(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365052
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】油圧駆動装置のカバー
(51)【国際特許分類】
F03C 1/24 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
F03C1/24
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-147392(P2014-147392)
(22)【出願日】2014年7月18日
(65)【公開番号】特開2016-23575(P2016-23575A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】寺内 謙一
【審査官】
大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭59−181275(JP,U)
【文献】
特開平8−277806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03C 1/24
B60K 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源としての油圧モータが収容されるケーシングの一端開口部に、この開口部を閉塞する状態で設けられる油圧駆動装置のカバーであって、次の(i)〜(v)の要件を具備することを特徴とする油圧駆動装置のカバー。
(i) 上記ケーシングに取付けられるフランジ部と、このフランジ部の片面に一体に設けられたバルブ取付部から成ること。
(ii) 上記バルブ取付部に、スプール弁を設けるためのスプール穴を、上記フランジ部の直径方向に延びる穴として設けること。
(iii) 上記フランジ部の外周一部を上記スプール穴の軸方向と直角な平面にカットして自立用平面部を設けること。
(iv) 上記バルブ取付部に、上記ケーシング内のドレン油を外部に排出するためのドレンポートを、上記自立用平面部と同一平面上で上記スプール穴の軸方向に開口する状態で設けること。
(v) 上記フランジ部の外周側から見たカバー側面視において、上記自立用平面部、及び上記ドレンポートが開口する平面部であるポート開口平面部を合わせた領域と、上記自立用平面部の外側端と上記ポート開口平面部の外側端を結ぶ直線と上記自立用平面部及び上記ポート開口平面部との間の領域とを足した領域を転倒限界エリアとして、カバー全体の重心をこの転倒限界エリア内に設定したこと。
【請求項2】
上記自立用平面部とポート開口平面部を一つの連続した面として形成したことを特徴とする請求項1記載の油圧駆動装置のカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ショベルの走行駆動装置等として使用される油圧駆動装置のケーシングに設けられるカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルの走行駆動装置を例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、
図6に示すようにクローラ式の下部走行体1上に上部旋回体2が地面に対して垂直となる軸Xのまわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体に作業アタッチメント3が取付けられて構成される。
【0004】
下部走行体1は、左右のクローラフレーム(片側のみ図示)4の前後片側にスプロケット5、反対側に遊動輪6を取付け、これらの間にクローラ(履帯)7を巻き付けて構成される。
【0005】
図7はスプロケット5を駆動する走行駆動装置を示す。
【0006】
この走行駆動装置は、円筒状の固定ケーシング8と、この固定ケーシング8に回転自在に嵌合支持された回転ケーシング9を備えている。
【0007】
固定、回転両ケーシング8,9には、それぞれ外周にケーシングフランジ部8a,9aが設けられ、固定ケーシング8のケーシングフランジ部8aが
図6中のクローラフレーム4に、回転ケーシング9のケーシングフランジ部9aが同スプロケット5にそれぞれボルト止めされる。
【0008】
固定ケーシング8には油圧モータ、回転ケーシング9には遊星歯車式の減速機(いずれも図示しない)がそれぞれ内蔵され、油圧モータの回転力が減速機により減速されて回転ケーシング9、さらに
図6中のスプロケット5に伝わってクローラ7が駆動される。
【0009】
また、固定ケーシング8の一端側(図の左側)には、モータ組み付けのための図示しない開口部と、この開口部を閉塞するカバー(『リヤフランジ』と称される場合もある)10が設けられる。
【0010】
以上の構成は特許文献1〜3に示されている。
【0011】
このカバー10は、固定ケーシング8に取付けるためのフランジ部11と、このフランジ部11の片面に一体に設けられたブロック状のバルブ取付部12によって構成される。
【0012】
バルブ取付部12には、ブレーキ弁としてのカウンタバランス弁を含むバルブ類や、固定ケーシング8内のドレン油を外部に排出するためのドレンポートを含む各種ポート(いずれも図示しない)等が設けられる。
【0013】
この場合、
図7中に示すように、カウンタバランス弁を設けるためのスプール穴13をフランジ部11の直径方向に延びる(貫通する)穴として設けたものが公知である(特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−213544号公報
【特許文献2】特開2004−218545号公報
【特許文献3】実開平06−25024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
カウンタバランス弁用のスプール穴13は、円滑なスプール動作を確保するためにホーニング加工機等により、内径、真円度、円筒度、表面粗さ等の点で高精度に加工される。
【0016】
また、加工後も、円筒度計測機等によってこのスプール穴の検査が行われる。
【0017】
このスプール穴の加工、検査は、一般的な加工機、計測機では、対象となる穴を縦方向に固定した状態(以下、『縦置き状態』という)で行われる。
【0018】
この場合、フランジ部11の外周一部に平面部を設け、この平面部でカバー10全体を自立させることが考えられる。
【0019】
ところが、カバー10は、前記のようにフランジ部11の片面にブロック状のバルブ取付部12を設けた構造で、カバー全体の重心がバルブ取付部12側にあってフランジ部11にはないため、平面部を設けるだけでは自立させることができない。
【0020】
このため、加工及び検査時に、カバー10を縦置き固定するための専用の治具と、この治具を用いることに付随する芯出し等の余分な作業が必要となり、加工、検査の作業効率が悪く、かつ、コスト高となっていた。
【0021】
そこで本発明は、スプール穴の加工、検査時に、治具によらずに縦置き状態に簡単に、しかも安定良く自立させることができる油圧駆動装置のカバーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、駆動源としての油圧モータが収容されるケーシングの一端開口部に、この開口部を閉塞する状態で設けられる油圧駆動装置のカバーであって、次の(i)〜(v)の要件を具備するものである。
【0023】
(i) 上記ケーシングに取付けられるフランジ部と、このフランジ部の片面に一体に設けられたバルブ取付部から成ること。
【0024】
(ii) 上記バルブ取付部に、スプール弁を設けるためのスプール穴を、上記フランジ部の直径方向に延びる穴として設けること。
【0025】
(iii) 上記フランジ部の外周一部を上記スプール穴の軸方向と直角な平面にカットして自立用平面部を設けること。
【0026】
(iv) 上記バルブ取付部に、上記ケーシング内のドレン油を外部に排出するためのドレンポートを、上記自立用平面部と同一平面上で上記スプール穴の軸方向に開口する状態で設けること。
【0027】
(v) 上記フランジ部の外周側から見たカバー側面視において、上記自立用平面部、及び上記ドレンポートが開口する平面部であるポート開口平面部
を合わせた領域と、上記自立用平面部の外側端と上記ポート開口平面部の外側端を結ぶ直線と上記自立用平面部及び上記ポート開口平面部との間の領域とを足した領域を転倒限界エリアとして、カバー全体の重心をこの転倒限界エリア内に設定したこと。
【0028】
このように、フランジ部に自立用平面部、バルブ取付部にポート開口平面部をそれぞれ互いに同一平面上に設け、この両平面部を含む転倒限界エリア内にカバー全体の重心を設定したから、スプール穴の加工、検査時に、カバーを両平面部によって縦置き状態に安定良く自立させることができる。
【0029】
すなわち、カバーを縦置き固定するための専用治具を用いる必要も、それに付随する芯出し等の余分な作業も不要となり、スプール穴の加工及び検査を効率良く、低コストで行うことが可能となる。
【0030】
しかも、構造的にはフランジ部とバルブ取付部に平面部(自立用、ポート開口両平面部)を設けるだけでよく、大がかり、あるいは複雑な構造変更の必要がないため、カバーそのもののコストアップのおそれもない。
【0031】
この場合、上記自立用平面部とポート開口平面部を一つの連続した面として形成するのが望ましい(請求項2)。
【0032】
こうすれば、両平面部を一つの面として連続加工できるため、両平面部を独立した二つの面として形成した場合と比較して、加工が容易となるとともに、加工用の切削刃が空間から平面部への乗り移り部分で衝撃を受けて損傷する等のおそれがない。
【発明の効果】
【0035】
本発明によると、スプール穴の加工、検査時に、カバーを、治具によらずに縦置き状態に簡単に、しかも安定良く自立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の実施形態に係る走行駆動装置のカバーの概略正面図である。
【
図6】本発明の適用対象である油圧ショベルの概略側面図である。
【
図7】油圧ショベルの走行駆動装置の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施形態を
図1〜
図5によって説明する。
【0038】
実施形態は、油圧ショベルの走行駆動装置において、
図7中の固定ケーシング8の一端開口部に装着されるカバーを適用対象としている。
【0039】
この実施形態に係るカバー20において、次の点は
図7に示す公知技術と同じである。
【0040】
(I) 固定ケーシング8に取付けるためのフランジ部21と、このフランジ部21の片面に一体に設けられたブロック状のバルブ取付部22によって構成される点。
【0041】
(II) バルブ取付部22に、ブレーキ弁としてのカウンタバランス弁を含むバルブ類や各種通路が設けられる点。
【0042】
(III) バルブ取付部22に、カウンタバランス弁を設けるためのスプール穴23が、フランジ部21の直径方向に延びる(貫通する)穴として設けられる点。
【0043】
なお、実施形態に係るカバーを示す各図とその説明において、本発明の特徴を分かり易くするために本発明と直接関係のない部分、部品の図示、説明を省略している。
【0044】
このカバーにおいては、フランジ部21の外周一部がスプール穴23の軸方向と直角な平面にカットされて自立用平面部24が形成されている。
【0045】
また、バルブ取付部22に、
図7中の固定ケーシング8内のドレン油を外部に排出するためのL字形の通路であるドレンポート25が設けられている。
【0046】
このドレンポート25は、一端側がスプール穴23に対して直角方向に延びて固定ケーシング8側に開口し、他端がスプール穴23と平行に延びてバルブ取付部22の外周側(スプール穴23の軸方向)に開口する状態で設けられている。
【0047】
図3,4中、25aはこのドレンポート25のバルブ取付部外周側の開口部、26はこの開口部25aを含む平面部、すなわち『ポート開口平面部』である。
【0048】
ここで、ポート開口平面部26は、自立用平面部24に対してバルブ取付部22側に離間した位置で、自立用平面部24と同一平面上に、かつ、自立用平面部24と連続して設けられている。
【0049】
すなわち、自立用平面部24とポート開口平面部26は、スプール穴23の軸方向と直角な、一つの連続した面として形成されている。
【0050】
また、フランジ部21の外周側から見たカバー側面視において、自立用及びポート開口両平面部24,26の最も外側を通る包括線Lで囲われた領域Aを転倒限界エリアとして、カバー全体の重心Gがこの転倒限界エリアA内に設定されている(
図3,4参照)。
【0051】
なお、上記転倒限界エリアAは、詳述すると、両平面部24,26を合わせた領域(
図3,4中に斜線を付した領域)と、両平面部24,26の外側端同士を結ぶ直線の内側領域を足した領域であり、実施形態では図示のように略三角形となる。
【0052】
この構成とすることにより、スプール穴23の加工、検査時に、カバー20を両平面部24,26によって縦置き状態に安定良く自立させることができる。
【0053】
すなわち、カバー20を縦置き固定するための専用治具を用いる必要も、それに付随する芯出し等の余分な作業も不要となり、スプール穴23の加工及び検査を効率良く、低コストで行うことが可能となる。
【0054】
しかも、構造的にはフランジ部21とバルブ取付部22に平面部(自立用、ポート開口両平面部)24,26を設けるだけでよく、大がかり、あるいは複雑な構造変更の必要がないため、カバー20そのもののコストアップのおそれもない。
【0055】
この場合、両平面部24,26が一つの連続した面として形成されているため、両平面部24,26を一つの面として連続加工することができる。このため、両平面部24,26を独立した二つの面として形成した場合と比較して、加工が容易となるとともに、加工用の切削刃が両平面部間の乗り移り部分で衝撃を受けて損傷する等のおそれがない。
【0056】
また、実施形態においては、図示のように自立用及びポート開口両平面部24,26がカバー外周の対称二個所に同一構成で設けられている。
【0057】
これにより、カバー縦置き時の上下の方向性が無くなるため、スプール穴の加工及び検査時の取扱いに便利となる。
【0058】
ところで、本発明の他の実施形態として、自立用及びポート開口両平面部24,26をカバー外周の一個所のみに設けてもよいし、独立した別々の面(不連続の面)として形成してもよい。
【0059】
また、本発明は、油圧ショベル等の走行駆動装置のカバーに限らず、ウィンチの巻上駆動装置のカバー等も含めて、駆動源としての油圧モータと減速機がケーシングに内蔵された油圧駆動装置のカバーであって、フランジ部とバルブ取付部から成り、バルブ取付部にカウンタバランス弁等のスプール弁とドレンポートが設けられるものに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
8 固定ケーシング
20 カバー
21 フランジ部
22 バルブ取付部
23 カウンタバランス弁のスプール穴
24 自立用平面部
25 ドレンポート
25a ドレンポートの開口部
26 ポート開口平面部
A 転倒限界エリア
L 包括線
G カバー重心