特許第6365340号(P6365340)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365340
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/66 20060101AFI20180723BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20180723BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   B01J23/66 AZAB
   B01J37/02 301L
   B01D53/86 222
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-33040(P2015-33040)
(22)【出願日】2015年2月23日
(65)【公開番号】特開2016-155053(P2016-155053A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】須沢 匠
(72)【発明者】
【氏名】武並 進
(72)【発明者】
【氏名】矢羽田 茂人
(72)【発明者】
【氏名】樽澤 祐季
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−018374(JP,A)
【文献】 特開2013−006179(JP,A)
【文献】 特開平06−319998(JP,A)
【文献】 特開2004−322022(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00947235(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
B01D53/86,53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子状に配設されたセル壁(131)と、前記セル壁に区画された複数のセル(132)とを有する多孔質のハニカム体基材(133)の前記セル壁に、排ガスに対する浄化性能を有する触媒コート層(136)を担持してなる排ガス浄化触媒であって、
前記触媒コート層は、前記セル壁の表面に形成され、少なくとも銀担持アルミナを含む浄化促進層(134)と、
前記浄化促進層の反セル壁側の表面に形成され、銀担持セリアである耐熱層(135)を有し、
前記耐熱層における銀粒子の平均粒径は、前記浄化促進層における銀粒子の平均粒径よりも大きく、かつ、50nm以上200nm以下であり、
前記耐熱層の厚みは、30μm以上60μm以下であることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンから排出される排ガス中に含まれるNOxなどの有害成分を浄化する排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排ガス中には、CO,NOx、HCなどの有害成分が含まれるが、これらは排ガス浄化触媒により浄化されて大気中に放出されるのが一般的である。排ガス浄化触媒は、貴金属触媒をハニカム体基材に担持したものが広く用いられている。ここで、たとえば排気管内にPM捕集用のフィルタ(DPF)が設けられているシステムにおいて、捕集されたPMを燃焼除去するために排ガス温度を高温(たとえば800℃以上)にする場合がある。このような高温の排ガスに排ガス浄化触媒がさらされると、貴金属触媒の凝集現象により浄化性能が低下するという問題が生じる可能性があり、特に銀触媒は著しい性能低下があることで知られている。そこで、高温の排ガスにさらされる環境下においても浄化性能を発揮する排ガス浄化触媒が求められる。そのための技術として特許文献1に開示のものが知られている。これは、ハニカム体基材の表面を、γアルミナおよびランタン等を含有する酸化物によって被覆、焼成することで耐熱性を確保し、高温の排ガスにさらされる環境下においても浄化性能を発揮するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−149343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、近年では、PMの燃焼除去のために900℃以上というさらに高温な排ガスにさらされる環境下においても浄化性能を発揮する排ガス浄化触媒が求められている。しかし、本発明者らの実験によると、特許文献1に記載の技術において、耐熱試験前における浄化率と、900℃環境下での耐熱試験後における浄化率とを比較した結果、耐熱試験前に比べて耐熱試験後の浄化率が著しく低下することがわかった(図14参照)。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高温の排ガスにさらされる環境下においても排ガス浄化性能の低下を抑制できる排ガス浄化触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のひとつである排ガス浄化触媒は、格子状に配設されたセル壁(131)と、セル壁に区画された複数のセル(132)とを有する多孔質のハニカム体基材(133)の前記セル壁に、排ガスに対する浄化性能を有する触媒コート層(136)を担持してなる排ガス浄化触媒であって、触媒コート層は、セル壁の表面に形成され、少なくとも銀担持アルミナを含む浄化促進層(134)と、浄化促進層の反セル壁側の表面に形成され、銀担持セリアである耐熱層(135)を有し、耐熱層における銀粒子の平均粒径は、浄化促進層における銀粒子の平均粒径よりも大きく、かつ、50nm以上200nm以下であり、耐熱層の厚みは、30μm以上60μm以下であることを特徴とする。
【0007】
以下、本発明の排ガス浄化触媒によって得られる効果について説明する。一般に、NOxは銀粒子に吸着し、脱離する際に還元され窒素(N)となって大気中に放出される。ここで、表層の粒径が所定値より小さい場合、耐熱層表面においてNOxの吸着現象が起こるものの、脱離による浄化現象が起こらず、排ガス浄化触媒全体としての浄化率が著しく低下する場合(脱離の不安定性)があることを本発明者らは見出した。また、耐熱層において銀を担持させる担体としてセリアを用いることで、他の担体(たとえばシリカ、アルミナ、チタニア)を用いるよりも耐熱試験後浄化率を高くすることができることを本発明者らは見出した。そこで、耐熱層として銀担持セリアを用い、かつ耐熱層における銀粒子の平均粒径を、浄化促進層における銀粒子の平均粒径より大きくすることで、脱離の不安定性という現象が起こることを抑制することができ、耐熱層における銀粒子の平均粒径が浄化促進層における銀粒子の平均粒径より小さい場合と比較して浄化率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態における排ガス浄化システムの説明図
図2】第1実施形態におけるNOx浄化触媒の全体を示す説明図
図3】第1実施形態におけるNOx浄化触媒のセル壁の拡大図
図4】NOx浄化触媒におけるNOx浄化反応の説明図
図5】NOx浄化触媒におけるNOx浄化反応の説明図
図6】NOx浄化触媒におけるNOx浄化反応の説明図
図7】NOx浄化触媒におけるNOx浄化反応の説明図
図8】耐熱層の各担体に対する耐熱試験後浄化率の比較図
図9】耐熱層における銀粒子の平均粒径に対する耐熱試験前浄化率の比較図
図10】耐熱層の厚みに対する各耐熱試験前浄化率と各耐熱試験後浄化率の比較図
図11】他の実施形態におけるNOx浄化触媒のセル壁の拡大図
図12】他の実施形態におけるNOx浄化触媒のセル壁の拡大図
図13】他の実施形態における排ガス浄化システムの説明図
図14】従来技術における耐熱試験前浄化率と耐熱試験後浄化率の比較図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図に基づき説明する。図1に示す排ガス浄化システムは、エンジン100、微粒子捕集装置(DPF)110、DPF再生装置(再生用DOC)120、NOx浄化触媒130、還元剤浄化装置140および還元剤供給弁150を備える。排ガス浄化システムは車両に搭載されるものであり、当該車両は、エンジン100の出力を動力源として走行する。
【0010】
エンジン100は、圧縮自着火式のディーゼルエンジンであり、燃焼に用いる燃料には、炭化水素化合物である軽油を用いている。エンジン100は、基本的にはリーン状態で燃焼させるように作動する。つまり、燃焼室101内に噴射された燃料と燃焼室101内に吸入される空気との比率である空燃比が、空気過剰に設定された状態で燃焼(リーン燃焼)させている。
【0011】
エンジン100の排気通路102には、再生用DOC120、微粒子捕集装置(DPF)110、還元剤供給弁150、NOx浄化触媒130、還元剤浄化装置140がこの順に配置されている。
【0012】
DPF110は、排気に含まれている微粒子を捕集する。再生用DOC120は、排気中の未燃燃料を酸化させて燃焼させる触媒を有する。この燃焼により、DPF110で捕集された微粒子を燃焼させて、DPF110を再生させて捕集能力を維持させる。なお、再生用DOC120への未燃燃料供給による燃焼は、常時実施されるものではなく、再生が必要な時期に一時的に実施される。
【0013】
図示しない改質燃料供給管を通って還元剤供給弁150から排気通路102内に改質燃料が添加される。改質燃料とは、還元剤として用いる炭化水素化合物(燃料)を部分的に酸化して、アルデヒド等の部分酸化炭化水素に改質したものである。このように部分的に酸化された燃料(改質燃料)の具体例として、燃料(炭化水素化合物)の一部がアルデヒド基(CHO)に酸化された状態の部分酸化物(例えばアルデヒド)が挙げられる。
【0014】
還元剤浄化装置140は、酸化触媒を担持する担体をハウジング内に収容して構成されている。還元剤浄化装置140は、後述するNOx浄化触媒130上にてNOx還元に用いられずに流出した還元剤を、酸化触媒上で酸化する。これにより、排気通路102の出口から還元剤が大気に放出されることを防止する。なお、酸化触媒の活性化温度は、還元触媒の活性化温度よりも低い。
【0015】
次に、NOx浄化触媒130について説明する。NOx浄化触媒130は、排気中のNOxを還元触媒である貴金属触媒上で改質燃料と反応させてNに還元することで、排気に含まれているNOxを浄化する役割を担う。還元反応が可能となる活性化温度よりも触媒温度が低い場合に、還元触媒は排気中のNOxを吸着する機能を発揮する。吸着されていたNOxは、触媒温度が活性化温度以上の場合には、還元触媒から脱離する。そして、脱離した改質燃料により還元されて浄化される。なお、低温時に吸着されたNOxは、還元触媒が温度上昇して所定の脱離開始温度に達すると、還元触媒から脱離するようになる。この所定の脱離開始温度(例えば100〜120℃)は活性化温度(例えば200〜250℃)より低い。なお、NOx浄化触媒130が特許請求の範囲における「排ガス浄化触媒」に相当する。
【0016】
図2図3に示すように、NOx浄化触媒130は、多孔質体よりなり、多角形格子状に配設されたセル壁131と、セル壁131に区画された多数のセル132からなるハニカム体基材133を備えている。ハニカム体基材133は、たとえばコージェライト等のセラミックス製である。ハニカム体基材133は、壁厚4ミル、セル数400セルであり、直径は15cm、高さ34cm、体積6ccの円筒形状である。
【0017】
セル壁131の表面には、触媒コート層136が形成されている。触媒コート層136は、浄化促進層134および耐熱層135からなる。浄化促進層134はセル壁131の表面に形成されている。浄化促進層134は、アルミナ中に還元触媒としての銀を担持させたもので、単層構造である。浄化促進層134の総コート量は200g/Lであり、そのうち担持されている銀は3wt%である。銀の担持量が少ない場合、十分なNOx浄化性能が得られない。浄化促進層134における銀粒子の平均粒径は、浄化性能を十分に発揮できる程度に小さくする(たとえば100nm以下)。
【0018】
浄化促進層134の反セル壁側の表面には、耐熱層135が形成されている。耐熱層135は、担体であるセリアに銀を担持させたもので、単層構造である。なお、担体とは、還元触媒成分を保持するための土台となる酸化物のことである。耐熱層135の総コート量は40g/Lであり、そのうち担持されている銀は3wt%である。
【0019】
次に、浄化促進層134におけるNOxの浄化反応について図4図7に基づき説明する。図4図7では、銀触媒に排気中のNOxが吸着された状態において、改質還元剤としてアルデヒド(R−CHO)を排気通路102内へ添加した場合を例にとって示している。
【0020】
まず、還元剤供給弁150から排気通路102内へ供給されたアルデヒドは銀触媒に吸着される(図4)。そして、内燃機関10のリーン燃焼時には、銀触媒に接触する排気中には酸素分子が含まれている。この酸素分子により、銀触媒に吸着されたアルデヒドは参加され、図5に示す如く、アセテート(R−COO)に変化する。
【0021】
このように銀触媒上で生成されたアセテートは、銀触媒に吸着されているNOと結合しやすい物質である。そのため、銀触媒に吸着された状態のアセテートは、図6図7に示すように、銀触媒に吸着されているNOと結合してイソシアネート(R−NCO)に変化する。その後、銀触媒に吸着されたイソシアネートは、図7に示すように、排気中の酸素分子により参加され、その結果、NやHO、COに分解されて銀触媒から脱離する。以上で還元反応によるNOxの浄化は終了する。
【0022】
次に、本実施形態におけるNOx浄化率の試験方法について以下に説明する。
【0023】
まず、NOx浄化触媒130にあてるモデルガス(排ガスを模擬したもの)の条件について説明する。ガスのSV値は50000/h(5L/min)である。SV値とは充填体積当たりの通風量をあらわす指標である。ガス種は、NO(200ppm)、O(10%)、CO(9%)、HO(2%)であり、窒素ベースである。
【0024】
還元剤供給弁150から排気通路102内に供給される改質燃料は、C3H8(1800ppmC)とCH3CHO(200ppmC)を混合させたものである。
【0025】
NOx浄化率の評価手順は、第1ステップとして、100℃雰囲気で、モデルガス(NO+O+CO+HO/N)をNOx浄化触媒130にむけて投入する。そして、NOx浄化触媒130を通過後のガス中に含まれるNOxが200ppmになった時点を破過としてその時点でのNOx浄化触媒130に吸着しているNOx量(以下、浄化前吸着量という)を測定する。次に、第2ステップとして、雰囲気温度を300℃にあげ、還元剤供給弁150から改質燃料(C3H8+CH3CHO)を投入する。そして、改質燃料投入後、NOx浄化触媒130通過後のガス中に含まれているNOx量(以下、排出NOx量という)およびNOx浄化触媒130に未だ吸着しているNOx量(以下、浄化後吸着量という)を測定する。以上の手順により得られた測定値を用いて、以下の数1によりNOx浄化率を定義する。
【0026】
(数1)
NOx浄化率(%)=((排出NOx量−浄化後吸着量)/浄化前吸着量)×100
一方、高温環境下におけるNOx浄化触媒130の浄化率測定に関しては、900℃の雰囲気において10時間おき、数1を用いてNOx浄化率を求める。以下、300℃雰囲気下におけるNOx浄化率を耐熱試験前浄化率とよび、900℃雰囲気下におけるNOx浄化率を耐熱試験後浄化率とよぶ。
【0027】
<耐熱層135における担体としてセリアを用いた理由>
耐熱層135において、銀を担持させる担体としてセリアを用いた理由を説明する。耐熱層135における担体としてセリア(CeO2)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al2O3)を用いてそれぞれに銀粒子を担持させたNOx浄化触媒130の耐熱後浄化率を測定した結果が図8である。図8より、銀担持セリアが最も高いNOx浄化率を示していることがわかる。この結果より、本実施形態においては耐熱層135の担体としてセリアを用いた。
【0028】
<耐熱層135における銀粒子の平均粒径>
耐熱層135の銀粒子の平均粒径を10nm、30nm、50nm、100nm、200nmおよび300nmとしたときのそれぞれの耐熱試験前浄化率を比較したデータを図9に示す。図9において浄化促進層134における銀粒子の平均粒径は10nm〜50nmの間とした。図9より、平均粒径が50nmより小さくなるにしたがってNOx浄化率は著しく減少していくことがわかる。
【0029】
本発明者らの考察によれば、この要因は、耐熱層135の銀粒子に吸着したNOxの脱離の不安定性によるものである。具体的には、耐熱層135における銀粒子の平均粒径が所定値より小さくなると、耐熱層135においてもNOxの吸着現象を発現することがある。しかし、これによって吸着されたNOxは、還元触媒が所定の脱離開始温度になっても脱離しない場合があり、その場合には吸着したNOxが浄化されない。そのような脱離の不安定性が生じるために、平均粒径が所定値より小さくなるにしたがって浄化率が減少していく。
【0030】
また、図9より、平均粒径が200nmより大きくなるとNOx浄化率は減少し始めることがわかる。本発明者らの考察によれば、この要因は、耐熱層135に含まれるセリアの再分散機能が低下するためである。具体的には、耐熱層135に含まれているセリアは、銀粒子の凝集を抑制し再分散させる機能を有する。しかし、耐熱層135の銀粒子の平均粒径が所定値より大きくなると、この再分散機能が低下し、銀粒子が凝集することを抑制し難くなる。その結果、耐熱層135の耐熱性が悪化することによって浄化促進層134が高温の排ガスに曝されることになり、浄化促進層134における銀粒子の凝集を促進させることになるため、浄化率が減少し始める。
【0031】
一方で、図9より、平均粒径が50nm以上200nm以下であると安定して高いNOx浄化率を維持できていることがわかるため、この範囲が、耐熱層135における銀粒子の平均粒径として望ましい数値範囲であるといえる。より好ましくは100nm以上200nm以下であるとよい。
【0032】
耐熱層135における銀粒子の平均粒径は、浄化促進層134における銀粒子の平均粒径よりも大きくなるようにする。
【0033】
<耐熱層135の層厚み>
耐熱層135の層厚みを10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μmとしたときのそれぞれの耐熱試験前浄化率および耐熱試験後浄化率を図10に示す。図10より、耐熱層135の層厚みが30μmより小さい場合は、30μmの場合と比較して耐熱試験後浄化率が著しく低いことがわかる。
【0034】
本発明者らの考察によれば、この要因は、耐熱層135の厚みが所定値より小さいと、そもそも浄化促進層134を排ガスの高熱から保護する保護層としての機能を果たさなくなるからである。
【0035】
図10より、耐熱層135の層厚みが70μmの場合、60μm以下である場合と比較して、耐熱試験前浄化率が低いことがわかる。また、それに伴って耐熱試験後浄化率も低い。本発明者らの考察によれば、この要因は、耐熱層135の厚みが所定値よりも大きいと、耐熱層135の保護層としての機能が強すぎて、NOxを浄化促進層134の銀粒子に吸着させることが困難になるためである。
【0036】
したがって、耐熱層135の厚みは、30μm以上、望ましくは30μm以上60μm以下である。
【0037】
次に、NOx浄化触媒130の製造方法について説明する。まず浄化促進層134を形成し、次いで耐熱層135を形成する。
【0038】
浄化促進層134の形成工程は、浸漬工程と焼成工程からなる。浸漬工程ではまず、硝酸銀水溶液(銀3wt%)を高耐熱型γアルミナ、アルミナゾルおよび水と混合して触媒スラリーAを得る。触媒スラリーAにコージェライト性ハニカム体基材133を浸漬して引き上げ、余分なスラリーをエアブローで吹き飛ばす。次に焼成工程では、ハニカム体基材133を乾燥させた後、500℃の温度に2時間加熱保持することで銀担持アルミナjからなる浄化促進層134を得る。500℃とした理由は、銀はおよそ400℃乃至500℃の温度で析出することができるためである。
【0039】
耐熱層135の形成工程は、常圧蒸発乾固工程、第1焼成工程、浸漬工程、および第2焼成工程からなる。まず常圧蒸発乾固工程では、セリア(CeO2)を主成分とする担体粉、硝酸銀水溶液および水を各所定量だけ容器内に入れて撹拌することにより懸濁液を生成した。そして、この懸濁液を撹拌しながら大気圧下で100℃まで加熱することにより水分を蒸発させ、乾固物を得る。次に第1焼成工程では、乾固物を粉砕して粉末状にし、得られた粉末を900℃の温度の下で2時間加熱保持させることで、セリア担体に銀粒子が担持された触媒粉末を得る。浸漬工程では、硝酸銀水溶液(銀3wt%)を高耐熱型γアルミナ、アルミナゾルおよび水と混合して触媒スラリーBを得る。触媒スラリーBにコージェライト性ハニカム体基材133を浸漬して引き上げ、余分なスラリーをエアブローで吹き飛ばす。最後に、第2焼成工程では、ハニカム体基材133を乾燥させた後、500℃の温度に2時間加熱保持することで、NOx浄化触媒130を得る。
【0040】
次に、本実施形態により得られる効果について説明する。
【0041】
(1)耐熱層135において、銀を担持する担体としてセリア(CeO2)を用いた。図*に示すように、担体としてセリアを用いたものは、他の担体(シリカ、チタニア、アルミナ)を用いた場合と比較して耐熱試験後NOx浄化率が高い。したがって、担体としてセリアを用いることで浄化率の高いNOx浄化触媒130を得ることができる。
【0042】
(2)NOxは銀粒子に吸着し、脱離する際に還元され窒素(N2)となって大気中に放出される。ここで、耐熱層135における銀粒子の平均粒径を所定値より大きくしなければ、耐熱層135の表面においてNOxの吸着現象が起こるものの、脱離による浄化現象が起こらず(脱離の不安定性)、NOx浄化触媒130全体としての浄化率が著しく低下してしまう場合があることを本発明者らは見出した。本実施形態のように耐熱層135における銀粒子の平均粒径を、浄化促進層134における銀粒子の平均粒径より大きくすることで、脱離の不安定性という現象が起こることを抑制することができ、浄化促進層134における銀粒子の平均粒径以下である場合と比較してNOx浄化率の低下を抑制できる。
【0043】
(3)図9より、耐熱層135における銀粒子の平均粒径を50nmより小さくするにしたがって耐熱試験前浄化率が著しく低下していくことがわかる。したがって、耐熱層135において銀粒子の平均粒径を50nm以上とすることによって、50nmより小さい場合と比較してNOx浄化率の低下を抑制できる。
【0044】
(4)図9より、耐熱層135における銀粒子の平均粒径を200nmより大きくすると、耐熱試験前浄化率が低下することがわかる。したがって、耐熱層135における銀粒子の平均粒径を200nm以下とすることによって、200nmより大きくする場合と比較してNOx浄化率の低下を抑制できる。
【0045】
(5)NOx浄化触媒130の製造時の焼成工程において、NOx浄化触媒130は高温雰囲気下にさらされる。銀粒子の粒径が小さいほど銀粒子が凝集しやすく、NOx浄化触媒130の性質が変化しやすくなるため、NOx浄化触媒130が想定外の性質を有する可能性がある。それを防止するために焼成工程時の厳密な温度管理が必要になり、製造工程に様々な制約が生じる。つまり、銀担持セリア中の銀粒子の平均粒径が大きいものほどNOx浄化触媒の製造が容易となる。したがって、耐熱層135における銀粒子の平均粒径を100nm以上200nm以下とすることによって、十分高いNOx浄化率を確保しつつ、製造が容易なNOx浄化触媒130を得ることができる。
【0046】
(6)図10より、耐熱層135の厚みが30μmより小さい場合には、30μmより大きい場合と比較して、耐熱試験前浄化率に対する耐熱試験後浄化率の減少率が著しく大きいことがわかる。したがって、耐熱層135の厚みを30μm以上とすることによって、30μmより小さい場合と比較して高温の排ガスにさらされる環境下におけるNOx浄化率の低下を抑制できる。
【0047】
(7)図10より、耐熱層135の厚みが60μmより大きい場合には、60μmより小さい場合と比較して、耐熱試験前浄化率が著しく低いことがわかる。また、それに伴って耐熱試験後浄化率も著しく低い。したがって、耐熱層135の厚みを60μm以上とすることによって、60μmより小さい場合と比較して高温の排ガスに曝される環境下においてもNOx浄化率を十分高くできる。
【0048】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り、以下のように変形させてもよい。
【0049】
・上記実施形態では、浄化促進層134は銀担持アルミナとしたが、図11のように、銀担持アルミナにチタニアを加えてもよい。また、図12のように、浄化促進層134が第1層137と第2層138の複層となっており、セル壁131の表面に銀担持アルミナをコートした第1層137を形成し、第1層の反セル壁側表面に、銀担持チタニアにアルミナを加えたものをコートした第2層138を形成してもよい。
【0050】
・上記実施形態で示した排ガス浄化システムはこれに限られるものではなく、たとえば図13に示すように、NOx浄化触媒130と微粒子捕集装置110が一体になった触媒一体型DPF160が排気通路102内に配置されていてもよい。また、還元剤供給弁150を備えていない排ガス浄化システムでもよい。
【符号の説明】
【0051】
100 エンジン、110 微粒子捕集装置(DPF)、120 DPF再生装置、130 NOx浄化触媒、140 還元剤浄化装置、150 還元剤供給弁、131 セル壁、133 ハニカム体基材、134 浄化促進層、135 耐熱層
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