(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータを用いた、空気入りタイヤのシミュレーション方法が種々提案されている。このシミュレーションでは、解析対象となる空気入りタイヤに基づいて、タイヤモデルが作成される。タイヤモデルは、連続体である空気入りタイヤを、有限個の要素で離散化(以下、単に「モデル化」ということがある。)することで得られる。タイヤモデルの各要素には、解析対象の空気入りタイヤの材料物性値が定義される。
【0003】
タイヤモデルとして、二次元モデル、及び、三次元モデルがある。二次元モデルは、タイヤの回転軸を含んだ子午線断面のモデルである。一方、三次元モデルは、二次元モデルのタイヤ断面形状をタイヤ周方向に展開して作成される。二次元のタイヤ断面形状として、現実に存在している空気入りタイヤの断面形状、又は、空気入りタイヤを成形するための金型の断面形状が利用されている。
【0004】
一般に、空気入りタイヤは、加硫後から各部材の熱収縮が生じるため、その二次元の断面形状は、それを加硫成形した金型の断面形状とは少し異なる。このため、金型の断面形状に基づいて作成されたタイヤモデルは、現実の空気入りタイヤの形状と異なり、ひいては、シミュレーションの解析精度が低いという問題があった。
【0005】
一方、現実に存在する空気入りタイヤの断面形状から作成されたタイヤモデルは、上記のような不具合は小さい。しかしながら、未だ実際に空気入りタイヤが作られていないような開発途中の段階では、机上の金型の断面形状図に基づいて、現実の空気入りタイヤの断面形状を予測する必要がある。
【0006】
下記特許文献1では、タイヤモデルに設定されたベルトコードの角度を修正するステップを開示している。より具体的には、タイヤモデルのベルトコードのタイヤ周方向に対する角度が、加硫成形中のベルトプライの拡張による変化に基づいて修正される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、加硫成形中のベルトプライの拡張変化に基づいたベルトコードの傾斜角度の変化をタイヤモデルに与えた場合でも、現実の空気入りタイヤの断面形状への再現性については、さらなる改善の余地があった。
【0009】
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、その主要な原因の一つは、現実の空気入りタイヤのプライの補強コードの蛇行にあるとの知見を得た。
【0010】
図4には、空気入りタイヤの内部に配置されているカーカス6及びベルト層7の展開図が示されている。
図4に示されるように、ベルト層7のベルトコード7cのタイヤ周方向に対する角度は、一般に、ベルトプライの曲率に基づいて、トレッド中央部(タイヤ赤道C)側よりもトレッド端部側の方が大きい。即ち、ベルトコード7cは、展開視において、略S字状に蛇行している。
【0011】
特に、
図3に示される自動二輪車用の空気入りタイヤ2のように、トレッド部2aの外面が、タイヤ半径方向外側に凸状に大きく湾曲している場合、上記ベルトコード7cのS字状の蛇行がより顕著に現れる傾向がある。また、このようなコードの蛇行は、ベルト層7ほど大きくはないが、カーカス6のカーカスコード6cについても同様に生じている。
【0012】
図5には、
図3の1本のベルトコード7cの一例が示されており、仮想線は内圧充填前、実線は内圧充填後のイメージである。空気入りタイヤが内圧の充填によって膨張すると、ベルトコード7cは引っ張られる。そして、S字状に屈曲していたベルトコード7cには、その中央部と端部とで角度差が小さくなるような変化(S字状から直線に近づく変化)が生じる。このようなベルトコード7cの変化により、各ベルトコード7cのタイヤ周方向の長さL及び幅方向の長さWは増加する。このうち、タイヤ周方向の長さの増加は、空気入りタイヤをさらに膨らみ易くさせる。
【0013】
しかしながら、従来のシミュレーションでは、このようなベルトコード7cのS字状から直線に近づく変化については、全く考慮されていない。
【0014】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、空気入りタイヤが膨張変形する際のS字状に蛇行したコードの直線に近づく変化を考慮して、金型の断面形状から空気入りタイヤの断面形状等を精度よく予測乃至再現することができ、ひいては正確な性能解析に役立つタイヤモデルを作るための方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、少なくとも1枚のコードの層であるプライで補強され、かつ、金型での加硫成形を経て作られる空気入りタイヤについて、その性能を解析するためのタイヤモデルを、コンピュータを使用して作るための方法であって、前記金型の断面形状に基づいて、前記プライを有限個の要素でモデル化したプライモデルを含むタイヤモデルを作るステップと、前記タイヤモデルの各要素に、前記空気入りタイヤに準じた材料物性値を定義するステップと、前記加硫成形中の前記プライの拡張変化に基づいて、前記プライモデルのコードの傾斜角度を定義するコード角定義ステップと、前記プライモデルを伸張させる伸張ステップとを含
み、前記伸張ステップは、前記タイヤモデルが二次元モデルである場合、前記プライモデルの幅方向の長さを伸長させることを特徴とする。
【0016】
本発明
は、少なくとも1枚のコードの層であるプライで補強され、かつ、金型での加硫成形を経て作られる空気入りタイヤについて、その性能を解析するためのタイヤモデルを、コンピュータを使用して作るための方法であって、前記金型の断面形状に基づいて、前記プライを有限個の要素でモデル化したプライモデルを含むタイヤモデルを作るステップと、 前記タイヤモデルの各要素に、前記空気入りタイヤに準じた材料物性値を定義するステップと、前記加硫成形中の前記プライの拡張変化に基づいて、前記プライモデルのコードの傾斜角度を定義するコード角定義ステップと、前記プライモデルを伸張させる伸張ステップとを含み、前記伸張ステップは、前記タイヤモデルが三次元モデルである場合、前記プライモデルのタイヤ周方向及び幅方向の長さを伸長させることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るタイヤモデルの作成方法において、前記コード角定義ステップと前記伸張ステップとが実行された後、予め定められたリム組み条件及び内圧条件に基づいて、前記タイヤモデルの膨張変形計算を行うステップをさらに含むことが望ましい。
【0019】
本発明に係るタイヤモデルの作成方法において、前記プライモデルは、トレッド部に配されたベルトプライを含むベルト層をモデル化したベルト層モデルを含み、前記コード角定義ステップ及び前記伸張ステップは、前記ベルト層モデルに対して行われることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法では、先ず、金型の断面形状に基づいて、プライを有限個の要素でモデル化したプライモデルを含むタイヤモデルが得られる。このタイヤモデルの各要素には、空気入りタイヤに準じた材料物性値が定義される。
【0021】
次に、本発明の方法では、前記金型内での前記プライの拡張変化に基づいて、前記プライモデルのコードの傾斜角度を定義するコード角定義ステップが行われる。コード角定義ステップにより、タイヤモデルには、加硫成形中のプライの拡張に基づいたコードの傾斜角度の変化が再現される。従って、タイヤモデルのプライは、現実の空気入りタイヤのプライに近づくことになる。
【0022】
さらに、本発明の方法では、前記プライモデルを伸長させる伸張ステップが行われる。背景技術の欄において、ベルトコードが代表例として説明されたように、タイヤの内圧充填による膨張変形時、S字状に蛇行したプライのコードは直線に近づき、タイヤがさらに膨らみやすくなる。本発明では、このようなタイヤの膨らみやすさを、プライモデルが再現できるように、伸張ステップが行われる。
【0023】
以上のように、本発明の方法では、コード角定義ステップで加硫成形時のプライの変化が、伸張ステップで加硫後の内圧充填時のプライの変化が、それぞれ、プライモデルに与えられる。従って、本発明によれば、金型の断面形状から、膨張状態の空気入りタイヤの断面形状をより正確に再現することが可能なタイヤモデルを作成することができる。これは、正確なタイヤの性能解析に役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本発明は、空気入りタイヤの性能を、コンピュータを用いて解析(シミュレーション)するときに用いられるタイヤモデルを作成するための方法を提供する。
【0026】
上記解析には、各種の数値解析法が含まれ、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が挙げられる。タイヤモデルを用いた典型的な解析としては、例えば、タイヤモデルに内圧条件を与えて変形計算を行う内圧充填シミュレーション、上記タイヤモデルを路面モデルに押し付けてトレッド部の接地形状を調べる接地形状シミュレーション、上記タイヤモデルを路面モデル上で転がす転動シミュレーション等が挙げられる。
【0027】
本発明は、少なくとも1枚のコードの層であるプライで補強され、かつ、金型での加硫成形を経て作られる空気入りタイヤのタイヤモデルを作るための方法である。本発明によれば、空気入りタイヤの加硫成形中のプライの変形、及び、内圧充填に伴うプライの変形の双方を精度良く再現しうるタイヤモデルを作成することができる。従って、本発明で得られたタイヤモデルは、金型の断面形状から、膨張状態の空気入りタイヤの断面形状をより正確に再現することができる。以下、本発明の実施形態が説明されるが、本発明は、このような具体的な実施形態に限定されるものではない。
【0028】
図1には、本発明の作成方法が実行されるコンピュータ装置1が示されている。
【0029】
コンピュータ装置1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及び表示装置1dを含んでいる。本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクなどの記憶装置及びディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられている。記憶装置には、本実施形態の作成方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶されている。表示装置1dは、本実施形態で作成されたタイヤモデルを表示することができる。
【0030】
図2には、本実施形態のタイヤモデルの作成方法の処理手順の一例が示されている。
【0031】
本実施形態では、先ず、空気入りタイヤを加硫成形するための二次元の金型の断面形状に基づいて、タイヤモデルが作成される(ステップS1)。
【0032】
図3には、本実施形態で用いられた空気入りタイヤ2の断面図が示されている。
図3に示されるように、空気入りタイヤ2は、トレッド部2a、サイドウォール部2b、及び、ビード部2cを有する。本実施形態では、トレッド部2aの外面がタイヤ半径方向外側に凸の円弧状で大きく湾曲している自動二輪車用が示されている。ただし、本発明は、あらゆるカテゴリーのタイヤに適用できる。
【0033】
空気入りタイヤ2は、少なくとも1枚のコードの層であるプライで補強されている。本実施形態では、プライとして、カーカス6と、ベルト層7とを含んでいる。
【0034】
カーカス6は、両側のビード部2c、2c間を跨るようにトロイド状にのびている。カーカス6は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成されている。
【0035】
ベルト層7は、カーカス6の外側、かつ、トレッド部2aの内部に配されており、例えば、タイヤ半径方向で重ねられた2枚のベルトプライ7A、7Bから構成されている。
【0036】
図4には、カーカス6及びベルト層7の展開図が示されている。
【0037】
図4に示されるように、カーカスプライ6Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば70〜90度の角度で配列されたカーカスコード6cと、これらを被覆するトッピングゴム6rとを含んでいる。
【0038】
各ベルトプライ7A、7Bは、タイヤ周方向に対して傾斜するベルトコード7cと、これらを被覆するトッピングゴム7rとを含んでいる。これらのベルトコードには、非伸張性又は高弾性材料が使用され、典型的にはスチールコードやアラミド等が採用される。また、ベルトコード7cは、各プライ毎に、トッピングゴム7rで被覆されている。ベルトプライ7A、7Bは、それぞれのベルトコード7c、7cが互いに交差するように重ねられている。
【0039】
図4及び
図5で示されるように、ベルト層7の各ベルトプライ7A、7Bのベルトコード7cのタイヤ周方向に対する角度は、ベルトプライ7A、7Bの曲率に基づいて、トレッド中央部(タイヤ赤道C)側の角度θcよりもトレッド端部側の角度θsの方が大きい。即ち、ベルトコードは、展開視において、略S字状に蛇行している。また、カーカスコード6cについても、ベルトコード7cほど大きくはないが、全体として、S字状に蛇行している。ベルトコードの角度は、例えば、5〜80度程度の範囲で定められる。
【0040】
図6には、空気入りタイヤ2の加硫成形中の状態の断面図である。
図6に示されるように、金型3は、例えば、左右に分割可能な分割型3A、3Bで構成されている。金型3は、内部にキャビティiを有し、このキャビティiを画定している金型内面は、空気入りタイヤ2の外表面の成形するための成形面3aを構成している。空気入りタイヤ2は、主として未加硫ゴム材料及びプライ材料で作られた生カバー(図示省略)をこの金型3で加硫することにより製造される。
【0041】
加硫成形時、生カバーのゴム材料は、熱を受けて可塑化するとともに、その内側から風船状のブラダーBで成形面3a側へと押し付けられる。これにより、生カバーの外表面は、成形面3aと接触してその形状へ成形される。同時に、生カバーの内部のプライ材料は、ブラダーの圧力によって、膨張変形する。これについては、後でさらに詳しく述べる。
【0042】
図7には、金型3の断面形状に基づいて作成されたタイヤモデル4の断面図が示されている。タイヤモデル4は、空気入りタイヤ2(
図3及び
図5に示す)を、有限個の小さな要素4aを用いて離散化(モデル化)したものである。各要素4aは、例えば、矩形状であり、本実施形態ではラグランジュ要素が用いられている。タイヤモデル4は、コンピュータ装置1に記憶される数値データの集合体である。具体的には、タイヤモデル4は、各要素4aについて、節点座標値、要素番号及び節点番号が定義される。本実施形態のタイヤモデル4は、
図7の断面形状が、タイヤ周方向に展開された三次元モデルとして作成されている。
【0043】
ステップS1で得られるタイヤモデル4の外面の輪郭形状は、金型3の成形面3aの輪郭形状と実質的に一致している。タイヤモデル4の各要素4aの辺は直線であるため、その輪郭形状は、滑らかな表面を持つ金型3の成形面3aとは完全に一致しないが、少なくともタイヤモデル4のトレッド部、サイドウォール部、及び、ビード部の外側面に現れる節点は、金型3の成形面3aの輪郭線上に設けられるのが望ましい。
【0044】
タイヤモデル4は、例えば、ゴムモデル8と、プライモデル9とを含んでいる。
【0045】
ゴムモデル8は、例えば、トレッドゴムやサイドウォールゴムといった主要なゴム部分を有限個の要素でモデル化したものである。ゴムモデル8の要素4aには、例えば、三次元のソリッド要素が用いられている。ソリッド要素としては、例えば、4面体、5面体又は6面体などが用いられ得る。
【0046】
プライモデル9は、例えば、プライを有限個の要素でモデル化したものである。プライモデル9は、カーカスプライ6Aをモデル化したカーカスプライモデル10と、ベルト層7がモデル化されたベルト層モデル11とを含んでいる。ベルト層モデル11は、内側及び外側のベルトプライモデル11A及び11Bを含んでいる。
図6では、これらのプライモデル9は、容易に識別されるように、薄く着色されている。
【0047】
図8(A)は、カーカスプライ6Aの部分斜視図、
図8(B)は、その部分のカーカスプライモデル10の斜視図をそれぞれ示している。
図8(A)に示されるカーカスプライ6Aは、例えば、
図8(B)に示されるように、カーカスコード6c…の配列体に対応する膜要素10aと、トッピングゴム6rに対応するソリッド要素10bとを用いてモデル化されている。本実施形態のカーカスプライモデル10は、膜要素10aの両側に、ソリッド要素9bが配置された積層構造を有する。
【0048】
図9(A)は、ベルト層7の部分斜視図、
図9(B)は、その部分のベルト層モデル11の斜視図をそれぞれ示している。
図9(A)に示されるベルトプライ7A、7Bの積層体は、例えば、
図9(B)に示されるように、ベルトコード7cの配列体に対応する膜要素11a、11aと、トッピングゴム7rに対応するソリッド要素11bとを用いてモデル化されたベルトプライモデル11A、11Bへとモデル化されている。本実施形態では、膜要素11aの両側に、ソリッド要素11bが配置されている。
【0049】
次に、本実施形態では、タイヤモデルの各要素に、材料物性等が定義される(
図2のステップS2)。この処理は、例えば、オペレータによる入力作業によって行われる。各要素に定義される材料物性としては、例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等などが挙げられる。さらに、ゴムモデルの各要素には、体積変化が生じない超弾性が定義される。プライモデル9の膜要素10a、11aには、例えば、それが対応しているコード6c又は7cの直径、密度及びヤング率等が定義される。
【0050】
次に、本実施形態では、加硫成形中のプライの拡張変化に基づいて、プライモデル9のコードの傾斜角度θを定義するコード角定義ステップが行われる(
図2のステップS3)。
【0051】
図9(B)には、ベルトプライモデル11Bの膜要素11aの平面図が示されている。符号30は、膜要素に定義されるコード(カーカスコード6c、ベルトコード7c)を擬似的に示しているもので、膜要素11aが実際にこのようなコードを有するわけではない。 このような傾斜角度が定義された膜要素10a、11aは、コード成分30によって、変形計算上、コード成分30の長手方向には変形し難く、コード成分30の長手方向と直交する方向に変形しやすいという直交異方性を表現することができる。
【0052】
図10(A)は、参考までに、加硫前の状態として、ベルト層モデル11の模式的な部分平面図、
図10(B)は、その加硫後の模式的な部分平面図を示している。加硫後のベルト層モデル11の膜要素11aのコード成分30の傾斜角度は、
図10(A)と区別するために、“Φ”で示されている。好ましい態様では、コード角定義ステップS3は、ベルト層モデル11のみに対して行われる。
【0053】
加硫成形中、プライは、金型の成形面3aに向けて外側に拡張される。特に、ベルト層7は、その拡張度合いが大きい。一方、ベルト層7のベルトコード7cは、通常、その伸びが極めて小さいコード材料が採用されている。このため、加硫成形中、ベルトコード7cは、ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度θをそれぞれ小さく変化させながら外径を増大させるように変形する。本実施形態では、より正確な形状を持ったタイヤモデル4を得るために、このような加硫成形中のベルトコード7cの角度変化をプライモデル10に与えるコード角定義ステップS3が行われる。
【0054】
コード角定義ステップS3を実現するために、種々の方法が考えられる。例えば、膜要素10a、11aのコード成分30を、生カバーが加硫中に受ける外形の伸び(ストレッチ)に応じて決定することができる。この場合、ベルトプライの全幅に亘って同一の角度としても良いし、タイヤ幅方向で変化させても良い。一例として、上記特許文献1に記載されている方法が採用され得る。この方法では、タイヤ赤道Cからのタイヤ軸方向距離xにあるベルト層モデル11のコード成分30のタイヤ周方向に対する傾斜角度φ(x)は、下記式(1)で定義される。
【数1】
ここで
x:タイヤ赤道からのタイヤ軸方向距離(mm)
D(x):加硫金型内でのベルトプライの外径(mm)
D(0):加硫金型内でのタイヤ赤道でのベルトプライの外径(mm)
d:加硫金型投入前の生カバーのベルトプライの外径(mm)
θ:加硫金型投入前の生カバーのベルトコードのタイヤ周方向に対する角度(度)
α1〜α3:定数
【0055】
式(1)のcosθは、ベルトコード7cの長手方向の長さを1としたときの、生カバーのベルトコードのタイヤ周方向の長さを示している。D(x)/dは、加硫成形時のベルトプライ7A、7Bの外径のストレッチ(拡張比)を示している。この直径D(x)の定数α2及びα3は、金型3のトレッド部の成形面3aに基づいて設定される。
【0056】
生カバーでのベルトコード7cの周方向の長さcosθと、ベルトプライ7A、7Bの拡張比D(x)/dとを乗じることにより、加硫成形後のベルトコード7cのタイヤ周方向の長さが求められる。この周方向の長さcosθ×D(x)/dと、ベルトコード7cの長さ(1)を逆余弦し、さらに定数α1を乗じることにより、角度φ(x)が求められる。
【0057】
前記定数α1は、タイヤの成形方法や、加硫成形中のゴム流れにより生じる誤差を補正するために設定されている。この定数α1は、成形方法やゴム部材の種類によって適宜定められる。具体的には、上記式(1)で求められる計算値をx軸、実測値をy軸とする散布図に同一の条件で求められる計算値x及び実測値yを、少なくとも3個以上プロットし、その分布の近似直線の傾きから、定数α1を求めることができる。
【0058】
さらに、前記特許文献1には、前記角度φ(x)を求める他の数式が記載されているが、これらのいずれが採用されても良い。
【0059】
次に、本実施形態では、プライモデル9を伸長させる伸張ステップ(
図2のステップS4)が行われる。
図11には、プライモデル9としてベルト層モデル11の一つの膜要素11aが示されており、仮想線は伸張ステップS4の実行前、実線は伸張ステップS4の実行後である。即ち、膜要素11aのタイヤ周方向の長さ及び幅方向の長さは、大きくなっている。
【0060】
図5に、仮想線で示されるように、S字状に蛇行したベルトコードは、タイヤの膨張変形時、実線で示されるように、直線に近づき、タイヤがさらに膨らみやすくなる。本実施形態では、このようなタイヤの膨らみやすさを、プライモデル9を伸長させることで再現し、現実の空気入りタイヤの膨張時の断面形状により近似させることができる。
【0061】
好ましい実施形態では、伸張ステップS4において、プライモデル9は、数パーセント伸長される。このタイヤ周方向の増加率{(La−L)/L}及びタイヤ幅方向の増加率{(Wa−W)/W}は、ベルトコード7cの蛇行の程度にもよるが、経験則的には、本実施形態のような自動二輪車用タイヤの場合、0.01%〜1%程度が好適である。また、乗用車用タイヤの場合、前記増加率は、0.005〜0.5%程度が好適である。さらに、好ましい態様では、タイヤ周方向の増加率と、タイヤ幅方向の増加率とは、同一であるのが望ましい。
【0062】
なお、タイヤモデルが二次元モデルの場合、それは、そもそもタイヤ周方向の長さを持たないので、伸張ステップS4は、ベルトプライモデルの幅方向の長さのみが伸長されるのは言うまでもない。
【0063】
以上のように、本発明の方法では、加硫成形時のプライの変化がコード角定義ステップS3で、加硫後の内圧充填時のプライの変化が伸張ステップS4で、それぞれ、プライモデルに与えられる。従って、本発明によれば、金型の断面形状から、膨張状態の空気入りタイヤの断面形状をより正確に再現することが可能なタイヤモデルを作成することができる。これは、正確なタイヤの性能解析に役立つ。
【0064】
次に、本実施形態では、予め定められたリム組み条件及び内圧条件に基づいて、タイヤモデル4の膨張変形計算を行うステップをさらに含む(
図2のステップS5)。このステップS5は、慣例に従って行われる。例えば、タイヤモデル4のリム幅が、定義されたリム幅に拘束され、タイヤモデル4の内腔面に内圧に相当する等分布荷重等が定義されて計算が行われる。これにより、リム組みされ、かつ、内圧が充填されたときのタイヤモデル4の断面形状が得られる。
【0065】
図12には、本実施形態の方法で得られたタイヤモデル4の膨張時の断面形状が仮想線で示されている(実施例)。実線は、タイヤモデル4を作る上で参照した金型3で作られた実際の空気入りタイヤ2の膨張時の断面形状を示している。この空気入りタイヤ2の主な仕様は、次の通りである。
サイズ:120/70ZR
リム:17×3.5MT
内圧:250kPa
ベルトコードの角度:中央部で75度、ショルダー部で78度
【0066】
タイヤモデル4は、金型3の断面形状と、空気入りタイヤ2から実測したゴムゲージとを用いて作成された。このタイヤモデル4のベルトプライモデル11A、11Bの膜要素の異方性の強軸方向(コード成分30に沿った方向)は、現実の空気入りタイヤ2と同様、中央部は75度、ショルダー部で78度に設定された。伸張ステップでは、ベルトプライモデルの増加率は、タイヤ周方向及び幅方向ともに0.3%とされた。
【0067】
図13には、従来の方法で得られたられたタイヤモデル4の膨張時の断面形状が仮想線で示されている(比較例)。基礎となる金型3は、上記の例と同じである。また、実線は、この金型3で作られた実際の空気入りタイヤ2の膨張時の断面形状を示している。
【0068】
表1には、外径、総幅及びトレッドラジアスに関し、実施例及び比較例と、実際のタイヤとの誤差が示されている。
【0070】
図12、
図13及び表1から明らかなように、実施例のタイヤモデル4は、実際の空気入りタイヤの断面形状に非常に近いことが確認できる。一方、比較例のタイヤモデル4は、実際のタイヤの外径よりも小さく、かつ、総幅ではかなり大きくなっていることが確認でき、精度について、改善の余地があることがわかる。
【0071】
そして、上記のように、精度良く断面形状が再現されたタイヤモデル4を用いて、各種のシミュレーションが行われる(
図2のステップS6)。このシミュレーションからは、従来よりも精度の良い解析結果が得られるのは言うまでもない。
【0072】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。