(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の一実施の形態について説明する。
眼鏡店において、例えば、顧客が新しい眼鏡を購入する際には、顧客が選択した新しい眼鏡フレームを顧客が装用して、各種パラメータの測定を行う。この場合、上記選択した眼鏡フレームには、度数が入っていないダミーレンズが装着された状態である。しかしながら、顧客が実際に眼鏡を使用する際には、上記選択した眼鏡フレームに顧客の眼鏡処方値に応じた度数の入った眼鏡レンズが装着される。そのため、従来技術の測定装置において、近方視状態での瞳孔間距離など、近方視状態における眼の位置に関連するパラメータに関しては、眼鏡レンズのプリズム作用によって、測定値と実際の眼鏡使用時における値とが異なってしまう。したがって、この測定値を用いて眼鏡レンズを設計すると、眼鏡装用者に適した眼鏡レンズを設計できない可能性があった。
図1は、眼鏡装用者が眼鏡を装用した状態において各種パラメータ(以下、フィッティングパラメータと呼ぶ)を測定するためのパラメータ測定装置1の構成を説明する図である。パラメータ測定装置1は、本体装置10と、本体コンピュータ20と、タブレット型コンピュータ30と、タッチパネル式ディスプレイ40と、を有する。
【0008】
本体装置10は、縦長の筐体11を有しており、筐体11の表面には、ミラー12が設けられている。本体装置10の筐体11の内部には、眼鏡装用者が遠方視した状態を撮像するための遠方視用カメラ13や、眼鏡装用者を照明するための光源(不図示)などが設けられている。遠方視用カメラ13は、上側に配置された上側カメラ13Tおよび下側に配置された下側カメラ13Dから構成される。本体装置10は、本体コンピュータ20と接続されており、遠方視用カメラ13により撮像された画像を本体コンピュータ20に出力する。
【0009】
タブレット型コンピュータ30は、眼鏡装用者が手で持つことが可能な携帯型のコンピュータである。タブレット型コンピュータ30には、眼鏡装用者が近方視した状態を撮影するための近方視用カメラ31や、タッチパネル式ディスプレイ32などが設けられている。タブレット型コンピュータ30は、近方視用カメラ31により撮像された画像を、例えば無線通信によって、本体コンピュータ20に送信する。
【0010】
本体コンピュータ20には、演算処理を行うCPU等の演算部や、各種データを記憶する記憶部などが設けられている。記憶部には、フィッティングパラメータの測定処理を実行するためのプログラムが記憶されており、演算部は、記憶部に記憶されたプログラムを実行することにより、フィッティングパラメータの測定処理を行う。
【0011】
タッチパネル式ディスプレイ40は、本体コンピュータ20と接続されており、本体コンピュータ20から出力される各種情報(例えば、遠方視用カメラ13および近方視用カメラ31による撮像画像や、フィッティングパラメータの測定結果など)を表示する。また、測定者は、タッチパネル式ディスプレイ40に対するタッチ操作によって、本体コンピュータ20を操作したり、各種情報を入力したりすることができる。
【0012】
図2は、眼鏡装用者2が遠方視した状態を撮影する様子を説明する図である。
図2に示すように、眼鏡装用者2が遠方視した状態を撮影する際には、眼鏡装用者2の正面に撮像装置10を配置する。このとき、上側カメラ13Tが眼鏡装用者2の眼鏡近傍を正面から撮像し、下側カメラ13Dが眼鏡装用者2の眼鏡近傍を斜め下側から撮像するように、撮像装置10を配置する。眼鏡装用者2は、例えば、撮像装置10のミラー12に写る自身の眼鏡のブリッジの中心をまっすぐ見るようにすることで、遠方視状態となる。この状態で、上側カメラ13Tおよび下側カメラ13Dにより、眼鏡装用者2を撮像する。なお、実際には、この状態であっても、多少眼が内側に寄った状態となるので、後述するフィッティングパラメータの計測処理において、遠方視用カメラ13による撮像画像に基づいて得られた瞳孔間距離(PD)を、眼鏡装用者とミラー12との距離を用いて補正する。
【0013】
図3は、眼鏡装用者2が近方視した状態を撮影する様子を説明する図である。
図3に示すように、眼鏡装用者2の近方視した状態を撮影する際には、近方視用カメラ31により眼鏡装用者2の眼鏡近傍が撮像できるよう、眼鏡装用者2はタブレット型コンピュータ30を手に持つ。このとき、眼鏡装用者2は、例えば本を読むときや携帯端末を操作するときなどのように、自然な状態でタブレット型コンピュータ30を手に持って見るようにすることで、近方視状態となる。この状態で、近方視用カメラ31により眼鏡装用者2を撮像する。
【0014】
本体コンピュータ20は、遠方視用カメラ13および近方視用カメラ31により撮像された画像に基づいて、眼鏡装用者のフィッティングパラメータを計測する。まず、
図4を用いて、遠方視用カメラ13による撮像画像に基づいて計測するフィッティングパラメータについて説明する。なお、
図4(a)は、眼鏡装用者を正面から見た図であり、
図4(b)は眼鏡装用者を側方から見た図であり、
図4(c)は、眼鏡装用者を上から見た図である。本体コンピュータ20は、上側カメラ13Tによる撮像画像に基づいて、遠方視状態での片眼瞳孔間距離(右眼遠方PDおよび左眼遠方PD)を計測する。
図4(a)に示すように、右眼遠方PD(RFPD)および左眼遠方PD(LFPD)は、遠方視状態における右眼または左眼の瞳孔中心から眼鏡3のブリッジの中心までの距離である。また、本体コンピュータ20は、上側カメラ13Tおよび下側カメラ13Dによる撮像画像に基づいて、角膜頂点距離VD、前傾角TI、およびそり角WRを計測する。角膜頂点距離VDは、
図4(b)に示すように、眼鏡装用者の角膜の頂点から眼鏡レンズ内面までの距離である。前傾角TIは、
図4(b)に示すように、鉛直方向に対する眼鏡レンズ面の角度である。そり角WRは、
図4(c)に示すように、眼鏡3のブリッジに沿って水平な方向に対する眼鏡レンズ面の角度である。なお、本実施形態のパラメータ測定装置1では、上側カメラ13Tおよび下側カメラ13Dによって異なる2方向から眼鏡装用者を撮像することにより、角膜頂点距離VD、前傾角TI、およびそり角WRの計測を可能としている。
【0015】
次に、
図5を用いて、近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて計測するフィッティングパラメータについて説明する。なお、
図5(a)は、眼鏡装用者を正面から見た図であり、
図5(b)は眼鏡装用者を側方から見た図である。本体コンピュータ20は、近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて、近方視状態での片眼瞳孔間距離(右眼近方PDおよび左眼近方PD)および近方作業距離を計測する。
図5(a)に示すように、右眼近方PD(RNPD)および左眼近方PD(LNPD)は、近方視状態における右眼または左眼の瞳孔中心から眼鏡3のブリッジの中心までの距離である。
図5(b)に示すように、近方作業距離NDは、眼鏡装用者の眼から注視点(ここではタブレット型コンピュータ30)までの距離である。
【0016】
このようにして、パラメータ測定装置1では、眼鏡装用者の遠方視状態および近方視状態におけるフィッティングパラメータをそれぞれ実測する。なお、遠方視用カメラ13および近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて上述したフィッティングパラメータを求める方法については、種々の方法を用いればよい。例えば、長さが既知である測定用治具を眼鏡フレームに装着した状態で遠方視状態および近方視状態の撮影を行う方法を用いるようにしてもよい。この方法では、まず、各フィッティングパラメータについて、撮像画像上での値を求める。そして、各フィッティングパラメータの撮像画像上での値を、撮像画像上における測定用治具の長さを基準として、実際の値に変換する。また、近方作業距離については、眼鏡フレームに装着した長さが既知である測定用治具が近方視用カメラ31による撮像画像上に写った大きさに基づいて算出する。
【0017】
ところで、眼鏡店において、例えば、顧客が新しく眼鏡を購入する際には、顧客が新しい眼鏡用の眼鏡フレームを選択すると、この眼鏡フレームを顧客が装用した状態で、上述したフィッティングパラメータを測定する。この際、上記選択した眼鏡フレームには、度数の入っていないダミーレンズが装着された状態で、フィッティングパラメータの測定が行われる。しかしながら、顧客が実際に眼鏡を使用する際には、上記選択した眼鏡フレームに顧客の眼鏡処方値に応じた度数の入った眼鏡レンズが装着される。そのため、右眼近方PDおよび左眼近方PDについては、眼鏡レンズのプリズム作用によって、測定時と実際の使用時における値が変わってしまう。
【0018】
このことについて、
図6を用いて説明する。なお、眼鏡レンズの度数が変わっても、右眼遠方PDおよび左眼遠方PDは変化しない。そのため、眼鏡レンズの度数が変わった場合において、右眼近方PDの変化量と、右眼のインセット量(右眼遠方PDから右眼近方PDを引いた量)とは同じであり、左眼近方PDの変化量と、左眼のインセット量(左眼遠方PDから左眼近方PDを引いた量)とは同じである。したがって、以下の説明では、
図6を用いて、眼鏡レンズの度数に応じて、インセット量が変化する様子について説明する。なお、
図6(a)は、眼鏡レンズGLがプラス度数である(凸レンズである)場合を示し、
図6(b)は、眼鏡レンズGLの度数がゼロである(プラノレンズである)場合を示し、
図6(c)は、眼鏡レンズGLがマイナス度数(凹レンズである)場合を示す。
図6(a)〜(c)において、眼鏡レンズGLの度数以外の条件(例えば、右眼遠方PDおよび左眼遠方PD、近方作業距離など)は同じであるとする。
【0019】
図6(a)および
図6(b)を比較してわかるように、眼鏡レンズGLがプラス度数である場合、物体からの光線L1は、眼鏡レンズGLのプリズム作用により屈折されることで、眼鏡レンズGL上において、眼鏡レンズGLの度数がゼロである場合の物体からの光線L2が透過する点よりも、内側(鼻側)の点を透過する。このため、眼鏡レンズGLがプラス度数である場合、度数がゼロである場合に比べて、インセット量が大きくなる。
【0020】
また、
図6(b)および
図6(c)を比較してわかるように、眼鏡レンズGLがマイナス度数である場合、物体からの光線L3は、眼鏡レンズGLのプリズム作用により屈折されることで、眼鏡レンズGL上において、眼鏡レンズGLの度数がゼロである場合の物体からの光線L2が透過する点よりも、外側(耳側)の点を透過する。このため、眼鏡レンズGLがマイナス度数である場合、度数がゼロである場合に比べて、インセット量が小さくなる。
【0021】
以上のように、眼鏡装用者が、度数の入っていないダミーレンズが装着された眼鏡を装用した場合と、度数の入った眼鏡レンズが装着された眼鏡を装用した場合とでは、近方PDおよびインセット量が異なってしまう。そこで、本実施形態において、眼鏡レンズを設計する際には、眼鏡レンズの度数が異なっても変化しないパラメータ(右眼遠方PD、左眼遠方PD、角膜頂点距離、前傾角、そり角、近方作業距離)については、パラメータ測定装置1による測定結果をそのまま使用する。一方、眼鏡レンズの度数が異なると変化するパラメータ(右眼近方PD、左眼近方PD)については、度数の入った眼鏡レンズが装着された眼鏡を眼鏡装用者が装用した状態での値を、光線追跡計算によって算出する。
【0022】
この光線追跡計算では、近方の物体(眼鏡装用者の注視点)から発して眼鏡レンズに入射し、眼鏡装用者の眼球の回旋中心に至る光線を求める。ここで、眼鏡レンズの度数としては、眼鏡装用者における眼鏡レンズの処方値(球面度数(S度数)、乱視度数(C度数)、乱視軸度、加入度など)を用いる。また、眼鏡レンズと眼鏡装用者の眼球との位置関係を表すパラメータとしては、パラメータ測定装置1により測定された右眼遠方PD、左眼遠方PD、角膜頂点距離VD、前傾角TI、およびそり角WRを用いる。さらに、眼鏡装用者と注視点との距離としては、パラメータ測定装置1により測定された近方作業距離NDを用いる。
【0023】
このように、眼鏡装用者における眼鏡レンズの処方値と、パラメータ測定装置1により測定されたフィッティングパラメータとを用いて光線追跡計算を行って、眼鏡装用者の処方値に応じた度数の入った眼鏡レンズを装用した場合における右眼近方PDおよび左眼近方PDを算出する。
【0024】
次に、本実施形態において、顧客に眼鏡を提供する一連の手順について、
図7に示すフローチャートを用いて説明する。なお、
図7の左側には眼鏡店において行う手順を示し、
図7の右側にはレンズメーカにおいて行う手順を示す。ステップS10において、顧客は、眼鏡店において、購入する眼鏡フレームを決定する。
【0025】
ステップS11において、ステップS10で決定した眼鏡フレームに装着する眼鏡レンズの処方値(例えば、球面度数(S度数)、乱視度数(C度数)、乱視軸度、加入度など)を決定する。眼鏡レンズの処方値は、顧客に対して、眼科医により発行された処方箋や、眼鏡店で行われた視力チェックなどに基づいて決定される。眼鏡店の店員は、この眼鏡レンズの処方値を、タッチパネル式ディスプレイ40を介して、パラメータ測定装置1に入力する。
【0026】
ステップS12において、ステップS10で決定した眼鏡フレームに度数の入っていないダミーレンズが装着された眼鏡を顧客が装用した状態で、パラメータ測定装置1により、フィッティングパラメータの測定を行う。
【0027】
具体的には、上述したように、パラメータ測定装置1は、遠方視用カメラ13によって遠方視状態の顧客(眼鏡装用者)を撮像する。また、パラメータ測定装置1は、近方視用カメラ31によって近方視状態の顧客(眼鏡装用者)を撮像する。そして、パラメータ測定装置1の本体コンピュータ20は、遠方視用カメラ13および近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて、フィッティングパラメータを計測する。
【0028】
ステップS13において、眼鏡店の店員は、ステップS10で決定した眼鏡フレームの情報、ステップS11で決定した眼鏡レンズの処方値、およびステップS12でパラメータ測定装置1により測定したフィッティングパラメータなどを含む眼鏡レンズの発注情報を、眼鏡店に設置された発注用コンピュータ(不図示)に入力する。発注用コンピュータは、入力された発注情報を、インターネットなどのネットワークを介して、レンズメーカに設置された受注用コンピュータ(不図示)に送信する。
【0029】
ステップS20において、レンズメーカでは、受注用コンピュータが、眼鏡店の発注用コンピュータからの眼鏡レンズの発注情報を受信する。ステップS21において、受注用コンピュータは、受信した眼鏡レンズの発注情報に基づいて眼鏡レンズの設計を行う。
【0030】
具体的に、受注用コンピュータは、上記受信した眼鏡レンズの発注情報に含まれる眼鏡レンズの処方値、パラメータ測定装置1により測定された右眼遠方PD、左眼遠方PD、角膜頂点距離VD、前傾角TI、そり角WRおよび近方作業距離を用いて、上述した光線追跡計算を行い、右眼近方PDおよび左眼近方PDを算出する。
【0031】
そして、例えば、累進屈折力レンズを設計する際、レンズメーカの設計者は、パラメータ測定装置1により測定された(すなわち発注情報に含まれる)右眼遠方PDおよび左眼遠方PDに基づいて、累進屈折力レンズにおける遠用のアイポイントを設定する。また、レンズメーカの設計者は、上記光線追跡計算により算出された右眼近方PDおよび左眼近方PDに基づいて、累進屈折力レンズにおける近用のアイポイントを設定する。
【0032】
ステップS22において、受注用コンピュータは、ステップS21で設計した眼鏡レンズの設計データを、加工機制御装置(不図示)に出力する。加工機制御装置は、この設計データに基づいて、眼鏡レンズ加工機(不図示)に加工指示を送る。この結果、眼鏡レンズ加工機によって、当該設計データに基づく眼鏡レンズが加工され、製造される。そして、眼鏡レンズ加工機によって製造された眼鏡レンズが眼鏡店に出荷される。ステップS14において、眼鏡店では、ステップS22で製造された眼鏡レンズを、ステップS10で決定された眼鏡フレームに枠入れして眼鏡を完成し、顧客に提供する。
【0033】
以上説明した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
本実施形態における眼鏡レンズ設計方法は、遠方視状態である眼鏡装用者を遠方視用カメラ13により撮像する工程と、近方視状態である眼鏡装用者を近方視用カメラ31により撮像する工程と、遠方視用カメラ13により撮像された画像に基づいて、右眼遠方PD、左眼遠方PD、角膜頂点距離、前傾角およびそり角を計測する工程と、近方視用カメラ31により撮像された画像に基づいて近方作業距離を計測する工程と、右眼遠方PD、左眼遠方PD、角膜頂点距離、前傾角およびそり角と、近方作業距離と、眼鏡装用者の眼鏡処方値とを用いた光線追跡計算によって、右眼近方PDおよび左眼近方PDを算出する工程と、眼鏡装用者の眼鏡処方値と、上記計測した右眼遠方PD、左眼遠方PD、角膜頂点距離、前傾角およびそり角と、上記算出した右眼近方PDおよび左眼近方PDとを用いて、眼鏡レンズを設計する設計工程と、を有する。これにより、実際に使用する眼鏡を眼鏡装用者が装用した状態における右眼近方PDおよび左眼近方PDを用いて眼鏡レンズを設計することができるので、眼鏡装用者に適した眼鏡レンズを設計することができる。
【0034】
(変形例1)
さらに、眼鏡レンズに対する瞳孔中心の高さ(以下、フィッティング高さと呼ぶ)を用いて眼鏡レンズを設計するようにしてもよい。フィッティング高さ(FH、NH)は、
図8に示すように、例えば、瞳孔中心から眼鏡レンズGLの下辺までの距離である。
【0035】
また、
図8(b)に示すように近方視状態の場合には、
図8(a)に示す遠方視状態よりも瞳孔が下側に寄るため、近方視状態のフィッティング高さNHは、遠方視状態のフィッティング高さFHよりも低くなる。また、近方視状態のフィッティング高さNHは、眼鏡レンズのプリズム作用により、眼鏡レンズの度数によって異なる。そのため、変形例1の場合には、角膜頂点距離、前傾角およびそり角に加え、遠方視状態のフィッティング高さFHをパラメータ測定装置1によって計測し、計測した角膜頂点距離、前傾角、そり角および遠方視状態のフィッティング高さFHと、眼鏡装用者の処方値とを用いた光線追跡計算によって、近方視状態のフィッティング高さNHを算出する。
【0036】
このように、本発明は、眼鏡装用者の遠方視状態および近方視状態における眼の位置に関連するパラメータ(例えば、両眼の瞳孔間距離、片目瞳孔間距離、インセット量およびフィッティング高さなど)を用いて、眼鏡レンズを設計する際に適用することができる。
【0037】
(変形例2)
図9は、左右の眼鏡レンズの度数が異なる場合における、眼鏡装用者が近くの点Aを注視する場合の光線の関係を模式的に説明する図である。
図9の光線LRは、点Aから発して右の眼鏡レンズGLに入射し、眼球(右眼)Eyの回旋中心Oに至る光線を示す。
図9の光線LLは、点Aから発して左の眼鏡レンズGLに入射し、眼球(左眼)Eyの回旋中心Oに至る光線を示す。
図9では、左の眼鏡レンズよりも右の眼鏡レンズの方がマイナスの度数が高い(屈折力が高い)場合を示している。そのため、眼鏡レンズにおいて、光線LLよりも光線LRの方がより屈折されており、右眼の視線(光線LR)が透過する透過点Bは、左眼の視線(光線LL)が透過する透過点Cの位置よりも高い位置となっている。
【0038】
ここで、左右の眼で同一の点Aを注視する際に、左右の眼鏡レンズにおいて、左眼の視線の透過点Bと右眼の視線の透過点Cとでレンズ特性(加入度数をはじめ、非点収差、ディストーションなど)が異なると、左右の眼で同一の像が形成されず、眼鏡装用者に違和感を与えてしまう。そのため、左の眼鏡レンズの透過点Bと、右の眼鏡レンズの透過点Cとで、レンズ特性に類似性を持たせる方が好ましい。
【0039】
そこで、上述したステップS21において眼鏡レンズを設計する際には、上述した光線追跡計算において、近方視状態において、左右の視線が左右の眼鏡レンズをそれぞれ透過する透過位置を算出する。そして、左右の眼鏡レンズにおいて、上記算出した透過位置でのレンズ特性に類似性を持たせるように設計する。これにより、左右の眼鏡レンズの度数が異なる場合であっても、眼鏡装用者にとって快適な眼鏡レンズを設計することができる。
【0040】
(変形例3)
なお、眼鏡装用者が眼鏡レンズの装着されていない眼鏡フレームを装用した状態でパラメータ測定装置1による測定を行うようにしてもよい。この場合も、上述した実施の形態と同様にして、右眼近方PDおよび左眼近方PDを光線追跡計算により算出することができる。また、眼鏡装用者が任意の度数が入った眼鏡レンズが装着された眼鏡を装用した状態でパラメータ測定装置1による測定を行うようにしてもよい。この場合、測定時に装用した眼鏡の度数と眼鏡装用者の処方値とに基づいて、右眼近方PDおよび左眼近方PDを光線追跡計算により算出する。
【0041】
以上の説明はあくまで一例であり、上記の実施形態の構成に何ら限定されるものではない。また、上記実施形態に各変形例の構成を適宜組み合わせてもかまわない。
上述したように、本発明に係る態様によれば、眼鏡装用者に適した眼鏡レンズを設計することができる。