特許第6365720号(P6365720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6365720
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20180723BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   B60C11/03 200A
   B60C11/13 A
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-68468(P2017-68468)
(22)【出願日】2017年3月30日
【審査請求日】2017年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 義隆
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−178768(JP,A)
【文献】 特開2014−84109(JP,A)
【文献】 特開平3−14703(JP,A)
【文献】 特開2003−205706(JP,A)
【文献】 特開2010−42806(JP,A)
【文献】 特開2014−234091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00−11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部にタイヤ赤道の両側でタイヤ幅方向に延びてトレッド端に開口する複数本のラグ主溝が形成され、該ラグ主溝がタイヤ赤道の両側でタイヤ幅方向に対して対称的に傾斜し、かつ該ラグ主溝がタイヤ幅方向外側に向かって回転方向とは反対側へ傾斜し、前記ラグ主溝のタイヤ幅方向に対する傾斜角度αがタイヤ赤道からトレッド幅の25%の位置において15°≦α≦45°の範囲に設定され、
前記トレッド部にタイヤ周方向に隣り合うラグ主溝を互いに連結する複数本のショルダー傾斜溝が形成され、該ショルダー傾斜溝がそれに対応するラグ主溝とはタイヤ幅方向に対して逆方向に傾斜し、前記ショルダー傾斜溝の中心線が両側のラグ主溝に対して2つの交点P1,P2にて交差し、一方の交点P1のタイヤ赤道からの距離L1及び他方の交点P2のタイヤ赤道からの距離L2について、その差がトレッド幅TWに対してTW×0.03≦|L1−L2|≦TW×0.2の関係を満足し、その平均値がトレッド幅TWに対してTW×0.15≦(L1+L2)/2≦TW×0.35の関係を満足し、
前記トレッド部の溝面積比が0.4以上0.7以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ラグ主溝の位置がタイヤ赤道の両側でタイヤ周方向にずれており、該ラグ主溝の位置ずれ量Sが該ラグ主溝のタイヤ周方向のピッチPに対して0.3≦S/P≦0.5の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ショルダー傾斜溝の長手方向中央位置での溝深さD1がタイヤ赤道からトレッド幅の25%の位置における前記ラグ主溝の溝深さD2に対して0.3≦D1/D2≦0.7の関係を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記トレッド部にタイヤ赤道の両側に位置するラグ主溝を互いに連結する複数本のセンター傾斜溝が形成され、該センター傾斜溝の長手方向中央位置での幅W3が前記ラグ主溝のトレッド端での幅W1に対して0.3≦W3/W1≦0.8の関係を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記センター傾斜溝の長手方向中央位置での溝深さD3がタイヤ赤道からトレッド幅の25%の位置における前記ラグ主溝の溝深さD2に対して0.3≦D3/D2≦0.7の関係を満足することを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記センター傾斜溝の底部に両端が前記ラグ主溝に開口する細溝が形成され、該細溝の幅W4が前記センター傾斜溝の長手方向中央位置での幅W3に対して0.05≦W4/W3≦0.5の関係を満足することを特徴とする請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記トレッド部の踏面を基準とする前記細溝の溝深さD4がタイヤ赤道からトレッド幅の25%の位置における前記ラグ主溝の溝深さD2に対して0.5≦D4/D2≦1.0の関係を満足することを特徴とする請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設車両用として好適であり、特にスクレーパー車両用として好適な空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、トラクション性能と低発熱性とを高い次元で両立することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スクレーパー車両に代表される建設車両に適用される空気入りタイヤにおいては、トラクション性能が重視されるため、トレッド部にタイヤ赤道の両側でタイヤ幅方向に延びてトレッド端に開口する複数本のラグ主溝を備えたトレッドパターンが一般的に採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特に、トラクション性能を確保するためには、方向性トレッドパターンが有効である(例えば、特許文献2〜4参照)。しかしながら、上述のような建設車両用の空気入りタイヤにおいては、過酷な条件で長距離走行が行われるため、トラクション性能に加えて、耐久性の観点から低発熱性であることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−215661号公報
【特許文献2】特開2001−63319号公報
【特許文献3】特開2013−159321号公報
【特許文献4】特開2014−234091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、トラクション性能と低発熱性とを高い次元で両立することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部にタイヤ赤道の両側でタイヤ幅方向に延びてトレッド端に開口する複数本のラグ主溝が形成され、該ラグ主溝がタイヤ赤道の両側でタイヤ幅方向に対して対称的に傾斜し、かつ該ラグ主溝がタイヤ幅方向外側に向かって回転方向とは反対側へ傾斜し、前記ラグ主溝のタイヤ幅方向に対する傾斜角度αがタイヤ赤道からトレッド幅の25%の位置において15°≦α≦45°の範囲に設定され、
前記トレッド部にタイヤ周方向に隣り合うラグ主溝を互いに連結する複数本のショルダー傾斜溝が形成され、該ショルダー傾斜溝がそれに対応するラグ主溝とはタイヤ幅方向に対して逆方向に傾斜し、前記ショルダー傾斜溝の中心線が両側のラグ主溝に対して2つの交点P1,P2にて交差し、一方の交点P1のタイヤ赤道からの距離L1及び他方の交点P2のタイヤ赤道からの距離L2について、その差がトレッド幅TWに対してTW×0.03≦|L1−L2|≦TW×0.2の関係を満足し、その平均値がトレッド幅TWに対してTW×0.15≦(L1+L2)/2≦TW×0.35の関係を満足し、
前記トレッド部の溝面積比が0.4以上0.7以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、トレッド部にタイヤ幅方向に延びてトレッド端に開口する複数本のラグ主溝とタイヤ周方向に隣り合うラグ主溝を互いに連結する複数本のショルダー傾斜溝とを形成すると共に、ラグ主溝の傾斜角度α、ショルダー傾斜溝の傾斜方向、ショルダー傾斜溝の中心線がラグ主溝に対して交差する交点P1,P2のタイヤ赤道からの距離L1,L2の差(|L1−L2|)、距離L1,L2の平均値〔(L1+L2)/2〕、トレッド部の溝面積比を規定することにより、タイヤ走行時の放熱効果を十分に確保して低発熱性を改善しながら、トラクション性能を最大限に発揮することが可能になる。その結果、トラクション性能と低発熱性とを従来よりも高い次元で両立することができる。そして、低発熱性を確保することは耐久性の改善にも寄与する。
【0008】
本発明において、ラグ主溝の位置がタイヤ赤道の両側でタイヤ周方向にずれており、該ラグ主溝の位置ずれ量Sが該ラグ主溝のタイヤ周方向のピッチPに対して0.3≦S/P≦0.5の関係を満足することが好ましい。このようにラグ主溝の位置をタイヤ赤道の両側でタイヤ周方向にずらすことにより、タイヤ回転時における瞬間的な接地圧の上昇とブロック端部の急激な変形を抑制し、トレッド部の発熱を低減することができる。
【0009】
ショルダー傾斜溝の長手方向中央位置での溝深さD1はタイヤ赤道からトレッド幅の25%の位置におけるラグ主溝の溝深さD2に対して0.3≦D1/D2≦0.7の関係を満足することが好ましい。このようにショルダー傾斜溝をラグ主溝よりも浅くすることにより、少なくとも摩耗中期までのトラクション性能を十分に確保しながら、ショルダー傾斜溝近傍のブロック剛性を高めて低発熱性を良好に確保することができる。
【0010】
トレッド部にはタイヤ赤道の両側に位置するラグ主溝を互いに連結する複数本のセンター傾斜溝が形成され、該センター傾斜溝の長手方向中央位置での幅W3がラグ主溝のトレッド端での幅W1に対して0.3≦W3/W1≦0.8の関係を満足することが好ましい。接地圧が高くなるトレッド部のセンター領域にタイヤ赤道を跨いでラグ主溝を互いに連結するセンター傾斜溝を設けることにより、トラクション性能を効果的に改善することができる。また、トレッド部のセンター領域では接地圧が高くてブロック変形が大きくなるが、センター傾斜溝を狭くすることにより、センター傾斜溝近傍のブロック剛性を高めて低発熱性を良好に確保することができる。
【0011】
センター傾斜溝の長手方向中央位置での溝深さD3はタイヤ赤道からトレッド幅の25%の位置におけるラグ主溝の溝深さD2に対して0.3≦D3/D2≦0.7の関係を満足することが好ましい。このようにセンター傾斜溝をラグ主溝よりも浅くすることにより、少なくとも摩耗中期までのトラクション性能を十分に確保しながら、センター傾斜溝近傍のブロック剛性を高めて低発熱性を良好に確保することができる。
【0012】
センター傾斜溝の底部には両端がラグ主溝に開口する細溝が形成され、該細溝の幅W4がセンター傾斜溝の長手方向中央位置での幅W3に対して0.05≦W4/W3≦0.5の関係を満足することが好ましい。接地圧が高くなるトレッド部のセンター領域に配置されたセンター傾斜溝の底部に細溝を設けることにより、放熱効率を高めて低発熱性を効果的に改善することができる。しかも、細溝はセンター傾斜溝よりも狭いので、センター傾斜溝近傍のブロック剛性を損なわずに、ブロックの動きによる発熱自体の増加を抑制することができる。
【0013】
トレッド部の踏面を基準とする細溝の溝深さD4はタイヤ赤道からトレッド幅の25%の位置におけるラグ主溝の溝深さD2に対して0.5≦D4/D2≦1.0の関係を満足することが好ましい。このように細溝の溝深さD4を規定することにより、少なくとも摩耗中期までのトラクション性能を十分に確保しながら、センター傾斜溝近傍のブロック剛性を損なわずに低発熱性を良好に確保することができる。
【0014】
本発明において、トレッド幅とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときに測定されるタイヤ軸方向の接地幅を意味する。トレッド端とは、上記接地幅にて特定される接地領域のタイヤ軸方向の端部(接地端)を意味する。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”である。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”である。
【0015】
本発明における各寸法は、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で測定される。また、トレッド部の溝面積比とは、トレッド部の接地領域の面積に対する該接地領域内の溝面積の比である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線半断面図である。
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッドパターンを示す平面図である。
図3】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッド部を示す断面図である。
図4】トレッド部に生じる気流を示すものであり、(a)は本発明の構造において生じる気流を示す平面図であり、(b)本発明とは異なる従来の構造において生じる気流を示す平面図である。
図5】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッドパターンのセンター領域を示す平面図である。
図6図5のX−X矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1図3は本発明の実施形態からなるスクレーパー車両用の空気入りタイヤを示すものである。図1ではタイヤ赤道CLよりもタイヤ幅方向の一方側の構造だけが描写されているが、この空気入りタイヤは他方側にも対称的な構造を備えている。図2においては、トレッド構造の理解を容易にするために、タイヤ走行時に路面と接触する部位を斜線部として描写している。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。トレッド部1はスクェアショルダーを有し、そのショルダーエッジが接地端となっている。
【0019】
一対のビード部3,3間には少なくとも1層のカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。カーカス層4の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用されるが、ポリエステル等の有機繊維コードを使用することも可能である。
【0020】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層6a,6b,6c,6dが埋設されている。これらベルト層6a〜6dはタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ任意の層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層6a〜6dにおいて、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。ベルト層6a〜6dの補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。
【0021】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0022】
図2に示すように、トレッド部1には、タイヤ赤道CLの両側でタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ主溝11がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。これらラグ主溝11の各々は、タイヤ幅方向内側の端部がタイヤ赤道CLから離間した位置で終端する一方で、タイヤ幅方向外側の端部がトレッド端に開口している。ラグ主溝11はタイヤ赤道CLの両側でタイヤ幅方向に対して対称的に傾斜している。つまり、ラグ主溝11はタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向の一方側(回転方向Rとは反対側)へ傾斜している。ラグ主溝11のタイヤ幅方向に対する傾斜角度αはタイヤ赤道CLからトレッド幅TWの25%の位置において15°≦α≦45°の範囲に設定されている。傾斜角度αはラグ主溝11の中心線の傾斜角度である。更に、ラグ主溝11のトレッド端での幅W1は、良好なトラクション性能を確保するために、ラグ主溝11のトレッド端での相互間隔W2に対して0.7≦W1/W2≦1.5の関係を満足していると良い。
【0023】
トレッド部1には、タイヤ周方向に隣り合うラグ主溝11,11を互いに連結する複数本のショルダー傾斜溝12が形成されている。ショルダー傾斜溝12はそれに対応するラグ主溝11とは逆方向に傾斜している。つまり、ショルダー傾斜溝12はそれ自体が連結するラグ主溝11とはタイヤ幅方向に対して逆方向に傾斜している。ショルダー傾斜溝12の中心線は両側のラグ主溝11に対して2つの交点P1,P2にて交差している。回転方向Rの前方側に位置する一方の交点P1のタイヤ赤道CLからの距離L1及び回転方向Rの後方側に位置する他方の交点P2のタイヤ赤道CLからの距離L2について、その差がトレッド幅TWに対してTW×0.03≦|L1−L2|≦TW×0.2の関係を満足し、その平均値がトレッド幅TWに対してTW×0.15≦(L1+L2)/2≦TW×0.35の関係を満足している。距離L1,L2の差は交点P1,P2のタイヤ幅方向の距離を意味し、距離L1,L2の平均値はショルダー傾斜溝12のタイヤ幅方向の位置を意味するものである。これにより、トレッド部1のショルダー領域にはラグ主溝11とショルダー傾斜溝12により複数のショルダーブロック22が区画されている。
【0024】
更に、トレッド部1には、タイヤ赤道CLの両側に位置するラグ主溝11を互いに連結する複数本のセンター傾斜溝13が形成されている。これらセンター傾斜溝13はタイヤ幅方向に対する傾斜方向がタイヤ周方向に沿って交互に反転している。そして、1本のラグ主溝11のタイヤ幅方向内側の端部には2本のセンター傾斜溝13,13が分岐するように連結され、これら2本のセンター傾斜溝13,13がタイヤ赤道CLの反対側に位置する別々のラグ主溝11に連通している。これにより、トレッド部1のセンター領域にはラグ主溝11とショルダー傾斜溝12とセンター傾斜溝13により複数のセンターブロック23が区画されている。
【0025】
上記空気入りタイヤは、トレッド部1にラグ主溝11、ショルダー傾斜溝12及びセンター傾斜溝13を備えているが、その結果として、トレッド部1の溝面積比が0.4以上0.7以下の範囲に設定されている。つまり、トレッド幅TWを有する接地領域の面積に対する溝面積(斜線部以外の領域の面積)の比が上記範囲に設定されている。
【0026】
上記空気入りタイヤでは、トレッド部1にタイヤ幅方向に延びてトレッド端に開口する複数本のラグ主溝11とタイヤ周方向に隣り合うラグ主溝11を互いに連結する複数本のショルダー傾斜溝12とを形成すると共に、ラグ主溝11の傾斜角度α、ショルダー傾斜溝12の傾斜方向、ショルダー傾斜溝12の中心線がラグ主溝11に対して交差する交点P1,P2のタイヤ赤道CLからの距離L1,L2の差(|L1−L2|)、これら距離L1,L2の平均値〔(L1+L2)/2〕、トレッド部1の溝面積比を規定することにより、タイヤ走行時の放熱効果を十分に確保して低発熱性を改善しながら、トラクション性能を最大限に発揮することが可能になる。
【0027】
より具体的には、ラグ主溝11をタイヤ赤道CLの両側で対称的に傾斜するように配置し、ラグ主溝11のタイヤ幅方向に対する傾斜角度αをタイヤ赤道CLからトレッド幅TWの25%の位置において15°≦α≦45°の範囲、より好ましくは、25°≦α≦35°の範囲に設定することにより、トレッド部1のセンター領域からタイヤ幅方向外側に向かってラグ主溝11内の土砂を効果的に排出し、良好なトラクション性能を発揮することができる。ラグ主溝11の傾斜角度αが小さ過ぎるとラグ主溝11内に土砂が詰まり易くなり、逆に大き過ぎるとトラクション性能が低下する。
【0028】
また、トレッド部1に、タイヤ周方向に隣り合うラグ主溝11,11を互いに連結するショルダー傾斜溝12を追加することにより、溝面積を増加させて良好なトラクション性能を発揮することができる。しかも、ショルダー傾斜溝12はラグ主溝11に対して逆方向に傾斜しているので、トレッド部1に生じる気流に基づいて良好な放熱効果を確保することができる。
【0029】
つまり、図4(a)に示すように、本発明の構造では、空気入りタイヤが回転方向Rに向かって回転する際にトレッド部1に気流F1が生じ、ラグ主溝11内に取り込まれた空気がラグ主溝11に沿ってタイヤ幅方向外側へ移動し、その一部がショルダー傾斜溝12を通ってタイヤ幅方向内側へ戻り、そのような空気の移動が繰り返されることにより、トレッド部1において有効な放熱効果が得られる。このような放熱効果は空気入りタイヤが逆回転する際にも得られる。一方、図4(b)に示すように、ショルダー傾斜溝12がラグ主溝11と同方向に傾斜した構造では、空気入りタイヤが回転方向Rに向かって回転する際にトレッド部1に気流F2が生じ、ラグ主溝11内に取り込まれた空気がラグ主溝11に沿ってタイヤ幅方向外側へ移動し、その一部がショルダー傾斜溝12を通ってタイヤ幅方向外側へ移動するので、トレッド部1において十分な放熱効果が得られない。
【0030】
上述のような放熱効果を得るにあたって、ショルダー傾斜溝12の交点P1,P2のタイヤ赤道CLからの距離L1,L2について、その差がトレッド幅TWに対してTW×0.03≦|L1−L2|≦TW×0.2の関係、より好ましくは、TW×0.05≦|L1−L2|≦TW×0.1の関係を満足しているので、その放熱効果を十分に確保することができる。ここで、距離L1,L2の差が小さ過ぎると放熱効果が不十分になり、逆に大き過ぎるとブロックの鋭角化により接地時のブロックの動きが大きくなるため発熱量が増加する。
【0031】
また、上述のような放熱効果を得るにあたって、ショルダー傾斜溝12の交点P1,P2のタイヤ赤道CLからの距離L1,L2について、その平均値がトレッド幅TWに対してTW×0.15≦(L1+L2)/2≦TW×0.35の関係を満足しているので、その放熱効果を十分に確保することができる。ここで、距離L1,L2の平均値が上記範囲から外れるとトレッド部1の全域にわたって放熱効果を得ることが難しくなる。
【0032】
また、トレッド部1の溝面積比が0.4以上0.7以下の範囲に設定されているので、トラクション性能と低発熱性とを両立することができる。ここで、トレッド部1の溝面積比が小さ過ぎるとトラクション性能が低下し、逆に大き過ぎるとブロックの動きが大きくなるため発熱量が増加する。
【0033】
上記空気入りタイヤにおいて、図2に示すように、ラグ主溝11の位置がタイヤ赤道CLの両側でタイヤ周方向にずれており、ラグ主溝11の位置ずれ量Sが該ラグ主溝11のタイヤ周方向のピッチPに対して0.3≦S/P≦0.5の関係を満足していると良い。このようにラグ主溝11の位置をタイヤ赤道CLの両側でタイヤ周方向にずらすことにより、タイヤ回転時における瞬間的な接地圧の上昇とブロック端部の急激な変形を抑制し、トレッド部1の発熱を低減することができる。ラグ主溝11の位置ずれ量Sとラグ主溝11のタイヤ周方向のピッチPとの比S/Pが上記範囲から外れると低発熱性の改善効果が低下する。
【0034】
上記空気入りタイヤにおいて、図3に示すように、ショルダー傾斜溝12の長手方向中央位置での溝深さD1はタイヤ赤道CLからトレッド幅TWの25%の位置におけるラグ主溝11の溝深さD2に対して0.3≦D1/D2≦0.7の関係を満足していると良い。なお、本実施形態ではショルダー傾斜溝12が長手方向の全長にわたって一定の溝深さD1を有している。このようにショルダー傾斜溝12をラグ主溝11よりも浅くすることにより、少なくとも摩耗中期までのトラクション性能を十分に確保しながら、ショルダー傾斜溝12近傍のブロック剛性を高めて低発熱性を良好に確保することができる。ここで、ショルダー傾斜溝12の溝深さD1とラグ主溝11の溝深さD2との比D1/D2が小さ過ぎるとトラクション性能の改善効果が低下し、逆に大き過ぎると低発熱性の改善効果が低下する。
【0035】
上記空気入りタイヤにおいて、図2に示すように、タイヤ赤道CLの両側に位置するラグ主溝11を互いに連結する複数本のセンター傾斜溝13が形成され、該センター傾斜溝13の長手方向中央位置での幅W3がラグ主溝11のトレッド端での幅W1に対して0.3≦W3/W1≦0.8の関係を満足していると良い。接地圧が高くなるトレッド部1のセンター領域にタイヤ赤道CLを跨いでラグ主溝11を互いに連結するセンター傾斜溝13を設けることにより、ラグ主溝11を介してタイヤ幅方向外側に土砂を排出し、トラクション性能を効果的に改善することができる。また、トレッド部1のセンター領域では接地圧が高くてブロック変形が大きくなるが、トレッド部1のショルダー領域にあるラグ主溝11よりもセンター傾斜溝13を狭くすることにより、センター傾斜溝13近傍のブロック剛性を高めて低発熱性を良好に確保することができる。ここで、センター傾斜溝13の幅W3とラグ主溝11の幅W1との比W3/W1が小さ過ぎるとトラクション性能の改善効果が低下し、逆に大き過ぎると低発熱性の改善効果が低下する。
【0036】
上記空気入りタイヤにおいて、図3に示すように、センター傾斜溝13の長手方向中央位置での溝深さD3はタイヤ赤道CLからトレッド幅TWの25%の位置におけるラグ主溝11の溝深さD2に対して0.3≦D3/D2≦0.7の関係を満足していると良い。なお、本実施形態ではセンター傾斜溝13が長手方向の全長にわたって一定の溝深さD3を有している。このようにセンター傾斜溝13をラグ主溝11よりも浅くすることにより、少なくとも摩耗中期までのトラクション性能を十分に確保しながら、センター傾斜溝13の近傍のブロック剛性を高めて低発熱性を良好に確保することができる。ここで、センター傾斜溝13の溝深さD3とラグ主溝11の溝深さD2との比D3/D2が小さ過ぎるとトラクション性能の改善効果が低下し、逆に大き過ぎると低発熱性の改善効果が低下する。
【0037】
図5は本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッドパターンのセンター領域を示し、図6はその要部の断面を示すものである。図5及び図6において、図1図3と同一物には同一符号を付してその部分の詳細な説明は省略する。図5に示すように、センター傾斜溝13の底部には両端がラグ主溝11に開口する細溝14が形成されている。細溝14はセンター傾斜溝13の幅方向中心位置において該センター傾斜溝13の長手方向に沿って延在している。細溝14の幅W4はセンター傾斜溝13の長手方向中央位置での幅W3に対して0.05≦W4/W3≦0.5の関係、より好ましくは、0.1≦W4/W3≦0.3の関係を満足している。
【0038】
このように接地圧が高くなるトレッド部1のセンター領域に配置されたセンター傾斜溝13の底部に細溝14を設けることにより、放熱効率を高めて低発熱性を効果的に改善することができる。しかも、細溝14はセンター傾斜溝13よりも狭いので、センター傾斜溝13近傍のブロック剛性を損なわずに、ブロックの動きによる発熱自体の増加を抑制することができる。ここで、細溝14の幅W4が小さ過ぎると放熱効率を高める効果が低下し、逆に大き過ぎるとセンター傾斜溝13近傍のブロック剛性が低下して発熱が生じ易くなる。
【0039】
図6に示すように、トレッド部1の踏面を基準とする細溝14の長手方向中央位置での溝深さD4はタイヤ赤道CLからトレッド幅TWの25%の位置におけるラグ主溝11の溝深さD2に対して0.5≦D4/D2≦1.0の関係を満足していると良い。このように細溝14の溝深さD4を規定することにより、少なくとも摩耗中期までのトラクション性能を十分に確保しながら、センター傾斜溝13近傍のブロック剛性を損なわずに低発熱性を良好に確保することができる。ここで、細溝14の溝深さD4が小さ過ぎると放熱効率を高める効果が低下し、逆に大き過ぎるとセンター傾斜溝13近傍のブロック剛性が低下して発熱が生じ易くなる。
【0040】
本発明の空気入りタイヤは、各種の用途に適用可能であるが、建設車両用として好適であり、特にスクレーパー車両用として好適である。
【実施例】
【0041】
タイヤサイズが37.25R35であり、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、図2のような方向性トレッドパターンを有すると共に、タイヤ赤道からトレッド幅の25%の位置におけるラグ主溝のタイヤ幅方向に対する傾斜角度α、ショルダー傾斜溝の傾斜方向、トレッド幅TWに対する距離L1,L2の平均値の比〔(L1+L2)/2〕/TW、トレッド幅TWに対する距離L1,L2の差の比|L1−L2|/TW、トレッド部の溝面積比、ラグ主溝の位置ずれ量Sとラグ主溝のタイヤ周方向のピッチPとの比S/P、センター傾斜溝の長手方向中央位置での幅W3とラグ主溝のトレッド端での幅W1との比W3/W1、ショルダー傾斜溝の長手方向中央位置での溝深さD1とタイヤ赤道からトレッド幅の25%の位置におけるラグ主溝の溝深さD2との比D1/D2、センター傾斜溝の長手方向中央位置での溝深さD3とタイヤ赤道からトレッド幅の25%の位置におけるラグ主溝の溝深さD2との比D3/D2、細溝の幅W4とセンター傾斜溝の長手方向中央位置での幅W3との比W4/W3、トレッド部の踏面を基準とする細溝の溝深さD4とタイヤ赤道からトレッド幅の25%の位置におけるラグ主溝の溝深さD2との比D4/D2を表1〜表3のように設定した比較例2〜10及び実施例1〜13のタイヤを作製した。
【0042】
なお、表1〜表3において、センター傾斜溝又は細溝を持たない場合は、これらセンター傾斜溝又は細溝に関する寸法要件を空欄とした。ショルダー傾斜溝の傾斜方向について、ラグ主溝と同じである場合を「同方向」と表示し、ラグ主溝と逆である場合を「逆方向」と表示した。
【0043】
比較のため、トレッド部にタイヤ赤道の両側でタイヤ幅方向に延びてトレッド端に開口する複数本のラグ主溝が形成され、該ラグ主溝がタイヤ赤道の両側でタイヤ幅方向に対して同一方向に傾斜した非方向性トレッドパターンを有する従来例のタイヤを用意した。また、ラグ主溝がタイヤ赤道の両側でタイヤ幅方向に対して同一方向に傾斜すること以外は実施例1と同じ構成を有する比較例1のタイヤを用意した。
【0044】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、トラクション性能、低発熱性を評価し、その結果を表1〜表3に併せて示した。
【0045】
トラクション性能:
各試験タイヤをリム組みし、空気圧を525kPaとしてスクレーパー車両に装着し、路面の敷均し作業を行う際のタイヤのスリップ率を測定した。ここで、タイヤのスリップ率(S)は、車両の速度(V1)とタイヤの外周面の速度(V2)を計測し、S=〔(V2−V1)/V2〕×100%の式に基づいて算出することができる。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例を100とする指数値にて示した。この指数値が大きいほどトラクション性能が優れていることを意味する。
【0046】
低発熱性:
各試験タイヤをリム組みし、空気圧を525kPaとして室内ドラム試験機に装着し、荷重231kN、速度10km/hの条件で20時間走行した後、トレッド部の表面温度を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例を100とする指数値にて示した。この指数値が大きいほど低発熱性が優れていることを意味する。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
表1〜表3から明らかなように、実施例1〜13のタイヤは、いずれも、従来例との対比においてトラクション性能及び低発熱性が優れていた。これに対して、比較例1〜3,8のタイヤは、低発熱性に問題はないものの、トラクション性能が低下していた。また、比較例4〜7,9,10のタイヤは、トラクション性能に問題はないものの、低発熱性が悪化していた。
【符号の説明】
【0051】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
11 ラグ主溝
12 ショルダー傾斜溝
13 センター傾斜溝
14 細溝
22 ショルダーブロック
23 センターブロック
【要約】
【課題】 トラクション性能と低発熱性とを高い次元で両立することを可能にした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 トレッド部1とサイドウォール部2とビード部3とを備えた空気入りタイヤにおいて、トレッド部1に複数本のラグ主溝11が形成され、ラグ主溝11がタイヤ赤道の両側で対称的に傾斜し、ラグ主溝11のタイヤ幅方向に対する傾斜角度αが15°≦α≦45°の範囲にあり、トレッド部1にラグ主溝11を互いに連結する複数本のショルダー傾斜溝12が形成され、ショルダー傾斜溝12がラグ主溝11とは逆方向に傾斜し、ショルダー傾斜溝12の中心線が両側のラグ主溝11に対して2つの交点P1,P2にて交差し、交点P1,P2のタイヤ赤道からの距離L1,L2について、その差がトレッド幅TWに対してTW×0.03≦|L1−L2|≦TW×0.2の関係を満足し、その平均値がトレッド幅TWに対してTW×0.15≦(L1+L2)/2≦TW×0.35の関係を満足し、トレッド部1の溝面積比が0.4以上0.7以下である。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6