(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プラスチックフィルムの少なくとも片面に無機化合物薄膜が形成されてなるフィルムであって、前記無機化合物薄膜が酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとを主たる成分として含んでなることを特徴とし、前記無機化合物薄膜中に含まれる酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムの合計100質量%に対し、酸化マグネシウムの比率が5質量%以上、90質量%以下であり、前記無機化合物薄膜の膜厚が5〜80nmであり、フィルムを40℃90%RHで50時間処理した後の水蒸気透過変化率(ΔWVTR)が50%以下で
あるガスバリア性フィルム。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等に用いられる包装材料には、内容物を長期間保存することを可能にするために、酸化などの変質を促進する大気中の酸素、水蒸気などのガスを遮断する性質、すなわちガスバリア性を備えることが求められる。特に、太陽電池や、有機ELなどの電子デバイスや、電子部品などに使用されるガスバリア性材料には、食品や医薬品等の包装材料以上に高いガスバリア性が要求される。
【0003】
従来から、包装材料としては、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、或いはポリアクリロニトリル(PAN)など一般にガスバリア性が比較的高いと言われる高分子樹脂組成物を積層したフィルムが使用されてきた。
【0004】
ところが、上述のPVA系やEVOH系の高分子樹脂組成物を用いてなるガスバリア性積層フィルムは、温度依存性及び湿度依存性が大きいため、高温又は高湿下においてガスバリア性の低下が見られた。またPVDCやPANは、廃棄・焼却の際に有害物質が発生する危険性が高いという問題があった。
【0005】
また従来、より高いガスバリア性能が要求される包装材料として、プラスチックフィルムにアルミニウムなどの金属を蒸着したものが用いられてきた。しかし、このような包装材料を用いた場合、金属薄膜が不透明であるため、内容物を識別できなかったり、金属探知機による内容物検査や電子レンジでの加熱処理が行えなかったりという問題があった。
【0006】
そこで、かかる問題を解決するため、プラスチックフィルム上に酸化アルミニウム薄膜を設けたフィルムにより高いガスバリア性を発揮させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、さらにガスバリア性を高めるために、プラスチックフィルム上に設ける無機酸化物薄膜として酸化・窒化アルミニウムおよび/または酸化・窒化珪素を用いたガスバリア性フィルムも報告されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、プラスチックフィルム上に設ける無機酸化物薄膜として酸化マグネシウムと酸化アルミニウム粒子を混合、加熱して得た薄膜も報告されている(例えば、特許文献3〜5参照)。
【0007】
しかしながら、上述した従来のガスバリア性フィルムは、酸素および水蒸気に対しては高いバリア性を発揮するものの、一定期間加湿下で放置した後の水蒸気バリア性も十分でなく、内容物によっては十分な水蒸気バリア性を発揮できなかった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のガスバリア性フィルムは、プラスチックフィルムの少なくとも片面に無機化合物薄膜が形成されてなるフィルムである。以下、本発明を詳述する。
【0019】
〔基材フィルム〕
本発明で用いるプラスチックフィルムは、有機高分子樹脂からなる。前記有機高分子樹脂としては、ナイロン4・6、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン12などで代表されるポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどで代表されるポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどで代表されるポリオレフィンの他、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリ乳酸、テトラフルオロエチレン、一塩化三弗化エチレンなどを挙げることができる。これらの中でも、ポリアミド、ポリエステルが好ましく、特に、耐熱性、寸法安定性、透明性の点ではポリエステルが好ましい。有機高分子樹脂は1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0020】
好ましいポリアミドの具体例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリ−ε−アミノへプタン酸(ナイロン7)、ポリ−ε−アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリンラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン2・6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン4・6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン6・6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6・10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン6・12)、ポリオクタメチレンドデカミド(ナイロン8・12)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン8・6)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン10・6)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン10・10)、ポリドデカメチレンドデカミド(ナイロン12・12)、メタキシレンジアミン−6ナイロン(MXD6)などを挙げることができる。また、前記ポリアミドは、これらを主成分とする共重合体であってもよく、その例としては、カプロラクタム/ラウリンラクタム共重合体、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体、ラウリンラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体、ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体などを挙げることができる。ポリアミドには、フィルムの柔軟性改質成分として、芳香族スルホンアミド類、p−ヒドロキシ安息香酸、エステル類などの可塑剤や、低弾性率のエラストマー成分や、ラクタム類などを配合することも有効である。
【0021】
好ましいポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどの他、これらを主成分とする共重合体が挙げられる。ポリエステル共重合体を構成するジカルボン酸成分は、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能カルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを主成分とすることが好ましい。またポリエステル共重合体を構成するグリコール成分は、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールの他、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコール、p−キシリレングリコールなどの芳香族グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール、平均分子量が150〜20000のポリエチレングリコールなどを主成分とすることが好ましい。ポリエステル共重合体は、さらに他の成分を共重合したものであってもよい。
【0022】
さらにプラスチックフィルムを構成する有機高分子樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の添加物を添加してもよい。添加物としては、例えばシリカなどの滑剤の他、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、着色剤などが挙げられる。また、プラスチックフィルムを構成する有機高分子樹脂には、上述した有機高分子樹脂以外の他の重合成分を少量共重合したり、ブレンドしたりしてもよい。
【0023】
プラスチックフィルムの作製方法は、特に限定されるものではなく、例えば、溶融押出し法、キャスト法など既知の方法でフィルム化した後、必要に応じ、長手方向及び/又は幅方向に延伸し、冷却、熱固定を施すことにより得ることができる。
【0024】
本発明におけるプラスチックフィルムは、異種または同種の有機高分子樹脂を積層した積層型フィルムであってもよい。各層の種類、積層数、積層方法等は特に限定されず、目的に応じて公知の方法から任意に選択することができる。
【0025】
本発明におけるプラスチックフィルムは、本発明の目的を損なわないかぎりにおいて、後述する無機化合物薄膜層を積層するに先行して、コロナ放電処理、グロー放電、火炎処理、表面粗面化処理等の表面処理を施されていてもよく、また、公知のアンカーコート処理、印刷、装飾が施されてもよい。
【0026】
本発明におけるプラスチックフィルムは、その厚さが1μm以上300μm以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは5μm以上100μm以下の範囲、最も好ましくは9μm以上50μm以下の範囲である。
【0027】
本発明におけるプラスチックフィルムの透明度は、特に限定されるものではないが、得られたガスバリア性フィルムを透明性が求められる包装材料用途で使用する場合には、プラスチックフィルムは50%以上の透過率をもつことが望ましい。
【0028】
〔無機化合物薄膜〕
本発明における無機化合物薄膜は、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとを含んでなる。このように酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとを含む無機化合物薄膜を設けることにより、得られるフィルムのガスバリア性、特に水蒸気に対するバリア性を格段に向上させることができる。
【0029】
本発明のガスバリア性フィルムにおいて、無機化合物薄膜中に含まれる酸化マグネシウムの質量比率は特に限定されないが、無機化合物薄膜中に含まれる酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムの合計100質量%に対し、酸化マグネシウムの比率が5質量%以上、90質量%以下であることが好ましい。酸化マグネシウムの比率が5質量%未満では、柔軟性が乏しくなる傾向があるためハンドリングによる割れが生じ易く、安定したバリア性が得られ難くなる場合がある。一方、酸化マグネシウムの比率が90質量%を超えるとバリア性が低下する。
【0030】
また、このガスバリア性フィルムは高湿度環境下にさらされることもあるため、高湿度下でもガスバリア性の劣化が小さいことも望ましい。無機化合物薄膜中に含まれる酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムの合計100質量%に対し、酸化マグネシウムの比率が5質量%以上、25質量%以下だと、40℃、90%RH、50時間処理前後のガスバリア性の劣化が小さい。酸化マグネシウムの比率が15質量%以上、25質量%以下がより好ましい。
酸化マグネシウムの比率が5質量%以上、25質量%以下だと、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムの複合酸化物が形成しやすくなることで、水と反応しやすい酸化マグネシウムが単体で存在しにくく水による変質が小さくなる。
【0031】
一方、無機化合物薄膜中に含まれる酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムの合計100質量%に対し、酸化マグネシウムの比率が70質量%以上、90質量%以下だと、40℃、90%RH、50時間処理前後のガスバリア性の劣化が小さい。
酸化マグネシウムの比率が70質量%以上、90質量%以下だと、酸化マグネシウムの周囲を覆うように酸化アルミニウムが分布するため、水による変質が小さくなる。
酸化マグネシウムの比率が80質量%以上、90質量%以下がより好ましい。
【0032】
本発明における無機化合物薄膜は、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとを含んでいる薄膜であるが、本発明の目的を害さない範囲で、酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウム以外の他の化合物を含んでもよい。他の化合物としては、例えば、各種の酸化物、窒化物、もしくはそれらの混合物質が挙げられ、具体的には、酸化珪素、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、三二酸化バナジウム、酸化タンタル等の酸化物、窒化マグネシウム、窒化カルシウム、窒化ランタン、窒化チタン、窒化ハフニウム等の窒化物、さらにこれらの混合物質が挙げられる。他の化合物を含む場合、その含有率は、無機化合物薄膜中の全物質の重量に対し5質量%以下であることが望ましい。
【0033】
前記無機化合物薄膜の膜厚は、特に限定されないが、5〜80nmが好ましく、さらに好ましくは5nm以上、60nm以下であり、特に好ましくは5nm以上、50nm以下である。
無機化合物薄膜の膜厚が5nm未満では、満足のいくガスバリア性が得られ難くなる場合があり、一方、80nmを超えて過度に厚くしても、それに相当するガスバリア性の向上の効果は得られず、屈曲による無機薄膜の割れが大きく、蒸着直後のロール巻き工程後ですでにバリア性が劣る。また、80nmを超えて膜厚を大きくなると、蒸着速度を上がるために、高湿度下での水蒸気バリア性が得られにくい。
また、特に包装材料として使用する場合、基材として用いるプラスチックフィルムの厚みは、取り扱いやすさの点から9μm以上、50μm以下の範囲が適しており、100μm以上だとハンドリング等でのフィルムの屈曲による無機薄膜の割れが大きくバリア性向上効果は得られない。
【0034】
本願で言う無機化合物薄膜の組成・膜厚は、蛍光X線を用いた検量線法にて求めた値をいう。
本願の検量線は、以下の手順に沿って作成したものを使用した。酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとからなる無機化合物薄膜を持つフィルムを作成し、誘導結合プラズマ発光法(ICP法)で酸化アルミニウムと酸化マグネシウムそれぞれの付着量を求めた。求めた酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの付着量より、作成した無機酸化物薄膜の組成を算出した。
【0035】
膜厚は、無機酸化薄膜の密度がバルク密度の8割であるとし、かつ 酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとが混合された状態であってもそれぞれ体積を保つとして算出した。酸化アルミニウムの膜中の含有率wa(%)、酸化マグネシウムの膜中の含有量wm(%)は、酸化アルミニウムの単位面積当たりの付着量をMa(g/cm
2)、酸化マグネシウムの単位面積当たりの付着量をMm(g/cm
2)とすると、各々下記式(1)、(2)で求められる。
wa=100×[Ma/(Ma+Mm)] ・・・式(1)
wm=100−wa ・・・式(2)
【0036】
酸化アルミニウムの単位面積当たりの付着量をMa(g/cm
2)、そのバルクの密度をρa(3.97g/cm
3)とし、酸化マグネシウムの単位面積当たりの付着量をMm(g/cm
2)、そのバルクの密度をρm(3.65g/cm
3)とすると、膜厚t(nm)は下記式(3)で求められる。
t=((Ma/(ρa×0.8)+Mm/(ρm×0.8))×10
−7 ・・・式(3)
【0037】
膜厚、組成を規定した無機酸化薄膜を数種類作成し、蛍光X線装置で測定することにより検量線を作成した。
蛍光X線法で測定した膜厚の値は、TEMで実際に計測した膜厚と近いものであった。
【0038】
以下、プラスチックフィルムの少なくとも片面に無機化合物薄膜を形成する方法について説明する。
無機化合物薄膜を形成する方法は、真空槽内で、基板であるプラスチックフィルム上に、無機化合物薄膜を形成するドライプロセスであることが好ましい。具体的には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理蒸着法(PVD法)、あるいは化学蒸着法(CVD法)など、公知の蒸着法を適宜採用することができる。特に、包装材料に適用する本発明のガスバリア性フィルムを製造する場合には、生産性の観点から真空蒸着法が好ましい。
真空蒸着法で無機化合物薄膜を形成する場合、蒸着材料を加熱する方式としては、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱などの方式がある。
包装材料に適用する本発明のガスバリア性フィルムを製造する場合などには、高速成膜が可能な点で、電子ビーム加熱蒸着法が適している。
【0039】
電子ビーム加熱方式を使い酸化アルミニウムと酸化マグネシウムを含んでいる無機化合物薄膜を形成するには、蒸着材料として、酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムを用いるのが良い。
【0040】
好ましい方法としては、純度が99.9%以上の酸化アルミニウムの焼成粒子と純度が99.9%以上の酸化マグネシウムの焼成粒子とを別々に配置し、個々に加熱して蒸発させ気相で混合し無機化合薄膜を形成する方法が好ましい。
酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとを混合した材料を使用した場合、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの蒸気圧が異なるために長時間蒸発させていると蒸気圧の高い酸化マグネシウムが選択的に蒸発してしまい混合材料の組成が変化し、それにより形成される無機化合物薄膜の組成も変化してしまう。
【0041】
酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとを個々に加熱する方法としては2台のビーム源を使う方法もあるが、1台のビーム源を使いビームを時分割で個々の材料を走査し個別に加熱する方法がある。材料を個別に加熱することで、材料毎に適した加熱ができるため、蒸発特性の異なる材料を混合して加熱する事により生じるスプラッシュの低減や、高精度な組成比率および膜厚の制御が可能となる。また、緻密な薄膜ができやすいため、高湿度下での水蒸気バリア性も向上しやすい。
【0042】
酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの材料形状としては粒状材料を使うことが好ましい。酸化アルミニウムの粒子及び酸化マグネシウムの粒子の粒径は、それぞれ2〜6mm、2〜6mmの範囲が好ましく、酸化アルミニウムの粒子は3〜6mmの範囲がより好ましい。
粉体では真空引き時、加熱開始時に飛散してしまい、また、大型の固まりではヒートショックで砕けうまく蒸着できない。
【0043】
真空蒸着法で成膜する場合、蒸着中の圧力は3.0×10
−1Pa以下とすることが好ましい。圧力が3.0×10
−1Paよりも大きくなると、蒸着粒子のエネルギーが小さくなり粗い膜になる傾向があり、バリア性が低下するおそれがある。
【0044】
また、真空蒸着法で成膜する際のプラスチックフィルムの温度は、特に限定されないが、好ましくは−20〜40℃の範囲である。
【0045】
以上のようにして、酸素や水蒸気に対するバリア性、特に水蒸気バリア性に優れた本発明のガスバリア性フィルムが得られる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、各実施例で得られたフィルム特性は以下の方法により測定、評価した。
【0047】
1)酸素透過率
JIS K7126−2 A法に準じて、酸素透過率測定装置(MOCON社製「OX−TRAN 2/21」)を用い、23℃、65%RHの条件下で測定した。なお測定に際しては、無機化合物薄膜面を酸素ガス側とした。
【0048】
2)水蒸気透過率
JIS K7129 B法に準じて、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製「PERMATRAN−W 3/31」)を用い、40℃、90%RHの条件下で測定した(測定[1])。その後、サンプルを40℃、90%RHで50時間加湿処理した後、再び水蒸気透過率の測定をした(測定[2])。この際、水蒸気透過変化率(ΔWVTR)も確認した。算出方法は下記の通りである。
ΔWVTR=(測定[2]−測定[1])/測定[1]×100 ・・・式(4)
なお測定に際しては、無機化合物薄膜面を高湿度側とした。
【0049】
3)無機化合物薄膜の組成・膜厚
蛍光X線分析装置((株)リガク製「ZSX100e」)を用いて、予め作成した検量線により膜厚組成を測定した。なお、励起X線管の条件として50kV、70mAとした。
【0050】
〔実施例1〕
プラスチックフィルムとして12μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績(株)製「E5100」)を使用し、該フィルム上に、酸化アルミニウム(蒸着材料1)と酸化マグネシウム(蒸着材料2)とからなる無機化合物薄膜を蒸着により形成し、積層フィルムを得た。
詳しくは、蒸着材料1としては、3〜6mm程度の粒子状酸化アルミニウム(純度99%)を、蒸着材料2としては、2〜6mm程度の粒状の酸化マグネシウム(純度99.9%以上)を使用し、各蒸着材料1、2は混合せずに別々に蒸着源に入れた。加熱は、電子銃(日本電子社製「JOBG−1000UB」;最大出力100kw)を使用した。
【0051】
1台の電子銃を用いて酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとに電子ビームを時分割で照射して加熱することにより、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとを蒸発させ、無機化合物薄膜の蒸着を行った。電子ビームの出力と走査の時分割により個々の材料への照射時間を調整し、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとからなる無機化合物薄膜の膜厚および組成を調整した。具体的には、電子ビームの出力は、電子銃のエミッション電流を0.8Aとし、電子ビームの照射時間は、酸化アルミニウム67に対し酸化マグネシウム53の比率で時分割した。また蒸着時の圧力は2.5×10
−1Pa以下であった。
【0052】
なお、蒸着は、巻き出しロール部、コーティングロール部および巻取りロール部を備えた真空槽で行い、フィルム幅が550mmであるプラスチックフィルムを巻き出しロールにセットし、フィルムの送り速度50m/minで、連続して蒸着を行った。蒸着時のフィルムを冷却する為のコーティングロールの温度は−10℃に調整した。
【0053】
〔実施例2〕
実施例1において、フィルムの送り速度を95m/minとし、電子銃のエミッション電流を1.2Aとし、電子ビームの照射時間を酸化アルミニウム19に対し酸化マグネシウム5の比率で時分割するよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
【0054】
〔実施例3〕
実施例1において、フィルムの送り速度を30m/minとし、電子銃のエミッション電流を1.2Aとし、電子ビームの照射時間を酸化アルミニウム13に対し酸化マグネシウム2の比率で時分割するよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
【0055】
〔実施例4〕
実施例1において、フィルムの送り速度を60m/minとし、電子銃のエミッション電流を1.2Aとし、電子ビームの照射時間を酸化アルミニウム107に対し酸化マグネシウム13の比率で時分割するよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
【0056】
〔実施例5〕
実施例1において、フィルムの送り速度を60m/minとし、電子銃のエミッション電流を1.3Aとし、電子ビームの照射時間を酸化アルミニウム98に対し酸化マグネシウム22の比率で時分割するよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
【0057】
〔実施例6〕
実施例1において、フィルムの送り速度を45m/minとし、電子銃のエミッション電流を1.4Aとし、電子ビームの照射時間を酸化アルミニウム5に対し酸化マグネシウム1の比率で時分割するよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
【0058】
〔実施例7〕
実施例1において、フィルムの送り速度を60m/minとし、電子銃のエミッション電流を1.4Aとし、電子ビームの照射時間を酸化アルミニウム5に対し酸化マグネシウム1の比率で時分割するよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
【0059】
〔実施例8〕
実施例1において、プラスチックフィルムとして25μm厚のPETフィルム(東洋紡績(株)製「E5100」)を使用し、フィルムの送り速度を65m/minとし、電子銃のエミッション電流を1.4Aとし、電子ビームの照射時間を酸化アルミニウム5に対し酸化マグネシウム1の比率で時分割するよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
【0060】
〔実施例9〕
実施例1において、プラスチックフィルムとして50μm厚のPETフィルム(東洋紡績(株)製「A4100」)を使用し、フィルムの送り速度を50m/minとし、電子銃のエミッション電流を1.2Aとし、電子ビームの照射時間を酸化アルミニウム19に対し酸化マグネシウム5の比率で時分割するよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
【0061】
〔比較例1〕
実施例1において、3〜6mm程度の粒子状酸化アルミニウム(純度99%)と2〜6mm程度の粒状の酸化マグネシウム(純度99.9%以上)が物質量比で2.5:1.0になるように混合し、フィルムの送り速度は110m/min、電子銃のエミッション電流を0.7Aとしたこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
【0062】
〔比較例2〕
実施例1において、フィルムの送り速度を20m/minとし、電子銃のエミッション電流を1.4Aとし、電子ビームの照射時間を酸化アルミニウム5に対し酸化ケイ素1の比率で時分割するよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
【0063】
〔比較例3〕
実施例1において、フィルムの送り速度を20m/minとし、電子銃のエミッション電流を1.4Aとし、電子ビームの照射時間を酸化アルミニウム5に対し酸化ケイ素1の比率で時分割するよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
【0064】
以上の実施例および比較例で得られた積層フィルムについて、無機化合物薄膜の膜厚、無機化合物薄膜中の蒸着材料2の含有率、酸素透過率、水蒸気透過率および40℃90%RHで50時間処理した後の水蒸気透過変化率(ΔWVTR)を表1に示す。
【0065】
【表1】