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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6365938
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】設計装置、設計方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/36 20060101AFI20180723BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20180723BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   G01R31/36 A
   H01M10/42 P
   H01M10/48 P
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-193676(P2014-193676)
(22)【出願日】2014年9月24日
(65)【公開番号】特開2016-65748(P2016-65748A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】築山 修治
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真吾
(72)【発明者】
【氏名】宮本 潤一
(72)【発明者】
【氏名】大谷 翔
【審査官】 永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−150086(JP,A)
【文献】 特開2007−311256(JP,A)
【文献】 特開2014−11060(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/002202(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0302657(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/42
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組電池で使用される複数の蓄電池セルのそれぞれの劣化特性である複数のセル劣化特性に基づいて、前記複数のセル劣化特性に関する統計データである統計的セル劣化特性を導出する統計的セル劣化特性導出部と、
前記複数の蓄電池セル間の接続構造を示す接続構造情報に基づいて、前記統計的セル劣化特性から前記組電池の劣化特性を評価した評価データである統計的組電池劣化特性を導出するための演算手順を導出する演算手順導出部と、
前記統計的セル劣化特性から前記演算手順に従って前記統計的組電池劣化特性を導出する統計的組電池劣化特性導出部と、
前記統計的組電池劣化特性に基づいて、前記組電池の寿命を評価する寿命評価部と、を有する設計装置。
【請求項2】
前記セル劣化特性は、前記蓄電池セルの劣化に影響を与える因子に関する値である寿命因子尺度と、前記蓄電池セルの劣化の度合いに関する値である劣化尺度との対応関係を示し、
前記統計的セル劣化特性導出部は、前記複数のセル劣化特性において、前記寿命因子尺度ごとに前記劣化尺度の頻度分布を示すデータを前記統計的セル劣化特性として導出し、
前記統計的組電池劣化特性導出部は、前記寿命因子尺度ごとに、当該寿命因子尺度に対応する劣化尺度の頻度分布を前記演算手順に従って補正した分布を示すデータを、前記統計的組電池劣化特性として導出する、請求項1に記載の設計装置。
【請求項3】
前記寿命評価部は、前記劣化尺度が閾値の場合における前記寿命因子尺度の頻度分布を、前記組電池の寿命を評価した評価結果として出力する、請求項2に記載の設計装置。
【請求項4】
前記演算手順導出部は、前記複数の蓄電池セル間の個々の接続関係に応じた演算子と、当該演算子を適用する演算順序とを、前記演算手順として導出し、
前記統計的組電池劣化特性導出部は、前記寿命因子尺度ごとの、当該寿命因子尺度に対応する前記劣化尺度の頻度分布に従う確率変数に対して前記演算子を前記演算順序で適用した総確率変数が従う分布を、前記統計的組電池劣化特性として導出する、請求項2または3に記載の設計装置。
【請求項5】
前記演算手順導出部は、前記接続関係が並列を示す場合、前記演算子として、前記劣化尺度が正規化されていると、平均値演算子を導出し、前記劣化尺度が前記正規化されていないと、和演算子を導出する、請求項4に記載の設計装置。
【請求項6】
前記演算手順導出部は、前記蓄電池セルが直列に接続されている場合、前記演算子として、最小値演算子を導出する、請求項4または5に記載の設計装置。
【請求項7】
前記演算手順導出部は、前記演算子を二項演算子として導出する、請求項4ないし6のいずれか1項に記載の設計装置。
【請求項8】
前記演算手順導出部は、前記演算順序を位相幾何学順序で表す、請求項7に記載の設計装置。
【請求項9】
前記演算手順導出部は、前記演算順序を演算木で表す、請求項4ないし6のいずれか1項に記載の設計装置。
【請求項10】
組電池で使用される複数の蓄電池セルのそれぞれの劣化特性である複数のセル劣化特性に基づいて、前記複数のセル劣化特性に関する統計データである統計的セル劣化特性を導出し、
前記複数の蓄電池セル間の接続構造を示す接続構造情報に基づいて、前記統計的セル劣化特性から前記組電池の劣化特性を評価した評価データである統計的組電池劣化特性を導出するための演算手順を導出し、
前記統計的セル劣化特性から前記演算手順に従って前記統計的組電池劣化特性を導出し、
前記統計的組電池劣化特性に基づいて、前記組電池の寿命を評価する、設計方法。
【請求項11】
組電池で使用される複数の蓄電池セルのそれぞれの劣化特性である複数のセル劣化特性に基づいて、前記複数のセル劣化特性に関する統計データである統計的セル劣化特性を導出する機能と、
前記複数の蓄電池セル間の接続構造を示す接続構造情報に基づいて、前記統計的セル劣化特性から前記組電池の劣化特性を評価した評価データである統計的組電池劣化特性を導出するための演算手順を導出する機能と、
前記統計的セル劣化特性から前記演算手順に従って前記統計的組電池劣化特性を導出する機能と、
前記統計的組電池劣化特性に基づいて、前記組電池の寿命を評価する機能と、をコンピュータに実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置を設計するための設計装置、設計方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力を蓄電池に蓄えておき、必要に応じて蓄電池から電力を取り出す蓄電装置が注目されている。例えば、近年の省電力化志向の高まりに伴い、消費電力の上昇を抑制したり、夜間に電力を充電し、その電力を昼間に放電することで、相対的に電気料金の高い昼間の電力の購入を抑制したりする用途で蓄電装置が使用されている。特に、商業施設や工場のような消費電力が大きい場所では、その大きい消費電力に対応するために、大きい容量を有する蓄電装置が広く普及し始めている。このような蓄電装置は、数十個から数万個の蓄電池セルを直並列に組み合わせた組電池を蓄電池として用いることで、大きい容量を実現している。例えば、2MWhの容量を有する蓄電装置は、10Whの容量を有する18650型の蓄電池セルを200,000個組み合わせることで実現される。
【0003】
また、蓄電装置では、経年や使用回数などに応じた蓄電地の劣化を考慮して、製造した製品の製品寿命が設定される。このとき、設定された製品寿命が適切な値からずれていると、寿命前に製品の不具合が発生したり、蓄電池を必要以上に早く交換したりすることが増え、保守コストや交換コストが増加してしまう。
【0004】
これに対して特許文献1には、蓄電装置に使用される組電池を構成する蓄電池セルの残存容量を精度よく把握することで、残存寿命を把握する劣化判定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−300561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような多数の蓄電池セルを有する組電池を備えた蓄電装置では、蓄電池セルの容量の製造ばらつきや経年ばらつきが顕在化しやすくなるため、特許文献1に記載されたような技術を用いて、組電池を構成する蓄電池セルの寿命を正確に把握しても、組電池自体の寿命を予測することは困難である。
【0007】
例えば、蓄電池セルのばらつきの影響により、組電池の寿命は一般的に蓄電池セル単体の寿命に比べて短くなるため、蓄電池セル単体の寿命を組電池の寿命とみなすと、組電池の寿命を誤って実際よりも長く予測してしまうことになる。この場合、設定された製品寿命よりも前に製品の不具合が発生して、蓄電装置が製品寿命を達成できなくなることが多くなってしまう。
【0008】
本発明の目的は、複数の蓄電池セルで構成される組電池の寿命を精度良く評価することが可能な設計装置、設計方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による設計装置は、
組電池で使用される複数の蓄電池セルのそれぞれの劣化特性である複数のセル劣化特性に基づいて、前記複数のセル劣化特性に関する統計データである統計的セル劣化特性を導出する統計的セル劣化特性導出部と、
前記複数の蓄電池セル間の接続構造を示す接続構造情報に基づいて、前記統計的セル劣化特性から前記組電池の劣化特性を評価した評価データである統計的組電池劣化特性を導出するための演算手順を導出する演算手順導出部と、
前記統計的セル劣化特性から前記演算手順に従って前記統計的組電池劣化特性を導出する統計的組電池劣化特性導出部と、
前記統計的組電池劣化特性に基づいて、前記組電池の寿命を評価する寿命評価部と、を有する。
【0010】
本発明による設計方法は、
組電池で使用される複数の蓄電池セルのそれぞれの劣化特性である複数のセル劣化特性に基づいて、前記複数のセル劣化特性に関する統計データである統計的セル劣化特性を導出し、
前記複数の蓄電池セル間の接続構造を示す接続構造情報に基づいて、前記統計的セル劣化特性から前記組電池の劣化特性を評価した評価データである統計的組電池劣化特性を導出するための演算手順を導出し、
前記統計的セル劣化特性から前記演算手順に従って前記統計的組電池劣化特性を導出し、
前記統計的組電池劣化特性に基づいて、前記組電池の寿命を評価する。
【0011】
本発明によるプログラムは、
組電池で使用される複数の蓄電池セルのそれぞれの劣化特性である複数のセル劣化特性に基づいて、前記複数のセル劣化特性に関する統計データである統計的セル劣化特性を導出する機能と、
前記複数の蓄電池セル間の接続構造を示す接続構造情報に基づいて、前記統計的セル劣化特性から前記組電池の劣化特性を評価した評価データである統計的組電池劣化特性を導出するための演算手順を導出する機能と、
前記統計的セル劣化特性から前記演算手順に従って前記統計的組電池劣化特性を導出する機能と、
前記統計的組電池劣化特性に基づいて、前記組電池の寿命を評価する機能と、をコンピュータに実現させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の蓄電池セルで構成される組電池の寿命を精度良く評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態に係る設計装置の構成を示す図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る設計装置における処理の流れと情報の流れとを示す図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る統計的セル劣化特性導出部の機能をより具体的に説明するための図である。
図4】複数の蓄電池セルが直列に接続された組電池に対応する演算手順を説明する図である。
図5】複数の蓄電池セルが並列に接続された組電池に対応する演算手順を説明する図である。
図6】複数の蓄電池セルが直並列に接続された組電池に対応する演算手順を説明する図である。
図7】統計的組電池劣化特性導出部が行う処理をより具体的に説明するためのフローチャートである。
図8】寿命分布導出部が行う処理をより具体的に説明するための図である。
図9】本発明の第1の実施形態に係る設計装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
図10】本発明の第2の実施形態に係るセル劣化特性の一例を示す図である。
図11】本発明の第2の実施形態に係る寿命分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図面において、同じ機能を有するものには同じ符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、以下で説明する本発明の実施形態に係る設計装置の構成要素は、ハードウエア単位の要素ではなく、機能単位の要素を示している。これらの機能単位の構成要素は、例えば、ハードウエアおよびソフトウエアの組み合わせによって実現される。ハードウエアとしては、CPU(Central Processing Unit)などのコンピュータ、コンピュータの動作を規定するプログラムがロードされるメモリ、そのプログラムを格納するハードディスクなどの記録メディア、および、ネットワーク接続用インタフェースのような種々のインタフェースが挙げられる。また、ソフトウエアとしては、上記のプログラムなどが挙げられる。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る設計装置の構成を示す図である。また、図2は、本発明の第1の実施形態に係る設計装置における処理の流れと情報の流れとを示す図である。
【0016】
図1および図2に示す設計装置100は、複数の蓄電池セルを組み合わせた組電池を蓄電池として有する蓄電装置を設計するための装置である。また、設計装置100は、記憶部101と、統計的セル劣化特性導出部102と、演算手順導出部103と、統計的組電池劣化特性導出部104と、寿命分布導出部105とを有する。
【0017】
記憶部101は、蓄電装置の設計に必要な種々の情報を記憶する。具体的には、記憶部101は、セル劣化特性201、接続構造情報202および寿命閾値情報203を記憶する。
【0018】
セル劣化特性201は、蓄電装置が備える組電池で使用される蓄電池セルの劣化特性である。本実施形態では、記憶部101は、複数の蓄電池セルのそれぞれに対応する複数のセル劣化特性201を記憶しているものとする。なお、記憶部101は、組電池で使用される全ての蓄電池セルに対応するセル劣化特性201を記憶してもよいし、組電池で使用される全ての蓄電池セルからサンプリングされた複数の蓄電池セルに対応するセル劣化特性201を記憶してもよい。
【0019】
セル劣化特性201は、具体的には、蓄電池セルの劣化に影響を与える因子に関する値である寿命因子尺度と、蓄電池セルの劣化の度合いに関する値である劣化尺度との対応関係を示す。寿命因子尺度は、例えば、蓄電池セルの使用経過時間、蓄電池セルの充放電サイクル回数、蓄電池セルが充電または放電した総電流量、または、これらの組み合わせなどである。劣化尺度は、例えば、蓄電池セルの容量に関する値である容量尺度などである。容量尺度としては、例えば、充電容量(CCAP:Charge CAPacity)、放電容量(DCAP:Discharge CAPacity)、容量維持率(SOH;State Of Health)、または、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0020】
以下では、説明の簡便化のために、寿命因子尺度を充放電サイクル回数とし、寿命尺度を充電容量であるとする。この場合、蓄電池セルを特定するセル番号をNo、充放電サイクル回数をCyc、充電容量をCCAPとすると、セル劣化特性201は、寿命因子尺度と劣化尺度との対応関係を、関数fを用いて、CCAP=f(Cyc;No)と表現することができる。セル劣化特性201は、この対応関係を、数式または表を用いて示す。
【0021】
接続構造情報202は、蓄電装置の備える組電池を構成する蓄電池セル間の接続構造を示す。なお、蓄電池セルのそれぞれは、直列、並列または直並列に接続されている。
【0022】
寿命閾値情報203は、蓄電装置が備える組電池の寿命を評価するための閾値である寿命閾値CCAPthを示す。
【0023】
統計的セル劣化特性導出部102は、記憶部101に記憶された複数のセル劣化特性201に基づいて、その複数のセル劣化特性201に関する統計データである統計的セル劣化特性204を導出して出力する。統計的セル劣化特性204は、具体的には、充放電サイクル回数ごとに充電容量の頻度分布を示すデータである。なお、統計的セル劣化特性204を導出するために使用するセル劣化特性201は、記憶部101に記憶された全てのセル劣化特性201でもよいし、記憶部101に記憶された全てのセル劣化特性201からサンプリングされた複数のセル劣化特性201でもよい。
【0024】
以下、ある充放電サイクル回数Cyc0のときに、ある充電容量CCAP0となる確率Prを、Pr=fsingle(Cyc0,CCAP0)と表す。また、ある充放電サイクル回数Cyc0のときの充電容量の頻度分布をfsingle(Cyc0,:)と表し、その頻度分布に従う確率変数xをx〜fsingle(Cyc0,:)と表す。さらに充放電サイクル回数ごとの充電容量の頻度分布をまとめてfsingle(:,:)と表す。
【0025】
図3は、統計的セル劣化特性導出部102の機能をより具体的に説明するための図である。図3では、セル番号Noが1から5までの5つの蓄電池セル(セル1〜5)のセル劣化特性CCAP=f(Cyc;1)〜CCAP=f(Cyc;5)が示されている。
【0026】
統計的セル劣化特性導出部102は、セル1〜5のそれぞれのセル劣化特性に基づいて、寿命因子尺度である充放電サイクル回数Cycごとに、その充放電サイクル回数Cycに対応する劣化尺度である充電容量CCAPの頻度分布fsingle(Cyc,:)を求める。そして、統計的セル劣化特性導出部102は、充放電サイクル回数ごとに充電容量の頻度分布を示すデータfsingle(:,:)を統計的セル劣化特性204として導出する。なお、統計的セル劣化特性204は、これらの頻度分布を、数式、表、モーメントまたは各種計量などを用いて示すことができる。
【0027】
また、図3では、充放電サイクル回数Cycが10サイクルおよび100サイクルのときの充電容量CCAPの頻度分布fsingle(10,:)およびfsingle(100,:)が示されている。充放電サイクル回数Cycが10サイクルの場合における充電容量CCAPの頻度分布fsingle(10,:)では、平均が蓄電システムの設計容量に近く、分散が小さくなる。これは、蓄電装置の使用開始時または使用開始してから間もない時には、蓄電池セルの製造ばらつきの影響はあるものの、その影響は小さいため、蓄電池セルの容量が設計容量とほぼ等しくなるためであると考えられる。一方、充放電サイクル回数Cycが100サイクルの場合における充電容量CCAPの頻度分布fsingle(100,:)では、充放電サイクル回数Cycが10サイクルの場合と比較して、平均は小さく、分散は大きくなっている。これは、充放電サイクル回数Cycや経過時間の増加などによる劣化の進度ばらつきにより、各蓄電池セルの容量のばらつきが増大するためであると考えられる。
【0028】
図1および図2の説明に戻る。演算手順導出部103は、記憶部101に記憶された接続構造情報202に基づいて、統計的セル劣化特性204から統計的組電池劣化特性206を導出するための演算手順x_orderを導出し、演算手順x_orderを示す演算手順情報205を出力する。統計的組電池劣化特性206は、組電池の劣化特性を評価した評価データであり、具体的には、組電池の充電容量を推定した頻度分布(確率分布)を充放電サイクル回数ごとに示すデータである。
【0029】
演算手順x_orderは、具体的には、充放電サイクル回数ごとに、その充放電サイクル回数に対応する充電容量の頻度分布を補正する手順であり、補正された頻度分布が組電池の充電容量に対する頻度分布となるように決定される。
【0030】
より具体的には、演算手順x_orderは、蓄電池セルの充電容量の頻度分布に従う確率変数に適用される演算子と、その演算子を適用する演算順序とを含む。なお、演算子は、複数の蓄電池セル間の個々の接続関係に応じて決定される。演算子および演算順序は、蓄電池セルの充電容量としてその充電容量の頻度分布が従う確率変数が与えられたと仮定したとき、その確率変数に対してこの演算子がこの演算順序で適用されることで得られる値が、組電池の充電容量となるように決定される。
【0031】
図4は、複数の蓄電池セルが直列に接続された組電池に対応する演算手順を説明する図である。図4の例では、組電池は3つの蓄電池セル(セルA〜C)が直列に接続された構成を有する。また、セルA〜Cのそれぞれの充電容量として、ある充放電回数Cyc0に対応する充電容量の頻度分布に従う確率変数xa〜xcが以下のように与えられているとする。
xa〜fsingle(Cyc0,:),xb〜fsingle(Cyc0,:),xc〜fsingle(Cyc0,:).
【0032】
図4に示したように組電池を構成するセルA〜Cが直列に接続されている場合、組電池の充電容量x_allは、セルA〜Cのそれぞれの充電容量のうち最も小さい充電容量に律速されるため、最小値演算子min()を用いて、x_all=min(xa,xb,xc)と算出することができる。このため、演算手順導出部103は、蓄電池セルの接続関係が直列の場合、演算子として最小値演算子min()を導出する。
【0033】
なお、最小値演算子min(xa,xb,xc)は、xa、xbおよびxcのうち最も小さい値を算出する演算子である。また、最小値演算子min()における多項演算子は、以下のように2項演算子の繰り返しとして表現することができる。
x_all=min(min(xa,xb),xc)=min(min(xb,xc),xa)=min(min(xc,xa),xb).
【0034】
図5は、複数の蓄電池セルが並列に接続された組電池に対応する演算手順を説明する図である。図5の例では、組電池は3つの蓄電池セル(セルA〜C)が並列に接続された構成を有する。また、セルA〜Cのそれぞれの充電容量として、図4の例と同様に確率変数xa、xb、xcが与えられているとする。この場合、組電池の充電容量x_allは、並列に接続されたセルA〜Cのそれぞれの充電容量の総和となるため、和演算子add()を用いて、x_all=add(xa,xb,xc)と算出することができる。このため、演算手順導出部103は、蓄電池セルの接続関係が直列の場合、演算子として和演算子add()を導出する。
【0035】
なお、和演算子add(xa,xb,xc)はxa、xbおよびxcの和を算出する演算子である。また、和演算子add()における多項演算は、最小値演算子min()における多項演算と同様に、2項演算の繰り返しとして表現することができる。
【0036】
また、この例では、劣化度として正規化されていない充電容量が使用されていたが、充電容量の代わりに容量維持率SOHのような正規化された尺度が使用される場合、演算手順導出部103は、演算子として和演算子add()の代わりに、確率変数の平均値を算出する平均値演算子を導出する必要がある。
【0037】
図6は、複数の蓄電池セルが直並列に接続された組電池に対応する演算手順を説明する図である。図6の例では、1つの蓄電池セル(セルA)と、並列に接続された2つの蓄電池セル(セルB、C)と、並列に接続された3つの蓄電池セル(D,E,F)とが直列に接続された構成を有する。また、セルA〜Fのそれぞれの充電容量として、ある充放電回数Cyc0に対応する充電容量の頻度分布に従う確率変数xa〜xfが以下のように与えられているとする。
xa〜fsingle(Cyc0,:),xb〜fsingle(Cyc0,:),xc〜fsingle(Cyc0,:),xd〜fsingle(Cyc0,:),xe〜fsingle(Cyc0,:),xf〜fsingle(Cyc0,:).
【0038】
この場合、演算手順導出部103は、組電池の充電容量x_allを、並列に接続された蓄電池セルに対応する和演算子add()と、直列に接続された電池セルに対応する最小値演算子min()との組み合わせとして以下のように算出する。
x_all=min(xa,add(xb,xc),add(xd,xe,xf))
【0039】
なお、上記の多項演算は、最小値演算min()または和演算add()のみの場合と同様に、以下のような2項演算の繰り返しとして表現することもできる。
x_all=min(min(xa,add(xb,xc)),add(add(xd,xe),xf))=min( min(xa,add(xb,xc)),add(add(xd,xe),xf))
【0040】
このように演算子を適用する演算順序は、一意に決まるものではなく、同等の結果を算出する複数の順序が存在することもある。また、演算手順x_orderは、演算子および演算順序を、図6の右図のような演算木で表現してもよいし、あるルールに従って生成された位相幾何学順序(Topological ordering)で表現してもよい。なお、図6の例に対応する位相幾何学順序は、以下のように表現される。
1) x_bc=add(xb,xc)
2) x_def=add(xd,xe,xf)
3) x_all=min(xa,x_bc,x_def)
【0041】
図1および図2の説明に戻る。統計的組電池劣化特性導出部104は、統計的セル劣化特性導出部102から出力導出された統計的セル劣化特性204から、演算手順導出部103から出力された演算手順情報205が示す演算手順x_orderに従って統計的組電池劣化特性206を導出する。具体的には、統計的組電池劣化特性導出部104は、充放電サイクル回数ごとに、その充放電サイクル回数に対応する充電容量の頻度分布を演算手順x_orderに従って補正した分布を、組電池の充電容量の確率定分布として示すデータを統計的組電池劣化特性206として導出する。
【0042】
図7は、統計的組電池劣化特性導出部104が行う処理をより具体的に説明するためのフローチャートである。
【0043】
図7に示すように、統計的組電池劣化特性導出部104は、ある充放電サイクル回数Cyc0について、その充放電サイクル回数Cyc0における充電容量の頻度分布fsingle(Cyc0,:)を、演算手順x_orderに従って補正して、その充放電サイクル回数Cyc0における組電池の充電容量の頻度分布fmodule(Cyc0,:)を導出する(ステップS701)。具体的には、統計的組電池劣化特性導出部104は、頻度分布fsingle(Cyc0,:)に従う確率変数に対して、演算手順x_orderが示す演算子を、演算手順x_orderが示す演算順序で適用した総確率変数が従う頻度分布を、充放電サイクル回数Cyc0における組電池の充電容量の頻度分布fmodule(Cyc0,:)として導出する。
【0044】
そして、統計的組電池劣化特性導出部104は、ステップS701の処理を、統計的セル劣化特性204における全ての充放電サイクル回数について繰り返し行う(ステップS702)。統計的組電池劣化特性導出部104は、充放電サイクル回数Cycごとの組電池の充電容量の頻度分布fmodule(Cyc,:)の集合を、統計的組電池劣化特性206fmodule(:, :)として導出する。
【0045】
図1および図2の説明に戻る。寿命分布導出部105は、寿命評価部とも呼ばれる。寿命分布導出部105は、統計的組電池劣化特性導出部104から出力された統計的組電池劣化特性206と、記憶部101に記憶された寿命閾値情報203とに基づいて、組電池の寿命を評価する。本実施形態では、寿命分布導出部105は、組電池の寿命を評価した評価結果として、劣化尺度が寿命閾値情報203にて示される寿命閾値CCAPthの場合における、充放電サイクル回数の頻度分布である組電池の寿命分布を導出して出力する。
【0046】
図8は、寿命分布導出部105が行う処理をより具体的に説明するための図である。図8(a)は、統計的組電池劣化特性導出部104から出力された統計的組電池劣化特性206を示す。また、図8(b)は、ある充放電サイクル回数Cyc0における組電池の充電容量の頻度分布fmodule(Cyc0, : )を示す。また、図8(c)は、組電池の充電容量CCAPが寿命閾値CCAPthの場合における充放電サイクル回数の頻度分布fmodule(:,CCAPth)を示す。なお、図8(a)における実線は、頻度が最も高い最頻値の充電容量CCAPを結んだ線であり、点線は、最頻値から概ね3σの値を結んだ線である。
【0047】
充放電サイクル回数Cycと充電容量CCAPが決定されれば、頻度は一意的に決まることから、図8(b)で充放電サイクル回数Cyc0において充電容量が寿命閾値CCAPthとなる頻度と、図8(c)で充電容量が寿命閾値CCPthの場合において充放電サイクル回数が充放電サイクル回数Cyc0となる頻度とは同一となる(棒グラフにおける塗りつぶした部分)。
【0048】
寿命分布導出部105は、図8(a)で示されるような統計的組電池劣化特性206から、充放電サイクル回数ごとに、図8(b)で示されるような充電容量が寿命閾値CCAPthとなるときの頻度f(Cyc,CCAPth)を取り出す。これにより、寿命分布導出部105は、充電容量が寿命閾値CCAPthとなるときの充放電サイクル回数の頻度分布である組電池の寿命分布life(:)を導出することができる。この寿命分布life(:)は、図8(c)に示すように充電容量の頻度分布fmodule(:, : )における、充電容量CCAP=寿命閾値CCAPthのときの断面fmodule(:,CCAPth)と同一である。したがって、寿命分布life(:)は、life(:)=fmodule(:,CCAPth)となる。
【0049】
ここで寿命閾値CCAPthを製品の寿命容量とすれば、組電池が寿命に達する充放電サイクル回数の分布を把握することが可能になり、設計段階で製品の寿命の見積もりが可能となる。寿命分布life(:)は、必要があれば、正規化されてもよい。
【0050】
図9は、本実施形態の設計装置の動作を説明するためのフローチャートである。
先ず、統計的セル劣化特性導出部102は、記憶部101から複数のセル劣化特性201を取得し、取得した複数のセル劣化特性201に基づいて、統計的セル劣化特性204を導出して統計的組電池劣化特性導出部104に出力する(ステップS901)。
また、演算手順導出部103は、記憶部101から接続構造情報202を取得し、取得した接続構造情報202に基づいて演算手順x_orderを導出する。そして、演算手順導出部103は、導出した演算手順x_orderを示す演算手順情報205を統計的組電池劣化特性導出部104に出力する(ステップS902)。
統計的組電池劣化特性導出部104は、ステップS901およびS902のそれぞれで出力された統計的セル劣化特性204および演算手順情報205を受け付ける。統計的組電池劣化特性導出部104は、受け付けた統計的セル劣化特性204から演算手順情報205が示す演算手順x_orderに従って統計的組電池劣化特性206を導出して寿命分布導出部105に出力する(ステップS903)。
寿命分布導出部105は、統計的組電池劣化特性206を受け付け、記憶部101から寿命閾値情報203を取得する。寿命分布導出部105は、統計的組電池劣化特性206および寿命閾値情報203に基づいて、劣化尺度が寿命閾値情報203にて示される寿命閾値CCAPthの場合における、充放電サイクル回数の頻度分布である組電池の寿命分布life(:)を導出する。そして、寿命分布導出部105は、組電池の寿命分布life(:)を出力する(ステップS904)。
【0051】
以上説明したように本実施形態によれば、統計的セル劣化特性導出部102は、組電池で使用される複数の蓄電池セルのそれぞれの劣化特性である複数のセル劣化特性に基づいて、複数のセル劣化特性に関する統計データである統計的セル劣化特性を導出する。演算手順導出部103は、複数の蓄電池セル間の接続構造を示す接続構造情報に基づいて、統計的セル劣化特性から組電池の劣化特性を評価した評価データである統計的組電池劣化特性を導出するための演算手順を導出する。統計的組電池劣化特性導出部104は、統計的セル劣化特性から演算手順に従って統計的組電池劣化特性を導出する。寿命分布導出部105は、統計的組電池劣化特性に基づいて、組電池の寿命を評価する。
これにより、組電池で使用される複数の蓄電池セルのそれぞれの劣化特性である複数のセル劣化特性と、蓄電池セル間の接続構造とに基づいて評価された組電池の劣化特性から、組電池の寿命が評価される。したがって、複数の蓄電池セルで構成される組電池の寿命を精度良く評価することが可能になる。
【0052】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態で説明した方法による組電池の寿命の評価の信頼性を検証する。
【0053】
図10は、本発明の第2の実施形態に係るセル劣化特性の一例を示す図である。なお、図10では、組電池は、蓄電池セルとして18650型リチウムイオン電池セルを10個用いているものとしている。また、縦軸は、劣化尺度として容量維持率SOHを示し、横軸は、寿命因子尺度として充放電サイクル回数を示している。
【0054】
図10において、セル劣化特性11は、劣化の進行が最も遅い蓄電池セルの劣化特性を示す。セル劣化特性12は、全ての蓄電池セルの劣化特性の平均(具体的には、全ての蓄電池セルの容量維持率SOHの平均値と充放電サイクル回数との対応関係)を示す。セル劣化特性13は、劣化の進行が最も早い蓄電池セルの劣化特性を示す。充放電サイクル回数が300サイクルの場合、劣化の進行が最も遅い蓄電池セルの容量維持率SOHは、最良値の0.7程度となり、劣化の進行が最も早い蓄電池セルの容量維持率SOHである最悪値の0.3程度となる。また、容量維持率SOHの平均値は、充放電サイクル回数が多くなるにしたがって単調に減少している。
【0055】
図11は、図10で示したようなセル劣化特性を有する蓄電池セルを200個直列に接続した組電池の寿命を説明するための図である。図11の例では、第1の実施形態で説明した方法を用いて導出した組電池の寿命分布21(実線)と、蓄電池セルの寿命分布22(破線)とが示されている。また、組電池の寿命分布21と重なるように示されている寿命分布23(点線)は、モンテカルロ法により求めた組電池の寿命分布である。寿命分布21と23とを比較すると、分布の形状はほぼ等しく、第1の実施形態で説明した方法が高信頼であることを表している。
【0056】
蓄電池セルの寿命分布22は、図10における容量維持率SOH=0.5の断面を取ったものである。蓄電池セルの寿命分布22は、充放電サイクル回数が150サイクルから600サイクル以上に渡る範囲を有する幅の広い分布となっている。一方、組電池の寿命分布21は、充放電サイクル回数の平均値が140サイクルにあり、大きくても200サイクルを超えない、幅のかなり狭い分布となっている。これは、200個の蓄電池セルが直列に接続された構成では、寿命分布を導出する際に、最小値演算子が199回繰り返して適用されるために、組電池の寿命分布が蓄電池セルの寿命分布の最小値に偏ってしまうためである。
【0057】
この結果は、例えば、蓄電池セルの寿命が50%以上の確率で400サイクルを超えるような蓄電池セルが使用されても、多数の蓄電池セルを直列に接続した組電池においては、組電池の寿命は200サイクルを下回ることを示している。これは、蓄電池セルの寿命に比べて、組電池の寿命が小さくなる傾向を示しており、実際の結果と一致する。
【0058】
したがって、第1の実施形態で説明した方法においては、これまで定量的に評価できなかった組電池の寿命を評価できるようになっており、設計前に製品寿命を定量的に予測することが可能となる。
【0059】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態に限定されたものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更を行うことができる。
例えば、上述した実施形態では、蓄電装置の設計に必要な種々の情報は記憶部101に記憶されているものとしたが、これらの情報の一部または全部は、ネットワークを介して他の装置から取得されてもよいし、設計装置を使用するユーザなどから入力されてもよい。
【符号の説明】
【0060】
100 設計装置
101 記憶部
102 統計的セル劣化特性導出部
103 演算手順導出部
104 統計的組電池劣化特性導出部
105 寿命分布導出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11