【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発/資源生産性を向上できる革新的プロセス及び化学品の開発(微生物触媒による創電型廃水処理基盤技術開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
撥水性を有する第一の拡散層と、触媒を担持する第二の拡散層と、前記第一の拡散層と前記第二の拡散層との間に配置され、酸素透過性を有する酸素透過層と、を備え、前記第二の拡散層は、シート状の炭素材料を有する電極の製造方法であって、
前記第二の拡散層は、
黒鉛のグラフェン層の層間へ挿入物を形成させる工程と、
前記挿入物が形成された前記黒鉛を急速加熱することで、グラフェン層間が押し広がった膨張黒鉛を得る工程と、
前記膨張黒鉛を圧延することにより、黒鉛シートを得る工程と、
前記黒鉛シートに前記触媒を担持する工程と、
を含む方法により製造される、電極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態に係る電極、並びにそれを用いた燃料電池及び水処理装置について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
[電極]
本実施形態の電極10は、
図1に示すように、撥水性を有する第一の拡散層1と、触媒を担持する第二の拡散層2と、第一の拡散層1と第二の拡散層2との間に配置され、酸素透過性を有する酸素透過層3とを備える。具体的には、電極10は、酸素透過層3の一方の面3aに第一の拡散層1が接触するように配置されており、酸素透過層3の面3aと反対側の面3bに第二の拡散層2が接触するように配置されている。
【0012】
(第一の拡散層)
第一の拡散層1は気相5と接触しており、気相5中の気体を拡散し、酸素透過層3の面3aに対し気体を略均一に供給している。そのため、第一の拡散層1は、当該気体を拡散できるように、多孔質体であることが好ましい。また、第一の拡散層1は撥水性を有することが好ましい。第一の拡散層1が撥水性を有することにより、結露等により多孔質体の細孔が閉塞し、気体の拡散性が低下することを抑制できる。また、後述するように、電極10を燃料電池や水処理装置に用いた場合、第一の拡散層1の内部に液相が染み込み難くなり、第一の拡散層1が気相と接触しやすくなる。
【0013】
第一の拡散層1を構成する材料としては、気相5中の気体を拡散できれば特に制限されない。第一の拡散層1を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレンからなる群より選ばれる少なくとも一つを使用することができる。これらの材料は、多孔質体を形成しやすく、さらに撥水性も高いため、細孔の閉塞を抑制してガス拡散性を向上させることができる。また、第一の拡散層1は、上記材料からなる織布、不織布及びフィルムからなる群より選ばれる少なくとも一つから構成されることが好ましい。なお、第一の拡散層1が上記材料のフィルムからなる場合には、第一の拡散層1、第二の拡散層2及び酸素透過層3の積層方向Xに複数の貫通孔を有することが好ましい。
【0014】
また、第一の拡散層1は撥水性を高めるために、必要に応じて撥水剤を用いて撥水処理を施してもよい。具体的には、第一の拡散層1を構成する多孔質体に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水剤を付着させ、撥水性を向上させてもよい。
【0015】
なお、酸素透過層3の面3aに効率的に気体を供給するために、
図1に示すように、第一の拡散層1は、酸素透過層3と接触していることが好ましい。つまり、第一の拡散層1における面1bが、対向する酸素透過層3の面3aと接触していることが好ましい。これにより、酸素透過層3の面3aに拡散した気体が直接供給され、酸素透過性を向上させることができる。ただ、酸素透過層3の面3aに気体が供給されるならば、第一の拡散層1の面1bと酸素透過層3の面3aとの間に隙間が存在していてもよい。
【0016】
(第二の拡散層)
本実施形態の電極10は、第一の拡散層1に加え、触媒4を担持する第二の拡散層2を備えている。第二の拡散層2は、後述する局部電池反応により生成した電子を外部回路との間で導通させる機能を有する。そのため、第二の拡散層2はシート状の炭素材料を有している。炭素材料は、被処理液に接触しても腐食する可能性が低く、さらに電気抵抗率が低いため、長期間に亘り高い導電性を確保することができる。
【0017】
ここで、表1では、金属材料及び炭素材料の代表的なものの電気抵抗率を示す。表1に示すように、炭素材料の中で黒鉛シートの電気抵抗率が最も低いが、厚さ1mmのステンレス板よりは高い。しかしながら、金属材料はバルクの状態、つまり金属板の状態で使用するわけではなく、実際には金網やワイヤー形状で使用することが殆どである。そのため、炭素材料の電気抵抗率は、金属材料と同等であることが分かる。このように炭素材料は、被処理液に接触しても腐食して劣化する可能性が低く、さらに表1に示すように、ステンレス金網と同等の電気抵抗率を有するため、長期間に亘り高い導電性を得ることができる。
【0019】
第二の拡散層2を構成するシート状の炭素材料としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス及び黒鉛シートからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。また、第二の拡散層2は、カーボンペーパー、カーボンクロス及び黒鉛シートからなる群より選ばれる一種からなるものであってもよく、これらを複数積層してなる積層体でもよい。炭素繊維の不織布であるカーボンペーパー、炭素繊維の織布であるカーボンクロス、及び黒鉛からなる黒鉛シートは、高い耐食性を有し、かつ、表1に示すように電気抵抗率が金属材料と同等であるため、電極の耐久性と導電性を両立することが可能となる。
【0020】
第二の拡散層2は黒鉛を含有し、さらに黒鉛におけるグラフェン層は、第一の拡散層1、第二の拡散層2及び酸素透過層3の積層方向Xに垂直な方向Yに沿って配列していることが好ましい。炭素の六員環構造からなるグラフェン層がこのように配列していることにより、第一の拡散層1、第二の拡散層2及び酸素透過層3の積層方向Xの導電率よりも、当該積層方向Xに垂直な方向Yの導電率が向上する。そのため、
図5に示すように、局部電池反応により生成した電子を外部回路80との間で導通させやすくなり、電池反応の効率をより向上させることが可能となる。なお、第二の拡散層2は、黒鉛シートからなることが特に好ましい。
【0021】
ここで、F.L. LaQue: Marine Corrosion Causes and Prevention, John Wiley and Sons, p.179 (1975)では、常温静止海水中における各種金属の腐食電位が記載されている。当該文献において、黒鉛は標準カロメル電極に対する電位が+0.3〜+0.2(V vs.SCE)であり、白金は標準カロメル電極に対する電位が+0.25〜+0.18(V vs.SCE)であると記載されている。つまり、黒鉛は白金よりも腐食耐性が高いため、第二の拡散層2の材料として特に優れている。
【0022】
上述の黒鉛シートは、次のようにして得ることができる。まず、天然黒鉛を酸によって化学処理を施し、黒鉛のグラフェン層の層間へ挿入物を形成させる。次に、これを高温で急速加熱することで、層間挿入物の熱分解によるガス圧でグラフェン層間が押し広がった膨張黒鉛が得られる。そして、この膨張黒鉛を加圧し、ロール圧延することにより、黒鉛シートが得られる。このようにして得られた黒鉛シートは、黒鉛におけるグラフェン層が積層方向Xに垂直な方向Yに沿って配列しているため、第二の拡散層2の材料として特に好ましく用いることができる。
【0023】
本実施形態の電極10では、安定的な性能を確保するために、第一の拡散層1及び酸素透過層3を透過した酸素を効率よく触媒4に供給することが好ましい。そのため、第二の拡散層2は、酸素が透過する細孔が多数存在する多孔質体であることが好ましい。
【0024】
そして、第二の拡散層2は、ISO透気度が2.0×10
−5μm/Pa・s〜0.38μm/Pa・sであることがより好ましい。透気度は、単位面積、単位圧力差及び単位時間当たりに透過する空気の平均流量であり、その数値が高いほど空気が通過しやすい。第二の拡散層2がこのような範囲の透気度を有していることにより、触媒4に十分な酸素を供給することができ、安定的な性能を有する正極、燃料電池及び水処理装置を実現することが可能となる。
【0025】
具体的には、第二の拡散層2のISO透気度が2.0×10
−5μm/Pa・s以上であることにより、多数の細孔が形成されているため、酸素透過性が向上し、酸素と触媒4との接触率を高めることができる。また、第二の拡散層2のISO透気度が0.38μm/Pa・s以下であることにより、酸素透過性を高めつつも、シート状の拡散層を構成するための強度を確保することが可能となる。つまり、第二の拡散層2のISO透気度が高いほど酸素透過性が向上するが、ISO透気度が高い場合には第二の拡散層2の密度が低下し、強度が不十分となる場合がある。そのため、第二の拡散層2のISO透気度は0.38μm/Pa・s以下であることが好ましい。
【0026】
なお、電極10を燃料電池に使用した場合の出力をより高める観点から、第二の拡散層2のISO透気度は、7.9×10
−5μm/Pa・s〜0.38μm/Pa・sであることがさらに好ましい。また、第二の拡散層2のISO透気度は、2.9×10
−4μm/Pa・s〜0.38μm/Pa・sであることが特に好ましい。なお、第二の拡散層2のISO透気度は、日本工業規格JIS P8117:2009(紙及び板紙−透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)−ガーレー法)に沿って測定することができる。
【0027】
図2は、第二の拡散層2として黒鉛シートを用いて燃料電池を作製し、第二の拡散層2のISO透気度と当該燃料電池の最大出力との関係を調べたグラフの一例である。
図2に示すように、第二の拡散層2のISO透気度が2.0×10
−5μm/Pa・s以上の場合には、燃料電池の最大出力が向上していることが分かる。また、第二の拡散層2のISO透気度が7.9×10
−5μm/Pa・sの場合には最大出力がより向上し、ISO透気度が2.9×10
−4μm/Pa・s以上の場合には最大出力が特に良好となっていることが分かる。なお、
図2に示す第二の拡散層2のISO透気度と燃料電池の最大出力の具体的な数値を表2に示す。
【0029】
上述のように、第二の拡散層2が多孔質体であることにより、酸素透過性を高め、安定的な性能を確保しやすくなる。そのため、第二の拡散層2の密度は0.10g/cm
3〜1.0g/cm
3であることが好ましい。第二の拡散層2の密度が0.10g/cm
3以上であることにより、シート形状を維持するための強度を確保することができる。また、第二の拡散層2の密度が1.0g/cm
3以下であることにより、第二の拡散層2のISO透気度を2.0×10
−5μm/Pa・s以上とすることが可能となる。
【0030】
ここで、
図3では、第二の拡散層2としての黒鉛シートの密度とISO透気度との関係を示す。
図3に示すように、黒鉛シートの密度が1.0g/cm
3の場合には、ISO透気度が2.0×10
−5μm/Pa・sとなり、黒鉛シートの密度が低下するにつれてISO透気度が高くなる傾向がある。そして、
図3に示す最小二乗法で得られた近似曲線より、黒鉛シートの密度が0.10g/cm
3の場合にISO透気度が0.38μm/Pa・sとなることが分かる。そのため、第二の拡散層2における密度の下限値(0.10g/cm
3)より、ISO透気度の上限値は0.38μm/Pa・sとすることが好ましい。なお、
図3に示す黒鉛シートの密度とISO透気度の具体的な数値を表3に示す。
【0032】
第二の拡散層2を構成する炭素材料シートは、触媒4を担持した担持部において、第一の拡散層1、第二の拡散層2及び酸素透過層3の積層方向Xに対し、少なくとも1つ以上の貫通孔を有した形状であってもよい。炭素材料シートに貫通孔があることにより、第一の拡散層1及び酸素透過層3を透過した酸素を、より効率よく触媒4に供給することが可能となる。
【0033】
第二の拡散層2は、第一の拡散層1、第二の拡散層2及び酸素透過層3の積層方向Xに垂直な方向Yの電気抵抗率が20μΩ・m以下であることが好ましい。また、第二の拡散層2は、第一の拡散層1、第二の拡散層2及び酸素透過層3の積層方向Xの電気抵抗率が積層方向Xに垂直な方向Yの電気抵抗率の100倍以上であることが好ましい。電気抵抗率が上記範囲内であることにより、局部電池反応により生成した電子を外部回路80との間で更に導通させやすくなる。なお、第二の拡散層2における積層方向Xに垂直な方向Yの電気抵抗率の下限は特に制限されないが、例えば0.10μΩ・m以上とすることができる。また、第二の拡散層2における積層方向Xの電気抵抗率の上限も特に制限されないが、例えば当該垂直な方向Yの電気抵抗率の1000倍以下とすることができる。なお、上述の電気抵抗率は、例えば四探針法により測定することができる。
【0034】
本実施形態において、第二の拡散層2は触媒4を担持している。つまり、
図1に示すように、第二の拡散層2は、その表面に、後述する局部電池反応を促進するための触媒4を担持している。触媒4を備えることにより、酸素透過層3によって移送された酸素と、後述するイオン移動層を透過して第二の拡散層2に移動した水素イオンとの反応が促進し、酸素の還元効率を高めることができるので、より効率的な電池反応を実現することが可能となる。
【0035】
第二の拡散層2に担持され得る触媒4は、酸素還元触媒であることが好ましい。酸素還元触媒を担持することにより、酸素透過層3によって移送された酸素と水素イオンとの反応速度をより高めることが可能となる。酸素還元触媒は特に限定されないが、白金を含有することが好ましい。また、酸素還元触媒は、非金属原子と金属原子とがドープされた炭素粒子を含んでもよい。炭素粒子にドープされる原子は特に限定されない。非金属原子は、例えば窒素原子、ホウ素原子、硫黄原子、リン原子などであってもよい。また、金属原子は、例えば鉄原子、銅原子などであってもよい。
【0036】
第二の拡散層2は、酸素透過層3側の面2aの反対側の面2bに触媒4を担持することができる。つまり、
図1に示すように、第二の拡散層2の面2bに触媒4のスラリーを塗布することにより、触媒4からなる塗膜を形成してもよい。ただ、第二の拡散層2と触媒4との接着性を向上させ、長期間に亘る酸素還元反応を促進するために、触媒4と担体シートとを複合化して触媒シートを作製し、第二の拡散層2に接合してもよい。つまり、まず、導電性の担体シートに触媒4を含有するスラリーを浸漬して乾燥することにより、触媒シートを作製する。その後、第二の拡散層2の面2b側に、得られた触媒シートを配置するようにして、触媒4を担持してもよい。なお、担体シートとしては例えば導電性の不織布を用いることができる。また、担体シートとしては、上述のカーボンペーパー、カーボンクロス及び黒鉛シートからなる群より選ばれる一種を用いることができる。
【0037】
また、第二の拡散層2と触媒4との接着性を向上させるために、触媒4と第二の拡散層2を構成する材料とは複合状態であってもよい。具体的には、
図4に示すように、第二の拡散層2は黒鉛を含有し、黒鉛におけるグラフェン層2cの層間に触媒4を担持するようにしてもよい。グラフェン層2cの層間に触媒4を担持することにより、第二の拡散層2からの触媒4の脱離を抑制することが可能となる。また、第二の拡散層2の内部に触媒4が微粒子の状態で分散するため、酸素透過層3によって移送された酸素及び水素イオンが触媒4の表面で接触しやすくなり、酸素の還元反応速度をより向上させることが可能となる。
【0038】
(酸素透過層)
さらに電極10は、
図1に示すように、第一の拡散層1と第二の拡散層2との間に配置され、酸素透過性を有する酸素透過層3を備えている。酸素透過層3は酸素透過性を有するため、第二の拡散層2の面2aに酸素を供給する機能を有する。
【0039】
酸素透過層3の材料としては、酸素透過性を有し、さらに好ましくは撥水性能を有する材料であれば特に限定されない。酸素透過層3の材料としては、例えばシリコーンゴム及びポリジメチルシロキサンの少なくともいずれか一方を用いることができる。これらの材料は、シリコーンの分子構造に由来する高い酸素溶解性及び酸素拡散性を有しているため、酸素透過性に優れている。さらにこれらの材料は、表面自由エネルギーが小さいため、撥水性能にも優れている。そのため、酸素透過層3はシリコーンを含有することが特に好ましい。
【0040】
また、酸素透過層3の材料としては、エチルセルロース、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリブタジエン、ポリテトラフルオロエチレン及びブチルゴムからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。これらの材料も高い酸素透過性と撥水性を有しているため、好ましい。
【0041】
なお、酸素透過層3としては、防水透過膜などの不織布や、ポリエチレン及びポリプロピレンの不織布も用いることができる。具体的には、酸素透過層3としては、ポリテトラフルオロエチレンを延伸加工したフィルムとポリウレタンポリマーを複合化してなるゴアテックス(登録商標)を用いることができる。
【0042】
第二の拡散層2の面2aに効率的に酸素を供給するために、
図1に示すように、酸素透過層3は、第二の拡散層2と接触していることが好ましい。つまり、酸素透過層3における面3bが、対向する第二の拡散層2の面2aと接触していることが好ましい。これにより、第二の拡散層2の面2aに直接酸素が供給され、さらに第二の拡散層2の内部を通じて酸素が触媒4に到達するため、後述する局部電池反応が進行しやすくなる。ただ、第二の拡散層2の面2aに酸素が供給されるならば、第二の拡散層2の面2aと酸素透過層3の面3bとの間に隙間が存在していてもよい。
【0043】
また、酸素透過層3は、撥水性能を有することが好ましい。つまり、酸素透過層3は、撥水性能を有するシートであることがより好ましい。後述するように、酸素透過層3は、酸素を含む気相5と、廃水槽の内部に保持された、液相としての被処理液6とを分離するように配置されている。ここでいう「分離」とは、物理的に遮断することをいう。これにより、被処理液6中の有機物や窒素含有化合物が気相5側に移動することを抑制できる。
【0044】
さらに酸素透過層3は、使用する材料により酸素透過量を調整し、気相5側の酸素分子が被処理液6に過度に透過することを抑制できる。そのため、後述するように、廃水槽内を、酸素が存在し難い嫌気性条件により確実に保つことができる。この結果、廃水槽内において好気性微生物の繁殖が抑えられるので、嫌気性条件下で液体処理を行うことができる。
【0045】
このように、本実施形態の電極10は、撥水性を有する第一の拡散層1と、触媒4を担持する第二の拡散層2と、第一の拡散層1と第二の拡散層2との間に配置され、酸素透過性を有する酸素透過層3とを備え、第二の拡散層2はシート状の炭素材料を有する。第二の拡散層2にシート状の炭素材料を適用することによって、電極10を燃料電池に適用した際の腐食を抑制することが可能となる。また、炭素材料は金属と同等の電気抵抗率を有するため、電極10のスケールアップに伴う内部抵抗の増加、及び電気エネルギーの生産性の低下を抑制することが可能となる。また、第二の拡散層2に対し、撥水性を有する第一の拡散層1及び酸素透過層3を張り合わせることで、後述するように、浸水し難い膜接合電極を作製することができる。そのため、大気中の酸素を供給することによって高い電池特性を発揮することが可能となる。
【0046】
[燃料電池]
次に、本実施形態に係る燃料電池について説明する。本実施形態の燃料電池100は、
図5に示すように、微生物を担持する負極20と、水素イオンを透過するイオン移動層30と、イオン移動層30を介して負極20と隔てられた、上述の電極10からなる正極40とを備える。
【0047】
負極20は、導電性を有する導電体シートに微生物を担持した構造を有する。導電体シートとしては、多孔質の導電体シート、織布状の導電体シート及び不織布状の導電体シートからなる群より選ばれる少なくとも一つを使用することができる。また、導電体シートは複数のシートを積層した積層体でもよい。負極20の導電体シートとして、このような複数の細孔を有するシートを用いることにより、後述する局部電池反応で生成した水素イオンがイオン移動層30の方向へ移動しやすくなり、酸素還元反応の速度を高めることが可能となる。また、イオン透過性を向上させる観点から、負極20の導電体シートは、電極10、負極20及びイオン移動層30の積層方向X、つまり厚さ方向に連続した空間(空隙)を有していることが好ましい。
【0048】
当該導電体シートは、厚さ方向に複数の貫通孔を有する金属板であってもよい。そのため、負極20の導電体シートを構成する材料としては、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル及びチタンなどの導電性金属、並びにカーボンペーパー、カーボンフェルトからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0049】
負極20の導電体シートとして、電極10の第二の拡散層2で使用し得る黒鉛シートを用いてもよい。また、負極20は黒鉛を含有し、さらに黒鉛におけるグラフェン層は、電極10、負極20及びイオン移動層30の積層方向Xに垂直な方向YZの面に沿って配列していることが好ましい。グラフェン層がこのように配列していることにより、電極10、負極20及びイオン移動層30の積層方向Xの導電率よりも、積層方向Xに垂直な方向YZの導電率が向上する。そのため、負極20の局部電池反応により生成した電子を外部回路へ導通させやすくなり、電池反応の効率をより向上させることが可能となる。
【0050】
負極20に担持される微生物としては、被処理液中の有機物、又は窒素を含む化合物(窒素含有化合物)を分解する微生物であれば特に限定されないが、例えば増殖に酸素を必要としない嫌気性微生物を使用することが好ましい。嫌気性微生物は、被処理液中の有機物を酸化分解するための空気を必要としない。そのため、空気を送り込むために必要な電力を大幅に低減することができる。また、微生物が獲得する自由エネルギーが小さいので、汚泥発生量を減少させることが可能となる。負極20に保持される嫌気性微生物は、例えば細胞外電子伝達機構を有する電気生産細菌であることが好ましい。具体的には、嫌気性微生物として、例えばGeobacter属細菌、Shewanella属細菌、Aeromonas属細菌、Geothrix属細菌、Saccharomyces属細菌が挙げられる。
【0051】
本実施形態の燃料電池100は、水素イオンを透過するイオン移動層30を備えている。イオン移動層30は、負極20で生成した水素イオンを透過し、正極40側へ移動させる機能を有する。イオン移動層30としてはイオン交換樹脂を用いたイオン交換膜を使用することができる。イオン交換樹脂としては、例えばデュポン株式会社製のNAFION(登録商標)、並びに旭硝子株式会社製のフレミオン(登録商標)及びセレミオン(登録商標)を用いることができる。
【0052】
また、イオン移動層30として、水素イオンが透過することが可能な細孔を有する多孔質膜を使用してもよい。つまり、イオン移動層30は、負極20と正極40との間を水素イオンが移動するための空間(空隙)を有するシートであってもよい。そのため、イオン移動層30は、多孔質のシート、織布状のシート及び不織布状のシートからなる群より選ばれる少なくとも一つを備えることが好ましい。また、イオン移動層30は、ガラス繊維膜、合成繊維膜、及びプラスチック不織布からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができ、これらを複数積層してなる積層体でもよい。このような多孔質のシートは、内部に多数の細孔を有しているため、水素イオンが容易に移動することが可能となる。なお、イオン移動層30の細孔径は、負極20から正極40に水素イオンが移動できれば特に限定されない。
【0053】
本実施形態の燃料電池100は、上述の電極10からなる正極40を備えている。つまり、正極40は、撥水性を有する第一の拡散層1と、触媒4を担持する第二の拡散層2と、第一の拡散層1と第二の拡散層2との間に配置され、酸素透過性を有する酸素透過層3とを備えている。そして、第二の拡散層2の面2b側にイオン移動層30を配置している。
【0054】
ここで、本実施形態の燃料電池100は、
図5に示すように、負極20、イオン移動層30及び正極40からなる膜電極接合体50を複数備えている。さらに
図5及び
図6に示すように、2枚の膜電極接合体50は、正極40の第一の拡散層1同士が対向するように、カセット基材51を介して積層されている。カセット基材51は、正極40の第一の拡散層1の外周部に沿うU字状の枠部材であり、上部が開口している。つまり、カセット基材51は、2本の第一柱状部材51aの底面を第二柱状部材51bで連結した枠部材である。そして、カセット基材51の側面52は、正極40の第一の拡散層1における酸素透過層3とは反対側の面1aの外周部と接合されており、第一の拡散層1の外周部からカセット基材51の内部に被処理液6が漏出することを抑制できる。
【0055】
そして、
図5に示すように、2枚の膜電極接合体50とカセット基材51とを積層してなる燃料電池ユニット60は、大気と連通した気相5が形成されるように、廃水槽70の内部に配置される。廃水槽70の内部には被処理液6が保持されており、負極20、イオン移動層30、並びに正極40の第二の拡散層2及び触媒4は、被処理液6に浸漬されている。つまり、正極40を構成する第一の拡散層1は酸素を含む気体と接触するように配置され、第二の拡散層2は被処理液6と接触するように配置されている。
【0056】
上述のように、正極40の第一の拡散層1及び酸素透過層3は撥水性を有する。そのため、廃水槽70の内部に保持された被処理液6とカセット基材51の内部とは隔てられ、2枚の膜電極接合体50とカセット基材51とにより形成された内部空間は気相5となっている。そして、
図5に示すように、正極40及び負極20は、それぞれ外部回路80と電気的に接続されている。
【0057】
ここで、廃水槽70は内部に被処理液6を保持しているが、被処理液6が流通するような構成であってもよい。例えば、
図5に示すように、廃水槽70には、被処理液6を廃水槽70に供給するための液体供給口71と、処理後の被処理液6を廃水槽70から排出するための液体排出口72とが設けられていてもよい。
【0058】
なお、廃水槽70内は、例えば分子状酸素が存在しない、又は分子状酸素が存在してもその濃度が極めて小さい嫌気性条件に保たれていることが好ましい。これにより、廃水槽70内で、被処理液6を酸素と殆ど接触しないように保持することが可能となる。
【0059】
次に、本実施形態の燃料電池(微生物燃料電池)100の作用について説明する。燃料電池100の動作時には、負極20に、有機物及び窒素含有化合物の少なくとも一方を含有する被処理液6を供給し、正極40に空気(又は酸素)を供給する。この際、空気は、カセット基材51の上部に設けられた開口部を通じて連続的に供給される。なお、被処理液6も、液体供給口71及び液体排出口72を通じて連続的に供給されることが好ましい。
【0060】
そして、正極40では、第一の拡散層1により空気が拡散し、酸素透過層3を空気中の酸素が透過し、第二の拡散層2へ到達する。また、負極20では、微生物の触媒作用により、被処理液6中の有機物及び/又は窒素含有化合物から水素イオン及び電子を生成する。生成した水素イオンは、イオン移動層30を透過して正極40側へ移動する。また、生成した電子は負極20の導電体シートを通じて外部回路80へ移動し、さらに外部回路80から正極40の第二の拡散層2に移動する。そして、第二の拡散層2に移動した水素イオン及び電子は、触媒4の作用により酸素と結合し、水となって消費される。このとき、外部回路80によって、閉回路に流れる電気エネルギーを回収する。
【0061】
上述のように、正極40の第二の拡散層2は、シート状の炭素材料を有している。そのため、正極40の腐食を抑制し、長期間に亘り効率的に発電することが可能となる。また、炭素材料は金属と同等の電気抵抗率を有するため、内部抵抗の増加を抑制することが可能となる。また、第二の拡散層2に対し、撥水性を有する第一の拡散層1及び酸素透過層3を張り合わせることで、浸水し難い電極を作製することができる。そのため、大気中の酸素を供給することによって高い電池特性を発揮することが可能となる。
【0062】
ここで、本実施形態に係る負極20には、例えば、電子伝達メディエーター分子が修飾されていてもよい。あるいは、廃水槽70内の被処理液6は、電子伝達メディエーター分子を含んでいてもよい。これにより、嫌気性微生物から負極20への電子移動を促進し、より効率的な液体処理を実現できる。
【0063】
具体的には、嫌気性微生物による代謝機構では、細胞内又は最終電子受容体との間で電子の授受が行われる。被処理液6中にメディエーター分子を導入すると、メディエーター分子が代謝の最終電子受容体として作用し、かつ、受け取った電子を負極20へと受け渡す。この結果、被処理液6における有機物などの酸化分解速度を高めることが可能になる。このような電子伝達メディエーター分子は特に限定されないが、例えばニュートラルレッド、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸(AQDS)、チオニン、フェリシアン化カリウム、及びメチルビオローゲンからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0064】
なお、
図5及び
図6に示す燃料電池ユニット60は、2枚の膜電極接合体50とカセット基材51を積層する構成となっている。しかし、本実施形態はこの構成に限定されない。例えば、カセット基材51の一方の側面52のみに膜電極接合体50を接合し、他方の側面は板部材で封止してもよい。また、
図6に示すカセット基材51は、上部の全体が開口しているが、内部に空気(酸素)を導入することが可能ならば部分的に開口していてもよく、また閉口していてもよい。
【0065】
[水処理装置]
次に、本実施形態に係る水処理装置について説明する。本実施形態の水処理装置は、被処理液を浄化する微生物を担持する負極20と、水素イオンを透過するイオン移動層30と、イオン移動層30を介して負極20と隔てられた、上述の電極10からなる正極40とを備える。
【0066】
上述のように、本実施形態の燃料電池100は、有機物及び窒素含有化合物の少なくとも一方を含有する被処理液6を負極20に供給している。そして、負極20に担持された微生物の代謝により、被処理液6中の有機物及び/又は窒素含有化合物から水素イオン及び電子と共に、二酸化炭素又は窒素を生成している。
【0067】
具体的には、例えば被処理液6が有機物としてグルコースを含有する場合、以下の局部電池反応により、二酸化炭素、水素イオン及び電子を生成している。
・負極20(アノード):C
6H
12O
6+6H
2O→6CO
2+24H
++24e
−
・正極40(カソード):6O
2+24H
++24e
−→12H
2O
また、被処理液6が窒素含有化合物としてアンモニアを含有する場合、以下の局部電池反応により、窒素、水素イオン及び電子を生成している。
・負極20(アノード):4NH
3→2N
2+12H
++12e
−
・正極40(カソード):3O
2+12H
++12e
−→6H
2O
【0068】
このように、本実施形態の水処理装置は、燃料電池100を用いることにより、被処理液6中の有機物及び窒素含有化合物が負極20に接触して酸化分解されるため、被処理液6を浄化することができる。また、上述のように、廃水槽70に、被処理液6を廃水槽70に供給するための液体供給口71と、処理後の被処理液6を廃水槽70から排出するための液体排出口72を設け、被処理液6を連続的に供給することができる。そのため、負極20に被処理液6を連続的に接触させ、被処理液6を効率的に処理することが可能となる。
【0069】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。具体的には、
図6において、負極20、イオン移動層30、並びに第一の拡散層1、第二の拡散層2及び酸素透過層3を備えた電極10からなる正極40は、矩形状に形成されている。しかし、これらの形状は特に限定されず、燃料電池の大きさ、並びに所望の発電性能及び浄化性能等により任意に変更することができる。また、各層の面積も所望の機能が発揮できるならば任意に変更することができる。
【0070】
特願2014−213930号(出願日:2014年10月20日)及び特願2015−078177号(出願日:2015年4月7日)の全内容は、ここに援用される。