(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記定められた条件は、前記高調波信号が前記第1の高調波信号のときは予め定められた第1の条件であり、前記高調波監視部の前記判定結果に応じて、前記高調波信号が前記第2の高調波信号となったときは、前記高調波監視部が、前記判定結果のでた時点で、前記第1の条件と、前記第1の高調波成分の前記第1の条件からの逸脱の程度とに基づき設定した第2の条件である、
ことを特徴とする請求項1に記載の異常監視装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
本願発明に係る異常監視装置はディジタル形保護リレー装置のアナログ信号処理部の異常を監視するための装置である。ディジタル形保護リレー装置は、電力系統の中の送配電線に地絡などの異常が生じた場合に電力系統を保護するための装置である。本願の実施形態1に係る異常監視装置を
図1に示す。
図1は、実施形態1に係る異常監視装置4と、異常監視装置による監視対象となるディジタル形保護リレー装置15とを含むディジタル形保護リレーシステム1を示す。
【0014】
図1に示すディジタル形保護リレー装置15は、異常監視装置4を説明するために必要な構成要素のみを示したものである。そのため、ディジタル形保護リレー装置15を説明する前に、ディジタル形保護リレー装置15の構成の元となるディジタル形保護リレー装置10について、
図12を参照して説明する。
図12は地絡検知用のディジタル形保護リレー装置10の例を示す。このディジタル形保護リレー装置10は、アナログ信号処理部2とディジタル処理部3とを備える。ディジタル形保護リレー装置10は、ある送配電線で地絡が発生したとき、これを検知し、その送配電線を電力系統から切り離す。これにより電力系統が保護される。この目的のために
図12では、ディジタル形保護リレー装置10は、送配電線Ln_1〜Ln_n毎に設置されている。各送配電線はトランス(TR)7を介して所定の電圧にした電力を、遮断器6を介して送配電する。以下では、代表例として、
図12の上方に示す、送配電線Ln_1用のディジタル形保護リレー装置10の構成を説明する。
【0015】
ディジタル形保護リレー装置10は、アナログ信号処理部2に送配電線の電力信号を入力する。
図12に示す例では、電力信号は信号Avと信号Acとで構成される。信号Avは、各送電線共通の電圧を、接地型計器用変圧器(EVT;Earthed Voltage Transformer)8を介して計測用の電圧に変換したものである。信号Acは、各送配電線毎に設置した零相変流器(ZCT;Zero-Phase-Sequence Current Transformer)9に流れる各送配電線の零相電流である。
【0016】
アナログ信号処理部2は、ローパスフィルタで構成されるアナログフィルタ(LPF;Low Pass Filter)20と、アナログディジタル変換器(ADC;Analogue to Digital Converter)22とを2セット備える。1セットは信号Avの処理用、他の1セットは信号Acの処理用として使用される。信号Avと信号Acのいずれも入力時には電圧信号に変換されるので、入力レベルの違いを除けば、どちらのセットも同じタイプのものを使用することができる。LPF20はディジタル処理部3における信号処理の際の折り返し誤差の混入を避けるために使用される。ADC22はLPF20のアナログ出力を所定の周期でサンプリングし、ディジタル値に変換する。
【0017】
ディジタル処理部3は、バンドパスフィルタである2セットのディジタルフィルタ(BPF;Band Pass Filter)30と1つの遮断判定部31とを備える。一方のBPF30は、アナログ信号処理部2を経由してサンプリングされディジタル値に変換された信号Acのデータ列から、ディジタルフィルタ処理により基本周波数f
0(50Hz又は60Hz)の成分を抽出する。他方のBPF30は、アナログ信号処理部2を経由してサンプリングされディジタル値に変換された信号Avのデータ列から、ディジタルフィルタ処理により基本周波数f
0の成分を抽出する。ディジタルフィルタ処理は、例えばフーリエ積分方式を利用する。フーリエ積分方式については、特開平5−207640にその例が開示されている。
【0018】
遮断判定部31は、信号Acと信号Avとを対象に、それぞれ抽出された基本周波数f
0の成分から、基本周波数f
0の成分の位相及び振幅を求め、その結果に基づき、その送配電線で異常、例えば地絡が発生したかどうかを判定する。この方法はよく知られているので説明を省略する。遮断判定部31は、異常が発生したと判定したときは遮断信号を遮断器6に送信する。
図12では、他のディジタル形保護リレー装置10からの遮断信号と区別するため、便宜上、遮断信号Yと表示した。遮断器6は、遮断信号Yを受けると動作し、送配電線Ln_1を他の送配電線から切り離す。
【0019】
他の送配電線に設置されているディジタル形保護リレー装置10の場合も同じである。
図12には、送配電線Ln_nに設置されたディジタル形保護リレー装置10が、送配電線Ln_nで異常が発生したと判定したとき遮断信号Zを発生すること、及び、遮断信号Zにより、送配電線Ln_nに設置された遮断器6が動作することが示されている。
【0020】
図12に示す複数のディジタル形保護リレー装置10は、一つのディジタル形保護リレー装置10として統合してもよい。
図1に示すディジタル形保護リレー装置15は、複数のディジタル形保護リレー装置10を、一つに統合し、構成を簡略化したものである。
【0021】
図1に示すディジタル形保護リレー装置15は、アナログ信号処理部2と、第1のディジタル処理部3とを備える。第1のディジタル処理部3は
図12に示すディジタル処理部3と同様の機能を備えるため同じ符号を付した。
【0022】
図1のアナログ信号処理部2は、ローパスフィルタである複数のアナログフィルタ(LPF)20と1台のマルチプレクサ(MPX)21と1台のアナログディジタル変換器(ADC)22とを備える。
【0023】
各LPF20は、各電力信号Ln_1毎に、信号Avと信号Ac用に、
図12に示す各アナログ信号処理部2に含まれる2つのLPF20が必要であるが、
図1ではそのうちの一方のみを示す。
図12に示す他方のLPF20については、異常監視装置4の説明のためには必ずしも明示する必要はないので、簡略化のため図示を省略している。
図1の最上部に記載されたLPF20は送配電線Ln_1からの電力信号(信号Av又は信号Ac)の入力用であり、最下部に記載されたLPF20は送配電線Ln_nからの電力信号の入力用である。
【0024】
図1では、
図12に示す複数のADC22は、1台のADC22に置き換えられている。MPX21を各LPF20の後に配置することにより、各LPF20の出力をMPX21で切り替え、ADC22に出力する、これにより1台のADC22が複数台のLPF20の出力であるアナログサンプリング値をディジタル値に変換する。
【0025】
図1の第1のディジタル処理部3は、バンドパスフィルタである第1のディジタルフィルタ(第1のBPF)30と遮断判定部31とを備える。第1のBPF30は、
図12の2台のBPF30を一つにまとめ、更に送配電線Ln_1〜Ln_n毎に対応したBPF30をも一つにまとめたものである。
【0026】
図12に示す各ディジタル処理部3と、
図1に示す第1のディジタル処理部3とは、共に同様のハードウェアで構成される。いずれも、
図2に示すようにCPU500とメモリ510と入力回路520と出力回路530とこれらを接続する内部バスライン540とで構成される。
図12のBPF30と遮断判定部31、又は
図1の第1のBPF30と遮断判定部31のそれぞれの機能は、メモリ510に格納されているプログラムをCPU500が読み出して実行することにより実現される。そのため上記のような統合は容易に実現できる。
【0027】
第1のBPF30は、LPF20によりアナログフィルタ処理された送配電線Ln_1〜Ln_n毎の電力信号(信号Avと信号Ac)を、MPX21の切替によりADC22でディジタル変換して得られたディジタルデータから、
図12の場合と同様に、ディジタルフィルタ処理により基本周波数f
0の成分を抽出する。
【0028】
遮断判定部31は、ディジタルフィルタ処理により抽出された、送配電線Ln_1〜Ln_n毎の電力信号の基本周波数f
0の成分から、
図12で説明したように送配電線毎の短絡や地絡等の異常の有無の判定を行う。異常があると判定された場合には、遮断判定部31は、当該送配電線に設置されている遮断器6に遮断信号を出力する。遮断判定部31は、異常有りと判定しないときは遮断器6に対して何も出力しない。
【0029】
次に
図1を参照して、異常監視装置4について説明する。異常監視装置4は、加算部40、高調波発生回路41、及び第2のディジタル処理部5を備える。第2のディジタル処理部5は、高調波発生制御部51、第2のディジタルフィルタ(第2のBPF)52、高調波監視部53、異常判定部54を備える。第2のディジタル処理部5は、第1のディジタル処理部3と同様に、ハードウェアとしては
図2に示すようにCPU500とメモリ510と入力回路520と出力回路530とこれらを結ぶ内部バスライン540とで構成される。第2のディジタル処理部5は第1のディジタル処理部3と共通のハードウェアで構成されてもよい。
【0030】
加算部40は、各送配電線毎に、LPF20の前に設置される。すなわち、加算部40は、ディジタル形保護リレー装置15に入力される電力信号の数だけ設置される。各加算部40は、設置された送配電線の電力信号と、高調波発生回路41が発生する高調波信号とを入力し、両者を加算して、高調波重畳信号を生成する。加算部40は、生成した高調波重畳信号を、LPF20に出力する。
【0031】
高調波発生回路41は、高調波発生制御部51の制御により、高調波信号を生成し、加算部40に出力する。高調波信号は、電力信号の基本周波数f
0のm次の高調波周波数f
1を有し、振幅はアナログ信号処理部2のフルスケールの例えば10%に設定された信号である。
【0032】
高調波発生回路41は、
図3に示すように、高周波クロック(HF−CLK)410、ローパスフィルタ(LPF)420、及びスイッチ(SW)430を備える。
【0033】
HF−CLK410は、生成したい高調波に対応した周波数の時間計測用の矩形波信号を発生する。LPF420はこの矩形波信号をフィルタ処理することにより疑似正弦波の高調波信号を生成する。SW430は、その開閉切替により、生成された高調波信号の出力を制御する。SW430は、異常監視装置4による異常監視を実行するときは高調波信号が出力され、異常監視を実行しないときは高調波信号が出力されないようにするためのものである。
【0034】
高調波発生制御部51は、
図3に示すように、高調波発生回路41を制御して、高調波信号を発生させる制御を行う。高調波信号には第1の高調波信号と第2の高調波信号の2種類あり、高調波発生制御部51はその選択も行う。
【0035】
具体的には、高調波発生制御部51は、異常監視の開始とともに、HF−CLK410に、矩形波信号を発生させる第1の指示を送信する。矩形波信号の周波数及び振幅、すなわち高調波信号の周波数及び振幅は、高調波発生制御部51により設定される。制御の基準となる周波数、及び振幅の情報は、
図2のメモリ510に格納されている。高調波発生制御部51はこれらの情報を読み出して利用する。発生した矩形波信号はLPF420を経由することにより、第1の高調波信号となる。なお、この第1の指示の送信時刻は、第2のディジタル処理部5に内蔵されているクロックにより計測され、
図2のメモリ510に格納される。
【0036】
高調波発生制御部51は、更に、高調波監視部53から、後述するリトライの通知を受けると、メモリ510に格納された第1の指示の送信時刻を読み出し、これに上記矩形波信号の半周期の奇数倍に相当する時間を加えた時刻に、HF−CLK410に、矩形波信号を発生させる第2の指示を送信する。矩形波信号の周波数及び振幅、すなわち高調波信号の周波数及び振幅は、第1の高調波信号の場合と同じである。発生した矩形波信号はLPF420を経由することにより、第2の高調波信号となる。第2の指示の送信時刻をこのように、制御することにより、電力信号に重畳したとき、電力信号の各位相において、第1の高調波信号と第2の高調波信号との位相差は180度、すなわち互いに極性が反転した信号となる。
【0037】
また、高調波発生制御部51は、SW430を介して、発生させた高調波信号を出力するかどうかを制御する。異常監視が一定の周期で実施される場合は、高調波発生制御部51は、その周期に従ってSW430を制御する。外部からの指示により異常監視を実施する場合は、高調波発生制御部51は、図示を省略した入力部を介して入力された指示に基づきSW430を制御する。なお、高調波発生制御部51は、第2の高調波信号をあらかじめ設定された一定時間発生させる制御を行う。この時間制御はSW430の開閉制御によるか、またはHF−CLK410での矩形信号を停止する制御による。
【0038】
このようにして生成された第1の高調波信号と第2の高調波信号は、いずれも、電力信号の基本周波数f
0のm次の高調波周波数f
1を有し、振幅はアナログ信号処理部2のフルスケールの例えば10%に設定された高調波信号である。両信号の相違点は第2の高調波信号は第1の高調波信号に対して位相が180度異なるという点である。
【0039】
第2のBPF52は、ADC22から入力されるディジタル値の時系列データから周波数f
1の成分を抽出する。抽出には、例えば特開平5−207640に開示されているフーリエ積分方式を利用する。
【0040】
第2のBPF52に入力される時系列データには第1の時系列データと第2の時系列データの2種類ある。第1の時系列データは、高調波発生回路41が第1の高調波信号を出力したときの加算部40の出力である第1の高調波重畳信号に対応した時系列データである。第2の時系列データは、高調波発生回路41が第2の高調波信号を出力したときの加算部40の出力である第2の高調波重畳信号に対応した時系列データである。第1の時系列データが入力されたときに、第2のBPF52が抽出する周波数f
1の成分を第1の高調波成分と呼び、第2の時系列データが入力されたときに第2のBPF52が抽出する周波数f
1の成分を第2の高調波成分と呼ぶ。
【0041】
高調波監視部53は、第2のBPF52で抽出された第1の高調波成分の振幅を求め、第1の条件を満たすかどうかを判定する。高調波監視部53は、第1の条件を満たさないと判定すれば、異常の可能性があると判断して、高調波発生制御部51に対して、第2の高調波信号を発生させる制御を行うよう要求するリトライの通知を行う。リトライは、第2の高調波信号による異常監視のリトライという意味である。第1の条件を満たすと判定すればメモリ510のLPF20毎に設定された所定のアドレスに異常なしを示す第1のフラグを立てる。
【0042】
第1の条件について説明する。高調波が混在していないときの電力信号に第1の高調波信号を加えて生成された第1の高調波重畳信号を、異常のない状態のアナログ信号処理部2に入力したときに、第2のBPF51で抽出された第1の高調波成分の振幅を第1の基準振幅とする。第1の条件とは、第1の高調波成分の振幅が、第1の基準振幅に対して予め設定された範囲(設定範囲)、例えば±5%の範囲に入っているという条件である。第1の基準振幅のデータ、及び第1の条件の設定範囲の数値データは予めメモリ510に格納されており、高調波監視部53はこれらのデータを読み出して利用する。
【0043】
このような判定を行うのは、第1の高調波成分の振幅の変化の有無が、アナログ信号処理部2の特性変化の程度、すなわちアナログ信号処理部2の異常の有無の指標になるからである。第1の高調波成分の振幅が第1の条件の設定範囲以内にあれば、第1の高調波成分は第1の条件を満たすと判定する。一方、第1の高調波成分の振幅が第1の条件の設定範囲外にあれば、第1の高調波成分は第1の条件を満たさないと判定する。
【0044】
高調波監視部53は、高調波発生制御部50へのリトライの通知後、第2のBPF52で抽出された第2の高調波成分の振幅が第2の条件を満たすかどうかを判定する。なお、第2のBPF52が第2の高調波成分の振幅を抽出するためには、所定の時間蓄積した第2の高調波重畳信号の時系列データが必要である。そのため、高調波監視部53は、リトライの通知後、予め設定された時間待機した後に、第2の条件を満たすかどうかの判定を実行する。
【0045】
第2の条件について説明する。高調波が混在していないときの電力信号に第2の高調波信号を加えて生成された第2の高調波重畳信号を、異常のない状態のアナログ信号処理部2に入力したときに、第2のBPF51で抽出された第2の高調波成分の振幅を第2の基準振幅とする。第1の高調波信号と第2の高調波信号とは振幅が同じなので、第2の基準振幅は第1の基準振幅と同じである。第2の条件は、第2のBPF51で抽出された第2の高調波成分の振幅が、第2の基準振幅に対して、設定された範囲(設定範囲)以内にあるという条件である。第2の基準振幅のデータは予めメモリ510に格納されている第1の基準振幅のデータである。以下では、第1の基準振幅と第2の基準振幅を区別せず基準振幅と呼ぶ。高調波監視部53は基準振幅を読み出して利用する。第2の条件の設定範囲は、第1の条件の設定範囲に、後述する補正値を加えることにより得られる範囲であり、高調波監視部53により設定される。この補正値は、第2の条件の設定範囲を、電力信号に周波数f
1の高調波信号が元々混在している場合に対応させるためのものである。
【0046】
補正値は、例えば以下のように設定される。高調波監視部53は、第1の高調波成分の振幅が、第1の条件を満たさないと判定すると、第1の高調波成分の振幅が基準振幅から逸脱した程度を逸脱値として算定する。高調波監視部53は、補正値を例えば逸脱値の符号を反転させた値として設定する。
【0047】
高調波監視部53は、第2の高調波成分が第2の条件を満たすと判定したときは、メモリ510のLPF20毎に予め設定されたアドレスに「異常無し」を示す第1のフラグを立て、第2の高調波成分が第2の条件を満たさないと判定したときは、メモリ510の同アドレスに「異常有り」を示す第2のフラグを立てる。
【0048】
異常判定部54は、第1又は第2のフラグを立てるメモリ510の前記アドレスを検索し、第2のフラグが一つでも設定されていれば、「異常有り」と判断し、異常信号を外部の図示しない表示装置又は/及びスピーカーに出力し、アナログ信号処理部2に異常があった旨を通知する。この通知には、異常のあったLPF20を特定できる情報を含めてもよい。全てのLPF20に対応して、第1のフラグが設定されていれば、異常なしと判断し、外部の図示しない表示装置又は/及びスピーカーに、アナログ信号処理部2に異常がなかった旨を出力してもよいし、何も出力しなくてもよい。第1及び第2のフラグは、その判定日時を含めて出力してもよく、判定日時も含めてメモリ510に記録保存してもよい。
【0049】
第2のディジタル処理部5を構成する、
図2に示すハードウェア構成について詳細に説明する。
【0050】
メモリ510はSRAM(Static Random Access Memory)及び/又はフラッシュメモリなどで構成され、異常監視装置4の機能を含めた第2の処理部5の動作に係るプログラム、更に第1の高調波の振幅、第2の高調波の振幅、ディジタルフィルタ処理に使用される処理式、第1の基準振幅、及び第1の条件に関するデータ等を格納し、CPU(Central Processing Unit)500に対して、各種処理の際のワークエリアを提供する。
【0051】
CPU500は、メモリ510に記憶されているプログラムを読み出して処理することにより、第2のディジタル処理部5の各構成要素の機能を実現する。プログラムは全体制御のプログラム、ディジタルフィルタ処理に関するプログラム、ディジタルフィルタ処理により抽出された第1及び第2の高調波成分の振幅を求める処理に係るプログラム、各種判定に係る処理プログラム、高調波発生制御に係るプログラムなどを含む。CPU500は、入力回路520を介してADC22からの時系列データを読み込む。更に、プログラムの実行時に時系列データと共にメモリ510に格納されたデータを利用する。入力回路520は、スイッチ等を介して各種の指示も入力する。CPU500は、これらの入力に関する処理も行う。更に、CPU500は、出力回路530を介して、高調波発生回路41の制御信号の送信、遮断器6への遮断信号の送信、及び外部表示装置等への異常信号の送信を行う。
【0052】
次に、異常監視装置4の動作を、
図1を参照しつつ、
図4に示す第2のディジタル処理部5の異常監視処理のフロー図に沿って説明する。
図4のフロー図は以下の説明と合わせて異常監視方法も示す。異常監視の対象となるLPF20の全数をJmとすると、
図4において、Jは1〜Jmのいずれかの値である。Kは、第1の高調波信号と第2の高調波信号及びこれらに関連する量又は条件を区別するために使用されるパラメータである。K=1のとき、第1の高調波信号に関連する量又は条件を示し、K=2のとき第2の高調波信号に関連する量又は条件を示す。
【0053】
異常監視処理は、異常監視開始の指示の入力の都度、又は一定周期で実行される。異常監視開始の指示は、外部から
図2の入力回路520を介して異常監視装置4の第2のディジタル処理部5に入力される。異常監視処理が開始されると、高調波発生制御部51は、Jと、Kとにそれぞれ「1」を設定する(ステップS1)。次に、高調波発生回路41に、第Kの高調波信号、すなわち第1の高調波信号を発生させ出力させる第1の指示を出す(ステップS2)。
【0054】
第1の指示を受けて高調波発生回路41は、第1の高調波信号を発生し出力する。高調波発生回路41から出力された第1の高調波信号は、複数の加算部40にそれぞれ入力される。複数の加算部40には、それぞれ送配電線毎に対応する電力信号(
図12に示す信号Ac又は信号Av)が入力されている。各加算部40は、入力された電力信号と第1の高調波信号とから生成した第1の高調波重畳信号をLPF20に出力する。第1の高調波重畳信号は、LPF20によるフィルタ処理後、MPX21とADC22とを経由してディジタル値に変換される。MPX21は、送配電線毎のLPF20の出力を自動で切り替えて逐次ADC22に出力する。
【0055】
MPX21による切替により、ADC22の出力は送配電線毎の、換言すればLPF20毎の時系列データとして第2のBPF51に入力される。第2のBPF51は、LPF20毎の時系列データから、ディジタルフィルタ処理により、LPF20毎に第1の高調波成分を抽出する(ステップS3)。ディジタルフィルタ処理に係る数式は処理プログラムの形で予めメモリ510に格納されており、第2のBPF51は、これを読み出して使用する。
【0056】
次に、ステップS4に進み、K=1なので(ステップS4;NO)ステップS6の処理が実行される。すなわち、高調波監視部53は、第2のBPF52で抽出されたJ番目のLPF20の出力に対する第Kの高調波成分の振幅を算定し、その振幅が第Kの条件を満たすかどうかを判定する(ステップS6)。ここではK=1なので、高調波監視部53は、第Kの条件、すなわち第1の条件、従って第1の範囲に係る数値をメモリ510から読み出して使用する。第Kの高調波成分の振幅が、第1の範囲以内にあれば、すなわち第Kの条件を満たせば(ステップS6;YES)、J番目のLPF20に対して、メモリ510のLPF20毎に設定されたアドレスに「異常なし」を示す第1のフラグを設定する(ステップS10)。次に、高調波監視部53は、JがJmに等しいかどうか、すなわち、LPF20の出力に対する上記処理が、設置されたJm個全てのLPF20の出力に対して完了したかどうかを判定する(ステップS12)。完了していれば、すなわちJ=Jmであれば(ステップS12;YES)、ステップS14の異常判定に移行する。完了していなければ、すなわちJ=Jmでなければ(ステップS12;NO)J=J+1として(ステップS13)、ステップS6に戻り、J+1番目のLPF20の出力に対する処理を行う。
【0057】
高調波監視部53は、第2のBPF52で抽出されたJ番目のLPF20の出力に対する第Kの高調波成分の振幅が第Kの条件を満たさなければ、すなわち、ここではK=1なので、第1の高調波成分の振幅が第1の条件を満たさなければ(ステップS6;NO)、Kが1であるかどうかを判定する(ステップS7)。ここではK=1なので(ステップS7;YES)、高調波監視部53は、高調波発生制御部51にリトライの通知を出し(ステップS8)、Kを1増加させてK=2として(ステップS9)、ステップS2以降の処理を実行する。すなわち、ステップS7では、これまでの異常監視が第1の高調波信号を使用して実施されたものであることを確認し、ステップS8ではリトライの通知を行うことにより、第2の高調波信号によるステップS2以降の異常監視処理に移行する。
【0058】
高調波発生制御部51は、ステップS8で高調波監視部53から出されたリトライの通知を受け、高調波発生回路41に第2の高調波信号を発生させ出力させる第2の指示を出す(ステップS2)。第2の高調波信号は、
図3で説明したように、第1の高調波信号と同じ周波数と振幅を持ち、第1の高調波信号に対する位相差が180度の信号である。ステップS3では、第2の高調波重畳信号から、第2の高調波成分が抽出される。その具体的な処理内容は、既に説明した第1の高調波信号に関する記載中、「第1の」を「第2の」と読み替えればよい。なお、抽出する高調波成分は第1の高調波成分と同じ周波数成分である。次に、ステップS4に進むが、ここではK=2であるから(ステップS4;YES)、高調波監視部53は、既に説明した通り、補正値を求め、第2の条件を設定する(ステップS5)。ステップS6の処理内容は、既に説明した第1の高調波信号に対する記載中、第1の高調波信号を第2の高調波信号と、第1の条件を第2の条件と読み替えればよい。
【0059】
第2の高調波成分の振幅が第2の条件を満たすときは(ステップS6;YES)、ステップS10に進む。このときのステップS10、及びステップS12以降の処理内容は、第1の高調波信号について説明したステップS10、及びステップS12以降の処理内容において、「第1」を「第2」に読み替えたものとなる。第2の高調波成分の振幅が第2の条件を満たさないときは(ステップS6;NO)ステップS7に進む。今、K=2なので(ステップS7;NO)、高調波監視部53は、J番目のLPF20に異常が有ることを示す第2のフラグをメモリ510の予め決められたアドレスに設定する(ステップS11)。ステップS12の処理は既に説明したとおりである。ステップS12でYESの判定のとき、すなわち、設置されたJm個全てのLPF20の出力に対しての処理が完了しているとき、異常判定部54は異常の判定を実行する(ステップS14)。異常の判定は、メモリ510の予め決められたアドレスに第2のフラグが設定されているときは該当するLPF20に対して「異常有り」と判定し、第1のフラグが設定されているときは該当するLPF20に対して「異常なし」と判定する。異常判定部54はこの判定結果に基づき、異常信号を表示装置等に出力する。
【0060】
図5(a)〜(d)に示す4ケースの具体例により、高調波監視部53が実行する第1の条件による判定と、その後のリトライ時の第2の条件による判定について説明する。
図5(a)〜(d)に示す各ケースとも横軸は周波数、縦軸はその周波数の成分の振幅(レベル)を示す。横軸の周波数f
1は監視用に使用する第1の高調波成分及び第2の高調波成分の周波数を示す。
図5(a)は第1の条件に関する判定を説明するための図である。
図5(b)〜(d)の左側の図は第1の条件に関する判定を、右側の図は第2の条件に関する判定を説明するための図である。第1の条件の設定範囲は基準振幅の95−105%(すなわち±5%)とする。
【0061】
図5(a)に示すケースでは、第1の高調波成分の振幅が基準振幅の102%である場合で、第1の高調波成分の振幅は第1の条件の設定範囲以内にある。そのため、高調波監視部53は、第1の高調波成分は第1の条件を満たすと判定する。このときは、高調波監視部53は、異常なしを示す第1のフラグを立て、リトライの通知は出さない。従って、第2の高調波成分による異常監視のリトライ、すなわちリトライ監視は実行されない。異常判定部54は、第1のフラグを参照し、アナログ信号処理部2に異常はないと判定する。
【0062】
図5(b)〜(d)に示すケースにおいては、いずれも第1の高調波成分の振幅が、基準振幅の90%であるとした。このときは、第1の高調波成分の振幅は、第1の条件の設定範囲外にある。従って、
図5(b)〜(d)に示すケースでは、高調波監視部53は、第1の高調波成分の振幅は第1の条件を満たさないと判定する。このとき、高調波監視部53は、高調波発生制御部51にリトライの通知を出すと共に第2の条件を設定する。
図5(b)〜(d)のいずれのケースにおいても、第1の高調波成分の振幅が、基準振幅から逸脱した値である逸脱値は−10%である。従って、補正値を逸脱値の符号を反転した値+10%として、第2の条件の設定範囲は、第1の条件の設定範囲に補正値を加えて得られる、基準振幅の105−115%となる。
【0063】
図5(b)〜(d)に示すケースにおいては、第1の高調波成分の振幅の基準振幅に対する逸脱値は共通であるが、逸脱した原因の内訳が異なる。以下では、説明の便宜上、逸脱した原因を混在高調波影響分と劣化分とに分ける。混在高調波影響分とは、電力信号に周波数f
1の高調波成分が元々混在することにより、抽出された第1の高調波成分の振幅が、基準振幅に対して変化した割合のことを指す。劣化分とは、アナログ信号処理部2の特性変化により、第1の高調波成分の振幅が、基準振幅に対して変化した振幅のことを指す。なお、ここでは、この劣化分はゲイン変化であると仮定する。混在高調波影響分と劣化分のいずれに対しても、第1の高調波成分の振幅が、基準振幅に対して減少したときは−、増加したときは+を付す。
【0064】
正常時のアナログ信号処理部2に第1の高調波重畳信号を入力したときのアナログ信号処理部2の出力から第2のBPF52で抽出された第1の高調波成分の振幅は第1の基準振幅と同じ100%とする。また、正常時のアナログ信号処理部2に、第1の高調波信号と位相が180度異なる第2の高調波重畳信号を入力したときのアナログ信号処理部2の出力から第2のBPF52で抽出された第2の高調波成分の振幅はその位相差180度を考慮して−100%とする。混在高調波影響分はX%、アナログ信号処理部2の劣化分はY%とする。これらは、リトライ監視前もその直後のリトライ監視時も変化しないとする。このとき、第1の高調波成分の振幅H
1とリトライ監視時の第2の高調波成分の振幅H
2は、それぞれ次の(1)、(2)式で表わすことができる。なお、(1)、(2)式は、理解を容易にするために、混在高調波の信号と第1の高調波信号との位相がそろっていることを仮定している。
H
1=|(100+X)*(100+Y)/100| (1)
H
2=|(−100+X)*(100+Y)/100| (2)
【0065】
図5(b)に示すケースでは、混在高調波影響分Xは−10%、劣化分Yは0%とする。
図5(c)に示すケースでは、混在高調波影響分Xは−8%、劣化分Yは−2.2%とする。
図5(d)に示すケースでは、混在高調波影響分Xは−3%、劣化分Yは−7.2%とする。いずれも場合も、(1)式から、第1の高調波成分の振幅H
1は基準振幅の90%になる。
【0066】
高調波監視部53に入力される第2の高調波成分の振幅は、(2)式から、
図5(b)に示すケースでは、基準振幅の110%、
図5(c)に示すケースでは、基準振幅の105.7%、
図5(d)に示すケースでは、基準振幅の95.6%となる。これらの振幅を第2の条件の設定範囲と比べると、第2の高調波成分の振幅は、
図5(b)及び(c)に示すケースでは第2の条件を満たすと判定され、異常判定部54は異常なしと判定するが、
図5(d)に示すケースでは第2の条件を満たさないと判定され、異常判定部54は異常と判定し異常信号を出力する。
【0067】
図6は、
図5で説明した内容を詳細に示したものである。
図6(a)は、第1の高調波成分の振幅が基準振幅の90%、すなわち逸脱値が−10%のとき、
図6(b)は、第1の高調波成分の振幅が基準振幅の110%、すなわち逸脱値が+10%のときを例示している。第1の条件の設定範囲を±5%、すなわち基準振幅の95〜105%とする。このときは
図6(a)(b)のいずれの場合も、第1の高調波成分の振幅は第1の条件を満たさない。従って、
図6(a)、(b)とも、第2の高調波信号によるリトライ監視が実行されるケースである。
図6(a)、(b)の第1の曲線は、(1)式において、H
1をそれぞれ90%と110%にしたときの混在高調波影響分X%と劣化分Y%との対応関係を示す。第2の曲線は、XとこのXに対して第1の曲線で定まるYとに対応して(2)式で決定される第2の高調波成分の振幅H
2を混在高調波影響分Xに対応させて示したものである。第1の曲線及び第2の曲線にそれぞれ付した黒色の矢印は、第1の曲線及び第2の曲線の縦軸が、それぞれの矢印で示す方向のグラフ端部に示されている量である、ということを示す。
図6で範囲Hと記載された範囲は第2の条件の設定範囲を示す。範囲Hで示される第2の条件の設定範囲は、第1の条件の設定範囲、ここでは±5%、すなわち基準振幅の95〜105%に、補正値を加えて求められる。補正値は、
図6(a)の場合は+10%、
図6(b)の場合は−10%となる。従って、範囲Hは、
図6(a)の場合は105〜115%、
図6(b)の場合は85〜95%となる。
【0068】
図6(a)の見方は、次の通りである。逸脱値−10%の内、混在高調波影響分がa%であるとする。そのときの劣化分は横軸a%に対応する第1の曲線上の点の右縦軸上の値b%となる。更に、そのときの第2の高調波成分の振幅は、横軸a%に対応する第2の曲線上の点の左縦軸上の値h%となる。値h%が範囲H以内の値であれば、高調波監視部53は、その監視対象のLPF20については「異常なし」を示す第1のフラグをメモリ510の所定のアドレスに立てる。異常判定部54は、アナログ信号処理部2の複数のLPF20の全てに対して第1のフラグが設定されていれば、異常はないと判定する。値h%が範囲H外の値であれば、高調波監視部53は、監視対象のLPF20に対して、メモリ510に「異常有り」を示す第2のフラグを立てる。異常判定部54は、アナログ信号処理部2の複数のLPF20毎に第2のフラグが設定されているかどうかを判定する。一つでも第2のフラグが設定されていれば、アナログ信号処理部2に異常が有ると判定する。
【0069】
図6(a)、(b)とも、第1の高調波成分の振幅による第1の条件による判定については、第1の条件を満たさないケースである。このような場合であっても、電力信号に元々高調波信号が混在していることにより、第1の条件を満たさないと判定される場合には、第2の高調波信号によりリトライ監視を実行することにより、ケースによっては第2の高調波成分の振幅が第2の条件を満たすと判定され、混在する高調波信号による判定への影響を除くことができる。
【0070】
ここで、第2の曲線上で範囲Hに対応する横軸、すなわち混在高調波影響分の値の範囲を範囲Aとし、第1の曲線上で範囲Aに対応する右縦軸、すなわち劣化分の値の範囲を範囲Bとする。
【0071】
図6(a)、(b)に示す例では、混在する高調波信号による判定への影響を除くことができるケースとは、
図6(a)、(b)横軸、すなわち混在高調波影響分が範囲Aに含まれ、且つ、右縦軸、すなわちアナログ信号処理部2の特性の変化を示す劣化分が範囲Bに含まれる場合である。
図6に示す例では範囲Bはいずれも劣化分が小さい領域に対応している。すなわち、劣化分が小さいときは、混在高調波影響分が大きいことにより逸脱値が大きくなったとしても、異常判定部54は、当該LPF20について異常とは判定しない。
【0072】
第1の高調波成分の振幅の逸脱度が第1の条件の設定範囲外となるほど大きい場合で、その逸脱度の中の劣化分の値が範囲B外の値である場合、第2の高調波成分の振幅は第2の条件を満たさない。従って、異常判定部54は、当該LPF20については異常有りと判定する。
【0073】
このように、アナログ信号処理部2の特性の変化は小さいが、電力信号に混在する高調波信号により、抽出される高調波成分の振幅が基準振幅から大きく逸脱した場合に、誤って異常と判定される恐れが軽減される。この効果は、電力信号に高調波信号を重畳させて異常監視を行い、重畳された第1の高調波成分を抽出し、抽出した第1の高調波成分の振幅が第1の条件を満たさない場合には高調波信号の極性を反転させ、第2の条件を設定してリトライ監視を実施することにより得られる。
【0074】
図5、6は電力信号に混在する高調波信号と異常監視用に電力信号に重畳する第1の高調波信号の位相がそろった場合の例であるが、混在高調波信号と第1の高調波信号の位相は必ずしもそろってはいない。しかし、
図5、6で説明した効果は、第1の高調波信号と第2の高調波信号の位相が互いに180度異なることに起因するものである。すなわち、混在高調波信号と第1の高調波信号の位相が必ずしもそろっていない場合であっても、異常監視装置4は、程度の差はあるにせよ、上記と同様の効果を奏することができる。
【0075】
なお、第1の高調波成分の振幅の逸脱値の程度により補正値は変わる。そのため、異常と判定されないときの劣化分の値の範囲は逸脱値により変化する。しかし、逸脱値が異なっても、アナログ信号処理部2の劣化分が小さいときには異常とは判定しない。
【0076】
第2の高調波信号の発生の際の位相制御は、この位相制御は高調波信号の発生時刻の制御又は高調波信号の極性反転制御のみで実行できる。従って、診断用の高調波の周波数を3種類使用する先行文献1に記載されているような従来の異常診断装置に比べると、実施形態1に係るディジタル形保護リレーシステム1の装置構成は次の点で簡略化できる。まず、アナログ信号処理部2のLPF20は1種類の周波数に対応したものだけでよい。また、異常監視装置4の高調波発生回路41は高調波信号の周波数を1種類の周波数だけ利用すればよいので、比較的低い周波数に設定できる。そのため、単時間当たりのサンプリング数は少なくて済む。すなわち、本実施形態1に係る異常監視装置4によれば、
図1に示すような簡単な異常監視装置4で、且つ
図4に示す簡便な異常判定処理により、少ないサンプリング点数での処理が可能である。
【0077】
このように構成された実施形態1に係る異常監視装置4又はこれに対応する異常監視方法は、これまで説明したように、重畳する高調波信号とおなじ周波数の高調波が電力信号に元々重畳している場合であっても、同じ周波数で位相が180度異なる第2の高調波信号を使用して異常の判定をリトライすることにより、アナログ信号処理部2の異常の有無に関する誤判定の確率を低減することができる。すなわち、実施形態1に係る異常監視装置4又は異常監視方法によれば、それぞれ簡便な装置又は方法により、間違った異常監視結果の生じる確率を低減できる。
【0078】
図7に高調波発生回路41の変形例を示す。この変形例に係る高調波発生回路41は、LPF420の後に、切替スイッチ(切替SW)440と、反転回路450とを追加して備える。その他の構成要素は既に説明したとおりである。
【0079】
切替SW440は、高調波発生制御部51の制御により、LPF420の出力が、その後に設置される反転回路450を経由するか、それともバイパスするかを切り替える。
【0080】
反転回路450は、入力信号の極性を反転する、従って入力信号の位相を180度ずらす回路である。すなわち、高調波発生回路41は、反転回路450を経由させないときのLPF420の出力を第1の高調波信号とし、反転回路450を経由させるときのLPF420の出力を第2の高調波信号として出力する。
【0081】
図7に示す変形例に係る高調波発生回路41を備えた異常監視装置4は、これまでの説明と同様に第2の高調波信号を発生させることができるので、これまで説明した効果と同様の効果を奏することができる。
【0082】
また、第2の条件を求める際の補正値はこれまでの説明に限定されない。逸脱値に基づいて設定されていればどのように定めてもよい。このことは
図6(a)、(b)を参照すると理解できる。補正値を変えると範囲Hの位置と幅が変わるだけであり、第1の曲線及び第2の曲線を介して範囲A、Bは存在する。すなわち、アナログ信号処理部2の特性の変化は小さいが、電力信号に混在する高調波信号により、抽出される高調波成分の振幅が基準振幅から大きく逸脱した場合に、誤って異常と判定されることが防止され得る。
【0083】
上記説明では第1の条件として、第1の基準振幅に対する増減範囲を設定範囲としたが、第1の条件はこのような条件に限定されない。第1の条件を第1の基準振幅(=基準振幅)のある割合以上としてもよい。この場合は、第2の条件も、第2の基準振幅(=基準振幅)に対して第1の条件と同様に予め設定しておく。従って、補正値を算定する必要はない。ある割合は例えば50%とする。
【0084】
すなわち第1の高調波成分の振幅が第1の基準振幅の50%以上であれば、高調波監視部53は、異常なしを示す第1のフラグを立て、50%未満であれば高調波発生制御部51にリトライの通知を出す。50%未満のときは第2の高調波信号によるリトライ監視が実行される。このとき第2のBPF52で抽出された第2の高調波成分に対する振幅が第2の基準振幅の50%以上であれば、高調波監視部53は、異常なしを示す第1のフラグをメモリ510に設定し、50%未満であれば第2のフラグをメモリ510に設定する
【0085】
この判定は、第1の条件による判定とその後の第2の条件による判定を簡略化したものである。このように簡略化した場合であっても、重畳する高調波信号の極性を反転させてリトライ監視を行うことにより、電力信号に元々混在する高調波信号により、アナログ信号処理部2に異常が生じていると誤って判定される確率を低減することができるとともに、より簡便な異常判定処理が可能となる。
【0086】
なお、リトライの通知がなされると、高調波発生回路41では電力信号に重畳する高調波信号の切替が発生する。これに伴う過渡現象により、加算部20の出力が変動し、その結果、遮断判定部31で異常と判定し、遮断信号を出力するという誤動作が生じる恐れがある。これを防止するために、高調波発生制御部51で、高調波信号の切り換え制御を行うときに、所定時間、遮断判定部31の動作を停止させてもよい。
【0087】
異常監視対象であるアナログ信号処理部2のMPX21は、
図1では複数のLPF20の出力を1台のADC22でディジタル化するために設けてある。アナログ信号処理部2は、ADC22をLPF20の数だけ装備してMPX21を省いた構成であってもよい。
【0088】
実施形態1の各種の変形例に係る異常監視装置4及びこれに対応する異常監視方法においても、異常判定に使用する周波数は1種類のみであり、第1の高調波信号により異常の判定を行い、その結果、異常という判定が得られたときに、位相のみ180異なる第2の高調波信号を利用してリトライ判定を実施するという点は共通である。従って、変形例に係る異常監視装置4及び異常監視方法は、これまでの説明と同様の効果を奏することができる。
【0089】
(実施形態2)
図8に実施形態2に係る異常監視装置4を示す。実施形態1の異常監視装置4との相違点は、異常監視装置4が同期部50を備えていることである。その他については実施形態1の場合と同じであり、その機能も相違点に関連する機能を除くと実施形態1の場合と同じである。以下では相違点についてのみ説明する。
【0090】
同期部50は、ADC22の出力であるディジタルデータを時系列データとして入力するとともに、ADC22にMPX21を介して入力されるLPF20の出力のサンプリングタイミング信号をADC22に出力する。ADC22は、このサンプリングタイミング信号に従って、LPF20の出力をサンプリングし、ディジタル化して出力する。同期部50は、サンプリングタイミング信号出力時刻、すなわちサンプリング時刻とADC22から入力したディジタルデータとをセットにした時系列データからADC22の出力のゼロクロス点の時刻T
zを算定し、算定結果を高調波発生制御部51に送信する。
【0091】
実施形態2における高調波発生制御部51は、
図9に示すように、高調波監視部53とともに同期部50とも接続される。高調波発生制御部51は、高調波監視部53からのリトライの指示がない状態では、同期部50から送信される情報である時刻T
zを受けて算定した時刻に、高調波発生回路41に第1の指示を送信する。高調波発生回路41は、算定された送信時刻に送信された第1の指示を受けて高調波信号を発生する。この高調波信号は、電力信号に対して所定の位相Δξで同期した第1の高調波信号となる。また、高調波発生制御部51は、高調波監視部53からのリトライの指示を受けると、同期部50から送信される情報である時刻T
zを受けて設定した他の時刻に、高調波発生回路41に第2の指示を送信する。高調波発生回路41は、他の送信時刻に送信された第2の指示を受けて高調波信号を発生する。この高調波信号は、電力信号に対して位相差Δξで同期した第1の高調波信号に対して、位相差が180度の信号である第2の高調波信号となる。
【0092】
所定の位相差Δξは下記(3)〜(5)式に示すいずれかの位相差Δξである。
第1の高調波信号の周波数f
1を電力信号の基本周波数f
0のm次の高調波周波数とすると、電力信号の基本周波数の位相を基準として、
mが偶数値のとき
Δξ=90°×n/m(n=0以上のいずれかの偶数値) (3)
mが奇数値のときで
m=3+4×j(j=0以上のいずれかの整数値)の場合
Δξ=180°×n/m(n=0以上のいずれかの偶数値) (4)
m=5+4×j(j=0以上のいずれかの整数値)の場合
Δξ=180°×(n−1)/m(n=0以上のいずれかの偶数値) (5)
【0093】
高調波発生制御部51は、高調波発生回路41に、電力信号に対して位相差Δξとなるような第1の高調波信号を発生させるために、次式(6)に従って設定した時刻T
sに、第1の指示を高調波発生回路41に送信する。
T
s=T
z+(Δξ/360+n)*T−Δt
t (6)
T
s: 第1の指示の送信時刻
T
z:電力信号のゼロクロス点時刻
Δξ:電力信号に対する高調波信号の位相差(式(3)〜(5)参照)
n:任意の自然数
T:電力信号の基本周波数の周期
Δt
t=Δt
0+Δt
1+Δt
2:関連する部位の総遅延時間
Δt
0:加算部40からADC22の出力までの信号の遅延時間
Δt
1:ADC22の出力を受けた同期部50からのゼロクロス点時刻情報の出力の遅延時間
Δt
2:タイミング高調波発生制御部51がゼロクロス点時刻情報を受信した後、高調波発生回路41から高調波信号が出力されるまでの遅延時間
【0094】
Δt
0、Δt
1、Δt
2は、予め実測され既知である。また、第2の高調波信号を発生させるための第2の指示の送信タイミングは実施形態1の場合と同様に設定される。
【0095】
このような位相差Δξのとき、電力信号と第1の高調波信号の各ピーク位置、及び電力信号と第2の高調波信号の各ピーク位置がそれぞれ重ならず、第1の高調波重畳信号の振幅と第2の高調波重畳信号の振幅とを1セットとすると、1セット全体としては振幅が最も小さくなる。
図10は、電力信号に対して上記(3)式でn=0、m=4のときの位相差Δξで同期させた高調波信号を電力信号に重畳したときの高調波重畳信号、すなわちLPF20への入力信号の例である。
図10に示す高調波信号を第1の高調波信号とすると、
図10に示す高調波重畳信号は第1の高調波重畳信号である。
図10に示す高調波信号を第2の高調波信号としたときの、第2の高調波重畳信号は、
図10に示す高調波重畳信号の半周期分をそれぞれ鏡面対象に置き換えた波形と等しい。第1の高調波重畳信号、及び第2の高調波重畳信号のそれぞれの振幅は、1セット全体としては最小になる。
【0096】
ある振幅の電力信号に重畳することのできる第1の高調波信号又は第2の高調波信号の振幅は、LPF20の信号入力部のダイナミックレンジで制約される。すなわち、電力信号に第1の高調波信号を重畳した第1の高調波重畳信号の振幅、又は電力信号に第2の高調波信号を重畳した第2の高調波重畳信号の振幅は、アナログ信号処理部2の信号入力部のダイナミックレンジ以下にしなければならない。第1の高調波重畳信号と第2の高調波重畳信号の振幅とを1セットとして最も小さくすることが出来るということは、その分、与えられた電力信号の振幅に対して、第1の高調波信号、従って第2の高調波信号の振幅を大きくすることが出来るということを意味する。その結果、実施形態2に係る異常監視装置4によれば、異常監視の精度が向上する。なお、実施形態2に係る異常監視装置4の動作、及び異常監視方法に対しては、
図4のフロー図がそのまま適用できる。ただし、
図4のステップS2では、高調波発生制御部51は、第1及び第2の高調波信号を、電力信号に対して所定の位相差で同期して発生し出力するように指示する。すなわち、実施形態2に係る異常監視方法も、異常監視装置4と同様に、異常監視の精度が向上するという効果を奏する。
【0097】
実施形態2に係る異常監視装置4は、実施の形態1に係る異常監視装置4よりも構成要素が1つ増えるが、互いに同じ周波数で、位相のみ180度異なる第1の高調波信号と第2の高調波信号とを使用して異常の判定を行うという点では実施形態1に係る異常監視装置4と同じである。従って、実施形態2に係る異常監視装置4においても、簡便な装置で、間違った異常監視結果の生じる確率を低減できるということは言うまでもない。更に、実施形態2に係る異常監視装置4に対応する異常監視方法も、実施形態1の場合と同様に、簡便に、間違った異常監視結果の生じる確率を低減できる。
【0098】
同期部50への入力は、ADC22の出力に限定されない。第1のBPF30の出力としてもよい。この出力は電力信号の基本周波数成分のみになっている。そのため、位相差Δξの算定において本来必要とされる電力信号の基本周波数成分のゼロクロス点の情報を得ることができる。従って、第1の高調波重畳信号と第2の高調波重畳信号の振幅とを1セットとして最も小さくすることが出来る。
【0099】
図8に示す同期部50は第2のディジタル処理部5の1要素であり、CPU500、メモリ510、入力回路520等で構成され、その機能はプログラムを介したソフトウェアにより実現される。しかし、同期部50はこのような構成には限定されない。第2のディジタル処理部5から独立したハードウェア、すなわちハードウェアで構成されたゼロクロス検出器を使用してもよい。
【0100】
同期部50を第2のディジタル処理部5から独立したハードウェアで構成するときは、その入力信号はADC22の出力であってもよいし、加算部40の出力であってもよい。加算部40の出力の場合は、同期部50への入力信号はアナログ信号をそのまま入力することができる。
【0101】
同期部50に関する上記変形例によっても、ゼロクロス点の時刻を求めることができるので、実施形態2に係る異常監視装置4は実施形態2で説明した上記効果と同様の効果を奏することができる。