(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溝肩側副円弧部の円弧中心角をHp、前記溝底側副円弧部の円弧中心角をHmとしたとき、下記の条件A又は条件Bを満足することを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。
条件A:Hp>Hm、且つ、r2p<r2m
条件B:Hp<Hm、且つ、r2p>r2m
前記フランクのうち前記ボールと接触する全てのフランクについては、前記主円弧部の曲率半径r1が同一であり、前記溝肩側副円弧部の曲率半径r2pが同一であり、且つ前記溝底側副円弧部の曲率半径r2mが同一であり、
前記フランクのうち前記ボールと接触する全てのフランクにおいて、前記溝肩側副円弧部の円弧中心角Hpの最小値をHpmin、前記溝底側副円弧部の円弧中心角Hmの最小値をHmminとしたとき、下記の条件C又は条件Dを満足することを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。
条件C:Hpmin>Hmmin、且つ、r2p<r2m
条件D:Hpmin<Hmmin、且つ、r2p>r2m
前記主円弧部と前記溝肩側副円弧部とは、接線を共有するように滑らかに連結していることを特徴とする請求項1,2,3,4,6,及び8のいずれか一項に記載の直動案内装置。
前記主円弧部と前記溝底側副円弧部とは、接線を共有するように滑らかに連結していることを特徴とする請求項1,2,3,5,7,及び8のいずれか一項に記載の直動案内装置。
前記主円弧部は、前記ボールと前記フランクとの接触点を中心として前記フランクの幅方向両側に等範囲に位置しており、前記主円弧部の円弧中心角Kは40°であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の直動案内装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る直動案内装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、これ以降の説明で参照する各図においては、同一又は相当する部分には同一の符号を付してある。また、これ以降の説明において「断面」と記した場合は、特に断りがない限り、案内レールの長手方向に直交する平面で切断した場合の断面を意味する。さらに、これ以降の説明における「上」,「下」,「左」,「右」等の方向を示す用語は、特に断りがない限り、説明の便宜上、
図2におけるそれぞれの方向を意味するものである。
【0022】
〔第一実施形態〕
図1,2に示すように、直線状に延びる断面形状略矩形の案内レール1の上に、断面形状略U字状のスライダ2が、案内レール1の長手方向(以下「前記長手方向」と記す)に移動可能に組み付けられている。この案内レール1の幅方向左右両側面1a,1aと上面1bとが交差する稜部には、前記長手方向に延びる凹溝からなる軌道溝10,10が形成されている。
また、案内レール1の幅方向左右両側面1a,1aの上下方向略中央部には、前記長手方向に延びる凹溝からなる軌道溝10,10が形成されている。そして、案内レール1の幅方向左右両側面1a,1aの上下方向略中央部に形成された軌道溝10,10の溝底部には、保持器4の一部を収容して保持器4と案内レール1との干渉を防ぐ保持器用逃げ溝10a(ワイヤー溝)が、スライダ2の移動領域の両端間(例えば、案内レール1の前記長手方向の両端間)にわたって前記長手方向に沿って形成されている。保持器用逃げ溝10aの断面形状は例えば略矩形状である。
【0023】
また、スライダ2は、案内レール1の上面1bに対向する平板状の胴部7と、胴部7の左右両側部からそれぞれ下方に延び案内レール1の側面1aに対向する2つの脚部6,6とからなり、胴部7と脚部6,6とのなす角度は略直角であるため、スライダ2の断面形状は略U字状をなしている。そして、スライダ2は、両脚部6,6の間に案内レール1を挟むようにして、案内レール1に移動可能に取り付けられている。
このようなスライダ2は、スライダ本体2Aと、スライダ本体2Aの両端部(前記長手方向の両端部であり、スライダ2の移動方向の両端部とも言える)に着脱可能に取り付けられたエンドキャップ2B,2Bと、を備えている。さらに、スライダ2の両端部(各エンドキャップ2Bの前記長手方向の外側)には、案内レール1の外面(上面1b及び側面1a,1a)に摺接して案内レール1とスライダ2との間の隙間の開口のうち前記長手方向の端面側に面する部分を密封するサイドシール5,5が装着されており、スライダ2の下部には、案内レール1とスライダ2との間の隙間の開口のうちスライダ2の下面側に面する部分を密封するアンダーシール8,8が装着されている。これらサイドシール5,5及びアンダーシール8,8により、外部から前記隙間への異物の侵入や、前記隙間から外部への潤滑剤の漏出が防止されている。
【0024】
さらに、スライダ本体2Aの左右両脚部6,6の内側面の角部及び上下方向略中央部には、案内レール1の軌道溝10,10,10,10に対向する凹溝からなる軌道溝11,11,11,11が形成されている。そして、案内レール1の軌道溝10,10,10,10とスライダ2の軌道溝11,11,11,11との間に、断面ほぼ円形の転動通路13,13,13,13がそれぞれ形成されていて、これらの転動通路13,13,13,13は前記長手方向に延びている(
図2,3を参照)。
これらの転動通路13内には転動体である複数のボール3が保持器4に保持されつつ転動自在に装填されていて、転動通路13内でのこれらのボール3の転動を介して、スライダ2が案内レール1に案内されて前記長手方向に移動可能となっている。保持器4は例えばワイヤーで形成されており、例えば案内レール1に組み付ける前など、案内レール1に組み付けられていない状態のスライダ2からのボール3の脱落を防止するために、ボール3を保持している。
なお、案内レール1及びスライダ2が備える軌道溝10,11の数は片側二列に限らず、例えば片側一列又は三列以上であってもよい。
【0025】
さらに、スライダ2は、スライダ本体2Aの左右両脚部6,6の上部及び下部に、転動通路13,13,13,13と平行をなして前記長手方向に貫通する断面形状略円形の貫通孔からなる戻し通路14,14,14,14を備えている(
図2,3を参照)。
一方、エンドキャップ2Bは、例えば樹脂材料の成形品からなり、断面形状が略U字状に形成されている。また、エンドキャップ2Bの裏面(スライダ本体2Aとの当接面)の左右両側には、断面形状円形で円弧状に湾曲する方向転換路15が上下二段に形成されている(
図3を参照)。このエンドキャップ2Bをねじ等の締結部材でスライダ本体2Aに取り付けると、方向転換路15によって転動通路13と戻し通路14とが連通される。なお、方向転換路15の断面形状は、方向転換路15の連続方向に直交する平面で切断した場合の断面形状である。
【0026】
これら戻し通路14と両端の方向転換路15,15とで、ボール3を転動通路13の終点から始点に搬送して循環させる転動体搬送路16が構成され(転動体搬送路16は転動通路13と同数設けられている)、転動通路13と転動体搬送路16とで、略環状の循環経路が構成される(
図3を参照)。そして、この略環状の循環経路は、案内レール1を挟んで左右両側に形成される。
案内レール1に組みつけられたスライダ2が案内レール1に沿って前記長手方向に移動すると、転動通路13内に装填されているボール3は、転動通路13内を転動しつつ案内レール1に対してスライダ2と同方向に移動する。そして、ボール3が転動通路13の終点に達すると、転動通路13からすくい上げられ方向転換路15へ送られる。方向転換路15に入ったボール3はUターンして戻し通路14に導入され、戻し通路14を通って反対側の方向転換路15に至る。ここで再びUターンして転動通路13の始点に戻り、このような循環経路内の循環を無限に繰り返す。
【0027】
ここで、軌道溝10,11について、さらに詳細に説明する。案内レール1が有する4つの軌道溝10,10,10,10のうち、両側面1a,1aと上面1bとが交差する稜部に形成された2つの軌道溝10,10(以下「レール上溝10」と記すこともある)は、単一のフランクを備える溝である。また、案内レール1が有する4つの軌道溝10,10,10,10のうち、両側面1a,1aの上下方向略中央部に形成された2つの軌道溝10,10(以下「レール下溝10」と記すこともある)は、2つのフランク(上側フランク20U及び下側フランク20L)を備える断面形状略V字状のゴシックアーク形状溝である。
【0028】
さらに、スライダ本体2Aが有する4つの軌道溝11,11,11,11(以下、レール上溝10に対向する2つの軌道溝11,11を「スライダ上溝11」、レール下溝10に対向する2つの軌道溝11,11を「スライダ下溝11」と記すこともある)は、2つのフランク(上側フランク20U及び下側フランク20L)を備える断面形状略V字状のゴシックアーク形状溝である。
直動案内装置の使用時においては、レール下溝10、スライダ上溝11、及びスライダ下溝11がそれぞれ有する2つのフランク20U、20Lのうち一方がボール3と接触する主フランクとなり、他方はボール3と接触しない副フランクとなる。詳述すると、例えば
図4に示すように、上側の転動通路13では、スライダ上溝11の上側フランク20Uとレール上溝10のフランクとがボール3に接触し、下側の転動通路13では、スライダ下溝11の下側フランク20Lとレール下溝10の上側フランク20Uとがボール3に接触する。このとき、接触角Sはいずれも例えば50°となっている。これら以外のフランク(すなわち、スライダ上溝11の下側フランク20L、スライダ下溝11の上側フランク20U、及びレール下溝10の下側フランク20L)はボール3と接触せず、これらフランクとボール3との間には数μmから数十μmの隙間Cが存在する。
【0029】
次に、レール下溝10が備える上側フランク20U及び下側フランク20Lについて、
図5〜7を参照しながら説明する。レール下溝10が備える上側フランク20U及び下側フランク20Lは、相互に上下線対称をなす断面形状であり(すなわち、レール下溝10の断面形状は線対称な形状である)、いずれのフランク20U、20Lも、フランク20U、20Lの幅方向略中央に位置する断面形状円弧状の主円弧部21と、主円弧部21の溝肩側に連続して形成される断面形状円弧状の溝肩側副円弧部23と、主円弧部21の溝底側に連続して形成される断面形状円弧状の溝底側副円弧部25と、を有している。
【0030】
主円弧部21の曲率半径r1は、ボール3の半径より僅かに大きい。ボール3の接触点が位置することとなる主円弧部21の曲率半径r1が小さいほど、ボール3とレール下溝10との接触面圧が低減されるので、直動案内装置の寿命が向上する。ただし、主円弧部21の曲率半径r1が小さすぎると、作製誤差によりボール3と主円弧部21の接触が不安定になるおそれがある。このため、主円弧部21の曲率半径r1は、ボール3の直径の0.51倍以上0.52倍以下とすることが好ましい。例えば、ボール3の直径を5.556mm、主円弧部21の曲率半径r1を2.834mm(ボール3の直径の0.51倍)としてもよい。
【0031】
案内レール1を作製後にレール下溝10の位置を測定する際には、測定用ボールを上側フランク20U及び下側フランク20Lの両方に接触するようにしてレール下溝10内に配置する(
図5を参照)。レール下溝10は2つのフランク20U、20Lを備えているので、1つのフランクしか備えていない場合よりも、測定用ボールの位置が安定する。そのため、レール下溝10の高さ位置(上下方向位置)や、2つのレール下溝10,10間の案内レール1の幅方向の距離を、高精度に測定することができる。測定用ボールの接触角は、例えば、上側フランク20Uでの接触角a1を36°、下側フランク20Lでの接触角a2を36°とすることができる。
【0032】
案内レール1のレール上溝10は1つのフランクからなるため、レール上溝10の位置を直接的に高精度に測定することは難しい。しかしながら、案内レール1のレール上溝10は、総形砥石を用いた研削加工によって、レール下溝10と同時に形成することができる。総形砥石を用いれば、正確に寸法を保証することが比較的容易であるので、案内レール1のレール上溝10の位置は測定せず、レール下溝10の位置のみを測定すれば、レール上溝10の位置についても保証することができる。
レール下溝10の溝肩側の両縁部には、ランド部に接続する面取り(R面取り)31,31が形成されている。面取り31によって、レール下溝10の溝肩側の縁部にバリが残存することを防ぐことができる。面取り31の曲率半径は、ボール3の直径の0.1倍程度とすることができる。なお、レール下溝10の溝肩側の両縁部に形成した面取り31、31の曲率半径は、
図5のように同一でもよいが、異なっていてもよい。
【0033】
次に、レール下溝10の上側フランク20U及び下側フランク20Lが有する主円弧部21、溝肩側副円弧部23、及び溝底側副円弧部25について、レール下溝10の上側フランク20Uを例にして、
図6を参照しながら説明する。レール下溝10の上側フランク20Uの断面形状は、溝肩側副円弧部23、主円弧部21、及び溝底側副円弧部25が連続してなる複合円弧形状となっている。
主円弧部21は、ボール3と上側フランク20Uとの接触点を中心として上側フランク20Uの幅方向両側に等範囲に配されており、主円弧部21の円弧中心角Kは例えば40°である。主円弧部21のうち接触点よりも溝肩側の部分と接触点よりも溝底側の部分とは上側フランク20Uの幅方向に等範囲であり、接触点よりも溝肩側の部分の円弧中心角をKp、接触点よりも溝底側の部分の円弧中心角をKmとすると、第一実施形態においてはKp及びKmは例えば20°となっている。なお、本発明において主円弧部の円弧中心角とは、主円弧部の曲率中心と主円弧部の両端とをそれぞれ直線で結んで形成される扇形の中心角を意味する。
【0034】
主円弧部21と溝肩の面取り31との間に溝肩側副円弧部23が形成されており、溝肩側副円弧部23の円弧中心角Hpは、第一実施形態においては例えば9.8°となっている。また、主円弧部21と保持器用逃げ溝10aとの間に溝底側副円弧部25が形成されており、溝底側副円弧部25の円弧中心角Hmは、第一実施形態においては例えば10.0°となっている。すなわち、溝肩側副円弧部23及び溝底側副円弧部25の円弧中心角Hp、Hmの大きさは、溝肩の面取り31及び保持器用逃げ溝10aの寸法によって制限される。なお、本発明において溝肩側副円弧部の円弧中心角とは、主円弧部の曲率中心と溝肩側副円弧部の両端とをそれぞれ直線で結んで形成される扇形の中心角を意味する。また、溝底側副円弧部の円弧中心角とは、主円弧部の曲率中心と溝底側副円弧部の両端とをそれぞれ直線で結んで形成される扇形の中心角を意味する。
【0035】
主円弧部21の範囲が大きすぎると(円弧中心角Kが大きすぎると)、溝肩側副円弧部23や溝底側副円弧部25の範囲が小さくなり(円弧中心角Hp、Hmが小さくなり)、溝肩側副円弧部23や溝底側副円弧部25の設計の自由度が小さくなる。一方、主円弧部21の範囲が小さすぎると(円弧中心角Kが小さすぎると)、溝肩側副円弧部23や溝底側副円弧部25の面積が大きくなるため、荷重の作用時に接触面圧が大きくなりやすい。このため、主円弧部21の円弧中心角Kは40°とすることが好ましい。
溝肩側副円弧部23の曲率半径r2p及び溝底側副円弧部25の曲率半径r2mは、主円弧部21の曲率半径r1よりも僅かに大きく設定されている。そして、主円弧部21と溝肩側副円弧部23とは、その連結部分において接線を共有するように滑らかに連結している。また、主円弧部21と溝底側副円弧部25も同様に、その連結部分において接線を共有するように滑らかに連結している。
【0036】
この滑らかな連結について、
図7を参照しながら具体的に説明する。主円弧部21の曲率半径をr1、溝肩側副円弧部23の曲率半径をr2p、溝底側副円弧部25の曲率半径をr2mとすると、主円弧部21の曲率中心と溝肩側副円弧部23の曲率中心はr2p−r1だけ離れており、且つ、主円弧部21と溝肩側副円弧部23の連結部分は、主円弧部21の曲率中心と溝肩側副円弧部23の曲率中心とを結ぶ直線上に位置する。同様に、主円弧部21の曲率中心と溝底側副円弧部25の曲率中心はr2m−r1だけ離れており、且つ、主円弧部21と溝底側副円弧部25の連結部分は、主円弧部21の曲率中心と溝底側副円弧部25の曲率中心とを結ぶ直線上に位置する。
【0037】
このように、主円弧部21と溝肩側副円弧部23及び溝底側副円弧部25とをそれぞれ滑らかに連結することにより、その連結部分における接触面圧分布の急変を防止し、直動案内装置の寿命の低下を抑制することができる。
第一実施形態においては、溝肩側副円弧部23の曲率半径r2pと溝底側副円弧部25の曲率半径r2mとは異なる数値となっていて、溝肩側副円弧部23の曲率半径r2pは例えば3.223mm(ボール3の直径の0.58倍)、溝底側副円弧部25の曲率半径r2mは例えば3.000mm(ボール3の直径の0.54倍)である。
【0038】
このように、第一実施形態の直動案内装置のレール下溝10は、溝肩側副円弧部23の円弧中心角Hp及び曲率半径r2p、並びに、溝底側副円弧部25の円弧中心角Hm及び曲率半径r2mが、下記の条件A又は条件Bを満足する。すなわち、溝肩側副円弧部23及び溝底側副円弧部25のうち円弧中心角が大きい方は、円弧中心角が小さい方よりも、曲率半径が小さい。
条件A:Hp>Hm、且つ、r2p<r2m
条件B:Hp<Hm、且つ、r2p>r2m
【0039】
次に、レール上溝10が備えるフランクについて、
図8を参照しながら説明する。レール上溝10は、2つのフランク20U、20Lを備えるレール下溝10とは異なり、単一のフランクを備える溝である。レール上溝10のフランクは、このフランクの幅方向略中央に位置する断面形状円弧状の主円弧部21と、主円弧部21の溝肩側(案内レール1の側面1a側)に連続して形成される断面形状円弧状の溝肩側副円弧部23と、主円弧部21の溝底側(案内レール1の上面1b側)に連続して形成される断面形状円弧状の溝底側副円弧部25と、を有している。
レール上溝10の溝肩側の縁部には面取り31(R面取り)が形成されており、溝底側の縁部には面取り32(C面取り)が形成されている。なお、面取りの種類は特に限定されるものではなく、溝肩側の面取りをC面取りとしてもよいし、溝底側の面取りをR面取りとしてもよい。
【0040】
次に、レール上溝10のフランクが有する主円弧部21、溝肩側副円弧部23、及び溝底側副円弧部25について、
図8を参照しながら説明する。レール上溝10のフランクの断面形状は、溝肩側副円弧部23、主円弧部21、及び溝底側副円弧部25が連続してなる複合円弧形状となっている。
主円弧部21は、ボール3とフランクとの接触点を中心としてフランクの幅方向両側に等範囲に配されており、主円弧部21の円弧中心角Kは例えば40°である。主円弧部21のうち接触点よりも溝肩側の部分と接触点よりも溝底側の部分とはフランクの幅方向に等範囲であり、接触点よりも溝肩側の部分の円弧中心角をKp、接触点よりも溝底側の部分の円弧中心角をKmとすると、第一実施形態においてはKp及びKmは例えば20°となっている。
【0041】
主円弧部21と溝肩の面取り31との間に溝肩側副円弧部23が形成されており、溝肩側副円弧部23の円弧中心角Hpは、第一実施形態においては例えば9.8°となっている。また、主円弧部21と溝底側の面取り32との間に溝底側副円弧部25が形成されており、溝底側副円弧部25の円弧中心角Hmは、第一実施形態においては例えば18.6°となっている。すなわち、溝肩側副円弧部23、溝底側副円弧部25の円弧中心角Hp、Hmの大きさは、溝肩側及び溝底側の面取り31,32の寸法によって制限される。
【0042】
主円弧部21の曲率半径r1は、レール下溝10の上側フランク20Uの場合と同一である。また、溝肩側副円弧部23及び溝底側副円弧部25の曲率半径r2p、r2mは、レール下溝10の上側フランク20Uの場合と同一であり、主円弧部21の曲率半径r1よりも僅かに大きく設定されている(すなわち、溝肩側副円弧部23の曲率半径r2pと溝底側副円弧部25の曲率半径r2mとは異なる数値である)。
さらに、レール上溝10の場合も、レール下溝10と同様に、溝肩側副円弧部23の円弧中心角Hp及び曲率半径r2p、並びに、溝底側副円弧部25の円弧中心角Hm及び曲率半径r2mが、上記の条件A又は条件Bを満足する。
【0043】
そして、主円弧部21と溝肩側副円弧部23とは、その連結部分において接線を共有するように滑らかに連結している。また、主円弧部21と溝底側副円弧部25も同様に、その連結部分において接線を共有するように滑らかに連結している。
次に、スライダ下溝11が備えるフランクについて、
図9,10を参照しながら説明する。なお、スライダ上溝11の断面形状は、スライダ下溝11の断面形状と同一であるので、説明は省略する。
スライダ下溝11が備える上側フランク20U及び下側フランク20Lは、相互に上下線対称をなす断面形状であり(すなわち、スライダ下溝11の断面形状は線対称な形状である)、いずれのフランク20U、20Lも、フランク20U、20Lの幅方向略中央に位置する断面形状円弧状の主円弧部21と、主円弧部21の溝肩側に連続して形成される断面形状円弧状の溝肩側副円弧部23と、主円弧部21の溝底側に連続して形成される断面形状円弧状の溝底側副円弧部25と、を有している。
【0044】
スライダ本体2Aを作製後にスライダ下溝11の位置を測定する際には、測定用ボールを上側フランク20U及び下側フランク20Lの両方に接触するようにしてスライダ下溝11内に配置する。スライダ下溝11は2つのフランク20U、20Lを備えているので、1つのフランクしか備えていない場合よりも、測定用ボールの位置が安定する。そのため、スライダ下溝11の高さ位置や、2つのスライダ下溝11,11間の案内レール1の幅方向の距離を、高精度に測定することができる。測定用ボールの接触角は、例えば、上側フランク20Uでの接触角b1を36°、下側フランク20Lでの接触角b2を36°とすることができる(
図9を参照)。
【0045】
スライダ下溝11の溝肩側の両縁部には、ランド部に接続する面取り32(C面取り)が形成されている。面取り32によって、スライダ下溝11の溝肩側の縁部にバリが残存することを防ぐことができる。第一実施形態においては、2つの面取り32の深さは同一とされている。なお、面取りの種類はC面取りに限らずR面取りでも差し支えない。
次に、スライダ下溝11の上側フランク20U及び下側フランク20Lが有する主円弧部21、溝肩側副円弧部23、及び溝底側副円弧部25について、スライダ下溝11の下側フランク20Lを例にして、
図10を参照しながら説明する。スライダ下溝11の下側フランク20Lの断面形状は、溝肩側副円弧部23、主円弧部21、及び溝底側副円弧部25が連続してなる複合円弧形状となっている。
【0046】
主円弧部21は、ボール3と下側フランク20Lとの接触点を中心として下側フランク20Lの幅方向両側に等範囲に配されており、主円弧部21の円弧中心角Kは例えば40°である。主円弧部21のうち接触点よりも溝肩側の部分と接触点よりも溝底側の部分とは下側フランク20Lの幅方向に等範囲であり、接触点よりも溝肩側の部分の円弧中心角をKp、接触点よりも溝底側の部分の円弧中心角をKmとすると、第一実施形態においてはKp及びKmは例えば20°となっている。
主円弧部21と溝肩の面取り32との間に溝肩側副円弧部23が形成されており、溝肩側副円弧部23の円弧中心角Hpは、第一実施形態においては例えば7.5°となっている。また、主円弧部21と溝底(上側フランク20Uと下側フランク20Lとの連結部分)との間に溝底側副円弧部25が形成されており、溝底側副円弧部25の円弧中心角Hmは、第一実施形態においては例えば30.0°となっている。すなわち、溝肩側副円弧部23の円弧中心角Hpの大きさは、溝肩の面取り32の寸法によって制限される。
【0047】
主円弧部21の範囲が大きすぎると(円弧中心角Kが大きすぎると)、溝肩側副円弧部23や溝底側副円弧部25の範囲が小さくなり(円弧中心角Hp、Hmが小さくなり)、溝肩側副円弧部23や溝底側副円弧部25の設計の自由度が小さくなる。一方、主円弧部21の範囲が小さすぎると(円弧中心角Kが小さすぎると)、溝肩側副円弧部23や溝底側副円弧部25の面積が大きくなるため、荷重の作用時に接触面圧が大きくなりやすい。このため、主円弧部21の円弧中心角Kは40°とすることが好ましい。
主円弧部21の曲率半径r1については、レール下溝10の上側フランク20Uと同一である。また、溝肩側副円弧部23の曲率半径r2p及び溝底側副円弧部25の曲率半径r2mは、レール下溝10の上側フランク20Uの場合と同一であり、主円弧部21の曲率半径r1よりも僅かに大きく設定されている(すなわち、溝肩側副円弧部23の曲率半径r2pと溝底側副円弧部25の曲率半径r2mとは異なる数値である)。
【0048】
さらに、スライダ下溝11の場合も、レール上溝10やレール下溝10と同様に、溝肩側副円弧部23の円弧中心角Hp及び曲率半径r2p、並びに、溝底側副円弧部25の円弧中心角Hm及び曲率半径r2mが、上記の条件A又は条件Bを満足する。
そして、主円弧部21と溝肩側副円弧部23とは、その連結部分において接線を共有するように滑らかに連結している。また、主円弧部21と溝底側副円弧部25も同様に、その連結部分において接線を共有するように滑らかに連結している。
このように、主円弧部21と溝肩側副円弧部23及び溝底側副円弧部25とをそれぞれ滑らかに連結することにより、その連結部分における接触面圧分布の急変を防止し、直動案内装置の寿命の低下を抑制することができる。また、対向する軌道溝10,11の上側フランク20U及び下側フランク20Lの断面形状をそれぞれ同一とすることにより、上側フランク20U及び下側フランク20Lの断面形状の測定及び管理を容易にすることができる。
【0049】
直動案内装置は、レール上溝10、レール下溝10、スライダ上溝11、スライダ下溝11あわせて8つの軌道溝10、11を備えているが、これら8つの軌道溝10、11が有する全てのフランクのうちボール3と接触する全てのフランクは、主円弧部21の曲率半径r1が同一であり、溝肩側副円弧部23の曲率半径r2pが同一であり、且つ溝底側副円弧部25の曲率半径r2mが同一となっている。
また、これら8つの軌道溝10、11が有する全てのフランクのうちボール3と接触する全てのフランクの中で、溝肩側副円弧部23の円弧中心角Hpが最も小さいのは、例えばスライダ上溝11の上側フランク20Uである。そして、その溝肩側副円弧部23の円弧中心角Hpの最小値Hpmin、すなわち、全ての主フランクが備える溝肩側副円弧部23のうち最も範囲の小さいものの円弧中心角Hpminは、例えば7.5°とされている。
【0050】
同様に、8つの軌道溝10、11が有する全てのフランクのうちボール3と接触する全てのフランクの中で、溝底側副円弧部25の円弧中心角Hmが最も小さいのは、例えばレール下溝10の上側フランク20Uである。そして、その溝底側副円弧部25の円弧中心角Hmの最小値Hmmin、すなわち、全ての主フランクが備える溝底側副円弧部25のうち最も範囲の小さいものの円弧中心角Hmminは、例えば10.0°とされている。
そして、第一実施形態の直動案内装置は、溝肩側副円弧部23の円弧中心角Hpの最小値Hpmin、溝肩側副円弧部23の曲率半径r2p、溝底側副円弧部25の円弧中心角Hmの最小値Hmmin、及び溝底側副円弧部25の曲率半径r2mが、下記の条件C又は条件Dを満足する。
条件C:Hpmin>Hmmin、且つ、r2p<r2m
条件D:Hpmin<Hmmin、且つ、r2p>r2m
【0051】
次に、直動案内装置の使用時におけるレール下溝10及びスライダ下溝11について説明する。直動案内装置の使用時においては、
図11から分かるように、レール下溝10とスライダ下溝11の高さ位置は一致しておらず、ズレがある。このため、直動案内装置の使用時とスライダ下溝11及びスライダ下溝11の位置の測定時とでは、レール下溝10及びスライダ下溝11とボール3との接触状態が異なる。
直動案内装置の使用時においては、レール下溝10の上側フランク20U及びスライダ下溝11の下側フランク20Lがボール3と接触する。すなわち、レール下溝10の上側フランク20Uとスライダ下溝11の下側フランク20Lが主フランクであり、レール下溝10の下側フランク20Lとスライダ下溝11の上側フランク20Uが副フランクである。また、接触角Sは例えば50°であり、この接触角50°は前述の接触角a1や接触角b2とは異なる。
また、直動案内装置の使用時におけるレール上溝10及びスライダ上溝11については、レール上溝10のフランクとスライダ上溝11の上側フランク20Uがボール3と接触し、接触角Sは15°以上75°以下である。
【0052】
以上のような構成の第一実施形態の直動案内装置は、軌道溝10,11とボール3との接触点において作用する荷重の作用線を対称軸として軌道溝10,11の断面形状が線対称ではなく非対称であり、押圧荷重、引張荷重、横荷重のいずれの荷重がスライダに負荷されても、ボール3と軌道溝10,11との接触面圧が低減されてエッジロードが発生しにくい。
なお、荷重を受ける主フランクと荷重を受けない副フランク(レール下溝10、スライダ上溝11、スライダ下溝11の上側フランク20Uと下側フランク20L)が、相互に上下線対称をなす断面形状であったが、非対称をなす断面形状であってもよい。また、案内レール1が備える軌道溝10とスライダ2が備える軌道溝11とがすべて同一の断面形状であってもよい。そうすれば、軌道溝10,11のフランクの断面形状の測定や管理を容易にすることができる。
ただし、案内レール1が備える軌道溝10とスライダ2が備える軌道溝11とで、断面形状が異なっていてもよい。また、副フランクについては、エッジロードの心配が少ないので、断面形状を複合円弧形状ではなく単一の円弧形状としてもよい。断面形状が単一の円弧形状であるフランクを備える軌道溝は、断面形状が複合円弧形状であるフランクを備える軌道溝よりも作製が容易である。
【0053】
〔第一実施形態の実施例〕
第一実施形態の直動案内装置とほぼ同様の構成の直動案内装置に荷重を作用させた場合の、ボールと軌道溝の主フランクとの接触面圧の分布を、計算により求めた(実施例1)。計算に使用した直動案内装置の仕様は、以下の通りである。
案内レールの幅:28mm
ボールの個数 :9個
ボールの直径 :5.556mm
主円弧部の曲率半径r1:2.834mm(ボールの直径の0.51倍)
主円弧部の円弧中心角K:40°(Kp=Km=20°)
溝肩側副円弧部の曲率半径r2p:3.223mm(ボールの直径の0.58倍) 溝底側副円弧部の曲率半径r2m:3.000mm(ボールの直径の0.54倍) 溝肩側副円弧部の円弧中心角Hp:案内レール側9.8°、スライダ側7.5° 溝底側副円弧部の円弧中心角Hm:案内レール側10.0°、スライダ側30.0°
溝肩側副円弧部の円弧中心角Hpの最小値Hpmin:7.5°
溝底側副円弧部の円弧中心角Hmの最小値Hmmin:10.0°
なお、主円弧部の曲率半径r1及び円弧中心角K、並びに、溝肩側副円弧部及び溝底側副円弧部の曲率半径r2p、r2mの上記数値については、案内レール及びスライドに共通する仕様である。また、レール上溝以外のいずれの軌道溝についても、主フランクと副フランクは相互に上下線対称をなす断面形状である。
【0054】
まず第一に、15000Nの引張荷重をスライダに作用させた場合は、スライダが上方に移動するので、接触角が50°から60°に変化する。このとき、ボール1個が受ける荷重は約960Nである。
第二に、10000Nの横荷重をスライダに作用させた場合は、スライダが案内レールの幅方向に移動するので、接触角が50°から38°に変化する。このとき、ボール1個が受ける荷重は約700Nである。
これらの2つのケースについて、接触面圧の分布を、弾性接触理論に基づいたコンピュータープログラムを用いて計算した。引張荷重を作用させた場合の計算結果を
図13のグラフに示し、横荷重を作用させた場合の計算結果を
図14のグラフに示す。両グラフの横軸は、接触楕円上の位置を示しており、両グラフともに右側が溝肩側、左側が溝底側である。
【0055】
引張荷重を作用させた場合には、接触角が大きくなるので、溝肩側でエッジロードが発生しやすい。この実施例1の直動案内装置の仕様においては、溝肩側副円弧部の円弧中心角Hpが小さいスライダ側(Hp=Hpminとなる軌道溝)で、エッジロードが発生しやすい。しかし、実施例1によれば、
図13のグラフから、溝肩側副円弧部によってエッジロードの発生が抑制され、ごく僅かしか発生していないことが分かる。
また、横荷重を作用させた場合には、接触角が小さくなるので、溝底側でエッジロードが発生しやすい。この実施例1の直動案内装置の仕様においては、溝底側副円弧部の円弧中心角Hmが小さいレール側(Hm=Hmminとなる軌道溝)で、エッジロードが発生しやすい。しかし、実施例1によれば、
図14のグラフから、溝底側副円弧部によってエッジロードの発生が抑制され、ごく僅かしか発生していないことが分かる。
【0056】
次に、比較例の直動案内装置に荷重を作用させた場合の、ボールと軌道溝の主フランクとの接触面圧の分布を、実施例1と同様にして計算により求めた(比較例1,2)。計算に使用した比較例1の直動案内装置の仕様は、以下の通りである。
溝肩側副円弧部の曲率半径r2p:3.223mm(ボールの直径の0.58倍) 溝底側副円弧部の曲率半径r2m:3.223mm(ボールの直径の0.58倍) また、計算に使用した比較例2の直動案内装置の仕様は、以下の通りである。
溝肩側副円弧部の曲率半径r2p:3.000mm(ボールの直径の0.54倍) 溝底側副円弧部の曲率半径r2m:3.000mm(ボールの直径の0.54倍) すなわち、比較例1,2ともに、溝肩側副円弧部の曲率半径r2pと溝底側副円弧部の曲率半径r2mを同一としている。これら以外の仕様については、実施例1の直動案内装置と同様である。
【0057】
比較例1において、引張荷重を作用させた場合の計算結果を
図15のグラフに示し、横荷重を作用させた場合の計算結果を
図16のグラフに示す。両グラフの横軸は、接触楕円上の位置を示しており、両グラフともに右側が溝肩側、左側が溝底側である。
引張荷重を作用させた場合には、
図15のグラフから、溝肩側副円弧部によってエッジロードの発生が抑制され、ごく僅かしか発生していないことが分かる。また、横荷重を作用させた場合も、
図16のグラフから、溝底側副円弧部によってエッジロードの発生が抑制されていることが分かる。
【0058】
しかし、溝底側副円弧部の曲率半径r2mが実施例1よりも大きいため、接触面圧が実施例1よりも大きくなっている。具体的には、実施例1では、最大の接触面圧は2.3GPaであったが、比較例1では2.5GPaと増加している。このような接触面圧の増加は、直動案内装置の寿命の低下につながるため、好ましくない。
このように、比較例1では、実施例1ほどの接触面圧低減効果は期待できない。すなわち、スライダに作用する荷重の方向や大きさによっては、直動案内装置の寿命が低下してしまうおそれがある。
【0059】
比較例2において、引張荷重を作用させた場合の計算結果を
図17のグラフに示し、横荷重を作用させた場合の計算結果を
図18のグラフに示す。両グラフの横軸は、接触楕円上の位置を示しており、両グラフともに右側が溝肩側、左側が溝底側である。
横荷重を作用させた場合には、
図18のグラフから、溝肩側副円弧部によってエッジロードの発生が抑制され、ごく僅かしか発生していないことが分かる。しかし、引張荷重を作用させた場合には、
図17のグラフから、実施例1や比較例1に比べて顕著なエッジロードが発生していることが分かる。
【0060】
このように、比較例2では、実施例1ほどの接触面圧低減効果は期待できない。すなわち、スライダに作用する荷重の方向や大きさによっては、直動案内装置の寿命が低下してしまうおそれや、軌道溝に塑性変形が生じるおそれがある。
次に、溝肩側副円弧部及び溝底側副円弧部の曲率半径r2p、r2mの最適値について検討した。溝肩側副円弧部及び溝底側副円弧部の円弧中心角Hp、Hmは、軌道溝の溝肩の面取り寸法や溝底の保持器用逃げ溝(ワイヤー溝)の寸法によって変化するため、円弧中心角Hp、Hmの大きさごとに、溝肩側副円弧部及び溝底側副円弧部の曲率半径r2p、r2mの最適値が異なる。実施例1の直動案内装置において、溝肩側副円弧部の円弧中心角Hpを8°とし、溝肩側副円弧部の曲率半径r2p(ボールの直径に対する比)を種々変更して、ボールと軌道溝の主フランクとの接触面圧の分布を、実施例1と同様にして計算により求めた。その際、スライダに作用する荷重は、引張荷重15000Nとした。
【0061】
溝肩側副円弧部の曲率半径r2pのボールの直径に対する比([溝肩側副円弧部の曲率半径r2p]/[ボールの直径])と最大接触面圧との関係を、
図19のグラフに示す。この結果から、溝肩側副円弧部の円弧中心角Hpが8°の場合は、溝肩側副円弧部の曲率半径r2pのボールの直径に対する比を約0.56とすれば、接触面圧を極小にできることが分かる。
また、溝肩側副円弧部の曲率半径r2pのボールの直径に対する比が0.52の場合の接触面圧の分布を、
図20のグラフに示す。グラフの横軸は、接触楕円上の位置を示しており、両グラフともに右側が溝肩側、左側が溝底側である。
図20のグラフから、溝肩側においてエッジロードが発生していることが分かる。
【0062】
さらに、溝肩側副円弧部の曲率半径r2pのボールの直径に対する比が0.56の場合の接触面圧の分布を、
図21のグラフに示す。
図21のグラフから、エッジロードはほとんど発生しておらず、接触面圧も全体的に低いことが分かる。
さらに、溝肩側副円弧部の曲率半径r2pのボールの直径に対する比が0.9の場合の接触面圧の分布を、
図22のグラフに示す。
図22のグラフから、顕著なエッジロードは発生していないものの、接触面圧が全体的に高いことが分かり、溝肩側副円弧部の曲率半径r2pのボールの直径に対する比が0.56の場合に比べると、接触面圧の分布に問題がある。
【0063】
これらの結果から、溝肩側副円弧部の円弧中心角Hpが8°の場合は、溝肩側副円弧部の曲率半径r2pのボールの直径に対する比を0.56とすることが最適である。
同様の検討を、溝肩側副円弧部の円弧中心角Hpを種々変化させて行った。結果を
図23のグラフに示す。
図23のグラフの横軸は、溝肩側副円弧部の円弧中心角Hpの大きさであり、縦軸は、最適な接触面圧の分布を与える溝肩側副円弧部の曲率半径r2pのボールの直径に対する比である。
図23のグラフから、溝肩側副円弧部の円弧中心角Hpが4°以上6°未満の場合は、溝肩側副円弧部の曲率半径r2pのボールの直径に対する比を0.62超過とすれば、エッジロードの発生と接触面圧の増大を抑制できることが分かる。また、溝肩側副円弧部の円弧中心角Hpが6°以上10°未満の場合は、溝肩側副円弧部の曲率半径r2pのボールの直径に対する比を0.54超過0.62以下とすればよく、溝肩側副円弧部の円弧中心角Hpが10°以上の場合は、溝肩側副円弧部の曲率半径r2pのボールの直径に対する比を0.54以下とすればよいことが分かる。
【0064】
これらの結果は、溝肩側副円弧部についての検討結果であるが、溝底側副円弧部についても同様の結果が得られた。
以上の結果から、溝肩側副円弧部の曲率半径r2p及び溝底側副円弧部の曲率半径r2mの少なくとも一方と主円弧部の曲率半径r1を同一とすることも許容されることが分かる。溝肩側副円弧部の曲率半径r2p及び溝底側副円弧部の曲率半径r2mの少なくとも一方と主円弧部の曲率半径r1を等しくした場合には、曲率半径を主円弧部と等しくした方の副円弧部については、主円弧部と同一の円弧となる。よって、フランクの断面形状は、曲率半径を主円弧部と等しくした方の副円弧部と主円弧部が連続する部分については、複合円弧形状ではなく、単一の円弧形状となる。
【0065】
〔第二実施形態〕
本発明の第二実施形態に係る直動案内装置を、
図24,25を参照しながら説明する。ただし、第二実施形態の直動案内装置の構成及び作用効果は、第一実施形態とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。
第一実施形態においては、レール下溝10、スライダ上溝11、及びスライダ下溝11は、2つのフランクを備える断面形状略V字状のゴシックアーク形状溝であり、レール上溝10のみが単一のフランクを備える溝であったが、第二実施形態においては、
図24に示すように、レール下溝10、レール上溝10、スライダ上溝11、及びスライダ下溝11の全てが単一のフランクを備える溝である。
【0066】
レール下溝10、レール上溝10、スライダ上溝11、及びスライダ下溝11が備えるフランクについて、スライダ上溝11が備えるフランクを例にして説明する。
図25に示すように、スライダ上溝11のフランクは、フランクの幅方向略中央に位置する断面形状円弧状の主円弧部21と、主円弧部21の溝肩側(案内レール1の幅方向の内側)に連続して形成される断面形状円弧状の溝肩側副円弧部23と、主円弧部21の溝底側(案内レール1の幅方向の外側)に連続して形成される断面形状円弧状の溝底側副円弧部25と、を有している。
【0067】
スライダ上溝11の溝肩側の縁部には面取り32(C面取り)が形成され、溝底側の縁部には逃げ部33が形成されており、溝肩側副円弧部23及び溝底側副円弧部25の円弧中心角Hp、Hmの大きさは、溝肩側の面取り32及び溝底側の逃げ部33の寸法によって制限される。なお、面取りの種類は特に限定されるものではなく、溝肩側の面取りをR面取りとしてもよい。その他の構成は、第一実施形態におけるレール上溝10と同様である。このような構成により、第一実施形態の場合と同様の作用効果が奏される。
なお、第一実施形態及び第二実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は第一実施形態及び第二実施形態に限定されるものではない。例えば、主円弧部21、溝肩側副円弧部23、溝底側副円弧部25の円弧中心角K、Hp、Hmや曲率半径r1、r2p、r2mの数値については、上記の各数値は一例であって、上記の各数値に限定されるものではない。