特許第6365863号(P6365863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6365863質量分析におけるペプチドピークの同定・定量のためのデータベース作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365863
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】質量分析におけるペプチドピークの同定・定量のためのデータベース作成方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   G01N27/62 X
   G01N27/62 V
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-147591(P2013-147591)
(22)【出願日】2013年7月16日
(65)【公開番号】特開2015-21739(P2015-21739A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(72)【発明者】
【氏名】大槻 純男
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−091344(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/007884(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/044401(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/014853(WO,A1)
【文献】 中津海洋一,次世代プロテオミクスが拓く生命科学研究の新地平:ウエスタンブロッティングはもう要らない?!,生化学,2012年 1月,第84巻第1号,pp.53-57
【文献】 Gillet LC,Targeted Data Extraction of the MS/MS Spectra Generated by Data-independent Acquisition: A New Conce,Mol Cell Proteomics,2012年 1月18日,11/6,O111.016717,DOI: 10.1074/mcp.O111.016717
【文献】 Liu,Y. et al,Quantitative measurements of N-linked glycoproteins in human plasma by SWATH-MS,Proteomics,2013年 3月11日,13/8,1247-56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60− G01N 27/70
H01J 49/00− H01J 49/48
G01N 33/48− G01N 33/98
G01N 30/00− G01N 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフ−タンデム質量分析装置(LC−MS/MS)を用いた解析により複数の対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを同定及び/又は定量するための、ペプチドピークの溶出時間、及び該ペプチドピークの溶出時間に対応するMRMトランジション並びにピーク強度を格納したデータベースを作成する方法であって、以下の工程(a)〜(f)を備えたことを特徴とする方法。
(a)LC−MS/MSを用いた質量分析で得られる、対象タンパク質を構成するペプチドを含むペプチド群由来のペプチドピーク群の標準溶出時間、及び、前記ペプチドピーク群の標準溶出時間に対応するMRMトランジション並びにピーク強度を取得し、データベースに格納する工程;
(b)LC−MS/MSを用いた質量分析で得られる、対象タンパク質’を構成するペプチド’を含むペプチド’群由来のペプチドピーク’群の溶出時間、及び、前記ペプチドピーク’群の溶出時間に対応するMRMトランジション並びにピーク強度を取得する工程;(c)前記ペプチドピーク群の中から前記ペプチドピーク’群と共通するペプチドピークを標準化用ペプチドピーク群として選択する工程;
(d)工程(c)で選択した標準化用ペプチドピーク群の標準溶出時間を基準に、前記ペプチドピーク群の標準溶出時間と前記ペプチドピーク’群の溶出時間とのアライメントを行い、前記ペプチドピーク’群の溶出時間を前記ペプチドピーク群の標準溶出時間に標準化し、前記ペプチドピーク’群の標準溶出時間を取得する工程;
(e)工程(d)で取得した前記ペプチドピーク’群の標準溶出時間を前記ペプチドピーク群の標準溶出時間に組み込み、新たなペプチドピーク群の標準溶出時間として前記データベースに格納する工程;
(f)ペプチドピーク’群の標準溶出時間に対応するMRMトランジション及びピーク強度を、前記データベースに格納する工程;
【請求項2】
工程(b)〜(f)の工程を、2〜25回繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体クロマトグラフ−タンデム質量分析装置(LC−MS/MS)を用いた解析により1又は複数の試料中の1又は複数の対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを同定する方法であって、以下の工程(A)〜(E)を備えたことを特徴とする方法。
(A)試料中の対象タンパク質群をタンパク質消化酵素により断片化処理し、対象ペプチド群を調製する工程;
(B)工程(A)で調製した対象ペプチド群を用いて、液体クロマトグラフ−タンデム質量分析装置(LC−MS/MS)を用いた解析を行い、ペプチドピークの溶出時間、質量電荷比(m/z)、及びMRMクロマトグラム情報を含むデータを取得する工程;
(C)工程(B)で取得したペプチドピークの質量電荷比(m/z)を基に対象ペプチドピーク群を同定し、該対象ペプチドピーク群の中から請求項1又は2に記載の方法を用いて作成したデータベースに格納されるペプチドピーク群と共通するペプチドピークを標準化用対象ペプチドピーク群として選択する工程;
(D)工程(C)で選択した標準化用対象ペプチドピーク群の溶出時間を基準に、対象ペプチドピーク群の溶出時間と、請求項1又は2に記載の方法を用いて作成したデータベースに格納されるペプチドピーク群の標準溶出時間とのアライメントを行い、請求項1又は2に記載の方法を用いて作成したデータベースに格納されるペプチドピーク群の標準溶出時間を、対象ペプチドピーク群の溶出時間にシフトし、シフトした標準溶出時間と、該シフトした標準溶出時間に対応するMRMトランジション及びピーク強度とを再構築イオンライブラリとして取得する工程;
(E)工程(D)で取得した再構築イオンライブラリを用いて、工程(B)で取得したMRMクロマトグラム情報を含むデータからペプチドピークのMRMクロマトグラムを抽出し、前記MRMクロマトグラムから対象ペプチドピーク群を同定する工程;
【請求項4】
さらに、複数の試料間における対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを定量するための以下の工程(F)及び(G)を備えたことを特徴とする請求項に記載の方法。
(F)工程(E)で同定した対象ペプチドピーク群の中から、
請求項1又は2に記載の方法を用いて作成したデータベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのうち、最大ピーク強度を付与するMRMトランジションのクロマトグラムから得られるピーク面積と、請求項1又は2に記載の方法を用いて作成したデータベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのクロマトグラムから得られるペプチドピーク面積の合計とのピーク面積の比と、
前記最大ピーク強度を付与するMRMトランジションにおける最大ピーク強度と、前記ピーク面積の合計に用いたMRMトランジションにおけるピーク強度の合計とのピーク強度の比と
の比を基に、対象ペプチドピーク群の定量用ペプチドピークを選択する工程;
(G)工程(F)で選択した対象ペプチドピーク群の定量用ペプチドピーク面積を複数の試料について算出し、算出したピーク面積の比から、複数の試料間における対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを定量する工程;
【請求項5】
タンパク質消化酵素による断片化処理が、トリプシンとリシルエンドペプチダーゼとの併用による断片化処理であることを特徴とする請求項又はに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ−タンデム質量分析装置(LC−MS/MS)を用いた解析により複数の対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを同定及び/又は定量するための、ペプチドピークの溶出時間、及び該ペプチドピークの溶出時間に対応するMRMトランジション並びにピーク強度を格納したデータベースを作成する方法や、かかる方法を用いて作成したデータベースや、かかるデータベースを用いて、LC−MS/MSを用いた解析により試料中の対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを同定・定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテオミクスは、タンパク質を網羅的に解析する手法であり、生命科学、特にバイオマーカーの研究に重要な手法である。近年、プロテオミクスは、試料中に存在するタンパク質の網羅的な同定のみならず、異なる試料間で変動するタンパク質を網羅的に同定・定量する網羅的定量比較のツール(定量プロテオミクス)としても期待が高まり、これまでに様々な手法が開発され、利用されている(非特許文献1)。定量プロテオミクスは、ショットガンプロテオミクス、すなわち、多数のタンパク質を含む試料をタンパク質分解酵素処理してペプチド断片を分離し、質量分析法を用いてペプチド断片を同定する手法を技術基盤としているため、比較解析できるタンパク質は同一解析試料において同定されたものに限られる。そのため、質量分析法や質量分析前にペプチド断片を分離する方法を改良することにより、比較解析できるタンパク質数を増加させることが行われている。
【0003】
ショットガンプロテオミクスを用いないプロテオミクスとして多重反応モニタリング(MRM)を用いたプロテオミクスがある。MRMを用いたプロテオミクスは、前駆(プリカーサー)イオン(Q1)及びプロダクトイオン(Q3)の質量電荷比(m/z)に基づき、特定のMRMトランジションを用いて標的タンパク質を定量する手法であるが(非特許文献1〜3)、かかる手法と安定同位体で標識した内部標準ペプチドを組み合わせて用いることにより、異なる試料中における標的タンパク質の量的変化を、高感度且つ高精度に定量することができる(非特許文献4〜6、特許文献1)。しかし、定量できるのは標的タンパク質に限られることや、質量分析におけるスキャン速度や標識内部標準ペプチド数により、定量できる標的タンパク質の数が限られていることが問題とされていた。
【0004】
最近、LC−MS/MSにおける新たなデータ取得法としてSWATH−MS取得法が開発された(非特許文献4、7)。かかるSWATH−MS取得法により、試料から全てのMS/MSデータを取得し、MRMトランジションを用いたMRM解析を行うことができる。SWATHで取得したデータには、非常に低レベルで発現するタンパク質に関する情報も含まれるものの(非特許文献4)、SWATHで取得したデータは、同一解析試料をショットガンプロテオミクス等の従来の質量分析法により解析し、同定されたタンパク質についてのMRMトランジションや溶出時間(「保持時間[retention times;RT]」ともいう)等の情報に基づいて定量解析(標準的SWATH定量法)されるため、発現レベルが低い等の理由で同一解析試料において同定されなかったタンパク質については定量することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/055116号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Malmstrom, L., et al. Proteomics 11, 2947-2956 (2011)
【非特許文献2】Gillette, M.A. & Carr, S.A. Nat Methods 10, 28-34 (2013)
【非特許文献3】Surinova, S., et al. J Proteome Res 10, 5-16 (2011)
【非特許文献4】Gillet, L.C., et al. Mol Cell Proteomics 11, O111 016717 (2012).
【非特許文献5】Kamiie, J., et al. Pharm Res 25, 1469-1483 (2008)
【非特許文献6】Ohtsuki, S., et al. J Pharm Sci 100, 3547-3559 (2011)
【非特許文献7】Liu, Y., et al. Proteomics 13, 1247-1256 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、LC−MS/MSを用いた解析により、高感度に且つ網羅的に対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを同定・定量するためのデータベースを作成する方法や、前記データベースを用いてLC−MS/MSを用いた解析により、高感度に且つ網羅的に対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを同定・定量できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
対象タンパク質を構成するペプチドがLC−MS/MSの液体クロマトグラフ部から溶出され質量分析計で検出されるまでの時間、すなわち溶出時間(保持時間[retention times;RT」ともいう]は、ペプチドピークを同定するために不可欠であるものの、解析試料間で変動することが問題とされていた。本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、解析試料間で同定されたペプチドピーク群のうち、共通するペプチドピーク群の溶出時間を基準として、解析試料間のペプチドピーク群の溶出時間の標準化を図り、標準化した溶出時間が蓄積したデータベースを作成したところ、データベース中に10万個以上のペプチドピークの溶出時間を精度の良く蓄積することができることが見いだされた。さらにかかるデータベースを用いて試料中の対象タンパク質をLC−MS/MSを用いた解析を行い、測定対象ペプチドピークを同定し、同定したペプチドピークの中からペプチドピークのバリデーションを行うことにより、標準的SWATH定量法を用いて同定できなかったペプチドピークの増減も精度よく検出できることを確認した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、(1)液体クロマトグラフ−タンデム質量分析装置(LC−MS/MS)を用いた解析により複数の対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを同定及び/又は定量するための、ペプチドピークの溶出時間、及び該ペプチドピークの溶出時間に対応するMRMトランジション並びにピーク強度を格納したデータベースを作成する方法であって、以下の工程(a)〜(f)を備えたことを特徴とする方法に関する。
(a)LC−MS/MSを用いた質量分析で得られる、ペプチドピーク群の標準溶出時間、及び、前記ペプチドピーク群の標準溶出時間に対応するMRMトランジション並びにピーク強度を取得し、データベースに格納する工程;
(b)LC−MS/MSを用いた質量分析で得られる、ペプチドピーク’群の溶出時間、及び、前記ペプチドピーク’群の溶出時間に対応するMRMトランジション並びにピーク強度を取得する工程;
(c)前記ペプチドピーク群の中から前記ペプチドピーク’群と共通するペプチドピークを標準化用ペプチドピーク群として選択する工程;
(d)工程(c)で選択した標準化用ペプチドピーク群の標準溶出時間を基準に、前記ペプチドピーク群の標準溶出時間と前記ペプチドピーク’群の溶出時間とのアライメントを行い、前記ペプチドピーク’群の溶出時間を前記ペプチドピーク群の標準溶出時間に標準化し、前記ペプチドピーク’群の標準溶出時間を取得する工程;
(e)工程(d)で取得した前記ペプチドピーク’群の標準溶出時間を前記ペプチドピーク群の標準溶出時間に組み込み、新たなペプチドピーク群の標準溶出時間として前記データベースに格納する工程;
(f)ペプチドピーク’群の標準溶出時間に対応するMRMトランジション及びピーク強度を、前記データベースに格納する工程;
【0010】
また、本発明は、(2)工程(b)〜(f)の工程を、2〜25回繰り返すことを特徴とする上記(1)に記載の方法に関する。
【0011】
また、本発明は、(3)液体クロマトグラフ−タンデム質量分析装置(LC−MS/MS)を用いた解析により複数の対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを同定及び/又は定量するためのデータベースであって、上記(1)又は(2)に記載の方法を用いて作成した、10万個以上のペプチドピークの溶出時間、及び該ペプチドピークの溶出時間に対応するMRMトランジション並びにピーク強度を備えたことを特徴とするデータベースに関する。
【0012】
また、本発明は、(4)液体クロマトグラフ−タンデム質量分析装置(LC−MS/MS)を用いた解析により1又は複数の試料中の1又は複数の対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを同定する方法であって、以下の工程(A)〜(E)を備えたことを特徴とする方法に関する。
(A)試料中の対象タンパク質群をタンパク質消化酵素により断片化処理し、対象ペプチド群を調製する工程;
(B)工程(A)で調製した対象ペプチド群を用いて、液体クロマトグラフ−タンデム質量分析装置(LC−MS/MS)を用いた解析を行い、ペプチドピークの溶出時間、質量電荷比(m/z)、及びMRMクロマトグラム情報を含むデータを取得する工程;
(C)工程(B)で取得したペプチドピークの質量電荷比(m/z)を基に対象ペプチドピーク群を同定し、該対象ペプチドピーク群の中から上記(1)又は(2)に記載の方法を用いて作成したデータベースに格納されるペプチドピーク群と共通するペプチドピークを標準化用対象ペプチドピーク群として選択する工程;
(D)工程(C)で選択した標準化用対象ペプチドピーク群の溶出時間を基準に、対象ペプチドピーク群の溶出時間と、上記(1)又は(2)に記載の方法を用いて作成したデータベースに格納されるペプチドピーク群の標準溶出時間とのアライメントを行い、上記(1)又は(2)に記載の方法を用いて作成したデータベースに格納されるペプチドピーク群の標準溶出時間を、対象ペプチドピーク群の溶出時間にシフトし、シフトした標準溶出時間と、該シフトした標準溶出時間に対応するMRMトランジション及びピーク強度とを再構築イオンライブラリとして取得する工程;
(E)工程(D)で取得した再構築イオンライブラリを用いて、工程(B)で取得したMRMクロマトグラム情報を含むデータからペプチドピークのMRMクロマトグラムを抽出し、前記MRMクロマトグラムから対象ペプチドピーク群を同定する工程;
【0013】
また、本発明は、(5)さらに、複数の試料間における対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを定量するための以下の工程(F)及び(G)を備えたことを特徴とする上記(4)に記載の方法に関する。
(F)工程(E)で同定した対象ペプチドピーク群の中から、ピーク面積とピーク強度との比を基に、対象ペプチドピーク群の定量用ペプチドピークを選択する工程;
(G)工程(F)で選択した対象ペプチドピーク群の定量用ペプチドピーク面積を複数の試料について算出し、算出したピーク面積の比から、複数の試料間における対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを定量する工程;
【0014】
さらに本発明は、(6)タンパク質消化酵素による断片化処理が、トリプシンとリシルエンドペプチダーゼとの併用による断片化処理であることを特徴とする上記(4)又は(5)に記載の方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、高感度に且つ網羅的に対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを同定・定量できるため、健常者由来の試料と、癌やアルツハイマーや心疾患などの各種疾患患者由来の試料との間で発現量が変動する対象タンパク質を高感度且つ網羅的に同定し、定量することができ、バイオマーカー探索分野やバイオマーカーを用いた疾患診断分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1A及びBは、本発明のデータベースの作成方法の概要を示す。図1C〜Eは、ヒト肝臓ミクロソーム(HLM)画分を用いて本発明のデータベースを作成した結果を示す図である。
図2図2Aは、本発明のデータベースを用いたイオンライブラリの再構築法の概要を示す。図2Bは、本発明のデータベースを用いてイオンライブラリを再構築したときの実測値RTと補正(シフト)したnRTとの差異を示す。図2Cは、2回の実験(図中「Exp1」と「Exp2」)により、標準的SWATH定量法を用いて同定・定量したペプチドピークの面積を比較した結果を示す図である。図2Dは、2回の実験(図中「Exp1」と「Exp2」)により、本発明のデータベースを用いて同定・定量したペプチドピークの面積を比較した結果を示す図である。図2Eは、2回の実験(図中「Exp1」と「Exp2」)により、本発明のデータベースを用いて同定したペプチドピークからペプチドピークのバリデーションを行い抽出したペプチドピーク面積を比較した結果を示す図である。図2Fは、2回の実験(図中「Exp1」と「Exp2」)により、本発明のデータベースを用いて同定したペプチドピークからペプチドピークのバリデーションを行い抽出したペプチドピークの中からさらにMRMトランジション数が3以上のペプチドピークを抽出し、その面積を比較した結果を示す図である。
図3図3は、モデル試料を用いて本発明のデータベースによるSWATH定量解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のデータベースは、液体クロマトグラフ−タンデム質量分析装置(LC−MS/MS)を用いた解析により複数の対象タンパク質を構成するペプチドの複数のペプチドピークを同定及び/又は定量するための、10万個以上のペプチドピークの溶出時間、及び該ペプチドピークの溶出時間に対応するMRMトランジション並びにピーク強度を格納したものであり、本発明のデータベースに格納される「ペプチドピーク」には、対象タンパク質を構成するペプチド由来のピークが含まれる。本発明のデータベースは、以下の工程(a)〜(f)を備えた方法(以下、「本件データベースの作成方法」ということがある)を用いて作成することができる。
【0018】
工程(a)
工程(a)においては、LC−MS/MSを用いた質量分析で得られる、ペプチドピーク群の標準溶出時間やかかるペプチドピーク群の標準溶出時間に対応するMRMトランジションやピーク強度を取得し、データベースに格納する。上記「LC−MS/MSを用いた質量分析で得られる、ペプチドピーク群の標準溶出時間やかかるペプチドピーク群の標準溶出時間に対応するMRMトランジションやピーク強度」は、実際に、自ら対象タンパク質を含む試料(対象タンパク質試料)をタンパク質消化酵素により断片化処理し、対象タンパク質を構成するペプチドを含むペプチド群を調製した後、LC−MS/MSを用いた解析を行うことにより得られた、上記ペプチド群由来のピーク(ペプチドピーク群)の標準溶出時間や、かかるペプチドピーク群の標準溶出時間に対応するMRMトランジションやピーク強度であってもよいし、第三者が上記解析を行うことにより得られた、ペプチドピーク群の標準溶出時間や、かかるペプチドピーク群の標準溶出時間に対応するMRMトランジションやピーク強度(のデータ[情報])であってもよい。
【0019】
上記対象タンパク質試料としては、対象タンパク質を含む試料であれば特に制限されず、具体的には、生体から採取された細胞、組織、血液等を、凍結融解法、フレンチプレス、グラスビーズ、ホモジナイザー、超音波破砕装置等を用いた破砕処理により得られる未分画試料や、かかる未分画試料を、分画遠心法、ショ糖密度勾配遠心法等による分画処理することにより得られる細胞膜画分試料や細胞質画分試料を挙げることができる。
【0020】
上記タンパク質消化酵素としては、タンパク質の特定のアミノ酸部位で消化(切断)され、断片したペプチドが調製できる酵素であれば特に制限されず、具体的には、トリプシン、キモトリプシン、エンドプロテイナーゼGlu-C、エンドプロテイナーゼLys−C、エンドプロテイナーゼArg−C、エンドプロテイナーゼAsn−C、リシルエンドペプチダーゼ、及びクロストリパインを挙げることができる。タンパク質消化酵素により断片化処理は、1又は複数のタンパク質消化酵素による断片化処理であれば特に制限されないが、効率よく断片化処理できるという点から、複数の上記タンパク質消化酵素による断片化処理が好ましく、具体的にはトリプシンとリシルエンドペプチダーゼとの併用による断片化処理を好適に例示することができる。
【0021】
上記LC−MS/MSを用いた解析においては、まずLC−MS/MSのLC(液体クロマトグラフィー)により、ペプチド群が分離される。ここで液体クロマトグラフィーとしては、具体的には、ペプチドの電荷の違いを利用して分離を行なう陽イオン交換クロマトグラフィーや、ペプチドの疎水性の違いを利用して分離を行なう逆相クロマトグラフィーを挙げることができ、両者を組み合わせたものであってもよい。
【0022】
次いで、分離された各ペプチドについて、タンデム質量分析(MS/MS)を行う。質量分析におけるイオン化の方法はソフトイオン化法であるエレクトロスプレーイオン化法(ESI法)を用いることが好ましい。質量分析では、各種イオン化法によりイオン化したペプチドはアナライザーで質量に応じて分離される。上記アナライザーとしては、例えば、磁場型質量分離装置(Sector MS)、四重極型質量分離装置(QMS)、飛行時間型質量分離装置(TOFMS)、フーリエ変換イオンサイクロトロン型質量分離装置(FT−ICRMS)を挙げることができ、さらにこれらを組み合わせたものでもよい。
【0023】
イオン化したペプチドの検出からMS/MSデータの取得までの方法としては、自動化した測定モードで行う方法が好ましく、具体的にはIDA(Information Dependent Acquisition)測定法、DDA(Data Dependent Acquisition)測定法等を挙げることができる。得られたMS/MSデータは、Protein Pilot、Peak View、MASCOT等のタンパク質同定のためのソフトウエアにインポートし、UniProt、EMBL、Swiss-Prot等のタンパク質データベースを用いてペプチド群を同定する。同定したペプチド群の中には、信頼性の低いペプチドピークを有するものが含まれているため、同定したペプチド群のペプチドピーク(ペプチドピーク群)の中から、信頼性の高いペプチドピークを有するものを選択することが好ましく、信頼性の高いペプチドピークとしては、上記ソフトウエアにより同定したペプチド群のMS/MSデータをイオンライブラリファイル(テキストファイル)に変換し、Access(Microsoft社製)にエクスポートすることにより、ペプチド信頼性を示す指標であるペプチド信頼度スコア(peptide confidence score)(信頼性が100%の場合の信頼度スコアは1.00として示す)を基に選択することができ、例えば、前記スコアが0.85を超えるペプチド、0.90を超えるペプチド、0.92を超えるペプチド、0.94を超えるペプチド、0.95を超えるペプチド、0.96を超えるペプチド、0.97を超えるペプチド、0.98を超えるペプチド、0.99を超えるペプチドなどを挙げることができるが、0.99を超えるペプチドがより好ましい。
【0024】
ペプチドピーク群について、液体クロマトグラフィーにおける溶出時間とかかる溶出時間に対応するMRMトランジションやピーク強度に関する情報を取得し、データベースに格納する。本願明細書中において、「MRMトランジション」とは、特定質量を有するイオン化したペプチド(プリカーサーイオン)を通過させる質量フィルター(Q1)とガス衝突誘導開裂(CID: Collision Induced Dissociation)によって生じる前記プリカーサーイオンが断片化したもの(プロダクトイオン)を通過させる質量フィルター(Q3)の組み合わせ(Q1とQ3の質量電荷比[m/z]の組み合わせ)のことを意味する。ペプチドピーク群は、上記ソフトウエアによりペプチド由来のピークにおいて複数回同定され、結果、同じペプチドピークであっても異なる複数の溶出時間を取得することがある。その場合には、ペプチドピークの溶出時間を平均した平均溶出時間を取得し、データベースに格納する。また、上記ソフトウエアによりペプチドピークが誤同定される場合があり、誤同定されたペプチドピークの溶出時間は、正同定されたペプチドピークの溶出時間と大きく異なる。このため、誤同定されたペプチドピークのデータを除外することが好ましく、その方法としては、例えば、ペプチドピークの溶出時間や平均溶出時間の標準偏差(SD)を選択することにより除外する方法を挙げることができ、溶出時間の標準偏差としては、例えば1.0分未満、0.5分未満、0.4分未満、0.3分未満、0.2分未満を挙げることができ、0.2分未満が好ましい。
【0025】
上記データベースには、さらに、ペプチドピーク群の標準溶出時間に対応するUniProtアクセッション番号や、ペプチドの修飾に関する情報を含むペプチドのアミノ酸配列や価数等の関連情報を格納することが好ましい。これらの情報により、ペプチドピークをさらに特徴付けることができ、ペプチドピークに対応するペプチド、すなわち対象タンパク質を構成するペプチドのアミノ酸配列を特定するために用いることができる。
【0026】
工程(b)
工程(b)においては、LC−MS/MSを用いた質量分析で得られる、ペプチドピーク’群の溶出時間や、かかるペプチドピーク’群の溶出時間に対応するMRMトランジションやピーク強度を取得する。上記「LC−MS/MSを用いた質量分析で得られる、ペプチドピーク’群の溶出時間や、かかるペプチドピーク’群の溶出時間に対応するMRMトランジションやピーク強度」には、実際に、対象タンパク質’を含む試料(対象タンパク質’試料)をタンパク質消化酵素により断片化処理し、対象タンパク質’を構成するペプチド’を含むペプチド’群を調製した後、LC−MS/MSを用いた解析を行って得られた、上記ペプチド’群由来のピーク(ペプチドピーク’群)の標準溶出時間や、かかるペプチドピーク’群の標準溶出時間に対応するMRMトランジションやピーク強度の他、上記解析により得られたペプチドピーク’群の標準溶出時間や、かかるペプチドピーク’群の標準溶出時間に対応するMRMトランジションやピーク強度(のデータ[情報])も含まれる。
【0027】
上記タンパク質’試料としては、タンパク質を含む試料であれば特に制限されず、具体的には、生体から採取された細胞、組織、血液等を、凍結融解法、フレンチプレス、グラスビーズ、ホモジナイザー、超音波破砕装置等を用いた破砕処理により得られる未分画試料や、かかる未分画試料を、分画遠心法、ショ糖密度勾配遠心法等による分画処理することにより得られる細胞膜画分試料や細胞質画分試料を挙げることができる。上記タンパク質’試料としては、工程(a)におけるタンパク質試料と同じ試料であってもよいが、より多くのペプチドピークに関する情報をデータベースに格納することができるため、異なる試料が好ましい。
【0028】
タンパク質’試料をタンパク質消化酵素により断片化処理し、ペプチド’群を調製した後、LC−MS/MSを用いた解析を行い、ペプチドピーク’群の溶出時間や、かかるペプチドピーク’群の標準溶出時間に対応するMRMトランジションやピーク強度を取得するまでの詳細な説明は、工程(a)において既述のとおりである。工程(b)におけるタンパク質消化酵素による断片化処理や、LC−MS/MSを用いた解析や、ペプチドピークの同定・選択等の条件は、工程(a)における条件と同じであることが好ましい。
【0029】
工程(c)
工程(c)においては、上記ペプチドピーク群の中から上記ペプチドピーク’群と共通するペプチドピークを標準化用ペプチドピーク群として選択する。標準化用ペプチドピーク群の選択は、Accessソフトウエア(Microsoft社製)等のリレーショナルデータベースソフトウエアを用いて、上記ペプチドピーク群におけるMRMトランジション(Q1とQ3の質量電荷比[m/z])と上記ペプチドピーク’群におけるMRMトランジションとを比較し、MRMトランジションが共通(同一)のペプチドピークを選択することにより行うことができる。
【0030】
工程(d)
工程(d)においては、工程(c)で選択した標準化用ペプチドピーク群の標準溶出時間を基準に、上記ペプチドピーク群の標準溶出時間と上記ペプチドピーク’群の溶出時間とのアライメントを行い、上記ペプチドピーク’群の溶出時間を上記ペプチドピーク群の標準溶出時間に標準化し、上記ペプチドピーク’群の標準溶出時間を取得する。上記ペプチドピーク’群の溶出時間を上記ペプチドピーク群の標準溶出時間に標準化する方法としては、ペプチドピーク群の中の標準化用ペプチドピーク群の標準溶出時間を基準にして、最適化するようにペプチドピーク’群の(実測値)溶出時間をシフトし、ペプチドピーク群の標準溶出時間へ標準化できる方法であればよく、例えば、Origin 9ソフトウエア(OriginLab社製)、Excel(Microsoft社製)等のソフトウエアを用い、ペプチドピーク’群のうち標準化用ペプチドピーク群については、パーセンタイルフィルター(100ポイント、50%)を用いたスムージングによってシフト時間を算出し、算出した時間に基づいて溶出時間をシフトするとともに、ペプチドピーク’群のうち標準化用ペプチドピーク群以外のペプチドピーク’については、近傍の標準化用ペプチドピークのシフト量に応じて(例えば、線形補正を用いてシフト時間を算出し)、算出したシフト時間に基づいて溶出時間をシフトする方法を挙げることができる。
【0031】
工程(e)
工程(e)においては、工程(d)で取得した上記ペプチドピーク’群の標準溶出時間を上記ペプチドピーク群の標準溶出時間に組み込み、新たなペプチドピーク群の標準溶出時間として上記データベースに格納する。すなわち、工程(e)では、ペプチドピーク群の標準溶出時間に、ペプチドピーク’群の標準溶出時間(ペプチドピーク’群の溶出時間がペプチドピーク群の標準溶出時間へ標準化した溶出時間)を保存し、蓄積した標準溶出時間のデータベースを作成する。
【0032】
工程(f)
工程(f)においては、ペプチドピーク’群の標準溶出時間に対応するMRMトランジション及びピーク強度を、前記データベースに格納する。すなわち、工程(f)では、ペプチドピーク群の標準溶出時間に対応するMRMトランジション及びピーク強度に加え、ペプチドピーク’群の標準溶出時間に対応するMRMトランジション及びピーク強度がデータベースに保存され、蓄積した標準溶出時間に対応するMRMトランジション及びピーク強度を格納する。ここで、ペプチドピーク’群の標準溶出時間に対応するピーク強度のうち、標準化用ペプチドピーク群のピーク強度は、データベースに格納されている標準化用ペプチドピーク群のピーク強度との平均値や合計値の他、両者を比較して大きい値の方を選択し、データベースに格納してもよく、或いは必要に応じて合計値を算出するために両者を蓄積してデータベースに格納してもよい。
【0033】
工程(b)〜(f)を繰り返すことにより、蓄積した標準溶出時間の蓄積レベルを高めたデータベースを作成することができるため、工程(b)〜(f)の工程を、少なくとも2回繰り返すことが好ましく、少なくとも2回としては、例えば、2〜200回、2〜100回、2〜50回、2〜25回、2〜10回、10〜200回、10〜100回、10〜50回、10〜25回、25〜200回、25〜100回、25〜50回、50〜200回、50〜100回などであってもよいが、2〜25回がより好ましい。また、工程(b)〜(f)を繰り返す場合、工程(b)で取得するペプチドピーク’群の溶出時間やかかる溶出時間に対応するMRMトランジションやピーク強度を得るためのタンパク質’試料としては、蓄積した標準溶出時間の蓄積レベルを効率良く高めるために、それぞれの繰り返しで異なる試料が好ましい。
【0034】
本件データベースの作成方法を用いて作成したデータベース(以下、「本件データベース」ということがある)を用い、1又は複数の試料中の1又は複数の対象タンパク質をLC−MS/MSを用いた解析を以下の工程(A)〜(E)を備えた方法(以下、「本件解析方法」ということがある)にしたがって行うと、対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを同定することができる。
【0035】
工程(A)
工程(A)においては、試料中の対象タンパク質群をタンパク質消化酵素により断片化処理し、対象ペプチド群を調製する。
【0036】
上記試料としては、対象タンパク質を含む試料であれば特に制限されず、具体的には、生体から採取された細胞、組織、血液等を、凍結融解法、フレンチプレス、グラスビーズ、ホモジナイザー、超音波破砕装置等を用いた破砕処理により得られる未分画試料や、かかる未分画試料を、分画遠心法、ショ糖密度勾配遠心法等による分画処理することにより得られる細胞膜画分試料や細胞質画分試料を挙げることができる。
【0037】
上記タンパク質消化酵素としては、タンパク質の特定のアミノ酸部位で消化(切断)され、断片したペプチドが調製できる酵素であれば特に制限されず、具体的には、トリプシン、キモトリプシン、エンドプロテイナーゼGlu-C、エンドプロテイナーゼLys−C、エンドプロテイナーゼArg−C、エンドプロテイナーゼAsn−C、リシルエンドペプチダーゼ、及びクロストリパインを挙げることができる。タンパク質消化酵素により断片化処理は、1又は複数のタンパク質消化酵素による断片化処理であれば特に制限されないが、効率よく断片化処理できるという点から、複数の上記タンパク質消化酵素による断片化処理が好ましく、具体的にはトリプシンとリシルエンドペプチダーゼとの併用による断片化処理を好適に例示することができる。タンパク質消化酵素による断片化処理条件としては、用いるタンパク質消化酵素の性質により温度や時間等の条件を適宜選択することができ、例えばトリプシンを用いる場合、30℃〜45℃において1〜36時間であることが好ましく、36〜37℃において16〜24時間であることがより好ましい。また、リシルエンドペプチダーゼを用いる場合、15〜45℃において1〜36時間であることが好ましく、15〜25℃において2〜4時間であることがさらに好ましい。また、トリプシンとリシルエンドペプチダーゼを併用する場合、15℃〜45℃において1〜36時間であることが好ましく、20〜30℃において10〜14時間であることがより好ましい。
【0038】
工程(B)
工程(B)においては、工程(A)で調製した対象ペプチド群を用いて、LC−MS/MSを用いた解析を行い、ペプチドピークの液体クロマトグラフィーにおける溶出時間、質量電荷比(m/z)(ペプチドピークの溶出時間に対応するMRMトランジション)、及びMRMクロマトグラム情報を含むデータを取得する。ここで「MRMクロマトグラム情報を含むデータ」とは、ペプチドピークのMRMクロマトグラムを抽出できるデータのことを意味し、具体的には、ペプチドピークの溶出時間に対応するMRMトランジションにおける、ペプチドピークの溶出時間とピーク強度から構成される(2次元)クロマトグラムを抽出できるデータのことをいう。
【0039】
上記LC−MS/MSを用いた解析においては、まずLC−MS/MSのLC(液体クロマトグラフィー)により、ペプチド群が分離される。ここで液体クロマトグラフィーとしては、具体的には、ペプチドの電荷の違いを利用して分離を行なう陽イオン交換クロマトグラフィーや、ペプチドの疎水性の違いを利用して分離を行なう逆相クロマトグラフィーを挙げることができ、両者を組み合わせたものであってもよい。
【0040】
次いで、分離された各ペプチドについて、タンデム質量分析(MS/MS)を行う。質量分析におけるイオン化の方法はソフトイオン化法であるエレクトロスプレーイオン化法(ESI法)を用いることが好ましい。質量分析では、各種イオン化法によりイオン化したペプチドはアナライザーで質量に応じて分離される。上記アナライザーとしては、例えば、磁場型質量分離装置(Sector MS)、四重極型質量分離装置(QMS)、飛行時間型質量分離装置(TOFMS)、フーリエ変換イオンサイクロトロン型質量分離装置(FT−ICRMS)を挙げることができ、さらにこれらを組み合わせたものでもよい。
【0041】
イオン化したペプチドの検出からMS/MSデータの取得までの方法としては、自動化した測定モードで行う方法が好ましく、具体的にはIDA(Information Dependent Acquisition)測定法、DDA(Data Dependent Acquisition)測定法等を挙げることができる。また、MRMクロマトグラム情報を含むデータは、MRM測定法やSWATH-MS測定法を用いて取得することができる。得られたMS/MSデータは、Protein Pilot、Peak View、MASCOT等のタンパク質同定のためのソフトウエアにインポートし、UniProt、EMBL、Swiss-Prot等のタンパク質データベースを用いてペプチド群を同定する。同定したペプチド群の中には、信頼性の低いペプチドピークを有するものが含まれているため、同定したペプチド群のペプチドピーク(ペプチドピーク群)の中から、信頼性の高いペプチドピークを有するものを選択することが好ましく、信頼性の高いペプチドピークとしては、上記ソフトウエアにより同定したペプチド群のMS/MSデータをイオンライブラリファイル(テキストファイル)に変換し、Access(Microsoft社製)にエクスポートすることにより、ペプチド信頼性を示す指標であるペプチド信頼度スコア(peptide confidence score)(信頼性が100%の場合の信頼度スコアは1.00として示す)を基に選択することができ、例えば、前記スコアが0.85を超えるペプチド、0.90を超えるペプチド、0.92を超えるペプチド、0.94を超えるペプチド、0.95を超えるペプチド、0.96を超えるペプチド、0.97を超えるペプチド、0.98を超えるペプチド、0.99を超えるペプチドなどを挙げることができるが、0.99を超えるペプチドがより好ましい。
【0042】
工程(C)
工程(C)においては、工程(B)で取得したペプチドピークの質量電荷比(m/z)を基に対象ペプチドピーク群を同定し、該対象ペプチドピーク群の中から本件データベースに格納されるペプチドピーク群と共通するペプチドピークを標準化用対象ペプチドピーク群として選択する。標準化用対象ペプチドピーク群の選択は、Accessソフトウエア(Microsoft社製)等のソフトウエアを用いて、本発明のデータベースに格納されるペプチドピーク群におけるMRMトランジション(Q1とQ3の質量電荷比[m/z])と対象ペプチドピーク群におけるMRMトランジションとを比較し、MRMトランジションが共通(同一)のペプチドピークを選択することにより行うことができる。
【0043】
工程(D)
工程(D)においては、工程(C)で選択した標準化用対象ペプチドピーク群の溶出時間を基準に、対象ペプチドピーク群の溶出時間と、本件データベースに格納されるペプチドピーク群の標準溶出時間とのアライメントを行い、本件データベースに格納されるペプチドピーク群の標準溶出時間を、対象ペプチドピーク群の溶出時間にシフトし、シフトした標準溶出時間と、該シフトした標準溶出時間に対応するMRMトランジション及びピーク強度とを再構築イオンライブラリとして取得する。本件データベースに格納されるペプチドピーク群の標準溶出時間を、対象ペプチドピーク群の溶出時間にシフトする方法としては、対象ペプチドピーク群の中の標準化用対象ペプチドピーク群の溶出時間を基準にして、最適化するように本件データベースのペプチドピーク群の標準溶出時間をシフトし、対象ペプチドピーク群の溶出時間へ実測値化できる方法であればよく、例えば、Origin 9ソフトウエア(OriginLab社製)、Excel(Microsoft社製)等のソフトウエアを用い、本件データベースのペプチドピーク群のうち標準化用対象ペプチドピーク群については、パーセンタイルフィルター(100ポイント、50%)を用いたスムージングによってシフト時間を算出し、算出した時間に基づいて標準溶出時間をシフトするとともに、本件データベースのペプチドピーク群のうち標準化用対象ペプチドピーク群以外のペプチドピークについては、近傍の標準化用対象ペプチドピークのシフト量に応じて(例えば、線形補正を用いてシフト時間を算出し)、算出したシフト時間に基づいて溶出時間をシフトする方法を挙げることができる。シフトした標準溶出時間は、Access(Microsoft社製)にインポートし、さらに該シフトした標準溶出時間に対応するMRMトランジション及びピーク強度と統合することにより再構築イオンライブラリ(シフトした標準溶出時間と、該シフトした標準溶出時間に対応するMRMトランジション及びピーク強度を含むデータ)とを取得する。
【0044】
工程(E)
工程(E)においては、工程(D)で取得した再構築イオンライブラリを用いて、工程(B)で取得したMRMクロマトグラム情報を含むデータからペプチドピークのMRMクロマトグラムを抽出し、前記MRMクロマトグラムから対象ペプチドピーク群を同定する。
【0045】
上記ペプチドピークのMRMクロマトグラムから対象ペプチドピーク群を同定するために、まずMRMクロマトグラム情報を含むデータから、対象ペプチド由来のペプチドピークの各MRMトランジションにおいて、ペプチドピークの溶出時間とピーク強度から構成される(2次元)クロマトグラムを作成する。次に、かかるクロマトグラムの中から、再構築イオンライブラリにおけるシフトした標準溶出時間(対象ペプチドピーク群の溶出時間が基準となるように変換された標準溶出時間)と共通する溶出時間を有するペプチドピークを抽出し、シフトした標準溶出時間と共通する溶出時間を有するペプチドピークを対象ペプチドピークとして同定する。ここで、「共通する溶出時間」には、シフトした標準溶出時間と同一の溶出時間の他、シフトした標準溶出時間を含む範囲の溶出時間、例えば、シフトした標準溶出時間±2.0分、シフトした標準溶出時間±1.5分、シフトした標準溶出時間±1.0分、シフトした標準溶出時間±0.5分、シフトした標準溶出時間±0.3分、シフトした標準溶出時間±0.2分、シフトした標準溶出時間±0.1分なども含まれる。本件データベースに、ペプチドピーク群の標準溶出時間に対応するUniProtアクセッション番号や、ペプチドの修飾に関する情報を含むペプチドのアミノ酸配列や価数等の関連情報が格納されると、これらの関連情報を基に、対象ペプチドピークに対応するペプチド、すなわち対象タンパク質を構成するペプチドのアミノ酸配列を特定することができる。
【0046】
本件解析方法は、複数の試料間における対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを定量するために、さらに、工程(E)で同定した対象ペプチドピーク群の中から、ピーク面積とピーク強度との比を基に、対象ペプチドピーク群の定量用ペプチドピークを選択する工程(F)、及び、工程(F)で選択した対象ペプチドピーク群の定量用ペプチドピーク面積を複数の試料について算出し、算出したピーク面積の比から、複数の試料間における対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを定量する工程(G)を備えたものが好ましい。
【0047】
工程(F)
工程(F)においては、対象ペプチドピーク群の定量用ペプチドピークを選択する。対象ペプチドピーク群の定量用ペプチドピークの選択は、工程(E)で同定した対象ペプチドピーク群の中から、ピーク面積とピーク強度との比を指標にして行うことができ、具体的には、工程(E)で同定した対象ペプチドピークについて、「(d)本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのうち、最大ピーク強度を付与するMRMトランジションのクロマトグラムから得られるピーク面積」と、「(c)本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのクロマトグラムから得られるペプチドピーク面積の合計」と、「(a)前記最大ピーク強度を付与するMRMトランジションにおける最大ピーク強度」と、「(b)前記ピーク面積の合計に用いたMRMトランジションにおけるピーク強度の合計」とを、式[(d)本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのうち、最大ピーク強度を付与するMRMトランジションのクロマトグラムから得られるピーク面積/(c)本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのクロマトグラムから得られるペプチドピーク面積の合計]/[(a)前記最大ピーク強度を付与するMRMトランジションにおける最大ピーク強度/(b)前記ピーク面積の合計に用いたMRMトランジションにおけるピーク強度の合計]に入力することにより値(指標値)を算出し、算出した指標値が0.25〜4.0の範囲、好ましくは0.33〜3.0の範囲、より好ましくは0.5〜2.0の範囲を示す対象ペプチドピークを定量用ペプチドピークとして選択する。上記ペプチドピーク面積の合計(c)やピーク強度の合計(b)に用いる本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションとしては、すべての対象ペプチドピークのMRMトランジションであってもよいが、最大ピーク強度に対してある割合を超えるピーク強度を付与するMRMトランジションを選択してもよく、その場合の「最大ピーク強度に対してある割合を超える」としては、例えば最大ピーク強度に対して5%を超える、10%を超える、15%を超える、20%を超える、25%を超える、30%を超える等を挙げることができるが、最大ピーク強度に対して20%を超えるが好ましい。また、定量用ペプチドピークは、さらにMRMトランジション数に基づいて選択することが好ましく、例えば、MRMトランジション数が2以上、3以上、4以上、5以上のペプチドピークを定量用ペプチドピークとして選択することを挙げることができるが、MRMトランジション数が3以上のペプチドピークを定量用ペプチドピークとして選択することがより好ましい。
【0048】
工程(G)
工程(G)において、算出したピーク面積の比から、複数の試料間における対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークを定量する方法としては、特定の試料における対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークのピーク面積と、前記特定の試料とは異なる試料における対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークのピーク面積との変化を相対的に定量する方法の他、15N,13C,18O,及びHのいずれか1以上の安定同位体標識元素で対象タンパク質を構成するペプチド標識された、濃度既知の安定同位体標識標的ペプチドを用意し、かかる安定同位体標識標的ペプチドを内部標準として、特定の試料における対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークのピーク面積と、前記特定の試料とは異なる試料における対象タンパク質を構成するペプチドのペプチドピークのピーク面積との変化を絶対的に定量する方法が含まれる。
【0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
[結果1:MRMアレイデータベース(本発明のデータベース)作成方法の概要]
本発明のデータベースの作成方法の概要を図1A及びBに示す。まず、第1タンパク質試料(図1Aの「Sample #1」)から質量分析用試料を調製し(詳細は、後述の[方法1:LC−MS/MSにより解析する試料の調製法]参照)、LC−MS/MSを用いた質量分析を行い、IDA(Information Dependent Acquisition)測定により第1タンパク質試料を構成する第1試料ペプチドピーク(群)のMS/MSデータを取得する(詳細は、後述の[方法2:LC−MS/MS]参照)。続いて、MS/MSデータを基にProtein PilotやPeak Viewソフトウエア等を用いて第1試料ペプチド群を同定し、前記MS/MSデータをイオンライブラリファイルに変換する。次に、信頼性の高いペプチドピーク群(例えば、本実施例においては、信頼度スコア>0.99を選択規準とした)を選択し、さらに信頼性の高い平均溶出時間(本実施例においては、同一ペプチドの溶出時間の標準偏差[SD]<0.2分を選択基準とした)を有するペプチドピーク群を選択し、かかるペプチドピーク群の溶出時間を標準溶出時間(標準RT、nRT)としてデータベースに保存(格納)する。次いで第2タンパク質試料(図1Aの「Sample #2」)も第1タンパク質試料と同様の方法で解析し、第2試料ペプチドピーク群を同定・選択し、かかる第2試料ペプチドピーク群の実測RT2を取得する。その後、データベースに格納した第1試料ペプチドピーク群の中から、第2試料ペプチドピーク群と共通するペプチドピークを、標準化用ペプチドピーク群として選択する。かかる標準化用ペプチドピーク群のnRTを基準にして、アラインメントを最適化するように第2試料ペプチドピーク群内の標準化用ペプチドピークの実測RT2をシフトさせる(たとえば、本実施例においてはパーセンタイルフィルターを用いたスムージングによってシフト時間を算出)。第2試料ペプチドピーク群内の標準化用ペプチドピーク以外のペプチドピークは近傍の標準化用ペプチドピークのシフト量に応じてシフトさせる(たとえば、本実施例においては線形補正を用いてシフト時間を算出)。以上のシフトによりすべての第2試料ペプチドピーク群に対して実測RT2をnRT2としてnRTに標準化(変換)する。第2試料ペプチドピーク群のnRT2をデータベースに保存することにより、蓄積したnRT(nRT+nRT2)のデータベースを作成する。nRTの蓄積と同時にMRMトランジション、ピーク強度及び関連情報(価数、UniProtアクセッション番号、ペプチドの修飾に関する情報を含むペプチドのアミノ酸配列)も格納する(図1B)。さらに、第3タンパク質試料(図1Aの「Sample #3」)についても第1タンパク質試料や第2タンパク質試料と同様の方法で解析を行い、第3試料ペプチドピーク群を同定・選択し、かかる第3試料ペプチドピーク群の実測RT3を取得し、nRT3に標準化し、データベースに保存することにより、蓄積したnRT(nRT+nRT2+nRT3)の蓄積レベルを高める。なお、第4タンパク質試料以降は、各ペプチドピークについてアラインメントの際にデータベースから信頼性の高い平均nRTを選択し、実測RTと比較を行う(たとえば、本実施例においてはRTの標準偏差[SD]<0.2分を選択基準とした)。
【0051】
[結果2:本発明のデータベースの作成法]
ヒト肝臓ミクロソーム(HLM)(XTreme 200、XenoTech社製)を用いて、本発明のデータベースを作成した結果を図1C〜Eに示す。HLMのトリプシン消化ペプチドをアルカリ条件下の逆相カラムで分画した3種類の画分のRT(図1Cの「赤(画分1)、青(画分2)、及び緑(画分3)」)と、対照としての未分画のHLMのRTとの差異を調べたところ、連続測定にもかかわらず3種類の画分で同定されたペプチドピークのRTは、未分画のHLMとはずれており、その時間差は画分毎に異なっていた(図1C)。上記1種類の画分のRT(赤[画分1])についてnRTの変換過程を示す。あらかじめ構築した本発明のデータベース(後述する23種類の試料のデータを蓄積したデータベース)内の6858個の共通ペプチドピーク(標準化用ペプチドピーク)のnRTと画分1の標準化用ペプチドピークの実測RTの時間差をプロットし(図1D、赤点)、平滑化によりシフト時間量を算出した(図1D、緑線)。画分1の標準化用ペプチドピークの実測RTから変換したnRTとデータベース内の標準化用ペプチドピークのnRTとの差は、98.3%の標準化用ペプチドピークで0.2分以内であることが示された(図1E)この結果は、誤差が0.2分以内でnRTに変換できることを示している。また、LC溶媒を新しく交換した場合や培養細胞の細胞内画分試料を解析した場合にも同様の結果が得られた。
【0052】
さらに、23種類の試料(未分画のHLMのデータセット5組[XTreme 200、XenoTech社製]、HLM画分データセット10組[XTreme 200、XenoTech社製]、細胞株[HEK293、Caco2及びBeWo]の細胞内画分試料のデータセット8組)と、2種類の合成ペプチドのデータセット[Ohtsuki, S., et al. J Pharm Sci 100, 3547-3559 (2011)、Shawahna, R., et al. Mol Pharm 8, 1332-1341 (2011)、Uchida, Y., et al. J Neurochem 117, 333-345 (2011)参照]のデータセット2組)を基にデータを取得し、本発明のデータベースを作成した(詳細は、後述の[方法3:本発明のデータベースにおけるnRTデータの蓄積]参照)。その結果、107,715個のペプチドピークのnRTとMRMトランジション情報を含むデータベースを作成することができた。かかるペプチドピークは、UniProtアクセッション番号と、前駆ペプチドの修飾に関する情報を含むペプチド配列及び価数によって特徴付けられている。また、2回以上の実験のデータが蓄積されたペプチドピークは54,980個であり、その97.0%は、標準偏差(SD)が0.2分以内であることが示された。RTがSD<0.2分のペプチドピーク、及びRTを1回の実験で検出したペプチドピークを選択し(合計106,074個のペプチドピーク)、これらペプチドピークのnRTとMRMトランジションとピーク強度の他、関連情報(価数、UniProtアクセッション番号、ペプチドの修飾に関する情報を含むペプチドのアミノ酸配列)を含むデータベースを以降の解析に用いた。
【0053】
[結果3:本発明のデータベースを用いたイオンライブラリの再構築法の概要]
本発明のデータベースを用いたイオンライブラリの再構築法の概要を図2Aに示す。まず、対象タンパク質を含む測定用試料を用いて、LC−MS/MSを用いたIDA解析を行い、イオンライブラリファイルを取得する。次に、信頼性の高い対象ペプチドピーク群(例えば、本実施例においては、信頼度スコア>0.99を選択基準とした)を選択し、対象ペプチドピーク群と本発明のデータベースに格納されている標準ペプチドピーク群とを比較し、共通のペプチドピークであり且つ両者のRTを基にRT値の信頼性が高いペプチドピーク(例えば、本実施例においては、標準偏差[SD]<0.2分を選択基準とした)を標準化用対象ペプチドピーク群として選択する。標準化用対象ペプチドピーク群のRTを基準に、データベースに格納される標準ペプチドピーク群のnRTをシフト・補正することにより、前記nRTを実測値に基づいたRTに変換し、再構築イオンライブラリを作成し、SWATH定量解析に用いる。
【0054】
[結果4:本発明のデータベースを用いたイオンライブラリの再構築]
HLMを用いて、LC−MS/MSを用いたIDA解析を行い、イオンライブラリファイルを取得後、本発明のデータベースを用いて再構築イオンライブラリを作成し(詳細は、[方法4:本発明のデータベースを基にしたイオンライブラリファイルの再構築]参照)、実測値のRTとシフトしたnRTとの差異を測定した(図2B)。再構築用溶出時間として用いなかった0.90〜0.99の信頼度スコアを有する対象ペプチド群(1585個のペプチド)のピークについて、実測値RTとシフトしたnRTとを比較して両者の差異幅を検証した。その結果、両者の差異幅が0.2分以内の対象ペプチドピークは、95.4%(1512個)あることが示された(図2B)。また、再構築用溶出時間として用いた信頼度スコア>0.99を有する対象ペプチドピーク群(12863個のペプチド)については、12784個のペプチドピーク(99.4%)のRTが0.2分以内の差異幅であることが示された。これらの結果は、シフトしたnRTに対応する実測値RTを十分特定できるため、シフトしたnRTを用いてクロマトグラム上の対象ペプチドピークを同定できることを示している。
【0055】
[結果5:本発明のデータベースを用いたSWATH定量解析1]
次に、本発明のデータベースを用いて同定したペプチドピークのピーク面積を再現的に定量できるかどうかを検討した。測定対象試料の一部をIDA解析し、対象ペプチドを同定し、本発明のデータベースを用いて対象ペプチドとの共通ペプチドピーク(標準化用ペプチドピーク)の溶出時間を利用しイオンライブラリを再構築した。さらに、測定対象試料をSWATH解析し、SWATHで取得したデータを再構築したイオンライブリーを用いて解析し対象ペプチドピークのピーク面積を定量した。1.5カ月後に同様の試料を用いて同様に解析を行い、両者のピーク面積を比較した。なお、ピーク面積は、全対象ペプチドピーク群のピーク面積の総計で標準化した。その結果、図2Dに示すように、両測定対象試料間で2倍以内の差異幅で再現性良く定量できる対象ペプチドピークは、61.1%(59553/97512)にとどまることが示された。特に、低ピーク面積を示す対象ペプチドピークの多くが2倍を超える差異で定量され、再現性に問題があることが示された。再現性を低下させる原因として、本発明のデータベースを用いて同定した対象ペプチドピークのうち、検出限界以下の対象ペプチドピークも定量してしまうことが考えられた。このため、定量できる対象ペプチドピークをバリデーション(validation)する必要があると考えた。
【0056】
本発明者らは、ピークのバリデーション用の簡便な指標を開発した(詳細は、後述の[方法5:ペプチドピークのバリデーション]参照)。すなわち、本発明のデータベースに対して、式[(d)本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのうち、最大ピーク強度を付与するMRMトランジションのクロマトグラムから得られるピーク面積/(c)本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのクロマトグラムから得られるペプチドピーク面積の合計]/[(a)前記最大ピーク強度を付与するMRMトランジションにおける最大ピーク強度/(b)前記ピーク面積の合計に用いたMRMトランジションにおけるピーク強度の合計]の値を、各MRMトランジションについて算出し、0.5〜2の範囲内にある対象ペプチドピークを有効なピークとして抽出した。なお、本実施例においては、上記ペプチドピーク面積の合計(c)やピーク強度の合計(b)に用いる本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションは、最大ピーク強度に対して20%を超えるピーク強度を付与するMRMトランジションを選択した(後述の[方法4:本発明のデータベースを基にしたイオンライブラリファイルの再構築]参照)。バリデーション指標を用いてピークを抽出すると、ピーク面積の差異幅が2倍以内のペプチドピークの割合は61.1%から87.4%(37707/43129)へ増加するとともに、ピーク面積の差異幅が1.5倍以内のペプチドピークの割合は47.5%から74.1%へ増加することが示された(図2E)。この結果は、上記ペプチドピークのバリデーションが有効であることを示している。さらに定量性良く定量できる対象ペプチドの割合を高めるため、MRMトランジション数が3以上のペプチドピークを抽出すると、ピーク面積の差異幅が2倍以内のペプチドの割合は87.4%から90.3%(32235/35692)へ増加することが示された(図2F)。かかるペプチドピークのバリデーションでピークを限定した後においても、定量できるペプチドの数は、標準的SWATH定量法を用いた場合よりも4.23倍(32235/7615:図2CとFとの比較)多かった。また、定量できる対象ペプチドのピーク面積の下限に着目したところ、標準的SWATH定量法を用いた場合よりも1/10低いレベルのものも定量できることが示された(図2Fの10カウントと図2Cの10カウントの比較)。これらの結果は、本発明のデータベースを用いて測定対象ペプチドピークを同定し、同定したペプチドピークの中から上記ペプチドピークのバリデーションを行うことにより、定量できるペプチドピークを効率良く抽出できることを示している。
【0057】
[結果6:本発明のデータベースを用いたSWATH定量解析2]
次に、バリデーションを行って抽出したペプチドピークの面積の増減を十分検出できるかどうかについて、合成ペプチドをスパイクしたモデル試料(詳細は、後述の[方法6:本発明のデータベースを用いたペプチドピークの定量の検証]参照)を用いて検討した。0.1fmolの合成ペプチドをスパイクした試料と、25fmolの合成ペプチドをスパイクした試料とを比較して増加の有無を検証したところ、標準的SWATH定量を用いた場合、増加を検出できた合成ペプチドピーク数は171(総登録ピーク数[312]の54.8%)であったのに対して、本発明のデータベースから再構築したイオンライブラリを用いて定量を行いバリデーションにより抽出(以下、「本発明のデータベースを用いたSWATH定量」ということがある)した場合、増加を検出できた合成ペプチドピーク数は263(総登録ピーク数[312]の84.3%)と増加していた(図3A)。また、合成ペプチドの量比を変えた他の組合せを用いて解析した場合でも同様の結果が得られており、例えば、0.5fmolの合成ペプチドをスパイクした試料と、25fmolの合成ペプチドをスパイクした試料との間では、標準的SWATH定量を用いた場合、増加を検出できた合成ペプチドピーク数は171(総登録ピーク数[312]の54.8%)であったのに対して、本発明のデータベースを用いたSWATH定量を用いた場合、増加を検出できた合成ペプチドピーク数は264(総登録ピーク数[312]の84.6%)と増加しており、また、5fmolの合成ペプチドをスパイクした試料と、25fmolの合成ペプチドをスパイクした試料との間では、標準的SWATH定量を用いた場合、増加を検出できた合成ペプチドピーク数は166(総登録ピーク数[312]の53.2%)であったのに対して、本発明のデータベースを用いたSWATH定量を用いた場合、増加を検出できた合成ペプチドピーク数は238(総登録ピーク数[312]の76.2%)と増加していた(図3A)。これらの結果は、本発明のデータベースを用いて合成ペプチドを同定し、同定した合成ペプチドのピークについて、バリデーションにより抽出したペプチドピークは、そのピーク面積の増減を感度良く検出できることを示している。
【0058】
次に、上記バリデーションにより抽出したペプチドピークは、そのピーク面積の増減を精度よく定量できるかどうかについて検討した。0.5fmolの合成ペプチドでスパイクした試料と、5fmolの合成ペプチドでスパイクした試料との間でペプチドピークの面積比(詳細は、後述の[方法6:本発明のデータベースを用いたペプチドピークの定量の検証]参照)を比較すると、10.4倍の差があることが示された(図3C)。すなわち、合成ペプチドの量比に相当するピーク面積比で検出することができた。この結果は、本発明のデータベースを用いて合成ペプチドを同定し、同定した合成ペプチドのピークについて、バリデーションにより抽出したペプチドピークは、そのピーク面積の増減を十分な精度で検出できることを示している。なお、標準的SWATH定量法を用いた場合にも、0.5fmolの合成ペプチドでスパイクした試料と、5fmolの合成ペプチドでスパイクした試料との間でペプチドピークの面積比が9.9倍の差で検出できたものの(図3B)、本発明のデータベースを用いたSWATH定量法は、標準的SWATH定量法を用いて同定できなかったペプチドピークの増減も精度よく検出できる点で優れている。
【0059】
[方法1:LC−MS/MSにより解析する試料の調製法]
LC−MS/MSにより解析する試料は、文献(Ohtsuki, S., et al. Drug Metab Dispos 40, 83-92 (2012)、Ohtsuki, S., et al. J Pharm Sci 100, 3547-3559 (2011)、Yoneyama, T., et al. J Proteome Res 12, 753-762 (2013))に記載の方法を修正した方法を用いて調製した。以下にその調製方法を示す。まず、7M塩酸グアニジン及び10mMEDTAを含有する懸濁液に、タンパク質試料(50μg)を懸濁した。窒素存在下、室温で60分間、DTT(dithiothreitol)で試料を還元し、次いで、室温で60分間、ヨードアセトアミデでS−カルバモイルメチル化した。アルキル化されたタンパク質を、メタノールとクロロホルムの混合物で沈殿させた。この沈殿物を6M尿素に溶解し、100mMTris−HCl(pH8.0)で希釈した。試料を1M尿素まで希釈した後、リシルエンドペプチダーゼを酵素/基質が1:100の割合で用い、25℃で3時間消化し、次にトシルフェニルアラニルクロロメチルケトンで処理したトリプシンを酵素/基質が1:100の割合で用い、37℃で16時間消化した。GL−SDBチップ及びGL−GCチップ(ジーエルサイエンス社製)を用いて試料を脱塩し、蒸発させ、0.1%のギ酸に溶解し、試料を調製した。
【0060】
[方法2:LC−MS/MS]
nanoLCシステム(Ultimate 3000 RSLCnano;DIONEX社製)を、正イオン化モードで作動させたナノ−エレクトロスプレーイオン化質量分析計(TripleTOF 5600;ABSCIEX社製)に接続して用い、対象タンパク質を含む試料を分析した。イオン源ガス、カーテンガス、イオンスプレー電圧、インターフェースヒーター温度、及びデクラスタリング電位のパラメータ値は、それぞれ20、20、2300、150、及び80であった。累積時間50マイクロ秒、衝突エネルギー分散係数5、イオン放出遅延30及びイオン放出幅15にて、ローリング衝突エネルギーを利用し、前駆イオン(Q1)を300〜1008、プロダクトイオン(Q3)を100〜1600スキャンし、IDA法を行った。プロダクトイオンを観察するための候補前駆イオンの最大数は、20イオン/サイクルだった。分析したイオンは10秒間除外した。蓄積時間を50マイクロ秒とし、前駆イオンのSWATHウインドウを300〜1008の13Da(1Daの重複を含む)の質量電荷比に設定し、SWATH−MS取得法を行った。プロダクトイオンは、IDA測定と同じ設定で、ローリング衝突エネルギーを用い、100〜1600スキャンした。サイクル時間は3.05秒であった。C18カラム(Acclaim PepMap RSLC C18、2μm、100Å、内径75μm×25cm、 DIONEX社製)及びトラップカラム(内径100μm×2cm、 Acclaim PepMap100 C18を充填、5μm、100Å、DIONEX社製)を用い、40℃にてNanoLCを行った。0.1%ギ酸に1〜25%及び25〜50%のアセトニトリルを含有する直線勾配を適用し、流速300nL/分にて、60分間及び15分間(図1及び2)又は40分間及び10分間(図3)、対象ペプチドを溶出した。
【0061】
[方法3:本発明のデータベースにおけるnRTデータの蓄積]
上記23種類の試料と2種類の合成ペプチドのデータセットを用いてIDA測定により得られたMS/MSデータはProtein Pilot(ABSCIEX社製)にインポートし、UniProtヒトタンパク質データベースを検索して対象ペプチドを同定した。結果ファイル(図1の[group file]に相当)をSWATH MicroApp(ABSCIEX社製)を用いてPeak Viewにインポートし、イオンライブラリファイル(テキストファイル)をAccess(Microsoft社製)にエクスポートした。ペプチド信頼度スコア(peptide confidence score)が0.99を超えるトランジションデータを抽出し、抽出した各トランジションデータを固有のトランジション名及び固有のペプチドピーク名とリンクさせ、Microsoft SQL Server Expressにトランジションデータベースとして格納した。データベースサイズを縮小するため、トランジションデータを、相対強度を合計することで固有のトランジション名で統合した。各ペプチドピークのRTの平均及び標準偏差(SD)をAccess内で計算し、SD<0.2分であるRT平均値をRTアラインメントに使用した。全てのRT及びnRTをAccessで一覧化し、RTによってソーティングした全てのRTと標準化用ペプチドピークのRT−nRTのリストをOrigin 9ソフトウエア(OriginLab社製)にエクスポートし、補正(平滑化及び補間)を行った。平滑化は、パーセンタイルフィルター(100ポイント、50%)を用いて行い、直線補間は平滑化したデータを用いて行った。補間したデータをAccess内のnRTデータベースに格納した。各種試料から取得したnRTをnRTデータベースに格納した。なお、IDAデータのRTと比較するため、各ペプチドピークのnRTの平均及びSDをAccessで計算し、SD<0.2分であるRTの平均、又は1回の実験で検出されたペプチドのRTを用いた(合計106,074個のペプチドのRT)。
【0062】
[方法4:本発明のデータベースを基にしたイオンライブラリファイルの再構築]
HLMを用いて、連続SWATH取得法の過程でIDA法により分析した。IDA法で取得したデータファイルからイオンライブラリファイルを作成し、Accessにインポートした。イオンライブラリのRT、及びnRTデータベースのnRTの平均及びSDを計算し、SDが0.2分以内である重複ペプチドピークの全てのRT及びnRTをAccessで一覧化した。nRTに基づいてソーティングした全nRTと標準化用ペプチドピークのRT―nRTのリストをOrigin 9ソフトウエアにエクスポートし、平滑化及び補間を行った。平滑化は、パーセンタイルフィルター(100ポイント、50%)を用いて行い、直線補間は平滑化したデータを用いて行った。シフトしたnRTをAccessにインポートし、再構築イオンライブラリファイルを、トランジションデータベースのデータと統合することにより作成した。各ペプチドピークにおいて最大強度が20%を超えるトランジションを再構築イオンライブラリファイル用に選択した。再構築イオンライブラリファイルをSWATH MicroAppを備えたPeak Viewにインポートし、SWATHの取得データを使用してSWATH定量を行った。全てのペプチドピークについてピーク面積を得るため、ペプチド数、修飾の排除、共有配列選択の排除、XIC抽出ウインドウ、及びXIC幅を、それぞれ、「999」、「off」、「off」、「1.0分」及び「0.040Da」に設定した。勾配条件の違いにより、実測RTとシフトしたnRTとの差異が図3では図2よりも大きかったため、該図3ではXIC抽出ウインドウを1.5分に設定した。標準的SWATH定量では、ピーク面積の計算に5個のトランジションを使用した。本発明のデータベースを用いた定量では、選択した全てのトランジションを再構築イオンライブラリで使用するため、トランジション数を「999」に設定した。
【0063】
[方法5:ペプチドピークのバリデーション]
ピークのバリデーションには、トランジションデータベース中の「相対ピーク強度」と、Peak Viewソフトウエアからエクスポートした結果ファイル中の各トランジション(イオン)の「ピーク面積」を使用した。Accessを使用して以下の手順を行った。各ペプチドピークについて、MRMトランジションデータベースにおける最大ピーク強度(a)、ピーク強度の合計(b)、及び最大ピーク強度を付与するトランジションを各ペプチドピークについてリスト化した。次に、Peak Viewからエクスポートした試料の結果ファイルにおいて、ピーク面積の合計(c)と、トランジションデータベースにおいて最大強度を付与するトランジションのピーク面積(d)を各ペプチドピークについて一覧化した。各ペプチドピークについて、式[(d)本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのうち、最大ピーク強度を付与するMRMトランジションのクロマトグラムから得られるピーク面積/(c)本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのクロマトグラムから得られるペプチドピーク面積の合計]/[(a)前記最大ピーク強度を付与するMRMトランジションにおける最大ピーク強度/(b)前記ピーク面積の合計に用いたMRMトランジションにおけるピーク強度の合計]によってバリデーションの指標を計算した。指標値が0.5〜2の範囲にあるペプチドピークを比較に用いた。
【0064】
[方法6:本発明のデータベースを用いたペプチドピークの定量の検証]
トリプシンで消化した未分画のHLMに296種の合成ペプチド(Ohtsuki, S., et al. J Pharm Sci 100, 3547-3559 (2011)、Shawahna, R., et al. Mol Pharm 8, 1332-1341 (2011)、Uchida, Y., et al. J Neurochem 117, 333-345 (2011))をそれぞれ4種類の量(0.1、0.5、5及び25fmol/注入)となるように添加し、モデル試料を作製した。これらのペプチドにより本発明のデータベース中の240種のペプチドから312個のペプチドピークがモデル試料において検出された。試料は、SWATH−MS取得法で繰り返し分析した(4回)。合成ペプチドを25fmolスパイクしたモデル試料を、第1試料の前、かつ、2回目と3回目のリピートの間にIDA法で分析した。Peak Viewからエクスポートしたイオンライブラリファイルから合成ペプチドのトランジション情報を削除し、合成ペプチドの情報を用いずに再構築ピークファイルを作成した。勾配条件が異なるため、RTの差異は図2Bより大きく、検出されたピークの時間ウインドウを1.0分ではなく、1.5分に設定した。ピーク面積データをMarker Viewソフトウエア(ABSCIEX社製)にインポートして統計分析を行い、顕著に増加した(p<0.01倍及び>1.5倍)ペプチドピークを抽出した。これら顕著に増加したペプチドピークについてピークのバリデーションを行った。合成ペプチドの一部はHLM中のタンパク質の測定に用いることができるため、ピーク面積は、内在性ペプチドと添加ペプチドの合計面積となっている。内在性ペプチドの量を除外するため、0.5又は5fmolのピーク面積比を以下のとおり計算した。
ピーク面積比=(0.5又は5fmolの合成ペプチドのピーク面積−0.1fmolの合成ペプチドのピーク面積)/(25fmolの合成ペプチドのピーク面積−0.1fmolの合成ペプチドのピーク面積)
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、バイオマーカー探索に有効な技術であるため、医療・製薬・バイオ分野に活用できる。また、SWATHのデータ取得は、現在までのところABSCIEX社(質量分析機器世界シェア一位)の機械でしかできないため、ABSCIEX社の解析ソフトウエアに本発明のデータベース作成方法のアルゴリズムを入れることが有用である。また、バイオソフトウェア企業に本発明のデータベース作成方法のアルゴリズムをライセンシングし、解析用ソフトの開発に貢献することも期待される。
図1
図2
図3