(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アンバランスマスを有して内燃機関に回転可能に支持され、該内燃機関のクランクシャフトの駆動により機関回転に同期して回転して前記内燃機関の主運動系による加振力を相殺するバランサシャフトと、
前記クランクシャフトと前記バランサシャフトとの間に設けられ、接続及び切断に応じて前記クランクシャフトからの駆動力を前記バランサシャフトに伝達または遮断するクラッチ機構と、
前記内燃機関の回転速度が予め高回転側に設定された駆動領域にあるときに前記クラッチ機構を接続し、該内燃機関の回転速度が予め低回転側に設定された停止領域にあるときには前記クラッチ機構を切断するクラッチ制御手段と、
前記停止領域での前記クラッチ機構の切断中において運転者の加速意思を判定し、該加速意思有りと判定したときに前記クラッチ制御手段に前記クラッチ機構の接続を指令する加速対応指令手段と
を具備したことを特徴とする内燃機関のバランサ装置。
前記加速対応指令手段は、少なくとも運転者のアクセル操作に基づき前記内燃機関の回転速度の高回転側への推移を予測した加速係数を算出し、該加速係数に基づき前記内燃機関の回転速度が前記駆動領域に突入すると判定した場合に前記加速意思有りと見なす
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のバランサ装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態のエンジンのバランサ装置を示す概略構成図、
図2はバランサ装置の動力伝達経路を示すエンジンの側面図である。
本実施形態に係るバランサ装置を搭載したエンジン1(内燃機関)は直列4気筒であり、図示しない車両に走行用動力源として搭載されている。なお、エンジン1は吸気管噴射型(Multi Point Injection:MPI)ガソリンエンジンとして構成されているが、その構成は公知のものであるため詳細な説明は省略する。
【0014】
エンジン1のシリンダヘッド2には、気筒毎に点火プラグ3が取り付けられており、点火プラグ3には高電圧を出力する点火コイル4が接続されている。シリンダヘッド2には、気筒毎に吸気ポートが形成されており、各吸気ポートと連通するようにして吸気マニホールド5の一端がそれぞれ接続されている。吸気マニホールド5には、電磁式の燃料噴射弁6が取り付けられており、燃料噴射弁6には、燃料パイプ7を介して図示しない燃料タンクを擁した燃料供給装置が接続されている。燃料噴射弁6は、各気筒の吸気ポート毎に設けられており、各気筒に流入する吸気に対して独立して燃料を供給可能となっている。
【0015】
吸気マニホールド5の燃料噴射弁6よりも上流側には、吸入空気量を調節する電磁式のスロットル弁8が設けられており、併せてスロットル弁8の弁開度を検出するスロットルポジションセンサ(TPS)9が設けられている。さらに、スロットル弁8の上流には、吸入空気量を計測するエアフローセンサ10が介装されている。
また、シリンダヘッド2には、気筒毎に排気ポートが形成されており、各排気ポートと連通するようにして排気マニホールド11の一端がそれぞれ接続されている。排気マニホールド11の他端には排気管12が接続されており、図示はしないが、排気管12には排気浄化触媒装置として三元触媒が介装されている。
【0016】
エンジン1のシリンダブロック15の下面にはクランクケースロワー16が結合され、クランクケースロワー16の下面にはバランサケース17が結合されている。シリンダブロック15とクランクケースロワー16との間にはクランクシャフト18が回転可能に支持され、その前端はシリンダブロック15より前方に突出してクランクギヤ19が固定されている。図示はしないがエンジン1の運転中には、各気筒のシリンダ内でのピストンの運動によりコンロッドを介してクランクシャフト18に駆動力が伝達されて回転駆動されるようになっている。
【0017】
クランクケースロワー16の前側にはアイドラシャフト20によりアイドラギヤ21が回転可能に支持され、アイドラギヤ21はクランクギヤ19に噛合している。バランサケース17内にはバランサシャフト22が回転可能に支持され、バランサシャフト22は回転軸線に対して偏芯したアンバランスマスを備えている。バランサシャフト22の前端はバランサケース17より前方に突出してバランサギヤ23が連結されており、このバランサギヤ23はアイドラギヤ21に噛合している。
【0018】
従って、エンジン1の運転中にはクランクシャフト18からの駆動力がクランクギヤ19からアイドラギヤ21を介してバランサギヤ23に常に伝達されている。なお、クランクケースロワー16及びバランサケース17の前面にはギヤケース24が配設され、このギヤケース24内にアイドラギヤ21やバランサギヤ23が収容されている。
アイドラギヤ21にはクラッチ機構25が内蔵されており、このクラッチ機構25はクランクギヤ19とアイドラギア21(バランサギア23側)との間に設けられて、その断接動作に応じてクランクギヤ19とアイドラギア21とを結合・分離する。
【0019】
即ち、クラッチ機構25の切断時にはクランクギヤ19とアイドラギア21とが分離され、アイドラギア21と噛合するバランサギア23にクランクシャフト18からの駆動力が伝達されなくなり,バランサギア23と連結されているバランサシャフト22が停止状態に保持される。また、クラッチ機構25の接続時にはクランクギヤ19とアイドラギア21とが結合され、アイドラギア21と噛合するバランサギア23およびバランサギア23に連結されているバランサシャフト22にクランクシャフト18からの駆動力が伝達されて回転駆動される。
【0020】
クラッチ機構25によるクランクギヤ19とアイドラギア21との結合は常に所定の回転角度で行われ、これによりクランクシャフト18の回転位相に同期してバランサシャフト22が回転駆動され、そのアンバランスマスによりエンジン1の主運動系(ピストンやコンロッド等)による加振力が相殺される。
なお、クラッチ機構25は電気式或いは油圧式等のアクチュエータにより断接操作されるが、その具体的な構成については、例えば特許文献1等に開示されているため説明を省略する。
【0021】
一方、ECU(エンジンコントロールユニット)31は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えており、当該ECU31により、エンジン1を含めたバランサ装置の総合的な制御が行われる。
ECU31の入力側には、上述したTPS9、エアフローセンサ10の他、エンジン1のクランク角を検出するクランク角センサ32、エンジン1の冷却水温Twを検出する水温センサ33(温度検出手段)、アクセル開度θaccを検出するアクセルセンサ34、車速Vを検出する車速センサ35等の各種センサ類が接続されており、これらセンサ類からの検出情報が入力される。また、図示はしないが、ECU31には車両に搭載された自動変速機を変速制御するためのコントローラが接続されており、このコントローラから現在の自動変速機のギヤ段が入力されるようになっている。
【0022】
一方、ECU31の出力側には、上述の各気筒の燃料噴射弁6及び点火コイル4、スロットル弁8、クラッチ機構25等の各種出力デバイスが接続されている。ECU31は、各種センサ類からの検出情報に基づき燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期、スロットル開度、クラッチ機構25の断接などを演算し、それらの演算結果に基づき各種出力デバイスを駆動制御する。
【0023】
基本的にクラッチ機構25の断接制御は予め設定された制御マップに基づき実行されるが、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、エンジン運転中にはクラッチ機構25の断接に応じて駆動力が頻繁に伝達・遮断されるため、これによるクラッチ機構25や伝達機構(クランクギヤ19、アイドラギヤ21、バランサギヤ23)の負荷を軽減するための対策が従来から要望されていた。そこで、本実施形態では、負荷軽減を目的としてクラッチ機構25の断接を可能な限り低回転・低トルク域で行う対策を講じており、以下、そのためにECU31が実行する制御について説明する。
【0024】
図3はECU31による加速値の算出処理を示す制御ブロック図、
図4はECU31によるバランサ装置の駆動許可の判定処理を示す制御ブロック図である。バランサ装置の駆動許可の判定処理とは、停止状態にあるバランサ装置の駆動を開始してもよいか否か(クラッチ機構25を接続してもよいか否か)を判定する処理である。
まず、
図3に基づき加速値の算出処理について述べる。アクセルセンサ34により検出されたアクセル開度θacc及びクランク角センサ32のクランク角信号から求めたエンジン回転速度Neに基づき、所定のマップからエンジン1が出力すべき目標トルクTtgt(エンジン負荷に相当)が算出され、この目標トルクTtgtから目標トルク変化率が算出される。
【0025】
また、アクセル開度θaccからアクセル開度変化率が算出され、これらの目標トルク変化率及びアクセル開度変化率から運転者の加速意思が判定される。即ち、目標トルク変化率やアクセル開度変化率が増加側に変化しているときには運転者に加速意思があり、その変化が急激であるほど急加速を要求していると見なされる。
さらに運転者の加速意思、目標トルク変化率、及びアクセル開度変化率から車両の加速状態の継続中における加速値が算出される。加速値は、今後の車両の加速状態(緩急や継続時間等)がどのように変化するかを見込んだ指標として算出される。
【0026】
次いで、
図4に基づきバランサ装置の駆動許可の判定処理について述べる。まず、目標トルクTtgt及びエンジン回転速度Neに基づき後述する制御マップ(
図7に示す)からバランサ駆動基本係数が算出される。バランサ駆動基本係数とは、目標トルクTtgt及びエンジン回転速度Neにより規定される現在のエンジン1の運転領域と相関する指標であり、このバランサ駆動基本係数に基づき定常的な観点からのバランサ駆動の要否を判定可能となる。
【0027】
これと並行して、上記の手順で算出された加速値及び車速センサ35により検出された車速Vに基づき、所定の制御マップからバランサ駆動加速係数が算出される。加速値を反映したバランサ駆動加速係数は、今後予測される車両の加速状態、ひいては今後のエンジン1の運転領域の高回転・高負荷側への推移を予測した指標となり、その値に基づき車両加速に伴う今後の推移を見込んだ過渡的な観点からのバランサ駆動の要否を判定可能となる。
【0028】
但し、今後の車両の加速状態は車速Vの影響を受け、低車速域から加速を開始した場合ほどエンジン1の運転領域は高回転・高負荷域まで推移する可能性が高まるため、バランサ駆動加速係数の算出に車速Vを反映させている。
また、ギヤ段に基づき所定の制御マップからギヤ段補正係数が算出され、バランサ駆動加速係数にギヤ段補正係数が乗算される。車速Vと同様に、ギヤ段も車両の加速状態に影響を及ぼし、低ギヤ段で加速した場合ほどエンジン1の運転領域は高回転・高負荷域まで推移する可能性が高まることから、ギヤ段補正係数に基づく補正を行っている。
【0029】
以上のようにして算出されたバランサ駆動基本係数とバランサ駆動加速係数とが比較され、何れの係数を採用するかが判定される。具体的には、より高回転・高負荷域のエンジン1の運転領域が導出される側の駆動係数が採用される(加速対応指令手段)。そして、採用された駆動係数に対応してバランサ装置の駆動が適宜許可されるのであるが、エンジン1の冷却水温が低い場合にはバランサ装置の駆動が禁止される。
【0030】
そのために水温センサ33により検出されたエンジン1の冷却水温Twに基づき、冷却水温Twが低温であるほど駆動禁止判定値として大きな値が算出される。そして、選択された駆動係数が駆動禁止判定値未満の場合にはバランサの駆動が禁止され(冷態切換禁止手段)、駆動係数が駆動禁止判定値以上の場合に限って係数に基づきバランサ装置の駆動が許可される。結果として冷却水温Twが低い場合ほどバランサ装置の駆動が許可され難くなり、ある一定水温以下ではエンジン1の全運転領域においてバランサ装置の駆動が禁止される。
【0031】
なお、このように冷却水温Twに応じて駆動禁止判定値を設定することなく、所定の冷却水温Tw未満ではエンジン1の全運転領域でバランサ装置の駆動が禁止するようにしてもよい。
次に、以上の各制御ブロック図に基づきECU31により実行される制御フローについて説明する。
【0032】
図5はECU31が加速値を算出するために実行する加速値算出ルーチンを示すフローチャート、
図6はECU31が駆動許可を判定するために実行する駆動許可判定ルーチンを示すフローチャートである。
図5のフローチャートにおいて、ECU31はステップS2で目標トルクTtgtを算出し、ステップS4で目標トルク変化率及びアクセル開度変化率を算出する。続くステップS6では目標トルク変化率及びアクセル開度変化率から運転者の加速意思を判定し、加速意思有りとしてYes(肯定)の判定を下したときにはステップS8で加速状態フラグFをセット(=1)する。その後、ステップS10で目標トルク変化率及びアクセル開度変化率の最大値を記憶し、ステップS12で加速値を算出した後にルーチンを終了する。
【0033】
一方、
図6のフローチャートトにおいて、ECU31はステップS22で目標トルクTtgt及びエンジン回転速度Neを読み込み、続くステップS24でバランサ駆動基本係数を算出する。さらにステップS26で加速状態フラグFがセットされているか否かを判定し、判定がNo(否定)のときにはステップS28に移行し、バランサ駆動基本係数を採用する判定を下した後にステップS30に移行する。
【0034】
また、上記したステップS26の判定がYesのときにはステップS32に移行して加速値を読み込み、続くステップS34で加速値、車速V及びギヤ段に基づきバランサ駆動加速係数を算出する。続くステップS36ではバランサ駆動加速係数がバランサ駆動基本係数よりも大であるか否かを判定し、判定がNoのときにはステップS28に移行する。また、ステップS36の判定がYesのときにはステップS38に移行してバランサ駆動加速係数を採用する判定を下した後にステップS30に移行する。
【0035】
ステップS30ではエンジン1の冷却水温Twから駆動禁止判定値を算出し、続くステップS40で上記したステップS28で採用したバランサ駆動基本係数またはステップS38で採用したバランサ駆動加速係数が駆動禁止判定値以上であるか否かを判定する。ステップS40の判定がNoのときにはステップS22に戻り、判定がYesのときにはステップS42でバランサ駆動許可を下した後にルーチンを終了する。
【0036】
次に、以上のECU31の処理によるバランサ装置の制御状況を説明する。
図7はバランサ装置の停止領域及び駆動領域が設定された制御マップを示す説明図である。
この図に示すように、エンジン回転速度Ne及び目標トルクTtgtがそれぞれ所定値よりも低い領域(アイドルも含む)では、バランサ装置を停止状態に保持する停止領域が設定され、それよりもエンジン回転速度Ne及び目標トルクTtgtが高い領域ではバランサ装置を駆動する駆動領域が設定されている。
【0037】
双方の領域間でエンジン1の運転領域が頻繁に推移したときのバランサ装置の駆動・停止(クラッチ機構25の断接)の繰り返しを防止すべく、双方の領域間にはヒステリシスが設定されている。このため、停止中のバランサ装置の駆動はエンジン1の運転領域が図中に実線で示す境界線を横切ったタイミングで実行され、駆動中のバランサ装置の停止はエンジン1の運転領域が図中に破線で示す境界線を横切ったタイミングで実行される。
【0038】
そして、この図中に実線で示すバランサ装置の停止から駆動への切換を決定するための境界線が、上記したバランサ駆動基本係数として機能する。
例えば車両の定速走行時のように、比較的エンジン回転速度Ne及び目標トルクTtgtが低域に保たれている運転領域では、元々の主運動系に起因する2次振動レベルが低く、バランサ装置による振動低減作用が無くても顕著なこもり音は発生しないため快適性は確保できる。その反面、このような運転領域では、高回転&高トルク領域に比較するとバランサを駆動するためのエネルギーロスが相対的に大きいことから、燃費への影響が大である。
【0039】
図7の制御マップでは、このようなエンジン運転領域が停止領域として設定されており、ECU31によりクラッチ機構25が切断されてバランサ装置が停止状態に保持される(クラッチ制御手段)。よって、バランサ装置を駆動するためのエネルギーロスが回避されて燃費向上を達成することができる。また、副次的な効果として、伝達機構のギヤ音の低減及び各ギヤの磨耗抑制を図ることもできる。
【0040】
また、エンジン回転速度Neや目標トルクTtgtが増加するとエンジン1の主運動系に起因する2次振動によりこもり音が顕著になるが、
図7の制御マップでは、このようなエンジン運転領域が駆動領域として設定されており、ECU31によりクラッチ機構25が接続されてバランサ装置が駆動される(クラッチ制御手段)。よって、エンジン1の主運動系による加振力が相殺されて、こもり音の抑制により快適性を保つことができる。
【0041】
一方、エンジン1の運転領域が停止領域にあるときに運転者によりアクセル踏込みが行われると、アクセル開度θacc及びエンジン回転速度Neの増加に伴い目標トルク変化率及びアクセル開度変化率が増加側に変化し、それらの値に基づき加速値が算出される(
図5のステップS12)。運転者の加速意思が判定されると(
図6のステップS26がYes)、バランサ駆動加速係数が算出される(
図6のステップS34)。このバランサ駆動加速係数は、例えば
図7中に実線及び破線の矢印で示すように、車両加速に伴う今後のエンジン1の運転領域の高回転・高トルク側への推移を予測したものとなる。
【0042】
そして、バランサ駆動基本係数とバランサ駆動加速係数との比較に基づき、大の側の係数が採用される(
図6のステップS28,36,38)。
車両の加速状態がそれほど急激なものではなく、例えば
図7中に破線の矢印で示すように、バランサ駆動加速係数として表される高回転・高トルク側への推移後の運転領域が停止領域に留まる場合(運転領域が図中に実線で示す境界を横切らない場合)には、バランサ駆動加速係数≦バランサ駆動基本係数と判定してバランサ駆動基本係数が採用され、バランサ装置が停止状態に保持される。
【0043】
また、車両の加速状態が急激であり、
図7中に実線の矢印で示すように、バランサ駆動加速係数として表される高回転・高トルク側への推移後の運転領域が駆動領域に突入する場合(運転領域が図中に実線で示す境界を横切る場合)には、バランサ駆動加速係数>バランサ駆動基本係数と判定してバランサ駆動加速係数が採用され、バランサ装置の駆動が開始される(加速対応指令手段)。
【0044】
即ち、急激な車両の加速によりバランサ駆動加速係数に基づきエンジン1の運転領域が駆動領域に突入すると予測される場合には、実際に駆動領域に突入する以前にいち早くバランサ装置の駆動が開始される。結果として、駆動領域に比較してより低回転・低トルク側の停止領域内でクラッチ機構25が接続されることから、クラッチ機構25自体への負荷も伝達機構への負荷も大幅に軽減でき、その信頼性の向上や故障防止を達成することができる。
【0045】
また、駆動領域への突入によりエンジン回転速度Ne及び目標トルクTtgtが増大するとエンジン1の主運動系による加振力は直ちに増大するが、一方で、クラッチ機構25の機械的な応答性に起因して、バランサ装置の駆動開始により加振力が相殺され始めるには若干の遅れが生じる。このような遅れを防止するには、停止領域を縮小(駆動領域を拡大)してクラッチ機構25の駆動開始のタイミングを早める必要があるが、停止領域の縮小は、上記したバランサ装置の停止による燃費面でのメリットを阻害してしまう。本実施形態によれば、駆動領域への突入以前にいち早くバランサ装置の駆動が開始されるため、停止領域を縮小することなく、こもり音の抑制と燃費向上とを高次元で両立させることができる。
【0046】
また、車両の加速に伴うエンジン1の運転領域の推移をバランサ駆動加速係数として予測した上で、制御マップの特性に対応するバランサ駆動基本係数との比較に基づき、具体的にエンジン1の運転領域が駆動領域に突入するか否かを判定している。よって、バランサ装置の駆動・停止を的確に判定でき、ひいては駆動領域への突入により加振力の相殺が必要な場合に限って適切にバランサ装置を駆動することができる。この要因も、こもり音の抑制と燃費向上との両立に貢献する。
【0047】
また、
図7の制御マップはエンジン回転速度Neのみならず目標トルクTtgtに応じて設定されており、それに対応してバランサ駆動加速係数もエンジン回転速度Neの増加のみならず目標トルクTtgtの増加も考慮して算出される。よって、目標トルクTtgtの増加により加振力の相殺が必要になった場合にも、適切にバランサ装置の駆動を開始してこもり音の抑制を図ることができる。但し、必ずしも目標トルクTtgtを考慮する必要はなく、エンジン回転速度Neのみに基づきバランサ装置の駆動・停止を行ってもよい。
【0048】
また、
図7の制御マップでは、停止領域と駆動領域との間にヒステリシスが設定されているため、双方の領域間でエンジン1の運転領域が頻繁に推移した場合であってもバランサ装置の駆動・停止の繰り返しが回避される。よって、クラッチ機構25の無用な断接による消耗を未然に防止でき、この点も信頼性の向上や故障防止に貢献する。
また、エンジン1の冷却水温Twが低温の場合には駆動禁止判定値に基づきバランサ装置の駆動を禁止しているため、エンジン1が負担を受け易い冷態時のバランサ装置の駆動を防止できる。この点はエンジン自体の信頼性の向上や故障防止につながる。
【0049】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、直列4気筒のMPIエンジン1のバランサ装置に具体化したが、エンジン1の形式等はこれに限るものではなく、任意に変更可能である。
また上記実施形態では、目標トルク変化率やアクセル開度変化率に基づき運転者の加速意思を判定したが、これに限るものではない。例えば車両が加速する際に、自動変速機では運転者のアクセル踏込みに応じてキックダウンが実行され、手動変速機ではシフトダウンに先立ち運転者によりクラッチが切断されてギヤが切り換えられる。よって、自動変速機では変速制御用のコントローラから入力されるキックダウン情報に基づき加速意思を判定してもよいし、手動変速機ではクラッチの切断操作やギヤの切換操作に基づき加速意思を判定してもよい。