特許第6365838号(P6365838)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365838
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】コバルト・ニッケルの浸出方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20180723BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20180723BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B7/00 C
   C22B3/06
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-241893(P2014-241893)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-102251(P2016-102251A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年8月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】川崎 始
(72)【発明者】
【氏名】西村 建二
(72)【発明者】
【氏名】田村 哉智
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−194315(JP,A)
【文献】 特開2015−196846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00
C22B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co・Niと共にMnを含有する材料からCo・Niを浸出させる方法であって、pH2.5以下の液性下で上記材料を鉱酸に溶解して、該鉱酸溶液中のマンガン、コバルトないしニッケルの各濃度を測定し、該鉱酸溶液中のマンガンイオン量(マンガン濃度)と、未溶解固形分に含まれるコバルト量、ニッケル量、あるいはコバルトとニッケルの合計量とのモル比(Mn/Co・Niモル比)が0.5倍〜1.0倍になるように、該モル比が0.5倍未満のときはマンガンイオン源を供給し、該モル比が1.0倍を超えるときは3価コバルト源を供給し、上記モル比の範囲に調整してCo・NiによるMnの酸化を進め、Mnを二酸化マンガンにして液中のマンガン濃度を低減し、Co・Niが二価に還元されることによって、Co・Niの浸出を進めることを特徴とするCo・Niの浸出方法。
【請求項2】
上記材料の鉱酸溶解液の温度を50℃以上にし、該液のpHを1.0以下に調整して、該鉱酸溶液中のマンガンイオン量と、未溶解固形分に含まれるコバルト量、ニッケル量、あるいはコバルトとニッケルの合計量とのモル比(Mn/Co・Niモル比)を0.6倍〜0.8倍に調整してCo・NiによるMnの酸化を進める請求項1に記載するCo・Niの浸出方法。
【請求項3】
Co・Niと共にMnを含有する材料が、使用済みリチウムイオン二次電池の正極材活物質である請求項1または請求項2の何れかに記載するCo・Niの浸出方法。
【請求項4】
Mnの浸出率が5%以下であって、Co・Niの浸出率が40%以上の浸出液にする請求項1〜請求項3の何れかに記載するCo・Niの浸出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルトおよび/またはニッケルと共にマンガンを含有する材料から、マンガンの浸出を抑制して、コバルトおよび/またはニッケルを選択的に浸出させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池が広く用いられており、リチウムイオン二次電池の正極材活物質はコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸鉄リチウム等、またはこれらの複合酸化物によって形成されている。このように正極活物質にはリチウムと共にコバルト、ニッケル、マンガン等の有価金属が含まれており、使用済みリチウムイオン二次電池などからこれらの有価金属を回収することが求められている。
【0003】
使用済みリチウムイオン二次電池から、リチウム、コバルト、ニッケル等を回収するには、該二次電池から分離した正極材活物質を塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸に溶解して上記有価金属を酸浸出し、この浸出液から化学的にリチウム、コバルト、ニッケル、マンガンを分離して回収する方法が知られている。
【0004】
鉱酸を用いて正極材活物質に含まれる上記有価金属を浸出させる方法において、リチウムは容易に浸出することができるが、コバルト、ニッケル、およびマンガンは該二次電池が充放電されることによって様々な価数になるため、十分に浸出させることが難しい。特にコバルトやニッケルは3価以上の状態では浸出し難い。このためアスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム等の還元剤、過酸化水素水等の酸化剤、または黒鉛、活性炭等の固定炭素等によって価数を調整して溶解させることが知られている(特許文献1等)。
【0005】
この酸浸出液からリチウム、コバルト、ニッケル等を分離回収する方法としては、溶媒抽出法、沈殿法、または沈殿法と溶媒抽出法の組み合わせた方法などが知られている。
溶媒抽出による抽出分離方法は、先ず上記酸浸出液から、D2EHPAまたはPC-88Aを抽出剤としてマンガンを選択的に抽出する。この抽出残液にはコバルト、ニッケル、リチウムが残るので、再びPC-88Aを抽出剤としてコバルトおよびニッケルを抽出する(特許文献2、非特許文献1等)。最終的な抽出残液にはリチウムが残るので、該抽出残液に炭酸を加え、炭酸リチウムを沈澱させて回収する。
【0006】
沈殿法による分離は、使用済みリチウムイオン二次電池の電極活物質を硫酸浸出し、該浸出液に硫化物を添加して硫化銅を沈澱させて分離し、その液分にアルカリを添加して水酸化アルミニウムを沈澱させて分離し、その液分に次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を添加して二酸化マンガンを沈殿させて分離し、コバルトおよびニッケルを回収する方法が提案されている(特願2014−064242号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−24482号公報
【特許文献2】特開2013−76108号公報
【特許文献3】特願2014−064242号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Separetion of Co,Ni and Cu by solvent extraction using di-(2-ethylhexyl)phosphonic acid,PC 88A , N.V.Thakur, Hydrometallurgy, 48, 1998, p277-289。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
リチウムイオン二次電池の製造コストを低減するため、コバルト/ニッケルの使用量を減らし、その代わりにマンガン使用量を増加させる傾向にある。このため正極材活物質中の有価金属を分離回収するには、効率よくマンガンを分離することが必要である。
【0010】
特許文献1の酸浸出方法は、還元剤や酸化剤の薬液を多量に消費するので経済的ではない。特に、コバルトやニッケルと比較して金属価値の低いマンガンが多く含まれる場合には、特許文献1の酸浸出方法は還元剤や酸化剤がマンガンの処理に消費されるので処理コストが嵩む問題がある。
【0011】
特許文献2および非特許文献1の溶媒抽出法は、最初にマンガンを抽出分離するので、酸浸出液にマンガンが多量に含まれているとマンガン抽出の負担が増加し、しかも抽出したマンガンにコバルトやニッケルが多く含まれるため、コバルトやニッケルの回収率が低下する。また、特許文献3の沈殿法は、溶媒抽出法のような薬液の負担が無く、効率よくコバルト、ニッケルを回収できる利点があるが、二酸化マンガンの沈殿時にコバルトの一部が酸化されて水酸化コバルトが沈殿し、コバルトの回収率が低下する傾向がある。
【0012】
本発明は、従来の回収方法における上記問題を解決したものであり、コバルトおよび/またはニッケルと共にマンガンを含有する材料から、マンガンの浸出を抑制して、コバルトおよび/またはニッケルを選択的に浸出させる方法を提供する。
なお、以下の説明において、Co・Niの表記は、材料にコバルトまたはニッケルの何れか一方が含まれている場合にはその材料に含まれているコバルトまたはニッケルの意味であり、材料にコバルトおよびニッケルの両方が含まれている場合にはその材料に含まれているコバルトおよびニッケルの意味である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の構成からなるCo・Niの浸出方法に関する。
〔1〕Co・Niと共にMnを含有する材料からCo・Niを浸出させる方法であって、pH2.5以下の液性下で上記材料を鉱酸に溶解して、該鉱酸溶液中のマンガン、コバルトないしニッケルの各濃度を測定し、該鉱酸溶液中のマンガンイオン量(マンガン濃度)と、未溶解固形分に含まれるコバルト量、ニッケル量、あるいはコバルトとニッケルの合計量とのモル比(Mn/Co・Niモル比)が0.5倍〜1.0倍になるように、該モル比が0.5倍未満のときはマンガンイオン源を供給し、該モル比が1.0倍を超えるときは3価コバルト源を供給し、上記モル比の範囲に調整してCo・NiによるMnの酸化を進め、Mnを二酸化マンガンにして液中のマンガン濃度を低減し、Co・Niが二価に還元されることによって、Co・Niの浸出を進めることを特徴とするCo・Niの浸出方法。
〔2〕上記材料の鉱酸溶解液の温度を50℃以上にし、該液のpHを1.0以下に調整して、該鉱酸溶液中のマンガンイオン量と、未溶解固形分に含まれるコバルト量、ニッケル量、あるいはコバルトとニッケルの合計量とのモル比(Mn/Co・Niモル比)を0.6倍〜0.8倍に調整してCo・NiによるMnの酸化を進める上記[1]に記載するCo・Niの浸出方法。
〔3〕Co・Niと共にMnを含有する材料が、使用済みリチウムイオン二次電池の正極材活物質である上記[1]または上記[2]の何れかに記載するCo・Niの浸出方法。
〔4〕Mnの浸出率が5%以下であって、Co・Niの浸出率が40%以上の浸出液にする上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するCo・Niの浸出方法。
【0014】
〔具体的な説明〕
本発明は、Co・Niと共にMnを含有する材料からCo・Niを浸出させる方法であって、pH2.5以下の液性下で上記材料を鉱酸に溶解して、該鉱酸溶液中のマンガン、コバルトないしニッケルの各濃度を測定し、該鉱酸溶液中のマンガンイオン量(マンガン濃度)と、未溶解固形分に含まれるコバルト量、ニッケル量、あるいはコバルトとニッケルの合計量とのモル比(Mn/Co・Niモル比)が0.5倍〜1.0倍になるように、該モル比が0.5倍未満のときはマンガンイオン源を供給し、該モル比が1.0倍を超えるときは3価コバルト源を供給し、上記モル比の範囲に調整してCo・NiによるMnの酸化を進め、Mnを二酸化マンガンにして液中のマンガン濃度を低減し、Co・Niが二価に還元されることによって、Co・Niの浸出を進めることを特徴とするCo・Niの浸出方法である。
【0015】
Co・Niと共にMnを含有する材料とは、コバルトとマンガンを含有する材料、ニッケルとマンガンを含有する材料、またはコバルトおよびニッケルとマンガンを含有する材料であり、例えば、リチウムイオン二次電池の使用済み正極材などである。該正極材に含まれている活物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、これらの複合酸化物(LiCo1/3Ni1/3Mn1/3)などによって形成されている。
【0016】
本発明の浸出方法は、Co・Niと共にMnを含有する材料として、リチウムイオン二次電池の使用済み正極材であって、(イ)コバルト酸リチウムを含む正極材とマンガン酸リチウムを含む正極材の混合物、(ロ)ニッケル酸リチウムを含む正極材とマンガン酸リチウムを含む正極材の混合物、(ハ)コバルト、ニッケル、およびマンガンを含む三元系のリチウム複合酸化物などを用いることができる。
【0017】
本発明の浸出方法は、Co・Niと共にMnを含有する材料、例えば、使用済み上記正極材を塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸に溶解し、正極材活物質に含まれているリチウム、コバルト、ニッケル、マンガンを溶出させる。例えば、上記正極材を硫酸で溶解すると正極材活物質を形成しているコバルト酸リチウムは次式[1]のように硫酸リチウムと硫酸コバルトに分解して1価の硫酸リチウム(I)と2価の硫酸コバルト(II)が溶出する。
【0018】
LiCoO2 + 3/2H2SO4 + e → 1/2Li2SO4 + CoSO4 + H2O + OH ・・・[1]
【0019】
また正極材活物質であるコバルト酸リチウム中のコバルトは充放電の繰り返しによって3価または4価になっている。この3価または4価のコバルトは鉱酸に溶解し難いので固形分のまま残るが、2価に還元されると次式[2]、次式[3]に示すように溶解する。
【0020】
CoO+4H+2e → Co2++2HO ・・・[2]
CoO+6H+2e→ 2Co2++3HO ・・・[3]
【0021】
一方、正極材活物質のマンガン酸リチウム(LiMn)は次式[4]に示すように、硫酸に溶解して硫酸リチウム(II)と硫酸マンガン(II)が溶出する。この溶出したマンガンは液中に酸化物質が存在すると酸化されて二酸化マンガン(IV)を生じる(式[5])。
【0022】
LiMnO+8H+3e→ Li+2Mn2++4HO ・・・[4]
Mn2++2HO → MnO↓+4H +2e ・・・[5]
【0023】
コバルトとマンガンが共存する系では、図1に示すように、マンガンの酸化還元電位はコバルトの酸化還元電位より低いので、次式[6][7]のように、2価のマンガンは3価または4価のコバルトによって酸化されて二酸化マンガン(IV)を生じ、3価または4価のコバルトは2価に還元されて液中に溶出する。
【0024】
CoO+ Mn2+ → Co2+ + MnO ・・・[6]
CoO+ 2H + Mn2+ → 2Co2+ + MnO↓ + HO ・・・[7]
【0025】
正極材活物質のニッケル酸リチウムもコバルト酸リチウムと同様であり、次式[8]に示すように鉱酸に溶解してニッケルを溶出する。また、充放電によって生じた3価または4価のニッケルは、ニッケルとマンガンが共存する系では、次式[9][10]のように、マンガンの酸化によって3価、4価のニッケルが2価に還元されて液中に溶出する。
【0026】
LiNiO+ 3H+e → Li+Ni2++ HO + OH ・・・[8]
NiO+ Mn2+ → Ni2+ + MnO ・・・[9]
NiO+ 2H + Mn2+ → 2Ni2+ + MnO↓ + HO ・・[10]
【0027】
本発明の浸出方法は、Co・Niと共にMnを含有する材料、例えば、正極材活物質のコバルト酸リチウムとマンガン酸リチウムの混合物、あるいはリチウム、コバルト、およびマンガンの複合酸化物を鉱酸に溶解し、pH2.5以下の液性下で浸出を行う。
【0028】
正極材活物質のコバルト酸リチウムは鉱酸に溶解して2価コバルトが浸出する。浸出初期は、3価または4価のコバルトの大部分は未溶解の状態であるが、この3価または4価の未溶解なコバルトが液中のマンガン(II)イオンと反応して2価に還元されると、コバルトの浸出が進み、一方、マンガンは2価から4価へ酸化されることによって二酸化マンガンの沈澱が生成し、液中のマンガン濃度は次第に低下する。従って、コバルトの浸出率が高く、マンガンの浸出率が低い浸出液を得ることができる。
【0029】
コバルト酸リチウムとマンガン酸リチウムの混合物を鉱酸に溶解した場合、あるいはリチウム、ニッケル、およびマンガンの複合酸化物を鉱酸に溶解した場合にも、コバルトの場合と同様であり、浸出初期には未溶解の3価または4価のニッケル)が、液中のマンガン(II)イオンと反応して2価に還元されると、ニッケルの浸出が進み、マンガンは2価から4価へ酸化されることによって二酸化マンガン(IV)の沈澱が生成し、液中のマンガン濃度は次第に低下する。
【0030】
図2に示すように、コバルト、ニッケル、およびマンガンの三元共存系においても同様であり、浸出時間の経過によってマンガンによるコバルトおよびニッケルの還元によって次第にコバルトとニッケルの浸出が進み、コバルト濃度およびニッケル濃度は高くなり、一方、二酸化マンガン(IV)の生成によって液中のマンガン濃度は低下する。
【0031】
本発明の浸出方法では、Co・Niと共にMnを含有する材料を鉱酸に溶解し、pH2.5以下の液性下で浸出を行う。図1に示すように、pHが2.5よりも高くなると、水酸化コバルト(III)が生じるので液中のコバルト濃度が低下する。ニッケルも同様の傾向を示すので好ましくない。
【0032】
本発明の浸出方法において液温は50℃以上が良く、60℃以上が好ましい。例えば、コバルト浸出率が液温50℃において浸出5時間で約26%、浸出10時間で約40%であるとき、液温60℃では浸出5時間で約60%、浸出10時間で約90%に向上し、液温75℃では浸出5時間で約90%に向上する。
【0033】
本発明の浸出方法において、浸出開始時の鉱酸溶液中のマンガン(II)イオン量と、上記出発材料の未溶解固形分に含まれるコバルト量またはニッケル量とのモル比、あるいは上記出発材料にコバルトおよびニッケルが含まれる場合には、上記マンガン(II)イオン量と、コバルトとニッケルの合計量とのモル比(これらのモル比をMn/Co・Niモル比と云う)は0.5倍〜1.0倍が良く、0.6倍〜0.8倍が好ましい。未溶解固形分に含まれるCo・Ni量は、出発材料に含まれるCo・Ni量から浸出開始時の液中のCo・Ni量を差し引いて求めることができる。

【0034】
上記正極材を鉱酸に溶解すると、溶解開始から5分〜10分程度で該正極材のほぼ半分量が溶解するので、該鉱酸溶液中のマンガン濃度、コバルト濃度ないしニッケル濃度を測定し、Mn/Co・Niモル比が0.5倍〜1.0倍になるように、好ましくは0.6倍〜0.8倍になるように調整すると良い。Mn/Co・Niモル比を0.5倍〜1.0倍、好ましくは0.6倍〜0.8倍に調整することによって、未溶解固形分に含まれるコバルト・ニッケルの浸出が進む。未溶解固形分に含まれるコバルト・ニッケルは主に3価、4価であり、これらがマンガン(II)イオンと反応して2価に還元されると液中に浸出する。
【0035】
Mn/Co・Niモル比が0.5倍未満の場合は、未溶解固形分に含まれる3価、4価のコバルト・ニッケル含有量に対して液中のマンガン(II)イオン量が不足しているので、マンガン(II)イオンを供給して、Mn/Co・Niモル比を0.5倍〜1.0倍、好ましくは0.6倍〜0.8倍に調整すると良い。マンガン(II)イオンの供給源として硫酸マンガン(II)などを用いることができる。
【0036】
一方、Mn/Co・Niモル比が1.0倍を超えると、液中のマンガン(II)イオン量が残留してマンガン濃度が高くなるので好ましくない。Mn/Co・Niモル比が1.0倍を超える場合には、水酸化コバルト(III)などの3価のコバルト源を添加してマンガン(II)イオンを二酸化マンガンに酸化させ、Mn/Co・Niモル比を0.5倍〜1.0倍、好ましくは0.6倍〜0.8倍に調整すると良い。
水酸化コバルト(III)は、例えば、硫酸コバルト(II)等の溶液をpH4前後に保ちながら、過酸化水素水あるいは次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を加え、酸化還元電位を銀―塩化銀電極基準で1050mV程度に調整して生じる沈殿を用いると良い。
【発明の効果】
【0037】
本発明の浸出方法は、リチウムイオン二次電池の使用済み正極材活物質に含まれる有価金属を鉱酸で浸出する際、正極材活物質に含まれるマンガンを利用して、コバルト・ニッケルを2価に還元して選択的に浸出させるので、コバルト・ニッケルの浸出率が高い浸出液を得ることができ、この浸出液から溶媒抽出法などによって高い収率でコバルト・ニッケルを回収することができる。具体的には、本発明の浸出方法によれば、Mnの浸出率が5%以下であって、Co・Niの浸出率が40%以上の浸出液を得ることができる。
【0038】
また、本発明の浸出方法によって得られる浸出液はマンガン濃度が低いので、この浸出液から溶媒抽出法などによってコバルト・ニッケルを回収する際に、マンガンを分離する負担が少なく、効率よくコバルト・ニッケルを回収することができる。
【0039】
さらに、本発明の浸出方法は、正極材活物質に含まれるマンガンを利用して、コバルト・ニッケルを還元するので、還元剤の使用量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】コバルト−マンガン共存系の酸化還元電位とpHの相関グラフ。
図2】実施例1の浸出時間とLi、Mn、Co、Niの各濃度の相関グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に本発明の実施例を示す。各実施例において液中の元素濃度はICPで測定した。Li、Ni、Co、Mnの浸出率は、出発材料の正極材活物質に含まれる各元素の含有量に対する浸出液中のLi、Ni、Co、Mnの各濃度の重量比(濃度/含有量比)である。
【0042】
〔実施例1〕
リチウムイオン二次電池に用いられている三元系の正極材活物質(Li:7.5wt%、Mn:18.7wt%、Co:19.9wt%、Ni:19.8wt%)14.5gを60℃に加熱した硫酸(濃度245g/L)100mlに添加して溶解させた。該正極材活物質に含まれるLi、Mn、Co、Niの含有量、浸出開始時のLi、Mn、Co、Niの各濃度、およびMn/Co・Niモル比を表1に示す。なお、Mn/Co・Niモル比において、Mnは液中のマンガン濃度、Co・Niは未溶解固形分に残留するCo量とNi量の合計量、Mn/Co・Niモル比はこれらの量に基づくモル比である。
Mn/Co・Niモル比は次の計算式に示すように、Mn/Coモル比とMn/Niモル比に基づいて求めた。
Mn/Co・Niモル比=[Mn濃度(g/L)×硫酸量(L)/Mn原子量]/ [(活物質量(g)×Co含有率(%)/100−Co濃度(g/L)×硫酸量(L))/Co原子量+(活物質量(g)×Ni含有率(%)/100−Ni濃度(g/L)×硫酸量(L))/Ni原子量]
上記硫酸溶解液を2時間撹拌し、Li、Mn、Co、Niを浸出させた。浸出後のpHは0.16であった。浸出後、固液分離して浸出液のLi、Ni、Co、Mnの各濃度を定量した。2時間浸出後の浸出液の各元素の濃度と浸出率を表1に示す。また、固液分離前の上記硫酸溶解液を60℃で、16時間攪拌して浸出を行った。浸出後のpHは0.40であった。浸出後、固液分離して浸出液のLi、Ni、Co、Mnの各濃度を定量した。16時間後の浸出液の各元素の濃度と浸出率を表1示す。また、浸出時間と元素濃度の相関を図2に示す。
表1に示すように、2時間浸出でリチウムは90%以上浸出するが、マンガン、コバルト、ニッケルは約40%程度の浸出率である。16時間浸出になると、マンガンとコバルトおよびニッケルの置換反応が進み、マンガン濃度が低下してコバルト濃度およびニッケル濃度が上昇する。ただし、Mn/Co・Niモル比が0.31と小さいため、これらの反応によってマンガン(II)イオンが消費されて次第に不足し、コバルトおよびニッケルが十分に浸出せず、これらの浸出率は約55%〜約58%であった。
【0043】
【表1】
【0044】
〔実施例2〕
実施例1と同様の正極材活物質14.5gを60℃に加熱した硫酸(濃度245g/L)100mlに添加し、さらに浸出開始時のMn/Co・Niモル比が0.97倍になるように、硫酸マンガン溶液(Mn濃度50g/L)を添加した。この硫酸溶解液を60℃で8時間撹拌し、Li、Ni、Co、Mnを浸出した。浸出後のpHは0.39であった。浸出後、固液分離して浸出液のLi、Ni、Co、Mnの各濃度を定量した。これらの濃度および浸出率を表2に示す。
表2に示すように、硫酸マンガンを添加してMn/Co・Niモル比を約1.0倍に調整することによってコバルトおよびニッケルを約90%以上浸出することができる。
添加したマンガンイオンは二酸化マンガン沈殿になるので、液中のマンガン濃度を0.5g/Lに低下することができた。このように、高価な還元剤を使用せずに、コバルトおよびニッケルを高い浸出率で浸出することができ、またマンガンの大部分は沈殿物になって浸出液から除かれるので、後段のマンガン分離の負荷を大幅に低減できることが確認された。
【0045】
【表2】
【0046】
〔実施例3〕
使用済みリチウムイオン二次電池から回収した正極材活物質15.0gを60℃に加熱した硫酸(濃度245g/L)100mlに添加して溶解し、該硫酸溶解液を8時間撹拌してLi、Mn、Co、Niを浸出させて各濃度を定量した。浸出後のpHは0.38であった(試料A)。
一方、上記正極材活物質15.0gに、水酸化コバルトCo(OH)7.0gを加え、60℃に加熱した硫酸(濃度245g/L)100mlに添加して溶解し、該硫酸溶解液を8時間撹拌してLi、Mn、Co、Niを浸出させて各濃度を定量した。浸出後のpHは0.38であった(試料B)。
上記正極材活物質に含まれるLi、Mn、Co、Niの含有量、浸出開始時のLi、Mn、Co、Niの各濃度、およびMn/Co・Niモル比を表3に示す。また試料A、Bについて、浸出後のLi、Ni、Co、Mnの各濃度および浸出率を表3に示す。
表3に示すように、リチウムは浸出しやすいが、試料Aのコバルト、ニッケルの浸出率は約57%、約37%である。一方、水酸化コバルトを添加した試料Bはマンガンの浸出率は約0.8%に低下し、コバルトの浸出率は約65%、ニッケルの浸出率は約40%に上昇しており、上記Mn/Co・Niモル比を調整することによってマンガンの浸出を抑え、コバルトとニッケルの浸出率を高めることが確認された。
【0047】
【表3】
【0048】
〔比較例1〕
実施例1と同一の正極材活物質14.5gを60℃に加熱した硫酸(濃度245g/L)100mlに添加した後に、水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを3.0に調整した。さらに浸出開始時のMn/Co・Niモル比が0.97倍になるように、硫酸マンガン溶液(Mn濃度50g/L)を添加し、該硫酸溶解液を8時間撹拌してLi、Mn、Co、Niを浸出させて各濃度を定量した。浸出後のpHは2.8であった(試料C)。この結果を表4に示す。
表4に示すように、本比較例はpH2.8〜3.0であるので、Mn、Co、Niが十分に浸出せず、マンガン(II)イオンによるコバルト、ニッケルの還元も進まない。
【0049】
【表4】
図1
図2