【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「未来医療を実現する先端医療機器・システムの研究開発/先端医療機器の開発/高い安全性と更なる低侵襲化及び高難度治療を可能にする軟性内視鏡手術システムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら、実施形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。尚、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるものであり、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0011】
(本開示の一形態を得るに至った経緯)
内視鏡を用いた手術では、蛍光物質であるインドシアニングリーン(ICG:Indocyamine Green)を体内に投与し、過剰に集積した腫瘍等の部位(患部)に近赤外光を当てて患部を光らせ、患部を含む部位を撮像することがある。ICGは、励起光で励起すると、より長波長の光で蛍光発光する。
【0012】
励起光に対して、蛍光された光の強度は弱く、励起光の光強度を100とすると、蛍光の光強度は5〜6程度である。また、LEDによる照射光の波長帯域は広く、励起光の波長帯と蛍光の波長帯とが近い場合、LEDによる照射光の波長帯域と蛍光の波長帯域とが重複することがある。このため、励起光により蛍光の観察を阻害しないように、イメージセンサの前にIR励起光カットフィルタを設けることが多い。
【0013】
図13は、IR励起光カットフィルタを設けた場合と設けない場合とで得られる被写体からの蛍光発光の光強度を示すグラフである。
図13では、グラフgh1は、IR励起光カットフィルタを設けない場合の光強度を示す。グラフgh2は、IR励起光カットフィルタを設けた場合の光強度を示す。IR励起光カットフィルタは、例えば波長665nm〜840nmにおいて透過率が1%以下となる仕様を有する。
【0014】
IR励起光カットフィルタを設けた場合、IR励起光カットフィルタが遮断する波長帯域の一部に、蛍光の波長帯域が含まれることがある。
図13では、蛍光発光の帯域が830nm〜900nmに対し、835nm〜865nmの帯域(図中、点線枠Ra参照)で、IR励起光カットフィルタを設けた場合には、蛍光発光の光量が下がっている。このように、IR励起光カットフィルタを設けることで、蛍光の光強度が一層弱くなることがある。また、IR励起光カットフィルタが励起光を吸収する波長帯の信号を遮断するので、LEDの励起光を基に発光する蛍光発光も弱くなることがある。
【0015】
そこで、LEDでなくレーザダイオード(LD)による照射光を用いる場合、LDによる照射光の波長帯域は、LEDによる照射光の波長帯域よりも狭い。
【0016】
一方、LEDによる照射光の波長帯域として、750nmに限らず、様々な波長帯域が用いられることがあり、蛍光の波長帯域も845nmに限らず、様々な波長帯域となることもある。これは、ICG等の薬品の濃度や被写体となる患者の体調に応じて、励起光に対する蛍光発光の態様が異なるからである。
【0017】
従って、狭帯域のLDの励起光を用いる場合、被検体(被写体)によっては、LDの励起光が蛍光発光に適した波長帯域からずれ、蛍光発光が不十分となり、蛍光観察が困難となる場合がある。
【0018】
以下では、被写体による蛍光発光の光強度の低減を抑制でき、蛍光観察の精度を向上できる内視鏡システム及び蛍光観察方法について説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
[構成等]
図1は、第1の実施形態における内視鏡システム5の外観例を示す斜視図である。ここで用いられる用語として、水平面に置かれたビデオプロセッサ30の上方向と下方向をそれぞれ「上」、「下」と称する。また、内視鏡10が観察対象を撮像する側を「前(先)」と称し、ビデオプロセッサ30に接続される側を「後」と称する。
【0020】
内視鏡システム5は、内視鏡10と、ビデオプロセッサ30、及びモニタ40を含んで構成される。内視鏡10は、医療用の例えば軟性鏡である。ビデオプロセッサ30は、観察対象(ここでは、人体や人体内部)を撮像することで得られた撮像画像(静止画及び動画を含む)に対し、画像処理する。モニタ40は、ビデオプロセッサ30から出力される表示信号に従って、画像を表示する。画像処理は、例えば、色補正、階調補正、ゲイン調整を含む。
【0021】
内視鏡10は、観察対象(被写体)を撮像する。内視鏡10は、観察対象の内部に挿入されるスコープ13と、スコープ13の後端部が接続されるプラグ部16と、を備える。また、スコープ13は、比較的長い可撓性を有する軟性部11と、軟性部11の先端に設けられた剛性を有する硬性部12と、を含んで構成される。スコープ13の構造については後述する。
【0022】
ビデオプロセッサ30は、筐体30zを有し、撮像画像に対し画像処理し、画像処理後の表示信号を出力する。筐体30zの前面には、プラグ部16の基端部16zが挿入されるソケット部30yが配置される。プラグ部16がソケット部30yに挿入され、内視鏡10とビデオプロセッサ30とが接続されることで、内視鏡10とビデオプロセッサ30との間で電力及び各種信号(例えば映像信号、制御信号)の送受信が可能となる。これらの電力及び各種信号は、スコープ13の内部に挿通された伝送ケーブル(図示せず)を介して、プラグ部16から軟性部11側に導かれる。また、硬性部12の内側に設けられたイメージセンサ22(固体撮像素子)(
図2参照)から出力される画像信号は、伝送ケーブルを介して、プラグ部16からビデオプロセッサ30に伝送される。また、軟性部11は、内視鏡10の操作部(不図示)への入力操作に応じて、可動(例えば屈曲)する。
【0023】
ビデオプロセッサ30は、伝送ケーブルを介して伝送された画像信号に対し、画像処理を施し、画像処理後の画像データを表示信号に変換して、モニタ40に出力する。
【0024】
モニタ40は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)等の表示デバイスを有する。モニタ40は、内視鏡10によって撮像された被写体の画像を表示する。
【0025】
図2は、スコープ13の先端に設けられた硬性部12の内部構造を示す模式図である。硬性部12の先端面には、撮像窓12zが配置される。撮像窓12zは、光学ガラスや光学プラスチック等の光学材料を含んで形成され、被写体からの光を入射する。
【0026】
硬性部12の先端面には、IR励起光源33(
図4参照)からのIR(InfraRed)励起光を伝送する複数(ここでは2本)の光ファイバ27A,27Bの先端が露出する照射窓27zが配置される。光ファイバ27A,27Bから、後述するように、2つの波長(例えば780nm,808nm)を有するレーザ光が出射される。硬性部12の先端面には、可視光源34(
図4参照)からの可視光を伝送する光ファイバ28の先端が露出する照射窓28z,28yが配置される。
【0027】
尚、IR励起光源33から出射される、波長の異なるレーザ光の数や光ファイバの数は、3つ以上であってもよく、LD及び光ファイバがスコープ13内に収容可能である限り、特に限定されない。
【0028】
硬性部12の内側には、撮像窓12z側からレンズ24、IR励起光カットフィルタ23、イメージセンサ22及び第1駆動回路21(
図4参照)が配置される。なお、イメージセンサ22及び第1駆動回路21は、センサユニットSU(
図4参照)を構成する。また、レンズ24の数は単数に限らず複数でもよい。
【0029】
撮像窓12zから入射した光(蛍光発光の光、可視光)は、レンズ24によって集光され、IR励起光カットフィルタ23を透過した後、イメージセンサ22の撮像面に結像する。また、スコープ13の硬性部12の内側に配置されるイメージセンサ22の大きさ(径方向の長さ)は10mm以下であるので、イメージセンサ22を内視鏡に適用可能である。
【0030】
本実施形態では、780nm、808nmの波長を有するレーザ光は主に例示するが、750nm〜810nm内の他の波長を有するレーザ光が用いられてもよい。例えば、760nm、785nm、792nmのレーザ光が用いられてもよい。
【0031】
また、複数の励起光の波長の差は、所定値(20nm)以上とされてもよい。つまり、第1の励起光の波長と第2の励起光の波長との差が20nm以上離れていることで、内視鏡システム5は、蛍光発光に適した励起光の波長帯域(750nm〜810nm)を広くカバーできる。この場合、蛍光発光に殆ど寄与しない波長帯域に2本のレーザ光が偏ってしまうことによる、蛍光発光の光量不足が起きにくくなる。
【0032】
図3は、イメージセンサ22の構造を説明する模式図である。イメージセンサ22は、例えば、イメージセンサ22の前面に、赤外光(IR)、赤色(R)、青色(B)及び緑色(G)の波長の光をそれぞれ透過させる色フィルタ22zがベイヤ配列で配置されている。イメージセンサ22は、例えば、各波長の光を受光するIR用画素、赤色用画素、青色用画素、及び緑色用画素が複数配列されたた構造を有する撮像素子である。
【0033】
イメージセンサ22は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子である。イメージセンサ22は、例えば、赤外光、赤色光、青色光及び緑色光を同時に受光可能な単板式カメラとして用いられる。
【0034】
図4は、内視鏡システム5のハードウェア構成例を示すブロック図である。内視鏡10は、前述したように、スコープ13の硬性部12の内側に設けられた、レンズ24、IR励起光カットフィルタ23、イメージセンサ22、及び第1駆動回路21を備える。また、内視鏡10は、スコープ13の内側に挿通され、プラグ部16の基端部16zから硬性部12の先端面まで延びた光ファイバ27A,27B,28を備える。
【0035】
第1駆動回路21は、駆動部として動作し、イメージセンサ22の電子シャッタをオンオフする。イメージセンサ22は、第1駆動回路21によって電子シャッタがオンにされた場合、撮像面に結像した光学像を光電変換し、画像信号を出力する。光電変換では、光学像の露光及び画像信号の生成や読出しが行われる。
【0036】
IR励起光カットフィルタ23は、イメージセンサ22の前側(受光側)に配置され、レンズ24を通る光のうち、被写体で反射されたIR励起光を遮光し、IR励起光による蛍光発光の光及び可視光を透過させる。
【0037】
図5は、IR励起光カットフィルタ23の特性を示すグラフである。図中、符号a1は、IR励起光カットフィルタ23の特性を示す。観察対象である人体内には、蛍光物質(有機蛍光色素)であるICGが投与され、被写体である患部にICGが集積する。ICGは、IR励起光で励起すると、より長波長の光で蛍光発光する。IR励起光の波長は、例えば780nm,808nmである。IR励起光カットフィルタ23は、690nm〜810nmの波長を有する光に対し、透過率0.1%以下(例えば0.01%以下)となる特性を有する。よって、780nm,808nmの波長を有するIR励起光を遮断する。
【0038】
従って、IR励起光カットフィルタ23では、830nm付近の波長を有する蛍光発光の光の透過率が高く、780nm,808nmの波長を有するIR励起光の透過率がほぼ0%であり、透過率が低い。また、例えば380nm〜690nmの波長を有する可視光の透過率が高い。
【0039】
よって、IR励起光カットフィルタ23では、入射するIR光のうち、被写体で反射されたIR励起光(波長が780nm,808nm)を含む周波数帯の光成分が遮断され、IR励起光による蛍光発光の光(830nm付近)を含む周波数帯の光成分が透過する。このように、IR励起光カットフィルタ23は、IR励起光のうち、蛍光発光に寄与しない、被写体で反射されたIR励起光を遮断する。
【0040】
図4に示すように、ビデオプロセッサ30は、コントローラ31、第2駆動回路32、IR励起光源33、可視光源34、イメージプロセッサ35、及びディスプレイプロセッサ36を備える。
【0041】
コントローラ31は、撮像動作を統括的に制御する。コントローラ31は、第2駆動回路32に対して発光制御し、内視鏡10内の第1駆動回路21に対して駆動制御する。
【0042】
第2駆動回路32は、例えば光源駆動回路であり、IR励起光源33を駆動し、IR励起光を連続発光させる。IR励起光源33は、撮像期間において、継続して点灯(連続点灯)し、IR励起光を被写体に連続して照射する。
【0043】
この撮像期間は、観察部位を内視鏡10で撮像する期間を示す。撮像期間は、例えば、内視鏡システム5が、ビデオプロセッサ30又は内視鏡10に設けられたスイッチをオンにするユーザ操作を受け付けてから、オフにするユーザ操作を受け付けるまでの期間である。
【0044】
また、第2駆動回路32は、IR励起光源33を駆動し、IR励起光を所定間隔でパルス発光させてもよい。この場合、IR励起光源33は、撮像期間において、断続的に点灯(パルス点灯)し、IR励起光を被写体にパルス照射する。尚、撮像期間において、IR励起光が発光され、可視光が発光されないタイミングが、蛍光発光画像を撮像するタイミングとなる。
【0045】
IR励起光源33は、LD25A,25B(
図6参照)を有し、LD25A,25Bから光ファイバ27A,27Bをそれぞれ通った、780nm,808nmの各波長を有するレーザ光(IR励起光)を出射する。尚、前述したように、ICG等の薬品の濃度や被写体となる患者の体調に応じて蛍光発光の態様が変わるので、780nm,808nmの波長を有するレーザ光は、同時に出射されることが好ましい。
【0046】
第2駆動回路32は、可視光源34を駆動し、可視光(白色光)をパルス発光させる。可視光源34は、撮像期間において、可視光画像を撮像するタイミングで、可視光を被写体にパルス照射する。尚、一般に、蛍光発光の光は微弱な明るさである。一方、可視光は短いパルスでも強い光が得られる。
【0047】
イメージプロセッサ35は、イメージセンサ22から交互に出力される蛍光発光画像と可視光画像とに対して画像処理し、画像処理後の画像データを出力する。
【0048】
例えば、イメージプロセッサ35は、蛍光発光画像の輝度が可視光画像の輝度と比べて低い場合、蛍光発光画像のゲインを上げるように、ゲインコントローラとして、ゲイン調整する。イメージプロセッサ35は、蛍光発光画像のゲインを上げる代わりに、可視光画像のゲインを下げることで、ゲイン調整してもよい。イメージプロセッサ35は、蛍光発光画像のゲインを上げ、且つ、可視光画像のゲインを下げることで、ゲイン調整してもよい。イメージプロセッサ35は、蛍光発光画像のゲインを可視光画像よりも大きく上げ、且つ、可視光画像のゲインを上げることで、ゲイン調整してもよい。
【0049】
ディスプレイプロセッサ36は、イメージプロセッサ35から出力される画像データを、映像表示に適したNTSC(National Television System Committee)信号等の表示信号に変換し、モニタ40に出力する。
【0050】
モニタ40は、ディスプレイプロセッサ36から出力される表示信号に従い、蛍光発光画像と可視光画像とを、例えば同一の領域に表示する。これにより、ユーザは、モニタ40に表示された蛍光発光画像と可視光画像とを見ながら、観察対象を確認できる。
【0051】
図6は、IR励起光源33の構造の概略を示す図である。IR励起光源33は、LD25A,25B及び放熱筐体29を有する。放熱筐体29は、例えば、アルミニウム、銅、又は窒化アルミニウムを含んで形成される。放熱筐体29には、貫通孔29z,29yが形成される。
【0052】
貫通孔29z,29yの一方には、それぞれ光ファイバ27A,27Bが挿通される。貫通孔29z,29yの他方には、それぞれLD25A,25Bが係合される。各貫通孔29z,29yでは、それぞれLD25A,25Bから出射されたレーザ光が光ファイバ27A,27Bの入射面に入射し、光ファイバ27A,27Bを通って内視鏡10の出射面としての照射窓27zに導かれる。
【0053】
また、LD25A,25Bは、各貫通孔29z,29yの開口部近傍で熱的に放熱筐体29と接触している。各LD25A,25Bが発光時に発する熱は、放熱筐体29に伝わり、効率良く放熱される。これにより、LD25A,25Bの温度変化が少なくなり、レーザ光の波長ずれや発光量の変動を抑制できる。従って、内視鏡システム5は、安定したレーザ光によるIR励起光を得ることができる。
【0054】
[動作等]
次に、内視鏡システム5の動作例を示す。
【0055】
図7は、被写体TGに励起光を照射して蛍光発光させ、被写体TGからの蛍光を受光する流れを説明する図である。
【0056】
可視光源34から例えば400nm〜700nmの波長を有する可視光(RGB光)と、IR励起光源33から例えば780nm,808nmの波長を有する励起光(IR光)とが、被写体TGに向けて照射される場合を想定する。尚、780nm,808nmの波長を有する励起光は一例であり、蛍光発光に適した励起光の波長帯域に含まれる限り、他の波長を有する励起光であってもよい。また、励起光は3つ以上でもよい。
【0057】
可視光は、被写体TGで反射され、IR励起光カットフィルタ23を通ってイメージセンサ22で受光される。IR励起光カットフィルタ23は、前述したように、690nm〜810nmの波長を有する光の透過を遮断する。従って、被写体TGで反射された可視光は、例えば690nm〜700nmの帯域の光が一部カットされるだけで、多くの可視光がセンサユニットSU内のイメージセンサ22で受光される。
【0058】
一方、本実施形態で用いられるICGをIR励起光で励起すると、830nm〜900nm(例えば830nm)の波長の光で蛍光発光する。被写体TGからのIR光は、被写体で反射された励起光(750nm〜810nm、例えば780nm,808nmの波長)と、被写体で発光する蛍光(830nm〜900nm)と、を含む。IR励起光カットフィルタ23を透過すると、IR光のうち、750nm〜810nmの波長を有する光の透過が遮断され、830nm〜900nmの波長を有する蛍光がセンサユニットSU内のイメージセンサ22で受光される。
【0059】
図8は、励起光(LED光、レーザ光)とICG透過光の特性の一例を示すグラフである。
図9は、
図8の場合のLED光の光量を増大し、そのピーク値がレーザ光と同程度である場合における、励起光とICG透過光の特性を示すグラフである。グラフの縦軸は光量(フォトン数)を表し、横軸は波長(nm)を表す。
【0060】
図8,
図9では、波長760nmのLED光を用いた測定結果と波長823nmのレーザ光を用いた測定結果とは、比較例として示されている。ここでのLED光は、本実施形態の狭帯域の条件を満たさず、波長823nmのレーザ光は、本実施形態の励起光の波長の範囲の条件を満たしていない。
【0061】
図8及び
図9の結果を得るための測定時には、IR励起光源33から出射されたLED光及びレーザ光が、被写体TGに投与されるICG溶液51を介して、イメージセンサ22に受光されている(
図11参照)。ここでは、ICG溶液51を介する(透過する)光を、ICG透過光とも称する。イメージセンサ22は、IR励起光源33から出射される励起光を基に、被写体TGを介してICG透過光を受光する。イメージセンサ22の受光量はフォトン数に相当する。
【0062】
図8及び
図9では、励起光には、LED光とレーザ光とが用いられている。LED光は、広帯域の光であり、そのピーク値は比較的小さく、
図8では例えば1200カウント(CTS)である。一方、レーザ光は、狭帯域の光であり、そのピーク値は極めて大きく、例えば60000CTS以上である。
【0063】
図8に示すように、励起光として、波長760nmのLED光を用いた場合、波長760nmをピークとする広帯域のLED光g11が被写体TGに照射される。この照射により、被写体TGから波長850nmをピーク値とするような蛍光f11が発光する。
【0064】
尚、波長750nm〜810nm(LED光の波形の略右半分に係る波長)を有する光が蛍光発光に寄与するためにICG溶液51に吸収され、この波長帯域の光検出量が減少している。また、LED光はレーザ光と比較すると光強度が小さいので、LED光により得られる蛍光発光の光強度も、レーザ光により得られる蛍光発光の光強度より小さくなる。
【0065】
また、励起光として、波長780nmを有するレーザ光g12を用いた場合、波長780nmをピークとする狭帯域のレーザ光g12が被写体TGに照射される。この照射により、被写体から波長850nmをピーク値とするような蛍光f12が、LED光の場合と比べてやや多く発光する。
【0066】
また、励起光として、波長808nmを有するレーザ光g13を用いた場合、波長808nmをピークとする狭帯域のレーザ光g13が被写体TGに照射される。この照射により、被写体から波長840nmをピーク値とする蛍光f13が、LED光の場合と比べて大量に発光する。
【0067】
また、励起光として、波長823nmを有するレーザ光g14を用いた場合、波長823nmを有する光は蛍光発光のほとんど寄与しないため、被写体TGからの蛍光f14は、ほとんどなく、蛍光発光していない。
【0068】
図9では、励起光に対するICG透過光の特性は、LED光の光量を増やした点を除き、
図8と同じである。
図9では、
図8との縦軸のスケールの違いにより視認し難くなっているが、LED光による励起光の光量が増えた分、被写体TGから発光した蛍光f11の光量も多くなる。
【0069】
図10は、LED光の半値幅とレーザ光の半値幅との比較を示す図である。
図10の結果を得るための測定時には、IR励起光源33から出射されたLED光及びレーザ光が、被写体TGに投与されるICG溶液51を介さずに、イメージセンサ22に受光されている(
図12参照)。尚、
図10では、
図8及び
図9と同様に、波長760nmのLED光を用いた測定結果と波長823nmのレーザ光を用いた測定結果とは、比較例として示されている。
【0070】
各信号において、ピーク波形の鋭さを示す指標として、例えば半値幅が用いられる。LED光として、波長760nmをピークとして持つ広帯域の光が例示されている。このLED光の半値幅hw1は、25nmである。
【0071】
一方、レーザ光として、波長780nm,808nm,823nmをピークとして持つ狭帯域の光が例示されている。波長780nmのレーザ光の半値幅hw2は、2.5nmである。波長808nmのレーザ光の半値幅hw3は、2.6nmである。比較例である、波長823nmのレーザ光の半値幅hw3は、2.0nmである。このように、レーザ光の半値幅は、LED光の半値幅の1/10程度である。
【0072】
このように、レーザ光が、被写体TGを蛍光発光させる波長領域に含まれる光である場合、被写体から多くの蛍光発光が得られる。一方、レーザ光が、蛍光発光させる波長領域に含まれない光である場合、被写体からの蛍光発光はほとんど得られない可能性がある。例えば、比較例で示した波長823nmの励起光は、蛍光発光にほとんど寄与していない(
図8の被写体からの蛍光f14参照)。一方、波長808nmの励起光は、波長840nmをピーク波長とする多くの蛍光発光に寄与する(
図8の被写体からの蛍光f13参照)。
【0073】
尚、被写体TGの体質、部位、健康状態等によって、励起光の波長帯域がずれるので、必ずしも励起光としての波長808nmを有するレーザ光を基に、十分な蛍光発光が得られるとは限らない。このため、少なくとも2つの異なる波長(例えば、780nmと808nm)を有するレーザ光を励起光とすることで、いずれかの励起光が蛍光発光に寄与する可能性が高くなり、被写体からの蛍光の光量が多くなる可能性が高くなる。励起光の数を増やすと、更に被写体からの蛍光の光量が多くなる可能性が高くなる。
【0074】
[効果等]
このように、本実施形態の内視鏡システム5では、IR励起光源33(非可視光光源)は、被写体(被検体)に対して、半値幅が10nm以下で780nmの波長を有するレーザ光(非可視光帯域の第1の波長を有する第1の励起光の一例)と、半値幅が10nm以下で808nmの波長を有するレーザ光(第1の波長と異なる非可視光帯域の第2の波長を有する第2の励起光の一例)と、を出射する。イメージセンサ22は、780nmの波長を有するレーザ光及び808nmの波長を有するレーザ光の少なくとも一方に励起されて、蛍光発光した被写体を含む画像を生成する。モニタ40(出力デバイスの一例)は、生成された画像を出力する。
【0075】
これにより、励起光の波長帯域を半値幅が10nm以下となるような狭帯域とすることで、蛍光発光の波長帯域に励起光の成分が存在し難くなる。従って、内視鏡システム5は、励起光により蛍光発光の観察が阻害されることを抑制できる。よって、内視鏡システム5は、複数の異なる狭帯域の励起光を用いて被写体を蛍光観察でき、蛍光観察の精度を向上できる。また、内視鏡システム5は、複数の波長を有する励起光を使うので、蛍光発光に適した波長帯域を外さないで、蛍光発光を発し易くできる。
【0076】
また、IR励起光源33は、780nmの波長を有するレーザ光を出射するLD25Aと、808nmの波長を有するレーザ光を出射するLD25Bと、を有してもよい。
【0077】
これにより、内視鏡システム5は、複数の光源とすることで、780nmの波長を有するレーザ光と808nmの波長を有するレーザ光のそれぞれの光強度を増大できる。よって、内視鏡システム5は、蛍光発光の光強度を大きくでき、蛍光観察し易くなる。また、内視鏡システム5は、780nmの波長を有するレーザ光と808nmの波長を有するレーザ光の光量をそれぞれ独立に調整可能であり、蛍光発光に適した各光量値に設定することで、蛍光発光の効率を高めることができる。
【0078】
また、非可視光光源は、レーザダイオードであってもよい。
【0079】
これにより、内視鏡システム5は、励起光の光強度を大きくでき、蛍光発光の光強度を増大できる。よって、被検体を蛍光観察し易くなる。また、内視鏡システム5は、励起光の光強度が大きくなるので、イメージセンサ22の大きさを小さくでき、内視鏡10の先端部のサイズを小さくできる。従って、内視鏡システム5は、被検体である患者への侵襲を低減できる。
【0080】
また、内視鏡システム5は、イメージセンサ22の入射側に配置され、780nmの波長を有するレーザ光と808nmの波長を有するレーザ光を遮断するIR励起光カットフィルタ23(光学フィルタの一例)を備えてもよい。IR励起光カットフィルタ23は、690nm〜810nmの波長において、透過率が0.1%以下となる特性を有してもよい。
【0081】
これにより、内視鏡システム5は、810nmよりも長い波長を有する蛍光発光を遮断せずに、780nmの波長を有するレーザ光、及び808nmの波長を有するレーザ光を遮断できる。よって、ユーザは、被検体の蛍光発光を一層鮮明に観察できる。
【0082】
また、内視鏡システム5では、ICGを用いて被写体TGを蛍光発光させてもよい。これにより、内視鏡システム5は、蛍光発光に用いられる汎用品を使用するので、安価に蛍光観察できる。
【0083】
また、780nmの波長を有するレーザ光及び808nmの波長を有するレーザ光は、蛍光発光に適した励起光の波長帯域750nm〜810nm内の波長を有してもよい。また、これらのレーザ光の波長の差は、20nm以上(所定値以上の一例)でもよい。
【0084】
このように、第1の励起光の波長と第2の励起光の波長との差が20nm以上離れていることで、内視鏡システム5は、蛍光発光に適した励起光の波長帯域(750nm〜810nm)を広くカバーできる。従って、内視鏡システム5は、蛍光発光に殆ど寄与しない波長帯域に2本のレーザ光が偏在することによる、蛍光発光の光量不足の発生を抑制できる。
【0085】
また、イメージセンサ22は、内視鏡10の先端部(スコープ13の先端部)に配置されてもよい。
【0086】
これにより、内視鏡システム5は、従来の内視鏡システムでの、リレーレンズや光ファイバにより手元のカメラまで光を導く方法に比べ、イメージセンサ22に入射する蛍光発光の光強度の低減を抑制し、蛍光の受光量が多くできるので、同じ受光量を得るためのイメージセンサ22のサイズを小さくすることもできる。この場合、内視鏡システム5は、蛍光観察の精度を一層向上できる。
【0087】
また、リレーレンズを用いると、蛍光観察装置に柔軟性を持たせる事ができないと言う課題に対し、センサ配置部より後ろ側に軟性部11を設けることが出来る。これにより、内視鏡システム5に内蔵されたカメラユニットを、観察部位に近接、或いは所望の方向に向けることもできる。
【0088】
また、イメージセンサ22の大きさ、つまり、スコープ13内に配置されるイメージセンサ22の径方向の長さは、10mm以下でもよい。
【0089】
これにより、内視鏡システム5は、イメージセンサ22を内視鏡10に適用できる。また、イメージセンサ22の大きさを10mm以下としても、内視鏡システム5は、レーザ光等の強度の大きい光により励起される蛍光発光を観察することで、蛍光観察の精度を確保できる。
【0090】
また、内視鏡システム5は、被写体に対して可視光を発光する可視光源34(可視光光源の一例)を備えてもよい。イメージセンサ22は、可視光を用いた第1の光電変換により、被写体を含む第1の画像を生成し、非可視光を用いた第2の光電変換により、被写体を含む第2の画像を生成してもよい。
【0091】
これにより、内視鏡システム5は、被検体が体内のような暗所であっても、蛍光発光部分とともに、可視光を用いて被検体の全体を観察できる。
【0092】
尚、本実施形態は、装置(内視鏡、内視鏡システム)のカテゴリーだけでなく、他のカテゴリー(例えば方法(蛍光観察方法))にも適用可能である。
【0093】
以上、図面を参照しながら実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0094】
第1の実施形態では、内視鏡10がIR励起光カットフィルタ23を備えることを例示したが、IR励起光カットフィルタ23が省略されてもよい。
【0095】
第1の実施形態では、IR励起光を出射する光源として、LD25A,26Bという別体の光源を例示したが、一体の光源でもよい。つまり、1つの光源が、複数の異なるIR励起光を出射してもよい。
【0096】
第1の実施形態では、2つの波長(780nm,808nm)を有する複数レーザ光を一例として挙げたが、複数レーザ光の光強度(光量)配分は、任意に設定可能である。複数レーザ光の光量配分は、例えばコントローラ31により行われる。従って、内視鏡システム5は、被写体の体質、部位、健康状態等によってピーク位置が変化する蛍光に対し、それぞれ適切な光量の励起光を被写体に照射可能である。
【0097】
第1の実施形態では、複数のLDからそれぞれ出射される、各レーザ光によって狭帯域の励起光を得ることを例示した。尚、内視鏡システム5は、LEDから出射される広帯域の光(LED光)から分光フィルタによって特定波長の光を抽出し、狭帯域(例えば半値幅が10nm以下)の励起光を得てもよい。LED光は、増幅器等で増幅されてもよい。また、内視鏡システム5は、少なくとも1つのLDから出射されるレーザ光と、分光フィルタによってLED光から抽出された特定波長の光とを組み合わせて、複数の狭帯域の励起光を得るようにしてもよい。これにより、内視鏡システム5は、少ない数のLDであっても、多様な波長を有する狭帯域の励起光を容易に得ることができる。
【0098】
第1の実施形態では、生体内に光造影剤としてICGを投与することを例示したが、ICG以外の光造影剤が投与されてもよい。この場合、光造影剤を励起するための励起光の波長に応じて、非可視光の波長領域における分光特性を定めてもよい。この場合、IR励起光カットフィルタ23は、
図5に示した特性以外の特性を有してもよい。
【0099】
第1の実施形態では、内視鏡10が軟性部11を有する軟性内視鏡であることを例示したが、他の特性の内視鏡であってもよい。例えば、内視鏡10が、軟性部11を有しない硬性内視鏡であってもよい。
【0100】
第1の実施形態では、赤外光の波長領域において蛍光発光する薬品を用いたが、紫外光の波長領域において蛍光発光する薬品を用いてもよい。紫外光を用いた場合でも、近赤外域で蛍光発光する光造影剤を用いた場合と同様に、内視鏡10は、蛍光発光された患部の画像を撮像できる。
【0101】
第1の実施形態では、出力デバイスとして、蛍光発光画像及び可視光画像を画面に表示可能なモニタを示したが、モニタに限らない。出力デバイスは、蛍光発光画像及び可視光画像を印刷可能なプリンタ、蛍光発光画像及び可視光画像の各画像信号を出力可能な信号出力装置、蛍光発光画像及び可視光画像の各画像データを記録媒体に記憶可能な記憶装置、等であってもよい。
【0102】
第1の実施形態では、モニタ40は、
図8、
図9、
図10に示した各グラフを表示可能であってもよい。この場合、縦軸の光量(フォトン数)は、通常表示でもよいが、LOG表示としてもよい。LOG表示とした場合、ピーク光量の少ないLED光と、ピーク光量の多いレーザ光を同一のグラフ上でダイナミックに表示可能である。また、各グラフの光量は、相対値(例えば複数のレーザ光のピーク値のうち、最大のものを相対値100とする)で示されてもよい。
【0103】
第1の実施形態では、コントローラ31、イメージプロセッサ35、ディスプレイプロセッサ36等のプロセッサは、物理的にどのように構成してもよい。また、プログラム可能なプロセッサを用いれば、プログラムの変更により処理内容を変更できるので、プロセッサの設計の自由度を高めることができる。プロセッサは、1つの半導体チップで構成してもよいし、物理的に複数の半導体チップで構成してもよい。複数の半導体チップで構成する場合、第1の実施形態の各制御をそれぞれ別の半導体チップで実現してもよい。この場合、それらの複数の半導体チップで1つのプロセッサを構成すると考えることができる。また、プロセッサは、半導体チップと別の機能を有する部材(コンデンサ等)で構成してもよい。また、プロセッサが有する機能とそれ以外の機能とを実現するように、1つの半導体チップを構成してもよい。複数のプロセッサが1つのプロセッサで構成されてもよい。