(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
(1.連続鋳造機の全体構成)
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る連続鋳造機の概略構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る連続鋳造機の概略構成を示す側断面図である。なお、
図1を含む以下に示す図面では、説明のため、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合があり、各図面において図示される各構成部材の相対的な大きさは、必ずしも実際の構成部材間における大小関係を正確に表現するものではない。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る連続鋳造機10は、連続鋳造用の鋳型1を用いて溶融金属2(例えば溶鋼)を連続鋳造し、スラブ等の鋳片3を製造するための装置である。連続鋳造機10は、鋳型1と、取鍋4と、タンディッシュ5と、浸漬ノズル6と、二次冷却装置7と、鋳片切断機8と、固体潤滑剤供給手段30と、を備える。
【0023】
取鍋4は、溶融金属2を外部からタンディッシュ5まで搬送するための可動式の容器である。取鍋4は、タンディッシュ5の上方に配置され、取鍋4内の溶融金属2がタンディッシュ5に供給される。タンディッシュ5は、鋳型1の上方に配置され、溶融金属2を貯留して、当該溶融金属2中の介在物を除去する。浸漬ノズル6は、タンディッシュ5の下端から鋳型1に向けて下方に延び、その先端は鋳型1内の溶融金属2に浸漬されている。当該浸漬ノズル6は、タンディッシュ5にて介在物が除去された溶融金属2を鋳型1内に連続供給する。
【0024】
なお、以下の説明では、上下方向(すなわち、タンディッシュ5から鋳型1に対して溶融金属2が供給される方向)を、z軸方向とも呼称する。また、z軸方向と垂直な平面(水平平面)内における互いに直交する2方向を、それぞれ、x軸方向及びy軸方向とも呼称する。また、x軸方向を、後述する鋳型1の長辺鋳型板と平行な方向として定義し、y軸方向を、後述する鋳型1の短辺鋳型板と平行な方向として定義する。
【0025】
鋳型1は、鋳片3の幅及び厚さに応じた四角筒状であり、例えば、一対の長辺鋳型板で一対の短辺鋳型板を幅方向両側から挟むように組み立てられる。これら鋳型板は、例えば水冷銅板で構成されている。鋳型1は、かかる鋳型板と接触する溶融金属2を冷却して、外殻の凝固シェル3aの内部に未凝固部3bを含む鋳片3を製造する。鋳片3が鋳型1下方に向かって移動するにつれて、内部の未凝固部3bの凝固が進行し、外殻の凝固シェル3aの厚さは、徐々に厚くなる。かかる凝固シェル3aと未凝固部3bを含む鋳片3は、鋳型1の下端から引き抜かれる。
【0026】
また、
図1では図示を省略しているが、鋳型1には、溶融金属2とともに、その上方から、モールドパウダーが供給される。供給されたモールドパウダーは、溶融金属2の熱により融解し、液体となったモールドパウダーが鋳片3と鋳型1の内壁との間に介在する。当該液体となったモールドパウダーにより、鋳片3と鋳型1の内壁との間の潤滑が保たれる。ただし、下記(2.従来技術に対する発明者らによる検討)で説明するように、鋳型1の内部には、冷却されることにより、凝固し、固体となったモールドパウダーも存在している。特に、鋳型1の下部では、固体となったモールドパウダーが、鋳片3と鋳型1の内壁との間に介在している。そして、固体となったモールドパウダーは、鋳片3の外周面に付着した状態で、鋳片3ととともに、鋳型1から引き抜かれる。
【0027】
二次冷却装置7は、鋳型1の下方の二次冷却帯9に設けられ、鋳型1下端から引き抜かれた鋳片3を支持及び搬送しながら冷却する。この二次冷却装置7は、鋳片3の厚さ方向両側に配置される複数対の支持ロール(例えば、サポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13)と、鋳片3に対して冷却水を噴射する複数のスプレーノズル(図示せず。)とを有する。
【0028】
二次冷却装置7に設けられる支持ロールは、鋳片3の厚さ方向両側に対となって配置され、鋳片3を支持しながら搬送する支持搬送手段として機能する。当該支持ロールにより鋳片3を厚さ方向両側から支持することで、二次冷却帯9において凝固途中の鋳片3のブレークアウトやバルジングを防止できる。
【0029】
支持ロールであるサポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13は、二次冷却帯9における鋳片3の搬送経路(パスライン)を形成する。このパスラインは、
図1に示すように、鋳型1の直下では垂直であり、次いで曲線状に湾曲して、最終的には水平になる。二次冷却帯9において、当該パスラインが垂直である部分を垂直部9A、湾曲している部分を湾曲部9B、水平である部分を水平部9Cと称する。このようなパスラインを有する連続鋳造機10は、垂直曲げ型の連続鋳造機10と呼称される。なお、本発明は、
図1に示すような垂直曲げ型の連続鋳造機10に限定されず、湾曲型又は垂直型など他の各種の連続鋳造機にも適用可能である。
【0030】
サポートロール11は、鋳型1の直下の垂直部9Aに設けられる無駆動式ロールであり、鋳型1から引き抜かれた直後の鋳片3を支持する。鋳型1から引き抜かれた直後の鋳片3は、凝固シェル3aが薄い状態であるため、ブレークアウトやバルジングを防止するために比較的短い間隔(ロールピッチ)で支持する必要がある。そのため、サポートロール11としては、ロールピッチを短縮することが可能な小径のロールが用いられることが望ましい。
図1に示す例では、垂直部9Aにおける鋳片3の両側に、小径のロールからなる3対のサポートロール11が、比較的狭いロールピッチで設けられている。
【0031】
ピンチロール12は、モータ等の駆動手段により回転する駆動式ロールであり、鋳片3を鋳型1から引き抜く機能を有する。ピンチロール12は、垂直部9A、湾曲部9B及び水平部9Cにおいて適切な位置にそれぞれ配置される。鋳片3は、ピンチロール12から伝達される力によって鋳型1から引き抜かれ、上記パスラインに沿って搬送される。なお、ピンチロール12の配置は
図1に示す例に限定されず、その配置位置は任意に設定されてよい。
【0032】
セグメントロール13(ガイドロールとも称する。)は、湾曲部9B及び水平部9Cに設けられる無駆動式ロールであり、上記パスラインに沿って鋳片3を支持及び案内する。セグメントロール13は、パスライン上の位置によって、及び、鋳片3のF面(Fixed面、
図1では左下側の面)とL面(Loose面、
図1では右上側の面)とで、それぞれ異なるロール径やロールピッチで配置されてよい。
【0033】
鋳片切断機8は、上記パスラインの水平部9Cの終端に配置され、当該パスラインに沿って搬送された鋳片3を所定の長さに切断する。切断された厚板状の鋳片14は、テーブルロール15により次工程の設備に搬送される。
【0034】
固体潤滑剤供給手段30は、鋳型1の下方から、固体となったモールドパウダー(以下、モールドパウダー固体層とも呼称する。)と鋳型1の内壁との間に、微粉体からなる固体潤滑剤を供給する。当該固体潤滑剤により、モールドパウダー固体層と鋳型1の内壁との間の潤滑が良好となり、鋳型1の内壁の摩耗及び損傷が抑制される。
【0035】
例えば、固体潤滑剤供給手段30は、気体とともに固体潤滑剤をモールドパウダー固体層と鋳型1の内壁との間に吹き込むノズルによって構成される。当該気体は、空気(エアー)であってもよいし、その他の任意の気体であってもよい。ただし、当該気体は、高温である鋳型1内に吹き込まれるものであるため、当該気体としては、反応性の低い不活性の気体が好適に用いられ得る。なお、固体潤滑剤供給手段30及び固体潤滑剤の具体的な構成については、下記(3−2.固体潤滑剤の供給方法について)で改めて詳しく説明する。
【0036】
以上、
図1を参照して、本発明に係る連続鋳造機10の全体構成について説明した。なお、本実施形態に係る連続鋳造機10は、一般的な従来の連続鋳造機に対して、固体潤滑剤供給手段30が追加されたものに対応する。固体潤滑剤供給手段30は、例えば上述した気体を用いて固体潤滑剤を吹き込むノズルのような、比較的簡易な機構によって構成されるものであるため、固体潤滑剤供給手段30を設けることによる設備的なコストはさほど大きなものではない。このように、本実施形態によれば、比較的簡易な構成によって、鋳型1の内壁の摩耗及び損傷を抑制することができる。
【0037】
また、連続鋳造機10によって製造される鋳片3の種類及びサイズは、特に限定されない。例えば、鋳片3は、厚さが250〜300(mm)程度のスラブ、500(mm)を超えるブルーム若しくはビレットであってもよいし、あるいは、厚さが100(mm)程度の薄スラブ、50(mm)以下の薄帯連続鋳造鋳片等であってもよい。また、鋳片3の素材は連続鋳造が可能な金属であればよく、例えば、鉄鋼、特殊鋼の他、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等、各種の金属であってよい。
【0038】
(2.本発明に想到した背景)
ここで、本実施形態について詳細に説明するに先立ち、本発明をより明確なものとするために、本発明者らが検討した、連続鋳造機の鋳型内部における従来の潤滑の様子について説明するとともに、本発明者らが本発明に想到した背景について説明する。
【0039】
従来、連続鋳造機においては、鋳片と鋳型の内壁との潤滑のために、モールドパウダーと呼ばれる紛体を、鋳型の上部から供給することが行われている。溶融金属の熱によって融解した液相のモールドパウダーが、鋳片と鋳型の内壁との間に入り込むことにより、鋳片と鋳型の内壁との潤滑が保たれる。
【0040】
しかしながら、本発明者らは、鋳型の内壁の摩耗について詳細に調査した結果、鋳型の下部領域の内壁の摩耗量が他の領域よりも大きいことを発見した。これは、モールドパウダーを供給しているにもかかわらず、当該下部領域における鋳型の内壁の摩耗が十分に抑制できていないことを示している。
【0041】
ここで、上記(1.連続鋳造機の全体構成)で説明したように、鋳片が鋳型から引き抜かれる際には、固体となったモールドパウダーが鋳片の外周面に付着していることが確認できている。これは、少なくとも鋳型の下部領域においては、モールドパウダーが、潤滑剤として機能し得る液体の状態ではなく、固体の状態で、鋳片と鋳型の内壁との間に介在していることを表している。本発明者らは、鋳型内部における従来の潤滑では、この固体となったモールドパウダーと鋳型の内壁とが摺動することにより、鋳型の内壁の摩耗が助長されているのではないかと考えた。
【0042】
図2及び
図3を参照して、このような、本発明者らが想到した、連続鋳造機の鋳型内部における従来の潤滑の様子について説明する。
図2は、連続鋳造中における鋳型及び鋳片の、水平平面(x−y平面)での断面図である。また、
図3は、鋳型内部における従来の潤滑の様子を示す概略図である。
図3では、
図2に示す鋳型及び鋳片のA−A断面での断面図とともに、鋳型の下部領域における、当該鋳型の内壁近傍の拡大図を概略的に図示している。
【0043】
図2及び
図3を参照すると、鋳片3は、冷却され凝固した外殻の凝固シェル3aと、当該凝固シェル3aの内部の未凝固部3bと、を含む。また、鋳型1に対しては、上方からモールドパウダーが供給されており、供給されたモールドパウダーは、鋳片3の熱により融解し、液体となったモールドパウダーは、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間に流入する。
【0044】
ここで、鋳造中において、鋳片3の未凝固部3bの温度は約1200℃〜1300℃であり、凝固シェル3aの厚みが比較的薄い鋳型1の上部領域では、鋳片3の表面温度もこれに準じた温度であり得る。しかしながら、鋳型1は冷却されているため、鋳型1の内壁の表面温度は300℃程度であり、鋳型の下部領域における凝固シェル3aの表面温度は約800℃にまで低下している。一方、モールドパウダーは、例えば、アルミニウム酸化物−シリコン酸化物−カルシウム酸化物からなる3元系の酸化物であり、その融点は約900℃〜1200℃である。
【0045】
従って、鋳型1に投入されたモールドパウダーは、鋳型1の上部領域においては、鋳片3から受ける熱によって、融解し液体として存在し得る。しかしながら、モールドパウダーは、例えば鋳型1の内壁との接触領域や、鋳型1の下部領域では、鋳型1の内壁や、比較的温度が低下している凝固シェル3aによってその温度が低下されるため、凝固し、固体として存在し得る。特に、鋳型1の下部領域では、鋳片3と鋳型1の内壁との間には、主に、固体となったモールドパウダーが介在していると考えられる(後述する
図5及び
図6を参照。)。
【0046】
本明細書では、便宜的に、鋳型1において、鋳片3と鋳型1の内壁との間に、主に、固体となったモールドパウダーが介在している領域を、鋳型1の下部領域と呼称し、当該下部領域よりも上方の領域を、鋳型1の上部領域と呼称することとする。なお、鋳型1における上部領域及び下部領域の境界は、鋳型1及び鋳片3の温度や、モールドパウダーの材料等によって適宜変化し得る。
【0047】
図3の左図は、鋳型1の下部領域における、当該鋳型の内壁近傍の拡大図である。図示するように、鋳型1の下部領域では、主に、固体となったモールドパウダーの層(モールドパウダー固体層22)が、鋳片3の凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間に介在していると考えられる。
【0048】
ここで、凝固シェル3aとモールドパウダー固体層22との境界についてより詳細に考察すると、凝固シェル3aの表面は、鋳型1の表面に比べて温度が高いため、当該凝固シェル3aと接触している領域には、未だ凝固していない液体となったモールドパウダーの層(モールドパウダー液体層21)が存在し得る。従って、凝固シェル3aとモールドパウダー固体層22との間の潤滑は、両者の間に存在するモールドパウダー液体層21によって、良好に保たれ得る。
【0049】
一方、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との境界には、潤滑剤として作用する物質が存在しない。従って、当該境界においては、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁とが、直接的に擦れ合っていると考えられる。本発明者らは、このような、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との直接的な摩擦が、鋳型1の下部領域において当該鋳型1の内壁の摩耗量が大きくなっている原因であると考えた。
【0050】
なお、本明細書では、このように、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁とが直接的に擦れ合っている状況のことを、便宜的に、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁とが接触している、と表現することとする。ただし、当該接触という表現は、必ずしも、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁とが完全に隙間なく接触していることを意味しない。
図3の左図に示すように、モールドパウダー固体層22の表面は滑らかではないため、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁とが接触している場合であっても、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間には、当該表面の粗さに応じた僅かな隙間が存在し得る。
【0051】
従来、例えば特許文献1〜3に記載の技術のように、融解して液体となったモールドパウダーの潤滑剤としての性能を向上させる技術については、様々な技術が開発されていた。しかしながら、凝固して固体となったモールドパウダーと鋳型1の内壁との摩擦については、十分に検討されていなかった。従って、従来技術では、上述したような、モールドパウダー固体層22に起因して鋳型1の下部領域の内壁に生じる摩耗を防止することは困難であると考えられる。
【0052】
ここで、鋳型1の内壁の摩耗量が大きいと、生産ラインを停止して鋳型1の交換等の保守作業を行う頻度が増加することとなり、生産性の低下及び保守費用の増加を引き起こす恐れがある。このような事態を防止するためには、固体となったモールドパウダーと鋳型1の内壁との摩擦力を低減させ、鋳型1の内壁の摩耗量を低減させる必要がある。
【0053】
そこで、本発明者らは、モールドパウダー固体層22と鋳型1の下部領域の内壁との間の摩擦について更に検討するために、鋳型1の内壁の摩耗についてより詳しく解析を行った。その結果、鋳型1の下部領域の中でも、鋳型1の長辺方向(幅方向)の略中央付近の摩耗量が、他の領域の摩耗量に比べて大きいことが分かった。そこで、本発明者らは、鋳型1の下部領域において、モールドパウダー固体層22は、鋳型1の幅方向に一様に形成されているのではなく、モールドパウダー固体層22の鋳型1の幅方向における形成位置には、所定の分布が存在するのではないかと考えた。
【0054】
図4−
図6を参照して、本発明者らが想到した、モールドパウダー固体層22の鋳型1の幅方向における形成位置の分布について説明する。
図4は、
図2に示す鋳型1のB−B断面における断面図である。B−B断面は、鋳型1の幅方向の内壁に対応する断面であり、
図4は、連続鋳造中における鋳型1の幅方向の内壁の様子を概略的に図示するものである。なお、
図4では、説明のため、鋳型1の内壁により密接に接触しているモールドパウダー固体層22のみを図示している。
【0055】
図5は、
図4に示す鋳型1のC−C断面における断面図である。
図5は、鋳型1の、幅方向の中心から所定の距離ずれた位置における、上下方向の断面図を示している。また、
図6は、
図4に示す鋳型1のD−D断面における断面図である。
図6は、鋳型1の、幅方向の中心における、上下方向の断面図を示している。
【0056】
鋳型1の内壁の摩耗量の傾向から、
図4及び
図6に示すように、モールドパウダー固体層22は、少なくとも鋳型1の幅方向の略中央近傍において、鋳型1の下部領域の内壁と接触していると考えられる。このように、鋳型1の下部領域において、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁とがより密接に接触している領域を、以下の説明では、接触領域とも呼称する。接触領域は、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁とが、直接的に擦れ合う領域であると言える。
【0057】
一方で、同じく鋳型1の内壁の摩耗量の傾向から、
図4及び
図5に示すように、鋳型1の幅方向の中心から所定の距離ずれた位置では、モールドパウダー固体層22と鋳型1の下部領域の内壁との間には、空隙Xが存在していると考えられる。空隙Xは、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁とが直接的には擦れ合わない程度の間隔を有していると考えられる。このように、鋳型1の下部領域において、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間に空隙Xが存在している領域を、以下の説明では、非接触領域とも呼称する。
【0058】
本発明者らは、鋳型1の内壁において、モールドパウダー固体層22の接触領域及び非接触領域が、
図4−
図6に示すように分布しているという仮説を実証することを試みた。具体的には、鋳型1の内壁を直接観察することは困難であるため、鋳型1の内壁に、
図4に示すC−C断面及びD−D断面に沿って複数の熱電対を設置し、連続鋳造中に、鋳型1の内壁における熱流束(J/m
2・s)を測定した。非接触領域では、空隙Xによる断熱効果により、接触領域に比べて、観測される熱流束が低下するはずである。
【0059】
測定結果を
図7に示す。
図7は、鋳型1の内壁における熱流束を測定した結果を示すグラフ図である。ただし、
図7では、測定した熱流束の値を、熱流束に比例する無次元のパラメータである「抜熱指数」に換算したものを、プロットしている。当該抜熱指数が大きいほど、測定された熱流束も大きい。また、
図7では、横軸に鋳型1の湯面からの距離を取り、縦軸に上記抜熱指数を取り、両者の関係性をプロットしている。
【0060】
図7では、
図4に示すC−C断面に沿って測定された抜熱指数の値と、D−D断面に沿って測定された抜熱指数の値と、を併せてプロットしている。
図7を参照すると、鋳型1の下部領域に対応する湯面からの距離が600(mm)よりも深い領域において、C−C断面に対応する位置での抜熱指数が、D−D断面に対応する位置での抜熱指数よりも大きくなっていることが分かる。これは、
図4−
図6を参照して説明した、鋳型1の下部領域において、鋳型1の幅方向の中心付近ではモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁とが接触しており、鋳型1の幅方向の中心から所定の距離ずれた位置ではモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間に空隙Xが存在している、という、本発明者らの仮説を裏付ける結果であると言える。
【0061】
以上、連続鋳造機の鋳型1内部における従来の潤滑について、本発明者らが検討した結果について説明した。以上説明したように、本発明者らは、鋳型1の下部領域の内壁の摩耗は、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間の直接的な摩擦が原因であると考えた。また、本発明者らは、鋳型1の下部領域における内壁の摩耗量が、幅方向に分布を有することを発見し、当該摩耗量の分布に対応して、モールドパウダー固体層22の形成位置にも分布が存在するのではないかと考えた。具体的には、本発明者らは、鋳型1の下部領域において、モールドパウダー固体層22は、少なくとも鋳型1の幅方向の略中央近傍では鋳型1の内壁と接触しているが、鋳型1の幅方向の中心から所定の距離ずれた位置ではモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間に空隙Xが存在している、という仮説を立てた。更に、熱電対を用いて鋳型1の内壁における熱流束の分布を測定することにより、当該仮説の確からしさを実証することができた。
【0062】
本発明者らは、上述した検討結果、特に、鋳型1の下部領域の内壁におけるモールドパウダー固体層22の形成位置の分布についての知見に基づいて、モールドパウダーが固体として存在する領域における鋳型内の潤滑をより良好にする技術について鋭意検討した結果、本発明の好適な一実施形態に想到した。すなわち、本発明の一実施形態では、連続鋳造工程において、上記(1.連続鋳造機の全体構成)で説明したように、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間に、微粉体からなる固体潤滑剤が供給される。当該固体潤滑剤により、モールドパウダー固体層と鋳型1の内壁との間の潤滑が良好となり、鋳型1の内壁の摩耗及び損傷が抑制されるのである。
【0063】
以下では、本実施形態について更に詳細に説明する。
【0064】
(3.本実施形態の詳細)
(3−1.本実施形態の概要)
図8を参照して、本実施形態の概要について説明する。
図8は、本実施形態に係る鋳型内部における潤滑の様子を示す概略図である。
図8では、
図3と同様に、
図2に示す鋳型1及び鋳片3のA−A断面での断面図とともに、鋳型1の下部領域における、鋳型1の内壁近傍の拡大図を概略的に図示している。なお、A−A断面は、鋳型1の幅方向の略中心における断面であり、上記(2.本発明に想到した背景)で説明したように、鋳型1の下部領域において、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁とがより密接に接触している接触領域が存在し得る断面である。
【0065】
本実施形態では、
図8に示すように、鋳型1の下部領域の、接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間に、微粉体からなる固体潤滑剤23が供給される。固体潤滑剤23は、一般的に固体潤滑剤として用いられる、各種の紛体であってよい。
図3を参照して説明したように、接触領域では、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との接触面において、完全に滑らかな面同士が摺動している訳ではなく、両者の間には、表面粗さに起因する僅かな隙間が存在し得る。本実施形態では、接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間のこの僅かな隙間に、微粉体からなる固体潤滑剤が供給されるのである。
【0066】
具体的には、
図1を参照して説明したように、本実施形態に係る連続鋳造機10は、例えばノズルからなる固体潤滑剤供給手段30を備える。当該固体潤滑剤供給手段30によって、モールドパウダー固体層と鋳型1の内壁との間に固体潤滑剤が供給される。なお、固体潤滑剤23の具体的な供給方法については、下記(3−2.固体潤滑剤の供給方法)で詳しく説明する。
【0067】
以上、本実施形態の概要について説明した。以上説明したように、本実施形態によれば、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間に固体潤滑剤23が供給されることにより、接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間の摩擦力が低下し、鋳型1の内壁の摩耗が抑制され得る。従って、鋳型1の使用寿命を長大化することができ、保守作業の頻度を低減させることができるため、生産性の低下及び保守費用の増加を抑えることができる。
【0068】
なお、本実施形態は、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間に固体潤滑剤23が供給されること以外は、従来の連続鋳造工程と同様の処理が行われてよい。従って、以下の本実施形態についての説明では、既に説明した構成については重複する説明を省略する。
【0069】
(3−2.固体潤滑剤の供給方法)
図9及び
図10を参照して、本実施形態における固体潤滑剤の供給方法について詳しく説明する。
図9は、鋳型1に対する、本実施形態に係る固体潤滑剤供給手段30の一例であるノズルの配設位置を示す図である。
図9では、
図2に示す鋳型1のB−B断面における断面図とともに、本実施形態に係る固体潤滑剤供給手段30の一例であるノズル34を併せて図示するものである。B−B断面は、鋳型1の幅方向の内壁に対応する断面であり、
図9は、
図4と同様に、連続鋳造中における鋳型1の幅方向の内壁の様子を概略的に図示するものである。なお、
図9では、説明のため、鋳型1の内壁に接触しているモールドパウダー固体層22のみを図示している。
図10は、
図9に示す鋳型1のE−E断面における断面図である。E−E断面は、鋳型1の幅方向において、ノズル34が設けられる位置での断面を表している。
【0070】
図9及び
図10に示すように、本実施形態では、ノズル34によって、固体潤滑剤が、気体(例えばエアー)とともに、鋳型1の下方から、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間に供給される。ノズル34は、
図9に示すように、鋳型1の幅方向の中心から、当該幅方向に所定の距離ずれた位置、すなわち、非接触領域に対応する位置に配設される。これにより、固体潤滑剤は、非接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間の空隙Xに向かって噴射されることとなる。空隙Xに向かって噴射された固体潤滑剤は、
図9に矢印で示すように、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間で拡散し、鋳型1の幅方向の中央近傍に存在する、モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との接触領域に対して、上方から供給されることとなる。
【0071】
ここで、例えば、ノズル34を鋳型1の幅方向の略中央に配設し、接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との隙間に対して固体潤滑剤を直接供給することは、当該隙間の大きさがごく小さいために、困難であると考えられる。これに対して、本実施形態では、上述したように、鋳型1の幅方向において接触領域から所定の距離ずれた位置にノズル34が配設され、空隙Xに固体潤滑剤が供給される。空隙X内に拡散した固体潤滑剤は、上方から下方に向かって移動している鋳片3(凝固シェル3a)によって引きずられるように、接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との隙間に入り込む。このように、本実施形態では、鋳型1の幅方向において接触領域から所定の距離ずれた位置から、空隙Xに向かって固体潤滑剤を供給することにより、空隙Xにおける固体潤滑剤の拡散を利用して、より効果的に、接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との隙間に、固体潤滑剤を供給することができる。
【0072】
固体潤滑剤としては、一般的に固体潤滑剤として用いられる、各種の紛体が用いられてよい。例えば、固体潤滑剤は、窒化ケイ素(SiN)、窒化ホウ素(BN)、シリコンカーバイド(SiC)、二硫化モリブデン(MoS
2)、カーボン等の紛体であり得る。
【0073】
なお、固体潤滑剤には、例えば1200℃〜1300℃程度の高温化においても潤滑作用を失わない化学的安定性を有することが求められる。鋳片3の未凝固部3bの温度は約1200℃〜1300℃であるため、鋳型1内部の上部領域における雰囲気温度は、1200℃〜1300℃又はこれに準じる温度になる可能性がある。固体潤滑剤は、
図9に矢印で示すように、空隙Xにおいて拡散し、鋳型1の上部領域にまで達する可能性があるため、このような拡散経路をたどった場合であっても化学的な特性が変化しないように、固体潤滑剤には、上記のような化学的安定性が求められるのである。上述した材料は、いずれも、当該要求を満たすものである。
【0074】
また、固体潤滑剤の粒子サイズは、例えば約0.5(μm)〜5(μm)である。粒子サイズが0.5(μm)よりも小さい場合には、空隙Xに気体とともに噴射した際に、気体の噴射方向に移動し過ぎてしまい、固体潤滑剤が、接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との隙間に入り難くなる。一方、粒子サイズが5(μm)よりも大きい場合には、粒子サイズが大き過ぎるために、固体潤滑剤が、接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との隙間に入り難くなる。なお、上述した粒子サイズは、例えば、粒子の長径を意味しており、サンプルを観察することによって得られる値である。
【0075】
また、固体潤滑剤とともに吹き込む気体の流量は、例えば、約1(L/min)〜30(L/min)であることが好ましい。気体の流量が1(L/min)よりも小さい場合には、固体潤滑剤の粒子が適当に飛散しない。一方、気体の流量が30(L/min)よりも大きい場合には、気体及び固体潤滑剤が空隙Xに入り難くなる。
【0076】
また、気体とともに吹き込む固体潤滑剤の粒子数は、例えば、約3万(個/min)〜30万(個/min)であることが好ましい。粒子数が3万(個/min)よりも小さい場合には、鋳型1の内壁の面積当たりに換算した固体潤滑剤の粒子数が少な過ぎ、潤滑剤として有効に機能しない可能性がある。一方、粒子数が30万(個/min)よりも大きい場合には、空隙Xに粒子が過剰に存在するため、空隙Xで固体潤滑剤が詰まってしまう可能性がある。
【0077】
なお、上述した気体の流量及び固体潤滑剤の粒子数は、鋳型1の幅が1000(mm)〜1300(mm)である、中型の連続鋳造機に対して本実施形態を適用した場合における一例である。鋳型1のサイズ、特に幅が変化した場合には、空隙Xのサイズ(非接触領域の面積)及び接触領域の面積も変化し得るため、気体の流量及び固体潤滑剤の粒子数の適切な範囲も変化し得る。気体の流量及び固体潤滑剤の粒子数は、鋳型1のサイズに応じて適宜設定されてよい。
【0078】
また、鋳型1の幅方向におけるノズル34の位置は、接触領域に対応する位置から所定の距離ずれた位置であればよい。鋳型1の幅方向の中心からノズル34までの距離lは、例えば、鋳型1の幅をWとした場合に、l=0.2W〜0.8W程度であることが好ましい。距離lが0.2Wよりも小さい場合(すなわち、ノズル34の位置が鋳型1の幅方向の中心により近い場合)には、ノズル34が接触領域の直下に位置してしまう可能性が高く、固体潤滑剤を、接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との隙間に効果的に供給することが難しくなる。一方、距離lが0.8Wよりも大きい場合(すなわち、ノズル34の位置が鋳型1の幅方向の端により近い場合)には、固体潤滑剤が鋳型1の幅方向の中心に向かって、すなわち、接触領域に向かって十分に拡散しない可能性がある。
【0079】
また、固体潤滑剤供給手段30の具体的な構成としては、一般的に紛体の吹き付け等に用いられる構成が用いられてよい。
図11は、本実施形態に係る固体潤滑剤供給手段30の一構成例を示す図である。
図11に示すように、本実施形態に係る固体潤滑剤供給手段30は、圧送ポンプ31と、固体潤滑剤を貯留するとともに圧送ポンプに対して当該固体潤滑剤を供給するホッパー32と、圧送ポンプ31によって所定の圧力で吐出される気体と固体潤滑剤との混合物をノズル34に対して搬送する配管部材33と、気体と固体潤滑剤との混合物を外部に向かって噴射するノズル34と、を有する。固体潤滑剤供給手段30は、上述したような範囲に、気体の流量及び固体潤滑剤の粒子数を調整する機能を有している。なお、固体潤滑剤供給手段30の具体的な構成はかかる例に限定されず、固体潤滑剤供給手段30としては、紛体と気体とを混合して噴射する機能を有する、各種の公知な装置が用いられてよい。
【0080】
また、ノズル34の噴射口の形状は、例えば円形である。ただし、本実施形態はかかる例に限定されず、ノズル34の噴射口の形状は、円形、スリット形状等、あらゆる形状であってよい。
【0081】
図12及び
図13に、ノズル34の噴射口の形状の一例を示す。
図12及び
図13は、本実施形態に係るノズル34の噴射口の形状の一例を示す図である。
図12及び
図13では、ノズル34を噴射口の方向から、すなわち、
図9及び
図10に示すz軸方向から見た様子を図示している。
【0082】
図12では、ノズル34の一例として、噴射口35が円形であるノズル34aを図示している。
図12に示す例では、略円筒形状のノズル34aに対して円形の噴射口35が設けられている。
【0083】
図13では、ノズル34の一例として、噴射口36がスリット形状であるノズル34bを図示している。
図13に示す例では、略矩形のノズル34bに対してスリット形状の噴射口36が設けられている。
図13に示すようにノズル34bの噴射口36がスリット形状である場合には、当該スリットの長手方向が、鋳型1の幅方向と平行になるように、ノズル34bが鋳型1に対して配設される。モールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との間に形成される空隙Xも、鋳型1の幅方向を長手方向とするスリットとみなすことができるため、スリット形状の噴射口36を有するノズル34bを上記のように配設することにより、空隙Xに対して、より効率的に気体及び固体潤滑剤を流入することが可能となる。
【0084】
また、
図9及び
図10に示す例では、鋳型1に対してノズル34が1つだけ配設されているが、ノズル34の配設数はかかる例に限定されない。例えば、鋳型1の幅方向の中心を挟んで、当該幅方向の両側に、少なくとも1つずつ、ノズル34が配設されてもよい。また、これら複数のノズル34は、鋳型1の幅方向の中心に対して対称に設けられてもよい。鋳型1の幅方向の中心を挟んで両側に配設される複数のノズル34から同時に気体及び固体潤滑剤が供給されることにより、接触領域の幅方向の両側から回り込んできた固体潤滑剤が、接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との隙間に入り込むこととなり、当該隙間に、より効率的に固体潤滑剤を供給することが可能となる。
【0085】
以上、本実施形態における固体潤滑剤の供給方法について説明した。
【実施例】
【0086】
本発明に係る連続鋳造機を、鉄鋼プラントにおける実際の生産品用の設備に対して適用した実施例について説明する。実施例として、2ストランドの連続鋳造機の一方の鋳型に対して、鋳型の下方から、モールドパウダー固体層と鋳型の内壁との間に、エアーノズルによってエアー及び固体潤滑剤を吹き込んだ。比較例として、上記2ストランドの連続鋳造機の他方の鋳型に対しては、エアーノズルによるエアー及び固体潤滑剤の吹き込みを行わず、従来の方式での連続鋳造を行った。
【0087】
ここで、2ストランドの連続鋳造機とは、一のタンディッシュから2つの鋳型に対して溶鋼を供給する連続鋳造機である。2ストランドの連続鋳造機における、一方の鋳型を本発明が適用された実施例とし、他方の鋳型を従来の方式が踏襲された比較例とすることにより、同一の成分を有する溶鋼に対して連続鋳造を行った場合における本発明の効果を確認することができる。
【0088】
連続鋳造における鋳造速度は、実施例、比較例ともに、1(m/min)〜1.2(m/min)である。また、鋳型は、実施例、比較例ともに、その幅が1000(mm)〜1300(mm)のものを用いた。
【0089】
実施例では、固体潤滑剤として窒化ケイ素の粉末を用いた。当該窒化ケイ素の粒子サイズは、0.5(μm)〜5(μm)である。エアーノズルの配設位置、すなわち、エアー及び固体潤滑剤の吹き込み位置は、鋳型の幅方向における中心から、350(mm)離れた位置である。
【0090】
上記の条件の下、600cast使用後の、実施例及び比較例における、鋳型の下部領域の内壁の摩耗量を比較した。なお、鋳型の内壁の摩耗量は、工程終了後における、鋳型の内壁のめっきの摩耗量を、レーザ変位計によって測定することによって得た。
【0091】
ここで、実施例として、エアーノズルの配設数及び噴射口の形状を変更した、3種類の異なる条件で連続鋳造を行った。具体的には、実施例1としては、噴射口の形状が円形であるエアーノズルを、鋳型に対して1つだけ、上記の位置に配設した。すなわち、実施例1は、エアーノズルを、鋳型の幅方向の中心に対して片側にのみ設けたものである。また、実施例2としては、噴射口の形状が円形であるエアーノズルを、鋳型に対して2つ、鋳型の幅方向の中心に対して対称に、上記の位置に配設した。すなわち、実施例2は、エアーノズルを、鋳型の幅方向の中心に対して両側に設けたものである。また、実施例3としては、噴射口の形状がスリット形状であるエアーノズルを、実施例1と同じ位置に1つだけ配設した。更に、各実施例において、エアー及び固体潤滑剤を吹き込む際のエアー流量及び固体潤滑剤の粒子数を、パラメータとして変更している。
【0092】
実施例及び比較例における、600cast使用後の鋳型の下部領域の内壁の摩耗量を比較した結果を下記表1〜表3に示す。なお、下記表1〜3は、それぞれ、上述した実施例1〜3に対応するものである。また、下記表1〜3では、鋳型内壁の摩耗量が、1(mm)以上であった場合には×を、当該摩耗量が1(mm)未満0.7(mm)以上であった場合には△を、当該摩耗量が0.7(mm)未満0.4(mm)以上であった場合には○を、当該摩耗量が0.4(mm)未満であった場合には◎を付すことによって、鋳型内壁の摩耗量を表現している。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
以上の結果から、本発明が適用された実施例1〜3のいずれにおいても、従来方式が適用された比較例に比べて、鋳型内壁の摩耗量が低減されることが分かった。これは、実施例1〜3においては、モールドパウダー固体層と鋳型の内壁との間に固体潤滑剤を吹き込むことにより、固体潤滑剤が、接触領域におけるモールドパウダー固体層と鋳型の内壁との隙間に入り込み、両者の間の潤滑が良好に保たれるからであると考えられる。
【0097】
ここで、表1〜3を比較すると、噴射口が円形であるエアーノズルを片側に1つのみ設けた場合(実施例1)に比べて、噴射口が円形であるエアーノズルを両側に設けた場合(実施例2)、及び噴射口がスリット形状であるエアーノズルを片側に1つのみ設けた場合(実施例3)の方が、鋳型の内壁の摩耗量がより低減することが分かる。これは、エアーノズルを両側に設けたことにより、又はエアーノズルの噴射口をスリット形状にしたことにより、固体潤滑剤が、接触領域におけるモールドパウダー固体層と鋳型の内壁との隙間に、より供給されることとなり、両者の間の潤滑がより良好になっていることを示している。
【0098】
また、表1〜3のそれぞれにおいて、エアー流量及び固体潤滑剤の粒子数を変化させた際の、鋳型の内壁の摩耗量を比較してみると、エアー流量及び固体潤滑剤の粒子数には、鋳型の内壁の摩耗量をより好適に低減させるための、適切な絶対値の範囲、及び適切な比率が存在することが分かる。すなわち、エアー流量が同一であっても、固体潤滑剤の粒子数を変化させることにより、鋳型の内壁の摩耗量は変化し得る。また、エアー流量及び固体潤滑剤の粒子数を単純に増加させたからといって、必ずしも鋳型の内壁の摩耗量が更に低減するとは限らない。
【0099】
以上、本発明に係る連続鋳造機を、鉄鋼プラントにおける実際の生産品用の設備に対して適用した実施例について説明した。以上説明したように、本発明が適用された実施例1〜3のいずれにおいても、従来方式が適用された比較例に比べて、鋳型内壁の摩耗量が低減されていることが確認できた。従って、本発明を用いることにより、鋳型の使用寿命をより長大化させることができ、生産性の低下及び保守費用の増加を抑えることができる。
【0100】
(4.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0101】
例えば、上記実施形態では、固体潤滑剤を供給するために、ノズルを用いて気体とともに噴射する方法を用いていたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、他の方法によって、モールドパウダー固体層と鋳型の内壁との間に、固体潤滑剤が供給されてもよい。例えば、鋳型の長辺鋳型板に、壁面を貫通する開口部を設け、当該開口部を介して、固体潤滑剤を、鋳型内に供給してもよい。例えば、当該開口部は、接触領域が形成されることが予測される位置の上部に設けられる。このような位置に開口部を設けることにより、固体潤滑剤は、当該開口部を介して、接触領域の上方の空隙Xに供給されることとなり、上方から下方に向かって移動する鋳片3によって引きずられるように、接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との隙間に入り込むこととなる。あるいは、当該開口部は、接触領域が形成されることが予測される位置に対応するように設けられてもよい。このような位置に開口部を設けることにより、固体潤滑剤は、より直接的に、接触領域におけるモールドパウダー固体層22と鋳型1の内壁との隙間に供給されることとなる。