(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルキルアミン(a)、有機溶媒(b)、及び加熱により分解し単体金属又は合金が生成する金属化合物(c)を含有する原料組成物を連続的に反応容器に導入し、反応容器内の加熱面上で原料組成物が膜を形成した状態で金属化合物(c)の熱分解反応を進行させる反応工程を含むことを特徴とする平均粒径1nm以上200nm以下の金属ナノ粒子の連続的製造方法。
有機溶媒(b)が、常圧下での沸点が150℃以上350℃以下、かつ常圧下20℃の水に対して1g/L以上溶解するものであり、原料組成物中の有機溶媒(b)の含有量が、金属化合物(c)100重量部に対して、50重量部以上500重量部以下である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
原料組成物中におけるアルキルアミン(a)の含有量が、金属化合物(c)の物質量(mol)に対して、1当量以上10当量以下である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
原料組成物中における脂肪酸(d)とアルキルアミン(a)の含有量の合計の物質量が、金属化合物(c)の物質量(mol)に対して、1当量以上10当量以下である請求項6に記載の製造方法。
反応容器内部で原料組成物を、反応容器の加熱された壁面を自然流下させ、更にワイパーブレードを用いてワイピングすることにより、膜を形成させることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1)金属ナノ粒子の製造方法
本発明方法は、アルキルアミン(a)、有機溶媒(b)、及び加熱により分解し単体金属又は合金を生成する金属化合物(c)を含有する原料組成物を連続的に反応容器に導入し、反応容器内で金属化合物(c)の熱分解反応を進行させる反応工程を含む、平均粒径1nm以上200nm以下の金属ナノ粒子の連続的な製造方法である。
【0019】
原料組成物
本発明方法に用いる原料組成物は、アルキルアミン(a)、有機溶媒(b)、及び加熱により分解し単体金属又は合金を生成する金属化合物(c)を含有するものである。
【0020】
本発明に用いる原料組成物は、反応容器へ連続的に導入し、熱分解反応に付することにより、連続的に金属ナノ粒子を生成させるために流動性を有する必要があり、例えば液状又はスラリー状であることを要する。また、熱分解反応を効率的に行うため、熱分解反応を加熱された面上(例えば、反応容器の加熱された壁面)で行えるように、面上で膜を形成した状態となり得るものであることが好ましい。原料組成物の性状は、反応容器に連続的に導入することが可能なものであれば特に制限されない。原料組成物の粘度は、約20Pa・s以下であることが好ましく、約10Pa・s以下であることがより好ましい。原料組成物の粘度は、通常、約1mPa・s以上とすればよい。
【0021】
金属ナノ粒子の導電性インク、及び導電性ペースト中での凝集を防止し、また、所望の溶媒中で良好に分散させるために、本発明方法では、表面が保護層若しくは分散層(以下、「保護層」と記載する)で被覆された金属ナノ粒子を製造する。そのために、本発明の製造方法で使用する原料組成物は、金属ナノ粒子を生成させる前の金属化合物(c)に加えて、保護層となり得る、置換基を有するアルキルアミンを含有するが、アルキルアミン以外のアルキル化合物も使用することが可能である。
アルキル化合物は、組成物中で金属化合物(c)と結合し、さらに熱分解により金属ナノ粒子が生成した際に、その表面で保護層として機能し、導電性インク中での金属ナノ粒子の分散状態を良好に維持することができる。
アルキル化合物の置換基としては、アルデヒド基、ヒドロキシ基、スルホ基、アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、シアノ基、シアナト基、イソシアナト基、イソチオシアナト基等を例示することができ、中でも、アミノ基、カルボキシル基が好適である。
【0022】
アルキル化合物として具体的には、アルキルアミン、脂肪酸、アルキルチオール、アルキルアルデヒド、アルキルシアネート、アルキルイソシアネート、アルキルイソチオシアネート、アルキルスルホン酸、アルカンニトリル等を例示することができる。アルキル化合物としては、アルキルアミンが好適であり、また、アルキルアミンに加えて、脂肪酸を含んでいてもよい。
【0023】
原料組成物には、必要に応じて、本発明の効果に影響を与えない範囲で、添加剤を含有させることが可能である。添加剤としては、粘度調製剤、乾燥防止剤、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤等を例示することができる。
【0024】
<アルキルアミン(a)>
アルキルアミン(a)は、金属化合物(c)と結合する能力を有し、かつ金属ナノ粒子が生成した際に、金属ナノ粒子の表面上で保護層として、機能するものであればよい。
【0025】
アルキルアミン(a)は、炭素数3以上18以下のアルキル基を有するものであればよく、炭素数4以上12以下のアルキル基を有するものが好ましい。
アルキルアミン(a)として、具体的には、エチルアミン、n‐プロピルアミン、イソプロピルアミン、1,2‐ジメチルプロピルアミン、n‐ブチルアミン、イソブチルアミン、sec‐ブチルアミン、tert‐ブチルアミン、イソアミルアミン、tert‐アミルアミン、3‐ペンチルアミン、n‐アミルアミン、n‐ヘキシルアミン、n‐ヘプチルアミン、n‐オクチルアミン、2‐オクチルアミン、2‐エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、n‐アミノデカン、n‐アミノウンデカン、n‐ドデシルアミン、n‐トリデシルアミン、2‐トリデシルアミン、n‐テトラデシルアミン、n‐ペンタデシルアミン、n‐ヘキサデシルアミン、n‐ヘプタデシルアミン、n‐オクタデシルアミン、n‐オレイルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−プロポキシプロピルアミン、3−イソプロポキシプロピルアミン、3−ブトキシプロピルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、N‐エチル‐1,3‐ジアミノプロパン、N,N‐ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチル‐1,3‐ジアミノプロパン、N,N‐ジブチル‐1,3‐アミノプロパン、N,N‐ジイソブチル‐1,3‐ジアミノプロパン、N‐ラウリルジアミノプロパン等を例示することができる。
さらに、2級アミンであるジブチルアミンや環状アルキルアミンであるシクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロヘプチルアミン、シクロオクチルアミン等も用いることができる。
このうち、得られる金属ナノ粒子を用いて導電性インクや導電性ペーストを作製した際の溶媒中での金属ナノ粒子の分散安定性が良好になり、また、アルキルアミンに由来する保護膜が導電膜形成時に低温で容易に脱離する点で、n‐プロピルアミン、イソプロピルアミン、シクロプロピルアミン、n‐ブチルアミン、イソブチルアミン、sec‐ブチルアミン、tert‐ブチルアミン、シクロブチルアミン、n‐アミルアミン、n‐ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、n‐オクチルアミン、2‐エチルヘキシルアミン、n‐ドデシルアミン、n‐オレイルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−プロポキシプロピルアミン、3−イソプロポキシプロピルアミン、N,N−ジメチル‐1,3‐ジアミノプロパン、N,N‐ジブチル‐1,3‐アミノプロパンが好ましく、n‐ブチルアミン、n‐ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、n‐オクチルアミン、n‐ドデシルアミン、N,N−ジメチル‐1,3‐ジアミノプロパン、N,N‐ジブチル‐1,3‐アミノプロパンがより好ましい。
アルキルアミン(a)は、1種を単独で、又は2種以上使用できる。2種以上のアルキルアミン(a)を用いる場合は、異なる炭素数のものを2種以上用いてもよい。
【0026】
原料組成物中のアルキルアミン(a)の含有量は、金属化合物(c)の物質量(mol)に対して、約1当量以上であればよく、約1.5当量以上が好ましく、約2当量以上がより好ましい。上記範囲であれば、得られた金属ナノ粒子を含む導電性ペースト又は導電性インクは、液中で金属ナノ粒子の分散性が良いと共に、低温で焼結しても高い導電性を有する回路を形成することができる。
また、原料組成物中のアルキルアミン(a)の含有量は、金属化合物(c)の物質量(mol)に対して、約10当量以下であればよく、約5当量以下が好ましい。なお、上記範囲であれば、金属化合物(c)の比率が低くなりすぎて金属ナノ粒子の生成効率が低下するということがない。なお、得られる金属ナノ粒子を配合した導電性インク、導電性ペースト等を熱処理に付して導電膜を形成する際の熱処理によって、アルキルアミン(a)のほとんどが金属ナノ粒子の表面から脱離するため、原料組成物中にアルキルアミン(a)を多量に含有しても、導電膜の導電性にはほとんど影響を与えない。
アルキルアミン(a)の含有量としては、金属化合物(c)の物質量(mol)に対して、約1当量〜約5当量、約1当量〜約10当量、約1.5当量〜約5当量、約1.5当量〜約10当量、約2当量〜約5当量、約2当量〜約10当量が挙げられる。
【0027】
<脂肪酸(d)>
原料組成物には、アルキルアミン(a)に加えて、必要に応じてさらに脂肪酸(d)を添加してもよい。脂肪酸(d)は、金属ナノ粒子の表面に強く結合するため、導電性インク及び導電性ペースト中における金属ナノ粒子の分散性向上に寄与する。脂肪酸(d)は、金属化合物(c)と結合する能力を有し、金属ナノ粒子が生成した際に、金属ナノ粒子の表面上で保護層として機能するものであれば、特に制限なく使用することができる。
【0028】
脂肪酸(d)のアルキル基の炭素数は、3以上18以下であればよく、炭素数4以上18以下が好ましい。
脂肪酸(d)として、具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸等を例示することができる。また、シクロヘキサンカルボン酸のような環状アルキルカルボン酸も使用することができる。中でも、反応液中での生成中及び生成後の金属ナノ粒子の分散安定性が良い点で、カプロン酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸が好ましい。
脂肪酸(d)は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
原料組成物中の脂肪酸(d)の含有量は、金属化合物(c)の物質量(mol)に対して、アルキルアミン(a)と脂肪酸(d)の合計の物質量が、約1当量以上となる量であればよく、約1.5当量以上となる量が好ましく、約2当量以上となる量がより好ましい。上記範囲であれば、導電性インク及び導電性ペースト中における金属ナノ粒子の分散性を十分に向上させることができる。
また、金属化合物(c)の物質量(mol)に対して、アルキルアミン(a)と脂肪酸(d)の合計の物質量が、約10当量以下となる量であればよく、約5当量以下となる量が好ましい。脂肪酸(d)は金属ナノ粒子と強く結合することが知られており、得られる金属ナノ粒子を配合した導電性インク、導電性ペースト等を熱処理に付し導電膜を形成する際に、金属ナノ粒子の表面に使用した脂肪酸の多くが残留する。しかし、上記範囲であれば、残留脂肪酸が導電性に悪影響を及ぼすということがない。
金属化合物(c)の物質量(mol)に対するアルキルアミン(a)と脂肪酸(d)の合計の物質量としては、約1当量〜約10当量、約1当量〜約5当量、約1.5当量〜約10当量、約1.5当量〜約5当量、約2当量〜約10当量、約2当量〜約5当量が挙げられる。
【0030】
上記の通り、脂肪酸(d)は金属ナノ粒子と強く結合することが知られており、得られる金属ナノ粒子を配合した導電性インク、導電性ペースト等を熱処理に付し導電膜を形成する際に、組成物中に含まれる脂肪酸の多くは金属ナノ粒子の表面に残留する。そのため、アルキルアミン(a)と脂肪酸(d)を原料組成物に含有させる場合のアルキルアミン(a)と脂肪酸(d)のモル比は、アルキルアミン(a):脂肪酸(d)が、約90:10〜約99.9:0.1の範囲であればよく、約95:5〜約99.9:0.1の範囲であることが好ましく、約95:5〜約99.5:0.5の範囲であることがより好ましい。上記範囲内であれば、導電性インク及び導電性ペースト中における金属ナノ粒子の分散性を十分に向上させることができると共に、得られる金属ナノ粒子を含む導電性ペースト用いて形成した導電膜の導電性が良好になる。
【0031】
<有機溶媒(b)>
本発明に用いる有機溶媒(b)は、原料組成物を反応容器へ連続的に導入し、また金属化合物(c)の熱分解反応を良好に進行させる程度に、原料組成物に流動性を付与できるものであればよい。また、有機溶媒(b)は、原料組成物を加熱された面上(例えば、反応容器の加熱された壁面)で膜を形成した状態とすることができるものが好ましい。有機溶媒(b)は、原料組成物の粘度が低くなる(例えば、約20Pa・s以下であればよく、約10Pa・s以下であることが好ましい。)ものであれば、特に問題なく使用することができる。
【0032】
有機溶媒(b)として、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、非プロトン性極性溶媒等を例示することができる。
中でも、反応容器に導入された原料組成物が蒸発乾固しない程度に高沸点のものが好ましい。例えば、常圧下での沸点が約150℃以上約350℃以下のものであればよく、約150℃以上約330℃以下のものが好ましく、約150℃以上約300℃以下のものより好ましい。
さらに、有機溶媒(b)は、金属ナノ粒子の精製の際に生成した金属ナノ粒子を容易に固液分離できる点で、常圧下20℃の水に対して、約1g/L以上溶解できるものであればよく、約10g/L以上溶解できるものが好ましく、約100g/L以上溶解できるものがより好ましい。
【0033】
有機溶媒(b)として、具体的には、炭素数6〜18の直鎖もしくは分岐鎖のアルカン;ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、ベンゾニトリル等の芳香族類;アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸エチル、蟻酸エチル等の脂肪酸エステル類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のジオール類;炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖の脂肪族アルコール、シクロヘキサノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール等のアルコール類;ポリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール類もしくはグリコールエーテル類;メチル−n−アミルケトン;メチルエチルケトンオキシム;トリアセチン;γ−ブチロラクトン;2−ピロリドン;N−メチルピロリドン;アセトニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド;N−(2−アミノエチル)ピペラジン;ジメチルスルホキシド;テルピネオール等のテルペン類などを例示することができる。
【0034】
中でも、常圧での沸点、極性、および溶媒の粘度に起因する取扱いの容易さの点で、アルコール類(特に、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール)、グリコールエーテル類(特に、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル)、γ−ブチロラクトンが好ましい。
有機溶媒(b)は単独で用いてもよく、原料組成物粘度が適切になるように2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
原料組成物中の有機溶媒(b)の含有量は、金属化合物(c)100重量部に対して、約50重量部以上であればよく、約60重量部以上が好ましく、約75重量部以上がより好ましい。また、金属化合物(c)100重量部に対して、約500重量部以下であればよく、約450重量部以下が好ましく、約400重量部以下がより好ましい。
上記範囲であれば、原料組成物を反応容器へ連続的に導入し、また金属化合物(c)の熱分解反応を良好に進行させる程度に、原料組成物に流動性を付与することができ、また、反応工程において原料組成物を加熱された面上で膜を形成した状態とすることができる。
金属化合物(c)100重量部に対する有機溶媒(b)の含有量としては、約50重量部〜約400重量部、約50重量部〜約450重量部、約50重量部〜約500重量部、約60重量部〜約400重量部、約60重量部〜約450重量部、約60重量部〜約500重量部、約75重量部〜約400重量部、約75重量部〜約450重量部、約75重量部〜約500重量部が挙げられる。
【0036】
金属化合物(c)
本発明で用いる加熱により分解し単体金属又は合金を生成する金属化合物(c)として、有機金属化合物(例えば、カルボン酸塩)、スルホン酸塩、チオール塩、塩化物、硝酸塩、炭酸塩等の金属塩を例示することができる。中でも、金属が生成した後、対イオン由来の物質の除去が容易である点で、有機金属化合物及び炭酸塩が好ましく、有機金属化合物がより好ましい。有機金属化合物の中では、蟻酸、酢酸、蓚酸、マロン酸、安息香酸、フタル酸等のカルボン酸塩が好ましく、熱分解の容易さの点から、蓚酸塩がさらに好ましい。
【0037】
金属化合物(c)の金属種としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル等を例示することができる。中でも、導電性、及び耐酸化性が良い点で、金、銀、白金が好ましく、低コストかつ低温焼結できる点で、銀がより好ましい。
【0038】
金属化合物(c)としては、蓚酸銀、蓚酸銅、蓚酸ニッケル、蓚酸アルミニウム、蟻酸銀、蟻酸銅、蟻酸ニッケル、蟻酸アルミニウム、酢酸銀、酢酸銅、酢酸ニッケル、酢酸アルミニウム、マロン酸銀、マロン酸銅、マロン酸ニッケル、マロン酸アルミニウム、安息香酸銀、安息香酸銅、安息香酸ニッケル、安息香酸アルミニウム、フタル酸銀、フタル酸銅、フタル酸ニッケル、フタル酸アルミニウム等を例示することができる。中でも、蓚酸銀、蓚酸銅、蓚酸ニッケル、蓚酸アルミニウムが好ましい。
金属化合物(c)は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
加熱により分解し単体金属又は合金が生成する金属化合物(c)は、市販品を購入して用いることができる。また、特開2012−162767等に開示されている方法に従い製造することもできる。
【0040】
原料組成物中の金属化合物(c)の含有量は、組成物全量に対して、約12重量%以上であればよく、約15重量%以上が好ましく、約20重量%以上がより好ましい。上記範囲であれば、得られた金属ナノ粒子を含む導電性ペースト又は導電性インクは、液中で金属ナノ粒子の分散性が良いと共に、低温で焼結しても高い導電性を有する回路を形成することができる。
また、原料組成物中の金属化合物(c)の含有量は、組成物全量に対して、約55重量%以下であればよく、約50重量%以下が好ましく、約40重量%以下がより好ましい。上記範囲であれば、金属化合物(c)とアルキルアミン(a)とが効率よく相互作用し、本発明の効果、特に金属ナノ粒子の効率的な製造を達成することができる。
原料組成物中の金属化合物(c)の含有量としては、組成物全量に対して、約12〜約55重量%、約12〜約50重量%、約12〜約40重量%、約15〜約55重量%、約15〜約50重量%、約15〜約40重量%、約20〜約55重量%、約20〜約50重量%、約20〜約40重量%が挙げられる。
【0041】
原料組成物の調製工程
原料組成物の各成分は、反応容器内で効率的に金属化合物(c)の熱分解反応を進行させるため、原料組成物中で均一に分散した状態となっていることを要する。各成分の添加順序、及び混合方法は、得られた原料組成物中で各成分が均一に分散された状態となる方法であれば、特に制限されない。
各成分の混合方法として、メカニカルスターラー、マグネティックスターラー、ボルテックスミキサー、遊星ミル、ボールミル、三本ロール、ラインミキサー、プラネタリーミキサー、ディゾルバー等を用いる方法を例示できる。製造設備の規模や生産能力に応じて、混合装置を適宜選択することができる。
【0042】
各成分の混合中に、溶解熱、又は摩擦熱等の影響で組成物の温度が上昇し、金属化合物(c)の熱分解反応が開始する可能性があるため、混合は組成物の温度が約60℃以下となるように行うことが好ましく、組成物の温度を約40℃以下に抑えながら行うこと事がより好ましい。必要に応じて組成物を冷却しながら、混合を行ってもよい。また、各成分の混合時間は、各成分が組成物中に均一に混合した状態となる時間であれば、特に限定されず、例えば、1分〜数時間の範囲であればよい。
【0043】
本発明方法は、既に調整された原料組成物を使用してもよく、或いはアルキルアミン(a)、有機溶媒(b)、及び加熱により分解して単体金属又は合金を生成する金属化合物(c)を含有する原料組成物を調製する工程(例えば、(a)、(b)、及び(c)成分を混合する工程)を含み、この工程に引き続き、以下に説明する反応工程を行うこともできる。
【0044】
反応工程
原料組成物を反応容器に連続的に導入することにより、連続的に金属化合物の熱分解反応が起こり、アルキルアミンに由来する皮膜を有する金属ナノ粒子が生成する。反応容器に原料組成物を連続的に導入する方法としては、発生する炭酸ガスの発生量を抑えながら、金属化合物の熱分解反応を効率的に進行する導入速度に調製することができる方法であれば、特に制限なく用いることができる。
【0045】
反応工程における原料組成物の反応容器への連続導入方法としては、貯蔵槽からの原料組成物の自由落下、加圧による反応容器への原料組成物の落液、各種ポンプを用いて原料組成物を反応容器へ導入する方法等を例示することができる。特に、組成物が高粘度である場合には、加圧による落液、又はチューブポンプによる導入が好適に用いられる。
【0046】
本発明方法は、反応容器へ導入された原料組成物を反応容器内の加熱面と接触した状態で熱分解反応させることが好ましい。
原料組成物と加熱面との接触方法は特に限定されないが、例えば、原料組成物を加熱された反応容器の壁面を流下させる方法、シャワーやスプレーを用いて原料組成物を反応容器の加熱された壁面に滴下又は噴霧する方法などが挙げられる。また、反応容器内に、面を有する1又は複数の面部材(例えば、筒、盤など)を設けておき、その面部材の加熱された面上(例えば、加熱された円筒又は角筒の内面及び/又は外面上、円盤又は角盤の面上)に原料組成物を流下させたり、シャワーやスプレーを用いて滴下又は噴霧する方法も挙げられる。複数の筒状の面部材を備えるときは、それらを反応容器内に入れ子状に設置すればよい。
【0047】
本発明の製造方法における反応工程では、反応容器に導入した原料組成物が加熱されることにより、金属化合物(c)の熱分解反応が起こり、アルキルアミンに由来する皮膜を有する金属ナノ粒子が生成する。
反応工程において、金属化合物(c)の熱分解反応を効率よく行える点で、加熱された面上(例えば、反応容器の壁面上、反応容器内に設置された面部材の面上など)で膜を形成した状態の原料組成物を熱分解反応させることが好ましい。原料組成物を加熱された壁面で膜を形成させる方法は、連続的に反応させるために、原料組成物が反応容器の加熱された壁面で膜を形成した状態で流動できる方法であればよい。
本発明において、「原料組成物が加熱された面上で膜を形成した状態」には、面上に連続的に膜を形成した状態、部分的に膜が形成されていない部分があり即ち不連続に膜が形成された状態、斑点状に膜が形成された状態などが含まれる。また、膜厚が均一な場合と不均一な場合が含まれる。
【0048】
加熱された面上における原料組成物の厚みは、原料組成物中の金属化合物(c)が、加熱された壁面に接触した直後に熱分解反応温度に達する程度の膜の厚みであればよく、反応温度や、原料組成物の組成等に応じて適宜調整することができる。膜厚は、面上での原料組成物の落下速度、膜形成方法などを選択することにより調整できる。本発明においては、膜の厚みは、例えば、約0.1μm以上約5,000μm以下の範囲であればよく、好ましくは約0.1μm以上約2,000μm以下の範囲である。
【0049】
加熱された面上に原料組成物の膜を形成させる態様として、原料組成物を反応容器の加熱された壁面上や反応容器内に設置した面状部材の面上を自然に流下させ、更にワイパーブレード等を用いてワイピングすることにより膜を形成させる方式(ワイパー式)、原料組成物を反応容器の加熱された壁面上や反応容器内に設置した面状部材の面上を自然に流下させ、スクレーパー等によってならすことにより膜を形成させる方式(スクレーパー式)、回転する円盤表面に原料組成物を伝い流し、膜を形成させる方式(回転式)、又は相対回転する外筒(反応容器であってもよい)と内筒との間隙に間隙厚の膜を形成させる方式(回転式)、外筒と内筒の間の両壁に遠心力で膜を形成させる方式(遠心式)等を例示することができる。中でも、加熱された面上で均一な厚さの原料組成物の膜を形成でき、熱分解反応を効率的に進行させることができる点で、ワイパー式、回転式、遠心式による方式が好ましく、ワイパー式による方式がより好ましい。
【0050】
ワイパー式やスクレーパー式として、回転式又は往復式のワイパーブレードやスクレーパー等を用いて、加熱された壁面上を自然に流下する原料組成物、又はスプレーやシャワーを用いて壁面に滴下若しくは噴霧された原料組成物を均一な膜にする方式、回転又はスライド可能な加熱面に原料組成物を流下し、固定式のワイパーブレード又はスクレーパー等によって均一な膜にする方法等を例示することができる。中でも、加熱された面上で均一な膜を効率的に形成させることができ、熱分解反応を効率よく進行できる点で、加熱された面を自然に流下する原料組成物を回転式ワイパーブレードを用いて均一な膜に形成する方法が好ましい。反応に用いられるワイパーブレードやスクレーパーの材質は、反応容器内において組成物による腐食や熱による変形が生じないものであれば、特に限定されない。
【0051】
原料組成物の膜を形成する他の態様として、反応容器の加熱された壁面に沿って原料組成物を自然に流下させて膜を形成させる方式(流下式)、反応容器内に傾斜させて設置した面状部材の面上に原料組成物を自然に流下させて膜を形成させる方式(傾斜式)、スライド可能な加熱面に沿って原料組成物を流下させながら加熱面をスライドさせて、この加熱面上に膜を形成させる方式(スライド式)等を例示することができる。
本発明において「流下」とは、重力に従って下方(垂直下方又は斜め下方)に流動することを意味する。
【0052】
反応容器の加熱された壁面に沿って原料組成物を自然に流下させて膜を形成させる方式(流下式)として、反応容器の加熱された壁面の上方から原料組成物を膜状に流下させる方式、原料組成物をスプレーやシャワーを用いて壁面に滴下又は噴霧させ、加熱面に膜を形成させる方式等を例示することができる。
【0053】
反応容器内に傾斜させて設置した面上に原料組成物を自然に流下させて膜を形成させる方式(傾斜式)として、傾斜角をつけて階層状に設置した盤状部材、傾斜角をつけて設置した複数の柱状部材、又は1若しくは複数のコイル状部材に沿って、原料組成物を上方から流下させる方式等を例示できる。また、管状等の反応容器を傾けた状態で設置し、この反応容器の加熱された壁面に沿って原料組成物を流下させる方式、加熱面を円柱状又は球状等の曲面とし、この曲面に沿って上方から流下させる方法等を例示することができる。
反応容器内に設置する面状部材の面の傾斜角や、反応容器の壁面を傾斜させる場合の傾斜角は、流下する原料組成物中の金属化合物(c)が完全に熱分解反応する速度で原料組成物が流下する傾斜角に調整すればよく、特に制限されない。この傾斜角は、水平に対して約1〜90度の範囲であればよく、好ましくは、約15〜90度の範囲である。
原料組成物を反応容器の加熱された壁面で膜を形成させることにより、金属化合物(c)を効率的に熱分解反応させて、効率よく金属ナノ粒子を得ることができる。
【0054】
本発明の反応工程に用いる反応容器の内壁面材料は、原料化合物の連続導入により金属化合物(c)を熱分解に必要な温度まで加熱することができ、熱分解反応により金属ナノ粒子を連続的に生成させる事ができるものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、鉄、鋼(特に、ステンレス鋼)、ガラス、又は鉄、鋼、若しくはステンレス鋼の面(反応容器内面)上にガラスを焼き付けたもの(例えば、鉄、鋼、又はステンレス鋼からなる筒状の内面にガラスライニングを施したもの)を例示することができる。
【0055】
反応容器への原料組成物の導入速度は、反応容器の容量、反応に用いる原料組成物の成分及び粘度に応じて適宜調整することができ、加熱面上で組成物の熱分解反応が完了するような導入速度であれば良い。
【0056】
また、熱分解反応中のガス等の発生が多くなりすぎないように、原料組成物の導入速度を調整すればよい。反応容器への原料組成物の導入速度は、金属化合物(c)の熱分解反応により生じる1分間当たりのガス発生量が反応容器の容積を超えない範囲であることが好ましく、反応容器の容積の75%以下であることがより好ましく、反応容器の容積の50%以下であることがさらにより好ましい。上記範囲であれば、ガス排出速度が抑えられると共に、反応容器からの反応液の漏出が抑えられて、原料組成物の導入速度(時間当たりの反応量)を増加させても工業的に安全に製造することが可能である。
【0057】
発生ガスとしては、金属蓚酸塩等の熱分解により生じる炭酸ガスの他、アルキルアミン由来の揮発分などがあり得る。しかし、発生ガスのほとんどは炭酸ガスであると考えられるため、本発明では、熱分解反応によって生じる炭酸ガス量をガス量とする。また、理想気体として気体の状態方程式(PV=nRT)を用いて、炭酸ガスの発生量を算出する。具体的には、P=ガス発生下の圧力(反応容器外部へ放出された際の体積として計算するため1気圧とする。)、V=発生したガスの体積、n=発生したガスのモル数(組成物中に蓚酸の金属塩を用いる場合、蓚酸の2倍モル当量となる)、R=気体定数、T=熱分解反応時の加熱温度(絶対温度)とする。
【0058】
反応工程における熱分解反応の反応温度としては、熱分解反応が連続的に進行し、金属ナノ粒子が連続的に生成する温度であればよく、具体的には、約250℃以下であればよく、より具体的には、約50℃以上約250℃以下であればよく、約100℃以上約240℃以下が好ましく、約120℃以上約240℃以下の範囲であることがより好ましい。上記温度範囲であれば、反応容器内で膜を形成した組成物を熱分解反応に付することにより、効率よく連続的に金属ナノ粒子を得ることができる。
本発明において、反応温度は加熱機による加熱温度である。反応容器内の温度、反応容器壁又は反応容器内に設置した面状部材の面の温度は、加熱機による加熱温度と通常ほぼ一致する。
また、反応時間は、目的とする量の金属ナノ粒子が得られるまでの時間を任意に設定できる。通常は、約数秒〜数時間とすることができる。
【0059】
精製工程
上記反応工程において熱分解反応により生成した金属ナノ粒子は、有機溶媒(b)や未反応原料(アルキルアミンや脂肪酸等)を含む混合物として得られる。反応によって得られた混合物を精製することによって、目的とする物性を有する金属ナノ粒子を得ることができる。金属ナノ粒子の精製方法としては、フィルターろ過による固液分離方法、金属ナノ粒子と有機溶媒の比重差を利用した沈殿方法等を例示することができる。固液分離の具体的な方法として、遠心分離やサイクロン式、又はデカンタといった方法を例示することができる。また、精製する際には、低粘度にすることにより作業が改善され、また未反応物の除去を効率的に行える点で、混合物をアセトン、メタノール等の低沸点溶媒で希釈してもよい。
【0060】
(2)金属ナノ粒子
上記説明した本発明方法により、アルキルアミン由来の皮膜を有する金属ナノ粒子が得られる。
金属ナノ粒子の平均粒径は、反応条件や原料組成物の組成を適宜調整することで所望の値にすることができる。平均粒径は、例えば、約1nm〜約200nm、中でも約1nm〜約100nm、中でも約10nm〜約60nmの範囲とすることができる。上記範囲であれば、導電性インクや導電ペーストに配合したときに分散性が良いため、溶媒の選択範囲が広くなる。また、上記範囲であれば、この金属ナノ粒子を配合した導電性インクや導電ペーストを比較的低温で熱処理しても、十分に低い体積抵抗値を有する回路が形成できるため、基板材料を広範囲から選択して使用できる。
本発明において、金属ナノ粒子の平均粒径は、動的光散乱法で測定した値であり、具体的には、実施例で使用の装置を用いて測定した値である。
【0061】
本発明方法では、連続法で金属ナノ粒子を製造するため、炭酸ガスなどの揮発分の発生速度が抑えられており、その結果、金属ナノ粒子を工業スケールで製造することができる。
【0062】
(3)金属ナノ粒子の製造装置
上記説明した本発明方法は、例えば、反応容器と、反応容器に付設された加熱装置と、上記説明した原料組成物を反応容器に連続的に供給する供給装置と、反応容器で生成した金属ナノ粒子を含む生成物を溜める生成物回収容器と、反応容器で発生した揮発分を回収する揮発分回収装置とを備える、平均粒径1nm以上200nm以下の金属ナノ粒子の製造装置を用いて実施することができる。
上記加熱装置は、反応容器内の雰囲気を加熱するものであってもよく、反応容器壁を加熱するものであってもよい。また、本発明の装置は、反応容器内に、原料組成物の膜を形成するための面部材を備えることができ、その場合は、加熱装置は面部材を加熱するものとすればよい。
揮発分を回収する揮発分回収装置は、揮発分の還流また分離による回収装置とすればよい。
本発明の装置は、一般に使用されている薄膜蒸留装置や分子蒸留装置等を利用して作製できる。
その他の構成、例えば、反応容器、面部材、原料組成物の膜を面上に形成させる装置、反応容器への原料組成物の連続導入装置などは、本発明方法について説明した通りである。
【0063】
また、本発明の装置は、必要に応じて、減圧装置、圧力調整装置、活性力線照射装置、外部光の遮蔽機構、不活性ガス充填装置、保温機構、冷却機構などを反応容器に付設することができる。
本発明装置の一実施態様を
図1に示す。この装置は、筒状の反応容器Rと、反応容器Rの容器壁に沿って原料組成物を連続的に供給する原料組成物供給装置2と、生成物回収槽3と、揮発分を冷却により液化して回収する揮発分回収装置4とを備える。反応容器Rには、反応容器Rを加熱するための熱交換器Hと、反応により生成したガスを熱交換器Hを介して外部に排出するための排気装置Pと、容器壁に沿って原料組成物の膜を形成するための回転可能な撹拌翼Wと、撹拌翼駆動器Mが付設されている。また、熱交換器Hと壁面を加熱するためのヒータhで覆われている。
【実施例】
【0064】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
(1)原料
実施例及び比較例で用いた原料組成物の各成分を以下に示す。
【0066】
アルキルアミン(a)
a1:n-オクチルアミン(炭素数8、和光純薬工業株式会社製)
a2:n-ブチルアミン(炭素数4、和光純薬工業株式会社製)
【0067】
有機溶媒(b)
b1:3−メトキシ−1−ブタノール(沸点161℃、和光純薬工業株式会社製)
b2:トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点249℃、和光純薬工業株式会社製)
【0068】
金属化合物(c)
c1:蓚酸銀
なお、蓚酸銀は特許文献4(特開2012−162767)に記載の方法により、合成した。
【0069】
脂肪酸(d)
d1:カプロン酸(炭素数6、和光純薬工業株式会社製)
【0070】
(2)原料組成物の調製
下記の表1に記載の量の各成分を秤量し、容器に投入した後、室温下にてマグネティックスターラーを用いて、約30分間攪拌することによって、原料組成物1〜5を調製した。
また、各組成物の粘度を(E型粘度計BROOKFIELD社製VISCOMETER DV−II+Pro、10rpm)により測定した。測定された各組成物の粘度を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
(3)金属ナノ粒子の生成反応
(実施例1)
実施例1は、連続反応に用いる装置として、回転薄膜式の分子蒸留装置(柴田科学株式会社製 MS−300)を利用した。反応容器の容積と受液部の容積とを合わせた容積は約1.6Lとなった。装置の真空ポンプ取り付け部を開放し、発生したガスが放出されるようにした。反応容器内部に備え付けられたフッ素樹脂製ワイパーブレードの回転速度を60rpmとし、反応容器外部に装着したリボンヒーターの温度は180℃とした。これにより、反応容器壁の温度も約180℃となった。
表1に示す原料組成物1を用い、反応容器へチューブポンプ(東京理化器械株式会社製 ペリスタルティックチューブポンプ MP−1000)を用い、導入速度1.5g/分で反応容器に導入し、20分間反応を継続させた。原料組成物1を反応容器へ約30g連続投入し、熱分解反応により、金属ナノ粒子が生成するか否かを確認した。
【0073】
金属ナノ粒子の混合物が連続的に生成できているか否か(連続反応性の評価)については、金属ナノ粒子が連続的に生成した場合を「○」、金属ナノ粒子が連続的に生成しない場合を「×」とした。また、得られた金属ナノ粒子の重量から収率を、原料組成物の導入量から理想気体とした場合のガス発生量を算出した。結果を表2に示す。
【0074】
(実施例2)
実施例2は、表1に示す原料組成物2を用いた以外は、実施例1と同じ方法で反応を実施した。連続反応性の評価、収率、ガスの発生量を表2に示す。
【0075】
(実施例3)
実施例3は、表1に示す原料組成物2を用い、実施例1で用いた分子蒸留装置(柴田科学株式会社製 MS−300)のワイパーブレードの回転を停止した状態で反応を実施した。原料組成物2の反応容器への導入は、チューブポンプ(東京理化器械株式会社製 ペリスタルティックチューブポンプ MP−1000)を用い、導入速度を1.0g/分とし、30分間反応を継続させた。組成物2を反応容器へ約30g連続投入し、熱分解反応により、金属ナノ粒子が生成するか否かを確認した。その他は、実施例1と同様の操作を行った。連続反応性の評価、収率、ガスの発生量を表2に示す。
【0076】
(実施例4)
実施例4は、表1に示す原料組成物3を用い、実施例3と同じ方法で反応を実施した。連続反応性の評価、収率、ガスの発生量を表2に示す。
【0077】
(実施例5)
実施例5は、直径20mm、長さ800mm、内部の体積が約0.25Lのガラス管を水平面から15度の傾斜を有する状態で固定し、反応容器とした。ガラス管の周囲に150℃となるよう設定したリボンヒーターを長さ500mmの範囲に巻き付け、表1の原料組成物2をチューブポンプにて1.0g/分の速度でこの反応容器へ導入し、30分間反応を継続させ、熱分解反応により金属ナノ粒子が生成するか否かを確認した。連続反応性の評価、収率、ガスの発生量を表2に示す。
【0078】
(比較例1)
比較例1は、従来技術であるバッチ法(特許文献4に記載の方法)で金属ナノ粒子の反応を実施した。具体的には、表1の原料組成物2を用い、500mLガラスビーカーに表1に記載の分量で各成分を投入し、室温にてマグネティックスターラーで約30分間混合した。組成物の体積は、約82mLとなった。この混合物30g(約43mL)抜き取って300mLガラスビーカーに投入し、予め150℃に設定したホットスターラー(小池精密機器製作所製 HHE−19G−U)上にビーカーを設置し、攪拌及び加熱を開始した。連続反応性の評価、収率、ガスの発生量を表2に示す。
【0079】
(比較例2)
比較例2は、表1に示す原料組成物4(アルキルアミン無添加)を用いて、実施例1と同じ方法で反応させた。連続反応性の評価、収率、ガスの発生量を表2に示す。
【0080】
(比較例3)
比較例3は、表1に示す原料組成物5(有機溶媒無添加)を用いて、実施例1と同じ方法で反応を実施した。連続反応性の評価、収率、ガスの発生量を表2に示す。
【0081】
(4)金属ナノ粒子の精製
各実施例及び比較例において反応容器から回収された混合液を遠沈管に入れ、混合液と等量程度の洗浄液(メタノール)を添加し、ボルテックスミキサーで分散、混合させた後、遠心分離機(日立工機製 himac 小型冷却遠心機CF7D2)にて3000rpm、1分処理することで銀ナノ粒子を遠沈させ、上澄み液を除去することにより金属ナノ粒子を精製した。この工程を3回繰り返すことにより金属ナノ粒子を精製した。
【0082】
(5)金属ナノ粒子の評価
各反応によって得られた金属ナノ粒子を用いて、特許文献4に記載の方法により金属ナノ微子分散インクを調製した。具体的には、ブタノール:オクタン混合溶媒(体積比1:4)と、得られた銀ナノ粒子(約6.5〜6.9g)とを(50mlサンプル瓶)に等量投入し、室温下マグネティックスターラーにて攪拌混合することで、50wt%の金属ナノ粒子分散インク(約13〜13.8g)を得た。
【0083】
得られた各金属ナノ粒子分散インクを用い、動的光散乱法粒度分布測定装置(スペクトリス製 ゼータサイザーナノ)にて、得られた各金属ナノ粒子の平均粒径を測定した。また、各金属ナノ粒子分散インクをPETフィルム(帝人化成製 HK188G-AB500H、60×60mmにカットしたもの)上にスピンコート(3000rpm、30秒)したものを、100℃、30分熱処理した。この時の塗膜の厚みをレーザー顕微鏡(レーザーテック製 OPTELICS HYBRID)にて測定し、5回測定の平均塗膜厚を得た。得られた平均塗膜厚を用い、導電率計(三菱化学アナリテック製 ロレスターAX)によって体積抵抗値を求め、導電性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
実施例1において、原料組成物の反応容器への最初の投入から金属ナノ粒子を含む混合物が回収されるまでに約2分間を要した。また、投入停止後、銀ナノ粒子を含む混合物の落液が停止したのも約2分後であった。その間、連続的に金属ナノ粒子を含む混合物が得られた。従って、反応容器内部の滞留時間は約2分であった。また、投入速度より時間当たりの反応量は、約1.5g/分と見積もられた。従って、時間当たりの炭酸ガスの発生量は0.13L/分、すなわち反応容器の容積の8.0%であった。従って、後述する比較例1に示すバッチ式の反応と比較して、熱分解反応による炭酸ガスの発生量を制御できたと言える。得られた混合物を上述した精製方法により精製し、収率を計算したところ、組成物30gから生成する金属ナノ粒子の理論値約7.4gに対して、約6.9gの金属ナノ粒子が得られた。
【0086】
実施例2においては、有機溶媒(b)として3-メトキシ-1-ブタノールを用いた。その結果、原料組成物の流動性が向上し、反応容器への導入が容易となった。しかし、実施例1と比較してやや収率が低下した。これは、有機溶媒の沸点が、実施例1で用いたトリエチレングリコールモノメチルエーテルと比較して低かったため、回転式ワイパーブレードで薄膜化された際の組成物の流動性が失われ、反応容器の内部への固着量が増加したためと推測される。また、時間当たりの炭酸ガスの発生量は0.13L/分、すなわち反応容器の容積の8.0%であった。
【0087】
実施例3においては、回転式ワイパーブレードの回転を停止した状態で原料組成物を反応容器へ導入した。結果、反応容器内の加熱面と組成物が効率的に反応し、壁面への組成物及び生成物の付着が起こらなかった。なお、回転式ワイパーブレードで薄膜化した場合と比較して、組成物が熱分解温度に達するまで、やや長くなるため、反応容器への組成物の導入速度は回転式ワイパーを用いた場合より、若干抑制することが必要であった。結果、時間当たりのガス発生量は0.09L/分すなわち反応容器の容積の5.3%であり、この方法でもガス発生の制御が可能であった。
【0088】
実施例4においては、実施例3において、原料組成物を組成物3に変更し反応を行った。その結果、実施例3と比較して若干の体積抵抗値の増加が見られた。これは、組成物に脂肪酸(d)が含有されないために、金属ナノ粒子の導電性インク中における分散性が低下したことで形成された塗膜の物性に影響したためと考えられる。なお、この際の時間当たりのガス発生量は0.09L/分すなわち反応容器の容積の5.3%であった。
【0089】
実施例5においては、実施例1〜4で使用した装置ではなく、傾斜させたガラス管を加熱したものを反応器とし、これに組成物を導入した。結果、導入開始から最初の生成物が回収されるまで約3分を要した。これは、加熱面に導入された組成物が下流に移動する際に加熱面が垂直である場合よりも流速が遅くなり、さらにはワイパーブレードで強制的に薄膜化されなかったため、装置内の滞留時間は実施例1〜4と比較して長くなった。また、滞留時間が長い為に実施例1〜4と比較して低温である150℃であっても熱分解反応が連続的に進行したものである。なお、この際の時間当たりのガス発生量は0.08L/分すなわち反応容器の容積の31.6%であった。
【0090】
比較例1は、連続反応と比較するため、特許文献4(特開2012−162767)に記載の方法に準じてバッチにて反応を実施したものである。加熱開始から熱分解反応の開始までに約30分を要し、さらに熱分解反応の開始から終了(炭酸ガスの発生が停止したことを確認できる)までの時間は約4分間であった。組成物の量より、熱分解開始から終了までの時間当たりの炭酸ガス発生量は0.60L/分と実施例の約5〜6倍の発生量、であり、また1分間で反応容器(300mLガラスビーカー)の容積の1.98倍の炭酸ガスが発生していると見積もられた。そのため、反応時に多量の炭酸ガスの噴出及び液面の上昇が見られた。より大スケールで反応させた際にも熱分解時間は大きく変化しないと考えられる為、時間当たりのガス発生量はより多くなると想定される。従って、このガス噴出及び液面上昇に耐えうる設備が必要であり、比較例1の方法は安全かつ低コストな工業的製造方法とは、なり難いことが確認された。なお、収率は小スケールであるため、連続反応と比較してやや高収率であった。
【0091】
比較例2においては、アルキルアミン(a)を含有しない組成物を用いて反応させた。結果、金属ナノ粒子自体は連続的に生成し、この際の時間当たりのガス発生量は0.12L/分すなわち反応容器の容積の7.8%であった。たが、金属ナノ粒子の表面をアルキルアミンよりも強く金属ナノ粒子表面に結合し、塗膜形成後も残留してしまう脂肪酸(d)によって表面が被覆されてしまったため、導電性インクとして塗膜を形成した際に導電性が得られなかった。
【0092】
比較例3においては、有機溶媒(b)を用いずに組成物を反応容器への導入を行った。結果、組成物が徐々に増粘し、途中からチューブポンプでは、反応容器に導入することができなくなった。また、導入開始直後では反応容器に導入された組成物より金属ナノ粒子の生成反応を確認できたが、その後生成した金属ナノ粒子を含む混合物が、反応容器内で乾固してしまい、金属ナノ粒子を得ることができなかった。