特許第6364075号(P6364075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6364075炭化水素原料から軽質オレフィンおよび芳香族化合物を製造する方法
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  • 特許6364075-炭化水素原料から軽質オレフィンおよび芳香族化合物を製造する方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6364075
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】炭化水素原料から軽質オレフィンおよび芳香族化合物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 69/04 20060101AFI20180712BHJP
   C10G 69/06 20060101ALI20180712BHJP
   C10G 11/18 20060101ALI20180712BHJP
   C10G 47/00 20060101ALI20180712BHJP
   C10G 9/00 20060101ALI20180712BHJP
【FI】
   C10G69/04
   C10G69/06
   C10G11/18
   C10G47/00
   C10G9/00
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-522560(P2016-522560)
(86)(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公表番号】特表2016-526593(P2016-526593A)
(43)【公表日】2016年9月5日
(86)【国際出願番号】EP2014063850
(87)【国際公開番号】WO2015000842
(87)【国際公開日】20150108
【審査請求日】2017年5月25日
(31)【優先権主張番号】13174765.1
(32)【優先日】2013年7月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502132128
【氏名又は名称】サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】508171804
【氏名又は名称】サビック グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ウォード,アンドリュー マーク
(72)【発明者】
【氏名】オプリンス,アルノ ヨハネス マリア
(72)【発明者】
【氏名】ハウスマンス,トーマス ヒューベルテュス マリア
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−527937(JP,A)
【文献】 特表2008−544061(JP,A)
【文献】 特開2005−200631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素原料から軽質オレフィンおよび芳香族化合物を製造する方法であって、
(a)炭化水素原料をFCCユニットに供給する工程、
(b)FCC反応から生成された反応生成物を、底部流と、中間流と、上部流とに分離する工程、
(c)工程(b)からの前記中間流をガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給する工程であって、前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットにおいて一般的な工程条件が、300〜450℃の温度、300〜5000kPaのゲージ圧、および0.1〜10h-1の重量空間速度である工程、
(d)工程(c)の前記GHCユニットの反応生成物を、水素、メタンおよびC2〜C4パラフィンを含む頭頂気体流と、BTX分画および重質油分画とに分離する工程、
(e)前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットから来る前記頭頂気体流から前記C2〜C4パラフィンを分離する工程、および該頭頂気体流からそのように分離された前記C2〜C4パラフィンのみを水蒸気分解ユニットの炉区域に直接供給する工程、
(f)工程(b)からの前記底部流と、工程(d)からの前記底部流を合わせる工程、
(g)前記水蒸気分解ユニットの反応生成物を、C2〜C6アルカンを含む頭頂流、C2=、C3=およびC4=を含む中間流、並びにC9+炭化水素を含む第1の底部流、および芳香族炭化水素化合物と非芳香族炭化水素化合物を含む第2の底部流に分離する工程、および
(h)工程(b)からの前記上部流を前記水蒸気分解ユニットから来る反応生成物の流れと組み合わせて、工程(g)を行う分離区域に供給する工程、
を有してなる方法。
【請求項2】
前記炭化水素原料を蒸留ユニット内で前処理する工程をさらに含み、該蒸留ユニットからの底部流が前記FCCユニットに供給され、その頭頂流が前記水蒸気分解ユニットに供給される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記C2〜C4パラフィンを、それぞれ、各々が主にC2パラフィン、C3パラフィンおよびC4パラフィンを含む個々の流れに分離する工程、および該個々の流れを前記水蒸気分解ユニットの特定の炉区域に送る工程をさらに含む、請求項記載の方法。
【請求項4】
前記C2〜C6アルカンを含む頭頂流を前記水蒸気分解ユニットに戻す工程をさらに含む、請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記第2の底部流を前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給する工程をさらに含む、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記第1の底部流を該FCCユニットに供給する工程をさらに含む、請求項1から5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記水素供与体タイプの原料が、水素または軽質原料、もしくはそれらの組合せである、請求項記載の方法。
【請求項8】
前記FCCユニット中への前記炭化水素原料が、ナフサ、灯油、ディーゼル燃料、常圧軽油(AGO)、コンデンセート、蝋、粗製汚染ナフサ、真空軽油(VGO)、減圧残油、常圧残油、前処理ナフサ、またはそれらの組合せの群から選択される、請求項1からいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記FCCユニットに一般的な工程条件が、425〜570℃の温度および10〜800kPaのゲージ圧(低苛酷度)または540〜700℃の温度および10〜800kPaのゲージ圧(高苛酷度)を含む、請求項1からいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットにおいて一般的な工程条件が、300〜400℃の温度、600〜3000kPaのゲージ圧、および0.2〜2h-1の重量空間速度である、請求項1からいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記水蒸気分解ユニットに一般的な工程条件が、750〜900℃の温度、50〜1000ミリ秒の滞留時間および大気圧から175kPaまでのゲージ圧を含む、請求項1から10いずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットからの頭頂気体流の相当な部分を水蒸気分解ユニットの分離区域に直接供給しない工程をさらに含む、請求項1から11いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素原料から軽質オレフィンおよび芳香族化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慣習的に、原油は、蒸留によって、ナフサ、軽油および残油などの数多くの留分(cuts)に処理される。これらの留分の各々には、ガソリン、ディーゼル燃料および灯油などの輸送燃料の製造またはいくつかの石油化学製品および他の処理ユニットへの供給物としてなどの数多くの潜在的な用途がある。
【0003】
ナフサおよびいくつかの軽油などの軽質原油留分は、炭化水素供給流を蒸発させ、水蒸気で希釈し、次いで、炉(反応装置)管内で短い滞留時間(1秒未満)、非常に高温(800℃から860℃)に曝す、水蒸気分解などのプロセスによって、軽質オレフィンおよび単環芳香族化合物の製造に使用できる。そのようなプロセスにおいて、供給流中の炭化水素分子は、供給分子と比べて(平均で)より短い分子および水素対炭素比がより低い分子(オレフィンなど)に転換される。このプロセスにより、有用な副生成物としての水素並びにメタンおよびC9+芳香族化合物と縮合芳香族種(縁を共有する2つ以上の芳香環を含む)などの大量の価値の低い副産物が生成される。
【0004】
典型的に、残油などのより重質の(または沸点のより高い)、芳香族含有量がより多い流れは、原油からのより軽質(蒸留可能な)生成物の収率を最大にするために原油精製所内でさらに処理される。この処理は、水素化分解(それにより、水素化分解供給物は、水素の同時添加により、供給分子のある分画をより短い炭化水素分子に分解する条件下で、適切な触媒に曝露される)などのプロセスによって行うことができる。重質精製流の水素化分解は、典型的に、高圧かつ高温で行われ、それゆえ、資本コストが高く付く。
【0005】
原油蒸留およびより軽質の蒸留流分の水蒸気分解のそのような組合せのある側面は、原油の分留に関連する資本コストと他のコストである。より重質の原油留分(すなわち、約350℃を超えて沸騰するもの)は、置換芳香族種、特に置換縮合芳香族種(縁を共有する2つ以上の芳香環を含む)が比較的豊富であり、水蒸気分解条件下では、これらの材料は、C9+芳香族化合物および縮合芳香族化合物などの重質副生成物を多量に生成するであろう。それゆえ、原油蒸留および水蒸気分解の従来の組合せの結果、より重質の留分からの価値のある生成物の分解収率は十分に高いとは考えられないので、または少なくとも代わりの精製の価値と比べた場合、原油の相当な分画は水蒸気分解装置により処理されない。
【0006】
上述した技術の別の側面は、軽質原油留分(ナフサなど)のみが水蒸気分解により処理された場合でさえ、供給流のかなりの割合が、C9+芳香族化合物および縮合芳香族化合物などの価値の低い重質副生成物に転化されることである。典型的なナフサと軽油に関して、これらの重質副生成物は、全生成物の収量の2から25%を占めるであろう(非特許文献1)。このことは、従来の水蒸気分解装置の規模で、価値の低い材料中の高価なナフサの著しい経済的降格を示すが、これらの重質副生成物の収量では、通常、これらの材料を、より価値の高い化学物質を多量に生成するであろう流れに価値を高める(例えば、水素化分解により)のに必要な資本投資が正当化されない。これは一部には、水素化分解プラントは資本コストが高く、ほとんどの石油化学プロセスと同様に、これらのユニットの資本コストは、概して、0.6または0.7の倍率に乗ぜられた処理量に対応する。その結果、小規模の水素化分解ユニットの資本コストは、水蒸気分解装置により生じた重質副生成物を処理するためのそのような投資を正当化するのには高すぎると、通常考えられる。
【0007】
残油などの重質精製流の従来の水素化分解の別の側面は、これは、所望の全体の転化率を達成するために選択された妥協条件下で行われることである。供給流は、様々な分解の容易さを持つ種の混合物を含んでいるので、これにより、比較的水素化分解が容易な種の水素化分解によって形成された蒸留可能な生成物のいくらかが、水素化分解がより難しい種を水素化分解するのに必要な条件下でさらに転化されることになる。これにより、水素の消費量およびそのプロセスに関連する熱管理の難しさが増し、またより価値のある種を犠牲にして、メタンなどの軽質分子の収率が増してしまう。
【0008】
原油蒸留およびより軽質の蒸留留分の水蒸気分解のそのような組合せのある特徴は、熱分解を促進するのに必要な高温に混合された炭化水素および水蒸気流をさらす前に、これらの留分の完全な蒸発を確実にすることが難しいので、対流および放射区域の配管を含む水蒸気分解炉管は、通常、沸点が約350℃より高い材料を多量に含有する留分の処理に適していないことである。分解管の高温区域に液体炭化水素の液滴が存在する場合、管の表面上にファウリング(fouling)および/またはコークスが急激に堆積し、これにより、熱伝導が低下し、圧力降下が増加し、最終的に、分解管の作動を制限して、コークスを取り除くために炉の操業を停止させる必要が生じる。この難点のために、元の原油のかなりの割合を、水蒸気分解装置により、軽質オレフィンと芳香族種に処理することができない。
【0009】
特許文献1は、多環芳香族化合物を含む炭化水素原料の単環芳香族化合物含有量を増加させるための触媒およびプロセスであって、不要な化合物を減少させつつ、ガソリン/ディーゼル燃料の収率を増加させることによって単環芳香族化合物を増加させ、それによって、多量の多環芳香族化合物を含む炭化水素の価値を高める経路を提供する触媒およびプロセスに関する。
【0010】
特許文献2は、炭化水素混合物から芳香族炭化水素混合物および液化石油ガス(LPG)を製造するプロセスと、そのプロセスの原料として使用することのできる炭化水素原料を製造するプロセスとを統合することによって、C2〜C4軽質オレフィン炭化水素の生産を増加させるプロセスに関する。特許文献2には、炭化水素原料を熱分解炉に供給して熱分解反応を行う工程、およびその熱分解反応から精製された反応生成物を、圧縮および分別プロセスによって、水素およびC4以下の炭化水素を含有する流れと、C5+炭化水素を含有する流れとに分離する工程が教示されており、ここで、水素化分解装置からの頭頂流が熱分解プロセスの圧縮および分別ユニットに供給され、それによって、再循環される。
【0011】
特許文献3は、石油または残油含有石油分画からオレフィンを製造する方法であって、その中に残油分画を含有する水素化処理流出物が水蒸気分解装置の供給物として使用される方法、特に、オレフィン生成物を得るために、残油含有材料の水素化を水蒸気分解と統合したプロセスに関する。
【0012】
特許文献4は、水素の存在下で石油の炭化水素の供給物を熱分解する方法であって、その水素化分解プロセスが、0.01秒と0.5秒の非常に短い滞留時間および625から1000℃に及ぶ反応装置の出口での温度範囲で、反応装置の出口での5および70バール(約500kPaおよび7MPa)の圧力下で行われる方法に関する。ナフサなどの軽質炭化水素分画の接触分解が、精製所関係における公知の技術である。このプロセス自体は、軽質オレフィン(特にプロピレン)の製造を目的としており、大抵、さらなる処理後に通常は燃料プールに行くであろう未転化/液体生成物(FCCナフサおよびそれより重質のもの)を有する。石油化学コンビナートにこの技術を使用する特徴は、この材料の出口(の要望)のないこと、およびBTX以外の不飽和および/または高級(置換)芳香族種(例えば、ナフタレン)の存在による低品質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/173665号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/287561号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/090018号明細書
【特許文献4】米国特許第3842138号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Table VI, Page 295, Pyrolysis: Theory and Industrial Practice by Lyle F. Albright et al, Academic Press, 1983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、ナフサを芳香族化合物およびLPG分解装置の供給物にアップグレードする方法を提供することにある。
【0016】
本発明の別の課題は、炭化水素原料から軽質オレフィンおよび芳香族化合物を製造する方法であって、エチレンとプロパンの高収率を達成できる方法を提供することにある。
【0017】
本発明の別の課題は、炭化水素原料から軽質オレフィンおよび芳香族化合物を製造する方法であって、幅広い炭化水素原料を処理できる、すなわち、供給物の融通性が高い方法を提供することにある。
【0018】
本発明の別の課題は、炭化水素原料から軽質オレフィンおよび芳香族化合物を製造する方法であって、芳香族化合物の収率を改善できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、炭化水素原料から軽質オレフィンおよび芳香族化合物を製造する方法であって、
(a)炭化水素原料をFCCユニットに供給する工程、
(b)FCC反応から生成された反応生成物を、底部流と、中間流と、上部流とに分離する工程、
(c)(b)からの中間流をガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給する工程、
(d)工程(c)のGHCユニットの反応生成物を、水素、メタンおよびC2〜C4パラフィンを含む頭頂気体流と、芳香族炭化水素化合物を含む底部流とに分離する工程、および
(e)ガソリン水素化分解(GHC)ユニットからの頭頂気体流を水蒸気分解ユニットに供給する工程、
を有してなる方法に関する。
【0020】
これらの工程(a)〜(e)に基づいて、前記課題の1つ以上を達成できる。本願の発明者等は、GHC技術をそのようなFCC反応装置と組み合わせることによって、液体生成物を、軽質芳香族化合物(BTX)および高価値の水蒸気分解装置の供給物LPGに直接さらにアップグレードすることができることを発見した。その上、ナフテン種がBTXに転化されるので、既存の技術との相乗効果または既存の技術に勝る改善が得られ、これは、例えば、液体生成物の水素化分解装置のアップグレードにおける場合ではない。高純度のBTX生成物が直接得られる。芳香族化合物のより長い側鎖が軽質オレフィンにアップグレードされる(すなわち、炭素数のより多い単環芳香族化合物を有するのではなく、これらの成分は、基本的に、高価値の分解装置の供給物であるLPGおよびBTXに分解/転化される)。
【0021】
従来の水蒸気分解に勝る本発明による方法の利点の1つは、エチレンとプロピレンおよびBTXのより高い収率が達成されること、すなわち、より高い炭素利用率/高価値化学物質の生産である。その上、このタイプのFCCに典型的なP/E比の値は、ほぼ等しいプロピレンおよびエチレンの収率(1の値)であり、これにより、通常課せられる典型的な水蒸気分解装置のP/E比の範囲外で作動することができる。
【0022】
さらに、水蒸気分解炉およびFCC技術の両方による本発明の並行ナフサ処理経路により、副産物の恩恵に悪影響を与えずに、P/E比をよりよく制御することができる。制御は、これらの2つの経路に亘る供給物の分布および/または供給物のブレンド並びに供給物の購入機会のより高い自由度/最適化によるものであり得る。何故ならば、ボトルネックをより効率的に避けられるからである。これにより、収益を最大にするために、C2とC3のボトルネックをいつでも同時に合わせることができる。
【0023】
本願の発明者等は、FCCプロセスが、蒸発させるのがそのように難しいこと/ファウリング成分に対してより寛大である(触媒上にある程度のコークスの形成という犠牲を払って;連続再生のためにこれに対処することができる)ことを発見した。これにより、重質残滓タイプの供給物(コンデンセートおよび汚染ナフサ)の作動領域が増大する。何故ならば、FCCプロセスは、水蒸気分解炉と比べて、遅すぎる蒸発または蒸発できないことのために、ファウリングを生じる高沸点成分により寛大であるからである。重質成分は、触媒上に形成されるコークスに転化される(したがって、連続的な再生により、大した問題ではない)か、または軽質(分解可能な)成分にアップグレードされる。
【0024】
本発明よれば、水蒸気分解のそのような制限は、ナフサおよび/または重質コンデンセート並びに類似の流れ(軽油、粗製汚染ナフサ/コンデンセートなどを含む)を、分解可能な軽質ナフサおよびFCCに送られる底部のより重質のナフサまたは重質残滓ナフサ/軽油底部生成物に分離するスプリッタを有することにより避けることができる。このスプリッタのカットポイントにより、2つの異なる処理経路について、負荷と供給物の融通性を制御することができる。FCCユニットの液体生成物がGHCアップグレードユニットに送られることが好ましい。本発明の実施の形態において、BTXがGHCユニット内で生成され、生成されたLPGが水蒸気分解装置に送られて、高収率でオレフィンが生成される。本質的に、本発明のスプリッタは、FCCユニットのための特定の供給物の生成を可能にし、FCCユニット内の供給物のより困難な部分および最適なエチレンとプロピレンの生産のための水蒸気分解装置またはFCC内にバランスのとれた材料の残りを処理することによって、供給物の融通性を最大にする。それと同時に、通常水蒸気分解されたものよりも重質の供給物を同様にFCCユニットに直接供給することができる。本発明の方法に基づいて、軽質オレフィン(エチレンおよびプロピレン)の全収率も、従来の水蒸気分解と比べて高くなると期待される。供給物の組成に基づいて、FCCは、例えば、Advanced Catalytic Olefins(ACO)ユニット、パラフィン供給物からの増加したプロピレンの生産を可能にするプロセス、および残油アップグレードのためのより従来のFCCユニットの間で様々である。
【0025】
本発明による方法は、蒸留ユニット内で炭化水素原料を分離する工程をさらに含み、その蒸留ユニットからの底部流はFCCユニットに供給され、その頭頂流は水蒸気分解ユニットに供給される。そのような蒸留は、分子構造がそれ以上分解されずには、直接水蒸気分解できない成分を含む特定のタイプの供給物を使用する場合に、特に好ましい。それゆえ、蒸留塔を使用する実施の形態において、蒸留塔からの底部流をFCCユニットに直接送ること、またはその底部流を別のタイプの原料と最初に混合し、次いで、そのように得られた混合物をFCCユニットに送ることが可能である。
【0026】
上述したように、ガソリン水素化分解装置(GHC)において、頭頂気体流が生成され、その頭頂気体流のC2〜C4パラフィンの含有量は多い。この頭頂気体流は、水蒸気分解ユニットに送られる。好ましい実施の形態によれば、ガソリン水素化分解(GHC)ユニットから来る頭頂気体流からのC2〜C4パラフィンが最初に分離され、次いで、頭頂気体流からそのように分離されたC2〜C4パラフィンが水蒸気分解ユニットの炉区域に供給される。
【0027】
別の好ましい実施の形態によれば、前記C2〜C4パラフィンは、それぞれ、C2パラフィン、C3パラフィンおよびC4パラフィンを主に含む個々の流れに分離される。特定のパラフィンを高純分含量で有する流れと見なすことができるこれらの個々の流れは、水蒸気分解ユニットの特定の炉区域に供給される。
【0028】
本発明はさらに、好ましい実施の形態において、前記水蒸気分解ユニットの反応生成物の、水素、メタンおよびエチンを含有する頭頂流、C2=、C3=およびC4=を含有する中間流、並びにC9+炭化水素を含む第1の底部流、および芳香族炭化水素化合物と非芳香族炭化水素化合物を含む第2の底部流への分離を含む。
【0029】
経済的理由および技術的理由から、頭頂流だけでなく、同様にC3+アルカンも水蒸気分解ユニットに戻すことが好ましい。
【0030】
好ましい実施の形態によれば、本発明の方法は、第2の底部流をガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給する工程をさらに含む。
【0031】
好ましくは、第1の底部流を水素供与体タイプの原料と最初に組み合わせ、次いで、そのように組み合わされた材料をFCCユニットに供給することによって、第1の底部流をFCCユニットに供給することも好ましい。C9+炭化水素を含む第1の底部流は水素欠乏材料と見なすことができるので、この第1の底部流をFCCユニットに供給する前に、水素供与体タイプの材料を加えることが好ましい。水素供与体タイプの原料の例に、水素またはナフサなどの軽質原料、もしくはそれらの組合せがある。
【0032】
前記方法は、ガソリン水素化分解(GHC)ユニットの反応生成物からの底部流を、BTXの豊富な分画およびヘビーサイクルオイル(HCO)分画に分離する工程をさらに含み、好ましい実施の形態によれば、本発明の方法は、FCCユニットからの第1の底部流、ヘビーサイクルオイル(HCO)分画および水蒸気分解ユニットの反応生成物の底部流の群から選択される流れの1つ以上を組み合わせる工程をさらに含む。
【0033】
好ましい実施の形態によれば、特に、ガソリン水素化分解(GHC)ユニットからの頭頂流のC3〜C4分画が脱水素化ユニットに供給される。そのようなC3〜C4分画は、C3流とC4流だけでなく、混合C3よびC4流にも分離することができる。プロパンおよびブタンなどの低級アルカンの脱水素化のためのプロセスが、低級アルカン脱水素化プロセスとして記載されている。「プロパン脱水素化ユニット」という用語は、その中で、プロパン供給流が、プロピレンと水素を含む生成物に転化される、石油化学プロセスユニットに関する。したがって、「ブタン脱水素化ユニット」という用語は、ブタン供給流をC4オレフィンに転化するためのプロセスユニットに関する。本発明の方法は、FCCユニットからの上部流を、水蒸気分解ユニットからの反応生成物の流れと組み合わせる工程をさらに含む。
【0034】
FCCユニット中への好ましい炭化水素原料の例は、ナフサ、灯油、ディーゼル燃料、常圧軽油(AGO)、コンデンセート、蝋、粗製汚染ナフサ、真空軽油(VGO)、減圧残油、常圧残油、前処理ナフサ、またはそれらの組合せの群から選択される。
【0035】
FCCユニットにおいて一般的な工程条件は、請求項に見つけられる。ガソリン水素化分解(GHC)ユニットにおいて一般的な工程条件は、300〜450℃の温度、300〜5000kPaのゲージ圧、および0.1〜10h-1の重量空間速度、好ましくは、300〜400℃の温度、600〜3000kPaのゲージ圧、および0.2〜2h-1の重量空間速度である。水蒸気分解ユニットにおいて一般的な工程条件は、請求項に見つけられる。
【0036】
水蒸気分解ユニットにおいて直接処理できる原料の例に、ナフサおよびコンデンセートがある。
【0037】
本発明はさらに、水蒸気分解ユニットのための原料としての、多段階FCCおよび水素化分解された炭化水素原料の気体軽質分画の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施の形態の説明のための流れ図
【発明を実施するための形態】
【0039】
ここに用いた「原油」という用語は、地層から抽出された未精製形態の石油を称する。アラビアン・ヘビー原油、アラビアン・ライト原油、他の湾岸国の原油、ブレント原油、北海原油、北および西アフリカ産原油、インドネシア産原油、中国産原油、およびそれらの混合物だけでなく、シェール油、タールサンドおよびバイオ油を含むどんな原油も、本発明の方法のための原料物質として適している。本発明の方法への供給物として使用される原油が、ASTM D287標準により測定して、20°APIを超えるAPI比重を有する従来の石油であることが好ましい。本発明の方法に使用される原油が、30°APIを超えるAPI比重を有する軽質原油であることがより好ましい。本発明の方法に使用される原油がアラビアン・ライト原油を含むことが最も好ましい。アラビアン・ライト原油は、典型的に、32〜36°APIの間のAPI比重および1.5〜4.5質量%の間の硫黄含有量を有する。
【0040】
ここに用いた石油化学製品("petrochemicals"および"petrochemical products")という用語は、燃料として使用されない、原油に由来する化学製品に関する。石油化学製品は、化学製品および高分子を製造するための基礎原料として使用されるオレフィン類および芳香族化合物を含む。高価値の石油化学製品としては、オレフィン類および芳香族化合物が挙げられる。典型的な高価値のオレフィンとしては、以下に限られないが、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ブチレン−1、イソブチレン、イソプレン、シクロペンタジエンおよびスチレンが挙げられる。典型的な高価値の芳香族化合物としては、以下に限られないが、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびエチルベンゼンが挙げられる。
【0041】
ここに用いた「燃料」という用語は、エネルギー担体として使用される原油に由来する生成物に関する。明確な化合物の一群である石油化学製品とは異なり、燃料は、典型的に、様々な炭化水素化合物の複合混合物である。石油精製所で通常製造される燃料としては、以下に限られないが、ガソリン、ジェット燃料、ディーゼル燃料、重油燃料、および石油コークスが挙げられる。
【0042】
ここに用いた「原油蒸留ユニットにより生じた気体」または「気体分画」という用語は、周囲温度で気体である原油蒸留プロセスにおいて得られる分画を称する。したがって、原油蒸留に由来する「気体分画」は、主にC1〜C4炭化水素を含み、硫化水素および二酸化炭素などの不純物をさらに含むことがある。本明細書において、原油蒸留により得られる他の石油分画は、「ナフサ」、「灯油」、「軽油」および「残油」と称される。ナフサ、灯油、軽油および残油という用語は、ここでは、石油精製プロセスの分野において一般的な通義を有するものとして使用される;Alfke et al. (2007) Oil Refinin, Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry and Speight (2005) Petroleum Refinery Processes, Krik-Othmer Encyclopedia of Chemical Technologyを参照のこと。この点に関して、原油に含まれる炭化水素化合物の複合混合物および原油蒸留プロセスに対する技術的な限界のために異なる原油蒸留分画の間には重複があるであろうことを留意のこと。ここに用いた「ナフサ」という用語は、好ましくは、約20〜200℃、より好ましくは30〜190℃の沸点範囲を有する、原油蒸留により得られる石油分画に関する。軽質ナフサは、好ましくは、約20〜100℃、より好ましくは約30〜90℃の沸点範囲を有する分画である。重質ナフサは、好ましくは、約80〜200℃、より好ましくは約90〜190℃の沸点範囲を有する。ここに用いた「灯油」という用語は、好ましくは、約180〜270℃、より好ましくは約190〜260℃の沸点範囲を有する、原油蒸留により得られる石油分画に関する。ここに用いた「軽油」という用語は、好ましくは、約250〜360℃、より好ましくは約260〜350℃の沸点範囲を有する、原油蒸留により得られる石油分画に関する。ここに用いた「残油」という用語は、好ましくは、約340℃超、より好ましくは約350℃超の沸点を有する、原油蒸留により得られる石油分画に関する。
【0043】
ここに用いたように、「精製ユニット」という用語は、原油の石油化学製品および燃料への転化のための石油化学プラントコンビナートの一部に関する。この点に関して、水蒸気分解装置などの、オレフィン合成のためのユニットも、「精製ユニット」を表すものと考えられることに留意のこと。本明細書において、精製ユニットにより生成されるまたは精製ユニット運転において生成される様々な炭化水素流は:精製ユニット由来気体、精製ユニット由来軽質蒸留物、精製ユニット由来中間蒸留物、および精製ユニット由来重質蒸留物と称される。「精製ユニット由来気体」という用語は、周囲温度で気体である、精製ユニットにおいて生成される生成物の分画に関する。したがって、精製ユニット由来気体流は、LPGおよびメタンなどの気体化合物を含むことがある。精製ユニット由来気体流に含まれる他の成分は、水素および硫化水素であることがある。軽質蒸留物、中間蒸留物および重質蒸留物という用語は、ここでは、石油精製プロセスの分野における一般的な通義を有するものとして使用される;Speight, J.G. (2005) loc. Cit.参照のこと。この点に関して、精製ユニットの運転により生成される生成物流中に含まれる炭化水素化合物の複合混合物および様々な蒸留分画を分離するために使用される蒸留プロセスに対する技術的な限界のために、それらの異なる分画の間には重複があるであろうことに留意のこと。精製ユニット由来軽質蒸留物は、好ましくは、約20〜200℃、より好ましくは約30〜190℃の沸点範囲を有する、精製ユニットプロセスにおいて得られる炭化水素蒸留物である。「軽質蒸留物」は、しばしば、芳香環を1つ有する芳香族炭化水素が比較的豊富である。精製ユニット由来中間蒸留物は、好ましくは、約180〜360℃、より好ましくは約190〜350℃の沸点範囲を有する、精製ユニットプロセスにおいて得られる炭化水素蒸留物である。「中間蒸留物」は、芳香環を2つ有する芳香族炭化水素が比較的豊富である。精製ユニット由来重質蒸留物は、好ましくは、約340℃超、より好ましくは約350℃超の沸点を有する、精製ユニットプロセスにおいて得られる炭化水素蒸留物である。「重質蒸留物」は、縮合芳香環を有する炭化水素が比較的豊富である。
【0044】
「芳香族炭化水素」または「芳香族化合物」という用語は、当該技術分野で非常によく知られている。したがって、「芳香族炭化水素」という用語は、仮想的局在構造(ケクレ構造)の安定性より著しく大きい安定性(非局在化のために)を有する環状共役炭化水素に関する。所定の炭化水素の芳香族性を決定するための最も一般的な方法は、1H NMRスペクトルにおけるジアトロピシティー(diatropicity)、例えば、ベンゼン環のプロトンについて7.2から7.3ppmの範囲にある化学シフトの存在の観察である。
【0045】
「ナフテン炭化水素」または「ナフテン」もしくは「シクロアルカン」という用語は、ここでは、既定の意味を有するものとして使用され、したがって、その分子の化学構造中に炭素原子の環を1つ以上有するタイプのアルカンに関する。
【0046】
「オレフィン」という用語は、ここでは、既定の意味を有するものとして使用される。したがって、オレフィンは、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する不飽和炭化水素化合物に関する。「オレフィン」という用語が、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ブチレン−1、イソブチレン、イソプレンおよびシクロペンタジエンの2つ以上を含む混合物に関することが好ましい。
【0047】
ここに用いた「LPG」という用語は、「液化石油ガス」という用語の既定の頭字語を指す。LGPは、概して、C2〜C4炭化水素のブレンド、すなわち、C2、C3、およびC4炭化水素の混合物からなる。
【0048】
ここに用いた「BTX」という用語は、ベンゼン、トルエンおよびキシレンの混合物に関する。
【0049】
ここに用いたように、「#」が正の整数である、「C#炭化水素」という用語は、#個の炭素原子を有する全ての炭化水素を記述することを意味する。さらに、「C#+炭化水素」という用語は、#以上の炭素原子を有する全ての炭化水素分子を記述することを意味する。したがって、「C5+炭化水素」という用語は、5以上の炭素原子を有する炭化水素の混合物を記述することを意味する。したがって、「C5+アルカン」という用語は、5以上の炭素原子を有するアルカンに関する。
【0050】
ここに用いたように、「原油蒸留ユニット(crude distillation unitまたはcrude oil distillation unit)」という用語は、原油を分別蒸留により分画に分離するために使用される分留塔に関する;Alfke et al. (2007) loc.cit.を参照のこと。原油が、沸点のより高い成分(常圧残油または「残油(resid)」から軽油およびより軽質な分画を分離するために常圧蒸留ユニットにおいて処理されることが好ましい。本発明において、残油のさらなる分別のために残油を真空蒸留ユニットに通過させる必要はなく、残油を単一分画として処理することが可能である。しかしながら、比較的重質の原油供給物の場合、残油を真空軽油分画および減圧残油分画にさらに分離するために、真空蒸留ユニットを使用して、残油をさらに分別することが都合良いであろう。真空蒸留が使用される場合、真空軽油分画および減圧残油分画は、続く精製ユニットにおいて別々に処理されてもよい。例えば、具体的に言うと、減圧残油分画は、さらに処理される前に、溶媒脱歴に施されてもよい。
【0051】
ここに用いたように、「水素化分解ユニット」または「水素化分解装置」という用語は、水素化分解プロセス、すなわち、高い水素分圧の存在により支援される触媒分解プロセスがその中で行われる精製ユニットに関する;例えば、Alfke et al. (2007) loc.citを参照のこと。このプロセスの生成物は、飽和炭化水素および、温度、圧力、空間速度および触媒活性などの反応条件に応じて、BTXを含む芳香族炭化水素である。水素化分解に使用される工程条件は、一般に、200〜600℃の工程温度、0.2〜20MPaの高圧、0.1〜10h-1の間の空間速度を含む。
【0052】
水素化分解反応は二機能性機構により進み、この機構は酸性機能と水素化機能を必要とし、酸機能は、分解と異性化を与え、供給物中に含まれる炭化水素化合物に含まれる炭素−炭素結合の破壊および/または再配置をもたらす。水素化分解プロセスに使用される多くの触媒は、様々な遷移金属、または金属硫化物をアルミナ、シリカ、アルミナ−シリカ、マグネシアおよびゼオライトなどの固体担体と混合することによって形成される。
【0053】
ここに用いたように、「ガソリン水素化分解ユニット」または「GHC」という用語は、以下に限られないが、改質ガソリン、FCCガソリンおよび分解ガソリン(パイガス)を含む精製ユニット由来軽質蒸留物などの芳香族炭化水素化合物が比較的豊富な複合炭化水素供給物をLPGおよびBTXに転化させるのに適した水素化分解プロセスであって、GHC原料中に含まれる芳香族化合物の1つの芳香環を完全なままに維持するが、その芳香環から側鎖のほとんどを除去するように最適化されたプロセスを実施するための精製ユニットを称する。したがって、ガソリン水素化分解により生じる主要な生成物はBTXであり、そのプロセスは、化学用BTXを提供するために最適化することができる。ガソリン水素化分解が行われる炭化水素供給物が精製ユニット由来軽質蒸留物を含むことが好ましい。ガソリン水素化分解が行われる炭化水素供給物が、複数の芳香環を有する炭化水素を1質量%以下しか含まないことがより好ましい。ガソリン水素化分解条件が、好ましくは、300〜580℃、より好ましくは450〜580℃、さらにより好ましくは470〜550℃の温度を含む。芳香環の水素化が有力になるので、それより低い温度は避けなければならない。しかしながら、触媒が、スズ、鉛またはビスマスなどの、触媒の水素化活性を低減させるさらに別の元素を含む場合、ガソリン水素化分解のためにより低い温度を選択してもよい;例えば、国際公開第02/44306A1号および同第2007/055488号を参照のこと。反応温度が高すぎる場合、LPG(特に、プロパンおよびブタン)の収率が低下し、メタンの収率が上昇してしまう。触媒活性は、触媒の寿命に亘り低下するであろうから、水素化分解の転化率を維持するために、触媒の寿命に亘り反応装置の温度を徐々に上昇させることが都合良い。このことは、作動サイクルの開始時の最適温度が、水素化分解温度範囲の下端であることを意味する。その最適反応装置温度は、好ましくは、サイクルの終わり(触媒が交換されるまたは再生される直前)に、その温度が水素化分解温度範囲の上端であるように選択されるように、触媒が失活するにつれて、上昇する。
【0054】
炭化水素供給流のガソリン水素化分解は、好ましくは、0.3〜5MPaのゲージ圧、より好ましくは0.6〜3MPaのゲージ圧、特に好ましくは1〜2MPaのゲージ圧、最も好ましくは1.2〜1.6MPaのゲージ圧で行われる。反応装置の圧力を上昇させることにより、C5+非芳香族化合物の転化率を増加させることができるが、これにより、メタンの収率および芳香環のシクロヘキサン種(LPG種に分解することができる)への水素化も増加する。これにより、圧力が上昇するにつれて芳香族類の収率が減少し、いくつかのシクロヘキサンおよびその異性体のメチルシクロペンタンは、完全には水素化分解されないので、1.2〜1.6MPaの圧力で結果として生じたベンゼンの純度が最適である。
【0055】
炭化水素供給流のガソリン水素化分解は、好ましくは、0.1〜10h-1の重量空間速度(WHSV)、より好ましくは0.2〜6h-1の重量空間速度、最も好ましくは0.4〜2h-1の重量空間速度で行われる。空間速度が速すぎると、BTX共沸パラフィン成分の全てが水素化分解されるわけでなく、それゆえ、反応装置生成物の単純な蒸留によって、BTX仕様を達成することはできなくなる。低すぎる空間速度では、プロパンとブタンを犠牲にして、メタンの収率が上昇してしまう。意外なことに、最適な重量空間速度を選択することによって、ベンゼン共沸物の十分に完全な反応が達成されて、液体を再循環する必要なく、仕様を満たすBTXが生じることが分かった。
【0056】
したがって、好ましいガソリン水素化分解条件は、450〜580℃の温度、0.3〜5MPaのゲージ圧、および0.1〜10h-1の重量空間速度を含む。より好ましいガソリン水素化分解条件は、470〜550℃の温度、0.6〜3MPaのゲージ圧、および0.2〜6h-1の重量空間速度を含む。特に好ましいガソリン水素化分解条件は、470〜550℃の温度、1〜2MPaのゲージ圧、および0.4〜2h-1の重量空間速度を含む。
【0057】
ここに用いたように、「流動接触分解ユニット」または「FCCユニット」という用語は、石油原油の高沸点、高分子量炭化水素分画を、沸点のより低い炭化水素分画およびオレフィンガスに転化するための精製ユニットに関する。FCCユニットにおいて、分解は、一般に、「上昇管(riser)」と呼ばれる、接触時間の短い垂直または上方に傾斜した管内の非常に活性の高いゼオライト系触媒を使用して行われる。予熱された供給物が、供給物ノズルを通じてその上昇管の根元に吹き付けられ、そこで、極めて高温の流動触媒と接触する。流動接触分解に使用される好ましい工程条件は、一般に、425〜700℃の温度および10〜800kPaのゲージ圧を含む。この高温の触媒は、供給物を蒸発させ、分解反応を触媒し、これにより、高分子量の炭化水素が、LPG、軽質蒸留物および中間蒸留物を含むより軽質の成分に分解される。この触媒/炭化水素混合物は、数秒間、上昇管を通って上方に流動し、次いで、その混合物はサイクロンにより分離される。この触媒を含まない炭化水素は、主要分別装置(燃料ガス、LPG、軽質蒸留物、中間蒸留物および重質蒸留物への分離のためのFCCユニットのある構成要素)に送られる。「使用済み(spent)」触媒は、分解された炭化水素蒸気から取り除かれ、ストリッパに送られ、そこで、水蒸気と接触して、触媒の細孔中に残留している炭化水素を除去する。次いで、「使用済み」触媒は、流動床型再生装置に流入し、そこで、コークスを焼き尽くして触媒活性を取り戻し、分解は吸熱反応であるので、次の反応周期のために必要な熱を提供するために、空気が(またはある場合には、空気に加えて酸素も)使用される。「再生された」触媒は、次に、上昇管の根元に流れ、その周期を繰り返す。本発明の方法は、炭化水素供給物および所望の生成物分量に応じて、異なる工程条件で作動するいくつかのFCCユニットを備えることもある。ここに用いたように、「低苛酷度FCC」または「精製FCC」という用語は、芳香族化合物が比較的豊富な軽質蒸留物(「FCCガソリン」)の生産のために最適化されたFCCプロセスに関する。ほとんどの従来の精製所はガソリンの生産のために最適化されているので、従来のFCCプロセスの作動条件は、低苛酷度FCCを表すと考えることができる。精製FCCに使用される好ましい工程条件は、一般に、425〜570℃の温度および10〜800kPaのゲージ圧を含む。ここに用いたように、「高苛酷度FCC」または「石油化学製品FCC」という用語は、オレフィンの生産のために最適化されたFCCプロセスに関する。高苛酷度FCCプロセスは、従来技術から公知であり、特に、欧州特許出願公開第0909804A2号、同第0909582A1号および米国特許第5846402号の各明細書に記載されている。高苛酷度FCCに使用される好ましい工程条件は、一般に、540〜700℃の温度および10〜800kPaのゲージ圧を含む。
【0058】
本発明の方法は、接触改質または流動接触分解などの、下流の精製プロセスにおける触媒の失活を防ぐために、特定の原油分画から硫黄を除去する必要があることがある。そのような水素化脱硫プロセスは、「HDSユニット」または「水素化処理機(hydrotreater)」内で行われる;Alfke (2007) loc. citを参照のこと。一般に、水素化脱硫反応は、促進剤の有無にかかわらず、アルミナ上に担持された、Ni、Mo、Co、WおよびPtからなる群より選択される元素を含む触媒の存在下で、200〜425℃、好ましくは300〜400℃の高温およびゲージ圧で1〜20MPa、好ましくは1〜13MPaの高圧で、固定床反応装置内で行われ、ここで、触媒は硫化物形態にある。
【0059】
さらなる実施の形態において、本発明の方法は、水素化脱アルキル化工程をさらに含み、ここで、BTX(または生成されたBTXのトルエンおよびキシレン分画のみ)が、ベンゼンおよび燃料ガスを含む水素化脱アルキル化生成物流を生成するのに適した条件下で、水素と接触させられる。
【0060】
BTXからベンゼンを生成する工程段階は、水素化分解生成物流中に含まれるベンゼンを、水素化アルキル化の前にトルエンおよびキシレンから分離する工程を含むこともある。この分離工程の利点は、水素化脱アルキル化反応装置の能力が高まることである。ベンゼンは、従来の蒸留によってBTX流から分離することができる。
【0061】
C6〜C9芳香族炭化水素を含む炭化水素混合物の水素化脱アルキル化のプロセスは、当該技術分野で周知であり、熱水素化脱アルキル化および接触水素化脱アルキル化を含む;例えば、国際公開第2010/102712A2号を参照のこと。接触水素化脱アルキル化プロセスは一般に、熱水素化脱アルキル化よりもベンゼンに対する選択性が高いので、本発明の文脈において、この接触水素化脱アルキル化が好ましい。接触水素化脱アルキル化が使用されることが好ましく、ここでは、水素化脱アルキル化触媒は、担持酸化クロム触媒、担持酸化モリブデン触媒、シリカまたはアルミナ上白金およびシリカまたはアルミナ上酸化白金からなる群より選択される。
【0062】
「水素化脱アルキル化条件」としてもここに記載される、水素化脱アルキル化に有用な工程条件は、当業者により容易に決定することができる。熱水素化脱アルキル化に使用される工程条件は、例えば、独国特許出願公開第1668719A1号明細書に記載されており、600〜800℃の温度、3〜10MPaのゲージ圧および15〜45秒間の反応時間を含む。好ましい接触水素化脱アルキル化に使用される工程条件は、国際公開第2010/102712A2号に記載されており、500〜650℃の温度、3.5〜8MPa、好ましくは3.5〜7MPaのゲージ圧、および0.5〜2h-1の重量空間速度を含むことが好ましい。水素化脱アルキル化生成物流は、典型的に、冷却と蒸留の組合せによって、液体流(ベンゼンおよび他の芳香族化合物種を含有する)および気体流(水素、H2S、メタンおよび他の低沸点炭化水素を含有する)に分離される。この液体流は、蒸留により、ベンゼン流、C7からC9芳香族化合物流および必要に応じて、芳香族化合物が比較的多い中間蒸留物流にさらに分離してもよい。このC7からC9芳香族化合物流は、全体の転化率およびベンゼンの収率を増加させるために、再循環流として反応装置区域に戻すように供給してもよい。ビフェニルなどの多環芳香族種を含有する芳香族化合物流は、反応装置に再循環されないことが好ましいが、別の生成物流として輸送され、中間蒸留物(「水素化脱アルキル化により生成される中間蒸留物」)として統合プロセスに再循環してもよい。多量の水素を含有する前記気体流は、再循環ガス圧縮機により水素化脱アルキル化ユニットに戻すように再循環されても、または供給物として水素を使用する、本発明の方法に含まれる任意の他の精製ユニットに送られてもよい。反応装置供給物中のメタンおよびH2Sの濃度を制御するために再循環パージガスを使用してもよい。
【0063】
ここに用いたように、「気体分離ユニット」という用語は、原油蒸留ユニットにより生成される気体および/または精製ユニット由来の気体中に含まれる様々な化合物を分離する精製ユニットに関する。気体分離ユニットにおいて別個の流れに分離されるであろう化合物は、エタン、プロパン、ブタン、水素および主にメタンを含む燃料ガスを含む。本発明の文脈において、その気体の分離に適したどの従来の方法を使用してもよい。したがって、その気体は、多数の圧縮段階に施されることがあり、ここで、CO2およびH2Sなどの酸性気体が圧縮段階の間で除去されるであろう。それに続く工程において、生成された気体は、カスケード冷凍システムの各段階に亘り、気相中にほぼ水素しか残っていない状態まで部分的に凝縮されるであろう。その後、様々な炭化水素化合物が蒸留により分離されるであろう。
【0064】
アルカンのオレフィンへの転化のための非常に普及しているプロセスは、「水蒸気分解」または「熱分解」を含む。ここに用いたように、「水蒸気分解」という用語は、飽和炭化水素が、エチレンおよびプロピレンなどのより小さい、しばしば不飽和の炭化水素に分解される石油化学プロセスに関する。水蒸気分解において、エタン、プロパンおよびブタンなどのガス状炭化水素供給物、またはそれらの混合物(気体熱分解)、もしくはナフサまたは軽油などの液体炭化水素供給物(液体熱分解)は、水蒸気で希釈され、酸素の不在下で炉内において手短に加熱される。典型的に、反応温度は750〜900℃であるが、その反応は、非常に手短に、通常は50〜1000ミリ秒の滞留時間でしか行われない。好ましくは、比較的低い工程圧力は、大気圧から175kPaのゲージ圧であるように選択されるべきである。最適条件での分解を確実にするために、炭化水素化合物であるエタン、プロパンおよびブタンがそれぞれの専用の炉内で別々に分解されることが好ましい。分解温度に達した後、気体が急冷されて、移送ラインの熱交換器内で、または冷却油を使用した急冷ヘッダの内部で反応を停止させる。水蒸気分解により、反応装置の壁上に、炭素の一形態であるコークスがゆっくりと堆積する。デコーキングには、炉をプロセスから隔離する必要があり、次いで、水蒸気流または水蒸気/空気混合物を炉のコイルに通過させる。これにより、硬い固体の炭素層が一酸化炭素と二酸化炭素に転化される。この反応が一旦完了したら、炉をラインに戻す。水蒸気分解により生成される生成物は、供給物の組成、炭化水素対水蒸気の比率および分解温度と炉内の滞留時間に依存する。エタン、プロパン、ブタンまたは軽質ナフサなどの軽質炭化水素供給物により、エチレン、プロピレン、およびブタジエンを含む、より軽質の高分子等級のオレフィンが多い生成物流が生じる。より重質の炭化水素(全範囲および重質ナフサおよび軽油分画)も、芳香族炭化水素の多い生成物を生じる。
【0065】
水蒸気分解により生じた様々な炭化水素化合物を分離するために、その分解ガスは分別ユニットに施される。そのような分別ユニットは、当該技術分野で周知であり、重質蒸留物(「カーボンブラックオイル」)および中間蒸留物(「分解蒸留物」)が軽質蒸留物および気体から分離される、いわゆるガソリン分留装置を含むことがある。それに続く随意的な急冷塔において、水蒸気分解により生成される軽質蒸留物(「熱分解ガソリン」または「パイガス(pygas)」)のほとんどは、軽質蒸留物を凝縮することによって、気体から分離されるであろう。それに続いて、気体に多数の圧縮段階が施されてもよく、ここで、軽質蒸留物の残りが、圧縮段階の間で気体から分離される。酸性気体(CO2およびH2S)も圧縮段階の間で除去されるであろう。続く工程において、熱分解により生成された気体は、カスケード冷凍システムの各段階で、気相中にほぼ水素しか残っていない状態に部分的に凝縮されるであろう。様々な炭化水素化合物は、続いて、単純な蒸留により分離してよく、ここで、エチレン、プロピレンおよびC4オレフィンが、水蒸気分解により生成される最も重要な高価値の化学物質である。水蒸気分解により生成されるメタンは、一般に、燃料ガスとして使用され、水素は、分離され、水素化分解プロセスなどの、水素を消費するプロセスに再循環されてもよい。水蒸気分解により生成されるアセチレンは、エチレンに選択的に水素化されることが好ましい。分解ガス中に含まれるアルカンを、オレフィン合成のためのプロセスに再循環してもよい。
【0066】
ここに用いた「プロパン脱水素化ユニット」という用語は、プロパン供給流が、プロピレンおよび水素を含む生成物に転化される石油化学プロセスユニットに関する。したがって、「ブタン脱水素化ユニット」という用語は、ブタン供給流をC4オレフィンに転化するためのプロセスユニットに関する。プロパンおよびブタンなどの低級アルカンの脱水素化のためのプロセスは共に、低級アルカン脱水素化プロセスと記載される。低級アルカンの脱水素化のためのプロセスは、当該技術分野に周知であり、酸化的脱水素化プロセスおよび非酸化的脱水素化プロセスを含む。酸化的脱水素化プロセスにおいて、プロセス加熱は、供給物中の低級アルカンの部分酸化により与えられる。本発明の文脈において好ましい、非酸化的脱水素化プロセスにおいて、吸熱脱水素化反応のためのプロセス加熱は、燃料ガスの燃焼により得られる高温燃焼排ガスまたは水蒸気などの外部熱源により与えられる。非酸化的脱水素化プロセスにおいて、その工程条件は、一般に、540〜700℃の温度および25〜500kPaの絶対圧を含む。例えば、このUOP Oleflexプロセスは、移動床反応装置内においてアルミナ上に担持された白金含有触媒の存在下で、プロパンの脱水素化によりプロピレンを、(イソ)ブタンの脱水素化により(イソ)ブチレン(またはその混合物)を形成することを可能にする;例えば、米国特許第4827072号明細書を参照のこと。このUhde STARプロセスは、亜鉛−アルミナスピネル上に担持された促進白金触媒の存在下で、プロパンの脱水素化によりプロピレンを、またはブタンの脱水素化によりブチレンを形成することを可能にする;例えば、米国特許第4926005号明細書を参照のこと。このSTARプロセスは、オキシ脱水素化の原理を適用することによって、最近改良された。反応装置の補助断熱区域において、中間生成物からの水素の一部が、添加酸素により選択的に転化されて、水を形成する。これにより、熱力学的平衡がより高い転化率にシフトし、より高い収率が達成される。吸熱脱水素化反応に必要な外部熱も、発熱水素転化によりある程度供給される。Lummus Catofinプロセスは、循環基準で作動する数多くの固定床反応装置を利用する。その触媒は、18〜20質量%のクロムが含浸された活性化アルミナである;例えば、欧州特許出願公開第0192059A1号および英国特許出願公開第2162082A号の各明細書を参照のこと。このCatofinプロセスには、このプロセスがロバスト性であり、白金触媒を汚染するであろう不純物を取り扱うことができるという利点がある。ブタンの脱水素化プロセスにより生成される生成物は、ブタン供給物の性質および使用されるブタン脱水素化プロセスに依存する。Catofinプロセスは、ブタンの脱水素化により、ブチレンを形成することも可能にする;例えば、米国特許第7622623号明細書を参照のこと。
【0067】
本発明を次の実施例において論じるが、その実施例は、保護の範囲を制限するものとして解釈すべきではない。
【0068】
唯一の図面は、本発明の実施の形態の説明のための流れ図を提供する。
【実施例】
【0069】
工程スキームが唯一の図面に見つけられる。典型的な原料20、例えば、コンデンセートがFCCユニット4に直接送られる。FCCユニット4において、高温および中圧で原料を流動粉末触媒と接触させることによって、コンデンセートの長鎖分子がずっと短い分子に分解される。FCC反応から生成された反応生成物は、底部流16、中間流13および上部流9に分離される。FCCユニット4からの中間流13はガソリン水素化分解(GHC)ユニット5に送られる。このGHCユニット5の反応生成物は、水素、メタンおよびC2〜C4パラフィンを含む頭頂気体流25と、芳香族炭化水素化合物、主にいわゆるBTX分画を含む流れ15と、重質分画24とに分離される。ガソリン水素化分解(GHC)ユニット5からの頭頂流25は水蒸気分解ユニット1に送られる。図面に示されるように、原料20は、蒸留塔3内で分別されて、上部流19を得ることができる。上部流19は水蒸気分解ユニット1に送ることができる。蒸留塔からの底部流21は唯一の原料としてFCCユニット4に直接送ることができる。しかしながら、底部流21を原料29と混合し、そのように得られた混合物を原料30としてFCCユニット4に供給することも可能である。特定の形態において、原料20を流れ12および流れ7に分割することができ、流れ12のみが蒸留塔3内で分別される。そのような流れ7は、FCCユニット4に直接送られる。原料29は、蒸留塔3内で分別されず、FCCユニット4に直接送られるタイプの供給物である。
【0070】
唯一の図面に示されていないが、ガソリン水素化分解(GHC)ユニット5から来る頭頂気体流25からC2〜C4パラフィンを分離し、頭頂気体流25からこのように分離されたC2〜C4パラフィンを水蒸気分解ユニット1の炉区域に供給することが可能である。さらに、そのC2〜C4パラフィンを、それぞれ、C2パラフィン、C3パラフィンおよびC4パラフィンを主に含む個々の流れに分離し、各個々の流れを水蒸気分解ユニット1の特定の炉区域に供給することも可能である。水蒸気分解ユニット1の反応生成物18は、分離区域2において、C2〜C6アルカンを含有する頭頂流17、C2オレフィン、C3オレフィンおよびC4オレフィンを含有する中間流14、並びにC9+炭化水素を含む第1の底部流26、および芳香族炭化水素化合物と非芳香族炭化水素化合物を含む第2の底部流10に分離される。頭頂流17は水蒸気分解ユニット1に戻される。第2の底部流10はガソリン水素化分解(GHC)ユニット5に送られる。第2の底部流10はパイガス、C5〜C8を含む。分離区域2から、水素およびメタンも別個の流れとして回収し、他の場所で再利用することができる。好ましくは、第1の底部流26を水素供与体タイプの原料と最初に組み合わせ、そのように組み合わされた材料をFCCユニット4に供給することにより、第1の底部流26はFCCユニット4に送られる。水素供与体タイプの原料の例に、水素28またはナフサなどの軽質原料7、20、またはそれらの組合せがある。分離区域2からの再循環水素28を第1の底部流26と混合した後、その混合流22はFCCユニット4に送られる。混合流22は、流れ20、29および21などの他のタイプの原料とさらに混合しても差し支えない。別の実施の形態(図示せず)において、第1の底部流26の一部はガソリン水素化分解(GHC)ユニット5に送ることができる。
【0071】
ガソリン水素化分解(GHC)ユニット5からの頭頂流25は、2つの流れ8および11に分割することができ、流れ11は脱水素化ユニット23に送られる。流れ11がC3〜C4アルカンおよび少量の水素とメタンを含むことが好ましい。FCCユニット4からの上部流9は、水蒸気分解ユニット1から来る反応生成物の流れ18と組み合わせ、分離区域2に送ることができる。
【0072】
第1の底部流26は、流れ22および流れ27に分割することができ、流れ27はFCCユニット4の底部流16と組み合わされる。流れ16は、ガソリン水素化分解(GHC)ユニット5の流れ24とさらに組み合わせることができる。別の実施の形態(図示せず)において、流れ16は、パージとの組合せで、FCCユニット4に再循環させることができる。
【0073】
ここに開示された実施例は、いくつか場合の区別をしている。ここに与えられた実験データは、Aspen Plusにおける工程図モデル化により得た。水蒸気分解反応速度論を厳格に考慮した(水蒸気分解生成物分量の計算のためのソフトウェア)。
【0074】
適用した水蒸気分解炉の条件:
エタンおよびプロパン炉:COT(コイル出口温度)=845℃、水蒸気対油比=0.37、C4炉および液体炉:コイル出口温度=820℃、水蒸気対油比=0.37。ガソリン水素化分解ユニットについて、実験データに基づく反応スキームを使用している。流動接触分解ユニットは、文献からのデータに基づいてモデル化した。
【0075】
ケース1によれば、ナフサは水蒸気分解ユニットにしか処理されない。
【0076】
ケース2によれば、ナフサはFCCユニットおよびガソリン水素化分解(GHC)ユニットに続いて送られ、そのGHCユニット内で形成された気体流は水蒸気分解ユニットに送られ、その水蒸気分解ユニットからの反応生成物は分離される。前記FCCユニットからの上部流は水蒸気分解ユニットの分離区域に送られ、そのFCCユニットの中間流は前記GHCユニットに送られる。C2〜C4パラフィンが分離され、水蒸気分解ユニットの炉区域に送られる。
【0077】
ケース3の工程スキームはケース2と似ているが、このケースの原料は水素化処理済みVGOである。
【0078】
ケース4の工程スキームはケース2と似ているが、原料はスプリッタ、すなわち、蒸留塔に送られ、その底部流は前記FCCユニットの原料として使用され、その上部流は前記水蒸気分解ユニットに送られる。
【0079】
ケース1は比較例であり、ケース2、ケース3およびケース4は本発明による実施例である。
【0080】
表1は、それぞれ、ケース1、ケース2およびケース4の原料を示している。
【0081】
【表1】
【0082】
表2はケース3の原料を示している。
【0083】
【表2】
【0084】
表3は、前記スプリッタに送られる原料を分別することにより生じた上部流および底部流の特徴を示している。
【0085】
【表3】
【0086】
ケース1、2、3、および4の各々に関する装置の境界内生成物分量(供給物の質量%)が表4に見られる。
【0087】
【表4】
【0088】
モデル化の結果から、ケース2、3および4について、長い直鎖パラフィンおよびイソパラフィンがLPGに分解されることが分かる。本願の発明者等は、C7ナフテン、C8ナフテンおよびC9ナフトンは、ガソリン水素化分解(GHC)ユニットによって、トルエンとキシレンにアップグレードされることをさらに発見した。
【0089】
その上、本願の発明者等は、FCCユニットとそれに続くガソリン水素化分解(GHC)ユニットによりナフサを処理した場合に本当の利点を発見した。本願の発明者等は、ナフテンの芳香族化合物(トルエンおよびキシレン)への脱水素化のために、パイガス処理ユニットにより回収できるであろう、FCCナフサ中に既に存在するBTXに対して、BTXの量を65%まで増加させられると推測する。本発明の方法の追加の潜在的な利点は、蒸留塔3からの上部流19は、還流の必要がない場合、完全に凝縮される必要はなく、したがって、潜在的なエネルギーの利点が得られる。
【符号の説明】
【0090】
1 水蒸気分解ユニット
2 分離区域
3 蒸留塔
4 FCCユニット
5 ガソリン水素化分解(GHC)ユニット
23 脱水素化ユニット
図1