(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363592
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
B01D 69/04 20060101AFI20180712BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20180712BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20180712BHJP
B01D 63/00 20060101ALI20180712BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20180712BHJP
C04B 41/85 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
B01D69/04
B01D69/12
B01D69/10
B01D63/00 500
B01D71/02
C04B41/85 C
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-508135(P2015-508135)
(86)(22)【出願日】2014年1月31日
(86)【国際出願番号】JP2014052318
(87)【国際公開番号】WO2014156294
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2016年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2013-71655(P2013-71655)
(32)【優先日】2013年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 直人
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 宏之
【審査官】
池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−214075(JP,A)
【文献】
特開2010−227767(JP,A)
【文献】
特開2010−269268(JP,A)
【文献】
特開平11−349423(JP,A)
【文献】
特開2001−137673(JP,A)
【文献】
特開2006−263498(JP,A)
【文献】
特開2002−332206(JP,A)
【文献】
特開2012−045490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
B01D 53/22
C02F 1/44
C04B 41/80−41/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる1以上のセルを形成する多孔質の隔壁部を備えた構造体であって、
前記隔壁部の内表面に設けられ、金属イオンを含み、光変質する機能層と、
前記隔壁部の内表面の端部に設けられ、光変質しない保護層と、
を備え、
前記セルの開口の最大長さをA(mm)とし、前記構造体の端面からの前記保護層の長さをB(mm)とすると、B/A≧0.4の関係を満たし、
前記保護層は、前記隔壁部の内表面に直接設けられ、前記機能層側の端から前記構造体の端面側の端に向けて厚みが増加する傾向の傾斜を有しており、前記機能層側の端から0.1mmの領域において、前記隔壁部の前記内表面に対する前記傾斜の角度θが45°以下であり、
前記保護層の前記傾斜を有する領域のうち前記機能層と前記保護層とが接触する領域では前記機能層が前記保護層上に重ねて形成されている、
構造体。
【請求項2】
前記Aと前記Bとは、B/A≧1.0の関係を満たす、
請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記Aと前記Bとは、B/A≧2.0の関係を満たす、
請求項1又は2に記載の構造体。
【請求項4】
前記金属イオンは、金属種として銀を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項5】
前記機能層は、無機骨格及び/又は有機骨格に結合し前記金属イオンを担持可能な担持部を有し、該担持部に前記金属イオンが担持されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項6】
前記機能層は、分離膜として機能する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
前記セルの開口の最大長さAは、0.5mm以上10mm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項8】
前記セルは、断面形状が四角形以上の多角形、楕円及び円のうちの1以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項9】
前記保護層は、緻密質である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項10】
前記セルの数が2以上であって、前記2以上のセル間の前記B/Aの標準偏差が0.01以上1.0以下である請求項1〜9のいずれか1項に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属イオンの有する種々の機能が注目され、活用されている。例えば、銀イオンや亜鉛イオンを用いて、全熱交換素子の抗菌・防黴性を向上させることが提案されている(特許文献1参照)。また、マイクロ孔やメソ孔を有する薄膜に銀イオンを導入した分離膜を用いて、プロパンなどのパラフィンとプロピレンなどのオレフィンとを分離することが提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−189900号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Microporous and Mesoporous Materials, 78 (2005) 235-243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、銀イオンなどの金属イオンは、光に対する安定性が低く、光暴露によって変質してしまうことがあった。このため、製品の使用環境はもちろん、製品の製造から使用に至る各工程においても光暴露しないようにするための特殊な取り扱いが必要であり、そうした特殊な取り扱いを要しない、取り扱い容易なものが望まれていた。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、金属イオンを備え光変質する材料を用いたものにおいて、取り扱い容易な構造体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の構造体は、
流体の流路となる1以上のセルを形成する多孔質の隔壁部を備えた構造体であって、
前記隔壁部の内表面に設けられ、金属イオンを含み、光変質する機能層と、
前記隔壁部の内表面の端部に設けられ、光変質しない保護層と、
を備え、
前記セルの開口の最大長さをA(mm)とし、前記構造体の端面からの前記保護層の長さをB(mm)とすると、B/A≧0.4の関係を満たすものである。
【0009】
この構造体は、セルに流体を流通させ、機能層を用いて流体に所定の処理を行うものであるが、隔壁部の内表面の端部に所定の保護層が設けられているため、セルの奥に光が侵入しにくい。このため、金属イオンを含み光変質する機能層に照射される光の強度が抑制され、機能層の光変質を抑制でき、機能層の有する機能を十分に発揮できる。結果として、光暴露しないようにするための特殊な取り扱いが不要であり、取り扱いが容易な構造体を提供できる。
【0010】
本発明の構造体において、前記Aと前記Bとは、B/A≧1.0の関係を満たすものとしてもよいし、B/A≧2.0の関係を満たすものとしてもよい。こうしたものでは、セルの奥に光がより侵入しにくい。
【0011】
本発明の構造体において、前記金属イオンは、金属種として銀を含むものとしてもよい。銀イオンは、抗菌・防黴性を有しており空気清浄や水浄化などに適しているし、不飽和炭化水素の分離にも適しているため、種々の用途に用いることができる。
【0012】
本発明の構造体において、前記機能層は、無機骨格及び/又は有機骨格に結合し前記金属イオンを担持可能な担持部を有し、該担持部に前記金属イオンが担持されているものとしてもよい。こうしたものでは、比較的容易に金属イオンを含む機能層を形成でき、また機能層中の金属イオンの安定性が向上する。
【0013】
本発明の構造体において、前記機能層は、分離膜として機能するものとしてもよい。
【0014】
本発明の構造体において、前記セルの開口の最大長さAは、0.5mm以上10mm以下であるものとしてもよい。
【0015】
本発明の構造体において、前記セルは、断面形状が四角形以上の多角形、楕円及び円のうちの1以上であるものとしてもよい。こうしたものでは、セルに鋭角の角が形成されないため、濾過ケークの除去が容易である。
【0016】
本発明の構造体において、前記保護層は、前記隔壁部の内表面に直接設けられているものとしてもよい。こうしたものでは、前記隔壁部の内表面と保護層との密着性が向上し、また、保護層が形成される部分には機能層を形成する必要がないため材料を節約できる。
【0017】
本発明の構造体において、前記保護層は、緻密質であるものとしてもよい。なお、ここでいう緻密質とは、処理対象となる流体が通過できない程度に緻密なものをいう。こうしたものでは、保護層が設けられた部分からは隔壁部内に流体が流入しないため、流体が機能層を通過せずに隔壁部内に流入することがない。
【0018】
本発明の構造体において、前記保護層は、前記機能層側の端から前記構造体の端面側の端に向けて厚みが増加する傾向の傾斜を有しており、前記機能層側の端から0.1mmの領域において、前記隔壁部の前記内表面に対する前記傾斜の角度θが45°以下であるものとしてもよい。こうしたものでは、製造時や使用時に加熱環境や乾燥環境にさらされたとしても、保護層の機能層側の端と機能層との境界などにおける応力集中を抑制できるため、そうした境界や境界付近(特に機能層)にクラックが生じにくい。
【0019】
本発明の構造体は、前記セルの数が2以上であって、前記2以上のセル間の前記B/Aの標準偏差が0.01以上1.0以下であるものとしてもよい。標準偏差が0.01以上であれば、製造時や使用時に加熱環境にさらされたとしても、保護層と隔壁部との境界などにおける応力集中を抑制できるため、そうした境界や境界付近(特に隔壁部)にクラックが生じにくい。また、標準偏差が1.0以下であれば、B/Aの値が小さすぎるセルが存在しないため、機能層の変質をより抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】構造体10の構成の概略の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の構造体の一実施形態を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の構造体の一実施形態である構造体10の構成の概略の一例を示す説明図である。
図2は、隔壁部14の構造の一例を示す説明図である。
【0022】
本実施形態の構造体10は、
図1に示すように、混合流体の流路となる複数のセル12を形成する多孔質の隔壁部14と、隔壁部14の内表面15に設けられた機能層16と、内表面15のうちの内表面端部15aに設けられた保護層18と、隔壁部14の端面17に設けられたシール部19とを備えている。この構造体10では、機能層16は、混合流体を分離する分離膜として機能する。具体的には、入口側からセル12へ入った混合流体のうち、機能層16を通過可能な流体は機能層16が形成された多孔質の隔壁部14を通過して濃縮され、濃縮流体として構造体10の外周面から排出される。一方、機能層16を通過できない流体は、セル12の流路に沿って流通し、分離流体としてセル12の出口側から排出される。なお、混合流体としては、2種以上の気体を含むものとしてもよいし、2種以上の液体を含むものとしてもよい。また、気体と液体とを含むものとしてもよいし、気体と固体(粉体)とを含むものとしてもよいし、液体と固体とを含むものとしてもよいし、気体と液体と固体とを含むものとしてもよい。
【0023】
この構造体10は、複数のセル12を備えたモノリス構造を有している。その外形は、特に限定されないが、円柱状、楕円柱状、四角柱状、六角柱状などの形状とすることができる。
【0024】
セル12は、構造体10の軸方向に伸びる流路であり、貫通孔であってもよいし、一方の端部が目封止されていてもよい。また、セル12のうちの一部のセルは、両端が目封止され、隔壁部14に外部空間と連通するスリットが形成されていてもよい。両端が目封止され、隔壁部14にスリットが形成されたセルを有するものでは、機能層16を通過可能な流体がスリットを介して効率よく構造体10の外周面から排出される。セル12の断面形状としては、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形などの多角形の形状や、円形、楕円形などの流線形状、及びそれらの組み合わせとすることができる。このうち、四角形以上の多角形、楕円及び円のうちの1以上であることが好ましい。セル12に鋭角の角が形成されないため、濾過ケークの除去が容易だからである。
【0025】
隔壁部14は、主に、機能層16を支持する基材としての役割を果たすものであり、流体の流通を阻害しないよう、多孔質で形成されている。その気孔径は、機械的強度と濾過抵抗のバランスなどを考慮して適宜決定すればよいが、例えば、0.001μm〜数100μm程度とすることができる。なお、気孔径とは、平均細孔径を示すものとし、そのサイズに適した測定方法(例えばガス吸着法、水銀圧入法、SEM観察など)によって測定したものとすればよい。隔壁部14は、樹脂などの有機材料を含むものとしてもよいし、無機材料を含むものとしてもよい。無機材料を含むものとしては、例えば、コージェライト、Si結合SiC、再結晶SiC、チタン酸アルミニウム、ムライト、窒化珪素、サイアロン、リン酸ジルコニウム、ジルコニア、チタニア、アルミナ及びシリカから選択される1以上の無機材料を含んで形成されているものとしてもよい。このうち、アルミナ及びチタニアが好ましい。原料が入手しやすく、隔壁部14の気孔径の制御が比較的容易であり、耐食性が高い点などにおいて有利だからである。
【0026】
この隔壁部14は、例えば、
図2に示すように、気孔径の大きな粗粒部14aの表面に気孔径の小さな細粒部14bが形成された二層構造を有しているものとしてもよい。粗粒部14aの気孔径は、機械的強度と濾過抵抗のバランスなどを考慮して適宜決定すればよく、例えば、0.1μm〜数100μm程度とすることができる。細粒部14bの気孔径は、粗粒部14aの気孔径に比して小さいものであればよく、例えば、気孔径が0.001μm〜1μm程度のものとすることができる。こうした二層構造を有するものでは、粗粒部14aを備えることにより、隔壁部14の全体としての気孔径が大きくなるため、濾過抵抗を低減できる。一方、細粒部14bを備えることにより、隔壁部14の表面が平滑になり、機能層16や保護層18を均一に形成できる。なお、粗粒部14aと細粒部14bの材質は、同種のものでもよいし、異種のものでもよい。こうした二層構造を有する隔壁部14は、例えば以下のように作製することができる。まず、粗粒部14aを形成する。具体的には、骨材粒子、分散媒の他、必要に応じて界面活性剤などの添加剤を混合し混練して坏土を得て、その坏土を成形し、乾燥し、焼成する方法によって得ることができる。気孔径は、例えば、骨材粒子の平均粒子径を調整することによって制御できる。続いて、粗粒部14aの表面に細粒部14bを形成する。具体的には、骨材粒子、分散媒の他、必要に応じて界面活性剤などの添加剤を混合することによってスラリーを調整し、そのスラリーを、粗粒部14aの表面に成膜し、乾燥し、焼成して形成することができる。なお、隔壁部14は、二層構造を有するものでなくてもよく、例えば、粗粒部14aと細粒部14bとの間に、中間の気孔径を有する中間層を備えた三層以上の層構造を有するものとしてもよいし、気孔径が連続的に変化するような傾斜材構造を有するものとしてもよいし、単層構造を有するものとしてもよい。
【0027】
機能層16は、処理対象となる混合流体を分離する分離膜として機能するものである。この機能層16は、隔壁部14の内表面15に設けられており、例えば、膜状に形成されていてもよいし、粒子層状に形成されていてもよい。この機能層16は、金属イオンを含みかつ光変質するものである。例えば、光変質する金属イオンを含むものとしてもよい。金属イオンの種類は特に限定されないが、金属種として金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、鉄、アルカリ金属などを含むものであることが好ましく、銀を含むものであることがより好ましい。銀イオンは、不飽和炭化水素の分離に特に適しているからである。機能層16の厚さは、例えば、0.01μm〜数10μm程度とすることができる。
【0028】
この機能層16は、無機骨格及び/又は有機骨格に結合し金属イオンを担持可能な担持部を有し、この担持部に金属イオンが担持されているものとしてもよい。無機骨格としては、例えば、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウムなどの金属元素が、酸素などを介して結合した鎖状構造や三次元構造の骨格が挙げられる。有機骨格としては、ポリスチレン系、アクリル系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリウレタン系、ポリスルホン系、ポリエーテル系、ポリエーテルスルホン系などの公知の樹脂が挙げられる。担持部としては、例えば、カルボキシル基やスルホン基、リン酸基、ホスホン酸基、フェノール性水酸基などの陽イオン交換基が挙げられる。こうした機能層16は、例えば、以下のように形成したものとしてもよい。まず、原料となるゾルを作製する。このゾルは、例えば、陽イオン交換基を有する金属アルコキシド原料を加水分解及び重合させたり、陽イオン交換基を含むポリマー溶液に金属アルコキシドを添加して加水分解及び重合させたりすることにより作製できる。得られたゾルを、隔壁部14の内表面15に成膜し、乾燥させ、焼成する。こうした成膜・乾燥・焼成を1回以上繰り返すことで有機無機複合骨格に結合し金属イオンと結合可能な陽イオン交換基を有する膜を形成することができる。この膜は、陽イオン交換基に所望の金属イオンが担持されている場合には、そのまま機能層16とすることができる。一方、陽イオン交換基に所望の金属イオンが担持されていない場合には、所望の金属イオンを含む溶液などを用いてイオン交換を行うことにより、所望の金属イオンが担持された機能層16とすることができる。
【0029】
保護層18は、隔壁部14の内表面端部15aに設けられている。具体的には、セル12の開口の最大長さをA(mm)とし、構造体10の端面11からの長さをB(mm)とすると、B/A≧0.4の関係を満たすように設けられている。ここで、セル12の開口とは、セル12のうち、保護層18が設けられ、流体の流路の断面積が最も小さくなった部分をいうものとする。また、セル12の開口の最大長さAとは、セル12の開口周上(保護層18の表面)の2点を直線で結んだ場合に、その長さが最大となる2点間の長さをいうものとする。こうしたセル12の開口の最大長さAは、光学顕微鏡を用い、構造体10の端面11の外部から流体の流路に水平な方向に拡大観察して測定することができる。測定が困難な場合には、セル12の開口を含み流体の流路に垂直な断面について、光学顕微鏡を用いて拡大観察して測定してもよい。セル12の開口の最大長さAは、0.5mm以上10mm以下であることが好ましい。セル12の開口の最大長さAが0.5mmより小さいとセル内に進入、またはセル内を流れる流体の透過抵抗が大きくなり、10mmより大きいと構造体の体積あたりに配置できるセルの数が減少するためセル内表面積が減少し、構造体の体積あたりの処理効率が悪くなるためである。構造体10の端面11からの長さBは、流体の流路に平行な断面について、光学顕微鏡を用いて拡大観察して測定することができる。1つのセル内で長さBにばらつきがある場合には、端面からの保護層18の長さが最も短い部分の長さを測定してもよい。
【0030】
上述したB/Aの値は、B/A≧0.4の関係を満たせばよいが、B/A≧1.0の関係を満たすことが好ましく、B/A≧2.0の関係を満たすことがより好ましい。B/A≧0.4の関係の満たすものであれば、機能層16の光変質を抑制できる。なお、B/Aの上限は特に限定されないが、例えばB/A≦10などであることが好ましい。B/A≦10であれば、隔壁部14の内表面15に対する保護層18の形成割合が多すぎないため、分離膜として機能する機能層16の面積を十分に確保できるからである。ここで、B/Aの値が上述した関係を満たすか否かは、入口側と出口側のそれぞれについて検討し、両方が上述した関係を満たすか否かで判定するものとする。また、その際、セル12の数が50個以下の場合には全セルについてB/Aの値を求め、セル12の数が50個より多い場合には無作為に選択した50個のセルについてB/Aの値を求め、その平均値が、上述した関係を満たすか否かで判定するものとする。なお、全てのセル12の入口側及び出口側において、B/Aの値が上述した関係を満たすことがより好ましい。
【0031】
また、各セル12間のB/Aの標準偏差は、0.01以上1.0以下であることが好ましい。標準偏差が0.01以上であれば、製造時や使用時に加熱環境にさらされたとしても、保護層18と隔壁部16との境界などにおける応力集中を抑制できるため、そうした境界や境界付近(特に隔壁部)にクラックが生じにくいからである。また、標準偏差が1.0以下であれば、B/Aの値が小さすぎるセルが存在しないため、機能層の変質をより抑制できるからである。ここで、B/Aの標準偏差が上述した範囲内であるか否かは、入口側と出口側のそれぞれについて検討し、両方が上述した範囲内であるか否かで判定するものとする。また、その際、セル12の数が50個以下の場合には全セルについてB/Aの値を求め、セル12の数が50個より多い場合には無作為に選択した50個のセルについてB/Aの値を求め、その標準偏差が、上述した範囲内であるか否かで判定するものとする。なお、入口側、出口側の両方において、全てのセル12のB/Aの値の標準偏差が上述した範囲内であることがより好ましい。
【0032】
この保護層18の厚さは、例えば0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.2μm以上300μm以下がより好ましい。0.1μm以上であれば形成が容易であるし、1000μm以下であればセル12の出入り口付近の気体の流通を阻害しにくいからである。また、保護層18は、機能層16側の端18aから構造体10の端面11側の端18bに向けて厚みが増加する傾向の傾斜を有しており、機能層16側の端18aから0.1mmの領域において、隔壁部14の内表面15に対する傾斜の角度θが45°以下であることが好ましい。こうしたものでは、製造時や使用時に加熱環境や乾燥環境にさらされたとしても、保護層の機能層16側の端18aと機能層16との境界などにおける応力集中を抑制できるため、そうした境界や境界付近(特に機能層)にクラックが生じにくいからである。
【0033】
この保護層18は、光変質しないものであり、例えば、ガラスや、セラミックス、樹脂、金属などにより形成されたものとすることができる。このうち、ガラスなどの緻密質なものであれば、保護層18が設けられた部分からは隔壁部14内に流体が流入しないため、流体が機能層16を通過せずに隔壁部14だけを通過することがなく、分離性能をより高めることができる。保護層18は、隔壁部14の内表面15に機能層16を介して設けられていてもよいが、隔壁部14の内表面15に直接設けられていることが好ましい。隔壁部14の内表面と保護層との密着性が向上し、また、保護層18が形成される部分には機能層16を形成する必要がないため材料を節約できるからである。なお、保護層18を隔壁部14の内表面15に直接設けるには、例えば、隔壁部14の内表面端部15aに保護層18を形成した後に、機能層16を形成すればよい。
【0034】
この保護層18は、例えば、原料を含むスラリーを隔壁部14の内表面端部15aに塗布・乾燥し、必要に応じて焼成や硬化処理を行うことにより形成したものとしてもよい。原料を含むスラリーは、ガラス粉末やセラミックス粉末、樹脂粉末などの原料の他、溶媒や、有機結合剤などを含むものとしてもよい。また、保護層18の前駆体を含む前駆体スラリーとしてもよい。塗布方法は、特に限定されず、例えば上述したスラリーを所定の厚さのスポンジに含浸させてそのスポンジを隔壁部14の入口側や出口側に押しつけるスタンプにより塗布してもよい。また、上述したスラリーに、所定の深さまで隔壁部14の入口側や出口側を浸漬させるディッピングにより塗布してもよい。また、スプレーなどにより塗布してもよい。このうち、スタンプやディッピングでは、比較的容易に長さBを制御できるため、好ましい。
【0035】
シール部19は、隔壁部14の端面17からの流体の流入や流出を防ぐためのものであり、隔壁部14の端面17に設けられている。このシール部19の材質としては、保護層18と同様のものを用いることができる。このシール部19は、上述した保護層18と一体として形成されていてもよい。
【0036】
以上説明した実施例の構造体10によれば、隔壁部14の内表面端部15aに保護層18が設けられ、B/A≧0.4の関係を満たすため、セル12の奥に光が侵入しにくい。このため、金属イオンを含み光変質する機能層16に照射される光の強度が抑制され、機能層16の光変質を抑制でき、機能層16の有する分離機能を十分に発揮できる。結果として、光暴露しないようにするための特殊な取り扱いが不要であり、取り扱いが容易な構造体を提供できる。また、構造体10は、複数のセル12を備えたモノリス形状であるため、1つのセルを備えたチューブラー形状のものに比して単位体積当たりの機能層の面積が大きく、混合流体の分離効率がよい。こうした構造体10は、分離膜としての機能層16を備えた膜エレメントなどとして用いることができる。
【0037】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0038】
例えば、上述した実施形態では、構造体10は、複数のセル12を備えたモノリス形状のものとしたが、1つのセルを備えたチューブラー形状のものとしてもよい。
【0039】
上述した実施形態では、機能層16は、流体としての混合流体を分離する分離膜として機能するものとしたが、液体や気体を殺菌・浄化する殺菌・浄化膜として機能するものとしてもよい。こうした殺菌・浄化膜としての機能層16を備えた構造体10は、殺菌・浄化用フィルタとして用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下には、構造体10を具体的に作製した例を実験例として説明する。なお、実験例1〜3,5〜9,11〜15,17,18が本発明の実施例に相当し、実験例4,10,16が比較例に相当する。
【0041】
[実験例1〜18]
1.構造体10の作製
(A)隔壁部14の作製
(A−1)粗粒部14aの作製
骨材粒子として平均粒子径50μmのアルミナ粒子を用い、これに、有機結合剤、水を添加し、混練して坏土を得た。次に、プランジャー押出機を使用して、得られた坏土を押出成形し、外径が30mmφ、長さが160mmであり、円形断面のセルを有する成形体を得た。そして、得られた成形体を、熱風循環型乾燥機を使用して、100℃で24時間乾燥させ、乾燥させた成形体を、電気炉を用いて、焼成し、粗粒部14aを得た。焼成条件は、温度1500℃、焼成時間1時間、昇温速度や降温速度は100℃/時間とした。
【0042】
(A−2)細粒部形成用スラリーの塗布
骨材粒子として平均粒子径10μm程度のアルミナ粒子を用い、アルミナ粒子30質量%に分散剤を添加して細粒部形成用スラリーを調製した。そして、その細粒部形成用スラリーを、粗粒部14aの表面に塗布した。塗布方法としては、特公昭63−66566号公報に記載の複層フィルタの製造方法(焼成を除く)に従った。
【0043】
(A−3)焼成
大気雰囲気下、電気炉にて焼成を行い、細粒部14bを形成した。焼成条件は1200℃、1時間とし、昇温速度や降温速度は100℃/時間とした。こうして、粗粒部14aと細粒部14bとを有する隔壁部14を得た。なお、細粒部14bは、250μm程度の極めて薄い層として形成されている。
【0044】
(B)保護層18及びシール部19の形成
保護層18の材料として、平均粒子径10μmのガラス粉末100質量部に、有機結合剤としてメチルセルロース2質量部を添加し、更に、水を加えて、混合することによって保護層形成用スラリーを調製した。そして、その保護層形成用スラリーをスポンジに均一に含ませ、そのスポンジを押し付けることにより、隔壁部14の端面及び内表面端部15aに塗布した。その後、大気雰囲気下、電気炉にて焼成を行い保護層18及びシール部19を形成した。焼成条件は1000℃、1時間とし、昇温速度や降温速度は100℃/時間とした。こうして、隔壁部14の内表面端部15aに保護層18及びシール部19を一体として形成した。保護層18及びシール部19の厚さは、100μm程度であった。なお、この工程では、セル12の開口の最大長さ(直径)Aや構造体10の端面11からの長さBが表1に示す値となるように、保護層形成用スラリーの塗布量や塗布範囲を調整した。
【0045】
(C)機能層16の形成
(C−1)ゾルの作製
カルボキシエチルシラントリオールナトリウム塩を25質量%含む水溶液8gに、硝酸1gを添加した後に、ウォーターバス中にて、60℃で6時間加熱処理を施すことで、加水分解及び重合を進行させた。
【0046】
(C−2)成膜
得られたゾルを用いて、特開2012−40549号公報の実施例に従って成膜を行った。具体的には、まず、保護層18を形成した隔壁部14の外周面をマスキングテープでマスクした。次に、隔壁部14を流下成膜装置に固定した。そして、流下成膜装置のタンクに作製したゾルを溜め、上部からゾルを流し込みセル12内を通過させた。その後上部から風速5m/sの風を送り、余剰なゾルを除去した。
【0047】
(C−3)乾燥
さらに、特開2012−40549号公報の実施例に従って乾燥を行った。具体的には、ゾルを流し込んでゾルを付着させた隔壁部14のセル12内を、30秒以内に除湿送風機を用いて室温の風を通過させて30分間乾燥させた。なお、風速は、5〜20m/s、風露点は、−70〜0℃とした。
【0048】
(C−4)焼成
大気雰囲気下、電気炉にて、150℃で2時間保持することにより焼成を行った。
【0049】
上記(C−2)〜(C−4)の成膜・乾燥・焼成を合計6回繰り返した。
【0050】
(C−5)イオン交換
隔壁部14の外周面をマスキングテープでマスクした。次に、送液ポンプを用いて、隔壁部14の下部(入口側又は出口側)から0.5mol/LのAgBF
4水溶液を送液してセル12の上端(出口側又は入口側)まで満たし、その状態で24時間放置した。その後、送液ポンプでAgBF
4水溶液を隔壁部14の下部から排出した。その後、(C−3)の乾燥に倣って乾燥を行った。このときの条件は、風速は2m/s、風温度は23℃とした。
【0051】
2.耐光促進試験
実験例1〜18の構造体について、キセノン型ウェザーメーターを用いて、耐光促進試験を行った。そして、照射開始後12時間経過後、24時間経過後、48時間経過後のそれぞれについて、機能層の変色の有無を目視で確認した。なお、実験例1〜18の構造体では、いずれも、保護層18は、機能層16側の端18aから0.1mmの領域において、隔壁部14の内表面15に対する傾斜の角度θが45°以下であった。また、各セル間のB/Aの標準偏差が0.01以上1.0以下であった。
【0052】
表1に、耐光促進試験の結果を示す。表1において、×は変色があったもの、△は僅かに変色したもの、○は変色しなかったものを示す。この結果より、B/A≧0.4を満たすものでは、少なくとも12時間は変色せず、機能層が変質しにくいことが分かった。このうち、B/A≧1.0を満たすものでは、少なくとも24時間は変色せず、機能層がより変質しにくいことが分かった。さらに、B/A≧2.0を満たすものでは、少なくとも48時間は変色せず、機能層がより変質しにくいことがわかった。
【0053】
【表1】
【0054】
本出願は、2013年3月29日に出願された日本国特許出願第2013−071655号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、例えば、流体の濃縮、分離、浄化などを行う技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0056】
10 構造体、11 端面、12 セル、14 隔壁部、14a 粗粒部、14b 細粒部、15 内表面、15a 内表面端部、16 機能層、17 端面、18 保護層、18a,18b 端、19 シール部。