特許第6363652号(P6363652)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6363652樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法及び生存率の予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363652
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法及び生存率の予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20180712BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20180712BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20180712BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20180712BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20180712BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180712BHJP
   A61K 39/00 20060101ALN20180712BHJP
【FI】
   G01N33/53 D
   C07K14/47
   G01N33/574 A
   G01N33/48 P
   G01N37/00 102
   A61P35/00
   G01N33/53 Y
   !A61K39/00 H
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-97995(P2016-97995)
(22)【出願日】2016年5月16日
(65)【公開番号】特開2017-37059(P2017-37059A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2016年9月8日
(31)【優先権主張番号】104125986
(32)【優先日】2015年8月10日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】516144245
【氏名又は名称】中國醫藥大學附設醫院
【氏名又は名称原語表記】China Medical University Hospital
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲徳▼陽
(72)【発明者】
【氏名】邱 紹智
(72)【発明者】
【氏名】▲せん▼ 佳穎
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−515148(JP,A)
【文献】 特表2016−540042(JP,A)
【文献】 特開2013−057631(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/177624(WO,A2)
【文献】 Brendan Fong, Richard Jin, Xiaoyan Wang, et al,Monitoring of Regulatory T Cell Frequencies and Expression of CTLA-4 on T Cells, before and after DC Vaccination, Can Predict Survival in GBM Patients,PLOS ONE,米国,2012年 4月 2日,Vol.7,No.4,Page.1-9,e32614
【文献】 Junzo Hamanishi, Masaki Mandai, Masashi Iwasaki, et al,Programmed cell death 1 ligand 1 and tumor-infiltrating CD8 T lymphocytes are prognostic factors of human ovarian cancer,PNAS,米国,2007年 2月27日,Vol.104, No.9 ,Page.3360-3365
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多形性膠芽腫のサンプルにおける、PD−1タンパク質のバイオマーカーの発見量およびCD8タンパク質のバイオマーカーの発見量を測定し、
前記CD8タンパク質のバイオマーカーの発見量に対する前記PD−1タンパク質のバイオマーカーの発見量の割合である基本値(PD−1/CD8)を計算する検査工程と、
バイオマーカーの染色の強度(i)および前記多形性膠芽腫のサンプルが染色される割合(Pi)に基づいて計算される値を信号値(HSCORE)とし、CD8タンパク質の前記信号値に対するPD−1タンパク質の前記信号値の割合の中央値をプリセット閾値とすると、
前記基本値と前記プリセット閾値を比較し、前記基本値が前記プリセット閾値より低い場合、治療の後に優れた生存率を有することを示す比較工程と、
を備える生存率の予測方法。
【請求項2】
前記治療としては、手術治療、放射線治療、化学治療、免疫治療又はそれらの如何なる組合せから選ばれる請求項に記載の生存率の予測方法。
【請求項3】
前記免疫治療は、樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療である請求項に記載の生存率の予測方法。
【請求項4】
前記多形性膠芽腫のサンプルは、多形性膠芽腫患者由来の腫瘍組織又は血液である請求項に記載の生存率の予測方法。
【請求項5】
前記腫瘍組織は、組織切片又は組織マイクロアレイである請求項に記載の生存率の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌患者への免疫治療の適用の評価方法、及び癌患者の治療後の生存率を予測する方法に関し、特に、樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法及び生存率の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多形性膠芽腫(glioblastoma multiforme;GBM)とは、神経膠腫(glioma)における星状細胞腫(astrocytoma)であり、WHO分類でグレードIVの星細胞腫に属し、最もよく見られる悪性度が一番高い原発性脳腫瘍である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
多形性膠芽腫を治療する従来方法としては、手術、放射線療法や化学療法があるが、多形性膠芽腫の浸潤性(「浸潤性」とは、脳中の膠細胞が神経系における組成単位の1つとして、支持、栄養供給、環境恒定維持、絶縁等の機能を与える。)が非常に高いため、神経膠細胞が神経軸索をきつく被覆することになる。軸索が長いため、神経膠細胞が癌化すると、癌細胞は軸索に沿って遠く広がる。手術では、癌細胞の遠く浸潤される部分を切除できないため、術後に残留しやすく、術後に更に化学や放射によって補助的に治療する必要があるが、また、放射線耐性及び耐薬品性の癌幹細胞があるので、治療後の再発率がかなり高い。
【0004】
近年、癌に対する診断治療では、一般的な検査や従来の臨床病期に加え、あるバイオマーカー(biomarker)も癌の診断や、補助治療方法の決定、患者の予後状況に対する予測に用いられる。例えば、乳がんの診断治療では、エストロゲン受容体(estrogen receptor;ER)及び上皮成長因子受容体2(epidermal growth factor receptor2;HER2)をバイオマーカーとする治療医薬品の選用が既に進んでいる。多形性膠芽腫の悪性度が高く、治療後の再発率及び死亡率が高いので、医師が個別の患者により適する治療計画を臨床的に制定して、治療後の生存率を向上させるために、多形性膠芽腫治療方法の反応率又は患者の治療後の生存率への予測に関連する方法を更に発展する必要がある。
【0005】
これに鑑みて、本発明の一目的は、多形性膠芽腫患者の腫瘍組織又は末梢血単核細胞における特定なバイオマーカーの発見量を検査することで、医師が臨床的に樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療が適する多形性膠芽腫患者を快速で客観的に識別でき、樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療では殆ど効果のない患者を排除して、医療資源の効果的な分配・利用を確保する、樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法を提供することにある。
【0006】
本発明の別の目的は、多形性膠芽腫患者の腫瘍組織又は末梢血単核細胞における特定なバイオマーカーの発見量を検査することで、直接多形性膠芽腫患者の樹状細胞腫瘍ワクチンの治療後の生存率を予測して、医師が臨床的に患者に対して更に他の医薬品又は治療計画を組み合う必要があるかを判断して、その全生存期間又は無病生存期間を長める、生存率の予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による一態様では、多形性膠芽腫患者由来の検体サンプルを調整するサンプル調整工程と、検体サンプルにおける、PD−1タンパク質、PD−L1タンパク質及びCD8タンパク質からなる群から選ばれるバイオマーカーの発見量を測定し基本値を計算する検査工程と、基本値とプリセット閾値とを比較し、基本値がプリセット閾値より低い場合、樹状細胞腫瘍ワクチンが適すると判定する比較工程と、を備える樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法を提供する。
【0008】
前記樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法によれば、検体サンプルは、多形性膠芽腫患者由来の腫瘍組織又は血液であってもよい。
【0009】
前記樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法によれば、腫瘍組織は、組織切片又は組織マイクロアレイであってもよい。
【0010】
前記樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法によれば、検査工程は、免疫組織化学染色法によってバイオマーカーの発見量を測定してもよい。
【0011】
前記樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法によれば、検査工程は、組織化学採点法、又はRGB(red/green/blue)カラーモード、CMYK(cyan/magenta/yellow/key)カラーモード又はHSI(hue/saturation/intensity)カラーモードによって検体サンプルの画像を分析する画像処理法によって信号値を計算することを更に含む。
【0012】
前記樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法によれば、検査工程は、PD−1タンパク質の信号値をCD8タンパク質の信号値で割って、基本値を得ることを更に含む。
【0013】
本発明の別の態様では、多形性膠芽腫患者由来の検体サンプルを調整するサンプル調整工程と、検体サンプルにおける、PD−1タンパク質、PD−L1タンパク質及びCD8タンパク質からなる群から選ばれるバイオマーカーの発見量を測定し基本値を計算する検査工程と、基本値とプリセット閾値とを比較し、基本値がプリセット閾値より低い場合、優れた生存率を有することを示す比較工程と、を備える生存率の予測方法を提供する。
【0014】
前記生存率の予測方法によれば、治療としては、手術治療、放射線治療、化学治療、免疫治療又はそれらの如何なる組合せから選ばれてもよい。
【0015】
前記生存率の予測方法によれば、免疫治療は、樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療であってもよい。
【0016】
前記生存率の予測方法によれば、検体サンプルは、多形性膠芽腫患者由来の腫瘍組織又は血液であってもよい。
【0017】
前記生存率の予測方法によれば、腫瘍組織は、組織切片又は組織マイクロアレイであってもよい。
【0018】
前記生存率の予測方法によれば、検査工程は、免疫組織化学染色法によってバイオマーカーの発見量を測定してもよい。
【0019】
前記生存率の予測方法によれば、検査工程は、組織化学採点法、又はRGBカラーモード、CMYKカラーモード又はHSIカラーモードによって組織切片の画像を分析する画像処理法によって信号値を計算する画像処理法を更に含む。
【0020】
前記生存率の予測方法によれば、検査工程は、PD−1タンパク質の信号値をCD8タンパク質の信号値で割って、基本値を得ることを更に含む。
【0021】
本発明の説明は、本開示内容を基本的に理解させるように、本開示内容の簡略化された概要を提供する。この発明の内容は、本開示内容の完全な記述ではなく、また本発明実施例の重要な・肝心な素子を指摘し、又は本発明の範囲を限定するものではない。
下記添付図面の説明は、本発明の上記及び他の目的、特徴、メリット及び実施例をより分かりやすくするためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法を示す工程流れ図である。
図2】本発明の一実施形態に係る生存率の予測方法を示す工程流れ図である。
図3】免疫組織化学染色法によって測定する顕微写真である((A)部分がPD−1タンパク質、(B)部分がPD−L1タンパク質、(C)部分がCD8タンパク質である)。
図4】PD−L1タンパク質発見量の強さの顕微写真である((A)部分が正常脳組織のPD−L1低発見量の顕微写真、(B)部分が多形性膠芽腫患者の脳組織のPD−L1高発見量の顕微写真、(C)部分が色変換された後の正常脳組織のPD−L1低発見量の顕微写真、(D)部分が色変換された後の多形性膠芽腫患者の脳組織のPD−L1高発見量の顕微写真である)。
図5】PD−L1タンパク質発見量に基づいて多形性膠芽腫患者をグループ化させた全生存期間グラフである((A)部分が樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者の全生存期間グラフ、(B)部分が樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者の全生存期間グラフである)。
図6】PD−L1タンパク質発見量に基づいて多形性膠芽腫患者をグループ化させた無病生存率グラフである((A)部分が樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者の無病生存率グラフ、(B)部分が樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者の無病生存率グラフである)。
図7】多形性膠芽腫患者全体の生存率グラフである((A)部分が全生存期間グラフ図、(B)部分が無病生存率グラフである)。
図8】CD8タンパク質発見量に基づいて、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者をグループ化させた生存率グラフである((A)部分が全生存期間グラフ、(B)部分が無病生存率グラフである)。
図9】PD−1タンパク質発見量に基づいて、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者をグループ化させた生存率グラフである((A)部分が全生存期間グラフ、(B)部分が無病生存率グラフである)。
図10】PD−1タンパク質発見量/CD8タンパク質発見量ことに基づいて、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者をグループ化させた生存率グラフである((A)部分が全生存期間グラフ、(B)部分が無病生存率グラフである)。
図11】PD−1タンパク質発見量及びPD−L1タンパク質発見量に基づいて、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者をグループ化させた生存率グラフである((A)部分が全生存期間グラフ、(B)部分が無病生存率グラフである)。
図12】PD−1タンパク質と全生存期間との関連図である。
図13】PD−1タンパク質と無病生存期間との関連図である。
図14】PD−1タンパク質発見量/CD8タンパク質発見量と全生存期間との関連図である。
図15】PD−1タンパク質発見量/CD8タンパク質発見量と無病生存期間との関連図である。
図16】末梢血単核細胞のPD−1タンパク質発見量/CD8タンパク質発見量と腫瘍浸潤リンパ球のPD−1タンパク質発見量/CD8タンパク質発見量との関連図である。
図17】末梢血単核細胞のPD−1タンパク質発見量に基づいて、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者をグループ化させた生存期間グラフである((A)部分が全生存期間グラフ、(B)部分が無病生存率グラフである)。
図18】末梢血単核細胞のPD−1タンパク質発見量/CD8タンパク質発見量に基づいて、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者をグループ化させた生存期間グラフである((A)部分が全生存期間グラフ、(B)部分が無病生存率グラフである)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の開示内容は、多形性膠芽腫患者に免疫治療が適するかを評価する方法、生存率の予測方法を提出する。組織切片を染色するように多形性膠芽腫患者の検体サンプルの特定なバイオマーカーの発見量を測定し、組織化学採点法又は画像処理法によって半定量分析を行い、多形性膠芽腫患者に樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療が適するかを評価し、多形性膠芽腫患者の治療後の生存率を予測する。以下、本明細書に用いられる特定な名詞を説明する。
【0024】
前記「バイオマーカー(biomarker)」の用語とは、生物学的状態の指標とするものであり、客観的な測定又は評価によって正常な生物メカニズム、病原メカニズム又は治療中の反応の指標とすることができる。
【0025】
前記「PD−1(Program death−1、プログラム細胞死受容体−1)」は、表面抗原分化群279(cluster of differentiation 279;CD279)と呼ばれ、ヒトの体内のPDCD1遺伝子によりコードされるタンパク質である。PD−1は、免疫グロブリンスーパーファミリーの細胞表面受容体に属し、T細胞及び原始B細胞に発現される。
【0026】
前記「PD−L1(programmed cell death ligand 1;プログラム細胞死−配体1)」は、表面抗原分化群274(cluster of differentiation 274;CD274)又はB7同族体1(B7 homolog 1;B7−H1)とも呼ばれ、ヒトの体内のCD274遺伝子によりコードされるタンパク質である。PD−L1は、サイズが40kDaである1型膜貫通タンパクであり、妊娠、組織移植、自己免疫疾患又は、例えば肝炎のような他の疾患等の特殊な場合で、免疫システムの抑制に関連すると推測される。免疫抑制性受容体の伝送によって、負の調節シグナルを伝送するように、免疫反応の一部を発生させないように抑制し、周辺システムの免疫寛容を維持し、PD−1が免疫抑制性受容体の1つである。正常な状況において、免疫システムは、リンパ節又は脾臓に集中する外来抗原に対して反応し、抗原特異性を持つ細胞傷害性T細胞(CD8+T cell)を増殖させる。PD−L1とPD−1とが結合すると、抑制性の信号を伝導して、リンパ節CD8+T細胞の増殖を減少させることができる。PD−1は、更に、Bcl−2遺伝子を調節することで、リンパ節における抗原特異性T細胞の集合を制御することができる。
【0027】
前記「CD8(cluster of differentiation 8;表面抗原分化群8)」は、膜貫通糖タンパク質であり、CD8が細胞傷害性T細胞の細胞膜マーカーであり、T細胞受容体(T cell receptor;TCR)の共受容体であり、主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex;MHC)と結合し、且つI型MHCタンパク質に特異性的に対応する。
【0028】
図1を参照されたい。図1は、本発明の一実施形態に係る樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法100の工程流れ図である。図1において、樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法100は、工程110と、工程120と、工程130と、を備える。
【0029】
工程110は、多形性膠芽腫患者由来の検体サンプルを調整するサンプル調整工程を含むサンプリング工程を行う。検体サンプルとしては、腫瘍組織又は血液であってもよく、腫瘍組織としては、凍結組織切片、組織のパラフィン切片又は組織マイクロアレイであってもよい。
【0030】
工程120は、検体サンプルにおけるバイオマーカーの発見量を測定し基本値を計算する検査工程を行う。より具体的には、検査工程では、免疫組織化学染色法によって検体サンプルのPD−1タンパク質やPD−L1タンパク質の発見量、及びPD−1タンパク質のCD8タンパク質に対する発見量を測定してから、組織化学採点法又は画像処理法によって半定量分析を行って信号値を計算する。PD−1タンパク質の発見量及びPD−L1タンパク質の発見量を計算する場合、前記の信号値を基本値とするが、PD−1タンパク質のCD8タンパク質に対する発見量を計算する場合、PD−1タンパク質発見量の信号値をCD8タンパク質発見量で割った信号値を基本値とする。画像処理法としては、RGB(red/green/blue)カラーモード、CMYK(cyan/magenta/yellow/key)カラーモード又はHSI(hue/saturation/intensity)カラーモードによって検体サンプルの画像を分析してもよい。
【0031】
工程130は、基本値とプリセット閾値とを比較し、基本値がプリセット閾値より低い場合、多形性膠芽腫患者に樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療が適すると判定する比較工程を行う。プリセット閾値を、検査工程における基本値に対する計算方法によって調整する。
【0032】
また、図2を参照されたい。図2は、本発明の一実施形態に係る生存率の予測方法200の工程流れ図である。図2において、生存率の予測方法200は、工程210と、工程220と、工程230と、を備える。
【0033】
工程210は、多形性膠芽腫患者由来の検体サンプルを調整するサンプル調整工程を含むサンプリング工程を行う。検体サンプルとしては、腫瘍組織又は血液であってもよく、腫瘍組織としては、凍結組織切片、組織のパラフィン切片又は組織マイクロアレイであってもよい。
【0034】
工程220は、検体サンプルにおけるバイオマーカーの発見量を測定し基本値を計算する検査工程を行う。より具体的には、検査工程では、免疫組織化学染色法によって検体サンプルのPD−1タンパク質やPD−L1タンパク質の発見量、及びPD−1タンパク質のCD8タンパク質に対する発見量を測定してから、組織化学採点法又は画像処理法によって半定量分析を行って信号値を計算する。PD−1タンパク質の発見量及びPD−L1タンパク質の発見量を計算する場合、前記の信号値を基本値とするが、PD−1タンパク質のCD8タンパク質に対する発見量を計算する場合、PD−1タンパク質発見量の信号値をCD8タンパク質発見量で割った信号値を基本値とする。画像処理法としては、RGBカラーモード、CMYKカラーモード又はHSIカラーモードによって検体サンプルの画像を分析してもよい。
【0035】
工程230は、基本値とプリセット閾値とを比較し、基本値がプリセット閾値より低い場合、多形性膠芽腫患者が治療後に優れた生存率を有することを示す比較工程を行う。プリセット閾値を、検査工程における基本値に対する計算方法によって調整する。前記治療としては、手術治療、放射線治療、化学治療、免疫治療又はそれらの如何なる組合せから選ばれてもよい。好ましくは、免疫治療は、樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療であってもよい。
【0036】
下記の具体的な試験例によって、当業者であれば過度に解読せずに本発明を完全的に利用し実践できるように、更に本発明を示範的に説明する。しかし、これらの試験例は、本発明を限定するものと見なすはずではなく、本発明の材料及び方法を如何に実施するかを説明するためのものである。
【0037】
<試験例>
一、多形性膠芽腫患者
この臨床試験計画は、中国医薬大学及び付属病院研究倫理委員会(China Medical University & Hospital Research Ethics Committee)により承認されたものであり、被験者が多形性膠芽腫患者であり、患者の状況を十年間追跡した。
【0038】
27〜78歳(平均的に50.97歳)の年齢範囲にある、合計で35人の多形性膠芽腫患者が2005〜2014年間に本臨床試験計画に参与した。下記表1を参照されたい。表1は、多形性膠芽腫患者の臨床兆候であり、変数が性別、年齢及び治療形態に分けられ、治療形態が更に放射線治療、化学治療、手術治療、併用化学、放射線治療及び免疫治療に分けられる。性別を変数とする場合、35人の多形性膠芽腫患者に17人が男性であり、18人が女性であるが、年齢を変数とする場合、8人の患者の年齢が60歳以上であり、27人の患者の年齢が60歳未満である。治療形態の部分において、35人の多形性膠芽腫患者に、26人が放射線治療を、23人が化学治療を、10人が手術治療を、14人が併用化学及び放射線治療を、21人が免疫治療を受けたことがある。
【0039】
【表1】
【0040】
二、免疫組織化学染色法によるバイオマーカーのタンパク質発見量の測定
1.検体サンプルが腫瘍組織である
実験上、従来の病理切片の方式により前記多形性膠芽腫患者の腫瘍組織を検体サンプルとして取り、検体サンプルが凍結組織切片、パラフィン組織切片又は組織マイクロアレイであってもよく、後で、免疫組織化学染色法(immunohistochemistry;IHC)により得られた検体サンプルにおけるバイオマーカーPD−1、PD−L1及びCD8の発見を検査した。
【0041】
免疫組織化学染色法の工程は以下の通りであり、パラフィン組織である場合、まず厚さが1〜2μmのパラフィン組織切片サンプルを有機シランに覆われたスライドの上に置き、一晩ベーキング(50〜55℃)し、パラフィンを溶解させスライドと組織検体との付着力を強めて、後の免疫組織化学染色に寄与する。それから、まず脱ロウを行い、組織及び細胞間隙におけるパラフィンを除去してから、また免疫組織化学染色を行った。凍結切片組織である場合、厚さが2〜4μmの凍結切片に対して直接免疫組織化学染色を行った。免疫組織化学染色法に使用される一次抗体は、それぞれPD−1(Leica)、PD−L1(Abcam)及びCD8(Leica)であり、希釈倍数がそれぞれ1:200、1:100及び1:100であり、まず組織切片をEDTA 緩衝溶液により100℃で20分間反応させて抗原回復を行い、室温で一次抗体と1時間反応させた。またDAB二次抗体(検査PD−L1)又はAP二次抗体(検査PD−1及びCD8)により染色結果を検査した。すべてのサンプルに対しては、検査後にまたヘマトキシリン(Hematoxylin)により対比染色(counterstain)を行った。
【0042】
図3を参照されたい。図3は、免疫組織化学染色法によって測定する顕微写真であり、(A)部分がPD−1タンパク質、(B)部分がPD−L1タンパク質、(C)部分がCD8タンパク質であり、顕微写真の拡大倍率は何れも400倍である。図3から分かるように、多形性膠芽腫患者の脳組織切片は染色された後で、細胞核の部分が青色を呈し、PD−L1が発現された部分がブラックブラウンを呈し、PD−1及びCD8が発現された部分が赤色を呈する。
【0043】
2. 検体サンプルが血液である
実験上、前記多形性膠芽腫患者に対して採血を行って、検体サンプルとしてその血液を取り、血液検体サンプルを細胞ブロック(cell block)にした後で、免疫組織化学染色法により得られた検体サンプルにおけるバイオマーカーPD−1及びCD8の発見を検査した。
【0044】
細胞ブロックの製造工程は、下記の通りである。患者の血液検体サンプルを室温でマイクロチューブに置いて、ホルマリンで1時間固定させた。また血液検体サンプルを15000rpmの遠心力で30秒間遠心させた後で、ホルマリンにより固定された後の細胞沈澱を保留するように、上澄みを注意深く除去した。室温で最小体積の3%(w/v)の超低凝固温度の寒天液で再び細胞沈澱を懸濁させ、また15000rpmの遠心力で30秒間遠心させた。上澄みを注意深く除去し、得られた寒天細胞の懸濁液を−20℃で10〜20分間凝固させた。凝固した寒天細胞をマイクロチューブのカバーに転移して、また寒天細胞の入れたカバーを3%(w/v)の基準寒天液で十分に満たした。得られた寒天ゲルブロックをカバーから取って、パラフィンで埋め込んで組織処理を行って、細胞ブロックを得た。
【0045】
前記細胞ブロックに対して免疫組織化学染色法を行い、免疫組織化学染色法に使用される一次抗体は、それぞれPD−1(Leica)及びCD8(Leica)であり、希釈倍数がそれぞれ1:200及び1:100であり、まず細胞ブロックをEDTA緩衝溶液により100℃で20分間反応させて抗原回復を行い、室温で一次抗体と1時間反応させた。またAP二次抗体により染色結果を検査した。すべてのサンプルに対しては、検査後にまたヘマトキシリンにより対比染色を行った。
【0046】
三、結果分析
1.多形性膠芽腫組織切片の診断
通常、特定な細胞類別を鑑定することではなく、組織の様式により、組織病理学における多形性膠芽腫の診断を行った。未分化性が高い神経膠細胞、有糸分裂活性並びに血管増殖及び/又は壊死の存在は、多形性膠芽腫の診断に必要なものである。多形性膠芽腫を診断するために、小未分化細胞(small anaplastic cell;SAC)、小線維細胞(small fibrillated cell;SFC)、線維化星状膠細胞(fibrillated astrocyte;FA)、多形性星状細胞(pleomorphic astrocyte;PA)、原形質性星状膠細胞(gemistocytic astrocyte;GA)及び大多形性細胞(large bizarre cell;LBC)の6種の異なる細胞類型を定義する。且つ免疫組織化学染色切片において、繊維状様式及び膜状様式の2種類のPD−L1染色の組織様式が見られる。
【0047】
下記表2を参照されたい。本臨床試験計画における35人の多形性膠芽腫患者の免疫組織化学染色切片の診断結果であり、免疫組織化学染色切片の診断を行う場合、病理医師は、切片の元の診断の状況を知らずに切片を観察した。表2の診断結果に示すように、35人の本臨床試験計画に関与する患者は、確実に多形性膠芽腫患者であった。
【表2】
【0048】
前記35人の多形性膠芽腫患者の免疫組織化学染色検査の結果は、組織化学採点法又は画像処理法によって更に半定量分析を行ってもよい。
【0049】
2.1.組織化学採点法
2.1.1.PD−L1
組織化学採点法は、25HPF(High power field;高倍率視野)で(顕微鏡の拡大倍率は400倍であり)、多形性膠芽腫細胞膜のPD−L1タンパク質染色の強度により、0、1又は2と評点した。評点の原始の具体的な標準は、以下の通りである。0は、いかなる腫瘍細胞が染色されないことを示し、1は、腫瘍細胞の細胞膜又は細胞質が弱く又は中等程度且つ完全的に染色されることを示し、2は、腫瘍細胞の細胞膜又は細胞質が強く完全的に染色されることを示す。腫瘍細胞が染色されるパーセンテージ(染色される細胞数/すべての細胞数×100%)を計算した。組織化学採点法は、下記の式1により信号値(HSCORE)が得られた。
【数1】
iは、バイオマーカーの染色の強度(0、1又は2)を示し、Piは、腫瘍細胞が染色されるパーセンテージ(0%〜100%)を示し、得られる信号値が0〜200にある。組織化学採点法においてプリセット閾値が80であり、組織化学採点法による信号値が80以上となる場合、PD−L1高発見量と定義される。組織化学採点法による信号値が80未満となる場合、PD−L1低発見量と定義される。
【0050】
2.1.2.PD−1及びCD8
PD−1及びCD8の組織化学採点法は、25HPFで(顕微鏡の拡大倍率が400倍であり)、染色された細胞数を計算し、25HPFで得られた細胞数をプラス合計してから信号値が得られ、すべての樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者(n=21)の免疫化学組織切片を組織化学採点法により計算してから、プリセット閾値である中央値が得られ、組織化学採点法による信号値が中央値以上となる場合、高いバイオマーカー発見量と定義される。組織化学採点法による信号値が中央値未満となる場合、低いバイオマーカー発見量と定義される。
【0051】
下記表3を参照されたい。表3は、それぞれ組織化学採点法によりすべての樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者のCD8タンパク質及びPD−1タンパク質が発見される細胞数を計算し、そしてPD−1タンパク質発見量をCD8タンパク質発見量(PD−1/CD8比)の統計で割って、CD8の中央値が231、PD−1の中央値が26、PD−1/CD8比の中央値が0.13であることが明らかであり、組織化学採点法により計算されたCD8タンパク質の信号値が231以上となる場合、高いCD8発見量と定義される。組織化学採点法による信号値が231未満となる場合、低いCD8発見量と定義される。組織化学採点法により計算されたPD−1タンパク質の信号値が26以上となる場合、高いPD−1発見量と定義される。組織化学採点法による信号値が26未満となる場合、低いPD−1発見量と定義される。組織化学採点法により計算されたPD−1/CD8比が0.13以上となる場合、高いPD−1/CD8比と定義される。組織化学採点法による信号値が0.13未満となる場合、低いPD−1/CD8比と定義される。
【0052】
【表3】
【0053】
2.2.画像処理法
組織化学採点法によりPD−L1発見量を定義することができるが、人力で画像分析を行うことで、PD−L1発見量を定義するには時間がかかり又はヒトの判読による誤りが発生し、更に細胞の染色程度が定量化し難く、ヒトにより主観的に染色の強度を判断できるほかないため、本発明において画像処理法によってPD−L1タンパク質の発見量の半定量を行って、PD−L1高発見量及びPD−L1低発見量を定義する時により客観的にする。
【0054】
本試験例はRGB(red/green/blue)カラーモードによって色空間を転換させ、カラーの画像で必要な物体の特徴を強調した。実験上、まず25HPFで(顕微鏡の拡大倍率が400倍であり)顕微画像をキャプチャし、染色の強度を計算する時に、顕微画像をRGBデジタルから赤チャンネル(red channel)に転換させ、この時にRGB数値が得られた。画像処理法においてプリセット閾値が25000であり、画像処理法によって計算されたRGB数値が25000以上となる場合、PD−L1高発見量と定義される。画像処理法によって計算されたRGB数値が25000未満となる場合、PD−L1低発見量と定義される。画像は、本試験例においてRGBカラーモードを例示として、注意すべきなのは、前記RGBカラーモードは単なる画像処理法のカラーモードの一実施形態であり、本発明はこれに限定されなく、CMYK(cyan/magenta/yellow/key)カラーモード又はHSI(hue/saturation/intensity)カラーモードによって画像処理を行ってもよい。
【0055】
図4を参照されたい。図4は、PD−L1タンパク質発見量の強さの顕微写真であり、(A)部分が正常脳組織のPD−L1低発見量の顕微写真、(B)部分が多形性膠芽腫患者の脳組織のPD−L1高発見量の顕微写真、(C)部分が色変換された後の正常脳組織のPD−L1低発見量の顕微写真、(D)部分が色変換された後の多形性膠芽腫患者の脳組織のPD−L1高発見量の顕微写真である。緑の十字は、細胞核の部分であり、顕微写真における細胞数を示し、赤色は細胞のPD−L1が染められる部分である。図4の結果から分かるように、(A)及び(B)部分の顕微写真で計算された細胞数が260であり、RGB数値が3938であり、信号値が25000未満となるため、PD−L1低発見量と定義される。(C)及び(D)部分の顕微写真で計算された細胞数が307であり、RGB数値が75347であり、信号値が25000を超えるため、PD−L1高発見量と定義される。
【0056】
3.検体サンプルが腫瘍組織である場合の統計分析
3.1.生存率の分析
上記半定量方法によれば、35人の多形性膠細胞瘤患者は、バイオマーカーの発見量により高バイオマーカー発見量及び低バイオマーカー発見量の患者に分けられ、評価に使用される検体サンプルは患者の腫瘍組織であった。また更にGraphPad PRISM 4.05(San Diego;CA;USA)及びSAS 9.01により統計分析を行った。Kaplan Meierの方法により生存期(survival)を計算し、ログランク検定(log rank test)方法により生存期の統計上の顕著性を評価した。すべての統計分析において、p値が0.05未満となる場合、それが顕著性を有すると認められる。
【0057】
生存率分析(survival analysis)は、各種類の癌臨床試験によくある統計分析方法であり、時間変数を処理する統計方法であり、観察開始から「イベント(event)」の発生までかかる「時間長」を処理するデータである。本試験例で、それぞれ全生存期間(Overall Survival;OS)及び無病生存期間(Disease Free Survival;DFS)の2つの時間変数評価指標を用いた。全生存期間の評価指標は、「死亡」をイベントとし、被験者が臨床試験に入ることから死亡になるまでの時間を観察し、無病生存期間の評価指標は、「腫瘍再発」をイベントとし、被験者が臨床試験に入ることから腫瘍再発になるまでの時間を観察した。
【0058】
図5図11を参照されたい。図5は、PD−L1タンパク質発見量に基づいて多形性膠芽腫患者をグループ化させた全生存期間グラフ図であり、(A)部分が樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者の全生存期間グラフ、(B)部分が樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者の全生存期間グラフである。図6PD−L1タンパク質発見量に基づいて多形性膠芽腫患者をグループ化させた無病生存率グラフであり、(A)部分が樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者の無病生存率グラフ、(B)部分が樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者の無病生存率グラフである。
【0059】
図7は、すべての多形性膠芽腫患者の生存率グラフであり、(A)部分が全生存期間グラフ図、(B)部分が無病生存率グラフである。図8は、CD8タンパク質発見量に基づいて、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者をグループ化させた生存率グラフであり、(A)部分が全生存期間グラフ、(B)部分が無病生存率グラフである。図9は、PD−1タンパク質発見量に基づいて、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者をグループ化させた生存率グラフであり、(A)部分が全生存期間グラフ、(B)部分が無病生存率グラフである。
【0060】
図10は、PD−1タンパク質発見量/CD8タンパク質発見量によるものに基づいて、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者をグループ化させた生存率グラフであり、(A)部分が全生存期間グラフ、(B)部分が無病生存率グラフである。図11は、PD−1タンパク質発見量及びPD−L1タンパク質発見量に基づいて、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者をグループ化させた生存率グラフであり、(A)部分が全生存期間グラフ、(B)部分が無病生存率グラフである。樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者の人数が14人であり、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者の人数が21人であり、すべての多形性膠芽腫患者の人数が35人であり、図面に示す中空ドットは、制限データが発生する時間点を標示した。
【0061】
図5の結果から分かるように、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者又は樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者を問わず、低いPD−L1タンパク質発見量患者の全生存期間時間は、高いPD−L1タンパク質発見量患者よりも長い。ログランク検定方法により評価すれば、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者のグループにおいて、低いPD−L1タンパク質発見量及び高いPD−L1タンパク質発見量の2組のp値が0.184であるが、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者のグループにおいて、低いPD−L1タンパク質発見量及び高いPD−L1タンパク質発見量の2組のp値が0.138であった。
【0062】
図6の結果から分かるように、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者又は樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者を問わず、低いPD−L1タンパク質発見量患者は、高いPD−L1タンパク質発見量患者よりも腫瘍再発の発生時間が長い。ログランク検定方法により評価すれば、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者のグループにおいて、低いPD−L1タンパク質発見量及び高いPD−L1タンパク質発見量の2組のp値が0.771であった。樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者のグループにおいて、低いPD−L1タンパク質発見量及び高いPD−L1タンパク質発見量の2組のp値が0.743であった。
【0063】
図7において合計で4つのグループがあり、グループ1が低いPD−L1タンパク質発見量且つ樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者であり、グループ2が高いPD−L1タンパク質発見量且つ樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者であり、グループ3が低いPD−L1タンパク質発見量且つ樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者であり、グループ4が高いPD−L1タンパク質発見量且つ樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者である。
【0064】
図7(A)の結果から分かるように、グループ1及びグループ2の樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者は、グループ3及びグループ4樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者よりも全生存期間時間が長いが、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けるかを問わず、低いPD−L1タンパク質発見量の多形性膠芽腫患者の全生存期間時間の何れも高いPD−L1タンパク質発見量の多形性膠芽腫患者よりも長い。ログランク検定方法により評価して、4つのグループのp値が0.001未満となり、グループ3及びグループ1の2組のp値が0.001未満となり、グループ4及びグループ2の2組のp値が0.001未満となり、グループ3及びグループ2の2組のp値が0.001未満となる。
【0065】
図7(B)の結果から分かるように、グループ1及びグループ2の樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者は、無病生存率時間の何れもグループ3及びグループ4樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けない多形性膠芽腫患者よりも長いが、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けるかを問わず、低いPD−L1タンパク質発見量の多形性膠芽腫患者の無病生存率時間の何れも高いPD−L1タンパク質発見量の多形性膠芽腫患者よりも長い。ログランク検定方法により評価して、4つのグループのp値が0.004に等しく、グループ3及びグループ1の2組のp値が0.016に等しく、グループ4及びグループ2の2組のp値が0.020に等しく、グループ3及びグループ2の2組のp値が0.048に等しい。
【0066】
図8の結果から分かるように、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者において、低CD8タンパク質発見量及び高CD8タンパク質発見量の患者は、全生存期間又は無病生存期間でも差異が無く、低CD8タンパク質発見量及び高CD8タンパク質発見量の2組は全生存期間におけるp値が0.734であり、無病生存期間におけるp値が0.792である。
【0067】
図9の結果から分かるように、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者において、低いPD−1タンパク質発見量及び高いPD−1タンパク質発見量の患者は、全生存期間の面で顕著な差異があり、p値が0.004であり、無病生存期間の面でも顕著な差異があり、p値が0.146である。
【0068】
図10の結果から分かるように、PD−1タンパク質発見量をCD8タンパク質発見量(PD−1/CD8比)で割ることによるものを基準とする場合、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者において、低いPD−1/CD8比の患者は、高いPD−1/CD8比の患者よりも全生存期間が著しく長く、p値が0.006であった。無病生存期間の面では、低いPD−1/CD8比の患者も高いPD−1/CD8比の患者よりも長く、p値が0.158であった。
【0069】
別に図11から、PD−1タンパク質発見量及びPD−L1タンパク質発見量の各々の、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者の全生存期間及び無病生存期への影響を同時に観察した。図11において合計で4つのグループがあり、グループ5が低いPD−1タンパク質発見量且つ低いPD−L1タンパク質発見量の患者であり、グループ6が高いPD−L1タンパク質発見量且つ低いPD−L1タンパク質発見量の患者であり、グループ7が低いPD−1タンパク質発見量且つ高いPD−L1タンパク質発見量の患者であり、グループ8が高いPD−1タンパク質発見量且つ高いPD−L1タンパク質発見量の患者である。
【0070】
図11(A)の結果から分かるように、全生存期間が一番長いグループは低いPD−1タンパク質発見量且つ低いPD−L1タンパク質発見量の患者(グループ5)である。PD−1の発見量から見て、グループ5及びグループ7の低いPD−L1タンパク質発見量の患者は、グループ6及びグループ8の高いPD−L1タンパク質発見量の患者よりも全生存期間時間が長い。しかしながら、PD−L1の発見量から見て、低いPD−L1タンパク質発見量のグループにおいて(グループ5及びグループ6)、低いPD−L1タンパク質発見量且つ高いPD−1タンパク質発見量のグループ6は、逆に高いPD−L1タンパク質発見量且つ低いPD−1タンパク質発見量のグループ7よりも全生存期間が短くなって、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者にとって、PD−1タンパク質の発見量がPD−L1タンパク質の発見量よりも重要となることが明らかである。ログランク検定方法により評価して、4つのグループのp値が0.007に等しく、グループ5及びグループ6の2組のp値が0.046に等しく、グループ5及びグループ7の2組のp値が0.851に等しく、グループ5及びグループ8の2組のp値が0.018に等しく、グループ6及びグループ7の2組のp値が0.317に等しく、グループ6及びグループ8の2組のp値が0.142に等しく、グループ7及びグループ8の2組のp値が0.129に等しい。
【0071】
図11(B)の結果から分かるように、無病生存期が一番長いグループは低いPD−1タンパク質発見量且つ低いPD−L1タンパク質発見量の患者(グループ5)である。しかしながら、無病生存期分析から見て、各組の間の差異が大きくなく、グループ5及びグループ7の低いPD−1タンパク質発見量の患者の無病生存率時間は、グループ6及びグループ8の高いPD−1タンパク質発見量の患者よりも長く、差異が大きくない。ログランク検定方法により評価して、4つのグループのp値が0.341に等しく、グループ5及びグループ6の2組のp値が0.809に等しく、グループ5及びグループ7の2組のp値が0.388に等しく、グループ5及びグループ8の2組のp値が0.274に等しく、グループ6及びグループ7の2組のp値が0.317に等しく、グループ6及びグループ8の2組のp値が0.330に等しく、グループ7及びグループ8の2組のp値が0.129に等しい。
【0072】
生存分析の結果から分かるように、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者又は他の治療を受けた多形性膠芽腫患者を問わず、低いPD−L1タンパク質発見量の患者は、高いPD−L1タンパク質発見量の患者よりも全生存期間と無病生存期間との何れも長く、且つこの差異が樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者においてより顕著となる。PD−L1発見量が低い多形性膠芽腫患者に樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療が適し、且つその治療後の生存率が優れた。また、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者において、低いPD−1タンパク質発見量の患者は、高いPD−1タンパク質発見量の患者よりも全生存期間と無病生存期間との何れも長く、また、低いPD−1/CD8比の患者も、高いPD−1/CD8比の患者よりも全生存期間及び無病生存期間が長い。PD−1発見量が低い多形性膠芽腫患者、又はPD−1/CD8比が低い多形性膠芽腫患者に樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療が適し、且つその治療後の生存率が優れ、特に樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療を受けた場合を指す。
【0073】
3.2.処理効果の評価分析
ログランク検定方法により単なる異なるグループの間の差異の顕著性を判断できるが、処理効果(treatment effect)の見積もりを提供できなく、本試験例は更にCox比例ハザードモデル(Cox proportional hazard model)により処理効果を評価した。
【0074】
表4を参照されたい。表4は、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者のハザード比(hazard ratio)の見積もり及び95%信頼区間である。ハザード比が1を超える場合、このバイオマーカーが発見される患者の死亡イベントの発生比率は、このバイオマーカーが発見されない患者よりも大きいことを示し、ハザード比が1を超え、p値が0.05未満となり且つ95%信頼区間が1未満となる場合、このバイオマーカーの発見が統計上の顕著な差異に達すことを示す。表4の結果から分かるように、統計上に顕著な意義を有するのはPD−1が全生存期間における影響であり、高いPD−1タンパク質発見量患者の死亡イベントの発生比率は低いPD−1タンパク質発見量患者の4.72倍であり、PD−1タンパク質発見量が樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者の全生存期間に対して重要な影響がある。
【0075】
【表4】
【0076】
3.3.関連係数の分析
本試験例は、更にピアソン関連係数(Pearson correlation coefficient)により、それぞれ樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者のPD−1タンパク質発見量と全生存期間の関連性、PD−1タンパク質発見量と無病生存期間の関連性、PD−1/CD8比と全生存期間の関連性及びPD−1/CD8比と無病生存期間の関連性を分析した。ピアソン関連係数は2つの連続変数(x,y)の間の直線関係の強さの測量に用いられ、計算されたピアソン関連係数(r)は−1〜+1の間に介在し、rが0を超える場合、2つの変数が正の関連関係を有し、即ちxの増加につれて、yも伴って逓増した。rが0未満となる場合、2つの変数が負の関連関係を有し、即ちxの増加につれて、yが伴って逓減した。2つの変数の間の関連程度が|r|により決められ、|r|が約1である場合、2つの変数が完全的に関連することを示す。|r|が0.7〜0.99にある場合、2つの変数が高く関連することを示す。|r|が0.4〜0.69にある場合、2つの変数が中程度に関連することを示す。|r|が0.1〜0.39にある場合、2つの変数が低程度に関連することを示す。|r|が0.01〜0.09にある場合、2つの変数が関連しないことに近似していることを示す。|r|が0にほぼ等しい場合、2つの変数が関連しないことを示す。
【0077】
図12図15及び表5〜表8を参照されたい。図12は、PD−1タンパク質と全生存期間との関連図であり、表5は、PD−1タンパク質及び全生存期間の関連係数である。図13は、PD−1タンパク質と無病生存期間との関連図であり、表6は、PD−1タンパク質と無病生存期間との関連係数である。図14は、PD−1/CD8比と全生存期間との関連図であり、表7は、PD−1/CD8比及び全生存期間の関連係数である。図15は、PD−1/CD8比と無病生存期間との関連図であり、表8は、PD−1/CD8比と無病生存期間との関連係数である。
【0078】
【表5】
【0079】
【表6】
【0080】
【表7】
【0081】
【表8】
【0082】
図12及び表5の結果から分かるように、PD−1及び全生存期間は負の関連関係となり、且つそのピアソン関連係数が−0.446であり統計上の顕著な関連性に達する。図13及び表6の結果から分かるように、PD−1及び無病生存期間は負の関連関係となり、そのピアソン関連係数が−0.338であり、PD−1及び全生存期間が低く関連することを示す。図14及び表7の結果から分かるように、PD−1/CD8比及び全生存期間は、負の関連関係となり、且つそのピアソン関連係数が−0.677であり統計上の顕著な関連性に達する。図15及び表8の結果から分かるように、PD−1/CD8比及び無病生存期間は負の関連関係となり、そのピアソン関連係数が−0.377であり、PD−1/CD8比及び無病生存期間が低く関連することを示す。
【0083】
関連係数分析の結果から分かるように、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者のPD−1タンパク質発見量が低ければ低いほど、その全生存期間及び無病生存期間が長くなり、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者のPD−1/CD8比が低ければ低いほど、その全生存期間及び無病生存期間も長くなる。PD−1発見量が低い多形性膠芽腫患者、又はPD−1/CD8比が低い多形性膠芽腫患者に樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療が適し、且つその治療後の生存率が優れ、特に樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療を受けた場合を指す。
【0084】
4.検体サンプルが血液である場合の統計分析
4.1.関連係数の分析
下記表9を参照されたい。表9は、それぞれ組織化学採点法により、13人の樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者の末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell;PBMC)及び腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte;TIL)を計算し、CD8タンパク質及びPD−1タンパク質が発見される細胞数、及びPD−1タンパク質発見量/CD8タンパク質発見量(PD−1/CD8比)を統計した。
【0085】
PD−1及びCD8の組織化学採点法は、25HPFで(顕微鏡の拡大倍率は400倍であり)、染色された細胞数を計算し、25HPFで得られた細胞数をプラス合計してから信号値が得られ、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者(n=13)の細胞ブロックを組織化学採点法により計算してから、プリセット閾値である中央値が得られ、組織化学採点法による信号値が中央値以上となる場合、高いバイオマーカー発見量と定義される。組織化学採点法による信号値が中央値未満となる場合、低いバイオマーカー発見量と定義される。CD8の中央値が231、PD−1の中央値が26、PD−1/CD8比の中央値が0.13であるため、組織化学採点法により計算されたCD8タンパク質の信号値が231以上となる場合、高いCD8発見量と定義される。組織化学採点法による信号値が231未満となる場合、低いCD8発見量と定義される。組織化学採点法により計算されたPD−1タンパク質の信号値が26以上となる場合、高いPD−1発見量と定義される。組織化学採点法による信号値が26未満となる場合、低いPD−1発見量と定義される。組織化学採点法により計算されたPD−1/CD8比が0.13以上となる場合、高いPD−1/CD8比と定義される。組織化学採点法による信号値が0.13未満となる場合、低いPD−1/CD8比と定義される。
【0086】
【表9】
【0087】
本試験例は、更にピアソン関連係数により、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者の末梢血単核細胞のPD−1/CD8比と腫瘍浸潤リンパ球のPD−1/CD8比との関連性を分析した。図16及び表10を参照されたい。図16は、末梢血単核細胞のPD−1/CD8比と腫瘍浸潤リンパ球のPD−1/CD8比との関連図である。表10は、末梢血単核細胞のPD−1/CD8比と腫瘍浸潤リンパ球のPD−1/CD8比との関連係数である。
【0088】
【表10】
【0089】
図16及び表10の結果から分かるように、末梢血単核細胞のPD−1/CD8比と腫瘍浸潤リンパ球のPD−1/CD8比とが正の関連関係を有し、そのピアソン関連係数が0.752であるので、末梢血単核細胞のPD−1/CD8比と腫瘍浸潤リンパ球のPD−1/CD8比とが高い関連性となることが明らかになり、本発明の樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法及び生存率の予測方法によれば、患者の腫瘍組織を取得せずに、多形性膠芽腫患者の血液検体サンプルだけで評価することができることが証明された。
【0090】
4.2.生存分析
上記半定量方法によれば、13人の樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性??細胞瘤患者は、バイオマーカーの発見量により高バイオマーカー発見量及び低バイオマーカー発見量の患者に分けられ、評価に使用される検体サンプルは患者の血液であった。また更にGraphPad PRISM 4.05 (San Diego;CA;USA)及びSAS 9.01により統計分析を行った。Kaplan Meierの方法により生存期(survival)を計算し、ログランク検定(log rank test)方法により生存期の統計上の顕著性を評価した。すべての統計分析において、p値が0.05未満となる場合、それが顕著性を有すると認められる。
【0091】
図17及び図18を参照されたい。図17は、末梢血単核細胞のPD−1タンパク質発見量に基づいて、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者をグループ化させた生存期間グラフである((A)部分が全生存期間グラフ、(B)部分が無病生存率グラフである)。図18は、末梢血単核細胞のPD−1/CD8比に基づいて、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者をグループ化させた生存期間グラフである((A)部分が全生存期間グラフ、(B)部分が無病生存率グラフである)。
【0092】
図17の結果から分かるように、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者において、低いPD−1タンパク質発見量及び高いPD−1タンパク質発見量の患者は、全生存期間の面で顕著な差異があり、p値が0.014であり、無病生存期間の面でも顕著な差異があり、p値が0.232であった。
【0093】
図18の結果から分かるように、PD−1/CD8比を基準とする場合、樹状細胞腫瘍ワクチン治療を受けた多形性膠芽腫患者において、低いPD−1/CD8比の患者は、高いPD−1/CD8比の患者よりも全生存期間がが著しく長く、p値が0.019であった。無病生存期間の面では、低いPD−1/CD8比の患者も高いPD−1/CD8比の患者よりも長く、p値が0.024であった。
【0094】
図17及び図18の結果から分かるように、多形性膠芽腫患者の血液を検体サンプルとして評価する場合、その結果が多形性膠芽腫患者の腫瘍組織を検体サンプルとして評価する場合と同じであり、多形性膠芽腫患者から採血するだけで、この多形性膠芽腫患者に樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療が適するかを評価し、及び多形性膠芽腫患者の治療後生存率を予測することができることは再び証明された。
【0095】
上記のことを纏めると、本発明は、多形性膠芽腫患者の腫瘍組織又は末梢血単核細胞におけるPD−1タンパク質発見量、PD−L1タンパク質発見量を検査し又はPD−1/CD8比を計算することで、医師が臨床的に樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療が適する多形性膠芽腫患者を快速で客観的に識別し、樹状細胞腫瘍ワクチンに基づく免疫治療では殆ど効果のない患者を排除して、医療資源の効果的な分配・利用を確保する、樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法を提供する。本発明は、生存率の予測方法を別に提供する。多形性膠芽腫患者の腫瘍組織又は末梢血単核細胞におけるPD−1タンパク質発見量、PD−L1タンパク質発見量を検査し又はPD−1/CD8比を計算することで、直接多形性膠芽腫患者の治療後の生存率を予測して、医師が臨床的に患者に対して更に他の医薬品又は治療計画を組み合う必要があるかを判断して、その全生存期間又は無病生存期間を長める。
【0096】
本発明の実施形態を前述の通りに開示したが、これは、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、多様の変更や修正を加えることができ、したがって、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲で指定した内容を基準とする。
【符号の説明】
【0097】
100 樹状細胞腫瘍ワクチンの適性評価方法
110、120、130、210、220、230 工程
200 生存率の予測方法
図1
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