【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に説明する制振性材料は、アクリルゴム100重量部に対し、外比で、重量平均粒子径1−200μm、平均アスペクト比10−100の扁平粒子からなる制振フィラー200−600重量部と、脂肪酸アミド2−25重量部と、架橋剤0.01−15重量部と、架橋助剤0.1−20重量部とが配合された組成物を主成分として含む。
【0008】
この制振性材料において、原料となるアクリルゴムとしては、架橋性基としてエポキシ基を含有するアクリルゴム(以下、単に「エポキシ基含有アクリルゴム」とも称する。)、架橋性基としてカルボキシ基を含有するアクリルゴム(以下、単に「カルボキシ基含有アクリルゴム」とも称する。)などを利用することができ、その中でもカルボキシ基含有アクリルゴムであると好ましい。
【0009】
エポキシ基含有アクリルゴムの場合は、アルキルアクリレート、アルコキシアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、及びアルコキシアルキルメタクリレートの中から選ばれる少なくとも一種の単量体と、架橋性基としてエポキシ基を有する単量体との重合体を用いるとよい。
【0010】
カルボキシ基含有アクリルゴムの場合は、アルキルアクリレート、アルコキシアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、及びアルコキシアルキルメタクリレートの中から選ばれる少なくとも一種の単量体と、架橋性基としてカルボキシ基を有する単量体との重合体を用いるとよい。
【0011】
アルキルアクリレートとしては、アルキル基の炭素数1−8(好ましくは炭素数1−4、より好ましくは炭素数1−2、特に好ましくは炭素数2)のアルキルアクリレートを用いることができる。いくつか例を挙げれば、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレートなどを用いることができる。
【0012】
アルコキシアルキルアクリレートとしては、アルコキシ基の炭素数1−4、アルキレン基の炭素数1−4のアルコキシアルキルアクリレートを用いることができる。いくつか例を挙げれば、例えば、メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシプロピルアクリレート、エトキシメチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート、ブトキシエチルアクリレートなどを用いることができる。これらの中でも、メトキシメチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートが好ましい。
【0013】
アルキルメタクリレートとしては、アルキル基の炭素数1−8(好ましくは炭素数1−4、より好ましくは炭素数1−2、特に好ましくは炭素数2)のアルキルメタクリレートを用いることができ、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレートなどを用いることができる。
【0014】
アルコキシアルキルメタクリレートとしては、アルコキシ基の炭素数1−4、アルキレン基の炭素数1−4のアルコキシアルキルメタクリレートを用いることができる。いくつか例を挙げれば、例えば、メトキシメチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシプロピルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、エトキシプロピルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレートなどを用いることができる。これらの中でも、メトキシメチルメタクリレート及びメトキシエチルメタクリレートが好ましい。
【0015】
これらアルキルアクリレート、アルコキシアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、及びアルコキシアルキルメタクリレートは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0016】
架橋性基としてエポキシ基を有する単量体としては、例えば、不飽和グリシジルエステル(例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、イタコン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、p−スチレンカルボン酸グリシジルエステル等)、不飽和グリシジルエーテル(例えば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル等)などを用いることができる。これらの中でも、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートが好ましい。これらエポキシ系の架橋点となる単量体は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0017】
架橋性基としてカルボキシ基を有する単量体としては、例えば、マレイン酸又はフマル酸のメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル等のモノアルキルエステル、イタコン酸又はシトラコン酸のメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル等のモノアルキルエステル等のカルボキシル基含有不飽和化合物などが挙げられる。好ましくはマレイン酸モノn−ブチルエステル、フマル酸モノエチルエステル、フマル酸モノn−ブチルエステルが用いられる。これら以外にも、アクリル酸やメタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸も用いられる。これらエポキシ系の架橋点となる単量体は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0018】
これら架橋性基を有する単量体は、アクリルゴム中において約0.5−10重量部、好ましくは約1−7重量部を占めるような共重合割合で用いられる。
また、架橋剤としては、架橋性基に応じて、架橋性基間を架橋可能な物質が用いられる。架橋性基がエポキシ基である場合、架橋剤としては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、及び2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタンの中から選ばれる少なくとも一種を用いるとよい。これらの中でも、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンであると好ましい。
【0019】
架橋性基がカルボキシ基である場合、架橋剤としては、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミンなどを用いることができる。これらの中でも、脂肪族ジアミンが好ましく、例えばヘキサメチレンジアミンカーバメートを用いると好ましい。芳香族ジアミンとしては、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、メチレンジアニリン等が用いられる。
【0020】
これらの架橋剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。架橋剤の配合量は、アクリルゴム100重量部に対し、0.01−15重量部とされる。より詳しくは、架橋性基がエポキシ基である場合、架橋剤の配合量は0.01−15重量部とされると好適であり、架橋性基がカルボキシ基である場合、架橋剤の配合量は0.1−5重量部とされると好適である。架橋剤の配合量が上述の各下限値を下回ると、十分な架橋がなされず、最終的に得られる制振性材料の物理的強度の低下を招くなどの問題が生じることがある。また、架橋剤の配合量が上述の各上限値を上回ると、過剰な架橋がなされ、最終的に得られる制振性材料の硬さが硬くなりすぎる等の問題を生じることがある。
【0021】
架橋助剤としては、架橋性基及び架橋剤に応じて、架橋時の架橋効率を向上可能な成分が配合される。例えば、架橋性基がエポキシ基である場合、架橋助剤としては、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム、キノンジオキシム、トリアリルシアヌレート、エチレンジメタアクリレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどが用いられる。架橋性基がカルボキシ基である場合、架橋助剤としては、グアニジン又はその置換体、例えばアミノグアニジン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン、n−ドデシルグアニジン、メチロールグアニジン、ジメチロールグアニジン、1−フェニルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、トリフェニルグアニジン、1−ベンジル−2,3−ジメチルグアニジン、シアノグアニジンなどが用いられ、この他1,6−グアニジノヘキサン、グアニル尿素、ビグアニド、1−o−トリルビグアニド等も用いられる。
【0022】
また、この制振性材料において、制振フィラーとしては、重量平均粒子径1−200μm、平均アスペクト比(平均粒子径/平均粒子厚)10−100の扁平粒子が用いられる。重量平均粒子径や平均アスペクト比が上記数値範囲の下限値を下回ると、十分な制振性が発現しなくなる傾向がある。また、重量平均粒子径や平均アスペクト比が上記数値範囲の上限値を上回ると、加工性が悪くなったり、十分な機械的強度が得られなくなったりするなど、制振性材料の物性を損ねる傾向がある。
【0023】
制振フィラーの配合量は、アクリルゴム100重量部に対する外比で200−600重量部、好ましくは250−400重量部とされる。制振フィラーの配合量は200重量部を下回ると十分な制振性を確保することが難しくなる傾向があるが、200重量部以上であれば十分な制振性を確保することができ、更に250重量部以上であれば極めて優れた制振性が発現する。また、制振フィラーの配合量は600重量部を超えると柔軟性、離型性、又は耐熱性などが低下する傾向があるが、600重量部以下であれば柔軟性、離型性、及び耐熱性が改善され、用途次第では十分に実用可能となり、更に400重量部以下であれば柔軟性、離型性、及び耐熱性においても優れた特性を発揮する。
【0024】
制振フィラーを構成する物質としては、鉄、銅、アルミニウム、あるいはそれらいずれかを含む合金などの金属類、マイカ、タルク、ガラスなどの無機材料類、又は黒鉛などを挙げることができ、これらいずれかの物質からなる扁平な形状の粒子が用いられる。これらの中でも、優れた制振性及び耐熱性を発現させる観点からは、マイカ粒子を用いることが好ましい。
【0025】
また、この制振性材料においては、アクリルゴム100重量部に対する外比で、2−25重量部の脂肪酸アミドを配合することが重要である。脂肪酸アミドは、アクリルゴム中における制振フィラーの分散性を改善するために配合される成分である。一般に、この種のフィラーを樹脂材料中に分散させる際には、分散性を高めるために各種分散剤(例えばパラフィンワックスなど)が配合されることがある。しかし、上述のような制振フィラーをアクリルゴム中に多量に配合しようとする場合、一般的な樹脂用分散剤では、制振フィラーをアクリルゴム中に適切に分散させることは難しく、所期の特性を有する制振性材料を得ることができない。このような背景のもと、本件発明者らは様々な物質を対象に試行錯誤を重ね、脂肪酸アミドを配合した場合にのみ、上述のような制振フィラーをアクリルゴム中に配合する場合であっても、特異的に制振フィラーの配合量を高めることができることを見いだした。すなわち、この制振性材料においては、上述のようなアクリルゴム、制振フィラー、脂肪酸アミドの三成分全てが共存することで、制振フィラーの配合量を格段に高めて、優れた制振性及び耐熱性を発現させている。
【0026】
脂肪酸アミドの例としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、パルミチン酸アミド、エルカ酸アミド、及びモンタン酸アミドなどを挙げることができる。これらの脂肪酸アミドは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよいが、これらの中でも、オレイン酸アミドが好ましい。
【0027】
脂肪酸アミドの配合量は、アクリルゴム100重量部に対する外比で、2−25重量部、好ましくは3−10重量部とされる。ただし、脂肪酸アミドの配合量は、制振フィラーの配合量に応じて増減され、制振フィラーの配合量が多くなるほど脂肪酸アミドの配合量も多くなるように調製される。脂肪酸アミドの配合量が2重量部を下回ると、十分な量の制振フィラーを適切に分散させることが難しくなる傾向がある。また、アクリルゴム100重量部に対する外比で600重量部の脂肪酸アミドを配合する場合、脂肪酸アミドの配合量を25重量部程度とすれば制振フィラーを適切に分散させることができる。よって、それ以上の脂肪酸アミドを配合する必要はない。制振フィラーの配合量を250−400重量部程度に調製する場合は、脂肪酸アミドの配合量を3−10重量部程度に調製すると好適である。
【0028】
なお、以上説明した制振性材料は、上記のような主成分を含有することが必須であるが、目標とする各種物性(制振性、耐熱性、硬さ、圧縮特性など。)が損なわれない範囲であれば、上記主成分以外の成分が含まれていてもかまわない。主成分以外の成分としては、例えば、老化防止剤、強度を向上させるためのカーボンブラック、離型性向上のための加工助剤、減衰性を向上させるための粘着付与樹脂(石油樹脂(例えば、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族系(水素添加系、ジシクロペンタジエン(DCPD)系)石油樹脂、及びスチレン系(スチレン系、置換スチレン系)石油樹脂)、ロジン樹脂、テルペン樹脂、石炭樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂など)、防錆剤、可塑剤などを挙げることができ、その他、スコーチ防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、耐油性向上剤、発泡剤、酸化防止剤、腐食防止剤などが添加されていてもよい。
【0029】
以上説明した制振性材料を構成する各成分のうち、アクリルゴムは、上述した数種の単量体を常法に従って共重合させることにより製造できる。例えば、乳化重合法、懸濁重合法、バルク重合法、溶液重合法(工業的に好ましくは乳化重合法)などにより、ラジカル重合開始剤の存在下、−100−200℃(好ましくは0−60℃)程度の温度条件で、上記の単量体混合物を共重合させ、所定の重合転化率に達したところで反応停止剤を添加して重合反応を停止させ、得られたラテックスから未反応単量体を水蒸気蒸留などにより除去し、この系に老化防止剤を添加した後、金属塩水溶液(例えば硫酸アルミニウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム)と接触させて凝固させ、得られた凝固物を乾燥処理することにより、アクリルゴムを得ることができる。こうして得られるアクリルゴムと、他の成分(制振フィラー、脂肪酸アミド、及び主成分以外の成分)は、一般的なゴム混練装置(例えば、ロール式混練機、密閉式混練機)に投入されて均一に混練される。
【0030】
以上のように構成される制振性材料によれば、アクリルゴムに対して扁平粒子からなる制振フィラーを配合した構成であるにもかかわらず、従来品以上に制振フィラーの配合量を増大させることができ、その制振性を極めて高くすることができる。また、この制振性材料は、十分に高い耐熱性を有する制振性材料となり、150℃程度の環境で使用しても所期の制振性を維持することができる。したがって、例えば、自動車のエンジンルームのような高温環境でも十分に使用することができ、その場合でも、制振性材料の硬化や脆化を招きにくく、例えば外力を受けたような場合でも割れなどが生じにくくなり、所期の制振性を維持することができる。
【0031】
また、以上説明した制振性材料は、さらに、比重4.0以上の遮音フィラーが、前記アクリルゴム100重量部に対し、外比で、400−800重量部、好ましくは600−800重量部配合されていてもよい。
【0032】
遮音フィラーは、比重4.0以上であれば所期の遮音性を確保可能であるが、より比重が大きい遮音フィラーを用いる方が遮音性を高めることができる。そのような高比重フィラーの例としては、例えば、ステンレス鋼粉末、高速度鋼粉末、タングステン粉末などを挙げることができる。これらの中でも、ステンレス鋼粉末は、容易に入手可能なので、制振性材料を工業的に生産する上で好適な遮音フィラーである。遮音フィラーの粒子径は、適切に配合することができれば特に限定されないが、一例としては、例えば、制振フィラーと同程度(重量平均粒子径1−200μm)にし得る。
【0033】
このように構成された制振性材料によれば、上述した通りの優れた制振性及び耐熱性に加えて、優れた遮音性をも備えた材料となる。したがって、上記制振性材料により、固体の振動を減衰させると同時に、振動する固体が発生源となっている騒音を低減することもでき、振動及び騒音の双方に対する対策を行うことができる。