(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
連続鋳造によってスラブ鋳片(以下、単に、「鋳片」ともいう。)を製造する際、鋳片の厚み中央部には、平均組成よりも溶質元素が濃化した「中心偏析」、および「引け巣」とも称されるポロシティ(空孔)が導入されやすく、これらの中心偏析およびポロシティ等の内質欠陥を抑制することが必要である。内質欠陥が多く導入されると、鋼板の機械的特性が低下するからである。この場合、鋼板の耐食性も低下し得る。
【0003】
ポロシティは、鋳造後の圧延によって、圧潰して低減することが可能である。しかし、汎用的な連続鋳造機を用いて製造されるスラブ鋳片の厚みは、厚くとも300mm前後である。このため、要求される鋼板の厚みが増すほど、圧延圧下比(鋳片の厚み/鋼板の厚み)に制約が生じるので、鋳造後の圧延によって、ポロシティを十分に圧潰することが困難になる。したがって、この場合、鋳造が完了した段階のスラブ鋳片において、内質が良好であることが、厳格に求められる。
【0004】
一方、内質が良好であることを追求する観点からは、極厚鋼板を鋳造−造塊法により製造することも考えられるが、鋳造−造塊法を採用すると、連続鋳造法に比べ、生産能率、および歩留まりの大幅な低下が避けられない。
【0005】
特許文献1には、未凝固部を含む鋳片を連続鋳造機内で圧下することによって、鋳片の厚み中央部で、中心偏析比C/C0を0.7〜1.2の範囲(すなわち、負偏析を含む)に制御する方法が開示されている。しかし、特許文献1では、鋳片の厚み中央部のポロシティ欠陥に関しては明瞭には言及されていない。また、この方法では、許容範囲内の偏析比であっても、たとえば、1.0〜1.2の正偏析部に相当する部分では、ポロシティ欠陥の発生が避けられず、鋼板の機械的特性の要求レベルによっては、品質上問題となる。その結果、製造可能な鋼板の厚みが制限されてしまう。さらに、ポロシティ低減の要求がますます厳しくなっており、また、より薄肉の鋳片を高速で鋳造して低い圧下比の圧延で仕上げることが好ましいのに対して、特許文献1の方法では、これらの要求に十分に応えることができない。
【0006】
特許文献2および3には、鋳片の厚み中央部のポロシティ低減に有効な方法として、直径が400mmを超え一体的に形成された大径のロールを、複数対用いて、鋳片を圧下する方法が開示されている。しかし、鋳片の厚み中央部で正偏析が形成されることを防止し、負偏析を形成させることについては、教示も示唆もされていない。さらに、厚み中央部に未凝固部を有するスラブ鋳片が複数の大径ロールからなるロール群を通過すると、複数回のロール間バルジングが生じ、中心偏析の悪化、および内部割れの発生のリスクが増す。さらに、多数のロール対を長手方向に配置することにより、設備コストが著しく増加する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
「連続鋳造鋳片」とは、連続鋳造の対象であって、溶鋼が完全に凝固してなる鋳片のみならず、溶鋼と溶鋼が凝固してなる凝固シェルとが共存しているものも含むものとする。
【0014】
スラブ鋳片の厚み方向中央部での正偏析の発生を抑制することにより、機械的特性を高くするためには、ポロシティ欠陥を効果的に抑制することが前提となる。本発明者らは、ポロシティ欠陥を効果的に抑制するためには、2対の圧下ロールを備えた連続鋳造機を用い、まず、第1の圧下ロール対で連続鋳造鋳片を圧下することよってスラブ鋳片に負偏析を形成させた後、さらに、第2の圧下ロール対で完全に凝固した後の連続鋳造鋳片を圧下することが有効であることを見出した。
【0015】
さらに、検討を進めると、これらの圧下を行うに際して、下記(i)〜(iv)の条件で連続鋳造を行うと、中心偏析およびポロシティ欠陥を同時に低減できることが判明した。
(i) 第1および第2の圧下ロール対を構成する各圧下ロールの直径を、いずれも、450mm以上かつ600mm以下とする。
(ii) 第1の圧下ロール対と第2の圧下ロール対との間隔を、3m以上かつ7m以下とする。第1の圧下ロール対と第2の圧下ロール対との間には、汎用連続鋳造機と同様に、ロール径が330mm以下のサポートロールを配置させてもよい。
(iii) 第1の圧下ロール対による圧下では、圧下対象の連続鋳造鋳片の厚み中央部の固相率を0.2以下とし、連続鋳造鋳片を最大反力が得られる圧下量になるまで圧下する。
(iv) 第2の圧下ロール対による圧下では、完全凝固後の連続鋳造鋳片を最大反力が得られる圧下量になるまで圧下する。
【0016】
第1の圧下ロール対を構成する各圧下ロールの直径を、450mm以上かつ600mm以下として、上記(iii)の条件を満たすように、スラブ鋳片を圧下することにより、概ね、スラブ鋳片の厚み中央部に負偏析を形成させることができる。しかし、スラブ鋳片の幅は、一般的に、2m程度に及ぶため、操業上のばらつきとして、鋳片幅方向に関して、わずかに正偏析部が残存した部分が生じてしまうことが避けられない。こうした幅方向に残存した正偏析部を精緻に調査した結果、偏析の程度(溶質元素の濃化の程度)は、厚板材の品質を劣化させるレベルではないものの、厚板材の品質を劣化させ得るレベルのポロシティ欠陥が散見された。このようなポロシティ欠陥は、特に、圧延圧下比が小さいほど、すなわち、鋼板の厚みが増すほど、顕著であった。
【0017】
厚み中央部の固相率が0.2以下の連続鋳造鋳片に対して、第1の圧下ロール対による圧下のみを行うと、当該圧下後の連続鋳造鋳片は駆動ロールによって引き抜かれるだけで、連続鋳造鋳片には、軽圧下を含め、さらなる圧下力は付与されない。このため、幅方向にわたって残存した正偏析がそれ自体問題のないレベルであっても、凝固収縮に見合う量の圧下が与えられないことにより、厚板材の品質を劣化させ得るレベルのポロシティ欠陥が残存してしまう場合がある。
【0018】
スラブ鋳片の厚み中央部で負偏析を形成させ、かつ、ポロシティ欠陥を効果的に低減するためには、さらなるロール(第2の圧下ロール対)によって、完全凝固後の連続鋳造鋳片を圧下することにより、連続鋳造鋳片の内部を圧搾して、ポロシティをなくす、または小さくする必要があることを見出した。第2の圧下ロール対のロール径は、450mm以上かつ600mm以下であることが必要である。
【0019】
本発明者らは、以上の知見をもとに、本発明を完成した。本発明の連続鋳造方法は、上述のように、連続鋳造機を用いた、スラブ鋳片の連続鋳造方法である。前記連続鋳造機は、第1および第2の圧下ロール対を備えている。第1および第2の圧下ロール対は、それぞれ、450mm以上かつ600mm以下のロール径を有する1対の圧下ロールを備えている。第2の圧下ロール対は、第1の圧下ロール対に対して、連続鋳造鋳片の下流側に、3m以上かつ7m以下の間隔をあけて配置されている。当該連続鋳造方法は、厚み中央部の固相率が0.20以下の連続鋳造鋳片を、第1の圧下ロール対によって、当該連続鋳造鋳片の厚み中央部に負偏析を形成させる圧下量で圧下する第1圧下工程と、連続鋳造鋳片において第1圧下工程で圧下され完全凝固した部分を、第2の圧下ロール対によって、球換算相当直径で1mmを超えるポロシティ欠陥を残存させない圧下量で圧下する第2圧下工程とを含む。
【0020】
本発明のスラブ鋳片は、当該鋳片の厚み中央部で、当該鋳片の幅方向について、負偏析部の長さを積算した負偏析長の、評価対象範囲の長さに対する百分率である負偏析長さ率として、75%以上の値を有し、(V0−V)/V0×100(%)で定義されるポロシティ欠陥評価指標として、20%以上の値を有する。ここで、V(cm
3/g)は、当該鋳片の厚み中央部の単位重量あたりのポロシティ体積であって、当該鋳片の幅方向について平均したものである。また、V0は、鋳片の厚み1/4厚部の単位重量当たりのポロシティ体積を、当該鋳片の幅方向について平均したものである。ポロシティ欠陥評価指標を算出するにあたって、V0=3×10
-4cm
3/gとする。このスラブ鋳片は、上記連続鋳造方法により、鋳造することができる。
【0021】
本発明の連続鋳造方法で用いる鋳型のキャビティは、たとえば、厚みが250〜400mmで、幅が1400〜2300mmであるものとすることができる。
【0022】
連続鋳造鋳片圧下用のロールの直径を450mm以上かつ600mm以下とするのは、下記(1)〜(3)の理由による。
【0023】
(1)第1の圧下ロール対で、厚み中央部の固相率が0.2%以下である連続鋳造鋳片を圧下することによって、溶質が濃化した溶鋼を上流に排出し、鋳片の厚み中央部に負偏析を形成することができる。しかし、ロール径が小さいと、十分な圧下量を確保できず、溶質が濃化した溶鋼は、上流へ十分には排出されず、鋳片の厚み中央部に残存してしまう。これにより、厚板材の品質を劣化させるレベルの中心偏析が生じ得るだけでなく、内部割れも生じてしまう。このため、第1の圧下ロール対のロール径は、450mm以上、好ましくは、460mm以上とする必要がある。
【0024】
(2)第2の圧下ロール対で圧下する連続鋳造鋳片は、完全に凝固した状態にあるため、変形強度が高く、ロール径が小さいとロール自身が変形しやすくなる。そのため、このロールの変形を抑えると同時に、連続鋳造鋳片のポロシティが存在する部分、すなわち、厚み中央部へ、圧下が十分に伝わる必要がある。ロール径が小さいと、連続鋳造鋳片の圧下による変形が内部に及びにくくなるので、連続鋳造鋳片内部の圧搾効果が小さくなる。このため、第2の圧下ロール対のロール径は、450mm以上、好ましくは、460mm以上とする必要がある。
【0025】
(3)第1および第2の圧下ロール対のいずれについても、ロール径が大きすぎると、圧下反力が増大し、連続鋳造機内に設置することが困難になる。このため、第1および第2の圧下ロール対のロール径は、いずれも、600mm以下、好ましくは、580mm以下とする必要がある。
【0026】
第1の圧下ロール対で圧下する対象を、厚み中央部の固相率が0.2以下の連続鋳造鋳片とし、連続鋳造鋳片の厚み中央部に負偏析を形成させる圧下量で圧下する理由は、以下の通りである。
【0027】
上述のように、第1の圧下ロール対により、溶質の濃化した溶鋼を上流に排出して、鋳片の厚み中央部に負偏析を形成させる。鋳片の厚み中央部に負偏析を形成させるためには、たとえば、上述のように、第1の圧下ロール対により、最大反力が得られる圧下量で圧下すればよい。ところが、厚み中央部の固相率が0.2を超えると、流動抵抗が大きくなり、連続鋳造鋳片を圧下しても、必ずしも、溶質が濃化した溶鋼すべてを上流へ排出させることができず、鋳片の厚み中央部に正偏析が残存してしまう。また、この場合、鋳片幅方向に関して偏析のばらつきが大きくなってしまう。したがって、圧下する対象の連続鋳造鋳片の厚み中央部の固相率を0.2以下とすることは極めて有効である。
【0028】
鋳片の厚み中央部に効果的に負偏析を形成するためには、圧下量を少なくとも鋳型キャビティの厚みの6.6%とすることが必要であり、圧下量を増大させるほど、負偏析を効率的に形成することが可能となる。しかし、第1の圧下ロール対が、連続鋳造機において1段目の圧下ロールである場合、この圧下ロールによる可能な圧下量は、通常、最大でも鋳型キャビティの厚みの12.0%である。これより大きな圧下量を確保するには過大な装置構成が必要となり、ロール径も増大させざるをえない。1段目のロールとしての第1の圧下ロール対による圧下量は、鋳型キャビティの厚みの7.5%以上かつ11.0%以下であることが好ましい。
【0029】
汎用的な連続鋳造機における鋳型キャビティの厚みは高々300mm程度であり、その場合、厚み中央部の固相率が0.2以下の連続鋳造鋳片に対して、厚み中央部に負偏析を形成させるには、この連続鋳造鋳片を33mm程度圧下すれば十分である。
【0030】
第1の圧下ロール対と第2の圧下ロール対との間隔を3m以上かつ7m以下とする理由は、以下の通りである。
【0031】
第2の圧下ロール対で連続鋳造鋳片を圧下する目的は、連続鋳造鋳片内部のポロシティを圧潰することである。効果的にポロシティを圧潰するには、連続鋳造鋳片の中心と表面との温度差を、少なくとも300℃確保することが好ましい。第1の圧下ロール対で圧下される連続鋳造鋳片、すなわち、厚み中央部の固相率が0.2以下の連続鋳造鋳片は、凝固段階の早期に対応する。このような連続鋳造鋳片では、表面と中心との間の温度差が小さい。この温度差は、鋳片の冷却が進行するに従って大きくなる。連続鋳造鋳片の中心と表面との温度差を300℃以上確保するために、第1の圧下ロール対と第2の圧下ロール対との間隔を、3m以上とする必要がある。第1の圧下ロール対と第2の圧下ロール対との間隔は、3.5m以上とすることが好ましい。
【0032】
また、第1の圧下ロール対と第2の圧下ロール対との間隔が7mを超えると、第2の圧下ロール対で圧下する連続鋳造鋳片の温度が低くなりすぎて、連続鋳造鋳片の変形抵抗が増して圧下不足となる上、連続鋳造鋳片の中心と表面との温度差が小さくなり、圧下による連続鋳造鋳片の変形が中心部まで及びにくくなる。このため、第1の圧下ロール対と第2の圧下ロール対との間隔を、7m以下とする必要である。第1の圧下ロール対と第2の圧下ロール対との間隔は、6.6m以下とすることが好ましい。
【0033】
第1の圧下ロール対と第2の圧下ロール対との間隔を、3m以上かつ7m以下とすることにより、第2の圧下ロール対として、第1の圧下ロール対と同一仕様の圧下ロールを用いても、設備的な過負荷を伴うことなく、ポロシティを低減することができる。
【0034】
鋳片の厚み中央部に残存するポロシティを圧潰するためには、第2の圧下ロール対による圧下量は、大きければ大きいほど好ましい。しかし、大きな圧下量で連続鋳造鋳片を圧下しようとすると、圧下ロールの直径を大きくする必要がある。また、ある程度圧下量が大きくなると、ポロシティを圧潰する効果は飽和してしまう。これらの理由により、第2の圧下ロール対では、鋳型キャビティの厚みの0.5〜6.0%、好ましくは、1.0〜5.0%の圧下量を確保すればよい。
【0035】
本発明の連続鋳造方法では、厚み中央部の負偏析長さ率(中心偏析評価指標)が75%以上で、かつ、ポロシティ欠陥評価指標が20%以上である鋳片が得られるように連続鋳造することが好ましい。
【0036】
負偏析長さ率は、「鋳片の幅方向両端部から、鋳片の厚みの1/2に相当する長さの領域を除いた部分において、鋳片の幅方向について、鋳片の厚み中央部での負偏析部の長さを積算した負偏析長の、負偏析長の評価対象範囲の長さに対する百分率(%)」である。鋳片の断面において、負偏析部であるか否かは、たとえば、色調で判断することができる。
【0037】
負偏析長さ率が75%以上であることが好ましい理由は、この要件を満たす鋳片を圧延して得られる鋼板には、正偏析に起因した機械的特性の低下が生じないからである。このような効果を十分に奏するため、負偏析長さ率は、80%以上にすることが好ましい。負偏析長さ率が75%未満の場合は、鋳片の幅方向における正偏析部の割合が大きくなるだけでなく、溶質元素の濃化量も増すため、正偏析に起因した鋼板の機械的特性の低下が避けられない。さらに、負偏析長さ率が75%未満の場合、第2の圧下ロール対による圧下直前の連続鋳造鋳片の厚み中央部には、球換算相当直径で1mmを超える粗大なポロシティ欠陥が含まれやすく、第2の圧下ロール対による圧下だけでは、それらを十分に圧潰できない。圧延圧下比を大きくして圧下すると、目的とする鋼板厚みが得られない場合があるだけでなく、製品として、高級品から汎用品へと格下げせざるを得ない場合があり、さらに、この鋳片をスクラップ処理した場合の歩留まり低下も伴う。
【0038】
ポロシティ欠陥評価指標は、以下のように定義される。
鋳片横断面に沿って、鋳片の厚み中央部で鋳片の幅方向に沿う方向の平均密度ρ[g/cm
3]を求める。同様にして、鋳片の厚み方向に関して1/4厚みの部分で鋳片の幅方向に沿う方向の平均密度ρ
std.[g/cm
3]を求める。ρおよびρ
std.から、下記(1)式に基づき、ポロシティ体積Vを求める。
V=1/ρ−1/ρ
std. (1)
【0039】
次に、第1の圧下ロール対で、厚み中央部の固相率が0.20以下の部分を圧下し、かつ第2の圧下ロール対による圧下を行わなかったこの連続鋳造鋳片について、(1)式を用いた場合と同様にして求めたポロシティ体積V0[cm
3/g]を求める。その値V0を基準値とし、その基準値V0からの偏差の百分率(%)として表わした、任意の連続鋳造鋳片におけるポロシティ欠陥評価指標は、下記(2)式により定義される。ただし、V0の値は、多くの場合、ほぼ3×10
-4cm
3/gとなるので、ポロシティ欠陥評価指標を算出するにあたり、V0=3×10
-4cm
3/gとする。
ポロシティ欠陥評価指標(%)=(V0−V)/V0×100 (2)
【0040】
ポロシティ欠陥評価指標が20%以上であることが好ましい理由は、この要件を満たす鋳片を圧延して得られる鋼板には、ポロシティ欠陥に起因した機械的特性の低下は生じないからである。このような効果を十分に奏するため、ポロシティ欠陥評価指標は、30%以上にすることが好ましい。ポロシティ欠陥評価指標が20%未満の場合は、鋼板の用途によっては、ポロシティ欠陥が問題となることがある。この場合、ポロシティ欠陥を低減するには、圧延圧下比が増す必要があり、製造可能な鋼板厚みに制約が生じてしまう。
【実施例】
【0041】
本発明の効果を確認するため、以下の連続鋳造試験を行い、得られた鋳片を評価した。
容量270tonの転炉で吹錬し、取鍋処理、RH処理(真空脱ガス処理)を行った溶鋼を、垂直部の長さ2.5mの垂直曲げ型連続鋳造機で鋳造した。
【0042】
図1は、試験に用いた連続鋳造機の構成を示す断面図である。RH処理を施された溶鋼4は、図示しないタンディッシュから、浸漬ノズル1を介して銅製の鋳型3の中に注入される。鋳型3のキャビティは、厚みが300mmであり、幅が2200mmであった。鋳型3の下部からは、連続鋳造鋳片8が下方へと引き出される。この時点で、連続鋳造鋳片8は、中央部の溶鋼4と、溶鋼4の周囲を覆う凝固シェル5とからなる。
【0043】
連続鋳造鋳片8は、その移動方向下流側に配置された図示しないピンチロールにより引き抜かれる。連続鋳造鋳片8の軸方向は、複数対のサポートロール6により、徐々に水平に向けられた後、第1の圧下ロール対7A、および第2の圧下ロール対7Bにより、順次圧下される。連続鋳造鋳片8の移動方向に沿って、第1の圧下ロール対7Aと第2の圧下ロール対7Bとの間、および第2の圧下ロール対7Bより下流側にも、複数対のサポートロール6が配置されている。連続鋳造鋳片8は、サポートロール6によっては、実質的に圧下されない。
【0044】
第1および第2の圧下ロール対7A、7Bは、いずれも、ロール径(直径)が470mmであり、圧下力が最大で600ton であった。第1の圧下ロール対7Aは、鋳型3内の溶鋼4のメニスカス2から、連続鋳造鋳片8に沿って21m下流の位置に配した。第2の圧下ロール対7Bは、メニスカス2より、連続鋳造鋳片8に沿って24mまたは29m下流の位置に配した。第1および第2の圧下ロール対7Aおよび7B近傍のサポートロール6の直径は205mmであった。隣接するサポートロール6同士の間隔は240mmであった。第1および第2の圧下ロール7Aおよび7Bの各々に対して、その直前のサポートロール6との間隔は385mmであり、直後のサポートロール6との間隔は255mmであった。
【0045】
タンディッシュ内の溶鋼の過熱度は、30〜45℃範囲で制御した。
図1に示す連続鋳造機を用いて、下記組成の鋼を連続鋳造した。C:0.16質量%、Si:0.22質量%、Mn:1.20質量%、P:0.004質量%、S:0.0008質量%、Cu:0.25質量%、Cr:0.90質量%、Ni:2.05質量%、Mo:0.40質量%、V:0.050質量%、Ti:0.015質量%、N:0.0025質量%、Al:0.040質量%、B:0.0015質量%、残部:Feおよび不純物。
【0046】
鋳型3、および鋳型3から引き出される連続鋳造鋳片8に対して、二次冷却スプレーノズル群からスプレー水を噴射して冷却した。二次冷却水量は0.59L/kg−steelとした。これにより、溶鋼4を凝固させて、スラブ鋳片を得た。
【0047】
鋳造速度、溶鋼4の過熱度などのパラメーターに基づき、非定常伝熱解析により、連続鋳造鋳片8の厚み方向の温度分布を予測することによって、第1の圧下ロール対7Aの位置を通過する部分の連続鋳造鋳片8について、厚み中央部の固相率(fs)を求めた。鋳造後のスラブ鋳片は、スラブ鋳片厚み中央部の偏析、およびポロシティを指標として評価した。
【0048】
[スラブ鋳片厚み中央部の偏析の評価]
鋳片の横断面(鋳造方向に垂直な面)を、機械研磨した後、3.6質量%の塩酸水溶液でエッチングして、観察した。鋳片の断面の色合いは、エッチング後の腐食状態によって異なり、エッチング後の腐食状態は、偏析によって異なる。鋳片の厚み中央部が負偏析である場合は、中央部は、その周辺部に比して、相対的に白く見える。一方、鋳片の厚み中央部が正偏析である場合は、中央部は、その周辺部に比して、相対的に黒く見える。
【0049】
鋳片の幅方向両端部から、鋳片の厚みの1/2に相当する長さ(この実施例の場合、150mm)の領域を除いた部分において、鋳片の厚み中央部の最終凝固幅での負偏析部の長さを積算した負偏析長を求めた。ここで、「最終凝固幅」とは、第1の圧下ロール対の位置での鋳片厚み方向中心部に残存する未凝固部の幅を意味する。この未凝固部は、圧下を行わなかった場合、凝固後、正偏析部となる。この正偏析部は、圧下を行わずに得た鋳片に対して、上述のエッチング後の色合いで判断する方法を適用することにより識別することができる。したがって、この正偏析部の幅を測定すると、最終凝固幅が得られる。鋳片の厚み中央部の偏析評価指標として、負偏析長の評価対象幅(この実施例の場合、1900mm=2200mm(鋳片幅)−150mm×2)に対する負偏析長の百分率(%)を用いた。
【0050】
以下、このように定義される評価指標を、「負偏析長さ率」という。鋳片の負偏析長さ率が75%以上、好ましくは、80%以上あれば、この鋳片を圧延して得られる鋼板において、正偏析に起因した機械的特性の劣化は生じない。
【0051】
負偏析長さ率が65%以上かつ80%以下である鋳片について、正偏析部から、鋳造方向の長さが20mm、鋳片の厚み中央を基準として厚み方向の長さが50mmの面を有する試料を採取し、この面について、電子線マイクロアナライザーによって、Mn濃度の面分析を行った。分析条件として、加速電圧を15kVとし、ビーム電流を4μAとし、さらに、ビーム径およびステップを50μmとして、1ピクセルあたりの分析時間を80msとした。
【0052】
最もMn濃度が高いピクセル位置を中心に、鋳造方向に沿って2mm幅(40ピクセル相当)のMn濃度を積算し、平均して得た値を、正偏析部の最大Mn濃度(CMax.;質量%)とした。また、化学分析により、鋳片のバルク組成のMn濃度(C0;質量%)を求めた。そして、CMax./C0で定義されるMn偏析度を求めた。
【0053】
このように定義されたMn偏析度と鋼板の品質との関係として、Mn偏析度が1.23を超えるとき、正偏析に起因した鋼板の機械的特性の低下が顕在化する傾向が認められた。Mn偏析度が1.23を超える試料では、いずれも、負偏析長さ率が75%未満であり、また、Mn偏析度が1.20を超える試料では、負偏析長さ率がほぼ80%未満となることを確認した。
【0054】
[スラブ鋳片厚み中央部のポロシティの評価]
鋳片横断面の鋳片の厚み中央に沿って、鋳片の幅方向に均等に16箇所から、試料を採取し、それらの密度を、JIS−Z8807(固体比重測定方法)に準じて測定した。試料の大きさは、鋳片の長さ方向に沿って50mm、鋳片の幅方向に沿って100mm、鋳片の厚み方向に沿って7mmとした。これらの16個の試料の密度を平均して、鋳片の厚み中央部(以下、「1/2厚部」ともいう。)の鋳片密度(ρ;g/cm
3)を決定した。同様にして、鋳片の厚み方向に関して、1/4厚みの部分(以下、「1/4厚部」ともいう。)からも鋳片の幅方向に関して均等に5箇所から試料を採取し、それらの密度を測定した。1/4厚部では、通常、ポロシティ欠陥が存在しないため、これら5個の試料の密度の平均値を、ポロシティの存在しない鋳片の基準密度(ρ
std.;g/cm
3)とした。そして、鋳片の厚み中央部の単位重量あたりのポロシティ体積Vを、(1)式に示すように、1/2厚部の試料の密度の逆数と1/4厚部の試料の密度の逆数との差とした。
V=1/ρ−1/ρ
std. (1)
【0055】
第1の圧下ロール対で、厚み中央部の固相率が0.20以下の部分を圧下し、かつ第2の圧下ロール対で圧下しなかった連続鋳造鋳片について、(1)式を用いた場合と同様にして求めたポロシティ体積V0(cm
3/g)を基準とし、(2)式によるポロシティ体積の減少率を、ポロシティ欠陥評価指標とした。
ポロシティ欠陥評価指標(%)=(V0−V)/V0×100 (2)
【0056】
また、スラブ鋳片厚み中央部における最大ポロシティ径を測定した。最大ポロシティ径は、以下のように求めた。上記1/2厚部から採取した試料をX線透過検査(非破壊検査)に供し、ポロシティ欠陥を検出した。そして、そのX線像から、画像の二値化処理によって、各ポロシティごとに球相当直径を算出し、その最大値を最大ポロシティ径とした。
【0057】
表1に、鋳片の製造条件、および評価結果を示す。
【0058】
【表1】
【0059】
実施例1〜4は、本発明の要件を満たす連続鋳造方法である。この連続鋳造方法により得られた鋳片は、「負偏析長さ率が75%以上であり、ポロシティ欠陥評価指標が20%以上である」との本発明の好ましい要件も満たす。特に、実施例4は、負偏析長さ率およびポロシティ欠陥指標の双方ともに、最も良好である。実施例1〜4により得られた鋳片の最大ポロシティ径は、いずれも、1mm以下と小さかった。実施例1〜4では、鋳片は、第2の圧下ロール対によって、1mm以上のポロシティ欠陥を残存させない圧下量で圧下されたと考えられる。
【0060】
比較例1〜4は、本発明の要件を満たさない連続鋳造方法である。
比較例1では、第1および第2の圧下ロール対のいずれによっても、連続鋳造鋳片を実質的に圧下しなかった。より詳細には、比較例1は、中心固相率fs=0.2〜0.6では圧下勾配0.6mm/mで、さらにfs=0.6以上では圧下勾配1.1mm/mで、第1の圧下ロール対により、連続鋳造鋳片を圧下したが、この圧下は、従来の軽圧下に相当する。比較例1の連続鋳造方法により得られた鋳片では、正偏析型の典型的な中心偏析が観察され、鋳片の厚み中央部には負偏析部は存在しなかった。また、この鋳片のポロシティ欠陥評価指標は、−170%で、第1の圧下ロール対でのみ連続鋳造鋳片を圧下した場合(比較例2)と比べても、著しく劣っていた。
【0061】
比較例2では、第1の圧下ロール対のみでしか鋳片を圧下しなかった。これにより得られた鋳片の厚み中央部には、適正範囲の負偏析が形成されているものの、ポロシティ欠陥が第2の圧下ロール対によって低減されることなく残存しているうえ、ポロシティ欠陥評価指標が20%未満(0%)である。
【0062】
比較例3では、第1の圧下ロール対と第2の圧下ロール対との距離が8m(メニスカスから第2の圧下ロール対まで、連続鋳造鋳片に沿う距離が29m)と、本発明で規定する7m以下との要件を満たしていなかった。そのため、第2の圧下ロール対で圧下する連続鋳造鋳片の温度が低くなりすぎて、連続鋳造鋳片の変形抵抗が増し、第2の圧下ロール対による圧下量が十分に確保できなかった。これにより得られた鋳片の厚み中央部には、許容できないポロシティ欠陥(ポロシティ欠陥評価指標が20%未満)が残存していた。
【0063】
比較例4では、第1の圧下ロール対により圧下した鋳片の厚み中央部の固相率が0.27であり、本発明で規定する固相率の要件を満たさなかった。これにより得られた鋳片では、負偏析長さ率は75%以下(67%)であり、ポロシティ欠陥指標は20%未満(7.2%)であった。
【0064】
比較例1〜4により得られた鋳片の最大ポロシティ径は、いずれも、1mmより大きかった。比較例1〜4では、鋳造時に、ポロシティが十分に圧潰されなかったと考えられる。