特許第6365593号(P6365593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365593
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】電圧変換回路及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   H02M3/155 U
   H02M3/155 F
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-108415(P2016-108415)
(22)【出願日】2016年5月31日
(65)【公開番号】特開2017-216798(P2017-216798A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2017年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 成晶
(72)【発明者】
【氏名】戸村 修二
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 直樹
【審査官】 佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−211769(JP,A)
【文献】 特開2009−273236(JP,A)
【文献】 特開2012−120269(JP,A)
【文献】 特開平9−201041(JP,A)
【文献】 米国特許第4736286(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれダイオードを有する第1の上アーム及び第1の下アームを備え、前記第1の上アーム及び前記第1の下アームの少なくとも一方は当該ダイオードに並列に接続されたスイッチ素子を有する第1のチョッパ回路と、
それぞれダイオードを有する第2の上アーム及び第2の下アームを備え、前記第2の上アーム及び前記第2の下アームの少なくとも一方は当該ダイオードに並列に接続されたスイッチ素子を有する第2のチョッパ回路と、
が接続された電力変換回路であって、
前記第1の上アームの第1端は前記第1の下アーム及び前記第2の下アームの第1端に接続され、前記第1の上アームの第2端はコンデンサの第1端に接続され、前記第1の下アームの第2端は前記コンデンサの第2端に接続され、前記第2の下アームの第2端は第1のリアクトルの第1端に接続され、前記第1のリアクトルの第2端は前記第1の下アームの第2端に接続され、
前記第1の下アームの第1端と第2端の少なくとも一方に第2のリアクトルが接続され、前記第1の上アームの第2端と前記第2の下アームの第2端の少なくとも一方に前記第2の上アームが接続された構成を有する電力変換回路。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換回路であって、
前記第1の下アームの第1端と第2端との間に前記第2のリアクトルを介して電源要素又は負荷が接続され、前記第1の上アームの第2端と前記第2の下アームの第2端との間に前記第2の上アームを介して電源要素又は負荷が接続された状態で使用されることを特徴とする電力変換回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電力変換回路の制御方法であって、
前記第1のリアクトルを流れる電流が前記コンデンサを介さずに流れる状態を含むように前記第1のチョッパ回路及び前記第2のチョッパ回路に含まれるスイッチ素子を制御することを特徴とする電力変換回路の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電圧を変換する電圧変換回路及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電圧を昇降圧するスイッチング型の電圧変換回路が知られている。電源電圧をより高い電圧に昇圧するために、複数の昇圧チョッパを直列に接続して出力電圧を高める構成が提案されている。すなわち、昇圧比が高い場合、昇圧チョッパを複数段繋いで昇圧を行うことによって1段で昇圧するよりも回路損失を低減できることが示されている。(特許文献1)
【0003】
また、二つの入力端子間に互いに直列に接続された第1のスイッチ素子と第1のインダクタと第1のコンデンサと、第1のコンデンサと閉回路を構成するよう接続された第2のスイッチ素子と電流循環用素子と、電流循環用素子と閉回路を構成するよう接続された第2のインダクタと第2のコンデンサと、第1のスイッチ素子と第1のインダクタとが接続される点と、第2のスイッチ素子と第2のインダクタと電流循環用素子とが接続される点との間に接続された第3のコンデンサと、を備え、第3のコンデンサは第1のスイッチ素子がオンのときに充電され、第1のスイッチ素子のオフの期間に第1のスイッチ素子の両端に印加される電圧は二つの入力端子の間の電圧と第3のコンデンサの充電電圧との差の電圧である降圧形コンバータが開示されている。(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−211769号公報
【特許文献2】特開2009−273236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スイッチング損失は、スイッチ素子を流れる電流を遮断したり、スイッチ素子を接続したりする瞬間にスイッチ素子に発生する電気的な損失である。スイッチ素子がオフ状態のときの素子の端子電圧が高いほど、またオン状態のときの素子に流れる電流が大きいほど、スイッチング損失は大きくなる。
【0006】
一方、電圧変換回路の小型化が望まれており、そのためにはスイッチ素子のスイッチング周期を高周波化することが必要である。スイッチング周期の高周波化に伴ってスイッチング回数が増加するため、高周波化に伴うスイッチ素子におけるスイッチング損失を低減する必要がある。
【0007】
また、特許文献2の技術では、第3のコンデンサを第1のスイッチ素子に繋ぐことで第1のスイッチ素子が遮断状態であるときに受け持つ電圧を電源と第3のコンデンサとの差電圧となるようにして第1のスイッチ素子での損失を低減している。しかしながら、第3のコンデンサは、スイッチング制御中に電圧が変動しない程度に大容量である必要があり、回路のサイズが大型化してしまい、製造コストも増大する点で不利である。また、第1のスイッチ素子以外の損失は低減することができない。さらに、電源の電圧が第1のコンデンサの電圧の2倍を超えるような状態では第1のリアクトルの電流が増え続けると考えられ、出力電圧や各コンデンサの端子電圧の関係に制約を設ける必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、それぞれダイオードを有する第1の上アーム及び第1の下アームを備え、前記第1の上アーム及び前記第1の下アームの少なくとも一方は当該ダイオードに並列に接続されたスイッチ素子を有する第1のチョッパ回路と、それぞれダイオードを有する第2の上アーム及び第2の下アームを備え、前記第2の上アーム及び前記第2の下アームの少なくとも一方は当該ダイオードに並列に接続されたスイッチ素子を有する第2のチョッパ回路と、が接続された電力変換回路であって、前記第1の上アームの第1端は前記第1の下アーム及び前記第2の下アームの第1端に接続され、前記第1の上アームの第2端はコンデンサの第1端に接続され、前記第1の下アームの第2端は前記コンデンサの第2端に接続され、前記第2の下アームの第2端は第1のリアクトルの第1端に接続され、前記第1のリアクトルの第2端は前記第1の下アームの第2端に接続され、前記第1の下アームの第1端と第2端の少なくとも一方に第2のリアクトルが接続され、前記第1の上アームの第2端と前記第2の下アームの第2端の少なくとも一方に前記第2の上アームが接続された構成を有する電力変換回路である。
【0009】
ここで、前記第1の下アームの第1端と第2端との間に前記第2のリアクトルを介して電源要素又は負荷が接続され、前記第1の上アームの第2端と前記第2の下アームの第2端との間に前記第2の上アームを介して電源要素又は負荷が接続された状態で使用されることが好適である。
【0010】
また、前記第1のリアクトルを流れる電流が前記コンデンサを介さずに流れる状態を含むように前記第1のチョッパ回路及び前記第2のチョッパ回路に含まれるスイッチ素子を制御することを電力変換回路の制御方法とすることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電力変換回路においてスイッチング損失を低減し、スイッチ素子に対する要求耐圧を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態における電力変換回路の基本構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における電力変換回路のスイッチング状態を説明する図である。
図3】本発明の実施の形態における電力変換回路の各状態間の遷移でのスイッチング損失を説明する図である。
図4】本発明の実施の形態におけるスイッチング損失の低減を説明する図である。
図5】本発明の実施の形態におけるスイッチング損失及び要求耐圧の低減を説明する図である。
図6】本発明の実施の形態におけるデューティ比の合計が1以上の高昇圧制御を説明する図である。
図7】本発明の実施の形態におけるデューティ比の合計が1以上の高昇圧制御を示すタイミングチャートである。
図8】本発明の実施の形態におけるデューティ比の合計が1未満の低昇圧制御を説明する図である。
図9】本発明の実施の形態におけるデューティ比の合計が1未満の低昇圧制御を示すタイミングチャートである。
図10】本発明の実施の形態におけるデューティ比の合計が1未満の低昇圧制御の別例を説明する図である。
図11】本発明の実施の形態におけるデューティ比の合計が1未満の低昇圧制御の別例を示すタイミングチャートである。
図12】本発明の実施の形態における電力変換回路の他の制御方法を示す図である。
図13】本発明の実施の形態における電力変換回路の他の制御方法を示す図である。
図14】本発明の実施の形態における電力変換回路の他の制御方法を示す図である。
図15】本発明の実施の形態における電力変換回路の変形例を示す図である。
図16】本発明の実施の形態における電力変換回路の変形例を示す図である。
図17】本発明の実施の形態における電力変換回路の変形例を示す図である。
図18】本発明の実施の形態における電力変換回路の変形例を示す図である。
図19】本発明の実施の形態における電力変換回路の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態における電力変換回路100は、図1に示すように、4つのスイッチ素子S1〜S4、4つのダイオードD1〜D4、2つのリアクトルLb,Lm及びコンデンサC1を含んで構成される。
【0014】
リアクトルLbの一端は端子INに接続され、他端はスイッチ素子S1の一端に接続される。スイッチ素子S1の他端は端子INに接続される。リアクトルLbとスイッチ素子S1の接続点はスイッチ素子S2の一端及びスイッチ素子S3の一端に接続される。スイッチ素子S2の他端はコンデンサC1の一端及び端子OUTに接続される。コンデンサC1の他端は端子INに接続される。また、スイッチ素子S3の他端は、リアクトルLmの一端及びスイッチ素子S4の一端に接続される。リアクトルLmの他端は端子INに接続される。スイッチ素子S4の他端は端子OUTに接続される。
【0015】
スイッチ素子S1〜S4は、例えば電界効果型トランジスタ(MOS−FET)や絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)等とすることができる。スイッチ素子S1〜S4には、図1に示すように、それぞれバイパスダイオードD1〜D4が並列に接続される。
【0016】
電力変換回路100において、端子IN及びINは電源10に接続される。また、端子OUT及びOUTは負荷102等に接続される。電力変換回路100では、電源10の電源電圧V1を昇圧して端子OUT及びOUTから出力電圧V3として負荷102に出力する。すなわち、電源電圧V1、コンデンサC1の端子電圧V2、出力電圧V3は、V1≦V2≦V3の関係を示す。また、電力変換回路100は、端子OUT及びOUTに印加された入力電圧V3を電源電圧V1に降圧して端子IN及びINに出力電圧V1として出力することもできる。例えば、負荷102がモータ・ジェネレータである場合、負荷102から電源10へ電力を回生させることができる。
【0017】
電力変換回路100において、スイッチ素子S1は、電力変換回路100の1段目の昇圧チョッパにおける下アームのスイッチ素子に相当する。スイッチ素子S2は、電力変換回路100の1段目の昇圧チョッパにおける上アームのスイッチ素子に相当する。スイッチ素子S3は、電力変換回路100の2段目の昇圧チョッパにおける下アームのスイッチ素子に相当する。スイッチ素子S4は、電力変換回路100の2段目の昇圧チョッパにおける上アームのスイッチ素子に相当する。
【0018】
ここで、上アームとは、出力の高圧側および低圧側をそれぞれ始点および終点とする経路のうち、電源とリアクトルとを含む経路に含まれるスイッチング素子を意味する。また、下アームとは、電源の正極側および負極側をそれぞれ始点および終点とする経路のうち、リアクトルを含み、出力を含まない経路に含まれるスイッチング素子を意味する。すなわち、上アームを導通状態にしている期間は、リアクトル電流が電源および負荷の両方を流れるため電源と負荷とで電力授受があり、電源と負荷の差電圧に比例してリアクトル電流が減少する。また、下アームを導通状態にしている期間は、電源と出力とで電力授受がなく、電源電圧に比例してリアクトル電流が増加する。昇圧チョッパは、これら上アームおよび下アームを導通状態にする期間の比率を制御し、電源から負荷へ伝送する電流を制御する。
【0019】
電力変換回路100が取り得るスイッチング状態について説明する。スイッチ素子S1〜S4のそれぞれについてオン状態とオフ状態があり、図2に示すように、4種類の状態が存在する。
【0020】
すなわち、第1の状態は、1段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S2と2段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S4がオン状態であり、1段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S1と2段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S3がオフ状態である(図中:Up−Up)。第2の状態は、1段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S2と2段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S3がオン状態であり、1段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S1と2段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S4がオフ状態である(図中:Up−Low)。第3の状態は、1段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S1と2段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S4がオン状態であり、1段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S2と2段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S3がオフ状態である(図中:Low−Up)。第4の状態は、1段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S1と2段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S3がオン状態であり、1段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S2と2段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S4がオフ状態である(図中:Low−Neutral)。
【0021】
ここで、電力変換回路100では、2段目の昇圧チョッパの下アームが1段目の昇圧チョッパの上アームと一体となっていることから、従来の電力変換回路のように1段目と2段目の昇圧チョッパの下アームを同時にオン状態とするとスイッチ素子S1及びスイッチ素子S2を同時にオン状態とすることになり、コンデンサC1の両端子が短絡されてしまう。したがって、電力変換回路100では、Low−Lowの状態は禁止であり、代わりにLow−Neutralの状態で使用される。このLow−Neutralの状態は電力変換回路100に特有の状態であり、この状態を活用する新たな制御方法により、高い昇圧比に対応でき、スイッチング損失や要求耐圧を低減することができる。
【0022】
まず、図2に示した4つの状態を切り替える際にスイッチ素子S1〜S4の各々に生ずるスイッチング損失について示す。図3は、4つの状態の間を切り替えた際のスイッチング損失を示す図である。
【0023】
図3において、矢印はそれぞれ2つの状態の間を切り替えることを示し、各矢印に沿って記載した数式はその矢印で示される状態遷移において生ずるスイッチ素子S1〜S4におけるスイッチング損失を示す。図3において、リアクトルLmを流れる電流をILm、リアクトルLbを流れる電流をILbと示す。また、@S1、@S2、@S3、@S4は、それぞれスイッチ素子S1〜S4の各々におけるスイッチング損失を示す。図において、α×β@γの表記は、αが遮断又は導通電流を示し、βが印加電圧を示し、γが損失を発生させるスイッチを意味する。
【0024】
例えば、ILm×(V3−V2)@S3とは、リアクトルLmを流れる電流ILmがスイッチ素子S3の遮断又は導通電流であり、その時にスイッチ素子S3には電圧(V3−V2)が印加されており、スイッチングを行うことによりスイッチ素子S3にILm及び(V3−V2)に応じた電力損失が発生することを意味する。
【0025】
例えば、Up−Upの状態からLow−Upの状態に遷移する場合には、ILb×V2@S1のスイッチング損失が生ずる。これは、スイッチ素子S1において、スイッチ素子S1をオン状態にしたときにリアクトルLbに流れる電流ILbと、スイッチ素子S1がオフ状態であるときに受け持つ電圧V2との積が大きいほど、大きなスイッチング損失が生ずることを示す。数式の値が負になる場合は、スイッチング損失でなく、並列に接続されているダイオードのリカバリー損失を示す。
【0026】
このような状態遷移において、スイッチ素子S1及びスイッチ素子S2のスイッチング損失を低減することができる。すなわち、1段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S2と2段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S3がオン状態であり、1段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S1と2段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S4がオフ状態である場合、スイッチ素子S2を流れる電流が低減する。すなわち、図4(a)の破線円箇所に示すように、スイッチ素子S2においてリアクトルLbとリアクトルLmを流れる電流が打ち消し合うような状態となり電流値が小さくなる。また、1段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S1と2段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S3がオン状態であり、1段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S2と2段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S4がオフ状態である場合、スイッチ素子S1を流れる電流が低減する。すなわち、図4(b)の破線円箇所に示すように、スイッチ素子S1においてリアクトルLbとリアクトルLmを流れる電流が打ち消し合うような状態となり電流値が小さくなる。したがって、従来の電力変換回路に比べてスイッチ素子S1及びS2を遮断する際の遮断電流が低減され、スイッチング損失を低減することができる。このことを積極的に活用するためには、1段目の昇圧チョッパによる電力制御のためにスイッチ素子S1及びS2をスイッチングする必要がある場合には上記2つの状態(Up−Low状態及びLow−Neutral状態)の切り替えにて行うことが好適である。
【0027】
また、スイッチ素子S3及びスイッチ素子S4のスイッチング損失を低減することができる。1段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S1と2段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S4がオン状態であり、1段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S2と2段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S3がオフ状態である場合、スイッチ素子S4には電圧V3ではなく、電圧V3とコンデンサC1の端子電圧V2の差の電圧(V3−V2)だけが印加される。したがって、この状態から1段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S2と2段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S3がオン状態、かつ1段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S1と2段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S4がオフ状態とするときには、スイッチ素子S4の遮断電圧は電圧V3ではなく、電圧(V3−V2)に低減されており、スイッチング損失及びサージが低減される。
【0028】
しかしながら、スイッチ素子S3を遮断電圧V3でスイッチングすると、スイッチ素子S3でのスイッチング損失やサージを低減することができない。そこで、図5に示すように、状態遷移の際に1段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S1と2段目の昇圧チョッパの下アームであるスイッチ素子S3がオン状態であり、1段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S2と2段目の昇圧チョッパの上アームであるスイッチ素子S4がオフ状態であるLow−Neutral状態を介することが好適である。これによって、スイッチ素子S3をスイッチングする際には、スイッチ素子S3の遮断電圧は電圧(V3−V2)に低減されるため、スイッチング損失やサージをより低減することができる。また、スイッチ素子S3及びS4に要求される耐圧も電圧V3の2倍程度から電圧(V3−V2)の2倍程度まで低減することができる。
【0029】
なお、Up−Low状態とUp−Up状態との切り替え時にはLow−Neutral状態を介してもスイッチ素子S3の遮断電圧を低減できない。したがって、Up−Low状態とUp−Up状態との切り替え時を含まないように電力変換回路100を制御することが好適である。
【0030】
以下、デューティ比に応じた電力変換回路100の制御方法について具体的に説明する。まず、図6及び図7を参照して、デューティ比の合計が1以上の高昇圧制御において、素子への要求耐圧及びスイッチング損失を低減する方法について説明する。

1段目及び2段目の昇圧チョッパにおけるデューティ比が共に1を超える場合、各段における上アームのスイッチ素子S2及びスイッチ素子S4がオン状態になっている期間が短いので、スイッチ素子S2及びスイッチ素子S4がオン状態になるタイミングをずらせばUp−Up状態は不要になる。したがって、Up−Low状態、Low−Up状態及びLow−Neutral状態の3状態を切り替えることで電力変換回路100を制御する。ここで、Up−Low状態とLow−Up状態とを直接切り替えると、スイッチ素子S4の遮断電圧が電圧V3となりスイッチ素子S4への要求耐圧が高くなるのでLow−Neutral状態を介して切り替えを行う。
【0031】
図7は、本実施の形態における電力変換回路100の制御方法におけるタイミングチャートを示す。本実施の形態においては、従来技術と同様に、三角波キャリアとデューティ値を用いて制御信号SD1,SD2を生成し、制御信号SD1,SD2によりスイッチ素子S1〜S4のスイッチングを制御する。通常の昇圧チョッパと同様に1段目のデューティ比から、デューティ値D1=(V2−V1)/V2とする。一方、1段目の昇圧チョッパのスイッチ素子S2がオン状態(Up)の期間、すなわち1−(V2−V1)/V2=V1/V2は2段目の昇圧チョッパのスイッチ素子S3がオン状態(Low)である。残りの期間については、2段目の昇圧チョッパはNeutral状態かUp状態のいずれかとなるが、その比率を調整する自由度がある。2段目においてスイッチ素子S4がオン状態(Up)の期間及びスイッチ素子S3がオン状態(Low)の期間の比率は、(V2/V3):(V3−V2)/V3=V2:(V3−V2)である必要がある。したがって、スイッチ素子S4がオン状態(Up)の期間とするデューティ値D2=(V1/V2)×V2/(V3−V2)=V1/(V3−V2)である。これらのデューティ値D1,D2に基づいて制御信号SD1,SD2を生成し、図7に示したゲートロジックにてスイッチ素子S1〜S4のスイッチングを制御する。
【0032】
なお、Up−Low状態とLow−Up状態とを直接切り替えず、Low−Neutral状態を介してUp−Low状態とLow−Up状態とを切り替えることによってスイッチング損失の発生回数は従来と変わらないが、1回のスイッチング当たりの損失が低減されているため全体としてスイッチング損失を低減することができる。このようにして、デューティ比の和が1を超える場合にスイッチング損失と要求耐圧を低減することができる。
【0033】
次に、図8及び図9を参照して、デューティ比の合計が1未満の低昇圧制御において、素子への要求耐圧を低減する方法について説明する。
【0034】
1段目及び2段目の昇圧チョッパにおけるデューティ比の合計が1未満である場合、各段における上アームのスイッチ素子S2及びスイッチ素子S4がオン状態になっている期間(Up期間)が長いので、スイッチ素子S2及びスイッチ素子S4がオン状態になるタイミングをどのようにずらしてもUp−Up状態が必要となる。したがって、Up−Up状態、Low−Up状態、Low−Neutral状態、Up−Low状態の4状態を順次に切り替えることで電力変換回路100を制御する。ここで、Up−Low状態とLow−Up状態とを直接切り替えたり、Up−Up状態とUp−Low状態とを直接切り替えたりすると、スイッチ素子S3,S4の遮断電圧が電圧V3となりスイッチ素子S3,S4への要求耐圧が高くなるのでLow−Neutral状態を介して切り替えを行う。
【0035】
図9は、本実施の形態における電力変換回路100の制御方法におけるタイミングチャートを示す。上記の4つの状態を遷移する際にLow−Neutral状態は僅かな期間だけ経由すればよく、Low−Neutral状態を除く3つの状態の比率を考えることでデューティ比を設定する。まず、通常の昇圧チョッパと同様に2段目のデューティ値D2=1−(V3−V2)/V3=V2/V3に設定する。次に、2段目の昇圧チョッパのスイッチ素子S3がオン状態のとき、1段目の昇圧チョッパではスイッチ素子S2がオン状態で確定しているので、1−D2=(V3−V2)/V3の期間はスイッチ素子S2がオン状態である。残りの期間、すなわち2段目の昇圧チョッパのスイッチ素子S4がオン状態となる期間においては1段目の昇圧チョッパはスイッチ素子S1又はスイッチ素子S2のいずれもがオン状態となることができ、その比率を調整する自由度がある。そこで、1周期のうちスイッチ素子S2がオン状態となる期間は合計でV1/V2であればよいから、デューティ値D1=V1/V2−(V3−V2)/V3を用いてスイッチ素子S2がオン状態となる期間を設定すればよい。最後に、Low−Neutral状態を挿入するためにデューティ値D2’=D2−αを利用する。例えば、αは、D2の0.05倍程度の値とすればよい。これらのデューティ値D1,D2,D2’に基づいて制御信号SD1,SD2,SD2’を生成し、図9に示したゲートロジックにてスイッチ素子S1〜S4のスイッチングを制御する。
【0036】
本制御方法によれば、スイッチング回数は6回に増えているが、そのうち4回は電流又は電圧が低減されており、全体としてのスイッチング損失を従来に比べて低減することができる。また、スイッチングの際にスイッチ素子S3及びS4に電圧V3が印加された状態を避けることができ、スイッチ素子S3及びS4に対する要求耐圧を低減することができる。
【0037】
なお、2段目の昇圧チョッパにおける要求耐圧が高くてもよい場合には、必ずしもスイッチ素子S3及びS4での遮断電圧を低減させる必要がない。すなわち、スイッチ素子S3及びS4に電圧V3が印加された状態でのスイッチングを回避する必要はなく、スイッチング損失が最小となるような制御とすることが好適である。図10及び図11を参照して、デューティ比の合計が1未満である場合にスイッチング損失を低減させる制御方法について説明する。
【0038】
デューティ比の合計が1未満である場合、スイッチ素子S2及びスイッチ素子S4がオン状態になるタイミングをどのようにずらしてもUp−Up状態が必要となる。したがって、図10に示すように、Up−Up状態→Up−Low状態→Low−Neutral状態→Low−Up状態→Up−Up状態・・・のように4状態をローテーションさせて切り替えることで電力変換回路100を制御する。
【0039】
図11は、本実施の形態における電力変換回路100の制御方法におけるタイミングチャートを示す。この場合、図9と同様のデューティ比及びゲートロジックでよいが、4つの状態をローテーションさせるためにキャリア波形を三角波からノコギリ波に変更する。
【0040】
本制御方法によれば、Up−Up状態からUp−Low状態への遷移が直接行われる。従来の電力変換回路とスイッチング回数は同等であるが、そのうち2回についてはスイッチング損失が低減されており、全体としてもスイッチング損失は低減される。一方、Up−Up状態からUp−Low状態への遷移の際にはスイッチ素子S3及びS4に電圧V3が印加された状態でスイッチングが行われる。したがって、スイッチ素子S3及びS4に対する要求耐圧を低減に対する効果は小さい。ただし、キャリア波であるノコギリ波の極性を適宜選択すれば(力行の場合には、図11に示すように時間と共に減少するノコギリ波とする。回生の場合には、時間と共に増加するノコギリ波とする。)、電圧V3でスイッチングするときの電流ILmを低減できるためサージを抑制することができる。したがって、この点において要求耐圧を低減させるために有利である。
【0041】
なお、電力変換回路100は、他の動作状態で使用することもできる。例えば、図12に示すように、1段目の昇圧チョッパを止めて、2段目の昇圧チョッパにおける上アームのスイッチ素子S4をオン状態及び下アームのスイッチ素子S3をオフ状態に維持して使用することができる。また、図13に示すように、1段目の昇圧チョッパを昇圧状態とし、2段目の昇圧チョッパにおける上アームのスイッチ素子S4をオン状態及び下アームのスイッチ素子S3をオフ状態に維持して使用することができる。また、図14に示すように、1段目及び2段目の昇圧チョッパにおける上アームのスイッチ素子S2及びS4をオン状態、下アームのスイッチ素子S1及びS3をオフ状態に維持して使用することもできる。
【0042】
これは、出力電圧と入力電圧とが等しいとき、上アームのスイッチング素子をオン状態に維持することで昇圧することなく電力を伝送する制御方法である。昇圧チョッパにおいてスイッチングを行わないためにスイッチング損失がなく、リアクトルに流れる電流も直流になるためにリアクトルLb,Lmにおける鉄損も抑制することができる。
【0043】
また、電力変換回路100において電力供給の向きを限定することによりスイッチ素子S1〜S4のいずれかを省略した構成とすることもできる。第1例として、リアクトル電流ILb≧ILm≧0の電流条件が満たされる場合(力行)、1段目及び2段目の上アームではダイオードのみに電流が流れるので、図15(a)のように、スイッチ素子S2及びS4を省略することができる。第2例として、リアクトル電流ILb≦0,ILm≧0の電流条件が満たされる場合、1段目の下アーム及び2段目の上アームではダイオードのみに電流が流れるので、図15(b)のように、スイッチ素子S1及びS4を省略することができる。第3例として、リアクトル電流ILb≧0,ILm≦0の電流条件が満たされる場合、1段目の上アーム及び2段目の下アームではダイオードのみに電流が流れるので、図15(c)のように、スイッチ素子S2及びS3を省略することができる。第4例として、リアクトル電流0≧ILm≧ILbの電流条件が満たされる場合、1段目の下アーム及び2段目の下アームではダイオードのみに電流が流れるので、図15(d)のように、スイッチ素子S1及びS3を省略することができる。
【0044】
すなわち、電力変換回路100は、使用条件に応じて、1段目の昇圧チョッパの上アーム又は下アームの少なくとも一方がスイッチ素子を含み、2段目の昇圧チョッパの上アーム又は下アームの少なくとも一方がスイッチ素子を含めばよい。なお、上記第1例〜第4例の2つの条件を網羅しようとする場合には4つのスイッチ素子S1〜S4のうち、その2つの条件で共通して省略可能としているスイッチ素子を省略することができる。
【0045】
また、図16に示すように、電力変換回路100の構成を上下反転させると共にダイオードD1〜D4の向きも反転させた構成としてもよい。また、図17に示すように、電力変換回路100に含まれる電源10とリアクトルLbを入れ替えたり、図18に示すように、負荷102とスイッチ素子S4とを入れ替えたりしてもよい。さらに、図19に示すように、リアクトルLbを分割して、電源10の両側に配置した構成としてもよい。
【0046】
本実施の形態における電力変換回路及びその制御方法によれば、スイッチ素子において生ずるスイッチング損失を低減することができる。これによって、単位時間当たりのスイッチング回数、すなわちスイッチング周波数を高めることができる。これに伴って、電力変換回路に含まれるリアクトルやコンデンサを小容量化することができ、回路全体を小型化することができる。
【0047】
また、スイッチ素子に要求される耐圧性が低減されるため、より安価な素子や性能は良いが耐圧が低いために使用できなかった素子を使用することが可能となる。これに伴って、電力変換回路を安価に高性能化することができる。
【符号の説明】
【0048】
C1 コンデンサ、D1-D4 ダイオード、Lb,Lm リアクトル、S1-S4 スイッチ素子、10 電源、100 電力変換回路、102 負荷。
図1
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