特許第6365571号(P6365571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365571
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】炭素多孔体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/15 20170101AFI20180723BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20180723BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20180723BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C01B32/15
   B01J20/20 A
   B01J20/28 Z
   B01J20/30
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-38986(P2016-38986)
(22)【出願日】2016年3月1日
(65)【公開番号】特開2017-154923(P2017-154923A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2017年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸山 徳彦
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−520230(JP,A)
【文献】 特開平10−312808(JP,A)
【文献】 特開2004−345921(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/053553(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
B01J 20/00−20/34
H01M 4/00ー4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロ細孔とメソ細孔とを含み、温度77Kでの窒素吸着等温線のαsプロット解析により求まるミクロ細孔容量が100(cm3(STP)/g)以上であり、
窒素吸着等温線によるBET比表面積が1000m2/g以上であり、
窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.10以上0.20以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が300(cm3(STP)/g)以上であり、且つ窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が200(cm3(STP)/g)以上であり、
窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.98における窒素吸着量が1400(cm3(STP)/g)以上である、炭素多孔体。
【請求項2】
窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.10以上0.20以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が400(cm3(STP)/g)以上である、請求項1に記載の炭素多孔体。
【請求項3】
窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が300(cm3(STP)/g)以上である、請求項1又は2に記載の炭素多孔体。
【請求項4】
前記ミクロ細孔容量が120(cm3(STP)/g)以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載の炭素多孔体。
【請求項5】
前記窒素吸着等温線によるBET比表面積が1200m2/g以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載の炭素多孔体。
【請求項6】
芳香族カルボン酸のリチウム塩としての2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム及びビフェニルジカルボン酸ジリチウムを不活性雰囲気である窒素雰囲気中で900℃以上1000℃以下の範囲で加熱して炭素化させる焼成工程、
を含む炭素多孔体の製造方法。
【請求項7】
記焼成工程のあと、金属成分を溶解可能な洗浄液で洗浄する溶出処理工程を行わない、請求項6に記載の炭素多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素多孔体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素多孔体としては、炭素骨格の一部が窒素原子で置換されたものが知られている(特許文献1)。この炭素多孔体は、平均細孔径が2nm以下のミクロ細孔構造を有している。一方、セルサイズが約0.1μmの低密度の炭素発泡体も知られている(特許文献2)。この炭素発泡体は、レゾルシノールとホルムアルデヒドとの重縮合によって得られるポリマークラスタを共有結合的に架橋してゲルを合成し、そのゲルを超臨界条件で処理してエアロゲルとし、そのエアロゲルを炭素化することによって合成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−051828号公報
【特許文献2】米国特許第4873218号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これまで、メソ細孔構造でありながら窒素相対圧力の比較的大きな領域において窒素相対圧力差に対する窒素吸着量差が大きい炭素多孔体は知られておらず、当然、こうした炭素多孔体を容易に製造する方法も知られていなかった。このような炭素多孔体は、特定ガスの脱着材への利用が期待される。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、新規な炭素多孔体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、芳香族カルボン酸のリチウム塩を焼成することにより、新規な炭素多孔体が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の炭素多孔体は、
ミクロ細孔とメソ細孔とを含み、温度77Kでの窒素吸着等温線のαsプロット解析により求まるミクロ細孔容量が100(cm3(STP)/g)以上であり、
窒素吸着等温線によるBET比表面積が1000m2/g以上であり、
窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.10以上0.20以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が300(cm3(STP)/g)以上であり、且つ窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が200(cm3(STP)/g)以上であり、
窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.98における窒素吸着量が1200(cm3(STP)/g)以上であるものである。
【0008】
また、本発明の炭素多孔体の製造方法は、
芳香族カルボン酸のリチウム塩を不活性雰囲気中で800℃以上1000℃以下の範囲で加熱して炭素化させる焼成工程、
を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ミクロ細孔とメソ細孔とを含む新規な炭素多孔体を提供することができる。この炭素多孔体では、例えば、通常の賦活処理では得られない、ミクロ細孔とメソ細孔とを含む構造を有するものと考えられる。この理由は、例えば、原料である芳香族カルボン酸のリチウム塩の結晶構造とリチウムの作用により、特徴的な細孔構造が形成されるものと推察される。また、この炭素多孔体では、製造工程において、例えば、焼成によりリチウムが炭素多孔体から除去されるため、1段階の処理によってミクロ細孔とメソ細孔とを含む新規な炭素多孔体を得ることができる。この炭素多孔体は、ミクロ細孔とメソ細孔とを有しており、ガス吸着速度の向上など、機能向上が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の炭素多孔体の窒素吸着等温線の一例を示す説明図。
図2】実験例1〜4の窒素吸脱着等温線。
図3】実験例5〜10の窒素吸脱着等温線。
図4】実験例11〜13の窒素吸脱着等温線。
図5】実験例2〜4の焼成後及び溶出処理後の収率。
図6】実験例6〜8の焼成後及び溶出処理後の収率。
図7】実験例1〜4の相対圧力に対する吸着量の微分値の関係図。
図8】実験例5〜10の相対圧力に対する吸着量の微分値の関係図。
図9】実験例11〜13の相対圧力に対する吸着量の微分値の関係図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の炭素多孔体を図面を用いて説明する。本発明の炭素多孔体は、図1に示す特徴を有している。図1は、本発明の炭素多孔体の窒素吸着等温線の一例を示す説明図である。本発明の炭素多孔体は、ミクロ細孔とメソ細孔とを含み、温度77Kでの窒素吸着等温線のαsプロット解析により求まるミクロ細孔容量が100(cm3(STP)/g)以上であるものである。この炭素多孔体において、ミクロ細孔容量は、120(cm3(STP)/g)以上あることが好ましく、150(cm3(STP)/g)以上あることがより好ましい。また、本発明の炭素多孔体において、ミクロ細孔容量は、400(cm3(STP)/g)以下であるものとしてもよい。例えば、焼成条件を調整することにより、ミクロ細孔容量を調節することができ、目的の吸着特性を得ることができる。ここで、メソ細孔とは直径が2nmより大きく50nm以下の細孔を示し、ミクロ細孔とは直径が2nm以下の細孔を示すものとする。なお、αsプロット解析では、比較用の標準等温線として、”Characterization of porous carbons with high resolution alpha(s)-analysis and low temperature magnetic susceptibility" Kaneko, K; Ishii, C; Kanoh, H; Hanazawa, Y; Setoyama, N; Suzuki, T ADVANCES IN COLLOID AND INTERFACE SCIENCE vol.76, p295-320(1998)に記載された標準等温線を用いるものとする。
【0012】
本発明の炭素多孔体は、窒素吸着等温線によるBET比表面積が1000m2/g以上である。この炭素多孔体において、窒素吸着等温線によるBET比表面積は、1200m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。BET比表面積は、より大きい方が吸着材としては好ましい。このBET比表面積は、3000m2/g以下であるものとしてもよい。BET比表面積は、目的の吸着特性に応じて、適宜調整するものとすればよい。
【0013】
本発明の炭素多孔体は、図1に示すように、窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.10以上0.20以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が300(cm3(STP)/g)以上である。この窒素吸着等温線の微分値は、吸着等温線における特定の測定点(相対圧P/P0,窒素吸着量)とその次の測定点との間の窒素吸着量差を相対圧差で除算したものであり、窒素吸着等温線における傾きを表す値である。この炭素多孔体において、相対圧力P/P0が0.10以上0.20以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が400(cm3(STP)/g)以上であることが好ましく、500(cm3(STP)/g)以上であることがより好ましい。また、この窒素吸着等温線の微分値は、3000(cm3(STP)/g)以下であるものとしてもよい。
【0014】
本発明の炭素多孔体は、窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が200(cm3(STP)/g)以上である。この炭素多孔体において、相対圧力P/P0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が300(cm3(STP)/g)以上であることが好ましく、400(cm3(STP)/g)以上であることがより好ましい。また、この窒素吸着等温線の微分値は、3000(cm3(STP)/g)以下であるものとしてもよい。
【0015】
本発明の炭素多孔体は、窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.98における窒素吸着量が1200(cm3(STP)/g)以上である。この炭素多孔体において、窒素吸着等温線の相対圧力P/P0が0.98における窒素吸着量は、1400(cm3(STP)/g)以上であることが好ましく、1500(cm3(STP)/g)以上であることがより好ましい。また、この窒素吸着量は、3000(cm3(STP)/g)以下であるものとしてもよい。
【0016】
次に、本発明の炭素多孔体の製造方法について説明する。この製造方法は、例えば、芳香族カルボン酸のリチウム塩を不活性雰囲気中で800℃以上1000℃以下の範囲で加熱して炭素化させる焼成工程、を含むものである。この製造方法では、上述した特徴を有する炭素多孔体を製造することができる。この焼成工程では、芳香族カルボン酸としては、複数のベンゼン環が縮合した構造を有する多環芳香族炭化水素(例えばナフタレン)にカルボキシ基が結合したものや、複数のベンゼン環が結合した構造を有する芳香族炭化水素(例えばビフェニル)にカルボキシ基が結合したものなどが挙げられる。具体的には、ナフタレンジカルボン酸ジリチウム及びビフェニルジカルボン酸ジリチウムのうち少なくとも1以上を芳香族カルボン酸のリチウム塩として用いるものとしてもよい。不活性雰囲気としては、例えば、窒素雰囲気、希ガス雰囲気などが挙げられ、窒素雰囲気が好ましい。焼成温度は、消費エネルギーの観点からはより低い方が好ましく、例えば、950℃以下が好ましく、850℃以下がより好ましい。あるいは、焼成温度は、金属成分(例えばリチウムなど)の除去の観点からは、より高い方が好ましく、850℃以上が好ましく、950℃以上がより好ましい。焼成時の保持時間は、例えば50時間以下としてもよい。このうち、0.5〜20時間が好ましく、1〜10時間がより好ましい。0.5時間以上では、炭素多孔体の構造の形成が十分に行われる。20時間以下では、消費エネルギーをより低減でき好ましい。
【0017】
本発明の炭素多孔体の製造方法において、焼成工程のあと、金属成分を溶解可能な洗浄液で洗浄する溶出処理工程、を含むものとしてもよい。この製造方法において、焼成工程によって金属成分が焼失し除去されるが、残存する金属成分をこの溶出処理により更に除去することができる。金属成分を溶解可能な洗浄液としては、例えば、水や酸性水溶液などが挙げられ、このうち酸性水溶液が好ましい。酸性水溶液としては、例えば、塩酸、硝酸、酢酸などの水溶液が挙げられる。こうした洗浄を行うことにより、金属成分が存在していた箇所に空洞が形成されると推察される。
【0018】
得られた炭素多孔体は、吸着材として利用することができる。吸着する物質は、例えば、炭素多孔体の特性に合わせて選択することができる。
【0019】
以上詳述した本実施形態の炭素多孔体及びその製造方法では、ミクロ細孔とメソ細孔とを含む新規な炭素多孔体を提供することができる。この炭素多孔体では、例えば、通常の賦活処理では得られない、ミクロ細孔とメソ細孔とが存在する構造を有するものと考えられる。この炭素多孔体は、ミクロ細孔とメソ細孔とを有しており、ガス吸着速度やガス吸着量の向上など、機能向上が期待される。
【0020】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0021】
以下には、本発明の炭素多孔体を具体的に製造した例を実験例として説明する。なお、実験例3、4、7〜9が本発明の実施例に相当し、実験例1、2、5、6、10〜13が参考例に相当する。
【0022】
[実験例1〜4]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウム(Naph−Li)を窒素中で、所定温度、3時間加熱して炭素と一部金属成分を含む炭素多孔体を得た。これを水中に分散し、さらに過剰量の塩酸を添加することで、多孔体中に残存する金属成分を溶出させる溶出処理を行った。残渣である炭素をろ別乾燥することで、目的の炭素多孔体を得た。焼成温度を650℃、750℃、850℃及び950℃としたものをそれぞれ実験例1〜4とした。
【0023】
[実験例5〜9]
4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウム(Bph−Li)を用いた以外は実験例1と同様の工程を経て炭素多孔体を得た。焼成温度を650℃、750℃、850℃、950℃及び1000℃としたものをそれぞれ実験例5〜9とした。なお、実験例9は、溶出処理を行わなかった。
【0024】
[実験例10]
加熱雰囲気をアルゴン中として焼成した以外は実験例9と同様の工程を経て得られた炭素多孔体を実験例10とした。
【0025】
[実験例11、12]
テレフタル酸(以下PTA)0.1mol(16.6g)と、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)0.09mol(6.7g)と、水酸化カリウム(KOH)0.02mol(1.1g)とを混合し、10gの水を加え混練した。これを24時間放置したのちに80℃で乾燥し、複合塩を得た。得られた複合塩を不活性雰囲気中、600℃、3時間加熱して炭素と金属炭酸塩(一部は金属酸化物)の複合体を得た。これを水中に分散し、さらに過剰量の塩酸を添加することで、金属成分を溶出させた。残渣である炭素をろ別乾燥することで、実験例11の炭素多孔体を得た。また、塩合成において、PTA0.1mol(16.6g)、水酸化カルシウム0.07mol(5.2g)、水酸化カリウム0.06mol(3.4g)の組成で調製した以外は実験例11と同様の処理を行い得られた炭素多孔体を実験例12とした。
【0026】
[実験例13]
市販の活性炭(クラレケミカル株式会社製YP−50)を実験例13とした。
【0027】
(窒素吸着等温線測定)
実験例1〜13の各炭素多孔体について、液体窒素温度(77K)における窒素吸着測定を行い、窒素吸脱着等温線を求めた。この窒素吸脱着等温線から、細孔特性を算出した。窒素吸着等温線は、カンタクローム社製Autosorb−1を用いて測定を行い、吸着量の解析を行った。この窒素吸着等温線において、特定の測定点とその次の測定点との間の窒素吸着量差を相対圧差で除算し、窒素吸着等温線の微分値(傾き)を求めた。また、αsプロット解析において、プロット外挿直線の切片の値により、ミクロ細孔容量(cm3(STP)/g)を求めた。なお、αsプロット解析では、比較用の標準等温線として、“Characterization of porous carbons with high resolution alpha(s)-analysis and low temperature magnetic susceptibility” Kaneko, K; Ishii, C; Kanoh, H; Hanazawa, Y; Setoyama, N; Suzuki, T ADVANCES IN COLLOID AND INTERFACE SCIENCE vol.76, p295-320(1998)に記載された標準等温線を用いた。
【0028】
(結果と考察)
測定結果を図2〜9及び、表1に示す。図2は、実験例1〜4の窒素吸脱着等温線である。図3は、実験例5〜10の窒素吸脱着等温線である。図4は、実験例11〜13の窒素吸脱着等温線である。図5は、実験例2〜4の焼成後及び溶出処理後の収率である。図6は、実験例6〜8の焼成後及び溶出処理後の収率である。図7は、実験例1〜4の相対圧力に対する吸着量の微分値の関係図である。図8は、実験例5〜10の相対圧力に対する吸着量の微分値の関係図である。図9は、実験例11〜13の相対圧力に対する吸着量の微分値の関係図である。表1には、実験例1〜13の原料、焼成温度(℃)、焼成後の収率(質量%)、酸処理後の収率(質量%)、BET比表面積(m2/g)、ミクロ細孔容量(cm3(STP)/g)、吸着等温線の微分値(傾き)、相対圧力が0.98の窒素吸着量(cm3(STP)/g)をまとめて示した。焼成後の収率は、焼成後の炭素多孔体の質量を焼成前の質量で除算して100を乗算した値であり、酸処理後の収率は焼成して酸処理した炭素多孔体の質量を焼成前の質量で除算して100を乗算した値である。
【0029】
図2、表1に示すように、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジリチウムを焼成して得られる炭素多孔体は、焼成温度が800℃以上において、相対圧力P/P0が0.1〜0.8で吸着量が微増し、相対圧力が0.8以上で大きな吸着量が得られる窒素吸着等温線を示した(実験例3、4)。また、図3、表1に示すように、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを焼成して得られる炭素多孔体も、脱着でのヒステリシスはやや大きいものの、焼成温度が800℃以上において、相対圧力が0.1〜0.8で吸着量が微増し、相対圧力が0.8以上で大きな吸着量が得られる窒素吸着等温線を示した(実験例7〜9)。また、炭素多孔体の収率を検討すると、図5、6に示すように、焼成温度の上昇に伴い酸溶出成分の質量割合が減少することがわかった。例えば、焼成温度が900℃を超えると、酸溶液による溶出処理を行うことなく、金属成分(リチウム)が焼成によって除去されることがわかった。したがって、例えば、焼成温度を900℃以上にすると溶出処理を省略することができるものと推察された。また、焼成雰囲気をArとした実験例10では、実験例9とは異なる構造ができていることがわかった。
【0030】
図7〜9は、窒素吸着等温線の2点間の吸着量の差分値を相対圧力の差分値で除算した吸着量微分値(cm3(STP)/g)を示す。この微分値は、吸着等温線の傾きの大きさを示す。実験例3、4、7〜9では、相対圧力P/P0が0.10以上0.20以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が300(cm3(STP)/g)以上であった。また、実験例3、4、7〜9では、相対圧力P/P0が0.20以上0.95以下の全区間において窒素吸着等温線の微分値が200(cm3(STP)/g)以上であった。これらの実験例では、実験例10〜13と異なり、特定の細孔径の細孔が偏って存在するものでなく、マイクロ孔からメソ孔にかけて各細孔径の細孔が比較的均一に存在することを示しているものと推察された。本発明の炭素多孔体の製造方法によれば、例えば、通常の賦活処理では得られない、ミクロ細孔とメソ細孔が存在する構造を有する炭素多孔体が得られている可能性が極めて高いと推察された。このように、本発明の炭素多孔体は、ミクロ細孔とメソ細孔とを均一的に有しており、ガス吸着速度やガス吸着量の向上など、機能向上が期待された。
【0031】
【表1】
【0032】
なお、本発明は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、炭素材料の原料製造に関する技術分野に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9