特許第6364070号(P6364070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6364070蚊類防除用エアゾール、及び蚊類防除方法
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  • 特許6364070-蚊類防除用エアゾール、及び蚊類防除方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6364070
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】蚊類防除用エアゾール、及び蚊類防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 7/00 20060101AFI20180712BHJP
   A01N 53/06 20060101ALI20180712BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   A01M7/00 S
   A01N53/06
   A01P7/04
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-513735(P2016-513735)
(86)(22)【出願日】2015年4月8日
(86)【国際出願番号】JP2015060941
(87)【国際公開番号】WO2015159772
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2016年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-86174(P2014-86174)
(32)【優先日】2014年4月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】納富 彩子
(72)【発明者】
【氏名】吉中 博子
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋子
(72)【発明者】
【氏名】田中 修
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−280633(JP,A)
【文献】 特開2008−169164(JP,A)
【文献】 特許第3347517(JP,B2)
【文献】 特開2011−121894(JP,A)
【文献】 特開2003−160418(JP,A)
【文献】 特開2011−162244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 − 99/00
A01N 53/06
A01P 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫防除成分であるメトフルトリン及び/又はトランスフルトリンと有機溶剤である炭素数の総数が16〜20の高級脂肪酸エステルとを含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、
前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、
を備えた蚊類防除用エアゾールであって、
前記エアゾール原液(a)と前記噴射剤(b)との容量比率(a/b)は、10/90〜50/50であり、
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1〜0.4mLであり、
前記噴射口から噴射される噴射粒子の粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が10〜80μmであり、
前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率が0.05〜5%であり、且つ前記害虫防除成分の効果持続時間が33m以下の空間に対して20時間以上である蚊類防除用エアゾール。
【請求項2】
前記噴射口から噴射される前記噴射粒子の粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が25〜70μmである請求項1に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項3】
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1〜0.2mLである請求項1又は2に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項4】
前記噴射ボタンを1回押下したときの前記害虫防除成分の噴射量が4.5〜8畳あたり5.0〜30mgである請求項1〜3の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項5】
前記高級脂肪酸エステルは、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、及びパルミチン酸イソプロピルからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜4の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項6】
前記高級脂肪酸エステルは、ミリスチン酸イソプロピルである請求項5に記載の蚊類防除用エアゾール。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の蚊類防除用エアゾールを用いて前記エアゾール原液を処理空間に噴射して蚊類をノックダウン又は死滅させる蚊類防除方法。
【請求項8】
前記エアゾール原液の処理空間への噴射を24時間毎に1回実行する請求項7に記載の蚊類防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、を備えた蚊類防除用エアゾール、及びこれを用いた蚊類防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛翔害虫を駆除する方法として、例えば、殺虫成分を含む薬剤を含浸させた担体から薬剤を蒸散させて処理空間に揮散させる方法、飛翔害虫に薬剤を直接噴霧する方法、飛翔害虫が現われ易い場所に予め薬剤を噴霧しておく方法等がある。これらの方法に関し、屋内に侵入する飛翔害虫を駆除する製品として、殺虫成分を含有するエアゾール殺虫剤が開発されている。エアゾール殺虫剤は処理空間に殺虫成分を簡単に噴霧することができるため、使い勝手の良い製品として広く利用されている。
【0003】
従来、エアゾール殺虫剤に関して、室内の気中における薬剤の残存率の低下を抑制するものがあった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、薬剤を放出した後、その薬剤を空気中にとどめて気中濃度の低下を抑制することで、物陰に潜む蚊に対して十分な駆除効果を持続させることができるとしている。
【0004】
また、薬剤を室内に噴霧した場合の粒子径を特許文献1より大きく設定したエアゾール殺虫剤があった(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2は、特許文献1と同様の技術思想に基づくエアゾール殺虫剤であり、薬剤を室内の気中にできるだけ長く残存させ、蚊に対する殺虫効果を高めようとするものである。
【0005】
一方、エアゾール殺虫剤に関し、室内の構造物または備品の表面に付着させることを特徴とする家屋室内における飛翔性害虫の駆除方法があった(例えば、特許文献3を参照)。特許文献3によれば、室内の構造物等に付着させた特定の化合物が蒸散するため、繰り返し噴霧や、電気器具等の継続的な運転を必要とせず、簡便な手段によって家屋内飛翔性害虫を効率的に駆除することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−17055号公報
【特許文献2】特開2013−99336号公報
【特許文献3】特開2001−328913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のエアゾール殺虫剤は、室内に拡散する薬剤の粒子径を調整することによって薬剤が気中に残存する時間を長くし、薬剤の持続時間を長時間にすることが試みられている。しかし、処理開始から12時間以上での薬剤粒子の気中残存率は0.5%以上であり、気中残存率の維持を目的とする特許文献1のエアゾール殺虫剤では、持続時間に限度がある。特許文献2においても、薬剤粒子の気中残存率は特許文献1と同様であり、長期の持続時間を期待できるエアゾール殺虫剤ではない。
【0008】
ここで、防除対象である蚊類(通常の蚊であるアカイエカ、ヒトスジシマカ等のみならず、カ亜目に属するユスリカ類やチョウバエ類等も含むものとする。)のうち、特に、アカイエカやヒトスジシマカは、吸血するだけでなく感染症を媒介する蚊であるため、これらの蚊から身を守ることが必要であり、従来に増して効果的な駆除方法の確立が求められている。蚊類は、昼夜を問わず屋内に侵入する飛翔害虫であるため、一日中、つまり、効果を奏する持続時間が24時間であるような殺虫剤が理想的である。
【0009】
ところが、上記のとおり、特許文献1、及び特許文献2に開示されてあるエアゾール殺虫剤では、12時間程度しか効果が持続しない。また、特許文献1、及び特許文献2は、薬剤の粒子径を調整することにより、気中に積極的に薬剤を残存させるものであるが、薬剤粒子が気中に残存しているということは、処理空間内にいる人やペットが当該薬剤を吸入する環境に長時間置かれるということである。そのため、人体やペットへの影響という点においても、好ましいエアゾール殺虫剤とは言い難い。
【0010】
特許文献3の駆除方法においても、安定した効果を長時間に亘って維持できるかどうか不明である。空気中に噴射された薬剤粒子は、(A)空気中に浮遊し残存する、(B)床や壁に付着する、(C)(B)の後に再び揮散する、もしくは(D)光等により分解し消失する、の何れかの挙動を辿ると考えられる。これらに照らしてみた場合、特許文献3の駆除方法は、(C)のタイプに該当する。しかしながら、室内の構造物等に付着した薬剤が再び空気中に揮散する場合、温度や風量等の影響を受け易いため、特許文献3の駆除方法では、飛翔害虫の駆除に対して安定した効果を得られるとは限らない。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、飛翔害虫の中でも、特に、蚊類に対して優れた防除効果を長時間に亘って発揮することができ、しかも、人体やペットへの影響を低減した蚊類防除用エアゾール、及び当該蚊類防除用エアゾールを用いた蚊類防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係る蚊類防除用エアゾールの特徴構成は、
害虫防除成分であるメトフルトリン及び/又はトランスフルトリンと有機溶剤である炭素数の総数が16〜20の高級脂肪酸エステルとを含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、
前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、
を備えた蚊類防除用エアゾールであって、
前記エアゾール原液(a)と前記噴射剤(b)との容量比率(a/b)は、10/90〜50/50であり、
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1〜0.4mLであり、
前記噴射口から噴射される噴射粒子の粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が10〜80μmであり、
前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の2時間経過後の気中残存率が0.05〜5%であり、且つ前記害虫防除成分の効果持続時間が33m以下の空間に対して20時間以上であることにある。
【0013】
「発明が解決しようとする課題」にて述べたとおり、従来のエアゾール殺虫剤は、処理空間に積極的に薬剤粒子を拡散させ、気中に残存する時間をできるだけ長期化させる方向で開発が進められていた。しかし、処理空間に浮遊している薬剤粒子の滞留時間が長時間になると、処理空間内に人やペットが立ち入った場合、薬剤粒子を吸入する可能性があるため、健康への影響が懸念される。
ところで、本発明者らの研究により、蚊を代表とする蚊類(以下、本発明においては、単に「蚊類」と称する。)は飛んでいる時間よりも、壁面等に止まっている時間の方が長いことが判明した。すなわち、屋内に侵入してきた蚊類の大半は壁面等に止まり、人を吸血する機会を窺っているということになる。このため、従来のように、処理空間内の薬剤粒子が浮遊する時間を長期化させる手法は、飛翔中の蚊類の防除に対しては一定の効果を奏することができるが、壁面等に止まっている蚊類に対しては薬剤の効果を充分に及ぼすことができず、結果的に、蚊類の防除が不完全となり得る。本発明者らは、上記の研究結果から、壁面等に止まっている蚊類に対する防除の効果を高めることが、人やペットが薬剤を吸入することを抑制しつつ、屋内に侵入してくる蚊類全体の防除の向上に繋がると考えた。
【0014】
そこで、本発明の蚊類防除用エアゾールでは、エアゾール原液が処理空間に噴射されると、その噴射粒子が処理空間内の露出部(例えば、処理空間内に存在する床面や壁面、家具等の構造物の表面等)に移動し、露出部に付着するようにした。これにより、露出部に止まっている蚊類、及び処理空間を飛んでいる蚊類の両方の蚊類を効果的にノックダウン又は死滅させることができ、蚊類全体の防除効果を向上させることができる。エアゾールの噴射粒子に関し、本発明者らは鋭意検討の末、害虫防除成分としてメトフルトリン及び/またはトランスフルトリンを使用し、有機溶剤として炭素数の総数が16〜20の高級脂肪酸エステルを使用するエアゾール原液を使用すれば、蚊類の防除に適した粒子が形成されることを突き止めた。この場合、噴射粒子に含まれる害虫防除成分の効果を確実、且つ効率良く発揮させることができる。また、エアゾール原液の調製を容易に行うことができる。
【0015】
続いて、エアゾール原液(a)と噴射剤(b)との容量比率(a/b)が10/90〜50/50、噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1〜0.4mLとなるように調整した場合、噴射粒子は迅速に処理空間内の露出部に移動して付着する。その結果、露出部に止まっている蚊類を害虫防除成分によって確実にノックダウン又は死滅させることができる。
【0016】
さらに、噴射粒子の粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が10〜80μmの範囲となるように形成される。このような範囲であれば、露出部に止まっている蚊類を害虫防除成分によって確実にノックダウン又は死滅させることができる。
【0017】
また、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、害虫防除成分の2時間経過後の気中(処理空間内)残存率が0.05〜5%であり、且つ害虫防除成分の効果持続時間が33m3以下の空間に対して20時間以上であるように調整されている。このような範囲であれば、処理空間に噴射された噴射粒子は、処理空間内の露出部に迅速に移動して付着する。一方、処理空間中に漂う噴射粒子は、露出部に付着した噴射粒子の分低減されることとなる。つまり、本発明の蚊類防除用エアゾールは、従来品のように処理空間全体にエアゾール原液が拡散するものではないため、従来品よりも人体やペットに影響を及ぼす虞が格段に低減されたものとなる。そして、処理空間中に漂う噴射粒子の害虫防除成分により、処理空間中を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させる効果を発揮することもできる。しかも、本発明に係る蚊類防除用エアゾールであれば、エアゾール原液を処理空間にたった1回噴射するだけで、33m3以下の空間に対して20時間以上、すなわち、略1日中害虫防除効果を持続させることができる。
【0018】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記噴射口から噴射される前記噴射粒子の粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が25〜70μmであることが好ましい。
【0019】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、噴射粒子が上記の最適な範囲に調整されることにより、噴射粒子が処理空間内の露出部により迅速に移動して付着する。このため、露出部に止まっている蚊類をより確実にノックダウン又は死滅させることができる。
【0020】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1〜0.2mLであることが好ましい。
【0021】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、噴射容量が上記のような最適な範囲に調整することにより、噴射された噴射粒子がより適した状態で存在し、害虫防除成分の効果を最大限発揮することができる。
【0022】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記噴射ボタンを1回押下したときの前記害虫防除成分の噴射量が4.5〜8畳あたり5.0〜30mgであることが好ましい。
【0023】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、噴射ボタンを1回押下したときの害虫防除成分の噴射量が、上記の最適な範囲になるように調整されているため、噴射粒子は迅速に処理空間内の露出部に移動して付着する。その結果、露出部に止まっている蚊類を害虫防除成分によって確実にノックダウン又は死滅させることができる。
【0024】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記高級脂肪酸エステルは、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、及びパルミチン酸イソプロピルからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、有機溶剤として用いられる高級脂肪酸エステルが、上記の成分からなる群から選択される少なくとも1種である場合、害虫防除成分の効果をより効率良く発揮させることができる。
【0026】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記高級脂肪酸エステルは、ミリスチン酸イソプロピルであることが好ましい。
【0027】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、有機溶剤として採用される高級脂肪酸エステルがミリスチン酸イソプロピルである場合、害虫防除成分の効果をより一層効率良く発揮させることができる。
【0028】
上記課題を解決するための本発明に係る蚊類防除方法の特徴構成は、
前記の何れか一つに記載の蚊類防除用エアゾールを用いて前記エアゾール原液を処理空間に噴射して蚊類をノックダウン又は死滅させることにある。
【0029】
本構成の蚊類防除方法は、本発明の蚊類防除用エアゾールを用いて実行するものでるため、上述した蚊類防除用エアゾールと同様の優れた蚊類防除効果を奏することができる。
【0030】
本発明に係る蚊類防除方法において、
前記エアゾール原液の処理空間への噴射を24時間毎に1回実行することが好ましい。
【0031】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、上記のとおり、害虫防除成分の持続時間が33m以下の空間に対して20時間以上であり、略1日である。このため、この蚊類防除用エアゾールを用いて、エアゾール原液の処理空間への噴射を24時間毎に1回実行することができる。このような蚊類防除方法を実行すれば、毎日1回決まった時刻に噴射するだけで生活時間帯に亘って害虫防除効果を持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、処理空間にエアゾール原液を噴射したときの噴射粒子の挙動を示したモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の蚊類防除用エアゾールは、害虫防除成分と有機溶剤として用いられる高級脂肪酸エステルとを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンとを備える。以下、本発明の蚊類防除用エアゾールについて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0034】
<エアゾール原液>
[害虫防除成分]
エアゾール原液の主成分の一つである害虫防除成分は、ピレスロイド系殺虫成分が好ましく、例えば、メトフルトリン、トランスフルトリンが挙げられる。メトフルトリン、トランスフルトリンは、単独又は混合状態の何れでも使用可能である。また、メトフルトリン、トランスフルトリンには、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在するが、それらも本発明に含まれる。
【0035】
エアゾール原液中の害虫防除成分の含有量は、有機溶剤として用いられる高級脂肪酸エステルに溶解させた後、処理空間に噴射されることを考慮して、1.0〜60重量%とすることが好ましい。このような範囲であれば、害虫防除成分が高級脂肪酸エステル(有機溶剤)に溶解し易く、また、エアゾール原液が噴射された際、噴射粒子が最適な状態で形成され、害虫防除成分の効果を奏することができる。エアゾール原液中の害虫防除成分の含有量が1.0重量%未満である場合、害虫防除成分を効果的に発揮することができず、蚊類の防除効果が不十分となる。一方、エアゾール原液中の害虫防除成分の含有量が60重量%を超える場合、害虫防除成分の濃度が高くなるため、エアゾール原液を適切に調製し難くなる。
【0036】
上述のとおり、本発明の蚊類防除用エアゾールに含有される害虫防除成分は、メトフルトリン、トランスフルトリンが好ましいが、これらの成分に加え、プロフルトリン、エムペントリン、フタルスリン、レスメトリン、シフルトリン、フェノトリン、ぺルメトリン、シフェノトリン、シペルメトリン、アレスリン、プラレトリン、フラメトリン、イミプロトリン、エトフェンプロックス等の他のピレスロイド系化合物、シラフルオフェン等のケイ素系化合物、ジクロルボス、フェニトロチオン等の有機リン系化合物、プロポクスル等のカーバメート系化合物等を含有させることも可能である。
【0037】
害虫防除成分は、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、2時間経過後の気中(処理空間中)残存率が0.05〜5%となるように調整される。気中残存率は、噴射直後に処理空間に存在する粒子の数(P)に対する所定時間経過後の処理空間に存在する粒子の数(Q)の割合、すなわち、Q/P × 100(%)で表されるが、簡易的には後述の実施例で説明するように、理論上の害虫防除成分の気中濃度、及び所定時間経過後における害虫防除成分の気中濃度から求めることができる。エアゾール原液の噴射量は、当該エアゾール原液に含まれる害虫防除成分の種類によって調整することが好ましい。一般的な居住空間(4.5〜8畳程度)において、例えば、害虫防除成分としてメトフルトリンを使用する場合、メトフルトリンは活性(害虫防除効果)が比較的強いため、少量の噴射(例えば、メトフルトリンとして5.0mg)でも有意な効果を発揮し得る。これに対し、害虫防除成分としてトランスフルトリンを使用する場合、トランスフルトリンの活性はメトフルトリンの約0.6倍であるため、メトフルトリンよりも多量に噴射(例えば、トランスフルトリンとして30mg)することが好ましい。これらを考慮すると、エアゾール原液の噴射量は、害虫防除成分の噴射量として、4.5〜8畳あたり5.0〜30mgに調整することが好ましい。このような範囲であれば、エアゾール原液から噴射粒子が最適に形成され、害虫防除効果を発揮することができる。また、上記のように比較的低い気中残存率であっても、蚊類に対して効果的にノックダウン又は死滅させることができる。さらに、処理空間内にいる人やペットが吸入しても人体やペットに影響を及ぼす虞がなく、安全に使用することもできる。
【0038】
[有機溶剤]
エアゾール原液の主成分には、上記の害虫防除成分の他に有機溶剤が含まれる。有機溶剤は、上記の害虫防除成分を溶解してエアゾール原液を調製することができ、また、調製したエアゾール原液を処理空間に噴射したとき、最適な噴射粒子を形成し得るものが使用される。本発明の蚊類防除用エアゾールにおいては、有機溶剤として高級脂肪酸エステルが用いられる。高級脂肪酸エステルとしては、炭素数の総数が13〜20のものが好ましく、さらに炭素数の総数が16〜20のものがより好ましく、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、パルミチン酸イソプロピル等が挙げられる。これらのうち、ミリスチン酸イソプロピルが特に好適である。
【0039】
また、有機溶剤として、上記の高級脂肪酸エステルに加え、炭素数が2〜3の低級アルコールを添加することも可能である。有機溶剤には、例えば、n−パラフィン、及びイソパラフィン等の炭化水素系溶剤や、炭素数3〜6のグリコールエーテル類、及びケトン系溶剤等を混合することも可能である。
【0040】
[その他の成分]
本発明の蚊類防除用エアゾールは、上記成分に加え、エアゾール原液に可溶化助剤として非イオン系界面活性剤を添加することもできる。非イオン系界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル類などのエーテル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類などの脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール、脂肪酸のポリアルカロールアミド等が挙げられ、これらのうち、エーテル類を好適に使用することができる。
【0041】
また、殺ダニ剤、カビ類や菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤、殺菌剤、芳香剤、消臭剤、安定化剤、帯電防止剤、消泡剤、賦形剤等を適宜配合することもできる。殺ダニ剤としては、5−クロロ−2−トリフルオロメタンスルホンアミド安息香酸メチル、サリチル酸フェニル、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート等が挙げられる。防カビ剤、抗菌剤、及び殺菌剤としては、ヒノキチオール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、トリホリン、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、オルト−フェニルフェノール等が挙げられる。芳香剤としては、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、シトロネラ油、ライム油、ユズ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α−ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香成分、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分等が挙げられる。
【0042】
<噴射剤>
本発明の蚊類防除用エアゾールで用いる噴射剤としては、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等が挙げられる。上記の噴射剤は、単独又は混合状態で使用することができるが、LPGを主成分としたものが使い易い。
【0043】
本発明の蚊類防除用エアゾールは、エアゾール原液(a)と噴射剤(b)との容量比率(a/b)が、10/90〜50/50となるように調整される。このような範囲に調整すれば、耐圧容器に設けられる定量噴射バルブに接続された噴射口から噴射粒子を最適に形成することができる。そして、一旦噴射された噴射粒子は、迅速に処理空間内の露出部に移動し、付着することができる。一方、噴射粒子のうち露出部に付着しなかった噴射粒子は、処理空間中に漂うこととなるが、人体やペットに影響を与えない程度の量で存在している。このように、噴射粒子は処理空間中に最適な状態で存在し、害虫防除効果を最大限発揮することができる。容量比率(a/b)が10/90に対して、噴射剤(b)の割合を大きくする、つまり、耐圧容器内に封入する噴射剤を多量にすると、噴射されるエアゾール原液から形成される噴射粒子が必要以上に微細化されるため、処理空間内の露出部に付着する噴射粒子の量が減少する。これにより、露出部に止まっている蚊類を確実に防除することができない場合がある。一方、容量比率(a/b)が50/50に対して、噴射剤(b)の割合を小さくする、つまり、耐圧容器内に封入する噴射剤を少量にすると、噴射されるエアゾール原液から上記の最適な範囲の噴射粒子として形成することが困難となるため、噴射された噴射粒子はすぐに沈降する。そのため、噴射粒子は量的に不十分となり、蚊類を早期にノックダウン又は死滅させることが困難になる。
【0044】
<蚊類防除用エアゾール>
上記のように、害虫防除成分、有機溶剤、噴射剤、その他必要に応じて配合される成分を選択し、これらを耐圧容器に封入することで、エアゾール製品が完成する。このエアゾール製品は、本発明の蚊類防除用エアゾールであり、処理空間にエアゾール原液を噴射粒子として噴射するものである。エアゾール原液は、主に、害虫防除成分と有機溶剤とから構成されるものであり、厳密には噴射剤とは別のものであるが、エアゾール原液は噴射剤と同時に耐圧容器の外部に放出されるため、以降の説明では、エアゾール原液及び噴射剤を含むエアゾール内容物を「エアゾール原液」として取り扱う場合がある。ここで、本発明に係る蚊類防除用エアゾールが備える噴射バルブについて説明する。本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、主に、耐圧容器(エアゾール容器)、定量噴射バルブ、及び噴射ボタンから構成されている。定量噴射バルブには、エアゾール原液を噴射するための作動部である噴射ボタンが接続されてあり、噴射ボタンには、エアゾール原液がエアゾール容器から外部(処理空間)へ噴出する噴射口が設けられてある。
【0045】
蚊類防除用エアゾールの噴射ボタンを1回押下げた場合、噴射剤の圧力によって定量噴射バルブが作動し、耐圧容器内のエアゾール原液が噴射口に上昇し、処理空間に噴射される。このときのエアゾール原液の噴射容量は、0.1〜0.4mLに調整され、より好ましくは0.1〜0.2mLに調整される。このような範囲であれば、噴射されたエアゾール原液から形成される噴射粒子は、処理空間において最適に防除効果を発揮し得るものとなる。噴射容量が0.1mL未満の場合、噴射容量が少な過ぎて処理空間内の露出部に移動する噴射粒子が少量となるため、露出部に付着する噴射粒子の量が不十分となり、露出部に止まっている蚊類をノックダウン又は死滅させることが困難となる。また、噴射粒子の全体的な量が少量となるため、処理空間中に漂う噴射粒子も少量となり、処理空間を飛んでいる蚊類に対してもノックダウン又は死滅させることが困難となる。一方、0.4mLを超えると、処理空間に必要以上の量のエアゾール原液が噴射粒子として放出されるため、害虫防除成分が処理空間中に充満することとなる。このため、人やペットが処理空間に立ち入ることが困難となる。また、エアゾール原液の使用量も過大となるため、経済的にも不利である。
【0046】
また、害虫防除成分の噴射量は、前述のように、4.5〜8畳あたり5.0〜30mgに調整されるが、好ましくは、6.1〜24mgに調整される。ちなみに、4.5〜8畳の部屋は、約18.5〜33.0mの空間に相当する。このような範囲であれば、害虫防除効果が適切に発揮され、処理空間中の蚊類を確実にノックダウン又は死滅させることができる。害虫防除成分の噴射量が5.0mgより少ない場合、処理空間内の露出部に付着する噴射粒子が少量となるため、害虫防除成分の効果に劣り、露出部に止まっている蚊類をノックダウン又は死滅させることが困難となる。一方、害虫防除成分の噴射量が30mgを超えると、処理空間に必要以上の量の害虫防除成分が放出されるため、害虫防除成分が処理空間中に充満することとなる。このため、人やペットが処理空間に立ち入ることが困難となる。また、害虫防除成分の使用量も過大となるため、経済的にも不利である。
【0047】
本発明の蚊類防除用エアゾールは、噴射口からの距離が20cmの箇所において、噴射力が25℃において0.3〜10.0g・fとなるように調整されている。このような範囲であれば、1回の噴射によって噴射口から噴射される噴射粒子を処理空間内の露出部に迅速に到達させることができ、害虫防除成分の効果を発揮させることができる。さらに、噴射口の噴口径は0.2〜1.0mmに設定することが好ましい。この範囲であれば、上記の粒子径、及び噴射力に適切に調整することができ、処理空間に噴射されたエアゾール原液から噴射粒子が最適に形成され、害虫防除効果を発揮することができ、処理空間内の蚊類を確実にノックダウン又は死滅させるこができる。
【0048】
図1は、処理空間にエアゾール原液を噴射したときのエアゾール原液から形成された噴射粒子の挙動を示したモデル図である。図1(a)は、従来製品に係る蚊類防除用エアゾールを処理空間に噴射した場合のモデル図であり、図1(b)は、本発明に係る蚊類防除用エアゾールを処理空間に噴射した場合のモデル図である。
図1(a)に示されるように、従来の蚊類防除用エアゾール製品(単に「従来品」とする)は、エアゾール原液が処理空間に噴射されると、粒子径10μm未満の粒子Mとなって処理空間中に拡散する。噴射して暫く経過すると、粒子Mは処理空間全体にさらに拡散し、害虫防除成分が処理空間に行き渡る。これにより、処理空間中を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させることができる。しかし、上記のとおり、蚊類は飛んでいる時間よりも処理空間内の露出部に止まっている時間の方が長いため、従来品ではこのような処理空間内の露出部に止まっている蚊類まで確実にノックダウン又は死滅させることができない。また、処理空間の窓を開ける等して風が吹き込んできた場合、処理空間中に浮遊している粒子Mの一部は風に流されてしまい、害虫防除成分の効果が大幅に減少する。さらに、粒子Mが処理空間に浮遊している時間が長時間になると、処理空間内にいる人やペットが粒子Mを吸入する量が増えるため、人体やペットに悪影響を及ぼす虞もある。
そこで、本発明者らは、これらの問題を解決する新規な蚊類防除用エアゾール製品を開発した。以下、本発明に係る蚊類防除用エアゾール製品において特徴的な噴射粒子について説明する。
【0049】
[噴射粒子]
図1(b)に示されるように、エアゾール原液を処理空間に1回噴射すると、エアゾール原液から噴射粒子Rが形成される。噴射された噴射粒子Rは、処理空間内の露出部に速やかに移動して付着する。ここで、噴射粒子Rのうち露出部に付着した状態の噴射粒子Rを粒子Xとする(図1(b)において白丸で示されている。以下、粒子Xは、「噴射粒子Rのうち露出部に付着した噴射粒子R」を意味するものとする。)。一方、露出部に付着せず、処理空間中に漂っている状態の噴射粒子Rを粒子Yとする(図1(b)において黒丸で示されている。以下、粒子Yは、「噴射粒子Rのうち露出部に付着せず、処理空間中に漂っている噴射粒子R」を意味するものとする。)。噴射粒子Rが露出部に移動して付着する(つまり、粒子Xとして存在する)ための好ましい粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が10〜80μmである。このような範囲であれば、処理空間に噴射された噴射粒子Rは、図1(b)に示されるように、処理空間内の露出部に確実に移動して付着し、粒子Xとなる。その結果、露出部に止まっている蚊類を噴射粒子の害虫防除成分によってノックダウン又は死滅させることができる。また、処理空間内に侵入し、露出部に止まろうとしている蚊類に対しても害虫防除効果を奏するため、処理空間外へ追い出すことも可能となる。噴射粒子Rの粒子径が10μm未満であると、粒子径が小さ過ぎて露出部まで到達する噴射粒子Rの量が低減することとなる。このため、露出部に止まっている、あるいは、止まろうとしている蚊類を防除することが困難となる。一方、粒子径が80μmを超えると、粒子径が大き過ぎて噴射粒子Rの挙動をコントロールし難くなり、露出部に適切に付着させることが困難となる。噴射粒子Rのより好ましい粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径25〜70μmである。
なお、図1(b)では、説明の便宜上、粒子Xと粒子Yとを区別するために粒子Xを白丸、粒子Yを黒丸で示したが、どちらの粒子も同一の粒子であり、噴射粒子Rに由来する粒子である。
【0050】
また、処理空間内の露出部への噴射粒子Rの好ましい付着量は、当該露出部1m当たり0.01〜0.4mgであり、好ましくは、1m当たり0.05〜0.2mgである。このような範囲であれば、露出部に止まっている蚊類を効果的にノックダウン又は死滅させることができる。付着量が1m当たり0.01mg未満であると、露出部に止まっている蚊類に対し充分な防除効果を奏することができず、蚊類をノックダウン又は死滅させることが困難となる。一方、付着量が1m当たり0.4mgを超えても、害虫防除効果は大きく向上することはなく、また、エアゾール原液の使用量も過大となるため、経済的にも不利である。
【0051】
なお、粒子Yも上記の粒子Xと同様に、蚊類に対し害虫防除効果を発揮することができる。粒子Yは、露出部に止まっている蚊類をノックダウン又は死滅させることができないが、処理空間中を飛んでいる蚊類を効果的にノックダウン又は死滅させることができる。また、処理空間内に侵入しようとする蚊類に対しても効果を奏するため、処理空間内への侵入を抑制することも可能となる。
このように、処理空間に噴射された噴射粒子Rは、粒子Xあるいは粒子Yの状態となって存在し、夫々の状態を生かして処理空間内の蚊類を効果的にノックダウン又は死滅させることができる。
【0052】
上記のように、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した直後において、噴射粒子Rは、処理空間内の露出部へと素早く移動し、付着した状態の粒子X、及び露出部に付着せず処理空間中を漂う状態の粒子Yとなる。1回噴射してから暫く経過しても、粒子Xは露出部に付着した状態を維持しており、露出部に止まっている蚊類を害虫防除成分によってノックダウン又は死滅させることができる。一方、粒子Yは、処理空間全体に満遍なく拡散が進行し、害虫防除成分が徐々に揮散してゆき、処理空間中を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させることができる。また、処理空間内に侵入しようとする蚊類に対しては、侵入を防ぐことが可能である。万が一、処理空間内に侵入してきた場合であっても、処理空間内の露出部に当該蚊類が止まったり、露出部付近に近づいてきた場合、当該露出部に付着している粒子Xの害虫防除成分によって、確実にノックダウン又は死滅させることができる。このように、本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、噴射口から噴射された噴射粒子Rが最適な状態(粒子X、及び粒子Yの状態)で存在し、害虫防除効果を最大限発揮することができる。このため、処理空間中に存在する蚊類、及び処理空間内に侵入しようとする蚊類のどちらにも優れた防除効果を発揮することが可能な有用な製品と言える。
【0053】
また、処理空間に風が吹き込んできた場合、粒子Yの一部が風に流されてしまったとしても、露出部に付着している粒子Xが存在する。上記のとおり、処理空間中に存在する蚊類の大半は露出部に止まっている時間の方が長いため、粒子Xが所望の効果を発揮することができれば、粒子Yの量が減少しても、蚊類への防除効果が劣る心配はない。さらに、本発明の蚊類防除用エアゾールは、従来品のように、噴射されたエアゾール原液の略全てが処理空間中に拡散するのではない。処理空間中に拡散している害虫防除成分(つまり、粒子Yによる害虫防除成分)の濃度は、粒子Xの分低減している。従って、従来品と比較して処理空間の濃度は低いものとなり、害虫防除成分の吸入による人体やペットへの影響は低減され、安全な製品として提供することができる。
【0054】
また、本発明の蚊類防除用エアゾールによってエアゾール原液を処理空間に1回噴射すると、害虫防除成分の効果時間は33m3以下の空間に対して20時間以上である。33m3以下の空間には、上述のように、4.5〜8畳の居間(天井高2.5m)が含まれる。従って、本発明に係る蚊類防除用エアゾールであれば、一般住宅等の通常の居住空間において、略1日中害虫防除効果を持続させることができる。蚊類は昼夜を問わず屋内に侵入し、特に、就寝中に吸血されることを防ぐ必要がある。本発明に係る蚊類防除用エアゾールであれば、20時間以上に亘り害虫防除成分の効果が持続するため、例えば、夜間の就寝前に1回噴射しておけば、翌日の午後まで効果が持続し、安心して就寝することができる。
【0055】
<蚊類防除方法>
本発明の蚊類防除方法は、上記の蚊類防除用エアゾールを用いて実行される。まず、害虫防除成分と、有機溶剤として用いる高級脂肪酸エステルとを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器において、定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンを1回押すと、エアゾール原液が噴射口から噴射粒子Rとして処理空間へ噴射される(噴射工程)。このとき、図1(b)に示されるように、噴射粒子Rは、迅速に処理空間内の露出部に移動し、付着した状態となる粒子X、及び露出部に付着せずに処理空間中を漂う状態の粒子Yとなる。噴射粒子Rのうち粒子Xは、処理空間内の壁面や床面、構造物等の表面に止まっている蚊類をノックダウン又は死滅させ、あるいは、これらの場所に止まろうとする蚊類に対しても効果を奏し、処理空間外へ追い出す。一方、噴射粒子Rのうち粒子Yは、処理空間を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させることができ、また、処理空間内に侵入しようとする蚊類に対しても効果を奏し、処理空間内への侵入を抑制する。上記のような噴射粒子Rの害虫防除効果は、33m3以下の空間に対して20時間以上の長時間に亘って持続する。所定の時間が経過した後は、再度、エアゾール原液を処理空間に噴射すればよく、これにより、継続的に蚊類をノックダウン又は死滅させることができる。
【0056】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、上記のとおり、害虫防除成分の持続時間が33m3以下の空間に対して20時間以上であり、略1日である。このため、この蚊類防除用エアゾールを用いて実行される蚊類防除方法であれば、1日1回毎日決まった時刻に噴射する噴射工程を実行するだけで操作を完了させることができる。このように、誰でも簡単にエアゾール原液を処理空間に噴射することができ、且つ、噴射するタイミングを逃すことを防止することができる。
【実施例】
【0057】
本発明の蚊類防除用エアゾールについて、蚊類防除効果を確認するため、本発明の特徴構成を備えた複数の蚊類防除用エアゾール(実施例1〜8)を準備し、蚊類防除効果確認試験を実施した。また、比較のため、本発明の特徴構成を備えていない蚊類防除用エアゾール(比較例1〜6)を準備し、さらに参考として、本発明の害虫防除成分ではないプロフルトリンを使用した蚊類防除用エアゾール(参考例1)を準備し、同様の蚊類防除効果確認試験を実施した。なお、表1の害虫防除成分噴射量に関しては、参考例1のみ、プロフルトリンの噴射量として記載することとする。
【0058】
実施例1〜8として表1に示すように、組成及び条件を各実施例に応じて蚊類防除用エアゾールを調製し、下記に示す試験を行った。比較例1〜6、及び参考例1についても、表1に示す組成及び条件にて蚊類防除用エアゾールを調製し、実施例と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。
(1)蚊成虫に対する防除効果
閉めきった25m3の部屋の中央で蚊類防除用エアゾールを斜め上方に向けて1回噴射し、この直後、アカイエカ雌成虫50匹を放ち、2時間暴露させた後、全ての供試蚊を回収した。その間、時間経過に伴い落下仰転したアカイエカ雌成虫を数え、KT50値(分)を求めた。そして、同じ部屋で、蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから10時間後、14時間後、及び20時間後について同様の操作を行った。
(2)噴射粒子の気中残存率
閉めきった25m3の部屋の中央に向けて蚊類防除用エアゾールを斜め上方に向けて1回噴射した。部屋の中央より50cm後方(壁面から130cm)、床上120cmの位置に空気捕集管(ガラス管にシリカゲルを充填し、両端を脱脂綿で詰めたもの)を設置し、真空ポンプに接続して噴射処理から2時間経過した後に所定量の空気を吸引した。空気捕集管をアセトンで洗浄し、捕集された害虫防除成分量をガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、型式GC1700)により分析した。得られた分析値に基づき、害虫防除成分の気中濃度を算出し、理論上の気中濃度に対する比率を気中残存率として求めた。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1、及び表2の結果から、何れの実施例も、蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから20時間後もKT50値は有意な数値に維持されており、優れた蚊類防除効果を示すことが分かった。また、害虫防除成分と組み合わせる有機溶剤としては、炭素数の総数が13〜20の高級脂肪酸エステルが効果的であるが、炭素数の総数が16〜20の高級脂肪酸エステルがより効果的であることが分かった。一方、比較例1〜6においては、蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから10時間後の時点で、KT50値は実施例と比較して劣った数値となり、14時間経過後は、さらに劣った結果を示した。そして、20時間後は、何れの比較例もアカイエカ雌成虫に対する防除効果は略消滅していることが示された。また、害虫防除成分にプロフルトリンを使用した参考例1も、メトフルトリン及び/またはトランスフルトリンを使用した実施例1〜8より、蚊類防除効果に劣っていることが分かった。
【0062】
次に、実施例1〜8とは異なる蚊を対象として、本発明の蚊類防除用エアゾールについて、蚊類防除効果を確認する試験を行った。この試験を実施例9とする。
実施例9では、害虫防除成分のメトフルトリンを有機溶剤のパルミチン酸イソプロピルに溶解して、メトフルトリン36.0重量%のエアゾール原液を調製した。このエアゾール原液4.0mLと、噴射剤として液化石油ガス16.0mLとを定量噴射バルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、本発明の蚊類防除用エアゾールを得た。このエアゾール原液(a)と射剤剤(b)との容量比率(a/b)は、20/80となるように調整した。そして、上記の蚊類防除用エアゾールを略密閉した2.5mの天井高を有する6畳の部屋(約25m3)で、やや斜め上方に向けてエアゾール原液を0.1mL噴射した。このときの害虫防除成分(メトフルトリン)の噴射量は、7.2mgであった。また、蚊類防除用エアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力(25℃)は1.4g・fであった。エアゾール原液によって形成された噴射粒子の25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径は42μmであった。
【0063】
実施例9の蚊類防除用エアゾールを噴射した直後、この部屋の中にユスリカを放虫したところ、ユスリカは直ちにノックダウン又は死滅した。また、害虫防除成分(メトフルトリン)の気中残存率を実施例1〜8と同様の手法により求めたところ、0.93%であった。
【0064】
実施例1〜9の試験結果から、本発明の蚊類防除用エアゾール、及びこれを用いた蚊類防除方法によれば、少なくとも25m3の空間(約6畳相当)に対して20時間を越える長時間に亘り蚊類に対して優れた防除効果を奏することが明らかとなった。なお、本発明の蚊類防除用エアゾールは、処理対象の空間容積を33m3(約8畳相当)まで拡大しても、20時間以上の蚊類防除効果を奏することが確認された。また、蚊類以外の飛翔害虫について、同様の防除効果確認試験を行ったところ、ハエに対しても33m3以下の空間において4時間以上の防除効果を示し、非常に実用性の高いものであることが判明した。更に、ゴキブリ類、アリ類やシバンムシ等の匍匐害虫を寄せ付けないという副次的な効果も確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、蚊類に対して高い防除効果を有する蚊類防除用エアゾール、及びこれを用いた蚊類防除方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0066】
R 噴射粒子
X 露出部に付着した噴射粒子
Y 処理空間中に漂っている噴射粒子
図1