(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6364863
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】蓄電池の運転方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20180723BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
H02J3/38 110
H02J3/32
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-65658(P2014-65658)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-192458(P2015-192458A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猿田 健一
【審査官】
桑江 晃
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−194947(JP,A)
【文献】
特開平8−287958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 − 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の運転パターンにしたがって電力を出力するピークシフト運転と、ピークオーバーを回避するように電力を出力する負荷追従運転とを行う蓄電池の運転方法であって、
予め登録された前記ピークシフト運転の運転パターンの中から蓄電後の蓄電量に応じた運転パターンを選択し、
前記選択した運転パターンと当日の需要予測とを比較し、
前記選択した運転パターンにおけるピークタイムより早い時間帯に前記ピークオーバーが発生すると予測された場合には、該ピークタイム前の時間帯は、前記ピークシフト運転を行わず、前記負荷追従運転のみを行うことを特徴とする蓄電池の運転方法。
【請求項2】
所定の運転パターンにしたがって電力を出力するピークシフト運転と、ピークオーバーを回避するように電力を出力する負荷追従運転とを行う蓄電池の運転方法であって、
予め登録された前記ピークシフト運転の運転パターンの中から蓄電後の蓄電量に応じた運転パターンを選択し、
前記選択した運転パターンと当日の需要予測とを比較し、
前記選択した運転パターンにおけるピークタイムより遅い時間帯に前記ピークオーバーが発生すると予測された場合には、該ピークタイム前の時間帯は、該選択した運転パターンにおける出力に対して1未満の比率をかけた電力を出力する容量減パターンで運転することを特徴とする蓄電池の運転方法。
【請求項3】
前記ピークタイム後の時間帯は、夜間の充電不足量および該ピークタイム後のピークオーバー回避のための電力量を残存電力量から減算した使用可能量を充電開始前までに使い切るように、前記選択した運転パターンにおける出力に対して所定の比率をかけた電力を出力することを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電池の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力を蓄電および出力することが可能な蓄電池の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量の電力を蓄電(充電)することが可能なナトリウム−硫黄電池(NAS電池)等の蓄電池の普及が進んでいる。これにより、電気料金が安い深夜等の時間帯に蓄電しておき、蓄電した電力を日中に設備に出力(放電)することで、需要家側では電力コストの削減を図ることができ、電気事業者側では負荷の平準化を図ることが可能となる。
【0003】
蓄電池の一種であるナトリウムイオン−硫黄電池の運転方法としては、例えば特許文献1では、昼間に規定放電電力量を放電するのに必要な電気量を放電し夜間に充電する放電−充電サイクルを繰り返す所定日数と、放電−充電サイクルを行わず休止状態にしておく所定日数とを1単位としている。そして、この単位内において、放電−充電サイクルを繰り返す毎に、モジュール電池の放電時の時間平均温度が、前回の放電−充電サイクルの放電時の時間平均温度よりも高温となるようにするとともに、所定日数の休止状態から次の放電を開始する時のモジュール電池の温度が、前の単位における最初日の放電開始時の温度に近似させている。特許文献1によれば、上記構成により、電池が充電不足の状態になるのを防ぎ、電力需要に適切に対応することが可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−113910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている運転方法は、複数の所定日数を1単位としていて、具体的には1週間単位でのNAS電池の運転方法である。これに対し、1日単位での蓄電池の運転方法としては、上述したように夜間に蓄電した電力を日中に放出するような所定の運転パターンにしたがって電力を出力するピークシフト運転や、ピークオーバーを回避するように電力を出力する負荷追従運転が知られている。
【0006】
しかしながら、現状では、ピークシフト運転と負荷追従運転とを併用しようとすると、ピークオーバーが発生する時間帯がピークシフト運転におけるピークタイムよりも早かった場合、負荷追従運転によってピークタイム時のピークシフト運転に必要となる電力が足りなくなってしまうことがある。またピークオーバーが発生する時間帯がピークシフト運転におけるピークタイムよりも遅かった場合、ピークシフト運転によって負荷追従運転に必要となる電力が足りなくなってしまうこともある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、電力不足を招くことなくピークシフト運転と負荷追従運転とを好適に併用することが可能な蓄電池の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる蓄電池の運転方法の代表的な構成は、所定の運転パターンにしたがって電力を出力するピークシフト運転と、ピークオーバーを回避するように電力を出力する負荷追従運転とを行う蓄電池の運転方法であって、予め登録されたピークシフト運転の運転パターンの中から蓄電後の蓄電量に応じた運転パターンを選択し、選択した運転パターンと当日の需要予測とを比較し、選択した運転パターンにおけるピークタイムより早い時間帯にピークオーバーが発生すると予測された場合には、ピークタイム前の時間帯は、ピークシフト運転を行わず、負荷追従運転のみを行うことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、ピークタイムより早い時間帯にピークオーバーが発生する場合であっても、その時間帯にピークシフト運転を行わないことによって負荷追従運転に要する電力を確保することができる。したがって、負荷追従運転による、ピークタイム時のピークシフト運転に必要な電力の不足を招くことなくピークシフト運転と負荷追従運転とを好適に併用することが可能となる。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかる蓄電池の運転方法の他の構成は、所定の運転パターンにしたがって電力を出力するピークシフト運転と、ピークオーバーを回避するように電力を出力する負荷追従運転とを行う蓄電池の運転方法であって、予め登録されたピークシフト運転の運転パターンの中から蓄電後の蓄電量に応じた運転パターンを選択し、選択した運転パターンと当日の需要予測とを比較し、選択した運転パターンにおけるピークタイムより遅い時間帯にピークオーバーが発生すると予測された場合には、ピークタイム前の時間帯は、選択した運転パターンにおける出力に対して1未満の比率をかけた電力を出力する容量減パターンで運転することを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、ピークタイムより遅い時間帯にピークオーバーが発生する場合であっても、容量減パターンによって運転することにより負荷追従運転に要する電力を確保することができる。このとき、ピークタイム時のピークシフト運転は通常通りに行われるため、ピークシフト運転への影響を及ぼすことがない。したがって、ピークシフト運転による、ピークオーバー時の負荷追従運転に必要な電力の不足を招くことなくピークシフト運転と負荷追従運転とを好適に併用することが可能となる。
【0012】
上記ピークタイム後の時間帯は、夜間の充電不足量およびピークタイム後のピークオーバー回避のための電力量を残存電力量から減算した使用可能量を充電開始前までに使い切るように、選択した運転パターンにおける出力に対して所定の比率をかけた電力を出力するとよい。これにより、蓄電池に蓄電された電力を効率的に出力することが可能となる。また残存電力量から夜間の充電不足量を予め減算していることにより、運転終了後の充電時における充電不足を回避することができ、充電後の蓄電池は満充電に近い状態となる。したがって、充電後の次の運転時に蓄電池の最大限の容量の電力を使用することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電力不足を招くことなくピークシフト運転と負荷追従運転とを好適に併用することが可能な蓄電池の運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態にかかる蓄電池の運転方法を説明するフローチャートである。
【
図2】蓄電池の出力量と出力対象となる設備における電力の消費量との関係を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態にかかる蓄電池の運転方法を説明するフローチャートである。
図2は、蓄電池の出力量と出力対象となる設備における電力の消費量との関係を例示する図である。ここで、本実施形態にかかる運転方法によって運転される蓄電池は、後述するように、所定の運転パターンにしたがって電力を出力するピークシフト運転と、ピークオーバーを回避するように電力を出力する負荷追従運転の両方を行うことが可能である。なお、本実施形態では、理解を容易にするために、制御装置(不図示)によって蓄電池の運転を制御する構成を例示して説明するが、かかる制御装置は、蓄電池に内蔵されていてもよいし、蓄電池とは別体に設置することも可能である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の蓄電池の運転方法では、まず制御装置は、EEPROMなどの記憶部に予め登録されたピークシフト運転の運転パターンの中から、蓄電池の蓄電後の蓄電量に応じた運転パターンを選択する(ステップS202)。そして、制御装置は、選択した蓄電池のピークシフト運転の運転パターン(以下、選択した運転パターンと称する)と当日の需要予測とを比較する(ステップS204)。なお、需要予測は、例えば当日の気温や天気、設備の稼働予定等の情報を参照することにより算出することができる。
【0018】
選択した運転パターンと当日の需要予測とを比較したら、制御装置は、かかる運転パターンにおけるピークタイムの前後の時間帯にピークオーバーの発生が予測されるか否かを判断する(ステップS206)。ピークタイムの前後の時間帯にピークオーバーの発生が予測されない場合(ステップS206のNO)、制御装置は、蓄電池の運転パターンを、ステップS202において選択した運転パターンに決定し(ステップS208)、蓄電池の運転を開始する(ステップS210)。
【0019】
図2(a)は、ステップS202において予め登録されたピークシフト運転の運転パターンの中から選択した蓄電池の運転パターンを例示している。ステップS206の判断において、選択した運転パターンにおけるピークタイムの前後にピークオーバーが発生しないと予測された場合、蓄電池は、
図2(a)に示す運転パターンで運転する。
【0020】
詳細には、
図2(a)では、蓄電池が電力を供給する設備における消費電力がかかる設備の契約容量を上回る時間帯、すなわちピークタイムは12時前後である。このため、選択した運転パターンでは12時前後に蓄電池からの出力量を増大するよう運転パターンが定められている。これにより、蓄電池からの出力によって12時前後のピークタイムの契約容量オーバーを未然に防ぐ、いわゆるピークシフトを行うことが可能となる。
【0021】
一方、ピークタイムの前後の時間帯にピークオーバーの発生が予測された場合(ステップS206のYES)、制御装置は、予測されたピークオーバーの発生が、ステップS202において選択した運転パターンのピークタイムより早い時間帯であるか否かを判断する(ステップS212)。予測されたピークオーバーの発生が、選択した運転パターンにおけるピークタイムより早い時間帯であると判断されたら(ステップS212のYES)、制御装置は、ピークタイム前の時間帯は、ピークシフト運転を行わず、負荷追従運転(ピークオーバー回避)のみを行うように蓄電池を制御する(ステップS214)。
【0022】
図2(b)は、ピークシフト運転および負荷追従運転の併用時の蓄電池の従来の運転パターンを例示する図である。
図2(b)に示すように、従来は、ピークタイム前の時間帯に突発的にピークオーバーが発生した場合、その負荷に追従するように蓄電池の出力を増大させていた。しかしながら、このような従来の運転方法であると、ピークタイムよりも早い時間帯のピークオーバー時に負荷追従運転によって電力を消費してしまい、ピークタイム時のピークシフト運転に必要となる電力が足りなくなってしまうことがある。
【0023】
図2(c)は、ピークシフト運転および負荷追従運転の併用時の蓄電池の本実施形態の運転方法における運転パターンを例示する図である。本実施形態の蓄電池の運転方法では、
図2(c)に示すように、選択した運転パターンのピークタイムより早い時間帯にピークオーバーが発生すると予測されたら、ピークタイム前の時間帯はピークシフト運転を行わず、負荷追従運転のみを行う。
【0024】
すなわち制御装置は、ピークタイム前の時間帯は、ピークオーバー時以外は電力の出力を行わず、ピークオーバー時のみに電力を出力するように蓄電池を制御する。これにより、ピークタイムより早い時間帯における突発的なピークオーバーを回避しつつ、ピークタイム時のピークシフト運転に必要な電力を確保することができる。したがって、ピークシフト運転と負荷追従運転とを好適に併用することが可能となる。
【0025】
一方、予測されたピークオーバーの発生が、選択した運転パターンにおけるピークタイムより早い時間帯ではない(遅い時間帯である)と判断されたら(ステップS212のNO)、制御装置は、運転開始時からピークタイム後までに出力すると予測される電力量を運転開始前(蓄電後)の蓄電量(電力量)から減算することにより、ピークタイム後の予測残存電力量を算出する(ステップS216)。
【0026】
続いて制御装置は、予測残存電力量を参照し、選択した運転パターンにおけるピークタイムより遅い時間帯に発生すると予測されるピークオーバーを回避できるか否かを判断する(ステップS218)。ピークオーバーを回避可能である場合(ステップS218のYES)、制御装置は、蓄電池の運転パターンを、ステップS202において選択した運転パターンに決定し(ステップS208)、蓄電池の運転を開始する(ステップS210)。
【0027】
ピークタイムより遅い時間帯に発生すると予測されるピークオーバーを予測残存電力量によって回避可能でないと判断したら(ステップS218のNO)、制御装置は、蓄電池の運転パターンを、ピークタイム前の時間帯には、選択した運転パターンにおける出力に対して1未満の比率(ピークタイムより前にピークオーバーしない程度の比率)をかけた電力を出力する容量減パターンに決定する(ステップS220)。そして、制御装置は、容量減パターンで蓄電池の運転を開始する(ステップS210)。
【0028】
図2(d)は、蓄電池の容量減パターンでの運転を例示する図である。
図2(d)に示すように、蓄電池は、選択した運転パターンにおけるピークタイム前の時間帯は、かかる運転パターン(破線にて図示)よりも小さい出力で運転する。これにより、ピークタイムより遅い時間帯にピークオーバーが発生する場合であっても負荷追従運転に要する電力を確保することができる。したがって、ピークオーバー時の負荷追従運転に必要な電力の不足を招くことなくピークシフト運転と負荷追従運転とを好適に併用することが可能となる。
【0029】
なお、本実施形態では、ステップS216において算出した予測残存電力量を参照することにより、ステップS218において、ピークタイムより遅い時間帯に発生すると予測されるピークオーバーを回避できるか否かを判断したが、かかる構成は例示に過ぎず、これに限定するものではない。例えば、ステップS216およびステップS218を設けずに、ステップS212においてピークタイムより遅い時間帯にピークオーバーが発生すると予測された場合は、容量減パターンで運転することとしてもよい。
【0030】
蓄電池の運転開始後、制御装置はピークタイムを経過したか否かを監視する(ステップS222)。そして、ピークタイムを経過したら(ステップS222のYES)、制御装置は、夜間の充電不足量およびピークタイム後のピークオーバー回避のための電力量を、ピークタイム経過後の残存電力量から減算することにより使用可能量を算出する(ステップS224)。
【0031】
なお、ピークタイム経過後の残存電力量とは、運転開始前の蓄電量から、ピークタイムより前の時間帯に出力した電力量、ピークタイムにおいて消費した電力量、およびピークタイムより後の時間帯に出力した電力量を減算した値である。なおこの計算において、ピークタイム経過直後には、ピークタイムより後の時間帯に出力した電力量は実質的に0である。
【0032】
使用可能量を算出したら、制御装置は、ピークタイム後の時間帯は、かかる使用可能量を充電開始前までに使い切るよう、選択した運転パターンにおける出力に対して所定の比率をかけた電力を出力するように蓄電池を運転する(ステップS226)。ここでかける比率は、1未満の場合も1以上の場合もありうる。これにより、蓄電池に蓄電された電力を最も効率的に使い切ることが可能となる。また残存電力量から夜間の充電不足量を予め減算していることにより、運転終了後の充電時における充電不足を回避することができる。したがって、充電後の蓄電池を満充電に近い状態とすることができ、充電後の次の運転開始時に蓄電池の最大限の容量の電力を使用することが可能となる。
【0033】
運転終了時刻になるまでは(ステップS228のNO)、制御装置は、所定時間が経過するごとに(ステップS230のYES)、ステップS224において使用可能量を算出し、その使用可能量を参照して所定の比率を更新しながら蓄電池を運転する(ステップS226)。そして、運転終了時刻になったら(ステップS228のYES)、制御装置は、蓄電池の運転を停止し、充電を開始する。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、電力を蓄電および出力することが可能な蓄電池の運転方法として利用することができる。