【実施例】
【0014】
(実施例)
以下では
図1−
図3を参照しながら、実施例に係るMEMS装置である光偏向装置1について説明する。光偏向装置1は、上部基板10と、下部基板20と、可動部12と、コア31,32とを備えている。
図1では、上部基板10と下部基板20が離間して図示されているが、実際は、上部基板10の下面と、下部基板20の上面とは接合されており、
図1では、下部基板20の内側にコア31,32の上方(z軸の正方向)の部分が収まるように配置されている。上部基板10と可動部12は、半導体基板を材料として、MEMS技術を用いて一体に成形されている。下部基板20は非磁性材料によって形成されており、下部基板20を介して、コア31,32と上部基板10が固定されている。コア31,32にはそれぞれコイルが捲回されているが、図示を省略している。
【0015】
可動部12は、ジンバル構造を有し、支持枠112と、ミラー構造体140と、上部基板10と支持枠112とを接続する可撓梁111a,111bと、支持枠112とミラー構造体140とを接続する可撓梁121a,121bとを備えている。可撓梁111a,111bは、
図1に示すy軸方向に伸びており、y軸周りに捻じれる。これによって、支持枠112はy軸周りに回転し、そのx方向の両端部は上部基板10に対してz方向に傾動することができる。可撓梁121a,121bは、
図1に示すx軸方向に伸びており、x軸周りに捻じれる。これによって、ミラー構造体140はx軸周りに回転し、そのy方向の両端部は上部基板10に対してz方向に傾動することができる。
【0016】
ミラー構造体140の上面(z軸の正方向の面)はミラーとなっており、これによって光が偏向される。ミラー構造体140の下面(z軸の負方向の面)には、直方体形状の永久磁石150が固定されている。永久磁石150としては、例えば、ネオジム磁石(Nd
2Fe
14B)、サマリウムコバルト磁石(SmCo
5(1−5系)、Sm
2Co
17(2−17系)等)、フェライト磁石等を用いることができる。本実施例では、
図7に示すように、永久磁石150は、可動部12側(z軸の正方向側)がS極であり、コア31,32側(z軸の負方向側)がN極であるが、N極とS極の向きを逆向きにすることもできる。
【0017】
図1〜3に示すように、略U字形状のコア31は、永久磁石150の下部を挟んでx方向に対向する磁極311,312を備えている。略U字形状のコア32は、永久磁石150の下部を挟んでy方向に対向する磁極321,322を備えている。コア31は、z方向に伸びる部分から磁極311,312に向かって(すなわち、永久磁石150に向かって)斜め上方に伸びており、磁極311,312に向かうほど上部基板10に近づいている。コア32は、z方向に伸びる部分から磁極321,322に向かって(すなわち、永久磁石150に向かって)斜め上方に伸びており、磁極321,322に向かうほど上部基板10に近づいている。コア31は、そのx方向の中央を通るyz平面について対称であり、コア32は、そのy方向の中央を通るzx平面について対称である。なお、
図1では、光偏向装置1は上部基板10が上方に、コア31,32が下方に配置された状態を図示しているが、光偏向装置1の設置方向は、この方向に限定されない。
【0018】
図示していないが、コア31,32には交流電源に接続されるコイルが捲回されている。コア31に捲回されたコイルに電流が流れ、磁極311,312によって永久磁石150にx軸方向の磁場が印加されると、可撓梁111a,111bが捻じれて上部基板10に対して支持枠112がy軸の周りに傾動する。コア32に捲回されたコイルに電流が流れ、磁極321,322によって永久磁石150にy軸方向の磁場が印加されると、可撓梁121a,121bが捻じれてミラー構造体140がx軸の周りに傾動する。光偏向装置1は、コア31,32にそれぞれ捲回されたコイルに流れる電流を制御可能な制御装置(図示しない)をさらに備えている。制御装置がコア31,32にそれぞれ捲回されたコイルに流れる電流の向きおよび大きさを制御することによって、支持枠112およびミラー構造体140の傾動する向きおよび傾動角を制御することができる。なお、限定されないが、コア31のコイルにはミラー構造体140のy軸周りの捻じれの共振周波数とは異なる周波数の電流が流れ、コア32のコイルにはミラー構造体140のx軸周りの捻じれの共振周波数の電流が流れるようにすることが好ましい。
【0019】
図4に示すように、光偏向装置1の磁極311の略正方形状の面には、8個の閉ループ40a,40b,40c,40d,40f,40g,40h,40iが絶縁性の接着剤によって貼りつけられている。8個の閉ループ40a,40b,40c,40d,40f,40g,40h,40iは、略正方形状の導電性の金属ワイヤのループであり、磁極311の面の中央の領域42を取り囲むように配置されている。
図5に示すように、光偏向装置1の磁極312の略正方形状の面には、8個の閉ループ41a,41b,41c,41d,41f,41g,41h,41iが絶縁性の接着剤によって貼りつけられている。8個の閉ループ41a,41b,41c,41d,41f,41g,41h,41iは、正方形状の導電性の金属ワイヤのループであり、磁極312の面の中央の領域43を取り囲むように配置されている。閉ループ40aと閉ループ41a,閉ループ40bと閉ループ41b,閉ループ40cと閉ループ41c,閉ループ40dと閉ループ41d,閉ループ40fと閉ループ41f,閉ループ40gと閉ループ41g,閉ループ40hと閉ループ41h,閉ループ40iと閉ループ41iは、それぞれy方向およびz方向に同じ位置に配置され、x方向に対向している。そのため、領域42と領域43とは、それぞれy方向およびz方向に同じ位置であり、永久磁石150のN極を挟んで対向している。コア31のコイルに電流が流れ、磁極311,312によって永久磁石150にx軸の正方向の磁場が印加されると、
図4,5に示すように、閉ループ40a〜d,40f〜i,および閉ループ41a〜d,41f〜iには、x軸の正方向から見て時計回りの誘導電流が流れる。この誘導電流によって、閉ループ40a〜d,40f〜i,閉ループ41a〜d,41f〜iの各ループ内では、x軸の負方向の磁束が発生し、各ループ外では、x軸の正方向の磁束が発生する。
【0020】
図6は、コア31の磁極311,312によって永久磁石150に印加される磁場が、閉ループ40a〜d,40f〜i,閉ループ41a〜d,41f〜iの誘導電流によって変化することを示す図である。縦軸は磁場の強さを示し、横軸は時間を示している。参照番号91に示す波形は、閉ループ40a〜d,40f〜i,閉ループ41a〜d,41f〜iが存在する状態で、コア31に捲回されたコイルに交流電流を流した場合に永久磁石150に印加される磁場の時間変化を示している。参照番号92に示す波形は、閉ループ40a〜d,40f〜i,閉ループ41a〜d,41f〜iが存在しない状態で、コア31に捲回されたコイルに交流電流を流した場合に永久磁石150に印加される磁場の時間変化を示している。閉ループ40a〜d,40f〜i,閉ループ41a〜d,41f〜iが存在する場合の波形91は、dtに示す分だけ、各閉ループが存在しない場合の波形92よりも位相が進む。光偏向装置1は、閉ループ40a〜d,40f〜i,閉ループ41a〜d,41f〜iを備えているため、可動部12は、波形92に示す磁場によって駆動される。このため、光偏向装置1では、制御装置は、位相の進みを補うために、例えば、コア31に捲回されたコイルに入力する電流信号の位相を時間dtに応じて遅れさせる。具体的には、例えば、コア31に捲回されたコイルに入力する電流信号の位相を時間dtだけ遅らせる。これによって、各閉ループが無い場合と同様に、可動部12を所望の波形で駆動することができる。
【0021】
図7の参照番号45a、45bに示す破線は、それぞれ、対向する領域42と領域43とによって挟まれた領域の上端45aと下端45bとを表している。永久磁石150のN極は、上端45aと下端45bとの間に位置しており、対向する領域42と領域43とによって挟まれた領域内(この領域内では、閉ループ40a〜d,40f〜i,閉ループ41a〜d,41f〜iに流れる誘導電流によって磁場が強化される)に配置されている。永久磁石150のS極は、上端45aの上方に位置しており、対向する領域42と領域43とによって挟まれた領域の外側に配置されている。
図7の向きで永久磁石150を配置した光偏向装置1の場合には、永久磁石150の磁極のうち、可動部12の回転軸に比較的近いS極よりも、比較的遠いN極により強い磁場を印加する方が、可動部12を動かすためのトルクを大きくすることができ、可動部12を大きく駆動させることができる。さらには、同じ方向の磁場からN極、S極が受ける磁力の方向は互いに反対向きであるため、永久磁石150のS極に印加される磁場が強化されると、可動部12の駆動が妨げられる。すなわち、可動部12を大きく駆動させるためには、永久磁石150のS極に印加される磁場は、強化されない方が好ましい。光偏向装置1では、閉ループ40a〜d,40f〜i,閉ループ41a〜d,41f〜iに流れる誘導電流によって、領域42と領域43とに挟まれた領域内に位置している永久磁石150のN極に印加される磁場は強化され、S極に印加される磁場は弱められる。このため、可動部12を動かすためのトルクを大きくすることができる。
【0022】
上記のとおり、光偏向装置1では、ミラー構造体140の下面に固定された永久磁石150の下部を挟んでx方向に対向する磁極311,312の略正方形状の面に、それぞれ8個の閉ループ40a〜d,40f〜iと、閉ループ41a〜d,41f〜iとが設置されている。閉ループ40a〜d,40f〜iは、永久磁石150と磁極311との間に位置する領域の周囲に配置されており、それらのループ面の法線ベクトルはx軸方向であり、磁極311,312によって永久磁石150に印加されるx軸の正方向の磁場の方向と平行である。また、閉ループ41a〜d,41f〜iは、永久磁石150と磁極312との間に位置する領域の周囲に配置されており、それらのループ面の法線ベクトルはx軸方向であり、磁極311,312によって永久磁石150に印加されるx軸の正方向の磁場の方向と平行である。すなわち、閉ループ40a〜d,40f〜i,閉ループ41a〜d,41f〜iの各ループ面は、磁極311,312によって永久磁石150に印加される磁場の方向と交差する向きで配置されている。
【0023】
8個の閉ループ40a〜d,40f〜i、および、8個の閉ループ41a〜d,41f〜iは、それぞれ、磁極311、磁極312の面上に、z方向およびy方向に9個の閉ループを3×3配列で配置し、その中央に位置する閉ループを取り除いた位置関係で配置されている。閉ループ40a〜d,40f〜iは、全体として領域42の周囲を取り囲むように配置されており、領域42は、閉ループ40a〜d,40f〜iの外側に配置されている。磁極311,312によって発生する磁場内に置かれることにより、閉ループ40a〜d,40f〜iには、誘導電流が流れる。領域42は、閉ループ40a〜d,40f〜iの外側に配置されているため、領域42では、磁極311,312によって発生する磁場が、閉ループ40a〜d,40f〜iによって発生する誘導磁場によって強化される。また、閉ループ41a〜d,41f〜iは、領域43の周囲を取り囲むように配置されており、領域43は、閉ループ41a〜d,41f〜iの外側に配置されている。磁極311,312によって発生する磁場内に置かれることにより、閉ループ41a〜d,41f〜iには、誘導電流が流れる。領域43は、閉ループ41a〜d,41f〜iの外側に配置されているため、領域43では、磁極311,312によって発生する磁場が、閉ループ41a〜d,41f〜iによって発生する誘導磁場によって強化される。永久磁石150は、そのN極が、対向する領域42と領域43とによって挟まれた領域内に配置されているから、閉ループ40a〜d,40f〜i,閉ループ41a〜d,41f〜iに流れる誘導電流によって、永久磁石150に印加される磁場が強化される。このため、光偏向装置1では、コア31等の電磁石を構成する部材を大きくすることなく、可動部12の駆動力を向上できる。なお、上記の実施例では、コア31に閉ループ40a等を設ける場合を例示して説明したが、コア32の2つの磁極321,322と永久磁石150との間にも同様に、導電性の閉ループを配置してもよい。この閉ループは、そのループ面がコア32の2つの磁極321,322によって永久磁石150に印加される磁場の方向(y方向)と交差する向きで配置される。また、この場合、制御装置は、コア32に対して配置される閉ループに誘導電流が流れるときに生じる位相の進みの分だけ、コア32に捲回されたコイルに入力する電流信号の位相を遅らせてもよい。
【0024】
(変形例)
光偏向装置1では、コア31の対向する2つの磁極311,312に、それぞれ、閉ループ40a〜d,40f〜i,閉ループ41a〜d,41f〜iが固定された形態を例示して説明したが、閉ループの設置位置は、これに限定されない。例えば、
図8に示すように、上部基板10aから下方に伸びた板状部材141、142に閉ループを配置してもよい。板状部材141,142は、矩形状の平板であり、その平面はx方向に直交し、その下端は、永久磁石150の下端まで伸びている。永久磁石150と磁極311との間に、板状部材141が配置されており、永久磁石150と磁極312との間に、板状部材142が配置されている。例えば、板状部材141の磁極311側の面141a,永久磁石150側の面141b、板状部材142の磁極312側の面142a,永久磁石150側の面142bの少なくともいずれか一つに、絶縁性の接着剤等を用いて閉ループを接着して固定してもよい。
【0025】
また、
図9に示すように、下部基板20側から上部基板10側に向かって伸びる板状部材431,432を設け、板状部材431の磁極311側の面431a,永久磁石150側の面431b、板状部材432の磁極312側の面432a,永久磁石150側の面432bの少なくともいずれか一つに、絶縁性の接着剤等を用いて閉ループを接着して固定してもよい。また、
図4では、領域42を囲む同一平面上に閉ループ40a〜d,40f〜iを配置する形態を例示して説明したが、全ての閉ループが同一平面上に存在する必要はない。例えば、
図4では、閉ループ40a〜d,40f〜iはx方向の位置が全て一致しているが、各閉ループのx方向の位置をそれぞれずらしてもよい。
【0026】
また、光偏向装置は、閉ループに替えて、スイッチを備えた開閉式の導電性のループを備えていてもよい。
図10は、
図4に示す8個の閉ループ40a〜d,40f〜iに替えて、9個の開閉式の導電性のループ50a〜iを用いてもよい。9個のループ50a〜iは、z方向およびy方向に3×3配列で配置されている。8個のループ50a〜d,50f〜iは、
図4に示す8個の閉ループ40a〜d,40f〜iと同じ位置に配置されている。ループ50eは、
図4に示す領域42の位置に配置されている。8個のループ50a〜d,50f〜iは、ループ50eの周囲を取り囲むように配置されている。
【0027】
この光偏向装置では、9個のループ50a〜iは、制御回路と接続されている。制御回路によって、ループ50a〜iのスイッチの開閉を切り替えることができる。
図10に示すように、ループ50eのスイッチを開に、ループ50a〜d,50f〜iのスイッチを閉に制御すると、ループ50a〜d,50f〜iによって誘導磁場が発生し、
図4に示す領域42と同様の領域(
図10においては、ループ50eが配置されている領域)において、磁極311,312によって永久磁石150に印加される磁場が強化される。なお、この開閉式のループは、コア32に対しても同様に配置することができる。
【0028】
図10に示す形態では、制御回路は、可動部12の傾動に合わせて、ループ50a〜iの開閉を切り替えることもできる。例えば、可動部の傾きが小さい場合には、
図10のように、ループ50eのスイッチを開に、ループ50a〜d,50f〜iのスイッチを閉に制御し、可動部12が大きく傾いて、永久磁石150のN極の位置が上方に移動した場合には、ループ50bを開とし、他のループ50a,50c〜iを閉に制御してもよい。可動部12の傾動によって永久磁石150の位置が変わる場合に、ループ50a〜iのそれぞれの位置が、永久磁石150と磁極311との間に位置する領域の周囲となる場合には、そのスイッチを閉に制御し、永久磁石150と磁極311との間に位置する領域内となる場合には、そのスイッチを開に制御することで、可動部12の傾き角に関わらず、永久磁石150に印加される磁場を強化することができる。
【0029】
また、閉ループ、および、開閉式のループを配置する位置関係は、
図4,5,10に示した位置関係に限定されない。閉ループまたは開閉式のループは、磁場を強化したい領域の周囲全体を取り囲んでいる必要はなく、その領域の周囲に少なくとも1つ配置されていれば、磁場を強化する効果を得ることはできる。例えば、
図11に示すように、磁場を強化したい領域53の鉛直上下方向(z方向)および水平方向(y方向)には、閉ループまたは開閉式のループは配置されておらず、鉛直上下方向および水平方向に対して略45°の斜め上下方向に閉ループ51a〜dが配置されていてもよい。
【0030】
また、閉ループまたは開閉式のループは、略正方形状である必要はなく、他の多角形状、円形状、楕円形状であってもよく、不定形状であってもよい。例えば
図12に示す閉ループ55a〜dのように、L字形状であってもよい。また、全てのループが同じ形状および同じ大きさである必要はない。なお、閉ループ51a〜d、55a〜dは、
図10と同様のスイッチを有する開閉式のループに置き換えることもできる。
【0031】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0032】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。