【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、反射防止部材の形態観察、メソ細孔構造評価、光学特性評価、剥離・摩耗試験及び冷熱サイクル試験は以下の方法に従って行なった。
【0090】
<形態観察>
メソポーラスシリカナノ粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)観察は、(株)日立ハイテクノロジーズ製の走査電子顕微鏡「SU3500」を用いて行った。また、メソポーラスシリカナノ粒子を固定化した基板の表面形状の原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)観察は、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)(現(株)日立ハイテクサイエンス)製の走査型プローブ顕微鏡「NanoNavi E−sweep」を用いて行った。
<メソ細孔構造評価>
メソポーラスシリカナノ粒子の窒素吸着等温線は、カンタクローム・インスツルメンツ社製のガス吸着量測定装置「Autosorb−1」を用いて測定し、比表面積をBET(Brunauer−Emmett−Teller)法、細孔径を密度汎関数法、細孔容量をt−プロット法により算出した。
<光学特性評価>
光透過率は、日本分光(株)製の分光光度計「V−670」を用いて測定した。また、光反射率は、(株)相馬化学製のマルチチャンネル分光計「S−2650」を用いて測定した。更に、透明性は、目視により観察し、ほぼ完全に透明な場合を「○」、光散乱による白濁がわずかに観察されるものを「△」、明らかな白濁が認められる場合を「×」と評価した。
<剥離・摩耗試験>
テープ剥離試験として、メソポーラスシリカナノ粒子を固定した基板表面に粘着テープ(住友スリーエム(株)製、Scotch(登録商標)「メンディングテープ」(カタログNo.810−1−18))を貼付・剥離し、基板表面に残存した粘着成分をエタノールで洗浄後、剥離の割合を目視で観察した。また、コットン摩耗試験として、基板表面にコットンウールを1kg/cm
2の圧力で押し付け、20往復させた後の表面状態を目視で観察した。なお、基板に浸透した溶媒の影響を軽減するため、これらの試験は室温で一週間放置した試料(サンプル)に対して行った。それぞれの試験において、試験前後での変化がほとんどないものを「○」、一部変化が見られたものを「△」、明確な剥離や白化が見られたものを「×」と評価した。
<冷熱サイクル試験>
基板の熱膨張に対する反射防止層の耐性を調べるため、熱風による加熱(約80℃)及び水への浸漬による急冷(25℃)のサイクルを10回繰り返し、試験前後での可視光の透過率を測定した。
【0091】
(調製例1)
容量100mLのナスフラスコに10質量%ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液(60mL)及びトリエタノールアミン(0.18g)を入れ、60℃で1時間攪拌した。次に、得られた混合溶液に別途調製したテトラエトキシシラン(4mL)とシクロヘキサン(16mL)の混合物をゆっくり加え、有機層/水層からなる二層分離状態を形成後、150〜200rpmでゆっくり攪拌しながら60℃で10時間加熱し、ナノ粒子を生成した。次いで、生成したナノ粒子を含む水層を分離し、容量300mLの丸底フラスコに移し、これに、別途調製したヘキサメチルジシロキサン(30g)、エタノール(30g)及び5M塩酸(60g)からなる混合物を加え、激しく攪拌しながら72℃で2時間加熱して表面疎水化処理を行った。次に、室温で冷却後、遠心分離(4000rpm、1時間)を施してメソポーラスシリカナノ粒子を回収した。次いで、エタノール溶媒を用いて遠心分離(4000rpm,1時間×3)により洗浄を施して溶媒を除去し、メソポーラスシリカナノ粒子(表面疎水化メソポーラスシリカナノ粒子)を得た。
【0092】
得られたメソポーラスシリカナノ粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行った。このSEM観察において、無作為に50個のナノ粒子を抽出し、その直径を測定したところ、ナノ粒子の平均粒子径は約100nmであることが確認された。
図1に、調製例1で得られたメソポーラスシリカナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す。また、窒素吸着等温線の測定を行った。
図2に、調製例1で得られたメソポーラスシリカナノ粒子の窒素吸着等温線を示すグラフを示す。窒素吸着等温線の測定結果から、BET比表面積が748m
2/g、メソ細孔径が5〜8nm、メソ細孔由来の細孔容量が0.60cm
3/gと求められ、シリカ骨格の密度を約2g/cm
3とした場合、空隙率を算出したところ54%であった。
【0093】
(調製例2)
容量100mLのナスフラスコに10質量%ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液(60mL)及びトリエタノールアミン(0.18g)を入れ、80℃で1時間攪拌した。次に、得られた混合溶液に別途調製したテトラエトキシシラン(4mL)とメチルシクロヘキサン(16mL)の混合物をゆっくり加え、有機層/水層からなる二層分離状態を形成後、150〜200rpmでゆっくり攪拌しながら80℃で10時間加熱し、ナノ粒子を生成した。次いで、生成したナノ粒子を含む水層を分離し、容量300mLの丸底フラスコに移し、これに、別途調製したヘキサメチルジシロキサン(30g)、エタノール(30g)及び5M塩酸(60g)からなる混合物を加え、激しく攪拌しながら72℃で2時間加熱して表面疎水化処理を行った。次に、室温で冷却後、遠心分離(4000rpm,1h)を施してメソポーラスシリカナノ粒子を回収した。次いで、エタノール溶媒を用いて遠心分離(4000rpm,1h×3)により洗浄を施して溶媒を除去し、メソポーラスシリカナノ粒子(表面疎水化メソポーラスシリカナノ粒子)を得た。
【0094】
得られたメソポーラスシリカナノ粒子について、調製例1と同様に走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行ったところナノ粒子の平均粒子径は約150nmであることが確認された。
図3に、調製例2で得られたメソポーラスシリカナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す。また、窒素吸着等温線の測定を行った。
図4に、調製例2で得られたメソポーラスシリカナノ粒子の窒素吸着等温線を示すグラフを示す。窒素吸着等温線の測定結果から、BET比表面積が484m
2/g、メソ細孔径が4.7nm、メソ細孔由来の細孔容量が0.37cm
3/gと求められ、シリカ骨格の密度を約2g/cm
3とした場合、空隙率を算出したところ42%であった。
【0095】
(調製例3)
容量100mLのナスフラスコに25質量%ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液(24mL)及びトリエタノールアミン(0.18g)を入れ、80℃で1時間攪拌した。次に、得られた混合溶液に別途調製したテトラエトキシシラン(4mL)とメチルシクロヘキサン(16mL)の混合物をゆっくり加え、有機層/水層からなる二層分離状態を形成後、150〜200rpmでゆっくり攪拌しながら80℃で10時間加熱し、ナノ粒子を生成した。次いで、生成したナノ粒子を含む水層を分離し、容量100mLのナスフラスコに移し、これにトリエタノールアミン(0.18g)を入れ、60℃で1時間攪拌した。次に、得られた混合溶液に別途調製した、別途調製したテトラエトキシシラン(4mL)とシクロヘキサン(16mL)の混合物をゆっくり加え、有機層/水層からなる二層分離状態を形成後、150〜200rpmでゆっくり攪拌しながら60℃で10時間加熱し、ナノ粒子を生成した。次いで、生成したナノ粒子を含む水層を分離し、容量300mLの丸底フラスコに移し、これに、別途調製したヘキサメチルジシロキサン(10g)、エタノール(30g)及び34%塩酸(30g)からなる混合物を加え、激しく攪拌しながら72℃で2時間加熱して表面疎水化処理を行った。次に、室温で冷却後、遠心分離(4000rpm、1時間)を施してメソポーラスシリカナノ粒子を回収した。次いで、エタノール溶媒を用いて遠心分離(4000rpm,1時間×3)により洗浄を施して溶媒を除去し、メソポーラスシリカナノ粒子(表面疎水化メソポーラスシリカナノ粒子)を得た。
【0096】
得られたメソポーラスシリカナノ粒子について、調製例1と同様に走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行ったところナノ粒子の平均粒子径は約170nmであることが確認された。
図5に、調製例3で得られたメソポーラスシリカナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す。また、窒素吸着等温線の測定を行った。
図6に、調製例3で得られたメソポーラスシリカナノ粒子の窒素吸着等温線を示すグラフを示す。窒素吸着等温線の測定結果から、メソ細孔径が4.8nm、メソ細孔由来の細孔容量が0.47cm
3/gと求められ、シリカ骨格の密度を約2g/cm
3とした場合、空隙率を算出したところ48%であった。
【0097】
(実施例1)
先ず、調製例1で得られたメソポーラスシリカナノ粒子にエタノールを添加し、ナノ粒子濃度が3.0質量%のエタノール分散液(25g)からなる粒子層原料を調製した。また、樹脂基材として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂基板(厚さ:2mm)を用意した。
【0098】
次に、このPMMA樹脂基板に、前記エタノール分散液を50mm/分の速さでディップコートし、室温で2時間乾燥せしめて、PMMA樹脂基板表面に前記ナノ粒子を吸着させた。
【0099】
次いで、表面にナノ粒子を吸着したPMMA樹脂基板をクロロホルム蒸気に室温で48時間曝露して樹脂基板の表面を可塑化して高分子流動状態とし、樹脂基板の表面にナノ粒子を埋設せしめ、その後、大気中に2時間暴露して高分子流動状態にある樹脂基板の表面を硬化せしめた。その後、エタノール中で超音波洗浄(周波数42kHz、出力100W)を2分間施して、樹脂基板表面に直接固定化されている前記ナノ粒子以外の粒子を取り除くことにより、樹脂基板の表面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPMMA樹脂基板(反射防止部材)を得た。
【0100】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果を
図7に示す。
図7の(A)は本発明の実施例1により得られた反射防止部材の原子間力顕微鏡観察像(AFM像)であり、(B)は(A)の一部を取り出したAFM像の拡大図であり、(C)は(B)における白色線分の高さのプロファイルを表すグラフである。なお、
図7の(C)に示される破線の円は、ナノ粒子を真球と仮定した時の輪郭線である。
図7の(A)に示すAFM像より、メソポーラスシリカナノ粒子が樹脂基板の表面に単層(一層)で配置されていることが確認された。また、
図7の(C)に示す高さプロファイルを表すグラフの解析から、ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が45nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の45%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0101】
次に、得られた反射防止部材(実施例1)及び比較のために未処理の上記PMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。
図8に実施例1で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図9に実施例1で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図8及び
図9に示した実施例1の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例1において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0102】
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
(実施例2)
先ず、調製例1で得られたメソポーラスシリカナノ粒子にエタノールを添加し、ナノ粒子濃度が3.0質量%のエタノール分散液(25g)からなる粒子層原料を調製した。また、樹脂基材として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂基板(厚さ:2mm)を用意した。
【0106】
次に、このPMMA樹脂基板に、前記エタノール分散液を50mm/分の速さでディップコートし、室温で2時間乾燥せしめて、PMMA樹脂基板表面に前記ナノ粒子を吸着させた。
【0107】
次いで、表面にナノ粒子を吸着したPMMA樹脂基板に対してヒートガンを用いて熱風(約150〜200℃)を2分間吹き付けて樹脂基板の表面を可塑化して高分子流動状態とし、樹脂基板の表面にナノ粒子を埋設せしめ、その後、室温まで約2分間で冷却することにより高分子流動状態にある樹脂基板の表面を硬化せしめた。その後、エタノール中で超音波洗浄(周波数42kHz、出力100W)を2分間施して、樹脂基板表面に直接固定化されている前記ナノ粒子以外の粒子を取り除くことにより、樹脂基板の表面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPMMA樹脂基板(反射防止部材)を得た。
【0108】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、メソポーラスシリカナノ粒子が樹脂基板の表面に単層(一層)で配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が40nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の40%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0109】
次に、得られた反射防止部材(実施例2)及び比較のために未処理の上記PMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。
図10に実施例2で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図11に実施例2で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図10及び
図11に示した実施例2の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例2において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0110】
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0111】
(実施例3)
樹脂基材として、PMMA樹脂基板に代えてポリカーボネート(PC)樹脂基板(住友ベークライト社製、「ポリカエースECK−100UU」、厚さ:2mm)を用いた以外は実施例1と同様にして、樹脂基板の表面にメソポーラスシリカナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPC樹脂基板(反射防止部材)を得た。
【0112】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、メソポーラスシリカナノ粒子が樹脂基板の表面に単層(一層)で配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子がPC樹脂基板に30〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が40nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の40%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0113】
次に、得られた反射防止部材(実施例3)及び比較のために未処理の上記PC樹脂基板(参考例2)について光透過率及び光反射率を測定した。
図12に実施例3で得られた反射防止部材及び参考例2(PC樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図13に実施例3で得られた反射防止部材及び参考例2(PC樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図12及び
図13に示した実施例3の結果と参考例2の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例3において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPC樹脂基板(参考例2)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、光散乱による白濁がわずかに観察された。得られた結果を表2に示す。
【0114】
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0115】
(実施例4)
先ず、調製例2で得られたメソポーラスシリカナノ粒子にエタノールを添加し、ナノ粒子濃度が3.0質量%のエタノール分散液(25g)からなる粒子層原料を調製した。また、樹脂基材として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂基板(厚さ:2mm)を用意した。
【0116】
次に、このPMMA樹脂基板の両面に、平筆(材質:羊毛、穂の長さ:12mm、穂の幅:8mm、穂の厚み:2mm)を用いて前記エタノール分散液を塗布し、室温で2時間乾燥せしめて、PMMA樹脂基板表面に前記ナノ粒子を吸着させた。
【0117】
次いで、表面にナノ粒子を吸着したPMMA樹脂基板をクロロホルム蒸気に室温で48時間曝露して樹脂基板の表面を可塑化して高分子流動状態とし、樹脂基板の表面にナノ粒子を埋設せしめ、その後、大気中に2時間暴露して高分子流動状態にある樹脂基板の表面を硬化せしめた。その後、エタノール中で超音波洗浄(周波数42kHz、出力100W)を2分間施して、樹脂基板表面に直接固定化されている前記ナノ粒子以外の粒子を取り除くことにより、樹脂基板の表面の両面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPMMA樹脂基板(反射防止部材)を得た。
【0118】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果を
図14に示す。
図14の(A)は本発明の実施例4により得られた反射防止部材の原子間力顕微鏡観察像(AFM像)であり、(B)は(A)の一部を取り出したAFM像の拡大図であり、(C)は(B)における白色線分の高さのプロファイルを表すグラフである。
図14の(A)に示すAFM像より、メソポーラスシリカナノ粒子が樹脂基板の表面に単層(一層)で配置されていることが確認された。なお、樹脂基板表面の他面においても同様にナノ粒子が樹脂基板の表面に単層(一層)で配置されていることが確認された。更に、
図14の(C)に示す高さプロファイルを表すグラフの解析から、ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜60nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が50nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の33%であることが確認された。なお、樹脂基板表面の他面においても同様にナノ粒子がPMMA樹脂基板に埋設されていることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0119】
次に、得られた反射防止部材(実施例4)及び比較のために未処理の上記PMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。
図15に実施例4で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図16に実施例4で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図15及び
図16に示した実施例4の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例4において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0120】
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0121】
次に、得られた反射防止部材に対して冷熱サイクル試験を行った。その結果、試験前後において透過率の変化は見られず、基板の熱変形に対して反射防止部材が十分な耐性を有していることが確認された。
図17に実施例4で得られた反射防止部材の冷熱サイクル試験を行った結果を示すグラフを示す。また、
図18に文字を書いた紙からの散乱光を映しこんだ状態の実施例4で得られた反射防止部材及び比較のためのPMMA樹脂基板(参考例1)の外観写真を示す。
図18に示した実施例4の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、本実施例の反射防止部材は樹脂基材の透明性を確保したまま映り込みの低減が可能であり、視認性が向上していることが確認された。
【0122】
(実施例5)
樹脂基材として、曲面を有するPMMA樹脂基板(幅:30mm、長さ:70mm、厚さ:2mm、局面部の曲率半径:約15mm)を用いた以外は実施例4と同様にして、樹脂基板の表面の両面にメソポーラスシリカナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPMMA樹脂曲面基板(反射防止部材)を得た。
【0123】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、メソポーラスシリカナノ粒子が樹脂基板の表面の両面にそれぞれ単層(一層)で配置されていることが確認された。また、ナノ粒子がPMMA樹脂基板の両面に30〜60nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が50nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の33%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0124】
次に、得られた反射防止部材(実施例5)及び比較のために未処理の上記曲面を有するPMMA樹脂基板(参考例3)について光透過率及び光反射率を測定した。可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例5において得られた反射防止部材は、処理を行っていない曲面を有するPMMA樹脂基板(参考例3)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0125】
次いで、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。また、
図19に文字を書いた紙からの散乱光を映しこんだ状態の実施例5で得られた曲面を有する反射防止部材及び比較のための曲面を有するPMMA樹脂基板(参考例3)の外観写真を示す。
図19に示した実施例5の結果と参考例3の結果との比較から明らかなように、本実施例の反射防止部材は樹脂基材の透明性を確保したまま映り込みの低減が可能であり、曲面を有する樹脂基板においても視認性が向上していることが確認された。
【0126】
(実施例6)
先ず、実施例4と同様にして粒子層原料(エタノール分散液)及びポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂基板を用意した。次に、このPMMA樹脂基板の両面に、噴霧器を用いて前記エタノール分散液を塗布し、室温で2時間乾燥せしめてPMMA樹脂基板表面にメソポーラスシリカナノ粒子を吸着させた。その後、実施例4と同様にして、樹脂基板の表面の両面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPMMA樹脂基板(反射防止部材)を得た。
【0127】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、樹脂基板の両面において、前記ナノ粒子が樹脂基板の表面にそれぞれ単層(一層)で配置されていることが確認された。また、樹脂基板の両面において、ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜60nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が50nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の33%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0128】
次に、得られた反射防止部材(実施例6)及び比較のために未処理の上記PMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。
図20に実施例6で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図21に実施例6で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図20及び
図21に示した実施例6の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例6において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0129】
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0130】
(実施例7)
可塑化処理条件をクロロホルム蒸気に50℃で6時間曝露とした以外は実施例4と同様にして、樹脂基板の表面の両面にメソポーラスシリカナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPMMA樹脂基板(反射防止部材)を得た。
【0131】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、樹脂基板の両面において、前記ナノ粒子が樹脂基板の表面にそれぞれ単層(一層)で配置されていることが確認された。また、樹脂基板の両面において、ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が45nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の30%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0132】
次に、得られた反射防止部材(実施例7)及び比較のために未処理の上記PMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。
図22に実施例7で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図23に実施例7で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図22及び
図23に示した実施例7の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例7において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0133】
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、摩耗試験においてわずかな白化がみられたが、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0134】
(実施例8)
先ず、調製例2で得られたメソポーラスシリカナノ粒子にエタノールを添加し、ナノ粒子濃度が3.0質量%のエタノール分散液(25g)からなる粒子層原料を調製した。また、樹脂基材として、ポリカーボネート(PC)樹脂基板(住友ベークライト社製、「ポリカエースECK−100UU」、厚さ:2mm)を用意した。
【0135】
次に、このPC樹脂基板の両面に、平筆(材質:羊毛、穂の長さ:12mm、穂の幅:8mm、穂の厚み:2mm)を用いて前記エタノール分散液を塗布し、室温で2時間乾燥せしめて、PC樹脂基板表面に前記ナノ粒子を吸着させた。
【0136】
次いで、表面にナノ粒子を吸着したPC樹脂基板に対して、ヒートガンを用いて熱風(約150〜250℃)を2分間吹き付けて樹脂基板の表面を可塑化して高分子流動状態とし、樹脂基板の表面にナノ粒子を埋設せしめ、その後、室温で約2分間冷却して高分子流動状態にある樹脂基板の表面を硬化せしめた。その後、エタノール中で超音波洗浄(周波数42kHz、出力100W)を2分間施して、樹脂基板表面に直接固定化されている前記ナノ粒子以外の粒子を取り除くことにより、樹脂基板の表面の両面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPC樹脂基板(反射防止部材)を得た。
【0137】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、樹脂基板の両面において、前記ナノ粒子が樹脂基板の表面にそれぞれ単層(一層)で配置されていることが確認された。また、樹脂基板の両面において、ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が45nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の30%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0138】
次に、得られた反射防止部材(実施例8)及び比較のために未処理の上記PC樹脂基板(参考例2)について光透過率及び光反射率を測定した。
図24に実施例8で得られた反射防止部材及び参考例2(PC樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図25に実施例8で得られた反射防止部材及び参考例2(PC樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図24及び
図25に示した実施例8の結果と参考例2の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例8において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPC樹脂基板(参考例2)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0139】
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0140】
(実施例9)
樹脂基材として、PMMA樹脂基板に代えてポリカーボネート(PC)樹脂基板(住友ベークライト社製、「ポリカエースECK−100UU」、厚さ:2mm)を用いた以外は実施例6と同様にして、樹脂基板の表面の両面にメソポーラスシリカナノ粒子が直接固定化された粒子層を有するPC樹脂基板(反射防止部材)を得た。
【0141】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、樹脂基板の両面において、前記ナノ粒子が樹脂基板の表面にそれぞれ単層(一層)で配置されていることが確認された。また、樹脂基板の両面において、ナノ粒子がPMMA樹脂基板に30〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が45nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の30%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0142】
次に、得られた反射防止部材(実施例9)及び比較のために未処理の上記PC樹脂基板(参考例2)について光透過率及び光反射率を測定した。
図26に実施例9で得られた反射防止部材及び参考例2(PC樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図27に実施例9で得られた反射防止部材及び参考例2(PC樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図26及び
図27に示した実施例9の結果と参考例2の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例9において得られた反射防止部材は、処理を行っていないPC樹脂基板(参考例2)に比べて透過率が向上し、反射率が低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0143】
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0144】
(比較例1)
粒子層原料として、メソポーラスシリカナノ粒子に代えてシリカ球(日本触媒社製、商品名「KE−P10」、平均粒子径100nm)を用いた以外は実施例1と同様にして、PMMA樹脂基板表面にシリカ球が固定化された粒子層を有する比較用材料を得た。
【0145】
得られた比較用材料及び未処理のPMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。
図28に比較例1で得られた比較用材料及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図29に比較例1で得られた比較用材料及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図28及び
図29に示した比較例1の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、比較例1において得られた比較用材料は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて反射率は低下したが透過率には大きな改善が見られなかったことが確認された。なお、得られた比較用材料の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、光散乱による白濁がわずかに観察された。得られた結果を表2に示す。次に、得られた比較用材料についてテープ剥離試験を行った結果、比較用材料表面のシリカ球が容易に脱離し、PMMA樹脂基板とシリカ球との接着が不十分であることが確認された。また、コットン摩耗試験を行った結果、比較用材料には明確な白化が見られた。得られた結果を表2に示す。
【0146】
(比較例2)
粒子層原料として、メソポーラスシリカナノ粒子に代えてシリカ球(日本触媒社製、商品名「KE−P10」、平均粒子径100nm)を用いた以外は実施例3と同様にして、PC樹脂基板表面にシリカ球が固定化された粒子層を有する比較用材料を得た。
【0147】
得られた比較用材料及び未処理のPC樹脂基板(参考例2)について光透過率及び光反射率を測定した。
図30に比較例2で得られた比較用材料及び参考例2(PC樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図31に比較例2で得られた比較用材料及び参考例2(PC樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図30及び
図31に示した比較例2の結果と参考例2の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、比較例2において得られた比較用材料は、処理を行っていないPC樹脂基板(参考例2)に比べて反射率は低下したが透過率が劣ることが確認された。なお、得られた比較用材料の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、光散乱による白濁がわずかに観察された。得られた結果を表2に示す。次に、得られた比較用材料についてテープ剥離試験を行った結果、比較用材料表面のシリカ球の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0148】
(比較例3)
粒子層原料として、メソポーラスシリカナノ粒子に代えてシリカ球(日本触媒社製、商品名「KE−P15」、平均粒子径150nm)を用いた以外は実施例1と同様にして比較用材料を作製したところ、エタノール中での超音波洗浄処理によりシリカ球の大半が脱離し、シリカ球を固定化したPMMA樹脂基板を得ることができなかった。
【0149】
(比較例4)
樹脂基材として、PMMA樹脂基板に代えてポリカーボネート(PC)樹脂基板(住友ベークライト社製、「ポリカエースECK−100UU」、厚さ:2mm)を用い、粒子層原料として、メソポーラスシリカナノ粒子に代えてシリカ球(日本触媒社製、商品名「KE−P15」、平均粒子径150nm)を用いた以外は実施例1と同様にして、PC樹脂基板表面にシリカ球が固定化された粒子層を有する比較用材料を得た。
【0150】
得られた比較用材料及び未処理のPC樹脂基板(参考例2)について光透過率及び光反射率を測定した。
図32に比較例4で得られた比較用材料及び参考例2(PC樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図33に比較例4で得られた比較用材料及び参考例2(PC樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図32及び
図33に示した比較例4の結果と参考例2の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、比較例4において得られた比較用材料は、処理を行っていないPC樹脂基板(参考例2)に比べて反射率は低下したが透過率には大きな改善が見られなかったことが確認された。なお、得られた比較用材料の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、明らかな白濁が認められた。得られた結果を表2に示す。次に、得られた比較用材料についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、比較用材料表面のシリカ球が容易に脱離し、PC樹脂基板とシリカ球との接着が不十分であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0151】
(比較例5)
先ず、調製例2で得られたメソポーラスシリカナノ粒子150mg及びポリジメトキシシロキサン(Gelest社製、商品名「PSI−026」)250mgをエタノール5gに分散させた後、2M塩酸(100μL)を加えて25℃で6時間攪拌してゾル分散液を得た。次に、得られたゾル分散液をエタノール溶媒で8倍に希釈した後、PMMA樹脂基板に20mm/分の速さでディップコートし、室温で2時間乾燥せしめて、PMMA樹脂基板表面に前記ナノ粒子及びシリカ系マトリクスからなる被膜を備えたPMMA樹脂基板(比較用材料)を作製した。
【0152】
得られた比較用材料及び未処理のPMMA樹脂基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。
図34に比較例5で得られた比較用材料及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図35に比較例5で得られた比較用材料及び参考例1(PMMA樹脂基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図34及び
図35に示した比較例5の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、比較例5において得られた比較用材料は、処理を行っていないPMMA樹脂基板(参考例1)に比べて400〜500nmの波長域で透過率が劣るものの、500nm以上の波長域で透過率がやや向上し、可視光全波長域で反射率が2〜3%低減したことが確認された。なお、得られた比較用材料の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、わずかながら光散乱による白濁が観察された。得られた結果を表2に示す。次に、得られた比較用材料についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、ナノ粒子の脱離や被膜の剥離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0153】
次に、得られた比較用材料に対して冷熱サイクル試験を行った。その結果、試験後に明確な透過率の低下が見られ、樹脂基板の熱変形に対して本比較例の反射防止層は明らかな劣化を示し、基板の熱変形に対して比較用材料が十分な耐性を有していいないことが確認された。
図36に比較例5で得られた比較用材料の冷熱サイクル試験を行った結果を示すグラフを示す。
【0154】
(実施例10:転写部材の作製1)
先ず、調製例2で得られたメソポーラスシリカナノ粒子にエタノールを添加し、ナノ粒子濃度が3.0質量%のエタノール分散液(25g)からなる粒子層原料を調製した。また、剥離基材として、ポリカーボネートフィルム(幅:40mm、長さ:60mm、厚さ:0.1mm)を用意した。
【0155】
次に、この剥離基材の片面に、平筆を用いて前記エタノール分散液を塗布し、室温で2時間乾燥せしめて、剥離基材表面に前記ナノ粒子を吸着させた。
【0156】
次いで、表面にナノ粒子を吸着した剥離基材をクロロホルム蒸気に室温で24時間曝露して剥離基板の表面を弱く可塑化して高分子半流動状態とし、剥離基材の表面にナノ粒子を浅く埋設せしめ、その後、大気中に2時間暴露して高分子半流動状態にある剥離基材の表面を硬化せしめた。その後、エタノール中で超音波洗浄(周波数42kHz、出力100W)を2分間施して、剥離基材表面に仮固定化されている前記ナノ粒子以外の粒子を取り除くことにより、剥離基材の表面の片面に前記ナノ粒子が仮固定化された粒子層を有する転写部材を得た。
【0157】
得られた転写部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、
図37に示すように、メソポーラスシリカナノ粒子が剥離基材の表面に単層(一層)で密に配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子が剥離基材に5〜20nm程度埋設されており、ナノ粒子の剥離基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が15nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の10%であることが確認された。
【0158】
次に、得られた転写部材についてテープ剥離試験を行った結果、
図38に示すように、剥離基材表面のナノ粒子が完全に脱離することが確認された。この結果から、得られた転写部材において、剥離基材表面のナノ粒子は、超音波洗浄では脱離せず、一方、テープ剥離試験では脱離する「仮固定化」状態となっていることが確認された。
【0159】
(実施例11:転写部材の作製2)
先ず、調製例3で得られたメソポーラスシリカナノ粒子にエタノールを添加し、ナノ粒子濃度が6.8質量%のエタノール分散液(30g)からなる粒子層原料を調製した。また、剥離基材として、ポリカーボネートフィルム(幅:40mm、長さ:60mm、厚さ:0.1mm)を用意した。
【0160】
次に、この剥離基材の片面に、平筆を用いて前記エタノール分散液を塗布し、室温で2時間乾燥せしめて、剥離基材表面に前記ナノ粒子を吸着させた。
【0161】
次いで、表面にナノ粒子を吸着した剥離基材をクロロホルム蒸気に室温で24時間曝露して剥離基板の表面を弱く可塑化して高分子半流動状態とし、剥離基材の表面にナノ粒子を浅く埋設せしめ、その後、大気中に2時間暴露して高分子半流動状態にある剥離基材の表面を硬化せしめた。その後、エタノール中で超音波洗浄(周波数42kHz、出力100W)を2分間施して、剥離基材表面に仮固定化されている前記ナノ粒子以外の粒子を取り除くことにより、剥離基材の表面の片面に前記ナノ粒子が仮固定化された粒子層を有する転写部材を得た。
【0162】
得られた転写部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、
図39に示すように、メソポーラスシリカナノ粒子が剥離基材の表面に単層(一層)で密に配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子が剥離基材に5〜20nm程度埋設されており、ナノ粒子の剥離基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が15nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の8.9%であることが確認された。
【0163】
次に、得られた転写部材についてテープ剥離試験を行った結果、
図40に示すように、剥離基材表面のナノ粒子が完全に脱離することが確認された。この結果から、得られた転写部材において、剥離基材表面のナノ粒子は、超音波洗浄では脱離せず、一方、テープ剥離試験では脱離する「仮固定化」状態となっていることが確認された。
【0164】
(実施例12:転写部材を用いた反射防止部材の作製1)
二液型エポキシ樹脂(日新レジン社製、「クリスタルレジンII SP−C」)をガラス基板の片面に塗布し、室温で9時間放置することにより半硬化状態(高分子流動状態)とした。この基板上のエポキシ樹脂基材表面に対し、実施例10で作製した転写部材のメソポーラスシリカナノ粒子が仮固定化されている側の面を接触させ、更に約1.5kg/cm
2の圧力で10秒間押圧した後、剥離基材を剥がすことによって、樹脂基材表面にナノ粒子を転写せしめた。更に、室温で15時間放置することによりエポキシ樹脂の硬化を十分に進行させ、樹脂基材の表面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有する反射防止部材を得た。
【0165】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、
図41に示すように、メソポーラスシリカナノ粒子が転写部材から樹脂基材の表面にほぼ完全に転写され、単層(一層)で密に配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子が樹脂基材に40〜50nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が45nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の30%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0166】
次に、得られた反射防止部材(実施例12)及び比較のためにナノ粒子を転写していないエポキシコート基板(参考例4)について光透過率及び光反射率を測定した。
図42に実施例12で得られた反射防止部材及び参考例4(エポキシコート基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図43に実施例12で得られた反射防止部材及び参考例4(エポキシコート基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図42及び
図43に示した実施例12の結果と参考例4の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例12において得られた反射防止部材は、ナノ粒子を転写していないエポキシコート基板(参考例4)に比べて透過率が2.0〜2.6%向上し、反射率が2.0〜3.0%低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0167】
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0168】
(実施例13:転写部材を用いた反射防止部材の作製2)
二液型エポキシ樹脂(日新レジン社製、「クリスタルレジンII SP−C」)をガラス基板の片面に塗布し、室温で8時間放置することにより半硬化状態(高分子流動状態)とした。この基板上のエポキシ樹脂基材表面に対し、実施例10で作製した転写部材のメソポーラスシリカナノ粒子が仮固定化されている側の面を接触させ、更に約1.5kg/cm
2の圧力で10秒間押圧した後、剥離基材を剥がすことによって、樹脂基材表面にナノ粒子を転写せしめた。更に、室温で16時間放置することによりエポキシ樹脂の硬化を十分に進行させ、樹脂基材の表面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有する反射防止部材を得た。
【0169】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、
図44に示すように、メソポーラスシリカナノ粒子が転写部材から樹脂基材の表面にほぼ完全に転写され、単層(一層)で密に配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子が樹脂基材に65〜85nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が75nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の50%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0170】
次に、得られた反射防止部材(実施例13)及び比較のためにナノ粒子を転写していないエポキシコート基板(参考例4)について光透過率及び光反射率を測定した。
図45に実施例13で得られた反射防止部材及び参考例4(エポキシコート基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図46に実施例13で得られた反射防止部材及び参考例4(エポキシコート基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図45及び
図46に示した実施例13の結果と参考例4の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例13において得られた反射防止部材は、ナノ粒子を転写していないエポキシコート基板(参考例4)に比べて透過率が約1.0%向上し、反射率が1.0〜1.6%低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0171】
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0172】
(実施例14:転写部材を用いた反射防止部材の作製3)
二液型エポキシ樹脂(日新レジン社製、「クリスタルレジンII SP−C」)をガラス基板の片面に塗布し、室温で9時間放置することにより半硬化状態(高分子流動状態)とした。この基板上のエポキシ樹脂基材表面に対し、実施例11で作製した転写部材のメソポーラスシリカナノ粒子が仮固定化されている側の面を接触させ、更に約1.5kg/cm
2の圧力で10秒間押圧した後、剥離基材を剥がすことによって、樹脂基材表面にナノ粒子を転写せしめた。更に、室温で15時間放置することによりエポキシ樹脂の硬化を十分に進行させ、樹脂基材の表面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有する反射防止部材を得た。
【0173】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、
図47に示すように、メソポーラスシリカナノ粒子が転写部材から樹脂基材の表面にほぼ完全に転写され、単層(一層)で密に配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子が樹脂基材に50〜70nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が60nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の35.3%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0174】
次に、得られた反射防止部材(実施例14)及び比較のためにナノ粒子を転写していないエポキシコート基板(参考例4)について光透過率及び光反射率を測定した。
図48に実施例14で得られた反射防止部材及び参考例4(エポキシコート基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図49に実施例14で得られた反射防止部材及び参考例4(エポキシコート基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図48及び
図49に示した実施例14の結果と参考例4の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例14において得られた反射防止部材は、ナノ粒子を転写していないエポキシコート基板(参考例4)に比べて透過率が2.0〜2.3%向上し、反射率が1.5〜3.3%低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0175】
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0176】
(実施例15:転写部材を用いた反射防止部材の作製4)
ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂基板(厚さ:2mm)に対してヒートガンを用いて熱風(約150〜200℃)を吹き付けて樹脂基材の表面を約130℃とすることにより可塑化して高分子流動状態とした。この樹脂基材表面に対し、実施例11で作製した転写部材のメソポーラスシリカナノ粒子が仮固定化されている側の面を接触させ、更に約1.5kg/cm
2の圧力で10秒間押圧した後、剥離基材を剥がすことによって、樹脂基材表面にナノ粒子を転写せしめた。その後、室温まで冷却することにより高分子流動状態にある樹脂基材の表面を硬化せしめ、樹脂基材の表面に前記ナノ粒子が直接固定化された粒子層を有する反射防止部材を得た。
【0177】
得られた反射防止部材について、原子間力顕微鏡により観察し、高さのプロファイルを測定した。その結果、
図50に示すように、メソポーラスシリカナノ粒子が転写部材から樹脂基材の表面にほぼ完全に転写され、単層(一層)で密に配置されていることが確認された。また、前記ナノ粒子が樹脂基材に50〜70nm程度埋設されており、ナノ粒子の樹脂基材表面に埋設されている部分(ナノ粒子埋設部)の深さの平均値が60nmであり、該深さの平均値が平均粒子径の35.3%であることが確認された。得られた結果を表1に示す。
【0178】
次に、得られた反射防止部材(実施例15)及び比較のためにナノ粒子を転写していないPMMA基板(参考例1)について光透過率及び光反射率を測定した。
図51に実施例15で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA基板)の光透過率の波長依存性を示すグラフを示す。
図52に実施例15で得られた反射防止部材及び参考例1(PMMA基板)の光反射率の波長依存性を示すグラフを示す。
図51及び
図52に示した実施例15の結果と参考例1の結果との比較から明らかなように、可視光波長域での光学特性を測定した結果、実施例15において得られた反射防止部材は、ナノ粒子を転写していないPMMA基板(参考例1)に比べて透過率が約2.0%向上し、反射率が約4.0%低減していることが確認された。なお、得られた反射防止部材の最大透過率及び最小反射率を表2に示す。更に、透明性評価試験を目視による観察により行った結果、ほぼ完全に透明であることが確認された。得られた結果を表2に示す。
【0179】
更に、得られた反射防止部材についてテープ剥離試験及びコットン摩耗試験を行った結果、反射防止部材表面のナノ粒子の脱離は見られなかった。得られた結果を表2に示す。
【0180】
(評価試験結果)
表1〜表2及び
図1〜
図52に示した実施例1〜15の結果と比較例1〜5の結果との比較から明らかなように、実施例1〜15においては、十分に優れた反射防止性能及び十分に高い耐摩耗性を有し、かつ、基材の変形に対する耐久性に優れた反射防止部材が得られていることが確認された。また、実施例1〜15における反射防止部材の製造方法により、このような反射防止部材を容易に得ることができ、また、曲面や複雑形状の樹脂基材にも容易に処理可能な製造方法であることが確認された。すなわち、実施例1〜15において得られた反射防止部材は、ナノ粒子を樹脂表面に直接固定化することにより、光学特性の改善が見られ、しかも十分な力学特性も持ち合わせており、更に基材の変形に対する耐久性に優れており、しかも、これら反射防止部材が容易に得られるものであることが確認された。