特許第6363925号(P6363925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6363925グリース基油拡散防止剤を配合したグリース組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363925
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】グリース基油拡散防止剤を配合したグリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 131/10 20060101AFI20180712BHJP
   C10M 147/04 20060101ALI20180712BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20180712BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20180712BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20180712BHJP
   C10N 40/06 20060101ALN20180712BHJP
   C10N 40/14 20060101ALN20180712BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20180712BHJP
【FI】
   C10M131/10
   C10M147/04
   C10N30:08
   C10N40:02
   C10N40:04
   C10N40:06
   C10N40:14
   C10N50:10
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-202771(P2014-202771)
(22)【出願日】2014年10月1日
(65)【公開番号】特開2016-69590(P2016-69590A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】390022275
【氏名又は名称】株式会社ニッペコ
(74)【代理人】
【識別番号】100092347
【弁理士】
【氏名又は名称】尾仲 一宗
(72)【発明者】
【氏名】中野 康平
(72)【発明者】
【氏名】天利 裕行
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 稔
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−297519(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/073282(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00、
C07B31/00−63/04、
C07C1/00−409/44、
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成潤滑油からなる基油に,下記一般式(1)で表される化合物であるグリース基油拡散防止剤を配合したことを特徴とするグリース組成物。
【化1】

但し,式(1)において,n は1〜2の整数,Rfは炭素数2〜4のパーフルオロアルキル基,XおよびYは1以上の整数であって,X+Yは4〜20の整数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,揮発成分が少なく,高温環境下でも使用可能なグリース基油拡散防止剤を配合したグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業の発展にしたがって各種機械装置を構成する部品も小型化し,各種の性能の向上が求められており,それに伴いグリースに対しても厳しい要求がなされるようになった。その一例として,モーター類,接点類,カメラ等の精密機械に使用されるグリースは,各種機械・装置に使用されて,それらの部品の低温作動性や低トルク化が強く求められている。
【0003】
これらの要求を満たすため,市販のウレアグリース及びリチウムグリースには,基油として低粘度の合成潤滑油が用いられている。しかしながら,グリース組成物に含有される合成潤滑油は,一般的に低粘度であるため,各種部品へのグリース塗布後に時間の経過と共に,部品の塗布部位からグリースが拡散してしまうという問題を有している。
【0004】
そこで,合成潤滑油の拡散を防ぐ方法のひとつに,疎水基としてパーフルオロアルキレン基及び親水基としてのポリオキシエチレン基を有するフッ素系界面活性剤を添加する方法が開発されている。基油拡散防止剤は,例えば,合成潤滑油を基油とするグリースに添加するものであって,疎水性基としてパーフルオロカーボンチェーンをもち,親水性基としてポリオキシエチレンをもつフッ素系界面活性剤から成るものである(例えば,特許文献1参照)。
【0005】
また,グリースとして,基油拡散防止効果があり,非着色性のグリース基油拡散防止剤組成物及びこれを用いたグリースが知られている。該グリース基油拡散防止剤は,一般式(B−A−OB)で表されるパーフルオロアルキル基含有ポリオキシアルキレン系化合物(A)を含有するものであり,Aは炭素数1〜30のパーフルオロアルキル基を含有してポリオキシアルキレン基,又は全部又は一部がフッ素化アルキル基置換ポリオキシアルキレン基を表し,Bは水素原子,炭素数1〜5のアシル基,炭素数1〜10の非フッ素化アルキル基を表すものである(例えば,特許文献2参照)。
【0006】
また,基油拡散防止剤として,油分拡散防止性能を有するものが知られている。該基油拡散防止剤は,分子中に2個以上のポリフルオロアルキル基,及び1個以上のオキシアルキレン基を含む含フッ素化合物から成る合成潤滑油を基油とするグリースに添加するものである(例えば,特許文献3参照)。
【0007】
また,油分拡散防止性能を有する基油拡散防止剤が知られている。該基油拡散防止剤は,特定の含フッ素化合物から成る合成潤滑油を基油とするグリースに添加するものである(例えば,特許文献4参照)。
【0008】
また,基油拡散防止効果があり,非着色性のグリース基油拡散防止剤組成物が知られている。該グリース基油拡散防止剤組成物は,一般式(1)で表されるパーフルオロアルキル基含有ポリオキシエチレン系化合物(A)と一般式(2)で表されるパーフルオロアルキル基含有アルコール化合物(B)を含有するものであり,一般式(1)と一般式(2)は次のとおりである。
一般式(1)は,Cm 2m + 1−X−(CH2 CH2 O)y −Hであり,mは1〜30の整数,Xは直接結合又は2価の連結基,yは2〜100の整数である。
一般式(2)は,Cn 2n + 1−Z−OHであり,nは1〜30の整数であり,Zは炭素数1〜6のアルキレン鎖である(例えば,特許文献5参照)。
【0009】
また,シリコーン系グリースに含まれるシリコーン系オイル潤滑部以外への油分の滲み出し拡散を防止する非拡散性潤滑剤組成物が知られている。該非拡散性潤滑剤組成物は,シリコーン系グリースに基油拡散防止剤及び有機溶剤を配合して構成されているものである(例えば,特許文献6参照)。
【0010】
また,グリースに添加することにより基油拡散防止性能を発揮する基油拡散防止剤が知られている。該基油拡散防止剤は,合成潤滑油を基油とするグリースに添加し,炭素数1〜14のパーフルオロアルキル基及び/又はパーフルオロポリエーテル基を有するものである(例えば,特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平08−176575号公報
【特許文献2】特開2008−297519号公報
【特許文献3】特開平10−140173号公報
【特許文献4】特開平11−335689号公報
【特許文献5】特開2008−013620号公報
【特許文献6】特開2008−201901号公報
【特許文献7】特開2008−239700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら,上記の各基油拡散防止剤は,これに含有されているフッ素系界面活性剤が蒸発しやすいため,例えば,該基油拡散防止剤を含有するグリースをカメラのレンズ周辺に塗布すると,蒸発したフッ素系界面活性剤がレンズの表面に付着してレンズの曇りの原因となる問題があった。また,フッ素系界面活性剤は,その製造段階で原料や中間体としてパーフルオロオクタン酸及びパーフルオロオクタンスルホン酸が使用されている。フッ素系界面活性剤に添加したこれらのパーフルオロオクタン酸及びパーフルオロオクタンスルホン酸は,フッ素系界面活性剤が熱分解した際にも発生するものである。これらのパーフルオロオクタンスルホン酸及びパーフルオロオクタン酸は,それらを使用した環境中で極めて安定に存在するため,環境汚染の原因となり,環境保全の観点から好ましくなく,これらを添加した基油拡散防止剤は,各種企業において製造し使用することを禁止するという自主規制がなされているのが現状である。
【0013】
そこで,このような状況のもとで,基油拡散防止剤としては,その製造工程中にパーフルオロオクタン酸及びパーフルオロオクタンスルホン酸を使用せず,それによって,基油拡散防止剤が熱分解したとしても,環境を汚染するような好ましくない化合物が発生せず,蒸発損失の少ないグリース基油拡散防止剤を配合したグリースが各種企業に求められている。
【0014】
この発明の目的は,上記課題を解決するものであり,グリースの製造過程において,原料,中間体及びその分解物に規制の対象となるパーフルオロオクタン酸やパーフルオロオクタンスルホン酸を使用せずに作製し,それによって環境性に優れており,しかも揮発成分が少なくて揮発・蒸発損失が少ないグリース基油拡散防止組成物を,合成潤滑油からなる基油に配合したグリース組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は,合成潤滑油からなる基油に,下記一般式(1)で表される化合物であるグリース基油拡散防止剤を配合したことを特徴とするグリース組成物に関する。
【化1】
但し,式(1)において,n は1〜2の整数,Rfは炭素数2〜4のパーフルオロアルキル基,XおよびYは1以上の整数であって,X+Yは4〜20の整数である。
【発明の効果】
【0016】
この発明によるグリース組成物は,パーフルオロオクタン酸やパーフルオロオクタンスルホン酸をその製造工程中に使用せずにグリース基油拡散防止剤を作製し,該グリース基油拡散防止剤を合成潤滑油からなる基油に配合してさ製造したので,該グリース基油拡散防止剤が熱分解した際にも上記の好ましくない化合物が発生することがなく,上記グリース基油拡散防止剤が原因で環境汚染を発生させることがなく,しかも,揮発成分が少なく,高温環境下で使用しても環境汚染の原因とならず,好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】グリース基油拡散防止剤を配合したグリース組成物を,ポリエステルシートに塗布して,グリース組成物が拡散するか否かのグリース基油拡散防止効果を試験する方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明は,環境に好ましくない揮発成分が少なく,環境に優しい即ち環境性に優れたグリース基油拡散防止剤を配合したグリース組成物を提供することであり,配合されたグリース基油拡散防止剤は,特に,パーフルオロオクタン酸やパーフルオロオクタンスルホン酸をその製造工程中に含まず,パーフルオロ基を含む繰り返し構造を有することを特徴としている。
【0019】
この発明によるグリース組成物は,合成潤滑油からなる基油に,下記一般式(1)で表される化合物であるグリース基油拡散防止剤を配合したものである。
【0020】
【化1】
但し,式(1)において,n は1〜2の整数,Rfは炭素数2〜4のパーフルオロアルキル基,XおよびYは1以上の整数であり,X+Yは4〜20の整数である。
【実施例】
【0021】
次に,この発明によるグリース基油拡散防止剤を配合したグリース組成物について,実施例1〜6及び比較例1〜3を参照して説明する。
【0022】
<実施例1>
グリース基油拡散防止剤として前記一般式(1)である構造式(1)で表される化合物(A−1)〔オムノバ社製のPolyFox PF656,平均分子量1490,Rfがパーフルオロエチル基nが1,X+Yが6〕の1.0重量部と,増ちょう剤としてリチウムヒドロキシステアレートと基油としてポリアルファオレフィンとの比が3:97〜20:80からなるグリースの100重量部とを配合し,これらを均一に混合してグリース1を得た。
【0023】
<実施例2>
グリース基油拡散防止剤として前記構造式(1)で表される化合物(A−1)〔オムノバ社製のPolyFox PF656,平均分子量1490,Rfがパーフルオロエチル基nが1,X+Yが6〕の1.0重量部と,増ちょう剤としてウレア化合物と基油としてポリアルファオレフィンとの比が3:97〜20:80からなるグリースの100重量部とを配合し,これらを均一に混合してグリース2を得た。
【0024】
<実施例3>
実施例1において,グリース基油拡散防止剤として用いる化合物(A−1)を,化合物(A−2)〔オムノバ社製のPolyFox PF6520,平均分子量4480,Rfがパーフルオロエチル基,nが1,X+Yが20〕に変更したこと以外は,実施例1と同様の条件で作製したグリース3を得た。
【0025】
<実施例4>
実施例2において,グリース基油拡散防止剤として用いる化合物(A−1)を,化合物(A−2)〔オムノバ社製のPolyFox PF6520,平均分子量4480,Rfがパーフルオロエチル基,nが1,X+Yが20〕に変更したこと以外は,実施例2と同様の条件で作製したグリース4を得た。
【0026】
<実施例5>
実施例1において,グリース基油拡散防止剤として用いる化合物(A−1)を,化合物(A−3)〔オムノバ社製のPolyFox PF7002,平均分子量1670,Rfがパーフルオロブチル基nが2,X+Yが4又は5〕に変更したこと以外は,実施例1と同様の条件で作製したグリース5を得た。
【0027】
<実施例6>
実施例1において,グリース基油拡散防止剤として用いる化合物(A−1)を,化合物(A−3)〔オムノバ社製のPolyFox PF7002,平均分子量1670,Rfがパーフルオロブチル基nが2,X+Yが4又は5〕に変更したこと以外は,実 施例2と同様の条件で作製したグリース6を得た。
【0028】
<比較例1>
グリース基油拡散防止剤として前記構造式(1)で表される化合物(A−4)〔オムノバ社製のPolyFox PF636,平均分子量1150,Rfがパーフルオロメチル基nが1,X+Yが6〕の1.0重量部と,増ちょう剤としてリチウムヒドロキシステアレートと基油としてポリアルファオレフィンとの比が3:97〜20:80からなるグリースの100重量部とを配合し,これらを均一に混合してグリース7を得た。
【0029】
<比較例2>
前記化合物(A−4)を,サーフロンS−383B(セイミケミカル株式会社製のパーフルオロアルキル基含有ポリマー)に変更した以外は,比較例1と同様の条件で作製したグリース8を得た。
【0030】
<比較例3>
前記化合物(A−4)を,サーフロンKH−20(セイミケミカル株式会社製のパーフルオロ基含有ポリオキシエチレン系化合物)に変更した以外は,比較例1と同様の条件で作製したグリース9を得た。
【0031】
各実施例1〜6の試験例1〜6,及び比較例1〜3の試験例1〜3について
実施例1〜6で得られたグリース1〜6,及び比較例1〜3で得られたグリース7〜9を用いて,下記試験法によって,拡散性,蒸発量を評価し,その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
次に,図1を参照して,上記の各実施例1〜6及び各比較例1〜3について試験した。 (1)基油拡散防止効果について
まず,グリースGを直径10mm,高さ0.2mmの円錐形になるようにポリエステルシート2(100mm×100mm)の上に塗布する。そして,25℃,24時間後の基油の拡散状態を評価した。即ち,円錐系に塗布したグリースGから基油が拡散した場合,図1に示すようにポリエステルシート2の面に基油が拡散した拡散領域3が確認される。基油の拡散が全く確認されなかった場合を○,基油の拡散が確認された場合を×とした。ここで,図1では,ポリエステルシート2上でグリースGが拡散した拡散領域3を示している。
(2)添加剤蒸発量(重量%)について
プラスチックシャーレに添加剤試料3gを秤量し,100℃の恒温槽中で16時間放置したあとの重量を測定した。その際の減量を,測定前の質量に対する重量%で表し,これを蒸発量とした。なお,この発明における好ましい蒸発量としては,5重量%以下,更に好ましくは3重量%以下である。
(3)パーフルオロオクタン酸とパーフルオロオクタンスルホン酸の使用及び発生
グリース基油拡散防止剤の製造工程中にパーフルオロオクタン酸及びパーフルオロオクタンスルホン酸を使用せず,また,熱分解した際にも同化合物が発生しない基油拡散防止剤を用いたものを「なし」,それ以外のものを「あり」とした。
【0034】
表1に示したように,この発明による実施例1〜6のグリース1〜6は,グリース基油拡散防止効果があり,添加剤の蒸発量が3重量%以下であり,尚且つパーフルオロオクタン酸及びパーフルオクタンスルホン酸を製造工程中で使用せず,また熱分解した際にも同化合物が発生しない組成物からなるものであった。
これに対して,比較例1のグリース7は,基油の拡散が確認された。比較例2,3のグリース8,9は,基油の拡散が確認されなかったが,熱分解した際に添加剤の蒸発が確認された。
【0035】
上記のとおり,この発明によるグリース基油拡散防止剤を配合したグリース組成物は,各種精密機器類の機械的な回転部や摺動部等や高温環境下において好適に用いることができることが確認できた。これに対して,比較例1〜3のグリース組成物は,各種精密機器類の機械的な回転部や摺動部等や高温環境下において用いるのに適していないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明によるグリース基油拡散防止剤を配合したグリース組成物は,例えば,自動車用補機,又は家電,IT,産業用機器等の機器に使用される電動機に利用される潤滑油であって,主成分がシリコーン油である潤滑油に,少なくとも防錆剤及びシリカゲルを添加したものであり,該潤滑油組成物を含浸させた焼結含油軸受に利用されて好ましいものである。
【符号の説明】
【0037】
2 ポリエステルシート
3 拡散領域
G グリース
図1