特許第6363856号(P6363856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363856
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】建物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/348 20060101AFI20180712BHJP
【FI】
   E04B1/348 E
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-59053(P2014-59053)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-183396(P2015-183396A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(72)【発明者】
【氏名】菅原 崇
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−037310(JP,A)
【文献】 特開2013−199779(JP,A)
【文献】 特開平09−078696(JP,A)
【文献】 米国特許第04207714(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱及び梁を有する複数層の主架構を備えた建物であって、
所定の構面において、
前記主架構のうち、上層を形成する上層架構は、前記上層架構の下側に設けられた下層架構に対し後退した後退領域を形成して設けられており、
前記後退領域には、前記上層架構と前記下層架構との間に架設された斜材が配置されており、
前記上層架構は、前記斜材が接合された上層側斜材接合部を有し、
前記下層架構は、前記斜材が接合された下層側斜材接合部を有し、
前記斜材は、前記上層架構と前記下層架構との相対変位に起因して前記上層側斜材接合部と前記下層側斜材接合部との距離が変化した際に斜材本体に作用する軸方向力を低減させる軸方向力低減機構を備え
前記斜材は、前記上層側斜材接合部に接合された上端部と前記下層側斜材接合部に接合された下端部とを有し、
前記軸方向力低減機構は、前記上端部及び前記下端部の少なくとも一方に設けられると共に、前記主架構に対して前記斜材本体が相対的に移動自在に接合された接合機構であり、
前記接合機構は、前記主架構に対する前記斜材本体の鉛直方向の移動を規制し、水平方向の移動を許容することを特徴とする建物。
【請求項2】
前記接合機構は、前記下端部に設けられていることを特徴とする請求項に記載の建物。
【請求項3】
前記接合機構は、前記主架構に設けられた固定部と、前記固定部にボルトを介して連結されると共に、前記斜材本体に設けられた可動部と、を有し、
前記可動部には前記ボルトが挿通される丸孔が形成され、
前記固定部には前記ボルトが挿通され、且つ水平方向に沿って長い長孔が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の建物。
【請求項4】
柱及び梁を有する複数層の主架構を備えた建物であって、
所定の構面において、
前記主架構のうち、上層を形成する上層架構は、前記上層架構の下側に設けられた下層架構に対し後退した後退領域を形成して設けられており、
前記後退領域には、前記上層架構と前記下層架構との間に架設された斜材が配置されており、
前記上層架構は、前記斜材が接合された上層側斜材接合部を有し、
前記下層架構は、前記斜材が接合された下層側斜材接合部を有し、
前記斜材は、前記上層架構と前記下層架構との相対変位に起因して前記上層側斜材接合部と前記下層側斜材接合部との距離が変化した際に斜材本体に作用する軸方向力を低減させる軸方向力低減機構を備え、
前記斜材の上端部は前記上層架構に対してピン接合されており、
前記斜材の下端部は前記下層架構に対してピン接合されており、
前記軸方向力低減機構は、前記斜材本体を軸方向に伸縮させる伸縮機構であることを特徴とする建物。
【請求項5】
柱及び梁を有する複数層の主架構を備えた建物であって、
所定の構面において、
前記主架構のうち、上層を形成する上層架構は、前記上層架構の下側に設けられた下層架構に対し後退した後退領域を形成して設けられており、
前記後退領域には、前記上層架構と前記下層架構との間に架設された斜材が配置されており、
前記上層架構は、前記斜材が接合された上層側斜材接合部を有し、
前記下層架構は、前記斜材が接合された下層側斜材接合部を有し、
前記斜材は、前記上層架構と前記下層架構との相対変位に起因して前記上層側斜材接合部と前記下層側斜材接合部との距離が変化した際に斜材本体に作用する軸方向力を低減させる軸方向力低減機構を備え、
前記斜材の下端部は、前記下層架構の梁の中間部に接合されていることを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱及び梁からなる複数層の主架構を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築基準法に規定される斜線制限を回避しながら、建物の内部空間(床面積)をより広く確保するために、隅角部を斜線に沿って斜めにカットした建物が知られている。例えば、特許文献1には、斜線制限を回避した傾斜屋根として、上階の屋根の端部を下階の外壁の延長線よりも内側に引き込み、下階の外壁の上端から上階の屋根の端部にかけて斜材(登り梁)を取り付けた構造が示されている。一般的に、このような構造では、斜材が、下階の外壁の上端周り(下層の主架構)と上階の屋根の端部周り(上層の主架構)とのそれぞれに対して、ピン接合又は剛接合によって接合されているものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−110340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、主架構に対して斜材の両端がピン接合又は剛接合によって接合されていると、斜材が筋交のように水平力に対する抵抗要素として機能することになり、水平力が作用した際の建物の挙動に影響を与えてしまい、建物の構造設計(構造計算)に影響を与えてしまう。また、主架構と斜材との接合部位に作用する荷重に対しての構造安全の確認も必要になる。
【0005】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、斜線制限を回避しつつ、構造設計への影響を抑制した建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、柱及び梁を有する複数層の主架構を備えた建物であって、所定の構面において、主架構のうち、上層を形成する上層架構は、上層架構の下側に設けられた下層架構に対し後退した後退領域を形成して設けられており、後退領域には、上層架構と下層架構との間に架設された斜材が配置されており、上層架構は、斜材が接合された上層側斜材接合部を有し、下層架構は、斜材が接合された下層側斜材接合部を有し、斜材は、上層架構と下層架構との相対変位に起因して上層側斜材接合部と下層側斜材接合部との距離が変化した際に斜材本体に作用する軸方向力を低減させる軸方向力低減機構を備えていることを特徴とする。
【0007】
上記の建物では、上層架構は、所定の構面において、下層架構よりも後退した後退領域を形成して設けられているので、この後退領域によって斜線制限を回避し易くなる。また、斜材は、上層架構と下層架構との相対変位に起因して上層架構における上層側斜材接合部と下層架構における下層側斜材接合部との距離が変化した際に斜材本体に作用する軸方向力を低減させる軸方向力低減機構を備えている。したがって、地震等により、建物に層間変形が生じた際に軸方向力低減機構が機能して斜材本体に対して大きな軸方向力が作用することを抑制でき、一方で、主架構の上層側斜材接合部や下層側斜材接合部で応力が集中することを抑制できる。その結果、斜材が、建物の構造設計(構造計算)に影響を与えてしまうことを抑制できる。
【0008】
また、斜材は、上層側斜材接合部に接合された上端部と下層側斜材接合部に接合された下端部とを有し、軸方向力低減機構は、上端部及び下端部の少なくとも一方に設けられると共に、主架構に対して斜材本体が相対的に移動自在に接合された接合機構であると好適である。上層架構における上層側斜材接合部と下層架構における下層側斜材接合部との距離が変化しても斜材本体が主架構に対して移動することで斜材本体に対して大きな軸方向力が作用することを抑制できる。その結果、斜材が、建物の構造設計(構造計算)に影響を与えてしまうことを抑制できる。
【0009】
また、上記の接合機構は、斜材の下端部に設けられていると好適である。下端部の接合機構が損傷しても、斜材の上端部は上層架構に接合された状態を維持される。つまり、少なくとも斜材が上層架構に保持された状態は維持されて斜材が倒れてこないので、安全性を確保し易い。
【0010】
また、接合機構は、主架構に対する斜材本体の鉛直方向の移動を規制し、水平方向の移動を許容すると好適である。斜材本体の鉛直方向の移動を接合機構で規制するので、斜材の鉛直荷重は主架構にて支持されることになる。つまり、斜材を主架構に取り付ける際には、斜材が浮いたような状態とはならず、主架構に預けて(斜材の重量を負担させて)の取り付けが可能になるので、施工性がよい。また、斜材本体の荷重や斜材が支持する部材の荷重である長期荷重を安定して支持することができる。
【0011】
また、接合機構は、主架構に設けられた固定部と、固定部にボルトを介して連結されると共に、斜材本体に設けられた可動部と、を有し、可動部にはボルトが挿通される丸孔が形成され、固定部にはボルトが挿通され、且つ水平方向に沿って長い長孔が形成されていると好適である。斜材の傾斜角度を変えて取り付ける場合でも、固定部側を長孔とすることで部材の共通化、及び同じ納まりが可能になって有利である。
【0012】
また、斜材の上端部は上層架構に対してピン接合されており、斜材の下端部は下層架構に対してピン接合されており、軸方向力低減機構は、斜材本体を軸方向に伸縮させる伸縮機構であると好適である。地震等により、建物に層間変形が生じた際に伸縮機構により斜材が伸縮することで、斜材本体に大きな軸方向力が作用することを抑制でき、一方で、主架構の上層側斜材接合部や下層側斜材接合部で応力が集中することを抑制できる。その結果、斜材が、建物の構造設計(構造計算)に影響を与えてしまうことを抑制できる。
【0013】
また、斜材の下端部を下層架構の梁の中間部に接合することができる。下層架構の梁の撓みが大きくなりやすい中間部に斜材の下端部を接合する必要があっても、この中間部に応力が集中するのを避けることができるので、建物の構造設計(構造計算)に与える影響を抑制できるので有利である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、斜線制限を回避しつつ、構造設計への影響を抑制した建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る建物の外観を示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は建物の側面を所定の構面と仮定した場合の建物の側面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る斜材と上層架構及び下層架構との接合を示す側面図である。
図3】第1の実施形態に係る斜材の下端部を拡大して示す断面図である。
図4】下部固定金物を拡大して示す斜視図である。
図5】第1の実施形態に係る斜材の上端部を拡大して示す側面図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る斜材と上層架構及び下層架構との接合を示す側面図である。
図7】第2実施形態に係る斜材の上端部を拡大して示す側面図である。
図8図7のVIII−VIII線に沿った断面図である。
図9】本発明の第3実施形態に係る建物を示す図であり、(a)は模式的な側面図、(b)は斜材の伸縮機構の平面図であり、(c)は(b)のc−c線に沿った断面図である。
図10】本発明の各実施形態に係る建物の模式的な側面図であり、(a)は第4の実施形態に係る建物の側面図、(b)は第5の実施形態に係る建物の側面図、(c)は第6の実施形態に係る建物の側面図である。
図11】本発明に係る各実施形態を適用可能な建物の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。図1に示されるように、第1の実施形態に係る建物1Aは、鉄骨ラーメン構造からなる複数層の主架構を備えている。複数の主架構のうち、例えば、最上階を形成する主架構は上層架構3であり、上層架構3の下に隣接して設けられた主架構は下層架構5である。なお、本実施形態では鉄骨ラーメン構造の主架構を例に説明するが、ピンブレース構造や木造の主架構であってもよい。
【0017】
上層架構3、及び下層架構5は、それぞれ柱及び梁等を備えており、以下では、柱勝ちを例に説明するが梁勝ちであってもよい。上層架構3は、下層架構5の天井面の全領域に重なるわけではなく、下層架構5の縁から部分的に引き込むように後退させて設けられている。下層架構5に対し、上層架構3を後退させることで形成された領域は上方が開放されており、建築基準法に規定された斜線制限を回避し易くするための領域となる。具体的には、建物1Aを正面から見た場合の右側面側に所定の構面P(図1(a)参照)となる平面を仮定した場合に、所定の構面Pに投影した建物1Aの側面(図1(b)参照)は、上層架構3の左側に上方が開放された領域が形成されている。以下、この領域を後退領域BAという。
【0018】
図2に示されるように、後退領域BAには、斜線制限に配慮しながら下層架構5と上層架構3との間に架設された登り梁(以下、「斜材」という)6Aが配置されている。斜材6Aは、基本的にH形鋼からなる斜材本体12と、斜材本体12と下層架構5の一部とを接合する下部固定金物11と、斜材本体12と上層架構3の一部とを接合する上部固定金物13とを備えている。下部固定金物11は、H型鋼からなる下層梁5aの長手方向の中間部(下層側斜材接合部)5bに接合され、上部固定金物13は、柱4の上端部(上層側斜材接合部)4aにピン接合されている。
【0019】
下部固定金物11は、断面L字状に屈曲した本体部11a(図3、及び図4参照)を有し、本体部11aは、下層梁5aのフランジ5cにボルト5dにて取り付けられる当接片11bと、当接片11bから屈曲して略垂直に立設された支持片11cとを有する。当接片11bの上面には、支持片11cに並んで補助片11dが立設されており、支持片11cと補助片11dとの間には補強リブ11eが設けられている。
【0020】
支持片11cの上部には、斜材本体12に接合される接合片11fが横方向(水平方向)に突き出すように設けられている。接合片11fは、鉛直面に沿って設けられた矩形板状であり、側面には補強片11gが水平面に沿うように設けられている。接合片11fには、補強片11gを挟んで上下の位置に、それぞれ長孔11hが形成されている。上下の長孔11hは、長手方向が水平方向に沿うように設けられている。
【0021】
斜材本体12のウェブ12aの下端には、下方に突き出た突出片12cが形成されている。突出片12cは下部固定金物11の接合片11fに当接している。また、突出片12cには、接合片11fの長孔11hの中心に重なるように丸孔12eが形成されている。下部固定金物11の長孔11h、及び斜材本体12の丸孔12eにはボルト12dの軸部が挿通されるとともに、軸部の端部にナットが螺合されることで斜材本体12と下部固定金物11とが締結される。このボルトナットによる締結の際にはトルク管理がされており、所定の力が作用した際に突出片12cが下部固定金物11の接合面に対して滑って、斜材本体12の下端が下層架構5に対して相対的に水平移動するように構成されている。
【0022】
斜材本体12の突出片12c、及び下部固定金物11は、斜材6Aの下端部6a(図2参照)に相当する。そして丸孔12eを有する突出片12c、長孔11hを有する接合片11f、及びボルト12dは、軸方向力低減機構の一態様である接合機構14を構成している。
【0023】
図5に示されるように、斜材本体12(ウェブ12a)の上端は、上部固定金物13に対しボルトによって取り付けられている。上部固定金物13は斜材6Aの上端部6bに相当する。
【0024】
この建物1Aでは、斜材6Aの上端部6bが柱4の上端部(上層側斜材接合部)4aに接合され、斜材6Aの下端部6aが下層梁5aの中間部(下層側斜材接合部)5bに接合されている。地震などによって上層架構3と下層架構5とが相対変位すると、この相対変位に起因して柱4の上端部4aと下層梁5aの中間部5bとの距離が変化する。その際、斜材6Aに作用する力が所定の値に達すると、接合機構14によって斜材本体12の下端が下層架構5に対して相対的に水平移動するので、斜材6Aには大きな軸方向力が作用せず、下層梁5aの中間部5bに応力が集中することを抑制できる。その結果、斜材6Aが、建物1Aの構造設計(構造計算)に影響を与えてしまうことを抑制できる。
【0025】
また、本実施形態では、下層架構5に対して斜材本体12が相対的に移動自在に接合されるように、接合機構14を斜材6Aの下端部6aに設けている。したがって、仮に想定外の過大な水平力が作用し接合機構14が損傷しても、斜材6Aの上端部6bは上層架構3に接合された状態を維持され、斜材6Aが上層架構3に保持された状態は維持されて斜材6Aが倒れてこないので、安全性が確保される。
【0026】
また、接合機構14は、下層架構5に固定された下部固定金物(固定部)11と、下部固定金物11にボルト12dを介して連結されると共に、斜材本体12に固定された突出片(可動部)12cとを有する。突出片12cには、ボルト12dが挿通される丸孔12eが形成され、下部固定金物11の接合片11fにはボルト12dが挿通され、且つ水平方向に沿って長い長孔11hが形成されている。
【0027】
また、この接合機構14では、下層架構5に対する斜材本体12の鉛直方向の移動を規制し、水平方向の移動を許容する構成であり、斜材6Aの鉛直荷重は下層架構5の梁にて支持されることになる。したがって、斜材6Aを下層架構5に取り付ける際には、斜材本体12の下端を浮かせた状態を保つ必要がなく、下層架構5に預けて(斜材6Aの重量を負担させて)の取り付けが可能になるので、施工性がよい。また、斜材本体12の荷重や斜材6Aが支持する部材の荷重である長期荷重を安定して支持することができる。
【0028】
また、本実施形態では、下部固定金物11に長孔11hが形成されており、突出片12cに丸孔12eが形成されている。勿論、下部固定金物11に丸孔12eを形成し、突出片12cに長孔11hを形成しても、軸方向力低減機構としての機能は実現される。しかしながら、斜材6Aの突出片12cに長孔11hを形成した場合、傾斜角度を変えて別の場所に設置することが難しくなる。なぜなら、斜材6Aの傾斜角度を変えると、長孔11hの長手方向が水平方向に対して傾いてしまい、同じ条件での適用が難しくなるためである。そのため、傾斜角度が異なる複数の場所に斜材6Aを設置する際、部材の共通化が難しい。これに対し、本実施形態では、下部固定金物11に長孔11hが形成されているので、斜材6Aの傾斜角度を変えて取り付ける場合でも、部材の共通化、及び同じ納まりが可能になって有利である。特に部材が予め規格化される工業化住宅において有効である。
【0029】
また、斜材6Aの下端部6aは、撓みが大きくなりやすい下層梁5aの中間部5bに接合されている。しかしながら、斜材6Aには、接合機構14が設けられているので、下層梁5aの中間部5bに応力が集中するのを避けることができ、建物1Aの構造設計(構造計算)に与える影響を抑制できるので有利である。
【0030】
次に、図6図7、及び図8を参照し、第2の実施形態に係る建物1Bについて説明する。なお、第2の実施形態に係る建物1Bは、第1の実施形態に係る建物1Aと同様の要素や構造を備えているので、同様の要素や構造には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0031】
図6に示されるように、後退領域BAには、斜線制限に配慮しながら下層架構5と上層架構3との間に架設された斜材6Bが設けられている。斜材6Bは、斜材本体22と、斜材本体22と下層架構5の一部とを接合する下部固定金物21と、斜材本体22と上層架構3の一部とを接合する上部固定金物23とを備えている。下部固定金物21は、斜材本体22に溶接されており、下層梁5aのフランジ5cにボルトにて固定されている。
【0032】
図7、及び図8に示されるように、斜材本体22の上端は、上部固定金物23を介して柱4の上端部4aに固定されている。上部固定金物23は、断面略U字状に湾曲し、更に、一方の片が途中で外側に屈曲して形成された鋼板からなる。つまり、上部固定金物23は、柱4の上端部4aに当接する固定片23aと、斜材本体22のウェブ22aに重なるように当接する支持片23bと、固定片23aと支持片23bとの間で内外に撓む機能を奏する撓み片23cを有する。固定片23aは斜材本体22にボルトによって固定されており、固定片23aは柱4に固定されている。
【0033】
本実施形態では、撓み片23cが撓むことで、斜材本体22に作用する軸方向力を低減させる。つまり、本実施形態では、上部固定金物23が斜材6Bの上端部6bであり、軸方向力低減機構の一態様である接合機構15として機能する。
【0034】
以上、本実施形態に係る建物1Bでは、柱4の上端部(上層側斜材接合部)4aに斜材6Bの上端部6bが接合され、下層梁5aの中間部(下層側斜材接合部)5bに斜材6Bの下端部6aが接合されている。地震などによって上層架構3と下層架構5とが相対変位すると、この相対変位に起因して上端部4aと中間部5bとの距離が変化する。その際、接合機構15において撓み片23cが撓むことで、斜材6Bには大きな軸方向力が作用せず、下層梁5aの中間部5bに応力が集中することを抑制できる。その結果、斜材6Bが、建物1Bの構造設計(構造計算)に影響を与えてしまうことを抑制できる。
【0035】
また、本実施形態では、斜材6Bの上端部6bに接合機構15が設けられており、この接合機構15では、撓み片23cの撓みを許容する方向が水平方向であるため、上層架構3に対する斜材本体22の鉛直方向の移動を規制し、水平方向の移動を許容する構成を実現している。
【0036】
次に、図9を参照し、第3の実施形態に係る建物1Cについて説明する。図9(a)は、建物1Cの模式的な側面図、(b)は斜材6Cの伸縮機構を示す平面図、(c)は(b)のc−c線に沿った断面図である。なお、第3の実施形態に係る建物1Cは、第1、第2の実施形態に係る建物1Cと同様の要素や構造を備えているので、同様の要素や構造には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0037】
図9(a)に示されるように、後退領域BAには、斜線制限に配慮しながら下層架構5と上層架構3との間に架設された斜材6Cが設けられている。斜材6Cは、斜材本体32と、斜材本体32と下層架構5の一部とを接合する下端部6cと、斜材本体32と上層架構3の一部とを接合する上端部6dとを備えている。下端部6cは下層梁5aにピン接合されており、上端部6dは門形架構部4bにピン接合されている。
【0038】
斜材本体32は、上端部6d側と下端部6c側とで分割されており、上端部6d側の上部本体32aは断面略U字状の鋼板であり、下端部6c側の下部本体32bは、上部本体32aの内側に摺接する断面略U字状の鋼板である。上部本体32aの対向する一対の側壁には、それぞれボルト35の軸部が挿通される長孔32cが形成され、下部本体32bの対向する一対の側壁には、それぞれボルト35の軸部が挿通される丸孔32dが形成されている。上部本体32aと下部本体32bとはボルト35及びナット36で締結されることで一体になる。このボルトナットによる締結の際にはトルク管理がされており、所定の力が作用した際に上部本体32aと下部本体32bとが互いにスライドするように構成されている。なお、長孔32cの長手方向は、斜材本体32の軸方向(長手方向)に沿っている。
【0039】
上層架構3と下層架構5の相対変位に起因して上層側斜材接合部4aと下層側斜材接合部5bとの距離が変化した場合には、上部本体32aと下部本体32bとが互いにスライドし、斜材本体32の軸方向に沿った移動を吸収する。その結果、斜材本体32に作用する軸方向力を低減させる。つまり、本実施形態では、上部本体32aの長孔32c及び下部本体32bの丸孔32dとボルト35及びナット36が、軸方向力低減機構の一態様である伸縮機構16として機能する。
【0040】
以上、本実施形態に係る建物1Cでは、地震等により、建物1Cに層間変形が生じた際には、伸縮機構16が機能して斜材本体32に対して大きな軸方向力が作用することを抑制でき、一方で、上層架構3の門形架構部(上層側斜材接合部)4bや下層架構5の下層梁(下層側斜材接合部)5aで応力が集中することを抑制できる。その結果、斜材6Cが、建物1Cの構造設計(構造計算)に影響を与えてしまうことを抑制できる。
【0041】
次に、図10を参照し、他の実施形態に係る建物について説明する。図10(a)は、第4の実施形態に係る建物1Dを所定の構面Pから見た場合の模式的な側面図であり、図10(b)は、第5の実施形態に係る建物1Eを所定の構面Pから見た場合の模式的な側面図であり、図10(c)は、第6の実施形態に係る建物1Fを所定の構面Pから見た場合の模式的な側面図である。
【0042】
図10(a)に示されるように、第4の実施形態に係る建物1Dは、上層架構3の門形架構部4bに斜材6Dの上端部6dがピン接合されており、下層梁5aに斜材6Dの下端部6cが接合されている。斜材6Dの下端部6cには、斜材本体42に作用した軸方向力を低減させる接合機構(軸方向力低減機構)17が設けられている。接合機構17は、斜材本体42を下層架構5に対して移動自在にする構造である。なお、この場合の移動自在な機構とは、主架構(例えば、下層架構5)の接合面に沿ってスライド可能なローラー接合による構造を意味する。
【0043】
図10(b)に示されるように、第5の実施形態に係る建物1Eは、上層架構3の門形架構部4bから持ち出されたキャンティ梁4cに斜材6Eの上端部6dがピン接合されており、下層架構5に斜材6Eの下端部6cが接合されている。斜材6Eの下端部6cには、斜材本体42に作用した軸方向力を低減させる接合機構(軸方向力低減機構)17が設けられており、接合機構17は、斜材本体42を下層架構5に対して移動自在にする構造である。
【0044】
また、図10(c)に示されるように、第6の実施形態に係る建物1Fは、上層架構3の門形架構部4bに斜材6Fの上端部6dが剛接合されており、下層架構5に斜材6Fの下端部6cが接合されている。斜材6Fの下端部6cには、斜材本体42に作用した軸方向力を低減させる接合機構(軸方向力低減機構)18が設けられている。本実施形態に係る接合機構18は、斜材本体42が下層架構5に対して相対的に移動自在な構造である。
【0045】
以上、本発明について、各実施形態に係る建物を例に説明したが、本発明は上記の実施形態のみには限定されない。例えば、上記の各実施形態で説明した斜材や軸方向力低減機構などは、図11に示される建物1Gにも適用可能である。具体的には、建物1Gの最上層(最上階)に切妻造の母屋を形成し、この母屋の内部に形成された門形架構部4dは上層架構3の一部となり、門形架構部4dに斜材6Gや軸方向力低減機構を設けた態様であってもよい。
【0046】
また、斜材の下端部が梁の中間部の上部に接合されている実施形態について説明したが、これに限定されない。斜材の下端部は下層架構に対して接合されていればよく、例えば、梁の端部に接合されていてもよいし、柱の上部に接合されていてもよい。
【0047】
また、本発明において「主架構に対して斜材本体が相対的に移動自在」とは、平行移動や回転移動、あるいはそれらを複合した移動を含み、また、斜材本体が上層側斜材接合部や下層側斜材接合部の接合面に沿ってスライド移動可能な態様、また、斜材本体がその接合面に対して接近、離間可能な態様であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G…建物、3…上層架構(主架構)、4…柱、4a…柱の上端部(上層側斜材接合部)、5…下層架構(主架構)、5a…下層梁、5b…下層梁の中間部(下層側斜材接合部)、6A、6B、6C、6D、6E、6F…斜材、6a…斜材の下端部、6b…斜材の上端部、11…下部固定金物(固定部)、12c…突出片(可動部)、14、15、17,18…接合機構(軸方向力低減機構)、16…伸縮機構(軸方向力低減機構)、BA…後退領域、P…所定の構面。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11