特許第6363996号(P6363996)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6363996
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】免疫原性が低下した凝固因子VIII
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/755 20060101AFI20180712BHJP
   A61K 38/37 20060101ALI20180712BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   C07K14/755ZNA
   A61K38/37
   A61P7/04
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-513137(P2015-513137)
(86)(22)【出願日】2013年5月21日
(65)【公表番号】特表2015-518844(P2015-518844A)
(43)【公表日】2015年7月6日
(86)【国際出願番号】EP2013060397
(87)【国際公開番号】WO2013174805
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2016年5月12日
(31)【優先権主張番号】12168800.6
(32)【優先日】2012年5月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513131121
【氏名又は名称】イムネイト・ソシエテ・ア・レスポンサビリテ・リミテ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】サン−レミー,ジャン−マリー
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0233119(US,A1)
【文献】 特表2011−502478(JP,A)
【文献】 特表2008−534559(JP,A)
【文献】 特表2005−538694(JP,A)
【文献】 JBC,1997年,Vol.272,p.24121-24124
【文献】 Blood,2009年,Vol.114,p.526-534
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/755
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドメイン構造A1−a1−A2−a2−B−a3−A3−C1−C2(A1、A2、B、A3、C1およびC2はドメインを表わし、a1、a2およびa3はそれらのドメインを連結する酸性領域である)をもつVIII因子分子であって、[FWTHY]−X−[ILMV]−X−[FWTHY]であるNKT細胞エピトープ(単数または複数)のモチーフの変異により、NKT細胞を活性化する能力が低下したVIII因子分子:
該変異VIII因子分子において、少なくとも配列番号1で示されるアミノ酸配列内に存在するNKT細胞エピトープが、NKT細胞エピトープモチーフにおける位置P1およびP7のアミノ酸残基を、F、W、T、H、Yとは異なるアミノ酸で置換することによ除かれている
【請求項2】
位置P−1および/またはP−2および/またはP8および/またはP9のF、W、T、H、Yのうち少なくとも1つが、非疎水性残基で置換されていることを特徴とする、請求項1に記載のVIII因子分子。
【請求項3】
位置P−2、P−1、P2、P6、P8および/またはP9に存在する少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基が非疎水性残基で置換されている、請求項1に記載のVIII因子分子。
【請求項4】
位置P−2、P−1、P2、P6、P8および/またはP9に存在する前記少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基がF、W、T、HまたはYとは異なることを特徴とする、請求項3に記載のVIII因子分子。
【請求項5】
NKT細胞がCD4+またはCD8+系列に属することを特徴とする、請求項1に記載のVIII因子分子。
【請求項6】
NKT細胞エピトープがVIII因子のA1ドメイン内に存在することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のVIII因子分子。
【請求項7】
少なくとも配列番号1で示されるアミノ酸配列190−209および配列番号2で示されるアミノ酸配列309−316内に存在するNKT細胞エピトープが除かれていることを特徴とする、請求項6に記載のVIII因子分子。
【請求項8】
分子が、Bドメインの欠失により、および/またはアミノ酸(単数または複数)の付加もしくは置換により、さらに変異していることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のVIII因子分子。
【請求項9】
分子が組換え発現により製造されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のVIII因子分子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のVIII因子分子を有効成分として含有する医薬。
【請求項11】
請求項1に記載の変異VIII因子分子をタンパク質の形で、または遺伝子療法により投与する、請求項10に記載の医薬。
【請求項12】
先天性または後天性の血友病Aの処置に使用するための、請求項11に記載の医薬。
【請求項13】
敗血症性ショック、急性フィブリン溶解、多発外傷または脳内出血おける出血性障害を伴う患者の処置に使用するための、請求項11に記載の医薬。
【請求項14】
NKT細胞を活性化する能力が低下したVIII因子分子を得るための、下記の工程:
a.少なくとも1つのNKT細胞エピトープであって、位置P1および/またはP7に疎水性アミノ酸残基を含むエピトープを同定する;
b.位置P1および/またはP7の少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基を除去するか、位置P1および/またはP7の少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基を非疎水性残基で置換するか、あるいは位置P1および/またはP7に非疎水性残基を付加することにより、そのエピトープ(単数または複数)を変異させる;
を含む方法であって、
NKT細胞エピトープが[FWTHY]−X−[ILMV]−X−[FWTHY]であり、該NKT細胞エピトープの少なくとも一つが配列番号1で示されるアミノ酸配列内に位置する、方法。
【請求項15】
VIII因子分子の免疫原性を低下させるための、下記の工程:
a.少なくとも1つのNKT細胞エピトープであって、位置P1および/またはP7に疎水性アミノ酸残基を含むエピトープを同定する;
b.位置P1および/またはP7の少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基を除去するか、位置P1および/またはP7の少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基を非疎水性残基で置換するか、あるいは位置P1および/またはP7に非疎水性残基を付加することにより、そのエピトープ(単数または複数)を変異させる;
を含む方法であって、
NKT細胞エピトープが[FWTHY]−X−[ILMV]−X−[FWTHY]であり、該NKT細胞エピトープの少なくとも一つが配列番号1で示されるアミノ酸配列内に位置する、方法。
【請求項16】
P1および/またはP7位に隣接する位置P−2、P−1、P2、P6、P8および/またはP9に存在する少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基が非疎水性残基で置換されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫原性が低下または欠如した凝固VIII因子の分子、および凝固障害の療法、特に血友病Aの処置における、それらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
VIII因子は、凝固の必須成分であるトロンビンの産生に際して補因子として作用する凝固因子である。機能性VIII因子が存在しないかまたは不十分であると、個体は出血性障害に罹患し、これらは血友病Aと総称される。それの起源に応じて2タイプの血友病Aがある:すなわち、遺伝性(特発性血友病、自発性血友病)または後天性(後天性または自己免疫性血友病)。VIII因子はX染色体上に存在するため、特発性血友病は男性が罹患する疾患である。女性は2つのX染色体があるので、キャリヤーではあるが、出血性障害に罹患することはない。特発性血友病は、循環VIII因子のレベルに従ってさらに3つのサブセットの患者に分類される:重症血友病(VIII因子が1%未満)、軽症血友病(VIII因子が1〜5%)および中等度血友病(VIII因子濃度が5〜10%)。
【0003】
血友病に罹患している患者はVIII因子による補充療法が必要である。重症血友病A患者については特発性の、時には致命的な出血のため、これは継続療法であり、あるいは軽症または中等度の血友病患者では間欠的であり、その場合は外傷または外科処置および一時的にVIII因子濃度を高める必要がある際にVIII因子が要求される。
【0004】
血友病Aに罹患している患者が直面せざるを得ないきわめて主要な合併症は、機能性凝固を再建するために用いる療法剤(VIII因子)に対する抗体の出現である。現在、補充療法に用いられる2タイプのVIII因子、すなわち血漿由来のものおよび組換え体がある。血漿由来VIII因子はヒト血漿プールから調製され、さらに他のタンパク質、特にVIII因子の生理的シャペロンであるフォンビルブラント因子(von Willebrand factor)を含有する。組換えVIII因子は、遺伝子工学、および動物またはヒトに由来する細胞による産生によって調製される。組換えVIII因子は純粋であり、フォンビルブラント因子を含有しない。血漿由来または組換えのいずれかのVIII因子分子を用いた場合に抗VIII因子免疫応答を誘発するリスクにおいて有意差があるかどうかを判定するために、活発な論争がなされている。どのような状況でも、VIII因子を療法剤として投与されている患者の平均25%が抗体を産生し、それらが補充剤の活性を阻害する。そのような抗体はVIII因子インヒビターと呼ばれる。
【0005】
VIII因子インヒビターに対する対処法はない。経験に基づいて、きわめて高い用量のVIII因子を毎日投与すると若干の症例でインヒビターの消失が生じる可能性があることが立証された。免疫寛容の誘導と呼ばれるこの療法は、その成功に信頼性がない。免疫寛容の転帰を予測できる代理マーカーが存在しないことにより、VIII因子インヒビターの形成を排除する意図でそれを使用するのは事実上制限される。さらに、寛容誘導に関連する法外な費用のため、寛容誘導を考慮できる患者はごくわずかである。
【0006】
VIII因子インヒビターは親和性の高い特異的抗体であり、これはそれらの形成にTリンパ球が関与することを示唆する。その結果この免疫応答は十分に記憶され、刺激された際に抗体を産生する形質細胞にトランスフォームする記憶B細胞、および後にVIII因子に曝露されるとその都度さらなる抗体応答をマウントする能力を維持した記憶T細胞の集団が残される。VIII因子インヒビターを呈する患者は、インヒビターがVIII因子機能を中和し、かつおそらくVIII因子のクリアランス速度を高めるという理由だけでなく、VIII因子へのさらなる曝露の都度そのようなインヒビターの濃度が高まるという理由で、VIII因子で処置することができない。
【0007】
特許出願WO 2009/101206には、適応免疫のレベル、すなわちVIII因子特異的なT細胞とB細胞の相互作用のレベルで作用することにより、インヒビターの産生を排除できる方法が記載されている。この出願には、因子曝露に際して新たなインヒビターを産生するリスクをどのようにして排除できるかだけでなく、既存のインヒビターをどのようにして除去できるかも記載されている。しかし、本発明者らは意外にも、VIII因子が自然免疫のきわめて有効なアクチベーターであり、これが適応応答およびインヒビターを誘発するための前提条件であるらしいことを見出した。VIII因子は規則的に投与しなければならず(たとえば、重症血友病A患者には週2または3回)、したがってVIII因子インヒビターの新たな産生を誘発するリスクが持続するので、それらが自然免疫を活性化する能力を喪失した療法用VIII因子分子を調製できる方法を定めることが緊急に求められる。
【0008】
PCT出願PCT/EP2011/070911には、NKT細胞を活性化する能力をもつタンパク質をそのような能力が失なわれるように変換できる方法が記載されている。たとえば、NKT細胞は自然免疫系の一部であり、一般的に記憶作用を欠如すると定められている。しかし、PCT出願PCT/EP2011/070911に記載されるように、NKT細胞はCD1d分子による疎水性ペプチドの提示を認識してそれによって活性化される可能性がある。このペプチドは、それに対してNKT細胞が特異的である抗原に由来するので、これは抗原特異的自然免疫系の活性化を表わす。上記のPCT出願には、抗原特異的NKT細胞を活性化する特性を示すタンパク質をアミノ酸の置換または欠失により修飾し、それによってCD1dに結合する能力を排除できる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 2009/101206
【特許文献2】PCT/EP2011/070911
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、PCT出願PCT/EP2011/070911に記載された方法により得られたVIII因子であって、自然免疫系を活性化する能力を喪失し、その結果、インヒビターの産生を伴なう適応免疫応答を活性化する能力の欠如または有意の低下を示す分子を記載する。本発明はさらに、補充療法の必要がある患者、特に重症血友病A患者の処置のための、そのようなVIII因子分子の使用を記載する。本発明はまた、本発明のVIII因子分子を用いる遺伝子療法を使用できる方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、免疫原性が低下したVIII因子分子の調製に関する。
【0012】
本発明はまた、そのVIII因子分子を、その処置を必要とする患者の処置に使用することに関する。
【0013】
PCT出願PCT/EP2011/070911に、NKT細胞を活性化する能力が低下したペプチドまたはポリペプチドを得るための方法が記載されている。そこで、本発明者らは、有意割合のペプチドまたはポリペプチドが、それらをCD1d決定基に結合させてナチュラルキラーT(NKT)細胞の活性化のために提示することができるアミノ酸配列を保有するという予想外の所見を得た。そのような細胞が活性化されると、サイトカインの放出、および場合によっては細胞溶解特性の獲得または増大が生じる。
【0014】
本発明は、1観点において、アロファクター(allofactor)として用いる少なくとも1種類の単離ポリペプチドを、NKT細胞により認識されるエピトープの形成に関与する少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基を除去するように修飾したものを、そのアロファクターに対する対象の免疫応答を阻止するための医薬の調製に使用することに関する。
【0015】
より詳細には、本発明は、VIII因子、および医薬としてのVIII因子の使用に関する。VIII因子は凝固系の補因子であり、これはVIII因子、IX因子およびX因子を組み立てるセリンエステラーゼであるテンナーゼ(tenase)の形成を促進することによりトロンビンの活性化に関与する。X因子は、トロンビンに変換する酵素活性を保有する。VIII因子の非存在下では、テンナーゼ形成速度が劇的に低下して患者を特発性出血のリスク状態にし、これはしばしば致命的となり、速やかな療法措置が必要である。VIII因子の濃度の低下が中等度(5〜10%)である場合、患者は通常は外傷または外科処置に際して出血するにすぎない。
【0016】
重症血友病A(VIII因子が1%未満)に罹患している患者は頻繁な特発性出血を伴ない、連続投与または週2もしくは3回のボーラス注射による予防処置が必要である。さらに、敗血症性ショック、急性フィブリン溶解、多発外傷または脳内出血の場合のようにVIII因子異化の増大がみられる患者もVIII因子投与が必要である。
【0017】
定義
用語“ペプチド”は、本明細書中で用いる場合、2〜200個のアミノ酸がペプチド結合により連結したアミノ酸配列を含む分子を表わすが、特定の態様において、非アミノ酸構造体(たとえば、連結する有機化合物)を含むことができる。本発明によるペプチドは、一般的な20種類のアミノ酸のいずれか、またはその修飾形態を含むことができ、あるいはペプチドの化学合成により、または化学修飾もしくは酵素修飾により取り込まれた非天然アミノ酸を含むことができる。用語“ポリペプチド”は、本明細書中で用いる場合、一般に比較的長いペプチドまたはタンパク質を表わす。
【0018】
用語“エピトープ”は、本明細書中で用いる場合、タンパク質の1つの部分もしくは幾つかの部分(コンホメーショナルエピトープを定めることができるもの)であって、抗体もしくはその一部分(Fab’、Fab2’など)またはBもしくはT細胞性リンパ球の細胞表面に提示される受容体が特異的に認識して結合し、その結合により免疫応答を誘導できるものを表わす。
【0019】
用語“抗原”は、本明細書中で用いる場合、1以上のハプテンを含み、および/または1以上のT細胞エピトープを含む、高分子構造体を表わす。一般に、その高分子はタンパク質またはペプチド(多糖類を含むもの、または含まないもの)であり、あるいはタンパク質組成物から構成され、1以上のエピトープを含む;あるいは、その高分子を本明細書中で“抗原性タンパク質”または“抗原性ペプチド”と呼ぶことができる。
【0020】
用語“T細胞エピトープ”または“T−細胞エピトープ”は、本発明に関して、優性、準優性または副−T細胞エピトープ、すなわち抗原性タンパク質の一部分であって、Tリンパ球の細胞表面にある受容体が特異的に認識して結合する部分を表わす。エピトープが優性、準優性または副のいずれであるかは、そのエピトープに対して誘発される免疫反応に依存する。優性度は、あるタンパク質の、可能性のあるすべてのT細胞エピトープのうち、そのようなエピトープがT細胞により認識されてそれらを活性化できる頻度に依存する。特に、T細胞エピトープはMHCクラスIまたはMHCクラスII分子が結合するエピトープである。
【0021】
用語“NKT細胞エピトープ”は、抗原性タンパク質の一部分であって、Tリンパ球の細胞表面にある受容体が特異的に認識して結合する部分を表わす。特に、NKT細胞エピトープはCD1d分子が結合するエピトープである。
【0022】
用語“CD4+エフェクター細胞”は、CD4陽性サブセットのT細胞に属する細胞を表わし、それの機能は他の細胞、たとえばB細胞に対する補助を提供することである。これらのエフェクター細胞は一般的にTh細胞(Tヘルパー細胞について)としてレポートされ、Th0、Th1、Th2およびTh17細胞など種々のサブセットを含む。
【0023】
用語“NKT細胞”は、CD1分子により提示されるエピトープを認識するという事実を特徴とする、自然免疫系の細胞を表わす。本発明に関して、NKT細胞は1型(インバリアント(invariant))サブセット(iNKT)または他のいずれかのサブセットに配属でき、これらはCD1dによるペプチドエピトープの提示によって活性化されるであろう。用語“NKT細胞”には、CD4またはCD8のいずれかの系列に属するNKT細胞も含まれる。NKT細胞は、しばしばNK1.1およびNKG2Dなどの受容体を保有する。
【0024】
用語“CD1d分子”は、非MHC由来分子を表わし、3つのアルファ鎖および1セットの逆平行ベータ鎖から構成され、両側が開放した深い疎水性溝内に配置され、脂質、糖脂質または疎水性ペプチドをNKT細胞に提示できる。
【0025】
用語“免疫障害”または“免疫疾患”は、免疫系の反応が生物における機能異常または非生理的状況に関与し、あるいはそれらを持続させる、疾患を表わす。本発明に関して、免疫障害は、感染性作用物および腫瘍監視機構により誘導される病態を表わす。
【0026】
用語“アロファクター”または“アロ抗原”は、同種の2個体間で比較した場合に多型性を示すタンパク質、ペプチドまたは因子(すなわち、いずれかの分子)、より一般的にはそのアロファクターを投与される対象において(アロ反応性)免疫応答を誘導するいずれかのタンパク質、ペプチドまたは因子を表わす。拡大すると、アロファクターには供給するために遺伝子修飾したタンパク質も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、主要CD1d結合モチーフがSEQ ID 3(P28 A)にあり、限られてはいるが有意%のNKT細胞がSEQ ID 4(P28 B)のペプチドによって検出されたことを示す。
図2図2は、天然レパトア内に存在するNKT細胞のうち有意割合(8%)がSEQ ID 1のペプチドに対して特異的であること、およびSEQ ID 1のペプチドがJAWS2細胞により提示されるとその割合が倍増すること(16%)を示す。
図3a図3aは、VIII因子変異体F309A−H315Aを注射したマウスにおいて3.6倍の抗体減少がみられたことを示す。
図3b図3bは、VIII因子の機能を阻害する抗体が3.6倍減少したことを示す。
図4図4は、CD1dを発現する細胞の割合が対照実験における6%から、CD1d結合配列を含むペプチドを用いた場合に13%に増加することを示す。ヒストグラムとして示したデータは3回測定の平均であり、星印は対照値より有意に高い結果を示す(p<0.05)。
図5図5は、実施例5の所見の3つの顕微鏡視野のカウントの平均を示す(最低10個の細胞/クラスター)。
図6図6は、SEQ ID 3のペプチドが、図4に示したSEQ ID 5のペプチドと対照的に、U937細胞の表面におけるCD1dの発現を増大させなかったことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、対象においてVIII因子分子に対する免疫応答を阻止するためのVIII因子分子を提供する。
【0029】
VIII因子は、2332個のアミノ酸から構成される成熟配列をもち、ドメイン構造A1−a1−A2−a2−B−a3−A3−C1−C2(A1、A2、B、A3、C1およびC2はドメインを表わし、a1、a2およびa3はそれらのドメインを連結する酸性領域である)を備えている。VIII因子は、分泌された後に起きるタンパク質分解プロセシングを受けると、A3−C1−C2からなる軽鎖に共有結合した可変長A1−a1−A2−a2−B(この長さはBドメインの長さによって調節される)からなる主要形態で血漿中に存在する。
【0030】
VIII因子は、適切なリン脂質表面でのIX因子によるX因子の活性化を促進し、これにより凝固プロセスを増幅する。VIII因子の活性形態は、A1−a1、A2−a2およびA3−C1−C2で構成されるヘテロトリマーからなる。
【0031】
特に、本発明は、NKT細胞の拡張および機能活性を阻止する方法を提供する。そのような細胞は、通常は別個のサブセットに分類される:すなわち、インバリアントTCRアルファ鎖を保有するNKT細胞についての1型(マウスにおけるValpha14、ヒトにおけるValpha24)、または多様なアルファ鎖レパトアを備え、スルファチドに対して特異的であると推定される2型NKT細胞。しかし、最近の証拠により、1型または2型のカテゴリーに該当しない別のサブセットのNKT細胞が示唆された。本発明の目的は、CD4またはCD8補助受容体(co-receptor)を保有する可能性があるこれらの一般的ではないNKT細胞を含めることである。CD1dに結合した抗原が提示されると、NKT細胞は速やかに活性化され、自然免疫系および適応免疫系の両方に由来する他の細胞に影響を及ぼす決定因子であると考えられる多数のサイトカインを分泌する。ある環境では、それらの活性化したNKT細胞は細胞傷害特性を獲得し、またはそれが増大する。
【0032】
本発明に関して、前記ペプチドをCD1d分子が提示できるという予想外の知見が得られた。CD1d分子の特徴は、それが2つの逆平行ベータ鎖から構成されるプラットフォームの頂部に存在する裂溝を形成する、2つの逆平行アルファ鎖から構成されることである。この裂溝は狭くて深く、疎水性残基のみ(古典的には脂質のみと推定されていた)を受容する。この裂溝は、位置(P)1および7の疎水性残基ならびにP4の脂肪族残基を特徴とするアミノ酸7個の配列を収容できる。P1は絶対疎水性残基、たとえばF、W、HまたはYである。しかし、P7は許容性があり、極性でない限り代替残基を含むことができる。P4の残基は、好ましくは脂肪族であるが、任意である。したがって、CD1d結合モチーフの一般式は[FWTHY]−X−[ILMV]−X−[FWTHY]である。ただし、このモチーフが対称的であってP7をP1とみなすことができ、またP1をP7とみなすことができるのは、当業者に明らかなはずである。CD1d結合モチーフのこの一般式は一般的指標としてここに示され、何らかの限定を意図するものではない。
【0033】
本発明は、NKT細胞を活性化する能力をVIII因子分子に付与するCD1d結合モチーフ(単数または複数)が下記により修飾されたものを含むVIII因子分子の調製およびその方法に関する;P1および/またはP7の疎水性残基を除去し、および/または非疎水性残基で置換する;ただし、位置309のFがSにより置換されることはなく、位置317のHがAにより置換されることはない;ならびに/あるいは位置P1および/またはP7に非疎水性残基を付加する;所望によりP4の脂肪族残基を置換し、または欠失させる;あるいはこれらのいずれかの組合わせ;その結果、ペプチドまたはポリペプチドがCD1dに結合する能力が失われるか、または有意に低下し、それによりそれらのペプチドまたはポリペプチドがNKT細胞を活性化する能力が失われるか、または有意に低下する。
【0034】
したがって本発明は、ドメイン構造A1−a1−A2−a2−B−a3−A3−C1−C2(A1、A2、B、A3、C1およびC2はドメインを表わし、a1、a2およびa3はそれらのドメインを連結する酸性領域である)をもつVIII因子分子であって、NKT細胞を活性化する能力が低下した、下記により得られるVIII因子分子に関する:
a.少なくとも1つのNKT細胞エピトープであって、位置P1および/またはP7に疎水性アミノ酸残基を含むエピトープを同定する;
b.位置P1および/またはP7の少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基を除去するか、位置P1および/またはP7の少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基を非疎水性残基で置換するか、あるいは位置P1および/またはP7に非疎水性残基を付加することにより、そのエピトープ(単数または複数)を修飾する。
【0035】
本発明はまた、NKT細胞を活性化する能力が低下したVIII因子分子を得るための、下記の工程を含む方法に関する:
a.少なくとも1つのNKT細胞エピトープであって、位置P1および/またはP7に疎水性アミノ酸残基を含むエピトープを同定する;
b.位置P1および/またはP7の少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基を除去するか、位置P1および/またはP7の少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基を非疎水性残基で置換するか、あるいは位置P1および/またはP7に非疎水性残基を付加することにより、そのエピトープ(単数または複数)を修飾する。
【0036】
より特定の態様において、位置P1および/またはP7のF、W、T、HまたはYを非疎水性残基により置き換え、あるいは所望により位置P4のI、L、MまたはVを非脂肪族残基で置き換え、あるいはこれらを組み合わせる。
【0037】
さらに他の特定の態様において、位置P1および/またはP7にある疎水性残基、あるいは所望により位置P4にある脂肪族残基、あるいはこれらの組合わせを、非天然F、W、T、H、Yとは異なる少なくとも1つの非天然アミノ酸により、または非芳香族有機化合物により置き換える。
【0038】
さらに他の特定の態様において、少なくとも1つのアミノ酸をCD1d結合モチーフ内にP1〜P7配列内のいずれかの位置において付加し、それによりこのモチーフを攪乱し、CD1dに結合するそれの能力を妨害し、それによりNKT細胞を活性化するそれの能力を妨害する。
【0039】
好ましい態様において、非天然アミノ酸はD−アミノ酸である。
【0040】
本発明はまた、NKT細胞を活性化する能力をVIII因子分子に付与するCD1d結合モチーフ(単数または複数)が下記により修飾されたものを含むVIII因子分子に関する;P1および/またはP7の少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基を除去する;P1および/またはP7の少なくとも1つの疎水性アミノ酸残基を非疎水性残基で置換する;あるいは位置P1および/またはP7に非疎水性残基を付加する;ならびにさらにP4の脂肪族残基を欠失させる;あるいはこれらのいずれかの組合わせ;その結果、ペプチドまたはポリペプチドがCD1dに結合する能力が失われ、または有意に低下し、それによりそれらのペプチドまたはポリペプチドがNKT細胞を活性化する能力が失われ、または有意に低下する。
【0041】
そのようなVIII因子分子は、対象に投与した際にCD1d上に装填されず、それによりNKT細胞を活性化するのが阻止される。
【0042】
さらなる観点において、本発明は、対象においてVIII因子に対する免疫応答を阻止するための、位置P1および/またはP7にF、W、T、HまたはYの少なくとも1つの置換または欠失を含むVIII因子分子の使用を含む。
【0043】
なお、さらなる観点において、本発明は、対象においてVIII因子に対するNKT細胞の活性化を阻止するための、位置P1および/またはP7にF、W、T、HまたはYの少なくとも1つの置換または欠失を含むVIII因子分子の使用を含む。
【0044】
なお、さらなる観点において、本発明は、対象においてVIII因子に対する免疫応答を阻止する医薬を調製するための、位置P1および/またはP7にF、W、T、HまたはYの少なくとも1つの置換または欠失を含むVIII因子分子の使用を含む。
【0045】
ペプチドまたはポリペプチド中にCD1d結合モチーフが存在する場合、それらの数はごく限られている。そのようなペプチドまたはポリペプチドの例を、VIII因子について後記に示す。一般に、ポリペプチドは1〜5個のこれらのモチーフを示す。
【0046】
本発明の他の利点は、CD1d分子がごく限られた多型度を示すことである。したがって、本発明による同じアミノ酸置換、付加または欠失がすべてまたは大多数の対象に有用なペプチドまたはポリペプチドを提供することは当業者に明らかである。これは、適切な配列を含む多数のペプチドが描き出される可能性のあるMHCクラスII分子に結合するペプチドまたはポリペプチドのモチーフと著しく対照的である。これは、MHCクラスII結合ペプチドに課される制約が最少であること、およびクラスII分子の多型性が大きいことによるものである。
【0047】
本発明の目的であるVIII因子分子は、下記により従って同定される:
(1)所望により、VIII因子のアミノ酸配列を、P1およびP7に疎水性残基ならびにP4に脂肪族残基を含む、少なくとも1つのCD1dモチーフの存在について評価する。一般配列、たとえば[FWTHY]−X−[ILMV]−X−[FWTHY]を、下記のような当技術分野で周知のアルゴリズムを用いるために使用できる:
http://expasy.org/tools/scanprosite/
この一般配列は、そのペプチドまたはポリペプチドがNKT細胞を活性化できるようにするモチーフをそれらのペプチドまたはポリペプチド中のどの配列(単数または複数)が含むかを同定するのを補助するためのツールと考えるべきである。
【0048】
(2)そのペプチドまたはポリペプチドがCD1dに結合する能力をインビトロで、CD1d分子を発現する細胞系を用いて試験する。そのような細胞系の例は当技術分野で既知であり、本出願における例を調製するために用いられている(たとえば、JAWS2細胞およびU937細胞)。好ましい態様において、その細胞系はMHCクラスII分子を発現せず、CD1dのDNA配列を含むウイルスベクターを用いて、または細胞に遺伝子を導入するための他のいずれかの手段を用いて、CD1dの過発現のためにトランスダクションされている。細胞トランスダクションの方法は当技術分野で知られている。この細胞系に、培養に際して、このペプチドもしくはポリペプチド、または対応する配列を含む合成ペプチドを装填する。そのような合成ペプチドは合成によって、たとえば当技術分野で周知のfmoc固相合成法を用いて、容易に製造される。次いで、CD1d分子によるそのペプチド、ポリペプチドまたは合成ペプチドの効果的な提示を、NKT細胞の活性化を測定することにより評価する。そのような細胞は、末梢血からたとえば磁気ソーティングにより採取し、IL−2、IL−15またはIL−7などのサイトカインの存在下で培養維持することができる。これらの方法は当技術分野で記載されている(たとえば、Godfrey et al, Nature reviews Immunology 2010, 11: 197-206を参照)。サイトカイン産生の評価などの方法を用いて、NKT細胞の活性化を評価する。
【0049】
あるいは、抗原提示細胞によりCD1d分子において実際に提示されたペプチドを種々のクロマトグラフィー法により溶離および分離することができる。そのような方法についての十分な記載が、Scott et al, Immunity, 12: 711-720, 2000にみられるであろう。そのようなペプチドを次いで配列決定して、どのアミノ酸残基がP1およびP7に存在するかを同定する。
【0050】
あるいは、それらの合成ペプチドをCD1d分子のダイマー、テトラマーまたはポリマーに装填して、そのようなペプチドに対して特異的なNKT細胞を検出することができる。1つの可能性は、蛍光標識したテトラマーの使用、および蛍光活性化セルソーティングシステム(facs)を用いる検出である。
【0051】
(3)NKT細胞を活性化できると同定され、かつ所望によりアルゴリズムにより同定されたアミノ酸配列を、次いで置換または欠失により修飾する。好ましい態様において、位置P1および/またはP7のF、W、T、HまたはYを、F、W、T、H、Yとは異なる少なくとも1つのアミノ酸により置き換える。天然アミノ酸を翻訳後修飾により修飾し、またはメチル基などの化学基で置換することができる。他の好ましい態様において、位置P1および/またはP7のF、W、T、HまたはYを、いずれか適切な別の非天然アミノ酸により置き換える。非天然アミノ酸残基の例はD−アミノ酸である。さらに他の態様において、位置P1および/またはP7のF、W、T、HまたはYを、F、W、T、H、Yとは異なる少なくとも1つのアミノ酸により置き換える。他の好ましい態様において、位置P1のF、W、T、HまたはYを、F、W、T、H、Yとは異なる少なくとも1つのアミノ酸により、いずれか適切な別の非天然アミノ酸により、または非芳香族有機化合物により置き換える。そのようなアミノ酸置換は、当技術分野で周知の方法を用いて得られる。なお、さらなる好ましい態様において、位置P1のF、W、T、HまたはYを欠失させる。さらに他の態様において、位置P1およびP7のF、W、T、HまたはYを欠失させる。そのような欠失を行なう方法は当技術分野で周知である。さらに、特定の態様において、少なくとも1つのアミノ酸をCD1d結合モチーフ内にP1−P7配列のいずれかの位置において付加する。
【0052】
(4)所望により、最初(P1)および/または最終(P7)の位置に隣接する疎水性アミノ酸残基を非疎水性残基により置き換えることが有利な場合がある。そのような疎水性残基は、エピトープのフランキング領域内、またはエピトープ配列自体の位置P2もしくはP6に、存在する可能性がある。それぞれエピトープのアミノ末端またはカルボキシ末端にある位置P−2およびP−1、P2および/またはP6、P8およびP9を、有利には非疎水性残基、すなわちF、W、T、HまたはYとは異なるアミノ酸により占有し、それはCD1dに対するエピトープの親和性をさらに低下させ、それによりエピトープがNKT細胞を活性化する能力はさらに低下する。
【0053】
(5)NKT細胞を、次いでそれらと(3)の記載に従って修飾したペプチドとの反応性について試験する。あるいは、そのペプチドが由来する全長タンパク質を、(3)の記載に従って配列修飾した状態で製造することができる。種々の方法を用いて、NKT細胞が修飾ペプチドまたはタンパク質と反応するそれらの能力を喪失または低減したかどうかを判定することができる。これらの方法は当技術分野で知られている。放射性チミジンの取込みにより、または培地中に産生されたサイトカインの濃度を評価することにより、NKT細胞の増殖を評価することができる。あるいは、NKT細胞は、ELISPOTにより、サイトカインまたは細胞溶解特性と関連するグランザイム(granzyme)Bなどの分子を指向する、多様な抗体を用いて評価することができる。あるいは、NKT細胞は、初期シグナル伝達事象、たとえばFynまたは表面活性化マーカーのリン酸化について評価することができる。
【0054】
特に、VIII因子のA1ドメインの配列の分析により、VIII因子がCD1d分子に結合できるようにするモチーフを含む2領域が前記の方法に従って同定された。これらの2領域は、下記の配列をもつアミノ酸残基190−209および309−323、好ましくは309−316を含む:
190−209:QTLILLFDEGKSWH(SEQ ID 1)
309−323:CHISSDGMEA(SEQ ID 2)
疎水性アミノ酸残基にアンダーラインを施してあり、これらの2配列はそれぞれ2つのCD1d結合モチーフ、すなわち下記のものを含む:
H193−F199
F195−V201(P7は許容され、バリンを含むことができる)
F309−H315
H317−Y323。
【0055】
本発明によれば、VIII因子の投与が必要な疾患、たとえば先天性または後天性のVIII因子欠損症、ならびにVIII因子の投与が有益である障害、たとえば敗血症性ショック、多発外傷および急性フィブリン溶解に際して、または脳内出血に伴なう無制御な出血に際してみられる急性のVIII因子消費に関連する出血性障害の処置のための医薬が考慮される。
【0056】
本発明の医薬は、必ずしもそうではないが、通常は有効成分として少なくとも1種類の本発明のVIII因子分子またはそのVIII因子分子を発現できる遺伝子療法ベクターを含む(医薬)配合物である。有効成分(単数または複数)のほかに、そのような配合物は少なくとも1種類の(医薬的に許容できる)希釈剤を含むであろう。
【0057】
一般に、本発明のVIII因子分子の投与は、自然免疫系の活性化、より具体的にはNKT細胞の活性化、より具体的にはNKT細胞の活性化に伴なうサイトカインの産生を阻止する。
【0058】
本発明に関するNKT細胞エピトープの同定法は当業者に既知である。たとえば、VIII因子分子から単離したペプチド配列を、たとえばNKT細胞生物学的方法により試験して、それらのペプチド配列がNKT細胞応答を誘発するかどうかを判定する。NKT細胞応答を誘発すると認められたペプチド配列を、NKT細胞刺激活性をもつと定める。ヒトNKT細胞刺激活性は、VIII因子に対して感作された個体から得たNKT細胞を培養し、そのペプチド/エピトープに応答してNKT細胞の増殖が起きるかどうかを、たとえばトリチウム化チミジンの細胞取込みにより判定することによって、さらに試験することができる。ペプチド/エピトープに対するNKT細胞による応答についての刺激指数は、ペプチド/エピトープに応答した最大CPMを対照CPMで割ったものとして計算できる。バックグラウンドレベルより2倍以上大きいNKT細胞刺激指数(stimulation index)(S.I.)を“陽性”とみなす。陽性結果を用いて、試験したペプチド/エピトープのグループの各ペプチド/エピトープについて平均刺激指数を計算する。2以上のNKT細胞刺激指数をもつ免疫原性ペプチドは、本発明に述べる疎水性アミノ酸残基の置換または欠失を行なうための候補として有用であると考えられる。
【0059】
本発明のペプチドまたはポリペプチドは、S.I.がバックグラウンドレベルの2倍未満である場合、または刺激に際して産生されたサイトカインのレベルが天然のペプチドもしくはポリペプチド配列で刺激を行なった際に産生されたものの50%未満である場合、または天然のペプチドもしくはポリペプチド配列と比較してグランザイムBなどの細胞溶解物質が少なくとも2倍低下した場合、NKT細胞を活性化する能力が低下していると言われる。
【0060】
可溶性CD1d分子を入手し、合成および/または化学的カップリングによりテトラマーにする。CD1d分子をアフィニティークロマトグラフィーによって精製する。可溶性CD1d分子を、CD1d分子に対する強い結合親和性によって調製されたビオチン標識した標準ペプチドと共にインキュベートする。CD1d結合について評価すべきペプチドを、次いで種々の濃度でインキュベートし、それらが標準ペプチドをそれのCD1d結合部位から排除する能力をニュートラアビジン(neutravidin)の添加により計算する。MHCクラスII決定基が提示するペプチドについては、たとえばTexier et al., (2000)J. Immunology 164, 3177-3184)に方法があるが、この方法をCD1d限定したNKT細胞エピトープに容易に適用できる。
【0061】
天然のペプチドもしくはポリペプチド配列においてオーバーラップ領域を共有する2以上のアミノ酸配列がT細胞生物学的手法により判定してヒトNKT細胞刺激活性をもつことが認められれば、それらの配列のうち一方または両方に属する残基について疎水性アミノ酸残基の変異または欠失を行なうことができる。
【0062】
本発明のVIII因子分子の投与経路は、適応症に従って変更できる。例はVIII因子の静脈内または皮下注射であるが、本発明には鼻腔内、経口、舌下、経皮または筋肉内など別の投与経路も含まれる。
【0063】
本発明のVIII因子分子は、当技術分野で既知の組換えタンパク質調製のための、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞または哺乳動物細胞などの発現系を用いる方法により調製できる。
【0064】
本発明のVIII因子分子は、組換え法により、たとえば細菌細胞(たとえば、大腸菌(Escherichia coli))、酵母細胞(たとえば、ピチア属(Pichia)種、ハンゼヌラ属(Hansenula)種、酵母菌属(Saccharomyces)種、または分裂酵母菌属(Schizosaccharomyces)種)、昆虫細胞(たとえば、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)またはキンウワバ(Trichoplusia ni)由来のもの)、植物細胞または哺乳動物細胞(たとえば、CHO、COS細胞)において調製できる。その際、それに要求される適切な発現ベクター(プロモーターおよび終止配列など、さらなる情報を含むもの)の構築は、一方で標準組換えDNA法を伴なう。組換え調製した本発明のVIII因子分子は、より大きな前駆タンパク質から、たとえばそのペプチドまたはポリペプチドのN末端および/またはC末端に挿入した酵素開裂部位の酵素開裂により得ることができ、続いて適切に精製される。
【0065】
本発明はまた、本発明のVIII因子分子をコードする核酸配列、およびたとえば組換え発現または遺伝子療法のためのそれらの使用に関する。特に、それらの核酸配列は本発明のVIII因子分子を発現することができる。
【0066】
遺伝子療法において、本発明のVIII因子分子をコードする組換え核酸分子を裸のDNAとして、またはターゲット細胞へ送達するためのリポソームその他の脂質系において使用できる。ヒト遺伝子療法に使用するためにプラスミドDNAを細胞内へ直接移入するための他の方法は当業者に周知であり、プラスミドDNAをタンパク質に複合体化することによりDNAを細胞上の受容体にターゲティングさせることを伴なう。遺伝子移入は、それの最も単純な形態では、少量のDNAを細胞の核内へマイクロインジェクション法で単に注入することにより実施できる。組換え遺伝子が細胞に導入されると、それらを転写および翻訳のための普通の細胞機序が認識でき、遺伝子生成物が発現するであろう。DNAをより多数の細胞に導入するために他の方法も試みられた。これらには下記のものが含まれる:トランスフェクション、この方法ではDNAをリン酸カルシウムと共に沈殿させてピノサイトーシスにより細胞に取り込ませる;エレクトロポレーション、この方法では細胞に大きな電圧パルスを印加して膜に孔を設ける;リポフェクション/リポソーム融合、この方法ではDNAを親油性ベシクルに充填してそれをターゲット細胞と融合させる;および小型の投射体に結合させたDNAを用いる粒子衝撃法。DNAを細胞に導入するための他の方法は、化学修飾したタンパク質にDNAをカップリングさせるものである。アデノウイルスタンパク質はエンドソームを脱安定化して細胞内へのDNAの取込みを増大させることができる。DNA複合体を含有する溶液にアデノウイルスを混合するか、あるいはアデノウイルスに共有結合したポリリシンにタンパク質架橋剤を用いてDNAを結合させることにより、組換え遺伝子の取込みおよび発現が実質的に改善される。アデノ随伴ウイルスベクターも遺伝子送達に使用できる。本明細書中で用いる“遺伝子移入(gene transfer)”は、外来核酸分子を細胞に導入するプロセスを意味し、それは遺伝子がコードする特定の生成物の発現を可能にするために一般的に実施されている。その生成物には、タンパク質、ポリペプチド、アンチセンスDNAもしくはRNA、または酵素活性RNAを含めることができる。遺伝子移入は、培養細胞において、または哺乳動物への直接投与により実施できる。他の態様において、本発明によるVIII因子分子をコードする核酸分子配列を含むベクターが提供される。特定の態様において、核酸分子配列が特定の組織のみにおいて発現するようにベクターを作製する。組織特異的な遺伝子発現を達成する方法は当技術分野で周知であり、たとえば本発明のVIII因子分子をコードする配列を、1以上の組織または臓器におけるその分子の特異的発現を指令するプロモーターの制御下におくことによる。レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、RNAウイルスまたはウシ乳頭腫ウイルスなどのウイルスに由来する発現ベクターは、本発明によるペプチド、そのホモログまたは誘導体をコードするヌクレオチド配列(たとえば、cDNA)をターゲット組織または細胞集団内へ送達するために使用できる。当業者に周知の方法を用いて、そのようなコード配列を含む組換えウイルスベクターを構築できる。あるいは、本発明によるペプチドまたはポリペプチドをコードする核酸分子を内包する工学的に処理した細胞を、遺伝子療法に使用できる。
【0067】
本発明のVIII因子分子は、当技術分野で既知の方法により修飾できる。VIII因子分子は、VIII因子の配列の全体またはそれの一部分のみを含むことができる。一例はBドメインを欠失したVIII因子分子により示される。BドメインはVIII因子の機能にとって欠如してもよく、したがって欠失してもVIII因子機能に影響はない。a2およびa3ドメインは通常はアミノ酸配列により連結しており、それは人工的な配列であってもよく、あるいはBドメイン自体からの配列であってもよい。VIII因子の安定性を高めるように、VIII因子分子をアミノ酸の付加および/または置換により修飾することができる;たとえば、A2ドメインの崩壊速度を低下させることによるか、あるいはタンパク質分解酵素に対するVIII因子の抵抗性を高めることによる。たとえば、FcRn受容体によるリサイクリングを高めるために抗体のFcガンマ部分にカップリングさせることにより、VIII因子分子を安定化させることができる。ポリエチレングリコール残基(PEG誘導体)または別の化学置換を用いて分解を低減することにより、VIII因子を安定化することができる。これらの修飾はすべて本発明の範囲内であるとみなされる。
【0068】
先行技術(Swaroop et al., The Journal of Biological Chemistry, vol 272, pp 24121-24124, 1997; Cerullo et al., Molecular Therapy, vol 15, pp 2080-2087, 2007)は、F309(SEQ ID 2)の変異がVIII因子構築体をトランスフェクションした細胞によるVIII因子分子の産生速度を高めることを確認した。Cerulloらは、このF309変異体で処理したVIII因子KOマウスにおいて阻害抗体の産生低下が有意ではないことを観察した;これは、そのような変異体をVIII因子免疫原性の低下のために使用することから当業者が遠ざかる教示をする。さらに、その先行技術にはF309がCD1d結合モチーフの一部分である可能性があることは述べられていない。
【0069】
本発明の医薬は、必ずしもそうではないが、通常は有効成分として少なくとも1種類の本発明のVIII因子分子、そのVIII因子分子を発現できる遺伝子療法ベクターを含む(医薬)配合物である。有効成分(単数または複数)のほかに、そのような配合物は少なくとも1種類の(医薬的に許容できる)希釈剤を含むであろう。医薬的に許容できる化合物は、たとえば薬局方ハンドブック(たとえば、米国、欧州または国際薬局方)中にある。本発明の医薬または医薬組成物は、普通は(予防または療法)有効量の有効成分(単数または複数)を含み、その際、有効性は予防または治療すべき状態または障害に対するものである。
【0070】
本発明の医薬または医薬組成物は、好ましい態様において、必要な対象に、その医薬または組成物の多数回投与を含む予防または療法計画の一部として投与することが必要な場合がある。そのような多数回投与は通常は連続的に行なわれ、2回の投与の間隔は変更でき、有効成分の性質および予防または治療すべき状態の性質に合わせて調整されるであろう。単回投与を必要とする対象に投与する有効成分の量も変更でき、その対象の身体状況(たとえば、体重および年齢)、予防または治療すべき状態の状況、ならびに処置する医師、内科医または看護士の経験などの要因に依存するであろう。
【0071】
用語“希釈剤”は、たとえば生理食塩水を表わす。用語“医薬的に許容できるキャリヤー”は、下記のために有効成分をそれと共に配合するいずれかの材料または物質を意味する;たとえばその組成物を溶解、分散もしくは拡散させることにより処置すべき部位への適用もしくは播種を容易にするために、および/またはそれの有効性を損なうことなく貯蔵、輸送もしくは取扱いを容易にするために。それらには、ありとあらゆる溶剤、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤(たとえば、フェノール、ソルビン酸、クロロブタノール)、等張化剤(たとえば、糖類または塩化ナトリウム)などが含まれる。組成物中の有効成分の作用持続時間を制御するために追加成分を含有させてもよい。医薬的に許容できるキャリヤーは固体もしくは液体、または圧縮して液体にした気体であってもよく、すなわち本発明の組成物は適切には濃縮液剤、乳剤、液剤、顆粒剤、散粉剤、スプレー剤、エアゾル剤、懸濁液剤、軟膏剤、クリーム剤、錠剤、ペレット剤または散剤として使用できる。それらの医薬組成物中に用いるのに適した医薬用キャリヤーおよびそれらの配合物は当業者に周知であり、本発明の範囲内でそれらの選択に対する特別な制限はない。それらは添加剤、たとえば湿潤剤、分散剤、展着剤、接着剤、乳化剤、溶剤、コーティング剤、抗細菌剤および抗真菌剤(たとえば、フェノール、ソルビン酸、クロロブタノール)、等張剤(たとえば、糖類または塩化ナトリウム)などをも含有することができる;ただし、それらが医療実施と調和する限りにおいてであり、すなわち哺乳動物に永続的な損傷を生じないキャリヤーおよび添加剤である。本発明の医薬組成物は、いずれか既知の様式で、たとえば有効成分を1工程または多工程で、選択したキャリヤー材料および適切な場合には界面活性剤など他の添加剤と均一に混合し、それらでコーティングし、および/またはそれらと共に粉砕することにより調製できる。それらは、有効成分の制御放出または持続放出のために、たとえばそれらを通常は約1〜10μmの直径をもつマイクロスフェアの形態で得るという観点で、すなわちマイクロカプセルの作成のために、微細化によっても調製できる。
【0072】
配合物は好都合には単位剤形で提供でき、医薬技術分野で周知のいずれかの方法で調製できる。
【実施例】
【0073】
本発明を具体的に説明するため以下の実施例を示す。ただし、本発明をそのような例に限定する意図はない。
【0074】
実施例1:
CD1dテトラマーへのペプチドSEQ ID 1の結合
SEQ ID 1を含むペプチドを化学合成により得た。このペプチドを、一夜のインキュベーションによりCD1dテトラマー(ProImmune)に装填するために用いた。
ナイーブマウスの脾臓から磁性ビーズを用いてすべてのCD4(−)細胞を除去することによりNKT細胞を調製した。
CD4+細胞を次いで、SEQ ID 1(図1のP28 WT)のペプチド(アミノ酸配列190−209に対応する)を装填したCD1dテトラマーと共にインキュベートした。
図1は、±1%のCD4+ T細胞が検出されたことを示す。さらに、SEQ ID 1を2部分に分け、配列190−200(SEQ ID 3,図1のP28 A)および200−210(SEQ ID 4,図1のP28 B)を含む合成ペプチドを調製した。
SEQ ID 3のペプチドの配列は、下記のとおりである:
QTLHKFILLFA(アミノ酸配列190−200に対応する)
SEQ ID 4のペプチドの配列は、下記のとおりである:
AVFDEGKSWHS(アミノ酸配列200−210に対応する)
この図は主要CD1d結合モチーフがSEQ ID 3に存在し、限られてはいるが有意%のNKT細胞がSEQ ID 4のペプチドによって検出されたことを示す。
したがって、主要CD1d結合モチーフはSEQ ID 3に存在すると結論された。
【0075】
実施例2:
SEQ ID 1のペプチドを装填したJAWS2細胞を用いる免疫化によるNKT細胞の活性化
JAWS2細胞はCD1dを発現するが、MHCクラスII決定基を発現しない。SEQ ID 1のペプチドの提示をCD1dにより行なうことができることを示すために、これらの細胞を用いた。
JAWS2細胞を37℃で2時間、SEQ ID 1のペプチド(10μg/ml)と共にインキュベートし、2回、十分に洗浄した。細胞を次いでマイトマイシンで処理して細胞分裂を遮断し、4回洗浄してマイトマイシンを除去した。生理的血清中に2×10個の細胞を含有する細胞懸濁液を、腹腔内経路により3匹のナイーブなVIII因子KOマウスのシリーズそれぞれに注射した。対照として、3匹のナイーブなVIII因子KOマウスに、SEQ ID 1のペプチドと共にインキュベートしていない同数のJAWS2細胞を投与した。
【0076】
腹腔内注射の5日後にマウスを屠殺し、それらの脾臓を前記に従って磁性ビーズを用いて調製して、すべてのCD4(−)細胞を除去した。
CD4+細胞を次いで、SEQ ID 1のペプチドを装填したテトラマーと共にインキュベートした。
図2は、天然レパトア内に存在するNKT細胞のうち有意割合(8%)がSEQ ID 1のペプチドに対して特異的であること、およびSEQ ID 1のペプチドがJAWS2細胞により提示されるとその割合が倍増すること(16%)を示す。
このNKT細胞検出の特異性は、非装填テトラマーおよびSEQ ID 1のペプチドとは関連のないペプチドを装填したテトラマーの場合にはNKTが検出されないことにより示される。
したがって、SEQ ID 1のペプチドの提示がCD1d提示により行なわれ、この提示はNKT細胞を結合して活性化するのに十分であると結論された。
【0077】
実施例3:
変異型VIII因子の投与はVIII因子に対する抗体の形成を低下させる
VIII因子中のCD1d結合モチーフを除去することを目的とした変異が抗VIII因子抗体の濃度を低下せることができるかどうかを判定するために、野生型または変異型VIII因子をプラスミドpGC5AM−EN中にクローニングした。オーバーラップ伸長によるスプライシングを用いるPCR(PCR and the splicing by overlap extension)(SOE−PCR)法を用いて、位置F309およびH315における変異(それぞれの場合、アラニンに)をVIII因子の配列に導入した。
天然配列または変異配列のいずれかを収容したプラスミドを配列決定により検査し、マキシプレップ(maxiprep)により調製した。
プラスミド(100μg,2ml中)をナイーブなVIII因子KO C57BL/6マウス(グループ当たり3匹)に動水圧法(hydrodynamic pressure method)(7秒以内で注入を行なった)により直接投与した;これはプラスミドを本質的に肝臓へ指向させることが当技術分野で知られている。対照マウスに同じ方法で、ただし無装填(naked)プラスミドを注入した(n=3)。
合計3回の注入を10日間隔で行なった。
最終注入の10日後、VIII因子に対する抗体の血漿濃度、およびVIII因子の機能を阻害する抗体の濃度を、それぞれELISAおよび発色アッセイ(chromogenic assay)により測定した。
図3は、VIII因子変異体F309A−H315Aを注入したマウスにおいて3.6倍の抗体減少がみられたことを示す。図3は、VIII因子の機能を阻害する抗体が3.6倍減少したことを示す。
これらのデータは、VIII因子の機能を阻害するものを含めて特異的抗体の濃度を有意に低下させるために、VIII因子分子中の単一のCD1d結合モチーフの除去で十分であることを示した。
【0078】
実施例4:
CD1d結合モチーフを含むペプチドと共にインキュベートした際のヒト抗原提示細胞におけるCD1dの発現増大
ヒト抗原提示細胞がCD1d分子に関連してペプチドエピトープをプロセシングして提示する能力をもつかどうかを判定するために、ヒトマクロファージ細胞系U937を用いた。その細胞はクラスII主要組織適合性複合体を発現しないので、CD1dによる提示を評価するために用いられる。
特異的な抗CD1d抗体で検出したCD1dを発現している休止期U937細胞の割合は低い。CD1dに結合できるようにする配列モチーフをもつペプチドと共にU937細胞をインキュベートすれば、これを細胞表面におけるCD1d発現の増大により検出できるはずであると推論した。MHCクラスIIエピトープを含むペプチドについて見られたように、ペプチドの結合によりその分子(クラスII、またはこの場合にはCD1d)のコンホメーションが安定化し、その複合体を細胞表面に繋ぎ留めることができ、それの細胞内リサイクリングが低下する。
U937細胞(7×10個)を37℃で24時間、5μgの、CD1d結合モチーフを含むペプチドまたは対照類と共にインキュベートした。細胞を次いで洗浄し、蛍光標識したCD1d特異的抗体と共にインキュベートし、FACSシステムを用いて陽性細胞の数を評価した。
図4は、CD1dを発現する細胞の割合が、対照実験における6%から、CD1d結合配列を含むペプチドを用いた場合の13%に増加することを示す。ヒストグラムとして示したデータは3回測定の平均であり、星印は対照値より有意に高い結果を示す(p<0.05)。
対照は(左から右へ)、非装填U937、アルファ−gal−セラミドと共にインキュベートした細胞、および一般的なクラスII限定エピトープ(MHCII−MOG)を含む。この実験は、VIII因子配列のアミノ酸188−204に対応するヒト由来(ID SEQ 5)またはマウス由来(ID SEQ 6)VIII因子の配列を含む。
したがって、ヒト抗原提示細胞はそのペプチドと共にインキュベートした際に、ペプチドと細胞の表面にあるCD1dとの複合体を安定化すると結論される。
【0079】
実施例5:
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)はCD1d結合ペプチドエピトープに対して特異的なNKT細胞を含む
ヒトPBMCがCD1d結合ペプチドエピトープと反応する細胞を含有するかどうかを確認するために、T細胞受容体のValpha24−Jalpha18鎖(いわゆるインバリアント鎖)に対して特異的な抗体でコートした磁性ビーズを用いて、インバリアントNKT(iNKT)細胞をバフィーコートから調製した。
次いでこのヒトiNKT細胞(10/条件)を、ヒトVIII因子のアミノ酸残基188−204を含むペプチド(ID SEQ 5)または対照ペプチド(MHCII−MOG)のいずれかを5μg装填したマイトマイシン−C処理U937細胞(比率1:1)と共にインキュベートした。インキュベーションを37℃で2週間、10%のウシ胎仔血清および50U/mlのヒト組換えIL−2を含有するRPMI中で実施した。
培養プレートを細胞クラスターの存在について目視検査した。ID SEQ 5のペプチドを装填したU937を用いるとアルファ−gal−セラミドを装填したものと同程度に細胞クランプが生成したが、対照ペプチド(MHCII−MOG)では生成しなかったことが認められる。図5は、この所見の3つの顕微鏡視野のカウントの平均を示す(最低10個の細胞/クラスター)。
したがって、ヒト末梢血レパトアは、CD1dにより提示されるペプチドと反応するインバリアント鎖NKT細胞として規定される細胞を含有すると結論される。
【0080】
実施例6:
CD1d結合裂溝の外側に存在するフランキング残基が効果的な細胞表面提示のために重要である
実施例1に示した実験は、ヒトVIII因子アミノ酸190−200に対応するSEQ ID 3のペプチドがCD1dテトラマーに結合し、NKT細胞の検出を可能にすることを示す;これは、この配列がCD1dに対する最小結合モチーフを含んでいたことの指標となる。このモチーフが細胞による効果的な提示に十分であるかどうかを判定するために、実施例4に報告した実験をSEQ ID 3について繰り返した。
図6は、SEQ ID 3のペプチドが、図4に示したSEQ ID 5のペプチドと対照的に、U937細胞の表面におけるCD1dの発現を増大させなかったことを示す。
したがって、CD1d結合モチーフを含むペプチドの効果的なインビボ装填にはCD1d裂溝の外側にあるフランキング領域の存在が必要であると結論される。
【0081】
実施例7:
CD1d結合VIII因子エピトープに対して特異的なNKT細胞はCD4+およびCD8+の両系列に属する
NKT細胞が属する系列を判定するために、実施例2に記載した実験を行なった。そこで、JAWS2細胞にSEQ ID 3、Bドメイン欠失VIII因子、アルファ−gal−セラミドを装填した後、あるいは装填しないままで、VIII因子KOマウスに腹腔内(IP)注射した(細胞2×10個/マウス)。腹腔内注射の5日後、マウスを屠殺し、脾臓細胞を調製した。次いで細胞懸濁液を、SEQ ID3またはアルファ−gal−セラミドを装填しない、または装填した、CD1dテトラマーと反応させた。
faccs分析のために、CD1dテトラマーを結合する細胞を、DX5−およびCD160−特異的抗体ならびに抗CD4または抗CD8抗体で標識した。表にその結果をまとめる。
【0082】
【表1】
【0083】
これらの実験は下記のことを示す:
・ NKT細胞の天然レパトアは、ID SEQ 3のペプチドに反応する有意数のCD4+およびCD8+両系列の細胞を含有する(列3)
・ ID SEQ 3のペプチドで免疫化することにより、この細胞集団をさらに拡張できる;この場合もCD4+およびCD8+の両系列(列6)
・ VIII因子による免疫化は、これらの細胞集団を拡張するのにさらにいっそう効果的である(列9)
・ アルファ−gal−セラミドによる免疫化は、ID SEQ 3のペプチドに対して特異的なCD4+ T細胞の数をわずかに増加させるが、CD8+ T細胞の数は増加させない
合わせると、これらの結果はVIII因子による免疫化がCD4+およびCD8+両方の表現型のNKT系列に属する細胞の拡張を誘発することを示す。
【0084】
配列
ID1 QTLHKFILLFAVFDEGKSWH(ヒト190−209)
ID2 FCHISSHQHDGMEAY(ヒト309−323)
ID3 QTLHKFILLFA(ヒト190−200)
ID4 AVFDEGKSWHS(ヒト200−210)
ID5 KTQTLHKFILLFAVFDE(ヒト188−204)
ID6 RTQMLYQFVLLFAVFDE(マウス188−204)
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]