【実施例】
【0060】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
【0061】
(実施例1)
7MW合金および種々の組成の合金を用いたサファイア単結晶育成用坩堝1の製造を試みた。具体的な手順は以下の通りである。
【0062】
まず、原料としてFsss粒度2.3μm、純度99.9質量%のタングステン粉末9kgと、Fsss粒度4.3μm、純度99.9質量%のモリブデン粉末21kgを秤量し、V型ミキサーで1時間混合して、タングステン・モリブデン混合粉末30kgを得た。
【0063】
次に、この混合粉末を平板成型用ラバー内に充填し、口金を使ってラバーをシールした後、ラバー内を約30分間真空引きして空気漏れがないことを確認した。
【0064】
このラバー表面を水洗浄して付着粉末類を除去した後、CIP装置内に挿入し、静水圧をかけた。圧力2ton/cm
2で約10分間保持した後、除圧し、CIP成型作業を終えた。次に、CIP装置内からラバーを取り出し、表面の水分を拭き取り・除去した後、口金を外し開放した。その後、ラバーからタングステン・モリブデン混合粉末成型体を取り出し、バリや突起をやすりがけなどで除去した。
【0065】
次に、この成型体を水素焼結炉中に挿入し、2000℃で20時間の焼結を行い、比重約11.3(理論密度比約95%)で厚さ30mm、縦300mm、横290mmの7MW合金(理論密度:11.88g/cm
3)圧延用合金焼結素材を得た。
【0066】
同様に、9MW合金(理論密度10.70g/cm
3)焼結素材、5MW(理論密度13.35g/cm
3)焼結素材、タングステン(理論密度19.3g/cm
3)焼結素材並びに比較材のモリブデン素材も同様の手順で作製し、理論密度比約95%の圧延用合金焼結素材を得た。
【0067】
次に、得られた焼結素材に圧延を行った。具体的には、圧延は熱間圧延用4段圧延機を利用して行った。まず、直径300mm、高さ300mmの坩堝に成型するために必要なブランク材のサイズを厚さ5mm、直径550mmに設定し、以下の圧延スケジュールに基づき圧延を実行した。
【0068】
先ず、水素炉内で1400℃に加熱した焼結体を約600mmに板幅だし熱間圧延を行い、その後圧延方向を変更し、適宜加熱温度を低下させながら最終的には800℃加熱で一方向圧延を繰り返して、大略厚さ5mm、幅600mm、長さ800mmの熱間圧延仕上げの合金板を得た。なお、加熱温度を低下させながら圧延を行う理由は、圧延加工中に生じる再結晶現象を防止するためである。表面が薄黄色の酸化物で覆われたこの合金板を、930℃に保持した焼鈍処理用水素アニール炉内へ挿入し、約30分間加熱保持した後、水素雰囲気冷却ゾーン内に移動させ室温まで冷却し、炉外に取り出した。この処理を施した後、還元された表面付着物の溶解・除去処理を強酸中で行い、水洗、乾燥し、合金地肌の平らな合金板を得た。
【0069】
この合金板から密度、純度、硬度、アスペクト比を調査するために、厚さ5mm、幅100mm、長さ600mmの端材を放電ワイヤカット機で切り出して測定に供したところ、理論密度比99.1%(比重11.88)、純度99.9質量%、ビッカース硬度Hv480、アスペクト比4.6(長径33μm/短径7μm)の結果を得た。
【0070】
同様の手順で9MW合金板に対しても圧延を行い、理論密度比99.9質量%(比重10.6)、純度99.9質量%、ビッカース硬度Hv440、アスペクト比5の圧延板を得た。
【0071】
さらに、5MW合金板は理論密度比98.9%(比重13.2)、純度99.9質量%、ビッカース硬度Hv500、アスペクト比4.4の圧延板を得た。
【0072】
また、タングステン圧延板、比較材のモリブデン圧延板も同様に調査した。
得られた圧延板の特性を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
次に、得られた圧延板に対してヘラ絞り加工を行った。
まず、圧延板から、放電ワイヤカット機で厚さ5mm、直径550mmのヘラ絞り加工に供するブランク材を切り出した。このブランク材をヘラ絞り加工機に取り付けた絞り型の坩堝底部に相当する部分にあてがい、回転中心を出しながら押し棒でブランク材を固定した。直列に一体化させた絞り型/ブランク材/押し棒を同時に回転させながら、ブランク材をバーナーで600℃〜700℃の赤熱状態に加熱した。その状態でローラー(ヘラ)を繰り出して、絞り金型に倣わせながら坩堝形状に成形した。この際通常のヘラ絞り手順よりもしごきの回数を多くすることで、底部から開口部へと厚さが連続的に減少する坩堝に仕上げることができる。
【0075】
ヘラ絞り加工時に発生する不良のうちブランク材の特性・品質に起因する事象は、坩堝底部に当たる絞り型の外角R部に倣わせる工程中に現れる粒内割れと、加工終了に間近い時期に開口部に現れる層状の剥離と粒界割れである。これらの発生原因は低いブランク材料強度(代替特性として硬度)、結晶粒の形状(アスペクト比で代替)が主である。しかし、材料強度が高きに過ぎると変形が進まない。アスペクト比がほとんど認められない等軸形状であっても、10μm〜50μm程度の細粒であれば材料強度は高く変形に耐えるが、300μm〜500μm程度の粗大粒であると低いために変形に耐えられず破断してしまう。然しながら下表2に示す5MW材の絞り加工時割れの発生原因については上記現象とは異なるようであり、5MW材質専用の絞り加工条件を見出す必要がある。
以上のヘラ絞り性とアスペクト比の関係を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
次に、ヘラ絞りで得られた内径300mm、高さ300mmの坩堝を焼鈍処理用水素アニール炉内へ挿入し、表面酸化膜の還元処理を行い、続いて表面付着物の溶解・除去処理を強酸液中で行い、合金地金の坩堝を得た。
【0078】
得られた坩堝を湿式ブラスト処理装置に設置し、アルミナ砥粒(粒度100メッシュ)を内外面に吹きつけて面処理を行った。その後、坩堝表面に残った砥粒を噴流水で除去し、乾燥させた。
【0079】
この坩堝を電解液浴槽に設置し、電解薬液を充満した後、坩堝内側の電解薬液中にマイナス極の電極材を配置し、坩堝がプラス極に成るよう電気結線し、電圧を印加し電解研磨を開始した。約1時間処理した後、結線を外し、電極を除去し、薬液を排出し、坩堝を液浴槽から取り出した。その後、坩堝を中和薬液槽に入れ、付着薬液と中和させた後、水洗・湯洗・乾燥した。
以上の加工により、坩堝が完成した。
【0080】
次に、得られた坩堝をサファイア育成装置に組み付けてサファイアを溶解させ、2150度で50時間保持した後、サファイアを取り出し、目視観察により、サファイアへの着色の有無を観察した。
【0081】
着色の評価は、本来透明であるサファイアに坩堝成分が混入すると、微灰黒色、灰黒色への変色が観察されることから、育成後のサファイアが透明である場合に着色が「正常」であると判断し、変色が認められた場合は坩堝成分が混入したものと判断した。
【0082】
電解研磨前後の表面粗さの変化と、表面粗さが及ぼすサファイア着色不良への影響をまとめた結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
表面粗さ最大高さRyが7μm以下、算術平均粗さRaが1.0μm以下の場合、得られたサファイアインゴットには着色は認められず、正常なサファイアインゴットであった。
【0085】
(実施例2)
上記の通り、実施例1においては、タングステン含有量が30質量%である70質量%Mo−30質量%W合金(理論密度:11.88g/cm
3、7MW)の絞り成型が限界であり、これよりもタングステン含有量の多い合金はヘラ絞りの際に亀裂が生じた。一方で純タングステンを用いた試料は亀裂は生じなかった。
【0086】
そこで、タングステン含有量が30質量%を超える合金が何故絞り成型性に劣るのか(亀裂が生じるのか)を調査したところ、実施例1のタングステン含有量が30質量%を超える合金では、焼結の際にタングステン成分とモリブデン成分の合金化が不足して未合金化粒子が散在すること(A原因)と、焼結体(圧延用合金焼結素材)の結晶粒度が小さ過ぎること(B原因)の2つの原因があることがわかった。
【0087】
両原因を改善するための方策として、原料である金属粉末の微細化、粉末混合時間の延長、粉末成型圧力の増大、粉末成型体の焼結温度と時間の上昇、延長などを試みたが、A原因の解消に至ることができなかった。
【0088】
そこで、実施例2においては、金属粉末同士を原料として合金を作製するのではなく、合金化した金属粉末を原料として合金を作製することとし、思考と試行を繰り返した。その結果、A原因およびB原因の両原因を解消した焼結体を作ることができ、熱間圧延並びに温間圧延による塑性加工を繰り返して、絞り加工に適したブランク材を得た。
【0089】
以下に、
図3を参照してこの作製手順を記述する。
まず、原料としては金属粉末を用いず、三酸化タングステン粉末と二酸化モリブデン粉末を採用した(
図3のS11)。ここでは40質量%Mo-60質量%W合金(理論密度:14.22g/cm
3、4MW)粉末100kgの作製を例に詳述する。
【0090】
まず、三酸化タングステン粉末(タングステン純分99.95質量%)75.7kgと二酸化モリブデン粉末(モリブデン純分99.95質量%)53.3kgを、遊星型ボールミル(セラミックスボール使用)を用いて2時間混合した(
図3のS12)。この酸化物混合粉末を丸チューブ型還元炉を用いて水素中850℃で還元し、プレ合金化金属粉末を得た(
図3のS13)。この粉末のFsss粒度を測定したところ、0.9μmの非常に細かい微粉末であることが判り、プレス成型性に劣ることが懸念されたために、再度還元炉を用いて粗粒化処理を水素中950℃で行い、Fsss粒度2.3μmのプレ合金化金属粉末を得た。分散状態を均質化するためにV型ミキサーで混合した後、27kgを分取して平板成型用ラバー内に充填し、CIP装置内に挿入し静水圧をかけて成型体を作った。この成型体を2200℃で30時間の水素焼結処理を行い、比重約13.5(理論密度比約95%)で厚さ30mm、幅300mm、長さ220mmの圧延用合金焼結素材を得た。
【0091】
次に焼結素材に圧延を行った。具体的には、圧延は熱間用4段圧延機を利用し、焼結体を水素炉内で1500℃に加熱し、板幅約600mmまでの幅だし圧延を行った。その後圧延方向を変更し、適宜加熱温度を低下させながら最終的には800℃加熱で一方向圧延を繰り返して、大略厚さ5mm、幅600mm、長さ800mmの熱間圧延仕上げの合金板を得た。なお、加熱温度を低下させながら圧延を行う理由は、圧延加工中に生じる再結晶現象を防止するためである。
【0092】
表面が薄黄色の酸化物で覆われたこの合金板を、1030℃に保持した焼鈍処理用水素アニール炉内へ挿入し、約30分間加熱保持した後水素雰囲気冷却ゾーン内に移動させ室温まで冷却し、炉外に取り出した。この処理を施した後、還元された表面付着物の溶解・除去処理を強アルカリ中で行い、水洗、乾燥し、合金地肌の平らな合金板を得た。
【0093】
以下のタングステン含有量が異なる、タングステン-モリブデン合金板も同様の工程で作製した。
【0094】
同様にして60質量%Mo-40質量%W合金板(理論密度12.57g/cm
3、6MW)、50質量%Mo-50質量%W合金板(理論密度:13.35g/cm
3)、並びに30質量%Mo-70質量%W合金板(理論密度:15.23g/cm
3)も同様の工程で作製し、それぞれ金属地肌の鏡面状態の合金板を得ることができた。得られたこれら合金の厚さ5mm板の特性は、以下の通りであった。
【0095】
(1)60質量%Mo-40質量%W合金板(6MW):理論密度比99.2%(比重12.47)、純度99.9質量%
(2)50質量%Mo-50質量%W合金板(5MW):理論密度比99.0%(比重13.23)、純度99.9質量%
(3)40質量%Mo-60質量%W合金板(4MW):理論密度比99.0%(比重14.08)、純度99.9質量%
(4)30質量%Mo-70質量%W合金板(3MW):理論密度比99.0%(比重15.08)、純度99.9質量%
【0096】
このように、実施例2は実施例1と異なり、原料粉末段階までにプレ合金化を進めた。さらに、合金粉末粒子が細かいため、焼結粒度を大きくする手法として焼結温度を高め、焼結時間を長く実施した。また、熱間圧延時の圧延率を高めに取り、加熱温度も高くし(従前よりも約100℃高くし)、焼鈍温度も高めに設定、処理し、塑性加工性並びに引っ張り強さを向上させた。
【0097】
そのほかの条件、例えばCIP成型、温間圧延、ブランク材切り出しなどは実施例1と同じであるが、タングステン-モリブデン合金中のタングステン含有量が30質量%を越えると、その特性はタングステンに近似してくる。そのために、以下の3点をタングステン板材処理条件を踏襲して行った。
【0098】
(1)圧延加熱温度:実施例1では1400℃であったが、実施例2では1500℃とした(加熱温度を高めることで、焼結体や圧延塑性加工中の材料の変形抵抗を小さくし、加工不良の発生を防止するため)。
【0099】
(2)熱間圧延後の焼鈍処理:実施例1では930℃で30分間であったが、実施例2では1030℃で30分間とした(タングステン含有量が高くなることによって、加工歪を開放できる温度も上昇するため)。
【0100】
(3)酸化物溶解・除去処理:実施例1では強酸中で行ったが、実施例2では強アルカリ中(アルカリ性溶液が効果が大きいため)。
【0101】
実施例2において、容器形状に絞り成型するために切り出したブランク材(厚さ5mmX直径550mm)を、口径300mm、高さ300mmに成型した結果を表4及び表5にまとめた。
【0102】
【表4】
【0103】
【表5】
【0104】
表4及び表5に示すように、タングステン含有量60質量%以下の合金は正常に成型ができたが、70質量%タングステン含有合金には亀裂が生じた。
【0105】
次に得られた容器を従前通りに焼鈍処理、ブラスト処理、電解研磨処理した後、表面粗さが及ぼすサファイア着色不良への影響を調べた結果を表6に示す。
【0106】
【表6】
【0107】
表6に示すように、表面粗さの影響が従前の結果(表3)と同様に得られた。