特許第6363579号(P6363579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363579
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】圃場管理システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/02 20120101AFI20180712BHJP
   A01G 22/22 20180101ALI20180712BHJP
【FI】
   G06Q50/02
   A01G16/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-192547(P2015-192547)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-68533(P2017-68533A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2017年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】荒木 浩之
(72)【発明者】
【氏名】渡部 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】阪口 和央
(72)【発明者】
【氏名】青田 和樹
【審査官】 塩田 徳彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/050525(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0074002(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
A01G 22/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場地図データを記録する圃場地図レイヤを有する地図データ記録部と、
各種の農作業機により圃場に対して実行される作業毎に生成された圃場作業データを記録する機種別圃場作業レイヤを有する圃場作業データ記録部と、
前記圃場地図データと前記圃場作業データとを共通の座標位置でデータ管理するデータ管理部と、
前記圃場作業データに基づいて前記圃場の営農評価を行う評価部と、
を備えた圃場管理システム。
【請求項2】
前記圃場作業データには前記農作業機の走行軌跡が含まれており、前記走行軌跡は前記圃場地図レイヤおける座標位置に関係付けられる請求項1に記載の圃場管理システム。
【請求項3】
前記地図データ記録部において、前記圃場地図レイヤに前記圃場の座標位置における高さデータが記録可能であり、前記データ管理部は、前記高さデータから前記圃場の勾配データを生成する請求項1または2に記載の圃場管理システム。
【請求項4】
前記高さデータは、前記農作業機の機器動作データから生成される請求項3に記載の圃場管理システム。
【請求項5】
前記農作業機には、トラクタ、及び田植機または播種機、及び収穫機が含まれる請求項1から4のいずれか一項に記載の圃場管理システム。
【請求項6】
前記トラクタが前記圃場の外周を周回走行することによって生成された前記圃場作業データに含まれる走行軌跡に基づいて、前記圃場の外形データが生成される請求項5に記載の圃場管理システム。
【請求項7】
前記田植機または前記播種機が作業走行することによって生成された作物植付位置データが前記圃場作業データに含まれ、前記作物植付位置データは座標位置によって前記圃場と関係づけられる請求項5または6に記載の圃場管理システム。
【請求項8】
前記収穫機が収穫作業走行する際に走行位置に対応付けて生成される単位走行収量データが前記圃場作業データに含まれ、前記単位走行収量データは座標位置によって前記圃場と関係づけられ、前記圃場における微小区画当たりの収量が算定される請求項5から7のいずれか一項に記載の圃場管理システム。
【請求項9】
前記評価部による営農評価に基づいて、前記圃場の農作業計画情報を導出する農作業計画演算部が備えられている請求項1から8のいずれか一項に記載の圃場管理システム。
【請求項10】
前記農作業計画情報には、実施作物種、農作業実施時期、投入すべき農作業機が含まれている請求項9に記載の圃場管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータネットワークを利用して農作業に関する情報を収集して処理し、適切な農作業計画に関する情報を提供する圃場管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1による圃場管理システムには、圃場の地図上の位置及び形状情報を格納した圃場データベースや、補正生育指数データを格納した補正生育指数データベースや、栽培作物の種類と生育指数から作業内容を決定するための条件とを格納している作業条件データベースなどが備えられている。これらのデータベースに格納された情報を用いて、圃場における生育度の分布の違いなど、農作業の判断基準となる情報が算定され、視覚的に表示される。農業経営者は、表示された情報に基づいて、圃場内の農作業を決定する。データベースは、年毎の複数レイヤ構造となっており、圃場の過去の実績を次回の農作に生かすことも可能となる。
【0003】
特許文献2による営農システムでは、農作区画毎に施される、田植え、施肥、収穫などの農作業の内容を、コストを含めて記録し、これらの実績データに基づいて次に行うべき農作業の計画書が出力される。この営農システムは、圃場で作業する農作業機からデータを受け取ることが可能であり、施肥日時、施肥種(肥料種類)、施肥量、肥料費、などの肥料に関するデータや、収量と食味などの収穫に関するデータが、実績データとして入力される。その結果、選択された圃場における施肥実績値の表示、収量や食味などの収穫実績値の表示が可能である。
【0004】
特許文献3に開示された作業情報共有システムでは、同一圃場に投入される異なる農作業機は、共通に使用される着脱自在な記録装置を装着することができ、記録装置に記録された情報を各農作業機の間で共有することができる。このシステムでは、コンバインの収穫作業中の走行速度とGPS通信部からの情報とが互いに関連付けられて記録装置に記録される。この記録装置に記録された情報に基づき、例えば、コンバインの走行速度が遅くなる作物が育ちすぎの位置では、施肥機による施肥量を減少させるような作業計画が作成される。また、トラクタによる代掻き時に、代掻き深さを浅くすることで、肥料の過度の堆積を抑制して作物が育ちすぎることを抑制することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−310463号公報
【特許文献2】特開2014−194653号公報
【特許文献3】特開2014−187954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のシステムでは、同一圃場で実施される異なる農作業に関する情報の記録が構造化されておらず、記録すべき情報量が増加した場合、スムーズなデータ処理が難しくなる可能性がある。特に、同一圃場において、多種の農作業機が投入されて、それぞれが独自の作業情報を生成し、それらの作業情報を簡単かつ正確に連係させ、その情報に基づいて当該圃場における農作の評価を行うシステムは提供されていない。
このことから、同一圃場に投入された多種の農作業機が生成する種々の作業情報を効果的に記録し、利用できるシステムが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による圃場管理システムは、圃場地図データを記録する圃場地図レイヤを有する地図データ記録部と、各種の農作業機により圃場に対して実行される作業毎に生成された圃場作業データを記録する機種別圃場作業レイヤを有する圃場作業データ記録部と、前記圃場地図データと前記圃場作業データとを共通の座標位置でデータ管理するデータ管理部と、前記圃場作業データに基づいて前記圃場の営農評価を行う評価部とを備えている。
【0008】
この構成によれば、圃場に対して農作業を行う各種の農作業機の圃場作業データは、それぞれ機種別圃場作業レイヤに記録される。さらに、これらの機種別の圃場作業データは、圃場地図レイヤに記録された圃場地図データと共通の座標位置で管理されているので、圃場における任意の位置または区画における、異なる機種での圃場作業内容を、簡単かつ正確に読み出すことができる。互いに位置的に関連づけられた各種農作業機による圃場作業データを用いることで、圃場を細分化したきめの細かい農作業管理が可能となり、その結果としての圃場全体の精度の高い営農評価が可能となる。
【0009】
農作業機では、作業走行時の走行経路の取り方によっては、作業性が変わったり、燃料コストや作業時間が変わったりもする。したがって、実際に農作業機が作業走行した経路を正確に検討することが、営農にとって重要である。このことから、本発明の好適な実施形態では、前記圃場作業データには前記農作業機の走行軌跡が含まれており、前記走行軌跡は前記圃場地図レイヤおける座標位置に関係付けられる。これにより、各作業機の走行経路を正確に、かつ互いに関連づけて比較検討することができる。
【0010】
畑作の場合、トラクタの耕耘方向(畝の延び方向)は排水計画に大きな影響を与える。また、圃場が水田の場合、水を適量に溜める必要があるので、圃場の勾配が重要な情報となる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記地図データ記録部において、前記圃場地図レイヤに前記圃場の座標位置における高さデータが記録可能であり、前記データ管理部は、前記高さデータから前記圃場の勾配データを生成する。この構成では、圃場の座標位置に高さデータが記録されているので、東西南北全ての方向での圃場の勾配を求めることができる。このような圃場の座標位置で高さデータを圃場外からの測位方法で求めるのは大変であり、コストがかさむ。しかしながら、圃場内をくまなく走行する農作業機の作業機器の機器動作データ(圃場作業データの一例)から圃場の各位置での高さを求める場合、実質的にはデータの処理だけで可能となり好都合である。例えば、農作業機に昇降ローリング制御可能に搭載される作業機器の動きから圃場の高さを演算することも可能である。また、農作業機に高さ計測器を設け、走行に伴って順次高さデータを取得する場合は、比較的低コストで、圃場の座標位置で高さデータを得ることができる。
【0011】
米や麦などの穀物栽培などでは、圃場の整地、播種または苗付け、施肥、穀粒収穫の一連の作業において、専用の農作業機が投入される。したがって、この圃場管理システムで採用される農作業機には、基本的にトラクタ、及び田植機または播種機、及び収穫機が含まれる。このような農作業機では、機種によって、圃場での投入時期、走行経路、作業内容などが異なり、以下に示すように、個別に有益な情報が得られる。
【0012】
例えば、トラクタは、圃場の整地という農作の初期の段階で投入され、作業中に、圃場の外周の周回走行することが多い。トラクタに、衛星航法機器や慣性航法機器が備えられている場合、圃場の外周の周回走行時に取得される走行軌跡を示す測位データから圃場の外形を求めることができる。したがって、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記トラクタが前記圃場の外周を周回走行することによって生成された前記圃場作業データに含まれる走行軌跡に基づいて、前記圃場の外形データが生成されるように、圃場管理システムが構成されている。
【0013】
田植機や播種機は、その作業走行によって、米や麦などの作物植付位置を決定する。したがって、田植機や播種機の走行軌跡などを含む圃場作業データは作物植付位置を算定するデータとなり、結果的に作物植付位置の地図上の座標位置を算定することもできる。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記田植機または前記播種機が作業走行することによって生成された作物植付位置データが前記圃場作業データに含まれ、前記作物植付位置データは座標位置によって前記圃場と関係づけられるように、圃場管理システムが構成されている。これにより、作物植付位置単位でのきめの細かい営農管理が可能となる。
【0014】
収穫機は、その作業走行に伴って、穀稈を刈取り、穀粒を収穫する。この穀粒収穫量(収量)を作業走行に伴ってリアルタイムで測定すれば、走行位置、つまり圃場の特定位置に関連づけられた収量が算定可能である。このことを利用して、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記収穫機が収穫作業走行する際に走行位置に対応付けて生成される単位走行収量データが前記圃場作業データに含まれ、前記単位走行収量データは座標位置によって前記圃場と関係づけられ、前記圃場における微小区画当たりの収量が算定されるように、圃場管理システムが構成されている。
【0015】
圃場の座標位置毎に農作に関するデータを収集して記録することができた場合、そのデータを可視化するだけでも、次の農作業計画の有益な参考情報となる。年次データを統計的に処理して可視化した場合には、さらに有益な参考情報となる。このことから、本発明の好適な圃場管理システムには、前記評価部による営農評価に基づいて、前記圃場の農作業計画情報を導出する農作業計画演算部が備えられている。また、本発明による圃場管理システムには、圃場作業データ記録部が機種別圃場作業レイヤを有するので、前記農作業計画情報には、実施作物種や農作業実施時期だけでなく、投入すべき農作業機に関する情報も含めることできる。農作業機に関する費用は、農作費用全体において大きな割合を占めており、農作業機の管理が適切に行われることは好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】圃場管理システムの基本的な構成を示す模式図である。
図2】農作業機に搭載された制御系の機能ブロック図である。
図3】コンピュータシステムの機能ブロック図である。
図4】農作業計画情報の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による圃場管理システムの基本的な構成を、図1を用いて説明する。圃場管理システムは、特徴的なデータベース構造を有するデータ記録部6を備えたコンピュータシステムである。データ記録部6はレイヤ構造体であり、圃場地図データを記録する圃場地図レイヤである地図データ記録部と、各種の農作業機によって前記圃場に対して実行される作業毎に生成された圃場作業データを記録する機種別圃場作業レイヤである圃場作業データ記録部とを備えている。なお、圃場地図レイヤには、予め一般的な地図データが記録されている。このデータ記録部6のレイヤ構造により、農作業機の圃場における作業走行中に取得された圃場作業データは、圃場の地図位置、つまり座標位置と関係付けることが可能となる。したがって、評価部70は、データ管理部60によって座標位置と関係付けられた圃場作業データを用いることで、圃場に対する営農評価を、細分化された圃場区画単位で、かつ機種単位で行うことも可能である。
【0018】
図1で示された例では、農作業機1として、栽培準備作業として圃場の代掻き等の整地を行うトラクタ1T、栽培の開始作業として苗付けを行う田植機(または播種機)1P、栽培最終作業としての穀粒収穫作業を行うコンバイン1Cが取り上げられている。これらの作業機には、GPS等による自機位置検出装置が搭載されており、走行位置をデータ化することができる。農作業機1で生成された各種データは、無線データ伝送機器やポータブルメモリ機器などを通じてコンピュータシステムのデータ記録部6に転送することができる。
【0019】
トラクタ1Tが圃場に入って、最外周を周回走行した場合、その走行軌跡を示す周回走行位置データは、圃場作業データの一部として生成され、データ管理部60を介してデータ記録部6の機種別圃場作業レイヤに記録される。データ管理部60は、さらに、この周回走行位置データを上述の一般的な地図データに当てはめることで、作業対象となった圃場の外形を示す圃場外形データ(圃場地図データの一例)を生成し、圃場地図レイヤ上に当該圃場の外形地図データとして記録する。
【0020】
また、トラクタ1Tに高さ(標高)検出機能が備えられている場合、圃場作業データの一部として高さデータを生成することができる。この高さデータを、圃場地図レイヤおける座標位置に関係づけると、圃場における勾配が算定されるので、圃場における勾配データ(圃場地図データの一例)を圃場地図レイヤに記録することができる。また、トラクタに装備されるロータリなどの作業装置は、水平(ローリング)制御されるので、この水平制御の制御データから、圃場の勾配データを算出することも可能である。
【0021】
田植機1Pが作業走行する際の走行軌跡と苗植付機器の機器動作データとから、作物植付位置データの一例として苗植付位置を田植機1Pの機種別圃場作業レイヤに記録することができる。苗植付作業の際に、施肥作業も行えば、施肥位置も田植機1Pの機種別圃場作業レイヤに記録することができる。また、田植機1Pは、圃場全体をくまなく正確に走行するので、この走行軌跡データから、当該圃場の圃場外形データの作成や修正を行うことができる。
【0022】
ここで使用されているコンバイン1Cは、穀粒収穫量(収量)をリアルタイムで計測することができる機能を備えている。したがって、データ管理部60は、コンバイン1Cが作業走行する時の走行軌跡と、作業走行中に計測された収量とから、走行位置にその位置での収量を対応付けた単位走行収量データを生成することができ、この単位走行収量データを圃場作業データの1つとしてコンバイン1Cの機種別圃場作業レイヤに記録する。記録される単位走行収量データは座標位置によって圃場地図データと関係づけられている。したがって、評価部70は、圃場における微小区画当たりの収量から、圃場の微小区画収量分布を出力することができる。微小区画収量分布からの圃場の収穫が平均より良い優良区画及び平均より悪い不良区画が判定される。これにより、農作業計画演算部7は、優良区画への肥料投下の低減、不良区画への肥料投下の増加など、きめの細かい農作業計画情報を生成して、出力することが可能となる。
【0023】
さらに、農作業計画演算部7は、データ記録部6に記録されたデータ及び評価部70から出力された評価情報に基づいて農作業計画情報を生成する。農作業計画情報は、ユーザである農家に対して農作業を案内するガイダンスとなるようなものが好適である。農作業計画情報の形態として、作業日程表のようなフォーマット、作業項目をリスト化した作業一覧表のようなフォーマット、従来の農作業との比較を示すようなフォーマット、アイコンを用いたフォーマット、など種々のフォーマット、あるいはそのようなフォーマット組み合わせを採用することができる。ガイダンスとしての農作業計画情報の具体的な内容例を以下に列挙する。
(1)農作期間単位(例えば年次)でのトラクタの作業走行軌跡を評価し、最適な耕耘方向を提案する。
(2)各圃場における農作業機の実作業時間から、農作業機の投入時期や投入時刻などを提案する。
(3)コンバインの作業走行経路と予想収量とから、穀粒搬送車の待機位置を提案する。
(4)圃場の勾配データを参照して、水田の給水・排水計画を提案する。
(5)植付け条を決定する田植機の作業走行軌跡(植付け条のパターン)を考慮して、刈取り条を決定するコンバインの作業走行経路(刈取り条のパターン)を提案する。
【0024】
図1の例では、データ管理部60を介してデータ記録部6に記録される情報は、種々の農作業機1から送られてくる。もちろん、農作業機1以外の機器からの情報をデータ記録部6に記録することも可能である。例えば、ドローンと呼ばれる遠隔操縦式または自律操縦式のクワッドコプターやマルチコプターによって取得された画像情報や環境観測情報をデータ記録部6に記録することも可能である。この画像情報からは、画像処理を通じて、圃場の微小区画単位の作物の生育状態を示す生育データを生成することができる。気候などの環境観測情報は、施肥時期や収穫時期などを予測するために有益な情報となる。また、異なる地域の情報を比較する場合には、環境観測情報を用いて環境条件等の正規化を行えば、比較精度の向上が期待される。
【0025】
次に、本発明による圃場管理システムの具体的な実施形態の1つを、図1図2とを用いて説明する。ここでの圃場管理システムも、図1を用いて説明したデータ記録部6におけるデータ記録構造(レイヤ構造)やデータ管理部60によるデータ処理の内容を流用している。この圃場管理システムは、複数の登録された農家が共同で利用するサーバ・クライアント型またはクラウド型のコンピュータシステム5を中核構成要素としている。各農家の圃場で農作業を行う農作業機から、機種別の圃場作業データとして種々のデータが、コンピュータシステム5に送られてくる。各農家は保有する端末機器を用いて、コンピュータシステム5から送られてくる農作業計画情報を受け取ることができる。
【0026】
図2は、この圃場管理システムに導入されている農作業機1の一例としてのコンバイン1Cの制御ユニット10に構築された、本発明に関する機能部を示す機能ブロック図である。このコンバイン1Cは、クローラ式の走行装置101、刈取装置や脱穀装置などの作業装置102、収穫された穀粒の収量を収穫時に計測する収量計測装置103及び穀粒の食味を収穫時に計測する食味計測装置104、コンバインの各機器の状態を検出するセンサ群105を備えている。
【0027】
制御ユニット10には、走行装置101を制御する走行ECU11、作業装置102を制御する作業ECU12、センサ群105からの検出信号を処理する機器状態検出ECU13、自機位置を検出するGPSユニット14、収量計測装置103や食味計測装置104からの計測信号を処理する計測ECU15が備えられている。さらに、コンピュータシステム5に圃場作業データを送るために、情報生成部2と情報通信部16とが備えられている。作業ECU12、機器状態検出ECU13、GPSユニット14、計測ECU15、情報生成部2、情報通信部16は、車載LANまたはその他のデータ伝送ラインを介して互いに接続されている。
【0028】
情報生成部2は、作業基礎データ生成部21、走行軌跡データ生成部22、機種依存データ生成部3、圃場作業データ生成部20を備えている。作業基礎データ生成部21は、作業内容、作業日時、作業した圃場の圃場ID、燃料消費など、実施した農作業の基礎的な情報を生成する。走行軌跡データ生成部22は、GPSユニット14から取得する自機位置(測位データ)を継時的に処理し、作業時の走行軌跡を示す走行軌跡データを生成する。機種依存データ生成部3は、農作業機1の機種に依存するデータを生成する。例えば、このコンバイン1Cでは、機種依存データ生成部3に、計測ECU15からのデータに基づいて自機位置と関係づけられた収量を示す収量データを生成する収量データ生成部31、計測ECU15からのデータに基づいて自機位置と関係づけられた食味を示す食味データを生成する食味データ生成部32などが含まれている。
【0029】
圃場作業データ生成部20は、作業基礎データ生成部21、走行軌跡データ生成部22、機種依存データ生成部3などで生成されたデータを組み合わせて圃場作業データを生成する。生成された圃場作業データは、情報通信部16を介してコンピュータシステム5に送られる。
【0030】
図2では、農作業機1としてコンバイン1Cを例とした機能ブロックを示しているが、他の機種、例えば、田植機1Pやトラクタ1Tも基本的な内容は同じである。主に相違する機能部は、図2において点線で示すように、機種依存データ生成部3である。農作業機1が田植機1Pの場合、機種依存データ生成部3は、苗植付データ生成部33と施肥データ生成部34として形成される。苗植付データ生成部33は、苗植付作業における苗植付量、苗植付深さ、さらには株間や条間に関するデータを生成する。施肥データ生成部34は、自機位置と関係づけられた施肥量(施肥分布)に関するデータを生成する。農作業機1が耕耘装置を装備したトラクタ1Tの場合、機種依存データ生成部3は、耕耘データ生成部35として形成される。耕耘データ生成部35は、耕耘深さや耕耘装置の水平制御量などのデータを自機位置と関連づけて生成する。
【0031】
図3には、この圃場管理システムのコンピュータシステム5の機能ブロック部が示されている。このコンピュータシステム5は、農作業機1であるトラクタ1T、田植機1P、コンバイン1Cの制御ユニット10から機種別の圃場作業データを受けとり、農家または農業従事者が保有するユーザ端末(パーソナルコンピュータやタブレットコンピュータやスマートフォンなど)100に農作業計画情報を送信する。
【0032】
コンピュータシステム5は、基本的には、情報入力部51と、情報出力部52と、データ記録部6と、データ管理部60と、評価部70と、農作業計画演算部7とを備えている。情報入力部51は、農作業機1から送られてくる圃場作業データをシステム内部に転送する。情報出力部52は、内部で生成された農作業計画情報をユーザ端末100に送る。農家は、送られてきた農作業計画情報に基づいて、実際の農作業計画を立案する。
【0033】
データ記録部6は、レイヤ構造として構成されたデータベースであり、地図データ記録部として機能する圃場情報記録部61と、圃場作業データ記録部として機能する機種別圃場作業記録部62と、農環境情報記録部63と、農作業計画記録部64とを備えている。圃場情報記録部61は、圃場基礎データ部611と圃場地図データ部612とに分かれている。圃場基礎データ部611は、圃場名や圃場所有者など、圃場の属性データを記録している。圃場地図データ部612は、標準的な地図データに、この圃場管理システムに参加している農家の圃場の地図を統合化した圃場地図データを記録しており、各圃場の外形が地図座標によって規定することができる。圃場内の任意の位置は、地図座標によって規定することができる。
【0034】
圃場作業データ記録部として機能する機種別圃場作業記録部62は、この実施形態では、トラクタ1Tの圃場作業データを記録するトラクタ作業データ部621と、田植機1Pの圃場作業データを記録する田植機作業データ部622と、コンバイン1Cの圃場作業データを記録するコンバイン作業データ部623とに分かれている。このような機種別圃場作業記録部62において各農作業機1の圃場作業データを記録する構造は、圃場地図をベースとするレイヤ構造となっている。例えば、トラクタ作業データ部621において記録されるトラクタの自機位置データは、圃場地図の座標で走行順(時間順)に記録される自機位置データ群であり、このデータから、走行軌跡を直接導出することができる。さらに、トラクタ1Tが圃場の外周を周回走行(周回作業走行と周回非作業走行のいずれでもよい)した際の走行軌跡を示す自機位置データを処理することで、圃場の外形を導出することができる。そのような圃場外形データは圃場地図データ部612に記録される。また、トラクタ1Tが標高(圃場高さ)を計測できる計測機器を備えている場合には、走行中の自機位置での圃場位置の高さを記録することができる。そのような高さデータから、データ管理部60は、圃場の等高線、結果的には勾配データを生成することでき、生成された勾配データも圃場地図データ部612に記録可能である。
【0035】
田植機作業データ部622に記録される田植機1Pの走行軌跡を表す自機位置データに、作物の植付位置を関係付けることも可能である。このような作物植付位置が記録されると、例えば、その植付け位置に苗植付量を簡単に関係づけることができ、圃場における苗量の分布を評価することが可能となる。
【0036】
また、コンバイン作業データ部623に記録されるコンバイン1Cの走行軌跡を表す自機位置データに、収穫時にリアルタイムで計測されている収量データを関係付けることも可能である。このように、自機位置データ(圃場地図における座標位置)に関係付けられた収量データから、単位収量、例えば微小区画当たりの収量を簡単に導出することができる。
【0037】
機種別圃場作業記録部62では、圃場地図をベースとして、圃場地図と共通の座標位置を用いて各機種の圃場作業データが記録さる圃場作業レイヤ構造を採用しているので、特定の圃場における特定の農作業機1による作業状態や作業結果の分布が簡単に導出でき、その営農評価を可能にする。さらに、そのような圃場作業レイヤを、育成期間または年次別に構成すれば、特定の圃場における特定の農作業機による作業状態や作業結果の分布の継時的な変動も簡単に導出され、営農評価に利用することができる。このような種々の営農評価のためのアプリケーションプログラムは評価部70に組み込まれている。
【0038】
農作業計画演算部7は、例えば、各農家の要求に応じて、評価部70による営農評価を示す営農評価データを、これに対応する過去のデータや参照データと比較し、その比較結果も含めて農作業計画情報を生成する。生成された農作業計画情報は、情報出力部52を通じて、ユーザ端末100に送信され、ユーザ端末100側で、モニタ表示やプリントアウトによって視覚化される。農家は、視覚化された農作業計画情報を見ながら、最終的な農作業計画を立案する。
【0039】
次に、具体的な農作業計画情報の構成例を、図4を用いて説明する。図4は、特定農家が、コンピュータシステム5にアクセスして、圃場ID「25600」を有する圃場での農作業計画を立案するために受け取った、過去の実績としての農作業計画情報を模式的に示している。
【0040】
農作業計画情報には、圃場基礎情報として、「圃場ID」、「圃場名」、「面積」、「地域」などが含まれ、さらに「圃場ID」には当該圃場を細分化して得られた多数の微小区画情報がリンクしている。この微小区画情報には、「微小区画ID」や「座標値」が含まれている。「微小区画ID」には、農作業機1によって生成され、微小区画に割り当てられた圃場作業データがリンクしており、この圃場作業データには、「苗植付量」、「基肥量」、「追肥量」、「収量」、「食味」などが含まれている。
【0041】
さらに、「圃場ID」には、農作業機別の圃場作業データ、ここでは、トラクタ1Tと田植機1Pとコンバイン1Cとの圃場作業データがリンクしており、この圃場作業データには、「作業内容」、「実施日時」、「作業時間」、「燃料消費量」などが含まれている。農家では、ユーザ端末100に送られてくる、このような内容を有する農作業計画情報を参照して、次に行う農作業の農作業計画を立案する。
【0042】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、農作業機1として、トラクタ1T,田植機1P、コンバイン1Cを取り上げたが、その他の農作業機1を加えてもよいし、トラクタ1T,田植機1P、コンバイン1Cのうちの1つまたは2つだけでもよい。各農作業機の分担は上述したものに限定されない。例えば、トラクタ1Tに播種インプルメント(シーダ)を装備することで、トラクタ1Tは植付け位置情報を生成することができので、このトラクタ1Tから植付け位置情報を受け取ることができる。
(2)上述した実施形態では、コンピュータシステム5は、複数の農家によって共同使用されるものであってが、単一の農家のみ、あるいは単一の圃場のみを対象とする、スタンドアローンで使用されるコンピュータシステム5であってもよい。特に単一農家で使用される場合には、コンピュータシステム5として、パソコンやタブレットコンピュータまたはスマートフォンが適している。
(3)上述した実施形態では、コンピュータシステム5は一箇所だけに設置されていたが、複数個所に設置され、ユーザ端末100から各コンピュータシステム5にアクセスして、農作業機別の圃場作業データを送信し、農作業計画情報を受け取るような構成にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明による圃場管理システムは、稲作や麦作のような穀物栽培だけでなく、野菜栽培や果実栽培にも適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 :農作業機
1C :コンバイン
1P :田植機
1T :トラクタ
2 :情報生成部
3 :機種依存データ生成部
5 :コンピュータシステム
6 :データ記録部
7 :農作業計画演算部
10 :制御ユニット
11 :走行ECU
12 :作業ECU
13 :機器状態検出ECU
14 :GPSユニット
15 :計測ECU
16 :情報通信部
20 :圃場作業データ生成部
21 :作業基礎データ生成部
22 :走行軌跡データ生成部
31 :収量データ生成部
32 :食味データ生成部
33 :苗植付データ生成部
34 :施肥データ生成部
35 :耕耘データ生成部
51 :情報入力部
52 :情報出力部
60 :データ管理部
61 :圃場情報記録部(地図データ記録部)
62 :機種別圃場作業記録部(圃場作業データ記録部)
63 :農環境情報記録部
64 :農作業計画記録部
70 :評価部
100 :ユーザ端末
101 :走行装置
102 :作業装置
103 :収量計測装置
104 :食味計測装置
105 :センサ群
611 :圃場基礎データ部
612 :圃場地図データ部
621 :トラクタ作業データ部
622 :田植機作業データ部
623 :コンバイン作業データ部
図1
図2
図3
図4