに回動させている。パイプWを左に曲げる場合には、上記した一対の曲げロール6,7を取り付けた枠体8を回動させる回動角θと、枠体8をY軸方向に移動させる移動量ΔYと、送り装置4からパイプを送りだす送り量ΔLの調節を行うとともに、枠体8を同じ点Oを中心として反時計まわりに回動させる。すなわち、図示しない駆動モータの動力をいずれの場合も回動中心点Oに設けた図示しない駆動軸に伝え、駆動軸を正回転させるか、逆回転させるかによって、パイプWの曲げの方向を調節することができる。
【0029】
図6から
図8は、パイプWを右に曲げた後に左に曲げる工程を模式的に示した図である。この図では、一対の曲げロール6,7とパイプWの関係の相対的関係だけを概念的に示している。
図6から
図8においては図が煩雑になるのを避けるために、第1と第2の曲げロール6と7のそれぞれの中心軸6aと7aを結ぶ線の回動角α或いはβで、枠体8の回動を示している。
【0030】
図6の(a)は、中間保持装置9から送り出されるパイプWを通すために第1と第2の曲げロール6,7が開いた状態を示す。(b)は、パイプWを第1と第2の曲げロール6,7が接点P1にて挟持した状態を示す。(c)は、曲げ工程を示し、パイプWを右に曲げるために、第1と第2の曲げロール6と7でパイプWを接点P1で挟持しながら、回動中心点Oを中心として一対の曲げロール6,7を角度αだけ回動させ、同時に第1の曲げロール6の中心軸6aのY軸方向の位置の変化を相殺するように一対の曲げロール6,7をY軸方向で移動させた状態を示す。なお、この時、枠体移動装置10はY軸方向にしか移動しないので、回動中心点OのX軸方向の位置は動かない。第1の曲げロール6のY軸方向の移動を相殺するために、一対の曲げロール6,7がR(1−cosα)だけY軸方向に移動している。このことは、第1のロール6が常に中間保持装置9と曲げロール6,7の間のパイプWとP2点において接していることを意味する。ただしP2点で物理的に現実に接しているとは限らない。
【0031】
図6の(c)の状態では、パイプWは角度αだけ右に曲げられている。このままでは一対の曲げロール6,7を元に戻せないので、一対の曲げロール6,7を開く必要がある。
【0032】
図7の(a)と(b)は、回動角調整工程を示す。(a)は、第1と第2のロール6,7を元の位置に戻すためとパイプWを送るため、第1と第2のロール6,7を破線の位置(
図6の(c)と同じ配置)から実線の位置まで開いた状態である。図示の例では両曲げロール6,7を開いているが、必要に応じて一方の曲げロールだけを開くこともある。この状態からパイプWを送ることと、第1と第2のロール6,7を逆回動すること等をして一対の曲げロール6,7の回動角を調整する。
図7の(b)は、第1と第2のロール6,7の配置を
図6の(a)の状態に戻した状態を示す。
図7の(c)は、パイプWを距離Sだけ送り、その後に、一対の曲げロール6,7を閉じた状態を示す。
【0033】
図8の(a)は、パイプWを引き続いて左方向に曲げるために回動中心点Oを中心として一対の曲げロール6,7を左方向に角度βだけ回動させ、同時に第2のロール7の中心軸7aのY軸方向の移動を相殺するように一対の曲げロール6,7をY軸方向でR(1−cosβ)移動した状態を示す。引き続いて、
図7の(a)におけるのと同様な操作により、
図8の(b)に示すように第1と第2のロール6,7の配置を元の状態に戻すことができる。このように右方向に曲げることと左方向に曲げること及びパイプの送り操作を組み合わせて自在に曲げることができる。
図8の(b)は、最初に角度αだけ右に曲げ、次に長さSだけ送り、さらに角度βだけ左に曲げた状態を示す。
【0034】
把持装置2に回転装置3が付属する場合には、さらに
図6の(a)に示す状態にしておいて、回転装置3を用いてパイプWをその軸心周りに回転させてから引き続いて右方向に曲げたり左方向に曲げたりすることができる。その結果として、右方向への曲げ、左方向への曲げ、上方向へ曲げ、下方向への曲げを自在に組み合わせた形状の曲げを実現することができる。
【0035】
把持装置2、回転装置3、送り装置4、枠体8の回動角、枠体8をY軸方向に移動させて第1又は第2の曲げロールの中心軸の位置の移動を相殺することは図示しない制御装置によって制御されるが、その制御システムは、当業者である技術者によって容易に想到できるので、この明細書では説明を省略する。その際、任意の角度でのパイプの右(左)曲げのサブルーチン、任意の寸法での曲げなしの送りのサブルーチン、第1と第2の曲げロールの任意の位置から元の位置への戻し操作のサブルーチン、パイプの軸心周りの回転のサブルーチン等に分割したプログラムを用意し、それらを適宜組み合わせることにより、複雑な形状の加工物を容易に作ることができる。
【0036】
以上、本発明に係るパイプの曲げ方法及び曲げ装置の実施形態を説明したが、本発明は、何ら既述の実施形態に限定されるものではなく、繰り返し述べるが、以上の説明に基づいて、本発明を構成する把持装置2の開閉機構、送り装置4の送り機構、回転装置3の回転機構、一対の曲げロールの形状、Y軸ガイド11の形状、枠体移動装置10の機構、枠体回動装置12の機構、枠体8の構造、それらの間の取り付け関係、制御部のプログラムを設計し、本発明を実現することは、本発明の技術的範囲内に属する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係るパイプの曲げ方法及び曲げ装置によれば、左右方向に引き続いてパイプを曲げること、更には上下方向にも引き続いてパイプを曲げることが、単一の駆動モータを用い、且つ比較的簡単な構造で実現することができるので、自動車、家電等に用いられるパイプの曲げ方法及び曲げ装置として、広く利用可能なものである。
【符号の説明】
【0038】
1 曲げ装置
2 把持装置
3 送り装置
4 回転装置
5 一対の曲げロール
6 第1の曲げロール
6a 中心軸
6b 溝
7 第2の曲げロール
7a 中心軸
7b 溝
8 枠体
9 中間保持装置
10 枠体移動装置
11 Y軸ガイド
12 枠体回動装置
O 回動中心点
W パイプ