(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363949
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】少なくとも中性塩および生物薬学的タンパク質を含む、水性製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/27 20060101AFI20180712BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20180712BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20180712BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20180712BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20180712BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20180712BHJP
A61P 5/00 20060101ALI20180712BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20180712BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20180712BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20180712BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
A61K38/27
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/34
A61K47/36
A61P1/00
A61P5/00
A61P13/12
A61P19/02
A61P19/10
A61P29/00 101
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-522080(P2014-522080)
(86)(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公表番号】特表2014-528919(P2014-528919A)
(43)【公表日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】EP2012064613
(87)【国際公開番号】WO2013014196
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2015年6月10日
【審判番号】不服2017-6280(P2017-6280/J1)
【審判請求日】2017年5月1日
(31)【優先権主張番号】61/511,168
(32)【優先日】2011年7月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】310018799
【氏名又は名称】サンド アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】プラーグル ベルント
(72)【発明者】
【氏名】フェルティンガー ザビーネ
【合議体】
【審判長】
田村 聖子
【審判官】
冨永 みどり
【審判官】
關 政立
(56)【参考文献】
【文献】
特開平7−509719(JP,A)
【文献】
特表2000−504696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K38/00-58
A61K9/00-72
A61K47/00-48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、塩化ナトリウムおよびヒト成長ホルモン(hGH)を含む、薬学的に許容される水性製剤であって、該塩化ナトリウムに対する該ヒト成長ホルモン(hGH)の濃度比が、≧1.4および≦2.86の範囲内である、製剤であって、さらに、非イオン性界面活性剤として、ポロキサマー、保存料として、フェノール、および、リン酸緩衝剤を含む、製剤。
【請求項2】
請求項1に記載の製剤であって、該ヒト成長ホルモン(hGH)が、≧150および≦220の間のアミノ酸残基を有し、および/またはその分子量が≧15および≦26kダルトンの間である、製剤。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の製剤であって、前記の製剤が、等張化剤(tonifier)
よりなる群から選択される少なくとも1つの試薬をさらに含む、製剤。
【請求項4】
請求項3に記載の製剤であって、前記リン酸緩衝剤が、Na3PO4、NaH2PO4および/またはNa2HPO4よりなる群から選択される、製剤。
【請求項5】
請求項3〜4のいずれかに記載の製剤であって、該等張化剤(tonifier)が、
・マンニトール
・グリシン、および/または
・ソルビトール
よりなる群から選択される、製剤。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の製剤であって、ヒト成長ホルモン(hGH)が、≧3と≦20mg ml―1との間の範囲の濃度で存在する、製剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の製剤であって、該塩化ナトリウムが、≧2と≦100mg ml―1との間の範囲の濃度で存在する、製剤。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の製剤であって、該製剤のpHが、≧5.8と≦6.2との間の範囲である、製剤。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の製剤であって、該製剤が、最適化された安定性を有する、製剤。
【請求項10】
ヒト成長ホルモン(hGH)を含む、薬学的に許容される水性製剤の安定性を高める方法であって、塩化ナトリウムに対するヒト成長ホルモン(hGH)のを最終濃度比が、≧1.4および≦2.86の範囲で提供され、該製剤は、さらに、非イオン性界面活性剤として、ポロキサマー、保存料として、フェノール、および、リン酸緩衝剤を含む、方法。
【請求項11】
以下よりなる群から選択される、少なくとも1つの症状を治療するための、請求項1〜9のいずれかに記載の製剤。
・成長ホルモン欠損症
・在胎期間に比べて小さい(SGA)か、子宮内発育遅延(IUGR)
・特発性小人症
・AIDS消耗および悪液質
・ターナー症候群による低身長
・プラダーウィリ症候群による低身長
・短腸症候群による成長障害
・腎疾患を罹患する小児の成長異常
・リウマチ性関節炎
・骨粗鬆症
・X連鎖低リン酸血症性くる病。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の製剤を含む、一次包装。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
近年は、生物薬学的薬物(biopharmaceutical drugs)、特に、生物資源から単離および/または組み換え方法によって製造されたタンパク質薬が、市場に参入している。
【0002】
このような生物薬を治療薬として利用することに成功するためには、貯蔵および輸送を含む開発の全工程において、生物活性を保持することが必要である。従来の低分子薬剤と比較して、タンパク質は、より大きく、相対的に不安定な基を含有し、損傷を受け易い三次元構造を有し、さらに、例えば微生物汚染により代謝過程の対象となり得るため、活性の維持においてさらなる課題を提起する。
【0003】
分解は、分子の凝集、三次元構造の変性および、例えばアミド含有側鎖を有するアスパラギンおよびグルタミン等のアミノ酸残基のアミド分解などの種々の方法で、起こる可能性がある。一般的に、分解のこれらの過程は全て、例えば、昇温、光および/または高相対湿度への暴露等の、準最適貯蔵条件下で加速される。
【0004】
凝集は、目に見える凝集体や、やや目に見える凝集体の形態で発生し得る。しかし、一度形成されると、後者は、より大きな(そして目に見える)凝集を形成する、凝集の種として作用し得る。
【0005】
これらの問題は、生物薬が水性製剤中に提供される場合にさらに悪化する。しかし、このようなタイプのすぐに使える製剤は、例えばモノクローナル抗体や、インスリン、エリスロポエチン、またはヒト成長ホルモン等のより小さな生物薬の投与が容易で安全であるため、極一般的である。
【0006】
生物薬の製造は非常に複雑であるという事実によって、製造設備は、各専門技術が存在する特定の集団に集中する。これらの設備は、例えば低分子薬剤の製造設備ほどには、地理的に均等に分布していない。さらに、製造能力は供給不足であるため、所与の薬剤の製造は、相対的に大きなバッチで行われることがあり、その後に別の薬剤の製造に使用される。
【0007】
これらの理由から、生物薬は作り置きされるため、比較的長期の貯蔵期間となり、および/または、看護現場に到達する前に長い輸送経路に耐えなければならない。この状態は、多くの場合、貯蔵および/または輸送の間、冷却に切れ目がないことが保証できないという事実によって、さらに悪化する。
【0008】
これらの条件下では、生物薬が分解が進んだ状態で看護現場に到達し、そのため廃棄する必要があり得るというリスクが増加し、このことは、生物薬の市場価格が相対的に高いことから、例えば医療支援機関の実質的な経済損失に関与し、最悪の場合、患者が必須の治療を断たれる可能性もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、上記の問題の克服に役立つ、製剤および方法を提供することである。
【0010】
本発明を詳細に説明する前に、本発明は、記載された装置または方法の工程が変更し得るため、このような装置および方法が特定の要素部分に限定されないことを理解すべきである。また、本書で使用される用語は、特定の態様のみを説明する目的であり、限定することを意図しないことも理解すべきである。本明細書および添付の特許請求の範囲に使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が他に明確に定めない限り、単数および/または複数の指示対象を含むことに注意しなければならない。さらに、パラメーター範囲が数値で制限される場合、その範囲はこれらの限定値を含むと判断されることを理解すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの様相では、少なくとも中性塩および生物薬学的タンパク質を含む、薬学的に許容される水性製剤であって、該生物薬学的タンパク質と該中性塩との濃度比が≧ 0.7および≦ 5の範囲内である、製剤が提供される。
【0012】
本書で使用される場合、「生物薬学的タンパク質」という用語は、生物資源から単離されるか、および/または、組み換え方法によって製造される、生理学的に活性なタンパク質に関する。
【0013】
本書で使用される場合、「濃度」という用語は、容量当たりの所与の物質の重量、即ち、重量濃度を意味する。例えば、生物薬の濃度は、濃度mg ml
-1で示される。
【0014】
生物薬学的タンパク質の重量は、タンパク質単独の重量、即ち、タンパク質を構成する1以上のアミノ酸鎖と、該当する場合は1以上の糖鎖付加パターンを意味することは重要である。タンパク質が、送達システムにおいて提供されるか、ペグ化、または他の修飾を受ける場合、重量は、実質的にさらに重量を加え得る前記の修飾を含まない。
【0015】
本書で使用される場合、「濃度比」という用語は、少なくとも2つの物質の濃度の無次元比を意味する。例えば、生物薬が10 mg ml
-1の濃度で提供され、中性塩が7.07 mg ml
-1の濃度で提供される場合、得られる生物薬学的タンパク質と中性塩との濃度比は、10/7.07 = 1.416となる。
【0016】
本発明者らは、生物薬学的凝集体を含む水性製剤において、生物薬と中性塩との特別な濃度比が与えられる場合に、特にやや目に見える凝集体が低減され得ることを初めて示した。
【0017】
好ましくは、前記の濃度比は、0.7;0.8;0.9;1.0;1.1;1.2;1.3;1.4;1.5;1.6;1.7;1.8;1.9;2.0;2.1;2.2;2.3;2.4;2.5;2.6;2.7;2.8;2.9;3.0;3.1;3.32;3.3;3.4;3.5;3.6;3.7;3.8;3.9;4;4.1;4.2;4.3;4.4;4.5;4.6;4.7;4.8;4.9;または5.0である。
【0018】
好ましい態様では、生物薬学的タンパク質は、≧ 150および≦ 220の間のアミノ酸残基を有し、その分子量が≧ 15および≦ 26 kダルトンの間である。
【0019】
好ましくは、該タンパク質は、そのアミノ酸残基が、150;151;152;153;154;155;156;157;158;159;160;1641;162;163;164;165;166;167;168;169;170;171;172;173;174;175;176;177;178;179;180;181;182;183;184;185;186;187;188;189;190;191;192;193;194;195;196;197;198;199;200;201;202;203;204;205;206;207;208;209;210;211;212;213;214;215;216;217;218;219または220であり;および/またはその分子量が15;16;17;18;19;20;21;22;23;24;25または26 kダルトンである。
【0020】
別の好ましい態様では、生物薬学的タンパク質は、ヒト成長ホルモン(hGH)である。ヒト成長ホルモン(hGH)は、ヒトおよび他の動物において、成長、細胞繁殖および再生を刺激する、タンパク質ベースのペプチドホルモンである。hGHは、脳下垂体前葉の側方翼内部の成長ホルモン分泌細胞により合成、貯蔵および分泌される、一本鎖のポリペプチドである。hGHは、主として、小児の成長障害および成人の成長ホルモン欠損症の治療に使用される。組み換えDNA技術によって製造される以前には、成長ホルモンはヒトの脳下垂体から抽出していた(死体の成長ホルモン、NPA成長ホルモンとも言う)。今日では、hGHは主に組み換えDNA技術で製造される(rhGH、ソマトロピンとも言う)。rhGHは、典型的には191のアミノ酸残基を有する。アミノ酸配列は、ユニプロット(UniProt)データベースで信託(accession)番号P01241で入手可能である。別の変異型はmet-GH(「メチオニル成長ホルモン」)であり、これは、追加のN-末端メチオニンを持つ、hGHと同一の配列を有する。
【0021】
本発明の文脈において、ヒト成長ホルモン(hGH)という用語は、上記の全ての変異型を包含する。
【0022】
別の好ましい態様では、製剤は、
・緩衝剤
・非イオン性界面活性剤
・等張化剤(tonifier) および/または
・保存料
よりなる群から選択される少なくとも1つの薬剤をさらに含む。
【0023】
好ましくは、前記の緩衝剤は、
・リン酸緩衝剤(Na
3PO
4、NaH
2PO
4および/またはNa
2HPO
4)
・クエン酸塩、
・トリス、
・コハク酸塩、
・酢酸塩および/または
・ヒスチジン
よりなる群から選択される。
【0024】
別の好ましい態様では、前記の非イオン性界面活性剤は、
・ポロキサマー、好ましくはポロキサマー188またはポロキサマー184
・プルロニックF-68、および/または、
・ポリソルベート、好ましくはポリソルベート20またはポリソルベート80
よりなる群から選択される。
【0025】
本書で使用される場合、「等張化剤(tonifier)」という用語は、医薬製剤の浸透圧に作用するために使用し得る、浸透活性物質に関する。別の好ましい態様では、前記の等張化剤は、
・マンニトール
・グリシン、および/または
・ソルビトール
よりなる群から選択される。
【0026】
別の好ましい態様では、前記の保存料は、
・フェノール
・メタクレゾール、
・メチルパラベン、
・プロピルパラベン、
・塩化ベンザルコニウム、
・塩化ベンゼトニウムおよび/または
・ベンジルアルコール
よりなる群から選択される。
【0027】
緩衝剤、非イオン性界面活性剤、等張化剤(tonifier)、および/または保存料の好適な濃度は、例えば表2に示される。
【0028】
本発明による製剤の別の好ましい態様では、ヒト成長ホルモン(hGH)は、≧ 3と≦ 20 mg ml
-1との間の範囲の濃度で存在する。
【0029】
好ましくは、hGHは、3;3.33;4;5;6;7;8;9;10;11;12;13;14;15;16;17;18;19または20 mg ml
-1の濃度で存在する。
【0030】
hGHの特に好ましい濃度は、例えば表2に示される。
【0031】
本発明による製剤の別の好ましい態様では、前記の中性塩は
・塩化ナトリウム(NaCl)
よりなる群から選択される。
【0032】
好ましくは、前記の中性塩は、≧ 2と≦ 100 mg ml
-1との間の範囲の濃度で存在する。好ましくは、前記の中性塩は、2;3;4;5;6;7;8;9;10;11;12;13;14;15;16;17;18;19;20;21;22;23;24;25;26;27;28;29;30;31;32;33;34;35;36;37;38;39;40;41;42;43;44;45;46;47;48;49;50;51;52;53;54;55;56;57;58;59;60;61;62;63;64;65;66;67;68;69;70;71;72;73;74;75;76;77;78;79;80;81;82;83;84;85;86;87;88;89;90;91;92;93;94;95;96;97;98;99または100 mg ml
-1の濃度で存在する。
【0033】
中性塩の特に好ましい濃度は、例えば表2に示される。
【0034】
本発明による製剤の別の好ましい態様では、前記の製剤のpHは、≧ 5.8と≦ 6.2との間の範囲である。好ましくは、前記のpHは、5.8;5.9;6;6.1または6.2である。特に好ましいpH値は、例えば表2に示される。
【0035】
本発明による製剤は、最適化された安定性を有する。前記の最適化された安定性により、特に長期の貯蔵または準最適条件下での貯蔵の後、例えば、目に見える、およびやや目に見える凝集体の形成が減じられ、沈殿形成が減じられ、濁りの発生傾向が減じられる。
【0036】
この特徴は、例えば新興市場および/または発展途上国の場合にあり得るように、冷却に切れ目がないことが保証できない条件下で、特に有益である。
【0037】
凝集体の形成は、例えば、光遮蔽粒子計測(light obscuration Particle Counting)、サイズ排除HPLC (Size exclusion HPLC)(SE-HPLC)および/または動的光散乱(Dynamic light scattering)(DLS)を用いて分析し得る。
【0038】
光遮蔽粒子計測(LOPC)は、粒子の検出および計測に役立つ方法である。粒子計測の本質は、光散乱または光遮蔽のいずれかに基づく。粒子が検出チャンバーを通過する際に粒子に光を当てるために、高エネルギーの光源が使用される。粒子は光源(典型的にはレーザー)を通過し、光散乱を使用する場合は、方向が変わった光を光検出器で検出し、一方、光遮蔽を使用する場合は、光の損失を検出する。散乱光または遮断された光の程度。
【0039】
サイズ排除HPLC(SE-HPLC)は、粒子を大きさによって分離する。これは、より小さい分子をゲル粒子の細孔中に捕捉することによって機能する。より大きな分子は、細孔に入るには大きすぎるため、細孔のそばを通るにすぎない。従って、より大きな分子は、より小さな分子より速く、カラムの中を流れ、即ち、分子が小さいほど、保持時間が長い。SE-HPLCは、タンパク質凝集体およびクリップ(clips)の定量分析によく使用され、従って生物薬剤の品質管理において重要な役割を果たす。
【0040】
動的光散乱(DLS)は、懸濁液中の小粒子または溶液中のポリマーのサイズ分布プロファイルを測定するために使用し得る、物理学における技術である。これは、濃縮ポリマー溶液等の複合流体の挙動を精査するためにも使用し得る。
【0041】
光が小粒子に当たった時に、粒子が波長に比べて小さければ(250 nm未満)光は全ての方向に散乱する(レイリー散乱)。光源がレーザーであり、従って単色性で可干渉性である場合、散乱強度において時間依存性の変動が観察される。これらの変動は、溶液中の小分子がブラウン運動をしているため、溶液中の散乱体の間の距離が時間と共に常に変化しているという事実による。この散乱光は次に、周囲の粒子による建設的干渉または相殺的干渉のいずれかを受け、この強度の変動の中に、散乱体の運動の時間スケールについての情報が含有される。濾過または遠心分離のいずれかによるサンプル調製は、溶液から細粉およびアーチファクトを除くために不可欠である。
【0042】
SE HPLCは生物薬の品質管理のための標準的な方法である一方、DLSおよびLOPCは分解能がより高く、即ち、SE HPLCで検出できない、やや目に見える凝集体も検出できることは、注目すべき言及である。本研究は、生物薬の種々の製剤のスクリーニングにDLSおよびLOPCを初めて利用するものである。
【0043】
従って、本研究において、凝集体、特に(SE HPLCを使用した場合に検出されずにいた)やや目に見える凝集体が、生物薬と中性塩とが特定の比率である場合に低減され得ることが初めて示された。
【0044】
本発明の別の様相では、生物薬学的タンパク質を含む、薬学的に許容される水性製剤の安定性を高める方法が提供される。前記の方法は、生物薬学的タンパク質および中性塩を最終濃度比が、≧ 0.7および≦ 5の範囲で提供することを含む。
【0045】
好ましい態様では、生物薬学的タンパク質はヒト成長ホルモン(hGH)である。
【0046】
前記の方法の他の好ましい態様は、本発明による製剤の好ましい態様に関連した上記の説明から導き得る。
【0047】
本発明の別の様相では、
・成長ホルモン欠損症
・在胎期間に比べて小さい(SGA)か、子宮内発育遅延(IUGR)
・特発性小人症
・AIDS消耗および悪液質
・ターナー症候群による低身長
・プラダーウィリ症候群による低身長
・短腸症候群による成長障害
・腎疾患を罹患する小児の成長異常
・リウマチ性関節炎
・骨粗鬆症
・X連鎖低リン酸血症性くる病
よりなる群から選択される、少なくとも1つの症状を治療するための、本発明による製剤の使用が提供される。
【0048】
本発明の別の様相では、本発明による製剤を含む、一次包装が提供される。前記の一次包装は、好ましくは、バイアル、あらかじめ充填したシリンジ、カープル(carpule)、ビン、またはカートリッジである。
【0049】
表1には、本発明による製剤に使用される、中性塩として塩化ナトリウムと、生物薬の例としてヒト成長ホルモンとを含む、従来技術の種々の水性製剤を示す。全ての場合で生物薬学的タンパク質と中性塩との濃度比は0.7より小さい。
【0050】
表2には、本発明の主旨の下で開発された種々の製剤を示す。これらの製剤全ては、生物薬学的タンパク質と中性塩との濃度比が0.7より小さい。
【0051】
表3には、ヒト成長ホルモンを含むが、中性塩を含まない、従来技術の他の水性製剤を示す。
【0052】
【0053】
【0054】
【実施例】
【0055】
本発明の目的のさらなる詳細、特性、特徴および利点は、従属項、および各図面および実施例の以下の説明に開示され、これらは、例示的方法で、本発明の好ましい具体例を示す。しかし、これらの図面は、決して本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0056】
実施例1: 等張化剤(Tonifier)スクリーニング
6つの製剤開発バッチ(等張化剤なし、グリシン、マンニトール、ソルビトール、およびNaCl)を比較した。水溶液中に15 mgのhGHを含むバッチ(10.0 mg/ml、注射用溶液1.5 mlカートリッジ)を5℃ ± 3℃(「所望の貯蔵条件」)で18ヶ月、25℃ ± 2℃/相対湿度60%(「加速貯蔵条件」)で3ヶ月、および40℃ ± 2℃(「過酷貯蔵条件」)で2週間、貯蔵した。種々の製剤を表4に示す。
【0057】
【0058】
全ての試験したバッチは、初期時点で透明で無色の溶液に見えた。25℃での貯蔵の間、NaClを含有する0821RS148-5番を除く全ての製剤は、不透明または乳白色になった(表4参照)。5℃ ± 3℃で2ヶ月貯蔵した後、マンニトールおよびソルビトールを含有する製剤は徐々に不透明/乳白色になったが、NaClを含有する、0821RS148-5番の製剤は、全貯蔵期間にわたって透明なままであった。観察は全て、粒子計測およびDLSデータによって裏付けられる。注目すべきことには、全ての凝集過程はSE-HPLCによってモニターできなかった。加速条件では、SE-HPLCによって凝集のわずかな増加を観察した。25℃での貯蔵の間、NaClを含有する0821RS148-5番を除く全ての製剤は、不透明または乳白色になった。過酷条件では、SE-HPLCにより、凝集のわずかな増加を観察した。40℃での貯蔵の間、全ての製剤は透明である。
【0059】
結果を
図1、2および3に示す。
【0060】
実施例3:等張化剤スクリーニング
6つの製剤開発バッチ(等張化剤なし、グリシン、マンニトール、ソルビトール、NaCl)を比較した。水溶液中に15 mgのhGHを含むバッチ(10.0 mg/ml、注射用溶液1.5 mlカートリッジ)を、5℃ ± 3℃(「所望の貯蔵条件」)で24ヶ月、25℃ ± 2℃/相対湿度60%(「加速貯蔵条件」)で3ヶ月、および40℃ ± 2℃(「過酷貯蔵条件」)で2週間、貯蔵した。種々の製剤を表5に示す。
【0061】
【0062】
全ての試験したバッチは、初期時点で透明で無色溶液に見えた。25℃での貯蔵の間、NaClを含有する
0831RS156−5番を除く全ての製剤は、不透明または乳白色になった(表5)。5℃±3℃で2/3ヶ月貯蔵した後、マンニトールおよびソルビトールを含有する製剤は徐々に不透明/乳白色になったが、NaClを含有する、
0831RS156−5番の製剤は、全貯蔵期間にわたって透明なままであった。これらの観察は全て、さらに、粒子計測およびDLSデータによって裏付けられる。注目すべきことには、全てのこれらの凝集過程はSE−HPLCによってモニターできなかった。
【0063】
加速条件では、SE−HPLCによって凝集のわずかな増加を観察した。25℃での貯蔵の間、NaClを含有する
0831RS156−5番を除く全ての製剤は、不透明または乳白色になった。過酷条件では、SE−HPLCにより、凝集のわずかな増加を観察した。40℃での貯蔵の間、全ての製剤は透明である。結果を
図4、5および6に示す。
【0064】
実施例2:中性塩濃度の最適化
8つの製剤開発バッチ(His/マンニトール、His/リン酸塩/マンニトール、アルギニン/リン酸塩/マンニトール、リン酸塩/マンニトール/0.41 mg/ml NaCl、リン酸塩/マンニトール/3.5 mg/ml NaCl、リン酸塩/7.07 mg/ml NaCl、リン酸塩/マンニトール/14 mg/ml NaClおよびリン酸塩/0.41 mg/ml NaCl)を比較した。水溶液中に15 mgのhGHを含むバッチ(10.0 mg/ml、注射用溶液1.5 mlカートリッジ)を、5℃ ± 3℃(「所望の貯蔵条件」)で24ヶ月および25℃ ± 2℃/相対湿度60%(「加速条件」)で3ヶ月貯蔵した。種々の製剤を表6に示す。
【0065】
【0066】
全ての試験したバッチは初期時点で透明で無色溶液に見えた。25℃での貯蔵の間、3.5mg/ml、7.07mg/mlおよび14mg/mlのNaClを含有する、
0835RS158−5、6および7番を除く全ての製剤は、不透明または乳白色になった。
【0067】
5℃±3℃での貯蔵後、
0835RS158−5、6および7番の製剤は透明なままであったが、全ての他の製剤は徐々に不透明/乳白色になった。これらの観察は全て、さらに、粒子計測およびDLSデータによって裏付けられる。注目すべきことには、全てのこれらの凝集過程はSE−HPLCによってモニターできなかった。
【0068】
加速条件では、SE−HPLCによって凝集のわずかな増加を観察した。25℃での貯蔵の間、
0835RS158−5、6および7番を除く全ての製剤は、不透明または乳白色になった。結果を
図7および8に示す。」
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】
図1は、第一の等張化剤(tonifier)スクリーニング実験(実施例1、「所望の貯蔵条件」)において、5℃で貯蔵したサンプルの粒子分布であり、遮光粒子計測で定量した。一般に、初期時点では、やや目に見える粒子の値は高かったが、等張化剤を含まない製剤、グリシン、マンニトールおよびソルビトールを含む製剤では値の上昇が示される。NaCl含有製剤では、やや目に見える粒子の値は最低であった。これらの知見は、DLSデータおよび外観データにより、さらに裏付けられる。
【
図2】
図2は、第一の等張化剤(tonifier)スクリーニング実験(実施例1、「加速貯蔵条件」)において、25℃で貯蔵したサンプルの粒子分布であり、遮光粒子計測で定量した。一般に、初期時点では、やや目に見える粒子の値は高かったが、等張化剤を含まない製剤、グリシンおよびソルビトールを含む製剤で値が上昇したままであった。NaCl含有製剤では、やや目に見える粒子の値は最低であった。これらの知見は、DLSデータおよび外観データにより、さらに裏付けられる。
【
図3】
図3は、第一の等張化剤(tonifier)スクリーニング実験(実施例1、「過酷貯蔵条件」)において、40℃で貯蔵したサンプルの粒子分布であり、遮光粒子計測で定量した。一般に、初期時点では、やや目に見える粒子の値は最も高かった。40℃で1週間および2週間貯蔵した全ての製剤は、やや目に見える粒子の値が有意に低下した。
【
図4】
図4は、第二の等張化剤(tonifier)スクリーニング実験(実施例3、「所望の貯蔵条件」)において、5℃で貯蔵したサンプルの粒子分布であり、遮光粒子計測で定量した。一般に、やや目に見える粒子は、等張化剤を含まない製剤、およびグリシンを含む製剤で徐々に増加し、ソルビトールおよびマンニトールを含む製剤で顕著であった。NaCl含有製剤では、やや目に見える粒子の値は最低であった。これらの知見は、DLSデータおよび外観データにより、さらに裏付けられる。
【
図5】
図5は、第二の等張化剤(tonifier)スクリーニング実験(実施例3、「加速貯蔵条件」)において、25℃で貯蔵したサンプルの粒子分布であり、遮光粒子計測で定量した。一般に、やや目に見える粒子は、等張化剤を含まない製剤、グリシン、ソルビトールおよびマンニトールを含む製剤で値が上昇したままであった。NaCl含有製剤では、やや目に見える粒子の値は最低であった。これらの知見は、DLSデータおよび外観データにより、さらに裏付けられる。
【
図6】
図6は、第二の等張化剤(tonifier)スクリーニング実験(実施例3、「過酷貯蔵条件」)において、40℃で貯蔵したサンプルの粒子分布であり、遮光粒子計測で定量した。一般に、やや目に見える粒子の値は、40℃で2週間後の貯蔵の終了時に最も高かった。やや目に見える粒子は、等張化剤を含まない製剤、グリシン、ソルビトールおよびマンニトールを含む製剤で値が上昇した。NaCl含有製剤では、やや目に見える粒子の値は最低であった。これらの知見は、DLSデータおよび外観データにより、さらに裏付けられる。
【
図7】
図7は、中性塩濃度の最適化実験(実施例2、「所望の貯蔵条件」)において、5℃で貯蔵したサンプルの粒子分布であり、遮光粒子計測で定量した。やや目に見える粒子の値は、5℃での貯蔵の間、3.5 mg/ml、7.07 mg/mlおよび14 mg/mlのNaClを含有する製剤を除く、全てのバッチで上昇した。これらの知見は、DLSデータにより、さらに裏付けられる(データは示さず)。
【
図8】
図8は、中性塩濃度の最適化実験(実施例2、「加速条件」)において、25℃で貯蔵したサンプルの粒子分布であり、遮光粒子計測で定量した。やや目に見える粒子の値は、25℃での貯蔵の間、3.5 mg/ml、7.07 mg/mlおよび14 mg/mlのNaClを含有する製剤を除く、全てのバッチで上昇した。これらの知見は、DLSデータにより、さらに裏付けられる(データは示さず)。
【0070】
方法
実験方法を以下の表およびリストに示す。
【0071】