(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ベースハウジングの開口部が栓体で塞がれて薬液貯留用の内腔が単一で形成されていると共に、該内腔に連通して薬液流出用の流路が設けられた皮下埋込型ポートであって、
前記内腔において少なくとも一部が強磁性材からなり、外部から及ぼされる磁界作用で駆動される可動体を前記ベースハウジングに対して回転しないで移動可能に設けたことを特徴とする皮下埋込型ポート。
ベースハウジングの開口部が栓体で塞がれて薬液貯留用の内腔が単一で形成されていると共に、該内腔に連通して薬液流出用の流路が設けられた皮下埋込型ポートであって、
前記内腔において少なくとも一部が強磁性材からなり、外部から及ぼされる磁界作用で駆動される可動体を回転−直線の運動変換機構を介することなしに磁力で直接に移動可能に設けたことを特徴とする皮下埋込型ポート。
ベースハウジングの開口部が栓体で塞がれて薬液貯留用の内腔が単一で形成されていると共に、該内腔に連通して薬液流出用の流路が設けられた皮下埋込型ポートであって、
前記栓体が弾性材で形成されて薬液注入に際してニードルが穿刺可能とされている一方、
前記内腔において少なくとも一部が強磁性材からなり、外部から及ぼされる磁界作用で駆動される可動体が、該栓体とは別部材とされて該栓体と異なる位置において移動可能に設けられていることを特徴とする皮下埋込型ポート。
前記可動体が、前記薬液流出用の流路の前記内腔への開口部に対して接近および離隔する方向で移動可能に配置されている請求項1〜5の何れか1項に記載の皮下埋込型ポート。
前記内腔が可撓性膜で仕切られており、該可撓性膜を挟んだ一方の側に薬液が貯留されるようになっていると共に、該可撓性膜を挟んだ他方の側に前記可動体が配置されており、該可動体の移動により該可撓性膜が変形されるようになっている請求項1〜7の何れか1項に記載の皮下埋込型ポート。
【背景技術】
【0002】
従来から、薬液等を長期間に亘って繰り返し体内へ注入する治療を行うに際しては、人体への繰り返しの穿刺による負担を軽減するために、薬液注入用のポートを患者の皮下に埋設しておくことが検討される。
【0003】
かかるポートは、特開平6−105915号公報(特許文献1)に示されているように、例えば略カップ形状とされたベースハウジングの開口部が弾性体からなる栓体で塞がれて薬液貯留用の内腔が形成された構造とされている。そして、皮膚を貫通して栓体に穿刺したニードルにより内腔に注入された薬液が、ベースハウジングの外周部分に設けられた薬液流出用の流路から更にカテーテルを通じて、血管や腹腔などへ導かれて注入されるようになっている。
【0004】
ところで、このような皮下埋込型ポートでは、内腔における薬液の滞留や付着を防止することが必要であり、それが、細菌増殖を抑える等の衛生的な観点のみならず、薬液の経時的な変成等を防止したり、薬液の流動抵抗を低減して薬液をスムーズに体内へ注入することについても有効である。
【0005】
しかしながら、皮下埋込型ポートは、皮下への埋設状態で長期間に亘って用いられることから、取り出して洗浄等の処理をすることができず、内腔の隅部などに薬液が滞留したり内面に付着し易いという問題があった。特に高粘性の薬液は内腔の内面との界面抵抗等による滞留が発生し易く、長期に亘って薬液が内腔に残留するおそれが大きい。そして、内腔に残留したり付着してしまった薬液は、皮下に埋設された皮下埋込型ポートにおいて、それを解消する措置が極めて困難であり、内腔への薬液滞留に対する有効な解決策がなかったのである。
【0006】
なお、特開平6−277298号公報(特許文献2)には、薬液流出用の流路を大口径として内腔に向かって延び出させることにより、薬液の流出用流路への流入口における滞留を軽減するようにした構造が提案されている。しかし、この特許文献2に開示された発明は、単に薬液の流出用流路の構造のみに関するものであって、流出用流路を通じての薬液の流動抵抗の低減には効果があるかもしれないが、内腔における薬液の滞留に関して十分な効果を発揮するものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、内腔への薬液の滞留が効果的に防止または解消され得る、新規な構造の皮下埋込型ポートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するために為された本発明の第1〜3の態様は、以下のとおりである。
第1の態様は、ベースハウジングの開口部が栓体で塞がれて薬液貯留用の内腔が単一で形成されていると共に、該内腔に連通して薬液流出用の流路が設けられた皮下埋込型ポートであって、前記内腔において少なくとも一部が強磁性材からなり、外部から及ぼされる磁界作用で駆動される可動体を前記ベースハウジングに対して回転しないで移動可能に設けたことを、特徴とする。
第2の態様は、ベースハウジングの開口部が栓体で塞がれて薬液貯留用の内腔が単一で形成されていると共に、該内腔に連通して薬液流出用の流路が設けられた皮下埋込型ポートであって、前記内腔において少なくとも一部が強磁性材からなり、外部から及ぼされる磁界作用で駆動される可動体を
回転−直線の運動変換機構を介することなしに磁力で直接に移動可能に設けたことを、特徴とする。
第3の態様は、ベースハウジングの開口部が栓体で塞がれて薬液貯留用の内腔が単一で形成されていると共に、該内腔に連通して薬液流出用の流路が設けられた皮下埋込型ポートであって、前記栓体が弾性材で形成されて薬液注入に際してニードルが穿刺可能とされている一方、前記内腔において少なくとも一部が強磁性材からなり、外部から及ぼされる磁界作用で駆動される可動体が、該栓体とは別部材とされて該栓体と異なる位置において移動可能に設けられていることを、特徴とする。
【0010】
本態様に係る皮下埋込型ポートでは、患者の体外から磁力を及ぼすことにより、患者の体内に埋め込まれたままの状態で、可動体を内腔の内部で移動させることができる。それ故、内腔に注入された薬液等に対して、可動体を変位させてかきまぜたり対流を生じさせたりすることができるのであり、それによって内腔の隅部などへの薬液の滞留を防止したり解消することが可能となる。
【0011】
しかも、そのような内腔における薬液の滞留を防止等するための操作は、磁力を利用して行われるものであり、作業者に高度な技能が要求されることがなく、また患者に対して苦痛を伴うものでもない。
【0012】
本発明の第
4の態様は、前記第1
〜3の何れかの態様の皮下埋込型ポートであって、前記内腔において前記可動体を予め所定位置へ弾性的に位置決めする付勢手段を設けたものである。
【0013】
本態様に係る皮下埋込型ポートでは、外部からの磁力の作用を解除することにより可動体が所定位置へ自動的に復帰することとなる。それ故、外部からの磁力の作用と解除を行う単純な操作で、可動体を効率的に且つ有効に変位させることが可能になる。
【0014】
本発明の第
5の態様は、前記第1
〜4の何れかの態様の皮下埋込型ポートにおいて、前記可動体が、前記ベースハウジングの内面に沿って広がる板状とされたものである。
【0015】
本態様に係る皮下埋込型ポートでは、薬液の撹拌に対する有効面積が大きく確保された可動体を、スペースの限られた内腔において効率的に収容配置することが可能になる。なお、ベースハウジングの内面と略平行に広がることが一層好適であるが、例えばベースハウジングの内面が湾曲している場合には、その湾曲方向に沿って広がる平板形状の可動体を採用しても良く、それによって可動体の製作等が容易となる。
【0016】
本発明の第
6の態様は、前記第1〜
5の何れかの態様の皮下埋込型ポートにおいて、前記可動体が、前記ベースハウジングの底部と前記栓体との対向方向で移動可能に配置されているものである。
【0017】
本態様に係る皮下埋込型ポートでは、皮下への埋設状態で患者の皮膚に対して略接近および離隔する方向に可動体が変位することとなる。それ故、可動体に対して外部から磁力を及ぼす磁石等を、患者の埋設位置付近の皮膚に対して体外から近づけることにより、可動体に対して変位方向へ磁力を有効に及ぼして可動体を効率的に変位させることができる。
【0018】
本発明の第
7の態様は、前記1〜
5の何れかの態様の皮下埋込型ポートにおいて、前記可動体が、前記薬液流出用の流路の前記内腔への開口部に対して接近および離隔する方向で移動可能に配置されているものである。
【0019】
本態様に係る皮下埋込型ポートでは、内腔に注入された薬液の流路を通じての流出方向において可動体が変位することから、可動体の変位に伴って薬液に対して流出方向の流れが積極的に生ぜしめられて、薬液の撹拌作用が一層効果的に発揮される。それ故、例えば可動体を流路に向かって接近方向に変位させることで、内腔に滞留していた薬液を速やかに押し出すようにして流出させて滞留を一層積極的に解消させることも可能になる。
【0020】
本発明の第
8の態様は、前記1〜
7の何れかの態様の皮下埋込型ポートにおいて、前記内腔が可撓性膜で仕切られており、該可撓性膜を挟んだ一方の側に薬液が貯留されるようになっていると共に、該可撓性膜を挟んだ他方の側に前記可動体が配置されており、該可動体の移動により該可撓性膜が変形されるようになっているものである。
【0021】
本態様に係る皮下埋込型ポートでは、可動体が薬液に対して直接に接触することを防止できる。それ故、可動体の材質の選択自由度が、薬液への影響を考慮することなく大きく確保される。また、可動体の変位に伴って、ハウジングや可動体の磨耗や欠け等に伴う異物粒子が万一発生した場合でも、それが薬液に混入して患者の管腔に入ることが防止される。更に、可動体と内腔内面との隙間等へ入り込んだ薬液の滞留や付着も防止され得る。
本発明の第
9の態様は、前記1〜
8の何れかの態様の皮下埋込型ポートにおいて、中央凹部を備えたベースハウジングの開口部がニードル穿刺可能な栓体で閉塞された構造を有しており、かかる中央凹部内に薬液貯留用の内腔が形成されていると共に前記可動体が収容配置されているものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に従う構造とされた皮下埋込型ポートにおいては、可動体を外部からの簡単な操作で変位させることが出来、かかる可動体の変位に伴って内腔に注入された薬液等に対して撹拌作用を及ぼすことで、内腔の隅部などへの薬液の滞留を積極的に防止したり解消することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0025】
先ず、
図1〜6には、本発明の第1の実施形態としての皮下埋込型ポート10が示されている。この皮下埋込型ポート10は、ベースハウジング12に設けられた開口部14を閉塞するように栓体16が組み付けられることによって構成されている。そして、かかる皮下埋込型ポート10の内部には薬液貯留用の内腔18が形成されていると共に、ベースハウジング12の周壁を貫通して薬液流出用の流路20が形成されている。なお、以下の説明において上下方向とは、
図1中の上下方向を示すものとする。
【0026】
より詳細には、本実施形態のベースハウジング12は分割構造とされており、ベース側分割体22とアウタ側分割体24から構成されている。かかるベース側分割体22には、上方に開口する中央凹部26が形成されている。即ち、ベース側分割体22は、略平板形状の底壁28と、底壁28の外周から上方に突出する略環状の周壁30とを有しており、底壁28と周壁30により中央凹部26が形成されている。なお、本実施形態では、
図5に示されているように、ベース側分割体22が、中央凹部26を含めて略楕円形の平面形状とされている。
【0027】
また、周壁30の上端面には、上方に向かって突出する環状突起32が、先細断面形状で全周に亘って連続して形成されている。更にまた、周壁30の下端には、外周面に突出する鍔状の外周突部34が設けられている。
【0028】
一方、アウタ側分割体24は、上下方向に貫通孔36が設けられた中空の略台地形状とされており、それぞれ略平坦面とされた下面および上面を有していると共に、それら下面と上面の各外周縁部を繋ぐ外周面を備えている。かかる外周面は、全体的に穏やかな傾斜面38aとされているが、
図1,2中の右側部分だけが略垂直に立ち上がる鉛直外周面38bとされている。この鉛直外周面38bとされた周壁部分には、下端面に開口する切欠状の側方開口部40が形成されており、貫通孔36が側方開口部40を通じて鉛直外周面38bに開口している。
【0029】
また、貫通孔36の内周面には、段差42が形成されており、段差42よりも下側の開口部分が大径とされている。また、貫通孔36の上側開口部分には、内周側に向かってフランジ状に突出する環状シール部44が設けられており、この環状シール部44によって貫通孔36の上側開口部が狭窄されている。更にまた、環状シール部44には、下方に向かって突出する環状突起46が、先細断面形状で全周に亘って連続して形成されている。
【0030】
而して、アウタ側分割体24の貫通孔36に対して、その下側開口部からベース側分割体22が嵌め入れられて互いに組み付けられることによりベースハウジング12が構成されている。即ち、本実施形態のベースハウジング12では、アウタ側分割体24における貫通孔36の上側開口部がベースハウジング12の開口部14とされていると共に、かかる開口部14を通じて上方に開口する凹所がベース側分割体22の中央凹部26により形成されている。なお、アウタ側分割体24とベース側分割体22は、圧入により固定される他、例えば接着や溶着等により強固に固着されていても良い。
【0031】
また、ベース側分割体22は、その外周突部34がアウタ側分割体24の段差42に重ね合わされることにより嵌め入れ方向で位置決めされている。そして、ベース側分割体22とアウタ側分割体24の両底面が略同一平面上に設定されている。また、ベース側分割体22は、アウタ側分割体24よりも高さ寸法が小さくされている。これにより、ベース側分割体22の周壁30の上端面と、アウタ側分割体24の環状シール部44の下面とが、貫通孔36内で互いに所定距離を隔てて対向位置しており、各対向面に設けられた環状突起32,46が上下方向で対峙している。
【0032】
さらに、かかるベースハウジング12には、凹所を構成する開口部14に対して栓体16が組み付けられている。栓体16は、全体として厚肉の板形状とされており、シリコンゴム等の弾性材で形成されている。そして、栓体16が、ベース側分割体22の周壁30の上に重ね合わされて、ベース側分割体22の中央凹部26を覆蓋する状態で組み付けられている。
【0033】
なお、栓体16の外周部分は、アウタ側分割体24の貫通孔36の上方への開口部14近くの内周面形状に対応した外周面形状とされており、栓体16の外周縁部が、ベース側分割体22の周壁30とアウタ側分割体24の環状シール部44との間で上下に挟まれている。更に、栓体16の外周縁部には、上下面にそれぞれ環状溝が設けられており、これらの環状溝に対して、ベース側分割体22とアウタ側分割体24の各環状突起32,46が係合されている。これにより、本実施形態では、ベースハウジング12における貫通孔36の上方の開口周縁部において、栓体16の外周縁部を上下方向で締め付けると共に径方向に位置決めして流体密に支持するシール部48が構成されている。
【0034】
また、ベースハウジング12への栓体16の組み付けは、例えば、ベース側分割体22の上に栓体16を重ね合わせた状態で、これらを覆うようにアウタ側分割体24を上方から重ね合わせることで、ベースハウジング12が構成されると同時に栓体16が組み付けられることから、容易に実現可能とされる。
【0035】
このようにして、栓体16がベースハウジング12に組み付けられることにより、ベース
側分割体22の中央凹部26に薬液貯留用の内腔18が形成されている。即ち、かかる内腔18は、ベース側分割体22における底壁28と周壁30、および栓体16により画成されて、外部空間から遮断された密閉状の領域とされている。
【0036】
そして、この内腔18に対して、図中に二点鎖線で示されているようなカテーテル50等の外部管路を接続するための流路が、ベース側分割体22の周壁30に設けられている。即ち、ベース側分割体22の周壁30には、アウタ側分割体24の側方開口部40に嵌まり込んで鉛直外周面38bに露呈する厚肉部52が形成されており、この厚肉部52を貫通して貫通路54が設けられている。更に、貫通路54には、管状の外部ポート部材56が一方の端部において嵌め入れられて固着されている。これにより、外部ポート部材56の内孔58が貫通路54を通じて内腔18へ連通されており、内腔18に連通する薬液流出用の流路20が、貫通路54と内孔58によって構成されている。また、外部ポート部材56は、ベースハウジング12の外周面に突出しており、その先端部分に対して、カテーテル50等の外部管路が接続されるようになっている。
【0037】
なお、上述のベースハウジング12を構成するベース側分割体22やアウタ側分割体24、外部ポート部材56は、材質が限定されるものでないが、例えば硬質の合成樹脂、特に熱可塑性樹脂等が好適に採用される。
【0038】
さらに、ベースハウジング12に形成された内腔18には、可動体60が収容状態で移動可能に配置されている。この可動体60は強磁性材で形成されており、他部材との磁力作用で吸引又は反発の駆動力が及ぼされるものである。本実施形態では、平板形状の可動体60が採用されており、ベース側分割体22の周壁30の内周側に、周上で部分的に位置して配置されている。かかる可動体60は、周壁30の内面に沿って上下方向に延びて配置されており、具体的には、
図5の平面視で周壁30の内周面の略弦方向に広がり且つ
図1の縦断面視で内腔18の略深さ方向に立ち上がるように配置されている。
【0039】
また、かかる可動体60は、ベース側分割体22の中央凹部26の長軸方向で前記流路20と対向して配置されている。そして、流路20における内腔18からの流体流出方向と、可動体60の移動方向とが、何れも、内腔18を形成するベース側分割体22の略長軸方向となるように設定されている。
【0040】
なお、ベース側分割体22には、周壁30の上端部から内周側に向かって突出する庇状部62が、周上で部分的に形成されている。そして、ベース側分割体22の中央凹部26において、開口側が庇状部62で覆われた洞穴状の内部領域64に可動体60が収容状態で配置されている。また、可動体60の上端部には、ベース側分割体22の周壁30に向かって屈曲して延びるガイド片66が形成されている。そして、このガイド片66が皮下埋込型ポート10の上面と平行に配置されることにより、可動体60に対して他部材との磁力作用が及ぼされ易くされている。更に、ガイド片66により、可動体60が傾動を抑えつつ移動し得ると共に、必要に応じて可動体60の周壁30側への移動端を制限することのできるガイド機能が発揮されるようになっている。
【0041】
また、内腔18内におけるベース側分割体22の周壁30の内周面と可動体60との対向面間には、付勢手段としてのコイルスプリング68が組み込まれており、可動体60が周壁30に対してコイルスプリング68で弾性連結されている。本実施形態ではコイルスプリング68として引張コイルスプリングが採用されており、外力が及ぼされていないコイルスプリング68の収縮状態で可動体60が周壁30への接近位置に安定して位置決めされている。そして、コイルスプリング68の伸長方向への弾性変形に基づいて、可動体60が周壁30から離隔して内腔18の中央側への移動が許容されるようになっている。
【0042】
更にまた、本実施形態では、可動体60におけるコイルスプリング68の伸長方向側を覆うように可撓性膜70が配設されている。この可撓性膜70は、可動体60やコイルスプリング68が収容配置される内部領域64の開口部分を覆うように配置されており、その外周縁部が、ベース側分割体22の底壁28や周壁30、庇状部62に対して全周に亘って固着されている。
【0043】
これにより、内腔18が可撓性膜70によって流体密に仕切られており、この可撓性膜70を挟んだ一方の側に薬液等が貯留されると共に、可撓性膜70を挟んだ他方の側に内部領域64が形成されている。そして、かかる内部領域64が、薬液等が貯留される領域からは独立した空間とされている。なお、可撓性膜70としては、容易に変形が許容される薄膜状のものであって、好適には、弾性変形によって弛みや皺の発生を防止しつつ内腔18の薬液注入領域側への膨出変形と初期の展張状態への復元が行われ得るシリコンゴム等の弾性膜が採用される。
【0044】
上述の如き構造とされた皮下埋込型ポート10は、患者の胸部や腹部、大腿部等の皮下に埋め込まれて、皮下埋込型ポート10から延び出すカテーテル50等の他方の端部が目的とする血管内や腹腔内に挿入される。このような装着状態下で薬液を注入するに際しては、
図1に二点鎖線で示すようにニードル72を、患者の皮膚を通じて皮下埋込型ポート10の栓体16に穿刺して内腔18にまで到達させる。そして、ニードル72が装着されたシリンジ等を操作することにより、外部から注入される薬液を、内腔18を経て流路20からカテーテル50を通じて目的の血管内や腹腔内に導入することができる。
【0045】
なお、薬液の注入後は、ニードル72を抜針することにより、栓体16における穿刺孔が、栓体16の弾性復元作用で自動的に閉塞される。
【0046】
ここにおいて、上述の如き構造とされた皮下埋込型ポート10では、体外から磁石を近づける等して磁界を及ぼすことにより、可動体60を磁力の作用で移動させることができる。例えば患者の皮膚上でベースハウジング12の外部ポート部材56側から磁石を近づけることにより、
図7に示されているように、可動体60に吸引力を及ぼして可動体60を内腔18の中央側へ向けて移動させることができる。
【0047】
この可動体60の移動により、可撓性膜70が内腔18内において膨らむように変形変位することとなり、その結果、内腔18内に積極的な流体流動作用や撹拌作用が発揮される。それ故、薬液の注入の前や後、或いは薬液の注入時など適宜に可動体60を移動させることで、内腔18に流体の流動や撹拌を発生させて、内腔18における薬液の滞留や付着を防止したり解消することが可能になる。また、薬液注入の前後の適切な時期に、必要に応じて洗浄用の生理食塩水等の洗浄液をニードル72を通じて注入して、可動体60を移動させることで効率的な洗浄処理を行うことも可能となる。
【0048】
特に本実施形態では、内腔18の内周面における流路20の開口位置と径方向反対側に可動体60が配設されていることから、ニードル72を通じて内腔18の略中央領域に注入された薬液が流路20を通じて流出する最短流路に対して最も外れ易くて滞留し易いと考えられる領域において可動体60による撹拌作用が直接に及ぼされることとなる。それ故、内腔18内における薬液の滞留や付着に対して、可動体60の移動による防止等の効果が一層効果的に発揮され得る。
【0049】
しかも、本実施形態では、可動体60を磁力作用で移動させた後、磁力作用を解除するだけで、コイルスプリング68の付勢力により可動体60が自動的に初期位置に返戻移動して初期位置へ保持されることとなる。要するに、本実施形態の可動体60は、内腔18における流路20の開口部に対して接近および離隔する方向で移動可能とされている。それ故、磁力の作用と解除を繰り返すだけで可動体60を容易に且つ効率的に往復移動させることができて、内腔18内における薬液等への撹拌作用が一層効果的に及ぼされ得る。
【0050】
また、可動体
60を移動させる操作は、患者に装着された皮下埋込型ポート10に対して体外から磁石を接近および離隔させること等の操作で非侵襲的に行うことができる。それ故、可動体60の移動による内腔18内での薬液等の滞留の防止等の処置を、処置者に面倒な作業を要求することなく、また患者に苦痛を強いることなく、簡易に行うことが可能になる。
【0051】
加えて、本実施形態では、内腔18内において、薬液等が貯留される領域に対してコイルスプリング68や可動体60が配設される内部領域64が、可撓性膜70で流体密に区画されている。これにより、コイルスプリング68や可動体60が薬液等に浸漬されることが防止されて、腐食等が効果的に防止されると共に、付勢手段や可動体の材質の選択自由度が向上され得る。また、可動体60の背後におけるコイルスプリング68等の配設領域における薬液等の滞留も完全に回避され得る。
【0052】
更に、本実施形態では、可撓性膜70が弾性膜とされており、可動体60の初期位置への復帰に伴って、可撓性膜70も自動的に初期位置に復帰して展張状態に保持されることから、弛みや皺等に起因する薬液等の滞留や付着も効果的に回避される。なお、可動体60の初期位置への復帰は、コイルスプリング68等の付勢手段による作用に加えて、または付勢手段による作用に代えて、かかる弾性膜の復元作用を利用することも可能である。
【0053】
次に、
図8,9には、本発明の第2の実施形態としての皮下埋込型ポート74が示されている。本実施形態の皮下埋込型ポート74は、前記第1の実施形態の皮下埋込型ポート10に対して可動体の配設位置の別態様を例示するものである。なお、前記第1の実施形態と実質的に同一の部材または部位には、図中に第1の実施形態と同一の符号を付すことにより詳細な説明を省略する。また、本実施形態の平面図、斜視図、正面図は前記第1の実施形態の
図2〜4を参照することとして、図示を省略する。
【0054】
本実施形態の皮下埋込型ポート74では、内腔18を構成するベース側分割体22の中央凹部26が円形凹部とされており、この中央凹部26の底部近くに可撓性膜76が配設されている。可撓性膜76は、略円形の弾性膜からなり、ベース側分割体22の周壁30に対して外周縁部が固着されて支持されることにより、中央凹部26の底面と略平行に広がって展張されている。
【0055】
そして、この可撓性膜76で内腔18が上下両側に流体密に仕切られており、可撓性膜76よりも上側には、薬液が注入されて周壁30に開口する流路20を通じて流出される薬液の貯留領域が形成されている。一方、可撓性膜76より下側には、可動体78とコイルスプリング80が収容配置されている。
【0056】
可動体78は、周壁30の内周面よりも一回り小さい円板形状とされており、中央凹部26の略中央部分に位置して、中央凹部26の底面と対向位置して略平行に配置されている。また、これら可動体78と底壁28とは、対向面間に配置されたコイルスプリング80によって連結されている。そして、コイルスプリング80によって可動体78が弾性的に位置決めされており、コイルスプリング80の弾性的な伸長変形および復元変形により可動体78の上方および下方への移動が許容されるようになっている。要するに、本実施形態の可動体78は、ベースハウジング12の底部と栓体16との対向方向において移動可能とされている。
【0057】
このような構造とされた本実施形態の皮下埋込型ポート74では、患者の体内に装着された状態で、体外の上方から磁界を及ぼすことにより、可動体78に磁気吸引力が作用して、
図10に例示されているように、可動体78が上方に向かって移動して可撓性膜76が内腔18内で上方に向かって膨出変形することとなる。
【0058】
このような可動体78の変位により、内腔18内の薬液等に対して撹拌作用等が及ぼされて、内腔18内における薬液等の滞留や付着の防止や軽減の効果が、第1の実施形態と同様に発揮され得る。特に本実施形態では、皮下埋込型ポート74が装着された部位の皮膚に対して略垂直に及ぼされる磁力線によって、可動体78の移動方向へ磁気吸引力が作用することから、可動体78を移動させるための磁石等の操作を一層容易に且つ効率的に行うことが可能となる。
【0059】
また、可動体78には、内腔18の底面の略全体を覆う大きさを設定することが可能であり、特に本実施形態では、内腔18の深さ寸法に比して内径寸法が大きくされていることから、内腔18内の薬液等に対して撹拌作用を起こす可動体78の有効面積を効率的に大きく確保して一層効果的な撹拌作用を得ることも可能になる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明は上述の解決手段や実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜に修正,改良などを加えた態様で実施され得る。
【0061】
例えば、可動体は、外部との磁界の作用で吸引力や反発力を受けるものであれば良く、前記実施形態のように可動体の全体が強磁性材で形成されている必要はない。例えば、合成樹脂材等の磁性を示し難い材質からなる常磁性材等に対して強磁性材が固着や埋設等されていても良い。また、本願における強磁性材からなる可動体は、磁石によって引き寄せられて或いは引き離されて動く部材であれば良い。なお、可動体において強磁性材として磁石を採用することも可能であり、磁石材からなる可動体を採用した場合には、外部から鉄などの強磁性材を接近させることにより可動体に磁力を及ぼして移動させることも可能となる。
【0062】
また、可動体の具体的形状は実施形態の如き平板形状に限定されるものでなく、例えば屈曲板形状や、中実あるいは中空のブロック形状であっても良いし、円形外周のブロック形状として内腔18内で転動して移動するようにしても良い。更にまた、可撓性膜70,76に強磁性体を固着したりマグネットラバーを採用すること等により、可撓性膜70,76で可動体を構成することも可能である。
【0063】
また、可撓性膜70,76を設けることなく、内腔18の薬液注入領域に可動体を直接に配置しても良い。このように、薬液内への浸漬状態で可動体を配設することにより、可動体の変位による薬液の撹拌作用ひいては滞留の防止や解消の効果の向上を図ることも可能である。
【0064】
さらに、内腔18の周壁部分において内腔18に開口するシリンダを形成すると共に、このシリンダ内を滑動するピストン部材を組み付けて、ピストン部材そのものを可動体としたり、別体の可動体でピストン部材を駆動させることにより、内腔18に注入された薬液等を撹拌することも可能である。また、このように、内腔18内において、シリンダ等により可動体の配設領域と薬液の貯留領域が区画されても良く、即ち、薬液を撹拌する可動体の動きが許容されていれば、両領域を区画するものとして部分的に非可撓性部材が採用されても良い。
【0065】
また、前記実施形態では、可動体60,78の変位に伴う、可動体60,78が収容された領域における容積変化が、可撓性膜70,76の撓み変形や内部領域64に充填された気体の圧縮や膨張に基づいて補償されるようになっていたが、例えばベースハウジングにおける周壁の変形や、体液の出入を利用した容積変化の補償構造などを採用することも可能である。
【0066】
また、前記実施形態では、内腔18内において、一つの可動体60,78が採用されていたが、複数の可動体を内腔18内に設けても良い。そして、かかる複数の可動体を連動して移動させるようにしても良いし、順次に移動させるようにしても良い。
【0067】
なお、本発明においては、外部から磁力を作用させる態様は限定されない。例えば、電磁石を利用して可動体への磁力作用の入力と解除を繰り返すこと等により可動体を効率的に往復移動や振動させることが出来て、積極的に薬液等を撹拌することにより更なる滞留防止効果を得ることも可能である。
【0068】
さらに、内腔18内において、可動体の移動を案内するレール等のガイド機構が設けられていても良い。これにより、可動体の移動が更に安定して実現されて、薬液等の撹拌に伴う滞留防止効果がより高い信頼性をもって発揮され得る。
【0069】
更にまた、前記実施形態では、コイルスプリング68,80を引張方向で操作していたが、圧縮方向としても良いし、引張方向と圧縮方向の両側で付勢力を利用することも可能である。更に、付勢手段は例示したコイルスプリングに限定されず、板ばねやゴム弾性体等が適宜採用され得る。なお、付勢手段は本発明において必須でなく、例えば、可動体を内腔18内で自由に移動可能に収容しておいて、外部から作用する磁力や重力、更に内腔18に注入される薬液等の流体圧などを適宜に利用して内腔18内で可動体を変位させるようにしても良い。
【0070】
また、ニードルの干渉等による可撓性膜70,76の損傷を防止するために、可撓性膜70,76の中央部分を硬質材で形成したり、保護層を設けるようにしても良い。
【0071】
更にまた、ベースハウジング12におけるベース側分割体22とアウタ側分割体24からなる分割構造は、本発明において必須ではない。例えば一体構造のベースハウジングを採用して、その上方に開口する中央凹部の開口部分に対して栓体の外周縁部を、接着やかしめ、ねじ固定などによって固着することも可能である。