(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットであって、比抵抗が1Ω・cm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【背景技術】
【0002】
TFTに用いられるアモルファス(非晶質)酸化物半導体は、汎用のアモルファスシリコン(a−Si)に比べて高いキャリア移動度を有し、光学バンドギャップが大きく、低温で成膜できる。そのため、大型・高解像度・高速駆動が要求される次世代ディスプレイや、耐熱性の低い樹脂基板などへの適用が期待されている。これらの用途に好適な酸化物半導体の組成として、In含有の非晶質酸化物半導体が提案されており、例えば、In−Ga−Zn系酸化物(IGZO)半導体を用いた製品が実用化されている。また、高移動度などの異なる特性を付与する目的で、Snを含有したIn−Ga−Zn−Sn系酸化物半導体やIn−Ga−Sn系酸化物半導体などが注目されている。
【0003】
上記酸化物半導体薄膜の形成に当たっては、当該薄膜と同じ材料のスパッタリングターゲット(以下、「ターゲット材」ということがある)をスパッタリングするスパッタリング法が好適に用いられている。スパッタリングターゲットは酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディングされた状態で使用されているが、酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディングする工程において、酸化物焼結体が割れてしまうことがあった。
【0004】
上記のSnを含有する酸化物半導体では、Snに由来する結晶相が生じ得るが、その結晶相を制御することで、スパッタリングターゲットの割れを抑制したり、スパッタリング時の異常放電を抑制することで、良好な半導体膜を得るための技術が開示されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、In
2O
3(ZnO)
m(mは3〜9の整数)で表される六方晶層状化合物及びZn
2SnO
4で表されるスピネル構造化合物を含むIn−Zn−Sn系酸化物半導体が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、Znが添加されたIn−Ga−Zn−Sn系酸化物焼結体の場合において、IGZO系酸化物の主成分であるInGaO
3(ZnO)
m(mは1〜20の整数)で表わされる化合物が異常成長して異常放電を起こし、得られる膜に不良が発生することを抑制するために、In、Ga、Zn及びSnの含有量を調整し、Ga
2In
6Sn
2O
16、Ga
2.4In
5.6Sn
2O
16又は(Ga,In)
2O
3のいずれかを主成分とする技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、In−Ga−Zn−Sn系酸化物焼結体を用いたTFTの酸化物半導体薄膜における、ウェットエッチング性(酸化物半導体薄膜における、シュウ酸などの酸化物半導体加工用エッチング液に対する可溶性)を向上させるためにはZnを多量に添加する必要があるが、Znを多量に添加した系においては、上記で説明したInGaO
3(ZnO)
mで表わされる化合物が異常成長しやすく、当該化合物の結晶粒径が粗大化することにより、得られた酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディングする工程において、酸化物焼結体が特に割れやすくなるという課題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、Znが多量に添加されたIn−Ga−Zn−Sn系酸化物焼結体においても、ボンディング時の割れの発生を抑制できる酸化物焼結体、および当該酸化物焼結体を用いたスパッタリングターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、スパッタリングターゲットに用いられる酸化物焼結体が特定の組成及び結晶相を備えることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[6]に係るものである。
[1]金属元素がIn、Ga、Zn及びSnから構成され、InGaO
3(ZnO)
m(mは1〜6の整数)で表わされる六方晶層状化合物を含む酸化物焼結体であって、
前記酸化物焼結体に含まれる酸素を除く全金属元素に対する、In、Zn及びSnの含有量の割合(原子%)を、それぞれ[In]、[Zn]及び[Sn]としたとき、下記式(1)〜(3)を満足することを特徴とする酸化物焼結体。
[Zn]≧40原子%・・・(1)
[In]≦15原子%・・・(2)
[Sn]≦4原子%・・・(3)
[2]前記InGaO
3(ZnO)
mは、InGaO
3(ZnO)
3及びInGaZn
2O
5で表わされる六方晶層状化合物を含むことを特徴とする上記[1]に記載の酸化物焼結体。
[3]前記酸化物焼結体をX線回折したとき、前記InGaO
3(ZnO)
3及び前記InGaZn
2O
5は、下記式(4)を満足することを特徴とする上記[2]に記載の酸化物焼結体。
[InGaO
3(ZnO)
3]+[InGaZn
2O
5]≧0.9・・・(4)
ただし、[InGaO
3(ZnO)
3]=I(InGaO
3(ZnO)
3)/(I(InGaO
3(ZnO)
3)+I(InGaZn
2O
5)+I(Ga
2In
6Sn
2O
16)+I(Ga
3InSn
5O
16)+I(Zn
2SnO
4))であり、[InGaZn
2O
5]=I(InGaZn
2O
5)/(I(InGaO
3(ZnO)
3)+I(InGaZn
2O
5)+I(Ga
2In
6Sn
2O
16)+I(Ga
3InSn
5O
16)+I(Zn
2SnO
4))である。
式中、I(InGaO
3(ZnO)
3)、I(InGaZn
2O
5)、I(Ga
2In
6Sn
2O
16)、I(Ga
3InSn
5O
16)及びI(Zn
2SnO
4)は、それぞれX線回折で特定されたInGaO
3(ZnO)
3相、InGaZn
2O
5相、Ga
2In
6Sn
2O
16相、Ga
3InSn
5O
16相、Zn
2SnO
4相の回折ピーク強度である。
[4]前記酸化物焼結体の平均結晶粒径が10μm以下であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の酸化物焼結体。
[5]前記平均結晶粒径が6μm以下であることを特徴とする上記[4]に記載の酸化物焼結体。
[6]上記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットであって、比抵抗が1Ω・cm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Znが多量に添加されたIn−Ga−Zn−Sn系酸化物焼結体においても、ボンディング時の割れの発生を抑制できる酸化物焼結体、および当該酸化物焼結体を用いたスパッタリングターゲットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、酸化物焼結体について、スパッタリング中の異常放電及びスパッタリングターゲット材の割れを抑制することで長時間の安定した成膜が可能であり、しかも、ウェットエッチング性を向上させ得る酸化物半導体膜を成膜するのに適したスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を提供するため、鋭意検討を行ってきた。
【0014】
その結果、金属元素がIn、Ga、Zn及びSnから構成される酸化物焼結体であって、酸化物焼結体に含まれる各金属元素の含有量をそれぞれ適切に制御することにより、所定の結晶相から構成される酸化物焼結体を得ることができ、優れたウェットエッチング性を確保しつつも、酸化物焼結体の割れを抑制することができることを見出した。
【0015】
具体的には、(a)Znを多量に添加(40原子%以上)することで優れたウェットエッチング性を確保できること、(b)所定量以下のInを添加(15原子%以下)し、かつ、所定量以下のSnを添加(4原子%以下)することで、Snに由来するGa
2In
6Sn
2O
16、Ga
3InSn
5O
16又はZn
2SnO
4などの結晶相の生成を抑えつつ、Snが均一に固溶したInGaO
3(ZnO)
m(mは1〜6の整数)の化合物からなる微細結晶相を形成し、ボンディング割れに強い構造が得られることを突き止め、本発明を完成するに至った。
【0016】
まず、本発明に係る酸化物焼結体について、詳細に説明する。
本発明の酸化物焼結体は、金属元素がIn、Ga、Zn及びSnから構成され、InGaO
3(ZnO)
m(mは1〜6の整数)で表わされる六方晶層状化合物を含む酸化物焼結体であって、前記酸化物焼結体に含まれる酸素を除く全金属元素に対する、In、Zn及びSnの含有量の割合(原子%)を、それぞれ[In]、[Zn]及び[Sn]としたとき、下記式(1)〜(3)を満足するものである。
[Zn]≧40原子%・・・(1)
[In]≦15原子%・・・(2)
[Sn]≦4原子%・・・(3)
【0017】
ここで、ウェットエッチング性に優れ、かつ、ボンディング工程での酸化物焼結体の割れを抑制し得る酸化物焼結体を形成するためには、酸化物焼結体に含まれる各金属元素の含有量をそれぞれ適切に制御する必要がある。
【0018】
具体的には、酸化物焼結体に含まれる酸素を除く全金属元素に対する、In、Zn及びSnの含有量の割合(原子%)を、それぞれ[In]、[Zn]及び[Sn]としたとき、下記式(1)〜(3)を満足するように制御する。
[Zn]≧40原子%・・・(1)
[In]≦15原子%・・・(2)
[Sn]≦4原子%・・・(3)
【0019】
上記式(1)は、全金属元素中のZn比([Zn]=Zn/(In+Ga+Zn+Sn))を規定したものである。Znは、酸化物半導体薄膜のアモルファス化を促進させる作用を有する。[Zn]が低すぎると、ウェットエッチング性の向上効果を得られにくくなる。したがって、[Zn]は、40原子%以上、好ましくは45原子%以上、より好ましくは50原子%以上、更に好ましくは55原子%以上である。また、[Zn]が高すぎると、Inが相対的に減少するため電界効果移動度が低下したり、Gaが相対的に減少するため酸化物半導体薄膜の電気的安定性が低下しやすくなる。したがって、[Zn]は、65原子%以下が好ましく、60原子%以下がより好ましい。
【0020】
上記式(2)は、全金属元素中のIn比([In]=In/(In+Ga+Zn+Sn))を規定したものである。Inは、一般的には電気伝導性の向上に寄与する元素である。[In]が高すぎると、In
2O
3のようなビックスバイト構造の結晶相や、Ga
2In
6Sn
2O
16などのSnを含む結晶相の形成を誘発しやすくなり、結果としてこれらの結晶相を起点としてクラックが生じ、ボンディング時の割れの原因となり得る。したがって、[In]は、15原子%以下、好ましくは12原子%以下、より好ましくは10原子%以下である。また、[In]が低すぎると、電界効果移動度が低くなってしまうおそれがある。したがって、[In]は、1原子%以上、好ましくは3原子%以上、より好ましくは7原子%以上である。
【0021】
上記式(3)は、全金属元素中のSn比([Sn]=Sn/(In+Ga+Zn+Sn))を規定したものである。Snは、一般的にはウェットエッチング性など、酸化物半導体薄膜の薬液耐性を向上させる作用を有する。[Sn]が高すぎると、Snに由来する結晶相(Ga
2In
6Sn
2O
16、Ga
3InSn
5O
16又はZn
2SnO
4などの結晶相)の生成を抑制しきれなくなり、結果として生成された当該結晶相を起点としてクラックが生じ、ボンディング時の割れの原因となり得る。したがって、[Sn]は、4原子%以下、好ましくは3.5原子%以下、より好ましくは3原子%以下である。また、[Sn]が低すぎると、詳細は後述するが、本発明に係る酸化物焼結体に含まれるInGaO
3(ZnO)
m(mは1〜6の整数)の化合物にSnが均一に固溶した状態とならず、固溶したSnによるピン止め効果による結晶相の成長の抑制効果を得られにくくなる。したがって、[Sn]は、1原子%以上、好ましくは1.5原子%以上、より好ましくは2原子%以上である。
【0022】
続いて、本発明に係る酸化物焼結体をX線回折したときに検出される、InGaO
3(ZnO)
m(mは1〜6の整数)で表わされる六方晶層状化合物について説明する。より具体的には、当該六方晶層状化合物は、InGaO
3(ZnO)
3及びInGaZn
2O
5で表わされる六方晶層状化合物である。
【0023】
InGaO
3(ZnO)
3及びInGaZn
2O
5は、それぞれ本発明の酸化物焼結体を構成するIn、Ga及びZn及びOが結合して形成される酸化物である。なお、酸化物焼結体に含まれるSnは、上記で説明したようなGa
2In
6Sn
2O
16、Ga
3InSn
5O
16又はZn
2SnO
4などの結晶相のように結晶構造の骨格をなすものではなく、InGaO
3(ZnO)
3やInGaZn
2O
5の結晶相に均一に固溶しているものである。Snが上記結晶相に均一に固溶していることについては、後述する実施例で示すように、X線回折の結果及びEPMA(Electron Probe X−ray Micro Analyzer、電子プローブマイクロアナリシス)による面内組成マッピングにより確認することができる。
【0024】
上述したように、これら結晶相にSnが均一に固溶することで、固溶したSnが各結晶相の粗大化に対し、いわゆるピン止めの役割を果たすことができる。このため、Ga
2In
6Sn
2O
16、Ga
3InSn
5O
16又はZn
2SnO
4などのように、Sn自体が結晶相の骨格をなしてしまう場合には、上記ピン止めの効果を効果的に奏することができないため好ましくない。Snが結晶相の骨格をなすことなく、結晶相に均一に固溶化させるためには、上記で説明したように、Snを所定量以下で添加することが重要となる。
【0025】
そして、Snによるピン止め効果により、InGaO
3(ZnO)
3やInGaZn
2O
5などの六方晶層状化合物の平均結晶粒径を小さく抑えることができ、ボンディング時の割れの抑制効果を高めることができる。
【0026】
また、ボンディング時の割れ抑制効果をより一層高めるためには、酸化物焼結体の結晶粒の平均結晶粒径を微細化することが好ましい。具体的には、酸化物焼結体の破断面(酸化物焼結体を任意の位置で厚み方向に切断し、その切断面表面の任意の位置)において走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)により観察される結晶粒の平均結晶粒径を、好ましくは10μm以下とすることによって、酸化物焼結体の割れをより一層抑制することができる。酸化物焼結体の結晶粒の平均結晶粒径は、より好ましくは8μm以下であり、更に好ましくは6μm以下、より更に好ましくは5μm以下である。一方、当該平均結晶粒径の下限値は特に限定されないが、平均結晶粒径の微細化と製造コストのバランスから、平均結晶粒径の好ましい下限は0.05μm程度である。
【0027】
また、本発明では酸化物焼結体の結晶粒の平均結晶粒径に加えて、粒度分布を適切に制御することがさらに好ましい。具体的には結晶粒径が15μmを超える粗大結晶粒は、ボンディング時の酸化物焼結体の割れの原因となるため、できるだけ少ない方がよい。したがって、結晶粒全体に占める結晶粒径が15μmを超える粗大結晶粒の面積率は、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下、よりさらに好ましくは4%以下である。
【0028】
本発明の酸化物焼結体の相対密度は、90%以上であることが好ましい。酸化物焼結体の相対密度を高めることによってボンディング時の割れ抑制効果を一層向上できる。本発明の酸化物焼結体の相対密度は、より好ましくは95%以上であり、更に好ましくは98%以上である。上限値は特に限定されず、例えば100%であってもよいが、製造コストを考慮すると、99%が好ましい。
【0029】
なお、ボンディング時の割れ抑制効果をより一層向上させるためには、X線回折で特定されるInGaO
3(ZnO)
3相およびInGaZn
2O
5相の回折ピーク強度が、下記式(4)を満足することが好ましい。
[InGaO
3(ZnO)
3]+[InGaZn
2O
5]≧0.9・・・(4)
ただし、[InGaO
3(ZnO)
3]=I(InGaO
3(ZnO)
3)/(I(InGaO
3(ZnO)
3)+I(InGaZn
2O
5)+I(Ga
2In
6Sn
2O
16)+I(Ga
3InSn
5O
16)+I(Zn
2SnO
4))であり、[InGaZn
2O
5]=I(InGaZn
2O
5)/(I(InGaO
3(ZnO)
3)+I(InGaZn
2O
5)+I(Ga
2In
6Sn
2O
16)+I(Ga
3InSn
5O
16)+I(Zn
2SnO
4))である。
式中、I(InGaO
3(ZnO)
3)、I(InGaZn
2O
5)、I(Ga
2In
6Sn
2O
16)、I(Ga
3InSn
5O
16)及びI(Zn
2SnO
4)は、それぞれX線回折で特定されたInGaO
3(ZnO)
3相、InGaZn
2O
5相、Ga
2In
6Sn
2O
16相、Ga
3InSn
5O
16相、Zn
2SnO
4相の回折ピーク強度である。なお、「I」は、X線回折強度(回折ピーク強度)の測定値であることを意味する。
【0030】
InGaO
3(ZnO)
3及びInGaZn
2O
5の化合物相は、酸化物焼結体をX線回折して得られた回折ピークについて、それぞれICSD(Inorganic Crystal Structure Database)カードの00−064−0801、00−040−0252に記載されている結晶構造(それぞれ、InGaO
3(ZnO)
3相、InGaZn
2O
5相に対応)を有するものである(表2を参照)。
【0031】
本発明においては、上記酸化物焼結体をX線回折したとき、InGaO
3(ZnO)
3相及びInGaZn
2O
5相の合計を所定の割合で含むことが好ましい。InGaO
3(ZnO)
3相及びInGaZn
2O
5相の回折ピーク強度比が小さくなるということは、Snのピン止め効果による結晶粒の粗大化抑制に寄与するInGaO
3(ZnO)
3相及びInGaZn
2O
5相の酸化物焼結体全体に占める割合が小さくなり、結果としてこれら化合物以外の析出した結晶相(Ga
2In
6Sn
2O
16、Ga
3InSn
5O
16又はZn
2SnO
4など)の割合が高くなる。この場合、局所的に析出したInGaO
3(ZnO)
3相及びInGaZn
2O
5相以外の結晶相を起点としてクラックが生じ、ボンディング時の割れの原因となり得るため、[InGaO
3(ZnO)
3]+[InGaZn
2O
5]は、0.9以上であることが好ましく、より好ましくは0.95以上であり、更に好ましくは0.99以上である。
【0032】
次に、本発明の酸化物焼結体の好適な製造方法について説明する。
【0033】
本発明の酸化物焼結体は、酸化インジウムと;酸化ガリウムと;酸化亜鉛と;酸化錫を混合および焼結して得られるものであり、またスパッタリングターゲットは酸化物焼結体を加工することにより製造できる。具体的には、酸化物の粉末を(a)混合・粉砕→(b)乾燥・造粒→(c)予備成形→(d)脱脂→(e)大気焼結して得られた酸化物焼結体を、(f)加工→(g)ボンディグしてスパッタリングターゲットを得ることができる。上記工程のうち本発明では、以下に詳述するように、原料粉末である酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛及び酸化錫の選定条件や、大気焼結((e))条件を適切に制御すればよく、それ以外の工程は特に限定されず、通常用いられる工程を適宜選択することができる。以下、各工程を説明するが、本発明はこれに限定する趣旨ではない。
【0034】
まず、酸化インジウム粉末と;酸化ガリウム粉末と;酸化亜鉛粉末と;酸化錫粉末;を所定の割合に配合し、混合・粉砕する。用いられる各原料粉末の純度はそれぞれ、約99.99%以上が好ましい。微量の不純物元素が存在すると、酸化物半導体膜の半導体特性を損なう恐れがあるためである。各原料粉末の配合割合は、酸化物焼結体に含まれる酸素を除く全金属元素に対する、インジウム、ガリウム、亜鉛及び錫の含有量の割合が上記範囲内となるように制御することが好ましい。
【0035】
(a)混合・粉砕は、ボールミルを使い、原料粉末を水と共に投入して行うことが好ましい。これらの工程に用いられるボールやビーズは、例えばナイロン、アルミナ、ジルコニアなどの材質のものが好ましく用いられる。この際、均一に混合する目的で分散材や、後の成形工程の容易性を確保するためにバインダーを混合してもよい。
【0036】
次に、上記工程で得られた混合粉末について例えばスプレードライヤなどで(b)乾燥・造粒を行うことが好ましい。
【0037】
乾燥・造粒後、(c)予備成形をする。成形に当たっては、乾燥・造粒後の粉末を所定寸法の金型に充填し、金型プレスで予備成形する。この予備成形は、焼結炉にセットする際のハンドリング性を向上させる目的で行われるため、0.5〜1.0tonf/cm
2程度の加圧力を加えて成形体とすればよい。その後、CIP(冷間等方圧加圧法、Cold Isostatic Pressing)により成形(本成形)を行う。酸化物焼結体の相対密度を上昇させるためには、成形時の圧力は約1tonf/cm
2以上に制御することが好ましい。
【0038】
なお、混合粉末に分散材やバインダーを添加した場合には、分散材やバインダーを除去するために成形体を加熱して(d)脱脂を行うことが望ましい。加熱条件は脱脂目的が達成できれば特に限定されないが、例えば大気中、おおむね500℃程度で、5時間程度保持すればよい。
【0039】
脱脂後、所望の形状の型に成形体をセットして(e)大気焼結にて焼結を行う。
【0040】
本発明では焼結温度:1300〜1600℃、該温度での保持時間:1〜50時間で焼結を行う。また、一度1100〜1300℃で1〜10時間の保持をいれる事が好ましい。これらの温度範囲および保持時間にすることにより、前述の式(1)〜式(3)を満足する化合物相を得ることができる。なお、焼結温度が低いと、十分に緻密化することができず材料強度が下がってしまう。一方、焼結温度が高くなりすぎると、結晶粒が粗大化してしまい、結晶粒の平均粒径を所定の範囲に制御できなくなり、材料強度が下がってしまう。したがって、焼結温度は1300℃以上、好ましくは1350℃以上、より好ましくは1400℃以上であって、1600℃以下、好ましくは1550℃以下とすることが好ましい。
【0041】
また本発明では成形後、上記焼結温度までの平均昇温速度を100℃/hr以下とすることが好ましい。平均昇温速度が100℃/hrを超えると、結晶粒の異常成長が起こりやすくなる。また相対密度を十分に高めることができないことがある。
【0042】
焼結工程では、焼結雰囲気を酸素ガス雰囲気(例えば大気雰囲気)、酸素ガス加圧下雰囲気とすることが好ましい。また雰囲気ガスの圧力は、蒸気圧の高い酸化亜鉛の蒸発を抑制するために大気圧とすることが好ましい。
【0043】
上記のようにして酸化物焼結体を得た後、常法により、(f)加工→(g)ボンディングを行なうと本発明のスパッタリングターゲットが得られる。酸化物焼結体の加工方法は特に限定されず、公知の方法によって各種用途に応じた形状に加工すればよい。
【0044】
加工した酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディング材によって接合することでスパッタリングターゲットを製造できる。バッキングプレートの素材の種類は特に限定されないが、熱伝導性に優れた純銅または銅合金が好ましい。ボンディング材の種類も特に限定されず、導電性を有する各種公知のボンディング材を使用することができ、例えばIn系はんだ材、Sn系はんだ材などが例示される。接合方法も特に限定されず、例えば酸化物焼結体およびバッキングプレートをボンディング材が溶解する温度、例えば140〜220℃程度に加熱して溶解させ、バッキングプレートのボンディング面に溶解したボンディング材を塗布し、それぞれのボンディング面を貼り合わせて両者を圧着した後、冷却すればよい。
【0045】
本発明の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットは、ボンディング作業時の衝撃や熱履歴などで発生した応力などによる割れがなく、また比抵抗も、非常に良好なものであり、好ましくは1Ω・cm以下、より好ましくは10
−1Ω・cm以下、更に好ましくは10
−2Ω・cm以下である。本発明のスパッタリングターゲットを用いれば、スパッタリング中での異常放電、およびスパッタリングターゲット材の割れを一層抑制した成膜が可能となり、スパッタリングターゲットを用いた物理蒸着(スパッタリング法)を表示装置の生産ラインで効率よく行うことができる。また得られた酸化物半導体薄膜も良好なTFT特性を示す。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、その趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0047】
(スパッタリングターゲットの作製)
純度99.99%の酸化インジウム粉末(In
2O
3)、純度99.99%の酸化亜鉛粉末(ZnO)、純度99.99%の酸化ガリウム粉末(Ga
2O
3)、純度99.99%の酸化錫粉末(SnO
2)を表1に示す比率で配合し、水と分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム)を加えてジルコニアボールミルで24時間混合した。次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥して造粒を行った。
【0048】
このようにして得られた粉末を金型プレスにて予備成形した後(成形圧力:1.0tonf/cm
2、成形体サイズ:φ110×t13mm、tは厚み)、CIP(冷間静水圧)にて成形圧力3.0tonf/cm
2で本成形を行った。
【0049】
このようにして得られた成形体を、常圧にて大気雰囲気下で500℃に昇温し、当該温度で5時間保持して脱脂した。脱脂後の成形体を焼結炉にセットし、焼結を行った。
【0050】
得られた焼結体を機械加工してφ100×t5mmに仕上げ、Cu製バッキングプレートにボンディングし、スパッタリングターゲットを製作した。
【0051】
(平均結晶粒径)
各実施例及び比較例について、表1に記載の「平均結晶粒径(μm)」は以下のようにして測定した。まず、酸化物焼結体を破壊し、その破断面(酸化物焼結体を任意の位置で厚み方向に切断し、その切断面表面の任意の位置)を鏡面研削した試料を用意した。次に、その組織を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率400倍で写真撮影し、任意の方向で100μmの長さの直線を引き、この直線内に含まれる結晶粒の数(N)を求め、[100/N]から算出される値を当該「直線上での結晶粒径」とした。同様に粗大結晶粒が重複しない間隔(少なくとも20μm以上の間隔)で直線を20本作成して各直線上での結晶粒径を算出した。そして、[各直線上での結晶粒径の合計/20]から算出される値を「酸化物焼結体の平均結晶粒径」とした。
【0052】
(ボンディング時の割れ)
各実施例及び比較例について、表1に記載の「ボンディング時の割れ」の有無は以下のようにして測定した。まず、上記焼結体を直径4インチ、厚さ5mmの形状に加工し、バッキングプレートにボンディングしてスパッタリングターゲットを得た。この時、焼結体及びバッキングプレートをホットプレート上で180℃まで20分かけて昇温し、濡れ材(Inメタル)を用いてボンディング作業を行った。このボンディング作業後に、酸化物焼結体表面に割れが生じていないか目視で確認した。酸化物焼結体表面に1mmを超えるクラックが確認された場合を「割れ」があると判断した。ボンディング作業を10回行い、1回でも割れがある場合を不合格と評価して、表1中に「有り」と記載した。一方、10回中、1回も割れがない場合を合格と評価して、表1中に「無し」と記載した。
【0053】
(InGaO
3(ZnO)
3相およびInGaZn
2O
5相のピーク強度比率)
各実施例及び比較例について、表1に記載の「InGaO
3(ZnO)
3及びInGa
Zn
2O
5のピーク強度比率」は以下のようにして測定した。まず、スパッタリングして得られたスパッタリングターゲットをバッキングプレートから取り外して10mm角の試験片を切出し、以下のX線回折により、各酸化物焼結体のX線回折パターンを求めた。
分析装置:リガク社製「X線回折装置RINT−TTR−III」
分析条件:
ターゲット:Cu
単色化:モノクロメートを使用(Kα)
ターゲット出力:40kV−200mA
(連続測定)θ/2θ走査
スリット:発散1/2°、散乱1/2°、受光0.15mm
モノクロメータ受光スリット:0.6mm
走査速度:2°/min
サンプリング幅:0.02°
測定角度(2θ):5〜90°
【0054】
例として、実施例2の酸化物焼結体についてのX線回折結果を示すグラフ(X線回折チャート)を
図1に示す。このようにして得られた各酸化物焼結体のX線回折チャートより、上記したICSDカードに基づいて、各化合物相(結晶相)を同定し、表2に示す回折ピーク強度(回折ピークの高さ)を測定した。これらのピークは、当該化合物相で回折ピーク強度が高く、他の化合物相のピークとの重複がなるべく少ないピークを選択した。各化合物相での指定ピークでのピーク高さの測定値を、それぞれI(InGaO
3(ZnO)
3)、I(InGaZn
2O
5)、I(Ga
2In
6Sn
2O
16)、I(Ga
3InSn
5O
16)、I(Zn
2SnO
4)とし(「I」は、X線回折強度(回折ピーク強度)の測定値であることを意味する。)、下記式によって、InGaO
3(ZnO)
3相のピーク強度比およびInGaZn
2O
5相のピーク強度比の合計、すなわち[InGaO
3(ZnO)
3]+[InGaZn
2O
5]を求めた。
[InGaO
3(ZnO)
3]=I(InGaO
3(ZnO)
3)/(I(InGaO
3(ZnO)
3)+I(InGaZn
2O
5)+I(Ga
2In
6Sn
2O
16)+I(Ga
3InSn
5O
16)+I(Zn
2SnO
4))
[InGaZn
2O
5]=I(InGaZn
2O
5)/(I(InGaO
3(ZnO)
3)+I(InGaZn
2O
5)+I(Ga
2In
6Sn
2O
16)+I(Ga
3InSn
5O
16)+I(Zn
2SnO
4))
なお、上記以外の化合物相のピークはほとんど観察されなかった。
【0055】
本実施例では、このようにして得られた[InGaO
3(ZnO)
3]+[InGaZn
2O
5]が0.9以上のものを合格とした。
【0056】
(Snが均一に固溶していることの確認)
各実施例について、SnがInGaO
3(ZnO)
3やInGaZn
2O
5の結晶相に均一に固溶していることの確認のため、実施例1〜6の酸化物焼結体について、EPMAを用いてSn分布の元素マッピングを行った。EPMAの測定条件は以下のとおりである。
分析装置:日本電子社製「JXA−8900RL」
分析条件
加速電圧:15.0kV
照射電流:1.998×10-8Å
ビーム径:最小(0μm)
測定時間:100.00ms
測定点数:250×250
測定間隔:X 0.40μm、Y 0.40μm
測定面積:400μm×400μm
測定視野数:1視野
【0057】
例として、実施例2の酸化物焼結体についての元素マッピングの結果を
図2に示す。まず、
図2の右側はカラースケールを示しており、
図2の左上の写真における「CP」とは反射電子像を意味している。また、この酸化物焼結体には、
図2に示されるO(酸素)、Ga、Sn以外の元素としてZnおよびInも含まれるが、これらの元素マッピングの写真は省略する。また、
図2においては、Snの最高濃度を示す地点のSnのLevelを500とし、Snを含まない地点のSnのLevelを20とし、各地点のSnの濃度を最高濃度つまりLevel:500に対する相対値で表わす。そして、各Levelの存在割合を面積割合(Area%)で示している。
図2におけるSnの結果を参照すると、Level:140以下の面積割合が合計で100.0%(10.9+89.1=100.0%)となっており、Snが偏析することなく結晶相内に均一に固溶していることが読み取れる。なお、実施例2以外の実施例においても、実施例2の結果と同様、Level:140以下の面積割合が合計で90%以上となっていることが確認できた。以上のことから、本発明に係る酸化物焼結体は、上記のX線回折の結果から、InGaO
3(ZnO)
3およびInGaZn
2O
5の結晶相を構成しており、また、上記EPMAの結果から、InGaO
3(ZnO)
3やInGaZn
2O
5の結晶相内にSnが均一に固溶していることを確認することができた。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【課題】Znが多量に添加されたIn−Ga−Zn−Sn系酸化物焼結体においても、ボンディング時の割れの発生を抑制できる酸化物焼結体、および当該酸化物焼結体を用いたスパッタリングターゲットを提供する。
(mは1〜6の整数)で表わされる六方晶層状化合物を含む酸化物焼結体であって、前記酸化物焼結体に含まれる酸素を除く全金属元素に対する、In、Zn及びSnの含有量の割合(原子%)を、それぞれ[In]、[Zn]及び[Sn]としたとき、下記式(1)〜(3)を満足することを特徴とする酸化物焼結体。