(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ロボットアームの動作領域のうち、作業者の作業領域に近い部分が前記低速動作領域として設定され、前記低速動作領域以外の部分が前記高速動作領域として設定されている、請求項1又は2に記載のロボットシステム。
前記制御部は、全部分が前記高速動作領域に位置する前記リンクを第1最大速度以下の速度において動作させ、少なくとも一部分が前記低速動作領域に位置する前記リンクを第2最大速度以下の速度において動作させるよう構成されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のロボットシステム。
前記衝突停止部は、前記高速動作領域、前記1以上の中間速動作領域、及び前記低速動作領域において、前記高速動作領域から前記低速動作領域に向かって順にそれぞれにおける衝突検知感度が高くなるように衝突検知感度を切り替えるよう構成されている、請求項5に記載のロボットシステム。
前記制御部は、前記高速動作領域、前記1以上の中間速動作領域、及び前記低速動作領域における互いに隣接する2つの領域において、その対応する最大速度が高い方の領域(以下、相対的高速動作領域という)からその対応する最大速度が低い方の領域(以下、相対的低速動作領域という)へ前記ロボットアームを移動させる場合には、前記2つの領域の境界より手前から前記相対的低速動作領域に対応する最大速度以下の速度において前記ロボットアームを動作させ、前記相対的低速動作領域から前記相対的高速動作領域へ前記ロボットアームを移動させる場合には、前記2つの領域の境界より手前から前記相対的高速動作領域に対応する最大速度以下の速度において前記ロボットアームを動作させるように構成されている、請求項5又は6に記載のロボットシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、生産ラインにロボットを導入して、ロボットが人間と同じラインで作業をすることにより、生産性の向上を実現させたいといった要望がある。
【0005】
しかし、上記従来技術では、ロボットと同じラインで作業する作業者の安全性を確保するためには、安全柵等を設置する必要があり、ロボットの導入コストが上昇し、好ましくない。このように、従来技術では、生産ラインにロボットを導入して、ロボットが人間と同じラインで作業をする場合、安全性に課題がある。
【0006】
そこで、本発明では、作業者とロボットとが共存して作業を行うためのロボットシステムにおいて、作業者の安全性と作業能率の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る、ロボットシステムは、作業者とロボットとが共存して作業を行うためのロボットシステムであって、複数のリンクが関節によって連結されてなるロボットアームを備えたロボットと、前記ロボットアームの動作を制御する制御部と、前記ロボットアームが物体と衝突したことを検知してロボットアームを停止させる衝突停止部と、を備え、前記ロボットアームに対して、高速動作領域及び低速動作領域が設定されており、前記制御部は、前記高速動作領域では第1最大速度以下の速度において前記ロボットアームを動作させ、前記低速動作領域では前記第1最大速度より低い第2最大速度以下の速度において前記ロボットアームを動作させるように構成され、前記衝突停止部は、前記高速動作領域と前記低速動作領域との間で、前記高速動作領域における衝突検知感度が前記低速動作領域における衝突検知感度より低くなるように衝突検知感度を切り替えるよう構成されている。
【0008】
一般に、ロボットアームが物体と衝突したことを検知する衝突検知においては、衝突検知感度を高くする(衝突であると判定すべき閾値信号レベルを低くする)程、ノイズ等に起因する誤検知の確率(以下、誤検知率という)が高くなり、且つ、ロボットアームの動作速度が高くなる程、誤検知率が高くなる。
【0009】
上記構成に従えば、衝突停止部が、高速動作領域と低速動作領域との間で、高速動作領域における衝突感度が低速動作領域における衝突検知感度より低くなるように衝突検知感度を切り替えるので、高速動作領域と低速動作領域との間で衝突検知感度を切り替えない場合に比べて、高速動作領域と低速動作領域との間で誤検知率を一定に維持しつつ、高速動作領域の最大動作速度を低速動作領域に対して相対的に高くすることができる。
【0010】
従って、ロボットアームの動作領域のうち作業者の作業領域に近い部分を低速動作領域として設定するとともに低速動作領域における衝突検知感度を可能な限り高く設定することにより、作業者が万一ロボットアームに接触した場合でも、ロボットアームが低速度で作業者に衝突して感度良く停止するようにすることができ、その一方、高速動作領域において可能な限りロボットアームを高速度で動作させることができる。その結果、高速動作領域と低速動作領域との間で衝突検知感度を切り替えない場合に比べて、作業者の安全性を高めることができるとともに作業能率を高くすることができる。
【0011】
前記衝突停止部は、前記高速動作領域における衝突検知感度がゼロになるように衝突検知感度を切り替えるよう構成されていてもよい。上記構成に従えば、衝突の誤検知を考慮する必要がないので、ロボットアームの性能が許す限度まで、高速動作領域においてロボットアームを高速度で動作させて作業能率を高くすることができる。
【0012】
上記ロボットシステムでは、前記ロボットアームの動作領域のうち、作業者の作業領域に近い部分が前記低速動作領域として設定され、前記低速動作領域以外の部分が前記高速動作領域として設定されていてもよい。
【0013】
上記構成に従えば、作業者が万一ロボットアームに接触した場合でも、ロボットアームが低速度で作業者に衝突して感度良く停止するようにすることができる。
【0014】
前記制御部は、全部分が前記高速動作領域に位置する前記リンクを第1最大速度以下の速度において動作させ、少なくとも一部分が前記低速動作領域に位置する前記リンクを第2最大速度以下の速度において動作させるよう構成されていてもよい。
【0015】
上記構成に従えば、より確実に作業者の安全を確保することができる。
【0016】
前記高速動作領域と前記低速動作領域との間に1以上の中間速動作領域が前記高速動作領域から前記低速動作領域に向かって順に並ぶように設定され、前記制御部は、前記1以上の中間速動作領域では、前記高速動作領域から前記低速動作領域に向かって前記第1最大速度より低い第3最大速度から前記第2最大速度より高い第4最大速度に順に低くなるそれぞれの最大速度以下の速度において前記ロボットアームを動作させるように構成されていてもよい。
【0017】
上記構成によれば、ロボットアームの最大速度を徐々に切り替えることができる。
【0018】
前記衝突停止部は、前記高速動作領域、前記1以上の中間速動作領域、及び前記低速動作領域において、前記高速動作領域から前記低速動作領域に向かって順にそれぞれにおける衝突検知感度が高くなるように衝突検知感度を切り替えるよう構成されていてもよい。
【0019】
上記構成によれば、衝突検知感度を徐々に切り替えることができる。
前記制御部は、前記高速動作領域、前記1以上の中間速動作領域、及び前記低速動作領域における互いに隣接する2つの領域において、その対応する最大速度が高い方の領域(以下、相対的高速動作領域という)からその対応する最大速度が低い方の領域(以下、相対的低速動作領域という)へ前記ロボットアームを移動させる場合には、前記2つの領域の境界より手前から前記相対的低速動作領域に対応する最大速度以下の速度において前記ロボットアームを動作させ、前記相対的低速動作領域から前記相対的高速動作領域へ前記ロボットアームを移動させる場合には、前記2つの領域の境界より手前から前記相対的高速動作領域に対応する最大速度以下の速度において前記ロボットアームを動作させるように構成されていてもよい。
【0020】
上記構成によれば、相対的高速動作領域から相対的低速動作領域へロボットアームを移動させる場合には、ロボットアームが相対的低速動作領域へ入る前に低速動作に切り替わるので、最大速度にヒステリシス特性を特たせない場合に比べて安全性を向上させることができ、一方、相対的低速動作領域から相対的高速動作領域へロボットアームを移動させる場合には、ロボットアームが相対的高速動作領域へ入る前に高速動作に切り替わるので、最大速度にヒステリシス特性を特たせない場合に比べて作業能率を高くすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、安全性を確保しつつ人間と共存作業が可能なロボットシステムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しつつ説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【0024】
図1は、第1実施形態に係るロボットシステムの構成を示す斜視図である。
図1に示すように、ロボットシステム1は、ロボット本体(以下、単にロボットという)2と、ロボット2を制御する制御装置3とを含む。ロボットシステム1は、作業者とロボット2とが共存して作業を行うためのシステムである。
【0025】
ロボット2は、複数のリンクが関節によって連結されてなるロボットアームを備えたロボットであればよい。本実施の形態では、ロボット2は、同軸双腕型のスカラロボットである。ロボット2は、基台9上に配置された下アーム10と、下アーム10の上に配置された上アーム12を備える。下アーム10は、第1リンク10a及び第2リンク10bが関節によって連結されて構成される。上アーム12は、第1リンク12a及び第2リンク12bが関節によって連結されて構成される。
【0026】
制御装置3は、ロボット2と制御線(図示しない)を介して接続され、例えばマイクロコントローラ等のコンピュータを備えたロボットコントローラである。制御装置3は単一の装置とは限らず、複数の装置で構成されてもよい。本実施形態では、制御装置3は、例えば、台車4に収容される。台車4は、直方体のボックス形状の本体4aと、本体4aの上部に取り付けられた取っ手4bと、本体4aの底面の四隅に設けられた車輪4cを備える。
【0027】
図2は、下アーム10と、上アーム12の関節構造を模式的に示す図である。
図2に示すように、下アーム10は、回転関節である第1軸21及び第2軸22と、並進(直動)関節である第3軸23の3自由度を有する。上アーム12は、回転関節である第4軸24及び第5軸25と、並進(直動)関節である第6軸26の3自由度を有する。
【0028】
下アーム10では、基台9の上面に支持部材10sが設けられ、水平に延在する第1リンク10aの一端部が基台9に鉛直な回転軸線を有する第1軸21を介して支持部材10sと連結される。第1リンク10aの他端部は、鉛直な回転軸線を有する第2軸22を介して第2リンク10bの一端と連結される。第2リンク10bは水平に延在する。第2リンク10bの他端部には、鉛直な並進方向を有する第3軸23を介して第1エンドエフェクタ11が連結される。これにより、第1エンドエフェクタ11は、第2リンク10bの先端部で、第3軸23により昇降可能に構成される。
【0029】
上アーム12では、下アーム10の第1リンク10aの上面に支持部材12sが設けられ、水平に延在する第1リンク12aの一端部が鉛直な回転軸線を有する第4軸24を介して支持部材12Sに連結される。第4軸24は、その回転軸線が第1軸21の回転軸線と一致するように配置される。第1リンク12aの他端部は、鉛直な回転軸線を有する第5軸25を介して第2リンク12bの一端と連結される。第2リンク12bは水平に延在する。第2リンク12bの他端部には、鉛直な並進方向を有する第6軸26を介して第2エンドエフェクタ13が連結さる。これにより、第2エンドエフェクタ13は、第2リンク12bの先端部で、第6軸26により昇降可能に構成される。第1エンドエフェクタ11の基準位置と第2エンドエフェクタ13の基準位置は、互いに同じ水平位置に設定される(
図1参照)。
【0030】
下アーム10及び上アーム12を構成する各軸21〜26は、サーボ機構(図示しない)により駆動される。サーボ機構は、アームを変位駆動するための駆動部と、駆動部の動力をアームに伝達するための伝達機構とを含む。本実施の形態では、駆動手段は、電動モータ、例えばサーボモータによって実現される。つまり、下アーム10及び上アーム12は、サーボ機構により、制御装置3の指令に従って運動するように構成される。つまり、制御装置3は、サーボモータを位置制御することにより、下アーム10と上アーム12の動作を任意の速度で制御するように構成される。ここで、上アーム12の第4軸24は、支持部材12S及び下アーム10の第1リンク10aを介して下アームの第1軸21に回転軸線を共有するように接続されているので、第1軸21の回転を相殺するように回転した上で所与の回転を行うよう制御される。
【0031】
図3は、ロボットシステム1の平面図である。
図3に示すように、ロボットシステム1は、例えば、生産ラインに導入され、作業者と同じラインで作業をするように構成されている。ロボットシステム1のロボット2は基準座標系(以下、ベース座標系という)を持っている。この座標系は、例えば、基台9の設置面と下アーム10の第1軸21(
図2参照)の回転軸線との交点が原点であり、第1軸21の回転軸線がZ軸であり、Z軸に直交する任意の軸がX軸であり、Z軸及びX軸に直交する軸がY軸である。ロボット2の下アーム10及び上アーム12に対する動作領域20は、このベース座標系を基準として設定される。本実施形態では、動作領域20は、平面視で矩形であって、ロボット2の正面に配置された作業台5を覆うように設定される。作業台5の上には、例えば、4種類のワークW1、W2,W3,W4が配置されている。ロボット2は、動作領域20において作業者と同様な作業を行うように構成されている。動作領域20の左右両側の領域は、それぞれ作業者が作業台5の上で各自の作業を行う作業領域である。例えば左側に位置する作業者が、ロボット2に材料部材W1を供給する。ロボット2は供給された材料部材W1に対して、第1の部品W2及び第2の部品W3を取り付けて、加工品W4を完成させる。右側に位置する作業者は、完成された加工品W4に対して次の作業行程を行う。
【0032】
制御装置3は、下アーム10及び上アーム12が動作領域20において動作するよう下アーム10及び上アーム12の動作を制御する。動作領域20は、高速動作領域20H及び低速動作領域20Lを含む。低速動作領域20Lは、動作領域20における作業者の作業領域に近い部分であって、平面視で矩形の領域に設定される。動作領域20における低速動作領域20L以外の部分であって、平面視で矩形の領域が高速動作領域20Hとして設定される。本実施形態では、低速動作領域20Lは、高速動作領域20Hの左右両側の領域に各々設定される。
【0033】
制御装置3は、高速動作領域20Hでは第1最大速度以下の速度において下アーム10及び上アーム12を動作させ、低速動作領域20Lでは第1最大速度より低い第2最大速度以下の速度において下アーム10及び上アーム12を動作させるように構成される。低速動作領域20Lでの第2最大速度は、例えば、ISO10218−1に低速制御として規定されている250mm/sに設定する。これにより、高速動作領域20Hにおいて可能な限り下アーム10及び上アーム12を高速度で動作させることができる。よって、ロボット2の作業効率が高まる。
【0034】
制御装置3は、全部分が高速動作領域20Hに位置するリンクを第1最大速度以下の速度において動作させ、少なくとも一部分が低速動作領域20Lに位置するリンクを第2最大速度以下の速度において動作させるよう構成されている。これにより、より確実に作業者の安全を確保することができる。
【0035】
更に、制御装置3は、高速動作領域20Hから低速動作領域20Lに下アーム10及び上アーム12を動作させる場合はアームの動作速度を緩やかに低下させるとともに、低速動作領域20Lから高速動作領域20Hにアームを動作させる場合は下アーム10及び上アーム12の動作速度を緩やかに上昇させる。これにより、動作速度の急減な変化が抑制されるので、安全性が向上する。
【0036】
更に、制御装置3は、下アーム10又は上アーム12が物体と衝突したことを検知して動作を停止させる衝突停止機能を備える。制御装置3は、高速動作領域20Hと低速動作領域20Lとの間で、高速動作領域20Hにおける衝突検知感度が低速動作領域20Lにおける衝突検知感度より低くなるように衝突検知感度を切り替えるよう構成されている。これにより、作業者が万一下アーム10又は上アーム12に接触した場合でも、下アーム10又は上アーム12を低速度で作業者に衝突させて感度良く停止させることができるとともに、高速動作領域20Hにおいて可能な限り下アーム10又は上アーム12を高速度で動作させることができる。
【0037】
以下では、上記機能を実現する制御装置3の具体的な構成について
図4のブロック図を用いて説明する。
図4に示すように、制御装置3は、移動量指令部31と、電流発生回路32と、衝突検知部33と、電流制限部34、インターフェース部35とを備える。制御装置3は、例えば、コンピュータ、マイクロコントローラ等の演算処理器によって実現され、予め定められるプログラムを実行することによって、上述する移動量指令部31、衝突検知部33、電流制限部34を実現することができる。
【0038】
ここでは、下アーム10及び上アーム12を構成する各軸21〜26を駆動する駆動手段としてのサーボモータ28を示している。ここでは1つのサーボモータ28のみ示しているが、その他のサーモータ28も同様である。サーボモータ28には、モータの位置(回転子の基準回転角度位置に対する回転角度位置)を検出するエンコーダ29と、モータに流れる電流値を検出する電流センサ30が取り付けられる。制御装置3は、インターフェース部35を介して、エンコーダ29で検出されたサーボモータ28の位置及び電流センサ30で検出されたサーボモータ28に流れる電流値を取得するように構成されている。
【0039】
移動量指令部31は、予め定められた位置指令値とエンコーダ29からの検出位置情報に基づいて、電流指令値を演算する。移動量指令部31は、下アーム10及び上アーム12を予め定められた高速動作領域20H又は低速動作領域20Lに移動させるために必要な電流指令値を演算する。アームが障害物に衝突しない正常状態では、移動量指令部31が演算した電流指令値が、電流発生回路32に与えられる。
【0040】
電流発生回路32は、与えられる電流指令値に基づいて電流を発生し、発生した電流をサーボモータ28に流す。電流発生回路32は電流指令値に応じてモータ28の駆動電流を発生する増幅器、いわゆるサーボアンプである。このように、各軸21〜26のサーボモータ28は位置制御されるので、制御装置3は、高速動作領域20Hでは第1最大速度以下の速度において下アーム10及び上アーム12を動作させ、低速動作領域20Lでは第1最大速度より低い第2最大速度以下の速度において下アーム10及び上アーム12を動作させることができる。また、制御装置3は、座標変換により、基準となるベース座標系における各リンクの位置情報を算出することにより、全部分が高速動作領域20Hに位置するリンクを第1最大速度以下の速度において動作させ、少なくとも一部分が低速動作領域20Lに位置するリンクを第2最大速度以下の速度において動作させることができる。
【0041】
衝突検知部33は、後述するように、エンコーダ29からの検出位置情報及び電流センサ30からの電流値に基づいて、下アーム10又は上アーム12が物体と衝突したことを検知して、衝突したことを示す衝突検知信号を電流制限部34に出力する。
【0042】
電流制限部34は、衝突検知部33から衝突検知信号が与えられると、移動量指令部31が演算した電流指令値を制限し、制限した電流指令値を電流発生回路32に与える。これにより、アーム衝突検知時には、電流発生回路32から出力される電流は、電流制限前に比べて減少されて、サーボモータ28に与えられる。ここで電流を制限することは、移動量指令部31の電流指令値を予め定める減少率で減少させる場合、移動量指令部31の電流値にかかわらず、予め定める一定値に制限する場合のいずれでもよい。予め定める減少率が0%である場合も含む。この場合、電流制限時には電流発生回路からサーボモータ28に与えられる電流はゼロであり、サーボモータ28に電流が流れることが阻止される。
【0043】
[衝突検知処理]
次に、制御装置3における衝突検出処理について
図5のフローチャートを用いて説明する。この処理は制御装置3において一定時間(例えば、20msec)毎に繰り返し実行される。
【0044】
まず、衝突検知部33(
図4参照)は、ロボット2の下アーム10及び上アーム12を構成する各軸21〜26(
図2参照)の所与の時間における位置を表す変数に基づいて、各軸で発生するトルクを算出する(ステップS1)。ここでトルクの算出は、典型的なロボットの運動方程式を用いて行われる。
【0045】
次に、衝突検知部33は、この算出されたトルクをサーボモータ28が発生するために要する電流(以下、理論電流値という)を算出する(ステップS2)。
【0046】
次に、衝突検知部33は、電流センサ30で検出された、サーボモータ28に実際に流れている電流(以下、実電流値という)を取得し、理論電流値と実電流値との差の絶対値を表す差分電流値を算出する(ステップS3)。
【0047】
次に、衝突検知部33は、差分電流値が各軸毎に設定される第1基準値を超えているか否かを判定する(ステップS4)差分電流値が第1基準値を超えている場合は衝突が発生したものとして、衝突が検出されたことを示す衝突検出信号を電流制限部34(
図4参照)に出力する(ステップS5)。その後、電流制限部34は、制限した電流指令値を電流発生回路32に与え、サーボモータ28への電流供給が停止される(ステップS6)。
【0048】
一方、衝突検知部33は、ステップS4で差分電流値が第1基準値を超えていない場合は、差分電流値の微分値である微分差分電流値(すなわち、差分電流値の変化速度)を算出し(ステップ7)、微分差分電流値が各軸21〜26毎に設定される第2基準値を超えているか否かを判定する(ステップ8)。衝突検知部33は、微分差分電流値が第2基準値を超えている場合は衝突が発生したものとして、ステップS5以降の処理に移行する一方、超えていない場合は、衝突が発生していないものとしてスタート(通常の位置制御処理)に戻る。
【0049】
このように、本実施形態では、ロボット2の下アーム10及び上アーム12を構成する各軸21〜26を駆動するサーボモータ28に供給される実電流値に基づいて、障害物との衝突を検出するように構成されているので、衝突検出のためにトルクセンサやオブザーバを特段に設ける必要がなく、構成を簡素化できる。
【0050】
また、差分電流値の変化量およびその変化速度を表す微分差分電流値のいずれかが、それぞれに対して設定される第1基準値または第2基準値を超えたときに衝突が発生したものと判定されるので、被駆動部材の駆動速度の大小に拘らず、より迅速かつ正確に衝突を検出することが可能となる。
【0051】
[衝突検知感度]
次に、衝突検知感度について説明する。衝突判定(ステップS4及びステップS8)での第1基準値、第2基準値の値を小さくすれば衝突検出の感度を上げることができるが、各設定値が小さすぎると電気的ノイズなどによる駆動電流のぶれが衝突発生と判断されるなどの誤検出が多くなり、衝突検出の信頼性が損なわれる。一方、各基準値の設定値が大きすぎる場合は、衝突検出の感度が低下して、衝突検出時期を遅らせる結果となる。したがって、衝突検出を迅速かつ正確に行うためには第1基準値、第2基準値を適切に設定する必要がある。
【0052】
そこで、本実施形態では、衝突検知部33が、高速動作領域20Hと低速動作領域20Lとの間で、高速動作領域20Hにおける衝突検知感度が低速動作領域20Lにおける衝突検知感度より低くなるように衝突検知感度を切り替える。つまり、高速動作領域20Hにおける各基準値を、低速動作領域20Lにおける各基準値よりも高く設定する。本実施形態では、高速動作領域20Hにおける衝突検知感度がゼロになるように設定する。これにより、衝突の誤検知を考慮する必要がないので、ロボットアームの性能が許す限度まで、高速動作領域においてロボットアームを高速度で動作させて作業能率を高くすることができる。
【0053】
上述の通り、ロボットアームが物体と衝突したことを検知する衝突検知においては、衝突検知感度を高くする(衝突であると判定すべき閾値信号レベルを低くする)程、ノイズ等に起因する誤検知の確率(以下、誤検知率という)が高くなる傾向がある。また、本実施形態のようにロボットアームの動作速度を高くする程、誤検知率が高くなる傾向がある。
【0054】
本実施形態によれば、衝突検知部33が、高速動作領域20Hと低速動作領域20Lとの間で、高速動作領域20Hにおける衝突感度が低速動作領域20Lにおける衝突検知感度より低くなるように衝突検知感度を切り替えるので、高速動作領域20Hと低速動作領域20Lとの間で衝突検知感度を切り替えない場合に比べて、高速動作領域20Hと低速動作領域20Lとの間で誤検知率を一定に維持しつつ、高速動作領域20Hの最大動作速度を低速動作領域20Lに対して相対的に高くすることができる。
【0055】
従って、ロボットアーム(上アーム12及び下アーム10)の動作領域20のうち作業者の作業領域に近い部分を低速動作領域20Lとして設定するとともに低速動作領域20Lにおける衝突検知感度を可能な限り高く設定することにより、作業者が万一ロボットアーム(上アーム12及び下アーム10)に接触した場合でも、ロボットアーム(上アーム12及び下アーム10)が低速度で作業者に衝突して感度良く停止するようにすることができ、その一方、高速動作領域20Hにおいて可能な限りロボットアームを高速度で動作させることができる。
【0056】
その結果、高速動作領域20Hと低速動作領域20Lとの間で衝突検知感度を切り替えない場合に比べて、作業者の安全性を高めることができるとともに作業能率を高くすることができる。
【0057】
また、本実施形態のロボット2は、同軸双腕型のロボットであるので、設置スペースが小さく、且つ人間による細かな手作業と同様な作業を実行できるので、生産ラインで人間と容易に置き換わることができる。
(その他の実施形態)
また、その他の実施形態として、高速動作領域20Hと低速動作領域20Lとの間に1以上の中間速動作領域20M(図示せず)が高速動作領域20Hから低速動作領域20Lに向かって順に並ぶように設定され、制御装置3は、1以上の中間速動作領域20Mでは、高速動作領域20Hから低速動作領域20Lに向かって第1最大速度より低い第3最大速度から第2最大速度より高い第4最大速度に順に低くなるそれぞれの最大速度以下の速度において前記ロボットアームを動作させるように構成されていてもよい。これにより、ロボットアーム(10,12)の最大速度を徐々に切り替えることができる。最大速度の多段階設定が可能になる。
衝突検知部33は、高速動作領域20H、1以上の中間速動作領域20M、及び低速動作領域20Lにおいて、高速動作領域20Hから低速動作領域20Lに向かって順にそれぞれにおける衝突検知感度が高くなるように衝突検知感度を切り替えるよう構成されていてもよい。これにより、衝突検知感度を徐々に切り替えることができる。衝突検知感度の多段階設定が可能になる。
更に、制御装置3は、高速動作領域20H、1以上の中間速動作領域20M、及び低速動作領域20Lにおける互いに隣接する2つの領域において、その対応する最大速度が高い方の領域(以下、相対的高速動作領域という)からその対応する最大速度が低い方の領域(以下、相対的低速動作領域という)へロボットアーム(10,12)を移動させる場合には、2つの領域の境界より手前から相対的低速動作領域に対応する最大速度以下の速度においてロボットアーム(10,12)を動作させ、相対的低速動作領域から相対的高速動作領域へロボットアーム(10,12)を移動させる場合には、2つの領域の境界より手前から相対的高速動作領域に対応する最大速度以下の速度においてロボットアーム(10,12)を動作させるように構成されていてもよい。これにより、相対的高速動作領域から相対的低速動作領域へロボットアーム(10,12)を移動させる場合には、ロボットアーム(10,12)が相対的低速動作領域へ入る前に低速動作に切り替わるので、最大速度にヒステリシス特性を特たせない場合に比べて安全性を向上させることができ、一方、相対的低速動作領域から相対的高速動作領域へロボットアーム(10,12)を移動させる場合には、ロボットアーム(10,12)が相対的高速動作領域へ入る前に高速動作に切り替わるので、最大速度にヒステリシス特性を特たせない場合に比べて作業能率を高くすることができる。
【0058】
尚、本実施形態では、衝突検知後には動作を即座に停止するような構成としたが、これに限定されるものではない。例えば衝突を検知した場合は、衝突により被駆動部材と障害物と間に生じている応力を取り除くための応力除去処理を行ってもよい。すなわち、制御装置3は、アームが障害物に衝突したか否かを検知し、アームが障害物に衝突したことを検知した場合は、衝突までの経路に基づいて、障害物から所定距離離すようにアームの動作を制御する。具体的には、衝突検知部33は、衝突を検出した場合、サーボモータ28の理論電流値からその実電流値を差し引いた値が当該理論電流値と異符号になっている軸については、従前の駆動方向と反対方向に駆動する後退処理をなし、サーボモータ28の理論電流値からその実電流値を差し引いた値が当該理論電流値と同符号になっている軸については、従前の駆動方向と同方向に駆動する前進処理をなす。これにより、衝突の衝撃を緩和することができ、安全性が更に向上する。
【0059】
また、本実施形態では、衝突検知時の衝突検知感度(第1基準値、第2基準値)を手動で設定し、高速動作領域20H及び低速動作領域20Lの間で感度を切り替えるように構成したが、自動で設定してもよい。つまり、予め、ロボット2に特定の作業を行わせ、当該ロボット2の動作毎に各軸21〜26で発生する最大トルクを学習させ、この学習された最大トルクに基づいて第1基準値、第2基準値を設定する。これにより、動作環境に応じて、衝突検知の感度を適応した最適な値に設定することができる。
【0060】
また、本実施形態では、高速動作領域20Hと低速動作領域20Lとの速度の切り替えは、制御装置3においてソフトウェア処理で切り替えるようにしたが、例えばセンサ等のハードウェアによりアームが領域を越えたことを判別して、動作を切り替えてもよい。
【0061】
また、本実施形態では、サーボモータ28の検出位置情報及び電流値に基づいて衝突を検知するように構成したが、これに限定されることはない。ロボットシステム1が、アームに設けられたビジョンセンサを更に備え、制御装置3が、ビジョンセンサにより撮像された画像に基づいて、障害物に衝突したことを検知してもよい。これにより、本実施形態の衝突検知機能をビジョンセンサにより置換又は支援することができる。尚、加速度センサ、圧力センサ等のその他の衝突検知センサを用いてもよい。
【0062】
尚、本実施形態では、ロボット2は、同軸双腕型のスカラロボットであるが、これに限定されるものではない。例えばシングルアームのロボットでもよいし、垂直多関節ロボットでもよい。
【0063】
尚、本実施形態では、低速動作領域20L及び高速動作領域20Hは、平面視で矩形の領域に設定したが、これに限定されるものではなく、任意の形状で規定された領域でもよい。
【0064】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び機能の一方又は双方の詳細を実質的に変更できる。