【実施例1】
【0050】
[結果1:MRMアレイデータベース(本発明のデータベース)作成方法の概要]
本発明のデータベースの作成方法の概要を
図1A及びBに示す。まず、第1タンパク質試料(
図1Aの「Sample #1」)から質量分析用試料を調製し(詳細は、後述の[方法1:LC−MS/MSにより解析する試料の調製法]参照)、LC−MS/MSを用いた質量分析を行い、IDA(Information Dependent Acquisition)測定により第1タンパク質試料を構成する第1試料ペプチドピーク(群)のMS/MSデータを取得する(詳細は、後述の[方法2:LC−MS/MS]参照)。続いて、MS/MSデータを基にProtein PilotやPeak Viewソフトウエア等を用いて第1試料ペプチド群を同定し、前記MS/MSデータをイオンライブラリファイルに変換する。次に、信頼性の高いペプチドピーク群(例えば、本実施例においては、信頼度スコア>0.99を選択規準とした)を選択し、さらに信頼性の高い平均溶出時間(本実施例においては、同一ペプチドの溶出時間の標準偏差[SD]<0.2分を選択基準とした)を有するペプチドピーク群を選択し、かかるペプチドピーク群の溶出時間を標準溶出時間(標準RT、nRT)としてデータベースに保存(格納)する。次いで第2タンパク質試料(
図1Aの「Sample #2」)も第1タンパク質試料と同様の方法で解析し、第2試料ペプチドピーク群を同定・選択し、かかる第2試料ペプチドピーク群の実測RT2を取得する。その後、データベースに格納した第1試料ペプチドピーク群の中から、第2試料ペプチドピーク群と共通するペプチドピークを、標準化用ペプチドピーク群として選択する。かかる標準化用ペプチドピーク群のnRTを基準にして、アラインメントを最適化するように第2試料ペプチドピーク群内の標準化用ペプチドピークの実測RT2をシフトさせる(たとえば、本実施例においてはパーセンタイルフィルターを用いたスムージングによってシフト時間を算出)。第2試料ペプチドピーク群内の標準化用ペプチドピーク以外のペプチドピークは近傍の標準化用ペプチドピークのシフト量に応じてシフトさせる(たとえば、本実施例においては線形補正を用いてシフト時間を算出)。以上のシフトによりすべての第2試料ペプチドピーク群に対して実測RT2をnRT2としてnRTに標準化(変換)する。第2試料ペプチドピーク群のnRT2をデータベースに保存することにより、蓄積したnRT(nRT+nRT2)のデータベースを作成する。nRTの蓄積と同時にMRMトランジション、ピーク強度及び関連情報(価数、UniProtアクセッション番号、ペプチドの修飾に関する情報を含むペプチドのアミノ酸配列)も格納する(
図1B)。さらに、第3タンパク質試料(
図1Aの「Sample #3」)についても第1タンパク質試料や第2タンパク質試料と同様の方法で解析を行い、第3試料ペプチドピーク群を同定・選択し、かかる第3試料ペプチドピーク群の実測RT3を取得し、nRT3に標準化し、データベースに保存することにより、蓄積したnRT(nRT+nRT2+nRT3)の蓄積レベルを高める。なお、第4タンパク質試料以降は、各ペプチドピークについてアラインメントの際にデータベースから信頼性の高い平均nRTを選択し、実測RTと比較を行う(たとえば、本実施例においてはRTの標準偏差[SD]<0.2分を選択基準とした)。
【0051】
[結果2:本発明のデータベースの作成法]
ヒト肝臓ミクロソーム(HLM)(XTreme 200、XenoTech社製)を用いて、本発明のデータベースを作成した結果を
図1C〜Eに示す。HLMのトリプシン消化ペプチドをアルカリ条件下の逆相カラムで分画した3種類の画分のRT(
図1Cの「赤(画分1)、青(画分2)、及び緑(画分3)」)と、対照としての未分画のHLMのRTとの差異を調べたところ、連続測定にもかかわらず3種類の画分で同定されたペプチドピークのRTは、未分画のHLMとはずれており、その時間差は画分毎に異なっていた(
図1C)。上記1種類の画分のRT(赤[画分1])についてnRTの変換過程を示す。あらかじめ構築した本発明のデータベース(後述する23種類の試料のデータを蓄積したデータベース)内の6858個の共通ペプチドピーク(標準化用ペプチドピーク)のnRTと画分1の標準化用ペプチドピークの実測RTの時間差をプロットし(
図1D、赤点)、平滑化によりシフト時間量を算出した(
図1D、緑線)。画分1の標準化用ペプチドピークの実測RTから変換したnRTとデータベース内の標準化用ペプチドピークのnRTとの差は、98.3%の標準化用ペプチドピークで0.2分以内であることが示された(
図1E)この結果は、誤差が0.2分以内でnRTに変換できることを示している。また、LC溶媒を新しく交換した場合や培養細胞の細胞内画分試料を解析した場合にも同様の結果が得られた。
【0052】
さらに、23種類の試料(未分画のHLMのデータセット5組[XTreme 200、XenoTech社製]、HLM画分データセット10組[XTreme 200、XenoTech社製]、細胞株[HEK293、Caco2及びBeWo]の細胞内画分試料のデータセット8組)と、2種類の合成ペプチドのデータセット[Ohtsuki, S., et al. J Pharm Sci 100, 3547-3559 (2011)、Shawahna, R., et al. Mol Pharm 8, 1332-1341 (2011)、Uchida, Y., et al. J Neurochem 117, 333-345 (2011)参照]のデータセット2組)を基にデータを取得し、本発明のデータベースを作成した(詳細は、後述の[方法3:本発明のデータベースにおけるnRTデータの蓄積]参照)。その結果、107,715個のペプチドピークのnRTとMRMトランジション情報を含むデータベースを作成することができた。かかるペプチドピークは、UniProtアクセッション番号と、前駆ペプチドの修飾に関する情報を含むペプチド配列及び価数によって特徴付けられている。また、2回以上の実験のデータが蓄積されたペプチドピークは54,980個であり、その97.0%は、標準偏差(SD)が0.2分以内であることが示された。RTがSD<0.2分のペプチドピーク、及びRTを1回の実験で検出したペプチドピークを選択し(合計106,074個のペプチドピーク)、これらペプチドピークのnRTとMRMトランジションとピーク強度の他、関連情報(価数、UniProtアクセッション番号、ペプチドの修飾に関する情報を含むペプチドのアミノ酸配列)を含むデータベースを以降の解析に用いた。
【0053】
[結果3:本発明のデータベースを用いたイオンライブラリの再構築法の概要]
本発明のデータベースを用いたイオンライブラリの再構築法の概要を
図2Aに示す。まず、対象タンパク質を含む測定用試料を用いて、LC−MS/MSを用いたIDA解析を行い、イオンライブラリファイルを取得する。次に、信頼性の高い対象ペプチドピーク群(例えば、本実施例においては、信頼度スコア>0.99を選択基準とした)を選択し、対象ペプチドピーク群と本発明のデータベースに格納されている標準ペプチドピーク群とを比較し、共通のペプチドピークであり且つ両者のRTを基にRT値の信頼性が高いペプチドピーク(例えば、本実施例においては、標準偏差[SD]<0.2分を選択基準とした)を標準化用対象ペプチドピーク群として選択する。標準化用対象ペプチドピーク群のRTを基準に、データベースに格納される標準ペプチドピーク群のnRTをシフト・補正することにより、前記nRTを実測値に基づいたRTに変換し、再構築イオンライブラリを作成し、SWATH定量解析に用いる。
【0054】
[結果4:本発明のデータベースを用いたイオンライブラリの再構築]
HLMを用いて、LC−MS/MSを用いたIDA解析を行い、イオンライブラリファイルを取得後、本発明のデータベースを用いて再構築イオンライブラリを作成し(詳細は、[方法4:本発明のデータベースを基にしたイオンライブラリファイルの再構築]参照)、実測値のRTとシフトしたnRTとの差異を測定した(
図2B)。再構築用溶出時間として用いなかった0.90〜0.99の信頼度スコアを有する対象ペプチド群(1585個のペプチド)のピークについて、実測値RTとシフトしたnRTとを比較して両者の差異幅を検証した。その結果、両者の差異幅が0.2分以内の対象ペプチドピークは、95.4%(1512個)あることが示された(
図2B)。また、再構築用溶出時間として用いた信頼度スコア>0.99を有する対象ペプチドピーク群(12863個のペプチド)については、12784個のペプチドピーク(99.4%)のRTが0.2分以内の差異幅であることが示された。これらの結果は、シフトしたnRTに対応する実測値RTを十分特定できるため、シフトしたnRTを用いてクロマトグラム上の対象ペプチドピークを同定できることを示している。
【0055】
[結果5:本発明のデータベースを用いたSWATH定量解析1]
次に、本発明のデータベースを用いて同定したペプチドピークのピーク面積を再現的に定量できるかどうかを検討した。測定対象試料の一部をIDA解析し、対象ペプチドを同定し、本発明のデータベースを用いて対象ペプチドとの共通ペプチドピーク(標準化用ペプチドピーク)の溶出時間を利用しイオンライブラリを再構築した。さらに、測定対象試料をSWATH解析し、SWATHで取得したデータを再構築したイオンライブリーを用いて解析し対象ペプチドピークのピーク面積を定量した。1.5カ月後に同様の試料を用いて同様に解析を行い、両者のピーク面積を比較した。なお、ピーク面積は、全対象ペプチドピーク群のピーク面積の総計で標準化した。その結果、
図2Dに示すように、両測定対象試料間で2倍以内の差異幅で再現性良く定量できる対象ペプチドピークは、61.1%(59553/97512)にとどまることが示された。特に、低ピーク面積を示す対象ペプチドピークの多くが2倍を超える差異で定量され、再現性に問題があることが示された。再現性を低下させる原因として、本発明のデータベースを用いて同定した対象ペプチドピークのうち、検出限界以下の対象ペプチドピークも定量してしまうことが考えられた。このため、定量できる対象ペプチドピークをバリデーション(validation)する必要があると考えた。
【0056】
本発明者らは、ピークのバリデーション用の簡便な指標を開発した(詳細は、後述の[方法5:ペプチドピークのバリデーション]参照)。すなわち、本発明のデータベースに対して、式[(d)本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのうち、最大ピーク強度を付与するMRMトランジションのクロマトグラムから得られるピーク面積/(c)本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのクロマトグラムから得られるペプチドピーク面積の合計]/[(a)前記最大ピーク強度を付与するMRMトランジションにおける最大ピーク強度/(b)前記ピーク面積の合計に用いたMRMトランジションにおけるピーク強度の合計]の値を、各MRMトランジションについて算出し、0.5〜2の範囲内にある対象ペプチドピークを有効なピークとして抽出した。なお、本実施例においては、上記ペプチドピーク面積の合計(c)やピーク強度の合計(b)に用いる本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションは、最大ピーク強度に対して20%を超えるピーク強度を付与するMRMトランジションを選択した(後述の[方法4:本発明のデータベースを基にしたイオンライブラリファイルの再構築]参照)。バリデーション指標を用いてピークを抽出すると、ピーク面積の差異幅が2倍以内のペプチドピークの割合は61.1%から87.4%(37707/43129)へ増加するとともに、ピーク面積の差異幅が1.5倍以内のペプチドピークの割合は47.5%から74.1%へ増加することが示された(
図2E)。この結果は、上記ペプチドピークのバリデーションが有効であることを示している。さらに定量性良く定量できる対象ペプチドの割合を高めるため、MRMトランジション数が3以上のペプチドピークを抽出すると、ピーク面積の差異幅が2倍以内のペプチドの割合は87.4%から90.3%(32235/35692)へ増加することが示された(
図2F)。かかるペプチドピークのバリデーションでピークを限定した後においても、定量できるペプチドの数は、標準的SWATH定量法を用いた場合よりも4.23倍(32235/7615:
図2CとFとの比較)多かった。また、定量できる対象ペプチドのピーク面積の下限に着目したところ、標準的SWATH定量法を用いた場合よりも1/10低いレベルのものも定量できることが示された(
図2Fの10
3カウントと
図2Cの10
4カウントの比較)。これらの結果は、本発明のデータベースを用いて測定対象ペプチドピークを同定し、同定したペプチドピークの中から上記ペプチドピークのバリデーションを行うことにより、定量できるペプチドピークを効率良く抽出できることを示している。
【0057】
[結果6:本発明のデータベースを用いたSWATH定量解析2]
次に、バリデーションを行って抽出したペプチドピークの面積の増減を十分検出できるかどうかについて、合成ペプチドをスパイクしたモデル試料(詳細は、後述の[方法6:本発明のデータベースを用いたペプチドピークの定量の検証]参照)を用いて検討した。0.1fmolの合成ペプチドをスパイクした試料と、25fmolの合成ペプチドをスパイクした試料とを比較して増加の有無を検証したところ、標準的SWATH定量を用いた場合、増加を検出できた合成ペプチドピーク数は171(総登録ピーク数[312]の54.8%)であったのに対して、本発明のデータベースから再構築したイオンライブラリを用いて定量を行いバリデーションにより抽出(以下、「本発明のデータベースを用いたSWATH定量」ということがある)した場合、増加を検出できた合成ペプチドピーク数は263(総登録ピーク数[312]の84.3%)と増加していた(
図3A)。また、合成ペプチドの量比を変えた他の組合せを用いて解析した場合でも同様の結果が得られており、例えば、0.5fmolの合成ペプチドをスパイクした試料と、25fmolの合成ペプチドをスパイクした試料との間では、標準的SWATH定量を用いた場合、増加を検出できた合成ペプチドピーク数は171(総登録ピーク数[312]の54.8%)であったのに対して、本発明のデータベースを用いたSWATH定量を用いた場合、増加を検出できた合成ペプチドピーク数は264(総登録ピーク数[312]の84.6%)と増加しており、また、5fmolの合成ペプチドをスパイクした試料と、25fmolの合成ペプチドをスパイクした試料との間では、標準的SWATH定量を用いた場合、増加を検出できた合成ペプチドピーク数は166(総登録ピーク数[312]の53.2%)であったのに対して、本発明のデータベースを用いたSWATH定量を用いた場合、増加を検出できた合成ペプチドピーク数は238(総登録ピーク数[312]の76.2%)と増加していた(
図3A)。これらの結果は、本発明のデータベースを用いて合成ペプチドを同定し、同定した合成ペプチドのピークについて、バリデーションにより抽出したペプチドピークは、そのピーク面積の増減を感度良く検出できることを示している。
【0058】
次に、上記バリデーションにより抽出したペプチドピークは、そのピーク面積の増減を精度よく定量できるかどうかについて検討した。0.5fmolの合成ペプチドでスパイクした試料と、5fmolの合成ペプチドでスパイクした試料との間でペプチドピークの面積比(詳細は、後述の[方法6:本発明のデータベースを用いたペプチドピークの定量の検証]参照)を比較すると、10.4倍の差があることが示された(
図3C)。すなわち、合成ペプチドの量比に相当するピーク面積比で検出することができた。この結果は、本発明のデータベースを用いて合成ペプチドを同定し、同定した合成ペプチドのピークについて、バリデーションにより抽出したペプチドピークは、そのピーク面積の増減を十分な精度で検出できることを示している。なお、標準的SWATH定量法を用いた場合にも、0.5fmolの合成ペプチドでスパイクした試料と、5fmolの合成ペプチドでスパイクした試料との間でペプチドピークの面積比が9.9倍の差で検出できたものの(
図3B)、本発明のデータベースを用いたSWATH定量法は、標準的SWATH定量法を用いて同定できなかったペプチドピークの増減も精度よく検出できる点で優れている。
【0059】
[方法1:LC−MS/MSにより解析する試料の調製法]
LC−MS/MSにより解析する試料は、文献(Ohtsuki, S., et al. Drug Metab Dispos 40, 83-92 (2012)、Ohtsuki, S., et al. J Pharm Sci 100, 3547-3559 (2011)、Yoneyama, T., et al. J Proteome Res 12, 753-762 (2013))に記載の方法を修正した方法を用いて調製した。以下にその調製方法を示す。まず、7M塩酸グアニジン及び10mMEDTAを含有する懸濁液に、タンパク質試料(50μg)を懸濁した。窒素存在下、室温で60分間、DTT(dithiothreitol)で試料を還元し、次いで、室温で60分間、ヨードアセトアミデでS−カルバモイルメチル化した。アルキル化されたタンパク質を、メタノールとクロロホルムの混合物で沈殿させた。この沈殿物を6M尿素に溶解し、100mMTris−HCl(pH8.0)で希釈した。試料を1M尿素まで希釈した後、リシルエンドペプチダーゼを酵素/基質が1:100の割合で用い、25℃で3時間消化し、次にトシルフェニルアラニルクロロメチルケトンで処理したトリプシンを酵素/基質が1:100の割合で用い、37℃で16時間消化した。GL−SDBチップ及びGL−GCチップ(ジーエルサイエンス社製)を用いて試料を脱塩し、蒸発させ、0.1%のギ酸に溶解し、試料を調製した。
【0060】
[方法2:LC−MS/MS]
nanoLCシステム(Ultimate 3000 RSLCnano;DIONEX社製)を、正イオン化モードで作動させたナノ−エレクトロスプレーイオン化質量分析計(TripleTOF 5600;ABSCIEX社製)に接続して用い、対象タンパク質を含む試料を分析した。イオン源ガス、カーテンガス、イオンスプレー電圧、インターフェースヒーター温度、及びデクラスタリング電位のパラメータ値は、それぞれ20、20、2300、150、及び80であった。累積時間50マイクロ秒、衝突エネルギー分散係数5、イオン放出遅延30及びイオン放出幅15にて、ローリング衝突エネルギーを利用し、前駆イオン(Q1)を300〜1008、プロダクトイオン(Q3)を100〜1600スキャンし、IDA法を行った。プロダクトイオンを観察するための候補前駆イオンの最大数は、20イオン/サイクルだった。分析したイオンは10秒間除外した。蓄積時間を50マイクロ秒とし、前駆イオンのSWATHウインドウを300〜1008の13Da(1Daの重複を含む)の質量電荷比に設定し、SWATH−MS取得法を行った。プロダクトイオンは、IDA測定と同じ設定で、ローリング衝突エネルギーを用い、100〜1600スキャンした。サイクル時間は3.05秒であった。C18カラム(Acclaim PepMap RSLC C18、2μm、100Å、内径75μm×25cm、 DIONEX社製)及びトラップカラム(内径100μm×2cm、 Acclaim PepMap100 C18を充填、5μm、100Å、DIONEX社製)を用い、40℃にてNanoLCを行った。0.1%ギ酸に1〜25%及び25〜50%のアセトニトリルを含有する直線勾配を適用し、流速300nL/分にて、60分間及び15分間(
図1及び2)又は40分間及び10分間(
図3)、対象ペプチドを溶出した。
【0061】
[方法3:本発明のデータベースにおけるnRTデータの蓄積]
上記23種類の試料と2種類の合成ペプチドのデータセットを用いてIDA測定により得られたMS/MSデータはProtein Pilot(ABSCIEX社製)にインポートし、UniProtヒトタンパク質データベースを検索して対象ペプチドを同定した。結果ファイル(
図1の[group file]に相当)をSWATH MicroApp(ABSCIEX社製)を用いてPeak Viewにインポートし、イオンライブラリファイル(テキストファイル)をAccess(Microsoft社製)にエクスポートした。ペプチド信頼度スコア(peptide confidence score)が0.99を超えるトランジションデータを抽出し、抽出した各トランジションデータを固有のトランジション名及び固有のペプチドピーク名とリンクさせ、Microsoft SQL Server Expressにトランジションデータベースとして格納した。データベースサイズを縮小するため、トランジションデータを、相対強度を合計することで固有のトランジション名で統合した。各ペプチドピークのRTの平均及び標準偏差(SD)をAccess内で計算し、SD<0.2分であるRT平均値をRTアラインメントに使用した。全てのRT及びnRTをAccessで一覧化し、RTによってソーティングした全てのRTと標準化用ペプチドピークのRT−nRTのリストをOrigin 9ソフトウエア(OriginLab社製)にエクスポートし、補正(平滑化及び補間)を行った。平滑化は、パーセンタイルフィルター(100ポイント、50%)を用いて行い、直線補間は平滑化したデータを用いて行った。補間したデータをAccess内のnRTデータベースに格納した。各種試料から取得したnRTをnRTデータベースに格納した。なお、IDAデータのRTと比較するため、各ペプチドピークのnRTの平均及びSDをAccessで計算し、SD<0.2分であるRTの平均、又は1回の実験で検出されたペプチドのRTを用いた(合計106,074個のペプチドのRT)。
【0062】
[方法4:本発明のデータベースを基にしたイオンライブラリファイルの再構築]
HLMを用いて、連続SWATH取得法の過程でIDA法により分析した。IDA法で取得したデータファイルからイオンライブラリファイルを作成し、Accessにインポートした。イオンライブラリのRT、及びnRTデータベースのnRTの平均及びSDを計算し、SDが0.2分以内である重複ペプチドピークの全てのRT及びnRTをAccessで一覧化した。nRTに基づいてソーティングした全nRTと標準化用ペプチドピークのRT―nRTのリストをOrigin 9ソフトウエアにエクスポートし、平滑化及び補間を行った。平滑化は、パーセンタイルフィルター(100ポイント、50%)を用いて行い、直線補間は平滑化したデータを用いて行った。シフトしたnRTをAccessにインポートし、再構築イオンライブラリファイルを、トランジションデータベースのデータと統合することにより作成した。各ペプチドピークにおいて最大強度が20%を超えるトランジションを再構築イオンライブラリファイル用に選択した。再構築イオンライブラリファイルをSWATH MicroAppを備えたPeak Viewにインポートし、SWATHの取得データを使用してSWATH定量を行った。全てのペプチドピークについてピーク面積を得るため、ペプチド数、修飾の排除、共有配列選択の排除、XIC抽出ウインドウ、及びXIC幅を、それぞれ、「999」、「off」、「off」、「1.0分」及び「0.040Da」に設定した。勾配条件の違いにより、実測RTとシフトしたnRTとの差異が
図3では
図2よりも大きかったため、該
図3ではXIC抽出ウインドウを1.5分に設定した。標準的SWATH定量では、ピーク面積の計算に5個のトランジションを使用した。本発明のデータベースを用いた定量では、選択した全てのトランジションを再構築イオンライブラリで使用するため、トランジション数を「999」に設定した。
【0063】
[方法5:ペプチドピークのバリデーション]
ピークのバリデーションには、トランジションデータベース中の「相対ピーク強度」と、Peak Viewソフトウエアからエクスポートした結果ファイル中の各トランジション(イオン)の「ピーク面積」を使用した。Accessを使用して以下の手順を行った。各ペプチドピークについて、MRMトランジションデータベースにおける最大ピーク強度(a)、ピーク強度の合計(b)、及び最大ピーク強度を付与するトランジションを各ペプチドピークについてリスト化した。次に、Peak Viewからエクスポートした試料の結果ファイルにおいて、ピーク面積の合計(c)と、トランジションデータベースにおいて最大強度を付与するトランジションのピーク面積(d)を各ペプチドピークについて一覧化した。各ペプチドピークについて、式[(d)本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのうち、最大ピーク強度を付与するMRMトランジションのクロマトグラムから得られるピーク面積/(c)本件データベースに格納される対象ペプチドピークのMRMトランジションのクロマトグラムから得られるペプチドピーク面積の合計]/[(a)前記最大ピーク強度を付与するMRMトランジションにおける最大ピーク強度/(b)前記ピーク面積の合計に用いたMRMトランジションにおけるピーク強度の合計]によってバリデーションの指標を計算した。指標値が0.5〜2の範囲にあるペプチドピークを比較に用いた。
【0064】
[方法6:本発明のデータベースを用いたペプチドピークの定量の検証]
トリプシンで消化した未分画のHLMに296種の合成ペプチド(Ohtsuki, S., et al. J Pharm Sci 100, 3547-3559 (2011)、Shawahna, R., et al. Mol Pharm 8, 1332-1341 (2011)、Uchida, Y., et al. J Neurochem 117, 333-345 (2011))をそれぞれ4種類の量(0.1、0.5、5及び25fmol/注入)となるように添加し、モデル試料を作製した。これらのペプチドにより本発明のデータベース中の240種のペプチドから312個のペプチドピークがモデル試料において検出された。試料は、SWATH−MS取得法で繰り返し分析した(4回)。合成ペプチドを25fmolスパイクしたモデル試料を、第1試料の前、かつ、2回目と3回目のリピートの間にIDA法で分析した。Peak Viewからエクスポートしたイオンライブラリファイルから合成ペプチドのトランジション情報を削除し、合成ペプチドの情報を用いずに再構築ピークファイルを作成した。勾配条件が異なるため、RTの差異は
図2Bより大きく、検出されたピークの時間ウインドウを1.0分ではなく、1.5分に設定した。ピーク面積データをMarker Viewソフトウエア(ABSCIEX社製)にインポートして統計分析を行い、顕著に増加した(p<0.01倍及び>1.5倍)ペプチドピークを抽出した。これら顕著に増加したペプチドピークについてピークのバリデーションを行った。合成ペプチドの一部はHLM中のタンパク質の測定に用いることができるため、ピーク面積は、内在性ペプチドと添加ペプチドの合計面積となっている。内在性ペプチドの量を除外するため、0.5又は5fmolのピーク面積比を以下のとおり計算した。
ピーク面積比=(0.5又は5fmolの合成ペプチドのピーク面積−0.1fmolの合成ペプチドのピーク面積)/(25fmolの合成ペプチドのピーク面積−0.1fmolの合成ペプチドのピーク面積)