(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記血液分離部は、該血液分離用部材の上面側に血液溜め部を備え、血液は、前記血液溜め部で一時的にリザーブされた後、該血液受け入れ領域に受け入れられることを特徴とする請求項7に記載の血漿分離方法。
該血漿分離領域で分離された血漿が前記血漿回収部に回収された後に、前記血液分離部と前記血漿回収部とを分離する工程を含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の血漿分離方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に従う装置は、例えば、
図1〜
図10に外観等が示される通り、液体中の成分の分離のために機能する。好ましくは、液体は血液であり、分離される成分は、大別すると、血液分離用部材にトラップされる赤血球や白血球などの細胞成分(血球成分)と、様々な生化学検査に適応される物質(DNA、RNA等も含む)を含有する血漿もしくは血清などの液体成分である。
【0019】
(実施例1)
本発明の1つの実施態様は、少なくとも、コア部2(
図1)と外側のハウジング5(
図2)とからなる、血漿もしくは血清(以下、単に「血漿」という。)分離装置1である。ハウジング5は、ハウジングカバー51とハウジングベース52を含む。
【0020】
<コア部の構造>
図1にあるように、本発明の血漿分離装置1のコア部2の構造は、概略、血液分離部3と、血漿回収部4とからなる。
まず、血液分離部3は、少なくとも血液分離用部材31、及び、血液分離用部材31を載置(支持)するための血液分離部用台座32を含む。さらに、血漿回収部4は、少なくとも、2枚の血漿回収用部材41(a、b)を備え、これら血漿回収用部材41の端部42を液密に密封する接着部材43、及び、2枚の血漿回収用部材41と接着部材43によって囲まれて形成される血漿回収エリア44を含む。
血液サンプルを血液分離部3にアプライすると、血液分離用部材31の上面の血液受入れ領域に血液が受け入れられ、さらに血液分離用部材31に浸透して血液分離用部材31の血漿分離領域から血漿回収エリア44へ、回収部流路46が形成される(
図3(c)。
ここで、血液受入れ領域および血漿分離領域は、血液分離用部材に関連する領域であって、血液受入れ領域とは、血液分離用部材31の上面の、血液が滴下され部材中に浸透するための領域であり、血漿分離領域とは、血液分離用部材31内の、浸透した血液が血漿と細胞成分とに分離される領域で、血漿回収部に連なる領域を意味する。
【0021】
血液分離用部材の素材としては、特に実施態様に限定されないが、例えば、細い繊維径を有する合成高分子もしくはガラスからなる繊維または多孔性高分子からなる紙状や薄い不織布などの積層体などで、血液分離用部材としての機能・効果があれば、用いることができる。
もっとも、血液中の測定成分を吸着してしまう場合には、第1のフィルタ部材を構成する材料を表面処理しておくことが望ましい。表面処理剤としては、特に限定されないが、ポリエーテル系もしくはシリコーン系などの潤滑剤、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンなどの親水性高分子類もしくは天然の親水性高分子類、または高分子界面活性剤などを用いることができる。血液分離用部材は、血液の細胞成分を捕獲する抗体などの特別なバインダーを結合したものもこれに含まれる。
分離部台座の材質としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ジメチルポリシロキサン、テフロン(登録商標)、シリコーン、ABSなどで、下記に示すように、表面が、疎水性であることが好ましい。ここで、疎水性とは、一般的には水分子との親和性が小さい性質をいう。
血漿回収用部材としては、回収用部材間の間隙(血漿回収エリア)内に毛細管現象が生ずる効果を有するもので、ガラスや樹脂などの親水性素材または親水化処理済みの素材を用いることが好ましい。
接着部材としては、接着テープ、接着剤、接着材などがあげられる。接着部材を、血漿回収用部材と同一の材料として、接着剤を用いずに一体成型してもよい。
【0022】
<外観図・断面図>
図2aは、本発明の血漿分離装置1の外観を、
図2bは、その断面図を示す。
上記コア部1を内蔵するハウジング部5は、少なくとも、血液注入部6と回収ボディ部7とを備える。
血液注入部6は、ハウジング内に内蔵する血液分離部3の上部に設けられており、血液注入口61、血液溜め部62を備え、必要に応じて、血液展開観測窓63なども備える。
【0023】
血液溜め部62は、それによって一時的に血液溜め空間(血液リザーバ)を形成するための効果を有するものであって、血液が滴下された後、その一部が血液分離用部材の上表面を滑ってリークして(血液分離用部材に浸透せず血液分離されない状態で)血漿回収部へと流れ込んでしまうこと(血漿への血液混入、血漿への血液のリーク)を防止するために設置されるものである。
【0024】
つまり、滴下された血液の一部は、通常、血液分離用部材のウィッキング現象により流路を形成して流れていくが、残りの血液は分離用部材の表面に溢れて一部が分離されないまま回収部へと流れてしまう現象が少なからず起きてしまうため、この血液溜め部を設けることで、上記部材表面上で溢れ気味になった血液は、血液溜め部での表面張力によってそのまま一時的に流れが溜まって、「一時的な血液リザーバ空間」が形成され、その後徐々に分離部材へと流れていくことになり、上記のようなリーク現象を防止することができるのである。
なお、ウィッキング(現象・作用)とは、血液分離用部材の繊維構造または多孔性構造内で生じる液体の自発的な搬送のことをいい、一方向、二方向または全方向の液体搬送を範疇とする意味である。この現象により、液体は重力に抗して流れることができるようになる。この効果は、液体と周囲の固体表面との間における分子間引力によって生じる。
【0025】
本実施例では、血液溜め部は、血液分離用部材31の上表面と接するように配置されるが、血液用分離部材31と密接させる必要はなく、多少隙間ができていてもよい。
血液溜め部は、表面張力による、一時的な血液リザーバ形成を誘導する部材としての機能を有するが、一時的な血液リザーバ形成部(又は一時的な血液リザーバ形成誘導部)としての効果を失わない限り、かつ、血液が、その隙間によって血液分離用部材の上表面を滑ってリークして回収部へと流れ込んでしまわない限り、多少隙間があってもよい。
【0026】
この血液溜め部は、上記のような、血液の「一時的なリザーバ形成部(又は一時的な血液リザーバ形成誘導部)」としての効果を有するならば、どの様な形状・材質でもよく、また、どの様な場所に設置してもよい。
実施例1では、血液溜め部62は、血液注入口61の長方形状に沿って下方向に垂直に伸びる凸状部から形成されているが、例えば、円形状、櫛状、U字状、コの字状等であってもよい。
また、全く別の態様として、
図4(d)の棒状部材33でもあってもよい。このような態様の場合は、血液溜め部の設置場所は、血液が、血液分離用部材の上表面を滑ってリークしないようにするためにも、血液滴下部位よりも下流側(血漿回収部側)に設けることが好ましい。
この様に、血液溜め部は、血液溜め部としての機能を有する限り、血液溜め部62の様に、血液注入口61の下面に、ハウジング5と共に一体成型で設けてもよいし、血液注入口とは分離した単独の構成としてもよい。例えば、
図4(d)の様な棒状部材33は、両端に分離台座32と接する足場等を設けて、橋渡しの様な形状にして、分離台座32と一体成型にしてもよい。
また、血液溜め部は、部材を設けることによるものだけでなく、例えば、血液が接触する面を疎水性にすることでも、血液溜め部としての効果を得ることは可能である。一例としては、滴下された血液が溢れて接触する可能性のある血液注入口61の下面を疎水化することでも、血液溜め部としての一時的な血液リザーバ形成の効果が得られる。
なお、血液溜め部は、血液分離用部材の上面を血液がリークするのを防止するだけでなく、血液分離用部材の血液分離機能をより効果的に発揮させる作用も有する。
【0027】
一方、回収ボディ部7は、必要に応じて、血漿展開観測窓71、開口72などを備える(
図2、参照。)。開口72は、空気を通すが液体を通さないフィルム、バルブ、また、検査システム等へのコネクタや、液(血漿)溜め部を備えてもよい。また、必ずしも開口72を設けずに、封じた構成としてもよい。
【0028】
<遠心分離装置や吸引・加圧具等を必要とせずに、血液から血漿を分離する方法>
図3参照。
本発明の血漿分離装置を用いて、血液から血漿を分離する方法には、少なくとも以下の工程を含む。
1.血液分離部に含まれ、疎水性の台座に載置された血液分離用部材の、血漿回収部に向けて断面積が減少している先端が、前記血漿回収部の間隙に挿入(配置)された血漿分離装置を提供する工程(血液分離装置の用意)、
2.血液が、一時的な血液リザーバとなる血液留め部を介して前記血液分離用部材に導入される工程(血液アプライ工程)、
3.前記血液分離用部材に導入された血液が、前記血液分離用部材のウィッキング作用により前記血液分離用部材内に流路を形成しつつ、血液細胞成分と血漿成分とに分離される工程(血液の展開・分離工程)、
4.分離された前記血漿成分が、前記血液分離用部材によるウィッキング作用と前記血漿回収部による毛細管現象との連通・協働によって、前記血漿回収部の間隙に流路を形成して、前記血漿回収部内に回収される工程(血漿回収工程)。
最終的な検査をするためには、次の工程を行えば終了である。
5.検査のために前記血漿回収部を検査機関へ送る工程。
この方法は、遠心分離装置や吸引・加圧装置(用具)等の特別な装置を必要としないことから、何の訓練も必要とせず、医療従事者でなくとも一般の人が行える方法であるから、在宅者や僻地の居住者でも、発展途上国でも、少人数でも、大人数でも対応でき、簡単に、迅速に血漿分離をすることができ、そのまま検査機関へ送ることができるため、大変有用な装置である。
なお、前記したが、ウィッキング(作用)とは、血液分離用部材の繊維構造または多孔性構造内で生じる液体の自発的な搬送のことをいい、一方向、二方向または全方向の液体搬送を範疇とする意味である。この現象により、液体は重力に抗して流れることができるようになる。この効果は、液体と周囲の固体表面との間における分子間引力によって生じる。
【0029】
<血液分離メカニズム>
血液は、血液注入部6の血液注入口61を介して、血液注入方向に垂直に配置された血液分離部材31の上面の血液受入れ領域へと滴下された後、血液分離用部材にすぐに浸透しないため、該血液分離用部材の上表面(血液受入れ領域)にあふれた分は、一時的なリザーバ形成部(又は一時的な血液リザーバ形成誘導部)としての機能を有する血液溜め部62によって一旦溜め置かれつつ、該血液分離用部材31の血液分離領域の多様なマトリックス構造により生ずるウィッキング作用によって、徐々に、該血液分離用部材31に浸み込んで広がっていき、その結果、該血液分離用部材31の先端と連結された血漿回収部4へと押し出される力が生じ、血漿回収部4の間隙による毛細管現象と協働して、血液分離部3から血漿回収エリア44へ、回収部流路46が形成される。
血液中の細胞成分(赤血球や白血球等)は、該血液分離用部材31にトラップされ、血液中の液体成分(血漿もしくは血清等)は、血液分離用部材31の血液分離領域のウィッキング作用と血漿回収部の間隙による毛細管現象とが連通・協働して形成される回収部流路46を介して、血漿回収部4の血漿回収エリア44へと流れ込むことで、細胞成分から分離され、回収される。
なお、説明の理解を助けるために図面の番号を付したが、本メカニズムは、付番に拘束されるものではなく、実施態様に限定されるものでもない。
【0030】
<実験1>(台座部の表面性状)
目的:血液分離用部材にアプライされた血液が、台座に付着せず、デッドボリュームを生じさせないものとすること。
方法:シリコーン製の台座において、少なくとも、
図1の様な平板状の血液分離用部材と接する上表面に、疎水性塗料の塗布や疎水成膜の貼り付け等の方法で疎水性コーティングを施した後、台座における水滴の接触角が大きくなり、疎水性となったことを確認し、その後、血液を血液分離部材にアプライして、台座への血液(血球や血餅)の付着の程度等を確認する。
なお、今回は、フッ素系疎水化塗料(株式会社ニッペコ製)を台座表面に塗布乾燥して疎水性にコーティングしている。
結果:比較例に比べて、台座に血液(血球や血餅)の付着はみられず、スムーズに血液成分が分離されて、血漿の回収量も良好であった。台座部表面に疎水性コーティングを施すことで、血液の付着を防ぎ、デッドボリュームの低減を図ることができた。
なお、疎水性コーティングは、台座が疎水性になればよく、コーティングそのものが血液によって溶け出す等の問題がなければ、一般的な材料・方法であってもよい。
台座の素材も、シリコーンでなくともよく、疎水性の素材、又は、疎水性コーティング可能な素材で台座が形成されるものであればよい。
また、本件の各実験での血漿回収時間は、比較例も含めて、原則、血液を滴下後3〜5分間、好ましくは3分間である。血漿回収時間は、短かすぎれば血漿回収量が少なすぎることになり、長すぎると血球成分の流入のおそれが出てくる。実施例の構成、各部のサイズや各部材の材質等によって、所望の回収時間が設定されうる。
【0031】
<実験2>(血液分離部の体積)
目的:血液100μLを速やかに分離し、液体成分のみを回収部で回収するために、血液分離部材の体積を検討すること。
方法:血液分離用部材として、GEヘルスケアジャパン株式会社・商品名MF1(材質:bound glass fiber)を用いて、血漿の回収率を算出し、血漿回収率(以下「回収率」、「収率」ともいう。)と部材の体積との関連性を調べる。なお、本発明の実施例では、特に断りのない限り、血液分離用部材の1態様として、GEヘルスケアジャパン株式会社・商品名MF1を用いている。
結果:血液分離用部材を、体積74mm
3(縦×横×高さ(厚さ)=20mm×10mm×0.37mm:
図4(a))とした場合は、血液150μLの場合に血漿成分を回収することができたが、血液100μLでは、血漿成分はほとんど回収できなかった。
血液分離用部材の液体保持量は、体積に依存する傾向があるため、上記体積74mm
3での結果を踏まえて、血液100μL用血液分離用部材としては、次に行う実験3での先端の加工がしやすい形状とすることも考慮して、縦×横×高さを、16mm×8mm×0.37mm(
図4(b)、参照)とした。体積に換算すると約47.36mm
3である。
【0032】
<実験3>(血液分離用部材の回収部との接触形状:厚み(方向)の先端削り加工)
目的:実験2で用いた血液分離用部材の厚みが、回収部の間隙の高さより大きいため、血液分離用部材先端を回収部の間隙に挿入することができず、血漿の回収が悪かった。本実験の目的は、血液100μLを速やかに分離・回収するために、血液分離用部材の先端の「厚み」を薄くすることで、つまり、血液分離用部材の先端を様々な角度で鋭角(三角形状に先細りの角度)に加工することで血液分離用部材の先端の「厚み」を減少させて、「厚み(方向)の先端削りの角度(以下「厚み先端削り角度」ともいう。)を検討すること。
なお、以上のような、厚み方向に三角形状に先細りの角度に加工することを、以下「三角形の厚み先端削り加工」あるいは単に「厚み先端削り加工」ともいう。
方法:実験2で用いた血液分離用部材の厚みが、血漿回収部の2つの回収用部材間の間隙(隙間)の高さ(ここでは、0.15mm:以下「回収部の間隙」ともいう。)よりも大きいことから、回収部の間隙と血液分離用部材先端部との接触を良好にするために、血液分離用部材の先端を様々な角度で鋭角に加工、つまり厚み先端削り加工することで、血液分離用部材の先端の「厚み」を減少させて、血漿回収率を、厚み先端削り加工しない場合と比較する。
【0034】
結果:表1、参照。
(1)比較例(先端加工なし):何も加工しない場合(
図5(a)、参照。)、先端の厚み(0.4mm)が回収部の間隙(0.15mm)よりも大きく、先端を回収部の間隙に挿入でき無いことから、先端を回収部の入口端部に密接させて、血液分離実験を行った。しかし、結果としては、血漿を全く回収することができなかった(表1、角度90°の結果を参照。)。血液分離用部材の少なくとも先端を挿入しないと、接触不良が生じるため血漿を回収することが出来なかった。
(2)比較例(先端圧縮加工):そこで、血液分離用部材の少なくとも先端を回収部の間隙に挿入するために、血液分離用部材の先端に少し圧力(垂直方向)を加えて圧縮し、この先端を前記の回収部の間隙に挿入した場合(
図5(b)、参照。)について検討したが、血液分離は行われず、血漿は回収されなかった(ほぼゼロ)。
(3)実験例(厚み先端削り加工):血液分離用部材の先端を圧縮せずに当該先端を回収部の間隙に挿入するための加工の1つの態様として、血液分離用部材の先端3.4mm部分を、部材の「厚み」が先端に行くほど減少するように、ヤスリにより様々な角度で鋭角に、厚み先端削り加工をした(
図4(c)参照。)
角度としては、5°、6.7°、7°、10°、20°、60°、80°、及び、90°(非加工状態)の7通りである。
100μLの血液をアプライした場合、表1にある様に、血漿の回収率は、厚み先端削り角度5°で12%、6.7°で30%、7°で30%、10°で12%、20°で6%、60°、80°、90°では、全て0%であった(表1、参照)。
驚くべきことに、血液分離用部材の厚み先端削り角度が6.7°〜7°の時が、格別に血漿回収率がよかった。
以上の結果から、本発明の血液分離装置を用いて、血液100μLから血漿を回収するには、血液分離部材の厚み先端削り角度を、好ましくは、5°以上20°以下、より好ましくは、5°以上10°以下、さらに好ましくは、6.7°以上7°以下にすればよいことが判明した。
【0035】
まとめると、100μLの血液から血漿を回収する場合、今回の実験では、血液分離用部材については、縦×横×高さ(厚さ)を、16mm×8mm×0.37mmとし、その先端の厚さが先端に向かって暫時減少するように「先端削り角度」を6.7°以上7°以下に加工すると、最適な血漿回収率を得ることができた。
【0036】
ここで、血液分離用部材の厚み先端削り形状のバリエーションとしては、
図5の様に様々に加工することが考えられるが、パターン(a)、(b)では、上記したように血漿回収率が低いかほとんどないとの結果が出ている。
なお、本発明の実施態様では、特に断りがない限り、血液分離用部材としては、縦16mm×横8mm×厚さ0.37mmで、厚み先端削り角度が7°(以下、略して「厚さ0.37mm、厚み先端削り角度7°」ともいう。)のものを用いることを前提として、実験している(
図4(c)参照)。
【0037】
<実験4>(血液分離部材表面での血液の滑流の防止)
目的:前記したように、血液100μLを血液分離部材に直接滴下した場合、時に、一部の血液が血液分離用部材に浸透せずにあふれた血液が、血液分離用部材の上表面を滑る様に流れて(血液のリーク現象)、血漿回収部へとそのまま流れ込んでしまい、回収された血漿成分に赤血球などの細胞成分が混在する現象が観察されたため、この血液分離用部材表面での血液の滑流を防ぐ手段を検討すること。
方法:例えば、
図4(d)の様な形状の血液溜め部材(今回は、疎水化処理したガラス製)を、血液分離用部材の上面に置き、血液溜め部材の上流側(血漿回収部と反対側)に血液を滴下して、血漿の回収結果を比較する。
結果:上記の様に血液溜め部材を設置して血液を滴下すると、血液は全てが血液分離用部材(厚さ0.37mm、厚み先端削り角度7°のもの)に浸透せずに、一部は血液分離用部材表面にあふれるが、表面張力によってこの血液溜め部材に一時的に溜め置かれる(血液溜め部材が一時的なリザーバとして機能する)ため、血液分離用部材の表面から血漿回収部へリークして滑り込むことなく、全ての血液が血液分離用部材に浸透して血液成分が分離された。
血液溜め部材がない場合は、血液分離用部材の表面から血漿回収部への血液の流入(リーク)が観察されたが、血液溜め部材がある場合は、血漿回収部への血液の流入は見られず、血漿回収率は30%と好成績であった(表2、参照。)。
よって、以上のことから、上記のような、血液分離用部材の表面での血液のリーク現象を防止するためには、一時的な血液リザーバ形成部(血液リザーバ形成誘導部)となるような部材を設けることが好ましいことが分かった。
【0038】
【表2】
実施例1では、上記血液分離用部材の表面での血液のリーク現象を防止するために、血液注入部6の血液注入口61の下部に長方形の凸部の血液溜め部62を設けている。この血液溜め部は、上記一時的な血液リザーバ形成部(血液リザーバ形成誘導部)としての効果のあるものであれば、円筒状など他の態様でもよい。
なお、他の実験(実験1〜3、5〜13)においても、血液溜め部を設けて実験を行っている。
【0039】
<実験5>(血液分離用部材の厚さの検討)
目的:同じ材質で厚さの違う血液分離用部材での回収率の違いを検討する。
方法:血液分離用部材について、縦は16mm、厚み先端削り角度は7°と一定にして、厚さを変化させた場合の、血液100μLからの血漿回収率の違いを調べる。
具体的には、前記実験によって、体積が重要なファクターであることが分かったため、厚さが0.25mm、0.37mm、および0.78mmの3種類の血液分離用部材(GEヘルスケアジャパン株式会社:商品名LF1、MF1、VF2)を用いて、横のサイズを各々、12mm、8mm、3.7mmとし、縦16mm×横×厚さ=体積が、47mm
3前後となる様に、横の長さ以外は、縦×横=16mm×8mm、厚み先端削り角度7°の場合と同じ条件にする。つまり、縦×横×厚さ(つまり体積)が47mm
3前後となる様に、厚さ0.25mm、0.37mm、および0.78mmの各血液分離用部材に、100μLの血液を滴下して、その回収率を比較する。
結果:表3にある様に、全血100μLを滴下した場合、厚さ0.37mmでは、血漿回収率は30%と高い値が得られたが、それ以外の、厚さ0.25mm、又は、0.78mmの場合は、血漿は回収されなかった。また、注入される全血量が100μL近辺でないと回
収率が格段に低下することが判明した。
以上の様に、血液100μLを対象とすると、厚さは0.37mmが好適であることが分かった。
ここで、上記したように、回収率には血液分離用部材の体積が関係するため、結局は、100μLの血液から血漿を回収しようとする場合、体積に換算して考えると、32mm
3(厚さ0.25mmの場合、縦×横×厚さ=16mm×8mm×0.25mm)以下の場合は部材の体積が少なく、99.84mm
3(厚さ0.78mmの場合、縦×横×厚さ=16mm×8mm×0.78mm)以上だと部材の体積が大きすぎるが、47.36mm
3(厚さ0.37mmの場合、縦×横×厚さ=16mm×8mm×0.37mm)では回収率30%という大きな効果が得られる事が判明した。
【0040】
なお、ここでいう血液分離用部材の体積は、厚み先端削り角度を7°にした場合の体積ではなく、分かり易くするために、7°厚み先端削り加工をする前の体積であることに留意されたい。以下の実験でも同様である。(因みに、7°に削った場合の体積は、42.9mm
3である)
【0042】
<実験6>(血漿回収率における、血液分離用部材の体積と血液滴下量との関係−1)
目的:血液分離用部材の体積と血液滴下量との関係を検討する(その1)。
方法:体積を一定(16mm×8mm×0.37mm=47.36mm
3)にして7°の厚み先端削り角度加工を施した血液分離用部材を用いて、血液滴下量を50μL、70μL、100μL、125μLと変化させて血漿回収率を比較する。
結果:血液分離用部材の縦×横×高さ(厚さ)、つまり体積を一定にした場合、血液を100μL滴下した場合は、最高の30%の血漿回収率が得られたが、血液75μLでは血漿回収率は6.9%、50μLや125μLの場合は、血漿は回収されず、全く効果はなかった(表4、参照。)。
よって、血液分離用部材を、体積47.36mm
3にして7°の厚み先端削り角度加工を施した場合、好ましくは、血液滴下量は、75μL〜100μL、より好ましくは、100μLに設定することが重要である。言い換えると血液滴下量が100μLの場合は、血液分離用部材の体積を、好ましくは、約47.36mm
3近辺に設定することが重要である。
なお、ここでいう血液分離用部材の体積は、分かり易くするために、7°厚み先端削り加工をする前の体積であることに留意されたい。以下の実験でも同様である。
【0044】
<実験7>(血液分離用部材の体積と血液量との関係−2)
目的:全血100μLに対する最適な血液分離用部材の体積(16mm×8mm×0.37mm=47.36mm
3)に対して、150μLでの好ましい血液分離用部材の体積を検討すること。
方法:厚さは0.37mmと同じにして、縦×横のサイズを変更して調べる。(ここでも7°の厚み先端削り加工を採用。)
結果:最終結果としては、表5にあるように、全血100μLでは、16mm×8mm×0.37mm=47.36mm
3が好適であったが、全血150μLでは、20mm×10mm×0.37mm=74mm
3が好適であった。
つまり、全血150μLの場合は、血液分離用部材の体積は、好ましくは、74mm
3〜99.84mm
3、より好ましくは、74mm
3である。
なお、上記したように、ここでいう体積は、分かり易くするために、7°の厚み先端削り加工をする前の血液分離用部材の体積である。
【0045】
【表5】
以上、実験6及び実験7の結果から、血漿回収率に関して、アプライする血液量と体積の関係は、非常に重要であることが分かった。
【0046】
<実験8>(血漿回収用部材の材質の検討)
目的:血漿回収用部材の材質による血漿回収率の違いを検討すること。
方法:上記実験では、回収用部材としてガラスを用いていたが、代替素材候補として、PC、PET、PS、PVC、PPを使用した場合の血漿回収率を比較する。
血液分離用部材としては、既定の、厚さ0.37mm、厚み先端削り角度7°のものを使用し、回収用部材以外は、皆同じ条件とする。
結果:まず、回収用部材がガラスの場合、血漿回収率は30%で常に良好な結果を得た(表6、参照。)。
一方、回収用部材をガラス以外の素材とした場合の血漿回収率は、PS(ポリスチレン)で10%、PET(ポリエチレンテレフタレート)で6.3%、PC(ポリカーボネート)で4.5%、PP(ポリプロピレン)で0.9%、PVC(ポリ塩化ビニル)では0%との結果であった(表6、参照。)。
そこで、ガラスの表面が親水性であることから、PC素材の血漿回収用部材の表面を親水化処理して同様の実験を行ったところ、親水化前では血漿回収率が4.5%しかなかったのに、親水化処理後は20%以上となり、上記ガラスでの値に近い、高い血漿回収率が得られた。
以上、血漿回収用部材が親水性のあるガラスや、表面を親水化処理したPC素材の場合、高い血漿回収率が得られたことから、血漿回収用部材としては、回収部材間の間隙(血漿回収エリア)内に毛細管現象が生ずる効果を有するもので、ガラスや樹脂など親水性素材または親水化処理済みの素材を用いることが好ましい。
【0048】
<実験9>(血漿回収用部の開口部の有無と血液分離用部材の厚み先端削り角度の検討)
目的:血漿回収用部の開口部(排気口)の有無が、血液分離用部材の厚み先端削り角度の違いによる、血漿回収率への影響について検討する。
方法:血漿回収用部の開口部(排気口)の有無と、様々な、厚み先端削り角度(先細りの三角形状の角度)を有する血液分離用部材とを組合せて、100μLの血液からの血漿回収率を調べる。
ここで、排気口(開口45)がない場合とは、フィルム等の何らかの手段で開口45を封じた態様を意味する。例えば、血漿回収用部材の接着剤43と同様の接着剤や回収用部材と同じ素材で開口45を封じることもできる。ただし、空気の通路を確保する必要があり、本実験では、開口45を接着剤で封じると共に、空気の通路を確保するために、血漿回収エリア44の幅を血液分離用部材の幅より広くして、その一部を疎水化している。
結果:
(1)実験2の「厚さ0.37mm、厚み先端削り角度7°の血液分離用部材」を用いた場合、回収部に排気口)がある場合、血漿回収率は30%であった。一方、回収部に排気口がない場合は、血漿回収率は13.5%と低減はしたが、0%ではなく、ある程度良好に回収されることが分かった(表7)。
(2)さらに、血液分離用部材の厚み先端削り角度を変えて、回収部の排気口の有無との関係も調べた結果、表8にある様に、排気口が無い場合でも、血液分離用部材の厚み先端削り角度が、好ましくは5°から20°の間(5°、7°、10°、20°)であれば、ある程度血漿が回収されることが判明した。より好ましくは、5°から10°の間(5°、7°、10°)、さらに好ましくは5°から7°の間であれば、回収率が比較的良いことが分かった。
ただし、排気口がある場合は、6.7°、7°の場合に、特別回収率の高い角度のピークがみられるが、排気口がない場合は、その様なピークは見られなかった。
【0051】
<実験10>(血液分離用部材の横幅先端形状の検討)
目的:血液分離用部材の横幅を先細の三角形の先端形状(以下、「三角形の横幅先端形状」又は単に「横幅先端形状」ともいう。)とした場合の、100μLの血液からの血漿回収率を検討する。
方法:縦16mm×横8mmの血液分離用部材を、側面から先端部に向かって横幅が狭くなるように(三角形に)横幅先端形状(血液分離用部材を上から見て、先端角度が60度の三角形状となる:
図6(a)、参照。)を加工して、血液100μLからの血漿回収率を調べる。
結果:表9にあるように、(1)三角形の横幅先端形状に加工(以下「三角形の横幅先端削り加工」あるいは単に「横幅先端削り加工」ともいう。)し、厚さを薄くする横幅先端削り加工をしなかった場合(
図6(a)、(b))は、収率は0%、(2)横幅先端削り加工をし、且つ、7°に厚み先端削り加工した場合(
図6(a)、(c))は、血漿回収率は6.5%であった。
一方、(3)横幅先端削り加工をせず、厚み先端削り加工もしなかった場合は、収率0%、(4)横幅先端削り加工をせず、厚み先端削り加工をした場合は、前記実験3にもある様に、血漿回収率は30%という格段の効果を示した(表8、参照。)(実験3結果の表1と同様)。
つまり、先端形状の加工においては、血漿回収率に関して、血液分離用部材の7°の厚み先端削り加工が、単独で特別に顕著な効果を示すことが再確認され、一方、横幅先端削り加工は、血漿回収率には全く効果がない(0%)との結果が出た。また、上記厚み先端削り加工と横幅先端削り加工とを組合わせた場合(2)は、厚み先端削り加工の顕著な効果は阻害されてしまい、血漿回収率は6.5%と激減することが示された。
【0053】
以上のことから、本実施態様の実験の結果、血液分離用部材の先端形状の加工に関しては、血液分離用部材の「横幅」を三角形状に狭くする様な横幅先端加工は全く効果がなかったが、当該部材の「厚み」を三角形状に薄くする厚み先端削り加工が、血漿回収効果を格段にあげる重要なファクターであることが判明した。
【0054】
<実験11>(回収された血漿の生化学的検査結果)
目的:本発明の実施例1で回収された血漿の生化学的性状を検討する。
方法:7°厚み先端削り加工の実施形態で血漿を回収する方法を実施例とし、従来の遠心分離で血漿を回収する方法を比較例(従来例)として、各方法で回収した血漿を、生化学自動分析装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ:Hitachi 7180型)にて一般的な生化学検査を行う。
結果:生化学検査は、HDL、LDL、T-CHO、TG、ALP、T-BIL、CRE、UAの8項目で行った。表10にもある様に、実施例1の値は、遠心分離法による比較例の値にかなり近似していることが分かり、本発明の実施例により回収された血漿の生化学的性状に問題は無く、優れた結果が得られた。
以上のことから、本発明の実施態様の血漿分離装置は、血液生化学的検査の検体採取のための装置として有効性が示された。
【0056】
ここで、実施例の一態様の各サイズ等を表11に示す。
【表11】
【0057】
<実験12>(血漿回収部部材の材質の検討と血液分離用部材の先端形状の検討)
目的:血漿回収部部材の材質を変更した場合の、血漿回収率の成績、及び、血液分離用部材の先端加工の有効性について検討する。
方法:血漿回収部部材の材質を、ポリカーボネート(親水樹脂のスパッタリングあるいはプラズマ親水化処理済み)とし、7°厚み先端削り加工の血液分離用部材を用いて、血漿の回収率を調べると共に、7°厚み先端削り加工された血液分離用部材の先端に、さらに垂直に切込みを入れた場合の血漿回収率を調べる。なお、今回は、10本の切込みとする。
結果:表12にもある様に、回収部の部材を親水化処理したポリカーボネートとした場合、回収部をガラスとした場合の回収率(30%、表1)には及ばないものの、20%に近い回収率を得ることができた。
また、切込み10本とした場合、2回行った実験で、驚くべきことに2回とも回収率が上昇し、その増加率は、約1.3倍又は1.5倍であった。特に実験13−1では、回収率が28.7%と、非常に良好な結果を示した。
以上のことから、本発明の実施態様において、回収部を親水化処理すれば、様々な樹脂素材でも適応可能であることが改めて示された。
また、血液分離用部材の先端加工において、7°厚み先端削り加工に加え、さらに先端に切込みをいれると回収率が向上することが判明した。
【表12】
【0058】
<実験13>(溶血の有無の検討)
目的:回収部での溶血の有無について検討する。
方法:上記各実験(実験5〜実験13を除く)において、回収部で回収された血漿に関して、目視観察で溶血の有無を観察する。
結果:回収された血漿について、上記各実験において、溶血は全く観察されなかった。 なお、稀に、血液が採血時から溶血している場合があるが、その様な場合は本検討では除いている。
【0059】
(実施例2)
本発明の他の実施態様の1つは実施例1の改良型であり、少なくとも、コア部20とハウジング部50とからなる、血漿分離装置10である(
図7〜
図10)。
基本構造は、実施例1と同様であり、各部において、同じ名称であれば、その技術的意味は、上記実施例1に記載されたものと同様である。
【0060】
<外観図・断面図>
図7は、本発明の血漿分離装置10の外観を、
図8は、断面図を、
図9は分解図を、
図10は、コア部30の組み立て後の外観(分離用支持部材801を除く)を、斜視図で示している。
【0061】
<全体の外観>(
図7〜
図10、参照。)
コア部20を内蔵するハウジング部50は、少なくとも、血液注入部60と回収ボディ部70とを備える。
血液注入部60は、内蔵する血液分離部30の上部に設けられており、血液注入口601、血液溜め部602を備え、必要に応じて、血液展開観測窓603なども備える。
【0062】
血液溜め部602は、前記したように、一時的に血液リザーバを形成する効果を有するものであって、これによって、血液が滴下された後、その一部が血液分離用部材の上表面を滑ってリークして(血液分離用部材で血液分離されない状態で)回収部へと流れ込んでしまうこと(血漿への血液混入)が防止される。(なお、血液溜め部は、血液分離用部材の血液分離機能をより効果的に発揮させる作用も有する。)
つまり、滴下された血液の一部は、通常、血液分離用部材の毛細管現象により流路を形成して流れていくが、残りの血液は分離用部材の表面に溢れて一部が分離されないまま回収部へと流れてしまう現象が少なからず起きてしまうため、この血液溜め部を設けることで、上記部材表面で溢れ気味になった血液はその表面張力によってそのまま一時的に流れが留まり、その後徐々に分離部材へと流れていくことになり、上記のようなリーク現象を防止することができるのである。
血液溜め部602は、血液分離用部材301の上表面と接するように配置されるが、血液用分離部材301と密接させる必要はない。血液溜め部は、表面張力による血液溜め部(一時的な血液リザーバ)としての効果を失わない限り、かつ、その隙間によって血液が血液分離用部材の上表面を滑ってリークして回収部へと流れ込んでしまわない限り、多少隙間があってもよい。
【0063】
この血液溜め部は、上記のような、血液の「一時的なリザーバ形成部(又は一時的な血液リザーバ形成誘導部)」としての効果を有するならば、どの様な形状・材質でもよく、どの様な場所に設置してもよい。
実施例では、血液溜め部602は、血液注入口601の形状に沿って下方向に垂直に伸びる凸状部から形成されているが、例えば、櫛状、U字状、コの字状であってもよく、
図4(d)の33のような棒状のものでもよい。さらに、先の実施例の様に、血液注入口601の下面に、ハウジング50と共に一体成型で設けてもよいし、例えば、上記の様な棒状のものは、橋渡しの様な形状にして、分離台座302と一体成型にしてもよい。 なお、血液溜め部は、血液分離用部材の血液分離機能を最大限に発揮させる効果も有する。
【0064】
一方、回収ボディ部70は、必要に応じて、血漿展開観測窓701、開口部702などを備える。開口部702は、空気を通すが液体を通さないフィルム、バルブ、また、検査システム等へのコネクタや、液(血漿)溜め部材を備えてもよい。また、通気に関しては、他に通気口が設けられていれば、必ずしも開口部702を設けなくともよい。
【0065】
<コア部の構造>
本発明の血漿分離装置10のコア部20の構造は、概略、血液分離部30と、血漿回収部40とを含む(
図9)。
まず、血液分離部30は、少なくとも血液分離用部材301、血液分離部用台座302、及び、受け部303を含む。血液分離用部材301は、血液分離部用台座302に設置され(
図9)、その先端部は、2つの血漿回収用部材の間隙に挿入されている(
図3、
図8)。
血漿回収部40は、少なくとも、2枚の血漿回収用部材401、402を備え、これら血漿回収用部材401、402の両端部405は接着剤等の手段で密封されており、血漿回収用部材401、402と接着部によって囲まれて血漿回収エリア404が形成される(
図8〜
図10)。接着部材としては、接着テープ、接着剤、接着材などがあげられるが、接着部材を、回収用部材と同一の材料として、接着剤を用いずに一体成型してもよい。
【0066】
血液サンプルを、血液注入部60の血液注入口601から血液分離部30に向けて滴下すると、血液分離用部材301に徐々に浸透していくが、血液分離用部材301にすぐに浸透しないため、該血液分離用部材の上表面にあふれた分は、一旦、血液溜め部602に溜め置かれつつ、該血液分離用部材301の複雑な繊維構造により生ずるウィッキング作用によって、徐々に、該血液分離用部材301に浸み込んで広がっていき、その結果、該血液分離用部材301の末端と連結された血漿回収部40へと押し出される力が生じ、血漿回収部40の(血漿回収用部材401間の)間隙による毛細管現象と協働して、血液分離部30から血漿回収エリア404へと、回収部流路が形成される。
血液中の細胞成分(赤血球や白血球等)は、該血液分離用部材301にトラップされ、血液中の液体成分(血漿もしくは血清等)は、血液分離用部材301のウィッキング作用と血漿回収部40の間隙による毛細管現象との連通・協働により回収部流路を形成して、血漿回収部40の血漿回収エリア404へと流れ込むことで、細胞成分から明確に分離され、回収される。(理解を助けるために図面の番号を付したが、本実施態様は、これに拘束されるものではない。)
なお、血漿回収部40は、遠位末端に付属部90を備えてもよい。付属部90の態様としては、検査システムや外部容器等に接続するための接続部(コネクタ)や、液(血漿)溜め部、バルブ等を備えるものであってもよい。
【0067】
<分離用支持部の操作による血漿回収部の分離>
図9にある様に、受け部303と、受け部403とは、共に分離用支持部80の部材を受け入れて、血液分離用台座部302と、血漿回収用部材402とを連結して、コア部20(血液分離部30、血漿回収部40)を一体化している。血漿分離作業が終了した後に、分離用支持部80は抜き取られて、コア部20は分解され、血漿回収部40を分離することができる。
分離用支持部80の構成は、血漿回収部と血液分離部とを安全に分離できる効果があるような態様であればよい。例えば、分離用支持部材を設けなくても、コア部自身が、血漿回収部と血液分離部とにそのまま切断できる様な形態にしてもよい。
【0068】
血液分離用部材301の材質としては、特に、上記実施例1の実施態様に限定されないが、例えば、細い繊維径を有する合成高分子もしくはガラスからなる繊維または多孔性高分子からなる紙状や薄い不織布などの積層体などで、血液分離用部材としての機能・効果があれば、用いることができる。
一方、分離部台座302や、血漿回収用部材401、402の材質は、実施例1と同様であってもいいが、コストや製造上の観点からは、樹脂などの成型が容易な材料を用いて作成するように設計する方が好ましい。
ただし、本実施例の血液分離効果をより効果的に発揮するためには、実施例1と同様に、分離台座部は血液が付着しないように表面を疎水性に、血漿回収部材は毛細管現象の効果がより最適な態様となるように血漿が接する表面を親水性にしておくことも、考慮すべきである。
【0069】
<遠心分離装置や吸引・加圧具等を必要とせずに、血液から血漿を分離する方法2>
図3参照。
本発明の血漿分離装置を用いて、血液から血漿を分離する方法は、少なくとも以下の工程を含む。
1.血液分離部に含まれ、疎水性の台座に載置された血液分離用部材の、血漿回収部に向けて断面積が減少している先端が、前記血漿回収部の間隙に挿入(配置)された血漿分離装置を提供する工程(血液分離装置の用意)、
2.血液が、一時的な血液リザーバとなる血液留め部を介して前記血液分離用部材に導入される工程(血液アプライ工程)、
3.前記血液分離用部材に導入された血液が、前記血液分離用部材のウィッキング作用により前記血液分離用部材内に流路を形成しつつ、血液細胞成分と血漿成分とに分離される工程(血液の展開・分離工程)、
4.分離された前記血漿成分が、前記血液分離用部材によるウィッキング作用と前記血漿回収部による毛細管現象との連通・協働によって、前記血漿回収部の間隙に流路を形成して、前記血漿回収部内に回収される工程(血漿回収工程)、
5.ハウジングを分解し、内蔵されたコア部を取り出して、分離用支持血液分離用部材によって、血液分離用部材と血漿回収部を分離する工程。
最終的な検査をするためには、次の工程を行えば終了である。
6.検査のために前記血漿回収部(及び/又は、前記血液分離用部材)を検査機関へ送る工程。
【0070】
この方法は、遠心分離装置や吸引・加圧装置(用具)等の特別な装置を必要としないことから、何の訓練も必要とせず、医療従事者でなくとも一般の人が行える作業であるから、在宅者や僻地の居住者でも、発展途上国でも、少人数でも、大人数でも対応でき、簡単に、迅速に血漿分離をすることができ、そのまま検査機関へ送ることができるため、大変有用な装置である。
【0071】
なお、本発明の血漿分離装置は、特に、血漿成分の分離について述べているが、血液分離用部材にトラップされた血球成分、特に赤血球を用いてHbA1c等の検査や、白血球を用いてHIV−Bの有無の検査や免疫細胞に関連した検査等も可能である。
【0072】
本発明の血漿分離装置は、例えば微量用血液採取用具(採血具)と共に、血液検査キットとすることもできる。
本発明の一実施態様は血液のための分離装置であって、この採血具に抗凝固剤を含む場合は、血漿分離装置であり、この採血具に抗凝固剤を含まない場合は、血清分離装置である。
【0073】
本発明の血漿分離装置は、遠心分離装置や吸引・加圧装置(用具)等の特別な装置を必要とせず、在宅医療のための検診でも、どのような辺鄙な場所でも、発展途上国の検診等でも、微量な血液でも、簡便な操作で、低コストで利用可能な血液分離装置とすることができる。
最終的には、分離された血漿回収部及び/又は血液分離部を適切にパッキングして検査機関へと郵送し、血液検査に供することができる。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で構成を変更することも可能である。
当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0075】
上記の実施形態の一部、又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0076】
(付記A)血液分離用部材を有する血液分離部と、血漿回収部材を有する血漿回収部とを含有する血漿分離装置であって、該血液分離用部材は、疎水性の台座に載置され、かつ、血液受け入れ領域と血漿回収部に連なる血漿分離領域とを有し、該血漿分離領域は前記血漿回収部に向けて断面積が減少していることを特徴とする血漿分離装置。
【0077】
(付記B)該血漿分離領域は、先端削り加工をして前記血漿回収部に向けて断面積が漸次減少していることを特徴とする請求項Aに記載の血漿分離装置。
【0078】
(付記C)前記血液分離部は、該血液分離用部材の上面側に一時的に血液をリザーブする血液溜め部を備えることを特徴とする請求項A又はBに記載の血漿分離装置。
【0079】
(付記D)前記血液分離部と前記血漿回収部はコア部を構成し、前記コア部は、ハウジング部に内蔵されることを特徴とする請求項A〜Cのいずれか一項に記載の血漿分離装置。
【0080】
(付記E)前記血液分離部と前記血漿回収部とに分離する分離用支持部材をさらに含むことを特徴とする、請求項A〜Dのいずれか一項に記載の血漿分離装置。
【0081】
(付記F)請求項A〜Eのいずれか一項に記載の血漿分離装置と採血用具とを含有する、血液検査用キット。
【0082】
(付記G)血液分離用部材を有する血液分離部と、血漿回収部材を有する血漿回収部とを含む血漿分離装置によって血漿を分離する血漿分離方法であって、
疎水性の台座に配置された血液分離用部材は、血液受け入れ領域と血漿回収部に連なる血漿分離領域とを有し、該血漿分離領域は前記血漿回収部に向けて断面積が減少しており、該血液受け入れ領域で受け入れた血液を該血漿分離領域で血漿を分離し、当該分離した血漿を前記血漿回収部で回収することを特徴とする血漿分離方法。
【0083】
(付記H)該血漿分離領域は、先端削り加工をして前記血漿回収部に向けて断面積が漸次減少していることを特徴とする請求項Gに記載の血漿分離方法。
【0084】
(付記I)前記血液分離部は、該血液分離用部材の上面側に血液溜め部を備え、血液は、前記血液溜め部で一時的にリザーブされた後、該血液受け入れ領域に受け入れられることを特徴とする請求項G又はHに記載の血漿分離方法。
【0085】
(付記J)該血漿分離領域で分離された血漿が前記血漿回収部に回収された後に、前記血液分離部と前記血漿回収部とを分離する工程を含む、請求項G〜Hのいずれか一項に記載の血漿分離方法。
【0086】
(付記a)血液分離部と血漿回収部とを含む血漿分離装置であって、前記血液分離部は、血液分離用部材と、血液を前記血液分離用部材の上表面に一時的にリザーブするための血液溜め部と、前記血液分離用部材を支持する疎水性の台座とを有し、前記血漿回収部は、回収部材間の間隙により血漿回収エリアが形成されており、該血液分離用部材の前記血漿回収部側先端は、前記血漿回収部に向けて断面積が減少しつつ前記血漿回収部の間隙に挿入されていることを特徴とする血漿分離装置。
【0087】
(付記b)該血液分離用部材の前記血漿回収部側先端が、前記血漿回収部の間隙に挿入されていることにより、血液を血液分離用部材に滴下した場合に、前記血液分離用部材のウィッキング作用と前記血漿回収部の間隙による毛管現象とが連通・協働して、血漿が前記血漿回収部に回収されることを特徴とする請求項aに記載の血漿分離装置。
【0088】
(付記c)前記血液分離部と前記血漿回収部とに分離する分離用支持部材をさらに含むことを特徴とする、請求項a又はbに記載の血漿分離装置。
【0089】
(付記d)下記工程を実行する血漿分離方法であって、血液分離用部材の血漿回収部側先端が血漿回収部の間隙に配置された血漿分離装置を提供する工程、血液が、血液注入部の血液注入口から、一時的な血液リザーバとなる血液留め部を介して血液分離用部材に導入される工程、血液分離用部材に導入された前記血液が、前記血液分離用部材のウィッキング作用により前記血液分離用部材内に流路を形成しつつ展開され、細胞成分と血漿成分とに分離される工程、前記血液分離用部材によるウィッキング作用と前記血漿回収部の毛細管現象とが連通・協働して、分離された前記血漿成分が、前記血漿回収部の間隙に流路を形成して液体成分として前記血漿回収部に回収される工程を含むことを特徴とする血漿分離方法。
【0090】
(付記e)血漿回収後、前記血漿分離装置を、前記血液分離部と前記血漿回収部とに分離することを特徴とする、請求項dに記載の血漿分離方法。