(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Alの含有量が22%超〜35%未満であり、前記Mgの含有量が10%超〜20%未満であり、前記Caの含有量が0.3%〜3.0%未満であり、前記Siの含有量が0.1%〜1.0%である請求項1又は請求項2に記載のめっき鋼材。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の一例について説明する。
なお、本開示において、化学組成の各元素の含有量の「%」表示は、「質量%」を意味する。
また、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、「〜」の前後に記載される数値に「超」または「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値または上限値として含まない範囲を意味する。
また、成分組成の元素の含有量は、元素量(例えば、Zn量、Mg量等)又は元素濃度(例えば、Zn濃度、Mg濃度等)と表記することがある。
また、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
また、「平面部」とは、鋼材の溶接熱影響部以外の鋼板の表面を示し、「溶接部周囲」とは、溶接部(溶接金属部分)以外で、溶接時の鋼材の熱影響部を示し、「溶接部裏面」とは、鋼材の表面側に形成される溶接部に対向した鋼材の裏面を示す。
【0015】
本開示のめっき鋼材は、鋼材と、鋼材の表面に配され、Zn−Al−Mg合金層を含むめっき層と、を有する溶融めっき鋼板であって、Zn−Al−Mg合金層の断面において、MgZn
2相の面積分率が45〜75%、MgZn
2相およびAl相の合計の面積分率が70%以上、かつZn−Al−MgZn
2三元共晶組織の面積分率が0〜5%であり、めっき層が、所定の化学組成を有する。
【0016】
本開示のめっき鋼材は、上記構成により、LMEおよびブローホール形成を抑制し、かつ溶接熱影響部(溶接部周囲および溶接部裏面)の耐食性を向上した溶融めっき鋼材となる。本開示のめっき鋼材は、次の知見により見出された。
【0017】
まず、従来、めっき鋼材の溶接性および耐食性を向上させるために検討されてきたのは、主に溶接手段であり、また溶接金属そのものを改良することであった。
【0018】
これに対し、本発明者らは、溶接手段、溶接金属は汎用品又は汎用のステンレスワイヤを利用した上で、めっき鋼材のめっき層そのものの成分を規定することで溶接性に適しためっき構造の開発に取り組んだ。従来、溶接性に適した新規めっき層の構造については、ほとんど知見がなく、溶接性は製品に使用されるめっき鋼材しか調べられていないのが実情である。
【0019】
そして、本発明者らは、次のことを知見した。溶融亜鉛系合金めっき鋼材において、めっき層中のAl、Mg成分組成を厳選し、さらに組織制御することで、めっき層中に、MgZn
2相およびAl相を増加させる一方で、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織およびZn相を極力抑制することができる。そして、それにより、めっき層中にAl、Mg等の金属が含まれるめっき層でも、LMEが抑制できる。それに加え、Znの蒸発量が抑えられ、ブローホール形成を抑制しつつ、溶接熱影響部の耐食性が向上する。
【0020】
以上から、本開示のめっき鋼材は、LMEおよびブローホール形成を抑制し、かつ溶接熱影響部の耐食性を向上した溶融めっき鋼材となることが見出された。
【0021】
以下、本開示のめっき鋼材の詳細について説明する。
【0022】
めっきの対象となる鋼材について説明する。
鋼材の形状には、特に制限はない、鋼材は、鋼板の他、鋼管、土木建築材(柵渠、コルゲートパイプ、排水溝蓋、飛砂防止板、ボルト、金網、ガードレール、止水壁等)、家電部材(エアコンの室外機の筐体等)、自動車部品(足回り部材等)など、成形加工された鋼材が挙げられる。成形加工は、例えば、プレス加工、ロールフォーミング、曲げ加工などの種々の塑性加工手法が利用できる。
【0023】
鋼材の材質には、特に制限はない。鋼材は、例えば、一般鋼、Niプレめっき鋼、Alキルド鋼、極低炭素鋼、高炭素鋼、各種高張力鋼、一部の高合金鋼(Ni、Cr等の強化元素含有鋼等)などの各種の鋼材が適用可能である。
鋼材は、鋼材の製造方法、鋼板の製造方法(熱間圧延方法、酸洗方法、冷延方法等)等の条件についても、特に制限されるものではない。
鋼材は、プレめっきされたプレめっき鋼材でもよい。
【0024】
次に、めっき層について説明する。
めっき層は、Zn−Al−Mg合金層を含む。めっき層は、Zn−Al−Mg合金層に加え、Al−Fe合金層を含んでもよい。Al−Fe合金層は、鋼材とZn−Al−Mg合金層との間に存在する。
【0025】
つまり、めっき層は、Zn−Al−Mg合金層の単層構造であってもよく、Zn−Al−Mg合金層とAl−Fe合金層とを含む積層構造であってもよい。積層構造の場合、Zn−Al−Mg合金層は、めっき層の表面を構成する層とすることがよい。
ただし、めっき層の表面にめっき層構成元素の酸化被膜が50nm程度形成しているが、めっき層全体の厚みに対して厚みが薄くめっき層の主体を構成していないと見なす。
【0026】
ここで、Zn−Al−Mg合金層の厚さは、例えば、2μm以上95μm以下(好ましくは5μm以上75μm以下)とする。
【0027】
一方、めっき層全体の厚みは、例えば、100μm以下程度である。めっき層全体の厚みはめっき条件に左右されるため、めっき層全体の厚みの上限及び下限については特に限定されるものではない。例えば、めっき層全体の厚みは、通常の溶融めっき法ではめっき浴の粘性および比重が関連する。さらに鋼板(めっき原板)の引抜速度およびワイピングの強弱によって、めっき量は目付調整される。そのため、めっき層全体の厚みの下限は、2μm程度であると考えてよい。
一方、めっき金属の自重および均一性により、溶融めっき法で作製できる、めっき層の厚みはおよそ95μmである。
めっき浴からの引抜速度とワイピング条件によって、めっき層の厚みは自在にできるため、厚さ2〜95μmのめっき層の形成は特に製造が難しいものではない。
【0028】
次にAl−Fe合金層について説明する。
【0029】
Al−Fe合金層は、鋼材表面(具体的には、鋼材とZn−Al−Mg合金層との間)に形成されており、組織としてAl
5Fe相が主相の層である。Al−Fe合金層は、地鉄(鋼材)、めっき浴の相互の原子拡散によって形成される。製法として溶融めっき法を用いた場合、Al元素を含有するめっき層では、Al−Fe合金層が形成され易い。めっき浴中に一定濃度以上のAlが含有されることから。Al
5Fe相が最も多く形成される。しかし、原子拡散には時間がかかり、また、地鉄に近い部分では、Fe濃度が高くなる部分もある。そのため、Al−Fe合金層は、部分的には、AlFe相、Al
3Fe相、Al
5Fe
2相などが少量含まれる場合もある。また、めっき浴中にZnも一定濃度含まれることから、Al−Fe合金層には、Znも少量含有される。
【0030】
耐食性においては、Al
5Fe相、Al
3Fe相、AlFe相、およびAl
5Fe
2相のいずれの相であっても大差がない。ここでいう耐食性とは、溶接の影響を受けない部分での耐食性である。めっき層中に占める、Al−Fe合金層の厚みは小さく、またZn−Al−Mg合金層と比較しても耐食性は低いため、全体における耐食性は、これらの相の比率が代わったとしても大差がない。
【0031】
ここで、めっき層中にSiを含有する場合、Siは、特にAl−Fe合金層中に取り込まれ易く、Al−Fe−Si化合物相となることがある。同定される化合物としては、AlFeSi相があり、異性体として、α、β、q1,q2−AlFeSi相等が存在する。そのため、Al−Fe合金層は、これらAlFeSi相等が検出されることがある。これらAlFeSi相等を含むAl−Fe合金層をAl−Fe−Si合金層とも称する。
なお、Al−Fe−Si合金層もZn−Al−Mg合金層に対し、厚みは小さいため、めっき層全体における耐食性において与える影響は小さい。
【0032】
また、めっき鋼材の原材に各種プレめっき鋼材を使用した場合、プレめっきの付着量により、Al−Fe合金層の構造が変化することがある。具体的には、Al−Fe合金層周囲に、プレめっきに用いた純金属層が残存する場合、Zn−Al−Mg合金層の構成成分とプレめっき成分が結合した金属間化合物相(例えば、Al
3Ni相等)が合金層を形成する場合、Al原子およびFe原子の一部が置換したAl−Fe合金層が形成する場合、または、Al原子、Fe原子およびSi原子の一部が置換したAl−Fe−Si合金層を形成する場合等がある。いずれにせよ、これらの合金層もZn−Al−Mg合金層に対し、厚みは小さいため、めっき層全体における耐食性において与える影響は小さい。
【0033】
つまり、Al−Fe合金層とは、Al
5Fe相を主体とする合金層以外に、上記種々の態様の合金層を包含する層である。
【0034】
Al−Fe合金層の厚さは、例えば、0μm以上5μm以下(通常、100nm以上5μm以下)である。
つまり、Al−Fe合金層は、形成されていなくてもよい。ただし、通常、本開示で規定するめっき組成で溶融めっき法により、めっき層を形成すると、鋼材とZn−Al−Mg合金層との間に、100nm以上のAl−Fe合金層が形成される。Al−Fe合金層の厚さの下限値は特に制限するものでなく、Alを含有する溶融めっき層を形成する際には、必然的にAl−Fe合金層が形成されることが判明している。そして、経験的に100nm前後が最もAl−Fe合金層の形成が抑制された場合の厚みであり、めっき層と地鉄(鋼材)との密着性を十分確保する厚みと判断されている。特別な手段を講じない限りはAl濃度が高いため、溶融めっき法では、100nmよりも薄いAl−Fe合金層を形成することは困難である。しかし、Al−Fe合金層の厚さが100nm未満であってとしも、また、Al−Fe合金層が形成されていなくても、めっき性能に大きな影響は与えないと推測される。
【0035】
一方で、Al−Fe合金層の厚みが5μm以上となると、Al−Fe合金層上に形成されるZn−Al−Mg合金層のAl成分が不足し、さらに、めっき層の密着性、加工性が極端に悪化する傾向にある。そのため、Al−Fe合金層の厚みは5μm以下に制限する。
なお、本開示のめっき鋼材を利用した構造物は、加工後の形態として一般的に溶接構造物が適しており、必ずしも、めっき層の加工性を確保する必要はない。したがって、本開示のめっき鋼材は、用途を限定すれば、既存のZn−Al−Mg系合金めっき鋼材及び溶融Znめっき鋼材よりも溶接性に優れためっき鋼材となりうる。
ただし、めっき層の加工性が得られると、円形、曲形等、様々な形状にめっき鋼材を加工し、加工後のめっき鋼材を溶接材料として使用できる可能性があるため、めっき鋼板としては加工性が得られた方が好ましい。めっき層の加工性は、めっき性状の良いめっき鋼板をV曲げプレス試験で冷間加工し、V曲谷部のめっき層のパウダリング量を評価するとよい。
【0036】
Al−Fe合金層はAl
5Fe相が主構成となる場合が多いので、Al−Fe合金層の化学組成は、Fe:25〜35%、Al:65〜75%、Zn:5%以下、および残部:不純物を含む組成が例示できる。
【0037】
通常、Al−Fe合金層よりもZn−Al−Mg合金層の厚みの方が厚いことが常であることから、Al−Fe合金層のめっき鋼板としての平面部耐食性への寄与は、Zn−Al−Mg合金層と比較すると小さい。しかし、Al−Fe合金層には、成分分析結果から推測されるように耐食性元素であるAlおよびZnを一定濃度以上含有する。そのため、Al−Fe合金層は、地鉄(鋼材)に対してある程度の犠牲防食能と腐食バリア効果を有している。
【0038】
ここで、厚みの薄いAl−Fe合金層の単独の耐食性寄与を定量的な測定で確認することは難しい。ただし、例えば、Al−Fe合金層に十分な厚みがある場合、Al−Fe合金層上のZn−Al−Mg合金層をエンドミル加工等でめっき層の表面からの切削で精密に取り除き、腐食試験をかけることによって、Al−Fe合金層の単独の耐食性を評価することはできる。Al−Fe合金層は、Al成分及び少量のZn成分を含んでいるため、Al−Fe合金層を有する場合、赤錆が点状に発生し、Al−Fe合金層を有さず、地鉄(鋼材)剥き出し時のように、全面赤錆とはならない。
【0039】
また、腐食試験中、地鉄(鋼材)の赤錆発生直前までに至っためっき層の断面観察を実施すると、上層のZn−Al−Mg合金層が溶出および錆化してもAl−Fe合金層のみが残存し、地鉄(鋼材)を防食していることが確認できる。これは、電気化学的に、Al−Fe合金層がZn−Al−Mg層より貴になるが、地鉄(鋼材)より卑に位置するためである。これらのことから、Al−Fe合金層も一定の耐食性を有していると判断することができる。
【0040】
腐食の観点からは、Al−Fe合金層は厚ければ厚いほど好ましく赤錆発生時間が遅れる作用がある。しかしながら、厚いAl−Fe合金層は著しくめっき加工性を劣化させる原因となるから、厚みは一定厚み以下が好ましい。
【0041】
本開示のめっき鋼板は、溶接構造物とする前(つまり溶接前)に様々に加工されることもある。そのため、加工性を確保する目的で、Al−Fe合金層の厚みを一定以下にしておくことがやはり好ましい。加工性の観点からは適切な厚みが判明しており、Al−Fe合金層は、5μm以下が好ましく、V曲げ試験等で発生するめっきAl−Fe合金層を起点に発生するクラック、パウダリング量が減少する。さらに好ましくは、2μm以下である。
【0042】
Al−Fe合金層は、Zn−Al−Mg合金層と比較すると、Alが主体構成物質で、厚みが薄く、融点が高いため、アーク溶接時に蒸発することなく維持される。したがって、ブローホールの形成量、LMEには関連しない。また、溶接前後で溶接熱影響部では、Zn−Al−Mg合金層中からAl成分を取り込み、Al−Fe合金層の厚みが成長する場合がある。特に、溶接による入熱が激しい部分(溶接部裏面等)は、Al−Fe合金層のみとなる場合がある。この場合、Al−Fe合金層は、Al−Fe金属間化合物相の結晶構造が維持されたまま、Alの他、Zn、Si等のめっき層構成元素を僅かに含有する場合がある。なお、Zn−Al−Mg合金層が残存している場合には、Al−Fe合金層は層の厚みの成長とともに、球状化したAl−Fe金属間化合物相がZn−Al−Mg合金層中で確認される場合がある。
【0043】
上記のとおり、Al−Fe合金層は一定の耐食性を有するため、溶接部周囲の耐食性を確保する上で、Al−Fe合金層を残存させることができるZn−Al−Mg層の選定は重要である。しかし、溶接の入熱によってAl−Fe合金層を成長させればよいため、予めAl−Fe合金層を厚く成長させる必要はない。
【0044】
次に、めっき層の化学組成について説明する。
めっき層に含まれるZn−Al−Mg合金層の成分組成は、めっき浴の成分組成比率がZn−Al−Mg合金層でもほぼ保たれる。溶融めっき法における、Al−Fe合金層の形成はめっき浴内で反応が完了しているため、Al−Fe合金層形成によるZn−Al−Mg合金層のAl成分、Zn成分の減少は通常、ほとんどない。
【0045】
そして、LMEおよびブローホール形成の抑制、かつ溶接熱影響部の耐食性の向上を実現するため、めっき層の化学組成(めっき層がZn−Al−Mg合金層の単層構造の場合、Zn−Al−Mg合金層の化学組成、めっき層がAl−Fe合金層及びZn−Al−Mg合金層の積層構造の場合、Al−Fe合金層及びZn−Al−Mg合金層の合計の化学組成)は、次の通りとする。
【0046】
つまり、めっき層の化学組成は、質量%で、
Zn:44.90%超〜79.90%未満、
Al:15%超〜35%未満、
Mg:5%超〜20%未満、
Ca:0.1%〜3.0%未満、
Si:0%〜1.0%、
B:0%〜0.5%、
Y:0%〜0.5%、
La:0%〜0.5%、
Ce:0%〜0.5%、
Cr:0%〜0.25%、
Ti:0%〜0.25%、
Ni:0%〜0.25%、
Co:0%〜0.25%、
V:0%〜0.25%、
Nb:0%〜0.25%、
Cu:0%〜0.25%、
Mn:0%〜0.25%、
Sr:0%〜0.5%、
Sb:0%〜0.5%、
Pb:0%〜0.5%、
Sn:0%〜20.00%、
Bi:0%〜2.0%、
In:0%〜2.0%、
Fe:0%〜5.0%、及び
不純物からなる化学組成とする。
【0047】
ただし、上記化学組成において、元素群AをY、La及びCe、元素群BをCr、Ti、Ni、Co、V、Nb、Cu及びMn、元素群CをSr、Sb及びPb、並びに元素群DをSn、Bi及びInとした場合、
元素群Aから選ばれる元素の合計の含有量が0%〜0.5%であり、
Caと前記元素群Aから選ばれる元素との合計の含有量が0.1%〜3.0%未満とし、
元素群Bから選ばれる元素の合計の含有量が0%〜0.25%とし、
元素群Cから選ばれる元素の合計の含有量が0%〜0.5%とし。
元素群Dから選ばれる元素の合計の含有量が0%〜20%とする。
【0048】
めっき層の化学組成において、Si、B、Y、La、Ce、Cr、Ti、Ni、Co、V、Nb、Cu、Mn、Sr、Sb、Pb、Sn、Bi、In、及びFeは、任意成分である。つまり、これら元素は、めっき層中に含まなくてもよい。これら任意成分を含む場合、任意元素の各含有量は、後述する範囲が好ましい。
【0049】
以下、めっき層の各元素について説明する。
【0050】
<Zn:44.90%超〜79.90%未満>
Znは、Zn−Al−Mg合金層の主相を構成するために必要な元素であり、めっき鋼材として平面部の耐食性、溶接熱影響部の耐食性(溶接後耐食性)を確保する上で一定以上含有される必要がある。一方、Zn濃度、すなわち、Zn−Al−Mg合金層中におけるZn相が、LME量、ブローホールの形成量に密接に関係する。
【0051】
Zn濃度が、44.9%以下の場合は、めっき鋼板として溶接部周囲の耐食性維持が困難となる。溶接熱影響部(溶接部周囲及び溶接部裏面)は、溶接時の入熱によりめっき層が蒸発し、めっきレス領域ができる。この領域はめっき層の蒸発を抑制することにより極力減らすことが好ましい。めっき層の蒸発を抑制する方法としては、めっき層に予め犠牲防食性が高く、かつ、Zn相を別の蒸発のしにくい金属間化合物相に変化させる元素を付与する方法(例えば、めっき層の蒸発部分をMg、Ca等の犠牲防食性の高い元素によって防食する方法)、蒸発時に形成される酸化物に耐食性元素を混入させて防食する方法、溶接の入熱を利用して耐食性の高い金属間化合物相(Fe元素とめっき層成分が結合した相など)を形成する方法等がある。Zn濃度が44.90%以下であると、犠牲防食性が劣位となり、溶接部周囲の防錆が困難となる。そのため、Zn濃度の下限値を44.90%超とする。より好ましくは、Zn量の下限値は65.00%超である。
【0052】
一方、Zn濃度が74.90%以上となるとZn相が増大しやすくなり、LMEおよびブローホールが激しく発生し、溶接性が悪化する傾向となる。ただし、Zn濃度が、74.90%〜79.90%の範囲にある場合でも、後述するように、めっき層中において、Ca−Zn−Al金属間化合物相、およびCa−Zn−Al−Si金属間化合物相の存在状態を変えることで、LMEおよびブローホールの形成を抑制することが可能である。よって、Zn濃度の上限値を79.90%未満とする。
【0053】
<Al:15%超〜35%未満>
AlもZn−Al−Mg合金層の主相を構成するために必要な元素であり、めっき鋼板として平面部の耐食性、溶接熱影響部の耐食性(溶接後耐食性)を確保する上で一定以上含有される必要がある。Alは、Zn−Al−Mg合金層中のAl相量を増やし、Zn相量を減らす。そのため、Al濃度が増加すれば溶接性は良くなる傾向にある。Alの効果は、溶接時の入熱によりめっき層が蒸発するのを抑制し、地鉄(鋼材)の成分とAl−Fe金属間化合物相(Al
5Fe相、AlFe相、Al
2Fe相、Al
3Fe相等)を形成して、溶接部周囲の耐食性を向上させる。特に、鋼材の厚みが薄い場合で、めっき層が完全蒸発する溶接部裏面の耐食性を確保するためには、Alはめっき層中に含有された方が好ましい成分である。そのため、Al濃度は、20%を超えるとすることがよい。Al濃度が20%以下では、溶接時の入熱により地鉄のFe相に多く固溶し、溶接部裏面のAl−Fe金属間化合物の合金層が薄くなり、溶接部周囲での耐食性向上効果が見込めないことがある。
【0054】
ただし、Al濃度が15%超え20%以下の範囲も、後述するように、Zn−Al−Mg合金層中において、Ca−Zn−Al金属間化合物相、およびCa−Zn−Al−Si化合物相をZn−Al−Mg合金層の存在状態を変えることで、Al−Fe合金層を薄くしても、溶接部裏面での耐食性向上効果が確保できる。
【0055】
このため、Al濃度の下限値を15%超とする。また、既存Zn−Al−Mg系めっき鋼材より優れた溶接部裏面での耐食性を確保するためには、後述するCa含有効果も併用した方が好ましい。
【0056】
一方、Al濃度が多くなると、溶接部周囲の耐食性が極端に悪化する。そのため、Al濃度の上限値を35%未満とする。溶接部周囲の耐食性を重視する場合は、Al濃度の上限値をさらに30%未満とすることが好ましい。
【0057】
<Mg:5%超〜20%未満>
MgもZn−Al−Mg合金層の主相を構成するために必要な元素であり、めっき鋼板として平面部の耐食性、溶接熱影響部の耐食性(溶接後耐食性)を確保する上で一定以上含有される必要がある。Mgはめっき層に含有されるとZnとよく似た効果を表す。Mgの含有により犠牲防食性の向上が見込める。
一方、従来、めっき層中へMgを含有させると、MgはZnと同じく蒸気圧の低い金属であることからLMEが顕著になると考えられている。また、溶接性が低下するため様々なフラックスワイヤが開発されてきていることは前述の通りである。
【0058】
しかしながら、Mg濃度を選定することでLMEの悪化が抑制される。通常、Mg濃度が、0〜5%の範囲においては、確かにLMEが悪化するが、Mg濃度が5%超となると、通常のZnめっき鋼材以上にLMEが向上し、さらには、ブローホールの発生も抑制されめっき層として好ましい形態になる。Mg濃度が0〜3%の範囲ではめっき層の融点が低下して液相がより安定するのに対し、Mg濃度が3〜5%の範囲でめっき融点は上昇に転じ、さらにはMg濃度が5%を超えることで融点上昇率が高くなって、めっき層が液相化し難くなる。さらに、めっき層が蒸発しにくくなる。よって、Mg濃度が5%超〜20%未満の範囲では、Zn相より溶接性に優れたMgZn
2相の割合が増えるため、溶接性が向上する。つまり、LMEおよびブローホールの形成が抑制される。
【0059】
特に、Mg濃度が10%超の範囲では、溶接時の入熱によって容易に酸化物を形成する特性を活かし、溶接部裏面にMgOが多量に含まれ、耐食性が向上する効果があるため好ましい。しかしながら、Mg濃度が20%以上となると、めっき浴の粘性が増し、めっき層の形成自体が困難となる。また、めっき性状も悪く、めっき層も剥離しやすい。よって、Mg濃度の上限値を20%未満とする。
【0060】
<Ca:0.1%〜3.0%未満>
Caはめっき層中に含有されると、Mg濃度増加に伴う、めっき操業時におけるドロスの形成量が減少し、めっき製造性を向上させる。特にMgが高濃度の時は、一般的にめっき操業性が悪いため、Mg濃度が7%を超える場合は、式:0.15+1/20Mg<Ca(ただし、式中、元素記号は、質量%での各元素の含有量を示す。)を満たすように、Ca濃度を調整することが好ましい。
【0061】
また、Caはめっき層中に含有されると、AlおよびZnと金属間化合物相を形成する。さらに、Caと共に、Siをめっき層中に含有させた場合、Caは、Siと金属間化合物相を形成する。これらの金属間化合物相は、融点が高く、安定な構造であるため、Caの含有により溶接時、Zn蒸発を抑制する効果がある。Ca濃度が0.1%以上で効果があり、LMEおよびブローホール量が低減する効果が見られる。また、溶接部周囲のめっき層の残存量が多くなる。Caが含有されていない場合は、溶接性が極端に悪化する傾向にある。つまり、LMEおよびブローホールの形成が顕著になる傾向がある。よって、Ca濃度の下限値を0.1%以上とする。
【0062】
Caを含有する金属間化合物相は、溶接時に、めっき層の構成元素のうちCaが最も容易に酸化されるため、Ca酸化物となる。Ca酸化物を含む酸化物層は、溶接部裏面のAl−Fe合金層上に密着性が十分な状態で残存し、溶接部裏面の耐食性を向上させる。通常、Caが含有されないめっき層では、溶接部裏面に形成された酸化物(ヒューム跡)等は、ウエス等で拭きとれば、ほとんどAl−Fe合金層上から剥離し残存しない。しかし、酸化物層にCa酸化物を含有すると、酸化物層が剥離しにくくなり、酸化物層が緻密な状態でAl−Fe合金層上に残存する。また、Ca酸化物を含む酸化物層は、中性、アルカリ性の水溶液等にたいしては比較的、難溶性である。
【0063】
なお、通常、溶接後、Al−Fe合金層上に残存する酸化物層は、Caの他、Zn、Mg等の元素も含み、Siも少量含まれる場合がある、酸化物層は、これらの酸化物の化合物相として存在している。酸化物層の残存効果を得るためには、Zn−Al−Mg合金層中に、Ca−Zn−Al金属間化合物相、およびCa−Zn−Al−Si金属間化合物相が形成されている必要がある。これらの金属間化合物相を形成するためには、Caは0.1%以上の濃度でめっき層中に含有される必要がある。Ca濃度が高くなると、酸化物層中に含まれるCa酸化物濃度も上昇する。Ca酸化物は、酸化物層の密着性に効果があるが、酸化物層自体の耐食性に対する効果はあまり大きくない。
【0064】
また、Caと共に、Siが含有されている場合、Ca−Zn−Al金属間化合物相の他、Siを取り込んだCa−Zn−Al−Si金属間化合物相が形成することもあり、耐食性が向上する傾向にある。ただし、Ca−Zn−Al金属間化合物相、およびCa−Zn−Al−Si金属間化合物相が多量に存在すると、めっき層の平面部の耐食性そのものが劣化傾向にあり、溶接部周囲の耐食性も劣化する。また、このような金属間化合物の含有によりドロスが増え、めっき性状が悪くなるため、Ca濃度の上限値を3.0%未満とする。
【0065】
次に、めっき層の化学成分の任意元素について説明する。めっき層中に様々な元素を適用することで、溶接性やその他の性能を付与することができる。
【0066】
<Si:0.1%〜1.0%>
Siは、めっき層中に含有されると、Mgと金属間化合物相(例えばMg
2Si相)を形成する。また、Caが含有されている場合は、Caとの結合力が強いため、Ca−Si金属間化合物相(Ca
2Si相、CaSi相等)も作る。ただし、Ca濃度よりも多くのSiが含有されている場合には、Mg
2Siがやはり形成する。また、少量ではあるが、Mg−Al−Si金属間化合物相が形成する場合もある。Ca、Siと併用される場合は、Si濃度の2倍以上の濃度でCaを含有した方が好ましい。Ca濃度が高い方が、Mg
2Siの形成量が減少する。
【0067】
また、AlとZnを多く含有するめっき層では、Ca−Zn−Al−Si金属間化合物相をつくると推定される。しかし、従来のJCPDSデータベース等では、具体的な金属間化合物が判明しておらず、詳細は不明である。Siは明瞭な結晶構造をとらず、Al
2CaZn
2等のCa−Zn−Al金属間化合物に侵入型の固溶体状態で混入している可能性もある。Ca−Zn−Al−Si金属間化合物相の効果、すなわち、Ca、Siの併用効果は、溶接部裏面の耐食性が向上することである。これらの効果は、Mg
2Si相、MgAlSi相では得られにくい。そして、この効果を得るには、Si濃度の下限値は、0.1%以上が好ましい。
【0068】
操業の観点から、めっき浴におけるSi含有に伴う、Mg
2Si、MgAlSi、Ca−Zn−Al−Si金属間化合物相の増加は、めっき浴の粘性の増加から好ましくない。また、Si原子とCaとの結合によりCa
2SiまたはCaSi、又はCa−Zn−Al−Si金属間化合物相を多量に形成してしまい、Ca含有による操業性の向上も見込めなくなる。そのため、良好なめっき性状が得られ難くなる。よって、Si濃度の上限値を1.0%以下とする。
【0069】
<B:0.05%〜0.5%>
Bは、めっき層中に含有させるとLMEを改善する効果がある。0.05%以上含有すると、めっき層中で、Zn、Al、Mg、Ca元素と化合し、様々な金属間化合物相をつくると推定される。特にCaとの結合性が強く、Ca−Al−B金属間化合物相(例えばAl
2CaB
5相)を作る傾向にある(
図4参照)。そして、Ca−Al−B金属間化合物相の生成はLMEを改善する効果があると考えられる。よって、B濃度の下限値は0.05%以上が好ましい。
【0070】
なお、既存の金属間化合物データ(JCPDS)としては存在しないが、Cuターゲットを用いた「めっき層」の表面からのX線回折像において、31.0°、33.5°、35.2°にB含有による金属間化合物の起因ピークが観察される。金属間化合物の例としては、CaAl
(2〜4)B
(5〜7)の金属間化合物であって、Bが原子%で40%以上の金属間化合物であると、解析結果から判断されている。また、同時にZn及びMgもEDSのスペクトルで検出されることから、一部の原子位置がZn及びMgで置換されたCa−Al−B金属間化合物(例えばCaの一部がMg、Alの一部がZnで置換されたCa−Al−B金属間化合物)とも考えられる。Ca−Al−B金属間化合物相以外に、MgB
7相、MgB
4相、MgB
2相、Al
2B
3相、AlB
2相、AlB
12相、(Al,Mg)B
2相、AlMgB
14等のZn、Ca置換体の形で存在している可能性も考えられる。
【0071】
また、Bの含有は、めっき層から地鉄へBが移動し、粒界強化によって鋼材自体のLME感度を変化させてLMEを改善する効果があると考えられる。また、Bの含有は、上記効果の他、形成した金属間化合物の融点が極めて高いため、Zn相の液相化、蒸発等の抑制に作用していると考えられる。
【0072】
なお、めっき浴へのBの含有は、めっき融点の急激な上昇を引き起こし、めっき操業性が悪化してめっき性状の良いめっき鋼材が作製できない。そのため、B濃度の上限値を0.5%以下とする。
【0073】
<元素群A(Y、La、Ce):0.05%〜0.5%>
元素群AとするY、La、Ceは、Caとほぼ同等の役割を示す元素である。これは互いの原子半径がCaの原子半径と近いことに起因する。めっき層中に含有されるとCa位置に置換し、EDSでCaと同位置に検出することができる。溶接後、酸化物となった場合も、CaOと同じ位置でこれらの酸化物が検出される。これらの元素が合計で0.05%以上含有されると、溶接部裏面の耐食性が向上する。これは、CaOよりこれらの酸化物の耐食性が高いことを示す。よって、元素群Aから選ばれる各元素の含有量は、各々0.05%以上が好ましい。そして、元素群Aから選ばれる元素の合計の含有量も0.05%以上が好ましい。
【0074】
一方、元素群Aは、過剰含有するとめっき浴の粘性上昇を引き起こす。そのため、元素群A濃度が0.5%超の範囲では、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好なめっき鋼材を製造できない。よって、元素群Aから選ばれる各元素の含有量は、各々0.5%以下とする。そして、元素群Aから選ばれる元素の合計の含有量も0.5%以下とする。
【0075】
元素群Aは、Caの置換元素としての役割が主体であるため、元素群Aの濃度の合計が、Ca濃度より低くする必要がある。そのため、Caと元素群Aから選ばれる元素との合計の含有量を0.1%〜3.0%未満とする。
【0076】
<元素群B(Cr、Ti、Ni、Co、V、Nb、Cu、Mn):0.05%〜0.25%>
元素群Bがめっき層中に合計量で0.05%以上含有されると、溶接時、Al−Fe合金層に取り込まれる。Al−Fe合金層が元素群Bを含有することによって、溶接部裏面の耐食性が向上する。元素群Bが取り込まれると、Al−Fe合金層の絶縁性が向上すると考えられる。よって、元素群Bから選ばれる各元素の含有量は、各々0.05%以上が好ましい。また、元素群Bから選ばれる元素の合計の含有量も、0.05%以上が好ましい。
一方、元素群Bは、過剰含有すると様々な金属間化合物相をつくり、粘性上昇を引き起こす。このため、単独又は元素群B群の合計で0.25%超の範囲では、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好なめっき鋼板を製造できない。よって、元素群Bから選ばれる各元素の含有量は、各々0.25%以下とする。そして、元素群Bから選ばれる元素の合計の含有量も0.25%以下とする。
【0077】
なお、元素群Aと元素群Bとの元素が併用されている場合、溶接部裏面の耐食性の向上効果が、どちら群の元素に起因するか区別は困難である。
【0078】
<元素群C(Sr、Sb、Pb):0.05%〜0.5%>
元素群Cがめっき層中に合計量で0.05%以上含有されると、めっき層の外観が変化し、スパングルが形成されて、金属光沢の向上が確認される。溶接性能における変化はない。よって、元素群Cから選ばれる各元素の含有量は、各々0.05%以上が好ましい。元素群Cから選ばれる元素の合計の含有量も0.05%以上が好ましい。
一方、元素群Cが0.5%超で含有すると、めっき浴中のドロス生成量が多くなり、めっき浴の建浴そのものが困難となることが多く、めっき性状が良好なめっき鋼材を製造できない。よって、元素群Cから選ばれる各元素の含有量は、各々0.5%以下とする。そして、元素群Cから選ばれる元素の合計の含有量も0.5%以下とする。
【0079】
なお、Cdも本来、元素群Cに含まれる元素であり、Zn、Pbの不純物として微量検出(0.1%未満)される場合があるが、この元素については、含有されることでスパングル形成等における効果は確認されていない。
【0080】
<元素群D(Sn、Bi、In):0.05%〜20.00%、ただし、Bi:0.05%〜2.0%、In:0.05%〜2.0%>
元素群Dは、めっき層中に合計量で0.05%以上含有すると、めっき層中に、新たな金属間化合物相としてMg
2Sn相、Mg
3Bi
2相、Mg
3In相等が形成し、検出されるようになる。元素群Dは、めっき層主体を構成する元素Zn、Alといずれとも金属間化合物相を形成することなく、Mgのみと金属間化合物相を形成する。新たな金属間化合物相が形成するため、めっき層の溶接性を大きく変化させる元素である。このうち、Snが低融点金属でめっき浴の性状を損なうことなく容易に含有させることができる。元素群Dの含有濃度が増えると、これらの金属間化合物相の形成量が増大する。
【0081】
まず、いずれの金属間化合物相も融点が高いため、溶接後も蒸発することなく金属間化合物相として存在する。本来、溶接熱により酸化してMgOを形成しやすいMgもSn、Bi、Inと金属間化合物相として形成することで酸化せず、溶接後も金属間化合物相のまま、めっき層として残存しやすくなる。これらの元素が存在すると耐食性犠牲防食性が向上し、溶接部周囲の耐食性が向上する。MgZn
2も同じMg系化合物であるが、これらの金属間化合物の方が、犠牲防食性効果が高い。
【0082】
よって、元素群Dから選ばれる各元素の含有量は、各々0.05%以上が好ましい。また、元素群Dから選ばれる元素の合計の含有量も0.05%以上が好ましい。
【0083】
一方、元素群DはSnを主体として20.00%まで含有することが可能である。Sn濃度が20.00%を超えるとMg
2Sn相量が増大し溶接後の耐食性が急激に悪くなる。また、Sn、BiおよびInの合計の含有量が20.00%を超えても同様である。これは、本来MgZn
2相として存在していたZnが、Mg
2Snの増大により、Zn相として存在することにより、LMEやブローホール性に悪影響を与えるためである。よって、Snの含有量は、20.00%以下とする。また、元素群Dから選ばれる元素の合計の含有量も20.00%以下とする。
【0084】
また、Bi、Inは、過剰含有によりめっき層が脆く、剥離しやすくなり、めっき性状が悪くなる。さらには、溶接後の耐食性が急激に悪くなる。そのため、Biの含有量、Inの含有量は、各々、2.0%以下とする。
【0085】
<Fe:0%〜5.0%>
Feはめっき層を製造する際に、不純物としてめっき層に混入する。Al−Fe合金層の厚みが厚い程、Fe濃度が高くなる傾向にあり、最大5.0%程度まで含有されることがある。通常の溶融めっき法にて製造した際には、1%未満であることが多い。新規めっき浴を建浴した場合、めっき原材(めっき原板等)の通板によって、Fe濃度は徐々に上昇する。このため、めっき浴でのFeの過飽和濃度0.5%程度でめっき浴に混入させておくと、めっき浴のFe濃度の上昇を防ぐことができる。
【0086】
<不純物>
不純物は、原材料に含まれる成分、または、製造の工程で混入する成分であって、意図的に含有させたものではない成分を指す。例えば、めっき層には、鋼材(地鉄)とめっき浴との相互の原子拡散によって、不純物として、Fe以外の成分も微量混入することがある。
【0087】
<好ましい化学組成>
めっき層の化学組成において、Alの含有量は22%超〜35%未満であり、Mgの含有量は10%超〜20%未満であり、Caの含有量は0.3%〜3.0%未満であり、Siの含有量は0.1%〜1.0%であることが好ましい。また、Caの含有量はSiの含有量の2倍以上であることが好ましい。Al、Mg、CaおよびSiの各元素濃度が上記範囲であると、上述した各種金属間化合物相が形成され易く、LEMおよびブローホール形成の抑制効果、並びに、溶接熱影響部の耐食性向上効果が高まる。
【0088】
また、Alの含有量は15%超〜22%、又は15%超〜20%としてもよい。Al濃度を低減すると、塗装後耐食性が向上する。
溶接構造物の多くは、溶接後、塗装される。溶接部が外部に晒される場合は、溶接部周囲に、早期に赤錆が発生しやすいため、溶接部の耐食性を確保するためには、何らかの塗装処理を施されることが好ましい。溶接部周囲に電着塗装等で塗装を施した後、溶接部からの赤錆発生挙動を観察すると、Al濃度と塗装後の耐食性に相関性がある。塗装を施した場合、Al濃度が22%超えでも、十分な塗装後耐食性が溶接部には得られる。しかし、溶接部周囲からの赤錆発生挙動を確認すると、溶接部周囲からの赤錆発生抑制の観点から、Al濃度は22%以下とすることが好ましく、20%以下とすることより好ましい。塗装後耐食性に関しては、塗膜とのめっき層の金属部分との密着性が関連しており、Al濃度が低い方が、塗膜密着性に影響を及ぼす下地処理が有効に働くためと推定される。
【0089】
次に、Zn−Al−Mg合金層を構成する相について説明する。
【0090】
Zn−Al−Mg合金層は、MgZn
2相およびAl相の二相を主体とする層である。Zn−Al−Mg合金層は、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織を含まない、又は含んでも微量である。Zn−Al−Mg合金層は、その他、Zn相、金属間化合物相等を含んでもよい。
【0091】
具体的には、Zn−Al−Mg合金層の断面において、MgZn
2相の面積分率は45〜75%、MgZn
2相およびAl相の合計の面積分率は70%以上、かつZn−Al−MgZn
2三元共晶組織の面積分率は0〜5%とする。そして、Zn相の面積分率は、25%未満が好ましく、10%未満がより好ましい。
【0092】
以下、各相の面積分率を規定した理由について説明する。
【0093】
まず、MgZn
2相について説明する。
MgZn
2相は、Zn−Al−Mg合金層中に含有されると、Zn−Al−Mg合金層の耐食性が向上する。絶縁性に優れた金属間化合物相であるため、Zn相と比較すると耐食性が高い。また、構成元素としてMgを含有することから、Zn相より腐食電位が低く、犠牲防食性に優れ、溶接部周囲の耐食性を向上させる相としては好ましい。また、Mgは腐食過程で溶出すると、形成する腐食生成物をち密化する作用があり、赤錆抑制効果もZn相単独の腐食生成物より高く、白錆が長期に維持されることがある。
【0094】
溶接性においては、MgZn
2相は、重要な役割を果たす。Zn原子はZn相として存在する場合は、蒸発しやすいが、MgZn
2相として存在する場合は、蒸発しにくい。まず、1000℃を超える領域(溶接部裏面等)では、MgZn
2相は蒸発し、MgO、ZnOの酸化物を多量に形成する。これらの金属間化合物は、Caの酸化物であるCaOを介して、溶接部裏面に形成したAl−Fe合金層上に堆積し、溶接部裏面の耐食性を向上させる。また、1000℃〜500℃の領域(溶接部周囲等)では、MgZn
2相は溶融するがほとんど蒸発せず残存しうる。
【0095】
また、溶接後も残存するMgZn
2相は、Zn−Al−Mg合金層中に予め塊状として存在していたMgZn
2相である。従来、Zn−Al−Mg系合金Zn−Al−Mg合金層においてもMgZn
2相が存在していた。しかし、いずれもMg濃度が低く、Zn−Al−Mg合金層中でのMgZn
2相の存在状態は、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織として存在しており、塊状に存在するMgZn
2相は、Zn−Al−Mg合金層の任意の断面組織で、5%未満と非常に少ないものであった(
図1参照)。
【0096】
つまり、溶接後も残存するMgZn
2相は、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織として共晶反応で析出する微細なMgZn
2相とは異なる。言い換えれば、溶接後も残存するMgZn
2相(本開示において、面積分率を規定するMgZn
2相)は、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織としてではなく、単独で析出するMgZn
2相である。
【0097】
Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織は、溶接時容易に蒸発してしまい、溶接部周囲にMg、Zn等の元素を残存させることができない。一方、塊状に存在するMgZn
2相は、溶接部周囲に残存することができる。
【0098】
本開示のめっき層の代表例のSEM反射電子像を
図2に示す。
図2に示すように、Zn−Al−Mg合金層に、塊状のMgZn
2相が多数存在し、互いに連結し、粗大なMgZn
2相を形成していることがわかる。溶接後の残存量を増やしたい場合は、MgZn
2相が互いに連結して粗大である方が好ましい。
【0099】
塊状のMgZn
2相が存在することで、Znが蒸発しにくくなり、LME、ブローホールの発生量も減少する。これはZn相量とも関連があるため、詳細は後述する
【0100】
よって、LMEおよびブローホール形成を抑制するためには、MgZn
2相の面積分率は45〜75%とし、好ましくは55〜75%とする。
【0101】
次に、Al相について説明する。
Al相は、0〜3%前後のZnを固溶するα相(通常のα相)と、70%超え〜85%のZn相(η相)を含有し、通常のα相とZn相(η相)とが微細に分離したβ相(通常のβ相)が該当する(
図2、
図5〜
図6参照)。
【0102】
ここで、
図3には、Zn−Al状態図を示す。
図3に示す状態図に従えば、Zn−Alの最終凝固反応は275℃でZnを10%固溶したα相とAlを殆ど固溶しないη相(Zn相)に共析反応で平衡分離する。
しかし、めっき凝固プロセスは、一般的に冷却速度が速く、状態図に従わない状態が起こり得る。例えば、めっき凝固プロセスでは、上記共析反応が完全に起こらず、高温安定相であるZnを0〜85%含有したAl相がそのままZn過飽和固溶体として残存することが多い。
【0103】
具体的には、例えば、
図6に示すように、β相も10000倍以上拡大すれば、微細なAl相および微細なZn相で構成されることが判明する。しかし、一般的に、α相およびβ相の耐食性、犠牲防食性といった性能は、Al相の性質を示し、Zn相の性質とは異なる。そのため、本開示のAl相は、β相も該当することとする。
なお、
図6中、21で示される領域(β相)のうち、白色を呈する領域がZn相で、黒色を示す領域がAl相である。
【0104】
また、例えば、水冷等を使用し、急冷してめっき層を形成する場合は、Al相のZn過飽和固溶体(通常のα相とβ相の成分濃度と異なるAl相)が形成することがある。なお、急冷しなければ、通常のα相とβ相が生成されるのがほとんどである。
Al相のZn過飽和固溶体は、本来徐冷時(α相とη相が形成する際)には、最終的に存在しない相で、異常な成分のα相およびβ相のことである。
具体的には、α相のZn過飽和固溶体は、通常のα相とは異なり、Zn濃度3%超え〜70%でZnを過飽和に固溶するAl相である。Zn過飽和固溶体のα相は、脆く、加工性を悪化させる相である。
β相のZn過飽和固溶体は、70%超え〜85%のZn相(η相)を含有し、Zn濃度3%超え〜70%でZnを過飽和に固溶するα相(α相のZn過飽和固溶体)とZn相(η相)とが微細に分離したAl相である。β相のZn過飽和固溶体のβ相も、α相のZn過飽和固溶体を含むため、脆く、加工性を悪化させる相である。
このように、Zn過飽和固溶体のAl相は、通常のα相とβ相の成分濃度と異なるAl相で、加工性を悪化させる相である。よって、本開示のAl相には該当しない。
【0105】
ここで、Al相(α相およびβ相)の特定方法は、次の通りである。
まず、Al相(α相およびβ相)の特定は、めっき層の断面(めっき層厚さ方向に沿って切断した切断面)のSEM反射電子像を撮像する(
図5及び
図6参照)。
なお、Zn−Al−Mg合金層の断面におけるAl相(α相およびβ相)の面積分率を測定するには、各相の面積分率を測定するめっき層の断面(めっき層厚さ方向に沿って切断した切断面)と同じSEM反射電子像を使用する。
ただし、例示のため、
図5および
図6では、めっき層厚さ方向に沿って切断した切断面に対して4°傾斜して研磨しためっき層の傾斜(4°)研磨断面のSEM反射電子像を示している。
【0106】
次に、撮像したSEM反射電子像(
図5参照)において、EDS等によりα相を特定する。溶融めっき層の凝固過程では、中心部がα相となり、α相の外周部にβ相が存在するように各相が析出する。これは、めっき層の凝固時、Al相の晶出から始まり、固体化による固溶限の減少でZn含有ができなくなったAl相が周囲のAl相へZn成分を吐き出すためである。
具体的には、SEM反射電子像の1000倍程度の拡大像(
図5参照)で、Al相内部の成分分析を一定の面積(たとえば、1μm×1μm)範囲で定量分析し、Znを0〜3%固溶したAl相であればα相(通常のα相)であると特定する。α相(通常のα相)の外周部に存在する相が、通常のα相とZn相(η相)に微細に分離したAl相であればβ相(通常のβ相)と特定する。
なお、Znを3%超え〜70%過飽和固溶したAl相であれば、α相のZn過飽和固溶体と特定する。また、α相のZn過飽和固溶体とZn相(η相)とが微細に分離したAl相であれば、β相のZn過飽和固溶体と特定する。
【0107】
なお、本開示において、最もめっき層中に含有される元素がZnであり、Alは15%超〜35%未満と制限されている。このため、一般的なAl系めっき鋼板、Al−Zn系めっき鋼板(いわゆるAl含有量55%を中心としたガルバリウム鋼板(登録商標))とも異なり、Al相がZn−Al−Mg合金層中で3次元網目構造を形成し主体を構成することはなく、MgZn
2相量が最も多く、次いでAl相となる組織構成となることが多い。寧ろ、Zn−Al−Mg合金層中の大半を占めるAl相を中心とした周囲をMgZn
2相で構成される包晶構造体が3次元網目構造を形成している。これは、めっき層中のAl濃度およびMg濃度の配合比率が関係している。
【0108】
一般に、濃度比Mg/Alが1/10未満であれば、Zn−Al−Mg合金層中、MgZn
2相と比較して、Al相の占める割合が多くなる。一方、濃度比Mg/Alが1/10以上の範囲では、MgZn
2相が占める割合が多くなり、Al相主体のZn−Al−Mg合金層とはならない。このため、溶接部に関わらない平面部等の耐食性、犠牲防食性およびその他の性質は、Al系めっき鋼板およびAl−Zn系めっき鋼板よりも、Zn系めっき鋼板そのものに近い。
【0109】
Al相(α相、β相)は溶接熱が入熱し500℃以上に曝されると、地鉄(鋼材)のFeと反応し、Al−Fe合金層、球状又は塊状のAl−Fe金属間化合物相となる。AlFe相、Al
2Fe相、Al
3Fe相、Al
3.2Fe相、Al
5Fe
2相等、ほとんど前述したAl−Fe合金層と同じ構成物質からなり、Al相中に固溶していたZnがAlの一部と置換した金属間化合物相を形成する。また、前述したとおり、これらのAl−Fe合金層およびAl−Fe金属間化合物相は、地鉄(鋼材)に対して一定の耐食性を有する。特に溶接部裏面においては、ZnおよびMgの殆どが蒸発するか又は酸化物となってしまうが、AlはAl−Fe合金層となって溶接部裏面の耐食性を向上させる。なお、溶接部周囲等では、層を形成するほどにはAl−Fe金属間化合物相が形成せず、球状又は塊状の形態を示すことが多い。これらのAl−Fe合金層およびAl−Fe金属間化合物相の防食に対する効果は、Zn−Al−Mg合金層と比較して小さいが、耐食性への一定の寄与がある。
【0110】
よって、溶接熱影響部の耐食性を向上させるためには、MgZn
2相およびAl相の合計の面積分率は70%以上とし、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上とする。なお、MgZn
2相およびAl相の合計の面積分率の上限値は、好ましくは98%以下であり、より好ましくは100%以下である。
この面積分率でMgZn
2相およびAl相が存在すると、溶接の熱影響部500〜1000℃の部分でZn−Al−Mg合金層が残存しやすくなって明らかな溶接部周囲の耐食性向上効果が確認できる。70%未満では、Zn−Al−Mg合金層の多くが蒸発してしまい、溶接部周囲の耐食性は劣位となる。
【0111】
次に、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織について説明する。
三元共晶組織には、Al相、Zn相、MgZn相が含まれている。それぞれの相の形状は、成分組成によって大きさが変化するために、形状は不定形である。しかし、共晶組織は、定温変態で、凝固時の元素移動が抑制されることから、各々の相が入り組んだ形状を形成し、通常、各相は微細に析出する(
図7参照)。
通常、それぞれの相は、Zn相が大きく、島状を形成し、次いで、MgZn相が大きく、Zn相の隙間を充たし、Al相は、MgZn
2相の間に斑点状に分散する構成をとることが多い。なお、成分組成によっては、構成する相は、変化しないが、島状に析出するものが、MgZn
2相になる場合、Al相またはMgZn
2相になる場合もあり、位置関係が凝固直前の成分変化に依存する。
なお、三元共晶組織の特定方法については後述する。
【0112】
このような微細な相から構成される三元共晶組織が存在すると、溶接時には、Znが蒸発し易くなり、LME、ブローホールの発生量が増加する。
【0113】
よって、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織の面積分率は、0〜5%とし、好ましくは0〜2%とする。三元共晶組織の面積分率は、最も好ましくは0%である。
【0114】
次に、Zn相について説明する。
Zn相は、Zn−Al−Mg合金層中に少量存在してもよい(
図2参照)。Zn相は、耐食性、犠牲防食性の観点からはZn−Al−Mg合金層に含有されることが好ましいが、溶接時には、LME、ブローホール形成の要因となり好ましくない。また、Zn層は、容易に蒸発することから、溶接熱影響部での耐食性はほとんど期待できない。従って、Zn相の含有量も管理することがよい。Zn濃度が高い場合、Zn相が形成しやすいが、Zn−Al−Mg合金層中で、Zn相の面積分率が10%以上となるとLME、ブローホール発生量が悪化しやすくなる。
【0115】
ただし、Zn相の面積分率が10%以上となる場合でも、後述する、Zn−Al−Mg合金層中において、Ca−Zn−Al金属間化合物相、およびCa−Zn−Al−Si金属間化合物相の存在状態を変えることで、LME、ブローホールの形成を抑制することが可能である。
【0116】
よって、Zn相の面積分率は、25%未満であってもよい。
ただし、溶接性の観点より、Zn相量が少ない方が好ましい傾向は変化しない。
このため、Zn相の面積分率は、好ましくは10%未満とし、より好ましくは5%以下とし、さらに好ましくは3%以下とする。ただし、Zn相の面積分率は、0%が理想であるが、製造上の点から、2%以上とすることがよい。
なお、めっき層の最終凝固部(420〜380℃)がZn相となることが多いが、Zn相を減らすための成分調整、添加元素、さらには凝固方法を適用することにより、Zn相単相を出来る限り析出させないようにすることができる。
【0117】
次に、金属間化合物相について説明する。
めっき層中にCaが含有されると、Zn−Al−Mg合金層にCa−Zn−Al金属間化合物相が形成することがある。これは本来Caが、AlおよびZnと金属間化合物相(CaZn
2相、CaZn
5相、CaZn
11相、Al
4Ca相等)を形成しやすいためである。Ca濃度が高い場合は、Caが非常に偏析しやすい元素であるため、結合する金属間化合物相は、このうちの一種に定まらない。Ca−Zn−Al金属間化合物相は溶接時、溶接部裏面でCaO酸化物を形成し、Al−Fe合金層上で密着性の高い酸化物層を形成する。酸化物層の形成により、溶接部裏面の耐食性が向上する。
【0118】
ここで、Ca−Zn−Al金属間化合物相の相量及び大きさは、溶接性および溶接熱影響部の耐食性に依存する。Ca−Zn−Al金属間化合物相は、結晶粒径が大きい場合に、溶接部裏面にCaO酸化物として、溶接部裏面に密着性の高い酸化物層を形成しやすい。つまり、溶接部裏面の耐食性向上効果が高まる。それに加え、Ca−Zn−Al金属間化合物相は、結晶粒径が大きい場合、Ca−Zn−Al金属間化合物相と結合するZnの割合が多くなる傾向にあり、Zn相の蒸発を抑え、LMEおよびブローホール形成の改善効果が高まる。
なお、もともと、Zn相の含有率の低いめっき層に、Ca−Zn−Al金属間化合物相を粗大化するような処理をした場合は、LMEおよびブローホール形成の改善効果は確認しづらい傾向にある。
【0119】
Ca−Zn−Al金属間化合物相は、Zn−Al−Mg合金層中では通常様々な形状(立方体、針状、棒状、不定形等)を有することがある。Ca−Zn−Al金属間化合物相の形成が「角形、針、棒」の場合、最も長い線(対角線等)の長さを、Ca−Zn−Al金属間化合物相の結晶粒径とする。Ca−Zn−Al金属間化合物相の形成が「角形、針、棒以外の不定形」の場合、面積の相当円直径を、Ca−Zn−Al金属間化合物相の結晶粒径とする。Ca−Zn−Al金属間化合物相の平均結晶粒径が1μm以上となると、性能が変化する。確認される全てのCa−Zn−Al金属間化合物相が結晶粒径1μm以上である必要はないが、結晶粒径1μm以上のCa−Zn−Al金属間化合物相が確認できない場合、溶接部裏面の耐食性向上効果が低減する傾向がある。また、LMEおよびブローホールの形成の抑制効果が低減する傾向がある。
つまり、平均結晶粒径1μm以上のCa−Zn−Al金属間化合物相がZn−Al−Mg合金層に存在すると、溶接部裏面の耐食性向上効果、並びに、LMEおよびブローホールの形成の抑制効果が高まる。なお、Ca−Zn−Al金属間化合物相の平均結晶粒径の上限値は、特に制限はないが、例えば、100μm以下である。
【0120】
Ca−Zn−Al金属間化合物相は融点の非常に高い金属間化合物相で、めっき層凝固直後、直ちに形成され、Zn−Al−Mg合金層中に無数に存在する。また、めっき層凝固中に、Zn−Al−Mg合金層中に液相が存在する場合、近傍のCa−Zn−Al金属間化合物相と結合して、微細に析出したCa−Zn−Al金属間化合物相の数を減らしながら、Ca−Zn−Al金属間化合物相が成長する。めっき層の凝固過程において、通常のめっき製法を用いた場合、又は急冷を用いた場合は、結晶粒径(1μm未満)が細かい、Ca−Zn−Al金属間化合物相が無数に存在する。一方、液相存在状態(融点〜350℃までの間)にある場合、徐冷すると、その数を減らし、粒径が粗大になっていき、Zn−Al−Mg合金層中で結晶粒径1μm以上のCa−Zn−Al金属間化合物相が析出するようになる。Ca−Zn−Al金属間化合物相の結晶粒径は、Ca濃度、Al濃度が高い場合に大きくなりやすいが、これらの濃度が低い場合も徐冷することで結晶粒径を大きくすることができる。
【0121】
また、めっき層中にSiが多量に含有されると、Zn−Al−Mg合金層にMg
2Si相を形成する場合がある。Ca濃度が高い場合は、Ca
2Si相、CaSi相、Ca−Zn−Al−Si金属間化合物相を含有する場合もある。これら化合物相がZn−Al−Mg合金層に存在すると、溶接熱影響部の耐食性向上効果が高まる。
特に、Ca−Zn−Al−Si金属間化合物相は、Ca−Zn−Al金属間化合物相と同様の効果(溶接部裏面の耐食性向上効果、並びにLMEおよびブローホール形成の改善効果)がある。それに加え、Ca−Zn−Al−Si金属間化合物相が存在すると、溶接後、Al−Fe合金層上に残存する酸化物層中にSiが含まれることになるため、溶接部裏面の耐食性向上効果が高まる。
特に、平均結晶粒径1μm以上(又は1〜100μm)のCa−Zn−Al−Si金属間化合物相がZn−Al−Mg合金層が存在すると、Ca−Zn−Al−Si金属間化合物相と同様に、溶接部裏面の耐食性向上効果、並びに、LMEおよびブローホールの形成の抑制効果が高まる。
【0122】
よって、Zn−Al−Mg合金層には、Mg
2Si相、Ca
2Si相、CaSi相、Ca−Zn−Al金属間化合物相、及びCa−Zn−Al−Si金属間化合物相よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属間化合物相を含むことが好ましい。
【0123】
また、めっき層中に、Bを含むと、Zn−Al−Mg合金層に、Al
2CaB
5相、および、前記Al
2CaB
5相の一部の原子位置がZn及びMgで置換された化合物相よりなる群から選択されるCa−Al−B金属間化合物相であって、Bが原子%で40%以上のCa−Al−B金属間化合物相を形成する場合がある。
Zn−Al−Mg合金層中に、このCa−Al−B金属間化合物相を含有すると、LMEが改善するため好ましい。
【0124】
また、めっき層中に、元素群Dから選ばれる元素を含有すると(具体的には、元素群Dから選ばれる元素を合計で0.05%〜20%含有すると)、Zn−Al−Mg合金層に、Mg
2Sn相、Mg
3Bi
2相及びMg
3In相からなる群より選択される少なくとも1種の金属間化合物相を形成する場合がある。
Zn−Al−Mg合金層中に、この金属間化合物相を含有すると、溶接部周囲の耐食性が向上する。
【0125】
なお、本開示のめっき鋼材において、めっき層のその他の特性として、めっき層の硬度がある。上述のとおり、Zn−Al−Mg合金層には硬質な金属間化合物であるMgZn
2相が多量に含まれており、その他、添加元素によって形成する金属間化合物も一般に硬質であることからめっき層硬度は、150Hv以上を示す。
【0126】
次に、本開示のめっき鋼材の製造方法の一例について説明する。
【0127】
本開示のめっき鋼材は、鋼材(めっき原板などのめっき原材)の表面(つまり、片面又は両面)に溶融めっき法によりめっき層を形成することで得られる。
【0128】
めっき浴は真空溶解炉等で作製した所定成分組成の純金属又は合金を使用し、目標組成になるよう所定量調合して大気中で溶解する。溶融めっき法を実施するためには、通常、融点以上の操業温度が必要である。
【0129】
めっき鋼材の作製では、例えば、ゼンジミア法による圧延後、無酸化環境、800℃にて水素で還元された鋼材をそのままめっき浴に浸漬する。めっき層のAl−Fe合金層の厚みにも影響を与えるが、浸漬時間は通常、0.5秒もあれば十分である。浸漬後は、N
2ガス吹き付けによる付着量調整を実施する。
【0130】
本開示のめっき鋼材の製造方法においては、組織制御を行うため、めっき浴温及び凝固過程の温度管理は必須である。温度管理をしない場合は、Zn相の析出を減少させることができない。
【0131】
めっき層の化学組成を本開示の組成とする場合、例えば、めっき浴温(めっき浴の融点+20℃)とし、めっき処理後(めっき浴から鋼材を引き上げ後)、420℃以上での保持時間を5秒以下でめっき鋼材を製造すると、Zn−Al−Mg合金層中に残存するZn相量が多くなり、Zn−Al−Mg合金層の最終凝固部がZn−Al−MgZn
2三元共晶組織となってAl相およびMgZn
2相の相量が小さくなる傾向にあり、溶接性が劣化しためっき層となる。
【0132】
また、1)トップロールでのめっき溶着する場合、2)めっき層の凝固途中でのスパングル不良を防ぐために、ミスト冷却を使用する急冷却する場合、又は3)めっき浴温(めっき浴の融点+20℃)、めっき処理後、めっき浴の融点から150℃までの冷却速度を30℃/秒以上で冷却する場合も、Zn−Al−Mg合金層中に、Al相のZn過飽和固溶体(通常のα相とβ相の成分濃度と異なるAl相)が形成し、MgZn
2相が少なくなり、異常にZn相量が増加して、加工性が劣化するめっき層となる。
【0133】
本開示の化学成分を有するめっき層の凝固過程を詳しく解析すると、次の通りである。
まず、めっき浴に浸漬した時、直ちにAl−Fe合金層が形成した後、冷却過程で凝固点を下回ると最初に、融点の高い金属間化合物(Mg
2Si相、Ca
2Si相、CaSi相、Ca−Zn−Al金属間化合物相、Ca−Al−B金属間化合物相等)が直ちに析出する。これらの相量は合計でも5%に満たない相量であるため、めっき浴の融点直下では、Zn−Al−Mg合金層の大半は液相状態にある。
液相からは、MgZn
2相、Al相、Zn相が析出するが、ここで上記のような一般的なめっき凝固プロセスをとると、冷却速度が大きいため、状態図に依存せず、液相が低温度まで維持されて、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織が形成するか、Zn相が多く析出することになる。急冷時には、Al相のZn過飽和固溶体(通常のα相とβ相の成分濃度と異なるAl相)が多くを占める。結果として、好ましくない組織が増える。
【0134】
一方、最も適切な冷却条件は、Zn融点420℃以上の高温で保持時間を与えることで、MgZn
2相およびAl相を十分に成長させることができる。その結果、めっき層中でMgZn
2相およびAl相の占める面積分率を極大化できる。
この温度範囲では、Al−MgZn
2相の共晶反応(Al相の方がやや早く晶出するため包晶反応ともいえる)によって凝固する。また、Al−MgZn
2相量が極大化すれば、同時にZn相量を極小値化できる。
よって、本開示のめっき層(つまりZn−Al−Mg合金層)の組織を実現するには、めっき浴温(めっき浴の融点+20℃)とし、めっき処理後(めっき浴から鋼材を引き上げ後)、420℃以上での保持時間を5秒超えとする。つまり、420℃以上での保持時間を5秒超えとすることで、MgZn
2相およびAl相の析出時間を十分確保でき、Zn相、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織、又はAl相のZn過飽和固溶体(通常のα相とβ相の成分濃度と異なるAl相)の析出が低減される。
具体的には、めっき浴温(めっき浴の融点+20℃)とし、めっき処理後(めっき浴から鋼材を引き上げ後)、めっき浴の融点から420℃までの冷却速度を5℃/秒以下とし、420℃以上での保持時間を5秒超えとする。ただし、めっき浴の融点が500℃以上の場合、めっき浴の融点から420℃までの冷却速度は10℃/秒以下であっても、MgZn
2相およびAl相の析出時間が十分であり問題がない。
420℃以上での保持時間が5秒未満では、Zn相、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織、又はAl相のZn過飽和固溶体の形成が増加する。
【0135】
また、Ca−Zn−Al金属間化合物、及びCa−Zn−Al−Si金属間化合物を成長させるためには、凝固時、Zn−Al−Mg合金層中で液相が消滅する温度(約350℃)まで十分な除冷をすることで、これらの金属間化合物の結晶粒径を大きくすることができる。特に、Al濃度が15%超〜20%の範囲においては、Al濃度が低いため、これらの金属間化合物の成長に時間を要するため、めっき浴の融点から350℃までの冷却速度を5℃/秒未満とする。
【0136】
また、本来、Mgを多量に含むめっき層の化学組成は、上述のように、硬質なめっき層となり、加工性およびめっき密着性が不利となる組成である。MgZn
2相、Al相の大半は凝固完了しているが、420℃以降の温度では、上述した275℃にAl相からZn相の共晶反応が生じる。そして、この共晶反応は、250℃までに完了する。めっき層の加工性を得る目的で、420℃以降も長時間保持すれば、Al相のZn過飽和固溶体(通常のα相とβ相の成分濃度と異なるAl相)は消滅し、加工性にも好ましい条件となる。しかし、共晶反応で析出したZn相量が互いに成長し、Zn相量が増え、溶接性がやや悪くなることが考えられる。一方、急冷は、Al相のZn過飽和固溶体(通常のα相とβ相の成分濃度と異なるAl相)をそのまま保持してしまうことから加工性の観点から好ましくない。
【0137】
よって、これらの特性を考慮すると、この温度範囲(420℃から250℃までの温度範囲)の平均冷却速度は、通常のめっきプロセスと同じ10〜20℃/秒の範囲とすることが好ましい。この冷却速度で冷却すれば、Al相のZn過飽和固溶体(通常のα相とβ相の成分濃度と異なるAl相)はほとんどなく、またZn相を必要以上に成長させずに、Zn−Al−Mg合金層を形成可能である。
平均冷却速度が10℃/秒未満は、ややZn相量が増加する傾向にあり溶接性に好ましくない。一方、平均冷却速度が20℃/秒以上はAl相のZn過飽和固溶体が形成する傾向がある。
なお、420℃から250℃までの温度範囲)の平均冷却速度を上記範囲とする温度処理は、特に、Al濃度が低く、Zn濃度が高い場合に有効な手段である。
【0138】
なお、本開示のめっき鋼材の製造方法において、特に、Al濃度が15%超〜20%の範囲のめっき層を形成する場合、Al濃度が低いため、Al相の析出に時間を要する。よって、MgZn
2相およびAl相の合計の面積分率を確保するには、420℃以上での保持時間を5秒超えとすることに加え、めっき浴の融点から350℃(又は250℃)までの冷却速度を5℃/秒未満とする。
【0139】
次に、めっき層の特性に関する各種測定方法について説明する。
【0140】
めっき層の化学成分は、次の方法により測定する。
まず、地鉄(鋼材)の腐食を抑制するインヒビターを含有した酸でめっき層を剥離溶解した酸液を得る。次に、得られた酸液をICP分析で測定することで、めっき層の化学組成(めっき層がZn−Al−Mg合金層の単層構造の場合、Zn−Al−Mg合金層の化学組成、めっき層がAl−Fe合金層及びZn−Al−Mg合金層の積層構造の場合、Al−Fe合金層及びZn−Al−Mg合金層の合計の化学組成)を得ることができる。酸種は、めっき層を溶解できる酸であれば、特に制限はない。なお、化学組成は、平均化学組成として測定される。
【0141】
また、Al−Fe合金層およびZn−Al−Mg合金層の個別の化学組成を得たい場合は、GDS(高周波グロー放電分光分析)で各元素の定量分析の検量線を得る。その後、対象とするめっき層の深さ方向の化学成分を測定するとよい。例えば、作製しためっき鋼板のサンプルから30mm角を数枚採取し、GDS用サンプルとする。めっき層の表層よりアルゴンイオンスパッタを実施し、深さ方向の元素強度プロットを得る。さらに各元素純金属板等の標準試料を作製し、あらかじめ元素強度プロットを得れば、強度プロットから濃度換算することが可能である。化学組成の分析にGDSを用いる場合は、分析面積をφ4mm以上として、10回以上測定し、各々の場所における成分の平均値を採用することが好ましい。
【0142】
なお、スパッタ速度は約0.04〜0.1μm/秒の範囲が好ましい。各々のGDS分析点において、Zn−Al−Mg合金層部分の成分分析値を採用する場合は、最表層の酸化層の影響を除去するために、表層1μmの深さの成分プロットを無視し、深さ1〜10μm(5μm幅)の各元素濃度の成分平均値を採用することが好ましい。
【0143】
また、Al−Fe合金層の化学組成を測定する場合は、Fe元素強度が全体の元素分析の95%以上となる場所を、地鉄(鋼材)とめっき層(つまりAl−Fe合金層)との界面位置と設定し、界面位置からめっき層表面側をAl−Fe合金層とする。別途、SEM観察等で得られたAl−Fe合金層の厚みと照合しながら、Al−Fe合金層の厚み幅に対応する幅の各元素濃度の成分平均値を採用する。
【0144】
また、EPMAを使用して定量分析値から、Al−Fe合金層およびZn−Al−Mg合金層の個別の化学組成を容易に得ることもできる。
【0145】
Zn−Al−Mg合金層中の各相(ただし、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織は除く各相)を確認する方法は、次の通りである。
Zn−Al−Mg合金層の表面からのX線回折によって、Zn−Al−Mg合金層の各相を同定すればよい。X線回折の強度は、線源には、Cu、Co等用いることが可能だが、最終的にはCu線源に合わせた回折角度に計算、変更する必要がある。測定範囲は、5°〜90°、ステップは、0.01°程度が好ましい。特定の回折角度での強度(cps)を得るためには、前後±0.05°の平均値を得る。添加成分が微量な場合は、添加元素に関わる金属間化合物が検出できない場合があるため、Zn−Al−Mg合金層からTEMサンプルを作製し、微小金属間化合物を探して、電子回折像から同定を行うと良い。
【0146】
Zn−Al−Mg合金層の組織観察をするためには、Zn−Al−Mg合金層断面を研磨してナイタールエッチングの後組織を観察して、Al−Fe合金層、及びZn−Al−Mg合金層の厚みを測定することができる。CP加工を用いれば、めっき層組織をより精細に観察することが可能である。Zn−Al−Mg合金層観察にはFE−SEMを用いることが好ましい。
【0147】
Zn−Al−Mg合金層中の各相(ただし、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織は除く各相)の面積分率は、次の方法により測定する。
【0148】
Zn−Al−Mg合金層中の各相の面積分率を測定するためには、EDS(エネルギー分散型X線分析装置)を搭載したFE−SEM、TEMを使用する。なお、各相の同定に、EPMA装置を使用してもよい。
【0149】
測定対象となるZn−Al−Mg合金層の任意の断面(厚み方向に切断した断面)にCP(クロスセッションポリッシャ)加工を施す。CP加工後、Zn−Al−Mg合金層の断面のSEMの反射電子像を得る。SEMの反射電子像は、約100μm以上(厚み方向:Zn−Al−Mg合金層が収まる視野選択)×2000μm(鋼材の表面と平行方向)の四方の任意の領域から、面積測定用の3か所以上を倍率1000倍で観察した像(約Zn−Al−Mg合金層厚みμm×約150μm)とする。
【0150】
次に、同じ測定対象となるZn−Al−Mg合金層の任意の断面(Zn−Al−Mg合金層厚み方向に切断した断面)にFIB(集束イオンビーム)加工を施す。FIB加工後、Zn−Al−Mg合金層の断面組織のTEM(透過型電子顕微鏡)の電子回折像を得る。そして、Zn−Al−Mg合金層に含まれる金属又は金属間化合物を同定する。
【0151】
次に、SEMの反射電子像とTEMの電子回折像の同定結果とを比較し、SEMの反射電子像において、Zn−Al−Mg合金層に有する各相を同定する。なお、Zn−Al−Mg合金層に有する各相の同定において、EDS点分析し、EDS点分析の結果とTEMの電子回折像の同定結果とを照合するとよい。
【0152】
次に、SEMの反射電子像において、Zn−Al−Mg合金層に有する各相が示すグレースケールの明度、色相及びコントラスト値の3値を判定する。各相が示す明度、色相及びコントラスト値の3値は、各相に含有する元素の原子番号を反映することから、通常、原子番号が小さいAl量、Mg量の含有量が多い相程、黒色を呈し、Zn量が多い相程、白色を呈する傾向がある。
【0153】
上記EDSの照合結果から、SEMの反射電子像と整合するように、Zn−Al−Mg合金層中に含まれる各相が示す上記3値の範囲のみ、色変わりするようなコンピューター画像処理を実施する(たとえば、特定の相のみ、白色画像で表示するようにして、視野における各相の面積(ピクセル数)等を算出する)。この画像処理を各相に実施することにより、SEMの反射電子像中に占めるZn−Al−Mg合金層中の各相の面積分率を求める。
【0154】
そして、Zn−Al−Mg合金層の各相の面積分率は、Zn−Al−Mg合金層の任意の断面(Zn−Al−Mg合金層厚み方向に切断した断面)の少なくとも3視野以上において、上記操作により求めた各相の面積分率の平均値とする。
なお、倍率1000倍のSEMの反射電子像では、Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織中に存在する「MgZn
2相、Al相およびZn相」は境界・面積分率識別できない。つまり、ここで、求める「MgZn
2相、Al相およびZn相の各面積分率」は、後述するZn−Al−MgZn
2三元共晶組織中に存在する「MgZn
2相、Al相およびZn相」を除く各面積分率である。
ただし、10000倍を程度の拡大像では、三元共晶組織であっても個別の面積分率を求めることができるため、下記、画像処理の条件に従って、三元共晶中の各相の割合を算出することが可能である。
【0155】
ここで、
図2及び
図4に示すように、Zn−Al−Mg合金層断面のSEM画像はいずれも反射電子像で撮影されたものだが、通常、Zn−Al−Mg合金層を構成する相(Al相、MgZn
2相、Zn相等)は、原子番号差が明確であるため、容易に区別できる。
【0156】
その他の金属間化合物相(Ca−Zn−Al金属間化合物等)は、MgZn
2相と近いコントラストを示すことがあるが、形状が独特である。そのため、これらの金属間化合物相も比較的容易に識別することができる。
原子番号の小さいSiを含む金属間化合物相(Ca−Zn−Al−Si金属間化合物等)も、コントラストで暗く、比較的容易に識別することができる。
原子番号が小さいBを含む金属間化合物相(Ca−Al−B金属間化合物相等)も、Siを含む金属間化合物相と同様に、コントラストで暗く、比較的容易に識別することができる。判別が難しい場合は、TEMによる電子線回折を実施する。
【0157】
Ca−Zn−Al金属間化合物相およびCa−Zn−Al−Si金属間化合物相の各平均結晶粒径は、次の通り実施する。
上記各相の面積分率を測定するときのSEM観察において、確認された各化合物相のうち、上位5個の結晶粒径を持つ各化合物相を選択する。そして、この操作を5視野分行い、計25個の結晶粒径の算術平均を、Ca−Zn−Al金属間化合物相およびCa−Zn−Al−Si金属間化合物相の各平均結晶粒径とする。
【0158】
Zn−Al−Mg合金層中のZn−Al−MgZn
2三元共晶組織の同定および面積分率は、次の方法により測定する。
【0159】
まず、Zn−Al−Mg合金層中の各相の面積分率の測定と同じ手法により、SEMの反射電子像で、Al相、Zn相およびMgZn
2相の三相が共晶した組織を特定する。その組織の一部を、倍率30000倍、大きさ3μm×4μm(対角線は、5μm)の長方形視野で観察する(
図7参照)。このとき、長方形視野において、2本の対角線を引いたとき、1本の対角線につきZn相を5回以上、およびZn相周囲に広がるMgZn
2相又はAl相を5回以上、対角線が横切った場合、三元共晶組織であると判定する。この判定は、三元共晶組織特有の「三相それぞれが微細に分散している組織」であること基準としている。
【0160】
なお、三元共晶組織が偏在する可能性、又は三元共晶組織が形成しにくい組成で、三元共晶組織が、3μm×4μmの領域がとれない場合、1μm角の格子状に組織を区切り、格子内にそれぞれ各相が1個以上含有される場合は、三元共晶組織と判定する。
【0161】
次に、Zn−Al−Mg合金層中の各相の面積分率の測定と同じSEMの反射電子像(倍率1000倍、大きさ:約Zn−Al−Mg合金層厚みμm×約150μmの観察した像)に対して、上記操作を繰り返して、三元共晶組織の連続性を確認しつつ、三元共晶組織の輪郭(領域)を把握する。そして、把握したSEMの反射電子像中に占めるZn−Al−Mg合金層中の三元共晶組織の面積分率を求める。
そして、三元共晶組織の面積分率は、Zn−Al−Mg合金層の任意の断面(Zn−Al−Mg合金層厚み方向に切断した断面)の少なくとも3視野以上において、上記操作により求めた各相の面積分率の平均値とする。
【0162】
めっき層硬度は、めっき層表面から荷重10gfの圧痕でビッカース硬さを測定すれば良い。30点程度の平均値からビッカース硬度を得ることが好ましい。
【0163】
めっき層の加工性を評価するためにはプレスによるV曲げ試験後のパウダリング量評価が好ましい。V曲げ部谷部には、圧縮応力が働くため、塑性変形能に乏しいめっき鋼板は、パウダリングが起きる。より厳しい加工性評価を行う場合は、V曲げ試験片を再度平板に戻した上でテープ剥離を行う、曲げ戻し試験によって評価することが好ましい。
【0164】
以下、本開示のめっき鋼板に適用できる後処理について説明する。
【0165】
本開示のめっき鋼板には、めっき層上に皮膜を形成してもよい。皮膜は、1層または2層以上を形成することができる。めっき層直上の皮膜の種類としては、例えば、クロメート皮膜、りん酸塩皮膜、クロメートフリー皮膜が挙げられる。これら皮膜を形成する、クロメート処理、りん酸塩処理、クロメートフリー処理は既知の方法で行うことができる。
【0166】
クロメート処理には、電解によってクロメート皮膜を形成する電解クロメート処理、素材との反応を利用して皮膜を形成させ、その後余分な処理液を洗い流す反応型クロメート処理、処理液を被塗物に塗布し水洗することなく乾燥して皮膜を形成させる塗布型クロメート処理がある。いずれの処理を採用してもよい。
【0167】
電解クロメート処理としては、クロム酸、シリカゾル、樹脂(りん酸、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、酢酸ビニルアクリルエマルション、カルボキシル化スチレンブタジエンラテックス、ジイソプロパノールアミン変性エポキシ樹脂等)、および硬質シリカを使用する電解クロメート処理を例示することができる。
【0168】
りん酸塩処理としては、例えば、りん酸亜鉛処理、りん酸亜鉛カルシウム処理、りん酸マンガン処理を例示することができる。
【0169】
クロメートフリー処理は、特に、環境に負荷なく好適である。クロメートフリー処理には、電解によってクロメートフリー皮膜を形成する電解型クロメートフリー処理、素材との反応を利用して皮膜を形成させ、その後、余分な処理液を洗い流す反応型クロメートフリー処理、処理液を被塗物に塗布し水洗することなく乾燥して皮膜を形成させる塗布型クロメートフリー処理がある。いずれの処理を採用してもよい。
【0170】
さらに、めっき層直上の皮膜の上に、有機樹脂皮膜を1層もしくは2層以上有してもよい。有機樹脂としては、特定の種類に限定されず、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、又はこれらの樹脂の変性体等を挙げられる。ここで変性体とは、これらの樹脂の構造中に含まれる反応性官能基に、その官能基と反応し得る官能基を構造中に含む他の化合物(モノマーや架橋剤など)を反応させた樹脂のことを指す。
【0171】
このような有機樹脂としては、1種又は2種以上の有機樹脂(変性していないもの)を混合して用いてもよいし、少なくとも1種の有機樹脂の存在下で、少なくとも1種のその他の有機樹脂を変性することによって得られる有機樹脂を1種又は2種以上混合して用いてもよい。また有機樹脂皮膜中には任意の着色顔料や防錆顔料を含んでもよい。水に溶解又は分散することで水系化したものも使用することができる。
【実施例】
【0172】
本開示の実施例について説明するが、実施例での条件は、本開示の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本開示は、この一条件例に限定されるものではない。本開示は、本開示の要旨を逸脱せず、本開示の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0173】
(実施例A)
表1−1〜1−3に示す化学組成のめっき層が得られるように、所定量の純金属インゴットを使用して、大気中、真空溶解炉でめっき浴を建浴した。めっき鋼板の作製には、バッチ式溶融めっき装置を使用した。
【0174】
比較材としてNo.102、103は、市販Zn−Al−Mg系めっき鋼板、溶融Znめっき鋼板を用意した。いずれもめっき層の厚みは、20μmである。
【0175】
めっき原板としては、3.2mmの一般材熱延炭素鋼100×200mm(C=0.15%,Si=0.005%,Mn=0.55%,P=0.015%,S=0.005%)を使用し、めっき工程直前に、脱脂、酸洗を実施した。
【0176】
いずれのサンプル作製においても、めっき原板について、めっき浴浸漬後引き上げまでの工程は同等の還元処理方法を実施した。すなわち、めっき鋼板をN
2−H
2(5%)(露点−40°以下、酸素濃度25ppm未満)環境下、室温から800℃までを通電加熱で昇温し、60秒保持した後、N
2ガス吹き付けにて、めっき浴温+10℃まで冷却し、直ちにめっき浴に浸漬した。
なお、いずれのめっき原板も、めっき浴への浸漬時間は0.2秒とした。N
2ガスワイピング圧力を調整し、めっき厚みが20μm(±1μm)となるようにめっき鋼板を作製した。めっき浴浸漬から、ワイピング完了までは、バッチ式めっき装置を高速運転し、1秒以内に完了し、ただちにN
2ガスを吹き付け、めっき融点まで温度を降下させた。
【0177】
めっき工程は、下記の6通りを実施した。
【0178】
製法A:めっき浴温はめっき浴の融点+20℃とした。めっき原板をめっき浴から引き上げ後、めっき融点直上でワイピングを完了した。めっき浴の融点から250℃までの平均冷却速度を15(±5)℃/秒とし、250℃から150℃までの平均冷却速度を7.5(±2.5)℃/秒とする冷却プロセスでめっき層を得た。ただし、めっき浴の融点から、420℃までの冷却速度は5℃/秒超であり、420℃以上での保持時間は、5秒未満である。
【0179】
製法B:めっき浴温はめっき浴の融点+20℃とした。めっき原板をめっき浴から引き上げ後、めっき融点直上でワイピングを完了した。めっき浴の融点から150℃までの平均冷却速度を40(±10)℃/秒)とする冷却プロセス(ミスト冷却)でめっき層を得た。ただし、めっき浴の融点から、420℃までの冷却速度は5℃/秒超であり、420℃以上での保持時間は5秒未満である。
【0180】
製法C:めっき浴温はめっき浴の融点+20℃とした。めっき原板をめっき浴から引き上げ後、めっき浴の融点直上でワイピングを完了した。めっき浴の融点から420℃までの平均冷却速度4(±1)℃/秒(420℃以上での保持時間は5秒超)とし、420℃から250℃までの平均冷却速度15(±5)℃/秒とする冷却プロセスでめっき層を得た。
【0181】
製法D:めっき浴温はめっき浴の融点+20℃とした。めっき原板をめっき浴から引き上げ後、めっき浴の融点直上でワイピングを完了した。めっき浴の融点から420℃までの平均冷却速度を4(±1)℃/秒(420℃以上での保持時間は5秒超)とし、420℃から250℃までの平均冷却速度を30(±5)℃/秒とする冷却プロセスでめっき層を得た。
【0182】
製法E:めっき浴温はめっき浴の融点+20℃とした。めっき原板をめっき浴から引き上げ後、めっき浴の融点直上でワイピングを完了した。めっき浴の融点から420℃までの平均冷却速度を8(±2)℃/秒(420℃以上での保持時間は5秒超)とし、420℃から250℃までの平均冷却速度15(±5)℃/秒)として冷却プロセスでめっき層を得た。
【0183】
製法F:めっき浴温はめっき浴の融点+20℃とした。めっき原板をめっき浴から引き上げ後、めっき浴の融点直上でワイピングを完了した。めっき浴の融点から420℃までの平均冷却速度を8(±2)℃/秒(420℃以上での保持時間は5秒超)とし、420℃から250℃までの平均冷却速度30(±5)℃/秒とした冷却プロセルでめっき層を得た。
【0184】
−各相の面積分率の測定−
得られためっき鋼板から、めっき層の断面(めっき層の厚み方向に沿って切断した断面)を有する試料片を切り出した。そして、既述の方法にしたがって、Zn−Al−Mg合金層に存在する下記相の面積分率を測定した。
・MgZn
2相の面積分率
・Al相の面積分率
・Zn相の面積分率
・Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織(表中「三元共晶組織」と表記)の面積分率
・Ca−Al−B金属間化合物相(表中「B化合物」と表記)の面積分率:Al
2CaB
5相、および、Al
2CaB
5相の一部の原子位置がZn及びMgで置換された化合物相の合計の面積分率
・MgとSn、Bi又はInとの金属間化合物相(表中「Sn化合物相」と表記):Mg
2Sn相、Mg
3Bi
2相及びMg
3In相の合計の面積分率
・その他の金属間化合物の面積分率:Mg
2Si相、Ca
2Si相、CaSi相、Ca−Zn−Al金属間化合物相(表中「CZA」と表記)、及びCa−Zn−Al−Si金属間化合物相(表中「CZAS」と表記)の合計の面積分率(ただし、各相の面積分率は示さず、存在が確認された相を「Ex」と表記した。)
【0185】
−めっき層のアーク溶接性−
得られためっき鋼板を用いて、めっき層のアーク溶接性の評価を次の通り実施した。
100mm角のサンプルを2枚用意し、CO
2/MAG溶接機で重ねすみ肉溶接サンプルを作製した。めっき鋼板一端10mmを重ね幅、互いのめっき鋼板の重ね隙間は0mm、下板脚長6mm程度でアーク溶接を実施した。溶接速度、0.3m/min、溶接ワイヤーはソリッドワイヤーYGW14、φ12、CO
2シールドガス流量、15l/min、溶接電流は150〜250(A)、アーク電圧は20〜24V、2passとした。溶接ビードかを上側からX線透過試験を実施してブローホールの占有率Bs(%)を求めた。
【0186】
Zn−Al−Mg系めっき鋼板、Znめっき鋼板のブローホール占有率Bsは約40%であり、ブローホール占有率Bsが40%以上を「B」評価、ブローホール占有率Bsが20〜40%を「A」評価、ブローホール占有率Bsが20%未満を「S」評価とした。
【0187】
−LMEの評価−
得られためっき鋼板を用いて、LMEの評価を次の通り実施した。
めっき鋼板70mm×150mm中央に、ステンレス鋼溶接ワイヤφ1.2mm(JIS Z3323 YF309LC)で上記溶接条件(ただし、1pass)に従い、75mm長、3〜5mm幅のビードオンプレート溶接したビードオンプレート試験片を得た。その後、試験片に対して浸透探傷試験により割れの有無を確認した。
【0188】
Zn−Al−Mg系めっき鋼板、Znめっき鋼板では目視で確認できる3mm以上のLME(つまり亀裂)が複数個確認された。
そこで、目視で確認できる5mm以上のLMEが確認された場合は「B」評価とした。
溶接部(溶接金属)にLMEはなく、溶接金属、溶接熱影響部(HAZ部)境界に周長5%未満の長さでマーカー跡が確認されたが、亀裂断面をEPMA観察した結果、亀裂周囲にZnは確認されなかった場合は「A」評価とした。
溶接部周囲(溶接金属の周囲)に亀裂がなく、マーカー跡がなかったものは「S」評価とした。
【0189】
−溶接部裏面の耐食性−
得られためっき鋼板を用いて、溶接部裏面の耐食性を次の通り実施した。
LMEの評価と同様にビードオンプレート試験片を得た。この試験片の裏面を腐食促進試験(JASO M 609−91)にて、90〜180サイクルでビード裏面部の赤錆を評価した。Zn−Al−Mg系めっき鋼板では、90サイクルで、ビード裏面上に点錆が発生した。Znめっき鋼板では全面赤錆となった。
【0190】
90サイクルでビード裏面部に点状の赤錆が確認されたものを「B」評価とした。
120サイクルでビード裏面部に点状の赤錆が確認されたものを「A」評価とした。
150サイクルでビード裏面部に点状の赤錆が確認されたものを「AA」評価とした。
180サイクルでビード裏面部に点状の赤錆が確認されたものを「AAA」評価とした。
180サイクルでビード裏面部に赤錆発生がなかったものは「S」評価とした。
【0191】
−溶接部周囲の耐食性−
得られためっき鋼板を用いて、溶接部周囲の耐食性を次の通り実施した。
LMEの評価と同様にビードオンプレート試験片を得た。この試験片の表面を塩水噴霧試験(JIS Z 2371)に1000〜1300時間供して、耐食性を確認した。
Zn−Al−Mg系めっき鋼板では、1000時間経過時点で、溶接部周囲から赤錆垂れが確認された。Znめっき鋼板では全面赤錆となった。
【0192】
1000時間経過時点で溶接部周囲に点状の赤錆が確認されたものを「B」評価とした。
1100時間経過時点で溶接部周囲に点状の赤錆が確認されたものを「A」評価とした。
1200時間経過時点で溶接部周囲に点状の赤錆が確認されたものを「AA」評価とした。
1300時間経過時点で溶接部周囲に点状の赤錆が確認されたものを「AAA」評価とした。
1300時間経過時点で溶接部周囲に赤錆が確認されなかったものを「S」評価とした。
【0193】
−めっき層の加工性−
得られためっき鋼板を用いて、めっき層の加工性の評価を次の通り実施した。
めっき鋼板に対して10R−90°V曲げプレス試験を実施し、V曲げ谷部に巾24mmのセロハンテープを押し当てて引き離し、目視でパウダリングを判断した。
【0194】
テープにパウダリング剥離粉が付着したものは「B」評価、
パウダリング剥離しなかったものは「A」評価とした
【0195】
実施例Aについて、表1−1〜表1−6に一覧にして示す。
【0196】
【表1-1】
【0197】
【表1-2】
【0198】
【表1-3】
【0199】
【表1-4】
【0200】
【表1-5】
【0201】
【表1-6】
【0202】
(実施例B)
表2−1に示す化学組成のめっき層が得られるように、所定量の純金属インゴットを使用して、大気中、真空溶解炉でめっき浴を建浴した。めっき鋼板の作製には、バッチ式溶融めっき装置を使用した。
【0203】
めっき原板としては、3.2mmの一般材熱延炭素鋼100×200mm(C=0.15%,Si=0.005%,Mn=0.55%,P=0.015,S=0.005%)を使用し、めっき工程直前に、脱脂、酸洗を実施した。
【0204】
いずれのサンプル作製においても、めっき原板について、めっき浴浸漬後引き上げまでの工程は同等の還元処理方法を実施した。すなわち、めっき鋼板をN
2−H
2(5%)(露点−40°以下、酸素濃度25ppm未満)環境下、室温から800℃までを通電加熱で昇温し、60秒保持した後、N
2ガス吹き付けにて、めっき浴温+10℃まで冷却し、直ちにめっき浴に浸漬した。
なお、いずれのめっき原板も、めっき浴への浸漬時間は0.2秒とした。N
2ガスワイピング圧力を調整し、めっき厚みが20μm(±1μm)となるようにめっき鋼板を作製した。めっき浴浸漬から、ワイピング完了までは、バッチ式めっき装置を高速運転し、1秒以内に完了し、ただちにN
2ガスを吹き付け、めっき浴の融点まで温度を降下させた。
【0205】
めっき工程は、下記の2通りを実施した。
【0206】
製法C(実施例A同様):
めっき浴温はめっき浴の融点+20℃とした。めっき原板をめっき浴から引き上げ後、めっき浴の融点直上でワイピングを完了した。めっき浴の融点から420℃までの平均冷却速度を4(±1)℃/秒(420℃以上での保持時間は5秒超)とし、420℃から250℃までの平均冷却速度を15(±5)℃/秒とする冷却プロセスでめっき層を得た。
【0207】
製法G:めっき浴温はめっき浴の融点+20℃とした。めっき原板をめっき浴から引き上げ後、めっき浴の融点直上でワイピングを完了した。めっき浴の融点から350℃までの平均冷却速度4(±1)℃/秒(420℃以上での保持時間は7秒超)とし、350℃から250℃までの平均冷却速度を15(±5)℃/秒とした冷却プロセスでめっき層を得た。
【0208】
製法H:めっき浴温はめっき浴の融点+20℃とした。めっき原板をめっき浴から引き上げ後、めっき浴の融点直上でワイピングを完了した。めっき浴の融点から250℃までの平均冷却速度4(±2)℃/秒(420℃以上での保持時間は10秒超)とする冷却プロセスでめっき層を得た。
【0209】
得られためっき鋼板を用いて、実施例Aと同様にして、各相の面積分率、各種性能評価を実施した。
【0210】
ただし、Ca−Zn−Al金属間化合物相およびCa−Zn−Al金属間化合物相の存在が確認されたときは、各化合物相の平均結晶粒径を既述の方法に従って測定した。そして、表中に平均結晶粒径を示す。なお、平均結晶粒径の単位は「μm」である。
【0211】
また、得られためっき鋼板を用いて、塗装後耐食性を次の通り実施した。
実施例Aで実施したLMEの評価と同様にビードオンプレート試験片を作製した。この試験片に対して、日本パーカライジング株式会社製の表面調整処理剤(商品名:プレパレンX)を用いて、表面調整を室温で20秒間行った。
次に、日本パーカライジング株式会社製のりん酸亜鉛処理液(商品名:パルボンド3020)を用いて、りん酸塩処理を行った。具体的には、処理液の温度を43℃とし、熱間プレス鋼材を処理液に120秒間浸漬した。これにより、鋼材表面にりん酸塩被膜が形成された。
次に、リン酸塩処理を実施した後、りん酸処理後のビードオンプレート試験片に対して、日本ペイント株式会社製のカチオン型電着塗料を、電圧160Vのスロープ通電で電着塗装し、更に、焼き付け温度170℃で20分間焼き付け塗装した。電着塗装後の塗料の膜厚の平均は、いずれの試料についても15μmとした。
次に、おの試験片をJASO試験(M609−91)に供して、塗装後のビード部周囲の赤錆発生状況を確認した。
【0212】
90サイクル以内でビード部もしくは熱影響部に点状の赤錆が確認されたものを「B」評価とした。
120サイクル以内でビード部もしくは熱影響部に点状の赤錆が確認されたものを「A」評価とした。
150サイクル以内でビード部もしくは熱影響部に点状の赤錆が確認されたものを「AA」評価とした。
180サイクル以内でビード部もしくは熱影響部に点状の赤錆が確認されたものを「AAA」評価とした。
【0213】
実施例Bについて、表2−1〜表2−2に一覧にして示す。
【0214】
【表2-1】
【0215】
【表2-2】
【0216】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0217】
なお、
図1〜
図5中、各符号が示す対象は次の通りである。
1 :Al相(微細Zn相を含む。)
2 :MgZn
2相(塊状)
3 :Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織
4 :MgZn
2相(塊状)
5 :Al相(α相)
6 :Al相(β相)
7 :Zn相
8 :Ca−Al−B金属間化合物相B化合物(Al
2CaB
5相:原子比率はEDS定量分析による推定)
9 :Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織のZn相
10:Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織のMgZn
2相
11:Zn−Al−MgZn
2三元共晶組織のAl相
20:α相(通常のα相)
21:β相(通常のβ相)
100 :めっき層
100A:めっき層
101 :Zn−Al−Mg合金層
101A:Zn−Al−Mg合金層
102 :Al−Fe合金層
102A:Al−Fe合金層
【0218】
本開示では、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
鋼材と、前記鋼材の表面に配されたZn−Al−Mg合金層を含むめっき層とを備えた溶融めっき鋼板であって、
前記Zn−Al−Mg合金層の任意の断面組織において、相当円直径で結晶粒径1μm以上のMgZn
2相とAl相の合計の面積率が70%以上であり、Zn相の面積率が10%未満であり、
前記Zn−Al−Mg合金層が、Mg
2Si相、Ca
2Si相、CaSi相、Ca−Zn−Al相、及びCa−Zn−Al−Si相からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属間化合物相を含有し、
前記めっき層が、質量%で、
Zn:44.9%超〜74.9%未満、
Al:20%超〜35%未満、
Mg:5%超〜20%未満、
Ca:0.1%〜3.0%未満、
Si:0%〜1%、
B:0%〜0.5%、
Y:0%〜0.5%、
La:0%〜0.5%、
Ce:0%〜0.5%、
Cr:0%〜0.25%、
Ti:0%〜0.25%、
Ni:0%〜0.25%、
Co:0%〜0.25%、
V:0%〜0.25%、
Nb:0%〜0.25%、
Cu:0%〜0.25%、
Mn:0%〜0.25%、
Sr:0%〜0.5%、
Sb:0%〜0.5%、
Pb:0%〜0.5%、
Sn:0%〜20%、
Bi:0%〜2%、
In:0%〜2%、
Fe:0%〜5%、及び
不純物からなり、元素群AをY、La及びCe、元素群BをCr、Ti、Ni、Co、V、Nb、Cu及びMn、元素群CをSr、Sb及びPb、並びに元素群DをSn、Bi及びInとした場合、元素群Aから選ばれる元素の合計の含有量が0.5%以下、Caと元素群Aから選ばれる元素との合計の含有量が3.0%未満、元素群Bから選ばれる元素の合計の含有量が0.25%以下、元素群Cから選ばれる元素の合計の含有量が0.5%以下、元素群Dから選ばれる元素の合計の含有量が20%以下である溶融めっき鋼板。
【0219】
(付記2)
前記Alが22%超〜35%未満であり、前記Mgが10%超〜20%未満であり、前記Caが0.3%〜3.0%未満であり、前記Siが0.1%〜1%である付記1に記載の溶融めっき鋼板。
【0220】
(付記3)
前記めっき層が、B、元素群A(Y、La、Ce)、元素群B(Cr、Ti、Ni、Co、V、Nb、Cu、Mn)、及び元素群C(Sr、Sb、Pb)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有し、前記めっき層が、質量%で、
Bを含有する場合は、B:0.05%〜0.5%、
元素群Aから選ばれる元素を含有する場合は、その合計の含有量が0.05%〜0.5%、
元素群Bから選ばれる元素を含有する場合は、その合計の含有量が0.05%〜0.25%、
元素群Cから選ばれる元素を含有する場合は、その合計の含有量が0.05%〜0.5%を満たす付記1又は付記2に記載の溶融めっき鋼板。
【0221】
(付記4)
前記Zn−Al−Mg合金層が、Al2CaB5、又は一部の原子位置がZn及びMgで置換されたCa−Al−B化合物であってBが原子%で40%以上のCa−Al−B化合物を含有する付記1〜付記3のいずれか1項に記載の溶融めっき鋼板。
【0222】
(付記5)
前記めっき層が、元素群D(Sn、Bi、In)から選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、前記めっき層が、質量%で、
Sn+Bi+In=0.05%〜20%
を満たし、前記めっき層が、Mg2Sn、Mg3Bi2及びMg3Inからなる群より選択される少なくとも1種の金属間化合物をさらに含有する付記1〜付記4のいずれか1項に記載の溶融めっき鋼板。
【0223】
(付記6)
前記めっき層がAl−Fe合金層をさらに含み、前記Al−Fe合金層が前記鋼材の表面に形成され、前記Zn−Al−Mg合金層が前記Al−Fe合金層上に形成された付記1〜付記5のいずれか1項に記載の溶融めっき鋼板。
【0224】
日本国特許出願2017−013259の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
鋼材と、前記鋼材の表面に配され、Zn−Al−Mg合金層を含むめっき層と、を有する溶融めっき鋼材であって、前記Zn−Al−Mg合金層の断面において、MgZn