特許第6365059号(P6365059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6365059エネルギーマネジメントシステムおよび電力需給計画最適化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365059
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】エネルギーマネジメントシステムおよび電力需給計画最適化方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/38 20060101AFI20180723BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20180723BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20180723BHJP
   G06Q 10/04 20120101ALI20180723BHJP
【FI】
   H02J3/38 120
   H02J3/00 170
   G06Q50/06
   G06Q10/04
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-149794(P2014-149794)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-25792(P2016-25792A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】小熊 祐司
(72)【発明者】
【氏名】前田 宗彦
【審査官】 稲葉 崇
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第07991512(US,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0200868(US,A1)
【文献】 特開2010−136557(JP,A)
【文献】 特開2005−287252(JP,A)
【文献】 特開2011−143774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00−5/00
H02J 7/00−7/12
H02J 7/34−7/36
G06Q 50/06
G06Q 10/04
G05B 1/00−7/04
G05B 11/00−13/04
G05B 17/00−17/02
G05B 21/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギーにより発電を行う発電機と蓄電装置と負荷とを備えると共に外部電力系統に接続されたマイクログリッドにおける、エネルギーの需給計画を最適化するエネルギーマネジメントシステムであって、
最適化の指標であると共に狭義凸関数である目的関数の最適化問題を解くことにより前記需給計画を計算する需給計画計算部を備え、
前記需給計画計算部は、凸制約条件と非凸制約条件とを含む制約条件のうち、前記凸制約条件のみを考慮した緩和問題を解くことにより前記需給計画を計算する、エネルギーマネジメントシステム。
【請求項2】
前記需給計画計算部によって求められた前記緩和問題の解が前記凸制約条件および前記非凸制約条件を満たすか否かを判断する制約条件判断部を更に備える、請求項1に記載のエネルギーマネジメントシステム。
【請求項3】
前記需給計画計算部によって求められた前記緩和問題の解がすべての前記凸制約条件およびすべての前記非凸制約条件を満たす場合に、需給計画計算部は、前記緩和問題の解を前記最適化問題の大域的最適解として出力する、請求項2に記載のエネルギーマネジメントシステム。
【請求項4】
前記需給計画計算部によって求められた前記緩和問題の解がすべての前記凸制約条件を満たし且つ一部またはすべての前記非凸制約条件を満たさない場合、需給計画計算部は、前記緩和問題の解を初期解として、前記凸制約条件および前記非凸制約条件を考慮した前記目的関数の元問題を、決定論的局所探索手法を用いて解く、請求項2または3に記載のエネルギーマネジメントシステム。
【請求項5】
前記需給計画計算部によって求められた前記元問題の解がすべての前記凸制約条件およびすべての前記非凸制約条件の両方を満たす場合に、需給計画計算部は、前記元問題の解を前記最適化問題の局所的最適解として出力する、請求項4に記載のエネルギーマネジメントシステム。
【請求項6】
前記需給計画計算部によって算出された解を需給計画として保存するか棄却するかを判断する需給計画採否判断部を更に備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエネルギーマネジメントシステム。
【請求項7】
前記目的関数は受電電力コストに関する関数であり、
前記マイクログリッドにおいて電力が余剰である場合に、余剰電力を前記外部電力系統に供給して売電するか、または、前記蓄電装置に供給するかを、ポリシーとしてユーザが予め定めることができる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のエネルギーマネジメントシステム。
【請求項8】
再生可能エネルギーにより発電を行う発電機と蓄電装置と負荷とを備えると共に外部電力系統に接続されたマイクログリッドにおける、エネルギーの需給計画を最適化する電力需給計画最適化方法であって、
エネルギーマネジメントシステムが、最適化の指標であると共に狭義凸関数である目的関数の最適化問題を解くことにより前記需給計画を計算する際に、凸制約条件と非凸制約条件とを含む制約条件のうち、前記凸制約条件のみを考慮した緩和問題を解くことにより前記需給計画を計算するステップを含む、電力需給計画最適化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーマネジメントシステムおよび電力需給計画最適化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されるように、蓄電ユニットと、車載蓄電装置に充電するための充電スタンドと、太陽光発電機と、一般負荷とを備えた電力供給システムが知られている。これらの機器は住宅等に設けられており、統合電力制御装置を介して交流電力線に接続されている。統合電力制御装置は、消費電力量の予測データ、発電量の予測データおよび車載蓄電装置の使用スケジュールに基づいて、電力機器の充放電スケジュールを決定する。統合電力制御装置は、充放電スケジュールに従って、蓄電ユニットおよび車載蓄電装置へ充電する電力と、蓄電ユニットおよび車載蓄電装置から交流電力線に放電する電力とを制御する。
【0003】
統合電力制御装置は、予め設定された評価指標が所定値となるように、充放電を混合整数計画問題に定式化して算出する。混合整数計画問題では、論理変数を用いた線形不等式制約によって条件分岐が表現されている。このように条件分岐を表現することにより、最適化ツールを用いて解を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−27214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
混合整数計画問題とは、目的関数、不等式制約条件、等式制約条件がすべて線形関数で表現されており、且つ設計変数の中に整数のみをとるものがある最適化問題である。上記した電力供給システムのように、需給計画最適化問題を混合整数計画問題として定式化する場合、目的関数と制約条件はいずれも線形性を有する必要がある。マイクログリッド中に非線形性を有する機器が混在する場合、上記した電力供給システムでは、最適解を求められない可能性がある。このように、非線形性を有する機器が混在する場合に、混合整数計画問題を適用することは難しかった。
【0006】
本発明は、マイクログリッドが非線形性を有する機器を備える場合でも、需給計画を確実に且つ安定して計算することができるエネルギーマネジメントシステムおよび電力需給計画最適化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、再生可能エネルギーにより発電を行う発電機と蓄電装置と負荷とを備えると共に外部電力系統に接続されたマイクログリッドにおける、エネルギーの需給計画を最適化するエネルギーマネジメントシステムであって、最適化の指標であると共に狭義凸関数である目的関数の最適化問題を解くことにより需給計画を計算する需給計画計算部を備え、需給計画計算部は、凸制約条件と非凸制約条件とを含む制約条件のうち、凸制約条件のみを考慮した緩和問題を解くことにより需給計画を計算する。
【0008】
このエネルギーマネジメントシステムによれば、目的関数は狭義凸関数であり、制約条件は凸制約条件と非凸制約条件との両方を含んでいる。また、目的関数や制約条件は非線形関数によって定義され得る。よって、混合整数計画問題を解く場合に必要であった、目的関数と制約条件の線形性は、不要である。これにより、マイクログリッドが非線形性を有する機器を備える場合でも、需給計画を確実に計算することができる。
【0009】
このエネルギーマネジメントシステムでは、まず、需給計画計算部によって、狭義凸関数である目的関数に対し、凸制約条件のみを考慮した緩和問題が解かれる。緩和問題は狭義凸最適化問題となるため、ここで得られる解は、緩和問題の大域的最適解であり、唯一に存在する。
【0010】
いくつかの態様において、エネルギーマネジメントシステムは、需給計画計算部によって求められた緩和問題の解が凸制約条件および非凸制約条件を満たすか否かを判断する制約条件判断部を更に備える。この場合、制約条件判断部によって、緩和問題の解が凸制約条件および非凸制約条件を満たすか否かが判断され、その解を最適解とすることの妥当性を判断できる。
【0011】
いくつかの態様において、需給計画計算部によって求められた緩和問題の解がすべての凸制約条件およびすべての非凸制約条件を満たす場合に、需給計画計算部は、緩和問題の解を最適化問題の大域的最適解として出力する。
【0012】
いくつかの態様において、需給計画計算部によって求められた緩和問題の解がすべての凸制約条件を満たし且つ一部またはすべての非凸制約条件を満たさない場合、需給計画計算部は、緩和問題の解を初期解として、凸制約条件および非凸制約条件を考慮した目的関数の元問題を、決定論的局所探索手法を用いて解く。上記したように、緩和問題では、初期値に依存せずに唯一の解が得られる。この唯一の解が元問題の最適化の初期値となるため、決定論的局所探索手法を用いて元問題を解いた結果得られる局所的最適解は、一意に定まる。
【0013】
いくつかの態様において、需給計画計算部によって求められた元問題の解がすべての凸制約条件およびすべての非凸制約条件の両方を満たす場合に、需給計画計算部は、元問題の解を最適化問題の局所的最適解として出力する。この場合、制約条件判断部によって、元問題の解が凸制約条件および非凸制約条件を満たすか否かが判断され、その解を最適解とすることの妥当性を判断できる。上述のとおり、元問題を解いて得られる局所的最適解は一意であるため、非凸制約条件を含み、複数の局所的最適解を有する需給計画最適化問題においても、計算の度に需給計画が変化することがないため、得られた需給計画を現実の機器運転に反映しやすい。
【0014】
いくつかの態様において、エネルギーマネジメントシステムは、需給計画計算部によって算出された解を需給計画として保存するか棄却するかを判断する需給計画採否判断部を更に備える。需給計画採否判断部では、需給計画計算部で計算された需給計画が実行可能でない場合であっても、その原因が将来の制約を満たせないことによるものである場合、現時刻に関する制約をすべて満たすことを条件として、その解を暫定的に需給計画として採用し記憶領域に保存する。このようにすることで、将来的に天候の変動等により再度実行可能な需給計画が得られる場合に備えて需給計画計算を継続することができる。
【0015】
いくつかの態様において、目的関数は受電電力コストに関する関数であり、マイクログリッドにおいて電力が余剰である場合に、余剰電力を外部電力系統に供給して売電するか、または、蓄電装置に供給するかを、ポリシーとしてユーザが予め定めることができる。目的関数が受電電力コストに関する関数であり、かつ買電時の電気料金の単価よりも売電時の電気料金の単価の方が高く設定されている場合、電気料金関数は非凸関数となるため、需給計画最適化問題は上述した狭義凸最適化問題とならず、凸制約条件のみを考慮した緩和問題の最適化において、複数の局所的最適解をもつ可能性がある。そこで、電力余剰時のポリシーとして、余剰電力を売電するか、あるいは余剰分とそれに加え、さらに買電して蓄電池装置の充電を進めるかを定めておくことにより、電気料金関数を凸関数として定義でき、緩和問題の最適化において一意な解を求めることができるようになる。
【0016】
本発明は、再生可能エネルギーにより発電を行う発電機と蓄電装置と負荷とを備えると共に外部電力系統に接続されたマイクログリッドにおける、エネルギーの需給計画を最適化する電力需給計画最適化方法であって、エネルギーマネジメントシステムが、最適化の指標であると共に狭義凸関数である目的関数の最適化問題を解くことにより需給計画を計算する際に、凸制約条件と非凸制約条件とを含む制約条件のうち、凸制約条件のみを考慮した緩和問題を解くことにより需給計画を計算するステップを含む。この電力需給計画最適化方法を用いれば、狭義凸関数として定義された指標が最小化された需給計画が計算される。よって、上記したエネルギーマネジメントシステムと同様の作用効果が奏される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マイクログリッドが非線形性を有する機器を備える場合でも、需給計画を確実に且つ安定して計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態のエネルギーマネジメントシステムが適用された電力供給システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図1中のエネルギーマネジメントシステムの機能ブロック図である。
図3図2のエネルギーマネジメントシステムにおいて実行される処理を示すフローチャートである。
図4図3中の需給計画最適化処理を示すフローチャートである。
図5】(a)は電気料金関数を示す図、(b)は電力余剰時のポリシーに沿ったフローチャートである。
図6】(a)は緩和問題の最適化の概念図、(b)は元問題の最適化の概念図である。
図7図2のエネルギーマネジメントシステムによって計算された需給計画における、蓄電池の充放電量の一例を示す図である。
図8】マイクログリッドにおける売電時の電気自動車、蓄電池、原動機の解列状態を説明するための図である。
図9図2のエネルギーマネジメントシステムによって計算された需給計画における、蓄電池の充放電量の他の例を示す図である。
図10】本発明の一実施形態の電力需給計画最適化プログラムが格納された記憶媒体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
(電力供給システムおよびエネルギーマネジメントシステム)
図1を参照して、本実施形態に係るエネルギーマネジメントシステムが適用された電力供給システム1について説明する。図1に示されるように、電力供給システム1は、複数種類の発電機と電力消費機器とを備えたマイクログリッドGと、マイクログリッドGにおける各機器の制御値を計算するエネルギーマネジメントシステム20とを備える。以下の説明において、「エネルギーマネジメントシステム」を「EMS」と略称する。図1において、実線の矢印は電気の流れを示しており、破線の矢印は情報の流れを示している。
【0021】
電力供給システム1は、たとえばビルまたは工場等を所有する需要家によって利用され得る。電力供給システム1は、たとえば再生可能エネルギー発電機を所有する売電事業者によって利用され得る。EMS20は、このような需要家または売電事業者に対して、最適化されたエネルギーの需給計画を提供する。
【0022】
マイクログリッドGは、太陽光発電機3および風力発電機4を含む再生可能エネルギー発電機5と、化石燃料を用いて発電を行う原動機7とを備える。原動機7としては、たとえばガスタービンを用いることができる。また、原動機7として、コージェネレーション用ガスタービンを用いることもできる。マイクログリッドGは、マイクログリッドG内の電力を消費する負荷6と、マイクログリッドG内の電力を用いて走行する電気自動車(蓄電装置)8とを更に備える。負荷6は、電力を消費する複数の機器を含み得る。電気自動車8は、図示しない蓄電池を含んでおり、電力を蓄電および放電可能である。電気自動車8は、たとえば充電スタンドを含み得る。マイクログリッドGは、電力を蓄電および放電可能な蓄電池(蓄電装置)9を更に備える。蓄電池9としては、たとえばリチウムイオン電池を用いることができる。マイクログリッドGは、上記した複数の電力機器が電気的に接続されたグリッド制御装置10を備える。グリッド制御装置10は、外部電力系統2に接続されている。言い換えれば、上記した複数の電力機器のそれぞれは、グリッド制御装置10を介して外部電力系統2に接続されている。
【0023】
マイクログリッドGにおける使用電力は、再生可能エネルギー発電機5または原動機7または電気自動車8または蓄電池9によって賄われる。その他、マイクログリッドGでは、外部電力系統2から電力を購入(すなわち買電)したり、外部電力系統2に対する逆潮流により電力を売却(すなわち売電)したりすることが可能である。一般的に、買電価格は電力会社との契約に依存するが、本実施形態では、買電価格は時間帯に依存して変化することを想定する。売電価格は、たとえば「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」により規定される。なお、買電価格または売電価格は、上記の制度とは別に定められてもよい。
【0024】
グリッド制御装置10は、たとえばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)等のハードウェアと、ROMに記憶されたプログラム等のソフトウェアと、を備えている。グリッド制御装置10は、グリッド制御装置10に接続された電力機器を統括的に制御する。グリッド制御装置10は、電気の流れを制御するための制御回路および蓄電池等を備える。グリッド制御装置10は、外部電力系統2からの受電電力および外部電力系統2への逆潮流電力を制御する。グリッド制御装置10と各電力機器とは、互いに情報通信を行うことができる。グリッド制御装置10は、各電力機器の現在状態に関する情報等を取得する。グリッド制御装置10は、各電力機器に制御値を出力する。グリッド制御装置10は、取得した各電力機器に関する情報を記憶する。グリッド制御装置10は、各電力機器に関する情報をEMS20に送信する。
【0025】
上記したグリッド制御装置10の各電力機器のうち、原動機7、電気自動車8および蓄電池9は、グリッド制御装置10によって出力制御可能な機器に相当する。
【0026】
EMS20は、たとえばCPU、ROM、およびRAM等のハードウェアと、ROMに記憶されたプログラム等のソフトウェアと、から構成されたコンピュータである。EMS20は、後述する電力需給計画最適化プログラム120を含んでいる。EMS20とグリッド制御装置10とは、互いに情報通信を行うことができる。EMS20とグリッド制御装置10とは、インターネットを介して通信可能であってもよいし、有線または無線のLAN等を介して通信可能であってもよい。EMS20は、マイクログリッドG内の各電力機器に対する制御値を計算する機能を有する。言い換えれば、EMS20は、グリッド制御装置10に制御値を送信することにより、グリッド制御装置10を通じて、マイクログリッドG内の各電力機器を制御する。
【0027】
より詳細には、EMS20は、ある一定の指標を目的関数として、マイクログリッドGにおける将来一定期間のエネルギーの需給計画を最適化する。最適化の指標すなわち目的関数としては、たとえば、グリッド運用コストすなわち計画期間(たとえば一日)を通しての電気料金の最小化、計画期間を通しての受電電力変動量の最小化、排出COの最小化等が挙げられる。EMS20は、目的関数の最適化問題を解くことにより、需給計画を計算する。目的関数は、上記した3つの指標以外の指標であってもよい。目的関数とされる指標は、特に限定されない。また、目的関数は複数の目的関数の加重和で定義されていてもよい。最適化問題の定式化の詳細については、後述する。
【0028】
目的関数の独立変数は、マイクログリッドG内において制御可能なものであれば、何であってもよい。たとえば、独立変数は、蓄電池9における各時刻の充放電電力であってもよい。独立変数は、電気自動車8における各時刻の充放電電力であってもよい。独立変数は、原動機7における各時刻の発電電力であってもよい。また、マイクログリッドG内の制御可能機器である原動機7、電気自動車8、蓄電池9の数は全体で1以上であればよく、任意個であってよい。原動機7、電気自動車8、蓄電池9は、機器ごとに異なる性能を有していてもよい。
【0029】
一方で、電力供給システム1は、マイクログリッドGにおける需要電力量および発電量の予測値を記憶する需要・発電量予測データベース12を備える。EMS20と需要・発電量予測データベース12とは、互いに情報通信を行うことができる。EMS20は、特定の日時における需要電力量および発電量の予測値を需要・発電量予測データベース12から取得する。需要・発電量予測データベース12に記憶される需要電力量および発電量の予測値は、定期的に更新される。
【0030】
EMS20は、グリッド制御装置10から取得するマイクログリッドGの各電力機器に関する最新の情報(たとえば機器状態等)と、需要・発電量予測データベース12から取得する発電量および需要電力量に関する最新の情報(たとえば予測値等)とに基づいて、需給計画を修正する(すなわち需給計画を更新する)。マイクログリッドGの各電力機器に関する情報(たとえば機器状態等)および/または発電量および需要電力量に関する情報(たとえば予測値等)は、需給計画の計算において、パラメータとして用いられる。すなわち、パラメータは、再生可能エネルギー発電機5、原動機7、蓄電池9および負荷6の少なくとも1つに関する現在値または予測値を含んでいる。
【0031】
EMS20は、需給計画の計算において、所与の制約条件のもとで目的関数を最小化するような独立変数の値を求める。たとえば、EMS20は、目的関数の最適化問題を解くことにより、原動機7における各時刻の発電電力を計算する。EMS20は、電気自動車8における各時刻の充放電電力を計算する。EMS20は、蓄電池9における各時刻の充放電電力を計算する。EMS20は、原動機7の発電電力、電気自動車8の充放電電力、蓄電池9の充放電電力に従属するかたちで、外部電力系統2から購入する各時刻の受電電力を計算する。
【0032】
(エネルギーマネジメントシステム20の機能構成)
図2を参照して、EMS20の機能構成について説明する。EMS20は、統括制御部20aと、通信部21と、計算部22と、記憶部23と、表示部24とを備える。統括制御部20aは、EMS20における処理を統括制御する。統括制御部20aは、たとえば、需給計画計算時刻であるか否かを逐次判断する。通信部21は、グリッド制御装置10および需要・発電量予測データベース12に対して情報通信を行う入出力部である。計算部22は、需給計画を計算する。計算部22は、需給計画計算部22aと、制約条件判断部22bと、需給計画採否判断部22cと、表示制御部22dとを含む。需給計画計算部22aは、最適化問題(後述する緩和問題または元問題)を解くことにより、需給計画を計算する。また、需給計画計算部22aは、グリッド制御装置10および需要・発電量予測データベース12から、パラメータを取得する。制約条件判断部22bは、需給計画計算部22aによって計算された需給計画(得られた解)が制約条件を満たすか否かを判断する。需給計画採否判断部22cは、需給計画計算部22aによって計算された需給計画の採否を判断する。需給計画採否判断部22cは、需給計画を採用する場合、その需給計画を需給計画記憶部23cへ保存する。表示制御部22dは、需給計画の計算結果に応じて表示部24を制御する。
【0033】
記憶部23は、ハードディスク装置またはフラッシュメモリなどを有している。記憶部23は、問題記憶部23aと、パラメータ記憶部23bと、需給計画記憶部23cと、ポリシー記憶部23dとを含む。問題記憶部23aは、需給計画計算部22aによって解かれる最適化問題(緩和問題または元問題)を記憶する。パラメータ記憶部23bは、需給計画計算部22aによって取得されたパラメータを記憶する。需給計画記憶部23cは、需給計画計算部22aによって計算された需給計画を記憶する。ポリシー記憶部23dは、予め定められたポリシーを記憶する。
【0034】
表示部24は、たとえばディスプレイであり、パラメータ、需給計画等を表示する。表示部24は、パラメータ、需給計画等に含まれる詳細な情報を表示してもよい。たとえば、表示部24は、タッチパネル等を備えており、マイクログリッドG内の電力機器が選択されることにより、当該電力機器の運転スケジュール(充放電スケジュールまたは発電スケジュール等)を表示してもよい。表示部24は、計算部22によって制御されて、EMS20のユーザに対して所定のメッセージ(たとえば案内メッセージまたは警告メッセージ等)を表示してもよい。
【0035】
(最適化問題)
続いて、問題記憶部23aに記憶される最適化問題(緩和問題または元問題)について説明する。以下の説明では、蓄電池9、太陽光発電機3、風力発電機4および負荷6からなるマイクログリッドGにおける需給計画最適化問題の定式化の例を下記式(1)〜(7)に示す。
【0036】
各関数は、以下の式(1)〜(5)を満たす。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】
【0037】
ここで、以下の式(6)および(7)が成り立っている。
【数6】

【数7】
【0038】
上記の各式における独立変数を下記の表1に示す。また、従属変数を下記の表2に示し、定数および定義済み関数の意味を下記の表3に示す。以下、k=1…kは時刻を意味し、記号に(k)が付記されたものは時刻依存の量であることを示す。上記式(1)におけるg(EBT)は、目的関数の狭義凸性を保証するために付与される適当な関数であり、元々最小化したい目的関数の狭義凸性が保証されているならば不要である。この関数は、元の目的関数の評価に影響のない程度の小さい値をとるものとし、たとえばすべての独立変数の二乗和に微小な係数を乗じたものなどを採用することができる。上記式(7)は蓄電池9の充電時、放電時にそれぞれエネルギー損失が生じるという非線形性を考慮するための関数である。
【0039】
【表1】

【表2】

【表3】
【0040】
EMS20では、所与の制約条件は、凸制約条件と非凸制約条件の2種類に分類されている。凸制約条件と非凸制約条件とは、たとえば、アルゴリズムが設計者によって作成される段階で分類される。たとえば、凸制約条件の例としては、SOC(充放電状態;State of Charge)の上下限値、蓄電池9の充放電量の上下限値等が挙げられる。非凸制約条件の例としては、原動機7の運転条件(経済性と安定性の観点から、出力0%(停止)とするか、一定以上の出力で運転するかのいずれかとし、極端に低い出力での運転はしない)等が挙げられる。凸制約条件または非凸制約条件の判別は、制約条件を記述する数式の性質を用いることで判別され得るが、上下限値のように明らかに凸制約条件であるもの以外については、非凸制約条件と分類することができる。
【0041】
また、EMS20では、最適化問題は、元問題と緩和問題との2種類に分類されている。問題記憶部23aに記憶される最適化問題のうち、元問題は、凸制約条件および非凸制約条件の両方を考慮した最適化問題である。一方、緩和問題は、凸制約条件のみを考慮した最適化問題である。
【0042】
(ポリシーの設定)
次に、図5を参照して、ポリシー記憶部23dに記憶されているポリシーについて説明する。目的関数が受電電力コストに関する関数である場合について考える。図5(a)に示されるように、現状の法制度(たとえば「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」)では、買電時の電気料金の単価よりも売電時の電気料金の単価の方が高く設定されている。すなわち、売電料金Pbの傾きは、買電料金Paの傾きよりも大きくなっている。この場合、買電料金Paおよび売電料金Pbからなる電気料金の関数は、非凸関数である。仮に買電料金Paよりも単価の安い売電料金Pcに変更した場合には、買電料金Paおよび売電料金Pcからなる電気料金の関数は、凸関数になる。
【0043】
そこで、余剰電力を外部電力系統2に供給して売電するか、または、蓄電装置に供給するかを、ポリシーとして予め定めておくことができる。このようにポリシーを定めておくことにより、電気料金関数を凸関数とすることができる。まず、電力余剰時には売電すると定めている場合には、蓄電池9や原動機7といった「制御可能な機器」をマイクログリッドGから切り離す(解列させる)必要がある(図8参照)。よって、当該時刻についてはマイクログリッドG内から制御可能な機器がなくなるため、最適化の要素、すなわち独立変数がなくなる。一方、電力余剰時に売電せず、余剰分とそれに加えさらに買電して蓄電池装置の充電を進めると定めている場合には、蓄電池9の充放電電力の探索範囲を正側(買電側)に限定することができ、図5(a)の負側(売電側)の傾きを無視できる。よって、たとえば負側の傾きをゼロとすれば、電気料金関数を(狭義でない)凸関数とすることができる。上記をまとめると、電力余剰時のポリシーを予め定めておけば、電力余剰時刻の需給計画の最適化において、「当該時刻の需給を最適化から除外」または「電気料金関数を凸関数で定義」のいずれかを実現することができる。
【0044】
事前にポリシーを設定することにより目的関数を凸関数にできる例としては、電気料金のほか、原動機7の起動停止コストなどが考えられる。原動機7の起動停止コストを計上する場合、一般に目的関数は非凸関数となる。そこで、「マイクログリッドGにおいて一定以上の電力需要がある場合は原動機7を起動する」というポリシーを定めておくことにより、目的関数から原動機7の起動停止コストに関わる部分を除外することができる。
【0045】
(電力需給計画最適化方法)
図3を参照して、EMS20において実行される処理、すなわち本実施形態の電力需給計画最適化方法について説明する。以下の処理は、EMS20が起動している間、定期的に実行される。図3に示されるように、統括制御部20aは、需給計画計算時刻であるか否かを逐次判断する(ステップS01)。統括制御部20aによって需給計画が計算される頻度は、たとえば30分間隔とすることができる。ステップS01において需給計画時間であると判断すると、統括制御部20aは、需給計画計算部22aに需給計画最適化計算の指令を与える。その指令を受けて、需給計画計算部22aは、最適化問題を解くことにより、需給計画を計算する(ステップS02)。一方、ステップS01において需給計画時間ではないと判断すると、統括制御部20aは、ステップS01の判断を繰り返す。
【0046】
ステップS02の需給計画最適化において、需給計画計算部22aは、具体的に需給計画最適化問題を解き、なんらかの解を取得する。ステップS02の詳細は後述する。
【0047】
需給計画を計算する際、特定日の需給計画のみを考慮して需給計画を計算してもよい。たとえば、初回の需給計画計算時は0:00〜24:00の計画を計算し、次回は0:30分〜24:00の計画を計算してもよい。また、日付を考慮せず、常に24時間先までの需給計画を計算してもよい。たとえば、初回の需給計画計算時は0:00〜24:00の計画を計算し、次回は0:30分〜翌0:30の計画を計算してもよい。
【0048】
需給計画採否判断部22cは、需給計画計算部22aによって得られた最適解すなわち需給計画を採用するか否かを判断する(ステップS03)。このステップS03において、需給計画採否判断部22cは、ステップS02で計算された需給計画を吟味して、需給計画として採用する場合は需給計画記憶部23cに保存する。ステップS02において、実行可能な解が得られた場合は、需給計画採否判断部22cは無条件にその解を需給計画記憶部23cに保存し、需給計画を更新する(ステップS04)。
【0049】
ステップS02において実行不可能な解が得られた場合でも、その原因が将来の制約を満たせないことによるものである場合、現時刻に関する制約をすべて満たすことを条件として、需給計画採否判断部22cは、その解を暫定的に需給計画として採用する(ステップS05)。表示制御部22dは、表示部24に警告メッセージを表示する(ステップS06)。需給計画採否判断部22cは、その解を需給計画記憶部23cに保存し、需給計画を更新する(ステップS04)。
【0050】
このようなケースとしては、需要ピーク時に蓄電池SOC(充放電状態;State of Charge)が不足する等が挙げられる。このようなケースにおいても、天候の変動にともなう再生可能エネルギー発電機5の発電量の増加により、将来的に実行可能解が得られる可能性があるため、必ずしも実行可能解を得るのに失敗した段階で図3の処理を終了する必要はない。ステップS06において、表示部24に表示される警告メッセージとしては、制約違反内容に応じて、たとえば「現状の予測では将来的にSOCが不足する可能性があります」等が挙げられる。またステップS02で計算された需給計画が現時刻時点で実行不可能な場合は(ステップS05;NO)、需給計画採否判断部22cはその解を棄却したうえで、図3に示される処理を終了する。
【0051】
EMS20は、上記ステップS02の需給計画最適化処理に特徴を有する。図4を参照して、ステップS02の需給計画最適化処理について説明する。まず、需給計画計算部22aは、問題記憶部23aに保存された最適化問題を読み込み(ステップS11)、次にパラメータを読み込んで問題作成を行う(ステップS12)。ここでいうパラメータとは、たとえばマイクログリッドG内の機器構成や、グリッド制御装置10から取得した電気自動車8や蓄電池9のSOC、原動機7の残り燃料、再生可能エネルギー発電機5の発電量、負荷6の需要量、需要・発電量予測データベース12から取得した需要・発電量予測値等である。
【0052】
次に、需給計画計算部22aは、ポリシー記憶部23dからポリシーを取得する(ステップS13)。このポリシーとは、たとえば、上記した電力余剰時ポリシーである。
【0053】
次に、需給計画計算部22aは、逆潮流時刻を決定する(ステップS14)。なお、ステップS13およびステップS14は、買電時の電気料金よりも売電時の電気料金の方が高いときのみ必要であり、買電時の電気料金の方が売電時の電気料金の方が高い場合、電気料金関数は凸となるので、売電・買電の判断まで含めて最適化が可能となる。需給計画計算部22aは、発電・需要予測、およびユーザが事前に定めた電力余剰時ポリシー(余剰電力を売電にまわすか,蓄電池充電にまわすか)に基づいて、計画期間中の逆潮流時刻を決定する。逆潮流を行うと定めた時刻の制御については,最適化対象から除外でき、当該時刻の原動機7の発電量、電気自動車8および蓄電池9の充放電電力は自動的にゼロに決定される。これは、図8に示されるように、原動機7、電気自動車8および蓄電池9を解列する必要があるためである。他方、逆潮をおこなわず、余剰電力を蓄電池充電に充当する時刻については、売電側の電気料金をゼロとし、さらに外部電力系統2からの受電量に関する制約条件を正(買電)に限定するよう問題を変換する。
【0054】
次に、ステップS15では、需給計画計算部22aは、目的関数と凸制約条件のみを考慮した凸最適化問題(緩和問題)を解く。ここで得られる解は、緩和問題の大域的最適解であり、図6(a)に示されるように、目的関数が狭義凸性を満たせば大域的最適解Saは唯一に存在する。
【0055】
次に、制約条件判断部22bは、ステップS15で需給計画計算部22aが求めた緩和問題の解が凸制約条件を満たすか否かを判断する(ステップS16)。制約条件判断部22bにおける判断基準としては、たとえば独立変数の制約逸脱量の二乗の総和などが考えられる。ステップS16において緩和問題の解が凸制約条件を満たすと判断された場合、制約条件判断部22bは、その解がすべての非凸制約条件を満たすか否かを判断する(ステップS17)。ステップS16において緩和問題の解がすべての凸制約条件を満たすと判断された場合、制約条件判断部22bは、その解がすべての非凸制約条件を満たすか否かを判断する(ステップS17)。一方、ステップS16において、制約条件判断部22bが、緩和問題の解が一部またはすべての凸制約条件を満たさないと判断した場合、表示制御部22dは、表示部24に警告メッセージを表示する(ステップS18)。この場合、表示部24に表示される警告メッセージとしては、「実行可能な解を発見できませんでした」等が挙げられる。そして、需給計画計算部22aは、得られた解を実行不可能な解として出力し(ステップS22)、図4の処理は終了する。
【0056】
ステップS17において、制約条件判断部22bが、緩和問題の解がすべての非凸制約条件も同時に満たすと判断した場合、需給計画計算部22aは、ここで得られた解を需給計画最適化問題の大域的最適解とみなして出力し、図4の処理を終了する(ステップS19)。大域的最適解とは、すべての局所的最適解のうち、もっとも小さな目的関数値を与える解のことをいう。一方、ステップS17において、制約条件判断部22bが、緩和問題の解が一部またはすべての非凸制約条件を満たさないと判断した場合、需給計画計算部22aは、緩和問題の解を初期解(初期値)として、決定論的局所探索手法を用いて、非凸制約条件を考慮した元問題を解く(ステップS20)。目的関数が(狭義)凸関数で定義される場合であっても、制約条件が非凸である場合、局所的最適解は一般に複数存在する。たとえば図6(b)に示されるように、非凸制約条件により分離した2つの実行可能解集合(制約条件を満たす集合)S1とS2が存在する場合では、実行可能解集合S1内部の解が得られるか、あるいは実行可能解集合S2内部の解が得られるかは探索初期解の取り方に依存する。しかし、このステップS20では、唯一に求まる緩和問題の大域的最適解を初期解として設定することから、決定論的局所探索手法を用いれば、ここで解く元問題の解もやはり唯一(図6(b)の場合では局所的最適解Sb)に求まる。またここで設定した初期解は、非凸制約条件の違反を除けばもっとも有望な解であり、局所探索手法によりその違反が解消された解が見つかれば、その解は大域的最適解あるいはその近傍の経済性に優れた解であることが見込まれる。
【0057】
次に、制約条件判断部22bは、ステップS20で需給計画計算部22aが求めた元問題の解が凸制約条件および非凸制約条件を満たすか否かを判断する(ステップS21)。ステップS21において、制約条件判断部22bが、元問題の解がすべての凸制約条件および非凸制約条件を満たすと判断した場合、需給計画計算部22aは、得られた解を出力して図4の処理を終了する(ステップS19)。一方、ステップS21において、制約条件判断部22bが、元問題の解が凸制約条件および非凸制約条件の少なくとも一方を満たさないと判断した場合、表示制御部22dは、表示部24に警告メッセージを表示し(ステップS18)、需給計画計算部22aは得られた解を実行不可能な解として出力し(ステップS22)、図4の処理は終了する。
【0058】
図7および図9に、上記の処理方法を適用した需給計画最適化シミュレーション結果(0:00〜24:00の電気料金を最小化)の例を示す。このシミュレーションでは、電力需要が厳しくなる日中午後の電気料金を高く設定し、電力需要の小さい午前中や夜間の電気料金を低く設定している。最適化の結果、図7および図9に共通して、電気料金の安い早朝から午前にかけて蓄電池に充電をおこない午後に放電することで、電気料金の高い時間帯である午後の受電量を最小限に留める計画が得られた。また、このシミュレーションでは、午前中の一部時間帯で再生可能エネルギー発電機5の発電量の合計が負荷6の需要量の合計を上回り、余剰電力が発生するようなケース設定とした。図7は余剰電力をすべて売電するポリシーのもとで得られた最適需給計画であり,図9は売電をせず、余剰電力をすべて充電にあてる(もしくは必要に応じてさらに買電をおこなう)ポリシーのもとでの最適需給計画である。
【0059】
図5(b)および図7に示されるように、電力余剰時には余剰電力をすべて売電するポリシーであると、蓄電池9、原動機7等は解列するために(図8参照)、マイクログリッドG内で制御可能な機器が無くなるため、これらの機器の出力がゼロとしたうえで、余剰電力をそのまま売電することとなる。この場合、再生可能エネルギー発電機5から発電された電気を貯蓄することによるエネルギー損失がないため、一般的に経済的に有利な需給計画となる。
【0060】
図5(b)および図9に示されるように、電力余剰時には余剰分とそれに加え、さらに買電して蓄電池装置の充電を進めるポリシーであると、当該時刻において、目的関数として計上される電気料金は凸関数に変形できる。
【0061】
EMS20によれば、需給計画計算処理が定期的に実行され、最新の需要・発電量予測や各機器の現在値の情報をもとに需給計画が逐次更新される。これにより、常に最新の情報に基づいた最適な需給計画を提供し続けることができる。
【0062】
EMS20によれば、目的関数は狭義凸関数であり、制約条件は凸制約条件、非凸制約条件の両方を含んでいる。また、目的関数や制約条件は非線形関数によって定義され得る。よって、混合整数計画問題を解く場合に必要であった、目的関数と制約条件の線形性は、不要になっている。これにより、マイクログリッドGが非線形性を有する機器を備える場合でも、需給計画を確実に計算することができる。
【0063】
このエネルギーマネジメントシステムでは、まず、需給計画計算部22aによって、狭義凸関数である目的関数に対し、凸制約条件のみを考慮した緩和問題が解かれる(図4のステップS15)。緩和問題は狭義凸最適化問題であるため、ここで得られる解は、緩和問題の大域的最適解であり、唯一に存在する。
【0064】
制約条件判断部22bによって、緩和問題の解が凸制約条件および非凸制約条件を満たすか否かが、判断され(図4のステップS16,17)、その解を最適解とすることの妥当性を判断できる。
【0065】
緩和問題の解がすべての凸制約条件およびすべての非凸制約条件を満たす場合に、需給計画計算部22aは、緩和問題の解を需給計画最適化問題の大域的最適解として出力する(図4のステップS19)。
【0066】
緩和問題の解がすべての凸制約条件を満たし且つ一部あるいはすべての非凸制約条件を満たさない場合、需給計画計算部22aは、緩和問題の解を初期解として、凸制約条件および非凸制約条件を考慮した目的関数の元問題を、決定論的局所探索手法を用いて解く(図4のステップS20)。上述のとおり、緩和問題では、初期値に依存せずに唯一の解が得られる。この唯一の解が元問題の最適化の初期値(すなわち初期解)となるため、元問題を、決定論的局所探索手法を用いて解いた結果、局所的最適解が一意に求まる。
【0067】
元問題の解がすべての凸制約条件およびすべての非凸制約条件を満たす場合に、需給計画計算部22aは、元問題の解を需給計画最適化問題の局所的最適解として出力する(図4のステップS19)。この場合、制約条件判断部22bによって、元問題の解が凸制約条件および非凸制約条件を満たすか否かが判断され(図4のステップS21)、元問題の解が制約条件から逸脱しているか否かが判断されることにより、その解を最適解とすることの妥当性を判断できる。上述のとおり、元問題を解いて得られる局所的最適解は一意であるため、非凸制約条件を含み、複数の局所的最適解を有する需給計画最適化問題においても、計算の度に需給計画が変化することがないため、得られた需給計画を現実の機器運転に反映しやすい。
【0068】
需給計画採否判断部22cでは、需給計画計算部22aにより算出され、制約条件判断部22bにより実行可能と判断された解のほか、需給計画計算部22aで計算された需給計画が実行可能でない場合であっても、その原因が将来の制約を満たせないことによるものである場合、現時刻に関する制約をすべて満たすことを条件として、その解を暫定的に需給計画として採用し、需給計画記憶部23cに保存する。このようにすることで、将来的に天候の変動等により再度実行可能な需給計画が得られる場合に備えて需給計画計算を継続することができる。
【0069】
目的関数が受電電力コストに関する関数であり、買電時の電気料金の単価よりも売電時の電気料金の単価の方が高く設定されている場合、電気料金関数は非凸関数となる。そのため、需給計画最適化問題は上述した狭義凸最適化問題とならず、凸制約条件のみを考慮した緩和問題の最適化において、複数の局所的最適解をもつ可能性がある。そこで、電力余剰時のポリシーとして、余剰電力を売電するか、あるいは余剰分とそれに加え、さらに買電して蓄電池装置の充電を進めるかを定めておくことにより、電気料金関数を凸関数として定義でき、緩和問題の最適化において一意な解を求めることができるようになる。
【0070】
さらに、EMS20によれば、局所的最適解を多数もつ最適化問題に対して、いわゆるメタヒューリスティクス等の計算コストの高い手法を用いず、準ニュートン法等の高速な局所探索手法のみを用いて経済性に優れた需給計画を得ることができる。市販のPC程度の演算能力でも、実用上十分な速度で解を求めることができることが確認された。メタヒューリスティクスとは、「問題に対する事前知識を利用せずとも、短時間である程度良い解を得る手法群」であり、たとえば、Particle Swarm OptimizationやDifferential Evolutionなどが挙げられる。多数の局所的最適解をもつ問題や、目的関数の解析的情報(微分など)を利用できない問題に対して有効とされる。
【0071】
引き続いて、上述した一連の処理をEMS20に実行させるための電力需給計画最適化プログラムを説明する。図10に示されるように、電力需給計画最適化プログラム120は、コンピュータに挿入されてアクセスされる。あるいは、電力需給計画最適化プログラム120は、コンピュータが備える記憶媒体100に形成されたプログラム格納領域110に格納される。
【0072】
電力需給計画最適化プログラム120は、需給計画計算モジュール121と、制約条件判断モジュール122と、需給計画採否判断モジュール123と、表示制御モジュール124とを含んで構成される。需給計画計算モジュール121と、制約条件判断モジュール122と、需給計画採否判断モジュール123と、表示制御モジュール124とを実行させることにより実現される機能は、上述したEMS20の需給計画計算部22aと、制約条件判断部22bと、需給計画採否判断部22cと、表示制御部22dとの機能とそれぞれ同様である。
凸制約条件および非凸制約条件の両方を満たす場合に、解として出力する点を規定。(図4のステップS19の処理に相当)
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。たとえば、目的関数はグリッド運用コストに限られず、受電電力の平滑性等であってもよい。また、複数の目的関数の加重和としてもよい。
【0074】
最適化に使用するアルゴリズムは、大域的収束性の保証のある決定論的アルゴリズムであれば、種別を問わない。準ニュートン法の他では、最急降下法、共役勾配法、逐次二次計画法、主双対内点法等を適宜用いることができる。ここでいう大域的収束性とは、任意の初期値からいずれかの局所的最適解に収束することが保証されている性質を指す。
【0075】
上記実施形態では、EMS20がマイクログリッドGとは別に設けられる場合について説明したが、マイクログリッドGのグリッド制御装置10が、EMS20と同様の機能を備えていてもよい。マイクログリッドGは、たとえば燃料電池システムを備えていてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 電力供給システム
2 外部電力系統
3 太陽光発電機
4 風力発電機
5 再生可能エネルギー発電機
6 負荷
7 原動機
8 電気自動車
9 蓄電池
20 エネルギーマネジメントシステム
20a 統括制御部
22 計算部
22a 需給計画計算部
22b 制約条件判断部
22c 需給計画採否判断部
23a 問題記憶部
23d ポリシー記憶部
G マイクログリッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10