特許第6365770号(P6365770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365770
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】光学分析装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/05 20060101AFI20180723BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   G01N21/05
   G01N37/00 101
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-513927(P2017-513927)
(86)(22)【出願日】2015年4月24日
(86)【国際出願番号】JP2015062486
(87)【国際公開番号】WO2016170670
(87)【国際公開日】20161027
【審査請求日】2017年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長井 悠佑
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−511705(JP,A)
【文献】 特開平1−97841(JP,A)
【文献】 特開2006−184010(JP,A)
【文献】 特開2005−13905(JP,A)
【文献】 特開2015−70065(JP,A)
【文献】 特開平10−335705(JP,A)
【文献】 実開昭48−6890(JP,U)
【文献】 特開平6−18421(JP,A)
【文献】 特表2004−532383(JP,A)
【文献】 特開2004−219401(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0119843(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0147253(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0157301(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/74
G01N 35/00−37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)化合物半導体素子用、酸化物半導体素子用、又は有機半導体素子用の基板として用いられる透明又は半透明の材料から成り、その内部に試料溶液が流通する流路が形成されてなる基体と、
b)前記流路が内部に形成されている前記基体の表面に一体に形成され、該基体中を透過して前記流路中の試料溶液に対し光を照射する半導体発光部と、
c)前記基体の表面に一体に形成され、前記半導体発光部による照射光に対する前記流路中の試料溶液からの光が前記基体中を透過して到達する位置に形成された半導体受光部と、
を備えることを特徴とする光学分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光学分析装置であって、
前記半導体発光部は、前記基体の外表面に形成された第1のn型窒化ガリウム薄膜層と、該第1のn型窒化ガリウム薄膜層の上面に形成されたインジウム窒化ガリウム及び窒化ガリウムの多層膜である活性層と、該活性層の上面に形成された第1のp型窒化ガリウム薄膜層と、前記第1のn型窒化ガリウム薄膜層の上面に形成された第1電極と、前記第1のp型窒化ガリウム薄膜層の上面に形成された第2電極と、を含み、
前記半導体受光部は、前記基体の外表面に形成された第2のn型窒化ガリウム薄膜層と、該第2のn型窒化ガリウム薄膜層の上面に形成された低バンドギャップの窒化ガリウム系結晶層である受光層と、該受光層の上面に形成された第2のp型窒化ガリウム薄膜層と、前記第2のn型窒化ガリウム薄膜層の上面に形成された第3電極と、前記第2のp型窒化ガリウム薄膜層の上面に形成された第4電極と、を含むことを特徴とする光学分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光学分析装置であって、
前記流路は直管状であり、前記半導体発光部と前記半導体受光部とは前記流路の軸を挟んだ両側であって且つ該流路の長手方向に互いにずらした位置に配置されていることを特徴とする光学分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の光学分析装置であって、
前記基体は、サファイア、窒化アルミニウム、ビスマスゲルマニウムオキサイド、ダイヤモンド、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、又は、酸化亜鉛から成ることを特徴とする光学分析装置。
【請求項5】
化合物半導体素子用、酸化物半導体素子用、又は有機半導体素子用の基板として用いられる透明又は半透明の材料から成り、その内部に試料溶液が流通する流路が形成されてなる基体に対し、
前記流路が内部に形成されている前記基体の外表面に、該基体中を透過して前記流路中の試料溶液に対し光を照射する半導体発光部を半導体プロセスによって形成する第1工程と、
前記基体の外表面であって前記半導体発光部による照射光に対する前記流路中の試料溶液からの光が前記基体中を透過して到達する位置に、半導体プロセスによって半導体受光部を形成する第2工程と、を有することを特徴とする光学分析装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の光学分析装置の製造方法であって、
前記第1工程は、前記基体の外表面に第1のn型窒化ガリウム薄膜層を形成する工程と、該第1のn型窒化ガリウム薄膜層の上面にインジウム窒化ガリウム及び窒化ガリウムの多層膜である活性層を形成する工程と、該活性層の上面に第1のp型窒化ガリウム薄膜層を形成する工程と、前記第1のn型窒化ガリウム薄膜層の上面に第1電極を形成する工程と、前記第1のp型窒化ガリウム薄膜層の上面に第2電極を形成する工程と、を含み、
前記第2工程は、前記基体の外表面に第2のn型窒化ガリウム薄膜層を形成する工程と、該第2のn型窒化ガリウム薄膜層の上面に低バンドギャップの窒化ガリウム系結晶層である受光層を形成する工程と、該受光層の上面に第2のp型窒化ガリウム薄膜層を形成する工程と、前記第2のn型窒化ガリウム薄膜層の上面に第3電極を形成する工程と、前記第2のp型窒化ガリウム薄膜層の上面に第4電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする光学分析装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に光を照射し、それに対して試料から得られる透過光、反射光、散乱光、蛍光などを検出する光学分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ(LC)の検出器として、紫外可視分光光度計やフォトダイオードアレイ検出器などの光学分析装置がしばしば用いられる。近年、発光ダイオード(LED)の技術の進展と急速な普及に伴い、光学分析装置の光源としてもLEDが利用されつつある。LEDは発光スペクトルにおけるピーク幅が比較的狭いため、幅広い波長範囲に亘って波長走査を行うような用途にはあまり向かないが、特定の波長の光を試料に照射する吸光光度計や蛍光光度計などの光学分析装置には適している。LEDは従来一般に使用されている各種光源に比べて格段に廉価であるうえに、寿命も長く、信頼性が高いという利点がある。
【0003】
光源としてLEDを用いた吸光光度計の概略構成を図7に示す(例えば特許文献1など参照)。
光源であるLED(例えば深紫外LED)71から出射した測定光はフローセル72に照射される。測定光はフローセル72中の試料溶液を通過する際に、該試料溶液中の成分の種類や量に応じた吸収を受ける。そうした吸収を受けたあとの光が光検出器73に入射し、光検出器73はその光の光量に応じた検出信号を出力する。そして、図示しない信号処理部において、検出信号から試料による吸光度を算出する。
【0004】
こうした吸光光度計を検出器として用いたLCにおいて分析の高速化、高感度化を図るには、カラム以外の流路での試料の拡散(ピークの広がり)を抑制することが重要であり、そのために、フローセルにも低容量のものが求められている。こうした低容量化の要求に対し、特許文献2には、半導体製造プロセスを利用して、酸化シリコンなどを材料とするフローセルを形成することが記載されている。半導体製造プロセスによる微細化技術を利用することで、低容量のフローセルを高い寸法精度で形成することが可能である。
【0005】
こうした低容量のフローセルはそれ自体が小形・軽量であり、吸光光度計の小形・軽量化にも都合がよい。しかしながら、吸光光度計において高感度、高精度の測定を行うには、フローセル中の所定位置に測定光の光軸が通過するように、装置組立て時に光源及び光検出器の光軸を手作業で調整する必要があり、こうした調整はフローセルが小形であるほど難しくなる。そのため、装置の組立てに手間が掛かるのみならず、組立てに熟練した作業者が必要になる。また、フローセルを小形化しても、光源や光検出器の部品のサイズの制約から、装置の小形化には限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−237384号公報
【特許文献2】米国特許第8213015号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、従来に比べて小形・軽量であり、しかも手作業による光軸等の調整が不要である光学分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る光学分析装置は、
a)化合物半導体素子用、酸化物半導体素子用、又は有機半導体素子用の基板として用いられる透明又は半透明の材料から成り、その内部に試料溶液が流通する流路が形成されてなる基体と、
b)前記流路が内部に形成されている前記基体の表面に一体に形成され、該基体中を透過して前記流路中の試料溶液に対し光を照射する半導体発光部と、
c)前記基体の表面に一体に形成され、前記半導体発光部による照射光に対する前記流路中の試料溶液からの光が前記基体中を透過して到達する位置に形成された半導体受光部と、
を備えることを特徴としている。
【0009】
化合物半導体素子用、酸化物半導体素子用、又は有機半導体素子用の基板として用いられる透明又は半透明の材料とは、典型的には、サファイア(酸化アルミニウム単結晶:Al2O3)であるが、それ以外にも、窒化アルミニウム(AlN)、ビスマスゲルマニウムオキサイド(Bi4Ge3O12)、ダイヤモンド、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、酸化亜鉛など、様々な材料を利用することができる。
なお、ここでいう透明又は半透明とは、幅広い波長に対して透光性を有している必要はなく、特定の波長(半導体発光部による発光光の波長)に対し透光性を有していれば十分である。また、望ましくは、屈折率が高いほうがよい。
【0010】
本発明に係る光学分析装置では、例えばサファイアからなる基体の内部に、所定内径の直管状又はそれ以外の形状(例えばL字状、コ字状など)の流路が形成されている。この流路は機械的な穿孔加工によって形成されたものでもよいし、或いは、二つの基体の一方又は両方のごく平坦な表面に機械的加工やエッチング等の化学的加工などにより溝を形成し、その溝が内側になるように二つの基体を貼り合わせることで、内部に流路が形成されるようにしてもよい。
【0011】
半導体発光部は、例えば基体の表面に化合物半導体の半導体製造プロセスにより形成されたLEDである。具体的には例えば、サファイアからなる基体の表面に窒化ガリウム(GaN)などの薄膜層を結晶成長により形成し、該窒化ガリウム層の上に活性層などのLED構造を形成すればよい。また、半導体受光部は、同じく例えばサファイアからなる基体の表面に化合物半導体の半導体製造プロセスにより形成されたフォトダイオードである。この場合にも、基体の表面に窒化ガリウムなどの薄膜層を結晶成長などにより形成し、該窒化ガリウム層に受光用のpn接合を形成すればよい。pn接合型ではなく、ショットキー接合型やフォトコン(Photo-conductive)型の受光素子でもよい。この半導体発光部及び半導体受光部は、例えば基体内の流路をその直交方向又は斜交方向に挟んで対向するように配置される。
【0012】
半導体発光部に駆動電流が供給されると、半導体発光部は所定波長の光を基体側に放出する。この光は透明又は半透明である基体中を透過し、その基体内部の流路中を流れる試料溶液に照射される。試料溶液中の成分により吸収を受けた透過光は透明又は半透明である基体中を透過して半導体受光部に到達する。半導体受光部は到達した光の光量に応じた検出信号を生成する。これにより、本発明に係る光分析装置では、半導体発光部及び半導体受光部が一体化された基体内部の流路中に流れる試料溶液による吸収を反映した検出信号を得ることができる。
【0013】
一般に化合物半導体素子用、酸化物半導体素子用、又は有機半導体素子用の基板として用いられる材料は高い屈折率を示す。そのため、こうした材料からなる基体と空気との界面で光は全反射し易い。したがって、流路を通過した光が基体と空気との界面に或る程度以上の角度を有して当たると、全反射して基体内部へと戻る。こうした全反射の作用を利用すれば、光を流路中に複数回通過させたあとに半導体受光部に入射させることができる。それによって、光の吸収の度合いが小さい試料に対しても高い精度で吸光度を得ることができる。
【0014】
また、半導体発光部から発した光の波長帯域とは異なる特定の波長帯域の光を半導体受光部で受光することで、透過光や散乱光ではなく、試料による蛍光を検出することもできる。即ち、本発明に係る光学分析装置では、吸光度だけでなく蛍光強度の測定も可能である。
【0015】
なお、上記半導体発光部はLEDでなく、スーパールミネッセンスダイオード(SLD)やレーザーダイオード(LD)であってもよい。また、半導体受光部はフォトダイオードでなく、フォトトランジスタ等であってもよい。さらに、半導体受光部を一つのみでなく複数設け、それら複数の半導体受光部で得られた信号を合算したり、複数の半導体受光部で得られた信号の一つを選択的に取り出したりしてもよい。また、半導体発光部を選択的に点灯・消灯する場合には、複数の半導体発光部のそれぞれの点灯・消灯を順番に繰り返し行うという時分割的な動作としてもよい。
【0016】
また、有機半導体素子用の基板材料を基体として用い、半導体発光部や半導体受光部を有機半導体により形成する場合には、上記半導体製造プロセスは溶液プロセスなどを含む有機半導体の製造プロセスである。即ち、ここでいう半導体製造プロセスは、無機物、有機物を問わない半導体の製造プロセスである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る光学分析装置によれば、光源、試料溶液が流れる流路つまりはフローセル、及び光検出器が一体化され、しかも光源や光検出器は流路が形成されている基体の表面に、半導体製造プロセスにより高い位置精度で以て形成される。したがって、従来装置で必須であった組立て時の手作業による光軸調整は不要であり、そうした調整を要さずに高感度な測定が達成できる。
【0018】
また、本発明に係る光学分析装置では、光源とフローセルとの間の間隙、フローセルと光検出器との間の間隙がいずれも流路の壁面となるので、それら要素間の不要な間隙がなくなり、装置の小形化を図ることができる。さらにまた、上述したように一般に化合物半導体素子、酸化物半導体素子、或いは有機半導体素子の基板に用いられる材料の屈折率は高く、基体と空気との界面で全反射が生じ易いので、流路内部での光の拡散を抑制することができる。
【0019】
また本発明に係る光学分析装置において、半導体露光技術を用いた化学的加工により流路を形成する場合には、複雑な形状の流路を簡単に作製することができる。
さらにまた、本発明に係る光学分析装置では、例えば半導体発光部の駆動回路や半導体受光部で得られた信号を増幅する増幅器など、化合物半導体、酸化物半導体又は有機物半導体で作製可能な素子や回路を、流路が形成されている基体に実装することができる。また、各種の光学素子も同一基体上に作製可能である。例えばレンズについては、フォトニックポリマーなどの屈折率分散材料を用いて屈折率分布を持たせることができる。それによって、電気回路や光学系の機能を取り込んだ高機能な光学分析ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施例である光学分析装置の概略構成図であり、(a)は流路の中心線を含む平面での断面図、(b)は(a)中のA−A’矢視線断面図。
図2】本発明の他の実施例である光学分析装置の概略構成図。
図3】本発明の他の実施例である光学分析装置の概略構成図。
図4】本発明の他の実施例である光学分析装置の概略構成図。
図5】半導体発光部の一例の概略断面図。
図6】半導体受光部の一例の概略断面図。
図7】従来の吸光光度計の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る光学分析装置の一実施例について、添付図面を参照して説明する。
図1は本実施例の光学分析装置の概略構成図であり、(a)は流路の中心線を含む平面での断面図、(b)は(a)中のA−A’矢視線断面図である。
【0022】
本実施例の光学分析装置1Aは、化合物半導体素子用基板の材料として用いられるサファイアからなる基体2を有し、その直方体状の基体2の内部には円筒直管状の流路3が形成されている。基体2としては化合物半導体素子用基板を適宜に切断して用いればよい。また、流路3は例えばレーザー加工を含む機械的な加工によって穿孔すればよい。この流路3には例えばLCのカラム出口から溶出した試料溶液が略一定流速で供給される。
ここでは、基体2の材料としてサファイアを用いているが、化合物半導体素子用、酸化物半導体素子用、又は有機半導体素子用の基板に用いられる材料であって、透明又は半透明、つまりは所定の波長又は波長帯域の光を透過させる特性を有する材料であれば、使用可能な材料はサファイアに限らない。例えば、単結晶基板として一般に入手可能である、窒化アルミニウム、ビスマスゲルマニウムオキサイド、などでもよい。また、ダイヤモンド基板などでもよい。
【0023】
基体2にあって流路3を挟んで対向する二つの面(図1の例では上面及び下面)の一方には、基体2上に半導体発光部としてLED4が形成されている。また、二つの面の他方には、基体2上に半導体受光部としてフォトダイオード5が形成されている。これらはいずれも基体2上に化合物半導体の標準的な製造プロセスによって形成されたものである。
【0024】
ここで、LED4及びフォトダイオード5の構造を概略的に説明する。
図5はLED4の一例の概略断面図である。
基体2の表面には、n型の窒化ガリウム薄膜層(n-GaN層)41が結晶成長により形成され、その上に例えばインジウム窒化ガリウム(InGaN)と窒化ガリウムの多層膜である活性層42が形成され、さらにその上にp型の窒化ガリウム薄膜層(p-GaN層)43が形成される。そのあと、p-GaN層43及び活性層42の一部が除去され、露出したn-GaN層41の上とp-GaN層43の上とにそれぞれ電極45、46が形成される。さらに、図5では図示していないが、素子表面全体に保護膜が形成され、電極45、46の上の一部の保護膜にコンタクトホールが形成され、コンタクトホールを通して電極45、46に配線が接続される。
【0025】
この配線を通して駆動電流が供給されると活性層42が光を発する。この光は空間側(図5では上方)と基体2側(図5では下方)との両方に放出されるが、p-GaN層43の上面のほぼ全体が電極46で覆われており、該電極46は反射層として機能する。そのため、活性層42から上方へと放出された光は電極46で反射されて下方へと向きを変える。そのため、光は基体2側へと効率良く放出される。
【0026】
図6はフォトダイオード5の一例の概略断面図である。
基体2の表面には、例えばn型の窒化ガリウム薄膜層(n-GaN層)51が結晶成長により形成され、その上に低バンドギャップのGaN系結晶層が受光層52として形成され、さらにその上にp型の窒化ガリウム薄膜層(p-GaN層)53が形成され、それによってダブルヘテロ接合構造が形成されている。p-GaN層53及び受光層52の一部は除去され、露出したn-GaN層51の上とp-GaN層53の上とにそれぞれ電極55、56が形成される。さらに、図5では図示していないが、全体に保護膜が形成され、電極55、56の上の一部の保護膜にコンタクトホールが形成され、コンタクトホールを通して電極55、56に配線が接続される。

【0027】
基体2を透過して来た光がn-GaN層51を経て受光層52に達すると、光の強度(光量)に応じた量のキャリアが発生し、そのキャリアがn-GaN層51とp-GaN層53とに移動する。それによって、電極55、56を通して外部の負荷に電流が流れる。なお、p-GaN層53のほぼ全体を覆っている電極56は受光層52に空間側から入射して来る光を遮蔽する機能も有する。
【0028】
なお、周知のように、化合物半導体によるLED4やフォトダイオード5の構造はこれに限るものではなく、様々な変形が可能である。重要なことは、LED4は基体2側に効率良く光を放出することであり、フォトダイオード5は基体2を透過して来た光を効率良く受光して光電変換することである。
【0029】
図1に戻り説明を続けると、図1に示した実施例では、LED4から発しフォトダイオード5に入射する光の光軸が流路3に略直交するように、LED4及びフォトダイオード5の位置が定められている。そのため、LED4から発し基体2を透過した光は流路3中の試料溶液を流路3の径方向に透過する。その間に試料溶液による吸収を受けた光は、さらに基体2を透過してフォトダイオード5に到達し、フォトダイオード5は受光した光の光量に応じた検出信号を生成する。なお、実際には、LED4は或る程度の面積全体が発光し、フォトダイオード5も或る程度の面積の受光面を有する。したがって、流路3に直交する光だけでなく或る程度の角度を以て斜交する光もフォトダイオード5に到達するが、そうした光路の時間的な変動はないので吸光度を算出するうえで問題はない。
【0030】
以上のように、本実施例の光学分析装置では、LED4が光源として、またフォトダイオード5が光検出器として、流路3が形成されている基体2に一体化されている。LED4及びフォトダイオード5はいずれも半導体製造プロセスによって高い位置精度で以て基体2上に形成されるため、従来装置のような面倒な光軸調整は不要である。また、LED4と流路3との間、及び、フォトダイオード5と流路3との間には、基体2以外の余計な空隙は存在しないので、装置全体のサイズは非常に小さく、小形・軽量な装置を実現できる。
【0031】
よく知られているように、吸光度の精度や感度を高めるには、試料溶液中の光路長を長くすることが望ましい。そこで、図1に示したように、LED4とフォトダイオード5とを流路3を挟んで径方向に対向した位置に設けるのではなく、図2図3に示すように、流路3の長手方向にずらした位置にLED4とフォトダイオード5とを配置するようにしてもよい。図2に示した光学分析装置1Bでは、LED4から基体2側に放出された光のうち、所定角度θを有して斜め方向に放出された光が流路3中の試料溶液を通過してフォトダイオード5に達する。このとき、試料溶液中の光路長は図1の構成の場合に比べて長くなる。なお、このとき、LED4からは角度がθよりも小さな光も放出されるが、それらは基体2と空気との界面では反射しないので、基体2を通り抜けて外部へと放出される。
【0032】
一方、図3に示した光学分析装置1Cでは、LED4から基体2側に放出された光のうち、基体2と空気との界面に所定の角度以上の角度で当たる光は該界面で反射する。したがって、基体2と空気との界面で2回以上反射しながら基体2を通過した光がフォトダイオード5に到達する。光は流路3中の試料溶液を複数回横切り、それだけ光路長が長くなる。フォトダイオード5と基体2との界面では、基体2と空気との界面とは反射条件が異なるため、フォトダイオード5の位置に達した光はその界面で反射せずにフォトダイオード5に侵入し検出される。このように、LED4とフォトダイオード5との位置を適宜に定めることで、試料溶液中の光路長を長くすることができる。
【0033】
また、図1図3に示した例では、流路3は直管状であったが、流路3は様々な形状とすることができる。例えば図4に示した光学分析装置1Dでは、流路3の形状をコ字状としている。そして、そのコ字状の流路3の中央の直線部をその長手方向に挟むようにLED4とフォトダイオード5を設けている。この構成によれば、試料溶液中の光路は一方向であるが、その光路長は長く、吸光度の精度や感度を高めることができる。
【0034】
なお、図4に示したような形状の流路3は単純な機械加工によって作製することは難しい。こうした複雑な形状の流路を形成するには、二つの基体の一方又は両方の表面に機械的加工やエッチングなどの化学的加工により溝を形成し、その溝が内側になるように二つの基体を貼り合わせるようにすればよい。
【0035】
また、上記実施例では、サファイア等の基体2上にLED4及びフォトダイオード5を形成していたが、LED4に代えて他の半導体発光部、例えばスーパールミネッセンスダイオードやレーザーダイオードを形成してもよい。また、フォトダイオード5に代えてフォトトランジスタ等の半導体受光部を形成してもよい。さらにまた、半導体発光部や半導体受光部だけでなく、化合物半導体の製造プロセスで作製可能である他の素子や回路を併せて基体2上に設けてもよい。例えば、LED4に駆動電流を供給する駆動回路、例えば電流源やその制御回路、フォトダイオード5で検出された信号を増幅する増幅器、などを基体2上に実装しても構わない。さらには、レンズ等の光学素子も基体2上に設けることができる。
【0036】
また、フォトダイオードは一つのみならず、適宜の位置に複数設け、それら複数のフォトダイオードで得られた信号を合算して一つの検出信号としたり、或いは、複数のフォトダイオードで得られた信号の一つを選択的に取り出して検出信号としたりしてもよい。
【0037】
さらにまた、本発明に係る光学分析装置は試料から発せられる蛍光を検出する構成とすることもできる。この場合、LED4から放出された光を励起光とし、この励起光により励起されて試料から発せられる蛍光の波長帯域を選択的に検出可能なフォトダイオードを用いればよい。
【0038】
また、一般的な化合物半導体や酸化物半導体ではなく、光源や光検出器を有機半導体により形成することも当然である。
さらにまた、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨に沿った範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0039】
1A、1B、1C、1D…光学分析装置
2…基体
3…流路
4…LED
41、51…n-GaN層
42…活性層
43、53…p-GaN層
45、46、55、56…電極
5…フォトダイオード
52…受光層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7