特許第6363883号(P6363883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363883
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】ネット状資材
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/045 20120101AFI20180712BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20180712BHJP
   D04H 3/147 20120101ALI20180712BHJP
   D04H 3/018 20120101ALI20180712BHJP
【FI】
   D04H3/045
   B32B5/26
   D04H3/147
   D04H3/018
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-126110(P2014-126110)
(22)【出願日】2014年6月19日
(65)【公開番号】特開2016-3423(P2016-3423A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390028451
【氏名又は名称】ダイオ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】印藤 ▲たかし▼
(72)【発明者】
【氏名】安岡 実
(72)【発明者】
【氏名】今野 弘成
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−094899(JP,A)
【文献】 特開平10−128927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の熱可塑性樹脂を含有する割繊維ウェブより構成されたネット状資材であって、芯と該芯を包接する鞘とからなる複合フィラメントを複数本加熱融着することによって形成された扁平マルチフィラメントが、前記割繊維ウェブに加熱融着されていることを特徴とするネット状資材。
【請求項2】
少なくとも2層の割繊維ウェブより構成され、前記扁平マルチフィラメントが、該少なくとも2層の割繊維ウェブの間に配設されている、請求項1に記載のネット状資材。
【請求項3】
前記扁平マルチフィラメントが格子状に配置されている、請求項1または2記載のネット状資材。
【請求項4】
前記芯がポリプロピレンを含有し、且つ、前記鞘がポリエチレンを含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のネット状資材。
【請求項5】
前記複合フィラメントは、芯が50〜80重量%の容量を占め、且つ、鞘が50〜20重量%の容量を占めるフィラメントである、請求項1〜4のいずれかに記載のネット状資材。
【請求項6】
前記扁平マルチフィラメントの繊度が500〜1500dTである、請求項1〜のいずれかに記載のネット状資材。
【請求項7】
前記扁平マルチフィラメントが、幅が0.7〜1.3mmで、厚さが0.07〜0.13mmであるフィラメントである、請求項1〜のいずれかに記載のネット状資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光性のネット状資材に関するものであり、より詳細には、割繊維ウェブからなり、扁平マルチフィラメントが補強糸として当該ウェブに加熱融着されている、遮光性のネット状資材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農作物の生育には光が大きく影響することが知られており、農作業の現場では、作物の種類や育成環境、季節等の条件に応じて、遮光性のネット(以下、遮光ネットとも称する。)で植物を覆い、植物に到達する光の量をコントロールしてきた。
【0003】
例えば、特許文献1では、割繊維不織布等からなる樹脂製のネット状資材であって、該樹脂に、平均粒径が0.8μm以上でかつ0.4μm以上の粒子の割合が90%以上の粒子が、樹脂100質量部あたり0.5〜3質量部添加されたネット状資材が提案されている。特許文献1のネット状資材は、可視光を透過させながら赤外線のみを効果的に遮断することができ、また、割繊維不織布から形成されているので、緯糸と経糸とを編織して形成される織物状の資材に比べて軽量であり、加えて、十分な通気性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4504822号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のネット状資材は、釘のような鋭利なものや展張時の固定具等が引っかかったり、刺さったりして孔がひとたび形成されると、かかる孔を起点にして、割繊維不織布を構成する割繊維ウェブ1層1層が剥離したり、或いは、破れが伝播してゆき伝線切れが生じるという点で劣っていた。さらにまた、形状安定性に乏しく、外部から引張応力が加わると、ネット状資材が容易に伸び、或いはたわむことがあった。その結果、特許文献1のネット状資材は、実用に供するには課題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、耐剥離性、伝線切れ防止性および形状安定性を有する、遮光性のネット状資材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、少なくとも1層の熱可塑性樹脂を含有する割繊維ウェブより構成されたネット状資材であって、芯と該芯を包接する鞘とからなる複合フィラメントを複数本加熱融着することによって形成された扁平マルチフィラメントが、前記割繊維ウェブに加熱融着されていることを特徴とするネット状資材が提供される。
【0008】
本発明のネット状資材においては、
(1)少なくとも2層の割繊維ウェブより構成され、前記扁平マルチフィラメントが、該
少なくとも2層の割繊維ウェブの間に配設されていること、
(2)前記扁平マルチフィラメントが格子状に配置されていること、
(3)前記芯がポリプロピレンを含有し、前記鞘がポリエチレンを含有すること、
)前記複合フィラメントは、芯が50〜80重量%の容量を占め、鞘が50〜20重
量%の容量を占めるフィラメントであること、
)前記扁平マルチフィラメントの繊度が500〜1500dTであること、
)前記扁平マルチフィラメントが、幅が0.7〜1.3mmで、厚さが0.07〜0
.13mmであるフィラメントであること、
が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のネット状資材においては、割繊維ウェブに補強糸が接着されているため、釘や展張時の固定具等が刺さって孔が形成され、各層の割繊維ウェブの剥離や伝線切れが広がりはじめた場合でも、剥離、伝線切れは補強糸に到達すると停止する。加えて、割繊維ウェブ同士および割繊維ウェブと補強糸との接着が加熱融着により行われており、接着剤によって接着した場合に比べて接着強度が向上しているので、釘、展張時の固定具などが刺さったときの剥離、伝線切れそのものも起こりにくい。従って、本発明のネット状資材は、十分な耐剥離性、伝線切れ防止性を有している。
【0010】
また、本発明のネット状資材では、複数本のフィラメントを加熱融着することによって形成された扁平マルチフィラメントを補強糸として使用するため、例えば樹脂製のテープヤーンを補強糸として用いた場合に比べて、引張強度等の機械的強度が各段に向上する。割繊維ウェブは軽量性と柔軟性の点で優れているが、かかる割繊維ウェブを、高い機械的強度を有する扁平マルチフィラメントによって補強することにより、形状安定性が著しく改善される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】割繊維ウェブを示す図である。
図2】扁平マルチフィラメントの構造を示す概略断面図である。(a)は、扁平マ ルチフィラメントの形成に用いられる複合フィラメントの概略断面図である 。(b)は、扁平マルチフィラメントの概略断面図である。
図3】本発明のネット状資材の一実施形態を示す概略図である。(a)は、ネット 状資材の概略平面図である。(b)は、ネット状資材の概略断面図である。
図4図1に示す割繊維ウェブの製造に用いられる、スリットを入れた無延伸フ ムの部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のネットは、割繊維ウェブで基本的に構成され、補強糸として、複数本のフィラメントを加熱融着することによって形成された扁平マルチフィラメントを用い、当該割繊維ウェブと補強糸とが加熱融着されている。
【0013】
<割繊維ウェブ>
図1に、本発明のネット状資材を構成する割繊維ウェブを示す。図1(a)は、割繊維ウェブの概略斜視図であり、図1(b)は、(a)のうちA部を拡大した図である。本発明では、図1に示されているような割繊維ウェブ1を少なくとも1層用いる。割繊維ウェブ1は、例えば無延伸フィルムを高倍率に一軸延伸すると同時にスプリット(割繊)加工し、その後高温熱処理により寸法固定化を行うことで製造される。その結果、割繊維ウェブ1は、幹繊維3と、幹繊維同士をつなぐ枝繊維5とを有する。具体的には、互いに平行に延びた複数の幹繊維3と、幹繊維3に対して交差して延び、隣接する幹繊維3同士を繋ぐ枝繊維5とで構成される。枝繊維5は幹繊維3と比べて細く、割繊維ウェブ1の機械的強度は、主として幹繊維3によって与えられる。
【0014】
割繊維ウェブ1は、緯糸と経糸とを編織して形成される織物状の樹脂製ネットに比べて軽量であり、また、柔軟性の点でも優れている。さらに、十分な通気性を確保することができる。
【0015】
本発明において、割繊維ウェブ1は熱可塑性樹脂より形成される。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂やPET等のポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド等が挙げられる。
【0016】
割繊維ウェブは、単層構造を有してもよいが、好適には、図1(b)に拡大して示すように、積層構造であって、内層7を構成する樹脂が、表層9を構成する樹脂よりも高融点の樹脂である積層構造を有する。表層9を構成する熱可塑性樹脂としては、割繊維ウェブ1と扁平マルチフィラメント10との接着強度の観点から、扁平マルチフィラメント10と同種の樹脂を用いることが好ましく、特に、ポリエチレンが好ましい。内層7を構成する樹脂としては、表層9との密着性の観点および割繊維ウェブ1自体に適度な剛性を付与する観点から、高密度ポリエチレンが好ましい。尚、表層9および内層7を、扁平マルチフィラメント10を構成する樹脂と同じポリオレフィン系とすると、リサイクル性も向上する。
【0017】
割繊維ウェブ1は、遮光ネットとして機能するために、不透明である必要がある。割繊維ウェブ1を不透明にするためには、例えば、割繊維ウェブ1を形成するために用いられる無延伸フィルムに着色剤を添加する方法が挙げられる。着色剤としては、白色顔料、黒色顔料、青色顔料、赤色顔料等公知の顔料を挙げることができるが、遮光性および遮熱性の観点から白色顔料が望ましい。顔料の添加量は、遮光率等に応じて適宜決定されるが、通常、割繊維ウェブ1あたり、0.2〜4.0重量%が好ましく、0.5〜3.5重量%が特に好ましい。割繊維ウェブ1が積層構造を有する場合には、顔料は少なくとも表層9に分散されていればよい。また、複数の割繊維ウェブを用いる場合には、少なくとも1枚の割繊維ウェブに顔料が含まれていればよい。その他、割繊維ウェブ1には、添加剤として、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング剤などが配合されてもよい。
【0018】
<扁平マルチフィラメント>
図2は、扁平マルチフィラメントの構造を示す概略断面図である。図2(a)は、扁平マルチフィラメントの形成に用いられるフィラメント(以下、モノフィラメントとも称する。)の集合体を示す概略断面図である。図2(b)は、モノフィラメントを加熱融着させて得られた扁平マルチフィラメントを示す概略断面図である。扁平マルチフィラメント10は、少なくとも表面に熱可塑性樹脂が存在するモノフィラメントを複数本用意し、かかるモノフィラメントの集合体を加熱してモノフィラメントの表面を溶融させ、モノフィラメント同士を互いに融着させることによって形成される。
【0019】
「扁平」とは、マルチフィラメント10の断面が略楕円形であることを意味し、具体的には、短径(厚さ):長径(幅)=1:5〜1:20であることを意味する。本発明においては、補強糸が扁平形状をしていることにより、補強糸と割繊維ウェブとの接触面積が増大し、加熱融着による接着強度が著しく向上する。また、割繊維ウェブと補強糸とが一体となってネット状資材表面が滑らかとなり、そのため、手触りがよく、且つ、ユーザーの衣服等がひっかかりにくい。
【0020】
本発明においては、モノフィラメントが、芯13と該芯を包接する鞘15とからなる複合フィラメント17であることが好ましく、特に、鞘15を構成する樹脂を熱可塑性樹脂とし、且つ、芯13を構成する樹脂を、鞘を構成する樹脂よりも高い融点の樹脂とした複合フィラメント17であることが好ましい(図2(a)参照)。扁平マルチフィラメント10が複合フィラメント17によって形成されると、図2(b)に示されるように、芯13部分の構造が扁平マルチフィラメント10中に残ることにより、扁平マルチフィラメント10に高い引張強度が発現する。その結果、ネット状資材の形状安定性をより向上させることができる。また、鞘15として低融点の熱可塑性樹脂を用いることにより、複合フィラメント17同士を容易に且つ強固に加熱融着させることができる。さらに、残存した芯13の周囲に鞘15由来の樹脂がマトリックス19となって存在することにより、扁平マルチフィラメント10に適度な柔軟性も付与することができ、その結果、ネット状資材も適度な柔軟性を有することとなる。さらにまた、複合フィラメント17から形成される扁平マルチフィラメント10は、例えばスパン糸やテープヤーンといった汎用樹脂製糸と異なり、複合フィラメント17が集まって束になっている様子を目視で視認することができるので、美観の点でも優れている。
【0021】
複合フィラメントの芯13を構成する樹脂としては、好適には、ポリプロピレン、PET、ナイロンが用いられ、鞘15を構成する樹脂としては、芯を構成する樹脂の融点よりも低融点であることを条件として、ポリエチレン、ポリプロピレンが用いられる。特に好適には、芯13を構成する樹脂としてポリプロピレンを、鞘15を構成する樹脂としてポリエチレンを用いた場合、融点が適度に離れており、かつ扁平マルチフィラメント10に高い引張強度と優れた柔軟性を付与することができる。
【0022】
尚、モノフィラメントは、上述の芯鞘構造以外の構造を有してもよく、例えば、単層構造であってもよい。この場合、熱可塑性樹脂としては、従来公知のもの、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、PET等のポリエステル、ナイロン等のポリアミドが使用できる。
【0023】
本発明のネット状資材は、主に遮光ネットとして利用されるため、本発明に用いられる扁平マルチフィラメント10は、不透明である必要がある。扁平マルチフィラメント10を不透明にする手段として、例えば、樹脂に着色剤を添加してモノフィラメントを形成し、かかるモノフィラメントにより扁平マルチフィラメントを形成する方法が挙げられる。着色剤としては、白色顔料、黒色顔料、青色顔料、赤色顔料等公知の有機乃至無機顔料を挙げることができるが、遮光性および遮熱性の観点から白色顔料が望ましい。顔料の添加量は、遮光率等に応じて適宜決定されるが、通常、扁平マルチフィラメントあたり0.2〜4.0重量%が好ましく、0.5〜3.5重量%が特に好ましい。モノフィラメントが複合フィラメントである場合、顔料は、少なくとも鞘を構成する樹脂に添加されていればよい。
【0024】
モノフィラメントには、所望により、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング剤などの公知の添加剤を適宜の量で配合してもよい。
【0025】
複合フィラメント17の芯と鞘の割合は、芯が50〜80重量%の容量を占め、鞘が50〜20重量%の容量を占めることが好ましく、特に、芯が55〜75重量%の容量を占め、鞘が45〜25重量%の容量を占めることが好ましい。複合フィラメントあたりの芯13の占める割合が小さすぎると、扁平マルチフィラメント10に十分な引張強度を付与することができない虞がある。一方、芯13の占める割合が大きすぎると、芯の一部が複合フィラメント17の表面に露出し、複合フィラメント17同士の加熱融着がうまくいかず、扁平マルチフィラメント10に割れや引裂きが生じる虞がある。また、扁平マルチフィラメント10の柔軟性が不十分となる虞もある。
【0026】
扁平マルチフィラメント10は、繊度が500〜1500dT(デシテックス)であることが好ましく、特に700〜1300dTであることが好ましい。扁平マルチフィラメント10の繊度が低すぎると、割繊維ウェブのたわみや伸びを抑制することができない虞がある。また、割繊維ウェブと扁平マルチフィラメント10との接着強度も弱くなる虞がある。繊度が高すぎると、ネット状資材が重くなり、運搬効率や作業効率が低下し、或いは、作物をネット状資材で直接覆うときに、その重みが作物の生育を妨げる虞がある。更に、取扱い性やコストの点でも好ましくない。
【0027】
扁平マルチフィラメント10の大きさとしては、幅が0.7〜1.3mmで、厚さが0.07〜0.13mmであることが好ましく、特に、幅が0.8〜1.2mmで、厚さが0.08〜0.12mmであることが好ましい。かかる幅および厚さは、平均値とする。扁平マルチフィラメント10の幅が狭すぎると、ネット状資材の形状安定性を充分に確保することができない虞がある。幅が広すぎると、ネット状資材の通気性が損なわれる虞がある。厚さが薄すぎると、幅が狭すぎる場合と同様、扁平マルチフィラメント10が補強糸としての役割を果たせない虞がある。厚さが厚すぎると、ネット状資材において扁平マルチフィラメント部分のみが突出するので、ユーザーがネット状資材に触れたときの手触りが悪くなり、或いは、保管・運搬時にネット状資材がかさばる等の問題が生じる虞がある。
【0028】
扁平マルチフィラメント10におけるモノフィラメント17の本数は、上述の芯と鞘の割合や繊度、幅や長さといった条件に応じて適宜決定されるので一概に規定することはできないが、一般的には120〜360本であり、好適には180〜300本である。フィラメント17の本数は、例えば、扁平マルチフィラメントの断面のSEM画像を撮影し、芯の本数を数えることによって確認可能である。
【0029】
<ネット状資材>
図3は、本発明のネット状資材の一実施形態を示す概略平面図である。図3(a)は、ネット状資材の概略平面図であり、図3(b)は、ネット状資材の概略断面図である。本発明のネット状資材20は、割繊維ウェブ1より構成され、補強糸として扁平マルチフィラメント10が使用され、割繊維ウェブ1と扁平マルチフィラメント10とが加熱融着されている。
【0030】
本発明において、割繊維ウェブ1は、少なくとも1層存在すればよいが、耐久性や遮光性の観点から、少なくとも2層存在することが好ましい。軽量性および通気性の観点から、2層存在することが特に好ましい。割繊維ウェブ1が2層以上存在する態様においては、割繊維ウェブ1同士は、幹繊維3が交差するように積層される。幹繊維3が交わる角度は、特に制限されないが、直交(90°)以外の角度で交差すること、即ち、幹繊維3が交差して形成される四角形が略平行四辺形となるような角度で交差することが好ましい。特に、かかる略平行四辺形中の鈍角θの角度が92〜115°となるように交差することが好ましい。従来は、幹繊維同士を直行させるようにして2枚の割繊維ウェブを積層する態様が一般的であったが、かかる従来の態様によれば、遮光ネットに通気性と遮光性の両方を最大限に付与することができなかった。しかし、上述のように幹繊維3同士が略平行四辺形を形成するように割繊維ウェブ1を積層すると、従来の態様と比べて、複数の幹繊維3によって形成される四角形の面積は変えることなく、四角形の辺の長さの合計を長くできる。四角形の面積の大小は通気性の優劣に影響し、辺の長さの合計の長短は遮光性の優劣に影響する。即ち、幹繊維で形成される四角形を略平行四辺形にすると、従来と同等の通気性を確保しながらも、従来よりも優れた遮光性を得ることができる。
【0031】
本発明においては、割繊維ウェブ1には扁平マルチフィラメント10が補強糸として加熱融着されている。複数の扁平マルチフィラメント10の並べ方に特に制限はなく、例えば、複数本の扁平マルチフィラメント10を平行に並べる態様、ランダムに配置する態様、格子状に配置する態様等を適宜選択すればよい。扁平マルチフィラメントの配列容易性の観点とネット状資材に優れた形状安定性を付与する観点から、格子状に配置する態様が好ましい。特に、作物をネット状資材で覆う際の作業性向上の観点から、図3に示されているように、最終的に得られるネット状資材20の長さ方向lに対して平行に経糸として扁平マルチフィラメント10が並べられ、且つ、ネット状資材20の幅方向wに対して平行に緯糸として扁平マルチフィラメント10が並べられることが好ましい。
【0032】
隣接する扁平マルチフィラメント10の間隔は、1〜10cmが好ましく、2〜8cmが特に好ましい。即ち、扁平マルチフィラメント10が格子状に配置される場合であれば、格子の1辺の長さが1〜10cmの範囲内であることが好ましく、2〜8cmの範囲内であることが特に好ましい。間隔が短すぎると、ネット状資材20の単位面積あたりに存在する扁平マルチフィラメント10が過度に多くなり、軽量性や通気性が損なわれる虞がある。一方、間隔が長すぎると、充分な耐引裂性や伝線切れ防止性、形状安定性が付与されない虞がある。
【0033】
扁平マルチフィラメント10は、割繊維ウェブ1の外側表面に加熱融着されてもよいが、扁平マルチフィラメント10と割繊維ウェブ1とをより強固に接着させる観点から、複数の割繊維ウェブ1からなる積層体の間に配置されて加熱融着されることが好ましい。
【0034】
本発明のネット状資材20の大きさは、栽培作物の種類、農地の広さ等に応じて適宜決定されるが、通常、幅が1〜10mであり、好ましくは2〜8mである。長さも、栽培作物の種類、農地の広さ等に応じて適宜決定される。
【0035】
本発明のネット状資材20は、栽培している作物に透過する光をコントロールするため、遮光性を有している。具体的には、10〜90%、好ましくは20〜80%の遮光率を有している。当該遮光率は、前記した顔料の添加量、複数の割繊維ウェブ1同士の積層角度、扁平マルチフィラメントの幅等を変えることで調節することができる。遮光率は、例えば、JIS L 1055 カーテンの遮光性試験方法Aに準拠して測定することができる。
【0036】
<製造方法>
本発明のネット状資材は、(1)割繊維ウェブと(2)扁平マルチフィラメントを用意し、(3)割繊維ウェブを積層機によって、幹繊維同士が所望の角度で交差するような方向から供給しながら、同時に、所望の角度から扁平マルチフィラメントを供給し、熱融着させることで製造される。
【0037】
(1)割繊維ウェブの用意
図4は、割繊維ウェブの製造に用いられる、スリットを入れた無延伸フィルムの部分斜視図である。割繊維ウェブは、例えば、無延伸フィルム30を用意し、かかる無延伸フィルム30を一軸高延伸と同時に割繊(スプリット)することにより得ることができる。
【0038】
無延伸フィルム30は、多層インフレーション法や多層Tダイ法といった押出成形により得ることができる。無延伸フィルム30の構造は、最終的に得られる割繊維ウェブ1に必要な積層構造を反映するように、決定される。
【0039】
得られた無延伸フィルム30を縦方向(図4に示すL方向)に延伸しながら、図4に示すように、無延伸フィルム30に、縦方向に千鳥掛けに、例えばスプリッターを用いて割繊(スプリット処理)して、多数の平行なスリット30aを形成する。スプリット処理のかわりに、熱刃によりスリット処理を施してもよい。スリット30aが形成された無延伸フィルム30は、引き続き縦方向に延伸されながら、スリット30aの方向に対して直角に拡幅される。このようにして、図1に示すような、幹繊維3がほぼ縦方向に配列された割繊維ウェブ1が得られる。
【0040】
延伸温度は、無延伸フィルム30を構成する樹脂の種類によって異なるので一概に規定することはできないが、ポリエチレンの場合、一般的には、90〜120℃が好ましく、特に95〜110℃が好ましい。
【0041】
延伸倍率(配向倍率)は6.0〜11.0倍が好ましく、特に7.0〜9.5倍が好ましい。延伸倍率が小さすぎると、割繊維ウェブ1の引張強度等の機械的強度が損なわれる虞がある。一方、延伸倍率が大きすぎると、特別な装置が必要となり、製造コストが増加する。
【0042】
延伸速度は、無延伸フィルム30の積層構造や延伸温度等の条件に応じて適宜決定すればよいが、一般的には50〜70m/minである。
【0043】
延伸後、寸法固定化を行うために、得られた割繊維ウェブに対して熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度としては例えば、90〜120℃が好ましい。
【0044】
(2)扁平マルチフィラメントの用意
扁平マルチフィラメントは、例えば、以下の方法により形成することができる。即ち、定法の複合紡糸設備、芯鞘型複合紡糸ノズルを用いて、所望の芯鞘構造を有する未延伸の複合フィラメントを、所望の本数同時に得る。続いて、得られた複合フィラメントの集合体を、鞘を構成する樹脂の融点よりも高く芯を構成する樹脂の融点よりも低い温度でローラー延伸し、延伸と共に鞘を構成する樹脂を加熱溶融させる。その結果、図2に示されるような、フィラメント17同士が加熱溶融した扁平状のマルチフィラメント10を得ることができる。
【0045】
(3)熱融着
続いて、得られた割繊維ウェブ1と扁平マルチフィラメント10とを所望の角度で積層し、圧着シリンダーで圧着しながら加熱融着する。具体的には、得られた2層の割繊維ウェブ1を、幹繊維3同士が所望の角度で交差するようにして公知の積層機で供給しながら、同時に、所望の角度で扁平マルチフィラメント10を供給し、熱融着で接着する。
【0046】
熱融着は、公知の方法によって行うことができ、例えば加熱した圧着シリンダーによって行うことができる。熱融着温度は、高融点の熱可塑性樹脂からなる割繊維ウェブ内層の延伸効果が失われないように、内層を構成する熱可塑性樹脂の融点以下であること、割繊維ウェブ表層の熱可塑性樹脂の融点以上であること、扁平マルチフィラメントの鞘を構成する熱可塑性樹脂の融点以上であること、および扁平マルチフィラメントの芯を構成する樹脂の融点以下であることという条件を満たすようにして決定され、一般には、110〜135℃が好ましい。
【0047】
積層速度もまた、熱融着温度等の条件によって適宜決定されるので一概に規定できないが、一般に、25〜50m/minとすることが好ましい。
【0048】
扁平マルチフィラメント10を供給する間隔は、最終的に得られるネット状資材20における扁平マルチフィラメント10の間隔等に応じて適宜決められるが、一般的には2〜15cmピッチが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により更に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。各実施例および比較例において、諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
【0050】
(1)引張強度
JIS L1096に準拠し、幅2.5cm×長さ20cmのサンプルについて、オートグラフ[島津製作所社製、機種名「AGSJ−1KN」]を用い、速度10cm/分、つかみ間隔10cm(N=3)の条件で引張強度を測定した。
【0051】
(2)引張伸度
JIS L1096に準拠し、幅2.5cm×長さ20cmのサンプルについて、オートグラフ[島津製作所社製、機種名「AGSJ−1KN」]を用い、速度10cm/分、つかみ間隔10cm(N=3)の条件で引張伸度を測定した。
【0052】
(3)接着強度
斜め45度方向にとった幅2.0cm×長さ20cmのサンプルを、オートグラフ(前出)を用いて、引っ張り速度10cm/分、つかみ間隔10cm(N=3)で強度(接着強度)を測定した。
【0053】
(4)収縮率
幅3センチ×長さ50cm(N=3)のサンプルを80℃に設定した恒温乾燥機に30分入れ、サンプルを入れる前と取り出したあとの長さ比で縦方向及び横方向について収縮率を測定した。
【0054】
(5)柔軟性
20cm×20cmのサンプル(N=3)を手で握りその感触で、○;柔らかい、△;中程度、×;硬い、の3段階で評価した。
【0055】
(6)剥離性、伝線切れ性
20cm×20cmのサンプルで扁平マルチフィラメント10が経緯格子状態にある正方形の中に5センチの釘を刺し、前後左右に引張り、それによる割繊維ウェブ1の剥離状態、伝線切れ状態を観察し、○;剥離、伝線切れ少、△;同やや多い、×;同多い の3段階で評価した。
【0056】
<実施例1>
(1)フィルム原料
フィルム原料として、図1A部拡大図の通り、表層/中間層/表層がLDPE/HDPE/LDPEである、厚さ170μm、幅1.3m、長さ1000mのフィルムを使用した。フィルム原料における各層の厚さ比は、表層:中間層:表層=1:7:1であった。フィルム原料には、フィルム原料全体に対して2.8%の白色顔料を添加していた。
(2)扁平マルチフィラメント
扁平マルチフィラメントとしては、芯がPP、鞘がLDPEである複合フィラメント240本から構成された、厚さ0.1mm、幅1.0mm、繊度910dTの糸を用いた。複合フィラメントにおける芯鞘の容積比は、芯が65重量%、鞘が35重量%であった。扁平マルチフィラメント中には、扁平マルチフィラメント全体に対して2.5%の白色顔料を添加していた。
(3)延伸工程
上記フィルム原料を用い、延伸倍率8.0倍、延伸温度100℃、熱処理温度105℃、巻き取り速度60m/分の条件で一軸延伸し、経緯用の割繊維ウェブを作成した。
(4)積層工程
上記(3)で得られた割繊維ウェブ2枚を、幹繊維同士で形成される略平行四辺形における鈍角θが95度となるようにして、積層機で経、緯方向から供給しながら、同時に、2枚の割繊維ウェブの間に扁平マルチフィラメントが挟まれるように経、緯方向に扁平マルチフィラメントを供給し、積層時に熱融着で接着した。その結果、ネット状資材が得られた。このネット状資材において、扁平マルチフィラメントは経、緯方向に直交するようにして配設されており、経方向に配設された扁平マルチフィラメント同士の間隔は5cmであり、緯方向に配設された扁平マルチフィラメント同士の間隔は5cmであった。
【0057】
<実施例2>
扁平マルチフィラメントの厚さが0.1mm、幅が2.0mm、繊度が1833dT(複合フィラメント240本)であった点以外は、実施例1と同様にしてネット状資材を得た。
【0058】
<実施例3>
扁平マルチフィラメントの厚さが0.1mm、幅が0.5mm、繊度が503dT(複合フィラメント240本)であった点以外は、実施例1と同様にしてネット状資材を得た。
【0059】
<比較例1>
経緯方向ともに補強糸を入れなかった以外は、実施例1と同様にしてネット状資材を得た。
【0060】
<比較例2>
扁平マルチフィラメントの代わりに繊度1023dT、直径1.1mm、芯/鞘=HDPE/LDPE、芯:鞘=1:1(重量)の芯鞘モノフィラメントを使用した以外は、実施例1と同様にしてネット状資材を得た。
【0061】
<比較例3>
扁平マルチフィラメントの代わりに、繊度985dT、幅0.8mmの3層テープヤーン(表層/中間層/表層=LDPE/PE/LDPE=1:3:1(厚さ))を使用した以外は、実施例1と同様にしてネット状資材を得た。
【0062】
上記の物性は以下のとおりである。
【表1】
【0063】
上記表1に示されているように、本発明のネット状資材は、従来の遮光ネットと同程度の引張伸度や収縮率を維持しながら、引張強度が高く形状安定性に優れており、また、耐剥離性/伝線切れ防止性も向上している。さらに、高い接着強度と優れた柔軟性も有している。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のネット状資材は、遮光性を有し、且つ耐剥離性、伝線切れ防止性および形状安定性に優れているため、農産物や園芸作物の成育時に農業資材として、路地のべた掛けやハウス内での遮光カーテンに利用したり、或いはゴルフ場の芝を保護する際に遮光ネットとして利用できる他、養魚池における魚の日除けや盗難防止ネット、包装資材、配管の被覆材、冷蔵庫の断熱材等にも使用できる。
【符号の説明】
【0065】
1 割繊維ウェブ
3 幹繊維
5 枝繊維
10 扁平マルチフィラメント
13 芯
15 鞘
17 複合フィラメント
19 マトリクス
20 ネット状資材
30 無延伸フィルム
30aスリット
図1
図2
図3
図4