(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
稼働状態として、運転状態と、運転状態よりもエネルギ消費が少ない待機状態と、待機状態よりもエネルギ消費が少ない停止状態を少なくとも取り得る対象装置に対し、アイドリングストップを制御する制御装置であって、
前記対象装置において過去に発生した待機状態の待機継続時間の記録を含む、稼働状態データを取得する稼働状態データ取得部と、
前記対象装置を停止状態から運転状態へと再起動するために必要な再起動エネルギ量の情報と、前記対象装置の待機状態を継続するために必要な待機エネルギ量の情報とを含む、エネルギデータを取得するエネルギデータ取得部と、
前記稼働状態データをもとに、前記対象装置の待機継続時間の確率分布モデルを生成する待機継続時間モデル生成部と、
前記エネルギデータをもとに、前記対象装置の待機状態を継続した場合と比べて、前記対象装置を停止状態にした後に再起動した場合に削減されるエネルギ量を表すエネルギ削減量モデルを生成するエネルギ削減量モデル生成部と、
前記待機継続時間の確率分布モデルと前記エネルギ削減量モデルをもとに、待機継続時間がτのタイミングで待機状態から停止状態に切り替えた場合のエネルギ削減量の期待値を計算し、エネルギ削減量の期待値が最も大きくなるτの値をアイドリングストップ開始タイミングに決定するタイミング決定部と、
前記対象装置が運転状態から待機状態に切り替わってからの経過時間が前記アイドリングストップ開始タイミングの値に到達したタイミングで、前記対象装置を待機状態から停止状態に切り替える制御部と、
を有することを特徴とする制御装置。
生産ライン内の対象工程に設置され、稼働状態として、運転状態と、運転状態よりもエネルギ消費が少ない待機状態と、待機状態よりもエネルギ消費が少ない停止状態を少なくとも取り得る対象装置に対し、アイドリングストップを制御する制御装置であって、
前記対象工程の前又は後の工程に設置された他工程装置において、過去に発生した待機状態の待機継続時間の記録を含む、稼働状態データを取得する稼働状態データ取得部と、
前記対象装置を停止状態から運転状態へと再起動するために必要な再起動エネルギ量の情報と、前記対象装置の待機状態を継続するために必要な待機エネルギ量の情報とを含む、エネルギデータを取得するエネルギデータ取得部と、
前記稼働状態データをもとに、前記他工程装置の待機継続時間の確率分布モデルを生成する待機継続時間モデル生成部と、
前記エネルギデータをもとに、前記対象装置の待機状態を継続した場合と比べて、前記対象装置を停止状態にした後に再起動した場合に削減されるエネルギ量を表すエネルギ削減量モデルを生成するエネルギ削減量モデル生成部と、
前記他工程装置の待機継続時間の確率分布モデルと前記対象装置のエネルギ削減量モデルをもとに、待機継続時間がτのタイミングで待機状態から停止状態に切り替えた場合のエネルギ削減量の期待値を計算し、エネルギ削減量の期待値が最も大きくなるτの値をアイドリングストップ開始タイミングに決定するタイミング決定部と、
前記他工程装置が運転状態から待機状態に切り替わってからの経過時間が前記アイドリングストップ開始タイミングの値を超え、かつ、前記対象装置の稼働状態が待機状態になっている場合に、前記対象装置を待機状態から停止状態に切り替える制御部と、
を有することを特徴とする制御装置。
前記エネルギ削減量モデル生成部は、前記対象装置の再起動にかかる時間ロスをコスト換算して前記再起動エネルギ量に加算し、前記再起動エネルギ量と前記時間ロスの合計を用いて前記エネルギ削減量モデルを生成する
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の制御装置。
稼働状態として、運転状態と、運転状態よりもエネルギ消費が少ない待機状態と、待機状態よりもエネルギ消費が少ない停止状態を少なくとも取り得る対象装置に対し、アイドリングストップを制御するアイドリングストップ制御方法であって、
コンピュータが、前記対象装置において過去に発生した待機状態の待機継続時間の記録を含む、稼働状態データを取得するステップと、
コンピュータが、前記対象装置を停止状態から運転状態へと再起動するために必要な再起動エネルギ量の情報と、前記対象装置の待機状態を継続するために必要な待機エネルギ量の情報とを含む、エネルギデータを取得するステップと、
コンピュータが、前記稼働状態データをもとに、前記対象装置の待機継続時間の確率分布モデルを生成するステップと、
コンピュータが、前記エネルギデータをもとに、前記対象装置の待機状態を継続した場合と比べて、前記対象装置を停止状態にした後に再起動した場合に削減されるエネルギ量
を表すエネルギ削減量モデルを生成するステップと、
コンピュータが、前記待機継続時間の確率分布モデルと前記エネルギ削減量モデルをもとに、待機継続時間がτのタイミングで待機状態から停止状態に切り替えた場合のエネルギ削減量の期待値を計算し、エネルギ削減量の期待値が最も大きくなるτの値をアイドリングストップ開始タイミングに決定するステップと、
コンピュータが、前記対象装置が運転状態から待機状態に切り替わってからの経過時間が前記アイドリングストップ開始タイミングの値に到達したタイミングで、前記対象装置を待機状態から停止状態に切り替えるステップと、
を有することを特徴とするアイドリングストップ制御方法。
生産ライン内の対象工程に設置され、稼働状態として、運転状態と、運転状態よりもエネルギ消費が少ない待機状態と、待機状態よりもエネルギ消費が少ない停止状態を少なくとも取り得る対象装置に対し、アイドリングストップを制御するアイドリングストップ制御方法であって、
コンピュータが、前記対象工程の前又は後の工程に設置された他工程装置において、過去に発生した待機状態の待機継続時間の記録を含む、稼働状態データを取得するステップと、
コンピュータが、前記対象装置を停止状態から運転状態へと再起動するために必要な再起動エネルギ量の情報と、前記対象装置の待機状態を継続するために必要な待機エネルギ量の情報とを含む、エネルギデータを取得するステップと、
コンピュータが、前記稼働状態データをもとに、前記他工程装置の待機継続時間の確率分布モデルを生成するステップと、
コンピュータが、前記エネルギデータをもとに、前記対象装置の待機状態を継続した場合と比べて、前記対象装置を停止状態にした後に再起動した場合に削減されるエネルギ量を表すエネルギ削減量モデルを生成するステップと、
コンピュータが、前記他工程装置の待機継続時間の確率分布モデルと前記対象装置のエネルギ削減量モデルをもとに、待機継続時間がτのタイミングで待機状態から停止状態に切り替えた場合のエネルギ削減量の期待値を計算し、エネルギ削減量の期待値が最も大きくなるτの値をアイドリングストップ開始タイミングに決定するステップと、
コンピュータが、前記他工程装置が運転状態から待機状態に切り替わってからの経過時間が前記アイドリングストップ開始タイミングの値を超え、かつ、前記対象装置の稼働状態が待機状態になっている場合に、前記対象装置を待機状態から停止状態に切り替えるステップと、
を有することを特徴とするアイドリングストップ制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであって、アイドリングストップの適切なタイミングを自動で決定するための技術を提供することを目的とする。また本発明の他の目的は、アイドリングストップ制御を自動化するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、稼働状態として、運転状態と、運転状態よりもエネルギ消費が少ない待機状態と、待機状態よりもエネルギ消費が少ない停止状態を少なくとも取り得る対象装置に対し、アイドリングストップを制御する制御装置であって、前記対象装置において過去に発生した待機状態の待機継続時間の記録を含む、稼働状態データを取得する稼働状態データ取得部と、前記対象装置を停止状態から運転状態へと再起動するために必要な再起動エネルギ量の情報と、前記対象装置の待機状態を継続するために必要な待機エネルギ量の情報とを含む、エネルギデータを取得するエネルギデータ取得部と、前記稼働状態データをもとに、前記対象装置の待機継続時間の確率分布モデルを生成する待機継続時間モデル生成部と、前記エネルギデータをもとに、前記対象装置の待機状態を継続した場合と比べて、前記対象装置を停止状態にした後に再起動した場合に削減されるエネルギ量を表すエネルギ削減量モデルを生成するエネルギ削減量モデル生成部と、前記待機継続時間の確率分布モデルと前記エネルギ削減量モデルをもとに、待機継続時間がτのタイミングで待機状態から停止状態に切り替えた場合のエネルギ削減量の期待値を計算し、エネルギ削減量の期待値が最も大きくなるτの値をアイドリングストップ開始タイミングに決定するタイミング決定部と、前記対象装置が運転状態から待機状態に切り替わってからの経過時間が前記アイドリングストップ開始タイミングの値に到達したタイミングで、前記対象装置を待機状態から停止状態に切り替える制御部と、を有することを特徴とする制御装置である。
【0009】
請求項1に係る発明によれば、対象装置の特性(待機継続時間の長さ、再起動エネルギ量と待機エネルギ量のバランス)に応じて、エネルギ削減効果を最も見込めるアイドリングストップ開始タイミングを自動で決定することができる。そして、決定したアイドリングストップ開始タイミングを制御に利用することで、エネルギ削減効果を最も見込めるタイミングでアイドリングストップを自動で開始することができる。したがって、作業者がアイドリングストップを実施するか否かを判断したり、アイドリングストップの開始を指示したりする必要がなくなり、アイドリングストップ制御の自動化を図ることができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、生産ライン内の対象工程に設置され、稼働状態として、運転状態と、運転状態よりもエネルギ消費が少ない待機状態と、待機状態よりもエネルギ消費が少ない停止状態を少なくとも取り得る対象装置に対し、アイドリングストップを制御する制御装置であって、前記対象工程の前又は後の工程に設置された他工程装置において、過去に発生した待機状態の待機継続時間の記録を含む、稼働状態データを取得する稼働状態データ取得部と、前記対象装置を停止状態から運転状態へと再起動するために必要な再起動エネルギ量の情報と、前記対象装置の待機状態を継続するために必要な待機エネルギ量の情報とを含む、エネルギデータを取得するエネルギデータ取得部と、前記稼働状態データをもとに、前記他工程装置の待機継続時間の確率分布モデルを生成する待機継続時間モデル生成部と、前記エネルギデータをもとに、前記対象装置の待機状態を継続した場合と比べて、前記対象装置を停止状態にした後に再起動した場合に削減されるエネルギ量を表すエネルギ削減量モデルを生成するエネルギ削減量モデル生成部と、前記他工程装置の待機継続時間の確率分布モデルと前記対象装置のエネルギ削減量モデルをもとに、待機継続時間がτのタイミングで待機状態から停止状態に切り替えた場合のエネルギ削減量の期待値を計算し、エネルギ削減量の期待値が最も大きくなるτの値をアイドリングストップ開始タイミングに決定するタイミング決定部と、前記他工程装置が運転状態から待機状態に切り替わってからの経過時間が前記アイドリングストップ開始タイミングの値を超え、かつ、前記対象装置の稼働状態が待機状態になっている場合に、前記対象装置を待機状態から停止状態に切り替える制御部と、を有することを特徴とする制御装置である。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、対象装置の特性(再起動エネルギ量と待機エネルギ量の
バランス)と他工程装置の特性(待機継続時間の長さ)に応じて、エネルギ削減効果を最も見込めるアイドリングストップ開始タイミングを自動で決定することができる。そして、決定したアイドリングストップ開始タイミングを制御に利用することで、エネルギ削減効果を最も見込めるタイミングでアイドリングストップを自動で開始することができる。したがって、作業者がアイドリングストップを実施するか否かを判断したり、アイドリングストップの開始を指示したりする必要がなくなり、アイドリングストップ制御の自動化を図ることができる。さらに、他工程が待機となってからの経過時間によりアイドリングストップの開始を判断することで、対象工程での待機ロスや無駄なアイドリングストップを可及的に低減することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記タイミング決定部が、前記待機継続時間の確率分布モデルと前記エネルギ削減量モデルを畳み込み積分することにより、前記エネルギ削減量の期待値を計算することを特徴とする。請求項3に係る発明によれば、エネルギ削減量の期待値として妥当な値を得ることができ、アイドリングストップ制御の信頼性向上が期待できる。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記エネルギ削減量モデル生成部が、前記対象装置の再起動にかかる時間ロスをコスト換算して前記再起動エネルギ量に加算し、前記再起動エネルギ量と前記時間ロスの合計を用いて前記エネルギ削減量モデルを生成することを特徴とする。請求項4に係る発明のエネルギ削減量モデルを用いることにより、エネルギ損失だけでなく、時間的な損失をも考慮した、より好適なアイドリングストップ開始タイミングを決定することができる。
【0014】
請求項5に係る発明は、前記再起動エネルギ量が、前記対象装置を停止状態にしてからの経過時間の関数で定義されることを特徴とする。請求項5に係る発明のエネルギ削減量モデルを用いることにより、対象装置の実際の再起動コストを考慮した、より好適なアイドリングストップ開始タイミングを決定することができる。
【0015】
請求項6に係る発明は、前記待機継続時間モデル生成部が、対数正規分布モデルを用いて待機継続時間の確率分布モデルを生成することを特徴とする。対数正規分布モデルを用いることで、突発的なトラブルが原因で発生する待機状態の待機継続時間の分布をうまく表現することができる。
【0016】
請求項7に係る発明は、前記待機継続時間モデル生成部が、混合分布モデルを用いて待機継続時間の確率分布モデルを生成することを特徴とする。待機状態に陥る原因が複数あるような場合などには、混合分布モデルを用いることで待機継続時間の分布をうまく表現することができる。
【0017】
請求項8に係る発明は、前記タイミング決定部が、前記アイドリングストップ開始タイミングの値に、他工程と対象工程のあいだの工程間時間差を考慮した値を加算することを特徴とする。工程間時間差を考慮することにより、他工程と対象工程のあいだの関係性に応じたより適切なアイドリングストップ制御が可能となる。
【0018】
請求項9に係る発明は、前記対象装置が、生産ライン内の対象工程に設置された装置であり、前記タイミング決定部が、前記対象装置の再起動に必要な時間と、前記対象工程の前工程でワークの処理を開始してから当該ワークが前記対象工程に投入されるまでにかかる時間とから、前記対象装置のアイドリングストップ復帰タイミングの値を決定し、前記制御部が、前記前工程の装置が運転状態に復帰してからの経過時間が前記アイドリングストップ復帰タイミングに到達したタイミングで、前記対象装置の再起動を開始することを特徴とする。請求項9に係る発明によれば、前工程からのワークの到着に合わせて対象工
程の装置の再起動を完了させておくことができるため、アイドリングストップ復帰時の時間ロスを可及的に小さくでき、ラインの生産効率を向上することができる。
【0019】
請求項10に係る発明は、前記対象装置が、生産ライン内の対象工程に設置された装置であり、前記タイミング決定部が、前記対象装置の再起動に必要な時間と、前記対象工程でワークの処理を開始してから当該ワークが前記対象工程の後工程に投入されるまでにかかる時間と、前記後工程の装置の再起動に必要な時間とから、前記対象装置のアイドリングストップ復帰タイミングの値を決定し、前記制御部が、前記後工程の装置が再起動を開始してからの経過時間が前記アイドリングストップ復帰タイミングに到達したタイミングで、前記対象装置の再起動を開始することを特徴とする。請求項10に係る発明によれば、後工程が生産可能状態となるタイミングに合わせて対象工程からワークを送り出すことができるため、アイドリングストップ復帰時の時間ロスを可及的に小さくでき、ラインの生産効率を向上することができる。
【0020】
請求項11に係る発明は、稼働状態として、運転状態と、運転状態よりもエネルギ消費が少ない待機状態と、待機状態よりもエネルギ消費が少ない停止状態を少なくとも取り得る対象装置に対し、アイドリングストップを制御するアイドリングストップ制御方法であって、コンピュータが、前記対象装置において過去に発生した待機状態の待機継続時間の記録を含む、稼働状態データを取得するステップと、コンピュータが、前記対象装置を停止状態から運転状態へと再起動するために必要な再起動エネルギ量の情報と、前記対象装置の待機状態を継続するために必要な待機エネルギ量の情報とを含む、エネルギデータを取得するステップと、コンピュータが、前記稼働状態データをもとに、前記対象装置の待機継続時間の確率分布モデルを生成するステップと、コンピュータが、前記エネルギデータをもとに、前記対象装置の待機状態を継続した場合と比べて、前記対象装置を停止状態にした後に再起動した場合に削減されるエネルギ量を表すエネルギ削減量モデルを生成するステップと、コンピュータが、前記待機継続時間の確率分布モデルと前記エネルギ削減量モデルをもとに、待機継続時間がτのタイミングで待機状態から停止状態に切り替えた場合のエネルギ削減量の期待値を計算し、エネルギ削減量の期待値が最も大きくなるτの値をアイドリングストップ開始タイミングに決定するステップと、コンピュータが、前記対象装置が運転状態から待機状態に切り替わってからの経過時間が前記アイドリングストップ開始タイミングの値に到達したタイミングで、前記対象装置を待機状態から停止状態に切り替えるステップと、を有することを特徴とするアイドリングストップ制御方法である。
【0021】
請求項11に係る発明によれば、対象装置の特性(待機継続時間の長さ、再起動エネルギ量と待機エネルギ量のバランス)に応じて、エネルギ削減効果を最も見込めるアイドリングストップ開始タイミングを自動で決定することができる。そして、決定したアイドリングストップ開始タイミングを制御に利用することで、エネルギ削減効果を最も見込めるタイミングでアイドリングストップを自動で開始することができる。したがって、作業者がアイドリングストップを実施するか否かを判断したり、アイドリングストップの開始を指示したりする必要がなくなり、アイドリングストップ制御の自動化を図ることができる。
【0022】
請求項12に係る発明は、生産ライン内の対象工程に設置され、稼働状態として、運転状態と、運転状態よりもエネルギ消費が少ない待機状態と、待機状態よりもエネルギ消費が少ない停止状態を少なくとも取り得る対象装置に対し、アイドリングストップを制御するアイドリングストップ制御方法であって、コンピュータが、前記対象工程の前又は後の工程に設置された他工程装置において、過去に発生した待機状態の待機継続時間の記録を含む、稼働状態データを取得するステップと、コンピュータが、前記対象装置を停止状態から運転状態へと再起動するために必要な再起動エネルギ量の情報と、前記対象装置の待
機状態を継続するために必要な待機エネルギ量の情報とを含む、エネルギデータを取得するステップと、コンピュータが、前記稼働状態データをもとに、前記他工程装置の待機継続時間の確率分布モデルを生成するステップと、コンピュータが、前記エネルギデータをもとに、前記対象装置の待機状態を継続した場合と比べて、前記対象装置を停止状態にした後に再起動した場合に削減されるエネルギ量を表すエネルギ削減量モデルを生成するステップと、コンピュータが、前記他工程装置の待機継続時間の確率分布モデルと前記対象装置のエネルギ削減量モデルをもとに、待機継続時間がτのタイミングで待機状態から停止状態に切り替えた場合のエネルギ削減量の期待値を計算し、エネルギ削減量の期待値が最も大きくなるτの値をアイドリングストップ開始タイミングに決定するステップと、コンピュータが、前記他工程装置が運転状態から待機状態に切り替わってからの経過時間が前記アイドリングストップ開始タイミングの値を超え、かつ、前記対象装置の稼働状態が待機状態になっている場合に、前記対象装置を待機状態から停止状態に切り替えるステップと、を有することを特徴とするアイドリングストップ制御方法である。
【0023】
請求項12に係る発明によれば、対象装置の特性(再起動エネルギ量と待機エネルギ量のバランス)と他工程装置の特性(待機継続時間の長さ)に応じて、エネルギ削減効果を最も見込めるアイドリングストップ開始タイミングを自動で決定することができる。そして、決定したアイドリングストップ開始タイミングを制御に利用することで、エネルギ削減効果を最も見込めるタイミングでアイドリングストップを自動で開始することができる。したがって、作業者がアイドリングストップを実施するか否かを判断したり、アイドリングストップの開始を指示したりする必要がなくなり、アイドリングストップ制御の自動化を図ることができる。さらに、他工程が待機となってからの経過時間によりアイドリングストップの開始を判断することで、対象工程での待機ロスや無駄なアイドリングストップを可及的に低減することができる。
【0024】
請求項13に係る発明は、請求項11又は12に記載のアイドリングストップ制御方法の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラムである。
【0025】
なお、この明細書において、「エネルギ」には、生産設備に直接的に供給されるエネルギ(電力、熱、力など)だけでなく、生産設備を動作させるために間接的に必要となるエネルギ、例えば、生産設備で利用される物質(雰囲気ガス、冷却液、洗浄液、触媒など)を製造、運搬、貯蔵、供給するために必要なエネルギなど、を含んでもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、アイドリングストップの適切なタイミングを自動で決定することができる。また、本発明によれば、アイドリングストップ制御を自動化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態に係る制御装置は、対象装置の省エネルギ制御(アイドリングストップ制御)を行うための装置である。この制御装置は、エネルギを消費して仕事を行う装置であり、かつ、稼働状態として少なくとも運転状態/待機状態/停止状態(エネルギ消費量の関係は、運転状態>待機状態>停止状態)を取り得る装置であれば、いかなる種類のものを対象装置とすることができる。以下の実施形態では、一例として、本制御装置をプリント基板の表面実装ラインのリフロー炉の省エネルギ制御に適用した例を説明する。
【0029】
<表面実装ライン>
まず、
図1を参照して、プリント基板の表面実装ラインについて説明する。
図1の表面実装ラインは、上流側から順に、ローダ100、ハンダ印刷機110、マウンタ120、リフロー炉140、反転機150、アンローダ160から構成されている。ローダ100によってワークであるプリント基板がハンダ印刷機110に投入され、ハンダ印刷機110によってプリント基板上のランドにハンダペーストが印刷される。その後、マウンタ120によって電子部品がプリント基板上にマウントされた後、プリント基板はリフロー炉140に送られる。リフロー炉140ではハンダペーストを加熱溶融した後、冷却し、電子部品をはんだ接合する。リフロー後の部品実装基板は反転機150及びアンローダ160を介して他の工程あるいはストッカに送られる。
【0030】
ここで、ハンダ印刷機110、マウンタ120、リフロー炉140などの生産設備は、それぞれ、入口と出口にワークの通過を検知するセンサ110I、110O、120I、120O、140I、140Oを有している。これらのセンサの検知結果は、例えば、各生産設備のタイミング制御、生産個数のカウント、エラーやワーク滞留の検知などに利用される。
【0031】
また、ハンダ印刷機110、マウンタ120、リフロー炉140は、それぞれ、状態表示灯110L、120L、140Lを有している。状態表示灯は、各々の生産設備の稼働状態を周囲に(作業者等に)提示するためのランプであり、設備の動作モード(運転/待機/停止)、設備の状態(正常/異常/作業中)、停止原因(立ち上げ/段取り替え/前工程滞留/後工程滞留)などの情報を、色や点滅パターンなどで表示する。
【0032】
制御装置200は、リフロー炉140の制御を担う装置である。リフロー炉140には、基板を加熱するためのヒータ、炉内に不活性ガス(窒素ガスなど)を導入するバルブ、炉内のガスを撹拌するためのファン、基板を冷却するためのチラーなどが設けられている。制御装置200は、これらのヒータ、バルブ、ファン、チラーなどを適宜制御し、リフロー炉140を動作モードに応じた所期の状態に制御する役割を担う。
【0033】
具体的には、本実施形態のリフロー炉140は、動作モード(稼働状態)として、運転状態/待機状態/停止状態の3つのモードを有している。「運転状態」とは、現にワークの生産を行っている状態である。運転状態の間は、炉内の温度や酸素濃度、チラーの冷却
温度などが、安定して生産が可能な状態に維持される。「待機状態」とは、生産可能であるが何らかの原因(例えばワークの供給が無いなど)により生産が行われていない状態である。待機状態の間も、炉内温度、酸素濃度、冷却温度などが直ぐに生産を再開可能な状態に維持されるため、運転状態で消費されるエネルギ量よりは少ないものの、ある程度の待機エネルギを消費する。「停止状態」とは、リフロー炉140が停止(生産不可)の状態である。例えば、ヒータやチラーへの電力供給を停止又は低下したり、炉内への不活性ガスの導入を停止又は低下することで、エネルギの消費をゼロ又は最も少ない状態にする。なお、エネルギ消費の典型は電力消費であるが、ここでは不活性ガスの消費もエネルギ消費の一つに捉える。ガスの消費量が減れば、ガスの製造、運搬、貯蔵、供給などに必要なエネルギやコストを削減できるからである。同じようなものとして、生産設備に供給する圧縮エア、温水、冷水、冷却液、洗浄液、触媒などがある。
【0034】
なお、
図1では制御装置200とリフロー炉140を別装置として示したが、リフロー炉140内のマイコンや制御回路が制御装置200の機能を担ってもよい。あるいは、制御装置200が、リフロー炉140だけでなく、他の生産設備(ハンダ印刷機110、マウンタ120など)の制御を担ってもよい。
【0035】
[第1実施形態]
<制御装置>
図2は、本発明の第1実施形態に係る制御装置200が提供する機能のうち、アイドリングストップ制御に関する機能を模式的に示すブロック図である。制御装置200は、稼働状態データ取得部210、エネルギデータ取得部220、待機継続時間モデル生成部230、エネルギ削減量モデル生成部240、タイミング決定部250、制御部260、データ記憶部270を有する。
【0036】
稼働状態データ取得部210は、対象装置であるリフロー炉140の過去一定期間分の稼働状態を記録したデータを取得する機能である。本実施形態では、リフロー炉140で過去に発生した複数回の待機状態の継続時間を統計処理するため、各回の待機継続時間の記録を含むデータを取得する。データ形式はどのようなものでもよい。たとえば、リフロー炉140の状態表示灯の状態値(ステイタス)と状態変化が発生した時刻(変化点)を時系列に記録したデータなどが想定される。取得した稼働状態データは、データ記憶部270に格納される。
【0037】
エネルギデータ取得部220は、リフロー炉140のエネルギ消費量に関する情報(エネルギデータ)を取得する機能である。本実施形態では、少なくとも、リフロー炉140を停止状態から運転状態へと再起動するために必要なエネルギ量(「再起動エネルギ量」と呼ぶ)の情報と、リフロー炉140の待機状態を継続するために必要な単位時間当たりのエネルギ量(「待機エネルギ量」と呼ぶ)の情報を、エネルギデータとして取得する。取得したエネルギデータは、データ記憶部270に格納される。
【0038】
待機継続時間モデル生成部230は、リフロー炉140の稼働状態データを統計処理することによって、リフロー炉140の待機継続時間の確率分布モデルを生成する機能である。エネルギ削減量モデル生成部240は、リフロー炉140のエネルギデータ(再起動エネルギ量及び待機エネルギ量)をもとに、アイドリングストップを行った場合に削減されるエネルギ量を表すエネルギ削減量モデルを生成する機能である。タイミング決定部250は、待機継続時間の確率分布モデルとエネルギ削減量モデルをもとに、アイドリングストップによるエネルギ削減量の期待値が最も大きくなるタイミングを決定する機能である。待機継続時間モデル生成部230、エネルギ削減量モデル生成部240、タイミング決定部250の機能の詳細については後述する。
【0039】
制御部260は、リフロー炉140の動作モードの切り替え、すなわち、運転状態/待機状態/停止状態の切り替えを制御する機能である。運転状態から待機状態への切り替えは、基本的に割り込み命令に従って実行される。割り込み命令は、たとえば、作業者により停止スイッチが操作された場合、予め設定された時刻(昼休みやシフト交替の開始時刻)になった場合、ワークの投入が途絶えた場合、トラブルが発生した場合などに発生する。待機状態から停止状態への切り替え(つまりアイドリングストップの開始)は、タイミング決定部250で決定されたアイドリングストップ開始タイミングに従って制御される(詳細は後述する)。待機状態又は停止状態からの運転状態への切り替え(つまりアイドリングストップの復帰)は、割り込み命令に従って制御される。この割り込み命令は、たとえば、作業者により運転スイッチが操作された場合、予め設定された時刻(昼休みやシフト交替の終了時刻)になった場合、ワークの投入を検知した場合などに発生する。
【0040】
以上述べた制御装置200は、CPU(中央演算処理装置)、メモリ、補助記憶装置(HDD、SSDなど)、ネットワークIF、センサIF、入力装置(キーボード、マウス、タッチパネルなど)などを備える汎用的なパーソナルコンピュータにより構成することができる。補助記憶装置には、アイドリングストップ制御に関わる機能を実現するためのプログラムが格納されている。
図2に示した機能は、補助記憶装置に格納されたプログラムをCPUが読み込み実行することにより実現されるものである。ただし、これらの機能のうちの一部又は全部をASICやFPGAなどで実現することもできる。あるいは、複数のコンピュータによる分散処理を行ったり、クラウドコンピューティングにより機能の一部をネットワーク上のサーバで実行することもできる。
【0041】
<アイドリングストップ開始タイミングの決定>
図3のフローチャートに沿って、待機継続時間モデル生成部230、エネルギ削減量モデル生成部240、及びタイミング決定部250の具体的な処理の一例を説明する。ただし、リフロー炉140の稼働状態データとエネルギデータはすでにデータ記憶部270内に格納されているものとする。
【0042】
まず、待機継続時間モデル生成部230は、データ記憶部270から一定期間内(たとえば直近数カ月以内)に発生したリフロー炉140の待機継続時間の記録を読み込む(ステップS100)。
図4(A)は待機継続時間の分布を示すヒストグラムである。横軸が待機継続時間[秒]であり、縦軸が頻度[回数]を示している。
図4(A)の例では、100秒〜300秒程度の待機が特に多く、それより長くなるに従い頻度が減っていき、1500秒を超えるものはほとんど無い、という傾向が分かる。このような待機継続時間の分布は、設備ごとに固有の傾向を示す。なお、
図4(A)の例で0秒〜100秒の頻度が低いのは、作業者がトラブルを発見し停止ボタンを押すまでのタイムラグが原因と推定できるので、以後の処理では100秒未満のデータを除外した分布を用いてもよい。
【0043】
待機継続時間モデル生成部230は、
図4(A)に示したような待機継続時間のデータをもとに、待機継続時間の確率分布モデルを生成する(ステップS101)。モデル化にはどのような手法を用いてもよい。たとえば、
図4(A)のような分布形状であれば、対数正規分布、指数分布、Weibull分布、ガンマ分布などでモデル化することができる。あるいは、待機継続時間のヒストグラムを正規化(確率密度分布化)したものや、ヒストグラムを平滑化(窓掛け、重み付き移動平均)したものを、そのまま確率分布モデルとして利用することもできる。さらには、複数の分布を重ね合わせた混合分布モデルを用いることもできる。
図4(B)は、対数正規分布を用いてモデル化した例である。横軸が待機継続時間t[秒]、縦軸が確率密度f(t)を表す。また
図4(C)は、2つの対数正規分布からなる混合分布モデルをフィットさせた例である。待機状態に陥る原因が複数あるような場合(たとえば、前工程で複数種類の部品を用いており、種類ごとに部品切れの頻度が異なる場合)などには、混合分布モデルによるモデル化を用いる方が好ましい。
【0044】
次に、エネルギ削減量モデル生成部240が、データ記憶部270からエネルギデータを読み込む(ステップS102)。そして、エネルギ削減量モデル生成部240は、待機状態を継続するのにかかる待機エネルギ量E
B(t)から再起動エネルギ量E
Lを減ずることで、エネルギ削減量モデルE(t)=E
B(t)−E
Lを生成する(ステップS103)。このE(t)は、時間tのあいだリフロー炉140の待機状態を継続した場合(アイドリングストップを実施しなかった場合;
図5(A)上段参照)と比べて、リフロー炉140を停止状態にした後に再起動した場合(アイドリングストップを実施した場合;
図5(A)下段参照)に削減されるエネルギ量を表している。
図5(B)にエネルギ削減量モデルE(t)の一例を示す。横軸がアイドリングストップの継続時間t[秒]、縦軸がエネルギ量[Wh]を示す。この例では、5秒が損益分岐点であり、5秒より短い時間ではアイドリングストップを実施することで逆にエネルギ消費が増えてしまうことが分かる。
【0045】
次に、タイミング決定部240が、待機継続時間の確率分布モデルf(t)とエネルギ削減量モデルE(t)をもとに、最適なアイドリングストップ開始タイミングを決定(推定)する(ステップS104)。具体的には、アイドリングストップを時刻τで開始したときのエネルギ削減量の期待値(見込み)は、
【数1】
のように、f(t)とE(t)の区間[τ〜+∞]についての畳み込み積分で求めることができる。τの値を変えながらエネルギ削減量の期待値を計算しプロットしたものが
図6(A)である。横軸がアイドリングストップ開始タイミングτ、縦軸がエネルギ削減量の期待値を表す。タイミング決定部240は、エネルギ削減量の期待値が最も大きくなるτの値(
図6(A)のτ
S)をアイドリングストップ開始タイミングの最適値に選ぶ。ここで決定されたアイドリングストップ開始タイミングの最適値τ
Sは、アイドリングストップ制御のパラメータとして制御部260に設定される。
【0046】
以上の処理によって、対象装置であるリフロー炉140の特性(待機継続時間の長さ、再起動エネルギ量と待機エネルギ量のバランス)に応じて、エネルギ削減効果を最も見込めるアイドリングストップ開始タイミングを自動で決定することができる。なお、
図6(B)のようにエネルギ削減量の期待値が正になるτの値が存在しない場合には、エネルギ削減効果を見込めないので、アイドリングストップは行わない方がよい。
【0047】
<アイドリングストップ制御>
図7のフローチャートに沿って、制御部260のアイドリングストップ制御の流れを説明する。
【0048】
まず、制御部260は、待機継続時間のカウント値をリセットする(ステップS200)。そして、制御部260は、対象装置であるリフロー炉140の現在の動作モード(稼働状態)を確認し(ステップS201)、動作モードが「待機状態」であれば(ステップS202;YES)、待機継続時間をカウントアップする(ステップS203)。待機継続時間のカウント値は、リフロー炉140が運転状態から待機状態に切り替わってからの経過時間を表している。待機状態が継続するあいだ待機継続時間のカウントアップが続き、待機継続時間のカウント値がアイドリングストップ開始タイミングの値τ
Sに到達したタイミングで(ステップS204;YES)、リフロー炉140を待機状態から停止状態に切り替える(ステップS205)。
【0049】
以上のようなアイドリングストップ制御により、エネルギ削減効果を最も見込めるタイミングでアイドリングストップを自動で開始することができる。したがって、作業者がアイドリングストップを実施するか否かを判断したり、アイドリングストップの開始を指示したりする必要がなくなり、アイドリングストップ制御の自動化を図ることができる。
【0050】
<エネルギ削減量モデルの他の例>
図5(A)及び
図5(B)に示したエネルギ削減量モデルでは、再起動エネルギ量を定数E
Lと仮定したが、再起動エネルギ量をアイドリングストップ継続時間tの関数E
L(t)で定義してもよい。
図8(A)に示すように、アイドリングストップの時間が短い場合(上段)には、長い場合(下段)と比べて、再起動に必要なエネルギが少なくて済む場合があるからである。リフロー炉140の例でいうと、炉内が冷め切る前に再起動が行われれば炉内を生産可能温度に到達させるまでの再加熱時間が短くて済むし、炉内雰囲気が入れ替わる前に(酸素濃度が上がる前に)再起動が行われれば導入する不活性ガスの量が少なくて済む。
図8(B)は、このように時間tで変動する再起動エネルギ量E
L(t)を考慮した、非線形なエネルギ削減量モデルE(t)の例である。このようなモデルを用いることにより、対象装置の実際の再起動コストを考慮した、より好適なアイドリングストップ開始タイミングを決定することができる。
【0051】
また、前述したエネルギ削減量モデルでは、再起動にかかるエネルギのみを損失とみなしたが、これに加えて再起動にかかる時間も損失とみなしモデルに組み込んでもよい。すなわち、アイドリングストップにより発生する再起動時間ロスをコスト換算して、再起動エネルギ量に上積みするのである。
図9(A)は、待機エネルギ量E
B(t)、再起動エネルギ量と再起動時間ロスの合計であるエネルギ損失E
L´と、それらから計算したエネルギ削減量モデルE(t)=E
B(t)−E
L´の例を示している。このようなモデルを用いることにより、エネルギ損失だけでなく、時間的な損失をも考慮した、より好適なアイドリングストップ開始タイミングを決定することができる。なお、再起動時間ロスをモデルに組み込むのではなく、
図9(B)のように、エネルギ削減量の期待値のグラフとともに、アイドリングストップに伴う時間ロスの合計を表すグラフを画面表示し、作業者に両者の損益を比較考量させながら、アイドリングストップ開始タイミングを指定させるようにしてもよい。
【0052】
また、現場改善活動や現場で起きる現象をコストに置き換えて、エネルギ削減量モデルに組み込むこともできる。
図10(A)に一例を示すように、設備の経年劣化に伴う待機エネルギ量の増加や、設備のメンテナンス実施による待機エネルギ量の減少は、E
B(t)の傾きの変化としてモデル化することができる。また、設備の改善や運用の改善(たとえばリフロー炉の保温や排気の改善)を行うことで再起動エネルギ量の省エネ化を図ればE
Lが減少する。あるいは、アイドリングストップで設備を一旦停止すると環境が不安定化するので品質に影響を与える可能性があるが、かかるリスクはE
Lの増大としてモデルに組み込むことができる。このように様々な要因をモデルに組み込むことで、より総合的な観点からアイドリングストップ開始タイミングの最適値を決めることができる。
【0053】
なお、上記機能は、設備改善や運用改善の効果のシミュレーションに利用することも可能である。たとえば、改善活動により見込まれる待機エネルギ量又は再起動エネルギ量の減少をモデルに反映した上で、エネルギ削減量の期待値を計算すると、
図10(B)のように、アイドリングストップによるエネルギ削減効果に与える影響をシミュレーションできる。このようなシミュレーション結果を作業者に提示することで、改善活動の効果を事前に確認することができる。
【0054】
[第2実施形態]
第1実施形態では、対象装置自身の待機継続時間の統計データをもとにアイドリングストップ開始タイミングを決定したのに対し、第2実施形態では、対象装置の前工程又は後工程での待機継続時間の統計データをもとにアイドリングストップ開始タイミングを決定すると共に、対象工程(自工程)だけでなく前工程又は後工程の稼働状況をも監視しながらアイドリングストップ制御を行う。前工程や後工程で待機が発生すると、対象工程(対象装置が設置された工程)へのワークの投入が途絶えたり、対象工程の下流でワークの滞留が発生したりするため、対象工程も待機状態にせざるを得ない場合がある。本実施形態では、このような工程間の関連性を考慮することで、より適切なアイドリングストップ制御を実現する。
【0055】
以下では、一例として、前工程にあるマウンタ120の待機継続時間の統計データを用いてリフロー炉のアイドリングストップ開始タイミングを決定する方法について説明する。なお、基本的な構成及び処理は第1実施形態と同様のため、重複する説明は割愛する。
【0056】
制御装置200(
図2参照)の稼働状態データ取得部210は、マウンタ120の過去一定期間分の稼働状態を記録したデータを取得する。マウンタ120で過去に発生した待機状態の継続時間を記録したデータ、たとえば、マウンタ120の状態表示灯の状態値(ステイタス)と状態変化が発生した時刻(変化点)を時系列に記録したデータなどが取得される。取得した稼働状態データは、データ記憶部270に格納される。
【0057】
<アイドリングストップ開始タイミングの決定>
図11のフローチャートに沿って、待機継続時間モデル生成部230、エネルギ削減量モデル生成部240、及びタイミング決定部250の具体的な処理の一例を説明する。ただし、マウンタ120の稼働状態データとリフロー炉140のエネルギデータはすでにデータ記憶部270内に格納されているものとする。
【0058】
まず、待機継続時間モデル生成部230は、データ記憶部270から一定期間内(たとえば直近数カ月以内)に発生したマウンタ120の待機継続時間の記録を読み込む(ステップS300)。待機継続時間モデル生成部230は、待機継続時間のデータをもとに、待機継続時間の確率分布モデルを生成する(ステップS301)。ここまでの処理は、モデル生成に用いる待機継続時間のデータが前工程のものである以外は、第1実施形態の処理と同じである。
【0059】
その後、第1実施形態と同様にして、エネルギ削減量モデル生成部240が、リフロー炉140のエネルギデータをもとにエネルギ削減量モデルを生成する(ステップS302、S303)。そして、タイミング決定部240が、マウンタ120の待機継続時間の確率分布モデルf(t)とリフロー炉140のエネルギ削減量モデルE(t)をもとに、リフロー炉140のエネルギ削減量の期待値が最も大きくなるアイドリングストップ開始タイミングの値τを推定する(ステップS304)。
【0060】
ここで、前工程と対象工程のあいだの工程間時間差を考慮するとよい。マウンタ120とリフロー炉140のあいだのコンベア上にワークが残っている可能性があるため、マウンタ120が待機又は停止してから少なくとも一定時間(たとえば、マウンタ120の出口のワークがリフロー炉140に投入されるまでの時間)はリフロー炉140を稼働させておかなければならないからである。そこで、タイミング決定部240は、ステップS304で求めた値τに、前工程と対象工程のあいだの工程間時間差を考慮した値dを加算した値τ
S(=τ+d)をアイドリングストップ開始タイミングの最適値に選ぶ(ステップS305)。この値T
Sが、アイドリングストップ制御のパラメータとして制御部260に設定される。
【0061】
以上の処理によって、対象装置であるリフロー炉140の特性(再起動エネルギ量と待機エネルギ量のバランス)と、前工程にあるマウンタ120の特性(待機継続時間の長さ)と、工程間の関係性に応じて、エネルギ削減効果を最も見込めるアイドリングストップ開始タイミングを自動で決定することができる。
【0062】
<アイドリングストップ制御>
図12のフローチャートに沿って、制御部260のアイドリングストップ制御の流れを説明する。
【0063】
まず、制御部260は、待機継続時間のカウント値をリセットする(ステップS400)。そして、制御部260は、前工程の装置であるマウンタ120の現在の動作モード(稼働状態)を確認し(ステップS401)、動作モードが「待機状態」であれば(ステップS402;YES)、待機継続時間をカウントアップする(ステップS403)。待機継続時間のカウント値は、マウンタ120が運転状態から待機状態に切り替わってからの経過時間を表している。待機状態が継続するあいだ待機継続時間のカウントアップが続き、待機継続時間のカウント値がアイドリングストップ開始タイミングの値τ
Sを超えたら(ステップS404;YES)、制御部260は、対象装置であるリフロー炉140の現在の動作モードを確認し(ステップS405)、リフロー炉140の動作モードも「待機状態」になっていれば(ステップS406;YES)、直ちにリフロー炉140を待機状態から停止状態に切り替える(ステップS407)。
【0064】
以上のようなアイドリングストップ制御により、エネルギ削減効果を最も見込めるタイミングでアイドリングストップを自動で開始することができる。したがって、作業者がアイドリングストップを実施するか否かを判断したり、アイドリングストップの開始を指示したりする必要がなくなり、アイドリングストップ制御の自動化を図ることができる。
【0065】
さらに第2実施形態のアイドリングストップ制御は次のような利点もある。
図13(A)に示すように、第1実施形態の制御は対象工程が待機となってからの経過時間によりアイドリングストップの開始を判断しているため、時間τ
S分の待機ロスが発生してしまう。これに対し、第2実施形態の制御は
図13(B)に示すように、前工程が待機となってからの経過時間によりアイドリングストップの開始を判断するため、対象工程の待機ロスを可及的に小さくすることができ、第1実施形態よりも一層の省エネを図ることが期待できる。
【0066】
また、前工程のチョコ停が原因の場合、第1実施形態の制御では
図14(A)に示すようにアイドリングストップ直後に再起動が発生し、エネルギ損失の方が大きくなってしまうケースがある。これに対し第2実施形態の制御の場合は、
図14(B)に示すように、前工程が短時間で運転状態に戻ると待機継続時間のカウント値がリセットされるため(ステップS402;NO)、アイドリングストップは行われない。したがって、第2実施形態の制御によれば、他工程の稼働状態を考慮することで、全体として最もエネルギ損失の小さい制御をとることが可能となる。
【0067】
なお第2実施形態では、前工程の稼働状態に基づくアイドリングストップ制御を例にとり説明したが、後工程の稼働状態に基づくアイドリングストップ制御も同様の方法で実現可能である。前工程の稼働状態に基づくアイドリングストップ制御と後工程の稼働状態に基づくアイドリングストップ制御の両方を実施してもよいし、第1実施形態の制御と組み合わせて実施してもよい。
【0068】
[第3実施形態]
第1実施形態及び第2実施形態では、アイドリングストップの開始タイミングの決定方
法及び制御方法を述べたが、第3実施形態では、アイドリングストップの復帰タイミングの決定方法及び制御方法について述べる。第3実施形態の制御は、第1実施形態の制御や第2実施形態の制御と組み合わせて実施することができる。
【0069】
<前工程との連携>
図15のフローチャートに沿って、前工程の稼働状態を考慮して対象工程のアイドリングストップの復帰(再起動)を制御する方法の例を説明する。なお、
図15のフローは、対象工程の装置がアイドリングストップの状態になったときに実行される。
【0070】
まず、制御部260は、対象工程の装置(たとえばリフロー炉140)の再起動に必要な時間(対象工程の「立ち上げ時間」とも呼ぶ)Soと、前工程でワークの処理を開始してからそのワークが対象工程に投入されるまでにかかる時間(前工程の「工程所要時間」とも呼ぶ)Tpとから、アイドリングストップ復帰タイミングの最適値τ
Eを計算する(ステップS500)。
τ
E=Tp−So
ただし、Tp<Soの場合にはτ
E=0とする。
【0071】
次に、制御部260は、前工程の装置(たとえばマウンタ120)の稼働状態を監視し(ステップS501)、前工程の装置が「運転状態」に復帰したタイミングで(ステップS502;YES)、タイマに値τ
Eをセットしカウントダウンを開始する(ステップS503)。そして、タイマの値がゼロになった時点、すなわち、前工程の装置が運転状態に復帰してから時間τ
Eが経過したタイミングで、制御部260は、対象工程の装置(たとえばリフロー炉140)の再起動(停止状態から運転状態への復帰)を開始する(ステップS504)。
【0072】
以上のようにアイドリングストップの復帰タイミングを制御することにより、前工程からのワークの到着に合わせて対象工程の装置の再起動を完了させておくことができるため、アイドリングストップ復帰時の時間ロスを可及的に小さくでき、ラインの生産効率を向上することができる。
【0073】
<後工程との連携>
図16のフローチャートに沿って、後工程の稼働状態を考慮して対象工程のアイドリングストップの復帰(再起動)を制御する方法の例を説明する。なお、
図16のフローは、対象工程の装置がアイドリングストップの状態になったときに実行される。
【0074】
まず、制御部260は、対象工程の装置(たとえばマウンタ120)の再起動に必要な時間(対象工程の「立ち上げ時間」とも呼ぶ)Soと、対象工程の装置でワークの処理を開始してからそのワークが後工程に投入されるまでにかかる時間(対象工程の「工程所要時間」とも呼ぶ)Toと、後工程の装置(たとえばリフロー炉140)の再起動に必要な時間(後工程の「立ち上げ時間」とも呼ぶ)Snとから、アイドリングストップ復帰タイミングの最適値τ
Eを計算する(ステップS600)。
τ
E=Sn−So−To
ただし、Sn<So+Toの場合にはτ
E=0とする。
【0075】
次に、制御部260は、後工程の装置(たとえばリフロー炉140)の稼働状態を監視し(ステップS601)、後工程の装置が「停止状態」から「運転状態」に復帰したタイミングで(ステップS602;YES)、タイマに値τ
Eをセットしカウントダウンを開始する(ステップS603)。そして、タイマの値がゼロになった時点、すなわち、後工程の装置が再起動を開始してから時間τ
Eが経過したタイミングで、制御部260は、対象工程の装置(たとえばマウンタ120)の再起動(停止状態から運転状態への復帰)を
開始する(ステップS604)。
【0076】
以上のようにアイドリングストップの復帰タイミングを制御することにより、後工程が生産可能状態となるタイミングに合わせて対象工程からワークを送り出すことができるため、アイドリングストップ復帰時の時間ロスを可及的に小さくでき、ラインの生産効率を向上することができる。
【0077】
[その他の実施形態]
上記の実施形態の説明は、本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明は上記の具体的な形態には限定されない。本発明は、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。