(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、高効率の発電プラントとして、コンバインドサイクル発電プラントが実用化されている。コンバインドサイクル発電プラントでは、ガスタービンと蒸気タービンとを組み合わせて発電を行う。具体的には、まず、天然ガスの燃焼によって得られる高温ガスを利用してガスタービンを回し、発電を行う。ガスタービンから排出された排ガスの熱は、排熱回収ボイラ(以下、HRSG(Heat Recovery Steam Generator)と記載する。)によって回収される。HRSGは、回収した排ガスの熱を利用して蒸気を発生し、蒸気タービンへ供給する。この蒸気を利用して蒸気タービンが回され、蒸気タービンにおいても発電が行われる。このように、コンバインドサイクル発電プラントでは、ガスタービンおよび蒸気タービンにおいて発電を行うことによって、発電効率を高くすることができる。
【0003】
HRSGでは、排ガスを伝熱管の外側に流し、排ガスから得られる熱を利用して伝熱管内に蒸気を発生させる。HRSGの伝熱管として、従来、フィンチューブが用いられている。フィンチューブは、円筒状のチューブと、チューブの外面に設けられたフィンとを有する。フィンチューブでは、フィンによって表面積を大きくすることができるので、フィンチューブの外側を流れる排ガスの熱を効率よく吸収できる。
【0004】
上記のようなフィンチューブとしては、チューブの外周部を圧延することによってフィンをチューブに一体に成形したタイプ(以下、一体成形タイプという。)、およびチューブの外面にフィンを溶接したタイプ(以下、溶接タイプという。)がある。一体成形タイプのフィンチューブでは、フィンとチューブとの境界部の強度を十分に確保できる。しかし、成形できるフィンの形状および材質に制限があり、フィンチューブの表面積の拡大に限界がある。
【0005】
一方、溶接タイプのフィンチューブでは、フィンをチューブとは別に成形できるので、フィンの形状および材質の自由度が大きい。このため、フィンチューブの表面積を大きくしやすく、熱の吸収効率を高くすることができる。例えば、特許文献1には、金属製のチューブおよび金属製のフィンを備えたフィンチューブが記載されている。特許文献1には、チューブの材料として、炭素鋼、モリブデン、ステンレス鋼等が使用され、フィンとして、軟鋼が使用されることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンバインドサイクル発電プラントの発電効率は、例えば、HRSGにおける蒸気の発生効率を高めることによって改善できる。HRSGにおける蒸気の発生効率は、伝熱管において排ガスから吸収する熱量を増やすことによって向上できる。そこで、近年、高温の排ガスを利用したHRSGの実用化が進められている。このようなHRSGでは、伝熱管は、例えば、500℃以上の高温環境化で使用されることになる。
【0008】
上述のように、溶接タイプのフィンチューブは、表面積を大きくしやすく、熱の吸収効率を高くすることができる。そのため、HRSGの伝熱管として溶接タイプのフィンチューブを用いた場合、発電プラントの発電効率をさらに向上させることができる。
【0009】
ところで、天然ガスを燃焼させてガスタービンで発電するプラントは,石炭を燃焼させて蒸気タービンで発電するプラントに比べて、プラントの始動時間が短い。このため、ガスタービンを用いるコンバインドサイクル発電プラントは、電力需要が多い時間帯だけ稼働させて電力需要が少ない時間帯は停止したり、平日だけ稼働させて休日は停止したりすることがある。このようにコンバインドサイクル発電プラントを運用することによって、無駄なく、電力需要に応えることができる。
【0010】
しかしながら、上記のように発電プラントの起動・停止を行うと、伝熱管の温度が大きく変動する。ここで、一般に、溶接タイプのフィンチューブでは、チューブおよびフィンの材質を自由に組み合わせることによって、目的とする性能(例えば、フィンチューブの使用環境に応じた性能)を得ることができる。しかしながら、チューブとフィンとを異なる材質にした場合には、チューブおよびフィンの熱膨張率に差が生じる。この場合、フィンおよびチューブが互いの熱変形を拘束し、チューブとフィンとの接合部に熱応力が発生する。このため、発電プラントの起動・停止が繰り返し行われると、フィンとチューブとの接合部に熱応力が繰り返し作用することになる。特に、500℃以上の高温環境化で伝熱管を使用する場合には、上記境界部に作用する熱応力も大きくなる。このため、フィンがチューブから剥離するおそれがある。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、耐熱性および耐熱疲労性に優れたフィンチューブを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、高温環境下で使用されるフィンチューブについて、耐熱性および耐熱疲労性を向上させるために鋭意研究を行った。その結果、以下の知見を得た。
【0013】
チューブ内に蒸気が発生している際には、チューブには、蒸気から受ける圧力(内圧)によって応力が作用している。したがって、高温環境下でフィンチューブを長時間使用する場合には、内圧に起因する応力がチューブに長時間作用し続けることになる。このため、チューブは、上記のような長時間作用し続ける応力に対する抵抗力(クリープ強度)を十分に備えている必要がある。すなわち、チューブには、高温環境下において十分なクリープ強度を発揮できる材料を用いる必要がある。
【0014】
上述したように、溶接タイプのフィンチューブを高温環境下で使用する場合には、フィンとチューブとの接合部に大きな熱応力が作用する。本発明者らの研究の結果、フィンの熱膨張率がチューブよりも低い場合には、高温環境下においてフィンとチューブとの境界部には、フィンとチューブとを互いに押しつける方向の応力が作用することが分かった。また、本発明者らの研究により、このような応力は、フィンの剥離にはあまり影響しないことが分かった。
【0015】
一方、フィンの熱膨張率がチューブよりも高い場合には、フィンとチューブとの境界部において、チューブの半径方向、すなわちフィンをチューブから引き離す方向の応力が作用することが分かった。そして、この応力がフィンの剥離に大きく影響することが分かった。したがって、高温環境下でフィンの剥離を抑制するためには、上記境界部に作用するフィンをチューブから引き離す方向の応力を低減する必要がある。
【0016】
500℃以上の高温環境下でフィンチューブを使用する場合には、フィンおよびチューブの強度は、常温で使用する場合に比べて低下する。これにより、500℃以上の環境下でフィンチューブを使用する場合には、500℃未満の環境下で使用する場合に比べてフィンの剥離が発生しやすくなる。したがって、フィンの剥離を防止するためには、特に500℃以上の高温環境下で上記のような応力(フィンをチューブから引き離す方向の力)の発生を抑制する必要がある。
【0017】
本発明者らの更なる研究の結果、フィンをチューブから引き離す方向の力(熱応力)が大きくなると、フィンおよびチューブが塑性変形することが分かった。そして、熱応力に起因するこの塑性変形が繰り返されると、いわゆる低サイクル疲労状態となり、フィンチューブの熱サイクルに対する疲労寿命が低下することが分かった。フィンチューブが上記のような低サイクル疲労状態となることを防止するためには、フィンおよびチューブが塑性変形しないように、フィンおよびチューブの変形を抑制する必要がある。
【0018】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、下記のフィンチューブを要旨とする。
【0019】
(1)チューブおよびフィンを備え、
前記チューブの化学組成が、質量%で、
C:0.03〜0.13%、
Si:0.5%以下、
Mn:0.1〜2%、
Ni:8〜15%、
Cr:15〜22%、
Cu:2〜6%、
Nb:0.3〜1.5%、
N:0.005〜0.2%、
B:0.0001〜0.2%、
残部:Feおよび不純物であり、
前記チューブおよび前記フィンの温度が500℃のときに下記の(i)式および(ii)式を満たす、フィンチューブ。
α
f(T
f−T
0)−α
t(T
t−T
0)≦σ
Yt/E
t ・・・ (i)
α
f(T
f−T
0)−α
t(T
t−T
0)≦σ
Yf/E
f ・・・ (ii)
上記式において、
α
fはフィンの熱膨張率(1/℃)を、
T
fはフィンの温度(℃)を、
T
0は室温(℃)を、
α
tはチューブの熱膨張率(1/℃)を、
T
tはチューブの温度(℃)を、
σ
Ytはチューブの0.2%耐力(MPa)を、
E
tはチューブのヤング率(MPa)を、
σ
Yfはフィンの降伏応力(MPa)を、
E
fはフィンのヤング率(MPa)を、それぞれ示す。
但し、フィンの材料が降伏現象を示さない場合には、σ
Yfはフィンの0.2%耐力(MPa)を示す。
【0020】
(2)前記チューブと前記フィンとが溶接されている、上記(1)のフィンチューブ。
【0021】
(3)前記チューブと前記フィンとが異なる鋼材からなる、上記(1)または(2)のフィンチューブ。
【0022】
(4)フィンの熱膨張率がチューブの熱膨張率よりも高い、上記(1)から(3)までのいずれかのフィンチューブ。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、チューブおよびフィンの熱膨張率に差があるフィンチューブを高温環境下で用いる場合でも、フィンの剥離を十分に抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、後述する化学組成の説明において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0026】
1.フィンチューブの構造
図1は、本発明の一実施の形態に係るフィンチューブ10を示す断面図である。フィンチューブ10は、例えば、チューブ12およびフィン14を備える。チューブ12は、鋼材からなる。フィン14としては、種々の金属材料(例えば、耐熱鋼,ステンレス鋼等)を用いることができる。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係るフィンチューブ10では、円筒状のチューブ12の外周面に複数の環状のフィン14が設けられる。複数のフィン14は、チューブ12の軸方向に略等間隔で配置される。フィン14は、例えば溶接によって、チューブ12の外周面に接合される。なお、複数のフィン14の代わりに、チューブ12の外周面にらせん状のフィンを設けてもよい。
【0028】
2.チューブ(鋼材)の化学組成
本発明においてチューブ12として用いられる鋼材の化学組成は次の通りである。
【0029】
C:0.03〜0.13%
Cは、チューブを高温環境下で使用する際に必要となる、引張強さおよびクリープ破断強度を確保するために有効な元素である。本発明では後述するように鋼材にNを含有させるため、C含有量は低めであってもよい。しかし、上記の効果を発揮させるためには、C含有量を0.03%以上とする必要がある。C含有量の好ましい下限は0.05%である。一方、C含有量が0.13%を超えると、溶体化後の未固溶炭化物量が過剰となり、延性および靭性等の機械的性質が劣化する。したがって、C含有量の上限は0.13%とする。C含有量の好ましい上限は0.12%である。
【0030】
Si:0.5%以下
Siは脱酸材として有効であり、かつ耐酸化性の向上に有効な元素である。しかし、Si含有量が0.5%を超えると、溶接性および熱間加工性が劣化する。また、後述するように本発明では鋼材にNを含有させる。このため、鋼材にSiを多量に含有させると、チューブを高温環境下で使用している際に析出する窒化物量が増加する。その結果、チューブの靭性および延性の低下を招く。したがって,Si含有量は0.5%以下とする。Si含有量の好ましい上限は0.3%である。
【0031】
Mn:0.1〜2%
MnはSiと同様に脱酸作用を有する元素である。Mnはさらに、Sを固定して鋼材の熱間加工性を改善する作用を有する。これらの効果を得るためには、Mn含有量を0.1%以上とする必要がある。Mn含有量の好ましい下限は0.2%である。一方、Mn含有量が2%を超えると、σ相等の金属間化合物の析出を招いて、鋼材の高温強度および機械的性質が低下する。したがって、Mn含有量は2%以下とする。Mn含有量の好ましい上限は1.7%である。
【0032】
Ni:8〜15%
Niは、安定なオーステナイト組織を確保するための必須成分である。Niの最適含有量は、鋼中に含まれるCrおよびNb等のフェライト生成元素、ならびにCおよびN等のオーステナイト生成元素の含有量によって定まる。本発明においては、Ni含有量が8%未満では、オーステナイト組織の安定化が困難になる。したがって、Ni含有量は8%以上とする。Ni含有量の好ましい下限は8.5%である。一方、Ni含有量が15%を超えると、上記の効果が飽和して経済性が低下する。したがって、Ni含有量は15%以下とする。Ni含有量の好ましい上限は13%である。
【0033】
Cr:15〜22%
Crは、高温環境下でのチューブの耐酸化性および耐食性を向上させるために必要な元素である。しかし、Cr含有量が15%未満では十分な効果が得られない。したがって、Cr含有量は15%以上とする。Cr含有量の好ましい下限は17%である。上記の効果はCr含有量の増加に伴い顕著になるが、Cr含有量が22%を超えると、オーステナイト組織が不安定になる。したがって、Cr含有量は22%以下とする。Cr含有量の好ましい上限は20%である。
【0034】
Cu:2〜6%
Cuは、高温環境下でのチューブの使用中に、微細なCu相としてオーステナイト母相に整合析出することによって、クリープ破断強度の向上に大きく寄与する。上記の効果を発揮させるには、Cu含有量を2%以上とする必要がある。Cu含有量の好ましい下限は2.5%である。一方、Cu含有量が6%を超えると、クリープ破断延性および加工性が劣化する。したがって、Cu含有量は6%以下とする。Cu含有量の好ましい上限は4.5%である。
【0035】
Nb:0.3〜1.5%
Nbは微細な炭窒化物の分散析出強化によりクリープ破断強度を向上させる作用を有する元素である。上記の効果を発揮させるためには、Nb含有量を0.3%以上とする必要がある。Nb含有量の好ましい下限は0.35%である。一方、Nb含有量が1.5%を超えると、鋼材の溶接性および加工性が劣化する。また、未固溶の炭窒化物量が過剰になり、鋼材の機械的性質が劣化する。したがって、Nb含有量は1.5%以下とする。Nb含有量の好ましい上限は1.3%である。
【0036】
N:0.005〜0.2%
NはCと同様に、引張強さおよびクリープ破断強度の向上に有効な元素である。しかし、N含有量が0.005%%未満では十分な効果を発揮させることができない。したがって、N含有量は0.005%以上とする。N含有量の好ましい下限は0.01%である。一方、N含有量が0.2%を超えると、窒化物の多量析出によって、時効後靭性が低下する。したがって、N含有量は0.2%以下とする。N含有量の好ましい上限は0.15%である。
【0037】
B:0.0001〜0.2%
Bは炭窒化物分散強化および粒界強化によって鋼材の高温強度を改善する作用を有する元素である。しかし、B含有量が0.0001%未満では十分な効果が得られない。したがって、B含有量は0.0001%以上とする。B含有量の好ましい下限は0.001%である。一方、B含有量が0.2%を超えると溶接性を劣化させる。したがって、B含有量は0.2%以下とする。B含有量の好ましい上限は0.1%である。
【0038】
本発明に係るチューブ12として用いられる鋼材には、上記の成分のほか、必要に応じて下記に示すCo、Mo、W、Ti、V、Ca、Mg、ZrおよびREMのうちから選んだ1種以上を含有させることができる。
【0039】
Co:0〜5%
CoはNiおよびCuと同様にオ−ステナイト生成元素であり、オーステナイト組織の安定性を高めてクリープ強度の向上に寄与する。しかしながら、Co含有量が5%を超えると、上記の効果が飽和して経済性が低下する。したがって、含有させる場合のCo含有量は5%以下とする。上記の効果を発揮させるためには、Co含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
【0040】
Mo:0〜5%
Moは、マトリックスに固溶して鋼材の高温でのクリープ強度の向上に寄与する元素である。しかしながら、Mo含有量が5%を超えると、上記の効果が飽和して経済性が低下する。また、オーステナイト組織の安定性を低下させ、鋼材の熱間加工性が劣化する。したがって、含有させる場合のMo含有量は5%以下とする。上記の効果を発揮させるためには、Mo含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
【0041】
W:0〜5%
WはMoと同様に高温でのクリープ強度の向上に寄与する元素である。しかしながら、W含有量が5%を超えると、上記の効果が飽和して経済性が低下する。また、オーステナイト組織の安定性を低下させる。したがって、含有させる場合のW含有量は5%以下とする。上記の効果を発揮させるためには、W含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
【0042】
Ti:0〜0.5%
Tiは、CまたはNと結合して微細な炭化物または炭窒化物として粒内に析出することによって鋼材の高温でのクリープ強度の向上に寄与する元素である。しかしながら、Ti含有量が0.5%を超えると、鋼材のクリープ延性の低下を招く。したがって、含有させる場合のTi含有量は0.5%以下とする。上記の効果を発揮させるためには、Ti含有量を0.002%以上とすることが好ましい。
【0043】
V:0〜0.5%
VはTiと同様に微細な炭化物または炭窒化物を形成し、鋼材のクリープ強度に寄与する元素である。しかしながら、V含有量が0.5%を超えると、鋼材のクリープ延性の低下を招く。したがって、含有させる場合のV含有量は0.5%以下とする。上記の効果を発揮させるためには、V含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
【0044】
Ca:0〜0.2%
Caは、鋼材の熱間加工性を改善する効果を有する元素である。しかしながら、Ca含有量が0.2%を超えると、CaおよびO(酸素)が結合して清浄性を著しく低下させ、鋼材の熱間加工性を劣化させる。このため、含有させる場合のCa含有量は0.2%以下とする。上記の効果を発揮させるためには、Ca含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。
【0045】
Mg:0〜0.2%
MgはCaと同様に、鋼材の熱間加工性を改善する効果を有する元素である。しかしながら、Mg含有量が0.2%を超えると、MgおよびO(酸素)が結合して清浄性を著しく低下させ、鋼材の熱間加工性を劣化させる。このため、含有させる場合のMg含有量は0.2%以下とする。上記の効果を発揮させるためには、Mg含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。
【0046】
Zr:0〜0.2%
Zrは粒界強化に寄与して鋼材のクリープ強度を向上させるとともに、Sを固着して鋼材の熱間加工性を改善する効果を有する元素である。しかしながら、Zr含有量が0.2%を超えると、鋼材の熱間加工性を劣化させる。このため、含有させる場合のZr含有量は0.2%以下とする。上記の効果を発揮させるためには、Zr含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。
【0047】
REM:0〜0.2%
REM(希土類元素)は、鋼材の熱間加工性を改善する効果を有する元素である。しかしながら、REM含有量が0.2%を超えると、REMおよびO(酸素)が結合して清浄性を著しく低下させ、鋼材の熱間加工性を劣化させる。このため、含有させる場合のREM含有量は0.2%以下とする。上記の効果を発揮するためには、REM含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。なお、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称である。本発明では、これらの17元素のうちの1種以上を鋼材に含有させることができる。REM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
【0048】
本発明においてチューブ12として用いられる鋼材は、上記の元素を含有し、残部はFeおよび不純物からなる。「不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
【0049】
3.フィンの化学組成
フィン14として用いられる材料の化学組成について特に制限はないが、フィン14が鋼材からなる場合には、Crを10〜22%含有させることが好ましい。以下、その理由を説明する。
【0050】
例えば、フィンチューブ10をHRSGの伝熱管として使用する場合、フィン14は高温の排ガスに長時間曝されることになる。このため、フィン14が優れた耐酸化性および耐食性を備えていることが重要になる。フィン14の耐酸化性および耐食性の向上には、Crの添加が有効である。しかし、Cr含有量が10%未満では、耐酸化性および耐食性を十分に向上できない。したがって、フィン14として用いる鋼材のCr含有量は10%以上とする。Cr含有量の好ましい下限は10.5%である。一方、Cr含有量が22%を超えると、鋼材の加工性が低下する。したがって、フィン14として用いる鋼材のCr含有量は22%以下とする。Cr含有量の好ましい上限は21%とする。
【0051】
4.フィンチューブの機械的特性
本発明においてチューブ12として用いられる鋼材は、降伏現象を示さない。一方、フィン14としては、降伏現象を示す材料を用いることもできるし、降伏現象を示さない材料を用いることもできる。
【0052】
本発明においては、チューブ12およびフィン14の材質が、少なくとも500℃の環境下(チューブ12およびフィン14の温度が500℃になる環境下)において、下記の(i)式および(ii)式を満たす。
α
f(T
f−T
0)−α
t(T
t−T
0)≦σ
Yt/E
t ・・・ (i)
α
f(T
f−T
0)−α
t(T
t−T
0)≦σ
Yf/E
f ・・・ (ii)
なお、上記式において、
α
fはフィンの熱膨張率(1/℃)を、
T
fはフィンの温度(℃)を、
T
0は室温(℃)を、
α
tはチューブの熱膨張率(1/℃)を、
T
tはチューブの温度(℃)を、
σ
Ytはチューブの0.2%耐力(MPa)を、
E
tはチューブのヤング率(MPa)を、
σ
Yfはフィンの降伏応力(MPa)を、
E
fはフィンのヤング率(MPa)を、それぞれ示す。
但し、フィンの材料が降伏現象を示さない場合には、σ
Yfはフィンの0.2%耐力(MPa)を示す。また、降伏応力とは、下降伏点のことをいう。
また、室温とは、フィンチューブが加熱される前のフィンチューブの周囲の雰囲気の温度のことであり、一般に、20℃程度である。本実施形態では、上述の(i)および(ii)式において、室温は、例えば、20℃である。
【0053】
なお、0.2%耐力、降伏応力およびヤング率は、例えば、JIS Z 2241に準拠した試験で求めることができ、熱膨張率は、例えば、JIS Z 2285に準拠した試験で求めることができる。
【0054】
上記の(i)式および(ii)式において、左辺は、チューブ12およびフィン14の熱膨張ひずみの差を表す。(i)式において右辺は、チューブ12の弾性変形域における最大ひずみを表し、(ii)式において右辺は、フィン14の弾性変形域における最大ひずみを表す。(i)式および(ii)式において左辺の値が正の場合は、フィン14の熱膨張がチューブ12の熱膨張よりも大きいことを意味する。この場合、チューブ12とフィン14との境界部には、フィン14をチューブ12から引き離す方向の応力(チューブ12の半径方向の応力)が作用する。(i)式および(ii)式において左辺の値が大きくなると、チューブ12およびフィン14が塑性変形してしまう。
【0055】
ここで、チューブ12およびフィン14の境界部に作用する応力は、チューブ12およびフィン14の材質だけでなく、寸法および形状によっても変化する。しかし、チューブ12およびフィン14の材質、寸法および形状にかかわらず、上記境界部に作用する応力が計算上最大になるのは以下の場合である。すなわち、チューブ12とフィン14とで熱膨張に差がある場合に、その差を解消するためにチューブ12およびフィン14のうちの一方のみにひずみが生じている場合である。
【0056】
本発明では、上記のような場合でもチューブ12およびフィン14の塑性変形を防止できるように、(i)式および(ii)式を規定している。具体的には、(i)式を満たすことによって、上記熱膨張差に基づくひずみがチューブ12のみに生じたとしても、チューブ12のひずみを弾性変形域内に抑制できる。また、(ii)式を満たすことによって、上記熱膨張差に基づくひずみがフィン14のみに生じたとしても、フィン14のひずみを弾性変形域内に抑制できる。したがって、本発明のフィンチューブ10では、500℃の高温環境下においても、チューブ12およびフィン14の塑性変形を防止できる。これにより、上記境界部に熱応力が繰り返し作用した場合でも、いわゆる低サイクル疲労状態となることを防止できる。すなわち、フィンチューブ10の耐熱性および耐熱疲労性を十分に確保できる。その結果、フィン14の剥離を十分に抑制できる。
【0057】
なお、チューブ12およびフィン14の温度が550℃になるときに(i)式および(ii)式を満たすことが好ましく、600℃になるときに(i)式および(ii)式を満たすことがより好ましく、700℃になるときに(i)式および(ii)式を満たすことがさらに好ましい。
【0058】
本発明は、チューブとフィンとが異なる材料からなるフィンチューブに好適に利用できる。特に、本発明は、フィンの熱膨張率がチューブの熱膨張率よりも高いフィンチューブにおいて優れた効果を発揮する。言い換えると、本発明は、上記のような高温環境下において、(i)式および(ii)式の左辺の値が0よりも大きくなるフィンチューブにおいて効果的に用いることができる。
【0059】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
まず、下記の表1に示す化学組成を有する鋼材からなるチューブ(外径38mm、肉厚5.1mm)を3本用意した。また、表1に示す化学組成を有する鋼材からなるフィン1,2,3(厚さ1mm、高さ12.7mm)を用意した。チューブは、熱間押出により製管し、フィンは、冷間圧延により製造した。フィン1,2,3をそれぞれ、チューブの外周面にらせん状に溶接し、3本のフィンチューブを作製した。なお、本実施例においてフィン1,2,3として用いた鋼材は、降伏現象を示さない。
【0061】
【表1】
【0062】
図2〜4に、チューブおよびフィン1,2,3の温度毎の0.2%耐力、ヤング率および熱膨張率を示す。0.2%耐力およびヤング率は、JIS Z 2241に準拠した試験で求め、熱膨張率は、JIS Z 2285に準拠した試験で求めた。また、下記の表2に、
図2〜4に示した値に基づいて算出した(i)式および(ii)式の値を示す。以下、フィン1を備えたフィンチューブを本発明例1とし、フィン2を備えたフィンチューブを本発明例2とし、フィン3を備えたフィンチューブを比較例とする。表2に示すように、本発明例1,2のフィンチューブでは、500℃以上の条件下においても(i)式および(ii)式を満足したが、比較例のフィンチューブでは、500℃以上の条件下において(i)式および(ii)式を満足しなかった。
【0063】
【表2】
【0064】
本発明例1,2および比較例のフィンチューブを熱サイクル試験に供した。熱サイクル試験では、炉内でフィンチューブを外面から加熱した。温度条件は、最高温度を620℃とし最低温度を100℃とした。試験サイクル数は3000回とした。1サイクルの時間は、50分とした。熱サイクル試験後に、チューブおよびフィンの状態を確認した。その結果、本発明例1,2および比較例ともに、酸化の程度は軽微であり、健全な状態を保っていた。
【0065】
また、熱サイクル試験に供していないフィンチューブおよび熱サイクル試験後のフィンチューブを切断し、フィンとチューブとの溶接部の接合長さ(チューブの軸方向に平行な長さ)が、熱サイクル試験の前後でどのように変化したかを観察した。より具体的には、熱サイクル試験前の初期状態における接合長さ(初期値)に対して、熱サイクル試験後の接合長さがどの程度であるかを調べた。そして、熱サイクル試験後の接合長さが、熱サイクル試験前の接合長さの50%以上であるフィンチューブについて、優れた耐熱性および耐熱疲労性を有していると判断した。その結果、
図5に示すように、本発明例1,2のフィンチューブでは、熱サイクル試験後の接合長さが、熱サイクル試験前の接合長さに対して80〜90%程度であった。すなわち、本発明例1,2のフィンチューブは、優れた耐熱性および耐熱疲労性を有していた。一方、比較例のフィンチューブでは、熱サイクル試験後の接合長さが、熱サイクル試験前の接合長さに対して約44%であった。すなわち、比較例のフィンチューブは、優れた耐熱性および耐熱疲労性を有していなかった。
【0066】
上記の熱サイクル試験とは別に、有限要素法解析(FEM解析)を実施した。具体的には、上記の構成を有する本発明例1,2および比較例のフィンチューブについて、熱サイクルの負荷によって溶接部近傍に作用する熱応力を評価した。FEM解析では、フィンチューブ形状の対称性を考慮して、円周方向について全周の1/36(角度10°)の部分で、管軸方向についてフィン1ピッチ分の領域を対象としたモデルを用いて評価を行った。また、FEM解析では、チューブおよびフィンを室温(20℃)の初期状態から620℃まで加熱したときに生じる熱応力を評価した。
【0067】
FEM解析で得られた結果(応力分布)を
図6に示す。なお、
図6においては、チューブの半径方向、すなわちフィンをチューブから剥離させる方向の応力を正の値で示している。
【0068】
本発明例1のフィンチューブではフィンの熱膨張率がチューブよりも低いので、
図6に示すように、フィンとチューブとの境界部には、フィンとチューブとを互いに押しつける方向の応力(圧縮応力)が作用した。本発明例2のフィンチューブでは、フィンの熱膨張率がチューブよりも高いので、フィンとチューブとの境界部には、フィンをチューブから剥離させる方向の応力(引張応力)が作用した。しかし、境界部に作用する応力の絶対値は非常に小さかった。このように、本発明例1,2のフィンチューブでは、高温環境下において、フィンをチューブから剥離させる方向の力はほとんど働かなかった。一方、比較例のフィンチューブでは、フィンとチューブとの境界部に、フィンをチューブから剥離させる方向に大きな応力が作用した。
【0069】
以上の結果から、500℃以上の環境下において(i)式および(ii)式を満足する本発明例1,2のフィンチューブによれば、高温環境下において、フィンを剥離させる方向に作用する応力を抑制でき、優れた耐熱性および耐熱疲労性を確保できることが分かった。なお、実際の発電プラントでフィンチューブに加わる熱サイクル数は運用条件によって変わるが、上記の熱サイクル試験のような大きな温度変動が週1回加わるとすると、上記3000回の熱サイクルは発電プラントで約60年間に加えられる熱サイクルに相当する。したがって、本発明のフィンチューブであれば、このような長期間の使用に際しても、性能を損なうことなく使用することが可能である。