(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記保護膜形成工程では、前記マッフル本体の内壁に縮合多環多核芳香族樹脂を塗布し、前記縮合多環多核芳香族樹脂が塗布されたマッフル本体を加熱し、前記縮合多環多核芳香族樹脂を熱分解し炭素とすることにより保護膜を形成する請求項12に記載のマッフルの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されたように、マッフルの表面を炭化ケイ素で被覆した場合、マッフルを構成する黒鉛材(すなわち等方性黒鉛基材)の熱膨張率と、炭化ケイ素の熱膨張率との間には差があるので昇温・降温を繰り返すことにより炭化ケイ素の膜にクラックが生じることがあった。
このクラックから一酸化ケイ素が浸透し、マッフルを構成する黒鉛材と反応してしまい、結局、堆積物が生じてしまうという問題点があった。
【0008】
また、マッフル内壁に生じた堆積物を除去することが困難な理由は、以下の原因によるものと考えられた。
発生した一酸化ケイ素が、マッフルの気孔内に浸透し、マッフルの気孔内で上記(1)式及び(2)式の反応が生じると、マッフル内部から浸み出すように堆積物が堆積する。つまり、堆積物がマッフル内部に根を張るような状態となる。炭化ケイ素及び二酸化ケイ素は硬いので、堆積物がマッフル内部に根を張るような状態であると、マッフル内壁から堆積物を除去しようとした時に同時にマッフル内壁を破壊することになる。すなわち、堆積物がマッフル内部に根を張るような状態になることが堆積物の除去を困難にしていると考えられる。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ケイ素を含む成形体を焼成する際に、マッフル内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じにくいマッフルを提供すること、該マッフルを有する焼成炉を提供すること、及び、該マッフルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、マッフルよりも気孔率の低い保護膜で、マッフルの内壁を被覆することにより、マッフル内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じにくくなることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明のマッフルは、ケイ素を含む成形体を焼成するために用いる焼成炉の焼成室内に取り付けられるマッフルであって、上記マッフルは、炭素からなるマッフル本体と、上記マッフル本体の内壁に形成された炭素からなる保護膜とからなり、上記保護膜の気孔率は、上記マッフル本体の気孔率よりも低いことを特徴とする。
【0012】
本発明のマッフルは、炭素からなるマッフル本体と、上記マッフル本体の内壁に形成された炭素からなる保護膜とからなる。
マッフル本体が炭素からなるため、本発明のマッフルを焼成炉の焼成室内に取り付けることにより、焼成室内の温度を均一に上昇・保温させることができ、また、ヒータや焼成室の表面を保護することができる。
また、本発明のマッフルでは、保護膜が炭素からなる。つまり、マッフル本体を構成する材料と、保護膜を構成する材料とは同じ炭素である。そのため、マッフル本体の膨張率と、保護膜の熱膨張率は同じである。従って、マッフルが、昇温・降温を繰り返した場合でも、保護膜にクラックが生じることを防ぐことができる。
【0013】
本発明のマッフルでは、上記保護膜の気孔率は、上記マッフル本体の気孔率よりも低い。
そのため、ケイ素を含む成形体を焼成する際に一酸化ケイ素が発生したとしても、一酸化ケイ素がマッフル本体の内部に浸透することを防ぎやすくなる。
その結果、マッフル本体の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることを防ぎやすくなる。
また、保護膜は炭素からなるので、保護膜が一酸化ケイ素と接触することにより、マッフルの内壁に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることがある。しかし、これら堆積物は、マッフル本体の内部に根を張った状態となりにくいので容易に除去することができる。
【0014】
本発明のマッフルでは、上記保護膜を構成する炭素は、熱分解炭素であることが望ましい。本明細書において「熱分解炭素」とは、高純度炭化水素を用いた化学蒸着法により蒸着される気相炭素化された炭素のことを意味する。
保護膜を構成する炭素が気相炭素化された熱分解炭素であると、フェノール樹脂のような液相炭素化によって形成された炭素に比べて保護膜が緻密になり気孔率が低くなるので一酸化ケイ素が浸透しにくくなる。そのため、マッフル本体の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることを防ぐことができる。また、保護膜の耐熱衝撃性が向上するので、保護膜にクラックが生じることを防ぐことができる。さらに、保護膜の耐熱性、耐腐食性、耐酸化性及び耐ケイ化性も向上する。
【0015】
本発明のマッフルでは、上記保護膜を構成する炭素は、マッフル本体の内壁に塗布された縮合多環多核芳香族樹脂が、熱分解して生じた炭素であることが望ましい。
上記保護膜は、マッフル本体の内壁に縮合多環多核芳香族樹脂を塗布し、マッフル本体の気孔に縮合多環多核芳香族樹脂を含浸させ、縮合多環多核芳香族樹脂を塗布されたマッフル本体を加熱し、縮合多環多核芳香族樹脂を熱分解し炭素とすることにより形成することができる。
このように形成された保護膜は、縮合多環多核芳香族樹脂が骨材として結晶質炭素を含むために炭化収率が高く、緻密になり気孔率も低くなるので一酸化ケイ素が浸透しにくくなる。また、マッフル本体の内壁近傍の気孔に縮合多環多核芳香族樹脂が浸透するので、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も低くなる。
そのため、マッフル本体の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることを防ぐことができる。
なお、本明細書においてマッフル本体の内壁近傍とは、マッフル本体の内壁を形成する面から内側に500μm以内となる部分のことを意味する。
【0016】
本発明のマッフルでは、上記保護膜の厚さは、30〜50μmであることが望ましい。
保護膜の厚さが、30μm未満であると、一酸化ケイ素の浸透を防ぎにくくなり、マッフル本体の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じ、これらが堆積しやすくなる。
保護膜の厚さが、50μmを超えると、一酸化ケイ素の浸透を防ぐ効果が向上しにくくなり、コストアップの要因となる。
【0017】
本発明のマッフルでは、上記保護膜の気孔率は、8.0%以下であることが望ましい。
保護膜の気孔率が、8.0%を超えると、一酸化ケイ素の浸透を防ぎにくくなり、マッフル本体の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じ、これらが堆積しやすくなる。
【0018】
本発明のマッフルでは、上記マッフル本体の内壁近傍に、上記保護膜を構成する炭素が含浸されていることが望ましい。
マッフル本体の内壁近傍に、上記保護膜を構成する炭素が含浸されていると、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も低下することになる。そのため、マッフル本体に一酸化ケイ素が浸透することをより防ぐことができる。
【0019】
本発明のマッフルでは、上記保護膜を構成する炭素が含浸されている上記マッフル本体の内壁近傍の気孔率が8.0%以下であることが望ましい。
マッフル本体の内壁近傍の気孔率が、8.0%を超えると、一酸化ケイ素の浸透を防ぎにくくなり、マッフル本体の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じ、これらが堆積しやすくなる。
【0020】
本発明のマッフルでは、上記保護膜はマッフル本体の内壁のみに形成されていることが望ましい。
ケイ素を含む成形体を焼成することにより発生する一酸化ケイ素は、通常、マッフル本体の内壁からマッフル本体に浸透する。そのため、保護膜が、マッフル本体の内壁のみに形成されているだけで、一酸化ケイ素がマッフル本体に浸透することを防ぐことができる。また、保護膜を形成するコストを低減することができる。
【0021】
本発明のマッフルでは、上記焼成炉に取り付けられた上記マッフルにおいて、上記マッフル本体の内壁の上部にのみ上記保護膜が形成されていることが望ましい。
ケイ素を含む成形体を焼成することにより発生する一酸化ケイ素は、通常、焼成炉の上方に向かって移動する。そのため、マッフル本体の内壁の上部にのみ保護膜が形成されているだけで、一酸化ケイ素がマッフル本体に浸透することを防ぐことができる。また、保護膜を形成するコストを低減することができる。
【0022】
本発明の焼成炉は、焼成室と、上記焼成室内に設けられたマッフルとを有し、ケイ素を含む成形体を焼成するために用いる焼成炉であって、上記マッフルは、上記本発明のマッフルであることを特徴とする。
【0023】
本発明の焼成炉は、上記本発明のマッフルを有するのでケイ素を含む成形体の焼成の際に上記効果を奏する。
【0024】
本発明の焼成炉は、連続焼成炉であることが望ましい。
連続焼成炉であると、効率よく成形体を焼成することができる。
【0025】
本発明のマッフルの製造方法は、上記マッフルを製造する方法であって、炭素からなるマッフル本体を準備するマッフル本体準備工程と、上記マッフル本体の内壁に、マッフル本体の気孔率よりも、気孔率の低い保護膜を形成する保護膜形成工程とを含むことを特徴とする。
【0026】
本発明のマッフルの製造方法により、上記本発明のマッフルを製造することができる。
【0027】
本発明のマッフルの製造方法では、上記保護膜形成工程では、高純度炭化水素を用いて化学蒸着法により熱分解炭素からなる上記保護膜を形成することが望ましい。
高純度炭化水素を用いると、マッフル本体の内壁に気相炭素化された熱分解炭素を蒸着することができる。すなわち、上記方法により、マッフル本体の内壁に熱分解炭素により構成される保護膜を形成することができる。保護膜を構成する炭素が気相炭素化された熱分解炭素であると、フェノール樹脂のような液相炭素化によって形成された炭素に比べて保護膜が緻密になり気孔率が低くなる。
さらに、上記方法により保護膜を形成すると、マッフル本体の内壁近傍の気孔にも熱分解炭素を含浸させることができる。そのため、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も低くなる。
従って、上記方法により、緻密であり気孔率が低い保護膜を有するのみならず、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も低いマッフルを製造することができる。
上記方法により製造されたマッフルでは、保護膜があることに加え、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も低いため、マッフル本体の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることを防ぐことができる。
【0028】
本発明のマッフルの製造方法では、上記保護膜形成工程では、上記マッフル本体の内壁に縮合多環多核芳香族樹脂を塗布し、上記縮合多環多核芳香族樹脂が塗布されたマッフル本体を加熱し、上記縮合多環多核芳香族樹脂を熱分解し炭素とすることにより保護膜を形成してもよい。
マッフル本体の内壁に縮合多環多核芳香族樹脂を塗布することにより、マッフル本体の内壁の気孔に縮合多環多核芳香族樹脂を含浸させることができる。そして、縮合多環多核芳香族樹脂を塗布されたマッフル本体を加熱し、縮合多環多核芳香族樹脂を熱分解し炭素とすることにより保護膜を形成することができる。このような保護膜は、縮合多環多核芳香族樹脂が骨材として結晶質炭素を含むために炭化収率が高く、緻密になり気孔率も低くなる。また、マッフル本体の内壁を構成する炭素の気孔に縮合多環多核芳香族樹脂を含浸させることができるので、マッフル本体の内壁の気孔率も低くなる。
従って、上記方法により、緻密であり気孔率が低い保護膜を有するのみならず、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も低いマッフルを製造することができる。
上記方法により製造されたマッフルでは、保護膜があることに加え、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も低いため、マッフル本体の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることを防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のマッフル、焼成炉、及び、マッフルの製造方法について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0031】
本発明のマッフルは、ケイ素を含む成形体を焼成するために用いる焼成炉の焼成室内に取り付けられるマッフルである。このことを図面を用いて説明する。
図1は、本発明のマッフルが取り付けられた焼成炉の一例を模式的に示す横断面図である。
【0032】
図1に示すように、焼成炉1は、焼成室2と、焼成室2内を加熱するためのヒータ3と、ヒータ3より内側に配置されたマッフル10と、マッフル10の内側に配置されたトレイ4とからなる。トレイ4には、ケイ素を含む成形体30(以下、単に「成形体30」ともいう)が配置されることになる。
マッフル10は、焼成室2の内壁やヒータ3と、トレイ4とを隔てている。そのため、トレイ4に配置された成形体30からガス等は発生しても、そのガス等は、マッフル10に遮られるので、焼成室2の内壁やヒータ3に達しにくい。また、逆に、焼成室2内に発生したガス等が成形体30に達しにくい。
【0033】
本発明の一例であるマッフル10について詳しく説明する。
図2は、
図1の破線部の拡大図である。
図2に示すように、マッフル10は、炭素からなるマッフル本体11と、マッフル本体11の内壁12に形成された炭素からなる保護膜13とからなる。また、保護膜13の気孔率は、マッフル本体11の気孔率よりも低い。
【0034】
本発明のマッフル10では、マッフル本体11が炭素からなるため、マッフル10を焼成炉1の焼成室2内に取り付けることにより、焼成室2内の温度を均一に上昇・保温させることができ、また、ヒータ3や焼成室2の表面を保護することができる。
【0035】
成形体30を焼成すると、成形体30が高温で加熱されることにより、一酸化ケイ素が生じることがある。マッフル10に保護膜13が形成されていない場合には、発生した一酸化ケイ素と内壁12の炭素とが接触し、下記(1)式及び(2)式に示す反応により炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることがある。
このように生じた炭化ケイ素及び二酸化ケイ素は、内壁12に堆積することになる。内壁12に堆積物が堆積すると、成形体30やその焼成体が堆積物と接触し、成形体30やその焼成体が破損する原因となる。
SiO+2C→SiC+CO・・・(1)
3SiO+CO→SiC+2SiO
2・・・(2)
【0036】
しかし、本発明のマッフル10では、保護膜13の気孔率は、マッフル本体11の気孔率よりも低い。
そのため、成形体30を焼成する際に一酸化ケイ素が発生したとしても、一酸化ケイ素がマッフル本体11の内部に浸透することを防ぎやすくなる。
その結果、マッフル本体11の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることを防ぎやすくなる。
また、保護膜13は炭素からなるので、保護膜13が一酸化ケイ素と接触することにより、内壁12に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることがある。しかし、これら堆積物は、マッフル本体11の内部に根を張った状態となりにくいので容易に除去することができる。
【0037】
保護膜13について詳しく説明する。
保護膜13の気孔率としては、特に限定されないが、8.0%以下であることが望ましく、4.0〜7.0%であることがより望ましく、4.0〜6.0%であることがさらに望ましい。
保護膜の気孔率が、8.0%を超えると、一酸化ケイ素の浸透を防ぎにくくなり、マッフル本体11の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じ、これらが堆積しやすくなる。
【0038】
なお、保護膜13の気孔率は、以下の方法により測定することができる。
まず、保護膜13の任意の直交断面(クロスカット)について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて150倍のSEM画像を撮影する。次に、上記SEM画像を2値化(白黒写真化)する。この時、白色の部分が基材に該当し、黒色の部分が気孔に該当する。そして、2値化したSEM画像における白色の部分と黒色の部分との境界を決定し、2値化したSEM画像をルーゼックスのソフトに取り込む。取り込まれた画像上では、水平方向に1ビットごとの厚さを有する短冊が作成される。そこで、各短冊において、黒色の部分から黒色の部分までの距離(黒色の部分の距離)、及び、白色の部分から白色の部分までの距離(白色の部分の距離)をそれぞれ測定する。全ての測定結果より、黒色の部分の距離及び白色の部分の距離の合計に対する黒色の部分の距離の割合を算出し、この値を保護膜13の気孔率とする。
【0039】
マッフル10では、保護膜13を構成する炭素は、特に限定されないが、熱分解炭素や、マッフル本体11の内壁12に塗布された縮合多環多核芳香族樹脂が熱分解して生じた炭素であってもよい。
【0040】
保護膜13を構成する炭素が熱分解炭素であると、保護膜13が緻密になり気孔率が低くなるので一酸化ケイ素が浸透しにくくなる。そのため、マッフル本体11の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることを防ぐことができる。また、保護膜13の耐熱衝撃性が向上するので、保護膜13にクラックが生じることを防ぐことができる。さらに、保護膜13の耐熱性、耐腐食性、耐酸化性及び耐ケイ化性も向上する。
なお、「熱分解炭素」とは、高純度炭化水素を用いた化学蒸着法により蒸着される炭素のことを意味する。熱分解炭素としては、水素ガス又はアルゴンガス共存下で、メタン、プロパン等の炭化水素ガスをマッフル本体11の内壁12に接触させることで、生じさせることができる。
【0041】
保護膜13を構成する炭素が、マッフル本体11の内壁12に塗布された縮合多環多核芳香族樹脂が熱分解して生じた炭素である場合には、以下の方法により保護膜13を形成することができる。
まず、マッフル本体11の内壁12に縮合多環多核芳香族樹脂を塗布し、マッフル本体11の気孔に縮合多環多核芳香族樹脂を含浸させ、縮合多環多核芳香族樹脂を塗布されたマッフル本体11を加熱し、縮合多環多核芳香族樹脂を熱分解し炭素とする。
このように形成された保護膜13は、緻密になり気孔率も低くなるので気体が浸透しにくくなる。また、マッフル本体11の内壁近傍14の気孔に縮合多環多核芳香族樹脂が浸透するので、マッフル本体11の内壁近傍14の気孔率も低くなる。
そのため、マッフル本体11の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることを防ぐことができる。
なお、縮合多環多核芳香族樹脂としては、二環以上の縮合多環芳香族化合物と、ヒドロキシメチル基、ハロメチル基のいずれか少なくとも一種の基を二個以上有する一環あるいは二環以上の芳香族からなる芳香族架橋剤と、酸触媒とを組み合わせてなる熱硬化性組成物である。
主として二環以上の縮合多環芳香族化合物としては、例えばナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、アセナフテン、アセナフチレン、ペリレン、コロネン及びこれらを主骨格とする誘導体の中から選ばれる一種又は二種以上の混合物、あるいは石炭系および石油系の重質油、タール、ピッチ等が挙げられる。
【0042】
なお、本明細書において内壁近傍14とは、
図2において、マッフル本体11の内壁12を形成する面から内側に500μm(
図2中nで示される距離)以内となる部分(
図2中斜線で示す領域)のことをいう。
【0043】
本発明のマッフル10では、保護膜13の厚さは、特に限定されないが、30〜80μmであることが望ましく、40〜70μmであることがより望ましく、50〜60μmであることがさらに望ましい。
保護膜13の厚さが、30μm未満であると、一酸化ケイ素の浸透を防ぎにくくなり、マッフル本体11の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じ、これらが堆積しやすくなる。
保護膜13の厚さが、80μmを超えると、一酸化ケイ素の浸透を防ぐ効果が向上しにくくなり、コストアップの要因となる。
【0044】
本発明のマッフル10では、保護膜13は、マッフル本体11の内壁12に形成されていれば、他のどのような場所に形成されていてもよいが、マッフル本体11の内壁12のみに形成されていることが望ましい。
成形体30を焼成することにより発生する一酸化ケイ素は、通常、マッフル本体11の内壁12からマッフル本体11に浸透する。そのため、保護膜13が、マッフル本体11の内壁12のみに形成されているだけで、一酸化ケイ素がマッフル本体11に浸透することを防ぐことができる。また、保護膜を形成するコストを低減することができる。
【0045】
本発明のマッフル10において、保護膜13の形成されている内壁12の部分は特に限定されないが、マッフル10が焼成炉1に取り付けられた際に、マッフル本体11の内壁12の上部にのみ保護膜13が形成されていることが望ましい。
成形体30を焼成することにより発生する一酸化ケイ素は、通常、焼成炉1の上方(
図1中矢印の方向)に向かって移動する。この理由は、以下の通りである。通常、焼成炉1内の雰囲気を構成するガスは、焼成炉1の下方から流入される。焼成炉1の下方には、台板や成形体30が配置されることになるので、ガスがこれらに衝突し上方に向かうことになる。そのため、焼成炉1内の気流も上方に向かい流れることになる。その結果、一酸化ケイ素は、焼成炉1の上方に向かって移動することになる。
そのため、マッフル本体11の内壁12の上部にのみ保護膜13が形成されているだけで、一酸化ケイ素がマッフル本体11に浸透することを防ぐことができる。また、保護膜を形成するコストを低減することができる。
【0046】
マッフル本体11の内壁12の上部について、図面を用いて以下に説明する。
図3は、本発明の焼成炉を切断した一部分の一例を模式的に示し、かつ、本発明のマッフルと、ケイ素を含む成形体に着目した透視図である。
図3に示す焼成炉1において、成形体30の上面を基準面40とする。マッフル本体11の内壁12の上部とは、この基準面40より上方に位置するマッフル本体11のことであり、
図3中斜線で示す領域のことである。
【0047】
本発明のマッフル10では、保護膜13の表面の面粗度はRz7μm以下であることが望ましく、Rz3〜6μmであることがより望ましい。
保護膜13の表面の面粗度がRz7μmを超えると、一酸化ケイ素の浸透を防ぎにくくなり、マッフル本体11の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じ、これらが堆積しやすくなる。
【0048】
次にマッフル本体11について詳しく説明する。
マッフル本体11は、連続する一つの部材のみで構成されていてもよく、2つ以上の部材が組み合わされて構成されていてもよい。
【0049】
また、マッフル本体11の気孔率としては、特に限定されないが、10.0〜18.0%であることが望ましく、12.0〜16.0%であることがより望ましい
マッフル本体11の気孔率が10.0%未満であると、マッフル本体11の密度が高くなりすぎ、製造コストの増大につながる。
マッフル本体11の気孔率が18.0%を超えると、保護膜13があったとしても、一酸化ケイ素が、マッフル本体11に浸透しやすくなる。従って、マッフル本体11の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じ、これらが堆積しやすくなる。また、マッフル本体が壊れやすくなる。
なお、マッフル本体11の内壁近傍14の気孔率は、上記保護膜13の気孔率の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0050】
本発明のマッフル10では、マッフル本体11の内壁近傍14に、保護膜13を構成する炭素が含浸されていてもよい。マッフル本体11の内壁近傍14に、保護膜13を構成する炭素が含浸されていると、マッフル本体の内壁近傍14の気孔率も低下することになる。そのため、マッフル本体11に一酸化ケイ素が浸透することをより防ぐことができる。
【0051】
マッフル本体11の内壁近傍14に、保護膜13を構成する炭素が含浸されている場合、内壁近傍14の気孔率は、8.0%以下であることが望ましく、4.0〜7.0%であることがより望ましく、4.0〜6.0%であることがさらに望ましい。
内壁近傍14の気孔率が、8.0%を超えると、一酸化ケイ素の浸透を防ぎにくくなり、マッフル本体11の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じ、これらが堆積しやすくなる。
【0052】
次に、本発明の焼成炉について説明する。
本発明の焼成炉1は、焼成室2と、焼成室2内に設けられたマッフルとを有し、成形体30を焼成するために用いる焼成炉であって、マッフルは、本発明のマッフル10である。
すなわち、
図1に示す焼成炉1は、本発明の焼成炉である。
【0053】
本発明の焼成炉1は、本発明のマッフル10を有するのでケイ素を含む成形体30の焼成の際に上記効果を奏する。
【0054】
本発明の焼成炉1は、本発明のマッフル10を有していればどのような焼成炉であってもよいが、連続焼成炉であることが望ましい。
連続焼成炉であると、効率よく成形体30を焼成することができる。
また、連続焼成炉内の温度は、連続焼成炉内の位置により決定されることになる。つまり、連続焼成炉内の所定の位置は、常に一定の温度となる。そのため、連続焼成炉内の所定の位置を構成する炉材は、温度変化を受けにくい。従って、炉材には温度変化に伴う熱応力が発生しにくい。その結果、炉材が熱応力により破損しにくくなり、炉材を長期間使用することができる。
また、通常、連続焼成炉であると、成形体30が連続して焼成炉内に移動するので、成形体30から発生する一酸化ケイ素の量が多くなる。しかし、本発明の焼成炉のように、マッフル本体11に保護膜13が形成されていると、大量に一酸化ケイ素が発生した場合であっても、マッフル本体11への一酸化ケイ素の浸透を防ぎやすくなる。
【0055】
次に、本発明の焼成炉の使用方法の一例について説明する。
本発明の焼成炉は、ケイ素を含む成形体の焼成に用いることができる。
ケイ素を含む形成体を焼成する方法としては、原料組成物を成形してケイ素を含む成形体を作製する成形工程と、ケイ素を含む成形体を焼成してケイ素を含む焼成体を作製する焼成工程とを含むことが望ましい。
【0056】
本発明の焼成炉で焼成するケイ素を含む成形体は、どのような成形体であってもよく、例えば、ハニカム構造等の構造材料や、電子材料等のセラミックを作製するための成形体であってもよい。このような成形体を焼成すると、ハニカム構造等の構造材料や、電子材料等に用いることができる焼成体を得ることができる。
【0057】
以下、本発明の焼成炉を用いて、炭化ケイ素の焼結体であって、ハニカム構造を有する構造材料を製造する方法を説明する。
なお、本発明の焼成炉の使用方法は以下の方法に限定されない。
【0058】
(a)成形工程
原料組成物を成形してケイ素を含む成形体を作製する方法は、特に限定されないが、例えば、以下の工程により作製することができる。
【0059】
(a−1)混合工程
まず、炭化ケイ素粉末と、必要に応じて有機バインダ、可塑剤、潤滑剤、水等を混合することにより、ケイ素を含む原料組成物を調製する。
【0060】
有機バインダとしては、特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等があげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
可塑剤としては、特に限定されず、例えば、グリセリン等があげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
潤滑剤としては、特に限定されず、例えば、例えば、ポリオキシエチレンモノブチルエーテル、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル等があげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
(a−2)成形工程
上記ケイ素を含む原料組成物をハニカム状に成形し、ケイ素を含む成形体を作製する。
【0064】
ここで、ハニカム状のケイ素を含む成形体について説明する。
図4は、ハニカム状のケイ素を含む成形体の一例を模式的に示す斜視図である。
図4に示すハニカム状のケイ素を含む成形体130は、多数のセル131がセル隔壁132を隔てて長手方向(
図4中aの方向)に並設された、高さT、幅W及び長さLを有する略直方体である。セル131のいずれか一方の端部は封止材133で封止されている。
【0065】
なお、
図4においてケイ素を含む成形体130は略直方体であるが、成形体130の形状は特に限定されず、略円柱、底面が扇形の柱体、略多角柱等の柱体であってもよい。
であってもよい。
また、
図4においてセル131の長手方向に垂直な断面形状は略正方形であるが、セルの長手方向に垂直な断面形状は略円形であってもよく、略多角形であってもよい。
【0066】
ケイ素を含む成形体のセルのいずれか一方の端部を封止するには、封止材ペーストを充填すればよい。
封止材ペーストは、例えば、ケイ素粉末、有機バインダ、溶媒を混合することにより作製することができる。
【0067】
このようなセルのいずれか一方の端部が封止されたハニカム状のケイ素を含む成形体を作製することにより、多孔質炭化ケイ素焼結体からなるハニカムフィルタを製造することができる。後の工程を経て製造されたハニカムフィルタは、排ガス中のパティキュレートを捕集して、排ガスを浄化することができるフィルタとして用いることができる。
また、セルを封止せずに多孔質炭化ケイ素焼結体としてもよい、この場合、ケイ素を含む焼成体は触媒担体として用いることができる。
【0068】
(b)脱脂工程
次に、ケイ素を含む成形体に有機バインダ等の有機成分が含まれる場合には、有機成分をケイ素を含む成形体から揮発させるために脱脂を行ってもよい。
脱脂温度は、300〜500℃であることが望ましく、300〜480℃であることがより望ましい。
脱脂時間は60〜240分であることが望ましい。
脱脂は、空気雰囲気下で行ってもよく、酸素比率が空気より多くなるようにアルゴンガス、窒素ガス及び酸素ガスを混合した混合気体雰囲気下で行ってもよい。空気雰囲気下で脱脂を行うと、セラミック成形体に含まれる有機成分をよく燃焼することができる。また、酸素比率が空気より多くなるようにアルゴンガス、窒素ガス及び酸素ガスを混合した混合気体雰囲気下で脱脂を行うと、セラミック成形体に含まれる有機成分をよりよく燃焼することができる。そのため、後述する焼成工程において、炭化ケイ素を好適に焼結させることができる。
【0069】
(c)焼成工程
次に、ケイ素を含む成形体を焼成する。
焼成温度は、1900〜2300℃であることが望ましく、2100〜2200℃であることがより望ましい。
焼成時間は120〜240分であることが望ましい。
焼成は、アルゴン雰囲気下又は窒素雰囲気下で行うことが望ましく、アルゴン雰囲気下がより望ましい。
【0070】
以上の工程を経て、ケイ素を含む焼成体を製造することができる。
【0071】
得られたハニカム状のケイ素を含む焼成体を、複数個集合させ集合型のハニカムフィルタとしてもよい。また、「上記(a−2)成形工程」において、大きなケイ素を含む成形体を作製しておくことにより、得られたハニカム状のケイ素を含む焼成体を一体型のハニカムフィルタとしてもよい。
【0072】
図5は、集合型のハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図である。
図5に示す、ハニカムフィルタ150は、複数個のケイ素を含む焼成体130´が接着材層151を介して集合されており、集合されたケイ素を含む焼成体130´の外周には、排ガスの漏れを防止するための外周コート層152が形成されている。なお、外周コート層152は、必要に応じて形成されていればよい。
以下にケイ素を含む焼成体を集合させ、集合型のハニカムフィルタ作製する方法を記載する。
【0073】
まず、得られたケイ素を含む焼成体のそれぞれの所定の側面に、接着材ペーストを塗布して接着材ペースト層を形成し、この接着材ペースト層の上に、順次他のケイ素を含む焼成体を集合する作業を繰り返し、ケイ素を含む焼成体の集合体を作製する。
次に、ケイ素を含む焼成体の集合体を加熱して接着材ペースト層を乾燥、固化させて接着材層とすることにより、ケイ素を含む焼成体の集合体を作製する。
ここで、接着材ペーストとしては、例えば、無機バインダと有機バインダと無機粒子とからなるものを使用してもよい。また、上記接着材ペーストは、さらに無機繊維及び/又はウィスカを含んでいてもよい。
【0074】
接着材ペーストに含まれる無機粒子としては、例えば、炭化物粒子、窒化物粒子等があげられる。具体的には、炭化ケイ素粒子、窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等があげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
接着材ペーストに含まれる無機繊維及び/又はウィスカとしては、例えば、シリカ−アルミナ、ムライト、アルミナ、シリカ等からなる無機繊維及び/又はウィスカ等があげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
接着材ペーストに含まれる無機バインダとしては、例えば、シリカゾル、アルミナゾル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機バインダの中では、シリカゾルが望ましい。
【0077】
集合体を加熱することにより接着材ペーストを加熱固化して接着材層とし、四角柱状のブロックを作製する。
接着材ペーストの加熱固化の条件は、従来からハニカムフィルタを作製する際に用いられている条件を適用することができる。
接着材層の厚さは、0.5〜2.0mmが好ましい。
【0078】
次に集合体に切削加工を施してもよい。具体的には、ダイヤモンドカッターを用いて集合体の外周を切削することにより、外周が略円柱状に加工された集合体を作製してもよい。
【0079】
次に、集合体の外周面に、外周コート材ペーストを塗布し、乾燥固化して外周コート層を形成してもよい。
ここで、外周コート材ペーストとしては、上記接着材ペーストを使用することができる。外周コート材ペーストとして、上記接着材ペーストと異なる組成のペーストを使用してもよい。なお、外周コート層は必ずしも設ける必要はなく、必要に応じて設ければよい。
外周コート層を設けることによって、集合体の外周の形状を整えてもよい。
外周コート層の厚さは、0.1〜3.0mmが好ましい。
【0080】
以上の工程により、集合型のハニカムフィルタを作製することができる。
このようにして作製されたハニカムフィルタは、例えば、排ガス中のパティキュレートを捕集して、排ガスを浄化することができるフィルタとして用いることができる。
【0081】
次に、本発明のマッフルの製造方法を説明する。
本発明のマッフルの製造方法は、上記マッフルを製造する方法であって、炭素からなるマッフル本体を準備するマッフル本体準備工程と、上記マッフル本体の内壁に、マッフル本体の気孔率よりも、気孔率の低い保護膜を形成する保護膜形成工程とを含む。
【0082】
以下、2種類の本発明のマッフルの製造方法について説明する。なお、本発明のマッフルの製造方法は、この2種類に限定されるものではない。
【0083】
(1)化学蒸着法によるマッフルの製造方法
(i)マッフル本体準備工程
まず、炭素からなるマッフル本体を準備する。マッフル本体は、従来のマッフルを製造する方法により製造することができる。
【0084】
(ii)保護膜形成工程
(ii−1)保護膜材料準備工程
次に、保護膜となる保護膜材料を準備する。保護膜材料としては、高純度炭化水素を必須成分とする材料があげられる。高純度炭化水素としては、特に限定されないが、メタン及びプロパンからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0085】
(ii−2)化学蒸着工程
次に、準備した保護膜材料を用いて、準備したマッフル本体の内壁に、化学蒸着法により熱分解炭素を蒸着する。化学蒸着法は、特に限定されないが以下の方法により行うことができる。
まず、マッフル本体を800〜2600℃に加熱する。この加熱温度は、1000〜2200℃であることがより望ましい。
次に、水素ガス又はアルゴンガス共存下で、上記保護膜材料をマッフル本体の内壁に接触させる。この際、温度を1000〜2200℃とすることが望ましく、処理時間を60〜180分とすることが望ましい
このような方法により、マッフル本体の内壁に熱分解炭素を形成することができる。
【0086】
以上の工程によりマッフル本体の内壁に熱分解炭素により構成される保護膜を形成することができる。このようにして得られたマッフルでは、保護膜の気孔率は、マッフル本体の気孔率よりも低い。すなわち、上記方法により本発明のマッフルを製造することができる。
【0087】
さらに、上記方法により保護膜を形成すると、マッフル本体の内壁近傍の気孔にも熱分解炭素を含浸させることができる。そのため、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も低くなる。
従って、上記方法により、緻密であり気孔率が低い保護膜を有するのみならず、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も低いマッフルを製造することができる。
上記方法により製造されたマッフルでは、保護膜があることに加え、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も低いため、マッフル本体の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることを防ぐことができる。
【0088】
(2)縮合多環多核芳香族樹脂を熱分解することによるマッフルの製造方法
次に、別の本発明のマッフルの製造方法を説明する。
【0089】
(i)マッフル本体準備工程
上記、(1)化学蒸着法によるマッフルの製造方法における(i)マッフル本体準備工程と同様であるので説明を省略する。
【0090】
(ii)保護膜形成工程
(ii−1)保護膜材料準備工程
次に、保護膜となる保護膜材料を準備する。保護膜材料としては、縮合多環多核芳香族樹脂を必須成分とする材料があげられる。
縮合多環多核芳香族樹脂としては、特に限定されないが、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、リグニン系ピッチ、芳香族系合成ピッチからなる群より選ばれる少なくとも1種のピッチを少なくとも主原料とするものが望ましい。
【0091】
(ii−2)塗布工程
次に、準備したマッフル本体の内壁に、準備した保護膜材料を塗布する。塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、ヘラで塗布してもよい。
マッフル本体の内壁に縮合多環多核芳香族樹脂を塗布することにより、マッフル本体の内壁の気孔に縮合多環多核芳香族樹脂を含浸させることができる。
【0092】
(ii−3)熱分解工程
次に、保護膜材料が塗布されたマッフル本体を加熱し、縮合多環多核芳香族樹脂を熱分解し炭素とする。
加熱温度としては、1800〜2200℃であることが望ましく、1900〜2100℃であることがより望ましい。
加熱時間としては、60〜300分であることが望ましく、120〜240分であることがより望ましい。
【0093】
以上の工程により、マッフル本体の内壁に縮合多環多核芳香族樹脂が熱分解した保護膜を形成することができる。このようにして得られたマッフルでは、保護膜の気孔率は、マッフル本体の気孔率よりも低い。すなわち、上記方法により本発明のマッフルを製造することができる。
【0094】
さらに、上記方法により保護膜を形成すると、マッフル本体の内壁の気孔に縮合多環多核芳香族樹脂を含浸させることができる。そして、縮合多環多核芳香族樹脂を塗布されたマッフル本体を加熱し、縮合多環多核芳香族樹脂を熱分解し炭素とすることにより保護膜を形成することができる。
また、マッフル本体の内壁を構成する炭素の気孔に縮合多環多核芳香族樹脂を含浸させることができるので、マッフル本体の内壁の気孔率も低くなる。
従って、上記方法により、緻密であり気孔率が低い保護膜を有するのみならず、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も低いマッフルを製造することができる。
上記方法により製造されたマッフルでは、保護膜があることに加え、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も低いため、マッフル本体の内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じることを防ぐことができる。
【実施例】
【0095】
以下に、本発明の実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。しかしながら、本発明の実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0096】
(実施例1)
(i)マッフル本体準備工程
マッフル本体(ET−10、縦250mm×横250mm×厚み50mm)を準備した。
マッフル本体の気孔率は15.0%であった。
【0097】
(ii)保護膜形成工程
(ii−1)保護膜準備工程
高純度炭化水素であるプロパンを炉内に供給する準備をした。
【0098】
(ii−2)化学蒸着工程
マッフル本体を焼成炉に配置し、マッフル本体を2000℃まで加熱した。次に、水素ガス存在下で、2000℃、120分の条件で、上記保護膜材料をマッフル本体の内壁に接触させ、マッフル本体の内壁に熱分解炭素からなる保護膜を形成させた。
【0099】
以上の工程を経て、実施例1のマッフルを製造した。実施例1のマッフルの保護膜の厚さは、40μmであった。
【0100】
(実施例2)
(i)マッフル本体準備工程
マッフル本体(ET−10、縦250mm×横250mm×厚み50mm)を準備した。
マッフル本体の気孔率は15.0%であった。
【0101】
(ii)保護膜形成工程
(ii−1)保護膜材料準備工程
縮合多環多核芳香族樹脂として石油系ピッチを主成分とし、p−キシレングリコール、p−トルエンスルホン酸及びα−メチルナフタレンを混合し保護膜材料を準備した。
【0102】
(ii−2)塗布工程
次に、マッフル本体の内壁に、保護膜材料25gをヘラを用いて塗布した。
(ii−3)熱分解工程
次に、保護膜材料が塗布されたマッフル本体を焼成炉に配置した。次に、マッフル本体を2000℃、120〜180分で加熱し、石油系ピッチを含む縮合多環多核芳香族樹脂を熱分解し炭素とした。
【0103】
以上の工程を経て実施例2に係るマッフルを製造した。実施例2のマッフルの保護膜の厚さは、40μmであった。
【0104】
(比較例1)
実施例1の(i)マッフル本体準備工程で準備したマッフル本体(ET−10、縦250mm×横250mm×厚み50mm)を比較例1のマッフルとした。
【0105】
(比較例2)
実施例2の(ii−1)保護膜材料準備工程において、石油系ピッチを主成分とし、p−キシレングリコール、p−トルエンスルホン酸及びα−メチルナフタレンを混合した縮合多環多核芳香族樹脂の代わりにフェノール樹脂を用いた以外は、実施例2と同様にして比較例2に係るマッフルを製造した。
比較例2のマッフルの保護膜の厚さは、40μmであった。
【0106】
(気孔率評価)
以下の方法により、各実施例及び各比較例のマッフルの保護膜、マッフル本体の内壁近傍、及び、内壁近傍より外側のマッフル本体の気孔率を測定した。
まず、保護膜、マッフル本体の内壁近傍、内壁近傍より外側のマッフル本体のそれぞれの任意の直交断面(クロスカット)について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて150倍のSEM画像を撮影した。次に、上記SEM画像を2値化(白黒写真化)した。この時、白色の部分が基材に該当し、黒色の部分が気孔に該当するとした。そして、2値化したSEM画像における白色の部分と黒色の部分との境界を決定し、2値化したSEM画像をルーゼックスのソフトに取り込んだ。取り込まれた画像上で、水平方向に1ビットごとの厚さを有する短冊を作成し、各短冊において、黒色の部分から黒色の部分までの距離(黒色の部分の距離)、及び、白色の部分から白色の部分までの距離(白色の部分の距離)をそれぞれ測定した。全ての測定結果より、黒色の部分の距離及び白色の部分の距離の合計に対する黒色の部分の距離の割合を算出し、この値を保護膜、マッフル本体の内壁近傍、内壁近傍より外側のマッフル本体の気孔率の気孔率とした。結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示すように、実施例1及び2では、マッフルの保護膜の気孔率は5.0%以下であり、マッフル本体の内壁近傍及び内壁近傍より外側のマッフル本体の気孔率よりも低かった。また、マッフル本体の内壁近傍は、8.0%以下であった。
一方、比較例1では、保護膜が形成されておらず、マッフル本体の内壁近傍及び内壁近傍より外側のマッフル本体の気孔率は15.0%であった。
また、比較例2では、保護膜が形成されているものの、保護膜の気孔率は9.0%と高かった。また、マッフル本体の内壁近傍の気孔率も9.0%と高かった。
【0109】
(浸透抑制評価)
以下の方法により、各実施例及び各比較例のマッフルへの一酸化ケイ素浸透抑制効果を評価した。
(1)各実施例及び各比較例のマッフルを連続焼成炉に取り付けた。
(2)ルツボ(縦438mm×横350mm×高さ43mm)に、二酸化ケイ素を6.0g及びケイ素を2.8g入れてよく混合した。その後、そのルツボを各実施例及び比較例のマッフルの内側に配置した。
(3)焼成炉の温度を1400℃まで上昇させ120分保持した。その後、焼成炉の温度が室温になるまで放置した。この工程を合計10回繰り返した。
(4)上記(3)工程後の各実施例及び各比較例のマッフルを取り出し、ルツボが配置されていた直上のマッフルの部分を、水平方向に垂直な方向で切断した。
(5)次にマッフルの切断面をSEM−EDX分析法(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析法)により分析し、各実施例及び各比較例のマッフルへの一酸化ケイ素浸透抑制効果を評価した。なお、SEM−EDX分析法には、Hitachi FE−SEM S−4800を用い、解析した。各実施例及び各比較例のSEM−EDX分析法による写真を
図6(a)〜(d)に示す。
図6(a)及び(b)は、それぞれ、実施例1及び2のマッフルの浸透抑制評価におけるSEM−EDX分析法による写真である。
図6(c)及び(d)は、ぞれぞれ、比較例1及び2のマッフルの浸透抑制評価におけるSEM−EDX分析法による写真である。
【0110】
図6(a)〜(d)において、Cは炭素原子を示し、Siはケイ素原子を示している。また、符号111で示す領域がマッフル本体であり、符号113で示す領域が保護膜である。
【0111】
図6(a)及び(b)に示すように、実施例1及び2のマッフルでは、マッフル本体内部にほとんどケイ素原子が存在していなかった。これは、実施例1及び2のマッフルへの一酸化ケイ素の浸透が保護膜により充分に抑制されたためと考えられる。
一方、
図6(c)及び(d)に示すように、保護膜がない又は、保護膜の気孔率がマッフル本体の保護膜の気孔率よりも低くない比較例1及び2では、マッフル本体内部にケイ素原子が多数存在していた。このケイ素原子は、炭化ケイ素又は二酸化ケイ素として存在していると考えられる。このようなケイ素原子がマッフル本体の内部に存在している理由は、実施例1及び2のマッフルへの一酸化ケイ素の浸透が充分に抑制できなかったためと考えられる。
【0112】
以上より、本発明のマッフルは、ケイ素を含む成形体を焼成する際に、マッフル内部に炭化ケイ素及び二酸化ケイ素が生じにくいマッフルであることが分かった。