【発明が解決しようとする課題】
【0009】
リチウムイオン二次電池の製造コストを低減するため、コバルト/ニッケルの使用量を減らし、その代わりにマンガン使用量を増加させる傾向にある。このため正極材活物質中の有価金属を分離回収するには、効率よくマンガンを分離することが必要である。
【0010】
特許文献1の酸浸出方法は、還元剤や酸化剤の薬液を多量に消費するので経済的ではない。特に、コバルトやニッケルと比較して金属価値の低いマンガンが多く含まれる場合には、特許文献1の酸浸出方法は還元剤や酸化剤がマンガンの処理に消費されるので処理コストが嵩む問題がある。
【0011】
特許文献2および非特許文献1の溶媒抽出法は、最初にマンガンを抽出分離するので、酸浸出液にマンガンが多量に含まれているとマンガン抽出の負担が増加し、しかも抽出したマンガンにコバルトやニッケルが多く含まれるため、コバルトやニッケルの回収率が低下する。また、特許文献3の沈殿法は、溶媒抽出法のような薬液の負担が無く、効率よくコバルト、ニッケルを回収できる利点があるが、二酸化マンガンの沈殿時にコバルトの一部が酸化されて水酸化コバルトが沈殿し、コバルトの回収率が低下する傾向がある。
【0012】
本発明は、従来の回収方法における上記問題を解決したものであり、コバルトおよび/またはニッケルと共にマンガンを含有する材料から、マンガンの浸出を抑制して、コバルトおよび/またはニッケルを選択的に浸出させる方法を提供する。
なお、以下の説明において、Co・Niの表記は、材料にコバルトまたはニッケルの何れか一方が含まれている場合にはその材料に含まれているコバルトまたはニッケルの意味であり、材料にコバルトおよびニッケルの両方が含まれている場合にはその材料に含まれているコバルトおよびニッケルの意味である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の構成からなるCo・Niの浸出方法に関する。
〔1〕Co・Niと共にMnを含有する材料からCo・Niを浸出させる方法であって、pH2.5以下の液性下で上記材料を鉱酸に溶解
して、該鉱酸溶液中のマンガン、コバルトないしニッケルの各濃度を測定し、該鉱酸溶液中のマンガンイオン量
(マンガン濃度)と、未溶解固形分に含まれるコバルト量、ニッケル量、あるいはコバルトとニッケルの合計量とのモル比(Mn/Co・Niモル比)が0.5倍〜1.0倍
になるように、該モル比が0.5倍未満のときはマンガンイオン源を供給し、該モル比が1.0倍を超えるときは3価コバルト源を供給し、上記モル比の範囲に調整してCo・NiによるMnの酸化を進め、Mnを二酸化マンガンにして液中のマンガン濃度を低減し、Co・Niが二価に還元されることによって、Co・Niの浸出を進めることを特徴とするCo・Niの浸出方法。
〔2〕上記材料の鉱酸溶解液の温度を50℃以上にし、該液のpHを1.0以下に調整して、該鉱酸溶液中のマンガンイオン量と、未溶解固形分に含まれるコバルト量、ニッケル量、あるいはコバルトとニッケルの合計量とのモル比(Mn/Co・Niモル比)を0.6倍〜0.8倍に調整してCo・NiによるMnの酸化を進める上記[1]に記載するCo・Niの浸出方法。
〔3〕Co・Niと共にMnを含有する材料が、使用済みリチウムイオン二次電池の正極材活物質である上記[1]または上記[2]の何れかに記載するCo・Niの浸出方法。
〔4〕Mnの浸出率が5%以下であって、Co・Niの浸出率が40%以上の浸出液にする上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するCo・Niの浸出方法。
【0014】
〔具体的な説明〕
本発明は、Co・Niと共にMnを含有する材料からCo・Niを浸出させる方法であって、pH2.5以下の液性下で上記材料を鉱酸に溶解
して、該鉱酸溶液中のマンガン、コバルトないしニッケルの各濃度を測定し、該鉱酸溶液中のマンガンイオン量
(マンガン濃度)と、未溶解固形分に含まれるコバルト量、ニッケル量、あるいはコバルトとニッケルの合計量とのモル比(Mn/Co・Niモル比)が0.5倍〜1.0倍
になるように、該モル比が0.5倍未満のときはマンガンイオン源を供給し、該モル比が1.0倍を超えるときは3価コバルト源を供給し、上記モル比の範囲に調整してCo・NiによるMnの酸化を進め、Mnを二酸化マンガンにして液中のマンガン濃度を低減し、Co・Niが二価に還元されることによって、Co・Niの浸出を進めることを特徴とするCo・Niの浸出方法である。
【0015】
Co・Niと共にMnを含有する材料とは、コバルトとマンガンを含有する材料、ニッケルとマンガンを含有する材料、またはコバルトおよびニッケルとマンガンを含有する材料であり、例えば、リチウムイオン二次電池の使用済み正極材などである。該正極材に含まれている活物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、これらの複合酸化物(LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2)などによって形成されている。
【0016】
本発明の浸出方法は、Co・Niと共にMnを含有する材料として、リチウムイオン二次電池の使用済み正極材であって、(イ)コバルト酸リチウムを含む正極材とマンガン酸リチウムを含む正極材の混合物、(ロ)ニッケル酸リチウムを含む正極材とマンガン酸リチウムを含む正極材の混合物、(ハ)コバルト、ニッケル、およびマンガンを含む三元系のリチウム複合酸化物などを用いることができる。
【0017】
本発明の浸出方法は、Co・Niと共にMnを含有する材料、例えば、使用済み上記正極材を塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸に溶解し、正極材活物質に含まれているリチウム、コバルト、ニッケル、マンガンを溶出させる。例えば、上記正極材を硫酸で溶解すると正極材活物質を形成しているコバルト酸リチウムは次式[1]のように硫酸リチウムと硫酸コバルトに分解して1価の硫酸リチウム(I)と2価の硫酸コバルト(II)が溶出する。
【0018】
LiCoO
2 + 3/2H
2SO
4 + e
− → 1/2Li
2SO
4 + CoSO
4 + H
2O + OH
− ・・・[1]
【0019】
また正極材活物質であるコバルト酸リチウム中のコバルトは充放電の繰り返しによって3価または4価になっている。この3価または4価のコバルトは鉱酸に溶解し難いので固形分のまま残るが、2価に還元されると次式[2]、次式[3]に示すように溶解する。
【0020】
CoO
2+4H
++2e
− → Co
2++2H
2O ・・・[2]
Co
2O
3+6H
++2e
−→ 2Co
2++3H
2O ・・・[3]
【0021】
一方、正極材活物質のマンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)は次式[4]に示すように、硫酸に溶解して硫酸リチウム(II)と硫酸マンガン(II)が溶出する。この溶出したマンガンは液中に酸化物質が存在すると酸化されて二酸化マンガン(IV)を生じる(式[5])。
【0022】
LiMn
2O
3+8H
++3e
−→ Li
++2Mn
2++4H
2O ・・・[4]
Mn
2++2H
2O → MnO
2↓+4H
+ +2e
− ・・・[5]
【0023】
コバルトとマンガンが共存する系では、
図1に示すように、マンガンの酸化還元電位はコバルトの酸化還元電位より低いので、次式[6][7]のように、2価のマンガンは3価または4価のコバルトによって酸化されて二酸化マンガン(IV)を生じ、3価または4価のコバルトは2価に還元されて液中に溶出する。
【0024】
CoO
2+ Mn
2+ → Co
2+ + MnO
2 ・・・[6]
Co
2O
3+ 2H
+ + Mn
2+ → 2Co
2+ + MnO
2↓ + H
2O ・・・[7]
【0025】
正極材活物質のニッケル酸リチウムもコバルト酸リチウムと同様であり、次式[8]に示すように鉱酸に溶解してニッケルを溶出する。また、充放電によって生じた3価または4価のニッケルは、ニッケルとマンガンが共存する系では、次式[9][10]のように、マンガンの酸化によって3価、4価のニッケルが2価に還元されて液中に溶出する。
【0026】
LiNiO
2+ 3H
++e
− → Li
++Ni
2++ H
2O + OH
− ・・・[8]
NiO
2+ Mn
2+ → Ni
2+ + MnO
2 ・・・[9]
Ni
2O
3+ 2H
+ + Mn
2+ → 2Ni
2+ + MnO
2↓ + H
2O ・・[10]
【0027】
本発明の浸出方法は、Co・Niと共にMnを含有する材料、例えば、正極材活物質のコバルト酸リチウムとマンガン酸リチウムの混合物、あるいはリチウム、コバルト、およびマンガンの複合酸化物を鉱酸に溶解し、pH2.5以下の液性下で浸出を行う。
【0028】
正極材活物質のコバルト酸リチウムは鉱酸に溶解して2価コバルトが浸出する。浸出初期は、3価または4価のコバルトの大部分は未溶解の状態であるが、この3価または4価の未溶解なコバルトが液中のマンガン(II)イオンと反応して2価に還元されると、コバルトの浸出が進み、一方、マンガンは2価から4価へ酸化されることによって二酸化マンガンの沈澱が生成し、液中のマンガン濃度は次第に低下する。従って、コバルトの浸出率が高く、マンガンの浸出率が低い浸出液を得ることができる。
【0029】
コバルト酸リチウムとマンガン酸リチウムの混合物を鉱酸に溶解した場合、あるいはリチウム、ニッケル、およびマンガンの複合酸化物を鉱酸に溶解した場合にも、コバルトの場合と同様であり、浸出初期には未溶解の3価または4価のニッケル)が、液中のマンガン(II)イオンと反応して2価に還元されると、ニッケルの浸出が進み、マンガンは2価から4価へ酸化されることによって二酸化マンガン(IV)の沈澱が生成し、液中のマンガン濃度は次第に低下する。
【0030】
図2に示すように、コバルト、ニッケル、およびマンガンの三元共存系においても同様であり、浸出時間の経過によってマンガンによるコバルトおよびニッケルの還元によって次第にコバルトとニッケルの浸出が進み、コバルト濃度およびニッケル濃度は高くなり、一方、二酸化マンガン(IV)の生成によって液中のマンガン濃度は低下する。
【0031】
本発明の浸出方法では、Co・Niと共にMnを含有する材料を鉱酸に溶解し、pH2.5以下の液性下で浸出を行う。
図1に示すように、pHが2.5よりも高くなると、水酸化コバルト(III)が生じるので液中のコバルト濃度が低下する。ニッケルも同様の傾向を示すので好ましくない。
【0032】
本発明の浸出方法において液温は50℃以上が良く、60℃以上が好ましい。例えば、コバルト浸出率が液温50℃において浸出5時間で約26%、浸出10時間で約40%であるとき、液温60℃では浸出5時間で約60%、浸出10時間で約90%に向上し、液温75℃では浸出5時間で約90%に向上する。
【0033】
本発明の浸出方法において、浸出開始時の鉱酸溶液中のマンガン(II)イオン量
と、上記出発材料の未溶解固形分に含まれるコバルト量またはニッケル量
とのモル比、あるいは上記出発材料にコバルトおよびニッケルが含まれる場合には、上記マンガン(II)イオン量
と、コバルトとニッケルの合計量
とのモル比(これらのモル比をMn/Co・Niモル比と云う)は0.5倍〜1.0倍が良く、0.6倍〜0.8倍が好ましい。未溶解固形分に含まれるCo・Ni量は、出発材料に含まれるCo・Ni量から浸出開始時の液中のCo・Ni量を差し引いて求めることができる。
【0034】
上記正極材を鉱酸に溶解すると、溶解開始から5分〜10分程度で該正極材のほぼ半分量が溶解するので、該鉱酸溶液中のマンガン濃度、コバルト濃度ないしニッケル濃度を測定し、Mn/Co・Niモル比が0.5倍〜1.0倍になるように、好ましくは0.6倍〜0.8倍になるように調整すると良い。Mn/Co・Niモル比を0.5倍〜1.0倍、好ましくは0.6倍〜0.8倍に調整することによって、未溶解固形分に含まれるコバルト・ニッケルの浸出が進む。未溶解固形分に含まれるコバルト・ニッケルは主に3価、4価であり、これらがマンガン(II)イオンと反応して2価に還元されると液中に浸出する。
【0035】
Mn/Co・Niモル比が0.5倍未満の場合は、未溶解固形分に含まれる3価、4価のコバルト・ニッケル含有量に対して液中のマンガン(II)イオン量が不足しているので、マンガン(II)イオンを供給して、Mn/Co・Niモル比を0.5倍〜1.0倍、好ましくは0.6倍〜0.8倍に調整すると良い。マンガン(II)イオンの供給源として硫酸マンガン(II)などを用いることができる。
【0036】
一方、Mn/Co・Niモル比が1.0倍を超えると、液中のマンガン(II)イオン量が残留してマンガン濃度が高くなるので好ましくない。Mn/Co・Niモル比が1.0倍を超える場合には、水酸化コバルト(III)などの3価のコバルト源を添加してマンガン(II)イオンを二酸化マンガンに酸化させ、Mn/Co・Niモル比を0.5倍〜1.0倍、好ましくは0.6倍〜0.8倍に調整すると良い。
水酸化コバルト(III)は、例えば、硫酸コバルト(II)等の溶液をpH4前後に保ちながら、過酸化水素水あるいは次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を加え、酸化還元電位を銀―塩化銀電極基準で1050mV程度に調整して生じる沈殿を用いると良い。