(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365829
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池セルユニット
(51)【国際特許分類】
H01M 8/2485 20160101AFI20180723BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20180723BHJP
H01M 8/243 20160101ALI20180723BHJP
H01M 8/0204 20160101ALI20180723BHJP
【FI】
H01M8/2485
H01M8/12 101
H01M8/12 102B
H01M8/243
H01M8/0204
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-137490(P2014-137490)
(22)【出願日】2014年7月3日
(65)【公開番号】特開2015-28930(P2015-28930A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2017年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-139340(P2013-139340)
(32)【優先日】2013年7月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】安藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 直樹
(72)【発明者】
【氏名】星子 琢也
(72)【発明者】
【氏名】田中 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真樹
(72)【発明者】
【氏名】井坂 暢夫
(72)【発明者】
【氏名】籾山 大
(72)【発明者】
【氏名】古屋 正紀
(72)【発明者】
【氏名】端山 潔
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 保夫
(72)【発明者】
【氏名】岡本 修
【審査官】
高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−111309(JP,A)
【文献】
特開平11−183430(JP,A)
【文献】
特開2008−071710(JP,A)
【文献】
特開2007−188793(JP,A)
【文献】
特開2005−174722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流路を内部に備えた絶縁支持体の表面に、少なくとも、燃料極、電解質及び空気極が順次積層された発電素子を備え、前記絶縁支持体は酸化物からなる多孔質材料からなり、前記電解質は前記絶縁支持体の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する酸化物からなる、固体酸化物形燃料電池セルユニットと、燃料ガスタンクとを含む固体酸化物形燃料電池セルスタックであって、前記固体酸化物形燃料電池セルユニットは、電解質露出部、燃料極露出部、絶縁支持体露出部をさらに備えてなり、該固体酸化物形燃料電池セルユニットの少なくとも一方の端部から、前記絶縁支持体露出部、前記燃料極露出部及び前記電解質露出部の順に配置されており、前記固体酸化物形燃料電池セルユニットは、前記電解質露出部のみで前記燃料ガスタンクと気密接合していることを特徴とする固体酸化物形燃料電池セルスタック。
【請求項2】
ガス流路を内部に備えた絶縁支持体の表面に、少なくとも、燃料極、電解質及び空気極が順次積層された発電素子を複数備え、隣接する2つの発電素子のうちの一方の発電素子の燃料極と、他方の発電素子の空気極とがインタコネクタにより電気的に接続され、前記インタコネクタと前記一方の発電素子を構成する空気極との間には、電気的に絶縁するための電解質絶縁露出部を備え、前記電解質絶縁露出部の長さL4と、前記電解質露出部の長さL3が、L3>L4の関係を満たすことを特徴する、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セルスタック。
【請求項3】
前記燃料極露出部の長さをL2とし、前記電解質露出部の長さをL3としたとき、L3>L2の関係を満たすことを特徴とする、請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池セルスタック。
【請求項4】
集電体を更に含み、前記集電体は前記燃料極露出部または前記空気極と接合して電流を取り出すことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池セルスタック。
【請求項5】
前記絶縁支持体露出部の長さをL1とし、前記燃料極露出部の長さをL2としたとき、前記燃料ガスタンクと前記固体酸化物形燃料電池セルユニットを気密接合する部位の前記燃料ガスタンクの壁厚Tに対して、T<(L1+L2)×2 の関係を満たすことを特徴する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の固体酸化物形燃料電池セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池セルユニットに関する。特に、本発明は、燃料ガスタンクに気密固定して用いられ、室温から高温への起動や、高温から室温への停止を繰り返したとき、気密固定した接合部の信頼性が高い固体酸化物形燃料電池セルユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:以下「SOFC」とも言う)は、電解質として酸化物イオン導電性固体電解質を備え、その両側に電極を取り付け、一方の側に燃料ガスを供給し、他方の側に酸化剤ガス(空気、酸素等)を供給して、比較的高温で動作する燃料電池である。
【0003】
固体酸化物形燃料電池装置、特に、固体酸化物形燃料電池セルユニットを収容した燃料電池モジュールには、固体酸化物形燃料電池セルユニットに燃料を供給するための燃料流路、空気等の酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路等が内蔵されている。通常、これらの流路は複数の構成部品によって構成され、各構成部品を接合することにより流路が形成されている。また、固体酸化物形燃料電池は一般に600〜1000℃の高温で動作するため、固体酸化物形燃料電池セルユニットと構成部品(例えば、燃料ガスタンク)を、このような高温に耐えるように接合する必要がある。
【0004】
特許第5173458号公報(特許文献1)では、基体管(15%カルシア安定化ジルコニア)の表面に導電性のリード膜(Ni−MgAl
2O
4)と、リード膜の表面に気密膜(8%イットリア安定化ジルコニア)を形成したセルの、気密膜の表面と接着剤の間に適正な熱膨張を有する接着性向上膜を設けることを提案している。
【0005】
特許5080951号公報(特許文献2)では、複数の発電素子からなる固体酸化物形燃料電池セルユニットにおいて、内部電極などの剥離やクラック等の発生を抑制するために燃料極上に設けられた集電体と燃料極活性層の距離について提案している。
【0006】
特開2010−257744号公報(特許文献3)および特開2008−59793号公報(特許文献4)では、燃料ガスタンクにセルを立てて気密接合する図を開示している。
【0007】
なお、特許第3064087号公報(特許文献5)には基体管の焼成と電極および電解質の一部および全部を同時焼成することにより性能の安定性、製造の工数の低減を図ることが可能な固体電解質セルの製造方法を提案している。
【0008】
また特許第5188236号公報(特許文献6)では、ガス給排構造を簡略化することができるガス給排マニホールドを提案している。セルは絶縁材料の板に形成された挿入可能な穴にセルを貫、ガスシール部材でシールする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5173458号公報
【特許文献2】特許第5080951号公報
【特許文献3】特開2010−257744号公報
【特許文献4】特開2008−59793号公報
【特許文献5】特許第3064087号公報
【特許文献6】特許第5188236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
固体酸化物形燃料電池セルユニットと燃料ガスタンクを接合して一体化した場合、室温からの起動や、室温への停止の動作を行った際に、燃料ガスタンクと固体酸化物形燃料電池セルユニットとの接合部の気密性が低下しないことが望まれる。特に室温からの起動では、燃料ガスによる燃料電池モジュール内の温度分布ムラが発生する。接合部はこれらの温度環境によるひずみ応力などに対して、気密性が確保されていなければならない。さらには異種材料の熱膨張差が加わり、接合部に大きな応力が発生し、その結果、セルに亀裂を生じやすい。微小な亀裂であっても、起動・運転・停止を繰り返しているうちに亀裂は進展し、また亀裂部分からの空気の燃料極への侵入は、燃料極を酸化させ、燃料極が膨張する。そしてセルの亀裂はさらに大きく成長する。さらに継続して起動・運転・停止を繰り返すと、セルは崩壊する。また運転時においては負荷追従時に生じる燃料不足で燃料極が酸化し、セルに亀裂を生じやすい。以上、絶縁支持体に燃料極、電解質、空気極を設けるセルにおいては、従来の構成では起動・運転・停止時に接合部に亀裂を生じやすかった。
【0011】
特許第5173458号公報(特許文献1)には、基体管の端部までリード膜ならびに集電部材が設けられた形状が提案されている。この形状では、起動時の温度ムラで生じるひずみによって基体管端部に応力が集中し、基体管もしくはリード膜もしくは気密膜に亀裂を生じる可能性がある。また「固体酸化物燃料電池と地球環境(著者:田川博章、発行所:アグネ社、1998年6月20日発行)」の144ページによれば、8%イットリア安定化ジルコニアの熱膨張係数は10.3であり、15%カルシア安定化ジルコニアの熱膨張係数は10.3で、それぞれ同じ熱膨張係数である。これらの材料を選定しているため、起動時の温度ムラによっては、膜に引っ張り応力が作用し、気密膜に亀裂が走る可能性がある。
【0012】
特許5080951号公報(特許文献2)には、集電体と内側電極とを所定の間隔をおいて形成することにより、積層時や焼成時の、境界部に発生する残留応力を低減し、内側電極の剥離やクラック等の発生を抑制することが提案されている。さらに、特許文献2には、2つの固体酸化物形燃料電池セルユニットを、接続部材を介して電気的に接続する構造が開示されている。固体酸化物形燃料電池セルユニットと接続部材との接合部は、絶縁支持体に燃料極、電解質、空気極を順に膜形成した部分に接続部材が接続されている。このような接合部の構造を燃料電池セルと燃料ガスタンクとの接合部に適用すると、起動停止時に接合部に亀裂が生じる可能性がある。
【0013】
特開2010−257744号公報(特許文献3)および特開2008−59793号公報(特許文献4)の開示は、電解質が絶縁支持体の端部まで覆われたセルを用い、接合部の一部もしくは全部は、絶縁支持体、電解質の順に構成されたセルに接合している。この接合構成は、起動・停止時にセル端部の電解質に亀裂を生じ、さらには亀裂からガスリークを助長し、セルは致命的な損傷を受けることになる。
【0014】
特許第3064087号公報(特許文献5)には、固体酸化物形燃料電池セルユニットを燃料ガスタンクに気密固定して用いることは記載していない。特許文献5には、固体酸化物形燃料電池セルユニットを燃料ガスタンクに気密固定し、起動・停止したときに、接合近傍の電解質に亀裂が発生しやすいという課題認識がなく、結果、図面には電解質露出の長さが短い横縞形固体酸化物形燃料電池セルユニットが示されており、これは、起動・停止したときに、接合近傍の電解質に亀裂が発生しやすい。
【0015】
また、特許第5188236号公報(特許文献6)に記載のセルは燃料極管である。Ni金属を主体とする燃料極支持体は酸化物からなる絶縁支持体と比較し、金属ゆえに破壊じん性が高く壊れにくい。従って、特許文献6には、酸化物からなる絶縁支持体を用いる固体酸化物形燃料電池セルユニットで生じる起動・停止時の課題設定がない。
【0016】
本発明は、燃料ガスタンクに気密固定して用いられ、室温から高温への起動や、高温から室温への停止を繰り返したとき、気密固定した接合部の信頼性が高い固体酸化物形燃料電池セルユニットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決するために、本発明は、ガス流路を内部に備えた絶縁支持体の表面に、少なくとも燃料極、電解質、及び空気極が順次積層された発電素子を備え、絶縁支持体は酸化物からなる多孔質材料からなり、電解質は絶縁支持体の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する酸化物からなる、固体酸化物形燃料電池セルユニットであって、前記固体酸化物形燃料電池セルユニットは、電解質露出部、燃料極露出部、絶縁支持体露出部をさらに備えてなり、固体酸化物形燃料電池セルユニットの少なくとも一方の端部から、前記絶縁支持体露出部、前記燃料極露出部、及び前記電解質露出部の順に配置されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の固体酸化物形燃料電池セルユニットは、起動・停止を繰り返しても電解質に亀裂が生じにくい。その理由は以下の通りであると考えられる。電解質にてガスリークを発生させることは、著しく発電性能を低下させるので好ましくない。そのため電解質は亀裂が進展しないように常に圧縮応力が作用するように設計する。つまり電解質が絶縁支持体に比べて小さい熱膨張係数になるように電解質および絶縁支持体の材質を選定する。複数の固体酸化物形燃料電池セルユニットは、各固体酸化物形燃料電池セルユニットに燃料が均一分配するための燃料ガスタンクに配置され得る。固体酸化物形燃料電池セルユニットは燃料ガスタンクにガスリークしないようにガラスなどで気密接合されるが、その際、気密接合するために、固体酸化物形燃料電池セルユニットにおいて緻密な電解質を用いる。具体的には、燃料ガスタンクと気密接合するための電解質露出部を設ける。燃料ガスタンクとガラスで接合される電解質には、起動・停止時の温度ムラにより、絶縁支持体との熱膨張差で生じる負荷以上の負荷が発生する。電解質が絶縁支持体に直接成膜されている場合、酸化物からなる絶縁支持体は塑性変形しないため、電解質に発生する応力は緩和されることなく電解質に作用する。そのため起動・停止時に電解質に亀裂を生じることがあった。本発明者等は、絶縁支持体と電解質の間に金属の性質を有する燃料極を介在させると、燃料極は塑性変形し、電解質に生じる残留応力が低減されることを見出した。しかし絶縁支持体端と電解質端が揃っている場合は、燃料極の塑性変形による界面応力が端部の界面に集中し、この引っ張り応力で絶縁支持体に亀裂が生じやすくなる。固体酸化物形燃料電池セルユニットの少なくとも一方の端部から、絶縁支持体露出部、燃料極露出部及び電解質露出部の順に各露出部を設けることで、電解質と絶縁支持体に挟まれた燃料極に生じた応力は、燃料極露出部の塑性変形により応力緩和され、さらに絶縁支持体に応力緩和される。これにより、応力の集中が回避され、起動・停止時に電解質が亀裂するのを低減させることが可能となることが考えられる。
【0019】
本発明の一態様において、前記固体酸化物形燃料電池セルユニットは、ガス流路を内部に備えた絶縁支持体の表面に、少なくとも燃料極、電解質、及び空気極が順次積層された発電素子を複数備え、隣接する2つの発電素子のうちの一方の発電素子の燃料極と、他方の発電素子の空気極とがインタコネクタにより電気的に接続され、インタコネクタと一方の発電素子を構成する空気極との間には、電気的に絶縁するための電解質絶縁露出部を備え、電解質絶縁露出部の長さL4と、電解質露出部の長さL3が、L3>L4の関係を満たす。なお、固体酸化物型燃料電池セルユニットは、発電素子を、例えば2個以上100個以下、好ましくは2個以上30個以下、より好ましくは5個以上25個以下、備えることができる。
【0020】
電解質露出部は空気極と燃料極露出部に挟まれた領域であり、金属からなる燃料ガスタンクと接合される領域でもある。従って、電解質露出部は、空気極と燃料極露出部と燃料ガスタンクとを電気的に絶縁する機能と気密性を高く接合する機能とを兼ね備えている。電解質絶縁露出部の長さL4は電解質露出部の長さL3より長く設定する必要はない。L3>L4の関係を満たすことで固体酸化物形燃料電池セルユニットの全長は短くなり、燃料電池モジュールの温度ムラが低減する。
【0021】
本発明の一態様において、前記燃料極露出部の長さをL2としたとき、L3>L2の関係を満たす。
【0022】
このように構成された本発明によれば、運転時の負荷追従において電解質に亀裂を生じにくくするが、その理由は以下の通りであると考えられる。すなわち、燃料極露出部は電流取り出しのための接続部を兼ね、燃料極露出部の長さL2は固体酸化物形燃料電池セルユニットが発電する電流量で決定される。また運転時、発電部は内部抵抗により発熱し、電力負荷追従運転によって発熱量は増減する。そのため、発電素子の電解質の温度は電流量に応じて変化する。固体酸化物形燃料電池セルユニットが発電する電流量が多いほど、この熱サイクルストレスは大きくなる。電解質露出部の長さが短く、発電素子が燃料極露出部に接近しすぎると、発電素子の熱サイクルストレスは電解質端部の燃料極との界面に応力を発生して亀裂が生成しやすくなる。熱サイクルストレスの大きさは発電する電流量に左右されることから、電解質露出部長さL3は発電の電流量により決定されるL2より長くすることが望ましい。
【0023】
また運転時においては、燃料利用率を高めるために、電力負荷追従運転を行なう。電流量変化に対してガス流量変化は遅く、電流量に対してガス流量が不足することがあり、ガス流量が不足した状態での運転は、電解質直下の燃料極の水素量不足を招く。その結果、燃料極が酸化して膨張し、電解質に引っ張り応力が働く。この観点においても、電解質露出部長さL3を発電の電流量により決定されるL2より長くすることは、水素不足による応力緩和にも有効である。
【0024】
本発明の一態様において、絶縁支持体露出部の長さL1と燃料極露出部の長さL2の合計は、燃料ガスタンクと固体酸化物形燃料電池セルユニットを気密接合する部位の燃料ガスタンクの壁厚Tに対して、T<(L1+L2)×2の関係を満たすことを特徴とする。
【0025】
このように構成すれば、起動・停止時の固体酸化物形燃料電池セルユニットへの応力集中は緩和されるので、気密性の信頼性はより向上する。その理由は次の通りであると考えられる。本発明者等は応力集中の基本に立ち返り詳細な検討を進めた。西田正孝 著「応力集中」(発行所:森北出版株式会社、1988年11月7日 増補版第6刷発行)の第767ページ〜第780ページには、分岐円筒において、内圧をうける円筒の応力集中率が記載され、777ページ〜778ページには主管と支管が互いに直角にスルー形に接合されているときの応力集中緩和効果に関する光弾性実験結果が報告されている。本書の
図151−20(参考のため
図5として転載した。)は、主管と支管が互いに垂直にスルー形に接合されている場合で、Dm、dmをそれぞれ主・支管の平均直径とし、T、tをそれぞれ主・支管の平均肉厚とし、δを支管が主管内壁から突出する高さとし、ρを主・支管のなすすみの丸みの半径とする。内圧PによりDm、Tの円筒に生じる応力をσ1とし、支管の内壁面と主・支管中心軸を結ぶ面との交線上において主管の壁の厚みの中央に近い点に生じる応力をσ2とすれば、σ2は最大応力となる。ここでσ2/σ1を応力集中率αと定義し、実験により得られたδ/Tとαの関係を
図151−21、
図151−22に示している(同じく参考までに
図6、
図7として転載)。ところで、ここで議論されているのは2つの管で構成された系の場合である。燃料電池では、燃料ガスタンクに固体酸化物形燃料電池セルユニットが接合される点で、また、少なくとも燃料ガスタンクが円筒であるケースは少ない、という点で、777ページ〜778ページの結果は直接流用できない。しかしながら、本発明者等は詳細に検討した結果、dmに対するDmの関係が変化しても、すなわちdm/Dmが違ってもδ/Tと応力集中率αの関係は大きく変化しないことに着目した。すなわち、主管と支管が互いに直角にスルー形に接合され、主管に対して支管が小さければ、δ/T値が2を超えると応力集中率αはほぼ設計上の下限に達することを発見した。ここでδはL1とL2を加えた値であると解釈すれば、L1とL2の和を2倍した値が、燃料ガスタンクの接合部の厚みTより大きくなると応力集中率は小さくなると理解でき、セル接合の信頼性は高くなると考えられる。
【0026】
なお絶縁支持体露出部の長さL1は、応力集中を緩和する観点から、燃料ガスタンクの接合部の厚みTよりも大きいことが好ましい。また、絶縁支持体露出部の長さL1は、電解質露出部の長さL3と同じかそれよりも小さくすることが好ましい。このようにすることで、発電部までの距離が短くなり、燃料ガスが発電素子に供給されるまでの所要時間が短くなる。特に低負荷運転ではガス流量が少なく、発電素子に到達するまでの時間を要する。運転時の負荷追従遅れが小さくなるので、燃料不足による発電素子のダメージが少なくなり、好ましい。
【0027】
また絶縁支持体露出部、燃料極露出部は多孔質であるため強度がない。一方、電解質露出部は、ガス透過性が無い程度に充分緻密であるため、圧縮応力が生じた状態で安定した強度を有する。従って電解質露出部で燃料ガスタンクと接合させることで、安定した機械強度を得ることができる。燃料極露出部は電気的接続を行う。多孔質で強度がない燃料極露出部を端部にすると亀裂が進展しやすい。従って絶縁支持体露出部を設けることで亀裂が進展しにくくなる。燃料極露出部より絶縁支持体露出部を長くすることで集電による応力がバランスよくなる。その結果、セル端部に亀裂は入りにくくなる。
【0028】
本発明の固体酸化物形燃料電池セルスタックは、固体酸化物型燃料電池セルユニットと、燃料ガスタンクと、集電体とを含んでなる。その際、燃料ガスタンクは電解質露出部と気密接合し、集電体は燃料極露出部または空気極と接合して電流を取り出すようにする。このようにすることで、固体酸化物形燃料電池セルユニットの亀裂が防止され、長期にわたり高い信頼性を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の固体酸化物形燃料電池セルユニットを用いれば、起動・運転・停止を繰り返しても、燃料電池モジュール内の構成要素との気密的な接合が良好である燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の1実施形態を用いた燃料電池セルスタックを示す。
【
図2】本発明の1実施形態にかかる固体酸化物形燃料電池セルユニットの端部の断面図である。
【
図3】本発明の1実施形態にかかる固体酸化物形燃料電池セルユニットの端部近傍の概略説明図である。
【
図4】本発明の1実施形態にかかる固体酸化物形燃料電池セルユニットの別の端部の断面図である。
【
図5】本発明が参考にした資料であって、主管と支管が互いに垂直にスルー形に接合させている断面図である。
【
図6】本発明が参考にした資料であって、応力集中率αとδ/Tの関係図である。
【
図7】本発明が参考にした資料であって、応力集中率αとρ/Tの関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に示すように、本発明の1実施形態を用いた燃料電池セルスタックAにおいては、燃料ガスタンク20に固体酸化物形燃料電池セルユニット1が複数個(
図1では7個)一体化されている。燃料ガスはガス流路23から燃料ガスタンク内に導入され、各固体酸化物形燃料電池セルユニットにほぼ均一にガスが供給される。各固体酸化物形燃料電池セルユニットは電気的に接合されるが図示していない。電気的な接合は、燃料ガスタンク内の燃料極露出部12で接続する場合もあるし、空気極14で行う場合もある。燃料ガスタンク20は金属容器であってもよいし、一部がセラミックスやガラスであってもよく、また内部にガス拡散性を向上させるガス拡散ジグが内蔵されていてもよく、ガス燃料が各固体酸化物形燃料電池セルユニット1に分配されればよい。
【0032】
図2には、固体酸化物形燃料電池セルユニット1と、燃料ガスタンク20とが気密接合する領域近傍の、固体酸化物形燃料電池セルユニット1の端部2を断面で示す。本発明の1実施形態において、ガス流路35を内部に備えた絶縁支持体30は、フォルステライト(Mg
2SiO
4)を主成分とする酸化物からなる多孔質材料である。
【0033】
絶縁支持体30には複数の発電素子が配置されている。
図2には2つの発電素子41、42が描かれているが、これに限定するものではない。本発明の1実施形態において、セルユニットの一端に設けられた発電素子41は、内側からNiまたは酸化Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とからなる燃料極31、ストロンチウム及びマグネシウムがドープされたランタンガレート(LSGM)からなる電解質32、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)からなる空気極33で構成される。なお燃料極31は燃料側導電層を兼ねていてもよい。また燃料極31と電解質32の間には図示していないが、Niまたは酸化Niとガドリニウムがドープされたセリア(GDC)とからなる燃料極触媒層、ランタンがドープされたセリア(LDC)からなる反応抑制層が層を形成していてもよい。本発明の1実施形態において、発電素子41に隣接して設けられた発電素子42も同様に、内側からNiまたは酸化NiとYSZとからなる燃料極31、LSGMからなる電解質32、LSCFからなる空気極33で構成される。なお燃料極31は燃料側導電層を兼ねていてもよい。また燃料極31と電解質32の間には図示していないが、Niまたは酸化NiとGDCとからなる燃料極触媒層、LDCからなる反応抑制層が層を形成していてもよい。発電素子41と発電素子42はランタンがドープされたストロンチウムチタネート(SLT)からなるインタコネクタ34で電気的につながっている。各層間には反応抑制層などを設けてもよい。
【0034】
図3には固体酸化物形燃料電池セルユニット1を燃料ガスタンク20に挿入した状態の端部2およびその近傍を示す。本発明の1実施形態において、燃料ガスタンク20に形成された壁21に設けられた穴3に固体酸化物形燃料電池セルユニット1が挿入されて、ガラス接合22され、一体化している。燃料極露出部12と空気極14に挟まれた電解質露出部13の長さをL3、発電素子41と発電素子42それぞれの空気極14に挟まれた電解質絶縁露出部15の長さをL4とするとL3>L4の関係が満たされている。また燃料極露出部12の長さをL2としたときL3>L2の関係が満たされている。また絶縁支持体露出部11の長さをL1とし、燃料ガスタンク20の壁21の厚みをTとしたとき、T<(L1+L2)×2 の関係が満たされている。
【0035】
図1では、固体酸化物形燃料電池セルユニット1の端部4は接合していないが、端部2と同様にタンクなどに接合することができる。
図4には、
図2に示した固体酸化物形燃料電池セルユニット1の端部2とは反対側の端部4を断面で示す。
図4には1つの発電素子が描かれているが、これに限定するものではない。本発明の1実施形態において、ガス流路35を内部に備えた絶縁支持体30は、フォルステライト(Mg
2SiO
4)を主成分とする酸化物からなる多孔質材料である。本発明の1実施形態において、発電素子43は内側からNiまたは酸化NiとYSZとからなる燃料極31、LSGMからなる電解質32、LSCFからなる空気極33で構成されている。また燃料極31と電解質32の間には図示していないが、Niまたは酸化NiとGDCとからなる燃料極触媒層、LDCからなる反応抑制層を形成していてもよい。また発電素子43のセル端部とは逆側に、図示していない発電素子44を備えている。発電素子43と発電素子44とはSLTからなるインタコネクタ34で電気的につながっている。また発電素子43の端部で、空気極33が、インタコネクタ34を介在して導電層37と接続する。導電層37は端部を除いて気密層38により覆われている。導電層37は燃料極31と同じ成分からなる。気密層38は電解質32と同じ成分からなる。
【0036】
本発明の1実施形態において、導電層37の露出部と空気極33に挟まれた気密層露出部53の長さをL53、発電素子43と発電素子44それぞれの空気極に挟まれた図示していない電解質絶縁露出部54の長さをL54とするとL53>L54の関係が満たされている。また導電層露出部52の長さをL52としたときL53>L52の関係が満たされている。また、端部4が燃料ガスタンク20に接合する場合、絶縁支持体露出部51の長さをL51とし、燃料ガスタンク20の壁21の厚みをTとしたとき、T<(L51+L52)×2 の関係が満たされている。
【0037】
絶縁支持体露出部11は絶縁支持体露出部51と、燃料極露出部12は導電層露出部52と、電解質露出部13は気密層露出部53と、それぞれ同一の長さとなることが好ましい。すなわち、端部2と端部4とは、お互いに外観上対称の構造であることが好ましい。
【0038】
なお、固体酸化物形燃料電池セルユニット1が燃料ガスタンクと接続する部位が
図2もしくは
図4の構造であればよく、端部2と端部4は入れ替わってもよい。固体酸化物形燃料電池セルユニット1の両端が
図2もしくは
図4の構造であってもよい。
【0039】
なお絶縁支持体30はフォルステライトに限定するものでなく、また電解質32もLSGMに限定するものではない。絶縁支持体30は電解質32と比較して熱膨張率が高い材料を選定することができる。例えば、電解質32は10モル%のY
2O
3で安定したYSZを選定してもよく、絶縁支持体30はMgOを含む酸化物を選定してもよい。
【0040】
また燃料極31はYSZに限定するものではない。例えば希土類もしくはその酸化物を固溶させたZrO
2からなる安定化ZrO
2であってもよい。またGa、Laなどを固溶させたCeO
2であってもよい。Y
2O
3であってもよい。
またガラス接合22はガラスに限定するものではない。結晶化ガラス、セラミック接着剤などであってもよい。
【符号の説明】
【0041】
A 燃料電池セルスタック
1 固体酸化物形燃料電池セルユニット
2 端部
3 穴
4 端部
11、51 絶縁支持体露出部
12 燃料極露出部
13 電解質露出部
14 空気極
15 電解質絶縁露出部
20 燃料ガスタンク
21 壁
22 ガラス接合
23 ガス流路
30 絶縁支持体
31 燃料極
32 電解質
33 空気極
34 インタコネクタ
35 ガス流路
41、42、43 発電素子
52 導電層露出部
53 気密層露出部