(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
図中、同様の構成要素及び特徴は、同じ参照番号によって示される場合があることに留意されたい。
【0016】
本明細書に記載される実施形態は、電気コイルの組及び透磁性材料(例えば、鉄又は鋼又はミューメタル)のボリュームを用いて、磁石又は磁石アレイの位置を決定するための方法及びシステムに関する。
【0017】
本明細書に記載される技術を示すために用いられる具体例は、
図1に示すように、円筒形の鉄芯に沿って直線的に配置された電気コイルの組を、芯及びコイルに沿って平行に動くように拘束された磁石又は磁石のアレイと共に含むリニアアクチュエータである(他の例は、参照により本明細書に組み込まれている米国特許出願公開第2014/0312716号明細書にさらに詳しく記載されている)。
【0018】
より具体的には、リニアアクチュエータは分割された芯10を含み、芯10は、例えば空気と比べて相対的に透磁率が高く、保磁力が低い、鉄若しくは鋼又はミューメタルなどの軟強磁性材料で作られた2つのセグメントを有する。2つの芯セグメントは円筒の半分であり、並べて置くと、芯の長手方向の軸に沿って延伸した中空の中央芯領域11を有する円筒を形成する。
【0019】
芯10の上に、互いに隣接して配置された同じコイル12のスタックが組み立てられ、直線状のコイルアレイを形成する。それらは互いに隣り合い、接触しているか又は小さい間隔で隔てられているという点において隣接している。この例では、コイルはすべて芯に対して同じ向きを有している、すなわち、芯のまわりに同じ方向に巻かれている。しかしながら、これに該当する必要はなく、設計の要件に応じて、巻く方向を交互にすること、又はいくつかの他の序列で配置することが可能である。
【0020】
直線状のコイルアレイの上に、磁石アレイを形成するリング磁石16(すなわち、リング形状の磁石)のスタックが配置される。前述の実施形態では、この磁石アレイは、6つの隣接して配置されたリング磁石16のスタックで構成される。各リング磁石は、コイルアレイの上に同軸に配置され、コイルアレイの周囲を囲む。この磁石アレイは、一緒に機械的に保持されて磁石組立体(又はアクチュエータ組立体)を形成し、それは、下にあるコイルに印加される電流によって磁石アレイにかけられる力に応答して、コイルアレイ(及び芯)の長さに沿って前後に動くことができる。すなわち、磁石アレイはコイルアレイに対して可動に取り付けられ、ここで、可動に取り付けることは、コイルアレイ及び芯が固定されている場合には磁石アレイがコイルアレイ及び芯に沿って動くことができる場合、並びに磁石アレイが固定されている場合にはコイルアレイが磁石アレイに対して動くことができる場合を包含するものとする。
【0021】
永久磁石であるリング磁石16、例えばネオジム−鉄−ホウ素磁石などの希土類磁石は、
図2に示すように配置された極性を有し、ハルバッハアレイによって得られるものと同様の結果を得る。より具体的には、
図2に示す6つのリング磁石16は、磁石アレイの一方の側(すなわち、コイル内)で磁場を増大させ、磁石アレイの他方の側で場を減少させるように配置されている。6つのリング磁石は、2つの磁気回路、すなわち2つの磁場ループを形成するように配置されている。上部の3つのリング磁石が第1の磁気回路を形成し、下部の3つのリング磁石が第2の磁気回路を形成する。
【0022】
第1の磁気回路では、一番上のリング磁石の磁場が半径方向内側に向けられ、中央のリング磁石の磁場が上方に向けられ、コイルアレイの軸と平行になり、一番下のリング磁石の磁場が半径方向外側に向けられる。3つのリング磁石は、磁石アレイの外側の場を減少させる(例えば、部分的にキャンセルする)と同時に、磁石アレイの内側の場を強めるように働く単一の磁気回路を形成する。磁石の配置が1つのループを形成する磁場を生じさせるため、それは単一の磁気回路である。
【0023】
下部の回路における磁石の極性の配置が、上部の回路における磁石の極性の配置の鏡像(すなわち、コイルアレイの軸に垂直な面に対する鏡像)であることに留意されたい。この6つの磁石の構成では、磁気モーメントは、アクチュエータ組立体の中心で2つのリングの幅にわたって半径方向に同じ方向に向けられる。これによってコイルアレイの連続する領域が増え、それに対してコイル電流に垂直な半径方向を向いた磁場が生じさせられる。
【0024】
もちろん、単一の磁気回路又は3つ以上の磁気回路を用いて、リニアアクチュエータを構成することも可能である。
【0025】
磁気的な組立体によって取り囲まれたコイルアレイの領域内に位置するコイル12に電流が印加されると、コイル内の周方向の電流と磁気的な組立体によって発生した半径方向を向いた磁場との相互作用が、コイルアレイの長手方向の軸に平行な力ベクトル(ローレンツ力)を生じさせる。これにより、電流の極性及び磁場の方向に応じて、磁石組立体が組立体の長手方向の軸に沿って一方の方向又は他方に動く。
【0026】
前述の実施形態では、各コイルの幅(すなわち、アクチュエータの動きの直線軸に沿った一方の側から他方までの寸法)は、同じ軸に沿ったアレイ内のリング磁石の幅に等しい。換言すれば、コイルと磁石は等しい周期を有する。したがって、1つのリング磁石が隣接するコイルと一列に並べられると、他のリング磁石のすべても対応する隣接するコイルと一列に並べられる。しかしながら、これは必要条件ではない。コイルは、リング磁石の幅と異なる幅を有することができる。例えば、コイルの幅の1.5倍の磁石のリング幅を選択する(すなわち、2つの磁石のリングが、コイルアレイ内の3つのコイルにまたがる)と、コイルを駆動して磁石組立体の動きを制御することになるときに有利になる場合があることが分かっている。
【0027】
この配置における電気コイル12は、自己インダクタンス及び相互インダクタンスを有する。以下のように記述することができる。すなわち、
【0029】
上式で、V
jはj番目のコイルに対する電圧であり、I
kはk番目のコイルにおける電流であり、M
jkは相互インダクタンスのアレイである。k=jの場合、M
jjはj番目のコイルの自己インダクタンスであることに留意されたい。相互インダクタンスのアレイの要素M
jkは、コイルの幾何学的アレイ、コイルの位置、並びにコイル間及びコイルのまわりのボリュームの透磁率に依存する。
【0030】
鉄芯10は、非線形の透磁率を有する。磁石によって誘導される場が十分に強ければ、磁石がきわめて近接しているとき、芯の透磁率が変化する。この透磁率の変化は、インダクタンスM
jkを変化させる。したがって、インダクタンスM
jkは、磁石又は磁石アレイの位置の関数である。すなわち、
【0036】
は、3D空間内のベクトルである。磁石又は磁石アレイについて論じているが、位置は1つの次元のみに沿って変わるため、
M
jk=M
jk(x) (3)
と記述することができる。
【0037】
磁石/磁石アレイが動くときの自己インダクタンス及び相互インダクタンスの変化は、磁石の位置を測定するために用いられるものである。インダクタンスの部分セットのすべてが測定されると、位置xの最適な推定値を求めることができる。
【0040】
として記述すると有用である場合がある。
【0041】
一般に、すべてのインダクタンスM
ijを決定するためには、すべての電流I
k及び電圧V
jを測定しなければならない。1つのコイルしか電流を通さず(励磁コイル)、他のすべてのコイルの電流がゼロである場合、式は簡略化される。その場合、
【0045】
であるためである。測定された電圧をフィルタ(例えば帯域通過フィルタ)にかければ、通過帯域周波数の範囲内で電流をゼロにするのに十分である。電流と電圧の関係が決まっている場合(例えば、コイルに与えられたインピーダンスが一定である場合)には、他の簡略化が行われる。その場合もやはり式(5)が当てはまるが、M
jkは真のインダクタンスではなく、見掛けのインダクタンス又は実効インダクタンスである。
【0046】
詳細を掘り下げる前に、自己インダクタンス及び/又は相互インダクタンスを用いて位置を決定するための手法が以下の重要な要素を含むことは注目に値する。
1.インダクタのアレイは、測定される距離の範囲にまたがる空間にくまなく分配され、各インダクタは導電性材料(巻かれてコイルになった銅ワイヤなど)を含み、導電性材料は他の電気導体から分離され、透磁性材料(コイルの芯における鉄など)に近接する。
2.透磁性材料の有意のボリュームの透磁率を変化させる十分に高い密度の磁束を発する永久磁石の組立体は、きわめて近接して保持されるときには、各インダクタの中に含まれるか、又は各インダクタに近接する。
3.電気回路は、インダクタのインピーダンス、相互インダクタンス、及び/又は自己インダクタンスを測定することができる。
【0047】
図1及び2に示すリニアアクチュエータは、3つの重要な要素の最初の2つを備えている。しかしながら、後でさらに明確になるように、リニアアクチュエータ以外にも、やはりそうした重要な要素を備え、自己インダクタンス及び相互インダクタンスの測定を用いて、それらについて位置の測定を実行することができる多くの他の配置が存在する。
【0048】
位置の測定を実行するために、磁石組立体は、電気的なインダクタの分布範囲を横断する方向に動くことを許容されると同時に、芯の透磁率を変化させる十分に近接した所にとどまるように拘束される。磁石組立体は、組立体から発せられる磁束の経路が、主に磁石組立体に近接する1つ又は2つ以上のインダクタ内の透磁性材料を通過するように方向付けられる。
【0049】
自己インダクタンスに基づく位置測定
進行中のインダクタンスに関する議論は、主としてインダクタの「自己インダクタンス」に当てはまる。しかしながら、後の段落で検討するように、その測定手法は、相互インダクタンスに対して簡単に一般化することができる。
【0050】
十分に大きい磁束が磁石組立体からインダクタ内の透過性材料のボリュームに入ると、透過性材料は飽和し始め、すなわち、その透磁率は、自由空間の理論上の最小の透磁率に向かって低下し始める。インダクタ内の透磁性材料の透磁率の低下により、取り付けられた電気回路によって測定可能なインダクタの電子インダクタンスが低下する。電気回路は、経時的にインダクタのインダクタンスを測定するために用いられ、任意のインダクタのインダクタンスの低下が観察されると、磁石組立体がその特定のインダクタにきわめて近接していることが分かる。アレイ内の複数のインダクタのインダクタンスを繰り返し測定することにより、磁石組立体の存在範囲外で観察されるその本来の値を下まわるインダクタンスの低下を示す任意のインダクタの物理的(空間的)位置に注目することによって、磁石組立体の位置を推測することができる。或いは、実際のコイルは抵抗特性と誘導特性の両方を有するため、電気回路はインピーダンス(大きさ及び相)の変化を測定することができる。
【0051】
インダクタアレイの距離の範囲に対する磁石組立体の位置を計算するための方法は、一般に複数のインダクタによって実行される測定を考慮する。磁石組立体の磁束通路が、アレイ内のあるインダクタ(インダクタA)の近くから別のインダクタ(インダクタB)へ徐々に動くにつれて、インダクタAのインダクタンスは増大し、インダクタBのインダクタンスは低下する。一般に、磁石組立体の位置を変えると、アレイ及び磁石組立体内のインダクタの相対的な大きさ及び位置に応じて、3つ以上のインダクタ内でインダクタンスの漸次的変化を観察することができる。したがって、磁石組立体の動きによる影響を受ける十分に近い位置における各インダクタのインダクタンス(又はインピーダンス)の相対値の解析により、位置の決定のための情報が提供される。
【0052】
複数のコイルについて得られる測定値から位置を決定するためには、磁石組立体による影響を受ける複数のコイルの相対インダクタンスを考慮すべきである。2つの態様に留意することが重要である。第1に、(磁石組立体に近接した)そうした任意のインダクタのインダクタンスは、そのインダクタに対する磁石組立体の位置に応じて変化するインダクタンスの既知の値をもつ。第2に、磁石組立体の位置は、1つのインダクタのみについて測定されたインダクタンスから知ることができず、それは、この場合、磁石組立体が位置する可能性があり、インダクタンスのそうした値が得られる2つの対称的な位置が(アレイ内のインダクタの両側に)存在するためである。したがって、位置を明確に決定するには、磁石組立体の影響下にある(磁石組立体からかなり大きい磁束を受ける)少なくとも2つのインダクタの測定が必要である。
【0053】
しかしながら、磁石組立体の位置の不明確さを解決する代替的な方法が提供される場合には、単一のコイルの測定値で十分である場合があることに留意されたい。そうした1つの方法は、次の測定の前に磁石組立体がどこに位置していたかを記憶すること(すなわち、その動きの履歴を保存すること)である。又は別法として、その位置を大まかに特定するために、別のより粗いセンサ装置を使用する。
【0054】
いずれにしても、磁石組立体に対する各インダクタの位置に応じて、磁石組立体の位置により各インダクタのインダクタンスの既知の値が得られる。
図3に示すように、この一般的な関係は、インダクタのインダクタンス(Y軸、ヘンリー単位)と磁石組立体に対するそのインダクタの位置(X軸、メートル単位)の関係に関する連続グラフとして視覚化することができる。この関係を主な関数関係と呼ぶ。実際に、この既知の関係を用いて、曲線をインダクタについて得られる測定値に当て嵌めることができ、したがって、磁石組立体の位置を決定することができる。或いは、主な関数関係をインピーダンス(大きさ及び相)と磁石組立体に対するインダクタの位置との間で測定することが可能である。
【0055】
図3は、磁石組立体内に6つの磁石が存在し、磁場が
図2に示すように配置される実施形態に対する主な関数関係を示していることに留意されたい。さらに、アレイ内の磁石は、コイルと同様に長手方向の軸に沿って同じ長さを有する(すなわち、それらは同じ周期を有する)。
【0056】
一般に、多様な2つ又は3つ以上のインダクタを磁石組立体に十分に近づけ、磁石組立体が動かされるとインダクタンスの変化を受けるようにすることができる。その場合、各インダクタの測定されたインダクタンスを、各インダクタの物理的位置(X軸、メートル単位)(測定データ)に対するグラフにプロットすることができる(Y軸、ヘンリー単位)。次いで、非線形の誤差最小化技術(例えば、レーベンバーグ−マーカート(Levenberg-Marquardt)など)を用いて、この測定データをインダクタンスと位置の間(又はインピーダンスと位置の間)の前述の主な関数関係に当て嵌めることができる(
図4参照)。主な関数関係を測定データに当て嵌める1つの特定の手法では、主な関数関係のX軸のオフセット(空間変数、メートル単位)は拘束されず、誤差最小化の間、自由に変化することができる。測定データに当て嵌める間、主な関数関係のX軸のゲイン、Y軸のオフセット及びY軸のゲインは、すべて一定の値として保たれるべきである。こうして当て嵌めが完了すると、X軸のオフセット(拘束されない当て嵌めパラメータ)が、下にあるインダクタアレイに対する磁石組立体の位置の変化に等しい値に決定される。
【0057】
相互インダクタンスに基づく測定手法
磁石組立体の位置を推定するために、自己インダクタンスに基づく測定手法を、コイル間の相互インダクタンスの測定に対して簡単に一般化することができる。相互インダクタンスの場合、磁石組立体の位置と個々のインダクタそれぞれの自己インダクタンスとの間の単一の主な関数関係を解析するのではなく、次に主な関数関係の組を解析し、ここで、組の各要素は、システム内の2つのインダクタの相互インダクタンスと磁石組立体の位置との間の関数関係を含む。一般に、主な関数関係の組は、相互インダクタンスの行列M
ijによって記述することができ、行列の各要素は、磁石組立体の位置に応じて変化する可能性がある。この行列のサイズは、N×N=N
2の全要素である(ここで、Nはシステム内のインダクタの数である)。
【0058】
実際には、磁石組立体の位置は、N×N行列M
ij中の要素の総数よりずっと少ない要素から確実に測定することができる。(例えば、インダクタのアレイ内の極値において)システム内の単一のインダクタに正弦波電流を印加し、応答としてすべての他の要素の電圧を同時に測定すると、N×N行列は、行列の行M
i0jに沿ったN個の要素のベクトルに簡略化される(ここで、i
0は電流によって励磁されるインダクタのインデックスである)。
【0059】
この簡略化された関数関係の組の一例が、
図5に示されている。図は、x軸に、この場合はコイル1の位置として表される固定された基準点に対する磁石組立体の位置を示している。y軸は、コイル1と別のコイルの間の相互インダクタンスを表示しており、これは磁石組立体の位置を変化させると変化する。複数の追加のコイル、すなわちコイル2、コイル3、コイル4及びコイル5と相互作用するコイル1について、相互インダクタンスの関係が示されている。コイル1と他のコイルのそれぞれとの間の相互インダクタンスの変化の勾配は、磁石組立体の位置に沿った異なる場所で最大になることに留意することが重要である。主な関数関係の組を一緒に考慮することによって、単一の相互インダクタンスの関係から得られるよりも改善された精度で位置を推定することができる。これを達成するために、位置の推定アルゴリズムは、各相互インダクタンスの関係における高勾配の領域をより重視し、位置の推定の信頼性を最大限にする。
【0060】
最大のシグナル対雑音に対する測定重み関数の選択
インダクタが磁石組立体から十分遠くにあり、磁石組立体の位置の変化に応答してごくわずかなインダクタンスの変化しか受けないとき、実際上は、測定データに含まれ、主な関数関係へのその当て嵌めの間に使用されるデータ点の数からそれらを省くことができる。実際には、当て嵌めに含まれるデータ点と当て嵌めから省かれるデータ点との間により滑らかな遷移をもたらすために、重み関数を使用することができ、重み関数は当て嵌めに寄与するとき、インダクタンスの各値の、磁石組立体の影響の範囲外でのその値からの絶対偏差に基づいて、各インダクタンスの測定値に相対的な重みを割り当てる。インダクタのインダクタンスが、そのインダクタが磁石組立体の影響の範囲外にあるときに通常観察されるインダクタンスの値(すなわち、その最大レベルのインダクタンス)により近いことが観察されたときには、当て嵌め計算におけるその重みをより小さくすべきである。一般に、重み関数は、測定システムのシグナル対雑音比を最大にするように規定されなければならない。
【0061】
さらに、インダクタが磁石組立体に十分に近く、結果として完全に飽和した状態になるとき、主な関数関係に(ゼロを横断する)相対的に小さい勾配が存在することが知られている。最小(ゼロ)勾配のこの点は、主な関数関係において知られる最小レベルのインダクタンスに相関される。したがって、この最小レベルのインダクタンスで用いられる重み関数の値も小さくすべきである。したがって、重み関数は、これまでに記載した主な関数関係の最小レベルのインダクタンスと最大レベルのインダクタンスの間にある値において最大に達し、主な関数関係における最大勾配の位置に関連付けられるはずである。一般的な場合では、磁石組立体が複雑な磁場を生じさせる場合、インダクタンス(又はインピーダンス)と位置の間の関係は、個々のコイルについて、インダクタンス(又はインピーダンス)に対する位置の勾配がゼロである複数の動かない点を有する可能性がある。こうした位置でも、重み関数は相対的に低い重みを与えるべきである。実際には、重み関数をすべての点で主な関数関係の勾配に関連付けることが可能であり、磁石組立体の影響の範囲外及び動かない点では、インダクタンスは緩やかに変化し、重み関数は小さくするべきである。インダクタンスが急激に変化する他の点では、重み関数はより大きくするべきである。
【0062】
高電流条件下での位置測定
前述の手法、特にアレイ内のインダクタの任意のものを通る高レベルの電流による非理想性として、インダクタを通って流れる電流によって誘導される磁束自体が透磁性材料を飽和させる可能性がある。この場合、外部から印加される電流とコイルのインダクタンスとの間の関係は、主な関数関係(3D)における別の次元になる。したがって、この場合、主な関数関係(3D)は、概念上、コイルのインダクタンス(Z軸、ヘンリー単位)と、磁石組立体とコイルの間の相対位置(Y軸、メートル単位)及びコイルに外部から印加される電流の大きさ(X軸、アンペア単位)との関係の3次元プロットとして視覚化することができる。ここでは測定されたインダクタンス及び測定された(又は既知の)外部から印加された電流を含む測定データ(3D)に当て嵌めた主な関数関係(3D)から位置を決定するために、制御システムでの使用に対して適切に計算的に最適化された非線形の当て嵌め手法を同様に適用することができる。
【0063】
電圧変動の存在下での位置測定
システムにおける他の非理想性として、コイル両端間の電圧の変動が、そのコイルのインダクタンスの測定に影響を及ぼす可能性がある。特に、各インダクタを横断する磁石組立体の動きが、その逆起電力によって電圧を誘導する。しかしながら、移動する磁石組立体の速度を(前の位置測定から)推定することができ、その速度の推定を用いて、(やはり前の位置測定から決定される)移動する磁石組立体にきわめて近接しているコイルの逆起電力によって誘導される電圧を推定することができる。各コイルの速度依存の電圧が決定され、次いで、それを各コイルについて測定された実際の電圧から減算して、逆起電力が存在しない場合の各コイルの両端間の電圧の推定値を決定することができる。
【0064】
インダクタンスの測定による望ましくない電圧変動を低減する別の手法として、周波数フィルタを用いることができる。測定された電圧に周波数フィルタを適用し、印加された電流の周波数に十分に近い周波数で変動する電圧のみを測定するようにする。この場合、各コイルjの両端間の電圧に対する式は、
【0066】
として記述することができ、上式は、コイルi以外のコイルに電流が流れていない限り有効である。
【0067】
自己インダクタンスの測定
摂動周波数におけるコイルのインピーダンスを決定するために、各コイルの両端間の電圧を、周期的な摂動及び測定された電流に従わせることができる(逆も同様である)。コイルの等価回路モデル(例えば、直列L−R回路)を想定すると、コイルのインダクタンスは、既知のインピーダンス及び周波数から推定することができる。インピーダンス分光法及びフーリエ解析の他のアプリケーションにおいて一般的に行われているように、想定した等価回路モデルによるインダクタンスの推定精度を高めるために、ある範囲の周波数にわたって周期的な摂動をスイープすることができる。代替的な測定手法として、非周期的なシグナルの時間領域又は周波数領域(変換後)の応答を解析して、等価回路のインダクタンスを導き出すこともできる。
【0068】
単一のコイルに対する自己インダクタンス測定回路100のブロック図の表現を
図6に示す。それは、コイル104に電流を駆動する電流源102と、結果として生じるコイル104の両端間の電圧を測定するための電圧測定回路106と、それぞれデジタルアナログ変換用の電子機器110及びアナログデジタル変換用の電子機器112を介して電流源102及び電圧測定回路106に接続された、結果を解釈するためのプロセッサユニット108とを含む。プロセッサユニット108は、インダクタンスの測定値をコイルアレイに沿ったアクチュエータ組立体の正確な位置に変換するために用いられる主な関数関係を記憶するデータ記憶装置又はメモリ109も含む。主な関数関係は、関数若しくはデータのテーブルとして、又は他の既知の有用な形式で記憶することができる。
【0069】
コイルのアレイ内の各コイルの自己インダクタンスを測定するために、自己インダクタンス測定回路100を複製してもよい。
【0070】
相互インダクタンスの測定
相互インダクタンスを測定するために、1つの手法は、単一のコイルに正弦波電流を印加することを含む。その周波数で他のコイルに誘導される電圧Vは、相互インダクタンスM
ijの関数である。すなわち、
【0072】
上式で、Iは電流であり、jは電圧を測定しているコイルの番号であり、電流はコイルiに印加される。この式が有効であるためには、コイルi以外のすべてのコイルにおいて電流がゼロでなければならない。
【0073】
コイル130(1)〜(n)のアレイ130の相互インダクタンスを測定するシステムの例示的なブロック図を
図7に示す。示される例では、電流源122がコイルのアレイ内のコイルの1つ130(1)に電流を印加し、電圧測定用の電子機器106が、システム内の複数の他のコイル130(2)〜(n)の両端間の電圧を測定する。印加及び測定されるすべてのシグナルは、それぞれデジタルアナログ変換用の電子機器110及びアナログデジタル変換用の電子機器112を介して電流源102及び測定用の電子機器106に接続された、1つ又は2つ以上のプロセッサ回路132によって制御及び解析される。プロセッサ回路132は、インダクタンスの測定値をコイルアレイに沿ったアクチュエータ組立体の正確な位置に変換するために用いられる主な関数関係を記憶するデータ記憶装置又はメモリ133も含む。主な関数関係は、関数若しくはデータのテーブルとして、又は他の既知の有用な形式で記憶することができる。
【0074】
一般に、(駆動電流による)同時励磁及びすべてのコイルの両端間の(電圧の)測定によって、すべてのコイル間の相互インダクタンスを測定し、それにより、ただ1回の測定ですべてのi及びjについて相互インダクタンスの行列M
ij全体に値を格納することが可能である。
【0075】
任意のコイルの自己インダクタンス、及び任意の数のコイル132(1)〜(n)間の相互インダクタンスを測定することが可能なシステムのブロック図を
図8に示す。それは、電流を印加し(102)、アレイ130内のコイルの任意のものから電圧を測定する(106)ことを可能にする電子回路140を含む。こうした駆動及び測定用の電子機器は、アナログデジタル変換用の電子機器112及びデジタルアナログ変換用の電子機器110によって、1つ又は2つ以上のプロセッサ回路132に接続される。1つ又は2つ以上のプロセッサ回路132は、インダクタンスの測定値をコイルアレイに沿ったアクチュエータ組立体の正確な位置に変換するために用いられる主な関数関係を記憶するデータ記憶装置又はメモリ133も含む。
【0076】
図6〜8に示す回路では、プロセッサ回路は、測定された電流及び電圧から、コイルの関連する電気的特性(例えばインピーダンス、自己インダクタンス及び/又は相互インダクタンス)を計算し、次いでコイルに関する所定の記憶された主な関数関係を用いることによって計算された特性を解析し、磁石組立体の正確な位置を決定するようにプログラムされる。
【0077】
高次の相互インダクタンスの効果
さらにシステムの他の非理想性として、相互インダクタンスの項のために、第1のコイルの測定されたインピーダンスが第2の隣接のコイルのインピーダンスの変化による影響を受ける。例えば、Hブリッジなどのスイッチング回路により電流が別のコイルを通して駆動される場合、Hブリッジの変化するインピーダンスが、第1のコイルの測定されるインピーダンスに影響を及ぼす。特に、外部の駆動回路のインピーダンスが、第1のコイルの測定されるインダクタンスに影響を及ぼす可能性がある。第1のコイルに印加される電流と測定される電圧との間の関係は、さらに別の次元の関数、すなわち他のコイルに接続されるインピーダンスになる。
【0078】
実装上の制約
実際には、閉ループの電気的/機械的制御システムに組み込まれるときに有用であるためには、測定データを主な関数関係に当て嵌めるために用いられる非線形の最小化技術を、十分に高速に、且つ利用可能な計算リソースの範囲内で実行するように計算的に最適化し、決定しなければならない。
【0079】
磁石組立体の位置を正確に特定するために、コイルのすべてについてインダクタンスを連続的に測定することが可能である。しかしながら、実際には、そのインダクタンスが磁石組立体に近接することによって影響を受けるコイルのみが関連するため、それはやりすぎであろう。コイルが磁石組立体から遠いほど、磁石組立体の位置の決定との関連性は小さい。実際に、コイルは移動して磁石組立体から離れると、すぐに関連性がなくなる。したがって、インダクタンスの測定に含まれるすべてのコイルの部分セットのみを選択することができる。その部分セットは、磁石組立体がコイルのアレイに沿ってどこに位置するかを大まかに知る(磁石組立体の動きに関する履歴情報を記憶する)こと、又は他のセンサ手段の使用によって決定することができる。
【0080】
前述の実施形態では、コイルは直線アレイとして配置されていた。しかしながら、それに該当する必要はない。本明細書に記載される前述の技術は、曲線に沿って、又は円のまわりに、又はいくつかの他の1次元の幾何学的形状に沿って配列されたコイルを含む、多くの他のコイルの配置において用いることができる。
【0081】
前述の実施形態では、コイルは透磁性材料を取り囲んでいた(透磁性材料のまわりに巻かれていた)。しかしながら、本明細書に記載の技術は、他の幾何学的アレイ及び他の誘導素子に適用することができる。コイルが透磁性材料のまわりに巻かれている必要はなく、透磁性材料に近接しているだけもよい。さらにコイルは、
図9に示すように、多次元(例えば2次元)アレイとして配置することが可能である。その実施形態では、透磁性材料154の平坦な面の上方にコイルのアレイ150(x、y)が位置している。この特定の例では、コイルは、コイル間の間隔が等しい長方形の2Dアレイとして配置されているが、他の配置も容易に想像することが可能であろう。永久磁石152はコイルのアレイの上方に配置され、2D領域内でコイルのアレイの上方をそれと平行に任意の位置へ動くことができる。このシステムに前述のものと同じ原理を適用して、コイルのアレイ内の1つ又は2つ以上のコイルのインダクタンスを測定することにより、2D領域内の(及びコイルのアレイに対する)正確な位置を決定する。
【0082】
この配置(及び任意の他の配置)において重要な考慮すべき事柄は、誘導素子のインダクタンスが、永久磁石がきわめて近接しているときに永久磁石によって飽和状態になると、隣接の材料の透磁率の変化による影響を受けることである。さらに誘導素子がコイルである場合、コイルは、インダクタンスが隣接の材料の透磁率の変化による影響を受ける、ワイヤ又はトレース又は伝導性材料の任意の構成とすることができる(例えば、ワイヤ又は伝導性トレースの平坦な蛇行した配置)。
【0083】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。