(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明の枠練り固形石けんは、下記に示すa成分〜e成分を含有する。
【0014】
〔a.脂肪酸塩〕
本発明に用いられるa成分は、脂肪酸と塩基とを反応させて得られる脂肪酸塩である。
脂肪酸を構成する脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の直鎖の飽和脂肪酸が挙げられ、これらの混合脂肪酸を用いても良い。これら脂肪酸は植物由来、動物由来、または化学合成したもののいずれを用いてもよい。
脂肪酸塩を構成する脂肪酸のうち炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸の合計量は96質量%以上、好ましくは98〜100質量%である。炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸の合計量が96質量%より少ないと、起泡性、溶解性および速泡性が低下し、洗浄後の感触も悪くなり、ひび割れも生じやすくなるおそれがある。脂肪酸塩を構成する脂肪酸には、炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸を除く他の脂肪酸が含まれていてもよいが、不飽和脂肪酸や分岐脂肪酸を実質的に含まないこと、例えば含有量が1質量%以下であることが好ましい。
【0015】
脂肪酸塩を構成する全脂肪酸のうち炭素数12の直鎖飽和脂肪酸は15〜35質量%、好ましくは20〜30質量%である。炭素数12の直鎖飽和脂肪酸が15質量%より少ないと、起泡性、速泡性および溶解性が低下し、泡の巻き込みによる歩留まりの低下が生じるおそれがあり、35質量%より多いと、泡の弾力が低下し、溶け崩れを生じるおそれがある。
【0016】
脂肪酸塩を構成する全脂肪酸のうち炭素数14の直鎖飽和脂肪酸は35〜65質量%、好ましくは40〜60質量%である。炭素数14の直鎖飽和脂肪酸が35質量%より少ないと起泡性、泡の持続性および泡の弾力が低下し、泡の巻き込みによる歩留まりの低下が生じるおそれがあり、65質量%より多いと溶解性が低下するおそれがある。
【0017】
脂肪酸塩を構成する全脂肪酸のうち炭素数16の直鎖飽和脂肪酸は5〜25質量%、好ましくは5〜20質量%である。炭素数16の直鎖飽和脂肪酸が5質量%より少ないと、溶け崩れが生じやすくなるおそれがあり、25質量%より多いと、速泡性が低下し、ひび割れも生じやすくなる上、枠に流し込んで固化した石けんに泡の巻込みにより歩留まりが低下するおそれがある。
【0018】
脂肪酸塩を構成する全脂肪酸のうち炭素数18の直鎖飽和脂肪酸は0〜25質量%、好ましくは0.1〜20質量%である。炭素数18の直鎖飽和脂肪酸が25質量%より多いと、速泡性が低下し、ひび割れも生じやすくなる上、枠に流し込んで固化した石けんに泡の巻込みにより歩留まりが低下するおそれがある。
【0019】
脂肪酸との反応に用いられる塩基として、アルカリ金属を成分とするアルカリ剤が含まれる。アルカリ金属はカリウムおよびナトリウムであって、アルカリ剤におけるカリウム/ナトリウムの質量比は1/99〜1/1であり、好ましくは20/80〜1/1、特に好ましくは30/70〜45/55である。カリウム/ナトリウムの質量比が1/99より小さいと、溶解性および生産性が低下し、泡の巻き込みによる歩留まりの低下が生じるおそれがあり、1/1より大きいと、洗浄後の感触が悪く、溶け崩れを生じるおそれがある。
アルカリ金属を成分とするアルカリ剤としては、例えば水酸化物、炭酸化物等が挙げられ、水酸化物としては水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが挙げられる。
【0020】
本発明の枠練り固形石けんに含有されるa成分の含有量は、35〜70質量%であり、好ましくは36〜65質量%、特に好ましくは38〜60質量%である。
a成分の含量が35質量%未満では、十分な泡立ちが得られない上に、固化に時間がかかり生産性が低下するおそれがあると共に、溶け崩れやすくなるおそれがある。a成分の含量が70質量%を超えると、溶解性が低下する上、洗い上がりの感触が低下するおそれがあると共に、枠に流し込んで固化した石けんに泡の巻込みにより歩留まりが低下するおそれがある。
【0021】
〔b.ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコール〕
本発明に用いられるb成分は、ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコールである。ジプロピレングリコールとプロピレングリコールは、いずれか一方のみを用いてもよく、両方を組み合わせて用いてもよい。組み合わせて用いる際の比率としては、ジプロピレングリコール/プロピレングリコールが7/3〜1/9であることが好ましい。
【0022】
本発明の枠練り固形石けんに含有されるb成分の含有量は、15〜40質量%であり、好ましくは15〜35質量%、特に好ましくは18〜32質量%である。b成分の含有量が15質量%未満では、石けん成分を溶解できないおそれがあり、固化性に劣る場合や、洗い上がりの感触に劣る場合があり、溶解性も低下するおそれがあると共に、枠に流し込んで固化した石けんに泡の巻込みにより歩留まりが低下するおそれがある。また含有量が40質量%を超えると、泡立ちに劣り、溶け崩れやすくなるおそれがある。
【0023】
a成分である脂肪酸塩を構成する全脂肪酸のうち炭素数18の直鎖飽和脂肪酸の含有量が少ない場合、例えば10質量%以下である場合には、b成分の含有量の半分以上がプロピレングリコールであり、半分以下がジプロピレングリコールであることが好ましい。反対に、炭素数18の直鎖飽和脂肪酸の含有量が多い場合、例えば10質量%を超える場合には、b成分の含有量の半分以下がプロピレングリコールであり、半分以上がジプロピレングリコールであることが好ましい。
【0024】
〔c.水〕
本発明に用いられるc成分は水であり、化粧品や医薬品等に一般に使用されている水、例えば、イオン交換水、蒸留水などの精製水が好適に使用される。
本発明の枠練り固形石けんに含有されるc成分の含有量は、10〜35質量%であり、好ましくは15〜34質量%、特に好ましくは18〜32質量%である。c成分の含有量が15%質量未満では、脂肪酸塩の溶解性が低下し、均一な組成の固形石けんとならないおそれがあり、35質量%を超えると、軟らかくなりすぎて生産性が低下し、溶け崩れやすくなるおそれがある。
なお、c成分としての水の含有量には、石けん素地などに含有される水分の含有量も含まれる。
【0025】
〔d.(メタ)アクリル酸アルキルエステル含有ポリマー〕
本発明に用いられるd成分は、下記の式(I)で示される化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含有するモノマーから得られるポリマー(以下、「PCポリマー」とも称する。)である。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸の総称を表す。
【0027】
式中R
1は水素原子またはメチル基である。R
2、R
3およびR
4はそれぞれ炭素数1〜8のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。R
2、R
3およびR
4は同一でも、異なっていてもよい。また、nは2〜4の整数である。特に好ましいPCポリマーは、式中のR
1、R
2、R
3およびR
4がいずれもメチル基で、nが2である2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、「MPC」とも称する。)である。
【0028】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、通常、(メタ)アクリル酸とアルコールとの反応により得られる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成するアルコール残基(アルキル基)の炭素数は1〜6であり、好ましくは2〜5、特に好ましくは3〜4である。かかるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
該(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。
【0029】
PCポリマーを構成するモノマー中、式(I)で示される化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの合計含量は、60〜100質量%であり、好ましくは70〜100質量%、特に好ましくは80〜100質量%である。
式(I)で示される化合物/(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量比は、100/0〜10/90(質量比)であり、好ましくは100/0〜30/70(質量比)、特に好ましくは100/0〜50/50(質量比)である。
【0030】
PCポリマーの重量平均分子量は、好ましくは10,000〜10, 000, 000であり、特に好ましくは50,000〜5, 000, 000である。
なお、PCポリマーの重量平均分子量は、例えばゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0031】
式(I)で示される化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの合計含量が100質量%とならない場合は、本発明の効果を阻害しない範囲で、例えば5質量%以下で他の共重合可能なモノマーを共重合させることができる。
式(I)で示される化合物および(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合性を有する他の単量体は、付加重合可能な二重結合を有する化合物であり、本発明の効果を損なわないものであればよく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、スチレン等のオレフィン性炭化水素およびそれらの異性化オレフィン、多量化オレフィン、またはこれらに各種誘導体を導入したオレフィン性化合物;アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸およびそれらの多量体、無水物、炭素数1〜6の1価アルコール以外のアルコールとのエステル、またはこれらにカルボニル基、アミノ基、シアノ基、ニトリル基などを導入したエチレン性不飽和カルボン酸誘導体;ビニルアルコールおよびこれと各種カルボン酸とのエステル、各種アルコールとのエーテル、またはこれらにカルボニル基、アミノ基、シアノ基、ニトリル基などを導入したエチレン性不飽和カルボン酸誘導体、ビニルアルコールおよびこれらと各種カルボン酸とのエステル、各種アルコールとのエーテル、またはこれらにカルボニル基、アミノ基、シアノ基、ニトリル基などを導入したビニルアルコール誘導体などが挙げられる。
【0032】
本発明の枠練り固形石けんに含有されるd成分の含有量は、0.001〜1質量%であり、好ましくは0.005〜0.5質量%、より好ましくは0.01〜0.3質量%である。d成分の含有量が0.001質量%未満では、泡質の低下や洗い上がりの感触が得られず、固形時に気泡の混入が生じやすくなるおそれがある。また含有量が1質量%を超えると、泡立ちに劣り、溶け崩れやすくなるおそれがある。
【0033】
〔e.カチオン化ポリマー〕
本発明に用いられるe成分はカチオン化ポリマーである。
本発明において用いられるカチオン性ポリマーとしては、例えば、カチオン化セルロース、カチオン化澱粉、カチオン化グアーガム、カチオン化タラガム、カチオン化ローカストビーンガム、カチオン化フェヌグリークガム、カチオン化キサンタンガム、ジアリルジアルキル四級アンモニウム塩の重合体、ジアリルジアルキル四級アンモニウム塩/アクリルアミド共重合物、ジアリルジアルキル四級アンモニウム塩/アクリルアミド/アクリル酸共重合物、ビニルイミダゾリウムトリクロライド/ビニルピロリドン共重合体、ヒドロキシエチルセルロース/ジメチルジアリルアンモニウムクロライド共重合体、ビニルピロリドン/四級化ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体、ポリビニルピロリドン/アルキルアミノアクリレート共重合体、ポリビニルピロリドン/アルキルアミノアクリレート/ビニルカプロラクタム共重合体、ビニルピロリドン/メタクリルアミドプロピル塩化トリメチルアンモニウム共重合体、アルキルアクリルアミド/アクリレート/アルキルアミノアルキルアクリルアミド/ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体等が挙げられる。
これらのうち、ざらつきを感じにくく、生産性に優れるという観点から、好ましくは、カチオン化セルロース、カチオン化澱粉、カチオン化グアーガム、ジアリルジアルキル四級アンモニウム塩/アクリルアミド共重合物、ジアリルジアルキル四級アンモニウム塩/アクリルアミド/アクリル酸共重合物であり、特に好ましくは、カチオン化セルロース、ジアリルジアルキル四級アンモニウム塩/アクリルアミド共重合物、ジアリルジアルキル四級アンモニウム塩/アクリルアミド/アクリル酸共重合物である。
【0034】
カチオン化セルロースとしては、例えば、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロースを用いることが好ましい。具体的には、例えば、東邦化学株式会社製のカチナールHC−100、カチナールHC−200、カチナールLC−200、ライオン株式会社製のレオガードKGP、レオガードMGP、日本ルーブリゾール社製のフィクソマー10等が挙げられる。
また、ジアリルジアルキル四級アンモニウム塩/アクリルアミド共重合物として、例えば、日本ルーブリゾール社製のマーコート550、マーコート550PR、マーコート2200、マーコートSなどが挙げられる。
また、ジアリルジアルキル四級アンモニウム塩/アクリルアミド/アクリル酸共重合物として、例えば、日本ルーブリゾール社製のマーコート3331PLUS、マーコート3330、マーコート3333等が挙げられる。
【0035】
本発明の枠練り固形石けんに含有されるe成分の含有量は、0.01〜1質量%であり、好ましくは0.05〜0.5質量%、より好ましくは0.1〜0.3質量%である。e成分の含有量が0.01質量%未満では、泡質が低下し、洗い上がりの感触が得られ難くなり、固形時に気泡の混入が生じやすくなるおそれがある。また含有量が1質量%を超えると、泡立ちに劣り、洗いあがりの感触が悪くなる(膜感が強くなる)おそれがあり、また溶け崩れやすくなるおそれがある。
【0036】
本発明の枠練り固形石けんは、b成分とc成分の合計量(b+c)が35〜65質量%であり、好ましくは40〜60質量%である。合計量(b+c)が35質量%未満では、泡立ちが低下すると共に、生産時の型枠への流し込み性が低下するおそれがあり、65質量%を越えると溶け崩れやすくなる上、生産性が低下するおそれがある。
【0037】
また、c成分に対するa成分の含有量比(a/c)は1.3〜3.0であり、好ましくは1.4〜2.8である。含有量比(a/c)が1.3未満では、溶け崩れやすくなり、生産性が低下するおそれがあり、3.0を超えると、石けん成分が十分に溶解せずに不均一になるおそれがある。
【0038】
更に、b成分とc成分の合計量(b+c)に対するa成分の含有量比〔a/(b+c)〕は0.4〜1.8であり、好ましくは0.6〜1.5である。含有量比〔a/(b+c)〕が0.4未満では、泡立ちや生産時の型枠への流し込み性が低下するおそれがあり、1.8を超えると、均一に溶解せずに不均一な状態になったり、生産時の型枠への流し込み性が低下したりするおそれがある。
【0039】
本発明の枠練り固形石けんは、上記a成分〜e成分に加えて、炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸を更に含有することが好ましい。炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸は、炭素数12〜18のうちいずれかの炭素数の直鎖飽和脂肪酸を単独で用いてもよく、また炭素数12〜18のうち炭素数の異なる2種以上の直鎖飽和脂肪酸を組み合わせて用いても良いが、炭素数12の直鎖飽和脂肪酸または炭素数18の直鎖飽和脂肪酸のいずれか単独で用いるのが好ましい。
炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸としては、牛脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、コーン油、ヒマワリ油、ナタネ油、キャノーラ油、ダイズ油、ヒマシ油やこれらの油脂の極度硬化油から得られる脂肪酸、またはそれらを精製して得られる脂肪酸や純度を上げた単体脂肪酸を使用することができ、前述の油脂そのものや脂肪酸メチルエステルも使用することができる。
【0040】
本発明の枠練り固形石けんが炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸を含有する場合、炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸の含有量は、本発明の枠練り固形石けん中、例えば0.1〜10質量%であり、好ましくは0.5〜6質量%、特に好ましくは0.5〜5質量%、更に好ましくは1〜4質量%である。炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸をこの程度の量で含有させることにより、更に溶け崩れにくくなり、泡立ちや洗い上がりの感触が更に改善される。
【0041】
本発明の枠練り固形石けんは、上記a成分〜e成分に加えて、植物油を更に含有することが好ましい。植物油を更に含有させることにより、洗いあがりの感触、膜感および溶け崩れの点で更に良好な効果が得られる。
植物油としては、オリーブ油、マカデミアナッツ油、ヒマシ油、ホホバ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、ヒマワリ油等が挙げられ、これら植物油から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。好ましくはオリーブ油、ヒマワリ油、マカデミアナッツ油、ホホバ油であり、特に好ましくはオリーブ油、ホホバ油およびマカデミアナッツ油である。これら植物油は、脱酸、脱色、脱臭など通常一般的に行われる精製工程を経たものがより好ましい。
【0042】
本発明の枠練り固形石けんが植物油を含有する場合、植物油の含有量は、本発明の枠練り固形石けん中、例えば0.1〜5質量%であり、植物油をこの程度の量で含有させることにより、使用後のつっぱり感が軽減され、膜感が更に良好となり、成形性と安定性が更に向上する。
【0043】
本発明の枠練り固形石けんは、a成分(特定の脂肪酸塩)をb成分(ジプロピレングリコールおよび/またはプロピレングリコール)とc成分(水)とに溶解し、更にd成分(特定のポリマー)およびe成分(カチオン化ポリマー)を均一に溶解して得られる石けん膠を、従来の枠練り石けんと同様に、型枠に流し込んで、冷却および固化することにより成型することができる。本発明の枠練り固形石けんは、長期間の乾燥工程を経ずに、短時間に簡便に製造することができるので、生産性が高い。
【0044】
本発明の枠練り固形石けんは、本発明の効果を損なわない程度に、固形石けんに通常使用される各種の成分を含有していてもよい。例えば、EDTAやエチドロン酸およびそれらの塩等のキレート剤、天然ビタミンE等の酸化防止剤、増粘剤、抗炎症剤、保湿剤、殺菌剤、防腐剤、香料、色素などを含有していてもよい。
なお、本発明の枠練り固形石けんは、色相や臭気の経時安定性の観点から、スクロース、グルコース等の糖類を実質的に含まないことが望ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、例中、%はいずれも質量基準を意味する。
【0046】
〔実施例1〜7および比較例1〜6〕
表1に示す組成を有する実施例1の枠練り固形石けん(以下、単に「固形石けん」とも称する。)を次に示す方法により調製し、実施例2〜7および比較例1〜6についても実施例1と同様の方法で固形石けんを調製した。なお、表1中の数値は、評価時の固形石けん中の含有量(質量%)である。
【0047】
(製造例)
飽和脂肪酸を5L容の双腕式混練機((株)入江商会製、PNV−5型)に入れ約80℃に加熱し、28%水酸化ナトリウム水溶液と28%水酸化カリウム水溶液の混合液を添加して、85℃〜95℃で約5分間撹拌混合した。加熱しながら混合することにより乾燥させて水分量を調節し、おおよそ10%の水分の石けん素地を得た。こうして得られた石けん素地をプロピレングリコール(PG)と水に溶解し、さらに飽和脂肪酸を溶解して均一とした。溶解確認後に、d成分のポリマー、e成分のカチオン化ポリマー、オリーブ油、ブチレングリコール(BG)、グリセリン、トコフェロール(天然ビタミンE)およびEDTA・2Na(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)を加えて溶解し、石けん膠を得た。
次に、石けん膠を円筒形の型枠(直径65mm)に流し込み、室温で30℃以下となるまで半日程度放冷して固化させた。固化後、型枠より取り出し、3cm間隔に切断して、7日間トレイの上で石けんを静置して、実施例1の枠練り固形石けんを得た。
得られた枠練り固形石けんの水分をケット法により測定した。また、得られた枠練り固形石けんを次に示す方法で評価した。
【0048】
なお、化合物として以下のものを用いた。
d成分(PCポリマーa)
1)MPC:80質量%、メタクリル酸ブチル:20質量%のモノマーから得られた重量平均分子量約70万のポリマー
d成分(PCポリマーb)
2)MPC:70重量%、メタクリル酸ブチル:30重量%のモノマーから得られた重量平均分子量約10万のポリマー
【0049】
e成分(カチオン化ポリマー)
・ジアリルジアルキル四級アンモニウム塩/アクリルアミド共重合物(製品名;マーコート550、日本ルーブリゾール(株))
・ジアリルジアルキル四級アンモニウム塩/アクリルアミド/アクリル酸共重合物(製品名;マーコート3331PLUS、日本ルーブリゾール(株))
・カチオン化セルロース(製品名;レオガードKGP:塩化o−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース、ライオン(株))
【0050】
(水分測定法)
実施例および比較例の枠練り固形石けんは、PG等の多価アルコールが多量に配合されているので、赤外線水分計で揮発成分をすべて揮発させて、多価アルコールを減じたものを水分とした。
装置:赤外線水分計、FD−240(株式会社ケツト科学研究所)
方法:四分割法(JIS K 3304;1984)で切断した試料をなるべく細かく切り、試料皿に1g程度の試料を乗せ、試料をまんべんなく広げる。次いで、乾燥温度150℃で、揮発分の恒量点まで加熱を続け、恒量となったところで測定値を読みとる。以下の式にて、枠練り固形石けん中の水分量を求めた。
(式) W = T − M
W:水分
T:測定値
M:多価アルコール含量
例えば、実施例1では、T(測定値)が54.44%であり、M(多価アルコール含量)が32%であるから、水分(揮発分)は54.44%−32%=22.44%となる。
【0051】
(1)泡立ち(38℃、湯)
10名の女性(20代〜50代)をパネラーとし、固形石けんを手に取って約38℃のぬるま湯で泡立てた際の泡立ちの早さや泡質について下記の基準に基づき評価した。
2点・・・非常に素早く豊かな泡立ちであると感じた場合。
1点・・・やや素早く豊かな泡立ちであると感じた場合。
0点・・・泡立ちが遅い、または泡立ちが低いと感じた場合。
【0052】
全てのパネラーの合計点から以下のとおり判定した。
16〜20点・・・◎(ただし、0点の評価をしたパネラーがいないことを条件とする。):素早く豊かに泡立つ固形石けんである。
11〜15点・・・○:泡立ちがやや弱い固形石けんである。
6〜10点・・・△:泡立ちが弱い固形石けんである。
0〜 5点・・・×:泡立ちがほとんどない固形石けんである。
【0053】
(2)泡立ち(20℃、水)
10名の女性(20代〜50代)をパネラーとし、固形石けんを手に取って約20℃の冷たい水で泡立てた際の泡立ちの早さや泡質について下記の基準に基づき評価した。
2点・・・非常に素早く豊かな泡立ちであると感じた場合。
1点・・・やや素早く豊かな泡立ちであると感じた場合。
0点・・・泡立ちが遅い、または泡立ちが低いと感じた場合。
【0054】
全てのパネラーの合計点から以下のとおり判定した。
16〜20点・・・◎(ただし、0点の評価をしたパネラーがいないことを条件とする。):素早く豊かに泡立つ固形石けんである。
11〜15点・・・○:泡立ちがやや弱い固形石けんである。
6〜10点・・・△:泡立ちが弱い固形石けんである。
0〜 5点・・・×:泡立ちがほとんどない固形石けんである。
【0055】
(3)溶解性
10名の女性(20代〜50代)をパネラーとし、固形石けんを手に取って38℃の水で泡立てた際の溶けやすさについて下記の基準に基づき評価した。
2点・・・非常に溶けやすいと感じた場合。
1点・・・やや溶けやすいと感じた場合。
0点・・・溶けにくいと感じた場合。
【0056】
全てのパネラーの合計点から以下のとおり判定した。
16〜20点・・・◎(ただし、0点の評価をしたパネラーがいないことを条件とする。):溶解性に優れた固形石けんである。
11〜15点・・・○:溶解性がやや低い固形石けんである。
6〜10点・・・△:溶解性が低い固形石けんである。
0〜 5点・・・×:溶解性が極めて低い固形石けんである。
【0057】
(4)洗い上がりの感触
10名の女性(20代〜50代)をパネラーとし、固形石けんを用いて身体を洗浄した後の洗い上がりの感触について下記の基準に基づき評価した。
2点:肌にすべすべ感があり、しっとりとした感触があると感じた場合。
1点:ややすべすべ感、またはしっとりとした感触があると感じた場合。
0点:すべすべ感やしっとり感が全くないと感じた場合。
【0058】
全てのパネラーの合計点から以下のとおり判定した。
16〜20点・・・◎(ただし、0点の評価をしたパネラーがいないことを条件とする。):洗い上がりの感触が優れた固形石けんである。
11〜15点・・・○:洗い上がりの感触が良好な固形石けんである。
6〜10点・・・△:洗い上がりの感触がやや良好な固形石けんである。
0〜 5点・・・×:洗い上がりの感触が不良な固形石けんである。
【0059】
(5)生産性
上記製造例に準じて、容器内で溶解させた石けん膠を型枠(高さ420mm、直径65mm)に流し込んだ後、固化した石けんの2本をそれぞれの上部から50mmの部分および下部から20mmの部分を切り取って取り除いた。残った石けんを35mm間隔で切断し、切断面に泡等の噛みがないかについて観察して下記の基準で判定した。なお、固形石けん1本当り10個のサンプルが取れるので、評価は2本分で20個のサンプルを用いて行なった。
合格品 (◎):泡等がほとんど噛んでおらず、製品として19個以上を使用できる。
不合格品(×):泡かみにより、表面にくぼみや凹みがあり、製品化できないものが2個以上ある。
【0060】
【表1】
【0061】
なお、表1において、C12は炭素数12の直鎖飽和脂肪酸、C14は炭素数14の直鎖飽和脂肪酸、C16は炭素数16の直鎖飽和脂肪酸、C18は炭素数18の直鎖飽和脂肪酸、C18:1は炭素数18の一価不飽和脂肪酸、C12−C18は炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸の総和を表す。またDPGはジプロピレングリコール、PGはプロピレングリコール、BGはブチレングリコールを表す。
【0062】
表1に示す実施例1〜7の結果から、本発明の枠練り固形石けんはいずれも、湯および水のいずれにおいても素早く豊かに泡立ち、溶解性に優れ、洗い上がりの感触に優れ、さらに、石けんに泡の巻込みが少なく生産性に優れていることが理解できる。
【0063】
一方、比較例1〜6では十分な性能が得られていない。
具体的には、比較例1では、a成分の含有量が少なく、b+cの含有量が多く、a/cの質量比が小さいので、泡立ち、生産性の点で劣っている。
比較例2では、a成分の含有量が多く、b成分の含有量が少なく、b+cの含有量が少なく、a/cの質量比およびa/(b+c)の質量比が大きいので、溶解性、洗い上がりの感触、生産性の点で劣っている。
比較例3では、b成分の含有量が多く、e成分を含有せず、a/cの質量比が大きいので、洗い上がりの感触が不十分であり、生産性の点で劣っている。
【0064】
比較例4では、d成分を含有しないので、低温時における泡立ちが劣り、溶解性および洗い上がりの感触が不十分であり、生産性の点で劣っている。
比較例5では、a成分における炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸の合計量が少なく、かつa成分の含有量も少なく、a/cの質量比が小さいので、泡立ちおよび生産性の点で劣り、溶解性が不十分である。
比較例6では、a成分における炭素数12〜18の直鎖飽和脂肪酸の合計量が少なく、また脂肪酸塩がナトリウム塩のみであり、b成分およびe成分の含有量が少なく、b+cの含有量が少ないので、泡立ち、溶解性、洗い上がりの感触、生産性の点で劣っている。