(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363816
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】レジンダイヤモンドワイヤソーの評価方法および試験機
(51)【国際特許分類】
G01N 3/58 20060101AFI20180712BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
G01N3/58 M
B24B27/06 Z
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-515152(P2018-515152)
(86)(22)【出願日】2017年8月4日
(86)【国際出願番号】JP2017028456
(87)【国際公開番号】WO2018026010
(87)【国際公開日】20180208
【審査請求日】2018年3月20日
(31)【優先権主張番号】特願2016-154238(P2016-154238)
(32)【優先日】2016年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000133685
【氏名又は名称】株式会社TKX
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】近藤 貴行
(72)【発明者】
【氏名】石動 裕也
【審査官】
福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−004646(JP,A)
【文献】
特開2006−095644(JP,A)
【文献】
特開2002−254286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/58
B24B 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線材や化学繊維線材を芯材とするワイヤソーの特性を評価する方法であって、複数の該ワイヤソーを間隔をおいて、冶具に張設する工程と、該冶具を左右に往復稼動させる一方、該冶具上に固定した該ワイヤソーに直交する状態に試験片を配置する工程と、該試験片を下降させ、該ワイヤソーと該試験片とが接触した点を原点とし、該試験片が該ワイヤソーを押しつける荷重負荷を一定時間おきに測定する工程を含み、荷重負荷中の第1の変曲点12と第2の変曲点23を切削開始時と砥粒脱落開始時とし、切削開始時から砥粒脱落開始時までを切削安定時間として測定することで該ワイヤソーの特性を評価することを特徴とする方法。
【請求項2】
金属線材や化学繊維線材を芯材とするワイヤソーの特性を評価する方法であって、複数の該ワイヤソーを間隔をおいて、冶具に張設する工程と、該冶具を左右に往復稼動させる一方、該冶具上に固定した該ワイヤソーに直交する状態に試験片を配置する工程と、該試験片を下降させ、該ワイヤソーと該試験片とが接触した点を原点とし、該試験片が該ワイヤソーを押しつける荷重負荷を一定時間おきに測定する工程を含み、荷重負荷中の第2の変曲点23と第3の変曲点34を砥粒脱落開始時と結合材剥離開始時とし、砥粒脱落開始時から結合材剥離開始時までを切削不安定時間として測定することで該ワイヤソーの特性を評価することを特徴とする方法。
【請求項3】
金属線材や化学繊維線材を芯材とするワイヤソーの特性を評価する方法であって、複数の該ワイヤソーを間隔をおいて、冶具に張設する工程と、該冶具を左右に往復稼動させる一方、該冶具上に固定した該ワイヤソーに直交する状態に試験片を配置する工程と、該試験片を下降させ、該ワイヤソーと該試験片とが接触した点を原点とし、該試験片が該ワイヤソーを押しつける荷重負荷を一定時間おきに測定する工程を含み、荷重負荷中の第3の変曲点34と第4の変曲点45を結合材剥離開始時と評価終了時とし、結合材剥離開始時から評価終了時までを切削不能時間とすることで該ワイヤソーの特性を評価することを特徴とする方法。
【請求項4】
金属線材や化学繊維線材を芯材とするワイヤソーの特性を評価する方法であって、複数の該ワイヤソーを間隔をおいて、冶具に張設する工程と、該冶具を左右に往復稼動させる一方、該冶具上に固定した該ワイヤソーに直交する状態に試験片を配置する工程と、該試験片を下降させ、該ワイヤソーと該試験片とが接触した点を原点とし、該試験片が該ワイヤソーを押しつける荷重負荷を一定時間おきに測定する工程を含み、前記ワイヤソーの荷重負荷の変化量を5段階に分け、1段階目で切削開始でのインゴットへの切り込み評価(切削に必要な荷重負荷が印加されるまでのワイヤソーの滑り)、2段階目で砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じない領域での切削性、3段階目で砥粒の脱落が生じた際の切削性、4段階目で結合材層の剥離の起点および剥離状態での切削性、5段階目で断線に至るまでの荷重を測定することを特徴とするワイヤソーの特性を評価する方法。
【請求項5】
ピアノ線(鋼線)を代表とされる金属線材やレーヨンを代表とされる化学繊維線材の表面に、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂などで代表される樹脂材を被覆した被覆ワイヤの剥離強度を評価する方法であって、複数の該被覆ワイヤを間隔をおいて、冶具に張設する工程と、該冶具を左右に往復稼動させる一方、該冶具上に固定した該被覆ワイヤに直交する状態に試験片を配置する工程と、該試験片を下降させ、該被覆ワイヤと該試験片とが接触した点を原点とし、該試験片が該被覆ワイヤを押しつける荷重負荷を一定時間おきに測定する工程を含み、荷重負荷中の変曲点を樹脂材剥離開始時とし、測定開始時から樹脂材剥離開始時までの時間を測定することで該被覆ワイヤの樹脂材剥離強度を評価することを特徴とする方法。
【請求項6】
金属線材や化学繊維線材の表面に砥粒を結合材で固着したワイヤソーの特性を評価する試験機であって、複数の該ワイヤソーを張設する冶具と、該冶具を左右に往復稼動させる機構と、該冶具上に固定した該ワイヤソーに直交する状態に試験片を配置させる該冶具と、該試験片を下降させる機構と、荷重を測定させるロードセルと、たわみ量を測定させる機構を備え、加工液(クーラント)を該ワイヤソーと該試験片にかける機構を備えることを特徴とするワイヤソーの特性を評価する試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジンダイヤモンドワイヤソーの切削性能評価方法および切削性能評価試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池用途のシリコンインゴットの切断やサファイアインゴットの切断において、固定砥粒ワイヤソーである電着ワイヤソーやレジンダイヤモンドボンドワイヤソーを用いた切断加工が行われている。
【0003】
レジンダイヤモンドボンドワイヤソーとしては、高抗張力金属線の表面に砥粒をポリアミドイミド樹脂を介して固着させたものが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、近年、切れ味や寿命の向上を目的とし、切れ味や寿命の向上のために、レジンボンド成分にアミン系シランカップリング剤を添加し、結合材層と砥粒、およびレジンボンドと芯線間での接着力が向上させたものが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−138114号
【特許文献2】国際公開WO2013−179498号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記ワイヤソーにおいて、切削性能を評価するうえで、マルチワイヤソーでインゴットを切断加工する必要がある。しかしながら、実際にマルチワイヤソーで切断加工された固定砥粒ワイヤソーの切削性能評価は、切断加工されたウェーハの表面状態や加工終了後の固定砥粒ワイヤソーの状態から推測して評価する他なく、加工中の砥粒の脱落や結合材層の剥離がいつのタイミングで生じ、切削性能に与える影響をその場観察にて評価できないという欠点がある。さらに、マルチワイヤソーでの切断加工において、1回の評価ではクーラントの影響や加工条件などでばらつきが生じ複数回の評価が必要となり、評価時間が非常にかかるため、切削性能評価結果を得るために長時間を要する。そこで、本発明は、切断加工中のインゴットへの切り込むまでに要する時間(切削に必要な荷重負荷が印加されるまでの固定砥粒ワイヤソーの滑り)や砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じない切削安定領域での時間、砥粒の脱落が生じ切削性が不安定な領域での時間や、結合材層の剥離の起点および剥離状態での切削性が不安定な領域での時間を、実際にマルチワイヤソーで切断加工することなく、評価することで切削性能に与える影響をその場観察にて評価する方法および試験機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するために鋭意研究の結果、本発明者は、荷重負荷の曲線には、1)必要な荷重負荷が印加されるまでの荷重負荷の曲線、2)切削に必要な荷重負荷が印加され安定的に切削が行われている際の曲線、3)砥粒の摩耗や脱落が生じ不安定的に切削が行われている際の曲線、4)結合材の剥離が生じ切削が不能となる際の曲線、5)断線が起こるまでの曲線があり、この各段階に移行するに当たっては変曲点が表れ、この変曲点を利用すると、第1の変曲点から第2の変曲点までを切削開始時から砥粒脱落開始時までの切削安定時間として評価することができ、第2の変曲点から第3の変曲点までを砥粒脱落開始時から結合材剥離開始時までの切削不安定時間として砥粒結合強度を評価することができ、第3の変曲点から第4の変曲点までを結合材剥離開始時から評価終了時までの切削不能時間として評価することができることを見出した。すなわち、ワイヤソーでの切断加工中のインゴットへの切り込むまでに要する時間(切削に必要な荷重負荷が印加されるまでのワイヤソーの滑り)や砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じない切削安定領域での時間、砥粒の脱落が生じ切削性が不安定な領域での時間や、結合材層の剥離の起点および剥離状態での切削性が不安定な領域での時間を考慮することが切削性能評価にとって重要であることを見出し、本発明を完成した。特に、レジンダイヤモンドワイヤソーにおいて切削性能を1回の切削試験で切削試験中のワイヤの状態を多段階、特に少なくとも5段階(1段階目:切削開始までのインゴットへの切り込むまでに要する時間(切削に必要な荷重負荷が印加されるまでの固定砥粒ワイヤソーの滑り)、2段階目:砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じない切削安定領域での時間、3段階目:砥粒の脱落が生じ切削性が不安定な領域での時間、4段階目:結合材層の剥離の起点および剥離状態での切削性が不安定な領域での時間、5段階目:断線に至るまでの時間)に切り分けると、各段階での切削性能に与える影響をその場観察にて評価することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1は、金属線材や化学繊維線材を芯材とするワイヤソーの特性を評価する方法であって、複数のワイヤソーを間隔をおいて、冶具に張設する工程と、該冶具を左右に往復稼動させる一方、該冶具上に固定した該ワイヤソーに直交する状態に該試験片を配置する工程と、該試験片を下降させ、該ワイヤソーと該試験片とが接触した点を原点とし、該試験片が該ワイヤソーを押しつける荷重負荷を一定時間おきに測定する工程を含み、荷重負荷中の第1の変曲点と第2変曲点を切削開始時と砥粒脱落開始時とし、切削開始時から砥粒脱落開始時までを切削安定時間として測定することで該ワイヤソーの特性を評価することを特徴とする方法にある。
本発明の第2は、金属線材や化学繊維線材を芯材とするワイヤソーの特性を評価する方法であって、複数の該ワイヤソーを間隔をおいて、冶具に張設する工程と、該冶具を左右に往復稼動させる一方、該冶具上に固定した該ワイヤソーに直交する状態に該試験片を配置する工程と、該試験片を下降させ、該ワイヤソーと該試験片とが接触した点を原点とし、該試験片が該ワイヤソーを押しつける荷重負荷を一定時間おきに測定する工程を含み、荷重負荷中の第2の変曲点と第3の変曲点を砥粒脱落開始時と結合材剥離開始時とし、砥粒脱落開始時から結合材剥離開始時までを切削不安定時間として測定することで該ワイヤソーの特性を評価することを特徴とする方法にある。
また、本発明の第3は、金属線材や化学繊維線材を芯材とするワイヤソーの特性を評価する方法であって、複数の該ワイヤソーを間隔をおいて、冶具に張設する工程と、該冶具を左右に往復稼動させる一方、該冶具上に固定した該ワイヤソーに直交する状態に該試験片を配置する工程と、該試験片を下降させ、該ワイヤソーと該試験片とが接触した点を原点とし、該試験片が該ワイヤソーを押しつける荷重負荷を一定時間おきに測定する工程を含み、荷重負荷中の第3の変曲点と第4の変曲点を結合材剥離開始時と評価終了時とし、結合材剥離開始時から評価終了時までを切削不能時間とすることで該ワイヤソーの特性を評価することを特徴とする方法とする。さらに、本発明の第4は、金属線材や化学繊維線材を芯材とするワイヤソーの特性を評価する方法であって、複数の該ワイヤソーを間隔をおいて、冶具に張設する工程と、該冶具を左右に往復稼動させる一方、該冶具上に固定したワイヤソーに直交する状態に該試験片を配置する工程と、該試験片を下降させ、該ワイヤソーと該試験片とが接触した点を原点とし、該試験片が該ワイヤソーを押しつける荷重負荷を一定時間おきに測定する工程を含み、該ワイヤソーの荷重負荷の変化量を5段階に分け、1段階目で切削開始でのインゴットへの切り込み評価(切削に必要な荷重負荷が印加されるまでのワイヤソーの滑り)、2段階目で砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じない領域での切削性、3段階目で砥粒の脱落が生じた際の切削性、4段階目で結合材層の剥離の起点および剥離状態での切削性、5段階目で断線に至るまでの荷重を測定することを特徴とする該ワイヤソーの特性を評価する方法にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、第1の方法により、切削安定時間を測定することができる。第2の方法によれば、砥粒の結合強度を評価することができる。第3の方法によれば、結合材の剥離強度を測定することができる。また、第1の方法と、第2の方法と第3の方法を統合すると、切削安定時間、砥粒結合強度評価、結合材の剥離強度評価、断線強度評価から、レジンダイヤモンドワイヤソーにおいて総合的に、多段階で切削性能を評価することができる。特に1回の切削試験で切削試験中のワイヤの状態を5段階に分ける時は、1段階目:切削開始でのインゴットへの切り込むまでの時間(切削に必要な荷重負荷が印加されるまでのワイヤソーの滑り)、2段階目:砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じない切削安定領域での時間、3段階目:砥粒の脱落が生じ切削性が不安定な領域での時間、4段階目:結合材層の剥離の起点および剥離状態での切削性が不安定な領域での時間、5段階目:断線に至るまでの時間)に切り分ける事により、さらに各段階での切削性能に与える影響をその場観察にて評価することができる。本発明においては、必要な荷重負荷が印加されるまでの荷重負荷の曲線から得られる近似直線1と、切削に必要な荷重負荷が印加され安定的に切削が行われている際の曲線の近似直線2との交点を第1の変曲点12として切削開始時とする一方、切削に必要な荷重負荷が印加され安定的に切削が行われている際の曲線から得られる近似直線2と、砥粒の摩耗や脱落が生じ不安定的に切削が行われている際の曲線の近似直線3との交点を第2の変曲点23として砥粒脱落開始時とする。また、砥粒の摩耗や脱落が生じ不安定的に切削が行われている際の曲線の近似直線3との交点を第2の変曲点23とし、砥粒脱落開始時とする一方、砥粒の摩耗や脱落が生じ不安定的に切削が行われている際の曲線の近似直線3と、結合材の剥離が生じ不安定的に切削が行われている際の曲線の近似直線4との交点を第3の変曲点34とし、結合材剥離開始時とする。さらにまた、結合材の剥離が生じ不安定的に切削が行われている際の曲線の近似直線4と断線が生じる曲線の近似直線5との交点を第4の変曲点45とし、この変曲点45を評価終了時とする。
【0010】
本発明は前記固定砥粒ワイヤソーにおいて、ピアノ線(鋼線)を代表とされる金属線材やレーヨンを代表とされる化学繊維線材の表面に、Niメッキなどの電着方法で砥粒を固着された電着ワイヤソーや、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂などで代表される樹脂材を結合材として固着させたレジンダイヤモンドワイヤソー、さらに、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂などで代表される樹脂材を被覆したワイヤの特性を評価することが可能である。また、砥粒を含まない被覆ワイヤにおいては、荷重負荷中の変曲点を樹脂材剥離開始時とし、測定開始時から樹脂材剥離開始時までの時間を測定することで該被覆ワイヤの樹脂材剥離強度を評価することも可能である。
【0011】
本発明の多段階評価を行うにあたっては、前記ワイヤソーおよび前記被覆ワイヤを固定する間隔として、該ワイヤソーの線径の2倍以上で固定することが好ましい。該ワイヤソーの線径の2倍以下では、試験中に該ワイヤソーの振れなどで隣り合う該ワイヤソーと接触すること、該ワイヤソー同士のこすれにより結合材の剥離や砥粒の脱落を生じ、該ワイヤソーの性能評価を正確に行うことができないからである。
【0012】
また、本発明の多段階評価を行うにあたっては、前記ワイヤソーおよび前記被覆ワイヤを冶具に固定する張力は、特に限定する限りではないが、評価を効率よく行う上で、該ワイヤソーおよび該被覆ワイヤの素線が有する破断張力の50−80%とするのが好ましい。素線の有する破断張力の50%以下では初期の切削に必要な荷重が印加されるまでに必要以上の時間を要し、また、素線の有する破断張力の80%以上では、早期に該ワイヤソー上の砥粒の脱落や、結合材の剥離が生じるため、試作したワイヤソーの加速度試験を行う上では好ましいが、素線が有する破断張力に近すぎ、評価時間が短くなり5段階に切り分けることが困難となるからである。
【0013】
さらに、本発明の多段階評価を行うにあたっては、前記ワイヤソーおよび前記被覆ワイヤを固定した冶具の左右への往復稼働速度は、マルチワイヤソーとの相関性がとれる条件であれば特に限定されないが、評価を効率よく行う上で、200−600mm/secで稼働させることが好ましく、たとえば往復稼働速度を400mm/secで稼働させることが好ましい。往復稼働速度が200mm/sec以下では該ワイヤソーに前記試験片から受ける衝撃が強くなり、早期に該ワイヤソー上の砥粒の脱落や、結合材樹脂の剥離が生じるため、評価時間が短くなり多段階に切り分けることが困難となる。また往復稼働速度が600mm/sec以上では、5段階で切り分けた2段階目の領域が非常に時間を要するため、多段階評価には好ましくないからである。
【0014】
また、本発明の多段階評価を行うにあたっては、前記試験片の下降速度は、マルチワイヤソーとの相関性がとれる条件であれば特に限定されないが、評価を効率よく行う上で、0.5−20μm/secで稼働させることが好ましい。さらに、前記ワイヤソーおよび前記被覆ワイヤを固定した冶具の左右への往復稼働速度との関係で、該ワイヤソーおよび該被覆ワイヤを固定した冶具の左右への往復稼働速度を400mm/secで稼働させた際、該試験片の下降速度を1μm/secにすることで、5段階の切り分けがより明確となる。つまり、効率より評価する上での条件は、該試験片の下降速度と該ワイヤソーおよび該被覆ワイヤを固定した冶具の左右への往復稼働速度との比が1:10
4から1:10
6で、さらに1:10
5から1:10
6になるように設定することでマルチワイヤソーとの相関性の観点から好ましい。
ここで、該試験片の下降速度と該ワイヤソーおよび該被覆ワイヤを固定した冶具の左右への往復稼働速度との比を導くために、切断加工におけるクーラントの影響や切断加工条件での影響を考慮して以下のモデルを構築し導き、本発明の試験機における往復稼働速度:V
XFを下式(1)より算出することができる。
V
XF=V
XM/V
ZM×B
F/B
M×C
F/C
M×V
ZF...(1)
V
ZFは本試験機試験片下降速度[μm/sec]である。
V
ZF≦R...(2)
R=(W
M×H
W×N
W)/(T
M×C
W×X
M)×W
M...(3)
Rは単位時間あたりに使用される砥粒消耗率[mm/sec]であり、マルチワイヤソーの加工条件から求められ、本試験機での試験片下降速度V
ZFは、砥粒消耗率R以下になるように設定する事が好ましい。
ここで、V
ZMはマルチワイヤソーインゴット下降速度[mm/min]、V
XMはマルチワイヤソーワイヤ走行速度[m/min]、C
Mはマルチワイヤソークーラント係数、B
Mはマルチワイヤソーインゴット寸法[mm]、W
Mはマルチワイヤソーワイヤ使用量[m/枚(mm
2)]、T
Mはマルチワイヤソー加工時間[h]、X
Mはマルチワイヤソー加工条件係数、V
ZFは本試験機試験片下降速度[μm/min]、V
XFは本試験ワイヤ走行速度[mm/min]、C
Fは本試験機クーラント係数、B
Fは本試験機試験片寸法[mm]、W
Fは本試験機ワイヤ使用量[mm]、H
Wは砥粒突出し量[μm]、N
Wは砥粒量、C
Wはワイヤ係数である。
【0015】
本発明の評価方法を実施するために、ピアノ線(鋼線)を代表とされる金属線材やレーヨンを代表とされる化学繊維線材の表面に砥粒を結合材で固着したワイヤソーや熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂などで代表される樹脂材を被覆したワイヤの特性を評価する試験機としては、任意の間隔でかつ、任意の張力で該ワイヤソーを固定する冶具と、該固定冶具を任意の速度で左右に往復させる機構と、該固定冶具上に固定した該ワイヤソーに直交する状態に試験片を配置させる冶具を備え、任意の速度で該試験片を下降させる機構と、荷重負荷を測定させるロードセルを備え、たわみ量を測定させる機構を備え、加工液(クーラント)を該ワイヤソーおよび該被覆ワイヤと該試験片にかける機構を備えることを特徴とする該ワイヤソーおよび該被覆ワイヤの特性を評価する試験機を提供することができる。特に、該ワイヤソーのたわみ量を測定させる工程および機構を含み、切削開始でのインゴットへの切り込むまでの時間における切削に必要な荷重負荷が印加されるまでのワイヤソーの滑り領域で生じる該ワイヤソーのたわみ量と、砥粒の脱落が生じ切削性が不安定な領域と結合材層の剥離の起点および剥離状態での切削性が不安定な領域で切削速度が該試験片の下降速度以下になることで生じるたわみ量とを測定するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態におけるワイヤソーの評価試験機の要素構成例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】切削性能試験中の試験時間(sec)に対する荷重負荷(g)の代表的な関係を示す図である。
【
図3】切削性能試験中の試験時間(sec)に対する荷重負荷(g)の砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じない領域での切削性の関係を示す図である。
【
図4】切削性能試験中の試験時間(sec)に対する荷重負荷(g)の砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じた領域での切削性の関係を示す図である。
【
図5】本実施例で準備したワイヤソーにおける切削性能試験中の試験時間(sec)に対する荷重負荷(g)の関係を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態における積算荷重負荷(g)に対するマルチワイヤソーにおける加工負荷率(%)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るレジンダイヤモンドワイヤソーの切削性能評価方法およびその試験機を図面に則して詳細を説明する。
図1は評価試験機1の説明図で、任意の間隔でかつ、準備した複数本のワイヤソー3を、任意の張力で固定した冶具2を、駆動部4で任意の速度で左右に往復させることができるようにし、該冶具2に固定した複数本の該ワイヤソー3に直交する状態に試験片5を配置する。これを、昇降機6で任意の速度で上記試験片を下降させ、該ワイヤソー3と該試験片5とが接触した点を原点とし、該試験片が該ワイヤソーを押しつける。この荷重の変化量を荷重測定用ロードセル7で測定する。これにより各段階での、試作した該ワイヤソーの特性を評価するようになっている。6は昇降機で、駆動モータで試験片5を昇降できるようになっている。8は加工液用ノズルである。加工液用ノズル8から、加工液(クーラント)を該ワイヤソーおよび該被覆ワイヤと該試験片にかけるようになっている。なお、図示しないが、たわみ量を測定させる機構で、切削能力とたわみ量の関係を調べる。ここで、たわみ量とは初期に任意の張力で該ワイヤソーを前記固定冶具に固定した高さを原点とし、該試験片で押し付けられ該ワイヤソーがたわむ変位量をいう。特に、5段階評価を行う場合は、1段階目の切削開始でのインゴットへの切り込むまでの時間における切削に必要な荷重負荷が印加されるまでのワイヤソーの滑り領域で生じる該ワイヤソーのたわみ量と、3段階目の砥粒の脱落が生じ切削性が不安定な領域と4段階目の結合材層の剥離の起点および剥離状態での切削性が不安定な領域で切削速度が該試験片の下降速度以下になることで生じるたわみ量とを測定することで、切削能力とたわみ量の関係を調べることができる。ここで、たわみ量を測定することができる測量機器として、レーザーを用いた高さ測定器や画像より測長できるカメラ、物差し等を使用することができる。
【0018】
なお、前記荷重の測定はロードセルにより行うが、図面では前記ワイヤソーおよび前記被覆ワイヤを固定した冶具の下部に備え付けてある。前記試験片の上部に備え付けても同様の評価は可能である。但し、該試験片の上部に該ロードセルを備え付けた場合や該ワイヤソーおよび該被覆ワイヤを固定した前記冶具の下部に備え付ける場合の両方において、均等に荷重負荷が印加される箇所に設置しなければ本試験機での評価が困難である。
【0019】
ここで、前記試験片とは、評価する際、前記ワイヤソーおよび前記被覆ワイヤに押し付けて切り込める部材をいう。切り込める部材であればよく、たとえば、シリコン、サファイア、真鍮などの部材に適用可能であり、特に限定されない。但し、マルチワイヤソーでの被加工物と部材を同一にすることで本発明での評価と相関性がとれるように工夫される。以下、本発明をその実施形態の一例である、線材として、ピアノ線(鋼線)を用い、その表面に砥粒を熱硬化性樹脂を結合剤として固着させたレジンダイヤモンドワイヤソーを使用して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
本発明に係るレジンダイヤモンドワイヤソーの切削性能評価方法では5段階で行った。
評価5段階での1段階目の領域では:切削能力評価初期で、切削に必要な荷重負荷が印加されるまでワイヤソーは試験片を切り込まず、試験片表面ですべりが発生する。この時間を評価することで、たとえば、切削性能が非常に高い該ワイヤソーであれば、切削に必要な荷重負荷が印加されるまでの時間(試験片への切り込むまでの時間)が短く、逆に切削性能が悪い該ワイヤソーでは、必要以上に荷重負荷を印加しなければ試験片へ切り込まずその時間が長くなる(ワイヤの初期切り込み評価:切削に必要な荷重負荷が印加されるまでの固定砥粒ワイヤソーの滑り)。
評価5段階での2段階目の領域では:1段階目の最終域で試験片に切り込みが入り安定的に(定速で下降する試験片の速度と該ワイヤソーの切削速度との均衡がとれている領域)切削する。この時間を評価することで、たとえば、切削性能が非常に高い該ワイヤソーであれば、該ワイヤソーが受ける荷重負荷が低く、その均衡した時間が長く、逆に切削性能が悪い該ワイヤソーであれば、該ワイヤソーが受ける荷重負荷が高く、その均衡した時間が短い(砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じない領域での切削性の評価)。
評価5段階での3段階目の領域では:2の最終域で、砥粒が試験片を衝突することで摩耗され、印加された荷重負荷に耐えられなくなった砥粒が脱落し、荷重負荷が増加する。この荷重負荷を評価することで、たとえば、該ワイヤソーの砥粒に対する保持力が高ければ砥粒の脱落する速度が遅くなり荷重負荷が低い。逆にその保持力が低ければ砥粒の脱落する速度が速く荷重負荷が高くなる(砥粒結合強度評価)。
評価5段階での4段階目の領域では:3の最終域で、砥粒が脱落し切削性が下がり、初期から生じていたたわみに加え、さらにたわみ量が増加し、そのたわみから結合材に印加される荷重負荷が増加する。この荷重負荷を評価することで、その荷重負荷が集中する部分において結合材の剥離の起点を測定することができる。さらに結合材が剥離することで荷重負荷が増加する(結合材の剥離強度評価)。
評価5段階での5段階目の領域では:著しく切削速度が遅くなりたわみ量の限界を迎えることで該ワイヤソーが有する破断強度を越え断線が生じる(断線強度評価)。
以上の評価を行う。
ここで、各評価段階での領域の切り分け方法であるが、たとえば、荷重負荷の曲線から得られる近似直線との交点を変曲点とし段階を切り分ける方法や、荷重負荷の曲線から得られる接線との交点を変曲点とし段階に切り分ける方法や、単位時間あたりで荷重負荷値を2回微分することで得られる接線の傾きの変化率を求め、その変化率がことなる点を変曲点とし段階を切り分ける方法などがあるが、特に限定されるものではない。
【0021】
先ず、本発明に使用される固定砥粒ワイヤソーについて説明する。評価方法の精度を明確化するために、下記4種類のワイヤソーを準備した。
【0022】
[試料1]硬化させたフェノール樹脂レジンダイヤモンドワイヤソー
レジンダイヤモンドワイヤソー用の結合剤としてのフェノール樹脂組成物100重量部、砥粒(平均粒径:10μm)80重量部、フィラー(炭化珪素粉末;#8000)60重量部、溶剤(o−クレゾール)150重量部とし、溶液を調合し、線材に調合した溶液を塗布し、赤外線加熱炉にて1次焼成し、次いで電気炉を用いて結合材であるフェノール樹脂を2次焼成し硬化させ、試料1のレジンダイヤモンドワイヤソーを試作した。この時用いた素線径はφ80μmである。
【0023】
[試料2]半硬化させたフェノール樹脂レジンダイヤモンドワイヤソー
レジンダイヤモンドワイヤソー用の結合剤としてのフェノール樹脂組成物100重量部、砥粒(平均粒径:10μm)80重量部、フィラー(炭化珪素粉末;#8000)60重量部、溶剤(o−クレゾール)150重量部とし、溶液を調合し、線材に調合した溶液を塗布し、赤外線加熱炉にて1次焼成を行い、試料2のレジンダイヤモンドワイヤソーを試作した。試料1と同様に用いた素線径はφ80μmである。
【0024】
[試料3]硬化させたポリイミド/フェノール樹脂レジンダイヤモンドワイヤソー
レジンダイヤモンドワイヤソー用の結合剤としてのポリイミド/フェノール(比率:ポリイミド樹脂80重量部に対しフェノール樹脂20重量部)樹脂組成物100重量部、砥粒(平均粒径:10μm)80重量部、フィラー(炭化珪素粉末;#8000)60重量部、溶剤(o−クレゾール)150重量部とし、溶液を調合し、線材に調合した溶液を塗布し、赤外線加熱炉にて1次焼成し、次いで電気炉を用いて結合材であるポリイミド/フェノール樹脂を2次焼成し硬化させ、試料3のレジンダイヤモンドワイヤソーを試作した。この時用いた素線径はφ80μmである。
【0025】
[試料4]Niメッキ電着ワイヤソー
Niメッキで砥粒を固着させた電着ワイヤソーを準備した。この時用いた素線径はφ80μmであり、砥粒の平均粒径は10μmである。
【0026】
準備した試料1−4を用いて、以下の実施例で記載の条件下で、
図1の評価試験機1を使用して評価した。所定の間隔でかつ、準備した試料1−4を、所定の張力で固定した冶具2を、所定の速度で左右に往復させ、該冶具2に固定した試料1−4に直交する状態に試験片5を配置し、所定の速度で上記試験片を下降させ、準備した試料1−4と該試験片5とが接触した点を原点とし、該試験片が準備した試料1−4を押しつける荷重の変化量を測定することによって、準備した試料1−4の特性を評価した。その結果を
図5に示す。
図5から荷重負荷曲線の変化は各試料の特性を示すことが分かる。
試料4はNiメッキ電着ワイヤソーで荷重負荷曲線の変化は一番少なく、次いで試料2の硬化させたフェノール樹脂レジンダイヤモンドワイヤソーが続き、試料3の硬化させたポリイミド/フェノール樹脂レジンダイヤモンドワイヤソーと試料2の半硬化させたフェノール樹脂レジンダイヤモンドワイヤソーの荷重負荷曲線の変化は大きく、最終断線が生じているのがわかる。
【0027】
(実施例1)
試料3を用いて、前記冶具2上に1mm間隔でかつ張力12Nで10本固定し、稼働速度400mm/secで左右に往復させ(移動距離80mm)、該冶具2上に固定した該ワイヤソー3に直交する状態に前記試験片5(縦10mm、横10mm、高さ15mmの単結晶シリコン試験片)を配置し、該試験片5を下降速度1μm/secで下降させ、該試料3のワイヤソーが断線するまでの荷重を測定した。
図2に本実施例で得られた切削性能試験中の試験時間(sec)に対する荷重負荷(g)を示す。
【0028】
切削性能評価
図2から、試験評価中の5段階に切り分けた領域(1段階目、2段階目、3段階目、4段階目、5段階目で示した領域)で、評価中に生じた現象を説明する。
先ず、1段階目の領域において、前記ワイヤソーが前記試験片と接触し、切削に必要な荷重負荷が印加されるまで滑りが発生していた。つまり、該ワイヤソーが有する切削速度が試験への下降速度より著しく遅いため、荷重負荷が増加した。若干ではあるが固着した砥粒が該試験片と接触することにより、極々一部であるが切削は行われているが、切削には寄与しない領域と仮定することができ、さらに、切削に必要な荷重負荷が印加されるまでに試験片が下降した量分だけたわみが発生した。
次に、2段階目の領域であるが、1段階目の領域で切削に必要な荷重負荷が印加させており、該ワイヤソーが有する切削速度と下降してくる試験片の下降速度とが等しくなり、砥粒の脱落や、結合材の剥離を生じさせずに安定的に切削している領域となった。ここで、用いた1段階目の領域と2段階目の領域の切り分け方であるが、初期において必要な荷重負荷が印加されるまでの荷重負荷の曲線から得られる近似直線1と、切削に必要な荷重負荷が印加され安定的に切削が行われている際の曲線の近似直線2との交点を変曲点12と位置づけ、この変曲点12を1段階目の領域と2段階目の領域の切り分け点とする。特にこの変曲点12を切削開始時とする。
次に、3段階目の領域であるが、砥粒の磨滅や脱落により切削性が下がり、該ワイヤソーが有する切削速度が下降してくる試験片の下降速度に対して遅くなることで荷重負荷が増加した。つまり、切削速度が下降速度より遅くなるため、該ワイヤソーのたわみが1段階目に生じたたわみ量から、さらに生じ始める領域であった。ここで、2段階目の領域と3段階目の領域の切り分け方であるが、1段階目の領域と2段階目の領域の切り分け方と同様に、切削に必要な荷重負荷が印加され安定的に切削が行われている際の曲線から得られる近似直線2と、砥粒の摩耗や脱落が生じ不安定的に切削が行われている際の曲線の近似直線3との交点を変曲点23と位置づけ、この変曲点23を2段階目の領域と3段階目の領域の切り分け点とする。特にこの変曲点23を砥粒脱落開始時とする。
次に、4段階目の領域であるが、3段階目の領域で砥粒が脱落し切削性が下がり、初期から生じていたたわみに加え、さらにたわみ量が増加し、そのたわみから結合材に印加される荷重負荷が増加した。その荷重負荷が集中する部分において結合材の剥離の起点を測定することができた。さらに結合材が剥離することで荷重負荷が増加した。ここで、3段階目の領域と4段階目の領域の切り分け方であるが、1段階目の領域と2段階目の領域の切り分け方と同様に、砥粒の摩耗や脱落が生じ不安定的に切削が行われている際の曲線から得られる近似直線3と、結合材の剥離が生じ不安定的に切削が行われている際の曲線の近似直線4との交点を変曲点34と位置づけ、この変曲点34を3段階目の領域と4段階目の領域の切り分け点とする。特にこの変曲点34を結合材剥離開始時とする。
最後に、5段階目の領域であるが、4段階目の領域で著しく切削速度が遅くなりたわみ量の限界を迎えることで該ワイヤソーが有する破断強度を越え断線が生じた。ここで、4段階目の領域と5段階目の領域の切り分け方であるが、結合材の剥離が生じ不安定的に切削が行われている際の曲線の近似直線4と、断線が生じた際の曲線の近似直線5との交点を変曲点45と位置づけ、この変曲点45を4段階目の領域と5段階目の領域の切り分け点とする。特にこの変曲点45を評価終了時とする。
【0029】
上述の結果から実際にマルチワイヤソーで切断することなく、前記ワイヤソーにおいて切削性能を1回の切削試験で切削試験中のワイヤの状態を5段階(1段階目:切削開始でのインゴットへの切り込み評価(切削に必要な荷重負荷が印加されるまでのワイヤソーの滑り)、2段階目:砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じない領域での切削性、3段階目:砥粒の脱落が生じた際の切削性、4段階目:結合材層の剥離の起点および剥離状態での切削性、5段階目:断線)に切り分ける事ができ、さらに各段階での切削性能に与える影響をその場観察にて評価することができた。
【0030】
また、切削試験中のワイヤの状態を5段階に切り分けた内の1−2の段階に注目することで、砥粒の脱落や樹脂の剥がれが生じない領域での前記ワイヤソーが有する切削性を評価することができる。
【0031】
(実施例2)
準備した試料1−4を用いて、前記方法で5段階に切り分けた内の1−2の段階(砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じない領域での切削性)での切削性能試験中の試験時間(sec)に対する荷重負荷(g)の関係を
図3に示す。ここで
図3には準備した試料3のみを図示し、その他試料(試料1、2、4)での結果は図示せず、
図5より参照した。
【0032】
5段階に切り分けた1段階目において、砥粒を固着する結合材の違いにより、切削に必要な荷重負荷が印加されるまでの時間に違いが生じ、切削初期における被加工物への砥粒の切り込みまでの時間が異なる。つまり、評価対象である前記ワイヤソーにおいて、砥粒を固着する結合材の違いによる切削能力を評価することが可能である。さらに、5段階に切り分けた2段階目の砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じない領域での切削性を荷重負荷を測定することで、評価対象であるワイヤソーが有する切削能力を評価することが可能である。単純に2段階目の時間が長いからと、切削能力が高いという訳ではなく、砥粒を固着する結合材の硬さに対して、砥粒が前記試験片を切削する際に与える衝撃(インパクト)で2段階目で得られる荷重負荷の値からより明確に切削能力を評価することが可能である。
【0033】
さらに、切削試験中の前記ワイヤソーの状態を5段階に切り分けた内の3−5の段階に注目することで、樹脂に固着された砥粒の保持力や、樹脂自体の耐久性についても評価することができる。
【0034】
(実施例3)
準備した試料2−3を用いて、前記方法で5段階に切り分けた内の3−5の段階(砥粒の脱落や結合材層の剥離を生じる領域での切削性)での切削性能試験中の試験時間(sec)に対する荷重負荷(g)の関係を
図4に示す。ここで
図4には準備した試料3のみを図示し、試料2での結果は図示せず、
図5より参照した。
【0035】
5段階に切り分けた3段階目において、砥粒を固着する結合材の違いにより、砥粒の脱落のしやすさによって時間に違いが生じ、砥粒が脱落することで結合材に影響を及ぼすまでの時間が異なる。つまり、評価対象である前記ワイヤソーにおいて、結合材で固着された砥粒の保持力を評価することが可能である。さらに、5段階に切り分けた4段階目の結合材層の剥離が生じる起点とその領域での荷重負荷(その領域での時間)を測定することで、評価対象である該ワイヤソーが有する結合材の耐久性を評価することが可能である。3段階目で砥粒が脱落することで、前記試験片が結合材層まで到達し、その界面で摩擦が生じ、結合材の耐久性によって異なる。さらに、5段階に切り分けた5段階目において、4段階目で著しく切削速度が遅くなりたわみ量の限界を迎えることで該ワイヤソーが有する破断強度を越え断線が生じる。また、たわみ量の限界だけでなく、4段階目で結合材層が剥離し素線まで試験片が到達し、素線表面が傷付けられるため、断線が生じる場合もある。
【0036】
また、本発明の実施形態における積算荷重負荷(g)に対するマルチワイヤソーにおける加工負荷率(%)の関係を
図6に示す。マルチワイヤソーにおける加工負荷率と本評価法で得られる積算荷重負荷について、砥粒の脱落が少なく、結合材の剥離が生じにくい固定砥粒ワイヤソーであれば、マルチワイヤソーと本評価法で同様に低く、逆に砥粒の脱落が高く、結合材の剥離が生じやすいワイヤソーであれば、マルチワイヤソーと本評価法で同様に高い。さらに、上述した通り、本評価法ではその場観察により、より詳細にその要因を分解することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、太陽電池用シリコンやサファイアなどの切断加工において、広く利用することができる。
以上、実施例では5段階に分けて切削性能を評価したが、5段階以上の多段階に分けて評価することが重要であり、5段階に限るものでない。
【符号の説明】
【0038】
1:切削性能評価試験機
2:ワイヤ固定冶具
3:ワイヤソーおよび被覆ワイヤ
4:駆動部
5:試験片固定冶具
6:下降駆動部
7:荷重測定用ロードセル
8:加工液用ノズル