【課題を解決するための手段】
【0014】
一実施例では、本発明は、実質的に同一の加入度及び実質的に同一の遠用視力の視力処方を有する累進めがねレンズ要素の列を提供し、累進めがねレンズ要素のそれぞれが、
遠用視力用の屈折度を提供する遠用領域と、
近用視力用の屈折度を提供する近用領域と、
遠用領域の屈折度から近用領域の屈折度へと変化する屈折度を有し、遠用領域と近用領域を連結する累進帯と、を規定する一組のレンズ設計パラメータによって特徴付けられる累進レンズ設計を有し、
累進めがねレンズ要素は、レンズ装用者の少なくとも2つのライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータのある範囲の値又はカテゴリーに対して、少なくとも2つのレンズ設計パラメータが各ライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの特定の値又はカテゴリーに起因又は関連した各値又は特性をそれぞれ有する、異なる累進レンズ設計を提供する。
【0015】
本明細書では、「遠用領域」という用語は、累進めがねレンズ要素の上方部分に位置する、遠用視力に適した指定領域を指すと理解される。一方、「近用領域」という用語は、累進レンズ要素の下方部分に位置する、近用の加入度を提供する指定領域を指すと理解される。
【0016】
本明細書を通して、「列(array)」という用語を使用する。説明の目的で、列という用語は、物理的な累進めがねレンズ要素そのものの完全な列に限定されると解釈されるものではない。さらに、おそらくこの例では連続的な処方活動の結果として、列がある期間にわたって組み付けることのできる対象である限り、本明細書を通して「列」という用語は、累進めがねレンズ要素の部分的な列又は完全な列を指すことを含むと理解される。
【0017】
明らかなように、部分的な列には、処方される場合、追加の累進レンズ要素を本発明による(完全又は部分的な)列に含むために提供する追加の累進レンズ要素を処方することが可能な処方プロセスを使用して処方された、少なくとも2つの累進レンズ要素を含むことができる。そのような処方プロセスでは、累進レンズ要素の数値、図式又は仮想表示を含む部分的又は完全な列を使用することができるので、本発明による累進レンズ要素の列は、物理的な累進レンズ要素そのものの列に限定される必要はない。実際、累進レンズ要素の列には、累進レンズ要素の適切な数値、図式又は仮想表示を含むことができる。
【0018】
上述の事項を鑑みると、本明細書の文中の「列」とは、処方された、又は処方することができる2つ以上の累進レンズ要素、並びに列内に割り当てる処方システム又はプロセスによって処方することが可能な、累進レンズ要素の列の適切な数値、図式又は仮想表示を含むことができることが理解されよう。これに関して、累進レンズ要素の列のいずれの形態も、適切な列指数を使用して、特定の加入度及び視力処方が識別される累進レンズ要素の集合を含むことができる。
【0019】
一実施例では、本発明による累進めがねレンズ要素の列のグループは、列の1つ又は複数の系として配置することができる。このタイプの配置では、系内の各列は同一の系の他の列に含まれる累進レンズ要素の加入度と異なる加入度を有するが、実質的に同一の遠用視力の視力処方を有する累進レンズ要素を含むことができる。したがって、一実施例では、系はある範囲のレンズ装用者に適したある範囲の加入度の範囲を提供する。したがって、本発明の別の実施例では、実質的に同一の遠用視力の視力処方を有する累進めがねレンズ要素の系が提供され、累進レンズ要素は、
遠用視力用の屈折度を提供する遠用領域と、
近用視力用の屈折度を提供する近用領域と、
遠用領域の屈折度から近用領域の屈折度へと変化する屈折度を有し、遠用領域と近用領域を連結する累進帯と、を含み、
系は、
累進レンズ要素の複数の列を含み、系内の各列は実質的に同一の加入度及び遠用視力処方を有し、系内の異なる列からの累進レンズ要素は異なる加入度を有し、
列内の累進レンズ要素は、レンズ装用者の少なくとも2つのライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータのある範囲の値又はカテゴリーに対して、少なくとも2つのレンズ設計パラメータが各ライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの特定の値又はカテゴリーに起因又は関連した各値又は特性をそれぞれ有する、異なる累進レンズ設計を提供する。
【0020】
一実施例では、列内の異なる系は、列内の複数の系を含むマトリックスを提供するように分類することができる。したがって、本発明はまた累進めがねレンズ要素のマトリックスを提供し、累進レンズ要素は、
遠用視力用の屈折度を提供する遠用領域と、
近用視力用の屈折度を提供する近用領域と、
遠用領域の屈折度から近用領域の屈折度へと変化する屈折度を有し、遠用領域と近用領域を連結する累進帯とを含み、マトリックスは、
累進レンズ要素の複数の系を含み、各系は、実質的に同一の遠用視力の視力処方を有する累進レンズの1つ又は複数の列を含み、系内の各列は、実質的に同一の加入度を有する累進レンズ要素を含み、系内の異なる列からの累進レンズ要素は異なる加入度を有し、
列内の累進レンズ要素は、レンズ装用者の少なくとも2つのライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータのある範囲の値又はカテゴリーに対して、少なくとも2つのレンズ設計パラメータが各ライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの特定の値又はカテゴリーに起因又は関連した各値又は特性をそれぞれ有する、異なる累進レンズ設計を提供する。
【0021】
好ましくは、レンズ装用者のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの値又はカテゴリーに起因する累進レンズ設計の少なくとも2つのレンズ設計パラメータは、
a.遠用−近用領域サイズ・バランス、
b.累進帯長、
c.近用基準点挿入(NRP)、及び
d.中心−周辺領域サイズ・バランス、のいずれか2つを含む。
【0022】
本明細書を通して、「遠用−近用領域サイズ・バランス」という用語は、無限距離で対象を明確に見るために利用可能なレンズ表面積と、レンズ装用者が通常の読書距離で対象を見るために利用可能なレンズ表面積の比率を指すと理解される。これらの領域は、レンズ装用者の処方及び特定のレンズ構成のためのレンズを光線トレースすることによって得られた複雑なぼやけ閾値の輪郭線によって限定されることが明らかであろう。
【0023】
本明細書を通して「近用基準点挿入」という用語は、遠用領域の垂直な主要基準点二等分線と近用領域の垂直な主要基準点二等分線の間の水平距離のことを指すと理解される。
【0024】
本明細書を通して「累進帯長」という用語は、累進レンズの装着十字線のY座標とレンズ面の近用基準点の間の差異のことを指すと理解される。
【0025】
好ましくは、レンズ装用者のライフスタイル・パラメータの1つは、レンズ装用者の
a.近用視力必要度、
b.動体視力必要度、
c.コンピュータ使用頻度、及び
d.装用者の仕事及び/又は余暇のパターン、のいずれか1つの値又はカテゴリーを含む。
【0026】
好ましくは、レンズ装用者のバイオメトリック・パラメータの値又はカテゴリーは、レンズ装用者の
a.
単眼瞳孔距離、
b.読書距離、及び
c.読書作業中の装用者の頭部動作及び/又は眼球動作カテゴリーを含む装用者の視認行動パターン、のいずれか1つの値又はカテゴリーを含む。
【0027】
一実施例では、列に含まれる各累進レンズ要素は、実質的に同一の装着位置(POW)特性に従って特徴付けられる。これに関して、装着位置特性は、
a.角膜頂点間距離、
b.フレーム前傾角及びラップ角、及び
c.単眼瞳孔距離、のいずれか1つを含むことができる。
【0028】
他の実施例では、列に含まれる各累進レンズ要素は、レンズ装用者が装着する累進レンズ要素を支持するためのフレームのフレームサイズ及び/又は形状情報に起因及び/又は関連した値又は特性を有するパラメータによって特徴付けられる累進レンズ設計を含む。
【0029】
別の実施例はまた、レンズ装用者に累進レンズを処方する方法も提供し、方法は、
ライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータを含む、レンズ装用者の少なくとも2つのレンズ設計パラメータの値又はカテゴリーを入手する段階と、
各設計が実質的に同一の加入度及び実質的に同一の遠用視力の視力処方を有し、各設計がライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの特定の値又はカテゴリーに関連する各値又は特性を有する少なくとも2つのレンズ設計パラメータを含む累進レンズ設計の列に、入手された値又はカテゴリーを割り当てる段階と、
入手された値又はカテゴリーと関連する値又は特性を備えた2つのレンズ設計パラメータを有する累進レンズ設計を列から検索する段階とを含む。
【0030】
別の実施例では、レンズ装用者の累進レンズ設計を処方するためのシステムが提供され、システムは、
プロセッサと、
プロセッサによって実行するための一連の命令でプログラムされたメモリと、
ユーザ入力デバイスと、
ユーザ出力デバイスとを含み、
命令はプロセッサによって、
ライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータを含む少なくとも2つのレンズ装用者のパラメータの値又はカテゴリーを、ユーザ入力デバイスを通して受け入れ、
実質的に同一の加入度及び実質的に同一の遠用視力の視力処方を有し、ライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの特定の値又はカテゴリーに関連する個々の値又は特性を有する少なくとも2つのレンズ設計パラメータを含む、累進レンズ要素設計の列に、値又はカテゴリーを割り当て、
入力されたレンズ装用者のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの値又はカテゴリーに関連する少なくとも2つのレンズ設計パラメータの各値を含む累進レンズ設計を有する累進レンズ設計を列から検索し、
選択された累進レンズ設計をユーザ出力デバイスを通して出力するように実行可能である。
【0031】
さらに別の実施例では、累進レンズ要素設計の列のためのコンピュータ読み取り可能なデータを保存するコンピュータ読み取り可能な媒体を提供し、各設計は、実質的に同一の加入度及び実質的に同一の遠用視力の視力処方を有し、少なくとも2つのレンズ装用者のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータのある範囲の値又はカテゴリーから、レンズ装用者のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの特定の値又はカテゴリーに関連する各値又は特性を有する少なくとも2つのレンズ設計パラメータを含む。
【0032】
本発明は、装用者のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータに対応するレンズ設計パラメータを有する累進レンズ要素を、累進レンズ要素の列から、処方者が選択するために使用することができるという点で、多くの利点を含むことが理解されよう。その結果、処方者はレンズ装用者のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータに適したレンズ要素を列から選択することができる。
【発明の効果】
【0033】
一実施例では、列に含まれる累進レンズ要素は、一般に「完成した累進レンズ要素」といわれるタイプのものである。本明細書の文中で、完成した累進レンズ要素は、「自由曲面」の累進レンズ要素、又は他の何らかの従来の製造法によって製造された累進レンズ要素を含むことができる。
【0034】
本明細書を通して、「累進面」という用語を使用する。「累進面」という用語を使用することによって、上方視野領域(すなわち、遠用領域)、下方視野領域(すなわち、近用領域)、及び累進レンズ要素の累進帯を画成するレンズ度数断面を形成し又はこれに寄与する表面特性を有する、累進レンズ要素の表面のことをいうと理解されたい。
【0035】
累進レンズ要素の累進レンズ設計は等しい屈折度の輪郭線の分布を図示する輪郭線図を使用して表すことができ、それにより特定のレンズ設計によって形成される屈曲度の分布を図示する。
【0036】
明らかなように、累進レンズ要素は、その累進レンズ要素のレンズ度数断面を形成する表面特性を有する単一の累進面を含むことができる。しかし、累進加入レンズは必ずしも単一の累進面を含む必要はない。例えば、累進レンズ要素は、それぞれの表面がレンズ度数断面に寄与する表面特性を含むように配置された2つの累進面を含むことができる。その場合、累進面の光学的組合せによって、その累進レンズ要素のためのレンズ度数断面を形成することができる。
【0037】
単一の累進面を含む累進レンズ要素の累進レンズ設計は、累進レンズ要素の前面又は後面のいずれかに累進面を含むことができる。明らかなように、ここで使用される累進レンズ要素の「後面」とは眼に近い面のことであり、「前面」とは累進レンズ要素の対物面のことである。
【0038】
2つの累進面を含む累進レンズ要素に関して、上述したように、累進レンズ設計のレンズ度数断面は、累進レンズ要素の前面及び後面の表面特性の光学的組合せによって形成することができる。
【0039】
累進レンズ要素が単一の累進面を含む実施例では、各累進レンズ要素は、レンズ装用者の視力処方に合わせた視力矯正をもたらすように、別個の処方面を含むこともできる。そのような実施例では、累進面及び処方面は、累進レンズ要素の異なる面の上にある。例えば、一実施例では累進面は各累進レンズ要素の前面上にあり、処方面は後面上にある。しかし、別の実施例では累進面は後面上にあり、処方面は前面上にある。
【0040】
もちろん、各累進レンズ要素は必ずしも別個の累進面と処方面を含む必要はない。実際、一実施例では累進レンズ要素の表面特性は、レンズ装用者の視力処方に合わせたレンズ度数断面及び視力矯正をもたらす単一の表面上に配置されている。レンズ度数断面及び視力矯正をもたらす表面特性が同一面上に配置されている累進レンズ要素を含む実施例では、列の累進レンズ要素の前面上又は後面上に表面特性を配置することができる。
【0041】
さらに別の実施例では、前面及び後面はそれぞれ、レンズ装用者の視力処方に合わせたレンズ度数断面及び視力矯正をもたらすように光学的に組み合わされた表面特性を含む。言い換えると、一実施例では、表面特性が前面及び後面にわたって分布されて、特定のレンズ度数断面及び視力処方をもたらす表面特性の組合せを提供する。レンズ度数断面及び視力矯正をもたらす表面特性が前面及び後面上に分布されている累進レンズ要素を含む実施例では、適切な分布を使用して、表面特性をこれらの間に分布することができる。
【0042】
累進面及び処方面の実際の配置、或いはレンズ度数断面及び視力矯正をもたらし又はこれに寄与する表面特性の分布及び配置に関わらず、累進レンズ要素の各列は、実質的に同一の遠用視力の視力処方及び実質的に同一の加入度を有する。しかし、いくつかの列の形態をとる累進レンズの系を含む実施例では、同一の系で異なる列の累進レンズ要素は、異なる加入度及び同一の遠用視力の視力処方を有する。
【0043】
系内の複数の列を組み合わせて異なる加入度を提供するように、同一の系内の累進レンズ要素の各列間の加入度の差異を、増分的に変化させることができる。一実施例では、加入度は0.25Dの増分で0.75Dから3.5Dまで増分的に変化し、各値にはその加入度の値を有する対応する累進レンズ要素の列がある。しかし、本発明の他の実施例では、他の範囲の加入度及び他の増分を提供することもできることを理解されたい。
【0044】
異なる列、又は異なる系の累進レンズ要素は、少なくとも2つのレンズ設計パラメータが、同一の個々のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの1つ又は複数の特定の値又はカテゴリーに起因又は関連する、累進レンズ設計を有することができる。しかし、それらの累進レンズ設計はそれぞれ異なる列、又は異なる系のものであるので、これらの累進レンズ設計はそれぞれ、(異なる列の場合は)加入度が異なり、又は(異なる系の場合は)遠用視力を矯正するための視力処方が異なる。例えば、一実施例では、異なる系の累進レンズ要素は異なる遠用視力の視力処方を有する。別の実施例では、異なる列の累進レンズ要素は異なる加入度を有する。
【0045】
列内では、累進レンズ設計の少なくとも2つのレンズ設計パラメータの値又は特性と、レンズ装用者の個々のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータとの関係を、適切な方法を使用して特徴付けることができる。1つの適切な方法には、列内の累進レンズ要素の累進レンズ設計の少なくとも2つのレンズ設計パラメータの値又はカテゴリーを、レンズ装用者の個々のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータのある範囲の値又はカテゴリーの関数として変化させる段階を含むことができる。したがって、一実施例では、列内の各累進レンズ要素のレンズ度数断面を、レンズ装用者の個々のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの値又はカテゴリーから導出することができる。
【0046】
別の適切な方法には、系内の累進レンズ要素に対して、少なくとも2つのレンズ設計パラメータが、レンズ装用者の集団の個々のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータのある範囲の値又はカテゴリーにわたって増分的に変化するように、系内の各累進レンズ要素に対して、累進レンズ設計の少なくとも2つのレンズ設計パラメータのそれぞれの値又は特性を増分的に変化させる段階を含むことができる。
【0047】
さらに別の適切な方法には、別のパラメータを実質的に一定としたままで、系内の累進レンズ要素に対して、少なくとも2つのレンズ設計パラメータをレンズ装用者の集団のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータのある範囲の値又はカテゴリーにわたって、比例的に変化させるように、系内の各累進レンズ要素に対して、累進レンズ設計の少なくとも2つのレンズ設計パラメータのそれぞれの値又は特性を比例的に変化させる段階を含むことができる。例えば一実施例では、周辺ぼやけパラメータの分布を実質的に一定に維持することができ、遠用領域の角度サイズと近用領域の角度サイズの比率のパラメータを、レンズ装用者のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの連続する値又はカテゴリー間で約10%以上変化させることができる。
【0048】
明らかなように、各ライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータには、レンズ装用者の集団内である範囲の変化量がある。したがって、本発明の一実施例では、列内では累進レンズ要素は、レンズ装用者の集団における個々のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータのある範囲の変化量に対応するある範囲のレンズ度数断面を形成するように、少なくとも2つのレンズ設計パラメータを変化させる。
【0049】
一実施例では、遠用−近用領域のサイズ・バランスは、レンズ装用者の近用視力必要度スコアに起因又は関連した値又は特性を有する。この実施例によれば、遠用−近用領域のサイズ・バランスの値のある範囲の変化量は、市場に流通している様々な領域サイズの累進レンズ設計の既知の性能及び選択された累進レンズ設計の臨床試験結果から、導出することができる。
【0050】
一実施例では、遠用−近用領域のサイズ・バランスの値の変化量の範囲は、遠用及び/又は近用領域の角度サイズを修正することによって求められる。
【0051】
遠用領域の角度サイズは、+20°から−16°にわたり、標準加入度の4分の1の光学屈折値と等しい無限対物距離の輪郭線に合わせて光線トレースした二乗平均平方根(RMS)ぼやけに適合させた双曲線の交差漸近線を回転することによって、修正して、遠用領域の角度サイズを増加又は減少させることができる。一実施例では、特定の標準加入度のレンズ装用者の特定の読書距離に合わせて光線トレースした二乗平均平方根(RMS)ぼやけに適合させた双曲線の漸近線を+20°から−16°にわたって回転し、それにより近用領域の角度の大きさを増加又は減少することによって、近用領域境界の修正が達成される。
【0052】
上述の回転は、近用領域又は遠用領域の占有範囲に従って様々なレンズ装用者を分類する、ある範囲の近用視力必要度値に対して直線的に割り当てることができる。例えば、近用距離を優先する装用者にはスコア「9」を与えることができ、遠用視力を優先するレンズ装用者にはスコア「0」を与えることができる。スコアが高いほど、レンズ装用者が近用視力作業に主に従事することを示すことができる。したがって、近用視力必要度スコアに起因又は関連した遠用−近用領域のサイズ・バランスの値又は特性を有する累進レンズ要素は、近用部の有用性を高めるためにより広い近用領域を設ける「高」近用視力必要度スコアのための遠用−近用領域サイズ・バランスの値又は特性を有することができる。反対に、「低」近用視力必要度スコアに対応する累進レンズ要素は、遠用領域を広くすることができる。一実施例では、各スコアは回転の範囲内で一意の回転と関連付けられる。一実施例では、スコアの範囲は、4°の増分で+20°から−16°の範囲の回転と対応することができる。
【0053】
一実施例では、遠用領域の角度サイズは約105°から約140°にわたって変化する。好ましくは、近用領域の角度の大きさは約40°から約75°にわたって変化する。これに関して、遠用領域の「角度サイズ」は、標準加入度の4分の1の光学屈折値と等しい無限対物距離の輪郭線に合わせて光線トレースした双曲線を二乗平均平方根(RMS)ぼやけに適合させ、この双曲線の2つの漸近線間の角度を測定することによって計算することができる。近用領域の角度サイズは、特定の標準加入度の装用者の特定の読書距離に合わせてRMSぼやけを光線トレースすることを除き、同様に計算することができる。一実施例では、遠用領域の角度サイズは、増分あたり約4°の角度領域の大きさの変化にそれぞれ対応する9つの増分を設けるようになっており、その範囲にわたって増分的に変化する。比例的変化に関して、遠用領域の最大の角度サイズが180°であるとする場合、4°の増分変化は増分あたり約2%の変化量に対応する。
【0054】
別の実施例では、列内の累進レンズ要素のそれぞれの中心−周辺領域サイズ・バランスの値又は特性は、レンズ装用者の頭部又は眼球の移動傾向の値又はカテゴリーに起因又は関連したものである。これに関して、累進レンズ要素の「中心領域」はレンズ装用者の明確な中心視力に適した領域であり、「周辺領域」はレンズ装用者の中心視には適さない、周辺視力のみに使用することができる領域を含む。したがって、中心−周辺領域のサイズ・バランスは、明確な中心視力に利用可能なレンズ表面積と周辺視力に利用可能なレンズ表面積の比率である。中心領域は、遠用領域、近用領域、及び累進帯の組合せによって得られるレンズ表面積を含み、周辺領域は、2つの領域にわたって分布され、遠用領域、累進帯、及び近用領域との境界をそれぞれ有する残りのレンズ表面積を含む。以下の説明において、これらの境界のそれぞれを「中心−周辺領域境界」という。
【0055】
累進レンズ要素の中心領域のレンズ表面における面積の適切性は、累進レンズのその特定の面積を通して見ることが意図された距離(「対物距離」)で物体を見るときに、レンズ装用者に与えるぼやけのレベルによって測定される。一般に、この文中におけるぼやけの計算には、対物視野の変化量及びレンズ前面上の座標に関する仮定が必要である。一般に、そのような計算は、対物距離がY軸に沿って目線の度数断面に対して比例的に変化し、X座標から独立しているという仮定に基づいている。次いで、この仮定された可変の対物距離の輪郭線図を計算することができ、選択された輪郭線によって明確な中心視力のための閾値を表す。
【0056】
中心−周辺領域のサイズ・バランスの値又は特性を、レンズ装用者の眼球移動傾向の値又はカテゴリーに起因又は関連したものにすることに関して、レンズ装用者の眼球移動を、例えば近用、中間、及び遠用視力など、少なくとも1つの標準化された視力作業の範囲で測定することができる。次いで、作業に重点を置いた眼球移動のデータを、好ましくはその作業の眼球動作の集団モデルに基づいて、標準と比較することができる。集団標準に対する位置から「0」から「9」までの眼球移動スコアが得られ、「0」は眼球移動の平均が10パーセント以下であることを表し、「9」は眼球移動の平均が90パーセント以上であることを表す。
【0057】
一実施例では、眼球移動パーセンテージ・スコアの範囲から導出される中心−周辺領域のサイズ・バランスのある範囲の変化量を列によって提供するように、累進レンズの遠用領域及び近用領域の大きさの値又は特性、したがって中心−周辺領域のサイズ・バランスを、眼球移動パーセンテージ・スコアに起因又は関連したものとすることができる。例えば、最小の絶対中心領域サイズ(したがって、最小の中心−周辺領域サイズ・バランス)は眼球移動スコア「0」に起因し、最大の絶対中心領域サイズ(したがって、最大の中心−周辺領域サイズ・バランス)は眼球移動スコア「9」に起因する。中間の中心領域サイズは、最大中心領域サイズと最小中心領域サイズの間における直線的な割り当てに従って変化する。
【0058】
一実施例では、列内での累進レンズ要素の近用基準点(NRP)の挿入は、レンズ装用者の集団の単眼の
瞳孔距離の範囲の値又はカテゴリーに起因又は関連した値又は特性を有する。
【0059】
一実施例では、列内の累進レンズ要素の累進帯長は、フレーム内の最適な位置で必要な読書度数を提供するように、フレームの形状及び/又はサイズに起因又は関連した値又は特性を有する。一実施例では、累進帯長はフレームの装着高さ(H)に従って変化することができる。
【0060】
別の実施例では、累進帯長は近用必要度スコアに起因又は関連した値又は特性を有する。
【0061】
さらに別の実施例では、累進帯長は、レンズ装用者の頭部動作及び/又は眼球動作の傾向を分類する、レンズ装用者のバイオメトリック・パラメータの値又はカテゴリーに起因又は関連した値又は特性を有する。
【0062】
レンズ装用者の頭部動作及び/又は眼球動作の傾向は、標準化された読書作業のための下方視データを導出するように、眼球追跡装置又は頭部追跡装置を使用して測定することができる。次いで下方視データを、好ましくは下方視の集団モデルに基づいて、標準と比較する。
【0063】
特定のレンズ装用者では、レンズ装用者の標準に対して測定された下方視データを使用して、下方視スコアを導出することができる。「0」から「9」までの下方視スコアが得られ、「0」は下方視の平均が10パーセント以下であることを表し、「9」は下方視の平均が90パーセント以上であることを表す。パーセントスコアの範囲に起因又は関連した累進帯長のある範囲の変化量を、列によって提供するように、列内の累進レンズの累進帯長の値又はカテゴリーを、パーセントスコアに起因又は関連したものとすることができる。一実施例では、範囲内の最小の累進帯長は下方視スコア「0」に起因し、範囲内の最大の累進帯長は下方視スコア「9」に起因する。中間の累進帯長は、最大累進帯長と最小累進帯長の間における直線的な割り当てに従って変化することができる。
【0064】
一実施例では、列内での近用基準点の挿入は、レンズ装用者の読書距離の値又はカテゴリーに起因又は対応する値又は特性を有する。このように、1対の累進レンズ要素は、眼鏡を作製するために組み合わされるとき、左右の眼の累進帯を中間地点で結ぶ線と交わる垂直面で、レンズ装用者が読書距離で左眼から右眼へと許容可能な結像を得られる列内に求めることができる。
【0065】
上述のように、同じ系の異なる列からの累進レンズ要素、したがって加入度が異なるが遠用視力の視力矯正が同じである累進レンズ要素は、レンズ装用者のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの値又はカテゴリーの同一の範囲からの各値又はカテゴリーに起因又は関連する各値又は特性を有する累進レンズ設計を含むことができる。
【0066】
累進レンズ設計の少なくとも2つのレンズ設計パラメータが増分的に変化する実施例では、異なるレンズ設計パラメータは別々に表されるので、場合によってはレンズ設計パラメータの変化に依存する適切な形態を使用して、増分変化量を表すことができる。
【0067】
累進レンズ要素の1つ又は複数の列はそれぞれ、各系内で、レンズ装用者の個々のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの値又はカテゴリーに起因する各値又は特性を有する2つ以上のレンズ設計パラメータを含む累進レンズ設計を有する、累進レンズ要素を含むことができる。
【0068】
列の系を含むマトリックスの本発明の実施例では、列の系は異なる視力処方に対応する。このように、特定の視力処方及び特定の加入度には、実質的に同一の視力処方、実質的に同一の加入度、及びレンズ装用者の個々のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの値又はカテゴリーに起因する各値又は特性を有する少なくとも2つのレンズ設計パラメータを含む累進レンズ設計を有する累進レンズ要素の列を含む、累進レンズ要素の列の系が得られる。異なる処方の列の系を含むマトリックスの構造の例を表1に示す。
【0069】
実質的に同一の加入度及び実質的に同一の遠用視力の視力処方を有することに加えて、列内に含まれる累進レンズ要素はまた、他の特性も実質的に同一とすることができる。例えば、一実施例では、各列は、実質的に同一の装着位置(POW)特性に適合された累進レンズ要素を含むことができる。
【表1】
【0070】
別の実施例では、各系はそれぞれ、実質的に同一のフレーム設計(例えば、フレーム形状及び/又はサイズ)に適合された累進レンズ要素を含むことができる。
【0071】
したがって、複数の列が系の配置内で分類されている実施例において、列の累進レンズ要素の1つ又は複数の系がそれぞれ、レンズ装用者の装着位置及び/又は特定のフレーム設計に最適化された累進レンズ要素を含むことができる。すなわち、累進レンズ要素の各列は、傾斜収差、読書距離、レンズ傾斜、及び頂点間距離が最終的なレンズの視力度数に与える影響を考慮して、装用者が意図した位置でレンズ要素を使用して見るレンズ要素の視覚に従ってレンズ装用者に最適化された、累進レンズ設計を含むことができる。
【0072】
したがって、一実施例では各系は、レンズ装用者の処方に対応するとともに「装着位置」特性にも適合された、遠用視力の視力矯正をもたらす累進レンズ要素を含む。同一の処方及び「装着位置」特性を有する累進レンズ要素のマトリックスの構造の例を表2に示す。
【0073】
好ましくは、列内の累進レンズ要素は、(レンズ要素が装用者の顔面に配置される方法を特徴付ける)「装着位置」パラメータの特定の値又はカテゴリーに対応することができるので、本発明によるマトリックスの一実施例では、レンズ装用者のライフスタイル及び/又はバイオメトリック・パラメータの値又はカテゴリー並びに実質的に同一の装着位置特性に関連する、累進レンズ設計を有する累進レンズ要素の系が得られる。同様に、列内で累進レンズ要素の累進レンズ設計を様々なフレーム形状及び/又はサイズに適合させることができる。
【表2】